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特許異議申立

2016-700295

非被覆シリコーンエラストマーと非シリコーン処理顔料を含む化粧品用エマルション

審判番号
2016-700295
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2007-115755
登録番号
特許第5791859号(P5791859)
請求日
2016年04月06日
審決日
2017年02月20日
公報発行日
2017年05月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ロレアル
  • 【権利者代理人】園田・小林特許業務法人
  • 【権利者代理人】園田 吉隆
  • 【権利者代理人】小林 義教
  • 【異議申立人】中嶋 美奈子
審判長/審判官
  • 審判長 須藤 康洋
  • 審判官 齊藤 光子
  • 審判官 関 美祝
分類
P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.841-YAA(A61K) / P1651.851-YAA(A61K) / P1651.854-YAA(A61K) / P1651.855-YAA(A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第5791859号発明「非被覆シリコーンエラストマーと非シリコーン処理顔料を含む化粧品用エマルション」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第5791859号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-13]、14について訂正することを認める。 特許第5791859号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 1 手続の経緯 特許第5791859号の発明についての出願は、平成19年4月25日(パリ条約による優先権主張 平成18年4月25日 米国(US))の出願であって、平成27年8月14日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成28年4月6日に特許異議申立人中嶋美奈子より特許異議の申立がなされ、同年6月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月30日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その後同年12月19日に特許異議申立人中嶋美奈子から意見書の提出があったものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1及び請求項14に「ジメチコーン架橋ポリマー」と記載されているのを、「粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」に訂正する。 また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~13についても併せて訂正する。なお、訂正前の請求項1~13は、一群の請求項である。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア この訂正は、請求項1及び請求項14に係る発明の発明特定事項である「ジメチコーン架橋ポリマー」について、「粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。しかも、このような限定事項に係る「ゲル形態」との構成については、例えば願書に添付した明細書の【0010】等に記載がある。 イ よって、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的とし、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないといえる。 (3) むすび 以上のとおり、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし14について訂正することを認める。 3 特許異議申立について (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし14に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (i)非乳化性の非被覆シリコーンエラストマー、(ii)該エラストマー用の溶媒、(iii)N-アシルアミノ酸処理した複数の顔料、及び(iv)乳化剤を含むエマルション形態の皮膚メークアップ用組成物であって、前記エラストマーが粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマーであり、前記溶媒がシクロペンタシロキサンを含む、組成物。 【請求項2】 前記エラストマーの量が、前記組成物の全重量の0.1%~15%である、請求項1に記載の組成物。 【請求項3】 前記N-アシルアミノ酸処理した顔料が、N-アシル-グルタミン処理顔料である、請求項1又は2に記載の組成物。 【請求項4】 前記N-アシルアミノ酸処理した顔料が、ステアロイルグルタミン酸二ナトリウム処理顔料である、請求項1又は2に記載の組成物。 【請求項5】 それぞれが異なる色を有する一種を超える処理顔料を含有する、請求項1から4の何れか一項に記載の組成物。 【請求項6】 前記顔料が、酸化鉄、二酸化チタン、又は酸化鉄と二酸化チタンを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の組成物。 【請求項7】 前記酸化鉄が黄酸化鉄、黒酸化鉄、赤酸化鉄又はそれらの混合物を含む、請求項6に記載の組成物。 【請求項8】 前記乳化剤がシリコーンポリエーテルを含む、請求項1から7の何れか一項に記載の組成物。 【請求項9】 前記乳化剤がポリアルコキシル化シリコーンエラストマーを含む、請求項1から8の何れか一項に記載の組成物。 【請求項10】 水及び/又は水混和性溶媒をさらに含有する、請求項1から9の何れか一項に記載の組成物。 【請求項11】 非揮発性油をさらに含有する、請求項1から10の何れか一項に記載の組成物。 【請求項12】 サンスクリーン剤をさらに含有する、請求項1から11の何れか一項に記載の組成物。 【請求項13】 ファンデーションの形態である、請求項1から12の何れか一項に記載の組成物。 【請求項14】 ケラチン基体にメークアップを適用するための方法において、非乳化性の非被覆シリコーンエラストマー、エラストマー用の溶媒、N-アシルアミノ酸処理した複数の顔料、及び乳化剤を含有するエマルション形態の皮膚メークアップ用組成物を皮膚に適用することを含む方法であって、前記エラストマーが粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマーであり、前記溶媒がシクロペンタシロキサンを含む、方法。」 (2)取消理由の概要 請求項1~14に係る特許に対して平成28年6月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 本件特許の請求項1~3、5、6、8、10、11、13、14に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 イ 本件特許の請求項1~14に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ウ 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。 (3)引用文献の記載 ア 引用文献1(甲第1号証:特開2005-255623号公報)には、次のことが記載されている。 (ア)「【実施例】 【0025】 次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、表中の数値は含有量(質量%)を表わす。実施例に先立ち、各実施例で採用した評価方法を説明する。 【0026】 (1)保存安定性評価試験方法 所定の方法で調製した油中水型ファンデーションを5~35℃の1サイクル/日の往復恒温槽内に放置して、3週間後の保存安定性を下記の評価基準に従って評価した。 分離、凝集なし      ;○ 分離、凝集あり      ;× 【0027】 (2)使用特性評価試験方法 女性パネラー20名によって、塗布したときの使用特性(なめらかなのびの良さ)、乾きの速さ(皮膜形成の速さ)、および塗布後10分間放置したときの経時持続性(化粧持ちの良さ)、および移りにくさ(ティッシュペーパーで軽く擦ったときのティッシュペーパーへの付着の無さ)について下記の評価基準に従って評価した。 良いと答えた人数が18人以上 ;◎ 〃     14~17人;○ 〃      7~13人;△ 〃      6人以下 ;×」 (イ)「【0028】 ・調製方法 ハイドロフルオロエーテルを除く油溶性成分およびシリコーン系樹脂を70℃以上に加熱して均一に溶解し、これに顔料、有機変性粘土鉱物を分散させる。これを50℃以下まで冷却した後、常温のハイドロフルオロエーテルを徐々に加え、良く混合する。ここで、シリコーン系樹脂の一部または全部は予めハイドロフルオロエーテルに溶解させた後に混合する場合もある。次に50℃以下にて水相成分を添加し、ホモミキサーで乳化後、所定の気密容器に装てんして目的の油中水型ファンデーションを得る。」 (ウ)「【0029】 ファンデーションの成分組成及び評価試験結果を表1に示す。 【0030】 【表1】 」 イ 以上より、引用文献1には以下の発明が記載されていると認める。 (ア)引用発明1(特に上記摘示(ア)および(ウ)の比較例4の処方より) 「環状シリコン(5量体)5質量%、ポリエーテル変性シリコーン3質量%、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン5質量%、精製水23.2質量%、NステアロイルLグルタミン酸アルミニウム処理酸化チタン5質量%、NεラウロイルLリジン処理タルク10質量%、シリコーンパウダー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 トレフィルE-505C)3質量%を含有する、油中水型ファンデーション用組成物。」 (イ)引用発明2(特に上記摘示(ア)および(ウ)の比較例4の処方、並びにファンデーション用組成物を使用すること、すなわち皮膚に適用することは、皮膚にメークアップを施すことであることより) 「皮膚にメークアップを施すための方法において、環状シリコン(5量体)5質量%、ポリエーテル変性シリコーン3質量%、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン5質量%、精製水23.2質量%、NステアロイルLグルタミン酸アルミニウム処理酸化チタン5質量%、NεラウロイルLリジン処理タルク10質量%、シリコーンパウダー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 トレフィルE-505C)3質量%を含有する、油中水型ファンデーション用組成物を皮膚に適用することを含む方法。」 (ウ)引用発明3(特に上記摘示(ア)および(ウ)の実施例7の処方より) 「環状シリコン(5量体)8質量%、ポリエーテル変性シリコーン3質量%、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン2質量%、精製水21.2質量%、酸化チタン5質量%、黄酸化鉄3質量%、黒酸化鉄0.5質量%、NεラウロイルLリジン処理タルク6質量%、シリコーンパウダー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 トレフィルE-505C)5質量%を含有する、油中水型ファンデーション用組成物。」 (エ)引用発明4(特に上記摘示(ア)および(ウ)の実施例7の処方、並びにファンデーション用組成物を使用すること、すなわち皮膚に適用することは、皮膚にメークアップを施すことであることより) 「皮膚にメークアップを施すための方法において、環状シリコン(5量体)8質量%、ポリエーテル変性シリコーン3質量%、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン2質量%、精製水21.2質量%、酸化チタン5質量%、黄酸化鉄3質量%、黒酸化鉄0.5質量%、NεラウロイルLリジン処理タルク6質量%、シリコーンパウダー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 トレフィルE-505C)5質量%を含有する、油中水型ファンデーション用組成物を皮膚に適用することを含む方法。」 (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)引用文献1に対する新規性の検討 a 本件訂正発明1について (a)対比 本件訂正発明1と、引用発明1とを対比すると、両者は以下の点で相違する。 相違点1: 非乳化性の非被覆シリコーンエラストマーに関して、本件訂正発明1は、粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマーであるのに対し、引用発明1は、シリコーンパウダーであるトレフィルE-505Cである点 相違点2: 溶媒に関して、本件訂正発明1は、エラストマー用と特定され、それがシクロペンタシロキサンを含むものであるのに対し、引用発明1は、シクロペンタシロキサンを含むものの、エラストマー用との特定はなされていない点 (b)判断 相違点1について 引用発明1に含有されているシリコーンパウダーであるトレフィルE-505Cは、その記載のとおりパウダー状であるから、ゲル形態ではない。また、出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、トレフィルE-505Cをゲル形態のものに代えることが自明であるともいえない。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。 相違点2について 「エラストマー用の溶媒」に関連して、本件特許明細書には「商業的に入手可能な非被覆シリコーンエラストマー、例えばDC-9040、DC-9041、DC-9045、KSG-15及びUSG-103は、既にゲルの形態で存在しており、ここでエラストマーは、シクロメチコーン、ジメチコーン又は他のシリコーン油等の溶媒中で調製されている。」(【0010】)と記載されていることからみて、エラストマー用の溶媒とは、エラストマーを調製する際に使用される溶媒であると解される。 そこで、引用発明1の組成物の調製方法(上記摘示(イ))着目し、併せてシリコーンパウダーであるトレフィルE-505Cは、上記摘示(ウ)に「顔料計」との項目があり、その「顔料計」の数値は、「酸化チタン」から「シリコーンパウダー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製 トレフィルE-505C)」までの含有量の合計量となることからみて、引用発明1において、シリコーンパウダーは、「シリコーン系樹脂」としてではなく、「顔料」として含有されていること、及びシクロペンタシロキサンは、技術常識からみて「ハイドロフルオロエーテルを除く油溶性成分」であることを考慮すれば、引用発明1の組成物の調製の過程において、「顔料」と「ハイドロフルオロエーテルを除く油溶性成分」とは別工程で混合されていることから、「シクロペンタシロキサン」は、「シリコーンパウダーであるトレフィルE-505C」、すなわち「シリコーンエラストマー」を調製する際に使用される溶媒とはいえない。 したがって、引用発明1に含有されるシクロペンタシロキサンは、「エラストマー用の溶媒」ではないため、上記相違点2は実質的な相違点である。 以上より、上記相違点1、2は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、引用文献1に対して、上記相違点1、2の点で新規性を有するものである。 b 本件訂正発明2、3、5、6、8、10、11、13 (a)対比 本件訂正発明2、3、5、6、8、10、11、13と、引用発明1とを対比すると、両者は上記相違点1および2の点で相違する。 (b)判断 上記「(4)ア(ア)a(b)判断」で述べたとおり、上記相違点1、2は実質的な相違点であるから、本件訂正発明2、3、5、6、8、10、11、13 は、引用文献1に対して、上記相違点1、2の点で新規性を有するものである。 c 本件訂正発明14について (a)対比 本件訂正発明14と、引用発明2とを対比すると、両者は上記相違点1および2の点で相違する。 (b)判断 上記「(4)ア(ア)a(b)判断」で述べたとおり、上記相違点1、2は実質的な相違点であるから、本件訂正発明14は、引用文献1に対して、上記相違点1、2の点で新規性を有するものである。 (イ)引用文献1に基づく進歩性の検討 a 本件訂正発明1について (a)対比 本件訂正発明1と、引用発明3とを対比すると、両者は以下の点で相違する。 相違点3: 非乳化性の非被覆シリコーンエラストマーに関して、本件訂正発明1は、粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマーであるのに対し、引用発明3は、シリコーンパウダーであるトレフィルE-505Cである点 相違点4: 溶媒に関して、本件訂正発明1は、エラストマー用と特定され、それがシクロペンタシロキサンを含むものであるのに対し、引用発明3は、シクロペンタシロキサンを含むものの、エラストマー用との特定はなされていない点 (b)判断 上記相違点3について 引用文献1および異議申立人が提出した証拠には、上記相違点3に係る構成自体の開示はない。 また、上記相違点3に関連して、甲第4号証(特開2006-1918号公報。以下、「甲4」という。)には、「架橋型シリコーンジメチルシリコーン」である「KSG-15(架橋型ジメチルシリコーンを約5質量%、5量体環状シリコーンを約95質量%含有、信越化学工業社製)」が記載され(【0021】)、「KSG-15」は、本願明細書の【0010】の記載によれば、「粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」ではあるものの、引用文献1の記載や出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、引用発明3に含有される一成分であるトレフィルE-505Cを、甲4に開示された「KSG-15」に代えることの動機付けが見当たらない。 上記相違点4について 引用文献1および異議申立人が提出した証拠には、上記相違点4に係る構成の開示はない。 そもそも、「エラストマー用の溶媒」については、上記相違点2で検討したとおり、エラストマーを調製する際に使用される溶媒であると解されるところ、引用発明3の組成物に含有されるシクロペンタシロキサンを、シリコーンパウダーを予め調製する際に使用することへの動機付けも見当たらないし、新たにエラストマー用の溶媒を追加し、シリコーンパウダーを予め調製することへの動機付けも見当たらない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用発明3から、想到容易であるということはできない。 b 本件訂正発明2~13について (a)本件訂正発明2~13と、引用発明3とを対比すると、両者は上記相違点3および4の点で相違する。 (b)判断 上記「(4)ア(イ)a(b)判断」と同様の理由により、本件訂正発明2~13は、引用発明3から、想到容易であるということはできない。 c 本件訂正発明14について (a)対比 本件訂正発明14と、引用発明4とを対比すると、両者は上記相違点3および4の点で相違する。 (b)判断 上記「(4)ア(イ)a(b)判断」と同様の理由により、本件訂正発明14は、引用発明4から、想到容易であるということはできない。 (ウ)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)の検討 a 本件訂正発明に適用されるサポート要件について 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。 b 本件訂正発明に係るサポート要件の充足の有無について これを本件訂正発明についてみると、本件訂正発明の解決課題は、本件特許明細書の発明の背景に関する「化粧品、特にファンデーション等の有色の化粧品は、皮膚の色調に適合させ、皮膚に均一な被覆を付与する目的で開発されている。ある種の化粧品は適用時に筋が入り、自然な皮膚の色調と混和しないか、又は適用中に色を変化させる。他の製品は不安定であり、保存中に分離し、よって適用前に混合する必要がある。」(【0001】)との記載より、有色の化粧品における色調や安定性の問題であると認められる。 そして、本件特許明細書の「本出願人は、非被覆シリコーンエラストマーを含む本発明組成物が、化粧品工業で一般的に使用されている被覆シリコーンエラストマーを含む組成物と比較して、かなり長時間、安定していることを見出した。」(【0004】)、「当業者が予想するものとは逆に、本出願人は、非シリコーン処理顔料が、保存中に再凝集しない傾向にあると考えている。」(【0005】)、「しかしながら、本発明の組成物は非被覆シリコーンエラストマーの存在を必要とする。本出願人は、非被覆シリコーンエラストマーは、「非乳化性」と考えられるものでさえ、少なくとも本発明においては、安定したエマルションを形成することを見いだした。」(【0006】)との記載によれば、非被覆シリコーンエラストマーを含むことで、上記課題を解決するとされている。 また、本件特許明細書の実施例1においては、非乳化性の非被覆シリコーンエラストマーである、商品名DC9045を含有する組成物が、「ファンデーションは安定しており、皮膚への適用時、皮膚色調に変化はなかった。」(【0046】)とされ、有色の化粧品における色調や安定性の問題が解決されたことが実際に確認されていることからみても、組成物が非乳化性の非被覆シリコーンエラストマーを含有することで課題の解決を図るものであることを当業者は認識できるといえる。 したがって、「(i)非乳化性の非被覆シリコーンエラストマー」との発明特定事項を備える本件訂正発明は、当業者が本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、サポート要件を満たすものである。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (ア)異議申立人は、特許請求の範囲の請求項1~14に関し、特許異議申立書(16頁9行~17頁9行)において、甲1(引用文献1)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることを主張する。 そこで、甲1に基づく進歩性について検討する。 甲1に記載された発明を、特許異議申立書16頁9行に記載のとおり、比較例4に基づいて認定すると、上記「(3)引用文献の記載 イ」で認定した引用発明1又は2となる。 そして、本件訂正発明との相違点としては、上記「(4)判断 ア(ア)a(a)」での相違点1および2と同様の相違点が挙げられる。 まず、相違点1から検討する。 引用文献1および異議申立人が提出した証拠には、上記相違点1に係る構成自体の開示はない。 また、上記相違点1に関連して、甲4には、「架橋型シリコーンジメチルシリコーン」である「KSG-15(架橋型ジメチルシリコーンを約5質量%、5量体環状シリコーンを約95質量%含有、信越化学工業社製)」が記載され(【0021】)、「KSG-15」は、本願明細書の【0010】の記載によれば、「粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」ではあるとはいえるものの、引用文献1の記載や本願出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、引用発明1又は2に含有される一成分であるトレフィルE-505Cを、甲4に開示された「KSG-15」に代えることの動機付けが見当たらない。 そもそも、比較例4は、引用文献1の【0030】【表1】に示されるとおり、保存安定性を「×」と評価されたものであり、本件訂正発明の解決課題が、上記サポート要件の検討(「(4)判断 ア(ウ)」)で述べたとおり、有色の化粧品における色調や安定性の問題であることを併せてみれば、当業者は比較例4の組成に着目する動機付けがないともいえるものである。 また、相違点2については、引用文献1および異議申立人が提出した証拠には、上記相違点2に係る構成自体の開示はない。 そもそも、「エラストマー用の溶媒」については、上記相違点2で検討したとおり、エラストマーを調製する際に使用される溶媒であると解されるところ、引用文献1や本願出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、引用発明1又は2の組成物に含有されるシクロペンタシロキサンを、シリコーンパウダーを予め調製する際に使用することへの動機付けも見当たらないし、新たにエラストマー用の溶媒を追加し、シリコーンパウダーを予め調製することへの動機付けも見当たらない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1~14は、引用発明1又は2から、想到容易であるということはできない。 (イ)異議申立人は、特許請求の範囲の請求項1、2、5~7、10、11、13、14に関し、特許異議申立書14頁13行~16頁7行において、甲第3号証(特開2004-169397号公報。以下、「甲3」という。)に記載された発明であること、及び請求項1~14に関し、特許異議申立書20頁22行~21頁18行において、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることを主張する。 そこで、甲3に対する新規性および進歩性について検討する。 甲3に記載された発明は、特許異議申立書の14頁13行~20行に記載のとおり、実施例4に基づいて、以下のとおり認定できる(以下、「甲3発明」という。)。 「架橋型シリコーン末 0.5質量%、メチルシクロポリシロキサン 15.0質量%、N-ラウロイルリジン処理ベンガラ 0.2質量%、N-ラウロイルリジン処理黄酸化鉄 0.8質量%、N-ラウロイルリジン処理黒酸化鉄 0.1質量%、モノイソステアリン酸ソルビタン 2.0質量%等を含有する乳化ファンデーション。」 しかしながら、甲3発明の乳化ファンデーションには、本件訂正発明の発明特定事項である「エラストマー用溶媒」であり、「前記溶媒がシクロペンタシロキサン」は含有されていない。また、甲3発明において、「エラストマー用溶媒」であり、「前記溶媒がシクロペンタシロキサン」を含有させることの動機付けも見当たらない。 さらに、甲3発明の乳化ファンデーションに含有される架橋型シリコーン末は、その記載ぶりから粉末であることが自明であるため、本件訂正発明の発明特定事項である「前記エラストマーが粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」には相当せず、したがって、この点も相違点となるが、甲3および異議申立人が提出した証拠には、この相違点に係る構成の開示はない。 また、甲4には、「KSG-15(架橋型ジメチルシリコーンを約5質量%、5量体環状シリコーンを約95質量%含有、信越化学工業社製)」が記載され(【0021】)、「KSG-15」は、本願明細書の【0010】の記載によれば、「粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」ではあるとはいえるものの、甲3の記載や出願時(優先日)の技術常識を参酌しても、甲3発明に含有される一成分であるトレフィルE-505Cを、甲4に開示された「KSG-15」に代えることの動機付けが見当たらない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1、2、5~7、10、11、13、14は、甲3発明ではない。また、本件訂正発明1~14は、甲3発明から、想到容易であるということはできない。 (ウ)異議申立人は、特許請求の範囲1~14に関し、特許異議申立書21頁19行~27頁23行において、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであることを主張する。 そこで、甲4に対する進歩性について検討する。 甲4に記載された発明は、特許異議申立書の21頁19行~同頁最終行に記載のとおり、実施例3に基づいて、また、特許異議申立書の24頁17行~同頁最終行に記載のとおり、実施例4に基づいて、各々以下のとおり認定できる。 「架橋型ジメチルシリコーン混合物(KSG-15) 1.0質量%、5量体環状シリコーン 7.0質量%、ポリエーテル変性シリコーン混合物 5.0質量%、 架橋型ポリエーテル変性シリコーン混合物(KSG-210) 5.0質量%等を含有する化粧下地。」(以下、「甲4発明1」という。) 「5量体環状シリコーン 2.0質量%、ラウロイルリジン被覆酸化チタン 8.0質量%、ラウロイルリジン被覆ベンガラ 0.2質量%、ラウロイルリジン被覆黄酸化鉄 0.7質量%、ラウロイルリジン被覆黒酸化鉄 0.1質量%、ラウロイルリジン被覆タルク 1.0質量%、分岐型ポリエーテル変性シリコーン(KF-6028) 1.0質量%、架橋型ポリエーテル変性シリコーン混合物(KSG-210) 10.0質量%等を含有するファンデーション。」(以下、「甲4発明2」という。) まず、本件訂正発明と、甲4発明1とを対比すると、相違点としては、少なくとも特許異議申立書22頁12行~同頁13行に記載のとおりの相違点を有する。 しかしながら、甲4発明1は化粧下地に係る発明であるところ、化粧下地にN-アシルアミノ酸処理した複数の顔料を含有させることが、出願時(優先日)の技術常識であるとはいえないから、甲4に、「本発明の油中水型乳化化粧料には、上記の必須成分に加えて、必要に応じて・・・顔料等を配合することが出来る。」(【0011】)との油中水型乳化化粧料一般に関する記載があっても、甲4発明1が化粧下地に係る発明である以上、甲4発明1にN-アシルアミノ酸処理した複数の顔料を含有させることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 次に、本件訂正発明と、甲4発明2とを対比すると、相違点としては、少なくとも特許異議申立書25頁12行~同頁13行に記載のとおりの相違点を有する。 しかしながら、甲4には、「非乳化性の非被覆シリコーンエラストマー」であり、「エラストマーが粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」を含有することの記載や示唆はなく、また化粧料に、「非乳化性の非被覆シリコーンエラストマー」であり、「エラストマーが粒子状物質を含まないゲル形態である透明から半透明のジメチコーン架橋ポリマー」を含有させることが、出願時(優先日)の技術常識であるともいえない。 また、甲4発明2のファンデーションに係る発明とは用途が異なる実施例3の化粧下地の処方に着目し、架橋型ジメチルシリコーン混合物(KSG-15)を甲4発明2の組成物に含有させることの動機付けも見当たらない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1~14は、甲4発明1又は2から、想到容易であるということはできない。 4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2016-700295

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