特許異議申立
2023-700116
複合コード及びそれを用いたタイヤ
- 審判番号
- 2023-700116
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-193644
- 登録番号
- 7119879
- 請求日
- 2023年02月03日
- 審決日
- 2023年05月19日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友ゴム工業株式会社
- 【権利者代理人】住友 慎太郎
- 【権利者代理人】浦 重剛
- 【権利者代理人】苗村 潤
- 【権利者代理人】石原 幸信
- 【異議申立人】峯村 圭
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-Y (B60C) / P1651.536-Y (B60C) / P1651.537-Y (B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7119879号発明「複合コード及びそれを用いたタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7119879号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7119879号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成30年10月12日を出願日とする特許出願であって、令和4年8月8日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年2月3日に特許異議申立人 峯村 圭(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし4)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コードであって、
コード長さ方向と直角な断面において、
前記複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0と、前記第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2との比L2/L0が0.30~0.40の範囲であり、
コード断面積S0と前記第2ストランドの断面積S2との比S2/S0が、0.3以下である複合コード。
【請求項2】
2本の前記第1ストランドが撚り合わされた中間ストランドと、1本の前記第2ストランドとが撚り合わされた2+1の撚り構造を具える、
請求項1記載の複合コード。
【請求項3】
1本の前記第1ストランドと1本の前記第2ストランドとが撚り合わされた中間ストランドと、1本の前記第1ストランドとが撚り合わされた2+1の撚り構造を具える、
請求項1記載の複合コード。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の複合コードをタイヤコードとして用いたタイヤ。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由2の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1は、アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コードであって、該複合コードの露出面のコード外周に沿った長さの比と、コード断面積の比が規定の範囲にある物を特定する。
しかし、本件特許発明1では、コードの撚り構造が特定されていない。
また、本件特許発明2及び3では、さらに、第1ストランドと第2ストランドの撚り形態を特定しているが、実施例にはコードの撚り数が記載されていない。
したがって、本件特許発明1ないし4は、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていない。
よって、本件特許発明1ないし4に係る特許請求の範囲の記載は明確ではない。
5 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1は、アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コードであって、該複合コードの露出面のコード外周に沿った長さの比と、コード断面積の比が規定の範囲にある物を特定する。
しかし、本件特許発明1では、コードの撚り構造が特定されていない。
また、本件特許発明2及び3では、さらに、第1ストランドと第2ストランドの撚り形態を特定しているが、実施例にはコードの撚り数が記載されていない。
したがって、本件特許発明1ないし4は、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていない。
よって、本件特許発明1ないし4に関し、明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。
6 証拠方法
・甲第1号証:特開2013-146954号公報
・甲第2号証:特開2013-116644号公報
・甲第3号証:特開2015-205479号公報
・甲第4号証:特開平6-57568号公報
証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載に従った。
第4 当審の判断
以下のとおり、当審は、特許異議申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。
1 申立理由1-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「空気入りタイヤの製造方法」に関し、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性中子を用いた空気入りタイヤの製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、バンドコードとしてアラミド繊維と熱収縮性の有機繊維との複合コードを用いるとともに、該複合コードの変曲点での伸び及び低弾性域におけるモジュラスを規定することを基本として、バンドコードの蛇行を抑えてコード破断を抑制しながら高い拘束力を発揮でき、高速耐久性能を向上しうる空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的としている。」
「【0030】
前記バンドプライ形成ステップでは、図4、5に示すように、1本のバンドコード15又は複数本のバンドコード15を並列したバンドコード配列体がトッピングゴム16で被覆された小巾帯状のストリップ17を、ベルトプライ7B上で螺旋状に巻き付けることによりバンドプライ9Aを形成する。
【0031】
このとき前記バンドコード15は、図6に示すように、アラミド繊維からなる第1のストランド18Aと、熱収縮性の有機繊維からなる第2のストランド18Bとを撚り合わせた複合コード19によって形成される。
【0032】
好ましくは、前記複合コード19は、
(ア) 図6(A)に示すごとく、1本の第1のストランド18Aと、1本の第2のストランド18Bとの合計2本のストランド18を撚り合わせて形成されるか、
(イ) 図6(B)に示すごとく、2本の第1のストランド18Aと、1本の第2のストランド18Bとの合計3本のストランド18を撚り合わせて形成されるか、
(ウ) 図示しないが、1本の第1のストランド18Aと、2本の第2のストランド18Bとの合計3本のストランド18を撚り合わせて形成されるのが望ましい。なお各ストランド18には、下撚りが施されている。」
「【実施例】
【0044】
図1に示す内部構造を有する空気入りタイヤ(タイヤサイズ215/45R17)を、剛性中子を用いた本発明の製造方法に基づいて表1、2の仕様にて試作した。そして各試供タイヤの乗り心地性能、耐久性能(バンドコード破断性)、高速耐久性能についてテストし、互いに比較した。
・・・
【0051】
なお表1、2の素材において、「N」はナイロン66、「A」はアラミド、「PET」はポリエチレンテレフタレート、「PEN」はポリエチレンナフタレートであって、Nの熱収縮率は4.5%、Aの熱収縮率は0%、PETの熱収縮率は4.0%、PENの熱収縮率は1.6%であった。
【0052】
又表1、2のコード構成において、
X/2---下撚りしたストランドXの2本を、上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
X/Y/2---下撚りしたストランドXの1本と、下撚りしたストランドYの1本とを、上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
X/1---下撚りした1本のストランドXからなるコード(片撚りコード)
X/X/Y/Y/4---下撚りしたストランドXの2本と、下撚りしたストランドYの2本との合計4本のストランドを上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
X/X/Y/3---下撚りしたストランドXの2本と、下撚りしたストランドYの1本との合計3本のストランドを上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
(X/2+Y/2)/2---下撚りしたストランドXの2本を撚り合せた1本の中間ストランドと、下撚りしたストランドYの2本を撚り合せた1本の中間ストランとを上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
(X+Y/2)/2---下撚りしたストランドXの1本と、下撚りしたストランドYの2本を撚り合せた1本の中間ストランとを上撚りにて互いに撚り合わせたコード:
を意味する。
【0053】
【表1】
[図:0001398305000001.jpg]
[図:0001398305000002.jpg]
」
「【図6】
[図:0001398305000003.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例6に関する記載を中心にまとめると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「下撚りした940dtexのナイロン繊維からなるストランド1本と下撚りした1670dtexのアラミド繊維からなるストランド2本の計3本のストランドを上撚りしたバンドコードである複合コード。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ナイロン繊維からなるストランド1本」及び「アラミド繊維からなるストランド2本」はそれぞれ、本件特許発明1の「ナイロン繊維からなる1本の第2ストランド」及び「アラミド繊維からなる2本の第1ストランド」に相当する。
してみると、両者は、
「アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コード。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点1-1
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「前記複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0と、前記第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2との比L2/L0が0.30~0.40の範囲」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-2
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「コード断面積S0と前記第2ストランドの断面積S2との比S2/S0が、0.3以下である」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討する。
相違点1-1について検討するに、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載をみても、甲1発明の複合コードにおいて、「L2/L0」の比を調整する動機付けはない。
なお、この点について、特許異議申立人は、甲第4号証の図4、図5は、甲1発明と同じく3本のストランドを撚りあわせたものであって、その図面から、L2/L0は目測で約0.30~0.40の範囲にあると読み取ることができるから、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものである旨主張する。
しかしながら、3本のストランドを撚りあわせたものである点で、甲1発明と甲第4号証の図4及び図5に図示されたものが共通するものであるとしても、そもそも撚りあわせ条件でその形状は変化するものであるから、甲1発明の複合コードにおける断面図が、甲第4号証の図4又は図5に図示されたものになるとは直ちにはいえない。また、上述のとおり、甲1発明において、L2/L0に着目し調整する動機付けもないから、上記の特許異議申立人の主張は採用できない。
よって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、本件特許発明1は、上記アの検討のとおり、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし4も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立理由1-1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-1は、その理由がない。
2 申立理由1-2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性について)
(1) 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の実施例の表1における「コードA」に関する記載を中心にまとめると、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「下撚りした940dtexのナイロン繊維からなるストランド1本と下撚りした1670dtexのアラミド繊維からなるストランド2本の計3本のストランドを上撚りした複合コード。」(以下、「甲2発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ナイロン繊維からなるストランド1本」及び「アラミド繊維からなるストランド2本」はそれぞれ、本件特許発明1の「ナイロン繊維からなる1本の第2ストランド」及び「アラミド繊維からなる2本の第1ストランド」に相当する。
してみると、両者は、
「アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コード。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点2-1
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「前記複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0と、前記第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2との比L2/L0が0.30~0.40の範囲」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-2
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「コード断面積S0と前記第2ストランドの断面積S2との比S2/S0が、0.3以下である」と特定されるのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討する。
相違点2-1は、相違点1-1と同旨であり、上記1(1)アと同様に判断される。
してみれば、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、本件特許発明1は、上記アの検討のとおり、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし4も、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立理由1-2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-2は、その理由がない。
3 申立理由1-3(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性について)
(1) 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の【0037】の表1における「複合コード」に関する記載を中心にまとめると、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認める。
「下撚りした940dtexのナイロン繊維からなるストランド1本と下撚りした1670dtexのアラミド繊維からなるストランド2本の計3本のストランドを上撚りした複合コード。」(以下、「甲3発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ナイロン繊維からなるストランド1本」及び「アラミド繊維からなるストランド2本」はそれぞれ、本件特許発明1の「ナイロン繊維からなる1本の第2ストランド」及び「アラミド繊維からなる2本の第1ストランド」に相当する。
してみると、両者は、
「アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コード。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点3-1
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「前記複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0と、前記第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2との比L2/L0が0.30~0.40の範囲」と特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。
・相違点3-2
複合コードに関し、本件特許発明1は「コード長さ方向と直角な断面において、」「コード断面積S0と前記第2ストランドの断面積S2との比S2/S0が、0.3以下である」と特定されるのに対し、甲3発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討する。
相違点3-1は、相違点1-1と同旨であり、上記1(1)アと同様に判断される。
してみれば、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の全ての特定事項を有するものである。
そして、本件特許発明1は、上記アの検討のとおり、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2ないし4も、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立理由1-3についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由1-3は、その理由がない。
4 申立理由2(明確性要件)について
(1) 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
本件特許発明1は、上記第2のとおり、ストランドの材質及び本数が特定された複合コードであって、コード長さ方向と直角な断面において、「複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0」と「第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2」との比「L2/L0」が「0.30~0.40の範囲」であること、「コード断面積S0」と「第2ストランドの断面積S2」との比「S2/S0」が、「0.3以下である」ことを特定するものであって、その具体的な算出法についても、本件特許の明細書の【0025】、【0035】に記載されている。
これらの記載によれば、本件特許発明1に係る請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとは言えない。
本件特許発明2ないし4についても同様に判断される。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1では、コードの撚り構造が特定されていないこと、また、本件特許発明2及び3では、第1ストランドと第2ストランドの撚り形態を特定しているが、実施例にはコードの撚り数が記載されていないことなどを挙げ、本件特許発明1ないし4は明確性要件を満たしていない旨主張するが、本件特許発明1ないし4は、上記(2)の検討のとおり明確であるし、実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されているか否かは、明確性要件の判断とは関係がない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4) 申立理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
5 申立理由3(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし4は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基いて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ゴムとの接着性を向上させた複合コード及びそれを用いたタイヤに関する」(【0001】)こと、「本発明は、複合コードの利点を確保しながら、ゴムとの接着性を高めることができ、タイヤコードとして使用した場合のタイヤの耐久性、特に高速耐久性をより向上しうる複合コード及びそれを用いたタイヤを提供することを課題としている」(【0006】)こと、「本願の第1発明は、アラミド繊維からなる2本の第1ストランドと、ナイロン繊維からなる1本の第2ストランドとから構成された複合コードであって、
コード長さ方向と直角な断面において、
前記複合コードの露出面のコード外周に沿った長さL0と、前記第2ストランドの露出面のコード外周に沿った長さL2との比L2/L0が0.30~0.40の範囲である」(【0007】)こと、「本発明に係る複合コードでは、コード断面積S0と前記第2ストランドの断面積S2との比S2/S0が、0.3以下であるのが好ましい」(【0008】)ことが記載され、さらに、タイヤの構造に関する記載(【0015】ないし【0021】)、バンドコードに用いられる複合コードの「L2/L0」に関する記載(【0022】ないし【0028】)、複合コードの「撚り」に関する記載(【0029】ないし【0033】)、複合コードの「S2/S0」に関する記載(【0034】ないし【0035】)があり、具体的な実施例の記載もある。
これらの記載を総合すれば、本件特許発明1ないし4に関して、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に記載されているものといえる。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1では、コードの撚り構造が特定されていないこと、また、本件特許発明2及び3では、第1ストランドと第2ストランドの撚り形態を特定しているが、実施例にはコードの撚り数が記載されていないことなどを挙げ、本件特許発明1ないし4は実施可能要件を満たしていない旨主張するが、そもそも、本件特許発明1はコードの撚り構造を特定するものではないし、本件特許発明2及び3においても撚り数を特定するものではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4) 申立理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700116