特許異議申立
2023-700701
廃棄体の放射能評価システムおよび廃棄体の放射能評価方法
- 審判番号
- 2023-700701
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-147187
- 登録番号
- 7234072
- 請求日
- 2023年07月07日
- 審決日
- 2023年11月02日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社東芝
- 【権利者】東芝エネルギーシステムズ株式会社
- 【異議申立人】福井 義治
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 中塚 直樹
- 審判官 田邉 英治
- 分類
- P1651.121-Y (G21F) / P1651.536-Y (G21F) / P1651.537-Y (G21F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234072号発明「廃棄体の放射能評価システムおよび廃棄体の放射能評価方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234072号の請求項1ないし24に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234072号の請求項1~24に係る特許についての出願は、令和元年8月9日にされた特許出願であって、令和5年2月27日にその特許権の設定登録がされ、同年3月7日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和5年7月7日に特許異議申立人福井義治(以下「特許異議申立人」という。)は、請求項1~24に係る特許に対して特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7234072号の請求項1~24の特許に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~24は、次のとおり記載されている。
「【請求項1】
機器が放射化されることに基づく放射化汚染放射能量に関する放射化汚染放射能データを記憶する放射化汚染放射能データベースと、
前記機器に放射性物質が付着したことに基づく二次的汚染放射能量に関する二次的汚染放射能データを記憶する二次的汚染放射能データベースと、
前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の処分用の形態である廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う評価部と、
を備え、
前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、減衰期間の要否または除染の要否を判定する放射能低減判定部を備える、
廃棄体の放射能評価システム。
【請求項2】
前記機器の構造および物量に関する構造・物量データを記憶する構造・物量データベースを備え、
前記評価部は、前記構造・物量データに基づいて、前記機器の解体により生じる前記廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う、
請求項1に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項3】
前記放射化汚染放射能データは、前記機器の部分ごとに異なる前記放射化汚染放射能量に関するデータを含み、
前記二次的汚染放射能データは、前記機器の部分ごとに異なる前記二次的汚染放射能量に関するデータを含む、
請求項1または請求項2に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項4】
前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データは、核種に関するデータを含む、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項5】
前記機器を実測して得られた前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量に関する線量実測・核種分析データを記憶する線量実測・核種分析データベースを備え、
前記評価部は、前記線量実測・核種分析データに基づいて、前記廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項6】
前記機器が使用された履歴に関する機器使用履歴データを記憶する機器使用履歴データベースを備え、
前記評価部は、前記機器使用履歴データに基づいて、前記廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の部分ごとの放射能濃度を設定する放射能濃度設定部を備える、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項8】
前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の放射能濃度の分布を設定する濃度分布設定部を備える、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項9】
前記評価部は、前記放射能低減判定部により減衰期間または除染が必要であると判定された場合に、減衰期間経過後または除染後の前記廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う放射能低減評価部を備える、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項10】
前記評価部は、
前記機器の解体処分の態様を検討するときの検討パラメータを設定する検討パラメータ設定部と、
前記検討パラメータに基づいて、前記機器を切断するときの切断寸法と切断位置との少なくともいずれか一方を含む切断態様を検討する切断態様検討部と、
を備える、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項11】
前記評価部は、前記切断態様検討部が導出した前記切断態様で前記機器を切断した場合に、前記機器の切断片の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う切断片評価部を備える、
請求項10に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項12】 前記評価部は、前記検討パラメータに基づいて、前記機器の切断片を処分容器に収納するときの収納態様を検討する収納態様検討部を備える、
請求項10または請求項11に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項13】
前記評価部は、前記切断態様検討部が導出した前記切断態様で前記機器を切断した場合に、前記機器の切断片を前記処分容器に収納した後の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う収納評価部を備える、
請求項12に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項14】
それぞれの前記機器の切断片を識別可能な切断片識別情報と前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量を含む切断片情報データとを対応付けて管理する切断片管理部を備える、
請求項13に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項15】
前記切断片識別情報と前記切断片情報データとを対応付けて表示する切断片情報表示部を備える、
請求項14に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項16】
前記評価部は、前記収納評価部による評価に基づいて、前記廃棄体としての条件に適合しているか否かを判定する収納後判定部を備え、
前記収納態様検討部は、前記収納後判定部により前記廃棄体としての条件に適合していないと判定された場合に、前記検討パラメータが見直され、この見直された前記検討パラメータに基づいて、前記収納態様の再検討を行う、
請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項17】
前記機器の切断片を収納したそれぞれの前記処分容器を識別可能な処分容器識別情報と前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量を含む廃棄体情報データとを対応付けて管理する廃棄体管理部を備える、
請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項18】
前記処分容器識別情報と前記廃棄体情報データとを対応付けて表示する廃棄体情報表示部を備える、
請求項17に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項19】
前記検討パラメータは、前記機器を切断するときの制約に関する切断条件と、前記機器の切断片を処分容器に収納するときの制約に関する処分容器条件と、前記機器の切断片を前記処分容器に収納した後の制約に関する廃棄体制約条件と、の少なくともいずれかを1つを含む、
請求項11から請求項18のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項20】
前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の切断片を収納する処分容器の表面の線量当量率と前記処分容器の発熱量との少なくともいずれか一方を評価する廃棄体評価部を備える、
請求項11から請求項19のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項21】
前記機器の切断片を収納したそれぞれの前記処分容器を識別可能な処分容器識別情報と前記処分容器の表面の線量当量率と前記処分容器の発熱量との少なくともいずれか一方を含む廃棄体情報データとを対応付けて管理する廃棄体管理部を備える、
請求項20に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項22】
前記処分容器識別情報と前記廃棄体情報データとを対応付けて表示する廃棄体情報表示部を備える、
請求項21に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項23】
前記機器は、原子力施設にて使用されたものである、
請求項1から請求項22のいずれか1項に記載の廃棄体の放射能評価システム。
【請求項24】
機器が放射化されることに基づく放射化汚染放射能量に関する放射化汚染放射能データを放射化汚染放射能データベースに記憶するステップと、
前記機器に放射性物質が付着したことに基づく二次的汚染放射能量に関する二次的汚染放射能データを二次的汚染放射能データベースに記憶するステップと、
前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の処分用の形態である廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行うステップと、
を含み、
前記評価を行うステップで、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、減衰期間の要否または除染の要否を判定する、
廃棄体の放射能評価方法。」
第3 特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、特許異議申立ての理由として、次の申立理由1~申立理由3を挙げている。
1 申立理由1(明確性要件違反)
請求項1~24の記載において、「減衰期間の要否を判定する」との記載の意味が不明であるから、本件発明1~24に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
2 申立理由2(実施可能要件違反)
明細書の発明の詳細な説明の記載における「減衰期間の要否を判定する」との記載の意味が不明であるから、本件発明1~24に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
3 申立理由3(進歩性の欠如)
本件発明1~4、7~24は、下記の甲1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~4、7~24に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
また、本件発明5~6は、甲1号証に記載された発明並びに甲2号証及び甲3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明5~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
記
甲1号証: 特開2015-230223号公報
甲2号証: 特開2019-117089号公報
甲3号証: 特開2015-87300号公報
第4 甲1発明等の認定
1 甲1発明の認定
(1)ア 甲1号証には「プラント内の各所の残存放射能の評価結果を記憶している残存放射能評価結果DB22」を有する「運転終了後の原子力発電プラントなどから廃棄される放射性廃棄物を安全かつ効率的に保管するための放射性廃棄物収納計画支援システムが記載されている。(甲1号証の【0001】、【0017】及び【図1】を参照。以下甲1号証の参照段落を単に【0001】のように示す。)
イ 甲1号証の「機器・配管・コンクリート躯体は原子炉の運転に伴い材料が放射化し、また配管や機器内部への水・蒸気の循環により放射性物質による汚染がある。」(【0023】)との記載や、前記「残存放射能評価結果DB22」の情報を用いて(【0017】~【0021】)演算された情報が保存される「廃棄物モデルDB31」の保存情報に、放射性核種の種類ごとの放射化量と汚染量が含まれていること(【0031】)からみて、前記「残存放射能評価結果DB22」の情報に、放射性核種の種類ごとの放射化量と汚染量が含まれていることは明らかである。
(2)ア 甲1号証には、前記「放射性廃棄物収納計画支援システム」が「空間線量率計算処理部105で演算した、放射性廃棄物を収納するための収容容器の表面線量率がしきい値より小さいか否かを判定する表面線量率判定部106」を有することが記載されている。(【0020】)
イ 甲1号証の【0017】~【0021】の記載から、前記「空間線量率計算処理部105で演算した、放射性廃棄物を収納するための収容容器の表面線量率」が、前記「残存放射能評価結果DB22」に記憶された情報に基づいて算出されるものであることは明らかである。
(3) 前記(1)(2)を踏まえると、甲1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「運転終了後の原子力発電プラントなどから廃棄される放射性廃棄物を安全かつ効率的に保管するための放射性廃棄物収納計画支援システムであって、(【0001】)
放射性核種の種類ごとの放射化量と汚染量を含む、プラント内の各所の残存放射能の評価結果を記憶している残存放射能評価結果DB22と、(【0017】、前記(1)イ)
各機器・配管を詰め込んだ状態での収納容器の表面線量率を演算する、空間線量率計算処理部105と、(【0019】)
前記残存放射能評価結果DB22に記憶された情報に基づいて空間線量率計算処理部105で演算した、放射性廃棄物を収納するための収容容器の表面線量率がしきい値より小さいか否かを判定する表面線量率判定部106と、(【0020】、前記(2)イ)
を有する、
放射性廃棄物収納計画支援システム。」
2 甲2技術事項の認定
甲2号証には、次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されている(甲2号証の【0001】~【0005】を参照。下線は特許異議申立人による。)。
[甲2技術事項]
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射性廃棄物の放射能濃度を特定するための放射能濃度特定方法及び特定装憤に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃棄物等の放射能汚染を確認する際、汚染核種の同定及び存在量の決定が必要である。放射性核種は壊変に伴って固有のエネルギーを持つ放射線を放出するため、この放射線の波高分布及びエネルギーを測定して核種の同定及び存在量を決定する方法をスペクトロメトリという。スペクトロメトリを行うための装置がスペクトロメータであり、一般的な構成としては放射線検出器、増幅器、波高分析器等からなり、測定されたエネルギーごとの波高分布を実験又は計算データを基に解析することにより核種の同定及び推定を行う。
特にガンマ線は核種毎に鋭いエネルギーピークを持つことや透過力が高く核種同定の容易さ等から汚染の確認に用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭55-159169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性廃棄物を管理する上で、廃棄物の汚染放射能濃度の分布を確認する必要がある。例えば、原子力施設のクリアランス(放射能濃度が一定値(クリアランスレベル)以下か否かを確認する作業)においては、対象物の放射能濃度に著しい偏りがないこと、具体的には評価単位内の一部の測定単位において、クリアランスレベルの10倍を超える放射能濃度が測定されないこと、及び平均放射能濃度がクリアランスレベル以下であることを確認することが求められており、局所的に放射能濃度の高い部分がある場合には、除染可否や除染方法を検討するため、汚染位置が対象の内部又は表面かを特定する必要がある。
【0005】
上述のスペクトロメトリにおいて、ガンマ線は金属やコンクリートなどに対する透過力が高いため、配管や複雑な形状の汚染確認対象物の外表面と内部を区別して、汚染を確認することは困難である。従来、内外の汚染を区別するためには、まず汚染確認対象物の外側から放射線を測定して位置を確認した上で、外表面の除染やスミヤ法等により表面汚染を測定し、その後再度測定することで内外面それぞれの汚染を確認する必要があった。このような作業工程では、結果として表面汚染がない場合にもふき取り等の作業が必要であるという課題があった。」
3 甲3技術事項の認定
甲3号証には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されていると認められる。(甲3号証の【0013】、【0021】を参照)
[甲3技術事項]
「線量測定装置から取得された実測線量データをデータベースに格納すること、またプラント運転履歴データによって機器・配管等に付着する放射性物質の量等を推定すること。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(明確性要件違反)について
(1) 申立理由1についての特許異議申立人の具体的主張内容
特許異議申立人は、特許異議申立書の9ページにおいて、次に示す理由により請求項1の記載及び請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~23の記載及び請求項24の記載は、発明が明確でないから、本件発明1~24に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであると主張している。
<明確性要件違反の具体的な理由>
本件の請求項1~24には、「減衰期間の要否を判定する」と記載されているところ、放射性元素はそれぞれ独自の半減期をもって減衰するのであり、「減衰期間の要否を判定する」という言葉の意味が不明である。
(2) 申立理由1についての当審による検討
ア 明確性要件の判断の基準
特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否か、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきものである。
イ 明確性要件の充足についての検討
(ア)a 「減衰期間」と関連する本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載としては、段落【0073】に次の記載がある。
「放射能低減評価部16は、放射能低減判定部15により減衰期間または除染が必要であると判定された場合に、減衰期間経過後または除染後の機器(廃棄物)の放射化汚染放射能量および二次的汚染放射能量の評価を行う。このようにすれば、減衰期間または除染により放射能が低減される場合には、その実態に合わせて放射能量を評価することができる。」
b 発明の詳細な説明の前記記載を参酌すると、「減衰期間」は、「除染」とともに、そのことにより「放射能が低減され[た]」ものとするための手段であり、「減衰期間」が「必要であると判定」するとは、「ある期間の経過を待つことにより、放射能の低下を図ることが必要であると判断すること」を指すことが分かる。
(イ) 請求人は「放射性元素はそれぞれ独自の半減期をもって減衰するのであり、「減衰期間の要否を判定する」という言葉の意味が不明である。」と主張しているが、本件特許の請求項1の「減衰期間の要否を判定する」という記載が各元素における放射線の放出量が「減衰」する期間(半減期)自体についての設定・調整などを意味するものでないことは、半減期の操作が通常不可能なものとされている技術常識からみても明らかである。
(ウ)a 以上検討のとおり、明細書の記載及び技術常識を踏まえれば、「減衰期間の要否を判定する」とは、「対象物の放射能の低下を図るために経過を待つ期間(減衰期間)を設けることが必要であるか否かを判断すること」を指すものであることは明らかである。
b したがって、本件の請求項1の記載は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるものではない。
c 請求項9、24の「減衰期間」という記載に関しても同様である。
(エ) よって、本件発明1~24は明確であって、本件発明1~24は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1) 申立理由2についての特許異議申立人の具体的主張内容
特許異議申立人は、特許異議申立書の9ページにおいて次に示す理由により、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~24の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件発明1~24に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであると主張している。
<実施可能要件違反の具体的な理由>
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0072】には「減衰期間の要否を判定する」と記載されているところ、放射性元素はそれぞれ独自の半減期をもって減衰するのであり、「減衰期間の要否を判定する」という言葉の意味が不明である。
(2) 申立理由2についての当審による検討
前記1(2)で説示したとおり、「減衰期間の要否を判定する」という言葉の意味は明瞭である。
したがって、本件発明1~24は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
3 申立理由3(進歩性の欠如)について
(1) 本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「放射性核種の種類ごとの放射化量と汚染量を含む、プラント内の各所の残存放射能の評価結果を記憶している残存放射能評価結果DB22」は、本件発明1の「機器が放射化されることに基づく放射化汚染放射能量に関する放射化汚染放射能データを記憶する放射化汚染放射能データベース」及び「前記機器に放射性物質が付着したことに基づく二次的汚染放射能量に関する二次的汚染放射能データを記憶する二次的汚染放射能データベース」に相当する。
イ 前記アを踏まえると、甲1発明の「前記残存放射能評価結果DB22に記憶された情報に基づいて空間線量率計算処理部105で演算した、放射性廃棄物を収納するための収容容器の表面線量率がしきい値より小さいか否かを判定する表面線量率判定部106」は、本件発明1の「前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の処分用の形態である廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う評価部」に相当する。
ウ 前記イを踏まえると、甲1発明の「放射性廃棄物収納計画支援システム」は、本件発明1の「前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の処分用の形態である廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う評価部」に相当する構成を含むものであるから、本件発明1の「廃棄体の放射能評価システム」に相当する。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比の検討結果をまとめると、本件発明1と甲1発明は、次の一致点において一致し、後記の相違点において相違する。
ア 一致点
「機器が放射化されることに基づく放射化汚染放射能量に関する放射化汚染放射能データを記憶する放射化汚染放射能データベースと、
前記機器に放射性物質が付着したことに基づく二次的汚染放射能量に関する二次的汚染放射能データを記憶する二次的汚染放射能データベースと、
前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、前記機器の処分用の形態である廃棄体の前記放射化汚染放射能量および前記二次的汚染放射能量の評価を行う評価部と、
を備える、
廃棄体の放射能評価システム」である点。
イ 相違点
本件発明1においては、
「前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、減衰期間の要否または除染の要否を判定する放射能低減判定部を備える」
のに対し、
甲1発明においては、「前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、減衰期間の要否または除染の要否を判定する」ことは行われていない点。
(3) 相違点についての当審の判断
上記相違点について検討する。
甲2技術事項は、「局所的に放射能濃度の高い部分がある場合には、除染可否や除染方法を検討する必要があること」を示すものであるとしても、データベースのデータに基づいて除染の要否を判定するものではないから、甲2技術事項を考慮しても、甲1発明の「残存放射能評価結果DB22」に記憶させるデータを取得するために汚染量などを測定した時点での除染について検討がされるのにとどまる、すなわち、「残存放射能評価結果DB22」の構築前に除染について検討がされるのにとどまるのであって、「前記評価部は、前記放射化汚染放射能データおよび前記二次的汚染放射能データに基づいて、減衰期間の要否または除染の要否を判定する放射能低減判定部を備える」という前記相違点に係る本件発明1の構成に想到することはできない。
したがって、甲1発明及び甲2技術事項から、上記相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者にとって容易に想到し得たことではない。
また、前記相違点に係る構成が甲3技術事項に含まれないことも明らかである。
(4) 進歩性の判断のまとめ
前記(3)において検討したとおり、本件発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲2技術事項に基づいて、また甲1発明、甲2技術事項及び甲3技術事項に基づいても容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明24に関しても同様である。
(5) 本件発明2~23について
本件発明2~23は、本件発明1と同様に、前記相違点に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~23は、甲1発明及び甲2技術事項に基づいて、また甲1発明、甲2技術事項及び甲3技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件発明2~23に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
(6) 特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張1について
(ア) 特許異議申立人の主張1の内容
特許異議申立人は、前記相違点に関し、特許異議申立書の22頁の(1-2-1)において、次の主張をしている(以下「特許異議申立人の主張1」という。)。
<特許異議申立人の主張1>
請求項1の記載における「減衰期間の要否を判定する」という語句はその意味が不明であるが、ここでは、「放射性物質は、固有の半減期で減衰することを考慮する」と解釈する。しかるに、原子力発電所においては、種々の放射性物質が存在し、半減期の長い物質と短い物質が混在する。廃棄物の中に短半減期の物質が多く含まれている場合には、廃棄物の放射能が時の経過とともにかなり早く減衰することを考慮しなければならない。この知識は放射線を取り扱う技術者において技術常識である。
よって、本件発明1は、甲1発明に前記技術常識を加味することにより当業者が容易になし得た発明である。
(イ) 特許異議申立人の主張1についての検討
前記1(2)で説示したように、「減衰期間の要否を判定する」という語句が「対象物の放射能の低下を図るために経過を待つ期間(減衰期間)を設けることが必要であるか否かを判断すること」を指すのは明らかであるから、特許異議申立人の主張1は、その前提となる解釈が誤ったものであって、採用できない。
また、放射性廃棄物の取り扱いに際して、含まれる核種の半減期を考慮することが技術常識であるとしても、それを考慮した上での具体的な処理工程の選択、すなわち、廃棄物を収納した「廃棄体」の評価を行うことと併せて、減衰期間を設けるか否かの判定を行うようにすることを選択することまでが、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
イ 特許異議申立人の主張2について
(ア) 特許異議申立人の主張2の内容
また、特許異議申立人は、前記相違点に関し、特許異議申立書の22頁の(1-2-2)において、次の主張をしている(以下「特許異議申立人の主張2」という。)。
<特許異議申立人の主張2>
甲2号証には、放射性濃度の高い部分がある場合には、除染可否や除染方法を検討する必要があると記載されている。
したがって、本件発明1は、甲1発明と放射性廃棄物を取り扱うという技術分野が共通している甲2号証に記載された発明を甲1発明に適用することにより当業者が容易になし得た発明である。
(イ) 特許異議申立人の主張2についての検討
前記(3)において説示したとおり、甲2技術事項を甲1発明に適用しても、前記相違点に係る本件発明1の構成を得ることはできないものである。
したがって、特許異議申立人の主張2は採用できない。
第6 むすび
以上検討のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700701