特許拒絶査定不服審判
2023-019464
脳の健康監視のための眼球インピーダンスベースのシステム
- 審判番号
- 2023-019464
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-563423外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年11月16日
- 審決日
- 2025年05月19日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .575-Z (A61B) / P18 .113-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-563423「脳の健康監視のための眼球インピーダンスベースのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月22日国際公開、WO2018/213456、令和 2年 7月16日国内公表、特表2020-520699〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)5月16日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 4月14日付け:拒絶理由通知書
同年 9月16日提出:意見書、誤訳訂正書
同年12月13日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月10日提出:意見書、手続補正書
同年 7月10日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年11月16日提出:審判請求書、手続補正書
同年12月19日提出:手続補正書(方式)の提出
令和6年 3月12日作成:前置報告書
同年10月18日提出:上申書の提出
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年11月16日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の概要
令和5年11月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は 、特許請求の範囲について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前(令和5年4月10日にされた手続補正後をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は、補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
対象の脳の健康を評価するための装置であって、
1つ以上の電極と、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記装置に、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に視神経を通じて電流を供給すること、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること、ならびに
前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること、を行わせる、非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリと、を備える、装置。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
対象の脳の健康を評価するための装置であって、
1つ以上の電極と、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記装置に、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に視神経を通じて電流を供給すること、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を、前記視神経を介して検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること、ならびに
前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること、を行わせる、非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリと、を備える、装置。」
2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1の「電気信号を検知」することを、「視神経を介して」電気信号を検知することに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そのため、本件補正は、本件補正前の請求項1について、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認める。
3 独立特許要件
上記2のとおり、本件補正は、本件補正前の請求項1について特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認めることができる。
そのため、本件補正前の請求項1に記載された発明を減縮した、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合すること(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること)を要する。
以下、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができたか否かを検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2008-506444号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(引1-ア)
「【0073】
本発明の典型的な実施形態において、装置は、
a)電源の出力電流を制御する制御装置を備える前記電源と、
b)頭部への良好な電気接続結合を形成するのに適合し、電源に接続し、電源を頭部に安全な振幅及び周波数で、電界を生成するために使用し、それによって、出力電流を頭部内に流す、少なくとも2つの通電電極と、
c)電圧計及び前記電圧計に接続する2つの電圧測定電極と、を備え、前記電圧測定電極は、頭部に良好な電気接続を形成するのに適合し、それによって、電圧計が、少なくとも頭部内の電界における変化を判断することを許容し、少なくとも頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度を有する。
【0074】
本発明の実施形態において、電圧測定電極が、頭部の開口部内側に配置するのに適合している。任意選択的に、電圧測定電極が、耳の内側に配置するのに適合している。任意選択的に、電圧測定電極が円錐状でパッド付きであり、それによって、鼓膜を損傷することなく、良好な電気的接触を得るために、それらを耳の中へ十分に強く押し付けることを許容する。上記に代えて又は上記に加えて、装置は、フォトプレチスモグラフィ(光電式容積脈波記録法)で、プローブが電圧測定電極に接続した耳の中の血流を測定するのに適合したプローブを含む。
【0075】
本発明の典型的な実施形態において、少なくとも1つの電極が、頭蓋骨の開口部近くに配置されるためにそのサイズ及び形状において適合する。任意選択的に、前記開口部が、眼窩であり、前記電極が閉じたまぶたの上にフィットする形状である。」
(引1-イ)
「【0102】
典型的な実施形態において、電圧測定電極114が、耳の中に開口部104を通して挿入されて、頭蓋骨内部と比較的に良好に電気的接続する位置に到達し、通電電極108及び110の間を流れる電流と関係する頭部内部にかかる電圧を測定する。任意選択的に、電極114は、伝導性ゲルに浸ったスポンジのパッドが付いた円錐状のAg/AgCl電極である。この円錐状の形状は、良好な電気接触にするために、外耳道に電極を押し込む際に、鼓膜に電極が押圧され、可能性として損傷することを防止する。代替的に、電極114は、補聴器と同様に外耳道のような形状である。あるいは、外耳道の形状に沿うように十分に柔らかいものである。しかし、電極を比較的堅くすることは、皮膚とより良く接触して留まることができるという、潜在的優位性を有する。任意選択的に、電極114と鼓膜の間の外耳道は、完全にあるいは部分的に、伝導性ゲルで、又は別の伝導する液状材料で充填される。任意選択的に、耳のちょうど後方に配置された電圧測定電極もまた存在する。大きい全電極領域をもたらすために、また、電極領域をさらに広げるために、これらは、外耳道に配置された電圧測定電極にショートする。電極114は、高インピーダンス記録デバイス116に取り付けられる。したがって、非常に小さな電流が、電極114を通して流れる。これは、記録デバイス116により測定された電圧が、主に、電源112により生成された頭部内部にかかる電圧の電圧降下に依存すること、及び、頭蓋骨のインピーダンスあるいは、電極114と頭部の間の接触、電極108あるいは110と頭部の間の接触と関係するインピーダンスには、それほど依存しないことを意味する。代わりに、電極108と110との間の電圧が測定されたとした場合には、電圧は、頭蓋骨あるいはby接触間の電極と皮膚との間の接触により支配されることとなる。代替的に、電極114は、耳の内側に配置されず、頭部の表面に配置される。この場合においてさえも、電極108、110及び114の寸法及び配置、及び頭蓋骨の厚さ次第では、記録デバイス116により測定された電圧は、頭蓋骨にかかる電圧の電圧降下には、敏感ではない。あるいは、少なくとも、電極108と110との間の電圧が測定される場合より、頭蓋骨にかかる電圧の電圧降下に敏感ではない。また、記録デバイス116により測定される電圧は、頭部内部のインピーダンスに十分に敏感であるので、血液量の変化が検出できる。具体的には、通電電極の直径及び通電電極から電圧測定電極への距離が、頭蓋骨の厚さの少なくとも数倍大きい場合には、電圧測定電極の電位は、実質的に、頭部側面上の通電電極の電位よりも、脳表面の電位に近くなる傾向となる。いくつかの実施形態において、電極114は、こめかみに配置される。そこは、頭蓋骨が、頭部の他のほとんどの部分より薄いところである。記録デバイス116で電圧を測定するのに、頭蓋骨インピーダンスの従属性をより少なくし、頭部内部のインピーダンスにより敏感であるようにするためである。他の典型的な実施形態では、電圧測定電極114、あるいは通電電極108及び110、あるいはそれらの両方が、こめかみ上、あるいは眼窩を覆って、配置される。例えば、眼を閉じている場合にまぶたを覆って、あるいは、大後頭孔近くの頭蓋底に、あるいは、これらの位置の任意の組み合わせに配置される。」
(引1-ウ)
「【0109】
記録デバイス116で、測定された電圧を、電源112により生成された電流により分割することは、脳の血液量に関する内部領域106の電気インピーダンスの測定を可能とする。任意選択的に、電源112により生成された電圧は、記録デバイス116により測定された電圧に加えて、あるいはその代わりに、インピーダンスの計算に、使用される。」
(引1-エ)
「【0130】
任意選択的に、図1A及び2Bの記録デバイス116、図1Aの電源112、図2Bの分析器230、図3A、3B、及び3Cの電源304、図3A、3B及び3Cの記録デバイス308、及び図5A、5B及び6のモニタ504、のいずれも、通電電極あるいはコイルに送られる電流を制御し、データを分析する制御装置を備える。任意選択的に、制御装置は、CPU、パワー・エレクトロニクス、AC/DC変換器、及びソフトウェア及びデータを蓄える非揮発性記憶、のいずれをも含む。」
(引1-オ)
「
[図:0001427309000001.jpg]
」
(イ) 引用文献1に記載の発明
(ア)で摘記した引用文献1の記載事項を総合すると引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
引用文献1の(引1-ア)には、引用文献1における典型的な実施形態に係る装置が記載されている。そして、(引1-イ)には、発明を実施するための最良の形態として、電圧測定電極及び通電電極の両方を、眼窩を覆って配置した態様が記載されており、(引1-ウ)には、記録デバイスで、測定された電圧から電気インピーダンスの測定が可能であること、さらに、(引1-エ)には、記録デバイスと電源とが、電流を制御し、データを分析する制御装置を備えること、制御装置は、CPUと、ソフトウェア及びデータを蓄える非揮発性記録を含むことが記載されている。
これらの記載に基づけば、引用文献1には、典型的な実施形態に係る装置において、電圧測定電極及び通電電極の両方が眼窩を覆って配置するように構成し、記録デバイスと電源とが、電流を制御しデータを分析する制御装置を備えるように構成した次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「a)電源の出力電流を制御する制御装置を備える前記電源と、
b)頭部への良好な電気接続結合を形成するのに適合し、電源に接続し、電源を頭部に安全な振幅及び周波数で、電界を生成するために使用し、それによって、出力電流を頭部内に流す、少なくとも2つの通電電極と、
c)電圧計及び前記電圧計に接続する2つの電圧測定電極と、を備え、前記電圧測定電極は、頭部に良好な電気接続を形成するのに適合し、それによって、電圧計が、少なくとも頭部内の電界における変化を判断することを許容し、少なくとも頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度を有し、
電圧測定電極は、記録デバイスに取り付けられ、記録デバイスにより測定される電圧は、頭部内部のインピーダンスに十分に敏感であるので、血液量の変化が検出でき、
電圧測定電極及び通電電極の両方が、眼窩を覆って、配置され、
記録デバイス及び電源は、通電電極に送られる電流を制御し、データを分析する制御装置を備え、制御装置は、CPU及びソフトウェア及びデータを蓄える非揮発性記憶を含む、
装置。」(以下「引用発明」という。)
(3)本件補正発明と引用発明の対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 対象の脳の健康を評価するための装置
引用発明の「装置」は、「頭部内部のインピーダンス」に基づいて「血液量の変化」を検出するものである。そして、頭部内部の「血液量の変化」は、脳の健康指標の一つであるといえる。そうすると、引用発明の「装置」は、本件補正発明の「対象の脳の健康を評価するための装置」に相当する。
イ 電極
引用発明の「少なくとも2つの通電電極」及び「2つの電圧測定電極」は、本件補正発明の「1つ以上の電極」に相当する。
ウ プロセッサ
引用発明の「記録デバイス及び電源」は、「制御装置」を備えており、これらの「制御装置」は「CPU」を含んでいる。ここで、引用発明の「CPU」は、本件補正発明の「1つ以上のプロセッサ」に相当する。
エ コンピュータ可読メモリ
引用発明の「記録デバイス及び電源」は、「制御装置」を備えており、これらの「制御装置」は「ソフトウェア及びデータを蓄える非揮発性記憶」を含んでいる。ここで、引用発明の「非揮発性記憶」は、本件補正発明の「コンピュータ可読メモリ」に相当する。また、引用発明の「ソフトウェア」は、技術的にみて、各々の「制御装置」に含まれる「CPU」によって実行されることにより、各々の「制御装置」を「通電電極に送られる電流を制御」し、「データを分析する」ように作動させるものである。そうすると、引用発明の「ソフトウェア」は、本件補正発明の「非一時的命令」に相当し、引用発明の「非揮発性記憶」は、本件補正発明の「非一時的命令を記憶する」という要件を満たしている。
そして、引用発明の「通電電極」は、「眼窩を覆って、配置され」、「電源を頭部に安全な振幅及び周波数で、電界を生成するために使用し、それによって、出力電流を頭部内に流す」ように、上記「制御装置」によって作動されるものであるから、引用発明の「電源」に備えられた「制御装置」に含まれる「ソフトウェア」は、「CPU」によって実行されたときに、「少なくとも2つの通電電極」を使用して「眼窩」を介して「出力電流を頭部内に流す」ことにより、「頭部」に「電界を生成する」ように作動させるものといえる。そうすると、本件補正発明の「非一時的命令」と引用発明の「ソフトウェア」とは、「前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に」、「電流を供給すること」を行わせる点で共通する。
また、引用発明の「2つの電圧測定電極」も、「眼窩を覆って、配置され」るものであって、検知される「電圧」が「少なくとも頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」を有するものであり、引用発明の「記録デバイス」は、「頭部内部のインピーダンス」に基づいて「血液量の変化が検出でき」るものであり、上記「制御装置」によって「データを分析する」ように作動されるものである。そうすると、本件補正発明の「非一時的命令」と引用発明の「ソフトウェア」とは、「前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を」、「検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること」、ならびに「前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること」を行わせる点でも共通する。
オ 一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明は、次の一致点で一致し、次の相違点で一応相違する。
<一致点>
「対象の脳の健康を評価するための装置であって、
1つ以上の電極と、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記装置に、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に電流を供給すること、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること、ならびに
前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること、を行わせる、非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリと、を備える、装置。」
<相違点>
相違点:本件補正発明の「コンピュータ可読メモリ」が記憶する「非一時的命令」は、プロセッサによって実行されたとき、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせるのに対し、引用発明の「非揮発性記憶」が蓄える「ソフトウェア」は、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせることが特定されていない点。
(4)判断
前記(3)において挙げた相違点について検討する。
引用発明は、「電圧測定電極及び通電電極の両方が、眼窩を覆って、配置」されるものである。そして、引用発明は、「電源の出力電流を制御する制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「少なくとも2つの通電電極」から「出力電流を頭部内に流す」ように制御されている。「眼窩を覆って、配置」された「通電電極」から「頭部内」に供給される出力電流は、「眼窩を覆って、配置」された「通電電極」と「頭部内」との間にある組織を介して流れることは自明である。そして、「眼窩」と「頭部内」との間には、眼球と脳とを結ぶ「視神経」が存在しており、このような神経細胞は、電気信号を伝達するものであるから、電流を伝達し易いものといえる。そうすると、引用発明は、「電源の出力電流を制御する制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「少なくとも2つの通電電極」によって「出力電流を頭部内に流す」ように制御されることにより、通電電極からの出力電流の少なくとも一部が、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して「頭部内」供給されているといえる。
また、引用発明は、「記録デバイス」が備える「制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「2つの電圧測定電極」が「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」を測定するように制御されている。「眼窩を覆って、配置」された「電圧測定電極」において測定される「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」は、「頭部内」と「眼窩」との間に存在する「視神経」を介して伝達されることは自明である。そうすると、引用発明は、「記録デバイス」が備える「制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「2つの電圧測定電極」が「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」の少なくとも一部を、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して検知しているといえる。したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。
よって、本件補正発明は引用文献1に記載された発明である。
(5)請求人の主張
請求人は、審判請求書において以下の主張をしている。
主張:「このように、引用文献1の公開時点の既存の技術は、脳の生体インピーダンスを同様に測定する目的の、異なる技術のために、眼窩上に電極を使用していたもので、眼窩上に通電電極および/または電圧測定電極を置くことを開示していても、視神経を通じて電流を供給し、検知するという本願発明の特徴を何ら開示するものではありません。」
上記主張について検討する。
第2の3(3)エで既に検討しているように、物の構成として、引用発明の「非揮発性記憶」が、本件補正発明の「コンピュータ可読メモリ」に相当することは上述した通りである。
また、引用発明の「ソフトウェア」においても、上記で検討しているように、本件補正発明の「非一時的命令」と引用発明の「ソフトウェア」とは、「前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を」、「検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること」、ならびに「前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること」を行わせる点でも共通する。
そして、オで検討した一応相違するとした相違点については、「(4)判断」において述べたように、引用発明は、「電源の出力電流を制御する制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「少なくとも2つの通電電極」によって「出力電流を頭部内に流す」ように制御されることにより、通電電極からの出力電流の少なくとも一部が、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して「頭部内」供給されているといえる。
また、引用発明は、「記録デバイス」が備える「制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「2つの電圧測定電極」が「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」の少なくとも一部を、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して検知しているといえる。
したがって、上記した一応の相違点は、「非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリ」として引用発明と本件補正発明とで、実質的に相違するものではない。
以上から、請求人の主張を採用することはできない。
(6)むすび
以上のとおり、上記相違点は、実質的な相違点ではない。そうすると、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明の認定
令和5年11月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年4月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1(1)に記載したとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
2 原査定における拒絶の理由の概要
本願発明に対する原査定の理由1の概要は、以下のとおりである。
理由1(新規性) この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(引用文献)
1.特表2008-506444号公報(上記第2.3(2)ア(ア)で挙げた引用文献1と同じ)
3 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2[補正の却下の決定の理由]3(2)ア(ア)に記載したとおりである。
4 当審の判断
本願発明は、本件補正発明における「、前記視神経を介して」という限定事項を有しないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明の発明特定事項が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明の発明特定事項と相違はないものであるから、本願発明の発明特定事項も引用発明の発明特定事項との間に差違はない。
よって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
第4 上申書における補正案について
ア 補正案の内容
請求人は、上申書において、請求時に補正された本件補正発明をさらに補正する用意がある旨を述べ、次の補正案(以下、この補正案による発明を「上申書補正案発明」という。下線は本件補正発明からの補正箇所。)を提示した。
「[請求項1]
対象の脳の健康を評価するための装置であって、
1つ以上の電極であって、
(1)前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に視神経を通じて電流を供給し、および
(2)前記対象の前記眼球領域から前記視神経を介して得られた電気信号を検知するための1つ以上の電極と、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記装置に、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域を介して前記対象の前記脳に前記視神経を通じて前記電流を供給すること、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた前記電気信号を、前記視神経を介して検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること、ならびに
前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること、を行わせる、非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリと、を備える、装置。」
イ 補正案についての検討
上記補正案の補正は、電極の構成を特定し、適宜「前記」の記載を追加したものとなっている。
第2の3(2)ア(イ)にも記載しているように、引用発明は、電極の構成として、
「b)頭部への良好な電気接続結合を形成するのに適合し、電源に接続し、電源を頭部に安全な振幅及び周波数で、電界を生成するために使用し、それによって、出力電流を頭部内に流す、少なくとも2つの通電電極と、
c)電圧計及び前記電圧計に接続する2つの電圧測定電極と、を備え」るものである。
引用発明の「通電電極」は、「眼窩を覆って、配置され」、「電源を頭部に安全な振幅及び周波数で、電界を生成するために使用し、それによって、出力電流を頭部内に流す」ように、上記「制御装置」によって作動されるものであるから、引用発明の「電源」に備えられた「制御装置」に含まれる「ソフトウェア」は、「CPU」によって実行されたときに、「少なくとも2つの通電電極」を使用して「眼窩」を介して「出力電流を頭部内に流す」ことにより、「頭部」に「電界を生成する」ように作動させるものといえる。そうすると、上申書補正案発明の「非一時的命令」と引用発明の「ソフトウェア」とは、「前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に」、「電流を供給すること」を行わせる点で共通する。
また、引用発明の「2つの電圧測定電極」も、「眼窩を覆って、配置され」るものであって、検知される「電圧」が「少なくとも頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」を有するものであり、引用発明の「記録デバイス」は、「頭部内部のインピーダンス」に基づいて「血液量の変化が検出でき」るものであり、上記「制御装置」によって「データを分析する」ように作動されるものである。そうすると、上申書補正案発明の「非一時的命令」と引用発明の「ソフトウェア」とは、「前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を」、「検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること」、ならびに「前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること」を行わせる点でも共通する。
以上より、上申書補正案発明と引用発明は、次の一致点で一致し、次の相違点で一応相違する。
<一致点>
「 対象の脳の健康を評価するための装置であって、
1つ以上の電極であって、
(1)前記対象の眼球領域を介して前記対象の脳に電流を供給し、および
(2)前記対象の前記眼球領域から得られた電気信号を検知するための1つ以上の電極と、
1つ以上のプロセッサと、
前記1つ以上のプロセッサによって実行されたとき、前記装置に、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域を介して前記対象の前記脳に前記電流を供給すること、
前記1つ以上の電極を使用して、前記対象の前記眼球領域から得られた前記電気信号を、検知し、前記電気信号から前記対象の生体インピーダンス値を決定することであって、前記生体インピーダンス値が、前記対象の前記眼球および脳領域の少なくとも一部分を含む伝導経路の生体インピーダンスを表す、検知し、決定すること、ならびに
前記生体インピーダンス情報から脳の健康指標を決定すること、を行わせる、非一時的命令を記憶するコンピュータ可読メモリと、を備える、装置。」
<相違点>
相違点1:上申書補正案発明の「コンピュータ可読メモリ」が記憶する「非一時的命令」は、プロセッサによって実行されたとき、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせるのに対し、引用発明の「非揮発性記憶」が蓄える「ソフトウェア」は、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせることが特定されていない点。
相違点2:上申書補正案発明の「1つ以上の電極」は、プロセッサによって実行されたとき、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせるのに対し、引用発明の「1つ以上の電極」は、装置に、「視神経を通じて」電流を供給し、電気信号を「視神経を介して」検知することを行わせることが特定されていない点。
相違点1については上述の第2の3(4)で検討したとおりである。
相違点2について検討する。
上述の第2の3(4)で述べたとおりであるが、引用発明は、「電圧測定電極及び通電電極の両方が、眼窩を覆って、配置」されるものである。そして、引用発明は、「電源の出力電流を制御する制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「少なくとも2つの通電電極」から「出力電流を頭部内に流す」ように制御されている。「眼窩を覆って、配置」された「通電電極」から「頭部内」に供給される出力電流は、「眼窩を覆って、配置」された「通電電極」と「頭部内」との間にある組織を介して流れることは自明である。そして、「眼窩」と「頭部内」との間には、眼球と脳とを結ぶ「視神経」が存在しており、このような神経細胞は、電気信号を伝達するものであるから、電流を伝達し易いものといえる。そうすると、引用発明は、「電源の出力電流を制御する制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「少なくとも2つの通電電極」によって「出力電流を頭部内に流す」ように制御されることにより、通電電極からの出力電流の少なくとも一部が、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して「頭部内」供給されているといえる。
また、引用発明は、「記録デバイス」が備える「制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「2つの電圧測定電極」が「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」を測定するように制御されている。「眼窩を覆って、配置」された「電圧測定電極」において測定される「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」は、「頭部内」と「眼窩」との間に存在する「視神経」を介して伝達されることは自明である。そうすると、引用発明は、「記録デバイス」が備える「制御装置」によって、「眼窩を覆って、配置」された「2つの電圧測定電極」が「頭部のインピーダンスの変化を推定するために十分な精度」の「電圧」の少なくとも一部を、「眼窩」と「頭部内」との間に存在する「視神経」を介して検知しているといえる。
したがって、上記相違点1及び2は、実質的な相違点ではない。
してみると、上記第2の3(2)ア(イ)で検討した引用発明となんら相違するものではない。
その他の点については既に上記で検討したとおりである。
ウ 小括
よって、請求人の上申書の補正案を採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は引用文献1に記載された発明といえるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019464