特許異議申立
2023-700821
ポリエステル系樹脂、接着剤組成物及び接着剤
- 審判番号
- 2023-700821
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-149901
- 登録番号
- 7223300
- 請求日
- 2023年08月09日
- 審決日
- 2023年12月13日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】小林 瞳
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7223300号発明「ポリエステル系樹脂、接着剤組成物及び接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7223300号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7223300号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、令和3年9月15日(優先日 令和2年9月18日)に出願した特願2021-149901号であって、令和5年2月8日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年8月9日に特許異議申立人 小林 瞳(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~10)を行った。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であることを特徴とするポリエステル系樹脂。
【請求項2】
多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を含むことを特徴とする請求項1記載のポリエステル系樹脂。
【請求項3】
多価カルボン酸類及び多価アルコール類の少なくとも一方が、縮合多環式芳香族化合物を含むことを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル系樹脂。
【請求項4】
非結晶性であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル系樹脂を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項6】
更に、硬化剤を含有することを特徴とする請求項5記載の接着剤組成物。
【請求項7】
硬化剤の含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、30重量部以下であることを特徴とする請求項6記載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項6又は7記載の接着剤組成物が硬化されてなることを特徴とする接着剤。
【請求項9】
電子材料部材の貼り合せに用いられることを特徴とする請求項8記載の接着剤。
【請求項10】
電子材料部材が、フレキシブル銅張積層板、カバーレイ及びボンディングシートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9記載の接着剤。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由
令和5年8月9日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし10は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件特許発明1ないし10は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2010-116422号公報
甲第2号証:特開2015-187271号公報
甲第3号証:特開2014-185219号公報
甲第4号証:特開2003-183365号公報
甲第5号証:特開2002-3587号公報
甲第6号証:特開2011-74167号公報
甲第7号証:特開2005-200542号公報
甲第8号証:特開2009-249472号公報
以下、「甲第1号証」等を、順に「甲1」という。
第4 当審の判断
当審は、申立人がした申立ての理由によっては、本件特許発明1ないし10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲1の記載事項及び引用発明
(ア)甲1の記載事項
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が30℃以下のポリエステル樹脂(A)と、ガラス転移点が50℃以上のポリエステル樹脂(B)とを含有し、樹脂(A)と樹脂(B)との配合比が(A)/(B)=90/10~50/50(質量比)であり、ポリエステル樹脂(B)が、酸成分として少なくともテレフタル酸とイソフタル酸とのどちらか一方を含有し、かつアルコール成分としてビスフェノール骨格を有する多価アルコールを1~70モル%含有していることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル樹脂組成物に関し、特に、電化製品や自動車関連製品などの配線材用の接着剤として用いることができるポリエステル樹脂組成物に関する。
・・・・
【0004】
これらの特性を利用して、例えば、デジタル家電あるいは自動車用の配線材として利用可能なフレキシブルフラットケーブル等に、ポリエステル系接着剤が広く用いられている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ガラス転移点の低いポリエステル樹脂とガラス転移点の高いポリエステル樹脂とを含有するとともに、銅やアルミニウム等の金属への密着性に優れかつUL60℃定格以上の耐熱型の、ポリエステル系のフレキシブルフラットケーブルに適した接着剤とすることができるポリエステル樹脂組成物に関して、主剤であるガラス転移点の低い方のポリエステル樹脂の接着性などの特徴を損ねることなく、アンチブロッキング性、耐熱性を飛躍的に向上できるようにすることを目的とする。」
「【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)は、ガラス転移点が30℃以下であることが必要であり、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移点が30℃を超えると、導体への接着強力が低下する。ガラス転移点の下限は特に規定されないが、-40℃以上であることが好ましく、-30℃以上であることがより好ましく、-20℃以上がさらに好ましい。ガラス転移点が-40℃よりも低温であると、粘着性が強い樹脂となり取り扱いにくい。
【0018】
ポリエステル樹脂(A)は、結晶性であっても非晶性であっても、汎用有機溶剤に固形分濃度10質量%以上の濃度で溶解するのであれば差し支えない。ここで、汎用有機溶剤とは、非ハロゲン系、非エーテル系の溶剤のことをいい、たとえば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤;セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤;またはそれら溶剤を2種類以上混合したもの等を指す。ただし、上記で例示した個々の化合物だけに限定されるものではない。
・・・
【0020】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は、導体接着性を維持する観点から、2.0~30mgKOH/gが好ましく、2.0mgKOH/g未満でも、30mgKOH/gを超えても導体接着性が低下することがある。
・・・
【0023】
本発明に使用するポリエステル樹脂(B)は、ガラス転移点が50℃以上であることが必要である。このガラス転移点は、55℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、65℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることがもっとも好ましい。ガラス転移点が50℃未満では、アンチブロッキング性が低下する。すると、本発明のポリエステル樹脂組成物を接着剤として、基材フィルムに顔料などのフィラーと当該接着剤との混合物をコートして得られるインシュレーションフィルムを巻き取って保管する際に、ブロッキングを起こす可能性がきわめて高い。
・・・
【0025】
ポリエステル樹脂(B)は、酸成分として少なくともテレフタル酸とイソフタル酸とのどちから一方を含有することが必要である。テレフタル酸を含有することが好ましく、両方含有することがさらに好ましい。そのどちらも含有しないと、ガラス転移点や軟化点が下がり、耐熱性が下がるとともにアンチブロッキング性が低下する。テレフタル酸の含有量は、接着強度の点で、酸成分に対して20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。イソフタル酸の含有量は、アンチブロッキング性の点で、酸成分に対して80モル%未満であることが好ましく、60モル%未満であることがより好ましく、40モル%未満であることがさらに好ましい。
・・・
【0033】
ポリエステル樹脂(B)の酸価は、2.0~30mgKOH/gであることが好ましく、2.5~25mgKOH/gであることがより好ましく、3.0~20mgKOH/gであることがさらに好ましく、3.5~15mgKOH/gであることがいっそう好ましく、4.0~10mgKOH/gであることが最も好ましい。酸価が2.0mgKOH/g未満であると、本発明のポリエステル樹脂混合物を汎用有機溶剤に溶解させた溶液の平均粒子径が大きくなり、液が2層に分離し、導体接着性、アンチブロッキング性共に低下するため好ましくない。一方、酸価が30mgKOH/gを超えると、導体接着性が低下するため好ましくない。
・・・
【0037】
本発明のポリエステル樹脂(B)を構成するモノマーとしては、酸成分としては、たとえばマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシ-イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の多価カルボン酸またはその無水物を、必要に応じ用いてもよい。ただし、酸成分は、上記に限定されるものではない。
【0038】
また、上述の多価アルコール以外に用いることができるアルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオールなどを挙げることができる。中でも、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコールを好ましく用いることができる。
・・・
【0051】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、エポキシ樹脂、酸無水物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシナネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシナネート等のイソシアネート類およびそのブロックイソシアネート;ウレトジオン類、β-ヒドロキシアルキルアミド等の硬化剤;トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の硬化触媒;二酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等の顔料;タルク;ポリエチレンワックス;パラフィンワックス;タッキファイヤー等を使用することができる。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂組成物は前述のように溶剤型接着剤とすることができるが、その溶剤型接着剤を公知のコーティング法で基材フィルムにコートし、乾燥することで、積層体を得ることができる。コーターとしては、例えば、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、フローコーターなどを用いることができる。これらのコーターを用いたコーティング法では、接着層の厚さを任意に制御することができる。また、複数回のコーティングによって接着性樹脂を積層してもよい。
【0053】
フレキシブルフラットケーブルは、たとえば次のようにして製造することができる。
すなわち、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルにて形成された肉厚10~200μm程度の基材フィルムに、本発明のポリエステル樹脂組成物を含む接着剤を2~100μm程度の乾燥肉厚になるように塗布し、80~150℃でフィルムを乾燥してインシュレーションフィルムを作成する。そして、2枚のインシュレーションフィルムの接着剤層の面どうしの間に、肉厚20~100μm程度のスズ鍍金銅等の導体を挟み込み、ヒートシーラーで150~180℃程度の温度で0.2~0.8MPaの圧力で1~20秒程度処理することで、フレキシブルフラットケーブルを製造することができる。」
「【実施例】
【0055】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、下記の方法によって測定した。
(1)ポリエステル樹脂の数平均分子量
GPC分析により求めた。詳しくは、島津製作所社製の送液ユニット LC-10ADvp型、および紫外-可視分光光度計 SPD-6AV型を使用した。検出波長は254nm、溶媒はテトラヒドロフランを用いた。ポリスチレン換算とした。
【0056】
(2)ガラス転移点(Tg)
JIS-K7121にしたがって、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製 ダイヤモンドDSC)を用いて10℃/minの昇温速度でスキャンさせたチャートから、ガラス転移点(Tg)(補外ガラス転移開始温度(℃))を読み取った。
・・・
【0068】
(11)酸価
試料0.5gにジオキサン/水(9/1 体積比)を加え、加熱還流後、クレゾールレッドを指示薬とし、KOHメタノール溶液(濃度:100mol/m3 )で滴定し、その滴定量から酸価を求めた。
・・・
【0070】
次にポリエステル樹脂の合成例を説明する。
[合成例A1]
テレフタル酸62モル%、イソフタル酸10モル%、セバシン酸28モル%、エチレングリコール53モル%、ネオペンチルグリコール47モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行った。次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A1)を得た。得られた樹脂(A1)は、数平均分子量が26000、Tgが9℃、酸価が2.5mgKOH/g、Tsが63℃であった。
【0071】
[合成例B1]
表2の組成になるように、原料をエステル化反応缶に投入した。それ以外はポリエステル樹脂(A1)の場合と同様にして、重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌し、ポリエステル樹脂(B1)を得た。得られた樹脂(B1)は、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であった。
【0072】
[合成例A2~A3、合成例B2~B13]
酸変性用の原料として無水トリメリット酸を使用している場合はB1に準じ、それ以外はA1に準じて、樹脂を合成した。
【0073】
ポリエステル樹脂(A1)~(A3)、ポリエステル樹脂(B1)~(B13)の詳細を表2に示す。
【0074】
【表2】
[図:0001405837000001.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
甲1の実施例のポリエステル樹脂(B1)に着目して整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
「酸成分としてテレフタル酸50モル%、イソフタル酸50モル%、アルコール成分としてエチレングリコール49モル%、ビスフェノールAの2モルエチレンオキサイド付加体50モル%になるように、原料をエステル化反応缶に投入し、アンカー翼の撹拌機で100rpmの回転数で撹拌しながら、0.25MPaの制圧下で250℃で5時間エステル化を行い、次に、重縮合缶へ移送して、重合触媒を投入し、60分かけて徐々に1.3hPaになるまで減圧していき、その後、所定の分子量に到達するまで260℃で重縮合反応を行った後、酸変性用の原料として無水トリメリット酸を1モル%投入し、常圧で1時間撹拌して得られた、数平均分子量が11000、Tgが65℃、酸価が7.1mgKOH/g、Tsが114℃であるポリエステル樹脂(B1)」(以下、「甲1発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」及び「無水トリメリット酸」は、本件特許発明1の「芳香族多価カルボン酸」に相当し、甲1発明の「エチレングリコール」及び「ビスフェノールAの2モルエチレンオキサイド付加体」は、本件特許発明1の「多価アルコール類」に相当する。そうすると、甲1発明の「ポリエステル樹脂(B1)」は、本件特許発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂」に相当する。
そして、甲1発明「ポリエステル樹脂(B1)」は、「Tgが65℃」であり、「酸価が7.1mgKOH/g」であるから、本件特許発明1の「ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上」である「ポリエステル系樹脂」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であるポリエステル系樹脂。
<相違点1-1>
多価アルコール類が、本件特許発明1は「ダイマージオールを含」むのに対し、甲1発明は、ダイマージオールを含まない点
<相違点1-2>
ポリエステル系樹脂が、本件特許発明1は「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」であるのに対し、甲1発明はその点不明である点
そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点1-2>から検討する。
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0009】等からみて、「低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤を提供すること」である。
一方、甲1に記載される発明の課題は、甲1の段落【0009】に記載されるように、「ガラス転移点の低いポリエステル樹脂とガラス転移点の高いポリエステル樹脂とを含有するとともに、銅やアルミニウム等の金属への密着性に優れかつUL60℃定格以上の耐熱型の、ポリエステル系のフレキシブルフラットケーブルに適した接着剤とすることができるポリエステル樹脂組成物に関して、主剤であるガラス転移点の低い方のポリエステル樹脂の接着性などの特徴を損ねることなく、アンチブロッキング性、耐熱性を飛躍的に向上できるようにすること」であって、低誘電率及び低誘電正接の接着剤を提供することを課題とするものではない。また、甲1の他の記載を見ても、誘電率や誘電正接等の誘電特性に関する記載はない。
そうすると、甲1発明において、誘電率及び誘電正接を低くしようとする動機付けがあるとはいえない。
ところで、甲1には、技術分野として、「電化製品や自動車関連製品などの配線材用の接着剤」が挙げられていることから、仮に、当該分野において、誘電率及び誘電正接を低くすることが周知の課題であったとして、以下検討してみる。
甲6の段落【0018】には、「この液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6-ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の2,6-ナフタレンジイル基を有する構造単位が60モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。液晶ポリエステルに関し、さらに好ましいものは、全芳香族基合計100モル%に対し、2,6-ナフタレンジイル基が、65モル%以上である液晶ポリエステルであり、より好ましくは2,6-ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6-ナフタレンジイル基が76モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、芳香族基として、2,6-ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、得られる成形体の更なる低誘電正接化が達成可能であるという利点がある。」と記載されている。しかしながら、甲6のその他の記載を見ても、2,6-ナフタレンジイル基を有する構造単位が60モル%以上とすることにより、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることができることは記載も示唆もされていない。
また、甲7の段落【0012】には、「LCPは、熱溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶高分子を指し、その中でも耐熱性に優れた全芳香族性ポリエステルを用いるのが適当である。このLCPは剛直な直線上の分子構造を有しており、既に述べたように、低比誘電率、低誘電正接、高強度、高寸法安定性(熱線膨張係数の制御可能)、低吸湿率(0.2%程度)といった特長の他に、熱可塑性樹脂である特性を生かして自己融着的に他材料との接着が可能である。」と記載されている。しかしながら、甲7のその他の記載を見ても、モノマーを全芳香族にすることにより、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることができることは記載も示唆もされていない。
また、甲3ないし甲5、甲8においても、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」又は 「芳香環含有量を高くすること」により、ポリエステル系樹脂として、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることができることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲3ないし甲8に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2ないし10は、甲1発明及び甲3ないし甲8に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書の第31ページにおいて、「甲第6号証、甲第7号証には、本件特許の課題に係る低誘電正接の観点から、ポリエステル系樹脂において、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」、「芳香環含有量を高くすること」の開示があり、そうしてみれば、甲第1号証に記載された発明において、甲第6号証、甲第7号証の開示に基づいて、低誘電正接の観点から、「芳香環含有量を高くすること」、「縮合多環式芳香族化合物を用いること」を当業者であれば容易に想到することができ、その結果として、構成A5に係る「誘電正接(α)が0.0050以下」を満足させることができたものと思料する。」と主張している。
そこで、申立人の上記主張について検討するに、上記(2)アで説示したように、甲3ないし甲8のいずれの証拠においても、誘電正接(α)の具体的な数値として、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることができることは記載も示唆もされていないのであるから、甲1発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)について
(1)証拠等の記載等
ア 甲2の記載事項及び引用発明
(ア)甲2の記載事項
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、無機充填材(B)、溶剤(C)、エポキシ樹脂(D)を含有する接着剤用樹脂組成物であって、
該熱可塑性樹脂(A)の酸価(単位:当量/106g)が100以上1000以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)の数平均分子量が5.0×103以上1.0×105以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステル系樹脂(但し、フェノール性水酸基を150当量/106g以上有するポリエステル樹脂を除く)であり、
該エポキシ樹脂(D)がジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂であり、
該熱可塑性樹脂(A)と該無機充填材(B)を該接着剤用樹脂組成物における含有比率で合計25質量部含み、メチルエチルケトン52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤(但し、該熱可塑性樹脂(A)が前記濃度で前記混合溶剤に25℃において溶解しない場合は、前記混合溶剤に変えてジメチルアセトアミド52質量部とトルエン23質量部からなる混合溶剤を用いる)を分散媒とする分散液(α)の揺変度(TI値)を測定したとき、液温25℃における揺変度(TI値)が3以上6以下であり、
該熱可塑性樹脂(A)の酸価AV(β)(単位:当量/106g)と配合量AW(β)(単位:質量部)、エポキシ樹脂(D)のエポキシ価EV(γ)(単位:当量/106g)と配合量EW(γ)(単位:質量部)が以下に示す式(1)、
0.7≦{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}≦4.0 (1)
を満たす接着剤用樹脂組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は各種プラスチックフィルムへの接着性や、銅、アルミ、ステンレスなどの金属への接着性、ガラスへの接着性、耐熱性、耐湿性、シートライフ等に優れた樹脂組成物、これを含有する接着剤、接着シートおよびこれを接着層として含むプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野で接着剤は使用されているが使用目的の多様化により、従来使用されてきた接着剤よりも各種プラスチックフィルムへの接着性や、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属への接着性、ガラスエポキシへの接着性、耐熱性、耐湿性、シートライフ等、更なる高性能化が求められている。例えば、フレキシブルプリント配線板(以下FPCと略すことがある)をはじめとする回路基板用の接着剤としては、エポキシ/アクリルブタジエン系接着剤や、エポキシ/ポリビニルブチラール系接着剤等が使用されている。これらの回路基板用接着剤には、ハンダ耐熱性、接着性、加工性、電気特性、保存性が求められる。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題はこれら従来の接着剤が抱えている各問題点を改良することであり、各種プラスチックフィルムや、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシへの接着性を維持しつつ、高湿度下での鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐湿熱性、高温高湿度下での接着性に優れた接着剤を提供すること、さらには前記接着剤から得たBステージの接着シートがたとえ高温高湿下で流通された後に使用されても良好な接着特性の維持が可能なシートライフが良好な接着剤シートを提供すること、にある。また、前記接着剤または接着シートから得られた接着層を含むプリント配線板を提供することにある。」
「【0020】
本発明に用いる熱可塑性樹脂(A)の酸価(単位:当量/106g)は100以上1000以下である。酸価が100当量/106g未満だと、硬化後の金属系基材への密着性が不充分になり、また架橋度が低く耐熱性が低下する傾向にある。酸価が1000当量/106gを超えると溶剤に溶解した際のワニスの保存安定性が低下し、また架橋反応が常温下で進行し易く、安定したシートライフが得られないといった傾向にある。また、エステル結合やウレタン結合等の耐久性に悪影響を与えることも予想される。好ましくは酸価の下限は250当量/106g、より好ましくは酸価の下限は300当量/106g、さらに好ましくは酸価の下限は350当量/106gである。好ましい上限は900当量/106g、より好ましい上限は800当量/106g、さらに好ましい上限は700当量/106gである。
【0021】
(ポリエステル系樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂(A)として用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、-10℃以上60℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が-10℃未満だと、高温での接着性が不十分になる傾向がある。ガラス転移温度が60℃を超えると、基材との貼り合せが不十分になり、また常温での弾性率が高くなり、常温での接着性が不十分になる傾向がある。好ましくはガラス転移温度の下限は-5℃、より好ましくはガラス転移温度の下限は0℃、さらに好ましくはガラス転移温度の下限は5℃である。好ましい上限は55℃、より好ましい上限は50℃、さらに好ましい上限は45℃である。
【0022】
該ポリエステル系樹脂は、組成における全酸成分の合計量を100モル%としたとき、芳香族カルボン酸が60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。芳香族カルボン酸が100モル%を占めても良い。芳香族カルボン酸が60モル%未満の場合、塗膜の凝集力が弱く、各種基材への接着強度の低下が見られる。
【0023】
芳香族カルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、などのスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸、それらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4-ビス(p-ヒドロキシフェニル)バレリック酸などの芳香族オキシカルボン酸等を挙げることができる。これらのうちでもテレフタル酸、イソフタル酸、およびその混合物が塗膜の凝集力を上げる点で特に好ましい。
【0024】
なおその他の酸成分としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
・・・
【0027】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂中には、必要により分岐骨格を導入する目的で、0.1モル%以上5モル%以下の3官能以上のポリカルボン酸類および/又はポリオール類を共重合しても構わない。特に硬化剤と反応させて硬化塗膜を得る場合、分岐骨格を導入することにより、樹脂の末端基濃度(反応点)が増え、架橋密度が高い、強度な塗膜を得ることができる。その場合の3官能以上のポリカルボン酸の例としてはトリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物等、が使用でき、一方3官能以上のポリオ-ルの例としてはグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が使用できる。3官能以上のポリカルボン酸および/またはポリオールを使用する場合は、全酸成分あるいは全グリコ-ル成分に対し0.1モル%以上5モル%以下、好ましくは0.1モル%以3モル%以下の範囲で共重合するのが好ましく、5モル%を越えると塗膜の破断点伸度などの力学物性の低下が生じることがあり、また重合中にゲル化を起こす可能性がある。
【0028】
本発明で使用されるポリエステル系樹脂に酸価を導入する方法としては、重合後に酸付加によってカルボン酸を樹脂に導入する方法が挙げられる。酸付加にモノカルボン酸、ジカルボン酸、多官能カルボン酸化合物を用いると、エステル交換により分子量の低下が起こる可能性があり、カルボン酸無水物を少なくとも一つもった化合物を用いることが好ましい。酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、オルソフタル酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などの化合物等が使用できる。本発明で使用されるポリエステル系樹脂を構成する全酸成分を100モル%としたとき、10モル%以上の酸付加を行うと、ゲル化を起こすことがあり、またポリエステルの解重合を起こし樹脂分子量を下げてしまうことがある。酸付加はポリエステル重縮合後、バルク状態で直接行う方法と、ポリエステルを溶液化し付加する方法がある。バルク状態での反応は、速度が速いが、多量に付加するとゲル化が起こることがあり、かつ高温での反応になるので、酸素ガスを遮断し酸化を防ぐなどのケアが必要である。一方、溶液状態での付加は、反応は遅いが、多量のカルボキシル基を安定に導入することができる。」
「【0062】
本発明の接着剤組成物を、常法に従い、各種基材に塗布し、溶剤の少なくとも一部を除去して乾燥させることにより、本発明の接着シートを得ることができる。また溶剤の少なくとも一部を除去して乾燥せしめた後、接着剤層に離型基材を貼付けると、基材への裏移りを起こすことなく巻き取りが可能になり操業性に優れるとともに、接着剤層が保護されることから保存性に優れ、使用も容易である。また離型基材に塗布、乾燥せしめた後、必要に応じて別の離型基材を貼付すれば、接着剤層そのものを他の基材に転写することも可能になる。」
「【0066】
<プリント配線板>
本発明におけるプリント配線板は、導体回路を形成する金属箔と樹脂層とから形成された積層体を構成要素として含むものである。プリント配線板は、例えば、金属張積層体を用いてサブトラクティブ法などの従来公知の方法により製造される。必要に応じて、金属箔によって形成された導体回路を部分的、或いは全面的にカバーフィルムやスクリーン印刷インキ等を用いて被覆した、いわゆるフレキシブル回路板(FPC)、フラットケーブル、テープオートメーティッドボンディング(TAB)用の回路板などを総称している。」
「【実施例】
【0089】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例中に単に部とあるのは質量部を示す。また、特記なくエポキシ樹脂配合率と記した場合には、{EV(γ)×EW(γ)}/{AV(β)×AW(β)}の値を指すこととする。また、表中において、例えば「>40」とあれば40を超えることを、「<230」とあれば230未満であることを示す。
【0090】
(物性評価方法)
(1)熱可塑性樹脂の組成
熱可塑性樹脂を重クロロホルムに溶解し、1H-NMR分析により、各成分のモル比を求めた。但し、該熱可塑性樹脂が重クロロホルムに溶解しない場合には、重ジメチルスルホキシドに溶解して1H-NMR分析を行った。
【0091】
(2)数平均分子量Mn
試料を、樹脂濃度が0.5%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解または希釈し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。但し、試料がテトラヒドロフランに溶解しない場合は、テトラヒドロフランに変えてN,N-ジメチルホルムアミドを用いた。
【0092】
(3)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂の場合は、示差走査熱量計(DSC)を用いて20℃/分の昇温速度で測定した。
ポリアミドイミド樹脂の場合は、幅10mm、厚さ30μmの短冊状試料について、アイテイ計測制御社製動的粘弾性測定装置DVA-220を用いて、周波数110Hzで動的粘弾性の測定を行い、その貯蔵弾性率の変曲点をガラス転移点とした。なお、短冊状試料は、ポリアミドイミドの重合溶液をポリプロピレン製フィルムに塗布し、1~10mmHgの減圧状態で、120℃で10時間乾燥することにより溶剤を除いたフィルムから得た。
【0093】
(4)酸価
試料0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、0.1Nの水酸化カリウムエタノール溶液、ポリアミドイミド系樹脂の場合のみナトリウムメトキシドメタノール溶液で滴定し、樹脂106gあたりの当量(eq/106g)を算出した。
【0094】
(5)エポキシ価
JIS K 7236に準拠し、過塩素酸滴定法を用いて得られたエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量)から樹脂106gあたりの当量(eq/106g)を算出した。
【0095】
(特性評価方法)
(1)耐ハンダ性、剥離強度
(1)-1 評価用サンプル1作成方法
後述する接着剤組成物を厚さ25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカル)に、乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、130℃で3分乾燥した。この様にして得られた接着性フィルム(Bステージ品)を30μmの圧延銅箔と貼り合わせる際、圧延銅箔の光沢面が接着剤と接する様にして、160℃で35kgf/cm2の加圧下に30秒間プレスし、接着した。次いで140℃で4時間熱処理して硬化させて、耐ハンダ性及び剥離強度評価用サンプル1を得た(初期評価用)。
また、接着性フィルム(Bステージ品)を、40℃、80%加湿下にて14日間放置後、上記条件にて圧延銅箔とプレス、熱処理して硬化させ、経時評価用のサンプル1を得た。
・・・
【0100】
ポリエステル樹脂Aの重合例
撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸243部、イソフタル酸237部、アジピン酸107部、無水トリメリット酸7部、2-メチル-1,3-プロパンジオール455部、1,4-ブタンジオール205部、テトラブチルチタネート0.3部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行った。その後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸28部を投入し、220℃で30分間反応させることによってポリエステル樹脂Aを得た。この様にして得られたポリエステル樹脂Aの組成、特性値を表1に示した。各測定評価項目は前述の方法に従った。」
(イ)甲2に記載された発明
甲2の実施例のポリエステル樹脂Aに着目して整理すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。
「撹拌器、温度計、流出用冷却器を装備した反応缶内に、テレフタル酸243部、イソフタル酸237部、アジピン酸107部、無水トリメリット酸7部、2-メチル-1,3-プロパンジオール455部、1,4-ブタンジオール205部、テトラブチルチタネート0.3部を仕込み、4時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行い、エステル化反応終了後30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、更に1mmHg以下で1時間後期重合を行った後、窒素にて常圧に戻し、無水トリメリット酸28部を投入し、220℃で30分間反応させることによって得られた、酸価400eq/106g、ガラス転移温度10℃のポリエステル樹脂A」(以下、「甲2発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「テレフタル酸」、「イソフタル酸」及び「無水トリメリット酸」は、本件特許発明1の「芳香族多価カルボン酸」に相当し、甲2発明の「2-メチル-1,3-プロパンジオール4」及び「1,4-ブタンジオール」は、本件特許発明1の「多価アルコール類」に相当する。そうすると、甲2発明の「ポリエステル樹脂A」は、本件特許発明1の「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂」に相当する。
そして、甲2発明「ポリエステル樹脂A」は、「ガラス転移温度10℃」である。
また、甲2発明「ポリエステル樹脂A」の酸価は、400当量/106gであるところ、KOH(分子量約56)に基づいて換算すると、1当量/106g≒0.056mgKOH/gであることから、22.4mgKOH/gと換算される。
そうすると、甲2発明の「ポリエステル樹脂A」は、本件特許発明1の「ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上」である「ポリエステル系樹脂」に相当する。
してみると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であるポリエステル系樹脂。
<相違点2-1>
多価アルコール類が、本件特許発明1は「ダイマージオールを含」むのに対し、甲2発明は、ダイマージオールを含まない点
<相違点2-2>
ポリエステル系樹脂が、本件特許発明1は「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」であるのに対し、甲2発明はその点不明である点
そこで、上記相違点について検討する。
事案に鑑み、<相違点2-2>から検討する。
本件特許発明の課題は、本件特許明細書の段落【0009】等からみて、「低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤を提供すること」である。
一方、甲2に記載される発明の課題は、甲2の段落【0007】に記載されるように、「各種プラスチックフィルムや、銅、アルミ、ステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシへの接着性を維持しつつ、高湿度下での鉛フリーハンダにも対応できる高度の耐湿熱性、高温高湿度下での接着性に優れた接着剤を提供すること」であるところ、低誘電率及び低誘電正接の接着剤を提供することを課題とするものではない。また、甲2の他の記載を見ても、誘電率や誘電正接等の誘電特性についての記載はない。
そうすると、甲2発明において、誘電率及び誘電正接を低くしようとする動機付けはないといえる。
ところで、甲2には、技術分野として、「フレキシブルプリント配線板(をはじめとする回路基板用の接着剤」が挙げられていることから、仮に、当該分野において、誘電率及び誘電正接を低くすることが周知の課題であったとして以下検討してみると、上記1(2)アで説示したとおり、甲3ないし甲8において、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」又は「芳香環含有量を高くすること」により、ポリエステル系樹脂として、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることができることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件特許発明1は、甲2発明及び甲3ないし甲8に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、本件特許発明1を引用するものであるから、上記アで検討したのと同様、本件特許発明2ないし10は、甲2発明及び甲3ないし甲8に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書の第38ページにおいて、「甲第6号証、甲第7号証には、本件特許の課題に係る低誘電正接の観点から、ポリエステル系樹脂において、「2,6-ナフタレンジイル基を用いること」、 「芳香環含有量を高くすること」の開示があり、そうしてみれば、甲第2号証に記載された発明において、甲第6号証、甲第7号証の開示に基づいて、低誘電正接の観点から、「芳香環含有量を高くすること」、「縮合多環式芳香族化合物を用いること」を当業者であれば容易に想到することができ、その結果として、構成A5に係る「誘電正接(α)が0.0050以下」を満足させることができたものと思料する。」と主張している。
そこで、申立人の上記主張について検討するに、上記1(2)アで説示したように、甲3ないし甲8のいずれの証拠においても、誘電正接(α)の具体的な数値として、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」にすることができることは記載も示唆もされていないのであるから、甲2発明において、「温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、申立人の主張は首肯できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細の記載は次のとおりである。
なお、下線は当審が付した。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化されてなる接着剤に関し、更に詳しくは、低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐久性、機械的強度に優れているため、フィルムやペットボトル、繊維、トナー、電機部品、接着剤、粘着剤等、幅広い用途で用いられている。また、ポリエステル系樹脂は、そのポリマー構造ゆえに極性が高いので、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エポキシ樹脂等の極性ポリマー、及び銅、アルミニウム等の金属材料に対して優れた接着性を発現することが知られている。
この特性を利用し、金属とプラスチックの積層体を作製するための接着剤、例えば、フレキシブル銅張積層板やフレキシブルプリント基板等を作製するための接着剤としての使用が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硬化時の寸法安定性に優れ、硬化後の接着性、耐熱性、屈曲性、電気絶縁性、低誘電率及び低誘電正接に優れる熱硬化性接着シートを得ることを目的として、有機金属化合物又はエポキシ基含有化合物の少なくともいずれか一方と反応し得る反応性官能基と、ハロゲン以外のヘテロ原子を有する官能基との合計量が0.01mmol/g以上、9mmol/g以下の樹脂(例えばポリエステル系樹脂)、有機金属化合物、及び3官能以上のエポキシ基含有化合物を含む熱硬化性組成物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、各種プラスチックや金属、ガラスエポキシへの接着性と耐湿熱性、高温高湿度での接着性に優れた接着剤を得ることを目的として、熱可塑性樹脂(ポリエステル系樹脂)、無機充填材、溶剤、エポキシ樹脂を、所定の条件にて含有される接着剤用樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-031301号公報
【特許文献2】特開2015-187271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、フレキシブル銅張積層板やフレキシブルプリント基板等の電子材料分野においては、そこに用いられる接着層に求められる物性として、接着性に加え、伝送信号の高周波化に伴い、更なる低誘電率及び低誘電正接といった低誘電特性、特には低誘電正接が強く求められるようになっている。
【0007】
上記特許文献1の開示技術では、誘電率・誘電正接や吸水率の低下を目的として長鎖アルキル基を有する多価カルボン酸や多価アルコールを多量に使用しており、それによってガラス転移温度が低下することとなり初期接着性が悪化したり、湿熱耐久性が不充分となっている。また、低誘電率及び低誘電正接や低吸水率化のためにエステル結合濃度を低くしたりしているが、近年の低誘電特性の要求は非常に高く、更なる改良が求められるものであった。
【0008】
また、特許文献2の開示技術では、接着性の改善を図っているものであるが、誘電特性については考慮されておらず、近年の低誘電特性の要求に対しては充分なものではなかった。
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤の提供を目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記の(1)~(4)のポリエステル系樹脂が、本発明の目的に合致することを見出し、本発明を完成した。
(1)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(2)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(3)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(4)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0030以下であるポリエステル系樹脂。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]の態様を有する。
[1] 多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
[2] 多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
[3] 多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
[4] 多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0030以下であるポリエステル系樹脂。
[5] 多価カルボン酸類が、芳香族多価カルボン酸類を含む[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[6] 多価カルボン酸類が、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を含む[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[7] 多価アルコール類が、ダイマージオールを含む[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[8] 多価カルボン酸類及び多価アルコール類の少なくとも一方が、縮合多環式芳香族化合物を含む[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[9] 非結晶性である[1]~[8]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のポリエステル系樹脂を含有することを特徴とする接着剤組成物。
[11] 更に、硬化剤を含有する[10]の接着剤組成物。
[12] 硬化剤の含有量が、ポリエステル系樹脂100重量部に対して、30重量部以下である[10]又は[11]記載の接着剤組成物。
[13] [10]~[12]のいずれかに記載の接着剤組成物が硬化されてなる接着剤。
[14] 電子材料部材の貼り合せに用いられる[13]記載の接着剤。
[15] 電子材料部材が、フレキシブル銅張積層板、カバーレイ及びボンディングシートから選ばれる少なくとも1種である[14]記載の接着剤。
【0012】
上記特許文献1に関して述べたように、通常、吸水率や誘電率、誘電正接を低下させるためには長鎖アルキル基を有する多価カルボン酸類や多価アルコールを多量に用い、エステル結合濃度を低くすることが考えられるが、一方で初期接着性や湿熱環境下での長期耐久性が低下することとなってしまう。また、エステル結合濃度を低くすることでは更なる低誘電特性までを得ることは困難である。
本発明者は、ポリエステル系樹脂を構成するモノマーの組成等を調製し、更に、酸価、ガラス転移温度(Tg)等を最適化することにより、従来のポリエステル系樹脂より更に低誘電率及び低誘電正接であり、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性にも優れることを見出し、本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル系樹脂は、低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接であり、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するものであり、とりわけかかる接着剤組成物は、金属とプラスチックの積層体を作製するための接着剤、例えば、電子材料部材の貼り合わせ、なかでも、フレキシブル銅張積層板やカバーレイ、ボンディングシート等のフレキシブルプリント配線板等の作製に用いられる接着剤として有効である。」
「【0015】
本発明の接着剤組成物は、多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂を少なくとも含有する。まず、ポリエステル系樹脂について説明する。
【0016】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を分子中に含むものであり、好ましくは、多価カルボン酸類と多価アルコール類とをエステル結合させて得られるものである。
【0017】
〔多価カルボン酸類〕
多価カルボン酸類における多価カルボン酸としては、例えば、後述する芳香族多価カルボン酸;後述する酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物等の脂環族多価カルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族多価カルボン酸を挙げることができる。多価カルボン酸類は1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
多価カルボン酸類は、芳香族多価カルボン酸類を含有することが好ましい。芳香族多価カルボン酸類としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、オルソフタル酸等の単環式芳香族多価カルボン酸類;ビフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の多環式芳香族多価カルボン酸類;多環式芳香族多価カルボン酸類の中では、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸ジメチル等の縮合多環式芳香族多価カルボン酸類やその誘導体(芳香族ジカルボン酸類)が挙げられる。また、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等の芳香族オキシカルボン酸類等を挙げることができる。更に、ポリエステル系樹脂に分岐骨格や酸価を付与する目的で導入される3官能以上の芳香族カルボン酸類も上記の芳香族多価カルボン酸類に含まれる。3官能以上の芳香族多価カルボン酸類としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、エチレングルコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等が挙げられる。
これらのうちでも誘電特性の観点から、多環式芳香族多価カルボン酸類が好ましく、中でも縮合多環式芳香族多価カルボン酸類が特に好ましく、縮合多環式芳香族多価カルボン酸類の中でも、ナフタレンジカルボン酸ジメチルが特に好ましい。
また、単環式芳香族多価カルボン酸類の中ではテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチルが好ましい。
また、結晶性を下げて溶剤溶解後の安定性を確保するためには、複数種の多価カルボン酸類を使用することが好ましい。
【0019】
多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量は、25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。芳香族多価カルボン酸類の含有量が少なすぎると、湿熱環境下での長期耐久性が不充分となったり、低誘電正接に関して劣る傾向がある。
【0020】
多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量(モル%)は下記式から求められる。
芳香族多価カルボン酸類の含有量(モル%)=(芳香族多価カルボン酸類(モル)/多価カルボン酸類(モル))×100
【0021】
また、ポリエステル系樹脂全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量は15~70重量%であることが好ましく、より好ましくは20~65重量%、更に好ましくは25~60重量%、特に好ましくは30~55重量%である。芳香族多価カルボン酸類の含有量が少なすぎると、初期接着性が不充分となったり、低誘電正接に関して劣る傾向があり、多すぎると初期接着性が不充分となる傾向がある。」
「【0024】
〔多価アルコール類〕
多価アルコール類としては、例えば、ダイマージオール類、ビスフェノール骨格含有モノマー、脂肪族多価アルコール、脂環族多価アルコール、芳香族多価アルコールが挙げられる。多価アルコール類は1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明において、ポリエステル系樹脂を構成する化合物は、多価アルコール類としてダイマージオール類を含有することが好ましい。
ダイマージオール類としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等から誘導されるダイマー酸類(炭素数36~44のものを主とする)の還元体であるダイマージオール類、及びそれらの水素添加物等が挙げられる。なかでもポリエステル系樹脂の製造時におけるゲル化抑制の点から、水素添加物が好ましい。
【0026】
多価アルコール類全体に対するダイマージオールの含有量は、2~80モル%であることが好ましく、より好ましくは5~70モル%、特に好ましくは7~65モル%、更に好ましくは10~60モル%である。ダイマージオール類の含有量が少なすぎると低吸湿性や誘電特性に劣る傾向があり、多すぎると初期接着性が不充分となる傾向がある。
【0027】
また、ポリエステル系樹脂全体に対するダイマージオール類の含有量は5~70重量%であることが好ましく、より好ましくは10~60重量%、更に好ましくは12~55重量%、特に好ましくは15~50重量%である。ダイマージオール類の含有量が少なすぎると、低吸湿性や誘電特性に劣る傾向があり、多すぎると初期接着性が不充分となる傾向がある。」
「【0039】
本発明においては、低誘電正接の点から、脂環含有量を高くすることも好ましい。
なお、前述のとおり、多価カルボン酸類としては芳香族多価カルボン酸類が湿熱環境下での長期耐久性、低誘電正接の観点から好ましいため、脂環骨格の導入は多価アルコール類側で行うことが好ましい。」
「【0046】
〔ポリエステル系樹脂の製造〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂は周知の方法により製造することができる。例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してポリエステル系樹脂を得て、更に酸価を導入することにより製造することができる。
【0047】
ポリエステル系樹脂に酸価を導入する方法としては、例えば、エステル化反応後や減圧重縮合後に酸付加によってカルボン酸を樹脂に導入する方法が挙げられる。酸付加にモノカルボン酸、ジカルボン酸、多官能カルボン酸化合物を用いると、エステル交換により分子量の低下が起こる可能性があり、カルボン酸無水物を少なくとも一つもった化合物を用いることが好ましい。上記カルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、オルソフタル酸無水物、2,5-ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、2,2'-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等の化合物等が挙げられる。
【0048】
ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、15モル%以上の酸付加を行うと、ゲル化を起こすことがある。酸付加の方法としては、バルク状態で直接付加する方法と、ポリエステル系樹脂を溶液化し付加する方法が挙げられる。バルク状態での反応は、速度が速いが、多量に付加するとゲル化が起こることがあり、かつ高温での反応になるので、酸素ガスを遮断し酸化を防ぐ等の注意が必要である。一方、溶液状態での付加は、反応は遅いが、多量のカルボキシ基を安定に導入することができる。
【0049】
また、側鎖にカルボキシ基を有するポリエステル系樹脂を得るに際しては、多価カルボン酸無水物を除く多価カルボン酸類と多価アルコール類とを共重合して得られる水酸基含有プレポリマーに、多価カルボン酸無水物を反応させる方法が生産性の点で好ましい。
【0050】
本発明においては、また、別の周知の方法、例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してプレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。
【0051】
多価カルボン酸類と多価アルコール類とのエステル化反応における温度は、通常180~280℃であり、反応時間は通常60分~8時間である。
【0052】
重縮合における温度は、通常220~280℃であり、反応時間は通常20分~4時間である。また、重縮合は減圧下で行うことが好ましい。
【0053】
解重合は、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を用いることが初期接着性の点から好ましい。酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類としては、例えば、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物、トリメシン酸等の化合物が挙げられる。好ましくは、分子量低下を抑制できる点から酸無水物基数が1である3価以上の多価カルボン酸類であり、例えば、トリメリット酸無水物、水添トリメリット酸無水物等が挙げられ、特には低誘電正接の点からトリメリット酸無水物が好ましい。
解重合における温度は、通常200~260℃であり、反応時間は通常10分~3時間である。
【0054】
ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を20モル%を超えて用いて解重合を行うと、樹脂の分子量が大きく低下することがある。したがって、ポリエステル系樹脂を構成する全多価カルボン酸類を100モル%としたとき、酸無水物基数が0又は1である3価以上の多価カルボン酸類を20モル%以下用いて解重合を行うことが好ましく、より好ましくは1~15モル%、特に好ましくは2~10モル%、更に好ましくは3~8モル%を用いて解重合を行う。」
「【0055】
〔ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-5℃以上であり、好ましくは0~70℃、より好ましくは5~60℃、特に好ましくは10~50℃、更に好ましくは12~40℃、最も好ましくは15~30℃である。
ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、初期接着性やタックフリー性が不充分となる。なお、ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、初期接着性や屈曲性が不充分になる傾向がある。
【0056】
ガラス転移温度(Tg)の測定方法は以下のとおりである。
ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量計を用いて測定することにより求めることができる。なお、測定条件は、測定温度範囲-70~140℃、温度上昇速度10℃/分である。
【0057】
〔ポリエステル系樹脂の酸価〕
本発明に用いるポリエステル系樹脂の酸価は3mgKOH/g以上であり、好ましくは4~60mgKOH/g、より好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは6~30mgKOH/g、更に好ましくは7~20mgKOH/gである。
酸価が低すぎると、接着剤組成物にポリエポキシ系化合物等の硬化剤を含有させた場合、硬化剤との架橋点が不足し架橋度が低くなるので、耐熱性が不充分となる。また、酸価が高すぎると、吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性が低下したり、硬化時に多量の硬化剤を必要とすることから、近年要求されることが多くなった低誘電特性が得にくい傾向がある。
【0058】
酸価の定義や測定方法については以下のとおりである。
酸価(mgKOH/g)は、ポリエステル系樹脂1gをトルエン/メタノールの混合溶剤(例えば、体積比でトルエン/メタノール=9/1)30gに溶解し、JIS K0070に基づき中和滴定により求めることができる。
なお、本発明において、ポリエステル系樹脂の酸価は、樹脂中におけるカルボキシ基の含有量に起因するものである。
・・・
【0071】
〔ポリエステル系樹脂の誘電特性〕
(比誘電率(Dk))
本発明に用いるポリエステル系樹脂の温度23℃、相対湿度50%RH環境下での周波数10GHzにおける比誘電率は、2.8以下が好ましく、より好ましくは2.7以下、特に好ましくは2.6以下、更に好ましくは2.5以下である。上記比誘電率が高すぎると基板にした際の伝送速度が劣ったり伝送損失が大きくなる傾向がある。
【0072】
(誘電正接(Df))
本発明に用いるポリエステル系樹脂の温度23℃、相対湿度50%RH環境下での周波数10GHzにおける誘電正接は、0.0050以下であり、好ましくは0.0045以下、より好ましくは0.0040以下、特に好ましくは0.0035以下、更に好ましくは0.0030以下、殊に好ましくは0.0025以下、最も好ましくは0.002以下である。上記誘電正接が高すぎると基板にした際の伝送損失が大きくなる。
【0073】
比誘電率及び誘電正接の測定方法はネットワークアナライザを用いた空洞共振器摂動法により求めることができる。なお、ポリエステル系樹脂の粘着性が強く単独での測定サンプルの作製が困難な場合は、フィルムにサンドした状態で測定し、フィルム分を差し引くことでポリエステル系樹脂単独の誘電特性を算出することもできる。
【0074】
かくして本発明において、従来に比べて、誘電正接の非常に小さいポリエステル系樹脂を得ることができる。
そして、誘電正接の非常に小さいポリエステル系樹脂は、高周波数領域での伝送損失を抑制できる点から、電子材料部材の貼り合わせ等に用いる接着剤の原料として非常に有用となる。」
「【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0098】
芳香環含有量、脂環含有量、ガラス転移温度(℃)、酸価(mgKOH/g)、エステル結合濃度(mmol/g)、ピークトップ分子量(Mp)、重量平均分子量(Mw)、誘電特性、COOHに対するエポキシ基の当量については、本明細書の記載に従って測定を行なった。その他の物性の測定方法は次のとおりである。
【0099】
〔ダイマージオール含有量〕
ポリエステル系樹脂に対するダイマージオールの含有量(%)を示す。
【0100】
<ポリエステル系樹脂の製造>
以下の表1で記載する組成は、出来上がりの組成比(樹脂組成比)であり、得られたポリエステル系樹脂の各構成モノマー量の相対比(モル比)とその%である。
【0101】
〔ポリエステル系樹脂(A-1)の製造〕
温度計、撹拌機、精留塔、窒素導入管の付いた反応缶に、多価カルボン酸類としてイソフタル酸(IPA)263.7部(1.5872モル)、トリメリット酸無水物(TMAn)3.1部(0.0161モル)、多価アルコール類としてビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物「ニューポールBPE-20」(BPE-20)(三洋化成工業社製)105.0部(0.3221モル)、エチレングリコール(EG)65.0部(1.0472モル)、ダイマージオール「プリポール2033」(P2033)(クローダ社製)234.5部(0.4431モル)、ネオペンチルグリコール(NPG)62.9部(0.6039モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を仕込み、内温が270℃となるまで2.5時間かけて昇温し、270℃で1.5時間、エステル化反応を行った。
次いで、触媒としてテトラブチルチタネート0.1部を追加し、系内を2.5hPaまで減圧し、2時間かけて重合反応を行った。
その後、内温を230℃まで下げ、トリメリット酸無水物(TMAn)15.8部(0.0822モル)を添加し230℃で1時間解重合反応を行い、ポリエステル系樹脂(A-1)を得た。
【0102】
〔ポリエステル系樹脂(A-2~12、A'-1~2)の製造〕
樹脂組成を表1に記載のとおりになるよう変更した以外はA-1と同様にしてポリエステル系樹脂(A-2~12、A'-1~2)を得た。
【0103】
得られたポリエステル系樹脂の樹脂組成(成分由来の構造単位)及び諸物性を表2に示す。なお、表1中、各略称は以下のとおりである。
「NDCM」:ナフタレンジカルボン酸ジメチル
「TPA」:テレフタル酸
「IPA」:イソフタル酸
「DMI」:イソフタル酸ジメチル
「P1009」:ダイマー酸「プリポール1009」(クローダ社製)
「TMAn」:トリメリット酸無水物
「BPEF」:ビスフェノキシエタノールフルオレン
「BOPPEF」:ビスフェニルフェノキシエタノールフルオレン
「BPE-20」:ビスフェノールAのエチレンオキサイド約2モル付加物「ニューポールBPE-20」(三洋化成工業社製)
「TCD-DM」:トリシクロデカンジメタノール
「EG」:エチレングリコール
「2MPG」:2-メチルー1,3-プロパンジオール
「NPG」:ネオペンチルグリコール
「1.4BG」:1.4-ブタンジオール
「1.6HG」:1,6-ヘキサンジオール
「1.10DG」:1,10-デカンジオール
「P2033」:ダイマージオール「プリポール2033」(クローダ社製)
【0104】
【表1】
[図:0001405837000002.jpg]
【0105】
【表2】
[図:0001405837000003.jpg]
【0106】
<硬化剤>
硬化剤として、以下のポリエポキシ系化合物を用意した。
・ポリエポキシ系化合物(B-1):フェノールノボラック型エポキシ樹脂「YDPN-638」(日鉄ケミカル&マテリアル社製)(エポキシ当量=177(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-2):グリシジルエーテル型特殊多官能エポキシ樹脂「jER-1031S」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=200(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-3):トリグリシジルパラアミノフェノール「jER-630」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=96(g/eq))
・ポリエポキシ系化合物(B-4):テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン「jER-604」(三菱ケミカル社製)(エポキシ当量=120(g/eq))
【0107】
<接着剤組成物の製造>
上記で得られたポリエステル系樹脂及び硬化剤を用いて、下記のとおり接着剤組成物を製造した。
【0108】
(実施例1)
上記で得られたポリエステル系樹脂(A-1)をトルエン/シクロヘキサン=4/1(重量比)混合溶媒で固形分濃度50%に希釈し、このポリエステル系樹脂(A-1)溶液(固形分として100部)に対し、ポリエポキシ系化合物(B-1)(固形分)を10部配合し、更にトルエン/シクロヘキサン=4/1(重量比)混合溶媒で固形分50%になるように希釈、撹拌、混合することにより、接着剤組成物を得た。
【0109】
(実施例2~7、比較例1~2)
実施例1において、表3に示すとおりの樹脂組成とした以外は同様にして、接着剤組成物を得た。
得られた接着剤組成物を用いて以下のとおり評価を行い、その結果を表3に示す。
【0110】
<積層体の作製>
上記で調製した接着剤組成物を厚み50μmのポリイミドフィルム「カプトン200H」(東レ・デュポン社製)にアプリケーターで塗布した後、120℃で5分間乾燥し、乾燥膜厚25μmの接着層を形成した。次に厚み30μmの圧延銅箔を上記接着層付きポリイミドフィルムの接着層面とラミネート(ラミネート条件:170℃、0.2MPa、送り速度1.5m/min)し、次いで160℃のオーブンで4時間熱処理、硬化させることで積層体を得た。
【0111】
〔初期接着力〕
上記で得られた積層体を1cm幅に切り出したものを試験片とした。両面テープを用いて試験片を厚み2mmのガラス板に固定し、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で剥離試験機を用いて、試験片の引張剥離強度を測定した(剥離速度:50mm/min、剥離角度:180°)。評価基準は下記のとおりとした。
◎:12N/cm以上
○:9N/cm以上、12N/cm未満
△:6N/cm以上、9N/cm未満
×:6N/cm未満
【0112】
〔湿熱耐久性〕
上記で得られた積層体を温度85℃、相対湿度85%RHの恒温恒湿機に入れ、所定時間後に取り出し、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に一晩静置した後、上記の初期接着力と同様にして、引張剥離強度を測定した。初期の接着力に対する湿熱処理後の接着力の百分率を「維持率」とした。
接着力の絶対値については初期接着力と同様の評価基準を用いて評価した。
接着力の維持率については下記の評価基準に基づいて評価した。
◎:維持率が80%以上
○:維持率が60%以上、80%未満
△:維持率が40%以上、60%未満
×:維持率が40%未満
【0113】
〔ゲル分率〕
上記で得られた接着層付きポリイミドフィルムを160℃で4時間熱処理し硬化させた後、4cm×4cmサイズに切り出した。これを200メッシュのSUS製金網で包み、メチルエチルケトン中に23℃×24時間浸漬し、浸漬前の接着剤重量に対する金網中に残存した不溶解の接着剤成分の重量百分率をゲル分率とした。
【0114】
【表3】
[図:0001405837000004.jpg]
【0115】
上記表1~3の結果より、本発明の要件を満たす製造例1~12のポリエステル系樹脂(A-1)~(A-12)は低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接に優れ、それらを用いて得られた実施例1~7の接着剤組成物は、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れるものである。
一方、比較製造例1のポリエステル系樹脂(A'-1)は低誘電正接に劣り、それを用いて得られた比較例1は硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性にも劣るものであった。また、比較製造例2のポリエステル系樹脂(A'-2)は低誘電率、低誘電正接に関して劣るものであった。」
(4)サポート要件の判断
ア 本件特許発明の課題
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明の課題」という。)は、「低誘電率及び低誘電正接であり、また、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れた接着剤組成物を形成するポリエステル系樹脂、更にポリエステル系樹脂を含有する接着剤組成物及びこの接着剤組成物が硬化された接着剤」を提供することである。
イ 発明の詳細な説明の一般的な記載について
本件特許明細書の発明の詳細な説明を見てみる。
段落【0010】には、「本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、下記の(1)~(4)のポリエステル系樹脂が、本発明の目的に合致することを見出し、本発明を完成した。
(1)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(2)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(3)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。
(4)多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0030以下であるポリエステル系樹脂。」と記載されており、段落【0012】には、「本発明者は、ポリエステル系樹脂を構成するモノマーの組成等を調製し、更に、酸価、ガラス転移温度(Tg)等を最適化することにより、従来のポリエステル系樹脂より更に低誘電率及び低誘電正接であり、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性にも優れることを見出し、本発明を完成させたものである。」ということが記載されている。
そして、段落【0055】には、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)について、「本発明に用いるポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、-5℃以上であり、好ましくは0~70℃、より好ましくは5~60℃、特に好ましくは10~50℃、更に好ましくは12~40℃、最も好ましくは15~30℃である。
ガラス転移温度(Tg)が低すぎると、初期接着性やタックフリー性が不充分となる。なお、ガラス転移温度(Tg)が高すぎると、初期接着性や屈曲性が不充分になる傾向がある。」と記載され、段落【0057】には、ポリエステル系樹脂の酸価について、「本発明に用いるポリエステル系樹脂の酸価は3mgKOH/g以上であり、好ましくは4~60mgKOH/g、より好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは6~30mgKOH/g、更に好ましくは7~20mgKOH/gである。
酸価が低すぎると、接着剤組成物にポリエポキシ系化合物等の硬化剤を含有させた場合、硬化剤との架橋点が不足し架橋度が低くなるので、耐熱性が不充分となる。また、酸価が高すぎると、吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性が低下したり、硬化時に多量の硬化剤を必要とすることから、近年要求されることが多くなった低誘電特性が得にくい傾向がある。」と記載されている。
また、段落【0072】には、誘電正接について、「本発明に用いるポリエステル系樹脂の温度23℃、相対湿度50%RH環境下での周波数10GHzにおける誘電正接は、0.0050以下であり、好ましくは0.0045以下、より好ましくは0.0040以下、特に好ましくは0.0035以下、更に好ましくは0.0030以下、殊に好ましくは0.0025以下、最も好ましくは0.002以下である。上記誘電正接が高すぎると基板にした際の伝送損失が大きくなる。」と記載されている。
さらに、段落【0018】には、「多価カルボン酸類は、芳香族多価カルボン酸類を含有することが好ましい。」こと、段落【0025】には、「本発明において、ポリエステル系樹脂を構成する化合物は、多価アルコール類としてダイマージオール類を含有することが好ましい。」ことが記載されている。
そうすると、上記発明の詳細な説明の一般的な記載から、ポリエステル系樹脂として、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」である事項を満たすことにより本件特許発明の課題が解決し得ることが示唆されているといえる。
ウ 実施例について
ついで実施例について見てみる。
製造例1~12は、多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、さらにTgは4℃(製造例5)~33℃(製造例4)と、いずれの製造例も-5℃以上のものであり、酸価も10.4(製造例10)~21.8(製造例5)と、いずれの製造例も酸価が3mgKOH/g以上となっている。さらに、誘電正接が、0.0018(製造例7、8)~0.0038(製造例1)と、いずれの製造例も誘電正接が0.0050以下となっている。これら製造例のポリエステル系樹脂(A-1)~(A-12)は、低誘電率及び低誘電正接、特には低誘電正接に優れ、それらを用いて得られた実施例1~7の接着剤組成物は、硬化後の初期接着性、更には湿熱環境下での長期耐久性に優れることが【表2】及び【表3】から見て取れる。
一方、比較製造例1は、多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含まないもので、Tgが-48℃と-5℃以上ではなく、その結果、誘電正接が0.0234と誘電特性に劣るものとなっている。また、比較製造例1は、多価アルコール類がダイマージオールを含まないものであるところ、比誘電率が2.86、誘電正接が0.0059と誘電特性に劣るものとなっている。
エ まとめ
上記イで示したように、発明の詳細な説明の一般的な記載から、ポリエステル系樹脂として、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下」である事項を満たすことにより本件特許発明の課題が解決し得ることが示唆されているといえる。
そして、上記ウで示したように、実施例・比較例の対比から、上記イで示唆されている事項が具体的に裏付けされているといえる。
そうすると、当業者は、「多価カルボン酸類由来の構造単位と多価アルコール類由来の構造単位を含むポリエステル系樹脂であって、上記多価カルボン酸類が芳香族多価カルボン酸を含み、上記多価アルコール類がダイマージオールを含み、ガラス転移温度(Tg)が-5℃以上であり、酸価が3mgKOH/g以上であり、温度23℃、相対湿度50%RH環境下での10GHzにおける誘電正接(α)が0.0050以下であるポリエステル系樹脂。」により、本件特許発明の課題を解決できると認識するものである。
そして、本件特許発明1は、上記「ポリエステル系樹脂」を発明特定事項として備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できるものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし10についても同様である。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
申立人は、申立書の第43~45ページにおいて、以下の主張を行っている。
ア 本件特許の段落[0017]には、多価カルボン酸類の例示として、脂環族多価カルボン酸や、脂肪族多価カルボン酸の二塩基酸が例示されているが、本件特許明細書の実施例には、芳香族多価カルボン酸に加えて、芳香族多価カルボン酸以外の二塩基酸を用いた実施例の開示はない。そのため、ポリエステルの多価カルボン酸類(二塩基酸)として、芳香族価カルボン酸以外のものを用いた場合においても、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
特に、本件特許発明1に記載の構成A5に係る、「誘電正接(α)が0.0050以下」は、上述のように、芳香族多価カルボン酸の割合が影響するものと思料されることからも、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
イ 本件特許明細書には、多価カルボン酸類として、TMAn(無水トリメリット酸)を用いていないポリエステル系樹脂、TMAnによる解重合の工程を経ていないポリエステル系樹脂によって、本件特許発明の課題を解決することができることを窺わせる開示もなく、一般的な技術常識であるとも言えない。
本件特許発明において、TMAnを用いること、TMAnによる解重合の工程は、本件特許発明の課題を解決するための必要不可欠な成分であると思料する。
従って、本件特許発明1に記載のポリエステル系樹脂はTMAnを用いること、本件特許発明2に記載のポリエステル系樹脂はTMAnによる解重合の工程について発明特定事項として記載していないため、発明の詳細な説明に記載された事項及び本件出願時の技術常識に基づき、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
そこで、申立人の上記主張について、以下検討する。
アについて
本件特許明細書の段落【0019】には、「多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量は、25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。芳香族多価カルボン酸類の含有量が少なすぎると、湿熱環境下での長期耐久性が不充分となったり、低誘電正接に関して劣る傾向がある。」と記載されているものの、「25モル%以上」というのはあくまで好ましい範囲にすぎない。また、段落【0039】には、「本発明においては、低誘電正接の点から、脂環含有量を高くすることも好ましい。」と記載されていることから、ポリエステルの多価カルボン酸類(二塩基酸)として、脂環族多価カルボン酸を併用することにより、芳香族価カルボン酸以外のものを用いた場合においても、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
そして、申立人からは、具体的証拠を示して、多価カルボン酸類全体に対する芳香族多価カルボン酸類の含有量が具体的に何モル%以下の場合において、本件発明の課題を解決し得ないことを立証しているわけでもない。
よって、申立人の上記アの主張は首肯できない。
イについて
本件特許明細書の段落【0046】、【0047】及び【0050】には、「本発明に用いるポリエステル系樹脂は周知の方法により製造することができる。例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してポリエステル系樹脂を得て、更に酸価を導入することにより製造することができる。
ポリエステル系樹脂に酸価を導入する方法としては、例えば、エステル化反応後や減圧重縮合後に酸付加によってカルボン酸を樹脂に導入する方法が挙げられる。
・・・
本発明においては、また、別の周知の方法、例えば、多価カルボン酸類と多価アルコール類とを、必要に応じて触媒の存在下で、エステル化反応に付してプレポリマーを得た後、重縮合を行い、更に解重合を行うことにより製造することができる。」と記載されていることから、申立人の主張する「解重合」は、酸価を導入するための工程である。
一方、本件特許発明1には、「酸価が3mgKOH/g以上」であることが規定されており、段落【0057】には、ポリエステル系樹脂の酸価について、「本発明に用いるポリエステル系樹脂の酸価は3mgKOH/g以上であり、好ましくは4~60mgKOH/g、より好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは6~30mgKOH/g、更に好ましくは7~20mgKOH/gである。
酸価が低すぎると、接着剤組成物にポリエポキシ系化合物等の硬化剤を含有させた場合、硬化剤との架橋点が不足し架橋度が低くなるので、耐熱性が不充分となる。また、酸価が高すぎると、吸湿性や湿熱環境下での長期耐久性が低下したり、硬化時に多量の硬化剤を必要とすることから、近年要求されることが多くなった低誘電特性が得にくい傾向がある。」と記載されていることから、特段、無水トリメリット酸を用いなくても、他の3価以上のカルボン酸を用いる等して酸価が3mgKOH/g以上となるようにすれば、本件特許発明の課題を解決できるといえる。
よって、申立人の上記イの主張は首肯できない。
(6)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700821