特許異議申立
2023-700161
スクリーンマスクの製造方法
- 審判番号
- 2023-700161
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-015135
- 登録番号
- 7118394
- 請求日
- 2023年02月15日
- 審決日
- 2023年06月27日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ミタニマイクロニクス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
- 【異議申立人】丸野 悟史
- 【異議申立人】森田 弘潤
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 佐藤 海
- 分類
- P1651.121-Y (B41C) / P1651.537-Y (B41C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7118394号発明「スクリーンマスクの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7118394号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7118394号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成30年1月31日に出願され、令和4年8月5日にその特許権の設定登録がされ、令和4年8月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年2月15日に特許異議申立人 丸野悟史(以下「特許異議申立人A」という。)、及び同年2月16日に特許異議申立人 森田弘潤(以下「特許異議申立人B」という。)は、それぞれ特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7118394号の請求項1及び2の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、併せて「本件特許発明」という。)
「【請求項1】
メッシュ部に配されたマスク材の対象領域を、所定幅の複数のスキャンエリアに分け、2方向に複数の照射素子を配列してマトリクス状に備え前記スキャンエリアにレーザ光を照射する照射ヘッドにより前記スキャンエリア毎にマスクレス露光するとともに、
隣接する前記スキャンエリア同士を一部オーバーラップさせて、前記照射ヘッドを前記対象領域に対して相対的に移動させ、
所定の露光パターンで前記マスクレス露光を行うことにより、前記マスク材に所定の開口パターンを形成するとともに、
前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり、
前記照射ヘッドの、前記照射素子の配列方向は、前記移動の方向に対して1度~15度の範囲で傾斜する、スクリーンマスクの製造方法。
【請求項2】
前記照射ヘッドは、複数の前記照射素子の照度の差が±5%以下である、請求項1に記載のスクリーンマスクの製造方法。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人Aは、主たる証拠として特開2012-22194号公報(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として特開2008-70506号公報(以下「文献2」という。)、特開2010-258090号公報(以下「文献3」という。)、特開2014-56167号公報(以下「文献4」という。)、特開2005-1150号公報(以下「文献5」という。)、特開2013-219199号公報(以下「文献6」という。)を提出し、請求項1及び2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり(以下「申立理由1」という。)、また、請求項1及び2に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである(以下「申立理由2」という。)から、請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また、特許異議申立人Bは、請求項1及び2に係る特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり(以下「申立理由3」という。)、また、請求項1及び2に係る特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり(以下「申立理由4」という。)、さらに、証拠として文献1及び従たる証拠として特開2004-146789号公報(以下「文献7」という。)、特開2007-90838号公報(以下「文献8」という。)、特開2016-129954号公報(以下「文献9」という。)、“マスクレス露光技術”,[online],2017年10月29日,株式会社大日本科研,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20171029194435/https://www.kakenjse.co.jp:80/technical/masklesstechnology/>(以下「文献10」という。),特開2016-515960号公報(以下「文献11」という。)、特開2006-231795号公報(以下「文献12」という。)、文献2、特開2003-257844号公報(以下「文献13」という。)を提出し、請求項1及び2に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下「申立理由5」という。)から、請求項1及び2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
第4 文献の記載
1 文献1
文献1には、
「複数のマイクロミラーを有するデジタルマイクロミラーデバイスを用いてスクリーンの被鋸光面にパターンを露光するダイレクト露光方法に使用するスクリーンの製造方法であって、
スクリーンメッシュを用意するステップと、
スクリーンメッシュの上に、感光特性を有する感光乳剤を塗布するステップと、
スクリーンの全体を複数回の主走査方向の走査により分割露光を行うステップであって、
2本の走査の間にオーバラップ部分を設け、同一箇所を複数回にわたって走査する分割露光を行うステップと、
を含む、スクリーンの製造方法。」
なる発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。(【0024】~【0027】、【0030】参照。)
2 周知技術1
「対象領域に光の照射(露光)を行い、対象領域上にパターンを形成するに当たり、描画パターンの解像度向上のために、照射ヘッドの照射素子の配列方向を、照射ヘッドの移動方向に対して傾けること」は周知技術(以下「周知技術1」という。)である。(文献2(【0006】、【0030】、【0032】、【0037】、【0040】参照。)、文献3(【請求項1】~【請求項3】、【0019】、【0020】参照。)、文献4(【0001】、【0039】、【0040】参照。)、文献7(【0004】、【0011】、【0019】、【0042】参照。)、文献10、文献11(【0050】参照。)、文献12(【0036】参照。))
なお文献2には、照射領域群における行方向と副走査方向とのなす角θを14度とすることが記載されている。(【0037】参照。)
3 周知技術2
「DMDによって照射する光としてレーザ光を選択すること」は周知技術(以下「周知技術2」という。)である。(文献4(【0034】参照。)及び文献7(【0005】、【0018】参照。))
4 技術事項1
文献5には、
「スクリーンの一面に感光性樹脂乳剤を塗布し、露光処理によって所望のパターンを形成するスクリーン印刷用版の製造方法であって、スクリーンとしては、ステンレス鋼線を厚さ35μmに編み上げたものを用い、樹脂膜55のスキージ面側表面55Aからスクリーン3のスキージ面側頂点3Aまでの高さ寸法Dが6.0μmからなるスクリーン印刷用版の製造方法。」
なる技術事項(以下「技術事項1」という。)が記載されている。(【0013】、【0022】、【0039】、【図5】参照。)
5 技術事項2
「スクリーンマスクのマスク材の厚みを金属メッシュのメッシュ厚に対して50%以上90%以下に設定すること」
なる技術事項(以下「技術事項2」という。)が文献8(【0019】、【0020】、【図4】参照。)及び文献9(【図3】参照。)に記載されている。
6 技術事項3
「半導体素子製造装置における露光装置に用いる照明系として、ArFエキシマレーザ光により略均一な照度で照明すること。」
なる技術事項なる技術事項(以下「技術事項3」という。)が文献6に記載されている。(【0001】、【0021】、【0022】参照。)
第5 当審の判断
1 進歩性要件(申立理由1及び申立理由5)について
申立理由1及び申立理由5は、本件特許発明1及び2が、主たる証拠を特開2012-22194号公報として特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとの点で共通するから、併せて検討する。
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の各相違点で相違する。
[一致点]
「メッシュ部に配されたマスク材の対象領域を、所定幅の複数のスキャンエリアに分け、2方向に複数の照射素子を配列してマトリクス状に備え前記スキャンエリアを照射する照射ヘッドにより前記スキャンエリア毎にマスクレス露光するとともに、
隣接する前記スキャンエリア同士を一部オーバーラップさせて、前記照射ヘッドを前記対象領域に対して相対的に移動させ、
所定の露光パターンで前記マスクレス露光を行うことにより、前記マスク材に所定の開口パターンを形成する、スクリーンマスクの製造方法。」
[相違点1]
本件特許発明1の照射ヘッドが「レーザ光」を照射するものであるのに対し、引用発明はその点が明らかでない点。
[相違点2]
本件特許発明1が「前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下」であるのに対し、引用発明はその点が明らかでない点。
[相違点3]
本件特許発明1が「前記照射ヘッドの、前記照射素子の配列方向は、前記移動の方向に対して1度~15度の範囲で傾斜する」ものであるのに対し、引用発明は傾斜していないものである点。
イ 判断
事案に即し、相違点3から検討する。
上記「第4 2」からすると、上記相違点3に係る構成は、周知技術といえる。
ここで、文献1には、「【発明が解決しようとする課題】【0007】しかし、上記特許文献2及び3で行われているように、オーバラップ部分において、2回の分割露光の積算光量を1回露光の規定の露光光量の100%としても、寸法変化(収縮)などが発生し、1回露光の場合のような感光乳剤の膜厚が得られないという分割露光に起因する相反則不軌の課題を見出したものである。【0008】そこで、本発明の目的は、オーバラップ部分において、分割露光した場合の相反則不軌を補償できるダイレクト露光装置及び露光方法を提供することである。」と記載されていることからすると、引用発明が解決しようとする課題は“分割露光に起因する相反則不軌を補償すること”であると認める。
これに対し、上記周知技術1は、描画パターンの解像度を向上させるために、照射ヘッドの照射素子の配列方向を、照射ヘッドの移動方向に対して傾けるものである。
そうすると、引用発明と上記周知技術1とで、課題もしくは作用・機能において共通するものがない。
引用発明と上記周知技術1とは、スクリーンマスクの製造方法における露光装置との技術分野で共通するところがあるものの、課題もしくは作用・機能において、共通するものが見いだせない以上、引用発明に上記周知技術1を適用する動機付けがあるとはいえない。
そうすると、引用発明に上記周知技術1を適用する動機付けがないことからすると、上記相違点3に係る本件特許発明1は、引用発明及び上記周知技術1に基づき、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、周知技術2、技術事項1乃至3をみても、上記相違点3に係る構成は示されていないし、上記周知技術1を引用発明に組み合わせる動機付けも見いだせない。
してみると、上記相違点1及び相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明、周知技術1及び2、技術事項1乃至3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人A及びBは、上記周知技術1を以て、上記相違点3に係る本件特許発明1が容易に発明できたものと主張するのみであるから、上記判断を覆す理由は見いだせない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成を全て備え、さらに限定したものであるから、上記1(2)の判断のとおり、本件特許発明2も引用発明、周知技術1及び2、技術事項1乃至3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1及び申立理由5についてのまとめ
上記(1)及び(2)の検討のとおり、本件特許発明1及び2は、いずれも、引用発明、周知技術1及び2、技術事項1乃至3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1及び5によって、本件特許発明1及び2を取り消すことはできない。
2 サポート要件(申立理由2及び申立理由4)について
(1)申立理由2について
ア 特許異議申立人Aは、“本件特許明細書の記載をもって、マスク材(乳剤)の厚みを特定する本特許発明1に係る範囲において顕著な効果を奏するとは言えず、出願時の技術常識をもって予測し得るとも言えない。”旨、主張する。(特許異議申立書23頁3行~24頁3行)
イ 本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は高精度の印刷が可能なスクリーンマスク、スクリーンマスクの製造方法、スクリーン印刷装置、及び露光装置、を提供することを目的とする。」
「【0056】
以上のように構成されたスクリーンマスク20、スクリーン印刷装置10、及びスクリーンマスクの製造方法によれば、露光時のスキャンエリアAs1がオーバーラップすることにより、露光のムラが低減し、露光によるマスク膜23の厚みが均一化できる。図6は、本実施形態にかかる露光装置50と、比較例1及び比較例2にかかる露光装置100A,100Bについて、照射ヘッドの配置及び向きと、照度分布と、露光後の露光エリアの外観の状態とを、比較して示す説明図である。露光装置50はオーバーラップ部B1が有り、かつ、照射ヘッド52のDMD素子52bの配列の方向D2が移動方向D1に対して傾斜している場合を示す。露光装置100Aはオーバーラップ部が無く、照射ヘッド152のDMD素子152bの配列の方向D2が移動方向D1に対して傾斜している場合を示す。露光装置100Bはオーバーラップ部が無く、照射ヘッド152のDMD素子152bの配列の方向D2が移動方向D1と同じ方向である場合を示す。
【0057】
例えば図5及び図6に示すようにスキャンエリアAs1内に照度の差がある場合、スキャンエリアAs1にオーバーラップ部B1がある場合には、オーバーラップ部B1がない場合に比べて、照射量の差が少なくなるため、露光ムラが低減できる。したがって、スクリーンマスクのパターン精度が良く、高精度の印刷が可能となる。
【0058】
さらに、上記のスクリーンマスクの製造方法は、露光装置のDMD素子の配列方向と、スキャン方向が傾斜する。このため、スキャンエリアAs1の境界における照射量のムラをより低減できる。図6によれば、露光装置50における照度エネルギー分布は7%以内であるのに対し、露光装置100A,100Bでは10%以上となっている。すなわち、図5及び図6に示すように、例えばスキャンエリアAs1に照度の差がある場合、スキャン方向である移動方向D1と配列方向D2が同じ向きである場合は、特定のDMD素子52bが特定の領域を移動方向D1(スキャン方向)に沿って通ることになり、照度分布がライン状に現れやすいのに対し、移動方向D1と配列方向D2とが傾斜する場合には、同じルート上を複数のDMD素子52bが通ることになるため、照度分布の差が均一化され、露光ムラが低減できる。」
ウ 【0006】の記載からすると、本件特許発明は、高精度の印刷が可能なスクリーンマスクの製造方法を提供することを目的とすると認められるところ、“高精度の印刷”とは、【0057】及び【0058】の記載からすると、スキャンエリアAs1内に照度の差がある場合に、露光ムラが低減された印刷を意味する。
そして、同【0057】及び【0058】の記載からすると、上記目的を解決するための手段は、“スキャンエリアにオーバーラップ部を設けること”及び“露光装置のDMD素子の移動方向と配列方向とを傾斜させること”であると認められる。
エ そして、本件特許発明1及び2には、「隣接する前記スキャンエリア同士を一部オーバーラップさせて、前記照射ヘッドを前記対象領域に対して相対的に移動させ」及び「前記照射ヘッドの、前記照射素子の配列方向は、前記移動の方向に対して1度~15度の範囲で傾斜する」と特定されているから、本件特許発明1及び2には、上記目的を解決するための手段は反映されている。
オ そこで、特許異議申立人Aの主張について検討すると、本件特許発明の「前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下」との構成は、上記目的を解決するための手段ではないのであるから、前記構成により顕著な効果が奏しないからといって、サポート要件違反とはならない。
カ また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0027】の記載は、「一例」として記載しただけであって、上記オのとおり、そもそも顕著な効果を求める事項でもないし、【0025】に「メッシュ部22内の乳剤の厚みT3が、メッシュ部22の厚みT2の50%以上90%以下に構成されている。」と記載されているように、本件特許の特許請求の範囲と発明の詳細な説明とが対応付けられている点で十分である。
キ よって、特許異議申立人Aが主張する申立理由2によって、本件特許発明1及び2を取り消すことはできない。
(2)申立理由4-1について
ア 特許異議申立人Bは、“「マスク材の厚み」の定義に関し、本件明細書の段落【0024】乃至【0027】の記載は、相互に矛盾しないしは一貫性がなく、それが図3<ST3>のT1を指しているのかT3を指しているのか判別することができないのであるから、かかる規定が本件明細書の記載によってサポートされていないことは、この時点で既に明らかと言える。なお、仮にマスク材の厚みをT3と解するのであれば、上記段落【0027】によれば、…T3/T2=45%(ないし38%)であり、明らかに、「前記メッシュ部の前記開ロパターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり」という数値範囲を充足しない。また、仮にマスク材の厚みをT1と解するのとしても、上記(4-2)のとおり、本件明細書の段落【0027】では、上記T1の寸法もその計算根拠となる数値も開示しておらず、かかる実施態様におけるT1がどのような値となるか(マスク膜23の厚みがTlである場合に、上記「50%以上90%以下」の範囲に含まれるか否か)判別することができない。”旨、主張する。(特許異議申立書15頁下から2行~18頁1行)
イ 本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0024】
ここで、図3に示すように、スクリーンマスク20は、マスク膜23の厚み、すなわちマスク膜23を構成する乳剤(マスク材)の厚さ方向(Z方向)の寸法をT1とし、メッシュ部22の厚みをT2とすると、マスク膜23の厚みT1のばらつきが10%以内に構成されている。T1max-T1min≦T1×0.1を満たす。T1maxは複数の測定点において測定したマスク膜23の厚みT1の最大値であり、T1minは複数の測定点で測定したマスク膜23の厚みT1の最小値である。
【0025】
また、スクリーンマスク20は、透過部22aの中央の測定ポイントP1で測定されたメッシュ部22内の乳剤の厚みT3が、メッシュ部22の厚みT2の50%以上90%以下に構成されている。
【0026】
ここでメッシュ部22部内の乳剤の厚みT3は、マスク膜23のうちメッシュ部22に重なる部分の乳剤の厚みであり、透過部22aの中央の測定ポイントP1におけるマスク膜23の厚みT1から、透過部22aの中央の測定ポイントP1においてメッシュ部22から突出する乳剤の厚み、すなわちいわゆる乳厚を、差し引いた長さである。このメッシュ部22内の乳剤の厚みT3の測定ポイントP1は、メッシュ部22における各透過部22aの中央とする。一方、メッシュ部22の厚み寸法T2は、メッシュ部22の経糸26aと緯糸26bが重なる重合部における厚さ方向の寸法である。
【0027】
一例として、本実施形態においては開口パターン23aの径d3=20μm、メッシュ部22の厚みT2=22μm、経糸26aのZ方向の径d1=緯糸26bのZ方向の径d2=φ13μm、メッシュ部22内の乳剤の厚みT3=10μmに構成されている。」
ウ 上記記載からすれば、本件特許発明の「マスク材の厚み」とは、「透過部22aの中央の測定ポイントP1で測定されたメッシュ部22内の乳剤の厚みT3」のことを意味することは明らかである。
エ ここで、本件特許発明の「前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり」との事項は、本件特許明細書の【0025】の記載と対応する。
オ 他方、特許異議申立人Bが指摘するように、本件特許明細書の【0027】の記載は、本件特許発明の「マスク材の厚み」を「透過部22aの中央の測定ポイントP1で測定されたメッシュ部22内の乳剤の厚みT3」と解すると、本件特許発明の「前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり」との事項と対応しない。
カ しかし、本件特許明細書の【0027】の記載は、上記(1)カのとおり、「一例」にすぎず、本件特許明細書に本件特許発明の特許請求の範囲外の実施例であって、何ら問題のないことである。
キ よって、特許異議申立人Bが主張する申立理由4-1によって、本件特許発明1及び2を取り消すことはできない。
(3)申立理由4-2について
ア 特許異議申立人Bは、“「前記照射ヘッドの、前記照射素子の配列方向は、前記移動の方向に対して1度~15度の範囲で傾斜する」及び【0050】「照射ヘッド52のDMD素子52bの配列方向であるD2は、スキャン方向となる移動方向D1に対して、1度~15度の範囲で傾斜した姿勢に設置される。なお、本実施形態においてスキャン方向である移動方向D1はY軸方向に沿っている。」の数値範囲の技術的意味やその裏付けとなるような実験データなどは一切開示がない。どのような目的でそのような角度に設定するかや、その上限、下限にはどのような臨界点的意味が存するかなど、一切説明されていない。単に従来から周知技術として存在する、DMD素子を移動方向に対して傾斜させることについて説明しているに過ぎず、本件発明の特徴的構成と被申立人自ら主張する1度~15度という傾斜角度の技術的意味を説明するものではない。”旨、主張する。(特許異議申立書18頁2行~20頁3行)
イ 上記(1)ウのとおり、本件特許発明は、高精度の印刷が可能なスクリーンマスクの製造方法を提供することを目的とすると認められるところ、上記目的を解決するための手段は、“スキャンエリアにオーバーラップ部を設けること”及び“露光装置のDMD素子の移動方向と配列方向とを傾斜させること”であると認められる。
ウ 他方、原審の令和3年5月18日付けの拒絶理由通知で提示された引用文献2には、傾斜角度を0.1~0.5度とすることが記載されていたため、引用文献2に記載の発明との差別化を図るために本件特許明細書に記載の「1度~15度」と特定したものと解される。
エ そうすると、(1)ウのとおり、本件特許の目的を解決するための手段は特許請求の範囲に反映されているところ、「1度~15度の範囲で傾斜する」点は、従来技術との差別化を図るためのものであるから、数値範囲の技術的意味やその裏付けとなるような実験データなどを求める必要はないと認める。
オ よって、特許異議申立人Bが主張する申立理由4-2によって、本件特許発明1及び2を取り消すことはできない。
3 明確性要件(申立理由3)について
ア 特許異議申立人Bは、“本件発明1では、上記構成要件Dの「前記メッシュ部の前記開口パターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり」という規定に係る上記段落【0024】乃至【0027】は、相互に矛盾しないしは一貫性がなく、それが上記図3<ST3>のT1を指しているのかT3を指しているのか判別することができない。その上、上記図3<ST3>のとおり、T1とT3とでは、指している寸法(厚さ)の定義が全く異なるのであり、それによって上記構成要件Dに係る「前記メッシュ部の前記開ロパターンにおける前記マスク材の厚みが前記メッシュ部の厚みの50%以上90%以下であり」という規定の技術的意味は大きく異なるのであるから、かかる規定は第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるという他ない。”旨、主張する。(特許異議申立書8頁下から3行~13頁9行)
イ 上記(2)ウのとおり、本件特許発明の「マスク材の厚み」とは、「透過部22aの中央の測定ポイントP1で測定されたメッシュ部22内の乳剤の厚みT3」のことを意味する。
ウ また、上記(2)カのとおりであって、本件特許明細書の【0027】の一例は、本件特許発明の特許請求の範囲外の実施例である。
エ よって、特許異議申立人Bが主張する申立理由3によって、本件特許発明1及び2を取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700161