特許異議申立
2023-701257
歯ブラシ
- 審判番号
- 2023-701257
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-522566
- 登録番号
- 7285832
- 請求日
- 2023年11月29日
- 審決日
- 2024年02月16日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ライオン株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】加藤 広之
- 【異議申立人】渡邉 規雄
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 伊藤 秀行
- 審判官 長馬 望
- 分類
- P1652.121-Y (A46B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7285832号発明「歯ブラシ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7285832号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7285832号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)年5月29日(優先権主張平成30年5月31日)を国際出願日とする出願であって、令和5年5月25日に特許権の設定登録がされ、令和5年6月2日に特許掲載公報が発行された。
これに対し、特許異議申立人渡邉規雄より、令和5年11月29日に、その請求項1~5に係る特許のうち、請求項1~4に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7285832号の請求項1~4の特許に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
植毛面に複数の植毛穴が設けられたヘッド部を含む樹脂製のハンドル体を備え、前記植毛穴のそれぞれに平線の打ち込みにより毛束が植設された植毛部が設けられている歯ブラシであって、
前記ヘッド部の厚みが2mm以上、4mm以下であり、
前記植毛面に設けられた植毛穴の総数に対する、直径が1.8mm以上の植毛穴の合計数の割合が10~80%であり、
前記ヘッド部の正面視での前記植毛部の領域aにおける、前記植毛面から背面に向かって深さ1mmまでの領域Aに占める前記植毛穴の体積の総和をVA(mm3)、前記背面から前記植毛面に向かって深さ1mmまでの領域Bに占める樹脂部分の体積をVB(mm3)としたとき、
VA/VBが0.50以上、1.00以下である、歯ブラシ。
【請求項2】
前記領域Aにおける正面視での1cm2あたりの前記植毛穴の体積の割合が、35mm3/cm2以上、60mm3/cm2以下である、請求項1に記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記領域Bにおける正面視での1cm2あたりの樹脂部分の体積の割合が、65mm3/cm2以上、85mm3/cm2以下である、請求項1又は2に記載の歯ブラシ。
【請求項4】
ヘッド部の輪郭によって囲まれ、前記ヘッド部の正面視での最も先端寄りの前記植毛穴の先端に接する短軸方向の直線から、最も後端寄りの前記植毛穴の後端に接する短軸方向の直線までの領域bにおける、前記植毛面から深さ1mmの領域Cに占める前記植毛穴の体積の総和をVC(mm3)、背面から深さ1mmの領域Dに占める樹脂部分の体積をVD(mm3)としたとき、
VC/VDの値がVA/VBの値の0.60倍以上、0.85倍以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯ブラシ。」
第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人(以下、「申立人」という。)が主張する特許異議の申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 理由(進歩性違反)
本件発明1~4は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、請求項1~4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2008-154808号公報
甲第2号証:特開2011-4852号公報
甲第3号証:「日本工業規格 歯ブラシ JIS S 3016-1995」財団法人日本規格協会、平成7年6月1日 第2刷発行
(以下、各甲号証を証拠番号に従って、「甲1」などという。)
第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項並びに各甲号証に記載された発明又は技術事項
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項(下線は理解のために当審で付したものである。以下、同様。)
(ア)「【請求項1】
植毛面に複数の植毛穴が設けられたヘッド部を備え、この植毛面の各植毛穴に刷毛の毛束が植毛されてなる歯ブラシであって、
前記ヘッド部の長手方向に沿って中央に、内径が2.0~2.8mmの範囲からなる植毛穴に植設された刷毛の毛束列を少なくとも1列配設し、
前記中央毛束列の両外側に、前記中央毛束列の植毛穴よりも小さく、内径が1.2~1.6mmの範囲からなる植毛穴に植設された刷毛の毛束列を少なくとも1列ずつ配設し、
前記中央植毛穴の総面積と前記両外側植毛穴の総面積の比率が1:0.6~1:2.8の範囲であることを特徴とする歯ブラシ。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシに関し、詳しくは、色素着色汚れであるステインを除去するのに効果的な歯ブラシに関する。」
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の歯ブラシの実施形態について、図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施の形態に限定されない。
図1は、本発明の第1の実施形態である歯ブラシにおけるヘッド部1の平面説明図であり、図2は図1に示すヘッド部1のA-A‘線断面図である。」
(エ)「【0011】
本発明の歯ブラシは、ヘッド部1と、首部2を介してヘッド部1と連結されたハンドル部(図示せず)を備えている。ヘッド部1は、口腔内を清掃しやすい形状で、厚みが例えば2~6mm程度に形成されればよく、ハンドル部は把持しやすい形状に形成されていればよい。
ヘッド部1やハンドル部は、例えば硬質樹脂による一体成形により形成されるのが一般的であるが、ハンドル部には、さらにエラストマーなどの柔軟な樹脂を部分的にあるいは全体に形成し、把持性を向上させてもよいし、携帯用にハンドル部が折りたたみできる構造になっていてもよい。
また、電動歯ブラシなどのように、ヘッド部1とハンドル部が分断された組み立て式になっていてもよいし、ヘッド部1はハンドル部が付属していない交換用ヘッドとしても用いることができる。」
(オ)「【0012】
ヘッド部1やハンドル部の形成素材は、特に限定されないが、具体的に例示すれば、熱可塑性樹脂として、曲げ弾性率500~3000MPa(JIS K7203またはK7171準拠)のものが好ましく、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、PBT、PTTなど)、ポリカーボネート(ポリエステルとのブレンドを含む)、ポリアリレート(ポリエステルとのブレンドを含む)、ポリオキシメチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、セルロースプロピオネート、ポリアミド(ナイロン)、ポリウレタン、PMMA樹脂などの材料を用いることができるが、価格や加工性の点からポリプロピレンが好ましい。」
(カ)「【0014】
ヘッド部1の植毛面3には、ヘッド部の長手方向に沿って中央に大径植毛穴4が少なくとも1列穿設され、その両外側には大径植毛穴4よりも小さい小径植毛穴5が少なくとも1列ずつ穿設される。大径植毛穴4には中央列毛束6が、小径植毛穴5には両外側列毛束7が、それぞれの穴の大きさに合わせて微細な刷毛を多数束ねて植設される。」
(キ)「【0015】
植毛穴の内径は、一般に、植毛される刷毛の本数と相関があるので、毛束の硬さや使用感に影響するが、植毛する際に用いる刷毛径や歯ブラシの状態での各毛束の刷毛長(植毛面から刷毛先端までの距離)によって使用感はある程度調整可能ではある。
大径植毛穴4の内径は、2.0~2.8mmの範囲であって、2.3~2.5mmの範囲が好ましい。2.0mm未満であると、中央列毛束6の毛腰の強さが十分得られず、2.8mmを超えると中央列毛束6の毛腰が強くなりすぎて清掃しにくくなる。
小径植毛穴5の内径は、大径植毛穴4の内径よりも小さく、1.2~1.6mmの範囲であって、1.3~1.4mmの範囲が好ましい。1.2mm未満であると、両外側列毛束7の毛腰が弱くなりすぎて、毛先が開きやすく耐久性に問題が生じ、1.6mmを超えると、両外側列毛束7がしなりにくく歯間に毛先が入りにくくなる。
大径植毛穴4の間隔は、0.3~0.7mmの範囲が好ましく、小径植毛穴5の間隔は0.7~2.3mmの範囲であって、より好ましくは0.9~1.5mmの範囲である。
大径植毛穴4の間隔を前記の範囲とすることで、中央列毛束6を連続した毛束群として感じることができ、程良い歯面の刷掃実感を得ることができる。
小径植毛穴5に前記範囲のように適度な毛束間隔を設けることで、外側列毛束7が撓んで自由に動くことができ、心地よい刷掃感を感じることができる。」
(ク)「【0016】
毛束の配列は、通常は円形断面の毛束として格子状や千鳥状に配列され、毛束の断面形状の組み合わせや配列の組み合わせを目的に応じて適宜選択することができる。
大径植毛穴4に植設される中央毛束列は、1列であっても複数列であってもよく、小径植毛穴5に植設される両外側毛束列も1列であっても、複数列であってもよい。
好ましくは、中央の大径植毛穴4の毛束列が1列で、外側の小径植毛穴5の毛束は、植毛面3の先端部が1列であって、中央部や後端部は2列ずつになるよう、ヘッド部1の形状に合わせて配設されるとよい。このような配設にすればヘッドの先端がスリムな形となり、口の奥側まで歯ブラシを挿入し易く、口腔内での操作性が向上する。」
(ケ)「【0017】
植毛面3において、毛束の植毛されている領域の全体植毛面積(JIS S 3016:植毛面積)は、子供用では小さく、大人用では大きくなるが、一般的には0.5cm2程度から3cm2程度とされている。また、ヘッド部1の大きさについても、一般的には毛束が植毛されている領域(植毛面積)の周囲に、縁幅0.5~1mm程度を加えた大きさとされている。・・・(後略)・・・」
(コ)「【0025】
中央列毛束6や両外側列毛束7をヘッド部1の植毛面3に植設する方法としては、従来技術の方法でヘッド部1に固定することができ、例えば平線(真鍮、ステンレス、硬質樹脂、などの抜け止め部材)で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、毛束の一端を熱などの手段により結合し、結合部が金型内にある状態でヘッド部1に樹脂を充填し固定するインモールド植毛(例えば、特開昭61-268208、特表平9-512724などを参照)、毛束の一端とヘッド部1を熱などの手段で溶融結合する熱融着植毛(例えば、特開昭60-241404を参照)などで行うことができる。」
(サ)「【実施例】
【0028】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
「実施例1~5、比較例1~6」
表1および表2に示す植毛穴径、植毛穴総面積比、毛切り形状、用毛断面形状からなるように、実施例1~5および比較例1~6の歯ブラシを作製した。」
(シ)「【0029】
【表1】
[図:0001407888000001.jpg]
」
(ス)甲1には、以下の図が示されている。
「【図1】
[図:0001407888000002.jpg]
」
イ 甲1の記載から把握できる事項
甲1の記載から、以下の事項が把握できる。
(ア)甲1に記載の歯ブラシは、植毛面3に複数の中央植毛穴4と両外側植毛穴5(以下、まとめて「植毛穴4、5」ともいう。)が設けられたヘッド部1とハンドル部(図示なし)とを樹脂により一体成形した歯ブラシである(請求項1、段落0001、0010~0012、0014~0016、図1等)。
(イ)毛束をヘッド部1の植毛面3に植設する方法として、平線で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、毛束の一端を熱などの手段により結合して結合部が金型内にある状態でヘッド部1に樹脂を充填し固定するインモールド植毛、又は、毛束の一端とヘッド部1を熱などの手段で溶融結合する熱融着植毛がある(段落0025)。
(ウ)ヘッド部1の厚みは2から6mm程度である(段落0011)。
(エ)ヘッド部1に毛束の植毛されている領域の全体植毛面積(JIS S3016:植毛面積)は、0.5cm2(50mm2)程度から3cm2(300mm2)程度である(段落0017)。
(オ)段落0028、0029の実施例のうち、段落0029「表1」の「実施例3」(以下、単に「実施例3」という。)から、内径2.0mmの中央植毛穴4が6個と、内径1.6mmの両外側植毛穴5が24個との、合計30個の植毛穴4、5が形成された歯ブラシが把握できる。
[図:0001407888000003.jpg]
(カ)実施例3の植毛穴4、5の面積等は、各植毛孔の内径と個数から求めると下表のとおりである。
[図:0001407888000004.jpg]
(キ)実施例3の植毛穴4、5の総面積である67mm2は、段落0017に記載の植毛面積(50mm2程度から300mm2程度)の下限値である50mm2より大きい。
また、植毛穴4、5間には間隔があり、植毛穴4、5間に隙間がある(段落0015、実施例3の図(下図))。
[図:0001407888000005.jpg]
そうすると、実施例3の植毛面積(植毛穴の外側を直線で結んだ部分の面積)は、「植毛穴の総面積(67mm2)」+「植毛穴間の隙間の面積」の合計である。実施例3の図からも植毛穴間の隙間の面積は0ではないから、実施例3の植毛面積は植毛穴の総面積(67mm2)を大きく超える面積となるが、実施例3では植毛穴間の隙間の面積は不明である。
このため、便宜上、植毛穴間の隙間の面積を0と仮定して実施例3の植毛面積の下限値を植毛穴の総面積である67mm2とすると、実施例3の植毛面積は「67mm2から300mm2」の範囲となる。
すなわち、実施例3では、67mm2から300mm2の植毛面積に対して、総面積67mm2の植毛穴4、5が形成されていることとなる。
(ク)ヘッド部1の厚みは2から6mmである(段落0011)ため、実施例3にて、ヘッド部1の植毛面積の対象範囲における、植毛面3から背面に向かって深さ1mmまでの領域は、植毛面積67mm2から300mm2×深さ1mm=67mm3から300mm3である。
(ケ)また、実施例3にて、ヘッド部1の植毛面積の対象範囲における、背面から植毛面3に向かって深さ1mmまでの領域は、植毛面積67mm2から300mm2×深さ1mm=67mm3から300mm3である。
(コ)図1から、甲1にいう「平面視」とは、植毛面3に直交する上方向から見た状態である。
ウ 甲1に記載された発明
上記ア、イ(特に実施例3)から、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「植毛面3に、6個の直径2.0mmの中央植毛穴4と24個の直径1.6mmの両外側植毛穴5とが設けられたヘッド部1とハンドル部とが樹脂により一体成形され、平線で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、毛束の一端を熱などの手段により結合して結合部が金型内にある状態でヘッド部1に樹脂を充填し固定するインモールド植毛、又は、毛束の一端とヘッド部1を熱などの手段で溶融結合する熱融着植毛等により毛束が植毛されている領域が設けられている歯ブラシであって、
前記ヘッド部1の厚みが2mmから6mm程度であり、
前記ヘッド部1を植毛面3に直交する上方向から見てJIS S3016に規定の植毛面積は67mm2から300mm2であり、前記植毛面積の対象範囲における、前記植毛面3から背面に向かって深さ1mmまでの領域は67mm3から300mm3であり、前記背面から前記植毛面3に向かって深さ1mmまでの領域は67mm3から300mm3である、歯ブラシ。」
(2)甲2の記載事項並びに甲2に記載された発明及び技術事項
ア 甲2の記載事項
(ア)「【請求項1】
植毛面に複数の植毛穴が設けられたヘッド部を備え、刷毛の毛束を二つ折りにし、その間に挟み込まれた平線を前記植毛穴に打ち込むことによって、前記毛束が前記植毛穴に植設されてなる歯ブラシであって、
前記ヘッド部が、ポリアセタール樹脂又はポリブチレンテレフタレート樹脂からなり、
前記ヘッド部の厚さが、2mm以上3mm未満であることを特徴とする歯ブラシ。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシの改良に関する。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態である歯ブラシについて、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の歯ブラシ1は、全体が長尺状に構成されており、ハンドル部2と、ハンドル部2の先端側に設けられたヘッド部3と、ハンドル部2とヘッド部3との間に設けられたネック部4と、ヘッド部3に植毛された刷毛5とから概略構成されている。」
(エ)「【0019】
ハンドル部2は、使用者が把持する部分であり、硬質樹脂材料や軟質樹脂材料によって成形されている。硬質樹脂材料としては、曲げ弾性率が500~3000Mpa、好ましくは1000~2000Mpaのポリアセタール樹脂(POM)や、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン樹脂(PP)ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、セルロースプロピオネート樹脂(CP)、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)などの材料が挙げられる。」
(オ)「【0023】
ヘッド部3は、厚さtが2mm以上3mm未満で構成されている。厚さtが3mm以上だと、従来の歯ブラシと同様な使用感になり、高い口腔内操作性を実感できない。また、厚さtを2mm未満とすると、後述する平線6で毛束7を保持するのに十分な植毛穴8の深さを確保することができなくなる。その結果、十分な植毛強度が確保できず、ブラッシング時に毛束が抜けてしまう恐れがある。また、ヘッド部3の耐折強度も低くなるため、歯磨の最中にヘッド部3が折損し、手指や口腔内を傷つける恐れがある。なお、ヘッド部3は、先端からネック部4にかけて同一の厚さでも良いが、ヘッド部3の背面3aの面積の三分の二以上の厚さが、この範囲に入っていれば良く、背面3aに凸状部を配置してネック部4に自然につながるような形態とすることもできる。」
(カ)「【0027】
また、図2ないし図4に示すように、ヘッド部3の一面である植毛面3bには、刷毛5の毛束7を植設するための複数の植毛穴8が、ヘッド部3の長さ方向と幅方向とに列をなして設けられている。なお、図2及び図3は、刷毛5を省略して図示している。
【0028】
植毛穴8の横断面形状は、円形で、格子状や千鳥状に10~40程度配列されている。
植毛穴8の横断面積に特に制限はないが、0.75~3.1mm2(植毛穴の直径dが1.0mm~2.0mm)の範囲内にあることが好ましい。この範囲に構成することで、歯グキへの当たり心地がよくなり、歯間部など細かい隙間への毛先の挿入実感が高まる。」
(キ)「【0031】
また、植毛面積(毛束が配されている植毛面の外周に位置する毛束の外側を直線で結んだ面積/JIS3016準拠)に対する植毛穴8の断面積の総和の割合を植毛密度としたとき、植毛密度は、25~55%の範囲であることが好ましい。
この範囲に構成することで、適度な刷掃実感と歯間部などの細かい隙間への毛先の挿入実感を確保することが出来る。」
(ク)「【0041】
また、歯ブラシ1は、平線6の長さw、平線6の幅h、植毛穴8の直径d、植毛穴8の深さDについて、(w-d)×h×Dの値が、0.9以上2.5以下になるように構成されている。この値が0.9未満の場合は、十分な植毛強度を確保することができず、使用中に毛束が抜け落ち易くなるという不都合があり、2.5を超える場合は、ヘッド部3の亀裂・白化や反りが発生することとなり好ましくない。」
(ケ)「【0043】
また、歯ブラシ1は、平線の長さをw、平線の幅をh、植毛穴の直径をd、植毛穴の深さをDとしたとき、0.9≦(w-d)×h×D≦2.5の関係を満足するように構成されている。これにより、使用中にも刷毛5が抜けることがなくなり、ヘッド部3の亀裂・白化や反りが発生するのを防ぐことができ、植毛強度及びヘッド部3の耐折強度がより高まる。」
(コ)「【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。」
(サ)「【0053】
【表2】
[図:0001407888000006.jpg]
」
(シ)甲2には、以下の図が示されている。
「【図2】
[図:0001407888000007.jpg]
【図4】
[図:0001407888000008.jpg]
」
イ 甲2の記載から把握できる事項
(ア)甲2には、植毛面3bに複数の植毛穴8が設けられたヘッド部3と、その先端側にヘッド部3が設けられた樹脂製のハンドル部2とを備え、前記植毛穴8のそれぞれに平線の打ち込みにより毛束7が植設された歯ブラシ1が記載されているといえる(請求項1、段落0001、0018、0019、0027)。
(イ)歯ブラシ1のヘッド部3の厚さtは2mm以上3mm未満である(段落0023)。
(ウ)植毛穴8の横断面積は0.75~3.1mm2(植毛穴の直径dが1.0mm~2.0mm)が好ましい(段落0028)。
(エ)植毛面積(毛束が配されている植毛面の外周に位置する毛束の外側を直線で結んだ面積/JIS3016準拠)に対する植毛穴8の断面積の総和の割合である植毛密度は25~55%の範囲であることが好ましい(段落0031)。
(オ)段落0045以下の実施例のうち、段落0053の表2には、実施例4としてヘッド部厚さ2.8mm・穴深さ2.3mm・穴径1.6mmの例が記載されており、実施例7としてヘッド部厚さ2.8mm・穴深さ2.3mm・穴径2.0mmの例が記載されている。下に表2中の実施例4と実施例7のヘッド部厚さ・穴深さD・穴径d等を抜粋して示す。
[図:0001407888000009.jpg]
(カ)植毛穴8の横断面形状は円形であるため、上記表1に示す穴径d(1.6mm、2.0mm)は、穴の直径である(段落0028)。
ウ 甲2に記載された発明及び技術事項
上記ア、イ(特に実施例4、7)から、甲2には、以下の発明及び技術事項(以下、それぞれ「甲2発明」及び「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲2発明
「植毛面3bに複数の植毛穴8が設けられたヘッド部3と、その先端側にヘッド部3が設けられた樹脂製のハンドル部2とを備え、前記植毛穴8のそれぞれに平線の打ち込みにより毛束7が植設された歯ブラシ1であって、
前記ヘッド部3の厚みが2.8mmであり、
前記植毛穴8の深さが2.3mmであり、
前記植毛穴8の直径が2.0mmまたは1.6mmである歯ブラシ1。」
(イ)甲2事項
「植毛面積(毛束が配されている植毛面の外周に位置する毛束の外側を直線で結んだ面積/JIS3016準拠)に対する植毛穴の総面積の割合である植毛密度は25から55%が好ましい。」
(3)甲3の記載事項及び甲3に記載された技術事項
ア 甲3の記載事項
(ア)(第1ページ)「2.用語の定義 この規格で用いる主な用語の定義は、次のとおりとする。
・・・(中略)・・・
(6)植毛面積 植毛穴の外側を直線で結んだ部分の面積(図2参照)。
[図:0001407888000010.jpg]
」
イ 甲3に記載された技術事項
上記アから、甲3には、以下の技術事項(以下、「甲3事項」という。)が記載されていると認められる。
「JIS S 3016に規定する「植毛面積」は「植毛穴の外側を直線で結んだ部分の面積」をいう。」
2 本件発明について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「植毛面3に、6個の直径2.0mmの中央植毛穴4と24個の直径1.6mmの両外側植毛穴5とが設けられたヘッド部1とハンドル部とが樹脂により一体成形され」た構成は、本件発明1の「植毛面に複数の植毛穴が設けられたヘッド部を含む樹脂製のハンドル体」に相当する。
また、甲1発明の「前記中央植毛穴4、両外側植毛穴5のそれぞれに、平線で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、毛束の一端を熱などの手段により結合して結合部が金型内にある状態でヘッド部1に樹脂を充填し固定するインモールド植毛、又は、毛束の一端とヘッド部1を熱などの手段で溶融結合する熱融着植毛等により毛束が植毛されている領域が設けられている」は、本件発明1の「前記植毛穴のそれぞれに平線の打ち込みにより毛束が植設された植毛部が設けられている」と、「前記植毛穴のそれぞれに毛束が植設された植毛部が設けられている」点で共通する。
(イ)甲1発明の「前記ヘッド部1の厚みが2mmから6mm程度」は、本件発明1の「前記ヘッド部の厚みが2mm以上、4mm以下」と、「前記ヘッド部の厚みが2mm以上」である点で共通する。
(ウ)甲1発明は、「直径2.0mmの中央植毛穴4」が「6個」であり、「直径1.6mmの両外側植毛穴5」が「24個」であって、中央植毛穴4、両外側植毛穴5の総数30個に対する、直径2.0mmの中央植毛穴4の合計数6個の割合(6個/30個×100%)は20%すなわち10~80%の範囲内であるから、この点は、本件発明1の「前記植毛面に設けられた植毛穴の総数に対する、直径が1.8mm以上の植毛穴の合計数の割合が10~80%」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点]
「植毛面に複数の植毛穴が設けられたヘッド部を含む樹脂製のハンドル体を備え、前記植毛穴のそれぞれに毛束が植設された植毛部が設けられている歯ブラシであって、
前記ヘッド部の厚みが2mm以上であり、
前記植毛面に設けられた植毛穴の総数に対する、直径が1.8mm以上の植毛穴の合計数の割合が10~80%である、歯ブラシ」
[相違点1]
植毛穴のそれぞれに毛束が植設される手段について、本件発明1は、「平線の打ち込みによ」るのに対し、甲1発明は、「平線で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、毛束の一端を熱などの手段により結合して結合部が金型内にある状態でヘッド部1に樹脂を充填し固定するインモールド植毛、又は、毛束の一端とヘッド部1を熱などの手段で溶融結合する熱融着植毛等によ」る点。
[相違点2]
ヘッド部の厚みについて、本件発明1は、「2mm以上、4mm以下であ」るのに対し、甲1発明は、「2mmから6mm程度」である点。
[相違点3]
本件発明1は、「前記ヘッド部の正面視での前記植毛部の領域aにおける、前記植毛面から背面に向かって深さ1mmまでの領域Aに占める前記植毛穴の体積の総和をVA(mm3)、前記背面から前記植毛面に向かって深さ1mmまでの領域Bに占める樹脂部分の体積をVB(mm3)としたとき、VA/VBが0.50以上、1.00以下である」のに対し、甲1発明は、植毛穴4、5の深さが不明なため、本件発明1でいう「領域Aに占める前記植毛穴の体積の総和をVA(mm3)」、「領域Bに占める樹脂部分の体積をVB(mm3)」の数値がそれぞれ不明であり、「VA/VBが0.50以上、1.00以下である」かどうかも不明な点。
イ 判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
(ア)上記相違点3に関し、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】~【0047】、【0057】及び【0058】には、次の記載がある。
「【0046】
植毛時のヘッド部の反りが抑制される要因は、以下のように考えられる。
平線式植毛においては、植毛穴に対して穴を広げようとする力が働く。そのため、歯ブラシの側面視において、ヘッド部とネック部の連結部分からヘッド部の先端にかけて背面側に漸次下降するアーチ状の反りが形成されやすい。この穴を広げようとする力は植毛面に近いほど大きく、また植毛穴の体積が大きいほど、周囲の樹脂部分のより広い領域まで影響するため、反りが起こりやすくなる。またヘッド部が反る際、ヘッド部の背面寄りの部分では、樹脂部分を圧縮する力が生じる。そのため、樹脂体積が大きいほど、反りが生じにくくなる。VA/VBを上記範囲に制御し、植毛面寄りの植毛穴の体積と背面寄りの樹脂部分の体積を適切な範囲に調節することで、平線の打ち込みによる植毛時のヘッド部の反りが抑制される。
【0047】
さらに、毛束の抜けが抑制される要因は、以下のように考えられる。
平線式植毛においては、植毛穴の穴径が大きいほど、毛束を植設したときに平線下の毛束折り返し部分が太くなるため、平線を植毛穴深さの方向に深く打ち込むことが困難となり、毛束の抜けが起こりやすくなる。毛束の抜けを抑制するためには、植毛穴の穴深さを深くする方法が考えられるが、それによる背面厚みの縮小はヘッド部の強度低下に繋がる。以上から、毛束の抜けを抑制するためにはVA/VBの適切な範囲が存在する。」
「【0057】
【表2】
[図:0001407888000011.jpg]
【0058】
表2に示すように、ヘッド部の厚み、割合P及びVA/VBを本発明で規定する範囲に制御した実施例1~5の歯ブラシは、ヘッド部の反りが抑制されていた。また奥歯の清掃実感、歯茎のマッサージ実感が高く、毛束が抜けにくかった。
直径1.8mm以上の大径の植毛穴がない比較例1の歯ブラシでは、実施例に比べて歯茎へのマッサージ実感が不足していた。VA/VBが大きすぎる比較例2の歯ブラシでは、ヘッド部の反りを抑制できなかった。VA/VBが小さすぎる比較例3の歯ブラシでは、毛束が抜けやすかった。ヘッド部の厚みが厚すぎる比較例4では、実施例に比べて奥歯の清掃しやすさが不足していた。」
そうすると、本件発明1の相違点3に係る発明特定事項は、ヘッド部の正面視での植毛部の領域aにおける、植毛面から背面に向かって深さ1mmまでの領域Aに占める植毛穴の体積の総和をVA(mm3)、背面から植毛面に向かって深さ1mmまでの領域Bに占める樹脂部分の体積をVB(mm3)としたとき、VA/VBを0.50以上、1.00以下にすることにより、平線式植毛における、植毛時のヘッド部の反り及び毛束の抜けが抑制される歯ブラシを提供するという技術思想に基づいて、設けられたものである。
(イ)一方、甲1~甲3のいずれにも、このような技術思想は記載されていない。
甲1発明は、中央植毛穴4、両外側植毛穴5のそれぞれに、平線で毛束を2つ折りにして植毛する平線植毛、インモールド植毛、又は、熱融着植毛により毛束の植毛されている領域が設けられているものである(相違点1参照)が、甲1には、平線式植毛における植毛時のヘッド部の反り及び毛束の抜けを抑制するという課題は開示されておらず、VA/VBを0.50以上、1.00以下にすることの動機付けとなるような記載も見あたらない。
また、甲2発明は、植毛穴8のそれぞれに平線の打ち込みにより毛束7が植設された歯ブラシ1であり、甲2の段落0041、0043(上記1(2)ア(ク)及び(ケ))には、平線植毛におけるヘッド部の反りと毛束の抜けを抑制するという課題は記載されているものの、当該課題を解決するためにVA/VBを0.50以上、1.00以下にすることは記載も示唆もされていない。
加えて、甲3事項は、JIS S 3016に規定する「植毛面積」の定義であって、上記技術思想を開示するものではないことは明らかである。
したがって、平線式植毛における、植毛時のヘッド部の反り及び毛束の抜けが抑制される歯ブラシを提供するために、VA/VBを0.50以上、1.00以下にするという技術思想が、甲1~甲3のいずれにも何ら記載も示唆もされていない以上、甲1発明において、VA/VBとして、特に0.50以上、1.00以下の範囲を選択することは、当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。
そして、上記(ア)に示したように、本件発明1は、実験結果に基づきヘッドの反りと毛束の抜けにくさの評価を行い、VA/VBについて特定しているのであり、上記相違点3に係る発明特定事項により、ヘッド部の反り及び毛束の抜けが抑制されるという顕著な作用効果を奏するものである。一方、甲1~甲3には、VA/VBを0.50以上、1.00以下にすることによる作用効果は何ら示唆されていないから、本件発明1の前記した顕著な作用効果は、甲1発明、甲2発明、甲2事項及び甲3事項の奏する作用効果から、当業者といえども予測できるものではない。
ウ 申立人の主張に対して
(ア)上記相違点3について、申立人は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の「3.申立ての理由」「(1)申立ての理由の要約」「1.本件発明1について」において、
『(2)甲2には、甲2事項1として「歯ブラシのヘッド部3の厚さtが2.8mmであり、直径2.0mmで深さ2.3mmの植毛穴と、直径1.6mmで深さ2.3mmの植毛穴がある。」が記載されている。
(3)これを甲1発明1に適用すると「VA(mm3)」=「67(mm3)」「VB(mm3)」=「33.5から266.5(mm3)」となって「VA/VB」は「0.25から2.00」となり、本件発明1の「VA/VBが0.50以上、1.00以下」の数値範囲を含む。
また、甲2事項2の「植毛面積(毛束が配されている植毛面の外周に位置する毛束の外側を直線で結んだ面積/JIS3016準拠)に対する植毛穴の総面積の割合である植毛密度は25から55%が好ましい」の記載に基づくと甲1発明1の好ましい植毛面積は、122mm2から268mm2となり、「VB」は「88.5から234.5」となる。
この結果、「VA/VB」は「0.29から0.76」となって、本件発明1の「VA/VBが0.50以上、1.00以下」とは、0.50から0.76の数値範囲で一致する。
(4)甲1発明1と甲2事項1・甲2事項2は、当業者を含む技術分野、歯ブラシのヘッド部の厚さ、対象の植毛穴の径、使用する材料等で共通しており、甲2事項1、甲2事項2を甲1発明1に適用する動機付けがある。』
旨主張する(申立書3頁下から21~1行)とともに、申立書27頁下から5行~32頁上から22行(空白行を含まない。)において、その具体的理由について説明している。また、申立書32頁下から5行~33頁上から7行において、「甲1発明1に甲2事項1、更には甲2事項2を適用した構成(本件発明1に係る構成)においても同様に、本件発明1の効果を奏する。」旨主張している。
(イ)上記イ(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できないが、念のため仮に申立人が主張するように、「甲2事項1、甲2事項2を甲1発明1に適用する」場合について、以下検討しておく。
(ウ)まず、申立書28~30頁には、『甲1発明1に甲2事項1を適用して算出した「VA/VB」』の導出過程とともに、以下の表が示されている。
「
[図:0001407888000012.jpg]
[図:0001407888000013.jpg]
[図:0001407888000014.jpg]
[図:0001407888000015.jpg]
」
このように、「甲1発明1に甲2事項1を適用して」「VA/VB」を「算出した」としても、ただちに「0.50以上、1.00以下」の値をとり得るものではない。
更に、申立書31頁には、「甲1発明1に甲2事項1、更には甲2事項2を適用」して算出した「VA/VB」の導出過程とともに、以下の表が示されている。
「
[図:0001407888000016.jpg]
[図:0001407888000017.jpg]
[図:0001407888000018.jpg]
」
つまり、「甲1発明1」に「甲2事項2」を更に適用するにあたり、「好ましい植毛密度」として「55%」を採用したときは「VA/VB」が「0.76」となって、本件発明1の数値範囲(0.50以上、1.00以下)内となるが、「好ましい植毛密度」として「25%」を採用したときは「VA/VB」が「0.29」となり本件発明1の数値範囲外となる。したがって、「甲1発明1」に「甲2事項2」を適用したとしても、必ずしも「VA/VB」を「0.50以上、1.00以下」の数値範囲とすることが得られるものではない。
そして、「VA/VB」を「0.50以上、1.00以下」の数値範囲とするには、「甲2事項2」の植毛密度として55%かその近傍の値を採用することが必要であるが、上記イ(イ)で述べたとおり、甲2には、平線植毛におけるヘッド部の反りと毛束の抜けを抑制するという課題を解決するためにVA/VBを0.50以上、1.00以下にすることは記載も示唆もされていない。そのため、「甲1発明1」に「甲2事項2」を適用するにあたって「好ましい植毛密度」として「55%」またはその近傍の値を採用することに積極的な理由は存在しない。
また、同じく上記イ(イ)で言及したとおり、本件発明1は、実験結果に基づきヘッドの反りと毛束の抜けにくさの評価を行い、VA/VBについて特定したものであり、上記相違点3に係る発明特定事項により、ヘッド部の反り及び毛束の抜けが抑制される優れた歯ブラシを提供しているものと認められるから、この数値の限定を設計的事項ということもできない。
したがって、仮に「甲2事項1、甲2事項2を甲1発明1に適用」できたとしても、上記相違点3に係る本件発明1の構成となすことは当業者が容易に想到し得たことではなく、申立人の主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2発明、甲2事項及び甲3事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(2)本件発明2、3又は4について
本件発明2、3又は4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2、3又は4は、前記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、甲2発明、甲2事項及び甲3事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものということはできず、同法第113条第2号により取り消すことができない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、申立書に記載された特許異議申立の理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701257