特許異議申立
2023-700975
固定式等速自在継手
- 審判番号
- 2023-700975
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-193108
- 登録番号
- 7242817
- 請求日
- 2023年09月15日
- 審決日
- 2024年03月22日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】城村 邦彦
- 【権利者代理人】熊野 剛
- 【権利者代理人】野口 祐輔
- 【異議申立人】絹谷 晴久
- 【異議申立人】柱山 啓之
- 審判長/審判官
- 審判長 平城 俊雅
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 吉田 昌弘
- 分類
- P1651.113-YAA(F16D) / P1651.121-YAA(F16D) / P1651.537-YAA(F16D) / P1651.851-YAA(F16D) / P1651.857-YAA(F16D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7242817号発明「固定式等速自在継手」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7242817号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを認める。
特許第7242817号の請求項2、3、5~8に係る特許を維持する。
特許代7242817号の請求項1及び4にかかる特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7242817号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年11月29日に出願され、令和5年3月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して、令和5年9月15日に特許異議申立人絹谷晴久及び柱山啓之(以下、両者併せて「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年12月1日付けで取消理由を通知したところ、令和6年1月26日に特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、この請求を「本件訂正請求」という。)がされたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さい請求項1に記載の固定式等速自在継手。」とあるのを、独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さい固定式等速自在継手。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい請求項1又は2に記載の固定式等速自在継手。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい固定式等速自在継手。」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さい請求項4に記載の固定式等速自在継手。」とあるのを、独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さい固定式等速自在継手。」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい請求項4又は5に記載の固定式等速自在継手。」とあるうち、請求項4を引用するものについて独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい固定式等速自在継手。」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい請求項1又は2に記載の固定式等速自在継手。」とあるうち、請求項2を引用するものについて独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さく、
前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい固定式等速自在継手。」と訂正し、新たに請求項7とする。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい請求項4又は5に記載の固定式等速自在継手。」とあるうち、請求項5を引用するものについて独立形式に改め、「内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さく、
前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい固定式等速自在継手。」と訂正し、新たに請求項8とする。
訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は請求項1を引用している。また、訂正前の請求項4~6について、請求項5及び6は請求項4を引用している。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~3〕及び〔4~6〕に対して請求されたものであるといえる。
また、特許権者は、訂正後の請求項2、3、5、6、7、8について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、請求項1及び4とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
(2)訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるもので、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるためのもので、特許請求の範囲の減縮及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4を削除するというものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項4の記載を引用する記載であったところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるもので、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項4又は5の記載を引用する記載であったところ、請求項5を引用しないものとした上で、請求項4を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるためのもので、特許請求の範囲の減縮及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
キ 訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であったところ、請求項1を直接引用しないものとした上で、請求項2を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改め、新たな請求項とするためのもので、特許請求の範囲の減縮及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ク 訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項6が請求項4又は5の記載を引用する記載であったところ、請求項4を直接引用しないものとした上で、請求項5を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改め、新たな請求項とするためのもので、特許請求の範囲の減縮及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)小括
上記のとおり、本件訂正請求における訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号、あるいは、第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6、7、8について訂正することを認める。
3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項2、3、5~8に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項2、3、5~8に記載された事項により特定されるとおりのものである(なお、請求項1及び4は本件訂正請求により削除されている。)。
【請求項2】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さい固定式等速自在継手。
【請求項3】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい固定式等速自在継手。
【請求項5】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さい固定式等速自在継手。
【請求項6】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい固定式等速自在継手。
【請求項7】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく、
前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO’が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さく、
前記保持器の外球面の軸方向両端における直径DCO’が、前記保持器の外球面の軸方向中央部における直径DCOよりも大きい固定式等速自在継手。
【請求項8】
内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、
前記保持器の内球面と前記内側継手部材の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E2’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E2よりも小さく、
前記保持器の内球面の軸方向両端における直径DCI’が、前記保持器の内球面の軸方向中央部における直径DCIよりも小さく、
前記内側継手部材の外球面の軸方向両端における直径DI’が、前記内側継手部材の外球面の軸方向中央部における直径DIよりも大きい固定式等速自在継手。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び4に係る特許に対して、当審が令和5年12月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
ア(新規性)請求項1及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1及び4に係る特許は取り消すべきものである。
イ(進歩性)請求項1及び4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
甲第1号証:「Universal Joints and Driveshafts」 F.Schmelz Count H.-Chr.Seherr-Thoss E.Aucktor著 Springer-Verlag出版 1992年 表紙、裏表紙、巻頭部、目次及びp.212~219(甲第1号証は、特許異議申立人が提出した甲第1号証である。)
(2)当審の判断
本件訂正請求による訂正によって請求項1及び4は削除された。
したがって、取消理由通知に記載した取消理由は解消された。
なお、特許異議申立人は、訂正前の請求項1及び4について、請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証(特開2009-79684号公報)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであるとの主張もしているが、上記のとおり、本件訂正請求による訂正によって請求項1及び4は削除されている。
そして、特許異議申立人は、請求項1及び4以外の請求項について、当該各請求項に係る発明が特許法第29条第1項第3号に該当するか、または特許法第29条第2項の規定に違反するから、取り消されるべきである旨の主張はしていない。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項2について次のように主張する。
「本件特許発明2は、次の構成要件Hを備える。
「H.前記外側継手部材の内球面の軸方向両端における直径DO'が、前記外側継手部材の内球面の軸方向中央部における直径DOよりも小さい請求項1に記載の固定式等速自在継手。」
しかし、「直径」というからには、その直径の中心がどこにあるかが規定されていなければ直径がどのような直径であるか不明確である。
本件特許発明2の場合、「軸方向両端における直径DO'」が「軸方向中央部における直径DO」よりも小さい点は規定されているものの、
それら直径DO', DOの中心は明示されておらず、これでは直径DO', DO自体、および直径DO', DO同士の関係が不明確であり、本件特許発明2の外延を明確に特定することができない。
例えば、直径DO', DOが異なる中心を有するものなのか、同一の中心を有するものなのか、不明であり、現状の本件特許発明2は、両方の態様を含み得るものとなっている。
従って、本件特許発明2は明確でない(理由3) 。」(第19頁第第5行~第19行)
なお、特許異議申立人は、請求項3及び5、6(及び訂正後の請求項7、8)についても実質的に同旨の主張をしている。(第21頁第7行~第22行、第23頁第8行~第23行、第25頁第11行~第25行)
イ 当審の判断
請求項2における「直径DO」及び「直径DO’」のそれぞれの中心について請求項2では特定されていない。
上記「直径DO」及び「直径DO’」のそれぞれに関し、本件特許の明細書段落【0027】には、「本実施形態では、図3に示すように、外側継手部材1の内球面1aが、軸方向中央部に設けられた球面部1a1と、球面部1a1の軸方向両側に設けられた準球面部1a2とからなる。球面部1a1の曲率中心は、継手中心Oと一致している。準球面部1a2は、球面部1a1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に縮径している。すなわち、準球面部1a2と、球面部1a1の曲率中心(継手中心O)との距離RO’(図2参照)が、軸方向外側に行くほど小さくなっている。そのため、外側継手部材1の内球面1aの軸方向両端における直径DO’(RO’の2倍)は、内球面1aの軸方向中央部における直径(球面部1a1の直径)DOよりも小さい(DO’<DO)。」と記載されている(下線は当審で付したもの。)。この記載からすれば、直径DOである球面部1a1と直径DO’である準球面部1a2のそれぞれは、同一の継手中心Oを曲率中心とするものとして定義されているといえる。
すなわち、本件特許の明細書の記載を参酌すれば、「直径DO」及び「直径DO’」は、準球面部1a2と、球面部1a1の曲率中心(継手中心O)との距離RO’を、軸方向外側に行くほど小さくするためにその関係を定めたものであり、「直径DO」及び「直径DO’」は、同一の継手中心Oを中心とするものとして定義されているから、請求項2における、「直径DO」と「直径DO’」が、同一の継手中心Oを中心とするものであることは明らかであるといえる。
したがって、本件特許の請求項2に係る発明は明確である。
また、同様の理由により、請求項3、5~8に係る発明も明確である。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項2について次のように主張する。
「本件特許には次の記載がある。
「本実施形態では、図3に示すように、外側継手部材1の内球面1aが、軸方向中央部に設けられた球面部1a1と、球面部1a1の軸方向両側に設けられた準球面部1a2とからなる。球面部1a1の曲率中心は、継手中心O と一致している。準球面部1a2は、球面部1a1と滑らかに連続し、軸方向外側に行くにつれて徐々に縮径している。すなわち、準球面部1a2と、球面部1a1の曲率中心(継手中心O) との距離RO' (図2参照) が、軸方向外側に行くほど小さくなっている。そのため、外側継手部材1の内球面1aの軸方向両端における直径DO' (RO'の2倍) は、内球面1aの軸方向中央部における直径(球面部1a1の直径)DOよりも小さい(DO'<DO)。」(段落0027)
「
[図:0001411340000001.jpg]
」(図2)
「
[図:0001411340000002.jpg]
」(図3)
これら記載によれば、外側継手部材1の内球面1aにおいて、軸方向中央部の球面部1a1の曲率中心が継手中心Oと一致し、球面部1a1の直径DOの中心が継手中心Oと一致し、軸方向両側の準球面部1a2の曲率中心(距離RO'の中心) が継手中心Oと一致し、準球面部1a2の直径DO'(RO'の2倍)の中心が継手中心Oと一致する。
従って、本件特許は、継手中心Oからなる同一の中心を有する直径DO',DOしか記載していない。本件特許は、継手中心O以外の中心を有する直径DO', DOも、互いに異なる中心を有する直径DO', DOも、記載していない。ところが、現状の本件特許発明2は、継手中心O以外の中心を有する直径DO', DOも、互いに異なる中心を有する直径DO', DOも、含むものとなっている。
従って、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載したものではない(理由4) 。」(第19頁第20行~第21頁第5行)
なお、特許異議申立人は、請求項3及び5、6(及び訂正後の請求項7、8)についても実質的に同旨の主張をしている。(第21頁第23行~第23頁第6行、第23頁第24行~第25頁第9行、第25頁第26行~第27頁第8行)
イ 当審の判断
上記(1)イで検討したとおり、本件特許の明細書の記載を参酌すれば、請求項2における、「直径DO」と「直径DO’」は、同一の継手中心Oを中心とするものであることは明らかであるといえる。
そして、直径DOと直径DO’が同一の継手中心Oを中心とするものが、本件特許の明細書段落【0027】に請求項2に係る発明(本件発明2)の実施態様として記載されている。
さらに、請求項2に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かについて以下に検討する。
請求項2に係る発明の課題は、内球面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外球面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケット、前記外側継手部材の内球面と摺接する外球面、及び前記内側継手部材の外球面と摺接する内球面を有する保持器とを備えた固定式等速自在継手において、保持器の軸方向移動量を抑えることで、両継手部材の等速性を維持すると共に、各部品の耐久性を高めることといえる(本件特許の明細書段落【0002】~【0010】)。
この課題を解決するために、請求項2に係る発明は、「前記外側継手部材の内球面と前記保持器の外球面との嵌合部の軸方向両端における球面隙間E1’が、前記嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1よりも小さく」することという発明特定事項を備えるものである。ことを特定している。
そして、上記発明特定事項を備えることにより、請求項2に係る発明は、「保持器の軸方向移動量を抑えることができるため、大きな作動角を取ったときでも、ボールの二等分面からのずれを抑えて両継手部材の等速性を維持することができる。また、外側継手部材と保持器との嵌合部の軸方向中央部における球面隙間E1を確保することで、球面間に潤滑剤を介在させて潤滑性を高めることができる。」(本件特許の明細書段落【0012】)という作用を発揮し、上記課題を解決することができることは、当業者であれば理解できる。
そうすると、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
したがって、本件特許の請求項2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものである。
また、同様の理由により、請求項3、5~8に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項2、3、5~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、請求項2、3、5~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1及び4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項1及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700975