特許異議申立
2023-700946
ホイップドクリーム
- 審判番号
- 2023-700946
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-531811
- 登録番号
- 7241245
- 請求日
- 2023年09月11日
- 審決日
- 2024年07月01日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日清オイリオグループ株式会社
- 【権利者代理人】引地 進
- 【異議申立人】古井 洋子
- 【異議申立人】佐藤 一彦
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(A23C) / P1651.121-YAA(A23C) / P1651.536-YAA(A23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第3項、特許法第126条第7項、特許法第113条第4号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7241245号発明「ホイップドクリーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7241245号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
特許第7241245号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。
特許第7241245号の請求項1に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7241245号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、
2021年(令和3年) 6月14日(優先権主張 2020 年 6月15日、2020年11月30日)を国際出願日とするものであり、
令和 5年 3月 8日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、
令和 5年 3月16日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和 5年 9月11日に特許異議申立人 古井 洋子(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、
令和 5年 9月14日に特許異議申立人 佐藤 一彦(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、
令和 5年12月14日付けで取消理由が通知され、
令和 6年 2月14日に特許権者 日清オイリオグループ株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がされるとともに意見書の提出がされ、
令和 6年 2月29日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
令和 6年 4月 4日に特許異議申立人Bから意見書が提出されたものの、特許異議申立人Aからは何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 6年 2月14日にされた訂正請求項における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
請求項2を、請求項1の記載を引用するものから、引用しないものに訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3~5も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項2の、「リン脂質を含む」を、「リン脂質を前記ポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下含む」に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項3~5も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項3を、請求項1または2の記載を引用するものから、請求項2の記載を引用するものに訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項4を、請求項1~3の何れか1項の記載を引用するものから、請求項2または3の記載を引用するものに訂正する。
請求項4の記載を引用して特定する請求項5も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項5を、請求項1~4の何れか1項の記載を引用するものから、請求項2~4の何れか1項の記載を引用するものに訂正する。
(7)訂正事項7
請求項6の、「油脂100質量部に対して、」の「油脂」を、「ラウリン酸を構成脂肪酸として含む植物油脂を含む油脂」に訂正する。
(8)訂正事項8
請求項6の、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の風味」を、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の、乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1の訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、請求項の削除に係るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものあり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2及び3の訂正について
訂正事項2による請求項2についての訂正は、本件訂正前の請求項2が同請求項1を引用していたところ、これを書き下して独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項3による請求項2についての訂正は、訂正前の請求項2において、リン脂質の含有量を、リン脂質を前記ポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下に特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2及び3による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~5についても同様である。
(3)訂正事項4~6の訂正について
訂正事項4~6による請求項3~5についての訂正は、訂正前の請求項3~5が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、訂正前の請求項1を削除したことに伴い、請求項1を引用しないように変更するものであって、特特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂訂正事項4~6による請求項3~5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項3及び4を直接又は間接的に引用して特定する他の請求項についても同様である。
(4)訂正事項7及び8の訂正について
訂正事項7及び8による請求項6についての訂正は、訂正前の請求項6において、「油脂100質量部に対して、」の「油脂」を、「ラウリン酸を構成脂肪酸として含む植物油脂を含む油脂」に訂正するものであり、また、訂正前請求項6の、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の風味」を、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の、乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項7及び8による請求項6についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項1~8による請求項1~6についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1~5は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1~6による請求項1~5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、訂正事項7及び8による請求項6についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~6に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、6について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明5」という。)は、令和 6年 2月14日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
油脂および210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、水中油型である、ホイップクリームまたはホイップドクリームであって、
前記油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含み、リン脂質を前記ポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下含む、pHが5.5~7.5である、ホイップクリームまたはホイップドクリーム(ただし、酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く)。
【請求項3】
前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのポリグリセリン部分の平均重合度が、2~10である、請求項2に記載の、ホイップクリームまたはホイップドクリーム。
【請求項4】
乳脂肪を含む、請求項2または3に記載の、ホイップクリームまたはホイップドクリーム。
【請求項5】
請求項2~4の何れか1項に記載の、ホイップクリームまたはホイップドクリームを含む飲食品。
【請求項6】
210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有させる、水中油型であり、ラウリン酸を構成脂肪酸として含む植物油脂を含む油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含み、pHが5.5~7.5である、ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の、乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味を持続する方法(ただし、ホイップクリームまたはホイップドクリームは、酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く)。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和 5年 9月11日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A(甲第A1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~6は、甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)証拠方法
甲第A1号証:特開平1-210029号公報
甲第A2号証:菰田衛「レシチン―その基礎と応用」,pp. 116-117,1991年7月25日発行
甲第A3号証:特開平6-30726号公報
甲第A4号証:本件出願に係る2022年12月9日付け意見書
甲第A5号証:特開昭61-149064号公報
甲第A6号証:特開2016-171764号公報
甲第A7号証:クックパッド「スコップレアチーズケーキ」,2019年12月23日(https://cookpad.com/recipe/5955877よりダウンロード 2023年9月5日確認)
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和 5年 9月14日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、2、5及び6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~6は、甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(実施可能要件)
本件特許の請求項1~6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
甲第B1号証に記載されるホイップクリームは、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルだけでなく、乳化用組成物として周知の蔗糖脂肪酸エステルも含む。
蔗糖脂肪酸エステルは、本件特許発明でも含有することが排除されておらず、含有可能なポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤として、【0026】に具体的に例示されている化合物であるから、本件特許発明に含まれることは明らかである。
しかるに、甲第B1号証に「これと併用する蔗糖脂肪酸エステルは0.1~6.0%、好ましくは1~3%であり、使用量が少な過ぎると乳化の安定性が著しく悪くなり逆に多過ぎると製品の風味が悪くなる」(4頁7欄11行~8欄2行)と記載されているように、蔗糖脂肪酸エステルのような乳化剤は、その添加量によっては、乳化安定性や風味に大きく影響することは当該技術分野の技術常識である。上記蔗糖脂肪酸エステルの例では6.0%以上添加すると風味が悪くなってしまうのであるから、せっかく風味が維持できたとして、悪い風味では食品としての価値はない。
このように、本件特許明細書には、含有可能なポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤の添加量について何ら限定がないのであるから、当業者は本件特許明細書の記載に基づいて、本件特許発明を容易に実施することはできない。
したがって、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。
(3)証拠方法
甲第B1号証:特公平4-52110号公報
甲第B2号証:特開2011-152082号公報
甲第B3号証:特許第3118155号公報
甲第B4号証:特開2013-13393号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
当審が令和 5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
1 取消理由1(甲A1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲A1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~6は、甲A1に記載された発明に基づいて、その優先日前にその当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、取消理由1は申立理由Aを包含する。
2 取消理由2(甲B1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、2、5及び6は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲B1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許発明1~6は、甲B1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、取消理由2は申立理由B1と同旨である。
第6 当審の判断
以下に述べるように、当審が令和 5年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由における取消理由1、2及び異議申立書に記載された申立理由B2は、いずれも理由がないものと判断される。
1 取消理由1(申立理由A)(甲A1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、「耐塩性水中油型乳化物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「2.特許請求の範囲
(1)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに、クエン酸モノグリセライド及び/又はコハク酸モノグリセライドを併用してなる乳化剤を含有することを特徴とする耐塩性水中油型液状乳化物。
(2)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルに、クエン酸モノグリセライド及び/又はコハク酸モノグリセライドを併用してなる乳化剤に、更に糖質及び/又は蛋白質等を加え、乾燥してなることを特徴とする耐塩性水中油型粉末状乳化物。
3.発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は食用、化粧品用ないし工業用の水中油型乳化物に関するものである。さらに詳しくは高濃度の食塩、塩類溶液中においても安定な乳化状態を長期間保持しうる乳化物に関するものであり、乳化物の形態としては、液状の水中油型エマルジョンとこれに基材として糖類や蛋白質類を添加して粉末化したものの2種のタイプを採りうるものである。
したがって本発明は、O/W型エマルジョンの技術分野で重用されるだけでなく、ホイップクリーム、コーヒーホワイトナー、クリームチーズ、マヨネーズ、ドレッシング、アイスクリーム、ソフトクリーム、ハムやソーセージ用ピックル液、焼き菓子等食品製造の技術分野、及び、化粧品や化成品の技術分野においても広く利用されるものである。」(特許請求の範囲、産業上の利用分野)
・「乳化剤Aとしては現在市販されているポリグリセリン縮合リシノレイン酸ステルに分類される乳化剤を広く使うことが可能である。」(3頁左上欄の下から1~3行)
・「本発明において、糖類とは乳化物の調製に常用される糖類が広く使用され例えば次のものが挙げられる:乳糖、ショ糖、水飴、澱粉、α化澱粉、澱粉水物、液糖、ブドウ糖、果糖、化工澱粉、デキストリン等。また本発明における白質類も当業界で常用されるものが適宜使用され、例えば次のものが挙げられ:脱脂粉乳、全脂粉乳、ホエー蛋白質、ナトリウムカゼイネート、カゼイン、離大豆蛋白質、コラーゲン、動植物蛋白質水解物、アルブミン等。」(3頁左下欄2~11行)
・「(実験例3)
上昇融点39℃の部分水添植物油脂400gにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0~3.0gを溶かして油相とする。水1500gにナトリウムカゼイネイト40g、脱脂粉乳40g、モノグリセライドのクエン酸エステル3g、 モノグリセライドのコハク酸エステル3g を加えて水相をつくり、これに食塩を30g 加えたものと、全く加えないものの2種類をつくった。70℃の油相をかくはんしながら70℃の水相に添加した後、かくはんしつつ加熱して80℃とし、そのまま10分間かくはん保持して殺菌後、バルブホモジナイザーを使って処理量50l/時間、均質化圧力150kg/cm2の条件で均質化しただちに冷却した。
冷えた乳化液を内径6cmのガラス製 200mlビーカーに採取し、3日間8℃で保存後の離水層の高さを比較した。結果を表4に示す。
[図:0001415278000001.jpg]
」(実験例3)
イ 甲A1に記載された発明
甲A1に記載された事項を、特に実験例3においてポリグリセリン縮合リシノレイン酸添加量が0.6gの場合に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、順に「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1発明>
「上昇融点39℃の部分水添植物油脂400gにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.6gを溶かして油相とし、水1500gにナトリウムカゼイネイト40g、脱脂粉乳40g、モノグリセライドのクエン酸エステル3g、モノグリセライドのコハク酸エステル3gを加えて水相をつくり、70℃の油相をかくはんしながら70℃の水相に添加した後、かくはんしつつ加熱して80℃とし、そのまま10分間かくはん保持して殺菌後、バルブホモジナイザーを使って処理量50l/時間、均質化圧力150kg/cm2の条件で均質化しただちに冷却し、得られた乳化液。」
(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲A1発明を対比する。
甲A1発明における「上昇融点39℃の部分水添植物油脂」は、本件特許発明2における「油脂」に相当する。
甲A1発明は、総重量が1986.6gであり、「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」を302ppm(=1000000×0.6/1986.6)含むものであるから、本件特許発明2における「210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する」との特定事項を満たす。
甲A1発明は、油相を水相に添加して得た水中油型液状乳化物であり、本件明細書【0012】に記載の「ホイップ(気泡化、含気泡化)できるクリーム」であるから、本件特許発明1における「水中油型である、ホイップクリームまたはホイップドクリーム」との特定事項を満たす。
甲A1発明は、「上昇融点39℃の部分水添植物油脂」100質量部に対して「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」を0.15質量部(=100×0.6/400)含むものであるから、本件特許発明2における「油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含み」との特定事項を満たす。
甲A1発明は、「酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様」におけるいずれの態様にも該当しないことから、本件特許発明2における「酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂および210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、水中油型である、ホイップクリームまたはホイップドクリームであって、前記油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含む、ホイップクリームまたはホイップドクリーム(ただし、酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く)。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明2においては、「リン脂質を前記ポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下含む」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明2においては、「pHが5.5~7.5である」と特定されているのに対して、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲A1発明におけるホイップクリームにおいて、リン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量については何ら記載されていないし、ホイップクリームであればリン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量が800ppm以上4000ppm以下であるとする技術常識もない。そうすると、相違点1-1は実質的な相違点である。
また、甲A1及び他の証拠をみても、甲A1発明において、リン脂質をポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下の範囲内に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明2は、ホイップドクリームにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有させることにより、ホイップドクリームを口に含んだ後の風味の持続性が向上する(【0007】)こと、ホイップクリームに含まれるリン脂質とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとの合計含有量が上記範囲程度であると、ホイップクリームを起泡化しやすい(【0020】)という、甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲A1発明において、リン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量を調整して相違点1-1に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に相当し得たこととは言えない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明3~5について
本件特許発明3及び4は、請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるであるから、本件特許発明2と同様に、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明5は、請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するホイップクリームまたはホイップドクリームを含む飲食品であるから、本件特許発明2と同様に、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
甲A1には、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の、乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味を持続する」という技術的思想は記載されていないから、甲A1に記載された事項から、本件特許発明6の「乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味を持続する方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は、甲A1に記載された発明であるとはいえないし、甲A1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)取消理由1についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明2~6は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由1の理由では取り消すことはできない。
2 取消理由2(及び申立理由B1)(甲B1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲B1に記載された事項等
ア 甲B1に記載された事項
甲B1には、「クリーム状油脂組成物の製造法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「本発明はクリーム状油脂組成物の製造に関するもので、得られた製品はホイツプ用クリームとしてばかりでなくコーヒー用クリームとしても良好な適性を有するクリーム状油脂組成物の新規な製造方法を提供するものである。
従来より、クリームをホイツプさせ菓子、食品の製造原料としたり、コーヒーに添加して風味を改良することが広く行なわれている。このとき使用するクリームは生クリームを使用するのが風味的に最も優れているが、生クリームは高価であり、季節、保存条件等の要因により品質の変動がはげしいとか、物性の面でも保形性が悪い等の欠点を有している。」(1頁1欄22行~2欄7行)
・「本発明は上記の事情によりなされたもので、クリームの試験に重要なホイツプテストは勿論のことコーヒー適性テストも満足するクリーム状油脂組成物を得んと長年研究を進めた結果、油脂と乳化剤及び乳固形分を含む水溶液からクリーム状油脂組成物を製造するに際し、乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと蔗糖脂肪酸エステルを併用することにより解決したのである。」(2頁3欄4~12行)
・「今混合使用による効果を実験例1により説明する。実験はパーム硬化油20%、なたね硬化油10%、大豆硬化油70%を混合し、これを70℃に加温溶解して第1表に示すような公知の乳化用組成物、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、蔗糖脂肪酸エステルの単独及びその混合物を乳化剤として混合溶解した。たゞし蔗糖脂肪酸エステルは水溶液に分散させた。次に無脂乳固形物8%の水溶液にヘキサメタりん酸ソーダを1%加え、70℃り加温し、その水溶液5.3Kgに対し前記調整した油性物質4.7Kgを加え、ホモミキサーで混合し、次いでホモゲナイザーで均質化圧100Kg/cm2で均質化し、40℃に冷却してエージングし、第1表に示す試験に供した。」(2頁4欄4~17行)
・「本発明で使用するポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は油脂に対し0.05~3.0%、好ましくは1~3%であり、これと併用する蔗糖脂肪酸エステルは0.1~6.0%、好ましくは1~3%であり、使用量が少な過ぎると乳化の安定性が著しく悪くなり逆に多過ぎると製品の風味が悪くなる。どのようなHLBの蔗糖脂肪酸エステルを使用するかはその目的により選択すべきで、液状クリームの乳化安定性、耐熱性を重視する場合はHLBが高いものを使用しホイツプしたクリームの気泡を細かくし、組織を滑らかにすることを重視する場合はHLBが低いものを使用するとよい。
各種HLBの蔗糖脂肪酸エステルとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用による効果について実験例2により説明する。実験例2では実験例1と同様の方法で調製及び試験を行い第2表の結果を得た。
[図:0001415278000002.jpg]
」(4頁7欄9行~8欄13行、第2表)
イ 甲B1に記載された発明
甲B1に記載された事項を、特に実験例2においてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル添加量が0.1%の場合に関して整理すると、甲B1には次の発明(以下、順に「甲B1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B1発明>
「パーム硬化油20%、なたね硬化油10%、大豆硬化油70%を混合し、これを70℃に加温溶解して乳化用組成物、添加量0.1%のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、蔗糖脂肪酸エステルの単独及びその混合物を乳化剤として混合溶解し、無脂乳固形物8%の水溶液にヘキサメタりん酸ソーダを1%加え、70℃に加温し、その水溶液5.3kgに対し前記調整した油性物質4.7kgを加え、ホモミキサーで混合し、次いでホモゲナイザーで均質化圧100kg/cm2で均質化し、40℃に冷却してエージングしたクリーム状油脂組成物。」
(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と甲B1発明を対比する。
甲B1発明における「油性物質」は、本件特許発明2における「油脂」に相当する。
甲B1発明は、「油性物質」4700gに対して「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」の添加量が0.1%であるから、「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」を4.7g(=4700×0.1/100)含み、総重量10000gに対して「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル」を470ppm(=1000000×4.7/10000)含むものであるから、本件特許発明2における「210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する」及び「油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含み」との特定事項を満たす。
甲B1発明は、クリーム状油脂組成物であり、乳化剤を溶解した水溶液に油脂を加えホモゲナイザーで均質化したものであるから、本件特許発明2における「水中油型である、ホイップクリームまたはホイップドクリーム」との特定事項を満たす。
甲B1発明は、「酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様」におけるいずれの態様にも該当しないことから、本件特許発明2における「酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く」との特定事項を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂および210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、水中油型である、ホイップクリームまたはホイップドクリームであって、前記油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含む、ホイップクリームまたはホイップドクリーム(ただし、酵素処理タマリンドシードガムを含む態様、カピリンを含む態様、水相に、HLBが11以上、重合度が10以上、構成脂肪酸の炭素数が18以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含む態様、食用の水中油型乳化物であって、乳清蛋白、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル及びカラギーナンを含有することを特徴とする水中油型乳化物を含む態様、を除く)。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明2においては、「リン脂質を前記ポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下含む」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-2>
本件特許発明2においては、「pHが5.5~7.5である」と特定されているのに対して、甲B1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-1について検討する。
甲B1発明におけるホイップクリームにおいて、リン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量については何ら記載されていないし、ホイップクリームであればリン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量が800ppm以上4000ppm以下であるとする技術常識もない。そうすると、相違点2-1は実質的な相違点である。
また、甲B1及び他の証拠をみても、甲B1発明において、リン脂質をポリグリセリン縮合リシノレインとの合計で800ppm以上4000ppm以下の範囲内に変更する動機付けとなる記載はない。
そして、本件特許発明2は、ホイップドクリームにポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有させることにより、ホイップドクリームを口に含んだ後の風味の持続性が向上する(【0007】)こと、ホイップクリームに含まれるリン脂質とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとの合計含有量が上記範囲程度であると、ホイップクリームを起泡化しやすい(【0020】)という、甲B1及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測できる範囲を超える顕著な効果を奏するものである。
してみれば、甲B1発明において、リン脂質とポリグリセリン縮合リシノレインとの合計量を調整して相違点2-1に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者においても容易に相当し得たこととは言えない。
よって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲B1発明であるとはいえないし、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明3~5について
本件特許発明3及び4は、請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるであるから、本件特許発明2と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明5は、請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するホイップクリームまたはホイップドクリームを含む飲食品であるから、本件特許発明2と同様に、甲B1発明ではないし、また、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明6について
甲B1には、「ホイップクリームまたはホイップドクリームの口に含んだ後の、乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味を持続する」という技術的思想は記載されていないから、甲B1に記載された事項から、本件特許発明6の「乳風味、バニラ風味、カスタード風味から選ばれる1種以上の風味を持続する方法」に対応する発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明6は、甲B1に記載された発明であるとはいえないし、甲B1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)取消理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許発明2、5及び6は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明2~6は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項2~6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2の理由では取り消すことはできない。
3 申立理由B2(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明2~5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、上記第3のとおり、本件特許発明6は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許発明1~6は、「ホイップクリームまたはホイップドクリーム」において、「油脂および210~650質量ppmのポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する、水中油型である」こと、「前記油脂100質量部に対して前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.050~0.16質量部含」むこと、「pHが5.5~7.5である」ことを特定したものであり、ホイップクリームまたはホイップドクリームについては発明の詳細な説明の【0012】~【0013】に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及び油脂の材料や含有量については【0014】~【0017】および【0021】~【0022】に、pHについては【0025】に、製造方法については【0027】~【0031】に、それぞれ説明ないし定義されており、これらの記載にしたがえば、乳風味、バニラ風味、カスタード風味などの風味の持続性が良好であることも記載されている。
また、【0033】~【0051】には、26例からなる対照例及び具体例が挙げられており、当業者はその具体的態様についても理解することができる。
してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~6を実施できる程度に記載されているものと認識できる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人Bは、上記第4 2(2)の主張をするが、本件発明の詳細な説明には、上記イのとおり、本件特許発明2~6を実施できる程度の記載がされているし、本件特許発明2~6を実施し得ないとする具体的な証拠を挙げるものではない。
また、特許異議申立人Bは、令和 6年 4月 4日提出の意見書において、「本特許明細書の実施例に記載されているリン脂質(例10~14で1200ppm、例24、26で2000ppm)とポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとの合計含有量は、例10:5400ppm、例11:2040ppm、例12:1620ppm、例13:1410ppm、例14:1242、例24:2610ppm、例26:2440ppmだけであり、合計含有量が1242ppm未満の場合の効果は確認されておらず、また風味の持続性が確認されているのはバニラ風味だけであり、これ以外の乳風味、カスタード風味についての風味持続性は確認されていません。 このように、訂正後の請求項2及び請求項6の発明は、明細書の記載に基づいて当業者が容易に実施することができるものといえません。」と主張しているが、当該主張についても、実施し得ないとする具体的な証拠を挙げるものではない。
したがって、各主張はいずれも、上記イの判断に影響するものではない。
エ 申立理由B2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項2~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、申立理由B2の理由では本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項2~6に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人A及びBによる請求項1に係る特許異議の申立ては申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700946