特許異議申立
2023-701228
ポリエステル系樹脂、接着剤組成物及び接着剤
- 審判番号
- 2023-701228
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-165382
- 登録番号
- 7279843
- 請求日
- 2023年11月20日
- 審決日
- 2024年03月06日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】小林 瞳
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7279843号発明「ポリエステル系樹脂、接着剤組成物及び接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7279843号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、令和3年9月15日(優先日 令和2年9月18日)に出願した特願2021-149901号の一部を、令和4年10月14日に特願2022-165382号として分割出願したものであって、令和4年11月18日付けで拒絶理由が通知され、令和5年1月26日に期間延長請求書が提出され、同年3月24日に意見書の提出と共に手続補正がされ、同年4月5日付けで特許査定がされ、同年5月15日に特許権の設定登録がされ(請求項の数10)、同年5月23日に特許掲載公報が発行されたところ、特許異議申立人 小林 瞳(以下「申立人」という。)によって、全請求項(請求項1~10)に係る特許についての特許異議申立てがされたものである。
第2 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【請求項1】
多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃~40℃、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であることを特徴とするポリエステル系樹脂。
【請求項2】
多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を含むことを特徴とする請求項1記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
多価カルボン酸類及び多価アルコール類の少なくとも一方が、縮合多環式芳香族化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル系樹脂。
【請求項4】
非結晶性であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項6】
更に、硬化剤を含有することを特徴とする請求項5記載の接着剤組成物。
【請求項7】
硬化剤の含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、30重量部以下であることを特徴とする請求項5又は6記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の接着剤組成物が硬化されてなることを特徴とする接着剤。
【請求項9】
電子材料部材の貼り合せに用いられることを特徴とする請求項8記載の接着剤。
【請求項10】
電子材料部材が、フレキシブル銅張積層板、カバーレイ及びボンディングシートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の接着剤。」
2 本件明細書の記載
「【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記の(1)~(4)のポリエステル系樹脂が、本発明の目的に合致することを見出し、本発明を完成した。(1)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(2)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(3)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(4)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0030以下であるポリエステル系樹脂。」
「【0017】
〔多価カルボン酸類〕
多価カルボン酸類における多価カルボン酸としては、例えば、後述する芳香族多価カルボン酸;後述する酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物等の脂環族多価カルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族多価カルボン酸を挙げることができる。多価カルボン酸類は1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
多価カルボン酸類は、芳香族多価カルボン酸類を含有することが好ましい。芳香族多価カルボン酸類としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、オルソフタル酸等の単環式芳香族多価カルボン酸類;ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の多環式芳香族多価カルボン酸類;多環式芳香族多価カルボン酸類の中では、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の縮合多環式芳香族多価カルボン酸類やその誘導体(芳香族ジカルボン酸類)が挙げられる。また、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族オキシカルボン酸類等を挙げることができる。更に、ポリエステル系樹脂に分岐骨格や酸価を付与する目的で導入される3官能以上の芳香族カルボン酸類も上記の芳香族多価カルボン酸類に含まれる。3官能以上の芳香族多価カルボン酸類としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等が挙げられる。
これらのうちでも誘電特性の観点から、多環式芳香族多価カルボン酸類が好ましく、中でも縮合多環式芳香族多価カルボン酸類が特に好ましく、縮合多環式芳香族多価カルボン酸類の中でも、ナフタレンジカルボン酸ジメチルが特に好ましい。
また、単環式芳香族多価カルボン酸類の中ではテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチルが好ましい。
また、結晶性を下げて溶剤溶解後の安定性を確保するためには、複数種の多価カルボン酸類を使用することが好ましい。
【0019】
多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量は、25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。芳香族多価カルボン酸類の含有量が少なすぎると、湿熱環境下での長期耐久性が不充分となったり、低誘電正接に関して劣る傾向がある。」
「【0025】
本発明において、ポリエステル系樹脂を構成する化合物は、多価アルコール類としてダイマージオール類を含有することが好ましい。
ダイマージオール類としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等から誘導されるダイマー酸類(炭素数36~44のものを主とする)の還元体であるダイマージオール類、及びそれらの水素添加物等が挙げられる。なかでもポリエステル系樹脂の製造時におけるゲル化抑制の点から、水素添加物が好ましい。」
「【0039】
本発明においては、低誘電正接の点から、脂環含有量を高くすることも好ましい。
なお、前述のとおり、多価カルボン酸類としては芳香族多価カルボン酸類が湿熱環境下での長期耐久性、低誘電正接の観点から好ましいため、脂環骨格の導入は多価アルコール類側で行うことが好ましい。」
「【0046】
〔ポリエステル系樹脂の製造〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂は周知の方法により製造することができる。例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してポリエステル系樹脂を得て、更に酸価を導入することにより製造することができる。
【0047】
ポリエステル系樹脂に酸価を導入する方法としては、例えば、エステル化反応後や減圧重縮合後に酸付加によってカルボン酸を樹脂に導入する方法が挙げられる。酸付加にモノカルボン酸、ジカルボン酸、多官能カルボン酸化合物を用いると、エステル交換により分子量の低下が起こる可能性があり、カルボン酸無水物を少なくとも一つもった化合物を用いることが好ましい。上記カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、オルソフタル酸無水物、2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等の化合物等が挙げられる。
【0048】
ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、15モル%以上の酸付加を行うと、ゲル化を起こすことがある。酸付加の方法としては、バルク状態で直接付加する方法と、ポリエステル系樹脂を溶液化し付加する方法が挙げられる。バルク状態での反応は、速度が速いが、多量に付加するとゲル化が起こることがあり、かつ高温での反応になるので、酸素ガスを遮断し酸化を防ぐ等の注意が必要である。一方、溶液状態での付加は、反応は遅いが、多量のカルボキシ基を安定に導入することができる。
【0049】
また、側鎖にカルボキシ基を有するポリエステル系樹脂を得るに際しては、多価カルボン酸無水物を除く多価カルボン酸類と多価アルコール類とを共重合して得られる水酸基含有プレポリマーに、多価カルボン酸無水物を反応させる方法が生産性の点で好ましい。
【0050】
本発明においては、また、別の周知の方法、例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してプレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。
【0051】
多価カルボン酸類と多価アルコール類とのエステル化反応における温度は、通常180~280℃であり、反応時間は通常60分~8時間である。
【0052】
重縮合における温度は、通常220~280℃であり、反応時間は通常20分~4時間である。また、重縮合は減圧下で行うことが好ましい。
【0053】
解重合は、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を用いることが初期接着性の点から好ましい。酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類としては、例えば、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物、トリメシン酸等の化合物が挙げられる。好ましくは、分子量低下を抑制できる点から酸無水物基数が1である3価以上の多価カルボン酸類であり、例えば、トリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物等が挙げられ、特には低誘電正接の点からトリメリット酸無水物が好ましい。
解重合における温度は、通常200~260℃であり、反応時間は通常10分~3時間である。
【0054】
ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を20モル%を超えて用いて解重合を行うと、樹脂の分子量が大きく低下することがある。したがって、ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を20モル%以下用いて解重合を行うことが好ましく、より好ましくは1~15モル%、特に好ましくは2~10モル%、更に好ましくは3~8モル%を用いて解重合を行う。」
「【0055】
〔ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-5℃以上であり、好ましくは0~70℃、より好ましくは5~60℃、特に好ましくは10~50℃、更に好ましくは12~40℃、最も好ましくは15~30℃である。
ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、初期接着性やタックフリー性が不充分となる。なお、ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、初期接着性や屈曲性が不充分になる傾向がある。」
「【0059】
〔ポリエステル系樹脂のエステル結合濃度〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂のエステル結合濃度は、8mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは2~7.5mmol/g、更に好ましくは2.5~7mmol/g、特に好ましくは3~6.5mmol/g、殊に好ましくは3.5~6mmol/gである。
エステル結合濃度が高すぎると、低吸湿性が不充分となる傾向があり、エステル結合濃度が低すぎると、初期接着性が不充分となる傾向がある。」
「【0072】
(誘電正接(Df))
本発明に用いるポリエステル系樹脂の温度23℃、相対湿度50%RH環境下での周波数10GHzにおける誘電正接は、0.0050以下であり、好ましくは0.0045以下、より好ましくは0.0040以下、特に好ましくは0.0035以下、更に好ましくは0.0030以下、殊に好ましくは0.0025以下、最も好ましくは0.002以下である。上記誘電正接が高すぎると基板にした際の伝送損失が大きくなる。」
「【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0098】
芳香環含有量、脂環含有量、ガラス転移温度(℃)、酸価(mgKOH/g)、エステル結合濃度(mmol/g)、ピークトップ分子量(Mp)、重量平均分子量(Mw)、誘電特性、COOHに対するエポキシ基の当量については、本明細書の記載に従って測定を行なった。その他の物性の測定方法は次のとおりである。
【0099】
〔ダイマージオール含有量〕
ポリエステル系樹脂に対するダイマージオールの含有量(%)を示す。
【0100】
<ポリエステル系樹脂の製造>
以下の表1で記載する組成は、出来上がりの組成比(樹脂組成比)であり、得られたポリエステル系樹脂の各構成モノマー量の相対比(モル比)とその%である。
【0101】
〔ポリエステル系樹脂(A-1)の製造〕
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管の付いた反応缶に、多価カルボン酸類としてイソフタル酸(IPA)263.7部(1.5872モル)、トリメリット酸無水物(TMAn)3.1部(0.0161モル)、多価アルコール類としてビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物「ニューポールBPE-20」(BPE-20)(三洋化成工業社製)105.0部(0.3221モル)、エチレングリコール(EG)65.0部(1.0472モル)、ダイマージオール「プリポール2033」(P2033)(クローダ社製)234.5部(0.4431モル)、ネオペンチルグリコール(NPG)62.9部(0.6039モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を仕込み、内温が270℃となるまで2.5時間かけて昇温し、270℃で1.5時間、エステル化反応を行った。
次いで、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を追加し、系内を2.5hPaまで減圧し、2時間かけて重合反応を行った。
その後、内温を230℃まで下げ、トリメリット酸無水物(TMAn)15.8部(0.0822モル)を添加し230℃で1時間解重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(A-1)を得た。
【0102】
〔ポリエステル系樹脂(A-2~12、A'-1~2)の製造〕
樹脂組成を表1に記載のとおりになるよう変更した以外はA-1と同様にしてポリエステル系樹脂(A-2~12、A'-1~2)を得た。
【0103】
得られたポリエステル系樹脂の樹脂組成(成分由来の構造単位)及び諸物性を表2に示す。なお、表1中、各略称は以下のとおりである。
「NDCM」:ナフタレンジカルボン酸ジメチル
「TPA」:テレフタル酸
「IPA」:イソフタル酸
「DMI」:イソフタル酸ジメチル
「P1009」:ダイマー酸「プリポール1009」(クローダ社製)
「TMAn」:トリメリット酸無水物
「BPEF」:ビスフェノキシエタノールフルオレン
「BOPPEF」:ビスフェニルフェノキシエタノールフルオレン
「BPE-20」:ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物「ニューポールBPE-20」(三洋化成工業社製)
「TCD-DM」:トリシクロデカンジメタノール
「EG」:エチレングリコール
「2MPG」:2-メチルー1,3-プロパンジオール
「NPG」:ネオペンチルグリコール
「1.4BG」:1.4-ブタンジオール
「1.6HG」:1,6-ヘキサンジオール
「1.10DG」:1,10-デカンジオール
「P2033」:ダイマージオール「プリポール2033」(クローダ社製)
【0104】
【表1】
[図:0001409158000001.jpg]
【0105】
【表2】
[図:0001409158000002.jpg]
」
「【0106】
<硬化剤>
硬化剤として、以下のポリエポキシ系化合物を用意した。
・ポリエポキシ系化合物(B-1):フェノールノボラック型エポキシ樹脂「YDPN-638」(日鉄ケミカル&マテリアル社製)(エポキシ当量=177(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-2):グリシジルエーテル型特殊多官能エポキシ樹脂「jER-1031S」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=200(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-3):トリグリシジルパラアミノフェノール「jER-630」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=96(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-4):テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「jER-604」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=120(g/eq))
【0107】
<接着剤組成物の製造>
上記で得られたポリエステル系樹脂及び硬化剤を用いて、下記のとおり接着剤組成物を製造した。
【0108】
(実施例1)
上記で得られたポリエステル系樹脂(A-1)をトルエン/シクロヘキサン=4/1(重量比)混合溶媒で固形分濃度50%に希釈し、このポリエステル系樹脂(A-1)溶液(固形分として100部)に対し、ポリエポキシ系化合物(B-1)(固形分)を10部配合し、更にトルエン/シクロヘキサン=4/1(重量比)混合溶媒で固形分50%になるように希釈、撹拌、混合することにより、接着剤組成物を得た。
【0109】
(実施例2~7、比較例1~2)
実施例1において、表3に示すとおりの樹脂組成とした以外は同様にして、接着剤組成物を得た。
得られた接着剤組成物を用いて以下のとおり評価を行い、その結果を表3に示す。
【0110】
<積層体の作製>
上記で調製した接着剤組成物を厚み50μmのポリイミドフィルム「カプトン200H」(東レ・デュポン社製)にアプリケーターで塗布した後、120℃で5分間乾燥し、乾燥膜厚25μmの接着層を形成した。次に厚み30μmの圧延銅箔を上記接着層付きポリイミドフィルムの接着層面とラミネート(ラミネート条件:170℃、0.2MPa、送り速度1.5m/min)し、次いで160℃のオーブンで4時間熱処理、硬化させることで積層体を得た。
【0111】
〔初期接着力〕
上記で得られた積層体を1cm幅に切り出したものを試験片とした。両面テープを用いて試験片を厚み2mmのガラス板に固定し、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で剥離試験機を用いて、試験片の引張剥離強度を測定した(剥離速度:50mm/min、剥離角度:180°)。評価基準は下記のとおりとした。
◎:12N/cm以上
○:9N/cm以上、12N/cm未満
△:6N/cm以上、9N/cm未満
×:6N/cm未満
【0112】
〔湿熱耐久性〕
上記で得られた積層体を温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿機に入れ、所定時間後に取り出し、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に一晩静置した後、上記の初期接着力と同様にして、引張剥離強度を測定した。初期の接着力に対する湿熱処理後の接着力の百分率を「維持率」とした。
接着力の絶対値については初期接着力と同様の評価基準を用いて評価した。
接着力の維持率については下記の評価基準に基づいて評価した。
◎:維持率が80%以上
○:維持率が60%以上、80%未満
△:維持率が40%以上、60%未満
×:維持率が40%未満
【0113】
〔ゲル分率〕
上記で得られた接着層付きポリイミドフィルムを160℃で4時間熱処理し硬化させた後、4cm×4cmサイズに切り出した。これを200メッシュのSUS製金網で包み、メチルエチルケトン中に23℃×24時間浸漬し、浸漬前の接着剤重量に対する金網中に残存した不溶解の接着剤成分の重量百分率をゲル分率とした。
【0114】
【表3】
[図:0001409158000003.jpg]
【0115】
上記表1~3の結果より、本発明の要件を満たす製造例1~12のポリエステル系樹脂(A-1)~(A-12)は低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接に優れ、それらを用いて得られた実施例1~7の接着剤組成物は、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れるものである。
一方、比較製造例1のポリエステル系樹脂(A'-1)は低誘電正接に劣り、それを用いて得られた比較例1は硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性にも劣るものであった。また、比較製造例2のポリエステル系樹脂(A'-2)は低誘電率、低誘電正接に関して劣るものであった。」
第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~10は、甲1に記載された発明及び甲3~9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~10は、甲2に記載された発明及び甲3~9に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(明確性違反)
本件発明7~10は、不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証を提出した。甲第1号証~甲第9号証を、以下「甲1」~「甲9」ともいう。
甲第1号証:特開2010-116422号公報
甲第2号証:特開2015-187271号公報
甲第3号証:特開2014-185219号公報
甲第4号証:特開2003-183365号公報
甲第5号証:特開2002-3587号公報
甲第6号証:特開2002-47471号公報
甲第7号証:特開2011-74167号公報
甲第8号証:特開2005-200542号公報
甲第9号証:特開2009-249472号公報
第4 甲号証の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
ガラス転移点が30℃以下のポリエステル樹脂(A)と、ガラス転移点が50℃以上のポリエステル樹脂(B)とを含有し、樹脂(A)と樹脂(B)との配合比が(A)/(B)=90/10~50/50(質量比)であり、ポリエステル樹脂(B)が、酸成分として少なくともテレフタル酸とイソフタル酸とのどちらか一方を含有し、かつアルコール成分としてビスフェノール骨格を有する多価アルコールを1~70モル%含有していることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂組成物に関し、特に、電化製品や自動車関連製品などの配線材用の接着剤として用いることができるポリエステル樹脂組成物に関する。
・・・
【0004】
これらの特性を利用して、例えば、デジタル家電あるいは自動車用の配線材として利用可能なフレキシブルフラットケーブル等に、ポリエステル系接着剤が広く用いられている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガラス転移点の低いポリエステル樹脂とガラス転移点の高いポリエステル樹脂とを含有するとともに、銅やアルミニウム等の金属への密着性に優れかつUL60℃定格以上の耐熱型の、ポリエステル系のフレキシブルフラットケーブルに適した接着剤とすることができるポリエステル樹脂組成物に関して、主剤であるガラス転移点の低い方のポリエステル樹脂の接着性などの特徴を損ねることなく、アンチブロッキング性、耐熱性を飛躍的に向上できるようにすることを目的とする。」
「【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移点が30℃以下であることが必要であり、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移点が30℃を超えると、導体への接着強力が低下する。ガラス転移点の下限は特に規定されないが、-40℃以上であることが好ましく、-30℃以上であることがより好ましく、-20℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点が-40℃よりも低温であると、粘着性が強い樹脂となり取り扱いにくい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)は、結晶性であっても非晶性であっても、汎用有機溶剤に固形分濃度10質量%以上の濃度で溶解するのであれば差し支えない。ここで、汎用有機溶剤とは、非ハロゲン系、非エーテル系の溶剤のことをいい、たとえば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤;またはそれら溶剤を2種類以上混合したもの等を指す。ただし、上記で例示した個々の化合物だけに限定されるものではない。
・・・
【0023】
本発明に使用するポリエステル樹脂(B)は、ガラス転移点が50℃以上であることが必要である。このガラス転移点は、55℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、65℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることがもっとも好ましい。ガラス転移点が50℃未満では、アンチブロッキング性が低下する。すると、本発明のポリエステル樹脂組成物を接着剤として、基材フィルムに顔料などのフィラーと当該接着剤との混合物をコートして得られるインシュレーションフィルムを巻き取って保管する際に、ブロッキングを起こす可能性がきわめて高い。
・・・
【0025】
ポリエステル樹脂(B)は、酸成分として少なくともテレフタル酸とイソフタル酸とのどちから一方を含有することが必要である。テレフタル酸を含有することが好ましく、両方含有することがさらに好ましい。そのどちらも含有しないと、ガラス転移点や軟化点が下がり、耐熱性が下がるとともにアンチブロッキング性が低下する。テレフタル酸の含有量は、接着強度の点で、酸成分に対して20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。イソフタル酸の含有量は、アンチブロッキング性の点で、酸成分に対して80モル%未満であることが好ましく、60モル%未満であることがより好ましく、40モル%未満であることがさらに好ましい。
・・・
【0037】
本発明のポリエステル樹脂(B)を構成するモノマーとしては、酸成分としては、たとえばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシ-イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の多価カルボン酸またはその無水物を、必要に応じ用いてもよい。ただし、酸成分は、上記に限定されるものではない。
【0038】
また、上述の多価アルコール以外に用いることができるアルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオールなどを挙げることができる。中でも、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコールを好ましく用いることができる。」
「【0051】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、エポキシ樹脂、酸無水物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシナネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシナネート等のイソシアネート類およびそのブロックイソシアネート;ウレトジオン類、β-ヒドロキシアルキルアミド等の硬化剤;トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の硬化触媒;二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等の顔料;タルク;ポリエチレンワックス;パラフィンワックス;タッキファイヤー等を使用することができる。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂組成物は前述のように溶剤型接着剤とすることができるが、その溶剤型接着剤を公知のコーティング法で基材フィルムにコートし、乾燥することで、積層体を得ることができる。コーターとしては、例えば、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーターなどを用いることができる。これらのコーターを用いたコーティング法では、接着層の厚さを任意に制御することができる。また、複数回のコーティングによって接着性樹脂を積層してもよい。
【0053】
フレキシブルフラットケーブルは、たとえば次のようにして製造することができる。
すなわち、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルにて形成された肉厚10~200μm程度の基材フィルムに、本発明のポリエステル樹脂組成物を含む接着剤を2~100μm程度の乾燥肉厚になるように塗布し、80~150℃でフィルムを乾燥してインシュレーションフィルムを作成する。そして、2枚のインシュレーションフィルムの接着剤層の面どうしの間に、肉厚20~100μm程度のスズ鍍金銅等の導体を挟み込み、ヒートシーラーで150~180℃程度の温度で0.2~0.8MPaの圧力で1~20秒程度処理することで、フレキシブルフラットケーブルを製造することができる。」
「【実施例】
【0055】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、下記の方法によって測定した。
(1)ポリエステル樹脂の数平均分子量
GPC分析により求めた。詳しくは、島津製作所社製の送液ユニット LC-10ADvp型、および紫外-可視分光光度計 SPD-6AV型を使用した。検出波長は254nm、溶媒はテトラヒドロフランを用いた。ポリスチレン換算とした。
【0056】
(2)ガラス転移点(Tg)
JIS-K7121にしたがって、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製 ダイヤモンドDSC)を用いて10℃/minの昇温速度でスキャンさせたチャートから、ガラス転移点(Tg)(補外ガラス転移開始温度(℃))を読み取った。
・・・
【0070】
次にポリエステル樹脂の合成例を説明する。
[合成例A1]
テレフタル酸62モル%、イソフタル酸10モル%、セバシン酸28モル%、エチレングリコール53モル%、ネオペンチルグリコール47モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行った。次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A1)を得た。得られた樹脂(A1)は、数平均分子量が26000、Tgが9℃、酸価が2.5mgKOH/g、Tsが63℃であった。
【0071】
[合成例B1]
表2の組成になるように、原料をエステル化反応缶に投入した。それ以外はポリエステル樹脂(A1)の場合と同様にして、重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌し、ポリエステル樹脂(B1)を得た。得られた樹脂(B1)は、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であった。
【0072】
[合成例A2~A3、合成例B2~B13]
酸変性用の原料として無水トリメリット酸を使用している場合はB1に準じ、それ以外はA1に準じて、樹脂を合成した。
【0073】
ポリエステル樹脂(A1)~(A3)、ポリエステル樹脂(B1)~(B13)の詳細を表2に示す。
【0074】
【表2】
[図:0001409158000004.jpg]
」
「【0075】
実施例1
ポリエステル樹脂(A1)とポリエステル樹脂(B1)とを、表3に示す配合比率でガラス瓶に投入し、さらに、樹脂(A1)と樹脂(B1)との合計の樹脂固形分の濃度が30質量%になるように、トルエン:メチルエチルケトンが質量比で8:2である混合溶剤を投入した。次に瓶を密栓し、ペイントシェイカーを用いることにより、樹脂を溶剤に溶解させた。
【0076】
その結果、溶液は層分離しなかった。すなわち、溶液特性は良好(○)であった。この溶液にて形成される接着剤の導体接着強力は26N/25mm幅であり、導体接着性は優秀(◎)であった。60℃における導体接着強力は24N/25mm幅であり、したがって強度保持率は92%となり耐熱性は優秀(◎)であった。アンチブロッキング性は、剥離強力が4N/25mm幅と小さく、良好(○)であった。メディアン径は61μmであった。」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、無機充填材(B)、溶剤(C)、エポキシ樹脂(D)を含有する接着剤用樹脂組成物であって、
該熱可塑性樹脂(A)の酸価(単位:当量/106g)が100以上1000以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量が5.0×103以上1.0×105以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂(但し、フェノール性水酸基を150当量/106g以上有するポリエステル樹脂を除く)であり、
該エポキシ樹脂(D)がジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂であり、
該熱可塑性樹脂(A)と該無機充填材(B)を該接着剤用樹脂組成物における含有比率で合計25質量部含み、メチルエチルケトン52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤(但し、該熱可塑性樹脂(A)が前記濃度で前記混合溶剤に25℃において溶解しない場合は、前記混合溶剤に変えてジメチルアセトアミド52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤を用いる)を分散媒とする分散液(α)の揺変度(TI値)を測定したとき、液温25℃における揺変度(TI値)が3以上6以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)の酸価AV(β)(単位:当量/106g)と配合量AW(β)(単位:質量部)、エポキシ樹脂(D)のエポキシ価EV(γ)(単位:当量/106g)と配合量EW(γ)(単位:質量部)が以下に示す式(1)、
0.7≦{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}≦4.0 (1)
を満たす接着剤用樹脂組成物。」
「【0001】
本発明は各種プラスチックフィルムへの接着性や、銅、アルミ、ステンレスなどの金属への接着性、ガラスへの接着性、耐熱性、耐湿性、シートライフ等に優れた樹脂組成物、これを含有する接着剤、接着シートおよびこれを接着層として含むプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で接着剤は使用されているが使用目的の多様化により、従来使用されてきた接着剤よりも各種プラスチックフィルムへの接着性や、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属への接着性、ガラスエポキシへの接着性、耐熱性、耐湿性、シートライフ等、更なる高性能化が求められている。例えば、フレキシブルプリント配線板(以下FPCと略すことがある)をはじめとする回路基板用の接着剤としては、エポキシ/アクリルブタジエン系接着剤や、エポキシ/ポリビニルブチラール系接着剤等が使用されている。これらの回路基板用接着剤には、ハンダ耐熱性、接着性、加工性、電気特性、保存性が求められる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題はこれら従来の接着剤が抱えている各問題点を改良することであり、各種プラスチックフィルムや、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシへの接着性を維持しつつ、高湿度下での鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐湿熱性、高温高湿度下での接着性に優れた接着剤を提供すること、さらには前記接着剤から得たBステージの接着シートがたとえ高温高湿下で流通された後に使用されても良好な接着特性の維持が可能なシートライフが良好な接着剤シートを提供すること、にある。また、前記接着剤または接着シートから得られた接着層を含むプリント配線板を提供することにある。」
「【0021】
(ポリエステル系樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂(A)として用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、-10℃以上60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が-10℃未満だと、高温での接着性が不十分になる傾向がある。ガラス転移温度が60℃を超えると、基材との貼り合せが不十分になり、また常温での弾性率が高くなり、常温での接着性が不十分になる傾向がある。好ましくはガラス転移温度の下限は-5℃、より好ましくはガラス転移温度の下限は0℃、さらに好ましくはガラス転移温度の下限は5℃である。好ましい上限は55℃、より好ましい上限は50℃、さらに好ましい上限は45℃である。
【0022】
該ポリエステル系樹脂は、組成における全酸成分の合計量を100モル%としたとき、芳香族カルボン酸が60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。芳香族カルボン酸が100モル%を占めても良い。芳香族カルボン酸が60モル%未満の場合、塗膜の凝集力が弱く、各種基材への接着強度の低下が見られる。
【0023】
芳香族カルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、などのスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸、それらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)バレリック酸などの芳香族オキシカルボン酸等を挙げることができる。これらのうちでもテレフタル酸、イソフタル酸、およびその混合物が塗膜の凝集力を上げる点で特に好ましい。
【0024】
なおその他の酸成分としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
・・・
【0027】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂中には、必要により分岐骨格を導入する目的で、0.1モル%以上5モル%以下の3官能以上のポリカルボン酸類および/又はポリオール類を共重合しても構わない。特に硬化剤と反応させて硬化塗膜を得る場合、分岐骨格を導入することにより、樹脂の末端基濃度(反応点)が増え、架橋密度が高い、強度な塗膜を得ることができる。その場合の3官能以上のポリカルボン酸の例としてはトリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物等、が使用でき、一方3官能以上のポリオールの例としてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が使用できる。3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを使用する場合は、全酸成分あるいは全グリコール成分に対し0.1モル%以上5モル%以下、好ましくは0.1モル%以3モル%以下の範囲で共重合するのが好ましく、5モル%を越えると塗膜の破断点伸度などの力学物性の低下が生じることがあり、また重合中にゲル化を起こす可能性がある。
【0028】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂に酸価を導入する方法としては、重合後に酸付加によってカルボン酸を樹脂に導入する方法が挙げられる。酸付加にモノカルボン酸、ジカルボン酸、多官能カルボン酸化合物を用いると、エステル交換により分子量の低下が起こる可能性があり、カルボン酸無水物を少なくとも一つもった化合物を用いることが好ましい。酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、オルソフタル酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物等が使用できる。本発明で使用されるポリエステル系樹脂を構成する全酸成分を100モル%としたとき、10モル%以上の酸付加を行うと、ゲル化を起こすことがあり、またポリエステルの解重合を起こし樹脂分子量を下げてしまうことがある。酸付加はポリエステル重縮合後、バルク状態で直接行う方法と、ポリエステルを溶液化し付加する方法がある。バルク状態での反応は、速度が速いが、多量に付加するとゲル化が起こることがあり、かつ高温での反応になるので、酸素ガスを遮断し酸化を防ぐなどのケアが必要である。一方、溶液状態での付加は、反応は遅いが、多量のカルボキシル基を安定に導入することができる。」
「【0062】
本発明の接着剤組成物を、常法に従い、各種基材に塗布し、溶剤の少なくとも一部を除去して乾燥させることにより、本発明の接着シートを得ることができる。また溶剤の少なくとも一部を除去して乾燥せしめた後、接着剤層に離型基材を貼付けると、基材への裏移りを起こすことなく巻き取りが可能になり操業性に優れるとともに、接着剤層が保護されることから保存性に優れ、使用も容易である。また離型基材に塗布、乾燥せしめた後、必要に応じて別の離型基材を貼付すれば、接着剤層そのものを他の基材に転写することも可能になる。」
「【0066】
<プリント配線板>
本発明におけるプリント配線板は、導体回路を形成する金属箔と樹脂層とから形成された積層体を構成要素として含むものである。プリント配線板は、例えば、金属張積層体を用いてサブトラクティブ法などの従来公知の方法により製造される。必要に応じて、金属箔によって形成された導体回路を部分的、或いは全面的にカバーフィルムやスクリーン印刷インキ等を用いて被覆した、いわゆるフレキシブル回路板(FPC)、フラットケーブル、テープオートメーティッドボンディング(TAB)用の回路板などを総称している。」
「【実施例】
【0089】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例中に単に部とあるのは質量部を示す。また、特記なくエポキシ樹脂配合率と記した場合には、{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}の値を指すこととする。また、表中において、例えば「>40」とあれば40を超えることを、「<230」とあれば230未満であることを示す。
【0090】
(物性評価方法)
(1)熱可塑性樹脂の組成
熱可塑性樹脂を重クロロホルムに溶解し、1H-NMR分析により、各成分のモル比を求めた。但し、該熱可塑性樹脂が重クロロホルムに溶解しない場合には、重ジメチルスルホキシドに溶解して1H-NMR分析を行った。
・・・
【0092】
(3)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂の場合は、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。
ポリアミドイミド樹脂の場合は、幅10mm、厚さ30μmの短冊状試料について、アイテイ計測制御社製動的粘弾性測定装置DVA-220を用いて、周波数110Hzで動的粘弾性の測定を行い、その貯蔵弾性率の変曲点をガラス転移点とした。なお、短冊状試料は、ポリアミドイミドの重合溶液をポリプロピレン製フィルムに塗布し、1~10mmHgの減圧状態で、120℃で10時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムから得た。
・・・
【0095】
(特性評価方法)
(1)耐ハンダ性、剥離強度
(1)-1 評価用サンプル1作成方法
後述する接着剤組成物を厚さ25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル)に、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を30μmの圧延銅箔と貼り合わせる際、圧延銅箔の光沢面が接着剤と接する様にして、160℃で35kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて、耐ハンダ性及び剥離強度評価用サンプル1を得た(初期評価用)。
また、接着性フィルム(Bステージ品)を、40℃、80%加湿下にて14日間放置後、上記条件にて圧延銅箔とプレス、熱処理して硬化させ、経時評価用のサンプル1を得た。
・・・
【0100】
ポリエステル樹脂Aの重合例
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸243部、イソフタル酸237部、アジピン酸107部、無水トリメリット酸7部、2-メチル-1,3-プロパンジオール455部、1,4-ブタンジオール205部、テトラブチルチタネート0.3部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸28部を投入し、220℃で30分間反応させることによってポリエステル樹脂Aを得た。この様にして得られたポリエステル樹脂Aの組成、特性値を表1に示した。各測定評価項目は前述の方法に従った。
・・・
【0103】
【表1】
[図:0001409158000005.jpg]
」
「【0110】
<実施例1>
熱可塑性樹脂(A)としてポリエステル樹脂A100部(固形分のみの質量、以下同様)、無機充填材(B)としてR972[日本アエロジル(株)製 疎水性煙霧状シリカ]20部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン248部、トルエン112部を配合し固形分濃度25%である樹脂組成物(β)を調整した。次に、エポキシ樹脂(D)としてエポキシ樹脂ア[大日本インキ化学工業(株)製 HP7200-H(ジシクロペンタンジエン型エポキシ樹脂)、エポキシ価=3540当量/106g]11.9部、溶剤(C)としてメチルエチルケトン5.1部を配合し固形分濃度70%である樹脂組成物(γ)を調整した。得られた樹脂組成物(β)と樹脂組成物(γ)を配合することで目的とする接着剤用樹脂組成物を得た。エポキシ樹脂の配合量は、ポリエステル樹脂の酸価の総量の1.05倍のエポキシ基を含むように算出して決定した。接着評価試料を上述の方法で作製し、評価した結果を表4に示す。初期評価、経時評価ともに良好な結果を示している。」
3 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂において、酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸を含有し、酸成分中のテレフタル酸とイソフタル酸の合計含有量が80モル%以上であり、グリコール成分として、ダイマージオールとネオペンチルグリコールを含有し、グリコール成分中のダイマージオールの含有量が10~40モル%、ネオペンチルグリコールの含有量が30~60モル%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤に用いることが好適なポリエステル樹脂に関するものであり、更に詳しくは、太陽光発電モジュール裏面封止シートなどの積層シート用接着剤として用いることができる共重合ポリエステル樹脂に関するものである。」
「【0017】
また、グリコール成分としてダイマージオールを10~40モル%含有することが必要であり、中でも20~30モル%含有することが好ましい。ダイマージオールを含有することにより、湿熱耐久性を向上させることができる。したがって、ダイマージオールの含有量が10モル%未満では耐湿熱性が低下する。一方、40モル%より多くなると樹脂の凝集力が低下し、被着剤への接着強度が低下する。ここでダイマージオールとは、不飽和脂肪酸が重合またはDiels-Alder反応等によって二量化して生じる脂肪族または脂環族ジカルボン酸(大部分の2量体の他、3量体、モノマー等を数モル%含有するものが多い)をアルコールに還元したものをいう。ダイマージオールとしてはクローダ社のプリポール等が挙げられる。本発明で用いるダイマージオールは、上記で例示した化合物に限定されるものではない。」
4 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 芳香族ジカルボン酸成分と、下記a)~d)成分とからなるポリエステルであって、a)~d)成分の総量を100モル%としたことを特徴とする共重合ポリエステル。
a)ダイマージオールを3~50モル%、
b)下記式(1)で示されるグリコールを0~10モル%、
c)下記式(2)で示される構造を有するグリコール又はオキシ酸を10~60モル%、および
d)炭素数2~10のアルキレングリコールを20~80モル%
【化1】
[図:0001409158000006.jpg]
(式中、R1は炭素数1~3のアルキル基、R2は水素または炭素数1~3のアルキル基、1≦n≦3、5≦m≦100、1≦p<2である。)」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、耐湿熱性と耐カチオン酸性に優れ、さらにエポキシ樹脂との相溶性と接着性を併せ持った共重合ポリエステルとそれを含有する接着剤組成物を提供しようとするものである。」
「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の共重合ポリエステルを構成する酸成分としては、耐湿熱性の点から芳香族ジカルボン酸である必要がある。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などがあげられるが、これらのうち接着性やコストの点からテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。これらジカルボン酸成分にはジアルキルエステル、酸塩化物等の誘導体を用いても良く、単独、あるいは複合して使用してもよい。
・・・
【0012】ここで、a)成分として必要なダイマージオールとは、不飽和脂肪酸を2量化したダイマー酸を還元して得られる脂肪族両末端ジオールである。本発明の共重合ポリエステルは、ダイマージオールを3~50モル%、好ましくは10~30モル%含有することが必要である。5モル%未満では耐湿熱性の改善効果が乏しく、50モル%を越えると接着剤組成物の相溶性が低下する。」
5 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
「【請求項1】 分子鎖中に含まれるリン原子が0.5wt%以上であり、かつエチレングリコールの含有量が40モル%未満であることを特徴とする接着剤用難燃性ポリエステル樹脂。
【請求項2】 一般式1または、一般式2で示されるリン含有カルボン酸あるいは、そのエステル化合物を共重合していることを特徴とする請求項1記載の接着剤用難燃性ポリエステル樹脂。
【請求項3】 ガラス転移温度が-15℃以上40℃未満であることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤用難燃性ポリエステル樹脂。
【請求項4】 請求項1、2、3のいずれかに記載のポリエステルを使用した難燃性ポリエステル接着剤。
【化1】
[図:0001409158000007.jpg]
R1,R2:水素原子、または炭化水素基
R3,R4:水素原子、炭化水素基またはヒドロキシ基置換炭化水素基
l、m:0~4の整数
【化2】
[図:0001409158000008.jpg]
R5:水素原子、または炭化水素基
R6,R7:水素原子、炭化水素基またはヒドロキシ基置換炭化水素基」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた接着性、難燃性を有すると共に、長期間使用しても分子量低下が抑えられるため優れた耐久接着性を示すリン含有ポリエステル接着剤に関するものである。」
「【0016】さらに、本発明ポリエステルの酸成分の内、芳香族ジカルボン酸が40モル%以上、好ましくは、55モル%以上、さらに好ましくは70モル%共重合することが好ましい。芳香環濃度を高めておくとさらに、難燃化効果が向上するからである。これは、ポリエステル樹脂が芳香族縮合系樹脂、特に酸素含有縮合系樹脂であるため、これ自体が炭化皮膜形成能力を有しており、自己消化性が発現し、さらにリン含有化合物が共重合されてあるため、これが、燃焼時に固相でリン酸、ポリリン酸となり、脱水剤として作用することによって、炭化皮膜形成が促進されることになるからである。また、芳香族ジカルボン酸を用いることにより、耐加水分解性が向上し、高温高湿度下での安定性が向上する。
【0017】該ポリエステル樹脂に用いられる成分の二塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボンル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族二塩基酸を上記範囲内で共重合することができる。」
「【0029】<リンを共重合した樹脂の合成例2~6、比較合成例1~6>合成例1と同様にして、各原料を用い表1及び表2に示す組成のポリエステル樹脂を得た。比較合成例1~3はリンを共重合していないかあるいは共重合量が少ないので本発明の範囲外である。また、比較合成例4~6は、エチレングリコールを40モル%以上含むので本発明の範囲外である。
【0030】
【表1】
[図:0001409158000009.jpg]
*1)TPA:テレフタル酸
*2)IPA:イソフタル酸
*3)NDC:2,6-ナフタレンジカルボン酸
*4)DPDA:4,4‘-ジフェニルジカルボン酸
*5)AA:アジピン酸
*6)SA:セバシン酸
*7)DDA:ドデカンジカルボン酸
*8)式5:式5で示されるジカルボン酸
*9)TMA:無水トリメリット酸
*10)EGエチレングリコール
*11)2MG:2-メチル-1,3-プロパンジオール
*12)1,3-PD:1,3-プロパンジオール
*13)NPG:ネオペンチルグリコール
*14)1,6-HD:1,6-ヘキサンジオール
*15)ND:1,9-ノナンジオール
*16)DDOダイマージオール(ユニケマ社製プリポール2033)
*17)PTG:ポリテトラメチレングリコール(分子量1000)」
6 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
「【請求項1】 ジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主たる成分とする結晶性の共重合ポリエステルであって、ジカルボン酸成分がポリエステルを構成する全酸成分に対してテレフタル酸30~98.5モル%、ダイマー酸0.5~25モル%、イソフタル酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸1~30モル%からなり、エステル形成性の官能基を2つ以上有する有機リン化合物をポリエステル中のリン原子含有量が500~50000ppmとなる量含有し、かつ融点が50~200℃であることを特徴とする難燃性ホットメルト接着剤用ポリエステル。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、難燃性ホットメルト接着剤に好適なポリエステルに関するものである。さらに詳しくは、耐熱性、耐湿性、難燃性が要求される電子機器関連の分野で有用であり、接着性が良好なホットメルト接着剤用ポリエステルに関するものである。」
「【0013】また、本発明のポリエステルにはダイマー酸を共重合する必要がある。これにより樹脂の耐湿熱性が向上し、湿熱環境下での接着性低下を著しく改善できるとともに接着性が向上する。ダイマー酸の割合は共重合ポリエステルを構成する全酸成分に対して0.5~25モル%である必要があり、好ましくは5~15モル%である。ダイマー酸の割合が0.5モル%未満になると、接着性や耐湿熱性の改良効果が乏しくなる。また、ダイマー酸の割合が25モル%を超えると、重縮合時の反応性が低下し、所望とする重合度のポリエステルが得られない。」
「【0026】
【作用】本発明の共重合ポリエステルは、適度の結晶性を持ち、使用に十分な柔軟性、難燃性を有しており、接着性、特に金属に対する接着性及び耐湿熱性に優れたものである。すなわち、ダイマー酸が共重合されていることで金属に対する密着性が向上すると共に、ポリエステル中のエステル基濃度が低下するため、加水分解も起こり難くなり、耐湿熱性が向上する。また、難燃剤である有機リン化合物が、ポリエステルに共重合されているため、難燃剤とポリエステルとの相溶性不良によるブリードや接着性の低下がない。」
7 甲7の記載
甲7には、次の記載がある。
「【請求項1】
フィルム材料として用いられる液晶ポリエステルであって、
以下の式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全構造単位における全芳香族基の中で2,6-ナフタレンジイル基を60モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする液晶ポリエステル。
(1)-O-Ar1-CO-
(式中、Ar1は、2,6-ナフタレンジイル基、1,4-フェニレン基および4,4’-ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の芳香族基を表す。なお、Ar1は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~20のアリール基に置換されていてもよい。)」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム材料として用いるに好適な液晶ポリエステルと、この液晶ポリエステルから成形された液晶ポリエステルフィルムと、この液晶ポリエステルフィルムに金属層が積層された積層体とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ポリエステルは、その優れた特性(低吸水性、耐熱性、薄肉成形性など)により、コネクターなどの表面実装の電子部品に幅広く用いられている。最近では、この電子部品その他の分野において、フィルム状の液晶ポリエステルが求められている。」
「【0018】
この液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6-ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の2,6-ナフタレンジイル基を有する構造単位が60モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。液晶ポリエステルに関し、さらに好ましいものは、全芳香族基合計100モル%に対し、2,6-ナフタレンジイル基が、65モル%以上である液晶ポリエステルであり、より好ましくは2,6-ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6-ナフタレンジイル基が76モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、芳香族基として、2,6-ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、得られる成形体の更なる低誘電正接化が達成可能であるという利点がある。」
8 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は電気/電子分野において、耐熱性、低吸湿性、低誘電特性にすぐれるとともに、耐候性、長期安定性及び融着性にすぐれた接着材料として用いられる接着シート、該接着シートを接着材料として用いて形成した積層体シート、該接着シートを用いて形成した表面接着性シート及び該接着シートを用いるシート表面に接着性を付与する方法に関するものである。
・・・
【0004】
電気/電子分野に於いて用いられる材料(接着層を含む)に関しては、今後ますます軽量、薄型という構造上の要求と同時に、高度情報通信に対応できるだけの高精度と電気特性の高性能化という要求に答える必要があるが、その中でも信号伝搬速度の高速化とクロック信号の立ち上がり時間(ライズタイム)の高速化が重要とされている。
【0005】
ここで、伝搬速度の高速化及びライズタイムの短縮に関して、信号伝搬速度は下記式(1)で表される。
【数1】
[図:0001409158000010.jpg]
また、信号伝搬遅延時間は下記(2)式で表される。
【数2】
[図:0001409158000011.jpg]
【0006】
前記(1)、(2)式から分かる通り、信号伝搬速度を高速化する、即ち信号伝搬遅延時間を短縮する為には、材料の比誘電率εを小さくする必要がある。
さらに、当該分野での利用において考慮すべき材料特性として、材料内の信号減衰が知られている。ここで、信号減衰の一つの要素として電送損失が上げられる。電送損失は下記(3)式の通り、導体の抵抗による導体損と、基板材料の誘電特性に依存する誘電損との和によって表される。
【数3】
[図:0001409158000012.jpg]
【0007】
特に、次世代の高周波領域利用のデバイスにおいては、基板内電送損失は、導体損α1よりも誘電損α2の方が中心的に作用するが、下記(4)式で表される通り、周波数が高くなるほど誘電損は大きくなることが知られているため、情報通信の高速化・大容量化に対応し、高周波化が図られるほど誘電損を小さくする対策が要求される。
【数4】
[図:0001409158000013.jpg]
【0008】
前記(4)式に示される通り、誘電損を小さくするためには、材料の比誘電率εと誘電正接tanδとを小さくする必要があるが、比誘電率εは1/2乗のファクターとして誘電損に寄与する一方、誘電正接tanδは直接比例関係のファクターとして誘電損に寄与することから、材料の誘電損失を小さくすることが有効である
・・・
【0011】
このような観点から、エポキシ樹脂やポリイミドのような、比誘電率が比較的大きい、あるいは吸湿性や線膨張係数の差が大きい材料でなく、比誘電率が小さい上に吸湿性もほとんどなく、また分子配向技術によって熱線膨張係数を銅やICに合せて調整できるという優れた特徴を有する液晶ポリマー樹脂(LCP)に注目が集まっている。
【0012】
ここでいうLCPは、熱溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶高分子を指し、その中でも耐熱性に優れた全芳香族性ポリエステルを用いるのが適当である。このLCPは剛直な直線上の分子構造を有しており、既に述べたように、低比誘電率、低誘電正接、高強度、高寸法安定性(熱線膨張係数の制御可能)、低吸湿率(0.2%程度)といった特長の他に、熱可塑性樹脂である特性を生かして自己融着的に他材料との接着が可能である。」
「【0082】
なお、以下に示す物性の評価方法は次の通りである。
(剥離強度)
JIS C6481に準じ、オリエンテック社製:テンシロン万能試験機RTC-1210Aを用いて180°剥離試験を行った。
幅5mmの剥離試験片の片面を両面接着シートで支持板に接着固定し、反対面の金属箔を速度50mm/minで引っ張り、剥離強度を測定した。
(誘電特性)
インピーダンス・マテリアルアナライザー(共振器法)(ヒューレットパッカード社製:HP8510T)を用いて、各フィルムの3GHz、12GHzの誘電率及び誘電正接を測定した。
(誘電率)
分子配向計(王子計測機器社製 MOA-3012A)を用いて、測定条件として12.58GHzのフィルムの面内における誘電率の異方性を測定した。
(線膨張係数(CTE))
熱機械分析装置(セイコー電子工業社製 TMA100)を用いて、測定条件として引っ張り荷重49mN、測定範囲50~100℃でフィルムの面内おけるCTEの異方性を測定した。
(フィルム厚み)
ダイヤルゲージ(φ10平型)を用いて、フィルム厚みを測定した。
(フィルム欠陥)
目視によりフィルムの面内を観察、フィルムの裂け、ピンホールなどの欠損の有無を検査した。
【0083】
参考例1
サーモトロピック液晶ポリエステル(住友化学工業社製、スミカスーパーE6000)90重量部と天然シリカ(平均粒径3μm、電気化学社製FS-15)10重量部とを、二軸押出機を用いて溶融混合するとともに、その先端のストランドダイから押し出してペレタイザーでペレットに成形した。次にこのペレットを単軸押出機内で溶融させ、その押出機先端のTダイよりシート状に押出し、冷却して厚さ125μmの液晶ポリマーシートAを得た。
この液晶ポリマーシートAの両面に、厚さ40μmの延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)シート(平均孔径0.2μm、空孔率80%)B1を積層し、一対のロールを有するラミネーターで熱圧着した後、一対の冷却ロールを通して冷却した。このようにして得た積層体シートを、二軸延伸機にかけて延伸した後、冷却し、最後に両面に熱圧着されたePTFEシートを両面から剥離して、厚さ25μmの液晶ポリマーシート延伸物Cを得た。
・・・
【0096】
実施例6
全体厚さが3μmのフルオロポリマー組成物フィルム積層体シートGを、厚さ25μmの液晶ポリマーシートC上に、温度320℃、圧力20kg/cm2、時間10分間、真空度-0.098MPa以下の条件で熱プレス機にて加熱融着し、全体厚さが28μmの積層体シートを得た。得られた積層体シートの誘電特性を評価した。
さらに、得られた積層体シートに厚さ12μmの日本電解社製電解銅箔(グレード:USLP)を温度320℃、圧力20kg/cm2、時間10分間、真空度-0.098MPa以下の条件で熱プレス機にて加熱融着し、厚さ40μmの銅張り積層体を得た。得られた銅張り積層体の銅箔と基材の剥離強度を評価した。
・・・
【0099】
実施例6及び比較例3、4のシートにおける誘電特性及び剥離強度の評価結果を表2に示す。
【0100】
【表2】
[図:0001409158000014.jpg]
」
9 甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
「【請求項1】
ポリエステル樹脂の全グリコール成分の合計量を100モル%としたとき、グリコール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールを55~80モル%を含有し、且つガラス転移温度が-20℃~30℃、融点が145℃~170℃、結晶化融解熱が3mJ/mg~10mJ/mgであることを特徴とする結晶性ポリエステル樹脂。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル樹脂および有機溶剤を含有することを特徴とする接着剤組成物。」
「【0001】
本発明は、各種プラスチックフィルム、木材、紙、皮革、金属等に対する接着性に優れており、特に、電気、電子機器の配線等に使用されるフレキシブルフラットケーブル用途において、ポリエステルフィルムや錫メッキ銅および電解銅箔に対して優れた接着性、耐熱性を有すると共に、汎用溶媒に優れた溶解性を示し、且つ良好な保存安定性を持つ結晶性ポリエステル樹脂およびこれを用いた接着剤組成物に関するものである。
・・・
【0003】
非結晶性のポリエステル樹脂は、溶剤に易溶なので溶剤系接着剤を得ることは容易であるが、一般に耐熱性に乏しく凝集力が小さいので、得られた溶剤系接着剤の接着性は低いものとなる傾向にある。一方、一般的にホットメルト接着剤として多く用いられている結晶性のポリエステル樹脂は、凝集力に優れるので接着性の良好な溶剤系接着剤を得ることができるものと期待されるものの、一般に溶剤に難溶であるため溶剤系接着剤を得ることは非常に難しい。」
「【0017】
本発明において用いられる結晶性ポリエステル樹脂の二塩基酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくはそのアルキルエステル、酸無水物を使用できる。
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボンル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族のジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)等の芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。耐熱性や屈曲性を考慮すると、テレフタル酸を全酸成分のうち、40モル%以上とするのが好ましい。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の段落【0070】~【0074】、表2に記載された、合成例のポリエステル樹脂(B1)に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
(甲1発明)
「酸成分としてテレフタル酸50モル%、イソフタル酸50モル%、アルコール成分としてエチレングリコール49モル%、ビスフェノールAの2モルエチレンオキサイド付加体50モル%、プロピレングリコール1モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行い、次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌して得られた、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であるポリエステル樹脂(B1)。」
(2)対比
甲1発明と本件発明1を対比する。
甲1発明の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」及び「無水トリメリット酸」は、本件発明1の「多価カルボン酸類」及び「芳香族多価カルボン酸」のいずれにも相当し、甲1発明の「エチレングリコール」、「ビスフェノールAの2モルエチレンオキサイド付加体」及び「プロピレングリコール」は、本件発明1の「多価アルコール類」に相当する。そうすると、甲1発明の「ポリエステル樹脂(B1)」は、本件発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「ポリエステル樹脂(B1)」は、「Tgが65℃」であるから、甲1発明は、本件発明1の「ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃」という発明特定事項を充足する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃であるポリエステル系樹脂。」
(相違点1)
本件発明1のポリエステル系樹脂は、ダイマージオール由来の構造単位を含み、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるのに対して、甲1発明ではそのような特定がされていない点。
(相違点2)
本件発明1のポリエポキシ系樹脂は、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであるのに対して、甲1発明ではそのような特定がされていない点。
(3)相違点の検討
相違点1について検討する。
甲3の請求項1、段落【0001】、【0017】には、テレフタル酸とイソフタル酸とを含む酸成分と、グリコール成分とから構成される接着剤に用いるポリエステル樹脂において、グリコール成分として、ダイマージオールを10~40モル%含有することで、湿熱耐久性を向上させることができることが記載されている。
また、甲4の請求項1、段落【0006】、【0009】、【0012】には、耐湿熱性と耐カチオン酸性に優れた共重合ポリエステルとそれを含有する接着剤組成物を提供するために、共重合ポリエステルを構成する酸成分として、耐湿熱性の点から、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸を含有させ、ダイマージオールを3~50モル%含有させること、ダイマージオールの含有量は、5モル%未満では耐湿熱性の改善効果が乏しいことが記載されている。
さらに、甲5の段落【0001】、【0029】~【0030】、表1には、合成例3、5として、モノマー成分として、ダイマージオールを5モル%、8モル%含む接着剤用のポリエステル樹脂が記載されている。
そして、甲7の段落【0001】~【0002】、【0018】には、電子部品に用いられる液晶ポリエステルにおいて、芳香族基として、2,6-ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、成形体の更なる低誘電正接化が達成可能であり、全芳香族基合計100モル%に対し、2,6-ナフタレンジイル基が、65モル%以上とすることが好ましく、70モル%以上とすることがより好ましく、76モル%とすることが特に好ましいことが記載されている。
加えて、甲8の段落【0001】、【0004】~【0008】、【0011】~【0012】には、次世代の高周波領域利用のデバイスにおいては、誘電損を小さくする必要があり、そのためには、材料の誘電正接tanδを小さくする必要があり、そのような材料として、液晶ポリマー樹脂(LCP)が注目されていること、LCPとは、熱溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶高分子を指し、その中でも、耐熱性に優れた全芳香族性ポリエステルは、剛直な直線上の分子構造を有しており、低比誘電率、低誘電正接、高強度、高寸法安定性、低吸湿率といった特長を示すことが記載されている。また、同段落【0083】、【0096】、【0099】、表2には、サーモトロピック液晶ポリエステル(住友化学工業社製、スミカスーパーE6000)から得られた液晶ポリマーシート延伸物Cは、12GHzの誘電正接が0.0028であることが記載されている。
ここで、甲1の段落【0001】には、甲1発明のポリエステル樹脂は、電化製品や自動車関連製品などの配線材用の接着剤として用いられることが記載されており、電子部品用といえるから、耐湿熱性を向上させるという課題が内在していると認められる。そうすると、甲1発明と、甲3~5に記載された技術は、耐湿熱性の向上という共通の課題を有している。
しかしながら、甲1、甲3~8には、ダイマージオールと誘電特性の関係については記載も示唆もされていないから、甲3~8に記載された技術に基づいて、甲1発明のポリエステル樹脂を、ダイマージオール由来の構造単位を含むものとしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおけるポリエステル樹脂の誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることまでは当業者といえども容易に想到できたものではない。
また、甲1発明のポリエステル樹脂は、上でも述べたとおり、電子部品に用いられるものといえるから、甲7~8に記載された電子部品の材料の低誘電正接化という課題を有していることは当業者にとって明らかであり、さらに、甲7~8には、電子材料に用いられるポリエステル樹脂において、2,6-ナフタレンジイル基等の芳香族の含有量を多くすることによって、誘電正接を小さくできることは記載されている。
しかしながら、甲7~8には、ダイマージオールを含む系において、2,6-ナフタレンジイル基等の芳香族をどの程度含有させると、ポリエステル樹脂の誘電特性がどのように変化するかについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明のポリエステル樹脂において、甲7~8に記載された技術的事項を参酌して、芳香環の含有量を多くしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることが可能ということは読み取れないから、この構成を採ることは当業者といえども容易に想到できたものではない。また、甲1発明のポリエステル樹脂において、甲3~5、7~8に記載された技術的事項を参酌して、ダイマージオール由来の構造単位を含み、芳香環の含有量を多くしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることまでは当業者といえども容易に想到できたものではない。
また、甲6は、相違点2に関するものであり、ダイマージオールを含む系において、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)を0.0050以下にすることについては記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲3~8に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書の第33~34ページにおいて、「甲第7号証、甲第8号証には、本件特許の課題に係る低誘電正接の観点から、ポリエステル系樹脂において、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」、「芳香環含有量を高くすること」の開示がある。そうしてみれば、甲第1号証に記載された発明において、甲第7号証、甲第8号証の開示に基づいて、低誘電正接の観点から、「芳香環含有量を高くすること」、「縮合多環式芳香族化合物を用いること」を当業者であれば容易に想到することができ、その結果として、構成A5に係る「誘電正接(α)が0.0050以下」を満足させることができたものと思料する。」と主張する。
そこで、申立人の上記主張について検討すると、上記(3)で説示したように、甲3~8のいずれにおいても、ダイマージオールを含む系において、誘電正接の数値を、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲3~8に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(6)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1を引用するものであるから、上記(1)~(5)で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲3~9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
2 申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の段落【0100】~【0101】、【0103】、表1に記載された、重合例のポリエステル樹脂Aに着目して整理すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
(甲2発明)
「撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸243部、イソフタル酸237部、アジピン酸107部、無水トリメリット酸7部、2-メチル-1,3-プロパンジオール455部、1,4-ブタンジオール205部、テトラブチルチタネート0.3部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行い、エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行った後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸28部を投入し、220℃で30分間反応させることによって得られた、酸価400eq/106g、ガラス転移温度10℃のポリエステル樹脂A。」
(2)対比
甲2発明と本件発明1を対比する。
甲2発明の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」及び「無水トリメリット酸」は、本件発明1の「多価カルボン酸類」及び「芳香族多価カルボン酸」のいずれにも相当し、甲2発明の「アジピン酸」は、本件発明1の「多価カルボン酸類」に相当し、甲2発明の「2-メチル-1,3-プロパンジオール4」及び「1,4-ブタンジオール」は、本件発明1の「多価アルコール類」に相当する。そうすると、甲2発明の「ポリエステル樹脂A」は、本件発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂」に相当する。
そして、甲2発明の「ポリエステル樹脂A」は、「ガラス転移温度10℃」であるから、本件発明1の「ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃」という発明特定事項を充足する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃であるポリエステル系樹脂。」
(相違点3)
本件発明1のポリエステル系樹脂は、ダイマージオール由来の構造単位を含み、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるのに対して、甲2発明ではそのような特定がされていない点。
(相違点4)
本件発明1のポリエポキシ系樹脂は、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであるのに対して、甲2発明ではそのような特定がされていない点。
(3)相違点の検討
相違点3について検討する。
上記1(3)で記載したとおり、甲3~5には、耐湿熱性の向上のために、接着剤用のポリエステル樹脂にダイマージオール由来の単位を含ませる技術が記載され、甲7~8には、電子部品の材料に用いられる液晶ポリエステル樹脂において、芳香族の含有量を高めることにより、誘電正接を小さくする技術が記載されている。
ここで、甲2の段落【0007】には、甲2発明の課題は、高湿度下での鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐湿熱性接着剤を提供することである旨記載されているから、甲2発明と、甲3~5に記載された技術は、耐湿熱性の向上という共通の課題を有している。
しかしながら、甲2及び甲3~8には、ダイマージオールと誘電特性の関係については記載も示唆もされていないから、甲3~8に記載された技術に基づいて、甲2発明のポリエステル樹脂を、ダイマージオール由来の構造単位を含むものとしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおけるポリエステル樹脂の誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることまでは当業者といえども容易に想到できたものではない。
また、甲2発明のポリエステル樹脂は、甲2の段落【0001】、【0007】に記載されるように、プリント配線板用の接着剤に用いられるものであるから、甲7~8に記載された電子部品の材料の低誘電正接化という課題を有していることは当業者にとって明らかであり、さらに、甲7~8には、電子材料に用いられるポリエステル樹脂において、2,6-ナフタレンジイル基等の芳香族の含有量を多くすることによって、誘電正接を小さくできることは記載されている。
しかしながら、甲7~8には、ダイマージオールを含む系において、2,6-ナフタレンジイル基等の芳香族をどの程度含有させると、ポリエステル樹脂の誘電特性がどのように変化するかについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明のポリエステル樹脂において、甲7~8に記載された技術的事項を参酌して、芳香環の含有量を多くしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることが可能ということは読み取れないから、この構成を採ることは当業者といえども容易に想到できたものではない。また、甲2発明のポリエステル樹脂において、甲3~5、7~8に記載された技術的事項を参酌して、ダイマージオール由来の構造単位を含み、芳香環の含有量を多くしたとしても、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)の値を0.0050以下とすることまでは当業者といえども容易に想到できたものではない。
また、甲6は、相違点4に関するものであり、ダイマージオールを含む系において、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)を0.0050以下にすることについては記載も示唆もされていない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲3~8に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立書の第41~42ページにおいて、「甲第7号証、甲第8号証には、本件特許の課題に係る低誘電正接の観点から、ポリエステル系樹脂において、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」、「芳香環含有量を高くすること」の開示がある。そうしてみれば、甲第2号証に記載された発明において、甲第7号証、甲第8号証の開示に基づいて、低誘電正接の観点から、「芳香環含有量を高くすること」、「縮合多環式芳香族化合物を用いること」を当業者であれば容易に想到することができ、その結果として、構成A5に係る「誘電正接(α)が0.0050以下」を満足させることができたものと思料する。」と主張する。
そこで、申立人の上記主張について検討すると、上記(3)で説示したように、甲3~8のいずれにおいても、ダイマージオールを含む系において、誘電正接の数値を、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることは記載も示唆もされていないから、甲2発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(5)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明及び甲3~8に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(6)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1を引用するものであるから、上記(1)~(5)で検討したのと同様の理由により、本件発明2~10は、甲2発明及び甲3~9に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
3 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)判断手法について
特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件への当てはめ
ア 本件発明が解決しようとする課題について
本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0009】の記載から、「低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂を提供すること」であると認められる。
イ 本件明細書の一般的な記載について
本件明細書の段落【0010】には、「(1)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。」が本発明の目的に合致する旨の記載がある。
また、同段落【0055】には、「本発明に用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-5℃以上であり、好ましくは0~70℃、より好ましくは5~60℃、特に好ましくは10~50℃、更に好ましくは12~40℃、最も好ましくは15~30℃である。ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、初期接着性やタックフリー性が不充分となる。」との記載があり、同段落【0059】には、「ポリエステル系樹脂のエステル結合濃度は、8mmol/g以下であることが好ましく、より好ましくは2~7.5mmol/g、更に好ましくは2.5~7mmol/g、特に好ましくは3~6.5mmol/g、殊に好ましくは3.5~6mmol/gである。エステル結合濃度が高すぎると、低吸湿性が不充分となる傾向があり、エステル結合濃度が低すぎると、初期接着性が不充分となる傾向がある。」との記載がある。
さらに、同段落【0072】には、「本発明に用いるポリエステル系樹脂の温度23℃、相対湿度50%RH環境下での周波数10GHzにおける誘電正接は、0.0050以下であり・・・誘電正接が高すぎると基板にした際の伝送損失が大きくなる。」との記載がある。
そうすると、上記本件明細書の一般的な記載からは、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)を-5~40℃とし、エステル結合濃度を4.05~8mmol/gとすることで硬化後の初期接着性が向上できること、ポリエステル樹脂の誘電正接を0.0050以下とすることで低誘電正接等の十分な誘電特性が得られることが見て取れる。
また、本件明細書の段落【0018】には、「多価カルボン酸類は、芳香族多価カルボン酸類を含有することが好ましい」ことが記載され、同段落【0039】には、「多価カルボン酸類としては芳香族多価カルボン酸類が湿熱環境下での長期耐久性、低誘電正接の観点から好ましい」と記載されているから、ポリエステル樹脂が芳香族多価カルボン酸類を含むことにより、低誘電正接とともに、湿熱環境下での長期耐久性も向上できることが示唆されている。加えて、同段落【0019】には、「芳香族多価カルボン酸類の含有量が少なすぎると、湿熱環境下での長期耐久性が不充分となったり、低誘電正接に関して劣る傾向がある」と記載されているところ、芳香族多価カルボン酸類を必須成分として含むポリエステル樹脂において、誘電正接を0.0050以下とする場合、当該ポリエステル樹脂には、芳香族多価カルボン酸類が一定量含まれると当業者には理解されるものと認められ、このようなものは、湿熱環境下での長期耐久性が優れるものと認められる。
さらに、本件明細書の段落【0025】には、「多価アルコール類としてダイマージオール類を含有することが好ましい」と記載されている。
以上より、本件明細書の一般的な記載から、ポリエステル系樹脂が、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃であり、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」であるという事項を満たすことにより本件発明の課題が解決し得ることが示唆されているといえる。
ウ 本件明細書の実施例について
本件明細書の段落【0097】~【0115】、表1~3に記載された、実施例について見てみると、製造例1~6、9~10、12は、多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、さらにガラス転移温度(Tg)は、4℃(製造例5)~33℃(製造例4)と、いずれの製造例も-5~40℃の範囲内であり、エステル結合濃度は、4.05(製造例5)~7.43(製造例4)と、4.05~8mmol/gであり、誘電正接は、0.0020(製造例12)~0.0038(製造例1)と、いずれの製造例も誘電正接が0.0050以下となっている。
これら製造例のポリエステル系樹脂(A-1)~(A-6)、(A-9)~(A-10)、(A-12)は、低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接に優れ、それらを用いて得られた実施例1~7の接着剤組成物は、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れることが表2~3から見て取れる。
一方、比較製造例1は、多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸をほとんど含まないものであり、Tgが-48℃と-5~40℃の範囲内ではなく、エステル結合濃度が2.01mmol/gと4.05~8mmol/gの範囲内ではなく、誘電正接が0.0234と誘電特性に劣り、初期接着性が劣るものとなっている。また、比較製造例1は、多価アルコール類がダイマージオールを含まないものであるところ、比誘電率が2.86、誘電正接が0.0059と誘電特性に劣るものとなっている。
エ まとめ
上記イで示したように、本件明細書の一般的な記載から、ポリエステル樹脂が、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃であり、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」であるという事項を満たすことにより本件発明の課題が解決し得ることが示唆されているといえる。
また、上記ウで示したように、実施例・比較例の記載から、上記イで示唆されている事項が具体的に裏付けされているといえるから、当業者は、当該事項により、本件発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明1は、上記事項を発明特定事項として備えるものである。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件発明1をに引用する本件発明2~10についても同様である。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書の第46~48ページにおいて、以下の主張を行っている。
ア 「本件特許の段落[0017]には、多価カルボン酸類の例示として、脂環族多価カルボン酸や、脂肪族多価カルボン酸の二塩基酸が例示されているが、本件特許明細書の実施例には、芳香族多価カルボン酸に加えて、芳香族多価カルボン酸以外の二塩基酸を用いた実施例の開示はない。そのため、ポリエステルの多価カルボン酸類(二塩基酸)として、芳香族多価カルボン酸以外のものを用いた場合においても、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
特に、本件特許発明1に記載の構成A5に係る、「誘電正接(α)が0.0050以下」は、上述のように、芳香族多価カルボン酸の割合が影響するものと思料されることからも、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。」
イ 「本件特許明細書には、多価カルボン酸類として、TMAn(無水トリメリット酸)を用いていないポリエステル系樹脂、TMAnによる解重合の工程を経ていないポリエステル系樹脂によって、本件特許発明の課題を解決することができることを窺わせる開示もなく、一般的な技術常識であるとも言えない。
本件特許発明において、TMAnを用いること、TMAnによる解重合の工程は、本件特許発明の課題を解決するための必要不可欠な成分であると思料する。
従って、本件特許発明1に記載のポリエステル系樹脂はTMAnを用いること、本件特許発明2に記載のポリエステル系樹脂はTMAnによる解重合の工程について発明特定事項として記載していないため、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。」
そこで、申立人の上記主張について、以下検討する。
アについて
本件発明1のポリエステル系樹脂は、「芳香族多価カルボン酸」を必須成分として含み、「誘電正接が0.0050以下である」ものであるところ、上記(2)イでも述べたとおり、本件明細書には、芳香族多価カルボン酸を含むことで、低誘電正接とともに、湿熱環境下での長期耐久性も向上できることが示唆されており、また、誘電正接が0.0050以下であるものには、芳香族多価カルボン酸由来の単位が一定の含有量で含まれると当業者には理解されると認められ、このようなものは、湿熱環境下での長期耐久性に優れると解されるから、芳香族多価カルボン酸の割合が明示的に特定されていないからといって、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない。
また、申立人は、具体的証拠を示して、多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量が何モル%以下の場合に、本件発明の課題を解決し得ないことを立証しているわけでもない。
加えて、本件明細書の段落【0039】には、「本発明においては、低誘電正接の点から、脂環含有量を高くすることも好ましい」と記載されていることから、ポリエステルの多価カルボン酸類(二塩基酸)として、脂環族多価カルボン酸を併用することにより、低誘電正接が得られることも示唆されているから、芳香族多価カルボン酸以外のものを併用した場合でも、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
イについて
本件発明1は、上記(2)イ~エで述べたとおり、ポリエステル系樹脂が、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5~40℃であり、エステル結合濃度が4.05~8mmol/gであり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」であるという事項を満たすことにより、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そうすると、本件発明1において、「TMAnを用いること」や「TMAnによる解重合の工程を経たポリエステル系樹脂」であることを特定することは必ずしも必要とはされない。
加えて、本件明細書の段落【0046】~【0054】には、本件発明のポリエステル系樹脂について、TMAnを用いて解重合の工程を経て製造する以外にも、他の周知の方法で製造できることが記載されている。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上で検討したとおり、本件発明1~10は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
4 申立理由4(明確性要件違反)について
(1)判断手法について
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)本件への当てはめ
本件発明7は、「硬化剤の含有量」が特定の数値範囲であることを発明特定事項として含むものであるが、本件発明7が引用する本件発明5は、「硬化剤」を発明特定事項として含んでいない。
しかしながら、本件発明7の「硬化剤」には、「前記」のような、本件発明5の特定事項と関連付けるような文言は付されていないから、本件発明7と本件発明5との発明特定事項との関係で不明確であるとはいえない。また、本件発明7は、本件発明5の接着剤組成物において、硬化剤を、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、30重量部以下の含有量で含むことが特定されたものであることは明らかである。
よって、本件発明7は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件発明7を引用する本件発明8~10についても同様である。
(3)小括
以上で検討したとおり、本件特許発明7~10は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701228