特許異議申立
2023-700278
非鉄金属製造の際に生じる改質スラグ
- 審判番号
- 2023-700278
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-502327外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7137467
- 請求日
- 2023年03月14日
- 審決日
- 2023年07月03日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アウルビス ベーアセ
- 【権利者代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】菊地 いのり
- 分類
- P1651.121-Y (C22B) / P1651.537-Y (C22B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7137467号発明「非鉄金属製造の際に生じる改質スラグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7137467号の請求項1ないし45に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7137467号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~45に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年) 3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年 4月 3日欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、令和 4年 9月 6日に特許権の設定登録がされ、同年 9月14日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 5年 3月14日に、請求項1~45(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である菊地いのり(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~45に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~45に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、順に「本件発明1」~「本件発明45」といい、総称して「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
高温冶金工程による非鉄金属の製造から得ることの可能なスラグであって、成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わすとき、
b)少なくとも100重量ppm、最大1.3重量%の銅と、
c)少なくとも26重量%、最大40重量%の二酸化ケイ素SiO2と、
d)少なくとも2.0重量%、最大12重量%の酸化カルシウムCaOと
を含み、それにより前記スラグはFeOとして表わされる酸化鉄を少なくとも45重量%含む前記スラグにおいて、
前記スラグは、同じ基準で、
e)少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%の亜鉛Znと、
f)少なくとも0.10重量%、最大2.5重量%の酸化マグネシウムMgOと、
g)少なくとも4.0重量%、最大12重量%の酸化アルミニウム、Al2O3と、
h)少なくとも0.005重量%、最大0.050重量%の鉛Pbと、
i)少なくとも1.00重量%の酸化ナトリウムNa2Oと
を含み、不可避不純物以外の残部は、鉄Feであることを特徴とする、スラグ。
【請求項2】
前記スラグは、同じ基準で、最大63重量%の酸化鉄FeOを含む、請求項1に記載のスラグ。
【請求項3】
前記スラグは、同じ基準で、最大5重量%の酸化ナトリウムNa2Oを含む、請求項1又は請求項2に記載のスラグ。
【請求項4】
前記スラグは、同じ基準で、最大11.5重量%の酸化アルミニウムAl2O3を含む、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項5】
前記スラグは、同一基準で、最大1.20重量%の酸化亜鉛ZnOを含む、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項6】
前記スラグは、乾燥基準で、最大0.050重量%の酸化鉛PbOを含む、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項7】
前記スラグ中に存在する鉄は、主としてかんらん石構造Fe2SiO4中に存在する、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項8】
前記スラグは、X線回折(XRD)での測定によれば、非晶質成分を、少なくとも30重量%有する、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項9】
前記スラグは、平均粒径(d50、重量基準により計算)が、少なくとも0.5mmかつ最大5.0mmの粒形状を有する、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項10】
前記スラグは、湿式ふるいにより測定され、その後重量基準により平均値を算出された平均粒径(d50)が、少なくとも10μmかつ最大500μmの粉末形状を有する、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項11】
少なくとも90重量%の粒子(d90)が、湿式ふるいによる測定によれば、最大200μmの直径を有する、請求項10に記載のスラグ。
【請求項12】
平均粒径(d50、重量基準により計算)が、少なくとも50mmかつ最大200mmの塊形状を有する、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のスラグ。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグをバインダーとして及び/又は骨材として含む物品。
【請求項14】
前記物品が骨材を更に含む、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
発泡構造を有する、請求項13または請求項14に記載の物品。
【請求項16】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載の第2のスラグを製造する方法において、該方法は、
亜鉛、鉛、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属を含む、第1のスラグを供給する工程と、
前記第1のスラグをフューミング炉に投入する工程と、
少なくとも1つのプラズマトーチを用いて、亜鉛、鉛、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種の金属の一定量を、前記第1のスラグから蒸発させて第2のスラグを得る工程と、
前記フューミング炉から前記第2のスラグを取り出す工程と
を含む、方法。
【請求項17】
前記第1のスラグを、液体状態で前記フューミング炉に投入する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のスラグを前記フューミング炉内で加熱する、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のスラグの一部を、前記プラズマトーチを用いて溶融させる、請求項16から請求項18までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記フューミング中、前記プラズマトーチを、前記フューミング炉内に存在する前記溶融スラグに浸漬させる、請求項16から請求項19までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
CaO、Al2O3、及びこれらの組み合わせから選択される酸化物を、前記フューミング炉内の前記スラグに添加する、請求項16から請求項20までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記酸化物を、少なくとも1000℃の温度で前記フューミング炉内の前記スラグに添加する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のスラグを固体になるまで冷却する、請求項16から請求項22までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記冷却を、前記液体状の第2のスラグを水と接触させることにより行なう、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2のスラグを、少なくとも毎秒40℃の速度で冷却する、請求項23から請求項24までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記固体状の第2のスラグを粉砕する工程を更に含む、請求項23から請求項25までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のスラグを、毎秒30℃未満の速度で冷却する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
建設産業用の物品の製造中に、前記第2のスラグをバインダーとして添加する工程を更に含む、請求項23から請求項27までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記物品が骨材を更に含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記骨材が、砂及び/又は請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記物品の製造中に、活性剤を更に添加し、それにより前記活性剤が前記スラグと反応することができ、それにより骨材に対して強い結合特性を発揮する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記活性剤が、水酸化ナトリウムNaOH、水酸化カリウムKOH、ケイ酸ナトリウムNa2SiO3、ケイ酸カリウムK2SiO3、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記建設産業用の物品が建設用部材である、請求項28から請求項32までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記建設用部材が、タイル、舗装材、ブロック材、コンクリートブロック、及びこれらの組み合わせからなる一覧から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記建設産業用の物品が発泡構造を有する、請求項28から請求項34までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグの使用であって、建設産業で用いるフィラー、バインダー、及びこれらの組み合わせからなる一覧から選択される成分としての使用。
【請求項37】
前記スラグは、骨材用バインダーとして使用される、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
ポルトランドセメントの代用品としての、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
無機高分子組成物中のバインダーとしての、請求項36から請求項38までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項40】
前記無機高分子組成物を発泡させる工程を含む、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
断熱性及び/又は遮音性を向上させるための、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
黒色顔料としての発泡タイル要素への請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグの使用。
【請求項43】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグの使用であって、
黒色の硬い塊材としてのブラスト用サンド材若しくはブラスト用グリット材としての、屋根瓦又は屋根板用の被覆及び/又はコーティングから選択される最終用途への使用。
【請求項44】
れんが又は耐火れんがの焼成温度の低下、遮音性、X線の遮蔽、及びこれらの組み合わせから選択される効果のための、請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のスラグの使用。
【請求項45】
前記スラグが、酸化カルシウムCaO、酸化アルミニウムAl2O3、水酸化カルシウムCa(OH)2、炭酸カルシウムCaCO3、硫酸カルシウムCaSO4から選択される別の酸化物又はその前駆物質と組み合わされる、請求項36から請求項44までのいずれか一項に記載の使用。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1~11号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲11」という。)を提出し、以下の申立理由1~3により、請求項1~45に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:仁木孟伯外3名、「銅スラグ砂を使用したコンクリートの基礎的性状」、コンクリート工学年次論文報告集、1995年、Vol.17、No.1、p.399-404
甲第2号証:栗栖一之、「コンクリート用銅スラグ骨材」、コンクリート工学、2008年、Vol.46、No.5、p.98-101
甲第3号証:金属化学入門シリーズ第3巻 金属製錬工学、1999年6月20日発行、p.54-59
甲第4号証:特開2012-167323号公報
甲第5号証:特表2012-509987号公報
甲第6号証:特開2002-146448号公報
甲第7号証:S. Sukenaga et al., “Viscosities of CaO-SiO2-Al2O3-(R2O or RO) Melts”, ISIJ International,2006, Vol.46, No.3, pp.352-358
甲第8号証:特開2008-95127号公報
甲第9号証:栗栖一之、「建設資材としての非鉄スラグ」、建設の施工企画、2013年、757巻、p.71-78
甲第10号証:B. Zhao et al., “The Effect of MgO on Liquidus Temperatures of Fayalite Slags”, Metallurgical and Materials Transactions B, 1999, Vol.30B, pp.1017-1026
甲第11号証:B. Zhao et al., “Effect of MgO on Liquidus Temperatures in the ZnO-“FeO”-Al2O3-CaO-SiO2-MgO System in Equilibrium with Metallic Iron, Metallurgical and Materials Transactions B, 2011, Vol.42B, pp.490-499
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲8に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件発明1~45について、不可避不純物の含有量に関し、潜在的な金属溶出が生じうる不可避不純物(例えば砒素)を含有するのか含有しないのかが不明であり、含有する場合には、その含有量に関して様々な解釈が可能であって、不可避不純物の定義が不明であるため、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1~45について、本件明細書の実施例において、MgO及び銅のスラグ中の含有量が示されておらず、特にMgOにおいては、含有量の上限及び下限の臨界的意義が示されていないため、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
以下に述べるように、上記第3の申立理由のいずれによっても本件特許の請求項1~45に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1の記載、及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「銅スラグ砂を使用したコンクリートの基礎的性状」(論文表題)に関して、次の記載がある。
「
[図:0001400501000001.jpg]
」(第399頁)
「
[図:0001400501000002.jpg]
」(第400頁上部)
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記アによれば、銅製錬時に副産する銅スラグとして、表-1に開示された産出工場Aの銅スラグの平均的な化学組成に注目すると、甲1には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。
「銅製錬時に副産する銅スラグであって、銅スラグの化学組成が平均的な値として、
0.7%のCuと、
34.1%のSiO2と、
6.0%のCaOと、
0.6%のZnと、
1.2%のMgOと、
4.9%のAl2O3と、
0.1%のPbと、
36.2%のFe
を含有する銅スラグ。」
(2)甲2の記載
甲2には、「コンクリート用銅スラグ骨材」(論文表題)に関し、以下の記載がある。
「
[図:0001400501000003.jpg]
」(第99頁上部)
「
[図:0001400501000004.jpg]
」(第99頁中央部)
(3)甲3の記載
甲3には、スラグに関し、以下の記載がある。
「
[図:0001400501000005.jpg]
」(第54頁第1行~第16行)
「
[図:0001400501000006.jpg]
」(第55頁)
「
[図:0001400501000007.jpg]
」(第56頁上部)
(4)甲4の記載
甲4には、「SiC系物質からの白金属元素の回収方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
「【0021】
本発明者は、上述の目的を達成できる方法について検討した。その際、本発明者は基本に立ち返り、Na2Oのようなフラックスを存在させることの意義について検討した。そもそも、Na2Oのようなフラックスの存在意義の一つは、SiC系物質よりも融点が低い別物質を混合して溶融温度を下げることにある。つまり、SiC系物質のスラグに対する溶融温度は、上記別物質に依存することになる。即ち、SiC系物質単体では、上記の溶融温度をコントロールできないと考えられていた。」
(5)甲5の記載
甲5には、「貴金属を回収するためのプラズマ法および装置」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
「【0027】
スラグ組成物を処理するために添加物を含むことも可能である。スラグは、灰、融剤、および他の不純物などの無機種の液状混合物である。添加物は、処理される貴金属含有材料の組成物の考慮および分析後に選択されてもよい。適切な添加物としては融剤が挙げられる。原材料中で必要に応じて予め混合される融剤は、生じるスラグ相が望ましい特性(例えば低粘度および高/低密度)を有すること、および/またはスラグをより液状にすることを確実にするために原材料に加えられる。好ましくは、スラグはコレクター金属より低い密度を有する。好ましい融剤としては、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)および酸化マグネシウム(MgO)、またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。酸化カルシウムが特に好ましい。」
(6)甲6の記載
甲6には、「銅製錬スラグ及び銅製錬方法」(発明の名称)に関し、以下の記載がある。
「【0005】また、スラグを構成する成分については以下のように言われている。SiO2のような酸性酸化物は粘度を大きくする方に作用し、これにCaOやFeOのような塩基性酸化物が添加されると粘度は小さくなる。Al2O3は酸性酸化物として作用する場合は粘度を大きくする。MgOやZnOは少量でも融点を高めるため粘度に悪影響を及ぼす。Fe2O3(或はFe3O4)は少量では無関係ないし粘度を下げる傾向をもつが、適量になると急激に粘度を上昇させる。」
(7)甲7の記載
甲7には、CaO-SiO2-Al2O3融液の粘度に対するアルカリ金属の影響に関し、以下の記載がある。
「
[図:0001400501000008.jpg]
」(第354頁右欄第7行~第18行)
(当審訳:図5には、CaO-SiO2-Al2O3(CaO/SiO2=0.67,1.00,または1.22,Al2O3=20重量%)三元系融液の1873Kでの粘度に対する酸化物(Li2O、Na2O、K2O)添加の影響を示した。X軸は分析組成物を用いて添加酸化物のモル濃度を示す。CaO-SiO2-Al2O3三元系融液の粘度は、塩基度(CaO/SiO2)の増加に伴って減少することが分かった。四元系融液の粘度は、Li2O、Na2Oの添加量が増加するに伴って減少するが、K2Oの添加量が増加するに伴って増加することが、図5から明らかである。)
「
[図:0001400501000009.jpg]
」(第354頁右欄中央部)
(当審訳:図5 CaO-SiO2-Al2O3融液の1873Kでの粘度に対するアルカリ金属酸化物添加の影響)
(8)甲8の記載
甲8には、「銅製錬熔錬炉スラグの浄化方法」(発明の名称)について、以下の記載がある。
「【0003】
ところで、錬カン炉スラグ中には、スラグの廃棄処分のための土壌環境基準を満足するものの、いまだに鉛、亜鉛及びヒ素等の金属元素が酸化物、又は硫化物形態で含有されている。これは、原料硫化銅精鉱に含まれる不純物元素の大部分は、自熔炉で発生するダスト及びマット中へ分配され、その後の処理工程で回収されるが、不純物元素の一部がスラグ中に溶解又は懸垂されて、錬カン炉へ持ち込まれることによる。しかも、通常の錬カン炉の操業は、マットをセトリングして分離回収することが主眼であるので、還元雰囲気下ではあるもののマットが共存する状態であるので、炉内へ持ち込まれた不純物元素の一部は、そのままの形態でスラグ中に留まり、錬カン炉スラグとして排出される。
【0004】
ところが、世界的な銅材料の需要増に伴って、銅製錬原料として、従来よりも不純物元素の含有量が多いものが主流となりつつあるため、このような原料事情が続くと、錬カン炉スラグ中に含有される亜鉛、鉛、ヒ素等の不純物元素も増加することが予想される。このような状況下においても対応するため、錬カン炉スラグ中の亜鉛、鉛、ヒ素等の不純物元素の含有量をさらに低下させるとともに、これにより、鉛、ヒ素等の土壌環境基準で規制されている不純物元素の溶出値を安定的に満足させることができるスラグの浄化方法が望まれている。」
「【0031】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に用いた金属の分析及び酸素分圧の測定は、次の通りであった。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)酸素分圧の測定:消耗型酸素センサー(ヘレウス株式会社製)で行った。
また、実施例及び比較例に用いた自熔炉法の錬カン炉スラグの組成を表1に示す。
【0032】
【表1】
[図:0001400501000010.jpg]
【0033】
(実施例1)
まず、上記錬カン炉スラグ500gをアルミナ製るつぼ内に入れ、窒素雰囲気下の炉内で熔融し、続いて金属銅(銅品位:99.9重量%)100gとコークス15gを添加し、浴内の温度を1350℃で30分保持した後、ランスから窒素ガスを浴内にバブリングしながら50分間撹拌し還元性雰囲気を形成させた。このとき、酸素センサーにより、Po2を測定したところ、10-9.5atmであった。次いで、撹拌終了後、その温度で30分保持した後、冷却した。その後、スラグと揮発分からなるダストを回収し、分析した。結果を表2に示す。」
「【0038】
【表2】
[図:0001400501000011.jpg]
」
(9)本件発明1の進歩性について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明における「銅製錬時に副産する銅スラグ」、「銅スラグ」は、本件発明1における「高温冶金工程による非鉄金属の製造から得ることの可能なスラグ」、「スラグ」に相当する。
(イ)甲1発明における銅スラグの化学組成は、「平均的な値」であって実際に製造されたスラグの化学組成として、甲1発明の化学組成と一致するものであるか明らかでなく、かつ、各成分の含有量が「成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わ」される「重量%」であるのか、その他の基準であるのか明らかでない。
しかしながら、技術常識からすれば、実際に製造されたスラグの化学組成が甲1発明の化学組成と一致するスラグが存在する蓋然性が高い。
また、上記(2)で摘記した甲2における表-1の「JIS A 5011-3」に関し、当該JIS規格を参照すると、コンクリート用スラグに用いられる銅スラグ細骨材の化学成分分析は、試料を乾燥した後実施され、質量分率%(実質的に重量%と同じである)で表されること、酸化カルシウム(CaO)、全鉄(FeO)は、ICP発光分光分析や蛍光X線分析といった、元素の存在形態(例えば酸化物)によらない元素含有量を測定する方法によって算出されることが銅スラグの化学成分を表す際の技術常識であると理解できる。
そうすると、甲1発明の各成分の含有量も「成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わ」される「重量%」である蓋然性が高いといえるから、甲1発明の
「0.7%のCuと、
34.1%のSiO2と、
6.0%のCaOと、
0.6%のZnと、
1.2%のMgOと、
4.9%のAl2O3」「を含有する」点は、
本件発明1の
「成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わすとき、
b)少なくとも100重量ppm、最大1.3重量%の銅と、
c)少なくとも26重量%、最大40重量%の二酸化ケイ素SiO2と、
d)少なくとも2.0重量%、最大12重量%の酸化カルシウムCaOと
を含み、」
「同じ基準で、
e)少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%の亜鉛Znと、
f)少なくとも0.10重量%、最大2.5重量%の酸化マグネシウムMgOと、
g)少なくとも4.0重量%、最大12重量%の酸化アルミニウム、Al2O3と、」
「を含」む点に相当する。
(ウ)甲1発明の「36.2%のFeを含有する」点は、本件発明の「鉄Fe」を含む点に相当する。
(エ)甲1発明のスラグの化学組成について、Cu、SiO2、CaO、Zn、MgO、Al2O3、Pb、Feの含有割合を全て合計すると、83.8%であり、残部に含有される成分は不明である。
(オ)上記(ア)~(エ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1~4において相違する。
<一致点>
高温冶金工程による非鉄金属の製造から得ることの可能なスラグであって、成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わすとき、
b)少なくとも100重量ppm、最大1.3重量%の銅と、
c)少なくとも26重量%、最大40重量%の二酸化ケイ素SiO2と、
d)少なくとも2.0重量%、最大12重量%の酸化カルシウムCaOと
を含み、
前記スラグは、同じ基準で、
e)少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%の亜鉛Znと、
f)少なくとも0.10重量%、最大2.5重量%の酸化マグネシウムMgOと、
g)少なくとも4.0重量%、最大12重量%の酸化アルミニウム、Al2O3と、
を含み、残部に鉄Feを含むスラグ。
<相違点1>
本件発明1では、「スラグはFeOとして表わされる酸化鉄を少なくとも45重量%含む」のに対して、甲1発明は、FeOとして表される酸化鉄の含有量が不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、スラグが「h)少なくとも0.005重量%、最大0.050重量%の鉛Pb」を含むのに対して、甲1発明は、「0.1%のPb」を含む点。
<相違点3>
本件発明1では、スラグが「i)少なくとも1.00重量%の酸化ナトリウムNa2O」を含むのに対して、甲1発明はNa2Oの含有量が不明である点。
<相違点4>
本件発明1では、「銅」「二酸化ケイ素SiO2」、「酸化カルシウムCaO」、「FeOとして表わされる酸化鉄」、「亜鉛Zn」、「酸化マグネシウムMgO」、「酸化アルミニウム、Al2O3」、「鉛Pb」、「酸化ナトリウムNa2O」、「鉄Fe」以外には「不可避不純物」のみを含むのに対して、甲1発明は、「銅」「二酸化ケイ素SiO2」、「酸化カルシウムCaO」、「FeOとして表わされる酸化鉄」、「亜鉛Zn」、「酸化マグネシウムMgO」、「酸化アルミニウム、Al2O3」、「鉛Pb」、「鉄Fe」以外にどのような成分を含有するのか不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
(ア)上記ア(エ)で述べたとおり、甲1発明のスラグは、Cu、SiO2、CaO、Zn、MgO、Al2O3、Pb、Feの合計含量は、83.8%である。
本件明細書には、「金属の大部分は、実際には、酸化状態で存在する」が、「スラグの組成は、元素状態の金属である、Fe、Zn、Pb、Cu、Sb、Biの含有量を用いて表」す(段落【0054】)ことが記載されていることに鑑み、甲1発明のスラグのCu、Zn、Pb、Feの含有量をCuO、ZnO、PbO、FeOの酸化物に換算して、合計含量を算出した場合であっても、94.5%である。
(イ)したがって、残部5.5%に含有される成分は不明であるが、甲1には、残部が不可避不純物のみであることは何ら記載されていない。
(ウ)ここで、スラグに含まれる不純物について、例えば、甲8には、「原料硫化銅精鉱に含まれる不純物元素の」「一部がスラグ中に溶解又は懸垂され」ることに伴って「錬カン炉スラグ中に」「鉛、亜鉛及びヒ素等の金属元素が酸化物、又は硫化物形態で含有され」る、「銅製錬原料として、従来よりも不純物元素の含有量が多いものが」用いられることにより「錬カン炉スラグ中に含有される亜鉛、鉛、ヒ素等の不純物元素も増加する」という記載があり(段落【0003】、【0004】)、スラグに含まれる不純物とは、非鉄製錬原料に含まれる結果、スラグに混入する物質である。
そして、不可避不純物についても同様のことがいえ、不可避不純物とは、非鉄製錬原料に不可避的に含まれる結果、スラグに不可避に混入する物質であって、非鉄製錬において何らかの目的をもって意図して添加した物質ではないことは、技術常識である。
(エ)スラグの組成調整に関し、上記(3)~(5)には、以下の記載がある。
a 甲3には、スラグについて「炉への装入物中の脈石成分であるSiO2,Al2O3や目的金属に入れたくない不純物など,主として酸化物同士が熔融混合して均一融体となっているもので」あり、「装入原料だけで最適のスラグ組成を得ることは難しいので,石灰石,珪石,鉄鉱石などの溶剤(flux)を適当に加えて組成を調整する」という記載がある。
b 甲5には、「スラグは、灰、融剤、および他の不純物などの無機種の液状混合物であ」り、「原材料中で必要に応じて予め混合される融剤は、生じるスラグ相が望ましい特性(例えば低粘度および高/低密度)を有すること、および/またはスラグをより液状にすることを確実にするために原材料に加えられ」、「好ましい融剤としては、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化カルシウム(CaO)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)および酸化マグネシウム(MgO)、またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる」という記載がある。
c 甲7には、CaO-SiO2-Al2O3融液の粘度を低下させる成分として、Li2O、Na2Oが挙げられている。
(オ)上記(エ)によれば、低粘度等の生じるスラグ相の好ましい特性に応じて、最適のスラグ組成を得るために、非鉄製錬炉に溶剤(融剤)を加えること、溶剤(融剤)としては、甲1発明のスラグに含まれる成分以外に、Li2O、Na2O、K2Oがあることも知られている。
(カ)そして、上記(ア)、(イ)のとおり、甲1発明のスラグは、Cu、SiO2、CaO、Zn、MgO、Al2O3、Pb、Fe以外に、いかなる成分を含有するのかが不明であって、甲1には、残部が不可避不純物であることも記載されていないし、上記(オ)で述べたように、スラグには、溶剤(融剤)等として機能する成分を意図して添加することがあるという当該技術分野における事情を踏まえると、甲1発明のスラグには、Cu、SiO2、CaO、Zn、MgO、Al2O3、Pb、FeO以外の他の成分が、当該他の成分が有する機能を期待して添加されている可能性がある。
(キ)そして、甲1には、スラグの成分が開示されているのみであって、スラグの成分を調整することは記載されていないから、甲1発明に基いて、スラグの残部を不可避不純物のみとする動機が見当たらない。
さらに、甲2~甲8の記載を参酌しても上記動機が見当たらないことは同様である。
(ク)したがって、甲1発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ケ)なお、申立人は、異議申立書の22頁~23頁において、甲3~甲7の記載に基づいてNa2Oをスラグの溶融温度を優位に低下するために添加することは当業者が容易に想到するものと主張している。
(コ)しかしながら、仮に、甲1発明のスラグにNa2Oをスラグの溶融温度を優位に低下するために添加することを当業者が容易に想到するとしても、(A)甲1発明のスラグに含まれるCu、SiO2、CaO、Zn、MgO、Al2O3、Pb、FeOのいずれかの成分の全部あるいは一部に置換してNa2Oを添加するのか、(B)残部の成分の一部に置換してNa2Oを添加するのかも不明である。
そして、仮に、上記(A)の場合、残部が不可避不純物のみであるとする根拠がないこと、残部を不可避不純物のみとする動機がないことは、上記(カ)、(キ)で述べたとおりである。
また、仮に、上記(B)の場合であっても、Na2Oを除く残部が不可避不純物のみとなる根拠が認められず、Na2Oを除く残部を不可避不純物のみとする動機がないことも、上記(カ)、(キ)で述べたとおりである。
(サ)したがって、上記(ケ)の主張を考慮しても、甲1発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、相違点1~3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載の発明及び甲2~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(10)申立理由1のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(明確性要件)
(1)申立理由2の概要は次のとおりである。すなわち、本件明細書の段落【0025】によれば、本件発明の解決しようとする課題は、スラグ副産物を改質して潜在的な金属溶出の点において許容可能であるものとすることであるが、本件請求項1に記載の「不可避不純物」とは、潜在的な金属溶出が生じうる不可避不純物(例えば砒素)を含有するのか含有しないのかが不明であり、含有する場合には、当該不可避不純物含有量が潜在的な金属溶出の点において許容可能である範囲であるとしても、許容可能な範囲とする基準は複数あるため、適用される基準が明確でなく、適用される基準によって本件発明の不可避不純物の含有量が変化することとなるから、不可避不純物に含まれ、かつ、溶出性の基準をクリアすべきものに該当する元素は本件発明に該当する含有量に関して様々な解釈が可能となるため、本件請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない(特許異議申立書(4)具体的理由 エ 特許法第36条第6項第2号について 第24~25頁)。
(2)しかしながら、「不可避不純物」とは、非鉄製錬において何らかの目的をもって意図して添加した物質ではなく、非鉄製錬原料に不可避的に含まれる結果、スラグに不可避に混入する物質である。
すなわち、本件請求項1に記載の「不可避不純物」に該当するか否かは、潜在的な金属溶出が生じうるか否かやその含有割合によるものではなく、非鉄製錬原料に不可避的に含まれる結果、スラグに不可避に混入する物質である場合には「不可避不純物」に該当し、非鉄製錬において何らかの目的をもって意図して添加した物質であれば「不可避不純物」に該当しないことは、明確である。
(3)よって、本件請求項1、及び、本件請求項1を引用する本件請求項2~45の記載は、特許を受けようとする発明が明確である。
(4)申立人による上記(1)の主張を検討すると、本件発明において、「不可避不純物」の含有割合が潜在的な金属溶出の点において許容可能な範囲に限定されることは、発明特定事項とはされていないため、本件明細書に記載の本件発明が解決しようとする課題によって、「不可避不純物」の含有割合が限定されるものではない。
そして、上記(2)で述べたとおり、「不可避不純物」は、技術常識を踏まえれば、非鉄製錬原料に不可避的に含まれる結果、スラグに不可避に混入する物質であると一義的に理解できることは明確であるから、当該主張を採用することはできない。
(5)申立理由2のまとめ
したがって、本件請求項1、及び、本件請求項1を引用する本件請求項2~45の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1~45に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)申立理由3の概要は次のとおりである。すなわち、本件明細書の実施例において、MgO及び銅のスラグ中の含有量が示されておらず、特にMgOにおいては、含有量の上限及び下限の臨界的意義が示されていないから、本件発明は、発明の詳細な説明の記載によってサポートされているとはいえない(特許異議申立書(4)具体的理由 オ 特許法第36条第6項第1号について 第25~26頁)。
(2)本件発明に関するサポート要件の判断
ア 本件明細書には、「スラグ製品中」には「環境に悪影響を及ぼすと考えられている物質」として、「鉛(亜鉛の場合もある)が、上述した好ましくない物質の代表例であ」り、「亜鉛と鉛の両方は通常、スラグから溶出できる形態で存在する金属であり、それら金属がかなりの濃度で存在する」場合、その溶出により、「スラグの溶出挙動試験を行うことにより決定される」「特定用途における使用の承認」が受けられない原因となり得ること(段落【0007】)、「金属溶出リスクの低」く、「経済的に魅力のある最終利用用途においてその使用が認可されかつ改良できるような、鉛含有量及び/又は亜鉛含有量が十分に低く溶出懸念が一切生じないスラグに対する要望」があったこと(段落【0011】)、「容易かつ簡便な方法を用いて一次及び/又は二次原料を処理する際に副産物として生成される、非鉄金属製造の際に生じるスラグ副産物を改質し、潜在的な金属溶出の点において許容可能であり、かつ、更に有効に、積極的、に技術的、そして経済的に貢献可能な品質、並びに、上記で説明した欠点の生じない下工程でのスラグの使用に対する要望は依然として存在している。本発明は一般に、上記で説明した問題を取り除くか、若しくは少なくとも軽減するか、及び/又は、問題に対する改善点を提供することを目的とする」(段落【0025】)ことが記載されている。
イ 上記アによれば、段落【0025】の「上記で説明した問題」とは、鉛、亜鉛の溶出であるから、本件発明の解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、安易かつ簡便な方法を用いて、鉛、亜鉛の金属溶出の点において許容可能となるようにスラグ副産物を改質することであると認められる。
ウ そして、本件明細書には、鉛、亜鉛含有割合、及び、鉛、亜鉛の含有割合の低減方法に関して次の記載がある。(「・・・」は記載の省略を意味する。)
(ア)「【0064】
一実施形態では、本発明によるスラグは、Znを、最大1.50重量%、・・・その上より好ましくは最大1.10重量%、好ましくは最大1.00重量%・・・を含む。・・・Znを、少なくとも0.10重量%・・・を含む。本出願人らは一方で、溶出リスクが低く、スラグが有害分類の適用を受けるリスクを冒さないという利点があるため、亜鉛成分濃度を規定の上限よりも低くすることを選択するが、本出願人らはまた他方で、スラグから亜鉛を除去するための負荷及びコストが、依然として許容可能であるという理由から、亜鉛成分濃度を規定の下限よりも大きく保つことを選択する。」
(イ)「【0065】
一実施形態では、本発明によるスラグは、Pbを、最大0.30重量%、・・・その上より好ましくは最大0.100重量%、好ましくは最大0.050重量%・・・を含む。・・・Pbを、少なくとも0.005重量%・・・を含む。本出願人らは一方で、溶出リスクが低く、スラグが有害分類の適用を受けるリスクを冒さないという利点があるため、鉛成分濃度を規定の上限よりも低くすることを選択するが、本出願人らはまた他方で、スラグから鉛を除去するための負荷及びコストが、依然として許容可能であるという理由から、鉛成分濃度を規定の下限よりも高く保つことを選択する。」
(ウ)「【0093】
本発明によるプロセスは、プラズマトーチを利用している。プラズマトーチにおいては、空気又は不活性ガスなどのガス流がその間を通る2つの電極間に、電気アークが生じる。電気アークを用いてガス流を非常に高温になるまで加熱し、また任意選択的に、天然ガスなどの還元剤を用いながら混合した後、溶融スラグ浴中に高温のガス流を吹き込む。高温のガス流は、スラグ浴中を通り抜けスラグ浴を加熱する。表面へと上がる途中に、ガス流は、Zn及び/又はPbなどの蒸発性金属を捕捉する。あるいは、スラグ浴に、固体炭素又は炭素含有材などの形態の還元剤、好ましくは石油コークスを添加してもよい。この場合、プラズマトーチはエネルギーを生じさせるが、還元を起こすのは浴中の還元剤である。
【0094】
本明細書で上述したDC-EAFプロセスと比較した際の、プラズマトーチを用いたフューミングプロセスにおける1つの重要な利点は、処理装置にかかる投資コスト及び維持コストが遥かに低いということである。とりわけ、電気機器及びアーク生成機器が遥かに単純なものとなり、スラブ浴を収容する溶解炉は、電気アークを発生させるための電気回路の一部ではなくなる。更なる利点としてはプラズマトーチプロセスが挙げられ、このプロセスは、本質的にスラグ浴中に相当量のガスを通すことを含み、強烈な浴攪拌をもたらすため、フューミングに遥かにより好適である。DC-EAFプロセスでは、溶融スラグの下の溶融金属相付近にアノードが形成される。このプロセスでは、2つの液相がはっきりと分離し、かつ連続的に保たれることを必要とするため、液体浴中に、プラズマトーチプロセスにおけるぐらいの同程度の攪拌を起こすことはできない。したがって、プラズマトーチプロセスは、亜鉛及び/又は鉛をスラグ中から蒸発させる上で、DC-EAFプロセスよりも遥かに効率的である。」
エ さらに、実施例1では、上記ウ(ウ)に記載のプラズマトーチを利用したフューミングプロセスによって、スラグ中の鉛、亜鉛含有割合を低減し、鉛が0.024重量%、亜鉛が0.7重量%に低減されたスラグが開示されている。
オ そして、鉛、亜鉛の含有割合が低減されることによれば、スラグから溶出する鉛、亜鉛の溶出量が低減することは明らかである。
カ そうすると、上記ウ、エに述べた発明の詳細な説明の記載を考慮すれば、本件発明1で特定されるスラグ、特に、鉛含有割合が「少なくとも0.005重量%、最大0.050重量%」であって、亜鉛の含有割合が「少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%」であるように鉛、亜鉛の含有割合が低減されたスラグによれば、上記イの課題が解決できることが理解できる。
キ よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~45に係る発明は、スラグの組成に関し、「成分を乾燥基準であり、金属の存在を、金属元素として存在する金属および酸化状態で存在する金属の総量として表わすとき、」「e)少なくとも0.10重量%、最大1.00重量%の亜鉛Znと、」「h)少なくとも0.005重量%、最大0.050重量%の鉛Pbと」「を含」むとの特定事項を備えたものであり、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(3)申立人による上記(1)の主張を検討すると、MgOの含有量によって、上記(2)イの課題を解決できないのではないかとの疑義を生じる根拠は何ら示されていないから、実施例においてMgOの含有量が示されていないことのみをもって、サポート要件違反であるとはいえない。
したがって、申立人の上記(1)の主張は採用できない。
(4)申立理由3のまとめ
したがって、本件発明1~45について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~45に係る特許を取り消すことはできない。
第5 まとめ
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~45に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~45に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700278