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特許拒絶査定不服審判

2023-000137

レンズ要素

審判番号
2023-000137
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-545586
請求日
2023年01月05日
審決日
2024年06月24日
公報発行日
2024年07月26日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
  • 【請求人】エシロール・アンテルナシオナル
  • 【請求人代理人】村山 靖彦
  • 【請求人代理人】実広 信哉
  • 【請求人代理人】阿部 達彦
審判長/審判官
  • 審判長 里村 利光
  • 審判官 廣田 健介
  • 審判官 河原 正
分類
P18 .113-WY (G02C) / P18 .121-WY (G02C) / P18 .537-WY (G02C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条
データ出所
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特願2020-545586「レンズ要素」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月 6日国際公開、WO2019/166654、令和 3年 9月30日国内公表、特表2021-526230、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特願2020-545586号(以下「本件出願」という。)は、2019年(平成31年)3月1日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年(平成30年)3月1日 欧州、同年3月30日 欧州、同年4月11日 欧州、同年4月26日 欧州)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和 4年 3月15日付け:拒絶理由通知書 令和 4年 6月21日 :意見書・手続補正書の提出 令和 4年 8月31日付け:拒絶査定 令和 5年 1月 5日 :審判請求書の提出 令和 5年 1月 5日 :手続補正書の提出 令和 5年 3月16日 :上申書の提出 令和 5年 5月31日 :上申書の提出 令和 5年12月26日付け:拒絶理由通知書 令和 6年 4月 9日 :意見書・手続補正書の提出 第2 本願発明 本件出願の請求項1~12に係る発明は、令和6年4月9日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1~12に係る発明(以下、本件出願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「 【請求項1】 人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素であって、 - 前記人の前記目の異常屈折を矯正するための処方に基づく第1の屈折力と、前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力とを有する屈折エリアであって、前記屈折エリアにおいて、屈折力は連続変化を有する、屈折エリア、及び、 - 複数の少なくとも3つの光学要素であって、前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである、複数の少なくとも3つの光学要素、 を含むレンズ要素。 【請求項2】 前記第1の屈折力と前記第2の屈折力との間の差は、0.5D以上である、請求項1に記載のレンズ要素。 【請求項3】 前記屈折エリアは、前記複数の少なくとも3つの光学要素として形成されるエリア以外のエリアとして形成される、請求項1又は2に記載のレンズ要素。 【請求項4】 前記屈折エリアにおいて、屈折力は、少なくとも1つの不連続性を有する、請求項1~3の何れか一項に記載のレンズ要素。 【請求項5】 前記レンズ要素は、前記第1の屈折力に等しい屈折力を有する中央ゾーン及び45°における4つの四分円の5つの相補的なゾーンに分けられ、前記四分円の少なくとも1つは、前記第2の屈折力に等しい屈折力を有する、請求項1~4の何れか一項に記載のレンズ要素。 【請求項6】 前記中央ゾーンは、標準装用状況で真っ直ぐ前を注視している前記人の瞳孔に面し、及び4mm超且つ20mm未満の直径を有するフレーム基準点を含む、請求項5に記載のレンズ要素。 【請求項7】 少なくとも下部四分円は、第2の屈折率を有する、請求項5又は6に記載のレンズ要素。 【請求項8】 前記屈折エリアは、累進付加ジオプタ機能を有する、請求項1~7の何れか一項に記載のレンズ要素。 【請求項9】 耳側四分円及び鼻側四分円の少なくとも1つは、前記第2の屈折力を有する、請求項5~7の何れか一項に記載のレンズ要素。 【請求項10】 前記4つの四分円は、同心屈折力累進を有する、請求項5又は6に記載のレンズ要素。 【請求項11】 2mm~4mmの半径を有し、かつ、幾何中心を有する任意の円形ゾーンであって、前記幾何中心が標準装用状況で真っ直ぐ前を注視しているユーザの瞳孔に面するフレーム基準から前記半径+5mmの距離に配置される、あらゆる円形ゾーンに対して、前記円形ゾーンの内側に配置された光学要素の部分の面積の和と、前記円形ゾーンの総面積と、の比率は、20%~70%である、請求項1~10の何れか一項に記載のレンズ要素。 【請求項12】 前記複数の少なくとも3つの光学要素は、非連続である、請求項1~11の何れか一項に記載のレンズ要素。」 第3 令和5年12月26日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由の概要 令和5年12月26日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 理由1(サポート要件):本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 理由2(明確性要件):本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 理由3(新規性):本件出願の請求項1~11、13、15~16に係る発明は、最先の優先権主張の日(以下、単に「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 理由4(進歩性):本件出願の請求項1~16に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 引用文献1:米国特許出願公開第2014/0347622号明細書 引用文献2:米国特許出願公開第2017/0131567号明細書 引用文献3:国際公開第2018/026697号 (引用文献1~3は、それぞれ、主引用文献である。) 第4 理由3、4(新規性・進歩性)についての当合議体の判断 1 引用文献2を主引用文献とした場合 (1)引用文献2の記載 令和5年12月26日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、米国特許出願公開第2017/0131567号明細書(引用文献2)は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。 (当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。また、日本語訳は当合議体で作成したものである。以下、同様。) ア 「TECHNICAL FIELD [0001] Aspects of the present disclosure relate to a spectacle lens that suppresses progression of abnormal refractions caused by myopia and hyperopia in human eyes.」 (日本語訳) 「技術分野 [0001] 本開示の態様は、ヒトの眼の近視および遠視によって引き起こされる異常な屈折力の進行を抑制することが可能な眼鏡レンズに関するものである。」 イ 「SUMMARY [0007] Aspects of the disclosure include a spectacle lens. [0008] (1) A spectacle lens including: [0009] a first refraction area having a first refractive power based on a prescription for correcting an abnormal refraction of an eye; and [0010] second refraction areas having a refractive power different from the first refractive power, and having a function of focusing an image on a position other than a retina of the eye so as to suppress a progress of the abnormal refraction of the eye, [0011] wherein the second refraction areas are formed as a plurality of respectively independent island-shaped areas in the vicinity of a center part of a lens, and [0012] the first refraction area is formed as the area other than the areas formed as the second refraction areas. (日本語訳) 「概要 [0007] 本開示の態様は、眼鏡レンズを含む。 [0008] (1)眼鏡レンズであって、 [0009] 眼の屈折異常を矯正するための処方に基づいて第1の屈折力を有する第1屈折率領域、 [0010] 前記第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の網膜以外の位置に結像させる機能を有することで、眼の屈折異常の進行を抑制する、第2屈折率領域、 [0011] 第2屈折率領域はレンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した島状の複数の領域として形成され、 [0012] 第1屈折率領域は第2屈折率領域として形成された領域以外の領域に形成されている。」 ウ 「[0050] As shown in FIG. 1 to FIG. 4, a spectacle lens 10 of this embodiment is the lens having the action of suppressing the progress of myopia while correcting myopia, and is a meniscus concave lens with an object side surface 11 formed as a convex curved surface toward an object side, and an eye side surface 12 formed into a concave surface having a larger curvature than the curvature of the object side surface 11. Such a spectacle lens 10 has a first refraction area 1 having a first refractive power based on a prescription for correcting myopia, and second refraction areas 2 formed as a plurality of respectively independent island-shaped areas in the vicinity of a center part of the lens. [0051] As shown in cross-sectional views of FIG. 3 and FIG. 4, the object side surface of each second refraction area 2 is formed into a convex spherical surface shape toward the object side having a larger curvature than the curvature of the object side surface of the first refraction area 1. Thus, the refractive power of the second refraction areas 2 is larger than the first refractive power of the first refraction area by 2.00 D to 5.00 D. Accordingly, as shown in FIG. 5, an image is focused on a retina of an eye in the first refraction area, and meanwhile as shown in FIG. 6, the image is focused on a point in front of the retina in the second refraction areas 2. FIG. 7 shows a light beam locus in both of the first refraction area and the second refraction areas. [0052] Each surface of the second refraction areas 2 formed as a plurality of island-shaped areas has an area of about 0.50 to 3.14 mm2, and has a circular shape having a diameter d of about 0.8 to 2.0 mm. The plurality of island-shaped second refraction areas 2 are approximately evenly arranged in the vicinity of the center of the lens in a way to be separated from each other by a distance almost equal to a value of a radius d/2. [0053] The plurality of island-shaped second refraction areas 2 are formed in a way to be included in a circular area having a radius R (20 mm or less) with an optical center O as a center of the lens, and are arranged in a way to form a hexagon inscribed in a circle having a radius R for example. Here, the second refraction areas 2 are not arranged as circular areas having a radius 2.5 to 10.0 mm with the optical center O of the spectacle lens as the center. Then, a ratio of total area of the second refraction areas, with respect to the total areas of the second refraction areas and the first refraction area, is 20 to 60% in an area formed by a mixture of the second refraction areas and the first refraction. Thus, a sufficient visibility can be maintained and an excellent wearing feeling can be obtained, while securing the function of suppressing the progress of myopia.」 (日本語訳) 「[0050] 図1~図4に示すように、本実施形態の眼鏡レンズ10は、近視を矯正しながら近視の進行を抑制する作用を有しているレンズであって、物体側に凸面として形成された物体側面11と、対物面11の曲率よりも大きい曲率を有する凹面として形成された眼球側面12とを有するメニスカス凹レンズである。このような眼鏡レンズ10は、近視を矯正するための処方に基づいて、第1の屈折力を有する第1屈折率領域1と、レンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した島状の複数の領域として形成された第2屈折率領域2を有している。 [0051] 図3及び図4の断面図に示すように、第2屈折率領域2の物体側の面は、第1屈折率領域1の物体側の面の曲率よりも大きい曲率を有する物体側に凸の球面状に形成されている。そのため、第2屈折率領域2の屈折力が第1屈折率領域の第1の屈折力よりも2.00D~5.00D大きくなり、図5に示すように、第1屈折率領域では、目の網膜上に結像する一方、図6に示すように、第2屈折率領域2では網膜の前方に結像する。図7は、第1屈折率領域と第2屈折率領域の両方における光ビームの軌跡を示す図である。 [0052] 島状の複数の領域として形成された第2屈折率領域2のそれぞれの表面は、約0.50~3.14mm2の面積を有し、約0.8~2.0mmの直径dを有する円形の形状を有している。複数の島状の第2屈折率領域2は、レンズの中心の近傍に配置された半径d/2の値にほぼ等しい距離だけ、互いに離間してほぼ均等である。 [0053] 複数の島状の第2屈折率領域2は、レンズの光学中心を中心Oとする半径R1(20mm以下)を有する円形領域に含まれるように形成されており、例えば、半径Rを有する円に内接する六角形を形成するように配置されている。ここで、第2屈折率領域2は、眼鏡レンズの光学中心Oを中心とする半径2.5~10.0mmを有する円形領域には配置されていない。そして、第2屈折率領域と第1屈折率領域を合わせた総面積に対する第2屈折率領域の総面積の比率は、20~60%である。このようにして、十分な視認性を維持することができ、良好な装着感を得ることができ、近視の進行を抑制する機能を確保した。」 エ 図1~7 「 [図:0001411816000001.jpg] [図:0001411816000002.jpg] [図:0001411816000003.jpg] [図:0001411816000004.jpg] [図:0001411816000005.jpg] [図:0001411816000006.jpg] [図:0001411816000007.jpg] 」 (2)引用発明2 引用文献2の図1~4からみて、「眼鏡レンズ10」を構成する「それぞれ独立した島状の複数の領域として形成された第2屈折率領域2」の「独立した島状」の「領域」は、少なくとも3つあることが理解できる。そうすると、引用文献2の[0050]~[0052]、図1~7には、「眼鏡レンズ10」として、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「近視を矯正しながら近視の進行を抑制する作用を有しているレンズである眼鏡レンズ10であって、 物体側に凸面として形成された物体側の面11と、対物面11の曲率よりも大きい曲率を有する凹面として形成された眼球側の面12とを有するメニスカス凹レンズであり、近視を矯正するための処方に基づいて、第1の屈折力を有する第1屈折率領域1と、レンズの中心部の近傍にそれぞれ独立した島状の複数の領域として形成された第2屈折率領域2を有しており、([0050]) 第2屈折率領域2は、独立した島状の少なくとも3つの領域からなり、(図1~2) 第2屈折率領域2の物体側の面は、第1屈折率領域1の物体側の面の曲率よりも大きい曲率を有する物体側に凸の球面状に形成され、第2屈折率領域2の屈折力が第1屈折率領域の第1の屈折力よりも2.00D~5.00D大きく、第1屈折率領域では、目の網膜上に結像する一方、第2屈折率領域2では網膜の前方に結像し、([0051]、図3~7) 島状の複数の領域として形成された第2屈折率領域2のそれぞれの表面は、約0.50~3.14mm2の面積を有し、約0.8~2.0mmの直径dを有する円形の形状を有している、([0052]) 眼鏡レンズ10。」 (3)対比及び判断 ア 対比 本願発明と引用発明2を対比すると、以下のとおりとなる。 (ア)人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素 引用発明2の「眼鏡レンズ10」は、「人の目の前に装用されることが意図される」ものであることは明らかであるから、「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素」に相当する。 (イ)第1の屈折力、屈折エリア 引用発明2の「第1屈折率領域1」は、屈折率を有する領域(エリア)であるから、本願発明の「屈折エリア」に相当する。 そして、引用発明2の「第1屈折率領域1」が有する「第1の屈折力」は、「近視を矯正するための処方に基づい」たものであり、「近視」は目の異常屈折の一種であるから、本願発明の「前記人の前記目の異常屈折を矯正するための処方に基づく第1の屈折力」に相当する。 (ウ)光学要素 a 複数の少なくとも3つの光学要素 引用発明2の「第2屈折率領域2」を形成する「独立した島状の」「領域」は、本願発明の「光学要素」に相当し、引用発明2は、「独立した島状の」「領域」(光学要素)を「少なくとも3つ」有するものである。 b 前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有すること 引用発明2は、「第2屈折率領域2では網膜の前方に結像」することから、「第2屈折率領域2」を形成する「独立した島状の」「領域」は、本願発明の「光学要素」における、「前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する」との要件を満たす。 c 屈折マイクロレンズ 本願発明の「マイクロレンズ」とは、本件出願の明細書の【0144】を参照すると、「0.8mm以上且つ3.0mm以下、好ましくは1.0mm以上且つ2.0mm以下の直径を有する円に彫ることができる輪郭形状」(当合議体注:本件出願の国際公開より、英語で「a contour shape being inscribable in a circle having a diameter greater than or equal to 0.8 mm and smaller than or equal to 3.0 mm, preferably greater than or equal to 1.0 mm and smaller than 2.0 mm」の意味である。)を有するものと理解される。 上記理解によれば、引用発明2における「第2屈折率領域2」を形成する「独立した島状の」「領域」(光学要素)の表面は、「約0.50~3.14mm2の面積を有し、約0.8~2.0mmの直径dを有する円形の形状を有して」いるから、引用発明2の「第2屈折率領域2」を形成する「独立した島状の」「領域」(光学要素)は、本願発明の「屈折マイクロレンズである」との要件を満たす。 イ 一致点及び相違点 上記アの対比結果によれば、本願発明と引用発明2とは、以下の(ア)の点で一致し、以下の(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素であって、 - 前記人の前記目の異常屈折を矯正するための処方に基づく第1の屈折力を有する屈折エリア、及び、 - 複数の少なくとも3つの光学要素であって、前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである、複数の少なくとも3つの光学要素、 を含むレンズ要素。」 (イ)相違点 <相違点2> 「屈折エリア」が、本願発明では「前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力とを有」し、「前記屈折エリアにおいて、屈折力は連続変化を有する」ものであるのに対し、引用発明2は、(第1屈折率領域1が)このように特定されたものではない点。 ウ 判断 (ア)新規性について 上記イで示したとおり、本願発明は、引用発明2と上記相違点2で相違するものであるから、引用文献2に記載された発明であるということができない。 (イ)進歩性について 上記相違点2について検討する。 引用発明2は、「近視を矯正しながら近視の進行を抑制する作用を有しているレンズ」である「眼鏡レンズ10」の発明であって、「第1屈折率領域1」は、「近視を矯正するための処方に基づいた」ものである。また、引用発明2は、「第2屈折率領域」が「前記第1の屈折力とは異なる屈折力を有し、眼の網膜以外の位置に結像させる機能を有すること」([0010])で、「近視を矯正しながら近視の進行を抑制する作用」を有するものと解される。 ここで、近視と老視を併発する患者に処方する眼鏡用レンズとして、近視矯正及び老視矯正を目的とした、屈折力が連続的に変化する累進屈折力レンズは、優先日前に周知技術であったと認められるものの、引用発明2の「第1屈折率領域1」(屈折エリア)を、上記周知技術である「近視矯正及び老視矯正を目的とした、屈折力が連続的に変化する累進屈折力レンズ」に設計変更するよう動機づける文献や技術常識は見いだせない。 (ウ)小括 上記(ア)~(イ)によれば、本願発明は、引用文献2に記載された発明ではなく、引用文献2に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~12に係る発明も、同様の理由により、引用文献2に記載された発明ではなく、引用文献2に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 引用文献3を主引用文献とした場合 (1)引用文献3の記載 令和5年12月26日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、国際公開第2018/026697号(引用文献3)は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。 ア 技術分野(第1頁第6~9行) 「FIELD OF THE INVENTION The invention features ophthalmic lenses for treating myopia, methods for forming such lenses, methods for using such lenses, and methods for monitoring the efficacy of such lenses.」 (日本語訳) 「技術分野 本発明は、近視治療のための眼用レンズ、このようなレンズの形成方法、このようなレンズの使用方法、及びこのようなレンズの有効性を監視するための方法を特徴とする。」 イ 詳細な説明(第7頁第1行~第8頁第33行) 「DETAILED DESCRIPTION Referring to FIG. 1A, myopia-reducing eyeglasses 100 are disclosed which allow treatment of both eyes simultaneously without substantially compromising clear vision. ・・・中略・・・ Myopia-reducing eyeglasses 100 are composed of a pair of frames 101 and ophthalmic lenses 110a and 110b mounted in the frames. Ophthalmic lenses 110a and 110b each have a clear aperture 120a and 120b, respectively, surrounded by reduced-contrast areas 130a and 130b, respectively. Clear apertures 120a and 120b are positioned to coincide with the wearer's on-axis viewing position, while reduced contrast areas 130a and 130b correspond to the wearer's peripheral vision. Referring also to FIG. 1B, reduced contrast areas 130a and 130b are composed of an array of dots 140, which reduce the contrast of an object in the wearer's peripheral vision by scattering light passing through those areas to the wearer's eye. ・・・中略・・・ The dots are formed by arrays of protuberances on a surface of each of lenses 110a and 110b. ・・・中略・・・ Note that for smaller protuberances, e.g., having a dimension that is comparable to the wavelength of light (e.g., 0.001 mm to about 0.05 mm), the light scattering may be considered Raleigh or Mie scattering. For larger protuberances, e.g., about 0.1 mm or more, light scattering may be due to a lensing effect of the protuberance, such as due to focusing by a lens with a very small radius of curvature to a point far in front of the user's retina. In such a case, when the light from each protuberance reaches the user's retina, it has substantially diverged from its point of focus and is not resolvable as an image by the user.」 (日本語訳) 「発明を実施するための形態 図1Aを参照すると、明瞭な視野を実質的に損なうことなく両眼を同時に治療できる、近視軽減眼鏡が開示される。 ・・・中略・・・ 近視軽減眼鏡100は1組のフレーム101と、フレームに取り付けられる眼用レンズ110a及び110bとで構成される。眼用レンズ110a及び110bは、コントラスト低減区域130a及び130bにそれぞれ囲まれた、透明間隙120a及び120bをそれぞれ有する。透明間隙120a及び120bは、着用者の軸上の視点位置と一致するように位置決めされ、一方でコントラスト低減区域130a及び130bは着用者の周辺視野に相当する。図1Bを参照すると、コントラスト低減区域130a及び130bは、ドット140の配列で構成され、これらの区域を通して着用者の眼に光を散乱させることによって着用者の周辺視野にある物体のコントラストを低減させる。 ・・・中略・・・ ドットは、レンズ110a及び110bの各々の表面上に隆起物を配列することで形成される。 ・・・中略・・・ 例えば、光の波長(例えば、0.001mmから約0.05mmまで)と同様の大きさを持つ、より小さな隆起物に関しては、光の散乱は、レイリーあるいはミー散乱であると考えられることに注意されたい。例えば約0.1mm以上の、より大きな隆起物に関しては、光の散乱は隆起物のレンズ効果に起因する場合があり、例えば、非常に小さな曲率半径を有するレンズによって、使用者の網膜のかなり前方にある点で焦点を結ぶことに起因する。このような場合では、各隆起物からの光は、使用者の網膜に到達するときに、その焦点からかなり離れ、使用者によって像として解像されない。」 ウ 請求の範囲(第24~33頁) 「WHAT IS CLAIMED IS: ・・・中略・・・ 49. An ophthalmic lens, comprising: two opposing curved surfaces collectively having an optical power to correct a wearer's on-axis vision to 20/20 or better; and a dot pattern distributed across each lens, the dot pattern comprising an array of spaced apart dots arranged so that, for at least a portion of the wearer's peripheral vision, the lenses correct the wearer's vision to 20/25 or better and reduce an image contrast by at least 30%≫ compared to on-axis image contrast, the dot pattern including a clear aperture free of dots aligned with a viewing axis of the wearer.」 (日本語訳) 「請求の範囲 ・・・中略・・・ 請求項49 眼用レンズであって、 着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する光学パワーを共同して有する、2つの対面する湾曲面と、 各レンズにわたって分布されるドットパターンであって、該ドットパターンは、前記着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、前記レンズが前記着用者の視力を20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように配置された、間隔の空けられたドットの配列からなり、該ドットパターンは、前記着用者の視覚軸と一直線上に並べられる、ドットがない透明間隙を含む、ドットパターンと、 からなる眼用レンズ。」 エ 図1A~1B 「 [図:0001411816000008.jpg] [図:0001411816000009.jpg] 」 (2)引用発明3 引用文献3の請求項49には、上記(1)ウで摘記した記載があるところ、当該記載を整理すると、結局、引用文献3には、以下の「眼用レンズ」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。 「2つの対面する湾曲面と、各レンズにわたって分布されるドットパターンとを含む眼用レンズであって、 前記2つの対面する湾曲面は、着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する屈折力を共同して有し、 前記ドットパターンは間隔の空けられたドットの配列を含み、該ドットの配列は、前記着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、前記レンズが前記着用者の視力を20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように配置され、前記ドットパターンは、前記着用者の視覚軸と一直線上に並べられる、ドットがない透明間隙を含む、眼用レンズ。」 (3)対比及び判断 ア 対比 本願発明と引用発明3を対比すると、以下のとおりとなる。 (ア)人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素 引用発明3の「眼用レンズ」は、「人の目の前に装用されることが意図される」ものであることは明らかであるから、「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素」に相当する。 (イ)第1の屈折力、屈折エリア 引用発明3の「眼用レンズ」に含まれる「2つの対面する湾曲面」は、「着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する屈折力を共同して有」するものであるから、「眼用レンズ」のうち、「各レンズにわたって分布されるドットパターン」が形成されていない領域は、「第1の屈折力」を有する「領域(エリア)」といえる。 したがって、本願発明の「屈折エリア」と、引用発明3の「眼用レンズ」のうち「各レンズにわたって分布されるドットパターンが形成されていない領域」とは、「第1の屈折力」「を有する屈折エリア」である点で共通する。 (ウ)複数の少なくとも3つの光学要素 引用発明3の「各レンズにわたって分布されるドットパターン」について、引用発明3は「前記ドットパターンは間隔の空けられたドットの配列を含み、該ドットの配列は、前記着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、前記レンズが前記着用者の視力を20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように配置され」るものであることから、各「ドット」が「光学」的な機能を有するもの(すなわち、光学要素)であることは明らかであり、また、「ドットパターン」を形成するためには「ドット」が「少なくとも3つ」含まれることも明らかである。 したがって、引用発明3の「ドットパターン」は、本願発明の「複数の少なくとも3つの光学要素」を含むものといえる。 イ 一致点及び相違点 上記アの対比結果によれば、本願発明と引用発明3とは、以下の(ア)の点で一致し、以下の(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素であって、 - 第1の屈折力を有する屈折エリア、及び、 - 複数の少なくとも3つの光学要素、 を含むレンズ要素。」 (イ)相違点 <相違点3-1> 「第1の屈折力」が、本願発明では「前記人の前記目の異常屈折を矯正するための処方に基づく」ものであるのに対し、引用発明3は、この点が明らかでない点。 <相違点3-2> 「屈折エリア」が、本願発明では「前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力とを有」し、「屈折エリアにおいて、屈折力は連続変化を有する」のに対し、引用発明3は、このように特定されたものでない点。 <相違点3-3> 「複数の少なくとも3つの光学要素」について、本願発明は「前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである」のに対し、引用発明3は、このように特定されたものでない点。 ウ 判断 (ア)新規性について 上記イで示したとおり、本願発明は、引用発明3と上記相違点3-1~3-3で相違するものであるから、引用文献3に記載された発明であるということができない。 (イ)進歩性について 事案に鑑み、上記相違点3-2について検討する。 上記相違点3-2は、上記1(3)イ(イ)の上記相違点2と同様であるところ、引用発明3における「各レンズにわたって分布されるドットパターンが形成されていない領域」(屈折エリア)を、「屈折力は連続変化を有する」よう設計する動機づけが見いだせないことは、上記1(3)ウ(イ)で上記相違点2について説示したのと同様である。 (ウ)小括 上記(ア)~(イ)によれば、本願発明は、引用文献3に記載された発明ではなく、引用文献3に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~12に係る発明も、同様の理由により、引用文献3に記載された発明ではなく、引用文献3に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 3 引用文献1を主引用文献とした場合 (1)引用文献1の記載 令和5年12月26日付け拒絶理由通知書において当合議体が通知した拒絶の理由において引用された、米国特許出願公開第2014/0347622号明細書(引用文献1)は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。 ア 「BACKGROUND OF THE INVENTION [0002] 1. Field of the Invention [0003] This invention relates to a lens, more particularly to a lens for correcting vision of a user.」 (日本語訳) 「発明の背景 [0002] 1.発明の分野 [0003] 本発明は、レンズに関し、より具体的には、使用者の視力を矯正するためのレンズに関する。」 イ 「SUMMARY OF THE INVENTION [0007] Therefore, the object of the present invention is to provide a lens capable of forming various images spaced apart from the retina of the user to arrest progression of myopia or hyperopia. [0008] According to this invention, a lens for correcting vision of a user includes a central zone and an outer zone. The central zone is configured to cause light passing therethrough to form an image on a retina of an eye of the user. The outer zone surrounds the central zone and has a plurality of different aspherical coefficients for respectively causing light passing therethrough to form images spaced apart from the retina.」 (日本語訳) 「発明の概要 [0007] そこで、本発明の目的は、近視または遠視の進行を阻止するために、使用者の網膜から離隔した位置に様々な像を結像することができるレンズを提供することにある。 [0008] 本発明において、使用者の視力を矯正するためのレンズは、中央領域と外側領域とを備える。当該中央領域は、ここを通過した光が使用者の眼の網膜上に像を結像できるように構成される。当該外側領域は、当該中央領域を取り囲んでおり、ここを通過した光が当該網膜から離隔した位置にそれぞれ像を結像させることができる複数の異なる非球面係数を有している。」 ウ 「DETAILED DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS [0020] Referring to FIGS. 3 and 4, the first preferred embodiment of the lens 2 for correcting vision of a user according to the present invention includes a central zone 21 and an outer zone 22. The central zone 21 is configured to cause light passing therethrough to form an image on a retina 31 of an eye of the user. Note that the lens 2 may be configured for use in a pair of glasses, or may be configured as a contact lens. [0021] The outer zone 22 surrounds the central zone 21, and has a plurality of different aspherical coefficients for respectively causing light passing therethrough to form images spaced apart from the retina 31. In this embodiment, the outer zone 22 includes a plurality of arc segments 221, 222, 223, 224 angularly connected to one another to surround the central zone 21. Connected two of the arc segments 221, 222, 223, 224 have respective different aspherical coefficients so as to cause light passing therethrough to form respective defocus images at different distances from the retina 31. Note that the number of the arc segments 221, 222, 223, 224 is not limited to what is disclosed herein and may be 360, i.e., one arc segment per degree. [0022] In a case of the user having myopia without wearing the lens 2 of the present invention, light passes through a crystalline lens in an eye of the user and forms an image in front of the retina 31. After the user wears the lens 2, light passes through the central zone 21 and the crystalline lens to form a clear image on the retina 31. In this embodiment, the aspherical coefficient of each of the arc segments 221, 222, 223, 224 is made to be smaller than that of the central zone 21 so as to form images in front of the retina 31. [0023] FIG. 4 illustrates one light beam passing through the arc segment 221 to form an image at a point (P1) that is spaced apart from the retina 31 by a first distance (d1). Similarly, another light beam passing through the arc segment 223 forms another image at another point (P3) that is spaced apart from the retina 331 by a second distance (d3) which is different from the first distance (d1). By this way, progression of myopia of the user may be arrested.」 (日本語訳) 「好適な実施形態の詳細な説明 [0020] 図3および図4を参照すると、本発明における使用者の視力矯正用レンズ2の第1の好適な実施形態は、中央領域21と外側領域22とを備える。中央領域21は、ここを通過した光が使用者の眼の網膜31上に像を結像させるように構成される。なお、レンズ2は、眼鏡で使用するように構成されてもよいし、コンタクトレンズとして構成されてもよいことに留意する。 [0021] 外側領域22は、中央領域21を取り囲んでおり、ここを通過した光が網膜31から離隔した位置にそれぞれ像を結像させることができる複数の異なる非球面係数を有している。この実施形態では、外側領域22は、中央領域21を取り囲むために角度を付けて互いに接続された複数の円弧状片221、222、223、224を備える。円弧状片221、222、223、224のうちの接続された2つは、ここを通過した光が網膜31からの異なる距離でそれぞれのデフォーカス像を結像できるように、それぞれ異なる非球面係数を有している。なお、円弧状片221、222、223、224の数は、本明細書に開示されている数に限定されず、360個、すなわち角度1度につき1つの円弧状片があってもよいことに留意する。 [0022] 本発明のレンズ2を装着していない近視の使用者の場合、光は、使用者の眼の水晶体を通過して、網膜31の前で像を結像する。使用者がレンズ2を装着すると、光は、中央領域21および水晶体を通過し、網膜31上に鮮明な像を結像する。この実施形態では、円弧状片221、222、223、224のそれぞれの非球面係数は中央領域21の非球面係数よりも小さく、網膜31の前で像を結像できるようにされる。 [0023] 図4は、円弧状片221を通過した1つの光ビームが、網膜31から第1の距離(d1)だけ離隔した点(P1)で像を結像する様子を示している。同様に、円弧状片223を通過した別の光ビームは、網膜331から第1の距離(d1)とは異なる第2の距離(d3)だけ離隔した別の点(P3)において別の像を結像する。これにより、使用者の近視の進行を阻止することができる。」 エ 図3~4 「 [図:0001411816000010.jpg] 」 (2)引用発明1 引用文献1の[0020]~[0023]、図3~4には、以下の「レンズ2」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「使用者の視力矯正用レンズ2において、 中央領域21と外側領域22とを備え、 中央領域21は、ここを通過した光が使用者の眼の網膜31上に像を結像させるように構成され、([0020]) 外側領域22は、中央領域21を取り囲んでおり、ここを通過した光が網膜31から離隔した位置にそれぞれ像を結像させることができる複数の異なる非球面係数を有しており、外側領域22は、中央領域21を取り囲むために角度を付けて互いに接続された複数の円弧状片221、222、223、224を備え、円弧状片221、222、223、224のうちの接続された2つは、ここを通過した光が網膜31からの異なる距離でそれぞれのデフォーカス像を結像できるように、それぞれ異なる非球面係数を有しており、([0021]、図3、4) レンズ2を装着していない近視の使用者の場合、光は、使用者の眼の水晶体を通過して、網膜31の前で像を結像し、使用者がレンズ2を装着すると、光は、中央領域21および水晶体を通過し、網膜31上に鮮明な像を結像し、円弧状片221、222、223、224のそれぞれの非球面係数は中央領域21の非球面係数よりも小さく、網膜31の前で像を結像できるようにされ、([0022]、図4) 円弧状片221を通過した1つの光ビームが、網膜31から第1の距離(d1)だけ離隔した点(P1)で像を結像し、同様に、円弧状片223を通過した別の光ビームは、網膜331から第1の距離(d1)とは異なる第2の距離(d3)だけ離隔した別の点(P3)において別の像を結像することにより、使用者の近視の進行を阻止することができる、([0023]、図4) レンズ2」 (3)対比及び判断 ア 対比 本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。 (ア)人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素 引用発明1の「レンズ2」は、「人の目の前に装用されることが意図される」ものであることは明らかであるから、本願発明の「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素」に相当する。 (イ)第1の屈折力、第2の屈折力、屈折エリア 引用発明1の「中央領域21」、及び、「外側領域22」を構成する「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)は、いずれも「屈折力」を有する領域であることは明らかであるから、これらを合わせた領域は、本願発明の「屈折エリア」に相当する。 ここで、引用発明1は、「本発明のレンズ2を装着していない近視の使用者の場合、光は、使用者の眼の水晶体を通過して、網膜31の前で像を結像し、使用者がレンズ2を装着すると、光は、中央領域21および水晶体を通過し、網膜31上に鮮明な像を結像」するものであることから、引用発明1の「中央領域21」は、「近視の使用者」の異常屈折を矯正するのに適した屈折力を有する領域と解される。一方、引用発明1の「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)は、「外側領域22」を構成するものであるから、「ここを通過した光が網膜31から離隔した位置にそれぞれ像を結像させることができる複数の異なる非球面係数を有して」いる。 したがって、引用発明1において、「中央領域21」が有する屈折力(第1の屈折力)と、引用発明1の「外側領域22」を構成する「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)」が有する屈折力(第2の屈折力)とは、互いに異なるものである。 してみれば、本願発明の屈折エリアと、引用発明1の「中央領域21」と「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)の領域を合わせた領域とは、「第1の屈折力と、前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力とを有する」点で共通する。 (ウ)光学要素 引用発明1の上記複数の円弧状片221、222、223、224のうちの一つ(例えば、円弧状片221)以外の三つの円弧状片(例えば、円弧状片222、223、224)は、「外側領域22」を構成するものであるから、「ここを通過した光が網膜31から離隔した位置にそれぞれ像を結像させることができる複数の異なる非球面係数を有して」いるものである。 したがって、引用発明1の上記複数の円弧状片221、222、223、224のうちの一つ(例えば、円弧状片221)以外の三つの円弧状片(例えば、円弧状片222、223、224)は、本願発明の「複数の少なくとも3つの光学要素」に相当し、「前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する」との要件を満たす。 イ 一致点及び相違点 上記アの対比結果によれば、本願発明と引用発明1とは、以下の(ア)の点で一致し、以下の(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 「人の目の前に装用されることが意図されるレンズ要素であって、 - 第1の屈折力と、前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力とを有する屈折エリア、及び、 - 複数の少なくとも3つの光学要素であって、前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する、複数の少なくとも3つの光学要素、 を含むレンズ要素。」 (イ)相違点 <相違点1-1> 「第1の屈折力」が、本願発明では「前記人の前記目の異常屈折を矯正するための処方に基づく」ものであるのに対し、引用発明1では、この点が明らかでない点。 <相違点1-2> 本願発明は、「前記屈折エリアにおいて、屈折力は連続変化を有する」ものであるのに対し、引用発明1は、「中央領域21」と「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)の領域を合わせた領域が、「屈折力は連続変化を有する」ものであることが特定されていない点。 <相違点1-3> 本願発明は、「複数の少なくとも3つの光学要素」が「屈折マイクロレンズ」であるのに対し、引用発明1の上記複数の円弧状片221、222、223、224のうちの一つ(例えば、円弧状片221)以外の三つの円弧状片(例えば、円弧状片222、223、224)が「屈折マイクロレンズ」であることが特定されていない点。 ウ 判断 (ア)新規性について 上記イで示したとおり、本願発明は、引用発明1と上記相違点1-1~1-3で相違するものであるから、引用文献1に記載された発明であるということができない。 (イ)進歩性について 事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。 以下、引用発明1における「「中央領域21」と「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)の領域を合わせた領域」(本願発明1の「屈折エリア」に相当)のいずれかの部分が、「屈折力は連続変化を有する」ように設計することが、当業者が容易になし得たことといえるか否か検討する。 a 上記相違点1-2は、上記1(3)イ(イ)の上記相違点2と同様であるところ、引用発明1における「中央領域21」を、「屈折力は連続変化を有する」よう設計する動機づけが見いだせないことは、上記1(3)ウ(イ)で上記相違点2について説示したとおりである。 b 次に、「「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)」の光学的な機能は、上記(3)ア(イ)で検討したとおりであるところ、このような光学的な機能を有する「「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)」の「屈折力」を「連続変化を有する」ように設計することを動機づける文献や技術常識は見いだせない。 c さらに、引用文献1には、引用発明1における「中央領域21」と「「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)」との境界領域を、「屈折力は連続変化を有する」よう設計することを当業者に動機づける記載や示唆もない。 d 上記a~cのとおりであるから、引用発明1において、「「中央領域21」と「円弧状片221、222、223、224」のうちの一つ(例えば、円弧状片221)の領域を合わせた領域」(屈折エリア)のいずれかの部分を「屈折力は連続変化を有する」ものとすることが、当業者が容易になし得たことであったとはいえない。 (ウ)小括 上記(ア)~(イ)によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~12に係る発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1に記載された発明及び優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第5 理由1(サポート要件)、理由2(明確性要件)についての当合議体の判断 1 請求項1には、「複数の少なくとも3つの光学要素であって、前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである、複数の少なくとも3つの光学要素」と記載されている。 ここで、「前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない」とは、その記載から、「レンズ要素」が装用される「人」の「目の網膜に像を結ばない」という光学機能を有することは明らかであり、明確でないとはいえない。 また、本件出願の明細書の【0008】~【0010】等より、「レンズ要素」が、「前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである」「複数の少なくとも3つの光学要素」を備えることにより、「近視又は遠視等の目の異常屈折の進行を抑制又は少なくとも遅くするレンズ要素が必要とされている」(【0007】)との本願発明の課題を解決することができると理解できるから、「複数の少なくとも3つの光学要素であって、前記光学要素は、前記人の前記目の網膜上にフォーカスしない球面光学機能または非球面光学機能を有する屈折マイクロレンズである、複数の少なくとも3つの光学要素」が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。 2 請求項11について 請求項11には「2mm~4mmの半径を有し、かつ、幾何中心を有する任意の円形ゾーンであって、前記幾何中心が標準装用状況で真っ直ぐ前を注視しているユーザの瞳孔に面するフレーム基準から前記半径+5mmの距離に配置される、あらゆる円形ゾーンに対して、前記円形ゾーンの内側に配置された光学要素の部分の面積の和と、前記円形ゾーンの総面積と、の比率は、20%~70%である」と記載されているが、当該記載から「円形ゾーン」の設定手法が明確に把握できるから、上記記載で特定される「レンズ要素」の発明の範囲は明確である。 そして、上記記載で特定される「レンズ要素」は、本件出願の明細書の【0012】等の記載から当業者に明らかなものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、請求項1~12に係る発明は明確でないといえないし、発明の詳細な説明に記載されたものでないということもできない。 第6 原査定について 1 理由1(進歩性)について 原査定の理由1は、上記引用文献3を主引用文献として、請求項1~16は進歩性を有しないというものであるが、上記第4「3 引用文献3を主引用文献とした場合」で説示したとおりであるから、当該理由によって本件出願を拒絶することはできない。 2 理由2(明確性)について 原査定の理由2は、「レンズ要素」における「光学要素」の面積の比率を、「円形ゾーン」をレンズ要素に設定することによって特定する記載の明確性に関するものであるところ、上記第5「2 請求項11について」で説示したとおりであるから、当該理由によって本件出願を拒絶することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当合議体が通知した拒絶の理由いずれによっても、本件出願を拒絶することはできない。 他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-000137

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