特許異議申立
2023-700288
窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法
- 審判番号
- 2023-700288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-526374
- 登録番号
- 7140939
- 請求日
- 2023年03月16日
- 審決日
- 2023年06月06日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.121-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7140939号発明「窒化ホウ素粉末、及び窒化ホウ素粉末の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7140939号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7140939号の請求項1~7に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)9月27日(優先権主張 令和2年9月30日(以下、「本件特許出願の優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、令和4年9月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年3月16日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7140939号の請求項1~7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1~7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末であって、
純度が98.5質量%以上であり、
平均粒子径が30~100μmであり、
配向性指数が5以上であり、
黒鉛化指数が2.3以下であり、
炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である、窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり0.05~10個である、請求項1に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
不純物炭素量が170ppm以下である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
平均粒子径が30~100μmであり、比表面積が0.8~8.0m2/gである、請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含み、純度が98.0質量%以上である六方晶窒化ホウ素を含む原料粉末を、酸素の割合が15体積%以上の雰囲気下において、500℃以上の温度で加熱処理することによって、純度が98.5質量%以上であり、平均粒子径が30~100μmであり、配向性指数が5以上であり、黒鉛化指数が2.3以下であり、炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である、窒化ホウ素粉末を得ることを含む、窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉末の配向性指数が30以下である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料粉末の黒鉛化指数が2.3以下である、請求項5又は6に記載の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第5号証を提出し、以下の理由により、請求項1~7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~4は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件発明1~7は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2019-218254号公報
甲第2号証:特開2019-116401号公報
甲第3号証:特開平11-26661号公報
甲第4号証:特開平9-202663号公報
甲第5号証:特開平11-79720号公報
第4 申立理由1(進歩性)について
1 甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明等
(1) 甲第1号証(特開2019-218254号公報)
ア 本件特許出願の優先日前に頒布された甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素凝集体を含み、そして全ホウ素中の11Bの存在比が90%以上であり、JIS-K-6217-4に準拠して測定して算出される最大トルクが0.20~0.50Nm、DBP吸収量が50~100ml/100g、及び、タップ嵩密度が0.66~0.95g/cm3であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
比表面積が1.3~7.0m2/gの請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度90%の粒径が50~150μmである請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
窒化ホウ素純度が99.95質量%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
・・・
【請求項9】
11B濃縮含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物および11B濃縮炭化ホウ素を、11B濃縮含酸素ホウ素化合物のB換算質量とカーボン源のC換算質量の比B/C(元素比)が0.75~1.05、11B濃縮含酸素ホウ素化合物のB2O3換算質量とカーボン源のC換算質量の合計量100質量部に対して含酸素カルシウム化合物がCaO換算で5~20質量部、そして11B濃縮含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素カルシウム化合物の、それぞれB2O3、CおよびCaO換算質量の合計量100質量部に対して上記11B濃縮炭化ホウ素が10~45質量部、11B濃縮含酸素ホウ素化合物および11B濃縮炭化ホウ素に含まれる全ホウ素中の11Bの濃縮度が90%以上となる割合で混合し、該混合物を窒素雰囲気下にて1700~2100℃の温度に加熱して、還元窒化することを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アにおける【請求項1】、【請求項3】、【請求項4】の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「六方晶窒化ホウ素凝集体を含み、そして全ホウ素中の11Bの存在比が90%以上であり、JIS-K-6217-4に準拠して測定して算出される最大トルクが0.20~0.50Nm、DBP吸収量が50~100ml/100g、及び、タップ嵩密度が0.66~0.95g/cm3であり、
湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度90%の粒径が50~150μmであり、
窒化ホウ素純度が99.95質量%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。」
(2)甲第2号証(特開2019-116401号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体を含む六方晶窒化ホウ素粉末であって、
平均一次粒子径が0.5μm以上10.0μm未満、50%体積累積粒径D50が10.0~150.0μm、BET比表面積が1.0m2/g以上10.0m2/g未満、嵩密度が0.50~2.00g/cm3であり、
体積基準の頻度分布を表す粒度分布曲線において、粒径1.0μm以上20.0μm未満の範囲にピークAを有し、粒径20.0μm以上200.0μm未満の範囲にピークBを有し、
該六方晶窒化ホウ素粉末を下記条件1にて3分間超音波処理したときの、処理前の前記ピークAの高さa1と前記ピークBの高さb1の比(a1/b1)が0.07~0.80、処理後の前記ピークAの高さa2と前記ピークBの高さb2の比(a2/b2)が0.40~2.00である、六方晶窒化ホウ素粉末。
[条件1]胴内径40mm、高さ60mmの50mLガラス製ビーカーに、該六方晶窒化ホウ素粉末の0.12質量%の20℃の水分散液50mLを入れ、超音波発生機の振動子のチップの先端を前記ビーカーの中央部の底面から1cmの高さにセットして、出力150W、発振周波数19.5kHzで超音波処理する。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、h-BNの一次粒子の凝集体を含むh-BN粉末について、所定の粒度分布を有し、かつ、前記凝集体が所定の凝集強度を有するものであることにより、樹脂等の絶縁性放熱材のフィラーとして用いた場合に、該絶縁性放熱材の放熱性及び絶縁性が向上することを見出したことに基づくものである。」
「【0019】
(50%体積累積粒径D50)
前記h-BN粉末は、D50が10.0~150.0μmであり、好ましくは20.0~120.0μm、より好ましくは30.0~100.0μmである。D50が10.0μm以上であることにより、前記凝集体が十分な凝集強度を有するものとすることができる。また、150.0μm以下であることにより、前記樹脂等の熱伝導率及び耐電圧を高めるのに十分な充填率とすることができる。
なお、本発明で言うD50とは、レーザー回折散乱法によって測定された値である。具体的には、下記実施例に記載のマイクロトラック(登録商標)粒度分布測定装置で測定した値である。」
「【0073】
(h-BN原料粉、炭化ホウ素及びh-BN粉末の50%体積累積粒径D50)
粉末試料0.06g、水(20℃)50g、及び分散剤として洗剤(「ママレモン」、ライオン株式会社製)0.005gを含む、粉末試料濃度0.12質量%の分散液を調製した。前記分散液をマグネティックスターラーで400rpmで撹拌しながら、レーザー回折散乱法による粒度分布測定装置(「マイクロトラック(登録商標)MT3300EXII」、日機装株式会社製)にて粒度分布を測定し、D50を求めた。」
(3)甲第3号証(特開平11-26661号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第3号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】 六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなる松ボックリ状窒化ホウ素を付加反応型液状シリコーン固化物に含有させてなることを特徴とする放熱スペーサー。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高柔軟性を有し、電子機器に組み込んだ時の発熱性電子部品への負荷を小さくした放熱スペーサーに関するものである。」
「【0012】本発明で使用される松ボックリ状窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の一次粒子が凝集してその粒径が45μm以上となったものを20重量%以上含有しているものであり、高結晶性で配向性が殆どないことが特徴である。このような松ボックリ状窒化ホウ素の結晶性と配向性の評価は、粉末X線回析法によって行うことができる。
【0013】すなわち、結晶性は粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI=GraphitizationIndex)の程度で評価することができ、そのGIはX線回折図上の(100)、(101)、(102)回折線の積分強度(面積)から、GI=[面積{(100)+(101)}]/[面積(102)]、で求めることができる。
【0014】結晶性が高くなるほどGIは小さくなり、配向性がなく極めて結晶性の高い窒化ホウ素ではGI=1.4~1.6である。しかしながら、実際の粉末X線回折測定においては、配向の影響を完全に除去することができないため、GIはこれよりも小さくなることがある。本発明で使用される松ボックリ状窒化ほう素粉末のGIは高結晶性であるため、1.0~2.0である。
【0015】次に、配向性はGIによってもある程度は評価できるが、正確な評価は粉末X線回折法による(002)回折線の強度I002 と(100)回折線の強度I100との比(I002 /I100 )(以後、これを配向性指数[OI=Orientation Index ]と記す)によって行うことができる。配向性が殆どない窒化ホウ素粉末ではOI=6~7であり、配向性が大きくなるにつれてOIは大きくなる。本発明で使用される松ボックリ状窒化ホウ素は、OI=6~20で配向性は小さい。」
(4)甲第4号証(特開平9-202663号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第4号証には、以下の記載がある。
「【請求項3】 六方晶窒化ほう素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなることを特徴とする六方晶窒化ほう素粒子。
【請求項4】 結合剤を含有することなく一次粒子同士が松ぽっくり状に集合してなることを特徴とする請求項3記載の六方晶窒化ほう素粒子。
【請求項5】 請求項3又は4記載の六方晶窒化ほう素粒子20~100重量%とそれ以外の窒化ほう素粒子80~0重量%との混合物からなり、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.0~2.5であり、(002)回折線の強度I002 と(100)回折線の強度I100 との比(I002 /I100 )が6~20であることを特徴とする六方晶窒化ほう素粉末。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ほう酸メラミン粒子とその製造方法、及びそのほう酸メラミン粒子を用いて製造された六方晶窒化ほう素粒子と六方晶窒化ほう素粉末、該六方晶窒化ほう素粉末を含む樹脂/又はゴム組成物、六方晶窒化ほう素焼結体製造用粉末原料、該六方晶窒化ほう素焼結体製造用粉末原料を焼結してなる六方晶窒化ほう素焼結体、並びに六方晶窒化ほう素粉末の製造方法に関する。」
「【0028】本発明のhBN粉末においては、その結晶性が高いことが望ましく、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI=Graphitization Index)が1~2.5特に1.4~1.6であることが好ましい。GIは、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比を次式によって算出することによって求めることができる。(J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc. 84,4619(1962))。
GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕
【0029】また、本発明のhBN粉末においては、その配向性が小さいことが望ましく、粉末X線回折法による(002)回折線の強度I002 と(100)回折線の強度I100 との比(I002 /I100 )(以下、「OI」という。OIはOrientationIndex :配向性指数の略である)が、6~20であることが好ましい。このOI値は、従来の高結晶性hBN粉末のそれ20を越えていたのに対し小さいことが特徴である。」
(5)甲第5号証(特開平11-79720号公報)
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第5号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】 粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI)が1.20以下であり、(002)回折線の強度I002 と(100)回折線の強度I100 との比(I002 /I100 )が25.0以上であることを特徴とする六方晶窒化ほう素粉末。」
「【0012】六方晶窒化ほう素粉末の結晶性の評価については、通常、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI=Graphitization Index)が用いられる。GIは、X線回折図の(100)、(101)及び(102)線の積分強度比すなわち面積比を、GI=〔面積{(100)+(101)}〕/〔面積(102)〕、によって求めることができ(J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc.84,4619(1962))、この値が小さいほど結晶性が高い。
【0013】上記のようにGIは六方晶窒化ほう素粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなり完全に結晶化(黒鉛化)したものではGI=1.60になるとされている。しかし、高結晶性でかつ粒子が充分に成長した六方晶窒化ほう素粉末の場合、粉末が配向しやすいためGIはさらに小さくなる。
【0014】本発明の六方晶窒化ほう素粉末は、GI値が1.20以下であることが特徴であり、粒子が充分に成長しており、しかも結晶性の高い粉末である。従来、GI値が1.20以下の六方晶窒化ほう素粉末は知られていない。
【0015】一方、六方晶窒化ほう素粉末の配向性の評価については、粉末X線回折法による(002)回折線の強度I002 と(100)回折線の強度I100 との比I002/I100 (以下、「OI」という。OIはOrientation Index =配向性指数の略である。)によって行うことができる。全く配向していない六方晶窒化ほう素粉末においてはOI=6.25になる。六方晶窒化ほう素の鱗片形状が発達し、配向性が大きくなるにつれてOIは大きくなる。
【0016】本発明の六方晶窒化ほう素のOI値は25.0以上である。これは、従来の高結晶性六方晶窒化ほう素のOI値が7.5~22.5程度であったことに比べて特異的である。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「六方晶窒化ホウ素凝集体を含」む「六方晶窒化ホウ素粉末」は、本件発明1の「六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末」に相当する。
イ 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む窒化ホウ素粉末。」
<相違点>
相違点1:本件発明1は、「純度が98.5質量%以上」であるのに対し、甲1発明は、「窒化ホウ素純度が99.95質量%以上」である点。
相違点2:本件発明1は、「平均粒子径が30~100μm」であるのに対し、甲1発明は、「湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度90%の粒径が50~150μm」である点。
相違点3:本件発明1は、「配向性指数が5以上」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点4:本件発明1は、「黒鉛化指数が2.3以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
相違点5:本件発明1は、「炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点5から検討する。
相違点5に係る本件発明1の構成、すなわち、「炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下」であることは、甲第1号証~甲第5号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、相違点5に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、その他の相違点についてするまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の15ページ11行~16ページ下から7行において、以下の主張をしている。
本件発明1の「炭素を含む粒子の個数」における「炭素」は、窒化ホウ素粉末中に不純物として含まれるものであり(本件明細書【0028】)、窒化ホウ素粉末を製造する際に、酸化処理工程を行うことによって不純物炭素量および炭素含有粒子の個数を低減でき(同【0065】)、さらに、加熱温度700℃で酸化処理工程を実施した実施例1、3~8、酸化処理工程の加熱温度が550℃と低い実施例2、酸化処理工程を行わなかった比較例1の結果(【0074】~【0083】)より、窒化ホウ素粉末における「不純物炭素量」と「炭素を含む粒子の個数」との間には相関があり、不純物炭素量が低いほど炭素を含む粒子の個数が少なくなることが分かり、そして、上記実施例2の結果から、少なくとも不純物炭素量が150ppm以下であれば、炭素含有有粒子の個数も本件発明1の範囲内(10個以下)となることが分かる。
一方、甲1発明の窒化ホウ素粉末は「純度」が99.95質量%以上であるが、前記「純度」は「蛍光X線分析法により測定された不純物元素の含有質量割合を100から引いた値」であるから、100から前記純度を引くことによって不純物元素の含有量を求めることができ、例えば、甲第1号証の表2に示された実施例1~8においては、すべて前記純度が99.99質量%であるから、不純物量は(100-99.99)質量%=0.01質量%(100ppm)となり、ここで、上記の手順で求められる甲第1号証における不純物量は、B、N以外のすべての不純物元素の総量である(【0050】)から、甲第1号証の実施例1~8のように不純物量がl00ppmである場合、そのうちの炭素原子の量、すなわち不純物炭素量は、l00ppmよりもさらに低い値となる。
そうすると、甲第1号証の実施例1~8における不純物炭素量は、本件明細書の実施例2における不純物炭素量(150ppm)よりも十分に低いものであるから、甲第1号証の実施例1~8程度の純度を有する窒化ホウ素粉末であれば、「炭素を含む粒子の個数」についても本件発明1の範囲を満たす蓋然性が高いといえる。
してみれば、甲第1号証の【0050】には、不純物に起因する樹脂の硬化阻害や熱伝導率、絶縁耐力低下などを抑制するために純度を高めることが記載されているのであるから、甲1発明において、甲第1号証の実施例1~8程度まで不純物量を低減し、その結果として炭素を含む粒子の個数を、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下とすることは容易になし得ることといえる。
イ 検討
申立人の主張のとおり、本件明細書の【0028】、【0065】、【0074】~【0083】の記載によれば、窒化ホウ素粉末を製造する際に、酸化処理工程を行うことによって不純物炭素量および炭素含有粒子の個数を低減でき、実施例1~8、及び比較例1においては、窒化ホウ素粉末における「不純物炭素量」と「炭素を含む粒子の個数」との間には相関があるといえる。
ここで、本件明細書の【0071】~【0075】の記載によれば、実施例1の窒化ホウ素粉末は、オルトホウ酸とアセチレンブラックとの混合物を、アルゴン雰囲気下で、2200℃、6時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得て、得られた塊状物を粗粉砕して粗粉を得て、得られた粗粉を、ボールミルによって、さらに回転数20rpmで40分間粉砕して粉砕粉を得て、その後、目開き90μmの振動篩を用いて、粉砕粉を分級し炭化ホウ素粉末を得て、調製した炭化ホウ素粉末を、カーボン式抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下、焼成温度2050℃、かつ圧力0.90MPaの条件で12時間加熱して炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得て、その後、引き続き、大気雰囲気、かつ焼成温度700℃の条件で5時間加熱した焼成物とホウ酸とを混合し、得られた混合物を、抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下、大気圧の圧力条件で、室温から1000℃まで昇温速度10℃/分で昇温し、引き続いて、1000℃から昇温速度2℃/分で1880℃まで昇温し、1880℃で、5時間保持して加熱することによって、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集して構成される凝集粒子を含む粉末を得て、得られた粉末を解砕した後、通篩することで純度99.2質量%の原料粉末を得て、次に、得られた原料粉末に対し、大気圧雰囲気下(酸素の割合21体積%)、700℃、1rpmで粉末を炉内攪拌させながら、2時間酸化処理して、原料粉末中の炭素分(不純物炭素等)を除去することにより得られるものである。
また、同【0076】~【0082】の記載によれば、実施例2~8の窒化ホウ素粉末は、実施例1における、酸化処理の加熱温度(実施例2)、原料粉末の調製におけるホウ酸量と抵抗加熱炉焼成の温度(実施例3)、炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の処理時間(実施例4)、炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の回転数と時間(実施例5)、原料粉末の調製におけるホウ酸量と抵抗加熱炉焼成の温度(実施例6)、原料粉末の調製における抵抗加熱炉焼成の温度(実施例7)、炭化ホウ素粉末の調製におけるボールミルによる粉砕の回転数と時間、振動篩の目開き、原料粉末の調製におけるホウ酸量、及び抵抗加熱炉焼成の温度(実施例8)をそれぞれ変更することにより調製されるものである。
さらに、同【0083】の記載によれば、比較例1の窒化ホウ素粉末は、酸化処理工程及び乾燥工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして調製されるものである。
一方、甲第1号証の【請求項9】の記載によれば、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素粉末」は、11B濃縮含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物および11B濃縮炭化ホウ素を混合し、該混合物を窒素雰囲気下にて1700~2100℃の温度に加熱して、還元窒化することにより製造するものである。
以上によれば、本件明細書の実施例1~8、及び比較例1の窒化ホウ素粉末の製造方法と、甲第1号証の窒化ホウ素粉末の製造方法とは、原料及び製造条件が異なるものである。
そうすると、甲1発明の「六方晶窒化ホウ素粉末」は、本件明細書の実施例1~8、及び比較例1の窒化ホウ素粉末における「不純物炭素量」と「炭素を含む粒子の個数」との間の相関と同様の相関があるとはいえない。
したがって、請求人の主張するとおり、甲第1号証の実施例1~8において、炭素原子の量、すなわち不純物炭素量が、l00ppmよりもさらに低い値であるとしても、当該実施例1~8における「窒化ホウ素粉末10gあたり」の「炭素を含む粒子の個数」は不明であり、本件発明1の範囲を満たす蓋然性が高いとはいえない。
そして、甲第1号証~甲第5号証のいずれにも、「窒化ホウ素粉末10gあたり」の「炭素を含む粒子の個数」は記載も示唆もされていないから、甲1発明において、当該「炭素を含む粒子の個数」を10個以下とすることは、当業者であれば容易になし得ることとはいえない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
(4)小括
以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明2~4について
本件発明2~4は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
4 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由1は、理由がない。
第5 申立理由2(明確性要件)
1 本件発明1、5における「炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である」ことについて
(1)本件明細書には以下の記載がある。
「【0024】
窒化ホウ素粉末には、一般に六方晶窒化ホウ素の無色の粒子に加えて、有色の粒子が含まれ得る。この有色の粒子としては、例えば、炭素を含む粒子、及び着磁性を有する粒子等が挙げられる。これに対して、本実施形態に係る窒化ホウ素粉末は純度の高いことに加え、更に炭素を含む粒子(以下、炭素含有粒子ともいう)の含有量が低減されたものとなっている。炭素を含む粒子(以下、炭素含有粒子ともいう)は導電性を有するものであることが多く、窒化ホウ素粉末の性状への影響が比較的大きいことから、炭素含有粒子の含有量を低減することによって絶縁性能を向上させることができる。なお、上述の有色の粒子の色味は、六方晶窒化ホウ素の粒子とは異なることを意味するものであって、色味を特定するものではない。炭素を含む粒子、及び着磁性を有する粒子は、一般に、褐色、又は黒色であるが、炭素の含有量及び着磁性成分の含有量に応じて色味は変化し得る。
・・・
【0026】
本明細書における炭素含有粒子の個数は、以下のように測定して得られる数である。まず、容器に、測定対象となる窒化ホウ素粉末10gと、エタノール100mLとを測り取り、撹拌棒によって撹拌し、混合溶液を調製する。次に上記混合溶液を、超音波分散器を用いて分散させ、分散液を調製する。得られた分散液を、目開き63μmのふるい(JISZ8801-1:2019「試験用ふるい-金属製網ふるい」)に投入し、その後、蒸留水2L投入する。さらに、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで蒸留水を流し続けふるいにかける。その後、ふるいの上に残ったもの(篩上品)をエタノールで洗浄し、ふるいにかけて篩上品を回収する。篩上品に再度エタノールを投入し、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで更に蒸留水を流し続けて、篩上品をエタノールにて洗浄する。更に、篩上品を容器に移し、エタノール100mLを加えて、上述の操作と同様に撹拌、分散、ふるいの処理を行う。ふるいを通過するエタノール溶液の白濁がなくなるまで同様の操作を繰り返し行う。
【0027】
その後、上述のようにして得た篩上品を乾燥させ薬包紙の上に粉末を分散させ、薬包紙の下に永久磁石を設置し、永久磁石に対して着磁されない粉末を別の薬包紙の上に分散させ、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントする。同様の操作を5サンプル以上について行い、得られた有色粒子の数の算術平均を算出し、この平均値を窒化ホウ素粉末10gあたりの炭素含有粒子の個数とする。なお、炭素を含有するものであることはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)によって測定することで確認できる。」
(2)以上の記載によれば、本件発明1、5の「窒化ホウ素粉末10gあたり」の「炭素を含む粒子の個数」は、以下の方法によって算出するものである。
容器に、測定対象となる窒化ホウ素粉末10gと、エタノール100mLとを測り取り、撹拌棒によって撹拌し、混合溶液を調製し、次に上記混合溶液を、超音波分散器を用いて分散させ、分散液を調製し、得られた分散液を、目開き63μmのふるい(JISZ8801-1:2019「試験用ふるい-金属製網ふるい」)に投入し、その後、蒸留水2L投入し、さらに、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで蒸留水を流し続けふるいにかけ、その後、ふるいの上に残ったもの(篩上品)をエタノールで洗浄し、ふるいにかけて篩上品を回収し、篩上品に再度エタノールを投入し、ふるい下から白濁した水が出なくなるまで更に蒸留水を流し続けて、篩上品をエタノールにて洗浄し、更に、篩上品を容器に移し、エタノール100mLを加えて、上述の操作と同様に撹拌、分散、ふるいの処理を行い、ふるいを通過するエタノール溶液の白濁がなくなるまで同様の操作を繰り返し行い、その後、上述のようにして得た篩上品を乾燥させ薬包紙の上に粉末を分散させ、薬包紙の下に永久磁石を設置し、永久磁石に対して着磁されない粉末を別の薬包紙の上に分散させ、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントし、同様の操作を5サンプル以上について行い、得られた有色粒子の数の算術平均を算出し、この平均値を窒化ホウ素粉末10gあたりの炭素含有粒子の個数とする。
そうすると、本件発明1、5の「窒化ホウ素粉末10gあたり」の「炭素を含む粒子の個数」は、本件明細書に具体的な算出方法が記載されているから明確である。
2 申立人の主張について
(1)申立人は、本件発明1、5における「炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である」点について、以下の主張をしている。
ア 特許異議申立書18ページ下から9行~20ページ9行の主張
本件明細書の【0024】、【0026】~【0027】の説明にあるとおり、本件発明1における「炭素を含む粒子の個数」とは、光学顕微鏡を用いて窒化ホウ素粉末を観察した際に、「有色」である粒子の個数であるが、窒化ホウ素粉末を構成する個々の粒子の色は、連続的に変化するものであるところ、本件明細書の記載を参酌しても、具体的にどのような基準によって「有色」であるか否かを判断するのかが不明である。
仮に特許権者が主張するように、無色で無いものをすべて「有色」であると見なすとしても、光学顕微鏡で親察した際の実際の色味は、無色と、無色でない場合とで明確な境界が有るわけではなく、無色から徐々に明度や彩度が変化するものであるから、そのように連続的に変化する色味において、無色であるかどうかを目視で判定する以上、判定を行う者の主観により判定基準が変化し得ることは明らかである。
イ 特許異議申立書20ページ10行~21ページ6行の主張
本件明細書において採用されている「炭素を含む粒子の個数」の測定方法は、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントするというものであるから、上記測定方法は、「有色」である粒子の数が、「炭素を含む粒子」の数と一致することを前提としているが、光学顕微鏡で観察した際の色味は、不純物炭素以外の要因によっても影響を受けることが明らかであり、したがって、上記の前提が成立しないことは明らかである。
ウ 特許異議申立書21ページ7~8行の主張
以上のとおりであり、本件発明1、5における「炭素を含む粒子の個数」は一義的に決定できるものといえず、したがって、本件発明1、5の技術的範囲は不明確である。
(2)検討
上記1(2)の検討を参酌すると、本件発明1、5においては、測定対象となる窒化ホウ素粉末10gに所定の処理を行った後、薬包紙の上に分散させ、光学顕微鏡によって観察を行い、観測される有色粒子の数をカウントするものであるから、観察視野中のほぼ全体が無色であり、その中で色が異なるものを有色と判断するものといえる。
また、本件明細書の【0027】には、「なお、炭素を含有するものであることはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)によって測定することで確認できる。」と記載されているように、炭素を含有する粒子は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)によって測定することで確認できるものである。
以上によれば、本件発明1、5における「炭素を含む粒子の個数」は一義的に決定できるものである。
したがって、申立人の上記(1)の主張はいずれも採用できない。
3 本件発明1、5において、「炭素を含む粒子の個数が、窒化ホウ素粉末10gあたり10個以下である」こと以外の記載においても、不明確な記載は見当たらないから、請求項1、5の記載は明確である。
また、本件発明2~4、6、7にも不明確な記載は見当たらないから、請求項2~4、6、7の記載は明確である。
4 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由2は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700288