特許拒絶査定不服審判
2024-012976
熱可塑性プラスチックのリサイクル物の安定化方法、安定化プラスチック組成物、並びに、それから製造される成形部品
- 審判番号
- 2024-012976
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-557172
- 請求日
- 2024年08月08日
- 審決日
- 2025年12月23日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
- 【請求人代理人】家入 健
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 安藤 倫世
- 審判官 関根 裕
- 分類
- P18 .575-Z (C08J) / P18 .121-Z (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-557172「熱可塑性プラスチックのリサイクル物の安定化方法、安定化プラスチック組成物、並びに、それから製造される成形部品」拒絶査定不服審判事件〔令和2年10月1日国際公開、WO2020/193563、令和4年5月27日国内公表、特表2022-526925〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年3月26日(以下「優先日」ともいう。) ドイツ(DE))を国際出願日とするものであって、令和5年12月19日付けで拒絶理由が通知され、令和6年3月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月2日付けで拒絶査定(発送日は4月9日、以下「原査定」ともいう。)がされ、同年8月8日に審判請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月8日にされた手続補正(以下「本件補正」ともいう。)を却下する。
[理由]
1 手続補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項19を、次のように補正するものである。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前
「【請求項19】
以下の成分を含む、または、以下の成分からなる、プラスチック組成物。
少なくとも4つの炭素原子を有するアルジトールまたはシクリトールの少なくとも1つのエステルおよび/またはエーテル(a1);
サッカリン酸の少なくとも1つのエステル(a2);および/または、
アミノ糖の少なくとも1つのアミドおよび/または置換アミン(a3);
並びにそれらの混合物または組合せ
からなる群から選択される少なくとも1つの置換糖(A)、および、
少なくとも1つの熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)。」
(2)本件補正後
「【請求項19】
以下の成分を含む、または、以下の成分からなる、プラスチック組成物。
少なくとも4つの炭素原子を有するアルジトールまたはシクリトールの少なくとも1つのエステルおよび/またはエーテル(a1);
サッカリン酸の少なくとも1つのエステル(a2);および/または、
アミノ糖の少なくとも1つのアミドおよび/または置換アミン(a3);
並びにそれらの混合物または組合せ
からなる群から選択される少なくとも1つの置換糖(A)、および、
少なくとも1つの熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)。
ただし、熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)は、
a)リサイクルされたオレフィンまたはジオレフィンのポリマー、
b)リサイクルされた、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、およびポリビニルナフタレン、
c)リサイクルされた不飽和エステルのポリマー、
d)リサイクルされた不飽和アルコールのポリマーおよび誘導体、
e)リサイクルされたポリアセテート、
f)リサイクルされたポリフェニレンオキサイド、および、それとポリスチレンまたはポリアミドとのブレンド、
g)リサイクルされた環状エーテルのポリマー、
h)リサイクルされた、ヒドロキシ末端のポリエーテルまたはポリエステルと芳香族または脂肪族のイソシネートとのポリウレタン、および、リサイクルされたポリウレア、
i)リサイクルされたポリアミド、
j)リサイクルされた、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ポリ(エーテル)ケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、およびポリヒダントイン、
k)リサイクルされた、脂肪族または芳香族ジカルボン酸とジオールまたはヒドロキシカルボン酸とのポリエステル、
l)リサイクルされた、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、およびそれらのブレンド、
m)リサイクルされたハロゲン化ポリマー、
n)リサイクルされたセルロース誘導体、および、
o)上記の2種以上のポリマーの混合物、組合せ、またはブレンド、
からなる群から選択される。」
2 本件補正の目的
本件補正は、請求項19の「熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)」について、本願の明細書の【0163】~【0168】の記載ないしは本件訂正前の特許請求の範囲の【請求項18】の記載に基づいて、熱可塑性プラスチックの種類を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項19に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(いわゆる独立特許要件を満たすものであるか)について、次の3で検討する。
3 独立特許要件についての判断
(1)本件補正発明
本件補正後の請求項19に係る発明(「本件補正発明」ともいう。)は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献等及びその記載事項
ア 引用文献等
引用文献1:特表2002-501564号公報(原査定の引用文献1)
引用文献3:特開2017-171774号公報(原査定の引用文献3、周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2014-173059号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2009-196256号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特表2004-526829号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2011-153251号公報(周知技術を示す文献)
イ 引用文献等の記載事項
(ア)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、次の記載がある。
a 2頁1行~3頁2行
「【特許請求の範囲】
1.熱可塑性ポリマーを安定化する方法であって、夫々、式1および2により表されるβ-ケトエステルまたは対応するβ-エナミンをポリマー生成混合物に組込むことを具備する方法:
[図:0001435663000001.jpg]
[ここで、Aは、ヒドロキシアルカン酸エステル、糖およびそれらのグリコシド、糖アルコールおよびそれらの脱水生成物、糖酸およびそれらのエステル、並びにオリゴ糖から選択されるアルコールまたはポリオールの残基であり:
mは、0から6の整数であり;
nは、1から、ポリオールにおけるヒドロキシル基の総数までの数であり;
R1は、水素、C1-C8アルキル、C3-C8アルケニルまたはシクロアルキル(アルキル)またはC6-C8アリールまたはアラルキルであり;
R2は、水素、C1-C6アルキル、C2-C6ヒドロキシアルキルまたはC3-C6アルケニルであり;
R3は、C1-C18アルキル、アルコキシ若しくはアルキルアミノ、C3-C18アルケニル、アルカノイルメチル、アルコキシカルボニルメチル若しくはシクロアルキル(アルキル)、C6-C18アリール、アリールオキシ、アリールアミノ、アラルキル、アラルコキシ若しくはアラルキルアミノ、またはC8-C18アロイルメチル、アリールオキシカルボニルメチル若しくはアリールカルバモイルメチルであり:
R4およびR5は独立して水素またはメチルであり;および
Zは、直接結合、CH2、CHOH、CH-O-CO-CHR1-CO-R3またはCH-O-CO-CH=C(NHR2)-R3である]。
2.請求項1に記載の方法であって、前記糖アルコールが、ソルビトール、ガラクチトールおよびマンニトール等のモノ単糖アルコールから選択される方法。
3.請求項2に記載の方法であって、前記β-ケトエステルがソルビトールポリアセトアセテートである方法。」
b 6頁下2行~7頁15行
安価な天然原料から得られる、特定のβ-ケトエステルおよびそれらのエナミンは、PVC等の熱可塑性ポリマーにおいて使用するための改良された安定化能力を有することが見出された。これらのβ-ケトエステルは、ポリマーの初期色安定性を改善するのみではなく、該ポリマーの熱安定性をも増加する。それらは、硬質ポリマーにおいて使用されてもよく、且つそれらは軟質ポリマーを安定化することにおいても効果的でもある。それらは費用比に対しても改良された性能を有する。本発明に従って使用されるべきβ-ケトエステルおよびそれらのエナミンは、天然産物であるか、または還元若しくは化学的および発酵工程により天然産物から得られるアルコールまたはポリオールから誘導される。それらは添付される請求の項に定義される。β-ケト-エステルおよび対応するアミンは式1および2に、夫々、ジケト化合物およびケトイミンとして示されるが、それらはまた、以下に示す式1aおよび2aのような、夫々、ケト-エノールおよびケトイミンの互変体形態でも存在し得ると意味される。これらおよび他の互変体形態の全てが使用される調合物に含まれるべきであると理解される。
[図:0001435663000002.jpg]
」
c 10頁下2行~11頁20行
「β-ケトエステルおよびそれらのエナミンは、熱可塑性ポリマーを安定化するために使用することが可能である。これらは、例えば、ポリエテン、ポリプロペン、ポリスチレン、ハロゲン化ゴム、フッ素含有ポリマー、例えば、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(塩化ビニリデン)および特にポリ(塩化ビニル)等であってもよい。PVC等の塩素化ポリマー、非ビニル(ポリエテンおよびポリプロペン)並びにハロゲン化ゴムは本発明に好ましい。β-ケトエステルは、熱可塑性ポリマーに対して、0.001-5%、特に、0.01-1%の量で使用される。
PVC等のポリマーの熱安定性は、選択した温度(例えば、200℃)で、その色が茶色から黒色へと変化することにより決定される該ポリマーの変質までの加熱時間で表される。該試験は、例えば、マチスオーブン(Matthis oven)中で25cmのポリマー小片を使用し、これを段階的に該オーブンから動かして実施できる。
PE等の非ビニルポリマーは、多押出し試験で調査し、第1回目、3回目および5回目の実施の後、その色特性およびメルトフローインデクスを測定する。ポリオレフィンは、UV光に対して非常に敏感であり、従って、UV安定試験が実施される。
色特性は、ベルガーに従う白色度(Wb(%))と、黄色度指数(Yi(%))として表される。両者とも、ミノルタクロマメーター(Minolta Chromameter)とDP301データプロセッサを使用して試験できる。評価は、CIE L-a-bシステム(CIE:Commission Internationale d'Eclairage)に従って行われる。白色/黒色(L)、緑色/赤色(a)および黄色/青色(b)値を、WbおよびYi値に変換する。至適逐行のために、熱安定性と白色度は可能な限り高値であるべきであり、黄色度指数は可能な限り低値であるべきである。」
d 11頁下5行~12頁6行
「以下の例において、本発明の安定剤の合成とポリマー化合物におけるそれらの使用を説明する。試験される化合物は、以下に挙げた予混合から得たPVC化合物A-Dである。
化合物A(硬質PVC):
ポリ塩化ビニル S-PVC(K-68) 100量部
強化剤 アクリレート化合物 2-15phr
充填材 チョーク 2-12phr
着色剤 二酸化チタン 1-10phr
流れ調整剤 アクリレートエステルホモポリマー 0.1-3phr
金属安定剤 カルシウム/亜鉛安定剤 0.1-5phr
潤滑油 PEワックス 0.01-2phr」
e 13頁4行~11行
「例1
ソルビトール(AcAc)3およびソルビトール(AcAc)4の合成
50g(275mmol)ソルビトールおよび175ml(1052mmol)t-ブチルアセトアセテートの混合物を130℃で3時間攪拌した。同時に、69.9gのt-ブタノール(945mmol)を蒸留除去した。次いで、残渣t-ブチルアセトアセテートを100℃、減圧下で蒸留除去した。生成物を淡黄色油状物質として得た。収量127.3g(87%)。
13C-NMR(DMSO-d6):30.20(CH3),49.6-50.0(C(=O)CH2),63.0-63.3(H2COH,H2COC
),66.4-74.1(HCOH,HCOC),166.7-167.7(C(=O)OC),201.5-202.1(CC(=O)C)」
f 15頁13行~18行
「例6
試験結果
例1-5に記載の化合物により安定化されたPVC化合物の性能を試験した。その結果を表1-4に示す。
表1:例1の化合物(ソルビトール(AcAc)3-4)および例2の化合物(ラクチトール(AcAc)6)により安定した硬質PVC(化合物A)の熱安定性
[図:0001435663000003.jpg]
」
(イ)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3には、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、再生熱可塑性樹脂組成物およびその製造方法に関する。」
「【0053】
《酸化防止剤》
再生熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤をさらに含むことが好ましい。
再生熱可塑性樹脂に混入している異物の中には、樹脂成分を酸化する物質もある。たとえば、銅、鉄、アルミニウム等の金属は、樹脂成分に対して強い酸化力を有する。たとえば、銅による樹脂の酸化分解は「銅害」として知られている。また金属屑、金属酸化物、異種樹脂の中には、樹脂成分の酸化を促進する化合物もある。これらの作用により、再生熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品の外観意匠性が損なわれる可能性もある。あるいは成形品の機械的特性等が低下する可能性もある。したがって酸化防止剤により、樹脂成分の酸化を抑制することが考えられる。」
「【0088】
(金属不活性剤)
再生熱可塑性樹脂組成物に含まれる金属成分の酸化力を抑制するために、金属不活性剤を配合してもよい。金属不活性剤としては、たとえば、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、N-フォーミイルサリチロイルヒドラジン、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾールカリウム塩、N,N-ジベンザール(オキザリルヒドラジド)、N,N-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシハイドロシンナメート)等が挙げられる。これらのうち、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドが熱安定性の面で優れている。」
(ウ)引用文献4
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、再生樹脂組成物、成形品、画像形成装置及び再生樹脂組成物の製造方法に関する。」
「【0011】
本実施形態の再生樹脂組成物は、回収ポリスチレン樹脂と、樹脂流動性改質剤と、リン系難燃剤とを含む。各々の構成要素について、詳細に説明する。」
「【0031】
(熱安定剤)
本実施形態の再生樹脂組成物は、熱安定剤を含んでも良い。熱安定剤を含むことにより、混練加工時や成形加工時における、熱履歴による分解を防ぐことができる。
【0032】
熱安定剤としては、酸化防止剤や加水分解防止剤が挙げられる。」
(エ)引用文献5
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献5には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は耐水性、印刷適性に優れた再生熱可塑性樹脂を配合した積層耐水シート及びその製造方法に関する。」
「【0014】
[1.3] 再生熱可塑性樹脂
本発明においては、最外層以外の層に、再生熱可塑性樹脂を配合することができる。再生熱可塑性樹脂とは、本発明の積層耐水シートまたはその他の積層耐水シートの成形、加工工程で裁ち落としや余剰になった熱可塑性樹脂や、廃棄された物品から調整した熱可塑性樹脂をいう。このように、本発明においては、再生熱可塑性樹脂を用いることができるため、例えば、最外層に内接する層の樹脂として、本発明の製造工程で裁ち落とし、余剰になった熱可塑性樹脂を粉砕して使用することができ、工場内でのリサイクルが可能となる。
【0015】
本発明で用いる再生熱可塑性樹脂には、帯電防止剤、滑剤、充填剤、可塑剤、安定化剤、顔料などの低分子物質が含まれていてもよい。特に、本発明で用いる再生熱可塑性樹脂には、それらの低分子物質が5000ppm以下含有されていてもよい。」
(オ)引用文献6
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献6には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、ハロゲン化ポリマー用の安定化剤組成物、該安定化剤組成物を含むポリマー組成物、および該安定化剤組成物又はポリマー組成物を使用して製造される成形品に関する。」
「【0025】
本発明において、「安定化剤組成物」とは、ハロゲン含有ポリマーの安定化のために使用できる組成物を意味する。安定化効果を達成するために、一般的に本発明に係る安定化剤組成物を安定化すべきハロゲン含有ポリマーと混合した後に混合物を加工する。しかしながら、加工中に本発明に係る安定化剤組成物と安定化すべきハロゲン含有ポリマーとを混合することも同様に可能である。
【0026】
本発明に係る安定化剤組成物は、少なくとも2つの構成物質を有する。第1の構成物質として、本発明に係る安定化剤組成物は少なくとも1個のメルカプト官能性SP2混成炭素原子を有する少なくとも1種の化合物、例えばチオ尿素又はチオ尿素誘導体を含む。」
「【0151】
本発明に係る安定化剤組成物は、ハロゲン含有ポリマーの安定化に好適である。
・・・
【0155】
さらに、本発明に係る安定化剤組成物によって塩素含有ポリマーの再生品を安定化することも可能であり、原則として前記ハロゲン化ポリマーのあらゆる再生品がこの用途に好適である。例えば、PVCの再生品が本発明において好適である。
【0156】
従って、本発明はまた、少なくともハロゲン化ポリマーと本発明に係る安定化剤組成物とを含むポリマー組成物に関する。」
(カ)引用文献7
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献7には、次の記載がある。
「【0001】
この発明は、ポリオレフィン系樹脂およびポリスチレン系樹脂の再生と製造方法に関するものであり、特に使用済みのポリオレフィン系およびポリスチレン系樹脂組成物の再生に関するものである。」
「【0032】
[耐熱安定剤]
本発明における回収ポリオレフィン系および回収ポリスチレン系樹脂組成物は、使用済み家電由来のプラスチック残さから選別回収されたものの場合、新材に添加された耐熱安定剤は著しく消費されていることから、耐熱安定剤を添加することが望ましい。ここでの耐熱安定剤は、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、イオウ系等の酸化防止剤および金属不活性剤を少なくとも1個以上を含み、耐熱安定剤の構成比率は、特に制限されるものではないが、必要となる物性によりその都度調整することが望ましい。回収ポリオレフィン系および回収ポリスチレン系樹脂組成物に対する耐熱安定剤の添加量は、好ましくは、0.05~10重量部である。」
ウ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の「表1」の「ソルビトール(AcAc)4」(前記摘記(2)イ(ア)e、f参照。)に着目し、「硬質PVC(化合物A)」(前記摘記(2)イ(ア)c、d参照。)の記載を参酌すれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、表1中の「phr」はper hundred resinを意味するものと解した。
(引用発明)
「硬質PVC(化合物A)100量部に対してソルビトール(AcAc)4を含む化合物を0.4量部添加した、熱安定性と白色度が高く、黄色度指数が低いPVC化合物であって、
硬質PVC(化合物A)は、ポリ塩化ビニル100量部に対して、強化材2~15量部、充填材2~12量部、着色剤1~10量部、流れ調整剤0.1~3量部、金属安定剤0.1~5量部、潤滑剤0.01~2量部からなるものである、PVC化合物。」
(3)本件補正発明と引用発明との対比、判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「PVC化合物」は、本件補正発明の「プラスチック組成物」に相当する。
引用発明の「硬質PVC(化合物A)」は、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂であって、ポリ塩化ビニルは熱可塑性樹脂であるから、本件補正発明の「熱可塑性プラスチックのリサイクル物」と、「熱可塑性プラスチック」である点で共通し、同様に、引用発明の「硬質PVC(化合物A)」は、本件補正発明の「m)リサイクルされたハロゲン化ポリマー」と、「ハロゲン化ポリマー」である点で共通する。
また、引用発明の「ソルビトール(AcAc)4」は、アルジトールの一種であって、6つの炭素原子を有するソルビトールとt-ブチルアセトアセテートが反応してできたアルジトールのエステルであるから、本件補正発明の「少なくとも4つの炭素原子を有するアルジトール・・・の少なくとも1つのエステル・・・(a1)・・・からなる群から選択される少なくとも1つの置換糖(A)」に相当する。
前記したとおり、本件補正発明の「プラスチック組成物」は、「熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)は、・・・「m)リサイクルされたハロゲン化ポリマー・・・からなる群から選択される」場合をその態様として含むことから、当該態様に係る本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「以下の成分を含む、または、以下の成分からなる、プラスチック組成物。
少なくとも4つの炭素原子を有するアルジトールまたはシクリトールの少なくとも1つのエステルおよび/またはエーテル(a1);
サッカリン酸の少なくとも1つのエステル(a2);および/または、
アミノ糖の少なくとも1つのアミドおよび/または置換アミン(a3);
並びにそれらの混合物または組合せ
からなる群から選択される少なくとも1つの置換糖(A)、および、
少なくとも1つの熱可塑性プラスチック(B)。
ただし、熱可塑性プラスチック(B)は、
・・・
m)ハロゲン化ポリマー
・・・
である。」
<相違点>
ハロゲン化ポリマーである熱可塑性プラスチックが、本件補正発明は「熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)」であって、「m)リサイクルされたハロゲン化ポリマー」であるのに対し、引用発明は、ポリ塩化ビニルを主成分とする樹脂である「硬質PVC(化合物A)」である点。
イ 判断
バージン材料のプラスチックだけでなく、リサイクルプラスチックにも安定剤を用いることは普通のことであり、周知技術である。
例えば、引用文献3(前記(2)イ(イ)参照。)には、再生熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤をさらに含むことが好ましいこと(【0053】参照。)、再生熱可塑性樹脂組成物に含まれる金属成分の酸化力を抑制するために、金属不活性剤を配合してもよいこと(【0088】参照。)が記載され、引用文献4(前記(2)イ(ウ)参照。)には、再生樹脂組成物(【0001】参照。)の熱安定剤として酸化防止剤や加水分解防止剤が挙げられること(【0033】参照。)が記載され、引用文献5(前記(2)イ(エ)参照。)には、再生熱可塑性樹脂(【0001】参照。)に安定化剤を添加すること(【0015】参照。)が記載され、引用文献6(前記(2)イ(オ)参照。)には、ハロゲン含有ポリマーを安定化させる(【0001】参照。)ために、安定化剤組成物が添加されること(【0025】参照。)、当該安定化剤組成物は、(バージン材料の)ハロゲン含有ポリマーの安定化に好適である(【0151】参照。)だけでなく、塩素含有ポリマーの再生品を安定化することも可能なものである(【0155】参照。)ことが記載され、引用文献7(前記(2)イ(カ)参照。)には、使用済み家電由来のプラスチック残さから選別回収されたものの場合、新材に添加された耐熱安定剤は著しく消費されていることから、耐熱安定剤を添加することが望ましいこと(【0032】参照。)が記載されている。
そうすると、引用発明の「熱安定性と白色度が高く、黄色度指数が低いPVC化合物」に係る安定剤を添加する技術を、バージン材料のみならず、リサイクル材料にも適用することは、当業者が容易に想到し得るから、引用発明の「硬質PVC(化合物A)」として、バージン材料に代えて、リサイクル材料を採用することは当業者が容易になし得たことである。
そして、本件補正発明の効果について検討すると、本願明細書の【0194】~【0196】には「加工安定性の増加、すなわち、より高い残留力という結果をもたらす。」、「・・・加工安定性のさらなる向上が達成される。」、「・・・加工安定性の増加、すなわち30分後のより高い残留力という結果をもたらす。」及び「・・・加工安定性の向上という結果をもたらす。」と記載されるものの、本件補正発明の効果を検証するための具体的なデータは示されていない。
熱可塑性プラスチックのリサイクル物で生じる不安定化の要因は、後記(4)にも記載するように、つまるところ、バージン材料で生じる不安定化の要因と重複するもの、ないしは大差ないものであることも考慮すれば、本件補正発明の効果は、引用発明ないしは引用文献1に記載された事項から予測される域を出るものではないし、本願明細書の記載をもって、本件補正発明の構成から予測しえない有利な効果が奏されたともいえない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)請求人の主張
請求人は、主として、次のア、イの趣旨の主張をしている。
ア 「要約すると、リサイクル物は、ポリマー鎖中に、バージン材には存在しない(または、ほとんど存在しない)分析検出可能な新たな化学基/構造を含み、これらの新たな化学基/構造は酸化の開始部位または分解剤として作用するため、バージン材よりも酸化に対して非常に敏感です。本発明の技術は、このようなバージン材よりも酸化されやすいリサイクル物に対して、酸化的、熱的、および/または光線的な劣化に対して安定化することを可能としたものです。引用文献1、2には、リサイクル物に対する安定化について記載および示唆がありません。」(審判請求書9頁下10行~下2行)
イ 「仮に当業者が引用文献1~3を知見しても、目的、ポリマー系、技術の異なる引用文献1、2と引用文献3とを組み合わせる動機はなく、本発明を構築することはできません。」(審判請求書10頁最終行~11頁2行)
しかしながら、前記アに関し、本願明細書には、前記(3)のとおり、本件補正発明の効果を検証するための具体的なデータは示されていない。そして、引用文献7の【0032】に「本発明における回収ポリオレフィン系および回収ポリスチレン系樹脂組成物は、使用済み家電由来のプラスチック残さから選別回収されたものの場合、新材に添加された耐熱安定剤は著しく消費されていることから、耐熱安定剤を添加することが望ましい。」と記載されるように、新材(バージン材)に添加された安定剤と同様の安定剤を、使用済みプラスチック残さから回収されたもの(リサイクル物)に添加することにより、リサイクルプラスチックの劣化防止ないしは現状維持しようとすることは、当該分野において広く行われていたものであり、引用発明の「硬質PVC(化合物A)」を、リサイクルされたものとすることを阻害するような特段の事情は見当たらない。
また、前記イに関し、引用文献3は、熱可塑性プラスチックのリサイクル物に対して安定剤を適用することは周知技術であることを示すための一例として挙げたにすぎないものであるから、文献の組合せを前提とする請求人の主張は採用できない。
(5)独立特許要件についての判断のむすび
本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~27に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~27に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載したとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
「この出願については、令和5年12月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
・・・
備考
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項1~7,9~27
・引用文献1~3
・・・
ここで、出願人が意見書で主張するように、引用文献1・・・には、リサイクル物に対する安定化について記載および示唆がない。
しかしながら、上記拒絶理由通知書にも記載したとおり、熱可塑性プラスチックのリサイクル物に対して、安定化剤を適用することは通常のことであり、このことは引用文献3(0053,0088)にも記載されている。
そうすると、引用文献1・・・に記載された発明における熱可塑性プラスチックをリサイクル物とすることは、当業者が格別困難なく為し得ることである。
・・・
<引用文献等一覧>
1.特表2002-501564号公報
・・・
3.特開2017-171774号公報」
3 引用文献の記載事項
引用文献の記載事項及び引用発明は、前記第2の3(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の3(3)で検討した本件補正発明の「熱可塑性プラスチックのリサイクル物(B)」について、「m)リサイクルされたハロゲン化ポリマー」というプラスチックの種類に係る特定事項が削除されたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記の特定事項を付加した本件補正発明が、前記第2の3(3)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012976