特許異議申立
2018-700188
真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品
- 審判番号
- 2018-700188
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-093333
- 登録番号
- 特許第6187719号(P6187719)
- 請求日
- 2018年02月28日
- 審決日
- 2019年08月23日
- 公報発行日
- 2020年01月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】山下 昭彦
- 【権利者代理人】岸本 達人
- 【異議申立人】株式会社クラレ
- 【異議申立人代理人】鎌田 耕一
- 【異議申立人代理人】田村 康晃
- 審判長/審判官
- 審判長 田村 嘉章
- 審判官 紀本 孝
- 審判官 莊司 英史
- 分類
- P1651.841-ZE (F16L) / P1651.113-ZE (F16L) / P1651.121-ZE (F16L) / P1651.537-ZE (F16L) / P1651.536-ZE (F16L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6187719号発明「真空断熱材用外包材、真空断熱材、および真空断熱材付き物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6187719号の請求項1、2、5~8に係る特許を取り消す。
同請求項3、4に係る特許を維持する。
理由
第1 手続の経緯
特許第6187719号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年5月9日に出願され、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月30日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年 2月28日:特許異議申立人株式会社クラレ(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
平成30年 6月 8日:取消理由通知書
同年 8月13日:意見書(特許権者)
同年10月 9日:審尋(申立人に対し)
同年10月26日:回答書(申立人)
同年12月27日:取消理由通知書(決定の予告)
平成31年 3月 8日:訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月15日:意見書(申立人)
令和 元年 5月31日:訂正拒絶理由通知書
同年 7月 5日:意見書(特許権者)
第2 訂正について
1 訂正事項
平成31年3月8日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求めるものである。
そして、本件訂正は、具体的な訂正事項として、次の訂正事項10を含んでいる。
(訂正事項10)訂正前の明細書の段落【0025】において、「昇温速度:10℃/min」とあるのを、「昇温速度:10℃/min(実際の昇温速度:0.96℃/min)」に訂正する(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
上記訂正事項10は、明細書を訂正するものであるところ、請求項1に記載された「寸法変化率」の測定条件に関係していることから、該訂正に係る請求項は請求項1~8である。また、特許権者も、訂正事項10による明細書の訂正に係る請求項が請求項1~8である旨の説明をしている(訂正請求書14頁)。
2 訂正の適否
訂正事項10の適否について検討すると、同訂正事項で追加された「実際の昇温速度:0.96℃/min」は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載がない。
特許権者は訂正請求書において、「昇温速度:10℃/min」という記載が設定値を意図した記載であることは自明であり、乙第2号証(以下、「乙2」という。)で示した実験結果から、「昇温速度:10℃/min」で設定した場合は、実際の昇温速度が0.96℃/minとなるから、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である旨の主張をしている(訂正請求書12頁)。
しかし、「昇温速度:10℃/min」が設定値を意味するとしても、その際の実際の昇温速度は実験結果を参照しないと分からないし、また、実験環境により実際の昇温速度が変化しないとも限らないから、実際の昇温速度が0.96℃/minということは、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から自明な事項として把握することはできない。
したがって、訂正事項10は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
よって、訂正事項10に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合しないから、該訂正に係る請求項1~8について訂正を認めない。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
熱溶着可能なフィルムと、第1ガスバリアフィルムと、を少なくとも有し、
前記第1ガスバリアフィルムが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層を少なくとも含む真空断熱材用外包材であって、
温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり、かつ温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である、真空断熱材用外包材。
【請求項2】
前記M-O-P結合を有する層の両面には、樹脂基材が配置されている、請求項1に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項3】
前記樹脂基材は、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.5%以下である、請求項2に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項4】
前記樹脂基材は、ポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、アクリロニトリル-スチレン共重合体フィルム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体フィルムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2または請求項3に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項5】
無機層を含む第2ガスバリアフィルムをさらに有し、
前記第2ガスバリアフィルムが、前記熱溶着可能なフィルムと前記第1ガスバリアフィルムとの間に配置される、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項6】
前記熱溶着可能なフィルムと、ガスバリアフィルムを3つ以上と、を有し、
3つ以上の前記ガスバリアフィルムのうち少なくとも1つが、前記第1ガスバリアフィルムである、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の真空断熱材用外包材。
【請求項7】
芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有する真空断熱材であって、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。
【請求項8】
熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、
前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有し、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。
第4 取消理由の概要
請求項1~8に係る特許に対して、当審が平成30年12月27日付けの取消理由通知書(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 理由1[新規性]及び理由2[進歩性]
(1)請求項1~4、7及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1~4、7及び8に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~4、7及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基き、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、7及び8に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1~4、7及び8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)請求項1~8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるから、請求項1~8に係る特許は特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。
また、請求項1~8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基き、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1~8に係る特許は、取り消されるべきものである。
2 理由3[明確性]
請求項1~8に係る特許は、以下の点で特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(1)請求項1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である」は、水蒸気透過度の値に影響を及ぼすキャリアガス流量の設定について、本件特許明細書に記載がないため、不明確である。
(2)請求項1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり」は、寸法変化率の値に影響を与える可能性のある技術的事項について、本件特許明細書に十分に記載されていないため、不明確である。
3 理由4[実施可能要件]
請求項1~8に係る特許は、以下の点で特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(1)発明の詳細な説明には、水蒸気透過度の値に影響を及ぼすキャリアガス流量の設定について、明確かつ十分に記載されてない。
(2)発明の詳細な説明には、寸法変化率の値に影響を与える可能性のある技術的事項について、明確かつ十分に記載されてない。
第5 取消理由についての判断
1 理由1[新規性]及び理由2[進歩性]について
(1)証拠の記載
取消理由で引用した証拠には、以下の事項が記載されている。
ア 甲第1号証(国際公開第2016/103715号)
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「[0012] 本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるとともに、耐レトルト性に優れる新規な多層構造体およびそれを用いた包装材を提供することにある。」
「[0022] 本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、耐レトルト性に優れる新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、レトルト処理後においても優れたガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。」
「[0027][多層構造体]
本発明の多層構造体は、基材(X)とアルミニウムを含む層(Y)とを含む。層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」ともいう)と有機リン化合物(BO)とを含み、前記有機リン化合物(BO)はリン原子を含む官能基に対して0.4~8.0モル%の周期表の1~12族に属する金属イオン(Z)を含む。以下の説明において、特に注釈がない限り、「多層構造体」という語句は基材(X)と層(Y)とを含む多層構造体を意味する。
[0028] 層(Y)において、化合物(A)の少なくとも一部と有機リン化合物(BO)の少なくとも一部とが反応していてもよい。また、層(Y)に無機リン化合物(BI)を含む場合、化合物(A)の少なくとも一部と有機リン化合物(BO)および/または無機リン化合物(BI)の少なくとも一部とが反応していてもよい。層(Y)において化合物(A)が反応している場合でも、反応生成物を構成する化合物(A)の部分を化合物(A)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた化合物(A)の質量(反応前の化合物(A)の質量)を、層(Y)中の化合物(A)の質量に含める。また、層(Y)において無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)が反応している場合でも、反応生成物を構成する無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の部分を無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量(反応前の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量)、を層(Y)中の無機リン化合物(BI)および/または有機リン化合物(BO)の質量に含める。
[0029][基材(X)]
基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがさらに好ましい。」
「[0034][層(Y)]
層(Y)は、化合物(A)と有機リン化合物(BO)とを含む。化合物(A)はアルミニウムを含有する化合物である。また、層(Y)は、さらに無機リン化合物(BI)を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)および有機リン化合物(BO)は、リン原子を含有する官能基を有する。化合物(A)、無機リン化合物(BI)、および有機リン化合物(BO)について以下に説明する。」
「[0037] アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウムを含む。金属原子(M)は、アルミニウム単独であってもよいし、アルミニウムとそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(Aa)として、2種以上の金属酸化物(Aa)を併用してもよい。」
「[0039] 金属酸化物(Aa)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式〔I〕のR1が含まれる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(Aa)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(Aa)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(Aa)」と読み替えることもできる。」
「[0040][加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は、下記一般式〔I〕で表される化合物(Ea)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Al(R1)k(R2)3-k 〔I〕
式中、R1は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO3、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3~9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R2は、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7~10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基である。kは1~3の整数である。R1が複数存在する場合、R1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R2が複数存在する場合、R2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。」
「[0056] 化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)として、2種以上の化合物(Ea)を併用してもよい。」
「[0066] 層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,080~1,130cm-1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(Aa)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080~1,130cm-1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800~1,400cm-1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。」
「[0068] 層(Y)の赤外線吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm-1以下が好ましく、150cm-1以下がより好ましく、100cm-1以下がさらに好ましく、50cm-1以下が特に好ましい。」
「[0071][無機リン化合物(BI)]
無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(Aa)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。無機リン化合物(BI)としては、そのような部位(原子団または官能基)を2~20個含有する化合物が好ましい。そのような部位の例には、金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(M)に結合している。
・・・
[0073]・・・リン酸を用いることによって、後述するコーティング液(S)の安定性と得られる多層構造体のガスバリア性が向上する。・・・。」
「[0074][無機蒸着層、化合物(Ac)、化合物(Ad)]
多層構造体は、さらに無機蒸着層を含んでもよい。無機蒸着層は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素あるいは水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。本発明の多層構造体中の層(Y)は、アルミニウムを含有する無機蒸着層を含んでいてもよい。例えば、層(Y)は、アルミニウムの蒸着層(Ac)および/または酸化アルミニウムの蒸着層(Ad)を含んでいてもよい。
・・・
[0076]無機蒸着層の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性あるいは機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素あるいは水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。」
「[0077][有機リン化合物(BO)]
有機リン化合物(BO)が有するリン原子を含む官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等が挙げられ、中でもリン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。」
「[0082] 多層構造体の層(Y)において、無機リン化合物(BI)を含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBIが0.01/99.99≦WBO/WBI<1.00/99.00の関係を満たすものが好ましく、得られる剥離強度が高くなる点から、0.10/99.90≦WBO/WBI<0.99/99.01の関係を満たすものがより好ましく、0.15/99.85≦WBO/WBI<0.95/99.05の関係を満たすものがさらに好ましく、0.20/99.80≦WBO/WBI<0.93/99.07の関係を満たすものが特に好ましい。すなわち、WBOは0.01以上1.00未満の微量であるのに対して、WBIは99.00より多く99.99以下という多量に用いるのが好ましい。」
「[0096] 層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05~4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.1~2.0μmの範囲にあることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。また、多層構造体の柔軟性が増すので、その力学的特性を基材自体の力学的特性に近づけることもできる。本発明の多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合、ガスバリア性の観点から、層(Y)1層当たりの厚さは0.05μm以上であることが好ましい。層(Y)の厚さは、層(Y)の形成に用いられる後述するコーティング液(S)の濃度あるいはその塗工方法によって制御できる。」
「[0136][真空断熱体]
本発明の多層構造体を含む包装材は真空断熱体であってもよい。本発明の真空断熱体の一例を図3に示す。図3の真空断熱体30は、2枚の本発明の多層構造体11と、粒子状の芯材31とを含む。2枚の多層構造体11は、周縁部11cにおいて互いに接合されている。2枚の多層構造体11によって形成された内部空間には芯材31が充填されており、その内部空間は減圧されている。多層構造体11は、真空断熱体30の内部と外部との圧力差によって芯材31に密着している。真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備える断熱体であり、芯材が配置された内部は減圧されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い断熱体で達成することを可能にする。本発明の真空断熱体は、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器等の家電製品用の断熱材;壁部、天井部、屋根裏部および床部等に用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機等の断熱パネル;蓄熱機器、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器等に利用できる。被覆材として用いられる本発明の多層構造体は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層および無機蒸着層を含むことも好ましく、例えば、ポリエステル層/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/無機蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層の構成を有していてもよい。」
「実施例・・・
[0147](1)赤外線吸収スペクトルの測定
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800~1,400cm-1
[0148](2)各層の厚さ測定
収束イオンビーム(FIB)を用いて多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM-2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
[0149](3)酸素透過度の測定
酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON OX-TRAN2/20
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
[0150](4)透湿度の測定
水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH」
「[0152]<コーティング液(S-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を攪拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で攪拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。」
「[0153]<有機リン化合物(BO-1)の合成例>
窒素雰囲気下、tert-ブチルリチウム0.52mmolを含有するトルエン溶液60mLを-78℃に冷却し、ビニルホスホン酸ジメチル26mmolを添加した。-78℃に保ったまま12h撹拌し、重合させた後、温度を室温(25℃)まで上げ、1.0mLのメタノールを添加した。溶媒を留去した後、テトラヒドロフラン/ヘキサン=1/1溶液で再沈殿した。ろ過後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合生成物を得た。続いて得られた重合生成物を14Nの塩酸溶液10mLに加え、12h還流した。10mLの水で希釈後、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(BO-1)を得た。重合体(BO-1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で7,500であった。また、誘導結合プラズマ質量分析の結果、該重合体は開始剤由来のリチウムイオンをホスホン酸基に対して0.9モル%含んでいた。」
「[0155]<コーティング液(T-1)の製造例>
前記合成例の重合体(BO-1)1質量部を、水69.3質量部、メタノール29.7質量部に加えて溶解させ、目的のコーティング液(T-1)を得た。」
「[0158]<実施例1>
まず、基材(X)として、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「X-1」と略称することがある)である東レ株式会社製の「ルミラー(登録商標) P60」(厚さ12μm)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱処理することによって、基材上に層(Y1-1)の前駆体層を形成した。次いで、無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBI=0.90/99.10となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させた。続いて、220℃で1分間熱処理することによって層(Y1-1)を形成した。このようにして、基材(X-1)/層(Y1-1)という構造を有する多層構造体(1-1)を得た。得られた多層構造体(1-1)の各層の厚さを前記した方法によって測定した。結果を表1に示す。
[0159] 多層構造体(1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,108cm-1であり、該最大吸収帯の半値幅は37cm-1であった。
[0160] 得られた多層構造体(1-1)上に接着層を形成し、該接着層上に延伸ナイロンフィルム(厚さ15μm)をラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体の延伸ナイロンフィルム上に接着層を形成した後、該接着層上に、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ70μm)をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y1-1)/接着層/延伸ナイロンフィルム/接着層/無延伸ポリプロピレンフィルムという構造を有する多層構造体(1-2)を得た。延伸ナイロンフィルムには、ユニチカ株式会社製の「エンブレム」(登録商標)の「ONBC」(銘柄)を用いた。無延伸ポリプロピレンフィルムには、東セロ株式会社製の「RXC-21」(銘柄)を用いた。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-520」(銘柄)と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」(銘柄)とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。多層構造体(1-2)の酸素透過度および透湿度を測定した。結果を表1に示す。
[0161] 多層構造体(1-2)をヒートシールすることによってパウチを作製し、水100gをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:130℃
時間:30分間
圧力:0.21MPaG
[0162] 熱水処理後すぐに、パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度および透湿度を前記の方法で測定した。また、熱水処理後、23℃、50%RHの環境下においてパウチを24時間乾燥した。次いで、乾燥後のパウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルのT型剥離強度を前記の方法で測定した。また、デラミネーション等の外観不良は見られなかった。」
「[0169][表1]
」
「[0170]<実施例9>
実施例9では、実施例1で得た多層構造体(1-2)を用いて真空断熱体を作製した。具体的には、まず、多層構造体(1-2)を所定の形状に2枚切り出した。次に、無延伸ポリプロピレン層が内側となるように2枚の多層構造体(1-2)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(Frimark GmbH製VAC-STAR 2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、真空断熱体を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には120℃で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。」
「[図3]
」
上記記載の特に、甲1の実施例9([0170])及び実施例9で用いる実施例1の多層構造体(1-2)([0158]~[0160])からみて、接着層を含めた実施例9の層構造は次のとおりである。
無延伸ポリプロピレンフィルム/接着層/延伸ナイロンフィルム/接着層/層(Y1-1)/延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))
以上によれば、甲1には、実施例9の真空断熱体の作製に用いる多層構造体(1-2)を含む包装材に係る以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「無延伸ポリプロピレンフィルム、接着層、延伸ナイロンフィルム、接着層、層(Y1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))を順に配置した多層構造体(1-2)を含む、真空断熱体に用いる包装材であって、
層(Y1-1)がM-O-P結合を有する層である
真空断熱体に用いる包装材。」
イ 甲第2号証(試験成績報告書。以下「甲2」という。)
(ア)甲2の1
「1 実験日 平成29年11月8日~平成30年2月16日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 清水 裕司」
「4 実験の目的」は、甲1の実施例9における多層構造体(1-2)を作製すること。また、作製した試験試料Bの層(Y1-1)が、本件特許に記載のM-O-P結合を有する層であることを確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 使用したフィルムの詳細」
「甲第1号証の実施例と同様下記フィルムを使用した。」
「1)PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標) P60」(商品名)、厚さ12μm」
「2)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm」
「3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(登録商標) ONBC」(商品名)、厚さ15μm」
「5-2 塗工液の準備」
「5-2-1 コーティング液(S-1)の調製(甲第1号証段落[0152]と同様)・・・。」
「5-2-2 有機リン化合物(BO-1)の合成(甲第1号証段落[0153]と同様)・・・。」
「5-2-3 コーティング液(T-1)の製造例>(甲第1号証段落[0155]と同様)・・・。」
「5-3 多層構造体(1-1)の製造(甲第1号証[0158]と同様)・・・。」
「5-4 層(Y1-1)厚さの測定(甲第1号証[0148]段落と同様)
・・・
得られた多層構造体(1-1)の層(Y1-1)の厚さは0.3μmであった。」
「5-5 赤外線吸収スペクトルの測定(甲第1号証段落[0147]と同様) ・・・
多層構造体(1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,107cm-1であり、該最大吸収帯の半値幅は35cm-1であった。」
「5-6 多層構造体(1-2)の製造(甲第1号証段落[0160]と同様) ・・・
多層構造体(1-2)を試験試料Bとした。
・・・。」
。」
「6.考察
・・・試験試料Bの層(Y-1)がM-O-P結合を有する層であるかは、本件特許段落[0062]~[0065]に記載されている方法により確認することができる。層(Y1-1)の赤外線吸収スペクトルにおける最大となる赤外線吸収ピークの波数(n1)は、1107cm-1であり1080cm-1以上、1130cm-1以下の範囲内であった。また、最大吸収波数(n1)に極大を有する吸収ピークの半値幅は、35cm-1であり、100cm-1以下であった。従って、試験試料Bの層(Y1-1)は、M-O-P結合を有する層である。」
(イ)甲2の2
なお、水蒸気透過度の単位について、本件特許においては「g/(m2・day)」であるのに対し、甲2の2及び甲6の2等においては、「g/(m2/day)」と「・」が「/」となり誤記といえるので、該記載については、以下、「g/(m2・day)」として記載することとする。
「1 実験日 平成29年11月28日~平成30年1月22日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 久詰 修平」
「4 実験の目的」は、甲1の実施例9における多層構造体(1-2)が、本件特許の請求項1の要件E(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である)を充足することを確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 高温高湿保持試験
・・・試験試料Bを温度70℃、湿度90%RHの高温高湿器内(PR-4J ESPEC社製)に2017/11/28~2018/01/09静置し、高温高湿保持後の試験試料Bを得た。」
「5-2 水蒸気透過度測定」
「5-2-1 測定条件(本件特許段落[0032]と同様)
使用機器:PA(当審注:「PE」の誤記。)RMATRAN-W Model3/33(MOCON社製)
JISK7129:2008に従い温度40℃、相対湿度差90%RHで測定した。」
「5-2-2 測定結果」
「水蒸気透過度(g/(m2・day))」
「本件特許の開示」「0.4g/(m2・day)以下」
「試験試料B」「0.033±0.016」(g/(m2・day))
(ウ)甲2の3
「1 実験日 平成29年11月28日~平成30年1月22日」
「2 実験場所」
「1)株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「2)日立化成テクノサービス株式会社 分析センター 分析部 分析グループ 試験チーム内」
「3 実験者 森原 靖」
「4 実験の目的」は、甲1の実施例9における多層構造体(1-2)が本件特許の請求項1の要件F(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり)の充足を確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 TMAによる寸法測定」
「5-1-1 試験試料」
「・・・試験試料Bを、下図の通り8点採取し測定試料とした。」
「
」
「5-1-2 測定条件
熱機械的分析装置:日立ハイテクサイエンス社製TMA7100
測定モード:引張モード、荷重400mN/mm2
測定試料幅:5mm
チャック間測定試料長さ:10mm
測定雰囲気:窒素パージ下
昇温開始温度:25℃
昇湿開始湿度:0%RH
昇温終了温度:70℃
昇湿終了湿度:90%RH
昇温速度:0.5℃/min
恒温恒湿過程での保持時間:2時間(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中)
寸法測定頻度:0.16分刻み
本装置は、昇温速度設定機能が無いため、各測定において昇湿は成り行きとし、昇湿速度は実測結果より算出した。昇湿始点は、湿度が上がり始める直前の時間とし、昇湿の終点は、湿度が90%RH±2%RHで安定し始めた点とした。
各測定における始点時間、終点時間、終点湿度、昇湿速度を下表に示す。
昇湿速度は、平均21.4±1.4%RH/minであった。
測定試料の各々について、TMAを用いて、荷重400mN/mm2の引張モードで、昇温開始温度25℃、昇湿開始湿度0%RHから、湿度一定で昇温終了温度70℃までの昇温過程と、それに続く温度一定で昇湿終了湿度90%RHまでの昇湿過程と、それに続く温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持する恒温恒湿過程との一連の過程に置き、一連の過程における測定試料の寸法を経時で測定した。一連の過程における寸法測定は、上記のTMAによる寸法測定条件に基づき実施した。また、測定試料の寸法とは、測定試料の長手方向の寸法とし、測定試料の長手方向をTMAによる測定の際の引張方向とした。」
「昇温速度条件は、本件特許では10℃/minであったが、測定依頼した日立化成テクノサービス株式会社分析グループ試験チーム担当者より、調湿機能を付加した場合、装置の設定は10℃/minとすることは可能だが、水槽による温調となるため試料管内の温度は設定通りに昇温しないこと、また、昇温設定を10℃/minとして繰り返し測定を実施した場合、過負荷により装置が故障する恐れがあるため、10℃/minでの測定は受託できないとの回答があった。上記理由により、本試験では、調湿機能を付加した場合の標準条件である昇温設定:0.5℃/minで測定を実施した。」
「測定は、実験者:森原 靖監督の下、日立化成テクノサービス株式会社分析グループ試験チームが実施した。測定結果の詳細は甲第2号証の4に示す。」
「5-1-3 測定結果」
「寸法変化率(8方向平均値)」
「本件特許の開示」「0.55%以下」
「試験試料B」「0.36」(%)
(エ)甲2の4(日立化成テクノサービス株式会社)
上記(ウ)の測定に関係して調湿TMAの説明及び測定結果等の詳細について記載されている。
同号証の最終頁に「調湿TMA」について、「昇温速度:1℃/min以下」と記載されている。
ウ 甲第5号証(国際公開第2017/047103号)
甲第5号証(以下「甲5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「[0008] 本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、レトルト処理後および延伸処理後においても優れたバリア性を維持できるとともに、レトルト処理後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体およびそれを用いた包装材を提供することにある。
[0009] また、本発明の他の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるとともに、高温高湿下においても高い層間接着力を有する新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供することにある。」
「[0027] 本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、耐レトルト性および耐延伸性に優れる新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、レトルト処理後および延伸処理後においても優れたバリア性を維持できるとともに、レトルト処理後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体およびそれを用いた包装材が得られる。また、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、高温高湿下においても高い層間接着力を有する新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートが得られる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるだけでなく、ダンプヒート試験後においても優れたガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、ダンプヒート試験後にデラミネーション等の外観不良を生じず、高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体を含む保護シートを有する電子デバイスが得られる。」
「[0031][多層構造体]
本発明の多層構造体は、基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える。層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」ともいう)を含む。層(Z)は、有機リン化合物(BO)と、エーテル結合を有しかつグリコシド結合を有しない重合体(F)(以下、単に「重合体(F)」ともいう)とを含む。以下の説明において、特に注釈がない限り、「多層構造体」という語句は基材(X)と層(Y)と層(Z)を含む多層構造体を意味する。
[0032] 層(Z)において、有機リン化合物(BO)の少なくとも一部と重合体(F)の少なくとも一部とが反応していてもよい。層(Z)において有機リン化合物(BO)が反応している場合でも、反応生成物を構成する有機リン化合物(BO)の部分を有機リン化合物(BO)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた有機リン化合物(BO)の質量(反応前の有機リン化合物(BO)の質量)を、層(Z)中の有機リン化合物(BO)の質量に含める。また、層(Z)において重合体(F)が反応している場合でも、反応生成物を構成する重合体(F)の部分を重合体(F)とみなす。この場合、反応生成物の形成に用いられた重合体(F)の質量(反応前の重合体(F)の質量)、を層(Z)中の重合体(F)の質量に含める。
[0033][基材(X)]
基材(X)の材質は、特に制限されず、様々な材質からなる基材を用いることができる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は、特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムであることがさらに好ましい。」
「[0038][層(Y)]
本発明の多層構造体は、アルミニウムを含む化合物(A)を含む層(Y)を含む。層(Y)および層(Z)の少なくとも一方が複数存在する場合、少なくとも一組の層(Y)と層(Z)とが隣接して(接触して)積層されていることが好ましい。また、層(Y)は、さらに無機リン化合物(BI)を含むことが好ましい。無機リン化合物(BI)は、リン原子を含有する官能基を有する。化合物(A)、無機リン化合物(BI)について以下に説明する。」
「[0039][アルミニウムを含む化合物(A)]
化合物(A)は、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)であってもよいし、アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)(以下、単に「金属酸化物(Aa)」ともいう)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(D)を含む化合物(Ab)(以下、単に「化合物(Ab)」ともいう)であってもよい。アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)は、通常、粒子の形態で無機リン化合物(BI)と反応させる。
[0040][アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)]
アルミニウムを含む金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(それらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であるが、少なくともアルミニウムを含む。金属原子(M)は、アルミニウム単独であってもよいし、アルミニウムとそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(Aa)としては、1種の金属酸化物を単独で使用してもよく、2種以上の金属酸化物を併用してもよい。
・・・
[0042] 金属酸化物(Aa)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であってもよい。該特性基の例には、後述する一般式〔I〕のR1が含まれる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(Aa)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(Aa)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(Aa)」と読み替えることもできる。」
「[0043][加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(BI)との反応の制御が容易になり、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は、下記一般式〔I〕で表される化合物(Ea)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Al(R1)k(R2)3-k 〔I〕
式中、R1は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO3、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアシロキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3~9のアルケニルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または置換基を有していてもよい炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基である。R2は、置換基を有していてもよい炭素数1~9のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数7~10のアラルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2~9のアルケニル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~10のアリール基である。kは1~3の整数である。R1が複数存在する場合、R1は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R2が複数存在する場合、R2は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。」
「[0059] 化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)としては、1種の化合物を単独で使用してもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。」
「[0069] 多層構造体の赤外線吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,080~1,130cm-1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(Aa)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外線吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080~1,130cm-1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することがわかった。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800~1,400cm-1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することがわかった。」
「[0071] 多層構造体の赤外線吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm-1以下が好ましく、150cm-1以下がより好ましく、100cm-1以下がさらに好ましく、50cm-1以下が特に好ましい。」
「[0073][無機リン化合物(BI)]
無機リン化合物(BI)は、金属酸化物(Aa)と反応可能な部位を含有し、典型的には、そのような部位を複数含有する。無機リン化合物(BI)としては、そのような部位(原子団または官能基)を2~20個含有する化合物が好ましい。そのような部位の例には、金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれる。そのような部位としては、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(Aa)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(Aa)を構成する金属原子(M)に結合している。」
「[0076][無機蒸着層]
多層構造体は、さらに無機蒸着層を含んでもよい。無機蒸着層は、無機物を蒸着することによって形成することができる。無機物としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。これらの中でも、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層は、酸素あるいは水蒸気に対するバリア性が優れる観点から好ましい。本発明の多層構造体中の層(Y)は、アルミニウムを含有する無機蒸着層を含んでいてもよい。例えば、層(Y)は、アルミニウムの蒸着層(Ac)および/または酸化アルミニウムの蒸着層(Ad)を含んでいてもよい。
・・・
[0078] 無機蒸着層の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性あるいは機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素あるいは水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引っ張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下しやすくなる傾向がある。」
「[0079] 層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は、0.05μm~4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.1μm~2.0μmの範囲にあることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷、ラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を低く抑えることができる。層(Y)の厚さは、多層構造体の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することによって測定できる。」
「[0080][層(Z)]
層(Z)は、有機リン化合物(BO)と重合体(F)とを含む。有機リン化合物(BO)はリン原子を含有する化合物である。重合体(F)は、エーテル結合を有しかつグリコシド結合を有しない重合体である。有機リン化合物(BO)と重合体(F)について以下に説明する。
[0081][有機リン化合物(BO)]
有機リン化合物(BO)が有するリン原子を含む官能基としては、例えば、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等が挙げられ、中でもリン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
[0082] 有機リン化合物(BO)は前記リン原子を含む官能基を有する重合体(BOa)であることが好ましい。該重合体(BOa)としては、例えば、アクリル酸6-[(2-ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシル、メタクリル酸2-ホスホノオキシエチル、メタクリル酸ホスホノメチル、メタクリル酸11-ホスホノウンデシル、メタクリル酸1,1-ジホスホノエチル等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体;ビニルホスホン酸、2-プロペン-1-ホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸等のビニルホスホン酸類の重合体;ビニルホスフィン酸、4-ビニルベンジルホスフィン酸等のビニルホスフィン酸類の重合体;リン酸化デンプン等が挙げられる。重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。また、重合体(BOa)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上併用してもよい。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類の重合体およびビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましい。特に、重合体(BOa)としては、ポリ(ビニルホスホン酸)が好ましい。また、重合体(BOa)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物あるいはビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することによっても得ることができる。
[0083] また、前記重合体(BOa)は、少なくとも1種のリン原子を含む官能基を有する単量体と他のビニル単量体との共重合体であってもよい。リン原子を含む官能基を有する単量体と共重合することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、核置換スチレン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルビニルエステル類、パーフルオロアルキルビニルエーテル類、パーフルオロアルキルビニルエステル類、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイミド、フェニルマレイミド等が挙げられ、中でも(メタ)アクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン、マレイミド、およびフェニルマレイミドが好ましい。
[0084] より優れた耐屈曲性を有する多層構造体を得るために、リン原子を含む官能基を有する単量体に由来する構成単位が重合体(BOa)の全構成単位に占める割合は、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、70モル%以上が特に好ましく、100モル%であってもよい。
[0085] 前記重合体(BOa)の分子量に特に制限はないが、数平均分子量が1,000~100,000の範囲にあることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にあると、層(Z)を積層することによる耐屈曲性の改善効果と、後述するコーティング液(T)の粘度安定性とを、高いレベルで両立することができる。
[0086][エーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体(F)]
本発明の多層構造体は、層(Z)中に重合体(F)を含めることによってレトルト処理後において高い層間接着力(剥離強度)を有する。また、本発明の多層構造体は、重合体(F)を含めることによって多層構造体の着色を抑えて透明性を高めることもでき、多層構造体の外観を良好に保つこともできる。さらに、重合体(F)は、他の部材(例えば、接着層(I)、他の層(J)(例えば、インク層))との親和性が高いエーテル結合を有するため、層(Z)とそれ以外の層との密着性が向上し、レトルト処理後も層間接着力を維持することができる点から、デラミネーション等の外観不良を抑制することが可能となる。重合体(F)としては、エーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体であれば、特に限定されない。グリコシド結合とは、単糖(または単糖誘導体)のヘミアセタールとアルコール等の有機化合物の水酸基との間の結合を意味する。重合体(F)としては、例えば、ポリオキシアルキレン系重合体が好適に挙げられる。ポリオキシアルキレン系重合体としては、下記一般式〔III〕で表される繰り返し単位を有する重合体(Fa)が好ましい。
-R5-O- 〔III〕
式中、R5は置換基を有していてもよい炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基である。
・・・
[0088] 重合体(F)としては、例えば、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられ、中でも、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の炭素数2~4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール系重合体が好ましく、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレングリコール、およびポリプロピレンオキサイドがより好ましく、ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキサイドがさらに好ましい。
[0089] 重合体(F)は、単量体(例えば、エチレングリコール、テトラヒドロフラン)の単独重合体であってもよいし、2種以上の単量体の共重合体であってもよい。なお、重合体(F)として、2種以上の重合体(F)を併用してもよい。また、重合体(F)は、末端水酸基が封止されていてもよい。末端水酸基が封止された重合体(F)としては、例えば、モノメチルポリオキシメチレン、モノメチルポリエチレングリコール、モノメチルポリプロピレングリコール、モノメチルポリテトラメチレンエーテルグリコール、ジメチルポリオキシメチレン、ジメチルポリエチレングリコール、ジメチルポリプロピレングリコール、ジメチルポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
[0090] 重合体(F)の分子量に特に制限はないが、レトルト処理後により優れた接着性を有する多層構造体を得るために、重合体(F)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、5,000以上であることが好ましい。重量平均分子量は8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重量平均分子量は7,000,000以下であることが好ましく、3,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量がこの範囲外であるときは、十分な密着性が得られない場合がある。・・・
[0091] 本発明の多層構造体に含まれる層(Z)は、有機リン化合物(BO)、および重合体(F)のみによって構成されていてもよい。また、層(Z)は、有機リン化合物(BO)及び重合体(F)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。層(Z)に含まれる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;有機リン化合物(BO)および重合体(F)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Z)における前記の他の成分の含有量は、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)であってもよい。
[0092] 重合体(F)は、前記有機リン化合物(BO)と前記重合体(F)との質量比が30:70~99:1の範囲内であることが好ましく、40:60~95:5の範囲内であることがより好ましく、レトルト処理後および延伸処理後のバリア性能の低下をより抑制できる点から、50:50~91:9の範囲内であることがさらに好ましい。重合体(F)は、層(Y)中の成分と反応していてもよいし、反応していなくてもよい。
[0093] 多層構造体の層(Y)および層(Z)において、無機リン化合物(BI)と有機リン化合物(BO)を含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量WBIと層(Z)における有機リン化合物(BO)の質量WBOとの質量比WBO/WBIが0.06以上であることが好ましく、耐延伸性がより良好になる観点から、WBO/WBIが0.07以上であることがより好ましく、WBO/WBIが0.09以上であることがさらに好ましく、WBO/WBIが0.19以上であることが特に好ましく、WBO/WBIが0.21以上であることが特にさらに好ましく、WBO/WBIが0.31以上であることが最も好ましい。WBO/WBIは、10.0以下であってもよく、5.0以下であってもよく、2.0以下であってもよく、1.0以下であってもよく、0.90以下であってもよい。
[0094] 層(Z)の厚さは0.003μm以上であることが好ましく、0.03μm~1.0μmであることがより好ましい。層(Z)の厚さがこの範囲にあると、レトルト耐性およびストレス耐性(特に、延伸等の物理的ストレス)を両立することができる。・・・」
「[0123] 本発明の多層構造体の最表面層をポリオレフィン層とすることによって、多層構造体にヒートシール性を付与したり、多層構造体の力学的特性を向上させたりすることができる。ヒートシール性あるいは力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。なお、各層の間には必要に応じて、アンカーコート層または接着剤からなる層を設けてもよい。
[0124][多層構造体の構成]
本発明の多層構造体の構成の具体例を以下に示す。多層構造体は基材(X)、層(Y)、層(Z)以外の他の部材(例えば、接着層(I)、他の層(J))を有していてもよいが、以下の具体例において、他の部材の記載は省略している。また、以下具体例を複数層積層したり組み合わせたりしてもよい。以下では、層(Y)と層(Z)が隣接して積層された構造を層(YZ)という場合がある。層(YZ)は、層(Y)と層(Z)は、いずれの順番で積層されていてもよい。・・・
(17)ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、・・・」
「[0137] また、本発明の多層構造体を含む包装材は、種々の成形品に二次加工して使用できる。このような成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、インモールドラベル容器、真空断熱体、または電子デバイスであってもよい。これらの成形品では、ヒートシールが行われてもよい。」
「[0144][真空断熱体]
前記した包装材を少なくとも一部に用いる本発明の製品は、真空断熱体であってもよい。真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備える断熱体であり、芯材が配置された内部は減圧されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い断熱体で達成することを可能にする。本発明の真空断熱体は、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器等の家電製品用の断熱材;壁部、天井部、屋根裏部および床部等に用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機等の断熱パネル;蓄熱機器、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器等に利用できる。被覆材として用いられる本発明の多層構造体は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層および無機蒸着層を含むことも好ましく、例えば、ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層の構成を有していてもよい。本発明の真空断熱体は、高温高湿下においても高い層間接着力を有し、デラミネーション等の外観不良を生じない。
[0145] 本発明の真空断熱体の一例を図6に示す。図6の真空断熱体601は、粒子状の芯材651と、それを覆う被覆材として2枚の本発明の多層構造体631,632とを含む。2枚の多層構造体631,632は、周縁部611において互いに接合されている。2枚の多層構造体631,632によって形成された内部空間には芯材651が充填されており、その内部空間は減圧されている。多層構造体631,632は、芯材651が収容された内部と外部とを隔てる隔壁620として機能し、真空断熱体601の内部と外部との圧力差によって芯材651に密着している。芯材652が配置された内部は減圧されている。
[0146] 本発明の真空断熱体の別の一例を図7に示す。真空断熱体602は、芯材651の代わりに一体に成形された芯材652を備えていることを除き、真空断熱体601と同一の構成を有する。成形体である芯材652は、典型的には樹脂の発泡体である。」
「[0157](1)赤外線吸収スペクトルの測定
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:パーキンエルマー株式会社製Spectrum One
測定モード:減衰全反射法
測定領域:800~1,400cm-1
[0158](2)各層の厚さ測定
収束イオンビーム(FIB)を用いて多層構造体を切削し、断面観察用の切片を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM-2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
[0159](3)酸素透過度の測定
酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON OX-TRAN2/20
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
[0160](4)延伸処理後の酸素透過度の測定
まず、多層構造体を切り出して、15cm×10cmの大きさの測定用サンプルを作製した。このサンプルを23℃、50%RHの雰囲気下で24時間放置した後、同雰囲気下において長軸方向に3%延伸し、延伸した状態を10秒間保持した。この延伸処理後のサンプルの酸素透過度を、前記(3)に記載の方法で測定した。
[0161](5)透湿度の測定
水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くようにサンプルを取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロールズ社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH」
「[0164]<コーティング液(S-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を攪拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で攪拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
[0165]<有機リン化合物(BO-1)の合成例>
窒素雰囲気下、ビニルホスホン酸10gおよび2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩0.025gを水5gに溶解させ、80℃で3時間攪拌した。冷却後、重合溶液に水15gを加えて希釈し、セルロース膜であるスペクトラムラボラトリーズ社製の「Spectra/Por」(登録商標)を用いてろ過した。ろ液中の水を留去した後、50℃で24時間真空乾燥することによって、重合体(BO-1)を得た。重合体(BO-1)は、ポリ(ビニルホスホン酸)である。GPC分析の結果、該重合体の数平均分子量はポリエチレングリコール換算で10,000であった。
[0166]<コーティング液(T-1)の製造例>
前記合成例で得た有機リン化合物(BO-1)を77質量%、重合体(F)として重量平均分子量20,000のポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製「PEG-20000)を23質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(T-1)を得た。」
「[0168]実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。
1)PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標) P60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム(登録商標) Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(登録商標) ONBC」(商品名)、厚さ15μm
4)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm
5)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm
6)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm
7)VM-EVOH:アルミニウム蒸着層が形成された二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム;株式会社クラレ製、「VM-XL」(商品名)、厚さ12μm」
「[0169][実施例1]
<実施例1-1>
まず、基材(X)として、PET12(以下、「X-1」と略称することがある)を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、110℃で5分間乾燥させた後、160℃で1分間熱処理することによって、基材上に層(Y-1-1)の前駆体層を形成した。次いで、無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBI=0.21となるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、110℃で3分間乾燥させた。続いて、220℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。得られた多層構造体(1-1-1)の各層の厚さ、酸素透過度および透湿度を上述した方法によって測定した。層(Y-1-1)の厚さは0.3μm、層(Z-1-1)の厚さは0.09μmであった。透湿度は、0.2g/(m2・day)であった。また、得られた多層構造体(1-1-1)について、延伸処理後の酸素透過度を上述した方法によって測定した。結果を表1に示す。
[0170] 多層構造体(1-1-1)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,108cm-1であり、該最大吸収帯の半値幅は37cm-1であった。
[0171] 得られた多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上にONYをラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY上に接着層を形成した後、該接着層上に、CPP70をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/ONY層/接着層/CPP層という構造を有する多層構造体(1-1-2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」(銘柄)と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」(銘柄)とからなる接着剤を用いた。得られた多層構造体(1-1-2)について、酸素透過度を及び透湿度を上述した方法によって測定した。
[0172] 多層構造体(1-1-2)をヒートシールすることによってパウチを作製し、水100gをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60 温度:130℃
時間:30分間
圧力:0.21MPaG
[0173] 熱水処理後すぐに、パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度、および透湿度を上述した方法で測定した。また、23℃、50%RHの環境下においてレトルト処理後のパウチを24時間乾燥後、多層構造体(1-1-2)のT型剥離強度を測定した。結果を表2に示す。また、多層構造体(1-1-2)には、デラミネーション等の外観不良は見られなかった。」
「[0176][表1]
[0177][表2]
」
「[0200][実施例9]真空断熱体
<実施例9-1>
CPP60上に、実施例6-1で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(9-1-1)を得た。次に、別途用意したONYの上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(9-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体(1-1-2)/接着層/ONY層、という構造を有する多層構造体(9-1-2)を得た。
[0201] 多層構造体(9-1-2)を裁断し、サイズが70cm×30cmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封した。このようにして、真空断熱体(9-1-3)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(9-1-3)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。
[0202] 恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1,000時間真空断熱体(9-1-3)を保管する耐久性試験(ダンプヒート試験)を行った。ダンプヒート試験前後の各真空断熱体から測定用のサンプルを切り出し、該サンプルについて、酸素透過度および透湿度を測定した。また、ダンプヒート試験後のサンプルのT型剥離強度を上記の方法で測定した。結果を表9に示す。デラミネーション等の外観不良は見られなかった。
・・・
[0204]<実施例9-9>
実施例1-1で得られた多層構造体(1-1-1)の層(Z-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上にもう1枚の多層構造体(1-1-1)を基材(X-1)側が接するようにラミネートすることによって積層体(9-9-1)を得た。次に、積層体(9-9-1)の層(Z-1-1)上に接着層を形成した後、該接着層上に、VM-EVOHをアルミニウム蒸着層側が接するようにラミネートすることによって積層体を得て、該積層体のVM-EVOH層上に接着層を形成した後、CPP60をラミネートし、40℃で5日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)/接着層/無機蒸着層/延伸EVOH層/接着層/CPP層という構造を有する多層構造体(9-9-2)を得た。多層構造体(9-1-2)に代えて多層構造体(9-9-2)を使用したこと以外は実施例9-1の真空断熱体(9-1-3)の作製と同様にして、真空断熱体(9-9-3)を作製した。得られた真空断熱体について、実施例9-1と同様に各項目を測定した。結果を表9に示す。真空断熱体(9-9-3)には、デラミネーション等の外観不良は見られなかった。
[0205][表9]
」
「
」
「
」
「[請求項1]
基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える多層構造体であって、
前記層(Y)が、アルミニウムを含む化合物(A)を含み、
前記層(Z)が、有機リン化合物(BO)と、エーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体(F)とを含む、多層構造体。」
上記記載の特に、甲5の実施例9-9([0204])及び実施例9-9で用いる実施例1-1の多層構造体(1-1-1)([0168]~[0170])からみて、接着層を含めた実施例9-9の真空断熱体の作製に用いる多層構造体(9-9-2)の層構造は次のとおりである。
無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP層)/接着層/二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム/アルミニウム蒸着層/接着層/層(Z-1-1)/層(Y-1-1)/延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))/接着層/層(Z-1-1)/層(Y-1-1)/延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))
上記隣接して積層される「層(Y-1-1)」及び「層(Z―1―1)」について、[0069]、[0170]の記載より、基材(X-1)/層(Y-1-1)/層(Z-1-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)が、M-O-P結合を有し、優れたガスバリア性を発現することが分かる。
そして、層(Y)は、アルミニウムを含む化合物(A)を含み([0038])、アルミニウムを含む化合物(A)はアルミニウムを含む金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応してなる反応生成物(D)を含む化合物(Ab)であってもよく([0039])、金属酸化物(Aa)と無機リン化合物(BI)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(Aa)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(BI)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する([0069])のであるから、結局のところ、「層(Y-1-1)」が、M-O-P結合を有する層である。
以上によれば、甲5には、実施例9-9の真空断熱体の作製に用いる多層構造体(9-9-2)を含む包装材に係る以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
「無延伸ポリプロピレンフィルム、接着層、二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、アルミニウム蒸着層、接着層、層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))、接着層、層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))を順に配置した多層構造体(9-9-2)を含む、真空断熱体に用いる包装材であって、
層(Y-1-1)はM-O-P結合を有する層である、
真空断熱体に用いる包装材。」
エ 甲第6号証(試験成績報告書。以下「甲6」という。)
(ア)甲6の1
「1 実験日 平成29年11月8日~平成30年2月16日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 清水 裕司」
「4 実験の目的」は、甲5の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)を作製すること。また、作製した試験試料Aの層(Y-1-1)が、本件特許に記載のM-O-P結合を有する層であることを確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 使用したフィルムの詳細」
「甲第5号証の実施例と同様下記フィルムを使用した。」
「1)PET12:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標) P60」(商品名)、厚さ12μm」
「2)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm」
「3)VM-EVOH:アルミニウム蒸着層が形成された二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム;株式会社クラレ製、「VM-XL」(商品名)、厚さ12μm」
「5-2 塗工液の準備」
「5-2-1 コーティング液(S-1)の調製(甲第5号証段落[0164]と同様)・・・。」
「5-2-2 有機リン化合物(BO-1)の合成(甲第5号証段落[0165]と同様)・・・。」
「5-2-3 コーティング液(T-1)の調製(甲第5号証段落[0166]と同様)・・・。」
「5-3 多層構造体(1-1-1)の製造(甲第5号証[0169]と同様)・・・。」
「5-4 各層厚さの測定(甲第5号証段落[0158]と同様)
・・・
得られた多層構造体(1-1-1)の層(Y-1-1)の厚さは0.3μm、層(Z-1-1)の厚さは0.09μmであった。」
「5-5 赤外線吸収スペクトルの測定(甲第5号証段落[0157][0170]と同様)
・・・
多層構造体(1-1)(当審注:「(1-1-1)」の誤記。)の赤外線吸収スペクトルを測定した結果、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,106cm-1であり、該最大吸収帯の半値幅は38cm-1であった。・・・」
「5-6 多層構造体(9-9-2)の製造(甲第5号証段落[0204]と同様)・・・
多層構造体(9-9-2)を試験試料Aとした。
・・・。」
「6.考察
・・・試験試料Aの層(Y-1-1)がM-O-P結合を有する層であるかは、本件特許段落[0062]~[0065]に記載されている方法により確認することができる。層(Y-1-1)の赤外線吸収スペクトルにおける最大となる赤外線吸収ピークの波数(n1)は、1106cm-1であり1080cm-1以上、1130cm-1以下の範囲内であった。また、最大吸収波数(n1)に極大を有する吸収ピークの半値幅は、38cm-1であり、100cm-1以下であった。従って、試験試料Aの層(Y-1-1)は、M-O-P結合を有する層である。」
(イ)甲6の2
「1 実験日 平成29年11月28日~平成30年1月22日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 久詰 修平」
「4 実験の目的」は、甲5の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)が、本件特許の請求項1の要件E(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である)を充足することを確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 高温高湿保持試験
・・・試験試料Aを温度70℃、湿度90%RHの高温高湿器内(PR-4J ESPEC社製)に2017/11/28~2018/01/09静置し、高温高湿保持後の試験試料Aを得た。」
「5-2 水蒸気透過度測定」
「5-2-1 測定条件(本件特許段落[0032]と同様)
使用機器:PA(当審注:「PE」の誤記。)RMATRAN-W Model3/33(MOCON社製)
JISK7129:2008に従い温度40℃、相対湿度差90%RHで測定した。」
「5-2-2 測定結果」
「水蒸気透過度(g/(m2・day))」
「本件特許の開示」「0.4g/(m2・day)以下」
「試験試料B」「0.011±0.009」(g/(m2・day))
(ウ)甲6の3
「1 実験日 平成29年11月28日~平成30年1月22日」
「2 実験場所」
「1)株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「2)日立化成テクノサービス株式会社 分析センター 分析部 分析グループ 試験チーム内」
「3 実験者 森原 靖」
「4 実験の目的」は、甲5の実施例9-9における多層構造体(9-9-2)が本件特許の請求項1の要件F(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり)の充足を確認することであり、「5 実験内容」の概要は次のとおりである。
「5-1 TMAによる寸法測定」
「5-1-1 試験試料」
「・・・試験試料Aを、下図の通り8点採取し測定試料とした。」
「
」
「5-1-2 測定条件
熱機械的分析装置:日立ハイテクサイエンス社製TMA7100
測定モード:引張モード、荷重400mN/mm2
測定試料幅:5mm
チャック間測定試料長さ:10mm
測定雰囲気:窒素パージ下
昇温開始温度:25℃
昇湿開始湿度:0%RH
昇温終了温度:70℃
昇湿終了湿度:90%RH
昇温速度:0.5℃/min
恒温恒湿過程での保持時間:2時間(温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中)
寸法測定頻度:0.16分刻み
本装置は、昇温速度設定機能が無いため、各測定において昇湿は成り行きとし、昇湿速度は実測結果より算出した。昇湿始点は、湿度が上がり始める直前の時間とし、昇湿の終点は、湿度が90%RH±2%RHで安定し始めた点とした。
各測定における始点時間、終点時間、終点湿度、昇湿速度を下表に示す。
昇湿速度は、平均20.8±1.3%RH/minであった。
測定試料の各々について、TMAを用いて、荷重400mN/mm2の引張モードで、昇温開始温度25℃、昇湿開始湿度0%RHから、湿度一定で昇温終了温度70℃までの昇温過程と、それに続く温度一定で昇湿終了湿度90%RHまでの昇湿過程と、それに続く温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持する恒温恒湿過程との一連の過程に置き、一連の過程における測定試料の寸法を経時で測定した。一連の過程における寸法測定は、上記のTMAによる寸法測定条件に基づき実施した。また、測定試料の寸法とは、測定試料の長手方向の寸法とし、測定試料の長手方向をTMAによる測定の際の引張方向とした。」
「昇温速度条件は、本件特許では10℃/minであったが、測定依頼した日立化成テクノサービス株式会社分析グループ試験チーム担当者より、調湿機能を付加した場合、装置の設定は10℃/minとすることは可能だが、水槽による温調となるため試料管内の温度は設定通りに昇温しないこと、また、昇温設定を10℃/minとして繰り返し測定を実施した場合、過負荷により装置が故障する恐れがあるため、10℃/minでの測定は受託できないとの回答があった。上記理由により、本試験では、調湿機能を付加した場合の標準条件である昇温設定:0.5℃/minで測定を実施した。」
「測定は、実験者:森原 靖監督の下、日立化成テクノサービス株式会社分析グループ試験チームが実施した。測定結果の詳細は甲第6号証の4ないし甲第6号証の5(当審注:「甲第6号証の4」のみの誤記。)に示す。」
「5-1-3 測定結果」
「寸法変化率(8方向平均値)」
「本件特許の開示」「0.55%以下」
「試験試料A」「0.39」(%)
(エ)甲6の4(日立化成テクノサービス株式会社)
上記(ウ)の測定に関係して調湿TMAの説明及び測定結果等について記載されている。
同号証の最終頁に「調湿TMA」について、「昇温速度:1℃/min以下」と記載されている。
オ 甲第7号証(特開平7-98091号公報。以下「甲7」という。)
「【0004】ここで、プラスチックフィルム3としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアクリロニトリル樹脂などのフィルムが用いられ、またヒートシール層5としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などが用いられる。」
カ 甲第8号証(特開2005-315346号公報。以下「甲8」という。)
「【0004】ここで、プラスチックフィルム14としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やナイロンなどのフィルムが用いられ、またヒートシール層16としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などが用いられる。」
キ 甲第9号証(特開2013-75428号公報。以下「甲9」という。)
「【0208】[実施例25]
実施例25では、本発明の複合構造体を用いて真空断熱体を作製した。まず、実施例19と同様の方法によって、ONY/接着剤/層(Y1)/PET/接着剤/CPP70という構成を有する複合構造体(C25)を得た。次に、複合構造体(C25)を所定の形状に2枚切り出した後、CPP70が内側となるように2枚の複合構造体(C25)を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって袋を形成した。次に、袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機(FrimarkGmbH製VAC-STAR2500型)を用いて、温度20℃で内部圧力10Paの状態で袋を密封した。このようにして、真空断熱体を問題なく作製できた。なお、断熱性の芯材には、120℃の雰囲気下で4時間乾燥したシリカ微粉末を用いた。」
ク 甲第10号証(プラスチックセレクションガイド、パナソニック株式会社、2014年3月、11~12頁。以下「甲10」という。)
甲10の11頁には、「■フェノールと熱可塑性樹脂との比較」において、「●吸水後の寸法変化率(20℃)」の図には、PETの寸法変化率がナイロンよりも小さく、PBT、PPS及びフェノールと同様に浸漬日数30日において1%以内の寸法変化率であることが記載されている。
同「■フェノールと熱可塑性樹脂との比較」において、「●熱処理後の寸法変化率(200℃)」の図には、500時間(h)において、0.2%程度に留まるPPSやフェノールに対し、PETは0.8%を超えた変化率になっているが、PBTよりも低い変化率となっていることが記載されている。
ケ 甲第11号証(特開2017-22016号公報。以下「甲11」という。)
「【0200】
上記プラスチックとしては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、オレフィンモノマーの単独重合体、オレフィンモノマーの共重合体などが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、例えば、ホモポリプロピレン;エチレン成分を共重合成分とするブロック系、ランダム系、グラフト系等のプロピレン系共重合体;リアクターTPO;低密度、高密度、リニア低密度、超低密度等のエチレン系重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン系共重合体;などが挙げられる。好ましくはポリエステル系樹脂であり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートである。このような樹脂は高い寸法安定性・強靭性・耐熱性を有し、かつ、副資材と成りうる観点からも汎用性に優れるという利点がある。」
コ 甲第12号証(日立化成テクノサービス株式会社。以下「甲12」という。)
1/4頁の「調湿TMA」において、「温度制御ユニットにより、最大90℃90%RH雰囲気下での材料の膨張率測定が可能です。」と記載されている。
2/4頁に「AL蒸着PETフィルムは、PET単体と比較して湿度膨張係数が約40%低いことがわかります。」と記載されている。
3/4頁の「Q&A」において、
「Q 湿度一定で温度を変化させることは出来ますか?」
「A 出来ません。温度は一定となります。」と記載されている。
サ 甲第13号証(再公表特許第2016-103716号。以下「甲13」という。)
「【0011】
本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるとともに、耐レトルト性に優れる新規な多層構造体およびそれを用いた包装材を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れるとともに、高温・高湿下においても高い層間接着力を有する新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供することにある。」
「【0151】
[真空断熱体]
前記した包装材を少なくとも一部に用いる本発明の製品は、真空断熱体であってもよい。真空断熱体は、被覆材と、被覆材により囲まれた内部に配置された芯材とを備える断熱体であり、芯材が配置された内部は減圧されている。真空断熱体は、ウレタンフォームからなる断熱体による断熱特性と同等の断熱特性を、より薄くより軽い断熱体で達成することを可能にする。本発明の真空断熱体は、冷蔵庫、給湯設備および炊飯器等の家電製品用の断熱材;壁部、天井部、屋根裏部および床部等に用いられる住宅用断熱材、車両屋根材、自動販売機等の断熱パネル;蓄熱機器、ヒートポンプ応用機器等の熱移動機器等に利用できる。被覆材として用いられる本発明の多層構造体は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層および無機蒸着層を含むことも好ましく、例えば、ポリエステル層/層(Y)/ポリエステル層/層(Y)/無機蒸着層/エチレン-ビニルアルコール共重合体層/ポリオレフィン層の構成を有していてもよい。」
「【0222】
【表8】
」
シ 甲第14号証(特開2017-13833号公報。以下「甲14」という。)
「【0037】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルエステル単独重合体、またはビニルエステルと他の単量体との共重合体(例えば、ビニルエステルとエチレンとの共重合体)を、アルカリ触媒などを用いてケン化して得られる樹脂である。ビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的な化合物として挙げられるが、プロピオン酸ビニルやピバリン酸ビニルなど、その他の脂肪酸ビニルエステルを用いても良い。ポリビニルアルコール系樹脂の中でも、溶融成形が容易であり、高湿度下においても良好なガスバリア性を発揮することができるという点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)が特に好ましい。」
「【0065】
プラスチック製部材40aは、ガスバリア層を有している。また、プラスチック製部材40aは、ガスバリア層からなる単層構造を有するものであってもよく、ガスバリア層を備える多層構造を有するものであってもよい。なお、プラスチック製部材40aは、ガスバリア層を2以上備えるものであってもよい。なお、ガスバリア層とは、酸素バリア性および/または水蒸気バリア性を有する層である。プラスチック製部材40(40a)がガスバリア層を有していることにより、容器内への酸素の侵入を防ぎ、充填されたワインが酸化することを防止することができる。また、容器内から外部への水蒸気の蒸散を防ぎ、内容量が減少することを防止することができる。」
ス 甲第15号証(特開2016-147373号公報。以下「甲15」という。)
「【0026】
本発明の熱収縮性多層フィルムには、包装内容物である生肉、加工肉等の肉製品の、特に透過酸素による劣化を避けるために、ガスバリア性樹脂からなるガスバリア層(C)を含むことができる。ガスバリア層(C)を構成するガスバリア性樹脂としては、通常エチレン―ビニルアルコール共重合体(EVOH)と称されるエチレン―酢酸ビニル共重合体部分ケン化物);ポリメタキシリレンアジパミド(「ナイロンMXD6」)などの芳香族ジアミンを有する芳香族ポリアミドなどが公知であるが、特に酢酸ビニル含有量が20~50モル%で、ケン化度が95%以上であるエチレン―酢酸ビニル共重合体部分ケン化物が、好ましく用いられる。ガスバリア層(C)は、本発明の多層フィルムの全層厚の2~20%、好ましくは3~18%、更に好ましくは3.5~15%であり、厚みは2~20μm、好ましくは2~10μmである。」
セ 甲第16号証(特開2016-11392号公報。以下「甲16」という。)
「【0022】
前記C成分の使用により、A成分とB成分の親和性を高めることができ、得られるガスバリア材の基材密着性や、ガスバリア性をさらに向上させることができる。C成分としては、カルボキシル基や水酸基に代表される極性基を有する水溶性高分子をいい、その種類、重合度などは特に限定されず、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
C成分の具体例としては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、澱粉などが挙げられる。ガスバリア材におけるC成分の含有量は特に限定されず、その種類に応じて適宜に決定できるが、通常はA成分/C成分の使用割合(固形分重量換算)が、100/200~100/5の範囲であり、好ましくは100/200~100/10の範囲である。C成分の含有量が過小または過大のいずれでも、ガスバリア性が悪くなる傾向がある。」
ソ 甲第17号証(特開2015-205718号公報。以下「甲17」という。)
「【0021】
前記ガスバリア層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムもしくは無機酸化物を蒸着したフィルムまたはアルミニウム箔であることにより、酸素ガスバリア性,水蒸気バリア性を向上させ、内容物の品質保存期間を長くすることができる。」
タ 甲第18号証(宣誓書。株式会社クラレ。以下「甲18」という。)
「1 宣誓者 佐々木 良一」
「2 宣誓内容」
「・・・(甲第1号証)の各実施例における多数構造体の透湿度(水蒸気透過度)の測定は、キャリアガスの流量を50mL/minに設定して行ったものである。」
チ 甲第19号証(宣誓書。株式会社クラレ。以下「甲19」という。)
「1 宣誓者 久詰 修平」
「2 宣誓内容」
「甲第2号証の2の試験成績報告書における試験試料Bの水蒸気透過度の測定は、キャリアガスの流量を10mL/minに設定して行ったものである。」
ツ 甲第20号証(試験成績報告書。以下「甲20」という。)
「1 実験日 平成30年10月15日~平成30年10月23日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 久詰 修平」
「4 実験の目的」は、甲2の1で作製した試験試料B及び甲6の2で作製した試験試料Aのキャリアガス流量を変化させたときの水蒸気透過度(透湿度)を測定することであり、「5 実験内容」は次のとおりである。
「
」
テ 甲第21号証(試験成績報告書。以下「甲21」という。)
「1 実験日 平成30年10月16日~平成30年10月23日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 清水 裕司」
「4 実験の目的」は、甲2の1並びに甲6の1で使用したCPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μmの物性が変化していないことを確認することであり、「5 実験内容」は次のとおりである。
「
」
ト 甲第22号証(国際公開第2015/141225号。以下「甲22」という。)
「[0203] 実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。
1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET125:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー S10」(商品名)、厚さ125μm)
3)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
4)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm
5)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ50μm
6)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm
7)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm
8)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm」
「[0272][実施例14]真空断熱体
CPP60上に、実施例13で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3で作製した多層構造体(3-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(14-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記の2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(14-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(14-1-2)を得た。」
ナ 甲第23号証(国際公開第2016/002222号。以下「甲23」という。)
「[0226] 実施例および比較例で使用したフィルムの詳細は以下のとおりである。
1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー P60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム ONBC」(商品名)、厚さ15μm
4)CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-18」(商品名)、厚さ50μm
5)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-18」(商品名)、厚さ60μm
6)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm
7)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm」
「[0295][実施例15]真空断熱体
CPP60上に、実施例1-1で用いた2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3で作製した多層構造体(3-1-2)のPET層とを貼り合せることによって積層体(15-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記の2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(15-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(15-1-2)を得た。」
ニ 甲第24号証(特開2018-1574号公報。以下「甲24」という。)
「【0188】
(1)使用したフィルムおよび接着剤
1)PET12:延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラーP60」(商品名)、厚さ12μm
2)PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビームQ1A15」(商品名)、厚さ50μm
3)ONY:延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレムONBC」(商品名)、厚さ15μm
4)CPP60:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ60μm
5)CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ70μm
6)CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-21」(商品名)、厚さ100μm
7)2液型接着剤:「タケラック」(登録商標)「A-520」(銘柄);三井化学株式会社製と「タケネート」(登録商標)「A-50」(銘柄);三井化学株式会社製」
「【0231】
[実施例10]真空断熱体
<実施例10-1>
CPP60上に、実施例7-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例3-1で作製した多層構造体(1-1-1)のPET層とを貼り合せることによって積層体(10-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(10-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/多層構造体/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(10-1-2)を得た。」
ヌ 甲第25号証(試験成績報告書。以下「甲25」という。)
「1 実験日 平成30年10月15日~平成30年10月23日」
「2 実験場所 株式会社クラレ 倉敷事業所 生産・技術開発センター内」
「3 実験者 久詰 修平」
「4 実験の目的」は、甲5の実施例1-1の多層構造体(1-1-1)の酸素透過度及び水蒸気透過度(透湿度)を測定することである。
水蒸気透過度測定結果では、甲5の記載値が「0.2」(g/(m2・day))であるのに対し、測定結果は「0.2」(g/(m2・day))であることが記載されている。
また、酸素透過度測定結果では、甲1の記載値が「0.20」(mL/(m2・day・atm))であるのに対し、測定結果は「0.20」(mL/(m2・day・atm))であることが記載されている。
ネ 乙第1号証(以下「乙1」という。)
2枚目に、「東セロ CP RXC-21 生産・販売中止のお願い」
「●対象製品 : CP RXC-21」
「●推奨製品 : CP RXC-22」
「●生産終了予定 : 08年12月度」
「●販売終了予定 : 09年3月末日」と記載されている。
ノ 乙第2号証(実験成績証明書。以下「乙2」という。)
「1.実験日 : 2018年7月26日」
「2.実験場所: 大日本印刷株式会社 ABセンター(千葉県柏市)」
「3.実験者 : 大日本印刷株式会社 ABセンター 棟田 琢」
「4.実験の目的:平成30年6月8日付け(起案日)の取消理由通知書において、本件特許明細書の[0025]段落に記載した「<TMAによる寸法測定条件>」における、「昇温速度:10℃/min」の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨の認定を受けた。
しかしながら、この記載は分析装置である「日立ハイテクサイエンス社製 TMA/SS7100」の設定を上述したようにしたとの記載であり、実際の昇温速度を記載したものではない。
なお、上記「日立ハイテクサイエンス社製 TMA/SS7100」の設定とは、詳細には、「日立ハイテクサイエンス社製 TMA/SS7100」の温度制御に用いられる循環恒温槽の設定である。
そこで、上記分析装置の循環恒温槽の設定を「10℃/min」とした場合の実際の昇温速度について実測した値を示すと共に、この実際の昇温速度が異なる場合であっても、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化に影響を与えないことを確認する。」とし、
3枚目の実験結果は、
「設定速度」「10℃/min」
「寸法変化率」「0.27」(%)
「実際の昇温速度/(℃/min)」「0.96」
「設定速度」「0.5℃/min」
「寸法変化率」「0.28」(%)
「実際の昇温速度/(℃/min)」「0.42」
となっており、「10℃/min」及び「0.5℃/min」それぞれの実験結果により、「実際の昇温速度が異なる条件で行った場合でも、真空断熱材用外包材の寸法変化率に大きな差異が見出されなかった。」と記載している。
ハ 乙第3号証(JIS K7129:2008。以下「乙3」という。)
「プラスチック-フィルム及びシート-
水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」(1193頁)
「4 原理
・・・
b)赤外線センサ法は、試験片を通して低湿度チャンバに透過した水蒸気量を赤外線センサで検出して、標準試験片との対比から、水蒸気透過度を算出する方法である(附属書B参照)。」(1194頁)
「附属書B
(規定)
赤外線センサ法による水蒸気透過度の求め方
・・・
B.1.3 流量計
流量計は、5ml/min~100ml/minの流量を測定できるものとする。」
ヒ 乙第4号証(実験成績証明書。以下「乙4」という。)
「1.実験日 : 2019年1月16日~2月28日」
「2.実験場所: 大日本印刷株式会社 ABセンター(千葉県柏市)」
「3.実験者 : 大日本印刷株式会社 ABセンター 棟田 琢」
「5.実験内容
(1)真空断熱材用外包材の調製
本件特許明細書の実施例3に示すものと同様の真空断熱材用外包材(第1ガスバリアフィルム/第2ガスバリアフィルムF/熱融着可能なフィルムA)を調製した。
上記試料について、温度70℃、湿度90%RHで1000時間保管したものと、未処理のものとを準備した。」
「(2)水蒸気透過度の測定
未処理品および温度70℃、湿度90%RHで1000時間保管したもののいずれもを、本件特許明細書[0032]段落に記載のJIS K7129:2008(付属書B:赤外線センサ法)に準拠した方法で、水蒸気を含まないキャリアガス流量を、5ml/minから100ml/minまで4段階で変えて測定した。」
「6.実験結果」として、以下の結果が記載されている。(なお、「保管品」は、温度70℃、湿度90%RHで1000時間保管したものを表す。)
(2)対比・判断
ア 請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)
(ア)甲1発明について
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「無延伸ポリプロピレンフィルム」は本件発明1の「熱溶着可能なフィルム」に相当し、以下同様に「層(Y1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の積層体(甲1の[0158]でいう「多層構造体(1-1)」)は「第1ガスバリアフィルム」に、「層(Y1-1)がM-O-P結合を有する層」であることは「第1ガスバリアフィルムが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層を少なくとも含む」ことに、「真空断熱体に用いる包装材」は「真空断熱材用外包材」に、それぞれ相当する。
したがって、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「熱溶着可能なフィルムと、第1ガスバリアフィルムと、を少なくとも有し、
前記第1ガスバリアフィルムが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層を少なくとも含む真空断熱材用外包材。」
(相違点1)
本件発明1が「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり、かつ温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である」真空断熱材用外包材であるのに対し、甲1発明が当該構成について不明である点。
b 判断
甲1には、甲1発明に係る多層構造体(1-2)の製造方法が記載されている([0152]、[0153]、[0155]、[0158]、[0160])。
そして、甲2の1試験成績報告書には、上記記載どおりに多層構造体を作製し、試験試料Bとしたことが記載されている。
ただし、甲1の[0158]には「無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBI=0.90/99.10」と記載されている(なお、0.90/99.10≒0.009)のに対し、甲2の1には、「無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBI=0.21」と記載されているから、この比についてのみ、試験試料Bは甲1発明に係る多層構造体(1-2)と異なっている。
この点、甲1の[0082]を参照すると、次の事項が記載されている。
「[0082] 多層構造体の層(Y)において、無機リン化合物(BI)を含む場合、層(Y)における無機リン化合物(BI)の質量WBIと有機リン化合物(BO)の質量WBOの比WBO/WBIが0.01/99.99≦WBO/WBI<1.00/99.00の関係を満たすものが好ましく、得られる剥離強度が高くなる点から、0.10/99.90≦WBO/WBI<0.99/99.01の関係を満たすものがより好ましく、0.15/99.85≦WBO/WBI<0.95/99.05の関係を満たすものがさらに好ましく、0.20/99.80≦WBO/WBI<0.93/99.07の関係を満たすものが特に好ましい。すなわち、WBOは0.01以上1.00未満の微量であるのに対して、WBIは99.00より多く99.99以下という多量に用いるのが好ましい。」
当該記載から、有機リン化合物(BO)の質量WBOが0.01以上1.00未満の微量に対し、無機リン化合物(BI)の質量WBIが99.00より多く99.99以下という多量である場合に、得られる剥離強度が高いことが理解できる。
そうすると、上記「WBO/WBI=0.21」として製造された甲2の1における試験試料Bは、甲1の記載どおりに製造されたものよりも剥離強度が低くなるといえる。
よって、以上のことを踏まえ、以下試験試料Bの測定結果について検討する。
なお、乙1によれば、試験試料Bに使用された「東セロ CP RXC-21」は、2008年12月に生産が終了し、2009月3月末日に販売が終了予定となっているが、甲21の測定結果によると、上記使用された「RXC-21」の引張弾性率はカタログ値とほぼ同じであることから、甲2の試験時においても、寸法変化率や水蒸気透過度に影響するような物性の変化はないと認められる。
(a)寸法変化率について
甲2の3の記載によれば、昇温速度については、装置の標準条件である昇温設定0.5℃/minとしており、本件特許明細書の10℃/minとは異なるが、他の測定条件については本件特許明細書の記載どおりとされているところ、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率の測定結果は「0.36」%である。
他方、本件特許明細書の「10℃/min」という昇温速度は、後述のとおり、設定昇温速度を意味すると解されるところ、乙2によれば、設定昇温速度が10℃/min及び0.5℃/minのとき、実際の昇温速度はそれぞれ0.96℃/min及び0.42℃/minであったというのであり、大きくは異ならない。また、乙2には、設定昇温速度を10℃/min及び0.5℃/minとしたときの寸法変化率の測定結果が、それぞれ0.27%及び0.28%であったことが示されており、この結果から、設定昇温速度の相違は無視できると認められる。なお、乙2の測定試料はMD方向が測定方向となるように切り出したもののみではあるが、設定昇温速度の影響をみる実験としては十分といえる。
そうすると、剥離強度の低い試験試料Bの寸法変化率が0.36%であって、甲1発明に係る多層構造体(1-2)の寸法変化率がそれより大きいことは考え難いから、甲1発明に係る多層構造体(1-2)は、相違点1に係る本件発明1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり」の範囲内のものと認められる。
(b)水蒸気透過度について
甲2の2の記載によれば、水蒸気透過度については本件特許明細書の測定条件(【0032】)に基づき測定されているところ、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度の測定結果は「0.033±0.016」(g/(m2・day))である。
特許権者は、甲1には、多層構造体(1-2)のレトルト処理前の透湿度が0.2g/(m2・day)であると記載されているのに、劣化試験後の透湿度がそれより小さい結果となることは矛盾しているから、試験試料Bは甲1発明に係る多層構造体(1-2)を再現したものではない旨を主張する。
しかし、水蒸気透過度の測定原理上、キャリアガスの流量が測定精度に影響するのであり、目的に応じて異なるキャリアガスの流量を設定すれば、異なる精度の測定値が得られることは考えられるから、上記甲2の2の測定結果が、甲1の記載と矛盾するとはいえない。
この点、試験試料Bについての甲2の2の測定結果は、キャリアガスの流量を10ml/minに設定して測定した値であるのに対し(甲19宣誓書)、甲1は甲1発明者によれば、キャリアガスの流量を50ml/minに設定して行ったものである(甲18宣誓書)。
なお、甲20には、試験試料Bの水蒸気透過度の、キャリアガス流量が50mL/minの場合の測定結果が、0.2g/(m2・day)、10mL/minの場合の測定結果が、0.047g/(m2・day)であったことが示されているところ、いずれの測定結果であっても、本件発明1の「・・・水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下」の範囲内である。
そうすると、剥離強度の低い試験試料Bの水蒸気透過度が0.033±0.016g/(m2・day)であって、甲1発明に係る多層構造体(1-2)の水蒸気透過度がそれより大きいことは考え難いから、甲1発明に係る多層構造体(1-2)は、相違点1に係る本件発明1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下」の範囲内のものと認められる。
(c)まとめ
以上のとおり、甲1発明に係る多層構造体(1-2)は、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えているから、相違点1は実質上の相違点ではない。
したがって、本件発明1は、甲1発明である。
また、そうでないとしても、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲5発明について
a 対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「無延伸ポリプロピレンフィルム」は本件発明1の「熱溶着可能なフィルム」に相当し、以下同様に、「層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の積層体(甲5の[0169]でいう「多層構造体(1-1-1)」)は「第1ガスバリアフィルム」に、「層(Y-1-1)はM-O-P結合を有する層」であることは「第1ガスバリアフィルムが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層を少なくとも含む」ことに、「真空断熱体に用いる包装材」は「真空断熱材用外包材」に、それぞれ相当する。
したがって、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「熱溶着可能なフィルムと、第1ガスバリアフィルムと、を少なくとも有し、
前記第1ガスバリアフィルムが、少なくともM-O-P結合(ここで、Mは無機原子を示し、Oは酸素原子を示し、Pはリン原子を示す。)を有する層を少なくとも含む真空断熱材用外包材。」
(相違点2)
本件発明1が「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり、かつ温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である」真空断熱材用外包材であるのに対し、甲5発明が当該構成について不明である点。
b 判断
甲5には、甲5発明に係る多層構造体(9-9-2)の製造方法が記載されている([0164]、[0165]、[0166]、[0169]、[0204])。
そして、甲6の1試験成績報告書には、上記記載どおりに多層構造体を作製し、試験試料Aとしたことが記載されている。
上記試験試料Aについて、甲6の1の赤外線吸収スペクトルの測定結果は、甲5に記載された多層構造体(1-1-1)の値([0170])と同等であり、さらに、甲25試験成績報告書の透湿度及び酸素透過度の測定結果も、甲5の[0169]及び[表1]の値と同等であると認められる。
したがって、甲6の1の試験試料Aは、甲5発明に係る多層構造体(9-9-2)を再現したものであるといえる。
なお、乙1によれば、試験試料Aに使用された「東セロ CP RXC-21」は、2008年12月に生産が終了し、2009月3月末日に販売が終了予定となっているが、甲21の測定結果によると、上記使用された「RXC-21」の引張弾性率はカタログ値とほぼ同じであることから、甲6の試験時においても、寸法変化率や水蒸気透過度に影響するような物性の変化はないと認められる。
(a)寸法変化率について
甲6の3の記載によれば、昇温速度については、装置の標準条件である昇温設定0.5℃/minとしており、本件特許明細書の10℃/minとは異なるが、他の測定条件については本件特許明細書の記載どおりとされているところ、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率の測定結果は「0.39」%である。
そして、上記(ア)で検討したとおり、設定昇温速度の相違は無視できると認められる。
そうすると、甲5発明に係る多層構造体(9-9-2)は、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.39%であると認められる。
(b)水蒸気透過度について
甲6の2の記載によれば、水蒸気透過度については本件特許明細書の測定条件(【0032】)に基づき測定されているところ、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度の測定結果は「0.011±0.009」(g/(m2・day))である。
なお、甲20には、試験試料Aの水蒸気透過度の、キャリアガス流量が50mL/minの場合の測定結果が、<0.1g/(m2・day)、10mL/minの場合の測定結果が、0.008g/(m2・day)であったことが示されているところ、いずれの測定結果であっても、本件発明1の「・・・水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下」の範囲内である。
そうすると、甲5発明に係る多層構造体(9-9-2)は、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.011±0.009g/(m2・day)であると認められる。
(c)まとめ
以上のとおり、甲5発明に係る多層構造体(9-9-2)は、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えているから、相違点2は実質上の相違点ではない。
したがって、本件発明1は、甲5発明である。
また、そうでないとしても、本件発明1は甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)
(ア)甲1発明について
a 対比・判断
本件発明2の「M-O-P結合を有する層の両面には、樹脂基材が配置されている」について、本件特許明細書に、以下のとおり記載されている。
「ここで、「上記M-O-P結合を有する層の両面には、樹脂基材がそれぞれ配置されている」とは、M-O-P結合を有する層が2つの樹脂基材間に挟持されており、上記M-O-P結合を有する層と樹脂基材との間に接着剤層以外の他の層が存在しないことをいう。すなわち、M-O-P結合を有する層が2つの樹脂基材と直接的に、またはM-O-P結合を有する層と樹脂基材と層間に配置される接着剤層を介して間接的に接していることを言う。」(【0121】)
以上を踏まえ、本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「延伸ナイロンフィルム、接着層、層(Y1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の順に配置されていることは、本件発明2の「M-O-P結合を有する層の両面には、樹脂基材が配置されている」ことに相当する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、前記相違点1の他に相違点はない。そして、前述のとおり、相違点1は実質上の相違点ではない。
したがって、本件発明2は、甲1発明である。
また、そうでないとしても、本件発明2は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲5発明について
a 対比・判断
本件発明2と甲5発明とを対比すると、前記相違点2に加え、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明2が「M-O-P結合を有する層の両面には、樹脂基材が配置されている」のに対し、甲5発明のM-O-P結合を有する層(Y-1-1)の片面には樹脂基材ではない層(Z-1-1)が配置されている点。
そして、層(Z-1-1)の上には、別途接着層が配置されているから、層(Z-1-1)が接着剤層であるとみることはできない。また、甲5の[請求項1]によれば、層(Z)を備えることが必須であるというべきであるから、甲5発明において、層(Z-1-1)が形成されないように変更したり、あるいは、甲5発明の層(Z-1-1)を樹脂基材に置換する動機付けはなく、むしろ、阻害要因がある。また、仮に上記のとおり変更又は置換すれば、甲5発明の寸法変化率や水蒸気透過度が不明となり、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を備えているとはいえなくなる。
したがって、本件発明2は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 請求項3に係る発明(以下「本件発明3」という。)
(ア)甲1発明について
a 対比・判断
本件発明3と甲1発明とを対比すると、前記相違点1に加え、以下の点で相違する。
(相違点4)
本件発明3が「前記樹脂基材は、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.5%以下である」のに対し、甲1発明の「延伸ナイロンフィルム」及び「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の当該寸法変化率は不明である点。
相違点4について検討すると、前記ア(ア)で検討したように、試験試料Bの寸法変化率は0.36%であるものの、このことから、甲1発明の「延伸ナイロンフィルム」及び「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の寸法変化率が0.5%以下であるとまで推認することはできない。さらに、甲1には、「延伸ナイロンフィルム」及び「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の、温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率に着目すべき旨の記載はないから、該寸法変化率を0.5%以下に設定する動機付けがあるということはできない。
したがって、本件発明3は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)甲5発明について
a 対比・判断
本件発明3は、本件発明2の発明特定事項を全て備え、更に他の限定事項を付加したものに相当するところ、前記のとおり、本件発明2は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、本件発明3も、同様に、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 請求項4に係る発明(以下「本件発明4」という。)
(ア)甲1発明について
a 対比・判断
本件発明4と甲1発明とを対比すると、前記相違点1に加え、以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明4が「前記樹脂基材」、すなわち、M-O-P結合を有する層の両面に配置される樹脂基材が「ポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、環状ポリオレフィン樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、ポリメチルメタクリレート樹脂フィルム、ポリカーボネート樹脂フィルム、アクリロニトリル-スチレン共重合体フィルム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体フィルムからなる群から選択される少なくとも1種である」のに対し、甲1発明のM-O-P結合を有する層(Y1-1)の両面に配置される樹脂基材のうち、一方は、「ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」(ポリエステル樹脂フィルム)であるものの、他方は、「延伸ナイロンフィルム」である点。
相違点5について検討すると、甲1には、甲1発明の「延伸ナイロンフィルム」を本件発明4に係る樹脂基材に置換することを動機付けるような記載はなく、仮に置換すれば、甲1発明の寸法変化率や水蒸気透過度が不明となり、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を備えているとはいえなくなる。
したがって、本件発明4は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)甲5発明について
a 対比・判断
本件発明4は、本件発明2又は3の発明特定事項を全て備え、更に他の限定事項を付加したものに相当するところ、前記のとおり、本件発明2又は3は、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、本件発明4も、同様に、甲5発明であるとはいえないし、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ 請求項5に係る発明(以下「本件発明5」という。)
(ア)甲5発明について
a 対比・判断
本件発明5と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「アルミニウム蒸着層」は、本件発明5の「無機層」に相当し、同じく、「二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、アルミニウム蒸着層」の積層体は、「第2ガスバリアフィルム」に相当する。
そして、甲5発明の「二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、アルミニウム蒸着層」の積層体は、「無延伸ポリプロピレンフィルム」(熱溶着可能なフィルム)と、「層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の積層体(第1ガスバリアフィルム)との間に配置されている。
そうすると、本件発明5と甲5発明とは、前記相違点2の他に相違点はない。そして、前述のとおり、相違点2は実質上の相違点ではない。
したがって、本件発明5は、甲5発明である。
また、そうでないとしても、本件発明5は甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 請求項6に係る発明(以下「本件発明6」という。)
(ア)甲5発明について
a 対比・判断
本件発明6と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「二軸延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、アルミニウム蒸着層」の積層体と、「層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の積層体と、更に、「層(Z-1-1)、層(Y-1-1)、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(基材(X-1))」の積層体を順に配置していることは、本件発明6の「ガスバリアフィルムを3つ以上」有し「3つ以上の前記ガスバリアフィルムのうち少なくとも1つが、前記第1ガスバリアフィルムである」ことに相当する。
そうすると、本件発明6と甲5発明とは、前記相違点2の他に相違点はない。そして、前述のとおり、相違点2は実質上の相違点ではない。
したがって、本件発明6は、甲5発明である。
また、そうでないとしても、本件発明6は甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 請求項7に係る発明(以下「本件発明7」という。)
(ア)甲1発明2
甲1の[0136]の記載も踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「被覆材と、被覆材により囲まれ内部に配置された芯材とを備える真空断熱体であって、被覆材が甲1発明の真空断熱体に用いる包装材である真空断熱体。」
本件発明7と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2の「被覆材」及び「包装材」、「真空断熱体」、「被覆材により囲まれ内部に配置された」は、本件発明7の「真空断熱材用外包材」、「真空断熱材」、「封入された」にそれぞれ相当する。
また、前述のとおり、本件発明1は甲1発明であるから、甲1発明2の「被覆材が甲1発明の真空断熱体に用いる包装材である」は、本件発明7の「前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である」に相当する。
そうすると、両者は「芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有する真空断熱材であって、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。」で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明7は、甲1発明2である。
また、そうでないとしても、本件発明7は甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲5発明2
甲5の[0144]の記載も踏まえると、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明2」という。)が記載されていると認められる。
「被覆材と、被覆材により囲まれ内部に配置された芯材とを備える真空断熱体であって、被覆材が甲5発明の真空断熱体に用いる包装材である真空断熱体。」
本件発明7と甲5発明2とを対比すると、甲5発明2の「被覆材」及び「包装材」、「真空断熱体」、「被覆材により囲まれ内部に配置された」は、本件発明7の「真空断熱材用外包材」、「真空断熱材」、「封入された」にそれぞれ相当する。
また、前述のとおり、本件発明1は甲5発明であるから、甲5発明2の「被覆材が甲5発明の真空断熱体に用いる包装材である」は、本件発明7の「前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である」に相当する。
そうすると、両者は「芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有する真空断熱材であって、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材。」で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明7は、甲5発明2である。
また、そうでないとしても、本件発明7は甲5発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ク 請求項8に係る発明(以下「本件発明8」という。)
(ア)甲1発明3
甲1の[0136]の記載も踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。
「真空断熱体を備える冷蔵庫等の真空断熱体付き物品であって、
真空断熱体が、被覆材と、被覆材により囲まれ内部に配置された芯材とを備え、被覆材が甲1発明の真空断熱体に用いる包装材である真空断熱体付き物品。」
本件発明8と甲1発明3とを対比すると、甲1発明3の「冷蔵庫等」、「被覆材」及び「包装材」、「真空断熱体」、「被覆材により囲まれ内部に配置された」は、本件発明8の「熱絶縁領域を有する物品」、「真空断熱材用外包材」、「真空断熱材」、「封入された」にそれぞれ相当する。
また、前述のとおり、本件発明1は甲1発明であるから、甲1発明3の「被覆材が甲1発明の真空断熱体に用いる包装材である」は、本件発明8の「前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である」に相当する。
そうすると、両者は「熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、
前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有し、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。」で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明8は、甲1発明3である。
また、そうでないとしても、本件発明8は甲1発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)甲5発明3
甲5の[0144]の記載も踏まえると、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明3」という。)が記載されていると認められる。
「真空断熱体を備える冷蔵庫等の真空断熱体付き物品であって、
真空断熱体が、被覆材と、被覆材により囲まれ内部に配置された芯材とを備え、被覆材が甲5発明の真空断熱体に用いる包装材である真空断熱体付き物品。」
本件発明8と甲5発明3とを対比すると、甲5発明3の「冷蔵庫等」、「被覆材」及び「包装材」、「真空断熱体」、「被覆材により囲まれ内部に配置された」は、本件発明8の「熱絶縁領域を有する物品」、「真空断熱材用外包材」、「真空断熱材」、「封入された」にそれぞれ相当する。
また、前述のとおり、本件発明1は甲5発明であるから、甲5発明3の「被覆材が甲5発明の真空断熱体に用いる包装材である」は、本件発明8の「前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である」に相当する。
そうすると、両者は「熱絶縁領域を有する物品および真空断熱材を備える真空断熱材付き物品であって、
前記真空断熱材は、芯材と、前記芯材が封入された真空断熱材用外包材とを有し、
前記真空断熱材用外包材が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の真空断熱用外包材である、真空断熱材付き物品。」で一致し、相違点はない。
したがって、本件発明8は、甲5発明3である。
また、そうでないとしても、本件発明8は甲5発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)理由1[新規性]及び理由2[進歩性]についての小括
本件発明1、2、7、8は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明1、5~8は、甲5に記載された発明であるか、甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3、4は、甲1又は甲5に記載された発明であるとはいえないし、甲1又は甲5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
2 理由3[明確性]について
(1)水蒸気透過度について
請求項1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である」について、キャリアガス流量の設定について、本件特許明細書に記載がないからといって、不明確であるとはいえない
すなわち、本件特許明細書の段落【0032】には、上記水蒸気透過度の測定に関し、JIS K7129:2008(付属書B:赤外線センサ法)に準拠して測定する旨の記載がある。そして、乙3によれば、JIS K7129の付属書Bにおいて、5ml/min~100ml/minの流量を測定できる流量計を用いる旨記載されていることから、同範囲でキャリアガス流量を設定し得ると認められる。
そして、乙4によれば、キャリアガス流量を上記範囲で変化させても、水蒸気透過度の測定値は大きく変化しないことが認められる。なお、甲20には、甲2の1における試験試料Bの水蒸気透過度の測定値が、キャリアガス流量が50mL/minのときに0.2g/(m2・day)、10mL/minのときに0.047g/(m2・day)であったことが示されているが、キャリアガス流量が少ない場合でも、上記乙4のとおり、より精度の高い測定は可能であると認められるから、この結果から、請求項1の水蒸気透過度が不明確になるものではない。
(2)寸法変化率について
請求項1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり」について、寸法変化率の測定条件が本件特許明細書に十分に記載されていないとはいえないし、当該記載が不十分なために上記「寸法変化率」が不明確であるともいえない。
すなわち、本件特許明細書の段落【0025】に、次の記載がある。
「<TMAによる寸法測定条件>
熱機械的分析装置:日立ハイテクサイエンス社製 TMA/SS7100
・・・
昇温開始温度:25℃
昇湿開始湿度:0%RH
昇温終了温度:70℃
昇湿終了湿度:90%RH
昇温速度:10℃/min
昇湿速度:20%RH/min」
ここで、甲2の3及び甲6の3によれば、日立ハイテクサイエンス社製TMA7100(甲2の4によれば、TMA/SS7100はTMA7100の旧名称。)を用いた測定について、「測定依頼した日立化成テクノサービス株式会社分析グループ試験チーム担当者より、調湿機能を付加した場合、装置の設定は10℃/minとすることは可能だが、水槽による温調となるため試料管内の温度は設定通りに昇温しないこと、また、昇温設定を10℃/minとして繰り返し測定を実施した場合、過負荷により装置が故障する恐れがあるため、10℃/minでの測定は受託できないとの回答があった。上記理由により、本試験では、調湿機能を付加した場合の標準条件である昇温設定:0.5℃/minで測定を実施した。」というのであるから、本件特許明細書に記載された「昇温速度:10℃/min」は、実際の昇温速度とは考え難いものであり、設定温度を表していると理解するのが合理的である。
仮に、「昇温速度:10℃/min」が設定温度を表していると明確に理解できないとしても、「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率」の意味が不明確になるほど、昇温速度がその測定値に影響するという根拠はない。
なお、設定昇温速度を10℃/minとしたときの、実際の昇温速度が1℃/min程度であるとすれば、「昇温開始温度25℃」から「昇温終了温度70℃までの昇温過程」は約45分となり、試験片は約45分間の引張モードでの昇温過程に置かれることになる。しかし、甲2の4の調湿TMAの測定結果を参照すると、100分を超える昇温過程において膨張率(寸法変化率)はほとんど変化がなく、このことを踏まえると、上記のとおり試験片が約45分間の昇温過程に置かれたとしても、寸法変化率の測定結果には影響しないと認められる。
また、甲12の「調湿TMA」の説明によれば、3/4頁の「Q&A」において、
「Q 湿度一定で温度を変化させることは出来ますか?」
「A 出来ません。温度は一定となります。」
と記載されているものの、上記記載は、温度を変化させながら相対湿度を一定に調整するには、水蒸気量を調整する必要があるものの、そのような調整は出来ない旨をいうものであって、湿度0%RHを維持するには水蒸気量の調整は必要でなく、そのような操作までが不可能であるという趣旨とは解せない。よって、本件特許明細書の「昇温開始温度25℃、昇湿開始湿度0%RHから、湿度一定で昇温終了温度70℃までの昇温過程」(段落【0024】)との操作が不可能であり、意味が理解できないというものではない。
よって、請求項1の「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり」は、本件特許明細書の記載に照らしても不明確とはいえない。
(3)小括
したがって、請求項1~8に記載された発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に適合するものである。
3 理由4[実施可能要件]について
(1)水蒸気透過度について
上記2(1)で述べたとおり、本件特許明細書の段落【0032】には、水蒸気透過度の測定に関し、JIS K7129:2008(付属書B:赤外線センサ法)に準拠して測定する旨の記載があるから、当該記載を参酌して、当業者はキャリアガス流量を設定し得ると認められる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で1000時間保持した後の水蒸気透過度が0.4g/(m2・day)以下である」との事項を実現できる程度に明確かつ十分なものである。
(2)寸法変化率について
上記2(2)で述べたとおり、本件特許明細書には寸法変化率の測定条件が十分に記載されているし、昇温速度は寸法変化率の測定値に影響しないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が「温度70℃、湿度90%RHの雰囲気中で2時間保持した後の寸法変化率が0.55%以下であり」との事項を実現できる程度に明確かつ十分なものである。
(3)小括
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1~8に記載された発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法36条4項1号に適合するものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 29条2項[進歩性]について
申立人は、本件発明3、4は、甲5発明及び甲13の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。
しかし、甲13に記載された技術事項を考慮しても、前述の相違点3に係る判断は左右されないから、本件発明2は、甲5発明及び甲13の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明2の発明特定事項を全て備え、更に他の限定事項を付加したものに相当する本件発明3、4についても、同様に、甲5発明及び甲13の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
2 36条6項1号[サポート要件]について
申立人は、実施例で裏付けられたPETフィルムのみをもって、本件発明3の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨を主張する。
しかし、本件発明の課題は、「高温高湿環境において、真空断熱材の断熱性能を長期間維持することが可能な真空断熱材用外包材等を提供すること」(段落【0006】)と解されるところ、所定の寸法変化率と所定の水蒸気透過度を満たす本件発明1によれば、上記課題を解決できると認められる。そして、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、更に他の限定事項を付加したものに相当する。そうすると、本件発明1が、上記課題を解決できると認められる以上、本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明3も、上記課題を解決できると認められる。
よって、本件発明3は発明の詳細な説明に記載されたものであり、上記申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1、2、5~8に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項3及び4に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700188