特許異議申立
2023-700127
キャスターおよび運搬台車
- 審判番号
- 2023-700127
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-003887
- 登録番号
- 7115777
- 請求日
- 2023年02月07日
- 審決日
- 2023年12月28日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ジー・オー・ピー株式会社
- 【権利者代理人】南林 薫
- 【異議申立人】金山 愼一
- 審判長/審判官
- 審判長 筑波 茂樹
- 審判官 八木 誠
- 審判官 中村 則夫
- 分類
- P1651.537-YAA(B60B) / P1651.113-YAA(B60B) / P1651.121-YAA(B60B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7115777号発明「キャスターおよび運搬台車」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7115777号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第7115777号の請求項2~15に係る特許を維持する。
特許第7115777号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7115777号の請求項1~15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成27年5月28日(優先権主張 平成26年9月2日)に出願された特願2015-108836号の一部として、令和1年6月20日に出願された特願2019-114355号の一部として、更に令和3年1月14日に出願されたものであって、令和4年8月1日にその特許権の設定登録がされ、同年8月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての特許異議申立人金山愼一(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 2月 7日 特許異議の申立て
同年 6月 5日付け 取消理由通知
同年 8月 2日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 8月 8日付け 訂正請求があった旨の通知書
なお、訂正請求があった旨の通知書に対して申立人による応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年8月2日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(12)(なお、下線は訂正箇所である。)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記ブレーキペダルの前記側壁は、前記車軸の軸線に沿って見たときに、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも前記車輪と重なるように位置することを特徴とする請求項1に記載のキャスター。」と記載されているのを、「車輪と、前記車輪を車軸を介して回転自在に支持するフォーク部材と、前記フォーク部材に対して固定されると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するペダル保持部材と、前記ペダル保持部材に対して揺動可能に支持され、前記車輪に直接的または間接的にブレーキを掛けると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するブレーキペダルと、を備え、前記車輪の進行方向を前とし、反対方向を後とすると、前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と重なり合うと共に後側に向かうにしたがって下側に傾斜し、ブレーキが掛けられた状態では後側に向かうにしたがってブレーキが解除された状態よりも更に下側になるように傾斜しており、平面視において前記車輪と重なるように位置し、前記ブレーキペダルの前記側壁は、前記車軸の軸線に沿って見たときに、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも前記車輪と重なるように位置することを特徴とするキャスター。」に訂正する(請求項2の記載を直接的または間接的に引用する請求項3~15も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2に記載のキャスター。」に訂正する(請求項3の記載を直接的または間接的に引用する請求項4~15も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2または3に記載のキャスター。」に訂正する(請求項4の記載を直接的または間接的に引用する請求項5~7、10~15も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1ないし3の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2または3に記載のキャスター。」に訂正する(請求項8の記載を直接的または間接的に引用する請求項9~15も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1ないし9の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2ないし9の何れか1項に記載のキャスター。」に訂正する(請求項10の記載を直接的または間接的に引用する請求項11~15も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1ないし10の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2ないし10の何れか1項に記載のキャスター。」に訂正する(請求項11の記載を直接的または間接的に引用する請求項12~15も同様に訂正する)。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1ないし11の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2ないし11の何れか1項に記載のキャスター。」に訂正する(請求項12の記載を直接的または間接的に引用する請求項13~15も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1ないし12の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2ないし12の何れか1項に記載のキャスター。」に訂正する(請求項13の記載を直接的または間接的に引用する請求項14~15も同様に訂正する)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1ないし13の何れか1項に記載のキャスター。」と記載されているのを、「請求項2ないし13の何れか1項に記載のキャスター。」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15も同様に訂正する)。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1ないし14の何れか1項に記載のキャスターと、を備えることを特徴とする運搬台車。」と記載されているのを、「請求項2ないし14の何れか1項に記載のキャスターと、を備えることを特徴とする運搬台車。」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0006】に「本発明のキャスターは、車輪と、前記車輪を車軸を介して回転自在に支持するフォーク部材と、前記フォーク部材に対して固定されると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するペダル保持部材と、前記ペダル保持部材に対して揺動可能に支持され、前記車輪に直接的または間接的にブレーキを掛けると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するブレーキペダルと、を備え、前記車輪の進行方向を前とし、反対方向を後とすると、前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では後側に向かうにしたがって下側に傾斜し、ブレーキが掛けられた状態では後側に向かうにしたがってブレーキが解除された状態よりも更に下側になるように傾斜しており、平面視において前記車輪と重なるように位置することを特徴とする。」と記載されているのを、「本発明のキャスターは、車輪と、前記車輪を車軸を介して回転自在に支持するフォーク部材と、前記フォーク部材に対して固定されると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するペダル保持部材と、前記ペダル保持部材に対して揺動可能に支持され、前記車輪に直接的または間接的にブレーキを掛けると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するブレーキペダルと、を備え、前記車輪の進行方向を前とし、反対方向を後とすると、前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と重なり合うと共に後側に向かうにしたがって下側に傾斜し、ブレーキが掛けられた状態では後側に向かうにしたがってブレーキが解除された状態よりも更に下側になるように傾斜しており、平面視において前記車輪と重なるように位置し、前記ブレーキペダルの前記側壁は、前記車軸の軸線に沿って見たときに、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも前記車輪と重なるように位置することを特徴とする。」に訂正する。
(13)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~15は、請求項2~15が、本件訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正の請求は、一群の請求項〔1~15〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1との引用関係を解消するとともに、訂正前の請求項1の「前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では」との事項に、「前記ペダル保持部材の前記連結板と重なり合う」との限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、追加された上記限定は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0038】の「ブレーキペダル35は連結板35dがペダル保持部材31の連結板31bに重なり合うようにして、ペダル保持部材31内に位置している。したがって、ブレーキペダル35に押し上げられる力が作用しても、比較的に広面積に形成されたペダル保持部材31の連結板31bに力を伝達することから、ブレーキペダル35の変形が防止される。」との記載に基づくものであることを勘案すると、訂正事項2は、新規事項を追加するものではないのは明らかである。
(3)訂正事項3~11について
訂正事項3~11は、それぞれ、訂正事項1による請求項1の削除に伴って、引用する請求項から請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。
(4)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正事項2による請求項2の訂正に合わせて、明細書の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記(2)で説示したように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、新規事項を追加するものではない。
3 小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項2~15に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明2」~「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2~15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
車輪と、
前記車輪を車軸を介して回転自在に支持するフォーク部材と、
前記フォーク部材に対して固定されると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するペダル保持部材と、
前記ペダル保持部材に対して揺動可能に支持され、前記車輪に直接的または間接的にブレーキを掛けると共に一対の側壁と該一対の側壁を連結する連結板とを有するブレーキペダルと、を備え、
前記車輪の進行方向を前とし、反対方向を後とすると、
前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と重なり合うと共に後側に向かうにしたがって下側に傾斜し、ブレーキが掛けられた状態では後側に向かうにしたがってブレーキが解除された状態よりも更に下側になるように傾斜しており、平面視において前記車輪と重なるように位置し、
前記ブレーキペダルの前記側壁は、前記車軸の軸線に沿って見たときに、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも前記車輪と重なるように位置することを特徴とするキャスター。
【請求項3】
前記ブレーキペダルの前記側壁の下面は、ブレーキが解除された状態において、前記車軸の軸線に沿って見たときに、最下端から前側に向かうにしたがって上側に傾斜し、前記最下端から後側に向かうにしたがって上側に傾斜しており、前記最下端から前記ブレーキペダルの前記側壁の後端までの前後方向の長さが、前記車輪の後端の外形線から前記車輪の後側に位置する前記最下端までの前後方向の長さよりも長いことを特徴とする請求項2に記載のキャスター。
【請求項4】
前記車輪の外周面を押圧することによってブレーキを掛ける板バネと、
前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の第1孔と、前記ブレーキペダルの前記一対の側壁の第1孔とを挿通する第1の軸部材と、
前記第1の軸部材よりも下側に位置すると共に、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の略前後方向に長い第2孔と、前記ブレーキペダルの前記一対の側壁の第2孔とを挿通する第2の軸部材と、を備え、
前記第1の軸部材および前記第2の軸部材は、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも平面視において前記車輪と重なるように位置し、
前記ブレーキペダルは、前記第1の軸部材を中心にして前記ペダル保持部材に対して上下方向に揺動可能であり、
前記ブレーキペダルが下側に向かって揺動することにより前記第2の軸部材が前記ペダル保持部材の前記第2孔内を前側に移動して、前記板バネに形成された突出部の頂点を乗り越え、前記板バネが前記車輪の側に向かって押し込まれることを特徴とする請求項2または3に記載のキャスター。
【請求項5】
前記第1の軸部材および前記第2の軸部材よりも前側に位置すると共に、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の第3孔と、前記フォーク部材が有する一対の側壁の軸孔とを挿通する第3の軸部材を備え、
前記第3の軸部材の中心軸線は、前記第1の軸部材の中心軸線の位置より下側であって、前記第2の軸部材の中心軸線の位置よりも上側であることを特徴とする請求項4に記載のキャスター。
【請求項6】
前記第3の軸部材は、前記板バネに形成された支持孔を挿通することを特徴とする請求項5に記載のキャスター。
【請求項7】
前記フォーク部材は、前記フォーク部材の前記一対の側壁を前記車輪の上側で連結させた天板を有し、
前記板バネの一端部は、前記天板に接しており、
前記板バネの他端部は、前記第2の軸部材に接することを特徴とする請求項6に記載のキャスター。
【請求項8】
前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の第1孔と、前記ブレーキペダルの前記一対の側壁の第1孔とを挿通する第1の軸部材と、
前記第1の軸部材よりも下側に位置し、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の略前後方向に長い第2孔と、前記ブレーキペダルの前記一対の側壁の第2孔とを挿通する第2の軸部材と、
前記第1の軸部材および前記第2の軸部材よりも前側に位置すると共に、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の第3孔と、前記フォーク部材が有する一対の側壁の軸孔とを挿通する第3の軸部材と、を備え、
前記第3の軸部材の中心軸線は、前記第1の軸部材の中心軸線の位置より下側であって、前記第2の軸部材の中心軸線の位置よりも上側であることを特徴とする請求項2または3に記載のキャスター。
【請求項9】
前記車輪の外周面を押圧することによってブレーキを掛ける板バネを備え、
前記板バネは、前記第3の軸部材が挿通される支持孔が形成されていることを特徴とする請求項8に記載のキャスター。
【請求項10】
前記ブレーキペダルは、使用者により上下の揺動が操作される操作部を有し、
前記操作部は、ブレーキが解除された状態では、下面が後端に向かうにしたがって上側に傾斜していることを特徴とする請求項2ないし9の何れか1項に記載のキャスター。
【請求項11】
前記ブレーキペダルは、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁の間に位置することを特徴とする請求項2ないし10の何れか1項に記載のキャスター。
【請求項12】
前記ブレーキペダルの前記連結板の一部は、前記ペダル保持部材の前記一対の側壁および前記ペダル保持部材の前記連結板に囲まれて位置することを特徴とする請求項2ないし11の何れか1項に記載のキャスター。
【請求項13】
前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と略平行に位置し、ブレーキが掛けられた状態では前記ペダル保持部材の前記連結板との間で角度を有するように位置することを特徴とする請求項2ないし12の何れか1項に記載のキャスター。
【請求項14】
前記ブレーキペダルの前記連結板は、ブレーキが解除された状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と重なるように位置し、ブレーキが掛けられた状態では前記ペダル保持部材の前記連結板と離れるように位置することを特徴とする請求項2ないし13の何れか1項に記載のキャスター。
【請求項15】
物品を載置する台車本体と、
前記台車本体の下面に取り付けられる請求項2ないし14の何れか1項に記載のキャスターと、を備えることを特徴とする運搬台車。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~15に係る特許に対して、令和5年6月5日付けで当審が通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[取消理由1](サポート要件)
本件特許の下記請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、下記請求項に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものである。
[取消理由2](新規性)
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
[取消理由3](進歩性)
本件特許の下記請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
以下、申立人提出の各甲号証は、「甲○」という。また、本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、それぞれ、「本件訂正前発明1」~「本件訂正前発明15」という。
記
甲1:実願昭62-42195号(実開昭63-148501号)のマイクロフィルム
【取消理由1】
・請求項 1~15
【取消理由2、3】
・請求項 1、11~15
・引用文献 甲1
1 取消理由1(サポート要件)
本件発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の【0005】にも記載されるように、キャスターの強度を向上させることであると認められる。
そして、キャスターの強度を向上させる構成としては、発明の詳細な説明の【0038】には、「また、本実施形態では、フォーク60を上昇させてペダル本体35aに接触したときに、運搬台車1が進行方向に移動する前に、ペダル本体35aおよびペダル保持部材31が変形しない構造になっている。具体的には、ブレーキペダル35は連結板35dがペダル保持部材31の連結板31bに重なり合うようにして、ペダル保持部材31内に位置している。したがって、ブレーキペダル35に押し上げられる力が作用しても、比較的に広面積に形成されたペダル保持部材31の連結板31bに力を伝達することから、ブレーキペダル35の変形が防止される。また、ペダル保持部材31は、一対の側壁31aが車軸位置で支持される第1支持部31cと、車軸位置よりも上側の位置で支持される第2支持部31dによってフォーク部材26に強固に固定される。・・・」(下線は当審が付与。以下同様。)と記載され、2つの具体例(上記下線部)が開示されているが、本件発明1~15は、いずれも前記2つの具体例に関連する事項を構成として有するものはない。
また、本件明細書等の全記載や技術常識を勘案しても、キャスターの強度を向上させる手段として、上記2つの具体例に関連する事項以外のものは想定し得ない。
そうすると、本件訂正前発明1~15は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められない。
2 取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)
本件訂正前発明1及び請求項1を引用する本件訂正前発明11~14に係る発明は、甲1にブレーキ付キャスターとして記載された発明(以下「甲1発明1」という。)であり、仮に相違点があるとしても微差であるから、甲1発明1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前発明15は甲1発明1を台車本体の下面に取り付けた台車(以下「甲1発明2」という。)であり、仮に相違点があるとしても微差であるから、本件訂正前発明15は、甲1発明2に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 取消理由についての判断
1 取消理由1(サポート要件)について
本件訂正により、請求項2に、「前記ペダル保持部材の前記連結板と重なり合う」との事項を追加された。上記「第4 1」で示したように、該事項は、キャスターの強度を向上させる構成の1つであるから、本件発明2、及び、請求項2を引用する本件発明3~15は、当業者が本件発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。
よって、取消理由1は解消された。
2 取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)について
本件訂正により、請求項1は削除された。
よって、取消理由2、3の対象である、請求項1、及び、同項を引用する請求項11~15は存在しないものとなったから、取消理由2、3は解消された。
第6 令和5年6月5日付けの取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前発明1~15について、以下の(1)を主張する。
甲2:特開2012-61988号公報
甲3:智徳産業株式会社のカタログ
甲4:特開2004-243943号公報
甲5:特開2006-82600号公報
甲6:米国特許第4559668号明細書
甲7:米国特許第3493085号明細書
甲8:中国特許出願公開第100999178号公報
甲9:特開平6-16002号公報
甲10:特開2006-62613号公報
甲11:特開2008-290628号公報
甲12:実願昭63-117501号(実開平2-38301号)のマイクロフィルム
甲13:米国特許出願公開第2013/0212834号明細書
(1)特許異議申立理由1(進歩性)
本件訂正前発明2~10は、甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明及び甲2~13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。
2 特許異議申立理由についての判断
(1)特許異議申立理由1(進歩性)について
ア 本件発明2について
本件発明2と甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)とを対比すると、少なくとも、本件発明2では、「前記ブレーキペダルの前記側壁は、前記車軸の軸線に沿って見たときに、ブレーキが解除された状態およびブレーキが掛けられた状態の何れでも前記車輪と重なるように位置する」のに対し、甲1発明では、そのような構成がない点(以下「相違点1」という。)で相違する。甲1発明は、レバー8(ブレーキペダル)を構成するレバー本体23の下面に固着され、レバー本体23の側壁より突出したブレーキシュー26が車輪5の外周面に当接することにより車輪5の回転を制止するものであり、レバー8の枢軸21(回転軸)は車輪5と重ならない、車輪5の上方にあるものである、それに対して、甲4~7には、相違点1に係る本件発明2の構成が開示されていると認められるが、それら構成は、ブレーキペダルの回転軸は車輪と重なる位置にあり、甲1発明の上述の構成とは異なる構成を前提とするものであるから、甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえず、また、甲1発明の上述の構成を大きく変更するものになってしまうから、むしろ阻害要因があるともいえる。
また、甲1発明において、レバー本体23の側壁をブレーキシュー26よりも下方に突出させて車輪5と重なるようにする動機付けがあるとも認められず、甲2、3、8~13を参照しても、相違点1に係る本件発明2の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであるともいえない。
したがって、本件発明2は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2~13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件発明3~10について
本件発明3~10は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、更なる限定を追加したものであるから、上記アで説示したのと同様の理由により、甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明及び甲2~13に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、特許異議申立理由1は成り立たない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によって、請求項2~15に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項2~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1は、本件訂正により削除されたため、申立人による特許異議の申立てにおける請求項1に係る特許についての申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700127