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特許異議申立

2023-700282

非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム

審判番号
2023-700282
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-048179外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7138259
請求日
2023年03月15日
審決日
2023年06月29日
公報発行日
2023年07月28日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7138259号発明「非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7138259号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

特許第7138259号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和4年3月24日に出願され、令和4年9月7日にその特許権の設定登録がされ、令和4年9月15日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし7に係る特許に対し、令和5年3月15日に特許異議申立人安藤 宏により、特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明

特許第7138259号の請求項1ないし7の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
集電体と、前記集電体上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層と、を有し、
前記正極活物質層に含まれる結着材のZ平均分子量(Mz)が40万以上140万以下、
前記正極活物質層の総質量に対して前記結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下、
続きを表示(全17行)
前記正極活物質層が導電性炭素を含み、前記正極活物質層の総質量に対して前記導電性炭素の含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記集電体に対する前記正極活物質層の剥離強度は、10mN/cm以上1000mN/cm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質層は多孔質層であり、前記正極活物質層の細孔比表面積が5.0m2/g以上10m2/g以下、前記正極活物質層の細孔の平均細孔径(D50)が0.070μm以上0.150μm以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質粒子が、一般式LiFexM(1-x)PO4(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。)で表される化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層が導電助剤を含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極、負極、及び前記非水電解質二次電池用正極と負極との間に存在する非水電解質を備える、非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュール又は電池システム。」

第3 申立理由の概要

特許異議申立の理由の概要は、次のとおりである。

請求項1、2、5ないし7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、請求項4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

よって、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

第4 提出された証拠

異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。

甲第1号証:特表2021-508162号公報
甲第2号証:特開2007-87881号公報
甲第3号証:特開2004-253243号公報
甲第4号証:特許第6996647号公報

第5 申立理由についての判断

1 甲第1号証ないし甲第4号証の記載

(1)甲第1号証について

ア 甲第1号証には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
集電体及び前記集電体上に配置された正極活物質層を含み、
前記正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びバインダーを含み、
前記バインダーは、重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/molであるポリビニリデンフルオリドを含み、
続きを表示(全12行)
前記カーボンナノチューブのBET比表面積は140m2/gから195m2/gであり、
下記式1を満たす正極:
[式1]
1.3≦B/A≦3.4
前記式1で、Bは、前記正極活物質層内における前記ポリビニリデンフルオリドの含量(重量%)であり、Aは、前記正極活物質層内における前記カーボンナノチューブの含量(重量%)である。
・・・(中略)・・・。
【請求項7】
前記正極活物質の平均粒径(D50)は、3μmから20μmである、請求項1に記載の正極。」
「【0002】
本発明は、特定のバインダーの含量と特定のカーボンナノチューブの含量の最適関係を満たす正極、及びこれを含む二次電池に関する。
・・・(中略)・・・。
【0004】
続きを表示(全11行)
リチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入/脱離が可能な正極活物質を含んでいる正極と、リチウムイオンの挿入/脱離が可能な負極活物質を含んでいる負極と、前記正極と負極との間に介在された微細多孔性分離膜とを含む電極組立体、およびリチウムイオンを含有した非水電解質が含まれている電池を意味する。
・・・(中略)・・・。
【0007】
一方、正極活物質層と集電体との間の接着力(正極接着力)を向上させるため、正極活物質層はバインダーを含んでもよい。バインダーは、一般的に正極活物質層の導電性の改善に寄与しない。これにより、カーボンナノチューブを用いたとしても、バインダーとの併用により導電性の改善に限界が存在する。
・・・(中略)・・・。
【0009】
本発明の目的は、正極スラリーの粘度を好ましい水準で維持することができるため、工程性及び製造コストの側面で利点があり、正極接着力が良好で、かつ導電性が改善された正極、及びこれを含む二次電池を提供することにある。」
「【0012】
本発明によれば、カーボンナノチューブのBET比表面積、ポリビニリデンフルオリドと前記カーボンナノチューブの含量比、前記ポリビニリデンフルオリドの重量平均分子量を調節することで、正極の導電性と正極接着力を改善し、正極の製造時、正極スラリーの過度な増加及び過度な減少を抑制することができる。これにより、正極の製造時に工程性及び製造コストの側面で利点があり、正極スラリーの塗布が容易であり、正極活物質層が均一に形成され得る。また、電池の出力及び高温での寿命特性がさらに改善し得る。
・・・(中略)・・・。
【0014】
続きを表示(全11行)
本発明の一実施形態による正極は、集電体及び前記集電体上に配置された正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びバインダーを含み、前記バインダーは、重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/molであるポリビニリデンフルオリドを含み、前記カーボンナノチューブのBET比表面積は、140m2/gから195m2/gであり、下記式1を満たす。
[式1]
1.3≦B/A≦3.4
前記式1で、Bは、前記正極活物質層内における前記ポリビニリデンフルオリドの含量(重量%)であり、Aは、前記正極活物質層内における前記カーボンナノチューブの含量(重量%)である。
・・・(中略)・・・。
【0019】
前記正極活物質の平均粒径(D50)は、3μmから20μmであってもよく、具体的には6μmから18μmであってもよく、より具体的には9μmから16μmであってもよい。前記範囲を満たす場合、電池の高温寿命の特性及び出力特性が改善し得る。本明細書における平均粒径(D50)は、粒子の粒径分布曲線において、体積累積量の50%に該当する粒径で定義することができる。前記平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。前記レーザー回折法は、一般的に、サブミクロン(submicron)領域から数mm程度の粒径の測定が可能であり、高再現性及び高分解性の結果を得ることができる。」
「【0025】
前記バインダーは、ポリビニリデンフルオリド(poly vinylidene fluoride;PVdF)を含んでもよい。
【0026】
前記ポリビニリデンフルオリドの重量平均分子量は720,000g/molから980,000g/molであってもよく、具体的には750,000g/molから950,000g/molであってもよく、より具体的には800,000g/molから920,000g/molであってもよい。前記重量平均分子量が720,000g/mol未満の場合、後述する式1が満たされても、正極の製造時に形成される正極スラリーの粘度が低すぎるので、正極スラリーコーティングが難しく、乾燥時の工程性が過度に低下し、製造コストが過度に上昇することとなる。また、正極接着力が減少しすぎるので、正極活物質が脱離される問題が発生する。一方、前記重量平均分子量が980,000g/molを超える場合、正極及び電池抵抗が増加しすぎる問題がある。また、正極スラリーの粘度が過度に上昇、例えば、常温で50,000cp以上に過度に上昇して、正極スラリーの塗布自体が難しく、形成される正極活物質層が均一でなくなるため、電池性能が低下し得る。前記ポリビニリデンフルオリドの重量平均分子量は、前記カーボンナノチューブの使用量を考慮するとき、制限された組成内で工程性及び製造コストの改善、正極活物質層の均一性、正極の導電性の改善、及び正極接着力の改善を同時に満たすための最適な範囲である。」
「【0043】
前記電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0044】
具体的には、前記電解質は、非水系有機溶媒と金属塩を含んでもよい。」

イ 甲第1号証の上記記載事項及び図面によれば、次のことがいえる。

(ア)段落【0002】によれば、甲第1号証には、「二次電池」に用いられる「正極」が記載されているといえる。

そして、同【0004】、【0043】、【0044】によれば、該「二次電池」は「非水電解質」を含む。

(イ)【請求項1】、段落【0014】、【0025】によれば、「正極」は、集電体及び前記集電体上に配置された正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びバインダー含み、前記バインダーは、重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/molであるポリビニリデンフルオリドを含み、前記カーボンナノチューブのBET比表面積は、140m2/gから195m2/gであり、Bが、前記正極活物質層内における前記ポリビニリデンフルオリドの含量(重量%)であり、Aが、前記正極活物質層内における前記カーボンナノチューブの含量(重量%)である場合、1.3≦B/A≦3.4を満たす。

(ウ)【請求項7】、【0019】によれば、正極活物質の平均粒径(D50)は、3μmから20μmである。

ウ よって、上記(ア)ないし(ウ)から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「集電体及び前記集電体上に配置された正極活物質層を含み、
前記正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びバインダーを含み、
前記バインダーは、重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/molであるポリビニリデンフルオリドを含み、
前記カーボンナノチューブのBET比表面積は、140m2/gから195m2/gであり、
Bが、前記正極活物質層内における前記ポリビニリデンフルオリドの含量(重量%)であり、Aが、前記正極活物質層内における前記カーボンナノチューブの含量(重量%)である場合、1.3≦B/A≦3.4を満たし、
正極活物質の平均粒径(D50)は、3μmから20μmである、
非水電解質を含む二次電池に用いられる正極。」

(2)甲第2号証について

ア 甲第2号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)

「【0022】
1.二次電池電極用バインダー組成物
本発明の二次電池電極用バインダー組成物の一実施形態は、(A)THFゲル含有量が5%以下のポリマー(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)N-メチルピロリドンを主成分とする有機溶媒(以下、「(B)成分」ともいう)と、を含有し、静的光散乱法より測定される、第二ビリアル係数が3×10-5cm3・mol/g2以下、(A)成分の回転半径が10~500nmのものである。以下、その詳細について説明する。
【0023】
((A)成分)
本実施形態の二次電池電極用バインダー組成物に含有される(A)成分は、THFゲル含有量が5%以下のポリマーである。
【0024】
(A)成分のTHFゲル含有量は、5%以下、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。(A)成分のTHFゲル含有量が5%超であると、このバインダー組成物を用いて得られる二次電池の出力特性が低下する。なお、(A)成分のTHFゲル含有量の下限値については特に限定されないが、実質的には0%以上であればよい。
【0025】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は30,000~200,000であることが好ましく、50,000~150,000であることが更に好ましく、70,000~130,000であることが特に好ましい。(A)成分のMwが30,000未満であると、集電体との密着性が劣る傾向にある。一方、(A)成分のMwが200,000超であると、このバインダー組成物を用いて得られる電極用スラリーの粘度が高くなり、塗工が困難となる傾向にある。なお、本明細書にいう「重量平均分子量(Mw)」は、THFを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、スチレン換算の分子量である。」

イ 甲第2号証の段落【0022】、【0025】によれば、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲第2号証に記載された技術」という。)が記載されている。

「(A)THFゲル含有量が5%以下のポリマー(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)N-メチルピロリドンを主成分とする有機溶媒(以下、「(B)成分」ともいう)と、を含有する二次電池電極用バインダー組成物において、(A)成分の重量平均分子量(Mw)は30,000~200,000であること。」

(3)甲第3号証について

ア 甲第3号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)

「【0014】
また、本発明の板型電池の各構成は、非水電解質二次電池に好適に採用できる。非水電解質二次電池において、正極活物質層は、正極活物質、導電助剤および正極用高分子基質を含み、負極活物質層は、負極活物質、導電助剤および負極用高分子基質を含む。そして、セパレータ、正極活物質層および負極活物質層が多孔質形態をなし、かつ非水電解液が含浸されている。本発明の構成を採用すれば、充放電を繰り返しても集電体と活物質層との剥離が起こりにくくなるので、充放電サイクル寿命が長くなる。」

イ 甲第3号証の段落【0014】によれば、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲第3号証に記載された技術という。)が記載されている。

「正極活物質、導電助剤および正極用高分子基質を含む正極活物質層を備えた非水電解質二次電池において、正極活物質層が多孔質形態をなすこと。」

(4)甲第4号証について

ア 甲第4号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)

「【0016】

(電極活物質)

電極活物質粒子の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質粒子が球状であることで、造粒された顆粒体(炭素質被覆電極活物質)の内部細孔が均一となりやすく、良好な電解液保持能が発現する。また、顆粒体とすることで、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。

【0017】

本実施形態のリチウムイオン電池用正極材料で用いられる電極活物質は、下記一般式(1)で表される電極活物質であることが、高放電容量、高エネルギー密度、安全性及びサイクル安定性の観点から好ましい。

LiaAxMyBOz(1)

(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)

【0018】

式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、Mn、及びFeが好ましく、Feがより好ましい。

MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種であり、中でも、Mg、Ca、Al、Tiが好ましい。

BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種であり、中でも、安全性及びサイクル特性に優れる観点から、Pが好ましい。

aは、0以上4未満であり、好ましくは0.5以上3以下、より好ましくは0.5以上2以下であり、特に1が好ましい。xは、0より大きく1.5未満であり、好ましくは0.5以上1以下であり、中でも1が好ましい。yは0以上1未満であり、好ましくは0以上0.1以下である。zは0より大きく4以下であり、Bの組成により選択される。例えば、Bがリン(P)の場合は、zは4が好ましく、Bがホウ素(B)の場合は、zは3が好ましい。

【0019】

前記一般式(1)で表される電極活物質は、オリビン構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される電極活物質であることがより好ましく、LiFePO4及び該LiFePO4において、Feの一部がMnで置換されたLi(Fex1Mn1-x1)PO4(但し、0<x1<1)であることがさらに好ましい。

LiaAxMyPO4(2)

(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)

イ 甲第4号証の段落【0017】ないし【0019】によれば、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲第4号証に記載された技術という。)が記載されている。

「リチウムイオン電池用正極材料で用いられる電極活物質において、
下記一般式(1)で表される電極活物質であり、
LiaAxMyBOz(1)
(式中、AはMn、Fe、Co、及びNiからなる群より選択される少なくとも1種、MはNa、K、Mg、Ca、Al、Ga、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種、BはB、P、Si、及びSからなる群より選択される少なくとも1種、0≦a<4、0<x<1.5、0≦y<1、0<z≦4である。)
前記一般式(1)で表される電極活物質は、オリビン構造を有することが好ましく、下記一般式(2)で表される電極活物質であることがより好ましく、LiFePO4及び該LiFePO4において、Feの一部がMnで置換されたLi(Fex1Mn1-x1)PO4(但し、0<x1<1)であることがさらに好ましいこと。
LiaAxMyPO4(2)
(式中、A、M、a、x、及びyは前記のとおりである。)」

2 申立理由(進歩性)についての当審の判断

(1)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「集電体」は本件発明1の「集電体」に相当する。

また、甲1発明の「正極活物質」は、「平均粒径(D50)」が「3μmから20μmである」ことから、粒子といえ、本件発明1の「正極活物質粒子」に相当する。

してみると、甲1発明の「集電体及び前記集電体上に配置され」「平均粒径(D50)」が「3μmから20μmである」「正極活物質」を含む「正極活物質層」は、本件発明1の「集電体と、前記集電体上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層」に相当する。

(イ)甲1発明の「ポリビニリデンフルオリドを含」む「バインダー」は、本件発明1の「結着材」に相当する。

してみると、甲1発明において、「正極活物質層は」「バインダーを含み、前記バインダーは、重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/molであるポリビニリデンフルオリドを含」むことと本件発明1とは、「正極活物質層に含まれる結着材の平均分子量が所定値である」点で共通する。

ただし、結着材の平均分子量に関し、本件発明1は「Z平均分子量(Mz)が40万以上140万以下」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(ウ)本件発明1は「前記正極活物質層の総質量に対して前記結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(エ)甲1発明の「カーボンナノチューブ」は、本件発明1の「導電性炭素」に相当する。

してみると、甲1発明の「前記正極活物質層」は「カーボンナノチューブ」を含むことと本件発明1とは、「正極活物質層が導電性炭素を含」む点で共通する。

ただし、導電性炭素に関し、本件発明1は「正極活物質層の総質量に対して」「含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。

(オ)甲1発明の「非水電解質を含む二次電池に用いられる正極」は、本件発明1の「非水電解質二次電池用正極」に相当する。

上記(ア)ないし(オ)により、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有しているものと認められる。

(一致点)

「集電体と、前記集電体上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層を有し、
正極活物質層に含まれる結着材の平均分子量が所定値であり、
正極活物質層が導電性炭素を含む、非水電解質二次電池用正極。」

(相違点1)

結着材の平均分子量に関し、本件発明1は「Z平均分子量(Mz)が40万以上140万以下」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。

(相違点2)

本件発明1は「正極活物質層の総質量に対して前記結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。

(相違点3)

導電性炭素に関し、本件発明1は「正極活物質層の総質量に対して」「含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満」であるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。

イ 判断

相違点1について検討する。

(ア)一般に、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、Miの分子量をもつ分子の数をNiとした場合、Mw=Σ(Mi2・Ni)/Σ(Mi・Ni)、Mz=Σ(Mi3・Ni)/Σ(Mi・Ni)の各式で定義されることは技術常識である(参考として、浅井 多美雄、他3名、プラスチック大辞典、プラスチック大辞典編集委員会、(株)工業調査会、2001年11月1日、59頁、特開平10-38871号公報段落【0005】、【技術資料】GPC法(SEC法)入門講座、技術レポートNo.T1001、2013.10.1、株式会社東ソー分析センター、[令和5年6月23日検索],インターネット<URL:http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00297/t1001y.html>

を参照。)。

ここで、甲1発明において、「バインダー」に含まれる「ポリビニリデンフルオリド」は「重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/mol」であるところ、甲第1号証には、「ポリビニリデンフルオリド」における所定分子量の分子が占める割合や、重量平均分子量とZ平均分子量との関係性(例えば、分子量分布を示す「Mz/Mw」)について何等記載されていないことから、上記「重量平均分子量」の「ポリビニリデンフルオリド」における「Z平均分子量(Mz)」が、本件発明1で特定する「40万以上140万以下」の範囲と必ずしも重複するとは限らない。

(イ)そして、甲第1号証の段落【0012】(「1(1)ア」を参照)によれば、甲1発明は、カーボンナノチューブのBET比表面積、ポリビニリデンフルオリドと前記カーボンナノチューブの含量比、前記ポリビニリデンフルオリドの重量平均分子量を調節することで、正極の導電性と正極接着力を改善し、正極の製造時、正極スラリーの過度な増加及び過度な減少を抑制することものであるところ、甲第1号証には「Z平均分子量」について記載されておらず、甲1発明の「ポリビニリデンフルオリド」の「平均分子量」として、あえて「Z平均分子量」を採用してその数値を調節することを当業者に動機付ける合理的な理由は見当たらない。なお、上記「1(2)」ないし「1(4)」に記載したように、甲第2号証ないし甲第4号証には、それぞれ「甲第2号証に記載された技術」ないし「甲第4号証に記載された技術」が記載されているものの、甲第2号証ないし甲第4号証のいずれにも「バインダー」の「Z平均分子量」に関する記載や示唆も見当たらない。

したがって、甲1発明において「バインダー」の「Z平均分子量(Mz)」を「40万以上140万以下」とすること、即ち、相違点1に係る構成を導き出すことはできない。

ウ 小括

以上から、相違点2ないし4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(2)本件発明2ないし7について

本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明2ないし7を限定するものである。

してみると、上記「(1)」で述べた理由と同様に、本件発明2、5ないし7は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(3)申立理由1に係る異議申立人の主張について

異議申立人は異議申立書において、「本件発明1に係る40万以上140万以下というZ平均分子量(Mz)の範囲は、正極で用いる結合材の分子量としては、通常用いることが想定され得る範囲と別異のものとはいえない。また、Z平均分子量(Mz)は重量平均分子量(Mw)よりも大きな値となることを勘案しても、本件発明1に係る40万以上140万以下というZ平均分子量(Mz)の範囲は、甲1発明の720,000g/molから980,000g/molといった重量平均分子量(Mw)の範囲と重複範囲を有するものと推測される」旨主張する。(異議申立書17頁22行ない28行を参照)

しかしながら、異議申立人は、「40万以上140万以下というZ平均分子量(Mz)の範囲」が「正極で用いる結合材の分子量として」「通常用いることが想定され得る範囲」であることを裏付ける証拠を何等提出していない。

また、上記「(1)イ(ア)」で述べたように、甲1発明の「重量平均分子量が720,000g/molから980,000g/mol」である「ポリビニリデンフルオリド」における「Z平均分子量」は、本件発明1で特定する「40万以上140万以下」の範囲と必ずしも重複するとは限らない。

よって、異議申立人の主張は採用できない。

(4)まとめ

以上のとおり、本件発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、請求項1ないし請求項7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。

第6 むすび

以上から、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし請求項7に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1ないし請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700282

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