特許拒絶査定不服審判
2023-022012
積層体及びクッション体
- 審判番号
- 2023-022012
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-067325外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年12月25日
- 審決日
- 2025年09月30日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .161-Z (B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条の2
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第17条の2第5項第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-67325号「積層体及びクッション体」拒絶査定不服審判事件〔令和5年6月22日出願公開、特開2023-86824号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月24日に出願された特願2014-261004号の一部を令和2年3月18日に新たな特許出願とした特願2020-47261号の一部を、令和5年4月17日に更に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 4月17日 :手続補正書の提出
令和5年 6月13日付け:拒絶理由通知書
令和5年 8月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 9月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和5年 9月26日 :原査定の謄本の送達)
令和5年12月25日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出
第2 本願発明について
1 令和5年12月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)について
本件補正は、以下(1)の令和5年8月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下(2)の記載にする補正を含むものである。なお、下線部は、補正箇所である。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体であって、
前記接着剤が湿気硬化型ホットメルト接着剤であり、
前記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、再軟化点のほうが軟化点よりも高い、積層体。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体であって、
前記接着剤が湿気硬化型ホットメルト接着剤であり、
前記湿気硬化型ホットメルト接着剤は、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点のほうが、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点よりも高い、積層体。」
2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に記載された「再軟化点」及び「軟化点」を、それぞれ「前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点」及び「前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点」と補正するものである。
これは、拒絶査定において「再軟化点」、「軟化点」との用語が不明確であると指摘されたことに対し、「再軟化点」、「軟化点」をそれぞれ明確とすることを目的とした補正であるから、特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
3 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、上記1(2)に記載したとおりのものである。
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
(拡大先願)本願発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の引用文献等1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
記
<引用文献等一覧>
1.特願2014-133664号(特開2016-10912号)
2.特表平10-511716号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平8-311427号公報(周知技術を示す文献)
4.特開平4-186272号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平6-43796号公報(周知技術を示す文献)
6.特開平9-323598号公報(周知技術を示す文献)
7.特開平10-157006号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2008-69195号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2009-282900号公報(周知技術を示す文献)
10.特開2010-104905号公報(周知技術を示す文献)
11.特開2001-11419号公報(周知技術を示す文献)
12.特開2003-105303号公報(周知技術を示す文献)
13.特開2011-84623号公報(周知技術を示す文献)
第4 当審の判断
1 引用文献等1の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「明細書等」という。)の記載及び先願発明、周知技術
(1)引用文献等1の明細書等の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由において引用文献等1として引用した特願2014-133664号(特開2016-10912号)(以下「先願1」という。)の明細書等には、以下の記載がある(下線は当審において付与し、「・・・」は省略を表す。以下同様。)。
・「【請求項1】
樹脂発泡体と、前記樹脂発泡体の表面に溶融状態で塗布されたホットメルト接着剤を挟んで前記樹脂発泡体の表面に積層されて接着した天然皮革とよりなる表皮材。
【請求項2】
前記ホットメルト接着剤が湿気硬化型ホットメルト接着剤からなることを特徴とする請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記樹脂発泡体は、軟質スラブポリウレタン発泡体であることを特徴とする請求項1または2に記載の表皮材。」
・「【背景技術】
【0002】
従来、自動車、鉄道、航空機、家具等の座席や内装材等の表皮材として、ポリウレタン発泡体に天然皮革を接着した表皮材がある。
・・・
【0005】
しかし、不織布状のホットメルト接着剤あるいは粉末状のホットメルト接着剤を用いる方法では、天然皮革とポリウレタン発泡体を接着する際に、ポリウレタン発泡体側から加熱する場合、表皮材の感触を向上させるためにポリウレタン発泡体の厚みを10mm以上にすると、ポリウレタン発泡体の断熱効果によってポリウレタン発泡体と天然皮革間のホットメルト接着剤に充分な熱が伝わらず、ポリウレタン発泡体と天然皮革を確実に接着できなくなる。また、接着性を高めるために加熱温度を上げると、ポリウレタン発泡体が熱劣化を生じる問題が発生する。さらに、表皮材の縫製作業を良好にするため、ポリウレタン発泡体の裏面にナイロントリコット等からなる裏基布を予め接着した場合、裏基布が熱によって収縮する等の問題が発生する。
【0006】
また、ホットメルト接着剤による天然皮革とポリウレタン発泡体の接着を確実にするため、天然皮革側から加熱してホットメルト接着剤に熱が伝わり易くする場合、熱が直接天然皮革に加わるため、天然皮革本来の表面に有する自然なシボ(微細な凹凸)が熱で伸びて平坦な表面になり、天然皮革本来の意匠性が損なわれたり、熱によって天然皮革が収縮したりする問題が発生し、良好な表皮材が得られなくなる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図1に示す第1実施形態の表皮材10は、自動車、鉄道、航空機、家具等の座席や内装材等の表皮材として好適なものであって、樹脂発泡体11と、前記樹脂発泡体11の表面に溶融状態で塗布されたホットメルト接着剤21を挟んで前記樹脂発泡体11の表面に積層されて接着した天然皮革31とで構成されている。
【0028】
前記樹脂発泡体11としては特に限定されるものではなく、例えば軟質ポリウレタン発泡体、ポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体等を挙げることができる。特に、常温・常圧下で連続的に発泡させるスラブ発泡により製造されたブロック状の軟質ポリウレタン発泡体をシート状に裁断した軟質スラブポリウレタン発泡体は、前記樹脂発泡体11として好適なものである。前記軟質スラブポリウレタン発泡体は、裁断表面にセル骨格の切断部が凹凸となって露出しているため、ホットメルト接着剤21が軟質スラブポリウレタン発泡体の表面に係合して前記樹脂発泡体11と前記天然皮革31の接着強度が高くなる。
・・・
【0031】
前記樹脂発泡体11において前記天然皮革31が接着される表面に溶融状態で塗布されるホットメルト接着剤21としては、酢酸ビニル樹脂のような熱可塑性プラスチックからなる通常のもの、あるいは加熱により溶融して湿気により反応硬化する湿気硬化型のものなどが挙げられる。特に湿気硬化型のホットメルト接着剤は、空気中の湿分のみならず、前記天然皮革31に自然に含まれる水分を利用して硬化が促進されるため、前記天然皮革31に含まれる水分によって接着性が損なわれず、却って接着性を向上させることができることから、前記ホットメルト接着剤21として好ましいものである。湿気硬化型ホットメルト接着剤としては、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系等のものがあるが、ウレタン系の湿気硬化型接着剤が扱い易さ、入手し易さ等の点から好ましい。具体的には、ウレタン系反応性ホットメルト接着剤であり、有機溶剤などの希釈剤が含まれない無溶剤系反応性熱溶融樹脂が、車両用途におけるVOC規格等を合格するうえで好ましい。この接着剤は、イソシアネート基末端のウレタンポリマーを主成分として、ポリオール成分はポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが汎用に使用されるが、その他のポリオールでもよい。反応基としてイソシアネート基を有しているウレタン化合物であればよい。熱溶融温度は70℃~200℃であり、好ましくは80℃~160℃が望ましい。」
・「【実施例】
【0045】
・実施例1~3(湿気硬化型ホットメルト接着剤、裏基布有り)
密度30kg/m3、硬さ(JIS K6400-2:2012)50N、セル数(JIS K6400-1:2004)42個/25mm、品番:EL-68WS、イノアックコーポレーション社製のポリエーテル系の軟質スラブポリウレタン発泡体を、250×400mm×厚み10mmにして樹脂発泡体として使用し、裏面にナイロントリコットの15デニールを裏基布としてアクリル系エマルジョン接着剤で接着した。
【0046】
ホットメルト接着剤として、ウレタン系の湿気硬化型接着剤、日立化成ポリマー株式会社製のポリウレタン系ホットメルト湿気硬化型樹脂、ハイボン、溶融塗布温度:150℃を用い、前記ロールコータ40によって150℃に加熱して溶融させた状態で樹脂発泡体の裏基布とは反対側の表面に塗布し付着させた。前記ホットメルト接着剤貯留槽44に貯留したホットメルト接着剤の温度、前記供給ロール42と前記塗布ロール43の温度は何れも80℃であり、前記供給ロール42と前記塗布ロール43の回転速度及び前記クリアランスの値を固定し、樹脂発泡体の送り速度を4~6m/分で変化させて表1に示す実施例1~3の付着量(塗布量)とした。
【0047】
次に、プレス下型上にホットメルト接着剤を上向きにして樹脂発泡体を載置し、樹脂発泡体表面のホットメルト接着剤を挟んで天然皮革(牛革)を樹脂発泡体に積層し、プレス上型を下降させて圧縮し、表1に示す実施例1~3の表皮材を形成した。なお圧縮は常温で40秒間行い、圧縮量は60%に設定した。」
・「【0050】
【表1】
[図:0001429414000001.jpg]
」
・「【0060】
表1及び表2に示すように、ホットメルト接着剤を溶融して樹脂発泡体側に付着した各実施例の表皮材は、天然皮革と樹脂発泡体の剥離強度が高く、硬さも柔らかく、天然皮革の外観が良好で、収縮が小さく、自動車、鉄道、航空機、家具等の座席や内装材等の表皮材として好適なものである。また、裏基布を有する実施例1~4は裏基布に熱による劣化がなく、良好な品質であった。さらに、湿気硬化型の接着剤を使用した場合、高温環境下における剥離強度(耐熱性接着強度)が強く、耐久性があった。」
・「【図1】
[図:0001429414000002.jpg]
【図2】
[図:0001429414000003.jpg]
」
イ 先願発明
以上より、先願1の明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「密度30kg/m3、硬さ(JIS K6400-2:2012)50N、セル数(JIS K6400-1:2004)42個/25mm、品番:EL-68WS、イノアックコーポレーション社製のポリエーテル系の軟質スラブポリウレタン発泡体を、250×400mm×厚み10mmにして樹脂発泡体として使用し、裏面にナイロントリコットの15デニールを裏基布としてアクリル系エマルジョン接着剤で接着し、
ホットメルト接着剤として、ウレタン系の湿気硬化型接着剤(日立化成ポリマー株式会社製のポリウレタン系ホットメルト湿気硬化型樹脂、ハイボン、溶融塗布温度:150℃)を用い、150℃に加熱して溶融させた状態で樹脂発泡体の裏基布とは反対側の表面に塗布し付着させ、
次に、プレス下型上にホットメルト接着剤を上向きにして樹脂発泡体を載置し、樹脂発泡体表面のホットメルト接着剤を挟んで天然皮革(牛革)を樹脂発泡体に積層し、プレス上型を下降させて圧縮し、形成した表皮材。」
(2)周知技術
ア 原査定の拒絶の理由で引用した特表平10-511716号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
1.成形品製造のための成形コンパウンドとしての湿気硬化PUホットメルト接着剤の使用であって、該PUホットメルト接着剤が、その加工温度で100Pa・s未満の溶融粘度を有することを特徴とする使用。
・・・
4.ホットメルト接着剤が、脱型直後に比べ、硬化後に少なくとも20℃高い軟化点を有することを特徴とする請求項3に記載の使用。」(第2ページ)
・「【発明の詳細な説明】
ポリウレタンホットメルト型接着剤から製造される成形品
本発明は、成形品製造のための湿気硬化PUホットメルト接着剤の使用に関する。
ホットメルト接着剤の成形品は知られている。・・・」(第4ページ)
イ 原査定の拒絶の理由で引用した特開2008-69195号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイのガラスパネルや、電子機器の放熱板などの貼り合せに使用される熱伝導性に優れた熱伝導性湿気硬化型接着剤に関し、製品のリペア時や、製品ライフサイクル終了後には容易に解体することができる熱伝導性湿気硬化型接着剤に関する。」
・「【0038】
本発明の熱伝導性湿気硬化型接着剤は、湿気硬化前であれば(概ね貼り合せ後数時間以内)、貼り合せしたものを100~150℃に加温することにより分離させ、リペアでき、湿気硬化後であっても180~350℃の加熱で、容易に分離、解体することができる。」
ウ 原査定の拒絶の理由で引用した特開2009-282900号公報(以下「引用文献9」という。)には、次の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触ICカードの製造方法と当該方法により製造された非接触ICカードに関する。詳しくは、ICカードを構成する表裏のシート材料を有し、当該表裏シート材料に湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗工した後、当該シートの接着剤塗工面の間に、アンテナにICチップを実装したアンテナシートを挿入し、当該アンテナシートの両面と表裏シート材料間を、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤を反応硬化させて接着する非接触ICカードの製造方法と当該製造方法により製造された非接触ICカードに関する。」
・「【0006】
このような問題を解決して、非接触ICカードを大量かつ低コストで生産する各種製造方法が提案されている。なかでも、ICチップとコイルからなるICモジュールを、表裏のオーバーシート間に挿入し、生じる空隙にホットメルト樹脂を充填するICカードや製造方法が多く提案されている。この場合、通常のホットメルト接着剤では、接着加工温度がその接着剤の軟化温度と同じであるため耐熱性は接着加工温度以上にはならない。
そのため、高耐熱性を要求する場合には、高い接着加工温度が必要になる。しかし、そのような高い温度で接着加工すると、カード基板が反りやすいとか、カード表面に受像層がある場合は損傷を受け易い問題がある。これに対し、反応型ホットメルト接着剤は接着加工後に硬化するため耐熱温度が接着加工温度よりは高くなる利点がある。従って、上記のような問題を解決できる。反応型ホットメルト接着剤の一例としては、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンポリマーを主成分とし、このイソシアネート基が水分と反応して活性化し、さらにプレポリマーと反応して架橋構造を形成するものがある。いわゆる湿気硬化型接着剤とされるものである。」
エ 周知技術
上記ア~ウより、以下の事項は周知の事項(以下「周知技術」という。)と認められる。
「湿気硬化型ホットメルト接着剤は、湿気硬化前よりも湿気硬化後のほうが軟化点が高いことが知られていること。」
2 先願発明との対比
(1)本願発明と先願発明とを対比する。
・先願発明の「天然皮革(牛革)」は、その機能、構造及び技術的意義を考慮して対比すると、本願発明の「天然皮革」に相当し、同様に、「表皮材」は、「積層体」に相当する。
・先願発明の「密度30kg/m3、硬さ(JIS K6400-2:2012)50N、セル数(JIS K6400-1:2004)42個/25mm、品番:EL-68WS、イノアックコーポレーション社製のポリエーテル系の軟質スラブポリウレタン発泡体」である「樹脂発泡体」は、ウレタンの発泡体であることから、本願発明の「ウレタンフォーム」に相当する。
・先願発明の「ウレタン系の湿気硬化型接着剤(日立化成ポリマー株式会社製のポリウレタン系ホットメルト湿気硬化型樹脂、ハイボン、溶融塗布温度:150℃)」は、本願発明の「接着剤」及び「湿気硬化型ホットメルト接着剤」に相当する。
・先願発明の「表皮材」は「樹脂発泡体表面のホットメルト接着剤を挟んで天然皮革(牛革)を樹脂発泡体に積層し」ていることから、本願発明の「天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体」に相当する。
(2)以上のことから、本願発明と先願発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体であって、
前記接着剤が湿気硬化型ホットメルト接着剤である、
積層体。」
[相違点]
湿気硬化型ホットメルト接着剤に関し、本願発明は「前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点のほうが、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点よりも高い」と特定されているのに対し、先願発明では再軟化点、軟化点が不明な点。
3 判断
(1)上記相違点について検討する。
先願発明で用いられている「ウレタン系の湿気硬化型接着剤」は、一般に、ポリオールとイソシアネートの反応によって形成されるウレタン結合によるポリウレタンネットワークに加えて、湿気硬化前の高分子鎖に存在するイソシアネート基が湿気(H2O)と反応しNH2基となり、このNH2基が他の高分子鎖に存在するイソシアネート基と架橋反応しウレア結合することで、ポリウレタンネットワークが強化されるメカニズムの接着剤であることから、架橋反応して高分子化された湿気硬化後の湿気硬化型接着剤における「再軟化点」が、湿気硬化前の接着剤の「軟化点」と比較して高くなることは、当該メカニズムからみて明らかである。
仮にそうではないとしても、「湿気硬化型ホットメルト接着剤は、湿気硬化前よりも湿気硬化後のほうが軟化点が高い」ことは、上記1(2)エのように周知技術として知られている。
すると、先願発明において、「ウレタン系の湿気硬化型接着剤(日立化成ポリマー株式会社製のポリウレタン系ホットメルト湿気硬化型樹脂、ハイボン、溶融塗布温度:150℃)」の「再軟化点」、「軟化点」は明らかではないが、湿気硬化型ホットメルト接着剤であることから、「前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点のほうが、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点よりも高い」蓋然性が高いといえるものである。
したがって、上記相違点は実質的な相違点ではない。
ゆえに、本願発明と先願発明は同一である。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は審判請求書において、以下の主張をしている。
「「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であるところ(審査基準第III部第2章第2節2.(注1))、引用文献2~10に記載された接着剤は、いずれも、天然皮革とウレタンフォームとの間の接着に使用されることが意図されたものではなく、引用文献2~10には、接着剤が天然皮革とウレタンフォームとの間の接着に使用される点について、何ら開示されておりません。天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体の技術分野において、当該接着剤として、再軟化点のほうが軟化点よりも高い湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いることは、周知技術に該当しません。天然皮革とウレタンフォームとを接着剤を介して接着した積層体の当業者であれば、引用文献2~10に記載された接着剤を使用しようとは思いません。
したがって、湿気硬化型ホットメルト接着剤を再軟化点のほうが軟化点よりも高いものとすることは、そもそも当該技術分野において周知技術に該当せず、先願発明1において、湿気硬化型ホットメルト接着剤を再軟化点のほうが軟化点よりも高いものとすることは、周知技術の付加に該当しません。」(審判請求書第6ページ第13行~第26行)
イ しかしながら、上記3(1)で述べたように、先願発明の「ウレタン系の湿気硬化型接着剤(日立化成ポリマー株式会社製のポリウレタン系ホットメルト湿気硬化型樹脂、ハイボン、溶融塗布温度:150℃)」は、「湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点のほうが、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点よりも高い」湿気硬化型ホットメルト接着剤である蓋然性が高く、本願発明と先願発明との間に相違点は存在しないため、両者は同一である。
ウ ここで、上記1(2)で示したように、少なくとも引用文献2、8、9には、「湿気硬化型ホットメルト接着剤は、湿気硬化前よりも湿気硬化後のほうが軟化点が高いこと」が開示されている。そして、引用文献2はホットメルト接着剤を用いた成形品に関する分野(第4ページ第3行~第5行)、引用文献8はプラズマディスプレイのガラスパネルや、電子機器の放熱板などの貼り合わせに使用される熱伝導性湿気硬化型接着剤に関する分野(段落【0001】)、引用文献9は非接触ICカードの製造に関する分野(段落【0001】)と、これらの文献からは、湿気硬化型ホットメルト接着剤が様々な分野で用いられていることも把握できる。
したがって、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、湿気硬化前よりも湿気硬化後のほうが軟化点が高いことは、様々な分野において知られている事項であり、周知技術と呼べるものである。
すなわち、「天然皮革とウレタンフォームとの間の接着に、湿気硬化した後に軟化する温度である再軟化点のほうが、前記湿気硬化型ホットメルト接着剤が湿気硬化していない状態で軟化する温度である軟化点よりも高い湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いること」を周知技術と認定しているものではない。
エ ゆえに、請求人の主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-022012