特許無効審判
2023-800044
DPP IVインヒビターの使用
- 審判番号
- 2023-800044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2013-145510
- 登録番号
- 5927146
- 請求日
- 2023年07月10日
- 審決日
- 2025年07月29日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】沢井製薬 株式会社
- 【請求人代理人】森本 純
- 【被請求人】べーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
- 【被請求人代理人】田中 伸一郎
- 【被請求人代理人】須田 洋之
- 【被請求人代理人】山崎 一夫
- 【被請求人代理人】市川 さつき
- 【被請求人代理人】服部 博信
- 【被請求人代理人】松田 七重
- 【被請求人代理人】星野 貴光
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 吉田 佳代子
- 審判官 川口 裕美子
- 分類
- P1113.121-ZAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法123条1項2号特許法135条特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5927146号発明「DPP IVインヒビターの使用」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5927146号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
特許第5927146号の請求項1~15に係る発明についての特許を無効とする。
特許第5927146号の請求項16及び17についての本件審判の請求を却下する。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)特許第5927146号の請求項1~17に係る発明についての特許を無効とする。
(2)審判費用は被請求人の負担とする。
2 答弁の趣旨
次を結論とする審決を求める。
(1)訂正を認める。
(2)本件審判請求は成り立たない。
(3)審判費用は請求人の負担とする。
第2 手続の経緯
特許第5927146号(以下「本件特許」という。)の請求項1~17に係る発明についての特許出願(特願2013-145510号)は、2007年(平成19年)5月3日(パリ条約による優先権主張 2006年5月4日(以下「本件優先日」という。)欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願(特願2009-508347号)の一部を平成25年7月11日に新たな特許出願としたものであって、平成28年4月28日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、令和5年7月10日に特許無効審判請求がされた。以後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和5年 7月10日 審判請求書の差出
同年11月15日 答弁書の提出
令和6年 5月30日付け 審理事項通知書
同年 7月 4日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 7月 4日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 7月25日 口頭審理
同年 8月22日 上申書の提出(請求人)
同年 8月22日 上申書(以下「第1上申書」という。)の提
出(被請求人)
同年 9月 5日 上申書の提出(請求人)
同年10月16日付け 審決の予告
令和7年 2月20日 訂正請求書及び上申書(以下「第2上申書」
という。)の提出(被請求人)
同年 4月25日 弁駁書の提出(請求人)
第3 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和7年2月20日にされた訂正の請求(以下「本件訂正」という。)は、下記2(1)アに示す本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~17を、下記2(1)イに示す本件訂正後の請求項1~17に訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
(1) 本件訂正前後の特許請求の範囲の記載
本件訂正前後の特許請求の範囲は、それぞれ以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所である。
ア 本件訂正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
経口投与用に2.5mgまたは5mgの用量の式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000001.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、
及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)
と、他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質との組合せを特徴とする組み合わせ薬物であって、前記DPP IVインヒビターの1日の経口投与用量が5mgである、前記組合せ薬物。
【請求項2】
DPP IVインヒビターと、他の抗糖尿病薬又は血圧を低下させる活性物質の薬物との組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項3】
DPP IVインヒビターと、メトホルミン、ミグリトール、アトルバスタチン、バルサルタン、ピオグリタゾン又はテルミサルタンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項4】
DPP IVインヒビターと、メトホルミンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項5】
DPP IVインヒビターと、ピオグリタゾンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項6】
DPP IVインヒビターと、テルミサルタンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項7】
DPP IVインヒビターと、スルホニルウレアとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項8】
DPP IVインヒビターと、α-グルコシダーゼブロッカーとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項9】
α-グルコシダーゼブロッカーがアカルボース、ボグリボースまたはミグリトールである、請求項8記載の組合せ薬物。
【請求項10】
DPP IVインヒビターと、インスリンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項11】
メトホルミンが、1日1回又は2回の300mg~1000mgの投与量、または、遅延放出メトホルミンとして1日1回又は2回の500mg~1000mgの投与量若しくは1日1回の500mg~2000mgの投与量、で存在するまたは使用される、請求項4記載の組合せ薬物。
【請求項12】
治療有効量のDPP IVインヒビターが、単一用量として500 mg、850 mg又は1000 mgであって合計一日投与量500-2850mgのメトホルミン、または、遅延放出形態として500mg、1000mg、1500mg又は2000mgのメトホルミン、と組合されることを特徴とする、請求項4記載の組合せ薬物。
【請求項13】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、GLP-1類似体、ACEインヒビター、アンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、βブロッカーおよび利尿薬から選ばれる、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項14】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、およびGLP-1類似体、から選ばれる、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項15】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、インスリン、α-グルコシダーゼブロッカーまたはピオグリタゾンである、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項16】
遊離形態の組合せである、請求項1~15のいずれか1項記載の組合せ薬物。
【請求項17】
固定された形態の組合せである、請求項1~15のいずれか1項記載の組合せ薬物。」
イ 本件訂正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
経口投与用に2.5mgまたは5mgの用量の式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000002.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、
及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)
を含む第1の医薬組成物と、他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質を含む第2の医薬組成物との遊離形態の組合せを特徴とする組み合わせ薬物であって、前記DPP IVインヒビターの1日の経口投与用量が5mgであり、
前記第1の医薬組成物が、被覆錠剤の形態にある前記DPP IVインヒビターを含み、
前記被覆錠剤が、前記DPP IVインヒビター、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン、コポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤コアと、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を含むコーティングとを含む、前記組合せ薬物。
【請求項2】
DPP IVインヒビターと、他の抗糖尿病薬又は血圧を低下させる活性物質の薬物との組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項3】
DPP IVインヒビターと、メトホルミン、ミグリトール、アトルバスタチン、バルサルタン、ピオグリタゾン又はテルミサルタンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項4】
DPP IVインヒビターと、メトホルミンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項5】
DPP IVインヒビターと、ピオグリタゾンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項6】
DPP IVインヒビターと、テルミサルタンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項7】
DPP IVインヒビターと、スルホニルウレアとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項8】
DPP IVインヒビターと、α-グルコシダーゼブロッカーとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項9】
α-グルコシダーゼブロッカーがアカルボース、ボグリボースまたはミグリトールである、請求項8記載の組合せ薬物。
【請求項10】
DPP IVインヒビターと、インスリンとの組合せである、請求項1に記載の組み合わせ薬物。
【請求項11】
メトホルミンが、1日1回又は2回の300mg~1000mgの投与量、または、遅延放出メトホルミンとして1日1回又は2回の500mg~1000mgの投与量若しくは1日1回の500mg~2000mgの投与量、で存在するまたは使用される、請求項4記載の組合せ薬物。
【請求項12】
治療有効量のDPP IVインヒビターが、単一用量として500 mg、850 mg又は1000 mgであって合計一日投与量500-2850mgのメトホルミン、または、遅延放出形態として500mg、1000mg、1500mg又は2000mgのメトホルミン、と組合されることを特徴とする、請求項4記載の組合せ薬物。
【請求項13】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、GLP-1類似体、ACEインヒビター、アンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、βブロッカーおよび利尿薬から選ばれる、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項14】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、およびGLP-1類似体、から選ばれる、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項15】
他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、インスリン、α-グルコシダーゼブロッカーまたはピオグリタゾンである、請求項1記載の組合せ薬物。
【請求項16】(削除)
【請求項17】(削除)」
(2) 本件訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~17〕に対して請求されたものであり、その内容は以下の訂正事項1~3のとおりである。
ア 訂正事項1
本件訂正前の請求項1における
「経口投与用に2.5mgまたは5mgの用量の式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000003.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、
及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)
と、他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質との組合せを特徴とする組み合わせ薬物」を、本件訂正後の
「経口投与用に2.5mgまたは5mgの用量の式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000004.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、
及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)
を含む第1の医薬組成物と、他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質を含む第2の医薬組成物との遊離形態の組合せを特徴とする組み合わせ薬物」と訂正し、更に、「前記第1の医薬組成物が、被覆錠剤の形態にある前記DPP IVインヒビターを含み、前記被覆錠剤が、前記DPP IVインヒビター、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン、コポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤コアと、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を含むコーティングとを含む」を追加する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項16を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項17を削除する。
3 訂正の適否についての判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000005.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)」(以下「本件発明のインヒビター」という。)」と「他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質」(以下「他の活性物質」という。)の組合せについて、それぞれ「第1の医薬組成物」と「第2の医薬組成物」とに含まれる、「遊離形態」で組み合わされるものに特定するものである。
そして、訂正事項1は、本件訂正前の請求項16及び17に記載されるように、本件訂正前の請求項1では、本件発明のインヒビター及び他の活性物質を、遊離形態及び固定された形態のいずれの形態で組み合わせてもよいものであったものを、本件訂正後の「遊離形態」で組み合わせるもののみに限定するとともに、本件発明のインヒビターを含む「第1の医薬組成物」について、所定の組成を有する「被覆錠剤の形態」に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であることについて
本件発明のインヒビター及び他の活性物質が、それぞれ「第1の医薬組成物」及び「第2の医薬組成物」として「遊離形態」で組み合わされることについては、本件訂正前の請求項16に記載されるほか、願書に添付した明細書の【0022】に「上記のDDP IVインヒビターは、他の活性物質と合わせて使用してもよく、それにより改良した治療効果を得ることができる。このような組み合わせた治療は、物質の遊離した組み合わせとして、又は固定された組み合わせ、例えば錠剤又はカプセルの形態で得ても良い。」と記載されている。
そして、本件発明のインヒビターを含む「第1の医薬組成物」が所定の組成を有する「被覆錠剤の形態」であることについては、願書に添付した明細書の実施例11(【0048】~【0049】)に、DPP IVインヒビター、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン、コポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤コアと、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を含むコーティングとを含むフィルム被覆錠剤が記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
前記アで説示したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2) 訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、請求項16及び17を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、新たな技術的事項を導入するものでもない。
なお、本件においては、全ての請求項について無効審判が請求されているので、訂正事項1~3に関し、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
第4 本件発明
上記第3のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~15に係る発明は、訂正特許請求の範囲1~15に記載された事項(上記第3の2(1)イを参照。)により特定されるとおりのものである(以下、それぞれを請求項の順に従い、「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)。
第5 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1号証~甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第12号証、甲第15号証~甲第22号証、甲第24号証、甲第25号証、甲第29号証、甲第30号証、甲第48号証~甲第51号証、甲第54号証、甲第55号証、甲第59号証~甲第63号証及び甲第90号証(以下、例えば、「甲第1号証」は「甲1」という。また、甲5、甲8~甲11、甲13、甲14、甲23、甲26~甲28、甲31~甲47、甲52、甲53、甲56~甲58、甲64~89は欠番となっている。)を提出するとともに、以下の無効理由1を主張する。
[無効理由1]
本件特許の請求項1~17に係る発明は、いずれも本件優先日前に日本国内において公開された甲1発明(主引例)及び技術常識に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[証拠方法]
・甲1:特表2006-503013号公報
・甲2:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン、株式会社 南江堂、2004年5月25日、p.5~19、p.37~46、p.99~121、p.131~143
・甲3:新しい診断と治療のABC18/代謝2 糖尿病、株式会社 最新医学社、2004年1月25日、p.79~86、p.106~113
・甲4:糖尿病治療ガイド2006-2007、株式会社 文光堂、2006年2月14日、p.41~55
・甲6:ホルモンと臨床、2005年2月1日、Vol.53、No.2、p.(133)9~(139)15、「経口糖尿病治療薬開発の動向と治療上の新しい展開」、p.(159)35~(163)39、「ビグアナイドの基礎と臨床」、p.(175)51~(183)59、「α-グルコシターゼ阻害薬の治療上の位置付け」、p.(239)115~(243)119、「GIP,GLP-1等の新しい形の治療薬の開発の現状」
・甲7:糖尿病の最新治療、2011年、Vol.3、No.1、p.51~55
・甲15:新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討のための指針、薬審第494号、1994年7月25日
・甲16:医薬品の臨床薬物動態試験について、厚生労働省医薬局審査管理課長、医薬審発第796号、2001年6月1日
・甲17:臨床薬理学テキスト、株式会社南江堂、1997年3月1日、p.45~51
・甲18:ClinicalTrials.gov archiveに、“Linagliptin”(リナグリプチン)に係る臨床試験「NCT00309608」に関する情報を検索し、その検索結果から臨床試験計画(“March31, 2006(earliest Version on record))”)を選択して表示した画面の出力物、米国国立医学図書館、2021年11月17日出力
・甲19:「トラゼンタ(R)錠5mg」のインタビューフォーム、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、2022年4月改訂((R)は○の中にRの上付文字を表す。以下、同様。)
・甲20:日薬理誌、2005年8月1日、Vol.125、p.379~384
・甲21:クリニカ、2004年、Vol.31、No.6、p.36(398)~39(401)
・甲22:「セイブル(R)錠25mg,50mg,75mg」の添付文書、株式会社三和化学研究所、2021年8月改訂(2006年1月販売開始)
・甲24:心臓、2000年、Vol.32、No.12、p.931~936
・甲25:「リピトール(R)錠5mg,10mg」の添付文書、ヴィアトリス製薬株式会社、2022年11月改訂(2000年5月販売開始)
・甲29:「ディオバン(R)錠20mg,40mg,80mg,160mg」の添付文書、ノバルティスファーマ株式会社、2020年4月改訂(20mg,40mg,80mg錠:2000年11月販売開始、160mg錠:2004年12月販売開始)
・甲30:「ミカルディス(R)錠20mg,40mg,80mg」の添付文書、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社、2020年7月改訂(20mg,40mg錠:2005年1月販売開始、80mg錠:2010年10月販売開始)
<以上、審判請求書に添付>
・甲12:Diabetes Care、2003年、Vol.26、No.8、p.2433~2441
・甲48:再公表特許第02/014271号
・甲49:特開2005-263780号公報
・甲50:特表2003-531118号公報
・甲51:特表2004-536115号公報
・甲54:臨床試験の一般指針、厚生労働省、1998年4月21日
・甲55:薬物相互作用の検討方法について、医薬審発第813号、2001年6月4日
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
・甲59:新医薬品の臨床評価に関する一般指針について、厚生省薬務局新医薬品課長、薬新薬第43号、1992年6月29日
・甲60:臨床試験ハンドブック-デザインと統計解析-、株式会社朝倉書店、2006年3月30日、p.27~29
・甲61:Guidance for Industry -Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers-、アメリカ食品医薬品局、2005年7月
・甲62:トラゼンタ錠5mg CTD第2部 資料概要 2.5 臨床に関する概括評価、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社、2010年8月30日、p.1~13
・甲63:トラゼンタ錠5mg審議結果報告書、2011年6月3日、及び審査報告書、2011年5月12日、p.1~3、30、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社
<以上、令和6年8月22日提出の上申書に添付>
・甲90:医薬品添加物事典 2005、薬事日報社、2005年12月10日、p.20~21、p.110、p.122、p.124、p.155、p.172、p.189、p.223~224、p.276~279、p.283、p.367~368、p.374、p.376~377、p.379~380、p.385~386、p.388、p.393
<以上、令和7年4月25日提出の弁駁書に添付>
2 被請求人は、証拠方法として乙第1号証、乙第100号証~乙第108号証、乙150号証~乙第157号証、乙第160号証~乙第168号証(枝番号を含む。以下、枝番号のない証拠について、例えば、「乙第1号証」は「乙1」といい、枝番号のある乙第100号証の2について、「乙100-2」という。また、乙2~乙99、乙109~乙149、乙158~乙159は欠番となっている。)を提出するとともに、請求人が指摘する無効理由は存在しない旨を主張する。
[証拠方法]
・乙1:「トラゼンタ(R)錠5mg」の添付文書、2023年4月改訂(第2版)
<以上、答弁書に添付>
・乙100:医薬品のレギュラトリーサイエンス 第2版、株式会社 南山堂、2016年4月1日、p.68~71
・乙101:Diabetes & Vascular Disease Research、2006年12月、Vol.3、Issue.3、p.159~165
・乙102:先端医療分野における特許保護の在り方について、知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化専門調査会 先端医療特許検討委員会、2009年5月29日
・乙103:Clinical Pharmacology and Therapeutics、2005年、Vol.78、p.675~688
・乙104:The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、2008年、Vol.325、No.1、p.175~182
・乙105:The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、2009年、Vol.328、No.2、p.556~563
・乙106:J.Med.Chem.、2007年、Vol.50、p.6450~6453
・乙107:Diabetes, Obesity and Metabolism、2009年、Vol.11、p.786~794
・乙108:特集◎2023年度、世界の医薬品売上高ランキング、株式会社日経BP、2024年、URL:https://bio.nikkeibp.co.jp/actl/report/16/082400016/051500342/
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
・乙100-2:医薬品のレギュラトリーサイエンス 第2版、株式会社南山堂、2016年4月1日、奥付
・乙150:Nat Rev Durg Discov、2018年2月23日、Vol.17、p.299
・乙151:Dose Finding in Drug Development、Naitee Ting編、2006年3月7日、「7 General Considerations in Dose-Response Study Designs」の項
・乙152:Guidance for Industry Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers、アメリカ食品医薬品局、2005年7月(甲61と同じ)
・乙153:新医薬品の臨床評価に関する一般指針、厚生省、1992年6月29日(甲59と同じ)
・乙154:The Journal of Clinical Pharmacology、2020年、Vol.60、No.2、p.149~163
・乙155:マルク ミハエル氏によるデクラレーション、マルク ミハエル、2024年8月19日
・乙156:JPP、2009年、Vol.61、p.55~62
・乙157:第44回日本臨床薬理学会学術総会 セッションID:44_2-C-011-3、「米国における医薬品承認審査時の用法・用量決定に関する研究」、2024年1月9日、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsptsuppl/44/0/44_2-C-011-3/_article/-char/ja
・乙160:「創薬の成功確率分析-臨床試験に焦点を当てて-」、政策研究ニュース、2022年7月、p.63~73
・乙161:トラゼンタ錠5mg CTD第2部 資料概要 2.5 臨床に関する概括評価 3.2.2用量検討、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社、2011年7月1日、p.7~8
・乙162:トラゼンタ錠5mg CTD第2部 資料概要 2.7 臨床概要、日本べーリンガーインゲルハイム株式会社、2011年7月1日、p.280、304、477
・乙163:日薬理誌、2005年、Vol.125、p.379~384
・乙164:ジャヌビア(R)錠インタビューフォーム、MSD株式会社、2024年4月改定
・乙165:エクア(R)錠インタビューフォーム、ノバルティスファーマ株式会社、2022年11月改定
・乙166:J. Med.Chem.、2005年6月24日、Vol.48、p.5025~5037、doi:10.1021/jm050261p
・乙167:臨床薬理学テキスト 初版、株式会社南江堂、1997年3月1日、p.9~25
・乙168:臨床薬理学テキスト 改訂第2版、株式会社南江堂、2001年3月15日、p.13~31
<以上、第1上申書に添付>
第6 主な証拠方法の記載事項
以下に、主な証拠方法の記載事項を示す。
なお、証拠方法の本文中における、参照文献があることを示す数字、及び改行は、適宜省略した。また、外国語の文献は訳文を示した。審決において標記できない、□又は○の中の数字は、適宜他の形式で記載した。下線には、当審によるものがある。
1 甲1
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式Iで表される化合物:
【化1】
[図:0001433465000006.jpg]
ここで、R1 は、…(略)… R2 は、…(略)…、かつ R3 は、…(略)…、
並びに以下に列挙する化合物:
…(略)…
;その互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物、そのプロドラッグおよびその塩。
…(略)…
【請求項17】
以下に列挙するものから選択される、請求項1、5および11のいずれか1項に記載の化合物、並びにその互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物およびその塩:(1) 1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(2) 1-(2-{2-[(エチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン- 1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(3) 1-(2-{2-[ (メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(4) 1-(2-フェニル-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(5) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(6) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(7) 1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(8) 1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(9) 1-[2-( 2,3-ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン-5-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(10) 1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(11) 1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(12) 1-[2-(ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(13) 1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(14) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(15) 1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(16) 1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(17) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(18) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(19) 1-[(4-シアノナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1 -イル)-キサンチン;(20) 1-[(4-フェニルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(21) 1-[(8-メチルキノキサリン-6-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(22) 1-[(4-フルオロナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(23) 1-((E)-3-ペンタフルオロフェニル-アリル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(24) 1-[(3-トリフルオロメチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(25) 1-[(3-ジフルオロメチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(26) 1-[2-(ビフェニル-2-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(27) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-シクロプロピル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(28) 1-[2-(3-メトキシフェニル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(29)1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-クロロベンジル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;および(30) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブロモベンジル)-8-( (R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン。
…(略)…
【請求項20】
請求項1~18のいずれか1項に記載の化合物の、真性糖尿病タイプIおよびタイプII、関節炎、肥満、同種移植片による移植およびカルシトニン-誘発性オステオポローシスを治療するのに適した、薬理組成物を製造するための使用。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の一般式Iで表される新規な置換されたキサンチン:
【0002】
【化1】
[図:0001433465000007.jpg]
【0003】
その互変異性体、立体異性体、混合物、プロドラッグおよびその塩、特に無機または有機の酸または塩基との生理的に許容される塩に係り、これらは特に、酵素:ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)の活性に及ぼす阻害作用を含む、薬理的に有益な諸特性を持ち、またこれらの製造、高いDPP-IV活性と関連した、またはこのDPP-IV活性を減じることによって、予防もしくは軽減できる疾患または状態、特にタイプIまたはタイプII真性糖尿病を予防もしくは治療するためのその使用、一般式(I)の化合物またはその生理的に許容されるその塩を含む薬理組成物並びにその製法に関するものである。
…(略)…
【0025】
特に、最も好ましくは、以下に列挙するものから選択される一般式Iで示される化合物、並びにその互変異性体、エナンチオマー、ジアステレオマー、混合物およびその塩である:(1) 1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(2) 1-(2-{2-[(エチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(3) 1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(4) 1-(2-フェニル-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(5) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(6) 1-[(3-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(7) 1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(8) 1-[(4-メチル-イソキノリン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(9) 1-[2-(2,3-ジヒドロベンゾ[1,4]ジオキシン-5-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(10) 1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;
【0026】
(11) 1-[(4-メトキシナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(12) 1-[2-(ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル)-2-オキソエチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(13) 1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(14) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(15) 1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(16) 1-(2-{2-[(メチルアミノカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((S)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(17) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(18) 1-(2-{2-[(イソプロピルカルボニル)アミノ]-フェニル}-2-オキソエチル)-3-メチル-7-((E)-2-ブテン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(19) 1-[(4-シアノナフタレン-1-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;(20) 1-[(4-フェニルキナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン;
…(略)…
【0037】
…(略)…
既に上で述べたように、本発明による一般式Iの化合物および生理的に許容されるその塩は、有益な薬理的諸特性、特に酵素DPP-IVに対する阻害作用を持つ。
これら新規化合物の生物学的特性は、以下のようにして検討した:
これら物質およびその対応する塩の、DPP-IV活性を阻害する能力は、ヒト結腸癌細胞系Caco-2の抽出液を、該DPP-IV源として使用する、設定されたテストによって立証できる。DPP-IV発現を誘発するために、該細胞の分化を、「腸管細胞系Caco-2の高められた発現(Increased expression of intestinal cell line Caco-2)」と題する、Reiher等の論文(Proc. Natl. Acad. Sci., 1993, 90:5757-5761)に記載されたように実施した。該細胞抽出液は、バッファー(10mM Tris-HCl、0.15mMのNaCl、0.04t.i.u.のアプロチニン、0.5%のノニデット(Nonidet)-P40、pH 8.0)中に可溶化された細胞から、4℃にて30分間、35,000gにて遠心分離処理することにより得た。
このDPP-IVアッセイは、以下のようにして行った:
【0038】
最終濃度100μMの、50μlの基質溶液(AFC;AFCは、アミド-4-トリフルオロメチルクマリンである)を、黒色のマイクロタイタープレートに入れた。20μlのアッセイバッファー(夫々最終濃度50mMのTris-HCl、pH7.8、50mMのNaCl、1%のDMSO)を、ピペットで秤取り、これに加えた。この反応は、30μlの可溶化したCaco-2タンパク(最終濃度:ウエル当たり、0.14μgのタンパク)を添加することにより開始させた。検討すべきテスト物質は、典型的には予め希釈して20μlとして添加したが、結果としてアッセイバッファーの体積を、それに応じて減らした。この反応は、周囲温度にて60分間インキュベートすることにより行った。次いで、蛍光を、ビクター1420マルチラベルカウンタ(Victor 1420 Multilabel Counter)を用いて、励起波長405nmおよび発光波長535nmにて測定した。ブランクの読み(活性0%に相当)を、如何なるCaco-2タンパクも含まない、混合物(所定体積をアッセイバッファーで置換)について得、コントロール値(活性100%に相当)は、物質を全く添加してない混合物について得た。IC50値で表した、問題とするテスト物質の能力は、各場合に対して11個の測定点からなる用量/活性曲線から算出した。
【0039】
【表1】
[図:0001433465000008.jpg]
【0040】
本発明によって製造される化合物は、例えば実施例2(80)の化合物10mg/kgを経口経路でラットに投与した場合に、この動物における如何なる挙動変化も検出されなかったことから、十分に許容性をもつものである。
これら化合物のDPP-IV活性を阻害する能力から、本発明による一般式Iの化合物および対応する製薬上許容されるその塩は、該DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある全てのこれら状態または疾病を治療するのに適したものである。従って、本発明の化合物は、疾患または状態、例えばタイプIおよびタイプII真性糖尿病、糖尿病性合併症(例えば、網膜症、ネフロパシーまたはニューロパシー)、代謝性アシドーシスまたはケトーシス、反応性低血糖、インシュリン耐性、代謝性症候群(metabolic syndrome)、様々な器官の脂肪異常(dyslipidaemias)、関節炎、アテローム性動脈硬化症および関連疾患、肥満、同種移植片移植およびカルシトニン-誘発性オステオポローシスの予防並びに治療のために適したものであると予想される。更に、これら物質は、B-細胞の変質、例えば膵臓B-細胞の断片化または壊死を防止することができる。これらの物質は、また膵臓細胞の機能を改善しもしくは回復させ、また膵臓B-細胞の数およびそのサイズを増大させるためにも適している。更に、またグルカゴン-様ペプチド(Glucagon-Like Peptides)、例えばGLP-1およびGLP-2およびそのDPP-IVとの結合の役割に基いて、本発明の化合物は、特に鎮静または不安-解消作用を達成するために、および手術あるいはホルモンストレス応答後の異化状態に有利に作用し、あるいは心筋梗塞後の、致死性または罹患率を減じるのに適しているものと考えられる。これら化合物は、また上記の作用と関連するおよびGLP-1またはGLP-2によって媒介される、あらゆる状態を治療するためにも適している。本発明による化合物は、また利尿剤または抗-高血圧剤として使用することも可能であり、また急性腎不全を予防し、かつ治療するためにも適している。更に、本発明の化合物は、気道の炎症性疾患を治療するのに使用することも可能である。これらは、更に慢性炎症性腸疾患、例えば過敏性腸症候群(IBS)、クローン病または潰瘍性大腸炎および膵炎でさえも、予防し、かつ治療するために適している。
…(略)…
【0042】
本発明の化合物は、また他の活性物質との組合せで使用することもできる。このような組合せとして適した治療薬は、例えば抗-糖尿病薬、例えばメトホルミン、スルホニルウレア(例えば、グリベンクラミド、トルブタミド、グリメピリド)、ナテグリニド(nateglinide)、レパグリニド(repaglinide)、チアゾリジンジオン(例えば、ロシグリタゾン(rosiglitazone)、ピオグリタゾン)、PPAR-γアゴニスト(例えば、GI 262570)およびアンタゴニスト、PPAR-γ/αモジュレータ(例えば、KRP 297)、α-グルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース、フォグリボース(voglibose)、他のDPPIV阻害剤、α 2アンタゴニスト、インシュリンおよびインシュリン類似体、GLP-1およびGLP-2類似体(例えば、エキセンジン-4)またはアミリン(amylin)を含む。また、SGLT2阻害剤、例えばT-1095、プロテインチロシンホスファターゼ1の阻害剤、調節機能が失われた、肝臓におけるグルコース産生に影響する物質、例えばグルコース-6-ホスファターゼまたはフルクトース-1,6-ビスホスファターゼグリコーゲンホスホリラーゼ、グルカゴンレセプタアンタゴニストおよびホスホエノール-ピルベートカルボキシキナーゼ、グリコーゲンシンターゼキナーゼまたはピルベートデヒドロキナーゼ、脂質低下剤、例えばHMG-Co A-リダクターゼ阻害剤(例えば、シンバスタチン、アトルバスタチン(atorvastatin))、フィブレート(例えば、ベザフィブラート、フェノフィブラート)、ニコチン酸およびその誘導体、PPAR-αアゴニスト、PPAR-δアゴニスト、ACAT阻害剤(例えば、アバシミブ(avasimibe))、またはコレステロール再吸収阻害剤、例えばエゼティミブ(ezetimibe)、胆汁酸-結合物質、例えばコレスティラミン、回腸の胆汁酸輸送の阻害剤、HDL-上昇化合物、例えばCETPの阻害剤またはABC1のレギュレータまたは肥満治療用の活性物質、例えばシブトラミンまたはテトラヒドロリポスタチン(tetrahydrolipostatin)、デキスフェンフルラミン、アキソカイン(axokine)、カンナビノイド1レセプタのアンタゴニスト、MCH-1レセプタアンタゴニスト、MC4レセプタアンタゴニスト、NPY5またはNPY2アンタゴニストまたはβ3 -アゴニスト、例えばSB-418790またはAD-9677並びに5HT2cレセプタのアゴニストも使用できる。
【0043】
本発明の化合物を、高血圧を治療する薬物、例えばAIIアンタゴニストまたはACE阻害剤、利尿剤、β-ブロッカー、Ca-アンタゴニスト等、あるいはこれらの組合せと併用することも可能である。
このような効果を達成するのに必要な用量は、静脈内経路による場合、便宜上1~100mgなる範囲、好ましくは1~30mgなる範囲、また経口経路による場合には、1~1000mgなる範囲、好ましくは1~100mgなる範囲であり、何れの場合にも1日当たり1~4回投与する。この目的に対しては、本発明により製造した一般式Iの化合物は、場合により他の活性物質との組合せで、1種またはそれ以上の公知の担体および/または稀釈剤、例えばコーンスターチ、ラクトース、グルコース、ミクロクリスタリンセルロース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、クエン酸、酒石酸、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロースまたは脂肪物質、例えば硬質脂肪または適当なその混合物と共に、公知のガレノス製剤、例えば無垢のまたは被覆した錠剤、カプセル、散剤、懸濁液、または座剤に配合することができる。
…(略)…
【0152】
実施例2:1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-(3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン1-(2-{2-[(エトキシカルボニル)メトキシ]-フェニル}-2-オキソ-エチル)-3-メチル-7-(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-8-[3-(t-ブチルオキシカルボニルアミノ)-ピペリジン-1-イル]-キサンチン(209mg)の塩化メチレン(4ml)溶液を、1mlのトリフルオロ酢酸と併合し、周囲温度にて半時間撹拌する。作業を完結するために、この反応混合物を塩化メチレンで希釈し、飽和炭酸カリウム溶液で洗浄する。得られる有機相を乾燥し、蒸発させ、塩化メチレン/メタノール(1:0~4:1)を溶離液として使用し、シリカゲルカラムを通したクロマトグラフィー処理に掛ける。収量:153mg(理論値の87%);マススペクトル(ESI+): m/z = 553 [M+H]+
以下の化合物を、実施例2と同様にして得る:
…(略)…
【0167】
…(略)…
(80) 1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を用いて実施):マススペクトル(ESI+ ): m/z = 459 [M+H]+
…(略)…
【0178】
(142) 1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(塩化メチレン中で、5-6Mのイソプロパノール性塩酸を使用して実施):融点:198-202℃;マススペクトル(ESI+): m/z = 473 [M+H]+
…(略)…
【0204】
…(略)…
実施例4:75mgの活性物質を含む被覆錠剤:
1錠剤コアは、以下の成分を含む:
【0205】
【表2】
[図:0001433465000009.jpg]
【0206】
製造:
該活性物質を、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび指定した量の半分のステアリン酸マグネシウムと混合する。直径13mmのブランクを、打錠機で製造し、次いでこれらを適当な機械を用いてメッシュサイズ1.5mmのスクリーンを通して、こすって磨き、該ステアリン酸マグネシウムの残部と混合する。この顆粒を打錠機で圧縮して、所定の形状を持つ錠剤を製造する。コアの重量:230mg;ダイ:9mm、凸型かくして製造したこれらの錠剤コアを、本質的にヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムで被覆する。これら完成したフィルム被覆錠剤を、蜜蝋を用いて研磨する。被覆錠剤の重量:245mg
実施例5:100mgの活性物質を含む錠剤:
組成:1錠剤は、以下の成分を含む:
【0207】
【表3】
[図:0001433465000010.jpg]
【0208】
製法:
該活性物質、ラクトースおよび澱粉を一緒に混合し、該ポリビニルピロリドンの水性溶液で均一に湿潤させる。この湿った組成物を篩別(メッシュサイズ2.0mm)した後、ラック型の乾燥機で50℃にて乾燥し、再度篩別(メッシュサイズ1.5mm)し、該潤滑剤を添加する。この完成された混合物を、圧縮して錠剤に成型する。錠剤質量:220mg;直径:10mm、バイプレーナ(biplanar)型、両面に切子面を、一方の側に切込み持つ。
実施例6:150mgの活性物質を含む錠剤
組成:1錠剤は、以下の成分を含む:
【0209】
【表4】
[図:0001433465000011.jpg]
【0210】
製造:
ラクトース、コーンスターチおよびシリカと混合した該活性物質を、ポリビニルピロリドンの20%水性溶液で湿らせ、メッシュサイズ1.5mmのスクリーンを通して篩別する。得られる顆粒を45℃で乾燥し、同一のスクリーンに再度通し、指定された量のステアリン酸マグネシウムと混合する。この混合物から、圧縮により錠剤を得る。錠剤の重量:300mg;ダイ:10mm、フラット
実施例7:150mgの活性物質を含む硬質ゼラチンカプセル1カプセルは、以下の成分を含む:
【0211】
【表5】
[図:0001433465000012.jpg]
【0212】
製造:
該活性物質を、該賦形剤と混合し、メッシュサイズ0.75mmを持つスクリーンを介して篩別し、適当な装置を用いて均一に混合する。完成した混合物を、サイズ1の硬質ゼラチンカプセルに収納する。カプセル充填量:320mg;カプセルシェル:サイズ1の硬質ゼラチンカプセル
…(略)…」
2 甲2
ア (7頁下から6行目~8頁2行)
「1 糖尿病の診断
糖尿病の診断にはまず糖尿病の概念がはっきりしていなければならない.糖尿病の概念には大きくまとめると3つの柱がある.
(1)高血糖で代表される特徴的な代謝異常.
(2)その原因としてのインスリン作用の不足.
(3)代謝異常が長く続くと特有の合併症が起こること.
である.糖尿病の診断とは個々の患者がこれらの特徴を備えているかどうかを見極めることである1,4).」
イ (8頁3行~29行)
「2 糖尿病診断の目的
糖尿病診断の目的は,何のために糖尿病を治療するのかに直結する.糖尿病治療の目的は,糖尿病の合併症,特に慢性合併症の予防と治療である.診断の目的は,慢性合併症を起こすおそれのあるものを早いうちから識別して,早期治療を可能とすることである.
…(略)…
3 血糖基準値
…(略)…
表1は,1999年の日本糖尿病学会の血糖基準値である.空腹時血糖値,75gOGTT2時間値それぞれに正常域と糖尿病域を設け,空腹時と2時間値のどちらかが糖尿病域に入れば糖尿病型,両者とも正常域にあれば正常型,糖尿病型でも正常型でもないものを境界型と定義した4).付帯事項として,随時血糖値が200mg/dl以上の場合を糖尿病型に含めること,正常型であっても1時間値が180mg/dl以上の場合は境界型に準じた取り扱いをすることが記してある.」
ウ (13頁1行~14頁10行)
「2 糖尿病治療の目標と指針
●ステートメント
1 糖尿病治療の目標 グレードA コンセンサス
糖尿病治療の目標は,糖尿病症状を除くことはもとより,糖尿病に特徴的な合併症,糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康人と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康人と変わらない寿命を全うすることである.
…(略)…
3 慢性合併症の予防,進展抑制 グレードA コンセンサス
糖尿病の慢性合併症の予防,進展抑制のためには,単に血糖コントロールのみでなく,肥満を解消し,血圧や脂質代謝のコントロールを目指す.また,禁煙を守る.
…(略)…
●解説
1 糖尿病治療の目標
糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である.インスリン作用不足による代謝障害の程度が軽度であればほとんど症状が現れず,そのため長期間放置されることがある.しかし,血糖値が著しく高くなる代謝状態では口渇,多飲,多尿,体重減少がみられ,さらには急性合併症として意識障害や昏睡に陥り,効果的な治療が行われなければ死に至ることもある.代謝障害が軽度でも長く続けば特徴的な慢性合併症(すなわち網膜症,腎症,神経障害)を発症するリスクが高い.さらに,糖尿病では全身の動脈硬化症が促進され,これが心筋梗塞,脳梗塞,下肢の閉塞性動脈硬化症の原因となる.また細菌感染に対する抵抗力の低下をもたらす.
糖尿病治療の目標は,これら糖尿病に特徴的な急性合併症と慢性合併症,および糖尿病に併発しやすい合併症の発症,増悪を防ぎ,健康者と同様な日常生活の質(QOL)を保ち,健康者と変わらない寿命を全うすることである.」
エ (15頁14行~16頁10行)
「3 糖尿病治療の指針
インスリン依存状態(多くの1型糖尿病はこの状態にある.2型糖尿病でも代謝障害の著しいときはこの状態にある)では,ただちにインスリン治療を開始する.また,インスリン非依存状態でも,重篤な感染症,全身管理が必要な外科手術時,肝・腎などの合併症の程度によっては,インスリンで治療する.糖尿病患者の妊娠時や妊娠糖尿病においてはインスリン治療により前項に述べた目標を目指すべきである.その他のインスリン非依存状態においては,代謝障害がより高度であれば(HbA1c8~9%以上,随時血糖値250~300mg/dl程度またはそれ以上)最初から経口血糖降下薬やインスリンによる薬物療法を食事療法,運動療法に加えて開始する.代謝障害が中等度以下の場合(HbA1c8~9%以下,随時血糖値250~300mg/dl程度またはそれ以下),まず,患者の病態を十分に解析して,適切な食事療法と運動療法を行う.この場合,生活習慣改善に向けて患者教育を十分に行うことが大切である.治療を2~3ヵ月程度続けても,なお,目標の血糖値を達成できない場合には,経口血糖降下薬またはインスリン製剤を用いる(図1).
…(略)…
血糖コントロールのための目標値は症例により異なり,一律にはできないが,一般には低血糖を頻繁に起こすことなく,コントロールの評価(表1)の優ないし良とすべきであり,青壮年者ではできるだけ優を目標とすべきである.高齢の糖尿病患者では,年齢と罹病期間,合併症の状態を勘案し,血糖コントロールの目標値を緩める場合も少なくない.コントロールの評価が不可であるとは,HbA1c8.0%以上が続く場合であり,治療方針の変更を考慮することが必要な場合である.治療変更後は約2~3ヵ月経過を観察し,改善がなければ再度変更を行う.このようにして血糖コントロールの目標を達成する.」
オ (37頁1行~最終行)
「5 経口血糖降下薬による治療
●ステートメント
1 経口血糖降下薬の適応 グレードA レベル1
インスリン非依存状態で,十分な食事・運動療法を2~4ヵ月間行ってもよい血糖コントロールが得られない場合,経口血糖降下薬の適応となる1~4).
…(略)…
3 血糖コントロールの目標 グレードA レベル1
血糖コントロールは可能な限り正常血糖値に近づけるべきである1,2,5,6).ただし,インスリン分泌促進作用を持つ経口血糖降下薬によって重篤な低血糖が起こりうるので,最大限の注意が必要である.
4 第一選択薬とする経口血糖降下薬 グレードA レベル1
薬物の選択と投与量の調節は,個々の薬物の作用の特性や副作用を考慮に入れながら個々の患者の状態に応じて行う.
…(略)…
5 血糖コントロールが不十分な場合の対応 グレードA レベル1
1種類の経口血糖降下薬治療によっては良好な血糖コントロールが長期間維持できないことがある.この場合,食事・運動療法の徹底をはかり,さらに必要であれば,作用機序の異なる経口血糖降下薬を追加するか,インスリンへの切り替え,あるいは併用によって血糖改善効果を期待する.」
カ (99頁1行~103頁2行)
「11 糖尿病大血管症
●ステートメント
1 大血管症のリスク グレードA レベル2-
糖尿病は,大血管症の危険因子のひとつであり,高血糖の程度が軽い境界型耐糖能異常でも大血管症のリスクは増加する1,2).大血管症の危険因子の中で是正できるものとしては,他に,高血圧症,高脂血症,肥満,喫煙がある.糖尿病を含めた危険因子が複数合併すると大血管症のリスクは相乗的に増加する.そして,これらの危険因子を包括的にコントロールすることが大血管症の予防に重要である71).
…(略)…
3 糖尿病と高血圧の合併 グレードA レベル1
糖尿病と高血圧の合併は大血管症の発症頻度を増加させる11~14).厳格な血圧コントロールは糖尿病大血管症の発症リスクを軽減する22~26).
…(略)…
●解説
1 疫学(大血管症の危険因子)
…(略)…
糖尿病は大血管障害の重要な危険因子のひとつで,2型糖尿病患者では,非糖尿病者に比べて冠動脈疾患の頻度は2~4倍に上昇する.糖尿病だけではなく耐糖能が境界型のものでも冠動脈疾患の発症リスクは正常型に比べて高く,特にブドウ糖負荷後2時間値が高いものでリスクが高いと報告されている1,2).
…(略)…
2 糖尿病大血管症の予防
細小血管症の危険因子の中では高血糖の重要性の比重がきわめて高いが,大血管症では高血糖,高血圧,高脂血症,喫煙,肥満などの危険因子がすべて重要であり,かつ,危険因子の数が増えると大血管症のリスクは相乗的に増加する.したがって,糖尿病患者における大血管症の予防のためには,血糖管理だけではなく,上記の危険因子をできるだけ取り除く必要がある.
大血管症の予防を目標とした臨床研究で,糖尿病患者を対象にした試験は少ない.しかし,大規模臨床試験のサブ解析の結果から,糖尿病患者においても大規模臨床試験の結果がそのまま適用できると考えられ,しかも,いくつかの試験から,大血管症の予防には,糖尿病患者では非糖尿病者よりも厳格に危険因子の管理を行う必要があると考えられる.
(1)血糖
1型糖尿病を対象としたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)と2型糖尿病患者を対象としたUKPDSでは,通常の治療よりも厳格な血糖コントロールを目指すことによって心筋梗塞発症に減少傾向が認められた26,17).…(略)…これらの成績に加え,疫学的に末梢血管障害を含む心血管疾患の発症と高血糖との関連が認められ19),しかも,心血管イベントの発症に血糖コントロールの閾値が認められないこと19,20)から,厳格な血糖コントロールは心血管イベントの予防に有効であることが示唆される.
…(略)…
(2)血圧
血圧の厳格なコントロールは大血管症発症のリスクを減少させる22~26).UKPDSでは,2型糖尿病患者を対象として降圧目標値を180/105mmHg以下(到達血圧154/87mmHg)とした群と150/85mmHg以下(到達血圧144/82mmHg)にコントロールした群とで比較すると,血圧管理を厳しくした群では,糖尿病関連エンドポイントと糖尿病関連死,脳卒中が有意に減少した22).ベースラインの拡張期血圧が80~90mmHgの正常血圧2型糖尿病患者を対象としたnormotensive ABCD(Appropriate Blood Pressure Control in Diabetes)Trialでは,拡張期血圧をベースラインよりも10mmHg低下させる厳格コントロール群における脳血管障害の発症はプラセボ群に比べて有意に抑制された23).糖尿病を含む高血圧患者を対象としたランダム化比較試験のサブ解析でも,糖尿病患者における降圧療法の大血管症予防効果は,非糖尿病患者と同等かそれ以上であることが示されている24~25).
UKPDSコホートを対象とした前向き観察研究でも,収縮期血圧の上昇により心筋梗塞,脳卒中,末梢血管障害のいずれも,その発症リスクの増加が示された.また,この収縮期血圧と大血管症発症リスクとの関係には,いわゆるJカーブ現象は認められなかった27).
降圧薬の種類によって冠動脈疾患や脳血管障害の予防効果に違いがあるかどうかについては,一定の見解が得られていない22,23,28~33).大血管症発症予防のためには,降圧薬の種類よりも降圧の程度が重要であると考えられる.
(3)脂質代謝異常
脂質代謝異常の改善は,冠動脈疾患のリスクを減少させる.冠動脈疾患の一次予防に陰イオン交換樹脂34)や,スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)35~37)による高コレステロール血症治療の有効性が確認されている.冠動脈疾患の二次予防においても,スタチン系薬剤の有効性が確立されている37~40).また,急性冠症候群発症直後からスタチン系薬剤を投与することにより,心血管イベントの再発を予防することも報告されている41).フィブラート系薬剤ゲムフィブロジルを平均的LDL-C値と低HDL-C血漿を合併する冠動脈疾患既往患者に対して投与したVA-HIT(…(略)…)では,LDL-C値に変化は認められなかったものの,中性脂肪値低下とHDL-C値上昇が認められ,冠動脈疾患死と非致死性心筋梗塞の発症が有意に減少した42).
…(略)…
(5)生活習慣の改善
禁煙することにより非喫煙者と同レベルまで冠動脈疾患のリスクが減少することが報告されている60~62).Oslo Studyでは,食事および喫煙について助言を行った介入群で非介入群に比べて心血管イベントが半減した63).運動をしている者は,冠動脈疾患64)および脳血管障害65)のリスクが低い.食事,運動など生活の改善と禁煙といった生活習慣への介入によって冠動脈病変の進展が抑制されることも報告されている66,67).肥満者では心血管疾患の発症リスクが増加しており,食事療法と運動療法による減量により大血管症の危険因子の改善が認められる68).」
キ (131頁1行~下から2行目)
「13 糖尿病に合併した高血圧
…(略)…
4 第一選択薬
第一選択薬は,臓器障害やインスリン抵抗性を改善するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB),持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を用いる1,2,6~17,f,g).グレード A レベル1
降圧目標を達成するために複数の降圧薬を併用する場合には,少量のサイアザイド系利尿薬も考慮する15) .グレードA レベル1
5 その他の用いるべき薬剤
ただし微量アルブミン尿や蛋白尿を伴う場合にはACE阻害薬3,5,18~22)あるいはARB23~27)を用いる.グレードA レベル1
虚血性心疾患を伴う場合にはβ遮断薬28,29)を用いるべきである.グレードB レベル2 」
ク (132頁15行~133頁3行)
「3 降圧目標
糖尿病患者では,しばしば高血圧が合併する.両者は独立した心血管系疾患の危険因子であり,高血圧合併糖尿病がハイリスクであることが広く認識されている.…(略)…したがって,糖尿病患者では,血圧が130~139/80~89mmHgであれば,血糖コントロールと生活習慣の改善を3~6ヵ月指導し,降圧が不十分な場合には降圧薬を開始する.血圧が140/90mmHg以上であれば,血糖コントロールと生活習慣の改善を指導しつつ,ただちに降圧薬による治療を開始する.」
3 甲3
ア (79頁1行~80頁下から3行目)
「第4章 糖尿病の管理・治療
治療目標
…(略)…
糖尿病治療の目的
糖尿病治療の目的は,(1)健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持,ならびに,(2)健康な人と変わらない寿命の確保にある.そのためには,糖尿病に特有の細小血管合併症(網膜症,腎症,神経障害)および糖尿病に多発する動脈硬化性疾患(虚血性心疾患,脳血管障害,閉塞性動脈硬化症)の発症,進展の阻止を図らなければならない.すると,血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状況の維持が必須となろう.
…(略)…
コントロールの指標1)
1)細小血管症の発症予防や進展の抑制のためには,図1の血糖コントロールの指標と評価の『優および良』を目指すように心掛ける.血糖コントロールの指標としてはA1C(当審合議体注:HbA1c)を重視する。A1Cは患者の平均血糖値を示す指標であり,各個体では変動幅が少ない。糖尿病コントロール,患者の自己管理の第1選択指標である。しかし,A1Cでは血糖値の日内変動などの状況は把握できず,また血糖以外の因子(貧血,脾腫など赤血球寿命が変化するなど)がA1C値を変動させることが少なくないことから,空腹時血糖値,食後2時間血糖値,随時(食後の経過時間などに関係ない)血糖値などを併用し代謝状態を総合的に判断することが望まれる.」
イ (106頁2~8行)
「経口血糖降下薬療法のコツ
要旨
経口血糖降下薬にはスルホニル尿素剤,ビグアナイド剤、αグルコシダーゼ阻害薬,インスリン抵抗性改善薬および速効型インスリン分泌促進剤がある.食事療法,運動療法を一定期間行ってもコントロールが不十分なインスリン非依存状態の2型糖尿病が適応となる.各薬剤の特徴を考慮し,患者の病態に応じて適切な使い分けを行う.単独で不十分な場合は併用投与を行うが,インスリンへの切り替えも躊躇すべきではない.」
ウ (107頁 表1)
「
[図:0001433465000013.jpg]
」
4 甲4
ア (44頁 表7)
「
[図:0001433465000014.jpg]
」
5 甲6
ア (37(161)頁左欄下から10行目~右欄20行)
「3 ビグアナイド薬の適応
ビグアナイド薬は脂質代謝異常・高血圧・肥満などメタボリック・シンドロームの病態を呈する糖尿病患者においてファーストラインの選択薬となり得る薬剤といえる.また,作用機序が異なる他の経口血糖降下薬との併用によって,更なる血糖改善効果が期待される. …(略)…
4 ビグアナイド薬の使用方法
通常1日1~3回食前または食後に投与する.血糖降下作用は数日~1週間以内に発現し,2週間程度で最大効果に達する.わが国で承認されている1日極量はブホルミン150mg,メトホルミンで750mgであるが,欧米ではメトホルミンの場合,2000~3000mgまで投与され,容量依存性の効果が認められている.」
イ (115(239)頁、標題、左欄1行~116(240)頁左欄7行)
「GIP,GLP-1等の新しい形の治療薬の開発の現状
…(略)…
はじめに
食物の摂取後に小腸から放出される消化管ホルモンgastric inhibitory polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)は,いずれも膵β細胞からのインスリン分泌を惹起するインクレチンであることが知られている.近年,GIPやGLP-1の受容体を欠損するマウスが作製され,GIPやGLP-1がインスリン分泌促進に加えて様々な生理作用を有していることが明らかとなった.これらの作用によってGIPやGLP-1は糖代謝の恒常性維持に重要な役割を担っており,それを応用した薬剤の開発が進んでいる。
1 インクレチンとは
約40年前,ブドウ糖を経口投与した場合には,経静脈的に投与した場合に比べ,より多くのインスリン分泌が惹起されることが明らかにされた(図1).この機構として,小腸にはインスリン分泌を促進する因子(消化管ホルモン)が存在しており,この因子が食物の摂取後に放出されるために,経口投与後のインスリン分泌は経静脈投与後より亢進するものと想定された.インクレチンとは,このような役割を担う消化管ホルモンの総称である1) 。すなわち,食物を摂取したという情報がインクレチンの分泌を介して速やかに膵β細胞へと伝達され,インスリン分泌を刺激して食後の急峻な血糖上昇を抑え,血糖をより一定に保つ役割を有する.
これまでにインクレチンとして,gastric inhibitory polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-1(GLP-1)の2つのホルモンが知られている.これらはいずれもグルカゴン/セクレチンファミリーに属し,互いに類似したアミノ酸配列を有するホルモンで,GIPは上部小腸に存在するK細胞から,GLP-1は下部小腸に存在するL細胞から分泌される(図2).GIPやGLP-1は,ブドウ糖濃度が低い時にはインスリン分泌を促進せず,ブドウ糖濃度が高い時にはインスリン分泌を促進する.すなわち,インスリン分泌のpotentiatorとして作用すると考えられる.」
ウ (116(240)頁左欄8~14行)
「2 2型糖尿病におけるインクレチン
インクレチンの作用によって,血糖が上昇し始める食後早期にインスリン分泌を効率的に上昇させ,食後の高血糖を抑えることができる.一方,2型糖尿病患者では食後の高血糖がひとつの特徴であり,この一因としてインクレチン作用の障害が報告されている.」
エ (117(241)頁左欄下から7行目~右欄4行)
「5 DPP IVと糖尿病
Dipeptidyl-peptidase IV(DPP IV,CD26とも呼ばれる)は蛋白のN末端の2アミノ酸を分解する酵素で,各種のホルモンやケモカインの分解に関与する.GIPやGLP-1も血中でDPP IVによって速やかに分解され,活性を失うため,生体における半減期が短い.DPP IVの欠損マウスが作製されて解析された結果,やはりOGTTにおいて耐糖能の悪化を認め,DPP IVがGIPやGLP-1などの分解を介して生体内の糖代謝に影響を及ぼしていることが示唆された5).」
オ (117(241)頁右欄5行~118(242)頁左欄12行)
「6 インクレチンと糖尿病治療
以上の3点から,インクレチンのシグナルが低下すると耐糖能が低下していることが示されている.ヒトでの成績も併せて考えると,インクレチンのシグナルを増強させることは,糖尿病の新たな治療として臨床応用が期待できる.…(略)…
2型糖尿病患者においてはGIPの作用が減弱していることから,臨床応用は主としてGLP-1について進められ7) ,GLP-1の注射によって血糖コントロールが改善することが報告されている(図3).
実際の臨床応用にあたっては,GLP-1が血中でDPP IVによって速やかに分解され,非活性型になることが大きな問題である.このことを解決するためにはDPP IVによって分解されないGLP-1の誘導体(GLP-1受容体アゴニスト)を用いることが必要であり,種々の誘導体が発見・開発されて海外で臨床応用が進められている.また,もうひとつの手段として,DPP IV活性を阻害する薬物の開発がある.これについても既に開発が進行しており,このような薬物も糖尿病治療薬のひとつとなることが期待される.」
カ (118(242)頁右欄16~25行)
「8 DPP IV阻害薬
DPP IV阻害薬は経口投与可能な製剤であり,現在ヒトでの有効性がNVP DPP728(Novartis社)13)やLAF23714)などについて,phase 2からphase 3 trialの段階である.NVP DPP728は1日2~3回投与であるが,LAF237は作用持続時間が長いため1日1回投与が可能である.DPP IV阻害薬の長期投与によって血糖およびHbA1c は有意に低下し,食後の活性型GLP-1濃度の上昇が観察されている.」
6 甲7
ア (54頁右欄4~10行)
「5 2型糖尿病治療薬
1998年Demuthらが,彼らの開発した阻害剤Ile-thiazolidide8) を経口投与することにより2型糖尿病治療薬となることを発表9) した。それ以来,製薬メーカーによるDPP-4阻害薬の開発競争が行われ,それらの多くは非ペプチド化合物である。」
7 甲12
ア (標題)
「心不全
頻発し、見落とされ、そしてしばしば致命的となる糖尿病の合併症」
イ (2433頁左上欄1~17行)
「糖尿病患者における心不全(HF)の発症率は高く、死亡率も高い。これらの患者の予後不良は、高血圧や虚血性心疾患によって悪化した糖尿病性心筋症が根底にあるとされてきた。これらの患者では、交感神経系の活性化により、心筋の脂肪酸利用が増加し、胎児性遺伝子プログラムが誘導され、心筋機能が低下する。レニン-アンジオテンシン系の活性化は心筋のリモデリングをもたらす。心不全の進行を止めるためには医師が早期に介入することが不可欠だが、左室機能障害を持つ患者の少なくとも半数は、疾患が進行して障害が起こるまで診断も治療もされないままである。この遅れは、初期の心不全が無症候性であることが大きな原因であり、心不全の危険因子と初期の臨床症状をより積極的に評価することが必要である。心室機能の低下に伴うリモデリングを防ぐためには、β遮断薬、ACE阻害薬、またはアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用が不可欠である。β遮断薬は心臓のリモデリングを防ぐだけでなく、反転させる可能性がある。血糖コントロールは糖尿病性心不全の治療においても重要な役割を果たし得る。糖尿病患者におけるβアドレナリン作用阻害薬に関連した有害な代謝の副作用は、第3世代のβ遮断薬を使用することで回避できるかもしれない。高リスクの糖尿病患者においては、心不全治療の必要性が生じるのを待つのではなく、むしろそれを回避するためにACE阻害薬とβ遮断薬を予防的に使用することを考慮するべきである。」
8 甲15
ア (1頁本文9~11行)
「 なお、用量反応試験の考え方については,平成4年6月に公表された「新医薬品の臨床評価に関する一般指針」において,後期臨床第II相試験に関する説明の中で触れられているところであるが,本指針は,この一般指針を補完するものである。」
イ (2頁2~12行)
「1.はじめに
1)用量―反応関係の検討の目的
医薬品の用量,血中濃度および臨床での反応(有効性および副作用)の3者の関係を知ることは,個々の患者に対して医薬品を安全かつ有効に使用するために大切なことである。この情報は,適切な開始用量,特定の患者の必要性に合わせて用量を調整する最もよい方法や,また,増量してもそれ以上有益性が期待できないか,あるいは増量すると忍容できない副作用が発現すると思われる用量を見いだすために役立つ。用量―血中濃度,血中濃度―反応,用量―反応に関する情報は,当該医薬品の用法・用量を決める際の参考となる。さらに,用量―反応関係の情報を得ることで,各国の規制当局が医薬品の承認の可否を判断する際に共通のデータベースを用いることも可能になり,世界的にみた医薬品開発を経済的に進めることにつながるであろう。」
ウ (2頁下から2行目~3頁1行)
「少なくとも患者母集団の一部においては臨床的な有効性が認められる程度の低い開始用量が推奨され,医薬品が十分忍容される限り用量を漸増することが最もよいと思われる。」
エ (11頁下から11行目~12頁16行)
「4.まとめ
1)用量―反応に関するデータは,市場に導入しようとするほとんど全ての新医薬品に関して収集されることが望ましい。これらのデータは,信頼できかつ科学的な根拠のある試験デザインから導き出されるべきであり,各種のデザインによって妥当な情報を得ることができる。試験は,偏りを最小限にするために一般に認められている方法によるよく管理された比較対照試験とすべきである。本格的な用量―反応試験の実施に加え,データベース全体について用量―反応情報の存在する可能性を吟味すべきである。
2)特別に計画された試験およびデータベース全体の分析から得られた情報は下記の目的に使用されるべきである。
(1)薬物動態学的および薬力学的な変動についての総合的な情報を考慮して,適切な開始用量を見いだすこと。理想的には,患者の体の大きさ,性別,年齢,合併症,および併用療法に合わせて開始用量を調整する方法(さもなければ,調整が必要ないと判断した確固たる根拠)も併せて見いだすのがよい。状況(疾患,当該医薬品のもつ副作用)により,開始用量は,有用な効果が多少は見られる低用量から効果が最大に達する用量またはその付近の用量までの範囲内のいずれかになる。
(2)患者の特性に応じて用量を適切に調整し,反応を指標にして適正に用量を漸増する方法,および用量調整の間隔を見いだすこと。漸増の方法は,個々の患者の用量―反応データが利用できるならば典型的な個体の用量―効果曲線(望ましい効果および望ましくない効果の双方)の形状に基づき,また,個々の患者のデータが利用できないならば母集団の(群としての)平均的な用量―反応の形状やこれらの効果における変化を検出するために必要な時間に基づくものとなろう。母集団の(群としての)平均的な用量―反応関係を探索するための方法論は,現時点では個々の患者の用量―反応関係を探索する方法論よりも確立されていることに注目すべきである。
(3)それを超えて増量してもそれ以上有益性が見られないか,あるいは望ましくない効果が忍容できないほど増加するので,通常は漸増を試みるべきでない用量または反応(望ましい反応あるいは望ましくない反応)を見いだすこと。」
オ (13頁7~10行)
「5)有益な効果および望ましくない効果の双方に関する用量-反応データに含まれる情報によって,適切なベネフィットとリスクの比を考慮した上での用量範囲の承認が可能になる。」
カ (15頁下から8行目~下から7行目)
「A.推奨用量は,望ましい作用と望ましくない作用の用量―反応関係を推定した上で,治療上の必要性を考慮し,両者のバランスを考えて許容できる用量範囲を選ぶべきである。」
キ (16頁 図1)
「
[図:0001433465000015.jpg]
」
ク (19頁2~7行)
「 一般的には,初期では広い用量を設定し,用量間の幅も比較的大きくした上で,大まかな用量範囲探索試験(dose-ranging study)を行い,比較的低用量から高用量までの用量―反応曲線(可能ならばこれ以上の効果の増強が期待できない用量近辺まで含め)を求める。この求められた結果から,さらに詳細な情報を得るための用量―反応試験の実施を考える。このように,望ましい作用と望ましくない作用のバランスを考える上で,よりよい用量が求められるような範囲を設定し,臨床試験をデザインすることが必要である。」
9 甲16
ア (1頁下から5行目~2頁14行)
「1. はじめに
本文書は、新医薬品の開発および医薬品の適正使用に必要なヒトにおける薬物動態情報を得ることを目的に、医薬品の承認申請時に添付する資料または既承認医薬品の再審査に際して提出する資料を作成するために行われる臨床薬物動態試験について、その項目と実施にあたっての基本的考え方を示している。
臨床薬物動態試験は被験薬(治験薬または医薬品)を志願した健康者または患者に投与し、その吸収、分布、代謝および排泄を検討する試験である。得られた結果は新医薬品の開発における臨床試験において、または必要に応じて行われる承認後の臨床試験においても、その計画と実施、得られた有効性あるいは安全性に関する結果の解析および評価に有用である。また、効力を裏付ける試験や毒性試験で得られた成果を非臨床および臨床薬物動態試験で得られた結果と関連づけて評価することは、その後の臨床試験を適切かつ安全に実施する上で有用な情報を与えると共にヒトにおける被験薬の作用機序の推定にも活かされる。
臨床薬物動態試験で得られた結果は薬物代謝酵素の遺伝子型などの患者特性や病態に応じて医薬品を適正に使用するため、また、薬物動態学的な薬物相互作用の影響の評価にも有用である。さらに、治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)にも有用な情報を与える。なお、本目的のためには個々の被験者(志願した健康者または患者)から得られた被験薬の体内動態の結果は、被験者ごとに現れた薬効や副作用と密接に関連づけて検討することが特に重要である。」
イ (4頁下から11行目~5頁4行)
「6.2.1.1. 単回投与試験
単回投与試験においては、志願した健康者あるいは患者に単回投与したときの被験薬および代謝物の血中濃度推移を検討する。さらに、尿および必要に応じて糞便中における被験薬量並びに代謝物組成とその量を測定し、物質収支を検討する。また、血漿蛋白非結合率(必要に応じて結合蛋白質の種類)や生物学的利用性の評価、薬物動態の線形性、食事の影響も通常単回投与試験で検討する。
初回投与量は、毒性試験、トキシコキネティクス、非臨床薬物動態試験等のデータ、ヒト組織等を用いた代謝試験結果、薬理作用の特性、および海外で臨床試験が先行している場合においては、その成績などを参考に決定する。
試験は少数の被験者について、通常、低用量から開始し、毒性兆候の出現に留意しながら段階的に増量する。
用量と薬物動態パラメータとの関係を検討するために、推定臨床用量および臨床で使用が予想される最高用量を越える用量を含む数段階の投与量を用いる。患者を対象とする試験では用量と血中濃度の関係のみならず血中濃度と薬理効果との関係を検討することは有意義である。」
10 甲20
ア (379頁左欄1~25行)
「要約:インクレチンは,栄養素の刺激により腸管から分泌され,膵β細胞でのグルコース刺激によるインスリン分泌を増強させるホルモンの総称である.その中で,血糖調節因子として最も注目されているのが,グルカゴン様ペプチド-1 (glucagon-like peptide-1, GLP-1: GLP-1(7-36) amide)あるいはGLP-1(7-37))である.GLP-1は腸管に存在するL細胞から分泌されるが,速やかにジペプチジルペプチダーゼ-IV(dipeptidyl peptidase-IV, DPP-IV)により不活性化される.GLP-1は,グルコース依存的なインスリン分泌の亢進ばかりではなく,グルカゴンの分泌抑制,胃排泄の抑制,膵β細胞の保護および増殖作用にも関与する.さらに,視床下部に作用して摂食を抑制し,結果として体重増加を抑制する.これら一連の作用は,2型糖尿病の治療において非常に望ましい。 …(略)… 最近,DPP-IV阻害薬であるLAF237が,忍容性および安全性に優れ,2型糖尿病患者の空腹時血糖および食後高血糖を改善させることが報告された.以上のことより,DPP-IV阻害薬は,GLP-1の多様な作用をもたらす新しいタイプの経口糖尿病薬として期待されている.」
イ (381頁)
「
[図:0001433465000016.jpg]
」
ウ (383頁左欄18行~右欄1行)
「5-3. 併用療法
併用療法は2型糖尿病治療の有用な選択肢の1つであることから,DPP-IV阻害薬と既存の2型糖尿病治療薬との併用による効果に興味が持たれる.特に,ビグアナイド剤(メトフォルミン)やチアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン,ロジグリタゾン)などのインスリン抵抗性を改善する薬剤との併用は,作用機序の違いから相加・相乗的な薬効増化が期待される.…(略)…このように,DPP-IV阻害薬は,いずれのタイプの経口血糖低下薬とも併用が可能であり,単剤で血糖コントロールが不十分な患者の治療の幅を広げることが期待される.」
11 甲21
ア (38頁右欄1~5行)
「2)多剤との併用療法
α-GIはその作用機序から,理論上は全ての糖尿病治療薬との併用が可能である.他の経口血糖降下剤やインスリンで治療中の患者で食後の高血糖が認められる症例が対象となる.」
12 甲22
ア (1頁、製品名、販売開始日)
「
[図:0001433465000017.jpg]
」
イ (1頁、3.1~3.2)
「
[図:0001433465000018.jpg]
」
13 甲25
ア (1頁、製品名、販売開始日)
「
[図:0001433465000019.jpg]
」
イ (1頁、3.1~3.2)
「
[図:0001433465000020.jpg]
」
14 甲29
ア(1頁、製品名、販売開始日)
「
[図:0001433465000021.jpg]
」
イ(1頁、3.1~3.2)
「
[図:0001433465000022.jpg]
」
ウ (1頁、4.)
「
[図:0001433465000023.jpg]
」
15 甲30
ア (1頁、製品名、販売開始日)
「
[図:0001433465000024.jpg]
」
イ (1頁、3.1~3.2)
「
[図:0001433465000025.jpg]
」
16 甲48
ア (【特許請求の範囲】)
「【請求項1】一般式(I)
[図:0001433465000026.jpg]
〔式中、…(略)…〕で示されるL-プロリン誘導体又はその医薬上許容される塩。
…(略)…
【請求項9】請求項1~5のいずれかに記載のL-プロリン誘導体又はその医薬上許容される塩を有効成分とするDPP-IV阻害薬。
【請求項10】請求項1~5のいずれかに記載のL-プロリン誘導体又はその医薬上許容される塩を有効成分とするDPP-IVが関与する疾患の治療剤。
【請求項11】前記疾患が糖尿病、肥満、HIV感染、癌転移、皮膚病、前立腺肥大症、歯根膜炎又は自己免疫疾患によるものである請求項10に記載の治療剤。」
イ (8頁最終行~9頁13行)
「GLP-1は生体内においては数分で代謝されることが知られている。その中でも特にDPP-IVによる代謝は重要であり、GLP-1を速やかに切断して不活性型GLP-1を産生する〔デアコン(Deacon)等、アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジオロジー(American Journal of Physiology)、第271巻、E458-E464頁(1996)〕。加えて、この不活性型GLP-1がGLP-1レセプターに対し拮抗作用することから、GLP-1の生理的作用がさらに減弱化すると考えられている〔ヌーゼン(Knudsen)等、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、第318巻、429-435頁(1996)〕。したがって、DPP-IV阻害によりGLP-1の分解を抑制する方法はGLP-1作用増強のアプローチとして最良と考えられる。すなわち、DPP-IV阻害薬はインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)患者にとって遷延性低血糖などの副作用を伴わずに食後高血糖を是正するための優れた治療方法になり得るものと期待されている。」
ウ (31頁最終行~32頁9行)
「 本発明の化合物(I)及びその酸付加塩を前述の医薬として用いる場合、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などと混合し、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等の形態で、経口的又は非経口的に投与することができる。上記製剤中には化合物(I)又はその薬理学的に許容される塩を有効量配合する。
当該化合物(I)又はその薬理学的に許容される塩の投与量は、投与ルート、対象疾患、患者の症状、体重あるいは年齢、用いる化合物によっても異なり、投与目的に応じて適宜設定することができる。通常、成人に経口投与する場合、0.01~1000mg/kg体重/日、好ましくは0.05~500mg/kg体重/日を、一日1~数回に分けて投与するのが好ましい。」
17 甲49
「【0005】
遺伝的に繁殖させたDPP-IVノックアウトマウスに関する研究および選択的DPP-IV阻害剤を用いたインビボ/インビトロ研究に基いて、DPP-IVは、インビボにおける、GLP-1(7-36)の主な分解酵素であることが分かった。GLP-1(7-36)は、DPP-IVによって効果的に、GLP-1(9-36)に分解され、これはGLP-1(7-36)に対して、生理的なアンタゴニストとして作用するものと推測されている。従って、インビボでのDPP-IVの阻害は、GLP-1(7-36)の内因性の濃度を高め、かつそのアンタゴニストであるGLP-1(9-36)の生成を減じるために有用であると考えられている。かくして、DPP-IV阻害剤は、DPP-IVによって媒介される状態、特に糖尿病、より具体的にはタイプII真性糖尿病、糖尿病性脂肪血症、損なわれた糖耐性(IGT)の状態、損なわれた絶食血漿糖(impaired fasting plasma glucose: IFG)状態、代謝性アシドーシス、ケトーシス、食欲調節および肥満症の予防、進行の遅延および/または治療用の有用な薬剤であると考えられる。」
「【0149】
4. DPP-IV阻害剤を含む組成物
本発明のDPP-IV阻害剤との組み合わせで、広範囲に及ぶ組成物および投与法が利用できる。このような組成物は、本発明のDPP-IV阻害剤に加えて、従来の製薬上の賦形剤、および他の公知の製薬的に不活性な薬剤を含むことができる。更に、該組成物は、本発明のDPP-IV阻害剤以外にも、活性薬剤を含むことができる。これら追加の活性薬剤は、本発明の追加の化合物および/または1種以上の他の薬理的に活性な薬剤を含むことができる。
この組成物は、気体、液体、半液体または固体状であり得、利用するその投与経路に適した方法で処方できる。経口投与のためには、典型的に、カプセル剤および錠剤が利用される。非-経口投与のためには、ここに記載される方法で調製した、凍結乾燥粉末の再溶解が、典型的に利用される。
本発明のDPP-IV阻害剤を含む組成物は、経口、腸管外(非-経口)、腹腔内、静脈内、動脈内、経皮、舌下、筋肉内、経直腸、経口腔、経鼻、経リポソーム、経吸入、経膣、眼内、局所放出(例えば、カテーテルまたはステントによる投与)、皮下、脂肪内、関節内、または胞膜内投与等の経路を介して、投与または同時投与することができる。本発明による化合物および/または組成物は、徐放型の投与剤形で投与または同時投与することも可能である。」
18 甲50
「【0001】
(技術分野)
本発明はシクロプロピル縮合ピロリジン骨格を有するジペプチジルペプチダーゼIV(DP-4)の阻害剤に関するものであり、糖尿病、特にタイプIIの糖尿病の治療方法に関するもので、高血糖、X症候群、糖尿病合併症、高インスリン血症、肥満症、アテローム性動脈硬化症、及び様々な免疫調節性の疾病及び慢性炎症性腸疾患と同様関連する疾病も同様に含まれる。そのようなシクロプロピル縮合ピロリジンは単独又は別の種類の抗糖尿病薬及び/又は他の種類の治療剤との組合わせで使用される。」
「【0122】
本発明の方法を実施するにあたり、薬学的な配合、すなわち、構造式Iの化合物を含み、他の抗糖尿病薬及び/又は他の種類の治療剤と共に又は含まずに、また薬学的な賦形剤や希釈剤と関連しつつ、用いられる。薬学的な配合は、通常の固形物又は液体の賦形剤又は希釈剤、及び目的の投与方法に適したタイプの薬学的な添加剤を用いて処方されることができる。これらの化合物は、ヒト、サル、イヌなどの哺乳類に経口で、例えば錠剤、カプセル、顆粒又は粉末で投与することができ、また注射製剤の形態で非経口で投与することができる。成人の用量は、好適には1日10~1000mgであり、単回で投与するか又は、1日1~4回の個々の用量の形態で投与することができる。」
19 甲51
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害薬(「DP-IV阻害薬」)である化合物に関し、当該化合物は、糖尿病、特にII型糖尿病などのジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与している疾患を治療又は予防するのに有効である。本発明は、さらに、前記化合物を含有する医薬組成物、並びに、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与している上記のような疾患の予防又は治療における前記化合物及び組成物の使用にも関する。」
「【0008】
ジペプチジルペプチダーゼ-IV (「DP-IV」又は「DPP-IV」)酵素の阻害薬である化合物も、糖尿病、特にII型糖尿病の治療において有効であり得る薬剤として研究段階にある。例えば、国際公開第97/40832号、国際公開第98/19998号、米国特許第5939560号、Bioorg. Med. Chem. Lett., 6(1 0), 1163-1166(1996)、及び、Bioorg. Med. Chem. Lett., 6(22), 2745-2748(1996)などを参照されたい。II型糖尿病の治療におけるDP-IV阻害薬の有用性は、DP-IVが生体内においてグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)及び胃抑制性ペプチド(GIP)を直ちに不活性化するという事実に基づいている。GLP-1及びGIPはインクレチンであり、食物が消費されたときに産生される。前記インクレチンはインスリンの産生を刺激する。DP-IVを阻害すると前記インクレチンの不活性化が低減され、その結果、膵臓によるインスリンの産生を刺激することにおける前記インクレチンの有効性が増大する。従って、DP-IVを阻害すると、血清インスリン濃度が上昇する結果となる。有利なことには、前記インクレチンは食物が消費されたときにのみ体内で産生されるので、DP-IVを阻害しても、食間などの不適切な時期にインスリンの濃度を上昇させることはないと期待される。食間などの不適切な時期におけるインスリン濃度の上昇は、過度の血糖低下(低血糖)を引き起こす可能性がある。従って、DP-IVを阻害すると、インスリン分泌促進薬の使用に伴う危険な副作用である低血糖のリスクを増大させることなくインスリンを増加させることが期待される。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素の阻害薬(「DP-IV阻害薬」)である化合物に関し、当該化合物は、糖尿病、特にII型糖尿病などのジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与している疾患を治療又は予防するのに有効である。本発明は、さらに、前記化合物を含有する医薬組成物、並びに、ジペプチジルペプチダーゼ-IV酵素が関与している上記のような疾患の予防又は治療における前記化合物及び組成物の使用にも関する。」
「【0076】
本発明化合物は、経口投与経路、非経口投与経路(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV若しくは槽内への注射若しくは注入、皮下注射、又はインプラント)、吸入噴霧、鼻内投与経路、膣内投与経路、直腸内投与経路、舌下投与経路又は局所投与経路によって投与することができ、各経路の投与に適した慣習的な非毒性の製薬上許容される担体、アジュバント及びビヒクルを含有する適切な投与単位製剤に単独で又は一緒に製剤することができる。本発明化合物は、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サルなどの温血動物の治療に加えて、ヒトに対して使用するのも有効である。」
20 甲59及び乙153
ア (1頁10~25行)
「第一章 序
臨床試験の目的は、治療薬の疾患又は症候に対する治療的ないし予防的効果や、さらにその使用に際しての危険性や副作用をヒトについて検討し、最終的には治療効果と副作用の相対的評価などに基づいて、臨床における有用性を評価することにある。また、臨床試験はヒトを被験者とすることから倫理的な配慮のもとに、科学的に適正な方法で行われなければならず、被験者の立場からは、期待し得る利益に比し、危険にさらされる可能性を最小にするような方法で行われなければならない。
これまでの経験から、臨床試験を倫理的、科学的に行うための具体的方法としては、常に被験者の人権保護に配慮しつつ、一定の原則のもとに段階的に行い、各段階で得られた結果を客観的、科学的に十分に評価しながら次の段階に進むという方式か最も優れていることが知られている。主として科学的な方法(論)の立場からは、第I相、第II相及び第III相という相を形成して段階的に進んでいくという考え方であり、本指針では主としてそのような科学的側面を中心に述べる。なお、初めて臨床試験に入るにあたっては、それに先立って行われる動物を用いた安全性試験等の非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品として有用性が期待できると判断された薬物についてのみ臨床試験の実施が考慮されるべきである。」
イ (1頁35行~2頁11行)
「第二章 総論
第一 段階的進め方
通常、臨床試験は第I相、第II相及び第III相と順に進めて行く。
1 第I相試験は、治験薬を初めてヒトに適用する試験で、原則として少数の健康男性志願者において、治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、あわせて吸収・排泄などの薬物動態学的検討を行ない、第II相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
なお第I相試験は、それに先立って行われる非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで、医薬品としての有用性が期待できると判断された薬物についてのみ、その実施が考慮されるべきである。健康志願者における試験に引き続いて患者で行われるごく早期の試験も、第I相試験の一部と見なす考え方もある。
2 第II相試験は、適切な疾病状態にある限られた数の患者において、治験薬の有効性と安全性とを検討し、適応疾患や、用法・用量の妥当性など、第III相試験に進むための情報を収集することを目的とする試験である。第II相試験は通常、前期と後期に分けられる。
前期第II相試験では、患者を対象に安全性、有効性及び薬物動態などについて瀬踏み的に検討する。後期第II相試験では、前期に引き続き治験薬の薬効プロフィール(適応範囲)を明らかにするための探索的検討を行うとともに、用量反応(設定)試験(必要な場合にはプラセボを含める。)を行い、最小有効量及び最大安全量の範囲を検討し、臨床至適用量幅を決定する。また、第II相試験の期間に剤形と処方を決めておく必要がある。なお、製剤の剤形と処方の変更にあたっては、薬物の生物学的利用性(bioavailability)等を検討して、変更前に得られた臨床試験成績を使用することの妥当性について十分に検討する必要がある。
3 第III相試験は、比較臨床試験及び一般臨床試験により、さらに多くの臨床試験成績を収集し、対象とする適応症に対する治験薬の有効性及び安全性を精密かつ客観的に明らかにし、治験薬の適応症に対する臨床上の有用性の評価と位置づけを行うことを目的とする試験である。」
ウ (7頁43行~8頁35行)
「第四章 非臨床試験の実施について
第一 毒性試験について
治験薬は、それぞれ化学構造、理化学的性質、薬理作用、体内動態や臨床試験で用いられる用法・用量、投与期間や対象疾患等が同一ではなく、臨床試験の各相に入る前の段階でどの程度の毒性試験が終了していなければならないかを一律に決めることは困難である。しかし、どのような場合であっても、実施された毒性試験の結果から、危険性、副作用の可能性などを十分に評価したうえで医薬品として有用性が期待できると判断された薬物についてのみ臨床試験が計画されるべきである。
…(略)…
第二 薬理学的検討について
一般に新医薬品開発における非臨床試験は、多数の化合物の薬理学的スクリーニングで選定された薬物についての詳細な薬理学的プロフィールの研究をもって始まり、その成績が得られたのち臨床試験に進むか否かが決定される。従って、第I相試験に入る段階では既にその大要が得られているはずであるので、試験各相における治験実施計画書の作成に十分利用できるように、その成績、結論のとりまとめにあたっては明確な質的・量的表現に努めることが必要である。すなわち、
1) 主薬効に対する薬理学的根拠(作用機序)
2) 用量―反応相関と反応持続時間
3) 臨床投与経路の妥当性
4) 系統的一般薬理作用(薬効との関係の有無にかかわらず、一次作用か二次作用かの性質を明らかにする。これらが臨床試験における潜在的副作用に対する注意、解釈に役立つことが少なくない。)
5) 薬理生化学、免疫薬理学的研究
などである。
諸種の実験動物において、これらの薬理学的成績に動物種差の存在することがよく知られており、数種の既存薬との比較研究で種差に関する特性を確認する。また薬物動態の研究などで薬理作用の種差が説明し得ることがある。」
エ (8頁36行~9頁21行)
「第五章 臨床試験の進め方
第一 GCPの遵守
医薬品の承認申請の際に提出すべき資料の収集のために行われる臨床試験の実施にあたっては、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)を遵守する。
第二 第I相試験
1 目的
第I相試験は、非臨床試験の成績に基づき医薬品としての開発が意図された場合ヒトへの適用を初めて検討する段階である。試験目的は、総論に述べられたように、健康志願者において、治験薬のヒトへの投与の安全性を確認し、安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、また薬物動態研究を行い、第II相試験計画に際し必要とされる検討資料を提供することである。実施にあたり被験者保護に関する倫理的配慮は特に重要であり、従って、実験的、科学的根拠に基づいた詳細な無駄のない試験計画の作成に留意し、また治験審査委員会の審査を受けることが必要である。治験薬の新規性にもよるが、単に画一的、慣習的な治験実施計画を安易に模倣することは避けるべきである。これらの詳細な調査、検討、審査記録は、第I相試験成績の検討、第II相以後の治験計画、及び承認申請時の資料として非常に有用である。
…(略)…
3) 用法・用量
非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」
オ (9頁32行~11頁32行)
「第三 第II相試験
第II相試験は、通常の場合、治験薬を初めて患者に使用し、患者に対する治験薬の安全性を確認すると共に、治験薬の患者における薬物動態を検討し、薬効のプロフィールを明らかにし、第III相試験における投与量の設定を行う相である。第II相試験は、通常、前期第II相試験と後期第II相試験の二つの段階に分けて進められる。…(略)…
〔I〕 前期第II相試験
1 目的
第I相試験の成績から、前期第II相試験に移行し得ると判断された治験薬を、初めて患者を対象として、瀬踏み的に次の事項について検討を行うことを目的とする。
1) 安全性と有効性
2) 薬物の体内における動態
3) 投与方法と投与期間
…(略)…
3 実施要領
…(略)…
3) 実施方法
原則として第I相試験により安全性が確認された用法・用量によって実施する。この場合、できる限り他薬剤の影響を避けるため、必要な場合には十分なウオッシュ・アウト期間をおくことが必要である。
投与期間は、治験薬の特性によって異なるが、あくまでも安全性を第一とし、なるべく短期間内に目的とする成績が得られるよう試験を計画し実施する。
観察、検査及び測定等は、予測される薬効、副作用、薬物動態について詳細に行うが、予測していなかった作用の発現についても十分に注意しなければならない。
試験終了後においても諸種の臨床検査等を行い、治験薬の影響がなくなるまでの期間、十分な観察が必要である。
なお、試験記録、試験終了後の追跡調査、記録の保管は、適切に行われるべきである。
4 前期第II相試験より後期第II相試験への移行
前期第II相試験で、治験薬を患者に使用することの安全性が確認され、基本的薬効及び用法・用量が推定され、治験薬に有用性があると判断された場合は、より多数の患者を対象とする後期第II相試験に移行することができる。
〔II〕 後期第II相試験
1 目的
後期第II相試験は、次の各項目を主な目的として行われる。
1) 有効性:治験薬の薬効プロフィールを明らかにし、適応対象を明らかにする。
2) 用法・用量:第III相試験の用法・用量及び至適用量幅を決定する。この際可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。
3) 患者の諸状況下における薬物動態を明らかにする。
4) より広い層の患者について有効性・安全性を確認する。
5) 効能・効果(適応症)に含まれることが予測され、第III相試験で比較試験の対象とならない適応疾患に対する有効性も確認する。また緩和な効果を期待する薬剤については、この時期に二重盲検比較試験によってプラセボより有効であることを確認することが望ましい。
6) 必要に応じて長期投与試験の計画を立案し、実施する。
7) その他、必要と思われる諸種の臨床的、臨床薬理学的資料はこの時期の間に整える。
…(略)…
3 実施要領
…(略)…
3) 実施方法
用法・用量は、第I相試験、前期第II相試験を経て明らかにされた当該治験薬の薬効と安全性が判断された範囲において実施する。用量設定試験においてはプラセボ又は最小有効量及び推定臨床最大用量が含まれることが望ましく、あわせて可能な限り二重盲検比較試験により行うことが望ましい。また、治験薬のみでなく、他剤との併用による医薬品相互作用についても検討しておく必要がある場合もある。
さらに治験薬の種類によっては、比較試験を実施することも考えられる。
なお、試験記録、試験終了後の追跡調査記録の保管は厳重に行われなければならない。
…(略)…
第四 第III相試験
1 目的
第II相試験で得られた治験薬の有効性と安全性の成績、用量設定試験の用量幅及び投与方法の成績をともに、臨床試験の対象をさらに拡大して、治験薬が実際に臨床使用されたときの効果、副作用を検討するために実施し、有効性と安全性の両面を勘案し承認申請における効能・効果(適応症)、用法・用量、使用上の注意を最終的に設定することを目的とする。
第III相試験では、比較対照試験と一般臨床試験とによって、以下のことを明らかにする。
1) 有効性と安全性及び有用性の確認
2) 適応疾患における用法・用量の確認
3) 副作用の確認と回復の状況
4) 併用される頻度の高い他剤との併用効果、医薬品相互作用
5) 治験薬の種類によっては、長期連用による副作用、特別な器官(例えば感覚器、神経系等)に及ぼす作用、連用による薬効の変化(例えば、耐薬性の出現など)、投与中止に伴い発現する症状など諸種の影響を検討する。」
21 甲60
ア (28頁21行~29頁4行)
「3.1.2 第I相単回投与試験
第I相試験では,単回投与試験により被験薬がはじめてヒトに投与される.低用量から投与を開始し,安全性を確認しながら順次増量して,単回投与における安全性と薬物動態が評価される.通常,食事の影響を避け,薬物動態のバラツキが小さく,嘔吐などの安全性上のリスクが少ない,空腹時投与が選択される.
a. 用量の設定
第I相単回投与試験の初回(最低)用量は,被験者の安全性を確保するために,できるだけ少量から開始すればよいが,初回用量が低すぎる場合には,被験者の浪費というデメリットも考えられる.よって,非臨床試験で得られた情報をもとに,適切な初回用量を設定する必要がある.初回用量を算定するための目安として,(1)単回投与毒性試験で最も感受性が高かった動物の50%致死量(LD50)の1/600以下、(2)反復投与毒性試験などで最も感受性の高かった動物の無毒性用量の1/60以下,(3)最も感受性の高い動物の50%有効量(ED50)の1/60以下,(4)推定臨床用量の1/10~1/20などのクライテリアが知られている4).また,米国食品医薬品局(FDA,Food and Drug Administration)のガイダンスでは,非臨床試験で使用した動物種における最大安全量をもとに,体表面積などを考慮した計算式によりヒト相当量に変換した上で,初回用量を設計するという考えが紹介されている5).このような基準を参考にして,非臨床試験の成績を十分に吟味した上で初回用量が設定され,順次増量して(非臨床試験や類薬の情報から推定された)臨床効果が十分期待される用量までの増量が計画される.」
22 甲61及び乙152
ア (1頁10~19行)
「I. はじめに
本ガイダンスは,成人健康ボランティアを対象とした新規分子化合物のヒト初回臨床試験における最大推奨開始用量(MRSD)を導き出すためのプロセス(アルゴリズム)と用語を概説し,MRSDを選択するための標準化されたプロセスを推奨するものである。このプロセスの目的は,ヒトボランティアの安全性を確保することである。
本ガイダンスの目的は以下のとおりである:(1)開始用量を検討するための一貫した用語を確立すること,(2)ヒト等価用量(HED)を算出するための共通の換算係数を提供すること,(3)予測される臨床用途にかかわらず,成人健康ボランティアのMRSDを選択するための手順を明確にすること。このプロセスは,動物データからMRSDを算出するために使用される判断と計算を示すフローチャートに示されている(Appendix E参照)。」
イ (4頁17~25行)
「次に,安全係数(safety factor)をHEDに適用して,ヒトの初回用量が副作用を起こさないことの保証を高める必要がある。安全係数の使用は,ヒトが動物モデルから予測されるよりも治療薬の毒性作用に対してより敏感である可能性,バイオアベイラビリティが種によって異なる可能性,及び,試験したモデルがヒトに起こり得る全ての毒性を評価していない可能性に基づくべきである。例えば,ヒトにおける眼の障害や痛み(例えば,重度の頭痛)は,動物実験では検出されない重大な用量制限毒性になる可能性がある。
一般に,少なくとも10の安全係数の使用を検討すべきである。MRSDは,HEDを安全係数で除算して算出すべきである。」
ウ (5頁3~12行)
「IV. ステップ1:無毒性量(NOAEL)の決定
MRSDを決定する最初のステップは,各試験でNOAELを決定できるよう,入手可能な動物データを検討・評価することである。NOAELにはいくつかの定義があるが,開始用量の選択には,対照群と比較して有害事象が有意に増加しない最高用量レベルを用いる。この観点から,生物学的に有意な有害事象(たとえ統計学的に有意でなくても)は,NOAELの決定において考慮されるべきである。NOAELは,適切な動物実験から得られた場合,一般に受け入れられている安全性の基準であり,健康な(又は無症状の)ヒトボランティアにおける新しい治療法の合理的に安全な開始用量を決定する出発点として役立つ。」
エ (6頁4行~7頁4行、表1)
「V. ステップ2:ヒト等価用量計算
A. 体表面積に基づく換算
関連する動物試験でNOAELが決定された後,それをHEDに換算する。動物用量をヒト等価用量に外挿するための最も適切な方法について決定する必要がある。MTD(最大耐用量)のような動物に全身投与された治療薬の毒性エンドポイントは,通常,投与量を体表面積(すなわち,mg/ m2)で正規化した場合,種間でうまく調整されると仮定されている(EPA 1992; Lowe and Davis 1998)。この仮定の根拠は,主にFreireichら(1966)とScheinら(1970)の研究にある。この研究者らは,抗悪性腫瘍薬について,投与量を同じ投与スケジュールで正規化し,mg/m2で表した場合,げっ歯類の10%に致死する用量(LD10)と非げっ歯類におけるMTDが,ともにヒトのMTDと相関することを報告した。その後,この一連の薬剤のMTDは,投与量をW0.67(体表面積正規化特有のもの)ではなくW0.75に正規化した場合に,動物種間で最も良好にスケールすることが解析で示されたにもかかわらず(Travis and White 1988; Watanabe et al. 1992),体表面積正規化は,動物の投与量に基づいてHEDを推定するための広範な慣行として残っている。
動物用量をHEDに換算する際のアロメトリック指数が及ぼす影響の分析が行われた(Appendix A参照)。この分析に基づき,また,体表面積を補正することで,より慎重な開始用量推定値が得られ,臨床試験の安全性が高まるという事実に基づき,健康成人ボランティアを対象とした初期試験の開始用量を選択する際には,体表面積補正係数(すなわち,W0.67)に基づいてNOAEL用量をHEDに換算するアプローチを維持すべきであるとの結論に達した。しかし,状況によっては,ヒトの投与量をmg/kg単位でNOAELと直接同等とするなど,別の用量正規化方法を用いることが適切な場合もある。動物用量をHEDに換算する場合,体表面積法からの逸脱はその妥当性を示すべきである。mg/kgの直接換算を妥当とする根拠と,他の正規化方法が適切な例については,以下の小節で述べる。
体表面積による正規化は,生物種間の線量を外挿するための適切な方法であるが,mg/kgからmg/m2へ線量を換算するための統一された係数は必ずしも使用されていない。体表面積による正規化がHEDを推定するための合理的な方法であることを考えると,各生物種の用量を換算するための係数は標準化されるべきである。体表面積はW0.67によって変化するため,換算係数は試験動物の体重に依存する。しかし,体重が実際のBSA-CFに及ぼす影響に対処するために行われた分析では,標準的な係数を用いれば,ヒトと動物の体重の広い範囲にわたってHEDの妥当な推定値が得られることが示された(Appendix B参照)。従って,表1に示す換算係数と除数を,NOAELの種間用量換算に用いる標準的な係数として推奨する。(これらの係数は,比較のための他のデータ(すなわち,AUC)が入手できないか,比較に不適切な場合に,他の毒性エンドポイント(例えば,生殖毒性や発がん性)の安全域を比較する場合にも適用できる)。
[図:0001433465000027.jpg]
a 体重60kgの人間を想定。リストにない種または標準範囲外の体重の場合,HEDは以下の式から算出できる:
HED=動物用量(mg/kg)×(動物体重(kg)/ヒト体重(kg))0.33。
b 健康な小児が第1相試験のボランティアになることはまれであるため,このkm値は参考としてのみ提供する。
c 例えば,カニクイザル,アカゲザル,ベニガオザル。」
オ (9頁6~12行)
「VI. ステップ3:最適な生物種の選択
ヒトでの臨床試験に関連するすべての毒性試験のNOAELからHEDを決定した後,次のステップではMRSDを導くためのHEDを1つ選択する。このHEDは最も適切な生物種から選ぶべきである。生物種の関連性に関するデータがない場合,基本的な考え方として,成人健常人を対象とした試験のMRSDを導出するために最も適切な生物種は,最も感受性の高い生物種(すなわち,最も低いHEDを同定できる生物種)である。」
カ (9頁下から4行目~10頁18行)
「VII. ステップ4:安全係数の適用
最も適切な生物種におけるNOAELのHEDが決定されたら,最初の臨床用量を受けるヒト被験者を保護するための安全域を提供するために,安全係数を適用すべきである。この安全係数は,動物毒性試験からヒトにおける試験への外挿において,(1)動物に比べてヒトの薬理活性に対する感度が高いことによる不確実性,(2)動物における特定の毒性(例えば,頭痛,筋肉痛,精神障害)の検出が困難であること,(3)受容体密度または親和性の違い,(4)予期しない毒性,(5)治療薬のADMEにおける種間の違い,から生じる変動を許容するものである。これらの差異は,選択された生物種のNOAELのHEDからヒトの開始用量を下げることで対応できる。
実際には,臨床試験のMRSDは動物NOAELから得られたHEDを安全係数で割って決定されるべきである。通常使用されるべきデフォルトの安全係数は10である。これは歴史的に認められている値であるが,以下に述べるように,入手可能な情報に基づいて評価すべきである。
安全係数10は,すべての場合に適切とは限らない。安全係数は,懸念が増大する理由がある場合には上げるべきであり,利用可能なデータによって安全性がさらに保証され,懸念が減少した場合には下げるべきである。これは,健康なボランティアへの危害の懸念を緩和する知見と,より大きな懸念が正当化されることを示唆する知見とのバランスをとる,スライディングスケールとして可視化することができる。どの程度増減するかは,入手可能な情報を用いて判断することが大部分である。安全係数が既定値の10と異なる場合,特に10未満の場合は,適用した安全係数の根拠を明確に説明することが評価者の責務である。」
キ (12頁22~30行)
「IX. まとめ
成人健康ボランティアを対象とした新規治療薬の臨床試験において,最大推奨開始用量を決定するための戦略が提案されている。要約すると,通常,関連する動物実験から得られたNOAELは,表1に示された標準的な係数を用いてHEDに変換されるべきである。健全な科学的判断に基づき,最も適切な動物種のHEDに安全係数を適用してMRSDを算出する。このプロセスは,推奨される開始用量の上限を定義するものであり,一般的には,より低い開始用量が適切な場合もある。本ガイダンスに記載されているプロセスは,治験依頼者と審査担当者間の一貫性を促進するものである。」
ク (15頁7行~下から2行目)
「ヒト等価用量(HED):動物において所定用量で観察される効果と同程度の効果を与えることが予測されるヒト用量。本ガイダンスでは、企業(sponsors)からの多くのコミュニケーションと同様、用語HEDを、通常、NOAELのヒト等価用量を指すために使用する。NOAEL以外の用量のヒト等価量(PADなど)に言及する場合、企業は、その使用法を明確かつ目立つように記載する必要がある。
…(略)…
最大推奨開始用量(MRSD):臨床試験で初回用量として推奨される最高用量。成人健康ボランティアの臨床試験において、MRSDは副作用を引き起こさないと予測される。用量の単位(例:mg/kg又はmg/m2)は、調査対象領域で採用されているプラクティスに応じて異なる場合がある。
…(略)…
無有害作用量(NOAEL):対照群と比較して有害作用の有意な増加を生じない、動物種で試験された最高用量。統計的に有意でなくても、生物学的に有意な有害作用は、NOAELを決定する際に考慮する必要がある。
…(略)…
安全係数(SF) :HEDと最大推奨開始用量との間に安全域を導入するために、HEDを除算する数値。」
ケ (27頁)
「
[図:0001433465000028.jpg]
」
23 乙167
ア (14頁16行~最終行、表II-3)
「a. 第1相試験
動物実験における有効性・安全性が確認され,ヒトにおける有用性が期待されると,次はヒトを対象とした臨床試験に入る.第1相試験は抗癌薬などの毒性の強い一部の薬物を除きすべて健常成人男子を対象にして行われる.第1相試験の目的は,薬物の安全性の確認と薬物動態を明らかにすることである.
初めてヒトに新薬を投与するのであるから被験者の安全を考慮して薬理作用が期待されない少量から徐々に増量する方法をとる.このためには無作用量と考えられる最高用量から開始することを原則とする.この用量を予測する基準を表II-3に示した.(1)急性毒性試験における50%致死量(LD50)の1/600以下,あるいは(2)反復投与量毒性試験における最大耐用量の1/60以下の用量,が一般に採用されている.…(略)…
[図:0001433465000029.jpg]
」
24 甲90
ア (20~21頁 「アルファー化デンプン」の項)
「
[図:0001433465000030.jpg]
[図:0001433465000031.jpg]
」
イ (110頁「コポリビドン」の項)
「
[図:0001433465000032.jpg]
…(略)…
[図:0001433465000033.jpg]
」
ウ (122頁「酸化チタン」の項)
「
[図:0001433465000034.jpg]
…(略)…
[図:0001433465000035.jpg]
」
エ (124頁「三二酸化鉄」の項)
「
[図:0001433465000036.jpg]
[図:0001433465000037.jpg]
」
オ (155頁「ステアリン酸マグネシウムの項」)
「
[図:0001433465000038.jpg]
[図:0001433465000039.jpg]
」
カ (172~173頁「タルク」の項)
「
[図:0001433465000040.jpg]
[図:0001433465000041.jpg]
[図:0001433465000042.jpg]
」
キ (189頁「トウモロコシデンプン」の項)
「
[図:0001433465000043.jpg]
…(略)…
[図:0001433465000044.jpg]
」
ク (223~224頁「ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208」の項)
「
[図:0001433465000045.jpg]
[図:0001433465000046.jpg]
[図:0001433465000047.jpg]
」
ケ (276頁「マクロゴール300」の項)
「
[図:0001433465000048.jpg]
[図:0001433465000049.jpg]
」
コ (283頁「D-マンニトール」の項)
「
[図:0001433465000050.jpg]
…(略)…
[図:0001433465000051.jpg]
」
第7 当審の判断
当審は、本件発明1~15についての特許は無効理由1によって無効とすべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである(なお、下線は当審が付したものがある。また、以下の2以降において、用量の数字・単位、化合物名の数字の表記は半角で統一した。)。
1 本件明細書に記載された事項
(1) 本件明細書には、次のとおりの記載がある。
【発明の詳細な説明】
…(略)…
【0002】
名称CD26でも知られる酵素DPP-IVは、タンパク質のジペプチドのN末端でプロリン又はアラニングループの開裂を促進するセリンプロテアーゼである。これによりDPP-IVインヒビターは、ペプチドGLP-1を含んだ生物活性ペプチドの血漿レベルに影響し、糖尿病の治療を大いに促進する分子である。
…(略)…
【0003】
タイプ2の糖尿病は、自己免疫性疾患としては分類されず、血漿1dl当たり125mgのグルコースを超える空腹時血糖レベルで現れる;血液グルコース値の測定は、通常の医療解析における標準的な方法である。空腹時血糖レベルが血漿1dl当たり99mgグルコースの最大通常レベルを超えるが、糖尿病に関係する血漿1dl当たり125mgのグルコースの閾値を超えない場合、前糖尿病が疑われる。これは病的な空腹時グルコース(障害のある空腹時グルコース)とも言われる。前糖尿病の他の兆候は、耐糖能の障害、即ち経口の耐糖能試験に従って空の胃袋に75mgのグルコースを摂取した後2時間の血漿1dl当たり140-199mgのグルコースの血糖レベルである。
…(略)…
【0004】
糖尿病の治療の観察において、HbA1c値、ヘモグロビンB鎖の非酵素的なグリケーション(glycation)の生成物は非常に重要なものである。その構造は実質的に血糖レベルと赤血球の寿命に依存するため、“血糖値の記憶(blood sugar memory)”と言う意味のHbA1cは4-12週間前の平均血糖レベルを反映する。そのHbA1cレベルが長期間に亘りより集中的な糖尿病治療によって良好に制御された(即ち6.5より低い試料中の合計ヘモグロビン)糖尿病の患者は、糖尿病性の細小血管障害から顕著により良好に守られる。
インシュリン抵抗性が検出できる場合、これは前糖尿病の複合的な代謝疾患の存在の特に顕著な兆候である。従って、グルコース恒常性を維持するために、ある人は他の人の2-3倍のインシュリンを必要とするかもしれない。
…(略)…
【0005】
少し簡単にするために、これらが以下の特性の少なくとも2つを有する場合、実際に人はインシュリン抵抗性であると推測される:
1)太りすぎ又は肥満
2)高血圧
3)異常脂質血症(血液中の合計脂質の異常な含有量)
4)異常な耐糖能又はタイプ2の糖尿病であると診断された者の少なくとも一人の近親血縁者。
太りすぎはこの場合、肥満度指数(BMI)が25から30kg/m2であることを意味し、BMIは体重(kg)と身長(m)の2乗の商である。顕性肥満において、BMIは30 kg/m2以上である。
インシュリン抵抗性の上記定義から、特に高血圧が患者に見出される場合、血圧降下剤がその治療に対して適切かつ望ましいことがすぐにわかる。
…(略)…
【0009】
糖尿病患者がHDLコレステロールの減少を伴うか又は伴わずに、合計コレステロールの増加、又はより典型的には糖尿病性高脂血症において、血漿トリグリセリドの増加に苦しめられる場合に、用語糖尿病性高脂血症が使用される。
合計コレステロールは上昇しないが、HDLコレステロールとLDLコレステロールの分布が変わる、即ち患者のHDLコレステロールレベルが過度に低い(例えば女性の<55mg/dl、及び男性の<45mg/dl)場合に、用語糖尿病性異常脂質血症が使用される。
患者の症状か又は客観的所見が、心臓が必要な放出拍出量(ejection out put)を達成できなくなる事を示す場合、用語心不全が使用される。自覚症状は、例えばストレス下で又は休息時での呼吸困難であろう。客観的所見は、超音波による心臓の減少した放出拍出量(減少した放出容積)、X線による肺の鬱血、及び/又は歩ける距離の減少を含む。
いくつかの選択したDDP IVインヒビターは、特に前糖尿病、耐糖能障害(障害のある耐糖能)、病的な空腹時グルコース(障害のある空腹時グルコース)、糖尿病性足病変、糖尿病が誘発する潰瘍、糖尿病性高脂血症、糖尿病性異常脂質血症、新たに診断されたタイプ1の糖尿病(膵臓からのインシュリンの残りの分泌を維持するための)、妊娠性糖尿病(妊娠性糖尿病)、高血糖症、アドレナリン作動性の食後の症状(反応性低血糖症)又は心不全から選択される医学的又は生理学的な機能障害であると診断された患者の治療上の処置のための薬物の調製に特に適している。
…(略)…
【0013】
最終的には、上記インヒビターは、種々の形態の関節炎の治療の適切であるが、特には関節リューマチの治療に適している。
本発明の選択されたDPP IVインヒビターは、以下の式(I)又は式(II)により記載できる
【化1】
[図:0001433465000052.jpg]
【化2】
[図:0001433465000053.jpg]
(式中、R1は([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル、(キナゾリン-2-イル)メチル、(キノキサリン-6-イル)メチル、(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル、2-シアノ-ベンジル、(3-シアノ-キノリン-2-イル)メチル、(3-シアノ-ピリジン-2-イル)メチル、(4-メチル-ピリミジン-2-イル)メチル又は(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)メチルを意味し、及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル、(2-アミノ-2-メチル-プロピル)-メチルアミノ又は(2-(S)-アミノ-プロピル)-メチルアミノを意味する)。
【0014】
特に好ましいDPP IVインヒビターは、以下の化合物及びこれらの治療的に活性な塩である:・1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)キサンチン(cf. WO 2004/018468, Example 2(142))
【化5】
[図:0001433465000054.jpg]
・1-[([1,5]ナフチリジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(cf. WO 2004/018468, Example 2(252))
【化6】
[図:0001433465000055.jpg]
・1-[(キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2004/018468, Example 2(80))
【化7】
[図:0001433465000056.jpg]
・2-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-3-(ブタ-2-イニル)-5-(4-メチル-キナゾリン-2-イルメチル)-3.5-ジヒドロ-イミダゾ[4,5-d]ピリダジン-4-オン(cf. WO 2004/050658, Example 136)
【化8】
[図:0001433465000057.jpg]
【0015】
・1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-[(2-アミノ-2-メチル-プロピル)-メチルアミノ]-キサンチン(cf. WO 2006/029769, Example 2(1))
【化9】
[図:0001433465000058.jpg]
・1-[(3-シアノ-キノリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2005/085246, Example 1(30))
【化10】
[図:0001433465000059.jpg]
・1-(2-シアノ-ベンジル)-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(cf. WO 2005/085246, Example 1(39))
【化11】
[図:0001433465000060.jpg]
【0016】
・1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-[(S)-(2-アミノ-プロピル)-メチルアミノ]-キサンチン (cf. WO 2006/029769, Example 2(4))
【化12】
[図:0001433465000061.jpg]
・1-[(3-シアノ-ピリジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2005/085246, Example 1(52))
【化13】
[図:0001433465000062.jpg]
・1-[(4-メチル-ピリミジン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2005/085246, Example 1(81))
【化14】
[図:0001433465000063.jpg]
【0017】
・1-[(4,6-ジメチル-ピリミジン-2-イル)-メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2005/085246, Example 1(82))
【化15】
[図:0001433465000064.jpg]
・1-[(キノキサリン-6-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-((R)-3-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン (cf. WO 2005/085246, Example 1(83))
【化16】
[図:0001433465000065.jpg]
【0018】
これらのDDP IVインヒビターは構造的に類似するDPP IVインヒビターから区別され、それはこれらが好ましい薬理学的な特性、レセプター選択性及び好ましい副作用特性と優秀な効能及び長く持続する効果を組み合わせ、又は他の医薬活性物質と組み合わせた場合に予想外の治療の利点又は改良をもたらすためである。これらの調製は記載した公報に開示されている。
異なる代謝機能障害は多くの場合同時に発生するため、多くの異なる活性原理の組み合わせがかなり頻繁に現れる。従って、診断された機能障害によって、DPP IVインヒビターを他の高糖尿病物質から選択した活性物質、特に血液中の血糖レベル又は脂質レベルを低下させ、血液中のHDLレベルを上げ、血圧を下げ又はアテローム性動脈硬化又は肥満の治療で指示される活性物質と組み合わせた場合、改良した治療の結果が得られるであろう。
【0019】
DPP IVインヒビターの要求される投与量は、静脈投与される場合は0.1mgから10mg、好ましくは0.25mgから5mgであり、経口投与される場合は0.5mgから100mg、好ましくは2.5mgから50mgであり、各場合において一日1~4回投与される。この目的のため、化合物、任意で他の活性物質と組み合わせても良い化合物は、1以上の不活性な通常のキャリアー及び/又は希釈剤、例えばトウモロコシデンプン、ラクトース、グルコース、微結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、クエン酸、酒石酸、水、水/エタノール、水/グリセロール、水/ソルビトール、水/ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、セチルステアリルアルコール、カルボキシメチルセルロース又は脂肪物質、例えば固い脂肪又はこれらの適切な混合物と合わせて処方して、従来のガレヌス製剤、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル、粉末、懸濁液又は坐剤を形成しても良い。
従って、本発明のDPP IVインヒビターは、先行技術に記載されたような許容された製剤賦形剤を用いて当業者により処方される。このような賦形剤の例は、希釈剤、結合剤、キャリアー、フィラー、滑剤、流動剤(flow agent)、血漿抑制剤、錠剤分解物質、可溶化剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤及び乳化剤である。
【0020】
適切な希釈剤の例は、セルロースパウダー、リン酸水素カルシウム、エリスリトール、(置換度の低い)ヒドロキシプロピルセルロース、マンニトール、α化したデンプン又はキシリトールを含む。
適切な結合剤の例は、ビニルピロリドンと他のビニル誘導体のコポリマー(コポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロール(HPC)、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、α化したデンプン又は置換度の低いヒドロキシプロピルセルロースを含む。
適切な滑剤の例は、タルク、ポリエチレングリコール、カルシウムベヘネート、ステアリン酸カルシウム、水素添加したキャスターオイル又はステアリン酸マグネシウムを含む。
適切な錠剤崩壊物質の例は、トウモロコシデンプン又はクロスポビドン(crospovidone)を含む。
…(略)…
【0022】
上記のDDP IVインヒビターは、他の活性物質と合わせて使用してもよく、それにより改良した治療効果を得ることができる。このような組み合わせた治療は、物質の遊離した組み合わせとして、又は固定された組み合わせ、例えば錠剤又はカプセルの形態で得ても良い。これに対して必要とされる組み合わせパートナーの医薬品は、医薬組成物として市場から得るか、又は通常の方法を用いて当業者が処方しても良い。医薬組成物として市場で得られる活性物質は、先行技術の多くの箇所、例えば年一回発行される医薬工業の連邦組織の“Rote Liste”の医薬品リスト、又は“Physician's Desk Reference”として知られる処方薬における製造者の情報の年一回更新される編集物中に記載される。
【0023】
抗糖尿病の組み合わせパートナーの例は、メトホルミン;スルホニルウレア、例えばグリベンクラミド、トルブタミド、グリメピリド、グリピジド、グリキドン、グリボルヌリド(glibornuride)及びグリクラジド;ナテグリニド;レパグリニド;チアゾリジンジオン、例えばロシグリタゾン及びピオグリタゾン;PPARγモジュレーター、例えばメタグリダーゼ;PPAR-γアゴニスト、例えばGI262570;PPAR-γアンタゴニスト;PPAR-γ/αモジュレーター、例えばテサグリタザル、ムラグリタザル及びKRP297;PPAR-γ/α/デルタモジュレーター;AMPK-アクティベーター、例えばAICAR;アセチル-CoAカルボキシラーゼ(ACC1及びACC2)インヒビター;ジアシルグリセロール-アセチルトランスフェラーゼ(DGAT)インヒビター;パンクレアチックβ細胞GFRPアゴニスト、例えばSMT3-レセプター-アゴニスト及びGPR119;11β-HSD-インヒビター;FGF19アゴニスト又は類似体;α-グルコシダーゼブロッカー、例えばアカルボーズ、ボグリボーズ及びミグリトール;α2-アンタゴニスト;インシュリン及びインシュリン類似体、例えばヒトインシュリン、インシュリンリスプロ、インシュリングルシリン、r-DNA-インシュリンアスパルト、NPHインシュリン、インシュリンデテミール、インシュリンジンク懸濁液及びインシュリンゲラルギン;胃抑制ペプチド(GIP);プラムリンチド;アミリン又はGLP-1及びGLP-1類似体、例えばエキセンジン-4;SGLT2-インヒビター、例えばKGT-1251;タンパクチロシン-ホスファターゼのインヒビター;グルコース-6-ホスファターゼのインヒビター;フルクトース-1,6-ビスホスファターゼモジュレーター;グリコーゲンホスホリラーゼモジュレーター;グルカゴンレセプターアンタゴニスト;ホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ(phosphoenolpyruvatecarboxynase)(PEPCK)インヒビター;ピルベートデヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)インヒビター;チロシン-キナーゼのインヒビター(50mgから600mg)、例えばPDGF-レセプター-キナーゼ(cf. EP-A-564409, WO 98/35958, US 5093330, WO 2004/005281及びWO 2006/041976);グルコキナーゼ/調整タンパクモジュレーターを含むグルコキナーゼアクティベーター;グリコーゲン合成キナーゼインヒビター;SH2-ドメインを含むイノシトール5-ホスファターゼタイプ2(SHIP2)のインヒビター;IKKインヒビター、例えば高投与量サリシレート;JNK1インヒビター;タンパクキナーゼC-セタインヒビター;β3-アゴニスト、例えばリトベグロン、YM178、ソラベグロン、タリベグロン、N-5984、GRC-1087、ラファベグロン、FMP825;アルドースレダクターゼインヒビター、例えばAS3201、ゼナレスタット、フィダレスタット、エパルレスタット、ラニレスタット、NZ-314、CP-744809及びCT-112;SGLT-1又はSGLT-2インヒビター;KV1.3チャンネルインヒビター;GPR40モジュレーター;SCD-1インヒビター;CCR-2アンタゴニスト;及び他のDPP IVインヒビターである。
…(略)…
【0032】
抗糖尿病薬の組み合わせパートナーの特に好ましい例は、約100mg~500mg、又は200mg~850mg(1日1~3回)、又は1日1回又は2回の約300mg~1000mgの投与量におけるメトホルミン、又は1日1回又は2回の約100mg~1000mg若しくは好ましくは500mg~1000mg、又は1日1回の約500mg~2000mgの投与量における遅延放出のメトホルミンである。他の特に好ましい例は、1日1回の約1-10mg、15mg、30mg又は45mgの投与量におけるピオグリタゾンである。他の特に好ましい例は、1日1~3回の約10mg~50mg又は100mg以下の投与量におけるミグリトールである。
血液中の脂質レベルを低くする組み合わせパートナーの例は、HMG-CoA-レダクターゼインヒビター、例えばシムバスチン、アトルバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン及びロスバスタチン;フィブラート、例えばベザフィブラート、フェノフィブラート、クロフィブラート、ジェムフィブロジル、エトフィブラート及びエトフィリンクロフィブラート;ニコチン酸及びその誘導体、例えばアシピモックス;PPAR-αアゴニスト;PPAR-デルタアゴニスト;アシル-コエンザイムAのインヒビター;コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACAT;EC2.3.1.26)、例えばアバシミベ(avasimibe);コレステロール再吸収インヒビター、例えばエゼチミブ;胆汁酸に結合する物質、例えばコレスチラミン、コレスチポール及びコレセベラム;胆汁酸輸送体のインヒビター;HDLモジュレーティング活性物質、例えばD4F、リバースD4F、LXRモジュレーティング活性物質及びFXRモジュレーティング活性物質;CETPインヒビター、例えばトルセトラピブ、JTT-705又はWO2007/005572の化合物12;LDLレセプターモジュレーター;及びApoB100アンチセンスRNAである。特に好ましい例は、1日1回の約1mgから40mg、又は10mgから80mgの投与量におけるアトルバスタチンである。
【0033】
血圧を低くする組み合わせパートナーの例は、βブロッカー、例えばアテノロール、ビスプロロール、セリプロロール、メトプロロール及びカルベジロール;利尿薬、例えばヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、キシパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリド及びトリアムテレン;カルシウムチャンネルブロッカー、例えばアムロジピン、ニフェジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、ニカルジピン、フェロジピン、ラシジピン、レルカニピジン(lercanipidine)、マニジピン、イスラジピン、ニルバジピン、ベラパミル、ガロパミル及びジルチアゼム;ACEインヒビター、例えばラミプリル、リシノプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、フォシノプリル及びトランドラプリル;加えてアンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン及びエプロサルタンである。特に好ましい例は、1日当たり50mgから200mgの投与量におけるメトプロロール、1日当たり2.5mgから10mgの投与量におけるアムロジピン、1日当たり2.5mgから15mgの投与量におけるラミプリル、1日当たり80から160mgの投与量におけるバルサルタン、及び1日当たり20mgから320mg又は40mgから160mgの投与量におけるテルミサルタンである。
【0034】
血液中のHDLレベルを増加する組み合わせパートナーの例は、コレステリルエステル輸送タンパク(CETP)インヒビター;内皮リパーゼのインヒビター;ABC1のレギュレーター;LXRαアンタゴニスト;LXRβアゴニスト;PPAR-デルタアゴニスト;LXRα/βレギュレーター;及びアポリポプロテインA-Iの発現及び/又は血漿濃度を増加させる物質である。 肥満の治療のための組み合わせパートナーの例は、シブトラミン;テトラヒドロリプスタチン(オルリスタット);アリザイム;デクスフェンフルラミン;アキソキン;カンナビノイドレセプター1アンタゴニスト、例えばCB1アンタゴニストリモノバント;MCH-1レセプターアンタゴニスト;MC4レセプターアゴニスト;NPY5加えてNPY2アンタゴニスト;β3-ARアゴニスト、例えばSB-418790及びAD-9677;5HT2cレセプターアゴニスト例えばAPD356;ミオスタチンインヒビター;Acrp30及びアジポネクチン;ステロイルCoAデサチュラーゼ(SCD1)インヒビター;脂肪酸シンターゼ(FAS)インヒビター;CCKレセプターアゴニスト;グレリンレセプターモジュレーター;Pyy3-36;オレキシンレセプターアンタゴニスト;及びテソフェンシンである。
【0035】
アテローム性動脈硬化を治療するための組み合わせパートナーの例は、ホスホリパーゼA2インヒビター;チロシンキナーゼのインヒビター(50mgから600mg)例えばPDGF-レセプター-キナーゼ(cf. EP-A-564409, WO 98/35958, US 5093330, WO 2004/005281, 及びWO 2006/041976);oxLDL抗体及びoxLDLワクチン;apoA-1ミラノ;ASA;及びVCAM-1インヒビターである。
心不全の治療のための組み合わせパートナーの例は、βブロッカー、例えばアテノロール、ビソプロロール、セリプロロール及びメトプロロール;利尿薬、例えばヒドロクロロチアジド、クロルタリドン、キシパミド、フロセミド、ピレタニド、トラセミド、スピロノラクトン、エプレレノン、アミロリド及びトリアムテレン;ACEインヒビター、例えばラミプリル、リシノプリル、シラザプリル、キナプリル、カプトプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、ペリンドプリル、フォシノプリル及びトランドラプリル;加えてアンジオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン及びエプロサルタン;心臓グリコシド、例えばジゴキシン及びジギトキシン;組み合わせたα/βブロッカー、例えばカルベジロール;B-タイプナトリウム利尿ペプチド(BNP)及びBNP誘導ペプチド及びBNP-融合生成物である。特に好ましい例は、1日当たり50mgから200mgの投与量におけるメトプロロール、1日当たり2.5mgから15mgの投与量におけるラミプリル、1日当たり80から160mgの投与量におけるバルサルタン、1日当たり20mgから320mg又は40mgから160mgの投与量におけるテルミサルタン、25-100mgの投与量におけるエプレレロン、1日当たり0.25mgから0.6mgの投与量におけるジゴキシン、3.25から100mgの投与量におけるカルベジロール、ボーラスとして2μg/kgとそれに続く0.01μg/kg/minの投与量におけるBNP(例えばネシリチド)である。
…(略)…
【実施例1】
【0038】
実施例1:前糖尿病の治療
病的な空腹時グルコース及び/又は障害のある耐糖能により特徴付けられる前糖尿病の治療における、本発明のDDP IVインヒビターの効果は、臨床試験を用いて試験できる。短期間(例えば2-4週間)の試験において、治療の成功は、空腹時グルコース値及び/又は試験のための治療の最後の期間の後の食事後のグルコース値又は負荷試験(経口耐糖能値又は定義した食事後の食物負荷試験(food tolerance test))後のグルコース値を決定し、次いでこれらの値と試験開始前の値及び/又はプラセボ群の値とを比較することにより試験される。更に、フルクトサミン値を治療前後で決定し、初期値及び/又はプラセボ群と比較することができる。空腹時又は空腹ではない場合のグルコースレベルにおける顕著な低下は、治療の効果を実証する。長期間(12週間以上)の試験において、治療の成功は、HbA1c値の決定、初期値及び/又はプラセボ群の値と比較することにより試験される。初期値及び/又はプラセボ値と比較したHbA1c値の顕著な変化は、前糖尿病の治療に対するDPP IVインヒビターの効果を実証する。
【実施例2】
【0039】
実施例2:顕性タイプ2糖尿病の予防
病的な空腹時グルコース及び/又は障害のある耐糖能(前糖尿病)に罹患した患者の治療は、顕性タイプ2糖尿病への移行を予防することのゴールを求めることでもある。治療の効果は、活性物質か又は活性物質の組み合わせを用いるか、又はプラセボを用いるか、又は医薬品を用いない又は他の薬物を用いた治療を用いて前糖尿病患者を長期(例えば1-5年)に亘り治療する、比較臨床試験で調査できる。治療の間及び治療の末期において、空腹時のグルコースを決定すること及び/又は負荷試験(例えばoGTT)により、チェックは、どの程度の数の患者が顕性タイプ2糖尿病を示すか、即ち125mg/dlの空腹時グルコースレベル及び/又は199mg/dlのoGTTに従った2時間の値を示すことを決定することで行われる。治療の他の形態の1つと比較して、活性物質又は活性物質の組み合わせを用いて治療した場合に、顕性タイプ2糖尿病を示す患者の数の顕著な減少は、前糖尿病の明らかな糖尿病への移行の防止における、活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を実証する。
【実施例3】
【0040】
実施例3:タイプ2糖尿病の治療
グルコース代謝状況(glucose metabolic situation)における急速な改善の発生に加えて、本発明の活性物質を用いたタイプ2糖尿病に罹患した患者の治療は長期間の代謝状況における悪化を防ぐ。これは、長期間、例えば1-6年の間本発明の活性物質又は本発明の活性物質の組み合わせで患者を治療し、次いで他の抗糖尿病薬で治療した患者と比較することで観察できる。空腹時グルコース及び/又はHbA1c値における増加が無いか又はほんのわずかに増加したことが観察される場合、他の抗糖尿病薬で治療した患者と比較して治療が成功したことの証拠が存在する。他の薬物で治療された患者と比較して、本発明の活性物質又は本発明の活性物質の組み合わせで治療された患者の顕著により少ないパーセンテージが、グルコース代謝ポジション(glucose metabolic position)における、付加的な経口の抗糖尿病薬を用いて、又はインシュリンを用いて、又はインシュリン類似体を用いて、又は他の抗糖尿病薬(例えばGLP-1類似体)を用いた治療が指示されるポイントへの悪化(例えばHbA1c値を6.5%又は7%まで増加させること)に耐える場合に、治療の成功のさらなる証拠が得られる。
【実施例4】
【0041】
実施例4:インシュリン抵抗性の治療
異なった期間(例えば2週間から12ヶ月)行う臨床試験において、治療の成功は、オイグリセミック高インシュリン血症クランプ試験(hyperinsulin aemic euglycaemic glucose clamp study)を用いてチェックされる。初期値と比較した又はプラセボ群と比較した、又は異なる治療を受けた群と比較した、試験末期のグルコース注入速度(glucose infusion rate)の顕著な増加は、インシュリン抵抗性の治療における活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を証明する。
【実施例5】
【0042】
実施例5:糖尿病性高脂血症又は異常脂質血症の治療
タイプ2の糖尿病に罹患した患者における異なる期間(例えば2週間から60ヶ月)行った臨床試験において、治療の成功を合計コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール及び血漿トリグリセリドを決定することによりチェックする。初期値と比較して又はプラセボ群と比較して又は異なる治療を受けた群と比較して、合計コレステロール、LDL-コレステロール又は血漿トリグリセリドにおける顕著な低下、及び/又は試験の間又は末期におけるHDL-コレステロールレベルの上昇は、糖尿病性高脂血症又は異常脂質血症の治療における活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を証明する。
【実施例6】
【0043】
実施例6:低血糖症の治療
異なる期間(例えば1日から24ヶ月)行う臨床試験において、低血糖症に罹患した患者の治療の成功は、空腹時グルコース又は空腹ではない場合のグルコース(例えば食後又はoGTT若しくは定義した食事の負荷試験後)を決定することによりチェックする。初期値と比較して又はプラセボ群と比較して又は他の治療を受けた群と比較して、試験の間又は末期のこれらグルコース値の顕著な低下は、低血糖症の治療における活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を証明する。
【実施例7】
【0044】
実施例7:妊娠性糖尿病の治療
短い期間(例えば2-4週間)行う臨床試験において、治療の成功は、空腹時グルコース値及び/又は食事後又は試験の治療期間の末期における負荷試験(経口耐糖能試験又は定義した食事後の食品耐性試験)後のグルコース値を決定し、これらの値を試験開始前の値及び/又はプラセボ群の値と比較することによりチェックされる。更に、フルクトサミン値を、治療の前後で決定し、及び初期値及び/又はプラセボ値と比較できる。空腹時又は空腹ではない場合のグルコースレベルにおける顕著な低下は、活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を実証する。
長期間(12週間以上)行う試験において、治療の成功は、HbA1c値(初期値及びプラセボ群と比較した)を決定することによりチェックされる。初期値及び/又はプラセボ値と比較したHbA1c値における顕著な変化は、妊娠性糖尿病の治療における活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を実証する。
【実施例8】
【0045】
実施例8:妊娠性糖尿病に罹患した女性の治療
妊娠性糖尿病に罹患した患者は、妊娠後に顕性タイプ2糖尿病に罹患する顕著に増加したリスクを有する。治療は明らかなタイプ2に移行することを予防する目的と共に提供される。この目的のため、妊娠性糖尿病の病歴を有する女性は、長期間(例えば1-4年)、本発明の活性物質又は活性物質の組み合わせを用いるか、又はプラセボを用いるか、、又は薬物を用いない治療を用いるか、又は他の薬物を用いて治療される。治療の間及び末期において、チェックを空腹時グルコースを決定することにより及び/又は負荷試験(例えばoGTT)により行い、何人の患者が顕性タイプ2糖尿病(空腹時グルコースレベル125mg/dl及び/又はoGTT後2時間値199mg/dl)を発現したかを観察する。異なるタイプの治療と比較して、本発明の活性物質又は本発明の活性物質の組み合わせを用いて治療した場合、顕性タイプ2糖尿病を発現した患者の数の顕著な減少は、妊娠性糖尿病の病歴を有する女性の明らかな糖尿病を予防することにおける活性物質又は活性物質の組み合わせの効果の証拠である。
【実施例9】
【0046】
実施例9:微小血管又は大血管性の合併症の予防
本発明の活性物質又は本発明の活性物質の組み合わせを用いたタイプ2糖尿病又は前糖尿病患者の治療は、微小血管の合併症(例えば、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性ネフロパチー、糖尿病性足病変、糖尿病性潰瘍)又は大血管性の合併症(例えば、心筋梗塞、急性冠症候群、不安定狭心症、安定狭心症、脳卒中、末梢動脈閉塞障害、心筋ミオパチー、心不全、心拍障害、血管再狭窄)を予防し又は減少させる。タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者は、長期間、例えば1-6年間、本発明の活性物質又は本発明の活性物質の組み合わせを用いて治療され、及び他の抗糖尿病薬又はプラセボを用いて治療された患者と比較される。他の抗糖尿病薬又はプラセボを用いて治療された患者と比較した治療の成功の証拠は、より少ない数の単一若しくは多数の合併症において見いだす事ができる。大血管性の事象、糖尿病性足病変及び/又は糖尿病性潰瘍の場合において、数は既往歴及び種々の試験方法によりカウントされる。糖尿病性網膜症の場合において、治療の成功は、コンピューター制御された照明及び眼のバックグラウンドの評価又は他の眼科の方法により決定される。糖尿病性神経障害の場合において、既往歴及び臨床試験に加えて、神経伝導速度を例えばキャリブレーティッドチューニングフォーク(calibrated tuning fork)を用いて測定できる。糖尿病性ネフロパチーについては、以下のパラメーターを試験の開始時、試験の間及び試験後に調査しても良い;アルブミンの分泌、クレアチニンの浄化値、血清クレアチニン値、血清クレアチニン値が2倍になるまで要する時間、透析が必要とされるまでに要する時間。
【実施例10】
【0047】
実施例10;メタボリックシンドロームの治療
本発明の活性物質又は活性物質の組み合わせの効果は、空腹時グルコース又は空腹時ではない場合のグルコース(例えば食後又はoGTT若しくは定義した食事を用いた負荷試験後)又はHbA1c値を決定することにより、種々の実行時間(例えば12週間から6年間)での臨床試験で試験することができる。初期値と比較した又はプラセボ群と比較した、又は異なる治療を受けた群と比較した、試験の間又は試験の末期におけるこれらグルコース値又はHbA1c値の急激な低下は、メタボリックシンドロームの治療における活性物質又は活性物質の組み合わせの効果を証明する。この例は、試験の開始段階の初期値と比較するか又はプラセボ若しくは異なる治療で治療された患者の群との比較における、最高血圧及び/又は最低血圧における減少、血漿トリグリセリドの低下、合計又はLDLコレステロールの減少、HDLコレステロールの増加又は体重の減少である。
【実施例11】
【0048】
実施例11:DPP IVインヒビターフィルム被覆錠剤
顆粒化溶液を調製するため、コポビドンを精製水に室温で溶解させる。DPP IVインヒビター、マンニトール、α化デンプン及びトウモロコシデンプンを適切なミキサー中で混合し、プレミックスを調製する。プレミックスを顆粒化溶液で湿らせ、次いで高い剪断速度のミキサー中で顆粒化させる。湿らせた顆粒を1.6mmメッシュサイズのふるいを通してふるいにかける。顆粒を、2-4%の乾燥値における損失が得られるまで、流動床乾燥器で約60℃で乾燥させる。最終的な混合物を圧縮して、錠剤コアを形成する。
適切なミキサー中で、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を室温で精製水中に懸濁させ、錠剤コーティングのための懸濁液を調製する。錠剤コアを、3%の質量増加が得られるまでこの懸濁液で被覆させる。例えば、以下の錠剤組成物がこの方法で得られるであろう;
【0049】
【表1】
[図:0001433465000066.jpg]
…(略)…
【実施例13】
【0051】
実施例13: DPP IVインヒビター-メトホルミンを用いた組み合わせた治療
タイプ2糖尿病又は前糖尿病を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、抗糖尿病活性物質メトホルミンを組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、メトホルミンの異なる投与量、例えば500mg、850mg又は1000mgの、メトホルミンの単一の投与量として合計一日投与量のメトホルミン500-2850mg、又は遅延放出形態における500mg、1000mg、1500mg又は2000mgのメトホルミンと組み合わせても良い。メトホルミンとのこのような組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。このため、タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者を、DPP IVインヒビターそのままを用いてか、又はメトホルミンそのままを用いてか、又はDPP IVインヒビターとメトホルミンを組み合わせて治療する。治療は2週間から6年継続する。組み合わせが適切である証拠及び効果は、DPP IVインヒビターとメトホルミンの組み合わせが、DPP IVインヒビター単独か又はメトホルミン単独よりも、空腹時グルコース及び/又は空腹ではない場合のグルコース及び/又はHbA1c値を非常に顕著に減少させた事実において見出すことができる。
【実施例14】
【0052】
実施例14: DPP IVインヒビター-グリタゾンを用いた組み合わせた治療タイプ2糖尿病又は前糖尿病を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、グリタゾン又はチアゾリジンジオン(例えば、ピオグリタゾン又はロシグリタゾン)を含む抗糖尿病活性物質群と組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、ピオグリタゾンの異なる投与量(15mg、30mg又は45mg)又はロシグリタゾン(1日1回か又は2回の2mg、4mg又は8mg)と組み合わせても良い。ロシグリタゾン又はピオグリタゾンのこのような組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。このため、タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者を、DPP IVインヒビターそのままを用いてか、又はロシグリタゾン若しくはピオグリタゾンをそのままを用いてか、又はDPP IVインヒビターとロシグリタゾン若しくはピオグリタゾンを組み合わせて治療する。治療は2週間から6年継続する。組み合わせが適切である証拠及び効果は、DPP IVインヒビターとロシグリタゾン若しくはピオグリタゾンの組み合わせが、DPP IVインヒビター単独か又はロシグリタゾン若しくはピオグリタゾン単独よりも、空腹時グルコース及び/又は空腹ではない場合のグルコース及び/又はHbA1c値を非常に顕著に減少させた事実において見出すことができる。
【実施例15】
【0053】
実施例15: DPP IVインヒビター-SGLT2インヒビターを用いた組み合わせた治療
タイプ2糖尿病又は前糖尿病を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、SGLT-2インヒビターを含む抗糖尿病活性物質群と組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、SGLT-2インヒビターの異なる投与量(0.5mgから100mg)と組み合わせても良い。SGLT-2インヒビターのこのような組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。このため、タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者を、DPP IVインヒビターそのままを用いてか、又はSGLT-2インヒビターをそのままを用いてか、又はDPP IVインヒビターとSGLT-2インヒビターを組み合わせて治療する。治療は2週間から6年で継続する。組み合わせが適切である証拠及び効果は、DPP IVインヒビターとSGLT-2インヒビターの組み合わせが、DPP IVインヒビター単独か又はSGLT-2インヒビター単独よりも、空腹時グルコース及び/又は空腹ではない場合のグルコース及び/又はHbA1c値を非常に顕著に減少させた事実において見出すことができる。
【実施例16】
【0054】
実施例16: DPP IVインヒビター-抗高血圧薬を用いた組み合わせた治療
タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者又はメタボリックシンドロームに罹患した患者を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、抗高血圧活性物質と組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、異なる投与量のACE-インヒビター(例えば2.5mgから15mgラミプリル)、AT-1レセプターアンタゴニスト(例えば20mgから160mgテルミサルタン)、βブロッカー(例えば50mgから200mgメトプロロール)又は利尿薬(例えば12.5mgから25mgヒドロクロロチアジド)と組み合わせても良い。抗高血圧薬のこのような組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。このため、タイプ2糖尿病又は前糖尿病又はメタボリックシンドロームに罹患した患者を、DPP IVインヒビターそのままを用いてか、又は抗高血圧薬をそのままを用いてか、又はDPP IVインヒビターと抗高血圧薬を組み合わせて治療する。治療は2週間から6年継続する。組み合わせが適切である証拠及び効果は、DPP IVインヒビターと抗高血圧薬の組み合わせが、少なくともDPP IVインヒビター単独と同じ程度、空腹時グルコース及び/又は空腹ではない場合のグルコース及び/又はHbA1c値を減少させた事実において、及びDPP IVインヒビターと抗高血圧薬の組み合わせが、最高血圧及び/又は最低血圧を少なくとも抗高血圧薬単独と同じ程度低くした場合に見出すことができる。
【実施例17】
【0055】
実施例17: DPP IVインヒビター-高脂血症治療薬を用いた組み合わせた治療
タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者又はメタボリックシンドロームに罹患した患者又は糖尿病性異常脂質血症若しくは高脂血症に罹患した患者を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物と組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、異なる投与量のスタチン(例えば10mgから80mgのアトルバスタチン又は10mgから80mgのシムバスタチン)、フィブラート(例えばフェノフィブラート)、コレステロール吸収インヒビター、又はHLDを増加させる物質、例えばCETP-インヒビター(例えばトルセトラピブ1日1回の10mgから120mg又は1日2回の120mg)と組み合わせても良い。高脂血症治療薬/HLDを増加させる薬物のこのような組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。このため、タイプ2糖尿病又は前糖尿病に罹患した患者又はメタボリックシンドロームに罹患した患者又は糖尿病性異常脂質血症若しくは高脂血症に罹患した患者を、DPP IVインヒビターそのままを用いてか、又は高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物をそのままを用いてか、又はDPP IVインヒビターと高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物を組み合わせて治療する。治療は2週間から6年継続する。組み合わせが適切である証拠及び効果は、DPP IVインヒビターと高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物の組み合わせが、少なくともDPP IVインヒビター単独と同程度に、空腹時グルコース及び/又は空腹ではない場合のグルコース及び/又はHbA1c値を減少させた事実において、及びDPP IVと高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物の組み合わせが、少なくとも高脂血症治療薬/HDLを増加させる薬物単独と同程度に、合計コレステロール又はLDL-コレステロール又は血漿トリグリセリドを低下させ、又はHDLコレステロール値を増加させた場合に見出すことができる。
【実施例18】
【0056】
実施例18:心不全に罹患した患者におけるDPP IVインヒビター-BNP/BNP誘導ペプチド又はBNP融合ペプチドの組み合わせた治療
急性心不全に罹患した患者を治療するため、本発明のDPP IVインヒビターを、遊離した組み合わせか又は錠剤中に固定した組み合わせで、心不全に好ましく影響する物質と組み合わせても良い。DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)を、異なる投与量のACE-インヒビター(例えば2.5mgから15mgラミプリル)、AT1-レセプター-アンタゴニスト(例えば、20mgから160mgテルミサルタン)、βブロッカー(例えば50mgから200mgメトプロロール)、組み合わせたα/βブロッカー(例えば、3.25mgから100mgカルベジロール)、利尿薬(例えば12.5mgから25mgヒドロクロロチアジド)、ミネラルオコルチコイドレセプターアンタゴニスト(例えば25mgから100mgエプレレノン;及び/又はB-タイプナトリウム利尿ペプチド(BNP)(例えば、0.01μg/kg/minネシリチドに続くボーラスとしての2μg/kg))、BNP誘導ペプチド又はBNP融合生成物と組み合わせても良い。BNPとDPP IVインヒビターの組み合わせは、インビボにおけるフルレングスのBNP(1-32)のより高い濃度をもたらす。このような特定の組み合わせの臨床効果は、臨床試験で試験できる。治療は1日から6年継続する。組み合わせが急性心不全の治療において有効であることの証拠は、他の治療と比較して組み合わせが臨床状況において顕著な向上(より高い心臓の放出拍出量及び/又は肺の鬱血の逆転、及び/又は肺動脈楔入圧の逆転及び/又は急性心不全で起こる死亡の減少)をもたらす事実において見出すことができる。
【実施例19】
【0057】
実施例19:心不全に罹患した患者におけるDPP IVインヒビターを用いた治療
本発明のDPP IVインヒビターは慢性心不全に罹患した患者を治療するために使用しても良い。この治療は、インビボにおいて内生のフルレングスのBNP(1-32)のより高い濃度をもたらす。この治療の臨床効果は、臨床試験で試験される。治療は2週間から6年継続する。組み合わせが慢性心不全の治療に効果的であることの証拠は、本発明のDPP IVインヒビターが、異なる治療又はプラセボと比較して臨床状態において顕著な向上(少ない頻度の急性心不全を原因とする入院、より長い距離を歩く能力、エルゴメトリックス(ergometrics)におけるより高い耐負荷性、より高い心臓の放出拍出量及び/又は肺の鬱血及び/又は心不全で起こる死亡の減少)をもたらすことの事実において見出すことができる。
(2) 本件明細書に記載された事項の概要
ア 本件明細書には、「いくつかの選択したDDP IVインヒビターは、特に前糖尿病、耐糖能障害(障害のある耐糖能)、病的な空腹時グルコース(障害のある空腹時グルコース)、糖尿病性足病変、糖尿病が誘発する潰瘍、糖尿病性高脂血症、糖尿病性異常脂質血症、新たに診断されたタイプ1の糖尿病(膵臓からのインシュリンの残りの分泌を維持するための)、妊娠性糖尿病(妊娠性糖尿病)、高血糖症、アドレナリン作動性の食後の症状(反応性低血糖症)又は心不全から選択される医学的又は生理学的な機能障害であると診断された患者の治療上の処置のための薬物の調製に特に適している。」ことが記載されており(【0009】)、本件発明のインヒビターは、特に好ましいとされる12種のDPP IVインヒビター(【0014】~【0017】)の1つとして記載されている。
DPP IVインヒビターの投与経路の1つとして、経口投与が記載され、その場合の投与量については、「0.5mgから100mg、好ましくは2.5mgから50mgであり、各場合において一日1~4回投与される」と記載されている(【0019】)。
イ DPP IVインヒビターの効果については、【0018】に「好ましい薬理学的な特性、レセプター選択性及び好ましい副作用特性と優秀な効能及び長く持続する効果を組み合わせ、又は他の医薬活性物質と組み合わせた場合に予想外の治療の利点又は改良をもたらす」との定性的な記載があり、また、【0038】~【0047】には、前糖尿病、糖尿病やその合併症の治療におけるDPP IVインヒビターの治療効果の試験法について記載され、【0051】~【0056】には、DPP IVインヒビターと他の抗糖尿病薬や抗高血圧薬などとを組み合わせた治療において、「DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)」を他の薬物と組み合わせることが一般論として説明されてはいるが、具体的に、DPP IVインヒビターとして本件発明のインヒビターを用いた実施例はなく、また、その他のDPP IVインヒビターも含め、【0018】において説明される効果を、実際に確認した実施例の記載もない。
ウ また、DPP IVインヒビターを含む製剤については、「1以上の不活性な通常のキャリアー及び/又は希釈剤、例えばトウモロコシデンプン」等と合わせて処方するという一般的な説明とともに、従来公知の剤型が列挙される中の一つとして「被覆錠剤」を形成してもよいことが説明され(【0019】)、実施例11(【0048】~【0049】)には、DPP IVインヒビターを0.500mg~10.000mg含有するフィルム被覆錠剤の組成例が示されているが、当該組成例について、薬物の安定性、薬物放出特性といった医薬品製剤に求められる特性において、何らかの優れた効果を奏することについては、何も説明されていない。
2 無効理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1) 本件優先日当時の技術常識
前記第6に摘記した甲乙各号証の記載事項によれば、本件優先日当時、以下の事項が技術常識となっていたと認められる。
ア 糖尿病における血糖のコントロールと糖尿病の合併症の予防及び治療について
(ア) 糖尿病は、慢性の高血糖状態を特徴とする代謝疾患であり、代謝異常が長く続くと合併症(潰瘍などを伴う糖尿病足病変、脳卒中・心筋梗塞・狭心症・心不全などの大血管症など)が起こることから、糖尿病の治療目的は、血糖をコントロールすることにより、高血糖状態を改善し、糖尿病の合併症の予防及び治療を行うことにある(甲2ア~エ、カ、甲3ア、甲12)。そして、単独の血糖降下薬の投与で血糖コントロールが不十分な場合には、作用機序の異なる経口血糖降下薬を併用することが技術常識となっていた(甲2オ、甲3イ、甲6ア、甲20ウ、甲21)。
(イ) また、糖尿病に特有の細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)及び糖尿病に多発する動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)の発症、進展の阻止を図るためには、単に血糖コントロールのみでなく、体重、血圧、血清脂質のコントロールが必須であり、血糖コントロールと同時に、減量による肥満の解消、降圧薬や高コレステロール血症治療薬を用いた治療を併せて行うことも技術常識であった(甲2カ~ク、甲3ア)。
イ DPP-IV阻害薬について
食後に小腸から放出されるインクレチンは、膵β細胞からのインスリンの分泌を促進する消化管ホルモン(GLP-1など)の総称であるが、血中でジペプチジルペプチダーゼ-IV(dipeptidyl peptidase- IV、DPP- IV)によって速やかに分解される。DPP-IV阻害薬は、インクレチンのDPP-IVによる分解を防ぐ作用を有し、その結果、インスリン作用を増強し、高血糖状態を改善できることから、2型糖尿病の経口投与可能な治療薬として、様々な開発が進行しており、本件優先日当時に、ヒトにおけるphase2からphase3 trialの臨床試験段階にあるDPP-IV阻害薬も複数(NVP DPP728、LAF237)知られていた(甲6イ~カ、甲7、甲20、甲48~甲51)。
したがって、本件優先日当時、DPP-IV阻害薬は、2型糖尿病の経口投与可能な治療薬として使用可能であることは、技術常識となっていた。
ウ 臨床における有効成分の用量の設定手法について
(ア) 医薬品の用量が設定される臨床試験は、「通常、第I相、第II相、第III相と段階的に進めて行くものであり、第I相試験では、非臨床試験等の結果を総合的に検討し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、次に段階的に用量を増して推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べること、及び、これらの成績に基づいて、血中濃度が測定可能な治療薬については、血中濃度が定常状態に達するまで反復投与試験を行い、反復投与量や投与期間を決定し、安全用量の範囲を推定すること、前期第II相試験では、第I相試験により安全性が確認された用量範囲において、基本的薬効及び用法・用量を推定し、後期第II相試験において、治験薬の薬効プロフィール(適応範囲)を明らかにするための探索的検討を行うとともに、用量反応(設定)試験(必要な場合にはプラセボを含める。)を行い、第III相試験の用法・用量及び至適用量幅を決定すること、第III相試験では、第II相試験治験薬の有効性と安全性の成績、用量設定試験の用量幅及び投与方法の成績をもとに、臨床試験の対象をさらに拡大して、治験薬が実際に臨床使用されたときの用法・用量を確認する」という手順を踏むことが、厚生省が策定した「一般指針」などにおいて定められており、医薬品の用量は、通常、非臨床試験の結果などを総合的に判断し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、段階的に用量を増して安全用量の範囲を推定する第I相試験から、第II相試験、第III相試験へと順に進めていく手順を踏んで、最終的に決定されることが、技術常識となっていた(甲15、甲16、甲59及び乙153)。
(イ) そして、第I相試験における初回投与量の決定は、「非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して」設定するものであり、「諸種の実験動物において、これらの薬理学的成績に動物種差の存在することがよく知られて」いることから、「(1)単回投与毒性試験で最も感受性が高かった動物の50%致死量(LD50)の1/600以下、(2)反復投与毒性試験などで最も感受性の高かった動物の無毒性用量の1/60以下、(3)最も感受性の高い動物の50%有効量(ED50)の1/60以下、(4)推定臨床用量の1/10~1/20」といった決定基準(甲59及び乙153、甲60、乙167)や、米国食品医薬品局のガイダンスでは、臨床試験の「最大推奨開始用量(MRSD)」は、各種実験動物を用いた動物実験において「対照群と比較して有害事象が有意に増加しない最高用量レベル」として決定された「無毒性量(NOAEL)」を「ヒト等価用量(HED)」に換算し、その中で「最も感受性の高い生物種(すなわち、最も低いHEDを同定できる生物種)」から得られた「HED」を「安全係数(通常は10)」で割って臨床試験の「最大推奨開始用量(MRSD)」を決定する手法(甲61及び乙152)が知られ、動物実験によって決定された量よりも相当程度減量して(50%致死量(LD50)の1/600以下、50%有効量(ED50)の1/60以下、推定臨床用量の1/10~1/20、無毒性量(NOAEL)のヒト等価用量(HED)の1/10など)、ヒトに対する安全性を考慮して初回投与量とすることは技術常識であった。
エ 被覆錠剤の成分について
錠剤に添加される成分として、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン(別名コーンスターチ)、コポビドン(当審合議体注:コポリビドンと同義。(甲90イ、及び本件明細書【0020】を参照。))は、周知の結合剤であり(甲90ア、イ、キ及びコ)、複数の結合剤を組み合わせて錠剤コアに使用することは技術常識であった(甲1【0204】~【0210】、甲22、甲25、甲29及び甲30)。
また、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名ヒプロメロース)及びポリエチレングリコール(別名マクロゴール)は、周知のコーティング剤であり(甲90ク及びケ)、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄もまたコーティングに配合される周知の着色剤(甲90ウ、エ及びカ)であって、これらの複数の成分を組み合わせてフィルムコーティングを構成すること(甲22、甲25、甲29及び甲30)も技術常識であった。
さらにステアリン酸マグネシウムは、滑沢剤等として、錠剤コア及びコーティングのいずれにも使用される添加剤であることは技術常識であった(甲1【0204】~【0210】、甲22、甲25、甲29、甲30及び甲90オ)。
(2) 甲1に記載された発明
ア 前記第6の1に示した記載事項によれば、甲1には、一般式Iで表される新規な置換されたキサンチンが開示され(【0001】~【0003】)、一般式Iの化合物は、DPP-IV活性を阻害する能力を有するものであって、一般式Iの化合物に含まれる46種の化合物について、DPP-IV阻害活性のIC50値[nM]が示されている。そのうち、IC50値が最小(当審合議体注:DPP-IV阻害活性が最も強いことを意味する。)の1nMである化合物は、実施例2(80)、実施例2(99)、実施例2(132)、実施例2(142)、実施例2(148)、実施例2(150)の化合物の6種であることが記載されている(【0039】【表1】)。また、一般式Iの化合物は、DPP-IV活性の阻害によって影響される可能性のある状態又は疾病、「例えば、タイプI及びタイプII真性糖尿病、糖尿病合併症」等「の予防並び治療に適したものであると予想される」ことが記載されている(【0040】)。
なお、一般に、「真性糖尿病」とは、インスリン依存型糖尿病、インスリン非依存型糖尿病と栄養不良性糖尿病を含めた糖尿病を意味し、インスリン非依存型糖尿病は2型糖尿病を意味するので、甲1における「タイプII真性糖尿病」とは、2型糖尿病を意味すると解するのが相当である(最新 医学大辞典 第3版、医歯薬出版株式会社、2005年4月1日、p.122、p.928)。
さらに、一般式Iの化合物の投与経路として、「静脈内経路」及び「経口経路」が記載され(【0043】)、「実施例2(80)の化合物10mg/kgを、ラットに経口経路で投与したところ、如何なる挙動変化も検出されなかったことから、十分に許容性を持つものである」ことが記載されている(【0040】)。【0167】及び【0178】によれば、実施例2(80)の化合物は、キナゾリン環の4位にメチル基を有さない点以外は、実施例2(142)の化合物と同一の化学構造であり、両化合物は経口投与に係る性質も類似すると推察される(実施例2(80)は、本件明細書【0014】において特に好ましい化合物として化学構造式とともに3番目に記載されている化合物である。)。
ここで、本件優先日当時、DPP-IV阻害薬は、2型糖尿病の経口投与可能な治療薬として使用可能であるという技術常識(前記(1)イ)を踏まえた当業者であれば、特にDPP-IV阻害活性の強い前記6種の化合物のうちのいずれか1つを含有する薬理組成物を経口経路で投与することにより、タイプII真性糖尿病を治療できることが理解できるように、甲1には記載されているといえ、また、前記6種の化合物のうちの1つを含有するところの、6種類の薬理組成物は、いずれも甲1に記載されているといえる。
イ そうすると、その6種類の薬理組成物のうちの1つである、実施例2(142)の化合物(1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(【0152】、【0178】。以下「化合物2(142)」という。)を含有する薬理組成物に関する次の発明が、甲1に記載されているといえる。
「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))を含有する、タイプII真性糖尿病を治療するための薬理組成物であって、化合物2(142)が経口経路により投与される、前記薬理組成物。」(以下「甲1発明」という。)
(3) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「DPP-IV阻害活性を有する1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(化合物2(142))」は、本件発明1の「式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000067.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)」(本件発明のインヒビター)に相当する。
また、甲1発明の「経口経路により投与される」及び「薬理組成物」は、本件発明1の「経口投与用」及び「第1の医薬組成物」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「経口投与用に式(I)のDPP IVインヒビター;
[図:0001433465000068.jpg]
(式中、R1は(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチルを意味し、及びR2は3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イルを意味する)、
を含む第1の医薬組成物。」
<相違点1>
本件発明1においては、DPP IVインヒビターの用量について、「第1の医薬組成物」が「2.5mgまたは5mgの用量」を含み、「1日の」「経口投与用量が5mgであ」ると特定されるのに対し、甲1発明においては、化合物2(142)の用量が特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1は、「他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質、血圧を下げる活性物質、アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質から選択される活性物質を含む第2の医薬組成物との遊離形態の組合せを特徴とする組み合わせ薬物」であるのに対し、甲1発明は、他の活性物質を含む第2の医薬組成物との遊離形態の組合わせ薬物とすることが特定されていない点。
<相違点3>
本件発明1は、第1の医薬組成物が、「被覆錠剤の形態にある前記DPP IVインヒビターを含み、前記被覆錠剤が、前記DPP IVインヒビター、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン、コポビドン及びステアリン酸マグネシウムを含む錠剤コアと、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化チタン及び酸化鉄を含むコーティングとを含む」ことが特定されるのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。
イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア) 相違点1について
甲1には、化合物2(142)を含む「本発明の化合物」の用量に関し、「経口経路による場合には、1~1000mgなる範囲、好ましくは1~100mgなる範囲であり、何れの場合にも1日当たり1~4回投与する」(【0043】)ことが記載されている。
そして、甲1発明の化合物2(142)を、タイプII真性糖尿病を治療するための医薬として実用化する際には用量の設定が必要であるところ、医薬品の用量は、通常、非臨床試験の結果などを総合的に判断し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、段階的に用量を増して安全用量の範囲を推定する第I相試験から、第II相試験、第III相試験へと順に進めていく手順を踏んで、最終的に決定されることが、本件優先日当時の技術常識となっていた(前記(1)ウ(ア))。
そうすると、甲1の記載に接した当業者であれば、甲1における「1日当たり1~4回投与する」という記載及び「好ましくは1~100mg」という数値範囲の「1mg」という下限値も参考にしつつ、非臨床試験の結果などを総合的に判断し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とし、段階的に用量を増して安全用量の範囲を推定する第I相試験から、第II相試験、第III相試験へと順に進めていくという、技術常識となっていた手順を踏んで最終的な用量を決定することは当然のことであり、その結果として、本件発明1において特定する、1日当たり5mgという経口投与用量に到達し、当該1日当たりの経口投与用量を分割して、あるいはその全量を含む医薬組成物とすることで、甲1発明を、相違点1に係る本件発明1の構成を有するものとすることは、当業者が通常有する創作能力の範囲でなし得るものといえる。
なお、甲1には、活性物質を75mg~150mg含む錠剤の組成例(実施例4~6)が記載されているものの、この組成例が実際の臨床試験結果に基づいて活性物質の含有量を設定したものであることは記載されていないから、甲1の上記組成例の記載によって、当業者が、臨床試験の初回投与量を上記75mgより低い用量に設定することが妨げられるものではない。
(イ) 相違点2について
糖尿病は、慢性の高血糖状態を特徴とする代謝疾患であり、代謝異常が長く続くと合併症(潰瘍などを伴う糖尿病足病変、脳卒中・心筋梗塞・狭心症・心不全などの大血管症など)が起こることから、糖尿病の治療目的は、血糖をコントロールすることにより、高血糖状態を改善し、糖尿病の合併症を予防及び治療することにあること、そして、単独の経口血糖降下薬の投与で血糖コントロールが不十分な場合には、作用機序の異なる経口血糖降下薬を併用することが、本件優先日当時の技術常識となっていた(前記(1)ア(ア))。
また、糖尿病に特有の細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)及び糖尿病に多発する動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症)の発症、進展の阻止を図るためには、単に血糖コントロールのみでなく、体重、血圧、血清脂質のコントロールが必須であり、血糖コントロールと同時に、減量による肥満の解消、降圧薬や高コレステロール血症治療薬を用いた治療を併せて行うことも技術常識であった(前記(1)ア(イ))。
そして、甲1(【0042】~【0043】)にも、甲1発明の化合物を包含する「本発明の化合物」と、抗-糖尿病薬、脂質低下剤、HDL-上昇化合物、高血圧を治療する薬物(降圧薬)、肥満治療用の活性物質などとを組み合わせて使用することについて記載され、「一般式Iの化合物は、場合により他の活性物質との組合わせで、・・・例えば無垢のまたは被覆した錠剤、カプセル、散剤、懸濁液、または座剤に配合することができる。」(【0043】)と記載されるとおり、二種類の薬剤を併用する際に、別々に投与する遊離形態とするか、両者を配合した錠剤として固定した形態とするかは、適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。
そうすると、単独の経口血糖降下薬の投与で血糖コントロールが不十分な糖尿病患者や、血糖コントロールのみでなく、肥満の解消、血圧や血清脂質のコントロールも必要な糖尿病患者のために、甲1発明の化合物2(142)と、他の抗-糖尿病薬、脂質低下薬、HDL-上昇化合物、高血圧を治療する薬物、肥満治療用の活性物質(それぞれ、本件発明1の「他の抗糖尿病薬」、「血液中の脂質レベルを下げる活性物質」、「血液中のHDLレベルを上昇させる活性物質」、「血圧を下げる活性物質」及び「アテローム性動脈硬化又は肥満の治療において適応とされる活性物質」に相当)とを遊離形態で組み合わせた薬物とし、甲1発明を、相違点2に係る本件発明1の構成を有するものとすることは、当業者が適宜なし得る事項である。
(ウ) 相違点3について
医薬組成物を投与する際には、当然、投与経路に適した剤型に製剤化する必要があるところ、甲1(【0043】)には、「1種またはそれ以上の公知の担体および/または稀釈剤、例えばコーンスターチ」等「と共に」「被覆した錠剤」とすることが説明され、「活性物質」と、「リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび」「ステアリン酸マグネシウム」を含む「錠剤コア」を「ヒドロキシプロピルメチルセルロースからなるフィルムで被覆」した「フィルム被覆錠剤」の製剤例(【0205】)も記載されており、当該フィルム被覆錠剤は経口投与に慣用される剤型である。
他方、前記(1)エにおいて説示したとおり、被覆錠剤に添加される成分として、マンニトール、α化デンプン、トウモロコシデンプン(別名コーンスターチ)、コポビドンといった周知の結合剤を複数組み合わせて錠剤コアに使用すること、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(別名ヒプロメロース)及びポリエチレングリコール(別名マクロゴール)等の周知のコーティング剤、並びにタルク、二酸化チタン及び酸化鉄といったコーティングに配合される周知の着色剤を複数組み合わせてフィルムコーティングを構成すること、及び、滑沢剤等として、錠剤コア及びコーティングのいずれにもステアリン酸マグネシウムを添加することは、本件優先日当時の技術常識であった。
そうすると、甲1発明の経口経路により投与される薬理組成物について、甲1の上記製剤例を参考にしつつ、錠剤コア及びフィルムコーティングに添加される周知の成分の中から、複数の結合剤、複数のコーティング剤、及び複数の着色剤をそれぞれ選択して組み合わせ、ステアリン酸マグネシウムと共に配合することで、相違点3に係る本件発明1の構成を有するものとすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項といえる。
(エ) 本件発明1の効果について
本件明細書には、【0014】~【0017】に、特に好ましいDPP IVインヒビターとして12種の化合物が記載され、【0018】には、「これらのDDP IVインヒビターは構造的に類似するDPP IVインヒビターから区別され、それはこれらが好ましい薬理学的な特性、レセプター選択性及び好ましい副作用特性と優秀な効能及び長く持続する効果を組み合わせ、又は他の医薬活性物質と組み合わせた場合に予想外の治療の利点又は改良をもたらすためである。」と記載されるものの、これらの効果は「構造的に類似するDPP IVインヒビター」との比較における「これらのDDP IVインヒビター」の効果であって、相違点1~3に起因して生じる効果ではなく、甲1発明の化合物2(142)もそもそも有していた効果であるといえる。
そうすると、本件明細書【0018】の記載に基づいて、本件発明1が甲1発明に対して顕著な効果を奏するとはいえない。
また、本件明細書の【実施例】の欄の記載についてみると、【0038】~【0047】には、前糖尿病、糖尿病やその合併症の治療におけるDPP IVインヒビターの治療効果の試験法について記載され、【0051】~【0056】には、DPP IVインヒビターと他の抗糖尿病薬、血液中の脂質レベルを下げる活性物質、血圧を下げる活性物質などを組み合わせた治療において、「DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)」を他の薬剤と組み合わせることが一般論として説明されてはいるものの、具体的に、DPP IVインヒビターとして本件発明のインヒビターを2.5mg又は5mg含む被覆錠剤を用いて、1日当たり5mg投与した実施例はなく、また、その他のDPP IVインヒビターも含め、【0018】において説明される効果を、実際に確認した実施例の記載もない。
そうすると、上記【実施例】の欄の記載に基づいて、本件発明のインヒビターを2.5mg又は5mg含む被覆錠剤を用いて、1日当たり5mgという用量で、他の活性物質と組み合わせて使用した場合に、顕著な効果を奏するとはいえない。
さらに、本件発明1の第1医薬組成物である、被覆錠剤の組成についても、本件明細書の実施例11(【0048】~【0049】)には、DPP IVインヒビターを0.500mg~10.000mg含有するフィルム被覆錠剤の組成例が示されるのみであって、当該組成とすることによって、何らかの優れた効果を奏することについては、何も説明されておらず、甲1発明において相違点3に係る被覆錠剤の組成を採用することにより、甲1発明及び技術常識から予測できない顕著な効果を奏するとはいえない。
したがって、本件発明1は、当業者が予測できない顕著な効果を奏するとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、他の抗糖尿病薬又は血圧を低下させる活性物質の薬物との組合せ」に特定するものである。
したがって、上記(3)と同様の理由により、本件発明2は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、メトホルミン、ミグリトール、アトルバスタチン、バルサルタン、ピオグリタゾンまたはテルミサルタンとの組合せ」に特定するものである。
しかしながら、甲1(【0042】)には、甲1発明の化合物と組み合わせる「抗-糖尿病薬」として「メトホルミン」及び「ピオグリタゾン」が、「脂質低下剤」として「アトルバスタチン」が記載され、また、「メトホルミン」、「ピオグリタゾン」及び「ミグリトール」は、甲3エ、甲4及び甲6アにも記載される周知の抗糖尿病薬であり、「バルサルタン」及び「テルミサルタン」は、甲29ア及び甲30アに記載されるとおり、いずれも本件優先日前から販売されていた周知の高血圧症の治療薬であるから、甲1発明において、甲1に組み合わせることが記載された具体的な薬物又は周知の抗糖尿病薬や周知の高血圧症の治療薬を組み合わせることも、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明3は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、メトホルミンとの組合せ」に特定するものであるから、上記(5)と同様の理由により、本件発明4は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7) 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、ピオグリタゾンとの組合せ」に特定するものであるから、前記(5)と同様の理由により、本件発明5は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、テルミサルタンとの組合せ」に特定するものであるから、前記(5)と同様の理由により、本件発明6は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9) 本件発明7について
本件発明7は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、スルホニルウレアとの組合せ」に特定するものであるが、甲1(【0042】)には、甲1発明の化合物と組み合わせる「抗-糖尿病薬」として「スルホニルウレア」が記載されているから、前記(5)と同様の理由により、本件発明7は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(10) 本件発明8について
本件発明8は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、α-グルコシダーゼブロッカーとの組み合わせである」ものに特定するものであるが、甲1(【0042】)には、甲1発明の化合物と組み合わせる「抗-糖尿病薬」として「α-グルコシダーゼ阻害剤(当審合議体注:α-グルコシダーゼブロッカーと同義。)」を使用することが記載されているから、前記(5)と同様の理由により、本件発明8は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(11) 本件発明9について
本件発明9は、本件発明8を「α-グルコシダーゼブロッカーがアカルボース、ボグリボースまたはミグリトールである」ものに特定するものであるが、甲1(【0042】)には、α-グルコシダーゼ阻害剤として、「アカルボース」及び「フォグリボース(voglibose)(当審合議体注:ボグリボースと同義。)」が例示され、また、「アカルボース」、「ボグリボース」及び「ミグリトール」は甲3ウ及び甲4にも記載されるように、周知のα-グルコシダーゼブロッカーであるから、上記(10)と同様の理由により、本件発明9は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(12) 本件発明10について
本件発明10は、本件発明1を「DPP IVインヒビターと、インスリンとの組合せである」に特定するものであるが、甲1(【0042】)には、甲1発明の化合物と組み合わせる「抗-糖尿病薬」としてインシュリンが記載されているから、前記(3)と同様の理由により、本件発明10は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(13) 本件発明11について
本件発明11は、本件発明4を「メトホルミンが、1日1回又は2回の300mg~1000mgの投与量、または、遅延放出メトホルミンとして1日1回又は2回の500mg~1000mgの投与量若しくは1日1回の500mg~2000mgの投与量、で存在するまたは使用される」と特定するものであるが、甲3ウ及び甲6アに記載されるように、メトホルミンは通常、1日1~3回で投与され、国内では1日750mgまで、欧米では1日2000~3000mgまでの用量で使用される抗糖尿病薬であるから、甲1発明においてメトホルミンと組み合わせる際に、このような通常使用されるメトホルミンの用法・用量のまま使用することに格別な創意工夫を要するものとは認められない。
したがって、前記(6)と同様の理由により、本件発明11は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(14) 本件発明12について
本件発明12は、本件発明4を「治療有効量のDPP IVインヒビターが、単一用量として500 mg、850 mg又は1000 mgであって合計一日投与量500-2850mgのメトホルミン、または、遅延放出形態として500mg、1000mg、1500mg又は2000mgのメトホルミン、と組合されることを特徴とする」と特定したものであるが、上記(13)に説示したとおり、甲1発明においてメトホルミンと組み合わせる際に、通常使用されるメトホルミンの用法・用量のまま使用することに格別な創意工夫を要するものとはいえず、一日の投与回数と投与量に応じた単一用量及び放出形態に設定することも、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。
したがって、前記(6)と同様の理由により、本件発明12は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(15) 本件発明13について
本件発明13は、本件発明1を「他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、GLP-1類似体、ACEインヒビター、アンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)、βブロッカーおよび利尿薬から選ばれる」と特定したものであるが、甲1(【0042】~【0043】)には、甲1発明の化合物と組み合わせる「抗-糖尿病薬」として、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼ阻害剤、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、エキセンジン-4(審判合議体注:本件明細書【0023】においてGLP-1類似体として例示される化合物。)が記載され、「高血圧を治療する薬物」として、ACE阻害剤(審判合議体注:ACEインヒビターと同義。)、利尿剤、βブロッカーが記載されている。また、甲2ク及び甲12に記載されるように、糖尿病に合併した高血圧などの治療に、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)(審判合議体注:アンギオテンシンIIレセプターブロッカー(ARB)と同義。)を用いることは周知技術である。
したがって、前記(3)と同様の理由により、本件発明13は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(16) 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1を「他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、ナテグリニド、レパグリニド、ピオグリタゾン、α-グルコシダーゼブロッカー、インシュリン、インシュリン類似体、GLP-1、およびGLP-1類似体、から選ばれる」と特定したものであるから、上記(15)と同様の理由により、本件発明14は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(17) 本件発明15について
本件発明15は、本件発明1を「他の活性物質が、メトホルミン、スルホニルウレア、インスリン、α-グルコシダーゼブロッカーまたはピオグリタゾンである」と特定したものであるから、前記(15)と同様の理由により、本件発明15は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 被請求人の主張について
(1) 甲1発明の認定について
被請求人は、甲1には、一般式Iの範囲内の個別具体的な化合物のいずれもが、本件発明で規定する医薬用途に有用であることも、それを裏付けるデータも記載されていないから、甲1に記載されている発明は、用途も、投与ルートも、用量も特定されていない、「1-[(4-メチル-キナゾリン-2-イル)メチル]-3-メチル-7-(2-ブチン-1-イル)-8-(3-(R)-アミノ-ピペリジン-1-イル)-キサンチン(審判合議体注:化合物2(142))を含むDPP-IV阻害剤」である旨を主張する(答弁書10頁20行~11頁2行)。
しかしながら、甲1発明の認定については前記2(2)において説示したとおりであり、また、当審合議体による「甲1発明」の認定については、被請求人は口頭審理において争わなかった(口頭審理調書)。
(2) 臨床における有効成分の用量の設定手法に関する技術常識について
被請求人は、審理事項通知書で示された「医薬品の用量を設定する場合には、臨床的な有効性が認められる程度の低い開始用量から始めて、用量を漸増しながら用量-反応関係を求め、薬効(望ましい作用と副作用(望ましくない作用)とのバランスを考慮して、好適な用量を設定する」という技術常識の認識は、用量をヒトへの投与のみによって設定するとの前提に立ち、単純化されすぎており、さらに事実誤認であって、用量範囲を探索するプロセスは、開始時点では(臨床)効果に関する情報は未知であるため、「臨床的な有効性が認められる程度の低い開始用量」から始めるものではないこと、前記技術常識の「開始用量」が、品質試験及び非臨床試験の結果に基づいて設定することを意図しているとしたら、甲1に記載されるインビトロのIC50値のみに基づいて、ヒトの治療用量を予測することは困難であり、ほぼ不可能であること、複雑で変動する非線形薬物動態プロファイルを有する本件発明のインヒビター(リナグリプチン)の治療用量は、単純な用量漸増試験又は用量反応試験をたった一度行って決定した値ではない旨を主張している(口頭審理陳述要領書8頁26行~14頁最終行、第1上申書4頁下から3行目~27頁22行)。
しかしながら、用量を設定する臨床試験の技術常識については、前記2(1)ウ(ア)及び(イ)に説示したとおりであって、臨床試験における「開始用量」については、「非臨床試験などを総合的に検討し」て設定されるものであり、ヒトへの投与のみによって設定することや、インビトロのIC50値のみから導き出すことを前提とするものではないし、最終的な臨床における用量についても、単純な用量漸増試験又は用量反応試験のみによって決定することを前提としたものではない。
したがって、前記2(1)ウに示した技術常識の認定に誤りはなく、被請求人の上記主張を採用することはできない。
(3) 低用量の容易想到性について
ア 被請求人は、甲1に開示されている「1~1000mg及び1~100mg」は、化合物2(142)の上位概念である「(甲1における)本発明の化合物」の用量であって、本件発明1で規定する範囲より遙かに広い経口用量の範囲であるし、甲1の実施例4~7には、75mg、100mg又は150mgの活性物質を含有する経口用の錠剤又はカプセル剤が開示されているから、本件発明1で規定する本件発明のインヒビターの経口投与用量である5mgを、甲1に記載の範囲から選択する動機付けとなる記載はなく、甲1はむしろ高用量の使用を示唆するものであるから、本件発明のインヒビターの低い経口投与用量を決定することはできず、本件発明1は進歩性を有する旨を主張する(答弁書13頁下から3行目~16頁1行、口頭審理陳述要領書15頁1行~16頁21行、第1上申書27頁最終行~29頁最終行、32頁4行~33頁3行)。
しかしながら、甲1に5mgの経口投与用量を選択する直接的な示唆がないとしても、医薬を実用化するに当たり、用量の決定は必須であり、甲1発明においても、臨床試験によって適切な用量を決定する強い動機付けが存在したといえる。
そして、5mgという経口投与用量が、技術常識に沿って、当業者が通常有する創作能力の範囲で設定できたものであること、及び甲1の実施例4~7の記載が、甲1発明において5mgという経口投与用量を選択するための阻害要因とはならないことは、前記2(3)イ(ア)に示したとおりである。
したがって、被請求人の上記主張は、採用できない。
イ 被請求人は、本件発明のインヒビター(リナグリプチン)の薬物動態の非直線的プロファイルは、治療用量を導くことを困難なものとすること、様々な動物モデルにおける非臨床試験結果から、十分なインビボ効果が得られる用量として決定された値は、1~3mg/kg poであり、ヒトの用量での70~200mgに相当するから、本件発明で規定する経口投与用量5mgは、予想された用量よりも大幅に低く、実際に臨床試験を行わなければ知り得なかった値であるから、本件発明1の「5mg」という経口投与用量は、当業者が容易に想到することができたものではない旨を主張する(答弁書8頁11行~9頁15行、20頁7~18行、口頭審理陳述要領書22頁17行~25頁9行、第1上申書34頁下から4行目~36頁12行)。
しかしながら、前記1(2)で説示したとおり、そもそも本件明細書には、「DPP IVインヒビターの治療効量(例えば0.1から100mgの投与量)」を他の薬物と組み合わせることが一般論として説明されているのみであって、特定の1つの化合物である本件発明のインヒビターについて、0.1から100mgという幅広い範囲の中で、具体的に5mgの経口投与用量で使用すること自体が記載されておらず、その効果を確認した実施例の記載もないものであり、本件明細書に記載のない「薬物動態の非直線的プロファイル」に基づく被請求人の上記主張は、採用することはできない。
さらに、被請求人の主張する「ヒトの用量での70~200mg」という数値は、動物モデルにおける非臨床試験結果で決定された「1~3mg/kg po」という数値に、ヒトの体重を約70kgと仮定して乗算して求めたものと推察されるところ、前記2(1)ウ(イ)で説示したとおり、ヒトに対する安全性を考慮し、毒性などに関する動物実験において用いた量よりも相当程度減量してヒト初回投与量とする、というヒト初回投与量の設定における技術常識に基づけば、動物モデルにおける非臨床試験結果で決定された「1~3mg/kg po」から相当程度減量してヒト初回投与量とするのであり、仮に、「1~3mg/kg po」にヒト体重70kgを乗算した「70~210mg」を推定臨床用量として、これを相当程度減量する意味で1/10~1/20倍にすると「3.5~20mg」程度となる。
そして、薬理学的成績に動物種差が存在することがよく知られている(甲59及び乙153ウ、甲61及び乙152イ)ことも考慮すれば、ヒトに対して十分に安全と見込まれる初回投与量はさらに小さい数値になることから、本件発明1の「5mg」は、臨床試験において検討される用量範囲に包含され得る数値であるといえる。
したがって、本件発明1の「5mg」という経口投与用量が、非臨床試験結果から予想された70mgよりも大幅に低い量であったとしても、当業者が通常の創作能力の範囲内で設定し得るのものといえる。
よって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
(4) 被覆錠剤の組成について
被請求人は、本件発明1で規定される錠剤コア成分及びコーティング成分のほとんどが甲1に全く記載されておらず、残りの甲号証は、甲1における開示の欠如を補うものではなく、本件発明1は、甲1及び技術常識を越える進歩性を有する旨を主張する(第2上申書7頁4行~8頁最終行)。
しかしながら、甲1に記載されない各成分が錠剤コア及びコーティングに使用される周知の添加剤であることは、前記2(1)エに説示したとおりである。
そして、前記1(2)において説示したとおり、本件明細書の開示自体も被覆錠剤の一般的な説明と組成例が記載されるにとどまり、当該組成によって薬物の安定性、薬物放出特性といった医薬品製剤に求められる特性に関し、何らかの優れた効果を有するといった記載もなく、本件発明1の被覆錠剤の組成とすることに格別な創意工夫を要したことをうかがわせる事情も見当たらない。
被覆錠剤が極めて汎用される剤型であるという本件優先日当時の技術水準をも考慮すれば、単に周知の成分の新規な組合せを開示したことをもって、甲1発明に対する進歩性を認めることはできない。
(5) 本件発明の効果について
ア 被請求人は、本件発明のインヒビター(リナグリプチン)は、ヒトの2型糖尿病患者では、5mgの経口投与用量が、10mgの経口投与用量よりも驚くほど優れた臨床効果を示すことがわかっている旨を主張する(第1上申書27頁19~20行)。
しかしながら、そもそも、本件発明のインヒビターを5mgの経口投与用量で投与すること自体、本件明細書には明示的な記載がなく、5mgの方が10mgよりも効果が優れることも全く記載されていない。このように、本件明細書に何ら開示されていない効果に基づき、本件発明の進歩性を認めることはできない。
イ 被請求人は、本件明細書の【0014】~【0017】には、12種の「特に好ましいDPP IVインヒビター」が、本件発明のDPP IVインヒビターを筆頭として示され、【0018】には、「これらのDPP IVインヒビターは構造的に類似するDPP IVインヒビターから区別され、・・・予想外の治療の利点又は改良をもたらす」と記載されているところ、該「構造的に類似するDPP IVインヒビター」は、「キサンチン様又はキサンチン関連骨格を有する化合物」及び(他の主要な)「グリプチン類」(シタグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、ビルダグリプチン)を指すものであり、上記12種のDPP IVインヒビターを実際に用いて実験した結果、上記の評価がされていると、当業者は理解することができるから、本件明細書の記載から、本件発明において規定する低用量投与において本件発明の有効成分が有用であり、「構造的に類似するDPP IVインヒビター」よりも低用量で投与可能であると推認できる旨を主張する(答弁書6頁9行~8頁10行、17頁3行~18頁5行、口頭審理陳述要領書20頁下から2行目~21頁6行、第1上申書38頁18行~43頁21行)。
しかしながら、本件発明の有効成分が、「構造的に類似するDPP IVインヒビター」よりも低用量で投与可能であると推認できる旨の上記主張は、同じ化合物を開示する甲1発明に対して、本件発明が有する有利な効果を主張したものではないことは、前記2(3)イ(エ)で示したとおりである。
加えて、本件明細書の【0018】の「構造的に類似するDPP IVインヒビター」が、何を指すのかは具体的に記載されておらず、本件明細書には何ら実験結果が記載されていない以上、【0014】~【0017】に記載された12種のDPP IVインヒビターが、シタグリプチンなどの市販のグリプチン類よりも、予想外の治療の利点又は改良をもたらすものであること(答弁書6頁19行~8頁10行、19頁5行~21頁19行、口頭審理陳述要領書20頁下から2行目~21頁6行)までが、本件明細書の記載から理解できるとする、被請求人の上記主張は、採用できない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1は理由があり、本件発明1~15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきでものある。
前記第3のとおり、請求項16及び17は、訂正により存在しないこととなったため、本件特許の請求項16及び17についての本件審判の請求は、不適法な審判の請求であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-800044