特許拒絶査定不服審判
2023-015102
バリスタ
- 審判番号
- 2023-015102
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-513545
- 請求日
- 2023年09月08日
- 審決日
- 2024年08月14日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P18 .572-Z (H01C) / P18 .575-Z (H01C) / P18 .121-Z (H01C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-513545「バリスタ」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月14日国際公開、WO2021/089816、令和 4年11月 9日国内公表、特表2022-546809〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)11月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2019年11月8日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 1月26日付け:拒絶理由通知
令和5年 4月18日 :手続補正書、意見書の提出
令和5年 5月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年 9月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年9月8日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和5年9月8日の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載については、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である)。
「【請求項1】
バリスタであって、
機能性セラミックを有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内に配置された複数の電極であって、当該バリスタの外部コンタクトのそれぞれに電気的に接続された非浮遊電極を含む、複数の電極と、
を有し、
前記電極は、さらに、前記外部コンタクトに対して電気的に絶縁された少なくとも3つの浮遊電極を有し、
少なくとも2つの浮遊電極は、同じ層に配置され、
各浮遊電極は、少なくとも2つの別の電極と重なり合い、
少なくとも2つの浮遊電極は、それぞれ、前記非浮遊電極の1つと重なり合い、
前記浮遊電極の1つと重なり合う2つの前記別の電極の間の距離(D1)は、本浮遊電極と前記第1の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、前記浮遊電極と前記第2の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、
前記機能性セラミックは、グレインを有し、少なくとも2つの隣接するグレインは、隣接する電極同士の間に直列に配置され、
前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なりは、長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%であり、
当該バリスタのキャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズされる、バリスタ。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和5年4月18日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
バリスタであって、
機能性セラミックを有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内に配置された複数の電極であって、当該バリスタの外部コンタクトのそれぞれに電気的に接続された非浮遊電極を含む、複数の電極と、
を有し、
前記電極は、さらに、前記外部コンタクトに対して電気的に絶縁された少なくとも3つの浮遊電極を有し、
少なくとも2つの浮遊電極は、同じ層に配置され、
各浮遊電極は、少なくとも2つの別の電極と重なり合い、
少なくとも2つの浮遊電極は、それぞれ、前記非浮遊電極の1つと重なり合い、
前記浮遊電極の1つと重なり合う2つの前記別の電極の間の距離(D1)は、本浮遊電極と前記第1の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、前記浮遊電極と前記第2の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、
前記機能性セラミックは、グレインを有し、少なくとも2つの隣接するグレインは、隣接する電極同士の間に直列に配置される、バリスタ。」
2 補正の適否
(1)特許法第17条の2第5項に掲げる目的について
請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なり」について、「長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%」であることの限定を付加し、さらに、「当該バリスタ」について、「キャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズされる」ことの限定を付加する補正である。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)特許法第17条の2第6項において準用する独立特許要件について
本件補正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものを含むものであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。
ア 本件補正発明1
本件補正発明1は、上記「1(1)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。
イ 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1~3の記載事項
(ア)引用文献1(特開平10-199709号公報)
a 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平10-199709号公報には、「積層型バリスタ」について、以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は積層型バリスタに係り、特にサージ電流耐量の大きい積層型バリスタに関するものである。」
「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例について図1にもとづき詳述する。図1(A)は本発明の一実施例の積層板バリスタ1の内部構造を示す断面図であり、図1(B)はその斜視図である。図1(B)におけるA-A′部分の断面図を図1(A)に示す。
【0012】図1において、1は本発明の積層型バリスタ、2はバリスタ層、3は第1の内部電極、4は第2の内部電極、5は外部端子電極、6は保護層である。本実施例の積層型バリスタ1の製造方法について説明する。バリスタ層2を構成する主成分の酸化亜鉛(ZnO)98.17wt%に対して、酸化コバルト(CoO)1.2wt%、酸化プラセオジウム(Pr6O11)0.5wt%、炭酸カルシウム(CaCO3)0.1wt%、酸化ケイ素(SiO2)0.03wt%の割合になるように秤量を行った。
【0013】この粉末に有機バインダ、有機溶剤、有機可塑剤を加え、ボール・ミルで20時間混合、粉砕を行い、スラリーを作成した。このスラリーをドクターブレード法によってポリエチレンテレフタレートベースフィルム上に30μmの厚さのグリーンシートを作成した。次いでベースフィルムからグリーンシートを用いて保護層6を積層し、その後バリスタ層2と第1の内部電極3、第2の内部電極4を積層した。
【0014】このとき、第1の内部電極3と第2の内部電極4の材料にはパラジウムペーストを用い、スクリーン印刷にて所望の層数形状になるように印刷・積層を行った。その上に保護層6を積層し、加熱圧着した後所定の形状になるように切断してグリーンチップとした。
【0015】このグリーンチップを350℃で2時間の条件で脱バインダーを行った後に、約1260℃で約4時間焼成して焼結体とした。それからこの焼結体の両端面に外部端子電極材料として、銀・パラジウムペーストを塗布、乾燥した後約800℃で焼き付けて外部端子電極5、5を形成し、積層型バリスタ1を得た。」
「【0018】なお、図1(A)において、G1 及びG2 は第2の内部電極4の端部と外部端子電極5、5との間隔であり、通常はバリスタ層の厚みtよりも大きくする。またG3 は第1の内部電極3、3間の間隔で、これもまたバリスタ層の厚みtよりも大きくする。」
「【0020】本発明の第2実施例を図3に示す。図3においては、バリスタ層2の層数が6つまり図1の第1実施例の3倍の例を示すものであり、それ以外は同様に構成されている。そして第1実施例と同様にテストを行ってその30個の平均値を表1の試料2として示した。
【0021】
【表1】
[図:0001418822000001.jpg]
」
「【0026】本発明の第3実施例を図4にもとづき説明する。図4において図1と同記号は同一部分を示す。第3実施例に示す積層型バリスタ20では電極部分が外部端子電極5、5と接続されている第1の内部電極11、11とその中間に位置する内部中間電極12と、第1の内部電極11と内部中間電極12間の間隔部分を跨いで位置する第2の内部電極13、13により形成されている。これらの各内部電極及び内部中間電極は、図1に示す各内部電極と同様にパラジウムにより構成され、またバリスタ層2、外部端子電極5、保護層6等は、これまた図1に示す実施例と同様に構成される。」
[図:0001418822000002.jpg]
[図:0001418822000003.jpg]
b 引用文献1に記載された発明
(a)【0012】~【0015】より、引用文献1には、バリスタ層を構成する主成分の酸化亜鉛を含む粉末から作成されたグリーンシートを用いて保護層、バリスタ層、第1の内部電極、第2の内部電極、保護層が積層され、所定の形状となるように切断してグリーンチップとしたものを焼成して焼結体としたものから積層型バリスタが得られることが記載されている。
すなわち、バリスタ層及び保護層は、酸化亜鉛を主成分とした粉末から作成された焼結体から構成されるので、引用文献1の積層型バリスタは、酸化亜鉛を主成分とした粉末から作成された焼結体から構成されるバリスタ層及び保護層を有するものといえる。
(b)【0026】及び【図4】より、第3実施例である図4に示された積層型バリスタのバリスタ層内には、電極部分が外部端子電極5と接続されている6つの第1の内部電極11と、その中間に位置する3つの内部中間電極12と、第1の内部電極11と内部中間電極12間の間隔部分を跨いで位置する4つの第2の内部電極13とが形成されている。
(c)【図4】より、上から2つめの層に存在する2つの第2の内部電極13は、同じ層に配置されているといえ、上から4つめの層に存在する第2の内部電極13も、同じ層に配置されているといえる。
(d)【図4】より、上から1つめの層に存在する内部中間電極12と上から5つめの層に存在する内部中間電極12とは、2つの第2の内部電極13と重なり合い、上から3つめの層に存在する内部中間電極12は、4つの第2の内部電極13と重なり合い、上から2つめの層に存在する2つの第2の内部電極13と、上から4つめの層に存在する2つの第2の内部電極13とは、いずれも、2つの第1の内部電極11、2つの内部中間電極12と重なり合っている。
(e)以上より、特に第3実施例に係る構成に着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
(引用発明)
積層型バリスタであって、
酸化亜鉛を主成分とした粉末から作成された焼結体から構成されるバリスタ層及び保護層を有し、
バリスタ層内には、電極部分が外部端子電極5と接続されている6つの第1の内部電極11と、その中間に位置する3つの内部中間電極12と、第1の内部電極11と内部中間電極12間の間隔部分を跨いで位置する4つの第2の内部電極13とが形成され、
上から2つめの層に存在する2つの第2の内部電極13は、同じ層に配置され、上から4つめの層に存在する2つの第2の内部電極13も、同じ層に配置され、
上から1つめの層に存在する内部中間電極12と上から5つめの層に存在する内部中間電極12とは、2つの第2の内部電極13と重なり合い、上から3つめの層に存在する内部中間電極12は、4つの第2の内部電極13と重なり合い、上から2つめの層に存在する2つの第2の内部電極13と、上から4つめの層に存在する2つの第2の内部電極13とは、いずれも、2つの第1の内部電極11及び2つの内部中間電極12と重なり合う
積層型バリスタ。
(イ)引用文献2(特表2017-529680号公報)
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特表2017-529680号公報には、「バリスタ単独素子」について、以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0117】
図14に示されるように、感電保護素子220がバリスタ単独素子のとき、感電保護素子220は、バリスタ物質層220b、220c及び内部電極225a、225bを含む。」
「【0119】
このとき、前記感電保護素子220の両側には、前記外部電極221と連結電極222にそれぞれ連結される中間電極223a、223bが備えられる。即ち、中間電極223aは外部電極221と連結され、中間電極223bは連結電極222に連結される。選択的に、前記外部電極121と連結電極122は焼体120aの側面に備えられる。」
「【0121】
前記内部電極225a、225bは、第1バリスタ物質層221上に一定の間隔Lで離隔された複数の第1内部電極225aと、第2バリスタ物質層222上に一定の間隔Lで離隔された複数の第2内部電極225bとを含む。」
「【0123】
前記第1内部電極225a及び前記第2内部電極225bのそれぞれは、少なくとも一部が重ならないように配置される。即ち、前記第1内部電極225a及び前記第2内部電極225bのそれぞれは、少なくとも一部が重なるように交差配置されるか、互いに重ならないように相互間に交差配置される。
【0124】
また、前記第1内部電極または前記第2内部電極は、静電気またはリーク電流が内部電極225a、225bの隣接した位置に漏洩されなく、内部電極225a、225b間で正常に進むように間隔が設定されることが好ましい。
【0125】
例えば、一つの第1内部電極225aと隣接する第2内部電極225bと間の離隔間隔Lは、前記第1内部電極225aと前記第2内部電極225b間の最短距離d1と前記隣接する他の第2内部電極225bと間の最短距離d2の和より大きく形成されることが好ましい。」
[図:0001418822000004.jpg]
(ウ)引用文献3(特開平5-226116号公報)
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開平5-226116号公報には、「積層型バリスタ」について、以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図について説明する。図1及び図2は本発明の一実施例による積層型バリスタを説明するための図である。図において、1は本実施例の積層型バリスタであり、これは半導体セラミクス層2と内部電極3とを交互に積層して積層体を形成し、該積層体を一体焼結することによって直方体状の焼結体4を形成して構成されている。また、上記各内部電極3の一端面3aは焼結体4の左, 右端面4a,4bに交互に露出されており、残りの端面はセラミクス層2の内側に位置して焼結体4内に封入されている。
【0014】また、上記焼結体4の左, 右端面4a,4bには外部電極5が被覆形成されており、該外部電極5は上記各内部電極3の一端面3aに電気的に接続されている。これにより上記内部電極3間で挟まれた部分が電圧非直線特性を発現するセラミクス層2となっている。
【0015】上記セラミクス層2は、ZnOを主成分とし、これに副成分として5mol %以下のBi,Mn,Co,Sb,Si,B,Pbのうち少なくとも1種類以上を含有してなるセラミクス材料により構成されている。
【0016】そして、上記セラミクス層2を構成するセラミクス材料の平均粒径は7μm 未満となっており、さらに上記セラミクス層2の厚さtは5~100 μm に設定されている。また、上記内部電極3はAg-Pd合金からなり、このAgとPdとの含有割合は、重量比でAg:Pd=(1-X):X,0.05≦X≦0.5 に設定されている。」
「【0022】次に、本実施例の積層型バリスタ1の効果を確認するために行った試験について説明する。
試験1
【0023】
【表1】
[図:0001418822000005.jpg]
」
ウ 本件補正発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「積層型バリスタ」は、本件補正発明1の「バリスタ」に相当する。
(イ)引用発明の「バリスタ層及び保護層」は、酸化亜鉛を主成分とした粉末から作成された焼結体から構成されることからセラミックであるといえ、バリスタは、セラミックの機能が非直線的な抵抗変化を示すことを利用したものであるから、当該セラミックは機能性セラミックであるといえる。
以上より、引用発明の「酸化亜鉛を主成分とした粉末から作成された焼結体から構成されるバリスタ層及び保護層」は、本件補正発明1の「機能性セラミックを有するセラミック本体」に相当する。
(ウ)引用発明のバリスタ層内には、「電極部分が外部端子電極5と接続されている6つの第1の内部電極11と、その中間に位置する3つの内部中間電極12と、第1の内部電極11と内部中間電極12間の間隔部分を跨いで位置する4つの第2の内部電極13」とが形成されている。
ここで、「第1の内部電極11」と「内部中間電極12」と「第2の内部電極13」は、いずれも「電極」であり、バリスタ層内に複数配置されていることから、本件補正発明1の「前記セラミック本体内に配置された複数の電極」に相当する。
また、引用発明の「外部端子電極5」は、外部と接続されるために設けられているものであって、本件補正発明1の「当該バリスタの外部コンタクト」に相当することから、引用発明の「外部端子電極5と接続されている6つの第1の内部電極11」は、本件補正発明1の「当該バリスタの外部コンタクトのそれぞれに電気的に接続された非浮遊電極」に相当する。
すなわち、引用発明は、本件補正発明1の「前記セラミック本体内に配置された複数の電極であって、当該バリスタの外部コンタクトのそれぞれに電気的に接続された非浮遊電極を含む、複数の電極」に相当する構成を有している。
(エ)引用発明の「3つの内部中間電極12」と「4つの第2の内部電極13」は、いずれも外部端子電極5に接続されておらず、電気的に絶縁されているといえるものであるから、本件補正発明1の「前記外部コンタクトに対して電気的に絶縁された少なくとも3つの浮遊電極」に相当する。
(オ)引用発明は、「上から2つめの層に存在する2つの内部中間電極13は、同じ層に配置され、上から4つめの層に存在する2つの内部中間電極13も、同じ層に配置されている」ことから、本件補正発明1の「少なくとも2つの浮遊電極は、同じ層に配置」される構成に相当する構成を有している。
(カ)引用発明の「内部中間電極12」は、2つもしくは4つの第2の内部電極13と重なり合い、「第2の内部電極13」は、2つの第1の内部電極11及び2つの内部中間電極12と重なり合う構成であるから、本件補正発明1の「各浮遊電極は、少なくとも2つの別の電極と重なり合い」に相当する構成を有している。
(キ)引用発明は「上から2つめの層に存在する2つの第2の内部電極13と、上から4つめの層に存在する2つの第2の内部電極13とは、いずれも、2つの第1の内部電極11及び2つの内部中間電極12と重なり合う」構成であるから、第2の内部電極13は、いずれも第1の内部電極11のいずれかと重なり合うものであり、本件補正発明1の「少なくとも2つの浮遊電極は、それぞれ、前記非浮遊電極の1つと重なり合い」に相当する構成を有している。
(ク)本件補正発明1は、「前記浮遊電極の1つと重なり合う2つの前記別の電極の間の距離(D1)は、本浮遊電極と前記第1の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、前記浮遊電極と前記第2の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。
(ケ)本件補正発明1は、「前記機能性セラミックは、グレインを有し、少なくとも2つの隣接するグレインは、隣接する電極同士の間に直列に配置され」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。
(コ)本件補正発明1は、「前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なりは、長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%であり、当該バリスタのキャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズされる」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。
(サ)上記(ア)~(コ)によれば、本件補正発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
バリスタであって、
機能性セラミックを有するセラミック本体と、
前記セラミック本体内に配置された複数の電極であって、当該バリスタの外部コンタクトのそれぞれに電気的に接続された非浮遊電極を含む、複数の電極と、
を有し、
前記電極は、さらに、前記外部コンタクトに対して電気的に絶縁された少なくとも3つの浮遊電極を有し、
少なくとも2つの浮遊電極は、同じ層に配置され、
各浮遊電極は、少なくとも2つの別の電極と重なり合い、
少なくとも2つの浮遊電極は、それぞれ、前記非浮遊電極の1つと重なり合う、バリスタ。
(相違点1)
本件補正発明1は、「前記浮遊電極の1つと重なり合う2つの前記別の電極の間の距離(D1)は、本浮遊電極と前記第1の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍であり、前記浮遊電極と前記第2の別の電極との間の距離(D2)の少なくとも2倍」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。
(相違点2)
本件補正発明1は、「前記機能性セラミックは、グレインを有し、少なくとも2つの隣接するグレインは、隣接する電極同士の間に直列に配置され」るのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。
(相違点3)
本件補正発明1は、「前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なりは、長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%であり、当該バリスタのキャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズされる」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。
エ 相違点についての判断
(ア)上記相違点1について
引用発明は第3実施例に係る構成に着目した発明であって、第3実施例に関連した発明の詳細な説明や図面には、浮遊電極の1つと重なり合う2つの別の電極の間の距離と、本浮遊電極と別の電極との間の距離に関する記載はない。
しかし、積層構造のバリスタでは、電荷キャリアが電極の層間を移動する必要があるため、同じ層に配置される電極同士の距離は、電極の層間の距離よりもできるだけ大きくなるように設計すべきであることは言うまでもなく、引用文献1の【0018】及び【図1】(A)には、第1実施例である図1(A)に示された積層型バリスタにおける第1の内部電極3、3間の間隔G3は、バリスタ層の厚みtよりも大きくすることが記載されている。
更に、引用文献2には、【0117】~【0125】及び【図14】の記載から、バリスタにおいて、静電気またはリーク電流が、同じ層に配置される電極でなく、層間の電極に進むようにするために、同じ層に配置される電極の距離Lを、層間の電極の距離d1とd2の和よりも大きくすることが記載されている。
そうすると、引用発明の積層型バリスタにおいても、第1の内部電極11と内部中間電極12との間の距離に関して、第2の内部電極13と第1の内部電極11との間の距離や第2の内部電極13と内部中間電極12との間の距離よりもできるだけ大きくなるように設計すべきであって、同じ層に配置される電極の距離Lを、層間の電極の距離d1とd2の和よりも大きくするバリスタが引用文献2に記載されていることを鑑みると、引用発明の積層型バリスタにおいて、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうるものである。
(イ)上記相違点2について
積層型バリスタを設計する際に、結晶粒界が障壁として存在し、電極間に直列につながる結晶粒界による境界層の数によりバリスタの特性が決定されるものであることは出願時における周知技術である。(必要であれば、特開2010-129817号公報の【0005】等を参照。)
また、引用文献3の【0013】~【0023】には、積層型バリスタにおいて、内部電極間の厚みよりもセラミクス材料の平均粒径を小さくした実施例が記載されており、そのような構成であれば、セラミクス材料は隣接する電極同士の間に直列に配置されることとなる。
そうすると、引用発明の積層型バリスタにおいて、電極間に直列に結晶粒界による境界層を少なくとも1つ設けること、すなわち、相違点2に係る構成とすることは、当業者が普通になし得ることである。
(ウ)上記相違点3について
電極の重なり合いを変化させることにより、キャパシタンスがカスタマイズされることは、引用文献1~3に記載されていないものの、キャパシタンスにおける周知技術(必要であれば、令和5年1月26日付け拒絶理由通知において、先行技術文献として提示した特開2013-89947号公報の【0036】、【0077】~【0080】、【図2】等を参照。当該公報には、バリスタにおけるフローティング電極と2つの内部電極との重なり部の比を一定範囲内として、容量を具現することが開示されている。)にすぎず、当然、引用発明の積層型バリスタにおいても「当該バリスタのキャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズ」することができるものである。
そして、別の電極との間の電極の重なりの範囲が50%以上となると、当該別の電極同士が重なることとなるので、その範囲が50%以上になることはあり得ず、別の電極との間の重なりは、0%を超え50%未満の範囲内でキャパシタンスとして得たい範囲に設計すれば良いものであるから、引用発明の積層型バリスタにおいて、本件補正発明1のように「前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なりは、長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%」とし、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到しうるものである。
(エ)相違点についてのまとめ
また、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
よって、本件補正発明1は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張
請求人は審判請求書において、以下のような主張をしている。
「引用文献1では、段落[0009]に記載のように、「内部電極の重なり面積を大幅に増加させること」ができるようにバリスタが構成されます。具体的には、図1および図4等に示すように、電極同士の重なり合いが大きくなるように各電極が配置されます。例えば、図4において、内部中間電極12は、第2の内部電極13と大部分が重なっており、非重なり部分は、G3の寸法分しかありません。
このように、発明の効果を発現するため、各電極を電極同士の重なり合いが大きくなるように配置することが想定されている引用文献1の電極配置に対して、あえて電極の重なり合いを少なくするような電極配置を採用することを当業者が採用することはあり得ません。
また、本願第1発明では、特徴3を有します。
本願第1発明では、特徴3により、バリスタのキャパシタンスを調整することができ、設計の自由度を高めることが可能となります。係る効果は、引用文献1-3からは全く想定されない有意なものです。
特に、引用文献1では、前述のように、各電極を電極同士の重なり合いが大きくなるように(換言すれば、非重なり部分が少なくなるように)配置することを想定しています。従って、引用文献1のような非重なり部分が僅か(G3の寸法分)しかない内部中間電極12の配置では、内部中間電極12の配置をあまりずらすことができず、またわずかに配置をずらしたとしても、これによりバリスタのキャパシタンスを大きく調整することはできません。」(審判請求書6~7頁)
(イ)検討
請求人の主張について検討する。
【0018】、【0019】及び【図2】の記載によれば、積層型バリスタにおける電極の間隔(G1、G2、G3)は、バリスタ層の厚みtよりも大きくする必要があるが、図2(A)のような従来の積層型バリスタに対して、図2(B)のような積層型バリスタは、バリスタ層の厚みを1/2にしても同じバリスタ電圧を得ることができるので、電極の間隔(G1、G2、G3)を小さくすることが可能となり、結果として、【0009】に記載されているように、引用発明の積層型バリスタは、図2(A)のような従来の積層型バリスタよりも「内部電極の重なり面積を大幅に増加させることができる」のである。
すなわち、積層型バリスタの構成を図2(A)のような従来の積層型バリスタから図2(B)のような積層型バリスタにすることにより、バリスタ層の厚みが小さくなるので電極の間隔(G3)が小さくなるものであって、あくまでも、積層型バリスタにおける電極の間隔(G3)は、バリスタ層の厚みよりも大きくすることが前提である。
そして、上記エ(ウ)で検討したように、電極の重なり合いを変化させることにより、キャパシタンスがカスタマイズされることは、キャパシタンスにおける周知技術にすぎず、0%を超え50%未満の範囲内でキャパシタンスとして得たい範囲に設計すれば良いものであって、従来の積層型バリスタよりも「内部電極の重なり面積を大幅に増加させることができる」引用発明の積層型バリスタ、すなわち、バリスタ層の厚みを1/2にして電極の間隔(G3)を小さくする積層型バリスタについても、キャパシタンスをカスタマイズし、キャパシタンスとして得たい範囲に設計することを考えることに、阻害要因はなく、そのような構成を採用し、相違点3に係る構成とすることの動機付けは十分にあるものといえる。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
カ 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明1は、引用発明、引用文献2、3に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和5年4月18日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~20に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
請求項1に係る発明に対する原査定の拒絶の理由の概略は次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1~3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開平10-199709号公報
2.特表2017-529680号公報
3.特開平5-226116号公報
3 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記浮遊電極の各々と前記少なくとも2つの別の電極との間の重なりは、長手軸の方向において、前記それぞれの浮遊電極の延伸部の少なくとも5%、最大45%であり、当該バリスタのキャパシタンスは、前記少なくとも2つの別の電極の前記それぞれの浮遊電極との前記重なり合いを変化させることによりカスタマイズされる」に係る限定事項(上記相違点3に係る事項)が削除されたものである。
そうすると、上記第2[理由]2(2)に記載したとおり、本件補正発明1が、引用発明、引用文献2、3に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、相違点3に係る構成が削除された本願発明も、引用発明、引用文献2、3に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-015102