特許異議申立
2023-700929
電気車両用途およびハイブリッド車両用途のための潤滑剤
- 審判番号
- 2023-700929
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-171346
- 登録番号
- 7234451
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2025年03月27日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アフトン・ケミカル・コーポレーション
- 【権利者代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】石原 俊秀
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 関根 裕
- 審判官 長谷川 真一
- 分類
- P1651.121-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第44条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234451号発明「電気車両用途およびハイブリッド車両用途のための潤滑剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234451号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~11〕、〔12~17〕について訂正することを認める。
特許第7234451号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234451号に係る特許(以下「本件特許」という。)は、2020年(令和2年)7月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年7月12日(以下「本件優先日」という。) 米国)を国際出願日とする特願2022-500641号の一部を、特許法第44条第2項の規定により、令和4年10月26日に新たな特許出願としたものであって、令和5年2月27日に特許権の設定登録がされ(請求項の数17)、同年3月7日に特許掲載公報が発行された。その後の特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。
令和5年 9月 7日 特許異議申立人 石原 俊秀(以下「申立
人」という。)による全請求項に係る特許に
対する特許異議の申立て
同年12月28日付け 取消理由通知書(発送は、令和6年1月5
日)
令和6年 4月 3日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月16日付け 訂正請求があった旨の通知書(発送は、4月
18日)
同年 5月16日 意見書(申立人)
同年 9月24日 取消理由通知書(決定の予告)(発送は、9
月30日)
同年12月25日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
令和7年 1月16日付け 訂正請求があった旨の通知書(発送は、1月
22日)
同年 2月19日 意見書(申立人)
なお、令和6年4月3日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年12月25日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、次の訂正事項1~11からなるものである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「前記基油成分が、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、」のあとに、「ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず」との発明特定事項を追加する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~6についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「有効な前記分岐ジエステル成分の量および前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーの量を含む、方法」のあとに、「:
ただし、前記潤滑剤が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化2】
[図:0001424549000001.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化3】
[図:0001424549000002.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す」との発明特定事項を追加する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~6についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7における「潤滑組成物」との記載(3カ所)を、「潤滑剤」に訂正する。(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~11についても同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「(i)APIのグループI~グループVの油から選択される1つ以上の基油」と記載されているのを、「(i)基油成分」に訂正し、さらに、「(ii)50,000g/モル以下の重量平均分子量を有するコポリマー粘度指数向上剤を含み、」のあとに、「前記基油成分は、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず、」との発明特定事項を追加する。(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~11についても同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「分岐ジエステル」と記載され(3カ所)、請求項8に「分岐ジエステル」と記載され、及び請求項9に「分岐ジエステル」と記載されているのを、「分岐ジエステル成分」に訂正する。(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~11についても同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7の「有効な前記分岐ジエステル成分の量および前記コポリマー粘度指数向上剤の量を含む」のあとに、「:
ただし、前記潤滑剤が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化5】
[図:0001424549000003.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化6】
[図:0001424549000004.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す」との発明特定事項を追加する。(請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~11についても同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項12に「分岐ジエステルとブレンドされた1つ以上のAPIのグループI~グループVの基油」と記載されているのを、「分岐ジエステルとブレンドされた基油成分」に訂正し、さらに「C8~C10の分岐アルキル鎖を含む;
さらに、」のあとに、「前記基油成分は、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず」との発明特定事項を追加する。(請求項12の記載を直接又は間接的に引用する請求項13~17についても同様に訂正する。)
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に「分岐ジエステル」と記載され(2カ所)、請求項13に「分岐ジエステル」と記載され、及び請求項14に「分岐ジエステル」と記載されているのを、「分岐ジエステル成分」に訂正する。(請求項12の記載を直接又は間接的に引用する請求項13~17についても同様に訂正する。)
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12の「有効な前記溶媒系中の前記分岐ジエステル成分の量および前記コポリマー粘度指数向上剤の量を含む」のあとに、「:
ただし、前記潤滑組成物が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑組成物全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化8】
[図:0001424549000005.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化9】
[図:0001424549000006.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す」との発明特定事項を追加する。(請求項12の記載を直接又は間接的に引用する請求項13~17についても同様に訂正する。)
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項15に「エステル対コポリマーの重量比が」と記載されているのを、「分岐ジエステル成分対コポリマーの重量比(前記分岐ジエステル成分の量/前記コポリマー粘度指数向上剤の量)が」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15に「前記コポリマーが」と記載されているのを、「前記コポリマー粘度指数向上剤が」に訂正する。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~17において、請求項2~6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~6は一群の請求項である。
同様に、請求項8~11は、請求項7を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項3~6によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項7~11は一群の請求項であり、請求項13~17は、請求項12を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項7~9によって記載が訂正される請求項12に連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項12~17は一群の請求項である。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1、4及び7
ア 訂正の目的
訂正事項1、4及び7は、取消理由通知(決定の予告)で指摘した「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」が、「式Iの構造」を有する特定の「分岐ジエステル成分」のみからなる溶媒系である場合も含むのか否かが判然としない。」との指摘に対処し、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項1、4及び7は、特許請求の範囲に記載された「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」が、「式Iの構造」を有する特定の「分岐ジエステル成分」のみからなる溶媒系を含まないことを明らかにするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1、4及び7は、特許請求の範囲に記載された「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」が、「式Iの構造」を有する特定の「分岐ジエステル成分」のみからなる溶媒系を含まないことを明らかにするものであって、新たな技術事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2、6及び9
訂正事項2、6及び9は、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、本件特許発明の範囲から、後記第4の3(1)の甲2に記載された発明を除外するために、「前記潤滑剤」又は「前記潤滑組成物」が、「一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合」を除くことで、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合し、同様に、新たな技術事項を導入しないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項7に「潤滑組成物」と記載されているのを、「潤滑剤」に訂正して、一群の請求項の関係にある請求項7~11において、潤滑剤の表記を統一することで、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び同第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項5及び8
訂正事項5及び8は、特許請求の範囲に「分岐ジエステル」と記載されているのを、「分岐ジエステル成分」に訂正して、分岐ジエステル成分の表記を統一することで、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び同第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項10
訂正事項10は、請求項15に「エステル対コポリマーの重量比が」と記載されているのを、「分岐ジエステル成分対コポリマーの重量比(前記分岐ジエステル成分の量/前記コポリマー粘度指数向上剤の量)が」に訂正することで、文章として明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び同第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項11
訂正事項11は、請求項15に「前記コポリマーが」と記載されているのを、「前記コポリマー粘度指数向上剤が」に訂正して、コポリマー粘度指数向上剤の表記を統一することで、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び同第6項の規定に適合するものである。
4 独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~11〕、〔12~17〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~17に係る発明(以下項番順に「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑するための方法であって、
電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑剤で潤滑することを含み、
前記潤滑剤が、ポリ(メタ)アクリレートコポリマーと、分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系と、を含み、
前記分岐ジエステル成分が、式Iの構造を有し、
【化1】
[図:0001424549000007.jpg]
式中、
R1は、nが6~10の整数である、n-2個の炭素を有する炭素鎖であり、
R2およびR3は、同一であるか、または異なり、C8~C10の分岐アルキル鎖を含み、
前記基油成分が、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず、
前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、50,000g/モル以下の重量平均分子量を有し、ならびに
前記潤滑剤が、ASTM D2624-15に従って75℃で測定された80,000pS/m以下の電気伝導率、およびASTM D7896-14に従って80℃で測定された134mW/m*K以上の熱伝導率を達成するのに有効な前記分岐ジエステル成分の量および前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーの量を含む、方法:
ただし、前記潤滑剤が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化2】
[図:0001424549000008.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化3】
[図:0001424549000009.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す。
【請求項2】
前記分岐ジエステル成分が、6~10個の炭素の内部炭素鎖長を有する1つ以上のジカルボン酸と、6~12個の炭素の分岐炭素鎖長を有する1つ以上のアルコールとの反応生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒系が、10~50重量パーセントの前記分岐ジエステル成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分岐ジエステル成分が、ビス(6-メチルヘプチル)ヘキサンジオエート、ビス(8-メチルノニル)ヘキサンジオエート、ビス(2-エチルヘキシル)デカンジオエート、ビス(2-エチルヘキシル)ヘキサンジオエート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、少なくともC1~C4の直鎖もしくは分岐のアルキル(メタ)アクリレートモノマー単位およびC12~C20の直鎖もしくは分岐のアルキル(メタ)アクリレートモノマー単位に由来するものであり、10,000~50,000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、前記C1~C4の直鎖もしくは分岐のアルキル(メタ)アクリレートに由来する5~50モルパーセントのモノマー単位、および前記C12~C20の直鎖もしくは分岐のアルキル(メタ)アクリレートに由来する50~95モルパーセントのモノマー単位を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
電気車両またはハイブリッド電気車両のための変速機および潤滑剤であって、
電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機と、
前記電気モータまたは前記ハイブリッド電気モータの少なくとも一部分と接触している前記変速機の潤滑剤と、を含む変速機および潤滑剤:
ここで、前記潤滑剤は、(i)基油成分と分岐ジエステル成分とのブレンドを有する溶媒系、および(ii)50,000g/モル以下の重量平均分子量を有するコポリマー粘度指数向上剤を含み、
前記基油成分は、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず、
前記分岐ジエステル成分は、式Iの構造を有し、
【化4】
[図:0001424549000010.jpg]
式中、
R1は、nが6~10の整数である、n-2個の炭素を有する炭素鎖であり、
R2およびR3は、同一であるか、または異なり、C8~C10の分岐アルキル鎖を含み、
前記潤滑剤は、ASTM D2624-15に従って75℃で測定された80,000pS/m以下の電気伝導率、およびASTM D7896-14に従って80℃で測定された134mW/m*K以上の熱伝導率を達成するのに有効な前記分岐ジエステル成分の量および前記コポリマー粘度指数向上剤の量を含む:
ただし、前記潤滑剤が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化5】
[図:0001424549000011.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化6】
[図:0001424549000012.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す。
【請求項8】
前記溶媒系が、10~50重量パーセントの前記分岐ジエステル成分を含む、請求項7に記載の変速機および潤滑剤。
【請求項9】
前記分岐ジエステル成分が、ビス(6-メチルヘプチル)ヘキサンジオエート、ビス(8-メチルノニル)ヘキサンジオエート、ビス(2-エチルヘキシル)デカンジオエート、ビス(2-エチルヘキシル)ヘキサンジオエート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項7に記載の変速機および潤滑剤。
【請求項10】
前記コポリマー粘度指数向上剤が、C1~C4の直鎖もしくは分岐の短鎖アルキル(メタ)アクリレートおよびC12~C20の直鎖もしくは分岐の長鎖アルキル(メタ)アクリレートに由来するモノマー単位を含み、10,000~50,000g/モルの重量平均分子量を有する、請求項7に記載の変速機および潤滑剤。
【請求項11】
前記コポリマー粘度指数向上剤が、前記短鎖(メタ)アクリレートに由来する5~50モルパーセントのモノマー単位、および前記長鎖(メタ)アクリレートに由来する50~95モルパーセントのモノマー単位を有する、請求項10に記載の変速機および潤滑剤。
【請求項12】
電気モータまたはハイブリッド電気モータのための潤滑組成物であって、
式Iの構造を有する分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系と、
50,000g/モル以下の重量平均分子量を有するコポリマー粘度指数向上剤と、を含む潤滑組成物:
【化7】
[図:0001424549000013.jpg]
式中、
R1は、nが6~10の整数である、n-2個の炭素を有する炭素鎖であり、
R2およびR3は、同一であるか、または異なり、C8~C10の分岐アルキル鎖を含む;
さらに、前記基油成分は、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含み、ただし、前記基油成分が、ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず、
前記潤滑組成物は、ASTM D2624-15に従って75℃で測定された80,000pS/m以下の電気伝導率、およびASTM D7896-14に従って80℃で測定された134mW/m*K以上の熱伝導率を同時に達成するのに有効な前記溶媒系中の前記分岐ジエステル成分の量および前記コポリマー粘度指数向上剤の量を含む:
ただし、前記潤滑組成物が、一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑組成物全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く;
【化8】
[図:0001424549000014.jpg]
一般式(P1)において、X11、X12及びX13は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R11、R12及びR13は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示し、
【化9】
[図:0001424549000015.jpg]
一般式(P2)において、X14、X15、X16及びX17は、それぞれ個別に酸素原子(X14、X15及びX16の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R14、R15及びR16は、少なくとも1つが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す。
【請求項13】
前記溶媒系が、10~50重量パーセントの前記分岐ジエステル成分を含む、請求項12に記載の潤滑組成物。
【請求項14】
前記潤滑組成物が、オイルフリー基準で、5~40重量パーセントの前記分岐ジエステル成分、および8~15重量パーセントの前記コポリマー粘度指数向上剤を含む、請求項12に記載の潤滑組成物。
【請求項15】
前記潤滑組成物中の分岐ジエステル成分対コポリマーの重量比(前記分岐ジエステル成分の量/前記コポリマー粘度指数向上剤の量)が、前記コポリマー粘度指数向上剤がオイルフリー基準で測定されたときに、1.4~5.0である、請求項12に記載の潤滑組成物。
【請求項16】
前記コポリマー粘度指数向上剤が、C1~C4の短鎖の直鎖もしくは分岐アルキル(メタ)アクリレート、およびC12~C20の長鎖の直鎖もしくは分岐アルキル(メタ)アクリレートに由来する、請求項12に記載の潤滑組成物。
【請求項17】
前記コポリマー粘度指数向上剤が、1~3の多分散指数を有する、請求項16に記載の潤滑組成物。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要等
1 申立人は、後記2の特許異議申立の理由を主張し、後記3(1)の甲1号証~甲6号証(以下番号順に「甲1」等ともいう。)を提出した。
これに対し、特許権者は、令和6年4月4日の意見書とともに、後記3(2)の乙1号証及び乙2号証(以下「乙1」及び「乙2」という。)を提出した。
また、申立人は、令和6年5月16日の意見書とともに、後記3(3)の甲7~甲9を提出し、令和7年2月19日の意見書とともに、後記3(4)の甲2’、甲10及び甲11を提出した。
これらの証拠は、甲1-1を除いて、本件優先日前に公衆に利用可能となったものである。
2 申立理由
(1)申立理由1(甲1を主たる引用例とした進歩性欠如)
本件発明1~17は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲2を主たる引用例とした進歩性欠如)
本件発明1~17は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
3 証拠方法
(1)特許異議申立書に添付されたもの
甲1 :国際公開第2018/067902号
甲1-1:特表2019-532150号公報(甲1に対応する日本出願
の公表公報)
甲2 :特開2015-178632号公報
甲3 :特開2012-31359号公報
甲4 :浅井希、「次世代自動車(EV・HEV・PHEV)で変わる
部品・材料と熱管理技術、株式会社技術情報協会、2011年
10月31日第1版第1刷発行、93頁
甲5 :浜口仁、「世界の潤滑油/潤滑油添加剤技術と市場・規格動
向、S&T出版株式会社、2014年9月29日第1版第1刷
発行、63-64頁、91-93頁
甲6 :「高機能潤滑剤の開発と応用」、株式会社シーエムシー、20
01年9月10日普及版第1刷発行、14-15頁
(2)令和6年4月3日の特許権者の意見書に添付されたもの
乙1 :特表2009-529603号公報
乙2 :特開2018-203953号公報
(3)令和6年5月16日の請求人の意見書に添付されたもの
甲7 :田中秀雄、「粘度指数向上剤」、トライボロジスト、第52巻
第11号、2007年、789-792頁
甲8 :松家英彦、「ポリメタクリレートの製法と用途」、トライボロ
ジスト、第45巻第8号、2000年、603-607頁
甲9 :特開平6-184579号公報
(4)令和7年2月19日の申立人の意見書に添付されたもの
甲2’ :特開2012-207083号公報(甲2の原出願の公開公
報)
甲10 :特許・実用新案特許審査基準 第IV部第2章3.3.1
(4)
甲11 :浜口仁、「潤滑油添加剤と合成潤滑油の市場動向と技術動
向」、潤滑経済、2019年2月号、No.647、2~5頁
4 取消理由の概要
(1)令和5年12月28日付けの取消理由通知書で通知した取消理由は、前記2(2)の「申立理由2(甲2を主たる引用例とした進歩性欠如)」である。
(2)また、令和6年9月24日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、当審において発見した「明確性要件違反」(後記第5の1参照)及び前記2(2)の「申立理由2(甲2を主たる引用例とした進歩性欠如)」(後記第5の2参照)である。
5 甲号証及び乙号証の記載
(1)甲1には、次の記載がある。訳として甲1-1を採用し、合議体が、段落番号を甲1に対応させた。
「
[図:0001424549000016.jpg]
[図:0001424549000017.jpg]
[0020] 本開示の潤滑剤組成物は、例えば、電動車両伝動機構の有利な酸化安定性、沈着物制御および腐食抑制、潤滑における性能を含む有利な潤滑剤電気伝導率制御を提供する。電動車両伝動機構は、ドライブライン、トランスミッション、差重機、ギア、ギアトレイン、ギアセット、ギアボックス、ベアリング、ブッシング、軸[前車軸および/または後車軸]、タービン、コンプレッサ、ポンプ、油圧系統、バッテリ、コンデンサ、電気モータ、ドライブモータ、ジェネレータ、AC/DCコンバータ、オルタネータ、トランスフォーマ、運動エネルギーコンバータ、運動エネルギーリカバリシステムなどの1つ以上を含む一実施形態において、単一潤滑剤組成物が電動車両伝動機構で使用される。別の実施形態において、2種以上の潤滑剤組成物、例えば、トランスミッションのための1種の潤滑剤組成物および伝動機構の別の構成部品のための別の潤滑剤組成物が電動車両伝動機構で使用される。電動車両伝動機構システムは、電動車両伝動機構(および伝動機構構成部品)と、そのような使用において使用される潤滑油または作動流体との組合せを含む。」
「
[図:0001424549000018.jpg]
[図:0001424549000019.jpg]
・・・
[図:0001424549000020.jpg]
粘度変性剤
【00178】(粘度指数向上剤(VI向上剤)および粘度向上剤としても知られている)粘度変性剤は、本開示の潤滑油組成物に含まれることが可能である。
【00179】粘度変性剤は、高温および低温実施可能性を潤滑油に提供する。これら添加剤は、高温において剪断安定性を付与し、かつ低温において許容範囲内の粘度を付与する。
【00180】適切な粘度変性剤としては、高分子量炭化水素、ポリエステル、および粘度変性剤および分散剤の両方として作用する粘度変性剤分散剤が含まれる。これらのポリマーの典型的な分子量は、約10,000~1,500,000、より典型的に約20,000~1,200,000、さらにより典型的に約50,000~1,000,000である。
【00181】適切な粘度変性剤の例は、リレート、ブタジエン、オレフィンまたはアルキル化スチレンの線形または星形ポリマーおよびコポリマーである。ポリイソブチレンは、一般的に使用される粘度変性剤である。別の適切な粘度変性剤は、そのいくつかの組成物が流動点抑制剤としても機能するポリメタクリレート(例えば、種々の鎖長のアルキルメタクリレートのコポリマー)である。他の適切な粘度変性剤としては、エチレンおよびプロピレンのコポリマー、スチレンおよびイソプレンの水素化ブロックコポリマーおよびポリアクリレート(例えば、種々の鎖長のアクリレートのコポリマー)が含まれる。具体的な例としては、50,000~200,000の分子量のスチレン-イソプレンまたはスチレン-ブタジエンベースのポリマーが含まれる。
・・・
【00183】
ポリメタクリレートまたはポリアクリレートポリマーは、Evnoik Industriesから「Viscoplex(登録商標)」の商標名(例えば、「Viscoplex 6-954」)で入手可能である線形ポリマー、またはLubrizo Corporationから「designation Asteric(商標)」の商標名(例えば、Lubrizol 87708およびLubrizol 87725)で入手可能である星形ポリマーであることが可能である。」
「
[図:0001424549000021.jpg]
[図:0001424549000022.jpg]
[図:0001424549000023.jpg]
[図:0001424549000024.jpg]
・・・
[図:0001424549000025.jpg]
[図:0001424549000026.jpg]
【00226】潤滑油組成物が上記添加剤の1種以上を含有する場合、添加剤は、それがその意図された機能を実行するために十分な量で組成物中にブレンドされる。本開示において有用なそのような添加剤の典型的な量を以下の表1に示す。
【00227】多くの添加剤は、特定の量のベース油希釈剤と一緒に、1種以上の添加剤を一緒に含有する濃縮物として、添加剤製造業者から出荷されることは留意される。したがって、以下の表中の重量、ならびに本明細書に記載された他の量は、(成分の非希釈剤部分である)有効成分の量に関する。以下に示される重量%(wt%)は、潤滑油組成物の全重量に基づくものである。
[図:0001424549000027.jpg]
【00228】上記添加剤は、全て商業的に入手可能な材料である。これらの添加剤は、独立して添加され得るが、通常、潤滑油添加剤の供給元から入手可能であるパッケージ中で事前に組み合わされている。様々な成分、特性および特徴を有する添加剤パッケージが入手可能であり、かつ適切なパッケージの選択は、根本的な組成物の必要な用途を考慮に入れるであろう。
【00229】次の非限定的な例は、本開示を例示するために提供される。
実施例
【00230】潤滑油組成物は、本明細書に記載の通り調製された。
【00231】比較組成物において使用される添加剤パッケージ(表2)は、有効量の1種以上の添加剤を含んでいた。組成物において使用される添加剤は、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、抗摩耗剤、腐食抑制剤、粘度変性剤および金属受動態化剤の1種以上であった。任意選択的な添加剤は、流動点抑制剤、金属不活性化剤、シール適合性添加剤、消泡剤、極圧剤および摩擦変性剤の1種以上であった。本明細書において開示される本発明の実施例に関して、本発明の実施例組成物は、それぞれの表中にリストされた比較油によって識別される添加剤パッケージを使用した。適切な比較油組成物は、表2に記載される。
[図:0001424549000028.jpg]
【00232】電動車両伝動機構のための潤滑油は、グループI、グループII、グループIII、グループIV、グループVベース油およびその組合せから選択される少なくとも1種の潤滑油ベースストックと、酸化防止剤、清浄剤、分散剤、抗摩耗添加剤、腐食抑制剤、粘度変性剤、金属受動態化剤、流動点降下剤、金属不活性剤、シール適合性添加剤、消泡剤、極圧剤、摩擦変性剤、他の性能添加剤およびその組合せから選択される1種以上の潤滑油添加剤とをブレンドすることによって調製された。
【00233】これらの実施例に含まれる伝導性剤を表Aにリストする。
[図:0001424549000029.jpg]
・・・
【00243】潤滑油組成物の電気的特性に対する他の添加剤の影響は、表8aにリストされ、ホウ酸化分散剤(Disp-4、実施例8.1)、サリチレート清浄剤(Det-1およびDet-2、実施例8.2および8.3)、スルホネート清浄剤(Det-3、実施例8.4および8.5)ならびにスルホネート清浄剤およびZDDP抗摩耗の組合せ(Det-3およびZDDP-1、実施例8.6)の影響を例示する。エステルベースストックなどの極性流体の使用(実施例8.7および8.8)は、潤滑剤組成物の誘電率に対する特定の制御を例示し、したがって、本開示に記載される伝導率対誘電率の比率に対する追加的な制御を提供する。さらに、極性ベースストックおよび他の伝導性剤の組合せにより、標的とされる伝導率対誘電率の所望の比率を得るための追加的制御が与えられる。表8aのこれらの実施例の中でも、実施例8.1、8.2、8.4、8.7および8.8は、約1,000未満の伝導率対誘電率の比率を有し、したがって電池充電ドレネージに対して改善された保護に関する性能を有した。実施例8.3、8.5および8.6は、約1,000以上の伝導率対誘電率の比率を有し、したがって放電を生じることに対する改善された保護に関する性能を有した。追加的な例示的実施例は表8bにリストされる。
[図:0001424549000030.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油に、(B)一般式(1)または一般式(2)で表される少なくともひとつの水酸基を持ち、かつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物、およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を組成物全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下配合し(ただし、中性リン系化合物は配合しない)、(C)窒素を含む官能基を分散基とする無灰分散剤を組成物全量基準で窒素量が0.001質量%未満含有するか、あるいはまったく含有せず、(D)粘度指数向上剤を組成物全量基準で2質量%以上15質量%以下含有し、80℃における体積抵抗率が5×108Ω・m以上である、変速機油、燃料電池自動車、電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載される電動モータ用潤滑油、変速機・電動モータ兼用油、又は変速機と電動モータの潤滑システムが共有化された装置用変速機油の用途に使用される潤滑油組成物。
【化1】
[図:0001424549000031.jpg]
(一般式(1)において、X1、X2及びX3は、それぞれ個別に酸素原子を示し、R1、R2及びR3は、少なくともひとつが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す。)
[図:0001424549000032.jpg]
(一般式(2)において、X4、X5、X6及びX7は、それぞれ個別に酸素原子(X4、X5及びX6の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、R4、R5及びR6は、少なくともひとつが水素原子であり、他は炭素数1~16の炭化水素基を示す。)」
「【0001】
本発明は、絶縁性及び潤滑性に優れる潤滑油組成物に関する。」
「【0006】
前述したように変速機にはさまざまな添加剤が使用されるが、これらの添加剤は単独で、あるいは組み合わせで、絶縁性や耐摩耗性、耐焼付性を低下させたりする。本発明は変速機に必要な性能を維持しながら、従来技術より、さらに優れた絶縁性能や耐摩耗性、耐焼付性を向上させた潤滑油組成物を提供することにある。」
「【0010】
本発明における(A)潤滑油基油としては、鉱油系基油および/または合成油系基油が使用でき、また2種類以上の鉱油系基油同志あるいは合成油系基油同志の混合物であっても差し支えなく、鉱油系基油と合成油系基油との混合物であっても差し支えない。そして、上記混合物における2種類以上の基油の混合比は、任意に選ぶことができる。
・・・
【0015】
本発明の潤滑油組成物における(A)潤滑油基油は、100℃における動粘度が1.5~4.5mm2/sに調整してなる潤滑油基油であることが好ましい。
(A)成分としては、具体的には以下の(A-a)~(A-c)から選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。
(A-a)100℃における動粘度が1.5~3.5mm2/s未満、好ましくは1.9~3.2mm2/sの鉱油系基油
(A-b)100℃における動粘度が3.5~7mm2/s未満、好ましくは3.6~4.5mm2/sの鉱油系基油
(A-c)100℃における動粘度が1.5~7mm2/s未満、好ましくは3.8~4.5mm2/sの合成油系基油」
「【0019】
本発明においては、上記(A-a)~(A-c)をそれぞれ単独でも使用することができるが、任意に混合使用することができる。中でも、(A-a)と、(A-b)及び/又は(A-c)を併用することが好ましい。なお、(A-a)成分及び/又は(A-b)成分と(A-c)成分を併用する場合の(A-c)成分の含有量は、基油全量基準で、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。(A-c)成分を配合することで、安価かつ効果的に、疲労寿命、低温特性、酸化安定性に優れた効果を発現することができる。」
「【0021】
(A-c)成分の合成油としては、ポリ-α-オレフィン(1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等)及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルエタン、モノイソプロピルビフェニル、ジメチルシリコーン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、並びにポリフェニルエーテル等の合成系潤滑油及びこれらの混合油等が使用できる。これらのうち、ポリ-α-オレフィン及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アルキルジフェニルエタン、モノイソプロピルビフェニル、ジメチルシリコーン等は80℃における体積抵抗率が1×1013Ω・m以上であり潤滑油組成物の絶縁性能を高めるために好ましく用いることができる。また、エステル系化合物は一般に80℃における体積抵抗率が1×109~1×1013Ω・m程度であり、残存水分や不純物を十分除去したものが好ましい。
なお、本明細書において80℃における体積抵抗率とは、JIS C 2101の24.(体積抵抗率試験)に準拠して測定されたものを示す。」
「【0048】
本発明の潤滑油組成物は、(D)成分として粘度指数向上剤を含有する。
粘度指数向上剤としては、非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレートのほか、非分散型または分散型エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレンおよび構造式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマーとエチレン/プロピレン/スチレン/無水マレイン酸のような不飽和モノマーとの共重合体等の粘度指数向上剤をさらに用いることができる。
【0049】
本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の配合量は、組成物の100℃における動粘度が5~10mm2/s、好ましくは6~9mm2/s、かつ、組成物の粘度指数が120~270、好ましくは150~250、より好ましくは170~220となるような量であり、より具体的には、その配合量は、組成物全量基準で15質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、2質量%以上、好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。15質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、2質量%未満で十分な組成物粘度を確保できない。」
「【0065】
(実施例1~5、比較例1~5)
表2に示す組成に従い、本発明に係る潤滑油組成物(実施例1~5)および比較のための潤滑油組成物(比較例1~5)を調製した。これらの組成物につき性能評価試験を行い、その結果も表2に示した。
【0066】
【表2】
[図:0001424549000033.jpg]
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の潤滑油組成物は、焼付き防止性能に優れ、かつ絶縁性能に優れた組成物であり、電気自動車又はハイブリッド車等の電動モータ装着車における潤滑油、電動モータ油、変速機・電動モータ兼用油、又は変速機と電動モータがパッケージ化された、すなわち、変速機と電動モータの潤滑システムが共有化された装置用油等の用途に使用することができる。
また、本発明は、本発明の潤滑油組成物を含む上記変速機、電動モータ、装置、あるいは本発明の潤滑油組成物を用いることによる、上記変速機、電動モータ、装置の潤滑方法、絶縁方法、冷却方法を提供することができる。」
(3)甲3は、脂肪族ジエステルの熱伝導率に関する文献であるため、摘記を省略する。
(4)甲4は、ハイブリッド車等において、モーター近傍に潤滑が必要な機械要素を持つ場合には、その潤滑油でモーターを直接冷却可能な油冷が有利であることを示す文献であるため、摘記を省略する。
(5)甲5には、次の記載がある。
91頁下5行~92頁8行、図4-17及び図4-18
「
[図:0001424549000034.jpg]
[図:0001424549000035.jpg]
[図:0001424549000036.jpg]
[図:0001424549000037.jpg]
」
(6)甲6は、ジエステルの性状を示す文献であるため、摘記を省略する。
(7)甲7には、次の記載がある。
ア 789頁左欄最終行~790頁左欄1行
「
[図:0001424549000038.jpg]
[図:0001424549000039.jpg]
[図:0001424549000040.jpg]
」
イ 790頁左欄2行~最終行
「
[図:0001424549000041.jpg]
」
ウ 792頁左欄下2行~右欄下4行
「
[図:0001424549000042.jpg]
[図:0001424549000043.jpg]
」
(8)甲8には、次の記載がある。
ア 603頁左欄1行~605頁左欄3行
「
[図:0001424549000044.jpg]
・・・
[図:0001424549000045.jpg]
・・・
[図:0001424549000046.jpg]
[図:0001424549000047.jpg]
[図:0001424549000048.jpg]
[図:0001424549000049.jpg]
」
イ 605頁左欄下9行~最終行
「
[図:0001424549000050.jpg]
」
(9)甲9には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 炭素数1~24のアルキル基を有する(メタ)アクリレート単量体(A)が97~92重量%、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート単量体(B)が3~8重量%からなる共重合体(1)であることを特徴とする駆動系潤滑油用粘度指数向上剤。
【請求項2】 重合体(1)中で、単量体(A)のうちの炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリレート単量体(a)単位の量が0~30重量%であり、炭素数8~20のアルキル基を有する(メタ)アクリレート単量体(b)単位の量が97~62重量%である請求項1記載の向上剤。
【請求項3】 重合体(1)中で、(a)単位の量が10~20重量%、(b)単位の量が86~74重量%、(B)単位の量が4~6重量%である請求項1または2記載の向上剤。
【請求項4】 重合体(1)が、さらにN-ビニルピロリドン及び/またはモルフォリノアルキル(メタ)アクリレート(C)単位を、重合体(1)の量に基づき0~7重量%含有する請求項1~3のいずれか記載の向上剤。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車用の駆動系潤滑油に用いられる粘度指数向上剤に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車の小型化、高出力化にともないオートマチックトランスミッション油やマニュアルトランスミッション油などの駆動系潤滑油は、熱的に厳しい条件に曝され、スラッジ等が発生し易い条件になっている。このため、これらに用いられる粘度指数向上剤にも抗酸化性やスラッジを分散させる効果を付与することが望まれている。粘度指数向上剤に抗酸化性やスラッジを分散させる機能をもたせることは、エンジン油を中心に、種々の方法が公知となっているが、これらの方法は、必ずしも駆動系潤滑油に用いた場合十分な効果を発揮しない。なぜならば、本用途に用いられる粘度指数向上剤と種々の添加剤との組合せがエンジン油とは異なるためである。このようなことから、近年、駆動系潤滑油を対象にした分散性を有する粘度指数向上剤の特許が提案されており、例えば、特開平4-211498号公報には特定の(メタ)アクリルアミド類と特定の(メタ)アクリレートとの共重合体がこの目的に合うものとしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、近年、自動車の小型化、高出力化に伴い駆動系潤滑油の使用条件が一層苛酷になり、さらに十分なる抗酸化性、スラッジ分散性が求められてきている。」
「【0016】実施例1
攪はん機、温度計、コンデンサーを付けたガラス製の1リッター反応器に、鉱物油を150g入れ、窒素にて反応器中の空気を置換した後、70℃に温度を上げ少量の窒素を流しつつ、メチルメタクリレート70g、ジメチルアミノエチルメタクリレート18g、ラウリルメタクリレート250g、オクタデシルメタクリレート23g、アゾビスイソブチロニトリル1.7g、ラウリルメルカプタン2.0gの混合物を同温度で2時間で滴下し重合した。その後、重合を完結させるために温度を100℃まで上げさらに3時間重合し、分子量4万の共重合体溶液を得た。」
(10)乙1は、ポリメタクリレートに、ホモポリマーとコポリマーが存在する(ポリメタクリレートは、コポリマーとは限らない)ことを示すものであり、乙2は、非分散型のポリ(メタ)アクリレート系のポリマーは、ポリマーの側鎖に、水酸基などの極性基を有しないものであることを示すものなので、摘記を省略する。
(11)甲2’(甲2の原出願)には、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)潤滑油基油に、(B)少なくともひとつの水酸基及び/又はチオール基を持つリン化合物から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を配合し、(C)窒素を含む官能基を分散基とする無灰分散剤を組成物全量基準で窒素量が0.001質量%未満含有するか、あるいはまったく含有せず、80℃における体積抵抗率が5×108Ω・m以上である潤滑油組成物。」
「【0026】
本発明の潤滑油組成物は、(B)少なくともひとつの水酸基及び/又はチオール基を持つリン化合物から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を含有する。
【0027】
本発明における(B)リン化合物として挙げられる例は、一般式(1)で表されるリン化合物、または一般式(2)で表されるリン化合物、それらのアミン塩あるいはこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0028】
【化1】
[図:0001424549000051.jpg]
【0029】
一般式(1)において、X1、X2及びX3は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、そのうち少なくともひとつが酸素であることが好ましく、R1、R2及びR3は、少なくともひとつが水素原子であり、他は炭素数1~30の炭化水素基を示す。
【0030】
【化2】
[図:0001424549000052.jpg]
【0031】
一般式(2)において、X4、X5、X6及びX7は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子(X4、X5及びX6の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。)を示し、そのうち少なくともひとつが酸素であることが好ましく、R4、R5及びR6は、少なくともひとつが水素原子であり、他は炭素数1~30の炭化水素基を示す。
【0032】
上記R1~R6で表される炭素数1~30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができ、炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~24のアリール基であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数3~18、さらに好ましくは炭素数4~12のアルキル基である。
【0033】
一般式(1)で表されるリン化合物としては、例えば、以下のリン化合物を挙げることができる。
亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸;上記炭素数1~30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、トリチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1~30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、トリチオ亜リン酸ジエステル;及びこれらの混合物。
【0034】
本発明においては、高温清浄性や酸化安定性などの性能をより高めるために、一般式(1)のX1~X3は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。
【0035】
一般式(2)で表されるリン化合物としては、例えば、以下のリン化合物を挙げることができる。
リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸;上記炭素数1~30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、トリチオリン酸モノエステル、テトラチオリン酸モノエステル;上記炭素数1~30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、トリチオリン酸ジエステル、テトラチオリン酸ジエステル;上記炭素数1~30の炭化水素基を1~2つ有するホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル;炭素数1~4の(ポリ)オキシアルキレン基を有する上記リン化合物;β-ジチオホスホリル化プロピオン酸やジチオリン酸とオレフィンシクロペンタジエン又は(メチル)メタクリル酸との反応物等の上記リン化合物の誘導体;及びこれらの混合物。
【0036】
本発明においては、高温清浄性や酸化安定性などの性能をより高めるために、一般式(2)のX4~X7は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、3つ以上が酸素原子であることがさらに好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。なお、これらX4、X5及びX6の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。」
(12)甲10には、次の記載がある。
「引用発明と技術思想としては顕著に異なる発明でない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶理由が解消されることはほとんどないと考えられる。」
(13)甲11の3~4頁には、次の記載がある。
「
[図:0001424549000053.jpg]
[図:0001424549000054.jpg]
」
第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(明確性要件違反)
本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」が、「式Iの構造」を有する特定の「分岐ジエステル成分」のみからなる溶媒系を含むのか否かが明らかでなかった。
しかしながら、本件訂正により、「基油成分」が、「ジエステルを含有するグループVの基油を含む場合、グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず」との特定がされ、基油成分は「分岐ジエステル」を含まないものとなったから、特許請求の範囲に記載された「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」が、「式Iの構造」を有する特定の「分岐ジエステル成分」のみからなる溶媒系を含まないことが明確となった。また、他に特許請求の範囲が不明確となるような記載は見当たらない。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
2 取消理由2(甲2を主たる引用例とする進歩性違反)
(1)甲2に記載された発明
甲2の請求項1には、変速機油、燃料電池自動車、電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載される電動モータ用潤滑油、変速機・電動モータ兼用油、又は変速機と電動モータの潤滑システムが共有化された装置用変速機油の用途に使用される潤滑油組成物が記載されており、同段落【0065】、【0066】の【表2】の実施例4には、A-3 基油3として、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシルを基油全量基準で100質量%、B-1 油溶性リン系添加剤1として、酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン)を組成物全量基準で0.1質量%、D-1 粘度指数向上剤として、非分散型PMA Mw25,000を組成物全量基準で17質量%、D-1 添加剤PKGとして、Ca系金属洗浄剤、金属不活性化剤、酸化防止剤及び消泡剤を含むものを組成物全量基準で2.5質量%とからなり、体積抵抗率が0.06×1010Ω・m(JIS C2101に準拠。測定温度:80℃)である潤滑油組成物が記載されている。
また、同段落【0067】には、「本発明は、本発明の潤滑油組成物を含む上記変速機、電動モータ、装置・・・を提供することができる。」と記載されている。
そうすると、甲2には、次の発明(以下「甲2A発明」、「甲2B発明」、「甲2C発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2A発明)
「電気自動車又はハイブリッド車等の電動モータ装着車における変速機の潤滑方法であって、
基油全量基準で100質量%のアゼライン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる基油と、
組成物全量基準で0.1質量%の油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))と、
組成物全量基準で17質量%のMw25,000である非分散型PMAからなる粘度指数向上剤と、
組成物全量基準で2.5質量%の添加剤PKG(Ca系金属洗浄剤、金属不活性化剤、酸化防止剤、消泡剤を含む。)からなり、
体積抵抗率が0.06×1010Ω・m(JIS C2101に準拠。測定温度:80℃)である、潤滑油組成物で潤滑する方法。」
(甲2B発明)
「電気自動車又はハイブリッド車等の電動モータ装着車における変速機及び潤滑剤であって、
潤滑剤は、基油全量基準で100質量%のアゼライン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる基油と、
組成物全量基準で0.1質量%の油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))と、
組成物全量基準で17質量%のMw25,000である非分散型PMAからなる粘度指数向上剤と、
組成物全量基準で2.5質量%の添加剤PKG(Ca系金属洗浄剤、金属不活性化剤、酸化防止剤、消泡剤を含む。)からなり、
体積抵抗率が0.06×1010Ω・m(JIS C2101に準拠。測定温度:80℃)である、変速機及び潤滑剤。」
(甲2C発明)
「電気自動車又はハイブリッド車等の電動モータ装着車に用いられる潤滑油組成物であって、
油全量基準で100質量%のアゼライン酸ジ-2-エチルヘキシルからなる基油と、
組成物全量基準で0.1質量%の油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))と、
組成物全量基準で17質量%のMw25,000である非分散型PMAからなる粘度指数向上剤と、
組成物全量基準で2.5質量%の添加剤PKG(Ca系金属洗浄剤、金属不活性化剤、酸化防止剤、消泡剤を含む。)からなり、
体積抵抗率が0.06×1010Ω・m(JIS C2101に準拠。測定温度:80℃)である、潤滑油組成物。」
(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1
(ア)対比
本件訂正発明1と甲2A発明を対比すると、甲2A発明の「電気自動車又はハイブリッド車等の電動モータ装着車における変速機の潤滑方法」は、本件訂正発明1の「電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑するための方法」に相当し、甲2A発明の「潤滑油組成物」は、本件訂正発明1の「潤滑剤」に相当する。
また、甲2A発明の「Mw25,000である非分散型PMAからなる粘度指数向上剤」の「PMA」は、重量平均分子量25,000のポリメタクリレートであるから、本件訂正発明1の「ポリ(メタ)アクリレートコポリマー」とは、「50,000g/モル以下の重量平均分子量を有」する「ポリ(メタ)アクリレートポリマー」である点で共通する。
さらに、甲2A発明の「アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル」は、本件訂正発明1の(式I)において、R1が7個(n=9)の炭素を有する炭素鎖であり、R2、R3がそれぞれC8の分枝アルキル鎖であるジエステルであるから、本件訂正発明1の「(式I)の分枝ジエステル成分(構造式等に係る記載は省略する。)」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑するための方法であって、
電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑剤で潤滑することを含み、
前記潤滑剤が、ポリ(メタ)アクリレートポリマーと、分岐ジエステル成分を含む溶媒系と、を含み、
前記分岐ジエステル成分が、式Iの構造を有し、
[図:0001424549000055.jpg]
式中、
R1は、nが6~10の整数である、n-2個の炭素を有する炭素鎖であり、
R2およびR3は、同一であるか、または異なり、C8~C10の分岐アルキル鎖を含み、
前記ポリ(メタ)アクリレートポリマーが、50,000g/モル以下の重量平均分子量を有する、方法。」
<相違点2A-1>
溶媒系が、本件訂正発明1は「分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系」であり、「前記基油成分が、APIのグループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含」むものであるのに対し、甲2A発明は、分岐ジエステル成分である「アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル」のみからなり、基油成分を含むものではない点。
<相違点2A-2>
ポリ(メタ)アクリレートポリマーが、本件訂正発明1は「コポリマー」であるのに対し、甲2A発明は、コポリマーであるか否かが不明である点。
<相違点2A-3>
潤滑剤の特性について、本件訂正発明1は「前記潤滑剤が、ASTM D2624-15に従って75℃で測定された80,000pS/m以下の電気伝導率、およびASTM D7896-14に従って80℃で測定された134mW/m*K以上の熱伝導率を達成するのに有効な前記分岐時エステル成分の量および前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーの量を含む」のに対し、甲2A発明は、「体積抵抗率が0.06×1010Ω・m(JIS C2101に準拠。測定温度:80℃)である潤滑油組成物」であり、熱伝導率は定かでない点。
<相違点2A-4>
潤滑剤が、本件訂正発明1は、「一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く(以下、一般式(P1)及び一般式(P2)の構造式等に係る記載を省略する。)」ものであるのに対し、甲2A発明は、「一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩であるリン化合物」である「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))」を「組成物全量基準で0.1質量%」含むものである点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2A-4について検討する。
甲2A発明の「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」を「組成物全量基準で0.1質量%」含むことについて、甲2の段落【0026】には「本発明の潤滑油組成物は、(B)成分として特定のリン化合物を含有する。」と記載され、同段落【0027】~【0042】には、特定のリン化合物として、前記「一般式(P1)」及び「一般式(P2)」の化合物が挙げられている。また、前記特定のリン化合物の添加量について、同段落【0043】には「(B)リン化合物の含有量が、リン元素として0.01質量%未満の場合は、摩耗防止性に対して効果が不足する。一方、その含有量が、リン元素として0.1質量%を超える場合では、絶縁性能に劣り、酸化安定性が低下し、またシール材への攻撃性が高まる。」と記載されている。
そうすると、甲2A発明の「組成物全量基準で0.1質量%のB-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」を、前記「一般式(P1)」及び「一般式(P2)」以外の構造のものとしたり、その含有量を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下ではない範囲としたりすることには、阻害要因があるというべきであるから、他の甲号証の記載によらず、甲2A発明を、前記相違点2A-4を満たすように調整することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり、前記相違点2A-1~2A-3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2A発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2~6
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
そうすると、前記アに示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2~6は、甲2A発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件訂正発明7
本件訂正発明7と甲2B発明を対比すると、上記(1)で検討した事項と同様の相当関係があるから、前記アと同様の対比ができるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2B-4>
潤滑剤が、本件訂正発明7は、「一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く」ものであるのに対し、甲2B発明は、「一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩であるリン化合物」である「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))」を「組成物全量基準で0.1質量%」含むものである点。
相違点2B-4について検討すると、前記アで検討したのと同様の理由で、他の甲号証の記載によらず、甲2B発明を、前記相違点2B-4を満たすように調整することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲2B発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件訂正発明8~11
本件訂正発明8~11は、本件訂正発明7に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
そうすると、前記アに示した理由と同様の理由により、本件訂正発明8~11は、前記甲2B発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件訂正発明12
本件訂正発明12と甲2C発明を対比すると、前記アと同様の対比ができるから、両者は少なくとも次の点で相違する。
<相違点2C-4>
潤滑組成物が、本件訂正発明12は、「一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く」ものであるのに対し、甲2C発明は、「一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩であるリン化合物」である「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩(P含有量10%、りん酸エステル:2-エチルヘキシル,アミン:C11~14のミックスアミン))」を「組成物全量基準で0.1質量%」含むものである点。
相違点2C-4について検討すると、前記アで検討したのと同様の理由で、他の甲号証の記載によらず、甲2C発明を、前記相違点2C-4を満たすように調整することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明12は、甲2C発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件訂正発明13~17
本件訂正発明13~17は、本件訂正発明12に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
そうすると、前記アに示した理由と同様の理由により、本件訂正発明13~17は、前記甲2C発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由で通知しなかった申立理由についての当審の判断
1 申立理由1
取消理由で通知しなかった申立理由は、前記第4の2(1)の「申立理由1(甲1を主たる引用例とした進歩性欠如)」である。
2 甲1に記載された発明
甲1(前記第4の5(1)参照)の段落[00243]の「表8a.伝導性剤としての添加剤の影響」の「実施例8.7」に着目し、「実施例8.7」に含まれる「比較8」の成分については、同段落[00231]の「表2.比較油;組成&特性」を参照し、「エステル-1」については、同段落[00233]の「表A.伝導性剤」を参照し、同段落[0020]の記載も参酌すれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「比較8の比較油組成物75重量%と、エステル-1の導電性剤25重量%とからなり、その伝導率が19pS/mである潤滑油組成物を、トランスミッション等の電動車両伝動機構に用いる方法であって、
比較8の比較油組成物は、グループIVの基油94重量%と、グループVの基油5重量%と、添加剤パッケージ1重量%とからなり、
エステル-1は、アゼライン酸ジエチルヘキシルである、
潤滑油組成物を、トランスミッション等の電動車両伝動機構に用いる方法。」
3 対比、判断
(1)本件訂正発明1
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「潤滑油組成物を、トランスミッション等の電動車両伝動機構に用いる方法」は、本件訂正発明1の「電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑するための方法」に相当する。
また、甲1発明の「グループIVの基油」及び「グループVの基油」は、本件訂正発明1の「グループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含」む「基油成分」に相当する。
さらに、甲1発明の「アゼライン酸ジエチルヘキシルである」「エステル-1」は、本件訂正発明1の(式I)において、R1が7個(n=9)の炭素を有する炭素鎖であり、R2、R3がそれぞれC8の分枝アルキル鎖であるジエステルであるから、本件訂正発明1の「(式I)の分枝ジエステル成分(構造式等に係る記載は省略する。)」に相当する。
そして、甲1発明の「アゼライン酸ジエチルヘキシルである」「エステル-1」と、「グループIVの基油」及び「グループVの基油」をあわせたものが本件訂正発明1の「溶媒系」に相当する。
してみると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑するための方法であって、
電気モータまたはハイブリッド電気モータを有する変速機を潤滑剤で潤滑することを含み、
前記潤滑剤が、分岐ジエステル成分とブレンドされた基油成分を含む溶媒系と、を含み、
前記分岐ジエステル成分が、式Iの構造を有し、
[図:0001424549000056.jpg]
式中、
R1は、nが6~10の整数である、n-2個の炭素を有する炭素鎖であり、
R2およびR3は、同一であるか、または異なり、C8~C10の分岐アルキル鎖を含み、
前記基油成分が、グループI~グループVの基油から選択される1つ以上の油を含む、方法。」
<相違点1-1>
本件訂正発明1は「グループVの基油に含有されるジエステルは、分岐ジエステルを含まず」であるのに対し、甲1発明は、「グループVの基油」に、分岐ジエステルが含まれているのか否か明らかでない点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1は「ポリ(メタ)アクリレートコポリマー」を含み、「前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーが、50,000g/モル以下の重量平均分子量を有」するのに対し、甲1発明は、ポリ(メタ)アクリレートコポリマーを含むのか否かが不明である点。
<相違点1-3>
潤滑剤の特性について、本件訂正発明1は「前記潤滑剤が、ASTM D2624-15に従って75℃で測定された80,000pS/m以下の電気伝導率、およびASTM D7896-14に従って80℃で測定された134mW/m*K以上の熱伝導率を達成するのに有効な前記分岐ジエステル成分の量および前記ポリ(メタ)アクリレートコポリマーの量を含む」のに対し、甲1発明は「潤滑剤」の「伝導率が19pS/m」であるが、熱伝導率は定かでない点。
<相違点1-4>
潤滑剤が、本件訂正発明1は「一般式(P1)または一般式(P2)で表される少なくとも1つの水酸基を持ちかつ炭化水素基の炭素数が16以下であるリン化合物およびそれらのアミン塩から選ばれる少なくとも1種類のリン化合物を、潤滑剤全量基準でリン元素換算量として0.01質量%以上0.1質量%以下含む場合を除く」ものであるのに対し、甲1発明は「添加剤パッケージ」を含むものであって、当該「添加剤パッケージ」に、「一般式(P1)または一般式(P2)」で表されるような化合物が、所定量含まれているかどうかは不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。甲1発明の「添加剤パッケージ」について、甲1の段落[00231]には「比較組成物において使用される添加剤パッケージ(表2)は、有効量の1種以上の添加剤を含んでいた。組成物において使用される添加剤は、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、抗摩耗剤、腐食抑制剤、粘度変性剤および金属受動態化剤の1種以上であった。」と記載されるものの、具体的な化合物の種類は不明である。
また、これら添加剤のうちの「粘度変性剤」について、同段落[00181]には「これらのポリマーの典型的な分子量は、約10,000~1,500,000、より典型的に約20,000~1,200,000、さらにより典型的に約50,000~1,000,000である。」と記載され、同段落[00182]には「適切な粘度変性剤の例は、リレート、ブタジエン、オレフィンまたはアルキル化スチレンの線形または星形ポリマーおよびコポリマー・・・ポリイソブチレン・・・ポリメタクリレート(例えば、種々の鎖長のアルキルメタクリレートのコポリマー)・・・、エチレンおよびプロピレンのコポリマー、スチレンおよびイソプレンの水素化ブロックコポリマーおよびポリアクリレート(例えば、種々の鎖長のアクリレートのコポリマー)・・・具体的な例としては、50,000~200,000の分子量のスチレン-イソプレンまたはスチレン-ブタジエンベースのポリマーが含まれる。」と記載されているが、ポリ(メタ)アクリレートコポリマーは、列挙された多数のバリエーションの中の一つでしかなく、その分子量も、典型的には約50,000~1,000,000とされており、これは数平均分子量か重量平均分子量かが記載されていないが、数平均分子量だとすれば、重量平均分子量は、さらに大きな値の範囲となる。
そうすると、甲1発明において、添加剤パッケージに含まれる粘度変性剤として、ポリ(メタ)アクリレートコポリマーを選択し、さらに、その分子量を典型的とはいえない50,000g/モル以下の重量平均分子量とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
また、この「当業者が容易になし得たこととはいえない」との判断は、潤滑剤に添加されるポリ(メタ)アクリレート系の粘度調整剤について、甲2(前記第4の5(2)参照)の段落【0066】の【表2】の「D-1 粘度指数向上剤10)」として「10) 非分散型PMA Mw25,000」が記載され、甲5、甲7~甲9に、ポリ(メタ)アクリレートのコポリマーが記載されていることにより、変化するものではない。
ウ 小括
以上のとおり、前記相違点1-1、相違点1-3及び相違点1-4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1~甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2~6
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1に対して、さらに技術的事項を追加したものである。よって、前記(1)に示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2~6は、前記甲1発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明7
本件訂正発明7と甲1発明を対比すると、前記(1)と同様の対比ができるから、両者は少なくとも、前記(1)の<相違点1-2>において相違する。
しかしながら、相違点1-2は、前記(1)で検討したのと同様の理由で、他の甲号証の記載によらず、甲1発明の添加剤パッケージに含まれる粘度変性剤として、前記相違点1-2を満たすものを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲1発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件訂正発明8~11
本件訂正発明8~11は、本件訂正発明7に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
そうすると、前記(1)に示した理由と同様の理由により、本件訂正発明8~11は、前記甲1発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件訂正発明12
本件訂正発明12と甲1発明を対比すると、前記(1)と同様の対比ができるから、両者は少なくとも、前記(1)の<相違点1-2>において相違する。
しかしながら、相違点1-2は、前記(1)で検討したのと同様の理由で、他の甲号証の記載によらず、甲1発明の添加剤パッケージに含まれる粘度変性剤として、前記相違点1-2を満たすものを採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
してみると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明12は、甲1発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件訂正発明13~17
本件訂正発明13~17は、本件訂正発明12に対して、さらに技術的事項を追加したものである。
そうすると、前記(1)に示した理由と同様の理由により、本件訂正発明13~17は、甲1発明及び甲1~甲11に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 申立人の主張と当審の判断
1 申立人は、令和7年2月19日の意見書において、次の趣旨の主張をしている。
(1)甲2の「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」について、甲2’には、甲2の「(P1)及び(P2)で表される少なくともひとつの水酸基を持つリン化合物」よりも広範な「(P1)及び(P2)で表される少なくともひとつの水酸基及び/又はチオール基を持つリン化合物」が記載されており、本件発明1等の「除くクレームの特定」では、甲2’に記載された、一般式(P1)及び(P2)で表されるリン化合物以外の「少なくともひとつの水酸基及び/又はチオール基を持つリン化合物」を含む態様までは除外しきれていない。
したがって、本件発明1等は、甲2’発明に対して進歩性が欠如している。(13頁下5行~22頁下9行)
(2)変速機の潤滑剤に用いられる添加剤に関する技術常識、甲11の記載及び本件明細書の記載からすると、本件特許の明細書に記載された実施例の「添加剤パッケージ」は、極圧剤や耐摩耗剤として、リン化合物を含有している可能性が高く、本件明細書の【0088】には、除くクレームの特定で除外されている式(P1)で表されるジブチルホスファイトがリン化合物として例示されていることから、除くクレームの特定で除外したリン化合物を含有している可能性も高い。
そうすると、本件実施例には、除くクレームの特定がされた本件発明1等に対応する潤滑剤が記載されていない可能性があり、本件発明の課題を解決し得ることが示されているとは言えない。(24頁下7行~26頁下末行)
2 当審の判断
(1)について、申立人の主張するとおり、甲2’には、甲2の「(P1)及び(P2)で表される少なくともひとつの水酸基を持つリン化合物」よりも広範な「(P1)及び(P2)で表される少なくともひとつの水酸基及び/又はチオール基を持つリン化合物」が記載されている。
そして、発明の認定を、甲2’の段落【0066】の【表2】に示された実施例4に着目して行うと、甲2A発明と同様の甲2’A発明を認定することができる。
しかしながら、甲2’A発明の「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」について、甲2’の段落【0034】の「本発明においては、高温清浄性や酸化安定性などの性能をより高めるために、一般式(1)のX1~X3は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。」との記載や、同段落【0036】の「本発明においては、高温清浄性や酸化安定性などの性能をより高めるために、一般式(2)のX4~X7は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、3つ以上が酸素原子であることがさらに好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。・・・」との記載を参酌すれば、甲2’A発明の「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」を、あえて好ましいとはされていないチオール基を持つリン化合物に変えることは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
そうすると、甲2’の記載を参酌したとしても、甲2’A発明の「B-1:油溶性リン系添加剤1(酸性りん酸エステルのアミン塩)」を、本件訂正発明1で除外された範囲を超えるものとすることは、当業者が容易になし得ないから、本件訂正発明1は、甲2’A発明及び甲1~甲11に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)について、申立人の主張は、本件特許の明細書に記載された実施例の「添加剤パッケージ」に、本件訂正の除くクレームの特定で除外したリン化合物が含まれる可能性があることを示すものであるが、本件訂正の除くクレームの特定で除外したリン化合物が含まれることを実証したものではないから、採用できない。
第8 むすび
したがって、請求項1~17に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700929