特許拒絶査定不服審判
2023-019142
センサ素子及びセンサ素子を製造する方法
- 審判番号
- 2023-019142
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-514598
- 請求日
- 2023年11月10日
- 審決日
- 2024年11月06日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 渡辺 努
- 審判官 ▲高▼橋 徳浩
- 分類
- P18 .121-Z (H01C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-514598「センサ素子及びセンサ素子を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 3月10日国際公開、WO2022/049056、令和 4年12月 7日国内公表、特表2022-551043〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)8月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年9月2日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 2月24日付け:拒絶理由通知
令和5年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 6月19日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年11月10日 :審判請求書の提出
2 本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、令和5年6月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
温度を測定するためのセンサ素子であって、
- 上面及び下面を有する少なくとも1つの担体であって、前記上面は電気的に絶縁されて形成されている、担体と、
- 少なくとも1つの機能層であって、温度依存性の電気的な抵抗を有する材料を含み、前記機能層は前記担体上に配置されている、機能層と、
- 少なくとも2つの電極であって、前記担体上に互いに離間して形成されている、電極と、
- 前記センサ素子の電気的コンタクトのための少なくとも2つのコンタクトパッドであって、前記電極のうちの1つの部分領域上に直接、それぞれ1つのコンタクトパッドが配置されている、コンタクトパッドと、を備え、
前記センサ素子は、個別コンポーネントとして電気システム内に直接組み込まれるように設計されている、
前記電極のそれぞれは複数の電極フィンガを備え、
両前記電極の前記電極フィンガは交互に相対向して配置されている、
センサ素子。」
3 原査定の拒絶の理由の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和5年6月19日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2013-197367号公報
引用文献2:特開平11-329808号公報
4 各引用文献について
(1)引用文献1の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2013-197367号公報)には、「薄膜サーミスタ素子」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
a 「【0001】
本発明は、温度検知や、人感センサなどに利用され、赤外線センサに用いられている薄膜サーミスタに関する。
【0002】
従来より温度センサや人感センサなど、赤外線を検知しその変化を信号として取り出す赤外線センサとして大きな負の温度係数をもつ遷移金属酸化物が用いられている。例えばMn―Co-Ni系の酸化物は一般的にNTCサーミスタと呼ばれ温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用して多くの温度センサや赤外線センサに使用されている。」
b 「【0017】
図1は、本実施形態の薄膜サーミスタ素子10の基本構成を示す平面図である。図2は、図1に示す薄膜サーミスタ素子10をA-A線に沿って切断した断面図である。
【0018】
薄膜サーミスタ素子10は、基板1、絶縁膜2、一対の取出し電極3、サーミスタ薄膜4、保護膜6、一対の出力端子電極5から構成され、所定の間隔をおいて形成される一対の取出し電極3と、これらの取出し電極3間に成膜されるサーミスタ薄膜4とで構成されている。
【0019】
基板1は、第1の主面1A及び、その裏面である第2の主面1Bを有しており、少なくとも第1の主面には絶縁膜2が形成されている。基板1の材質としては、適度な機械的強度を有し、且つエッチング等の微細加工に適した材質であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、シリコン(Si)単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミックス基板、石英基板、ガラス基板等が好適である。絶縁膜2としては、適度な機械的強度を有し、且つ公知の薄膜プロセスで容易に成膜できるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、Si酸化膜、Si窒化膜等が好適である。
【0020】
また、基板1には、薄膜サーミスタ素子10が配置される位置に、より具体的には、サーミスタ薄膜4が配置される位置に対応してキャビティ7が形成される。キャビティ7は、第2の主面1B側から第1の主面1A側に向けて基板内部に凹部を有している。凹部は絶縁膜2が完全に露出していることが好ましいが熱容量が大きく増加することがなければ除去残りがあってもよい。言い換えれば、薄膜サーミスタ素子10は基板1のキャビティ部分7に形成されたメンブレン構造を有している。本実施形態では、キャビティ7を設けたが、熱容量を小さくする必要がない場合は、キャビティ7を設ける必要はない。
【0021】
絶縁膜2の上に一対の取り出し電極3が形成され、取り出し電極3上にサーミスタ薄膜4が形成される。また、サーミスタ薄膜4を被覆して外気から遮蔽するための保護膜6が形成されている。取出し電極3の材質としては、サーミスタ薄膜4の成膜工程や熱処理工程等に耐え得る耐熱性を有し、且つ適度な伝導性を有する比較的高融点の材質が好ましく、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、又はこれらの金属を2種類以上含む合金等が好適である。また電気信号を取り出すためには取出し電極3に接続された出力端子電極5が各々の取出し電極3に接続されるように形成される。出力端子電極5の材質としては、ワイヤーボンドやフリップチップボンディング等の電気的接続が容易な材質、例えば、アルミニウム(Al)、Au等が好適である。
【0022】
図3はスパッタリングターゲットの結晶状態を示したX線回折、すなわち、XRDのデータであり、横軸は回折角度〔°〕、縦軸はX線強度〔counts〕を示している。本実施形態によるサーミスタ薄膜4は、図3に示す通り、Mn-Co-Ni系酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶となっているスパッタリングターゲットを用いて成膜される。」
c 「【産業上の利用可能性】
【0052】
温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用して多くの温度センサや赤外線センサに使用できる。」
d 「【図1】
[図:0001421026000001.jpg]
」
e 「【図2】
[図:0001421026000002.jpg]
」
上記aないしeから以下のことがいえる。
上記a及びcの記載より、引用文献1の薄膜サーミスタ素子は、温度検知に利用され、温度センサに使用できる薄膜サーミスタ素子である。
上記bの記載及び上記eの【図2】より、引用文献1の薄膜サーミスタ素子は、基板1とサーミスタ薄膜4と一対の取出し電極3と一対の出力端子電極5とを備えているといえる。
上記bの記載及び上記eの【図2】より、引用文献1の基板1は、第1の主面1A及び、その裏面である第2の主面1Bを有し、第1の主面には絶縁膜2が形成されている。
上記bの記載及び上記eの【図2】より、引用文献1のサーミスタ薄膜4は、絶縁膜2の上に形成された一対の取出し電極3上に形成されている。
また、上記aの記載より、Mn―Co-Ni系の酸化物は温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用して多くの温度センサに使用されるものであり、上記bの記載より、サーミスタ薄膜4は、Mn-Co-Ni系酸化物のスピネル結晶構造と、NiOのNaCl構造の混晶となっているスパッタリングターゲットを用いて成膜されていることから、サーミスタ薄膜4は、温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用するMn―Co-Ni系の酸化物を用いたものといえる。
上記bの記載及び上記eの【図2】より、引用文献1の一対の取出し電極3は、絶縁膜2の上に形成されている。
また、上記dの【図1】及び上記eの【図2】より、取出し電極3のそれぞれが離間して形成されていることが見て取れる。
上記bの記載より、引用文献1の一対の出力端子電極5は、電気信号を取り出すために取出し電極3に接続されている。
上記dの【図1】より、サーミスタ薄膜4の下部において、両取出し電極3の一端同士が向かい合っていることが見て取れることから、両取出し電極3の一端は相対向して配置されているといえる。
以上のことから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「温度検知に利用され、温度センサに使用できる薄膜サーミスタ素子であって、
第1の主面及び、その裏面である第2の主面を有し、第1の主面には絶縁膜が形成されている基板と、
絶縁膜の上に形成された一対の取出し電極上に形成され、温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用するMn―Co-Ni系の酸化物を用いたサーミスタ薄膜と
絶縁膜の上に形成され、それぞれが離間して形成されている一対の取出し電極と、
電気信号を取り出すために取出し電極に接続されている一対の出力端子電極と、を備え、
両取出し電極の一端は相対向して配置されている
薄膜サーミスタ素子。」
(2)引用文献2の記載及び引用技術事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平11-329808号公報)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、温度による感熱素子の抵抗変化を利用して赤外線量を検出する赤外線検出素子の抵抗値を調整する方法に関するものである。」
b 「【0005】
【発明の実施の形態】図1(a)及び図2(a)に示すように、本発明で用いられる基板11はSi、GaAs等の半導体又はAl2O3等の絶縁体から構成される。基板11上にはサーミスタ膜12が形成される。サーミスタ膜12は好ましくはMn-Co系、Mn-Cr系、Mn-Cu系、Mn-Ni系等のサーミスタ材料をペースト化し、スピンコート法により基板11上に成膜した後、焼成することにより形成される。なお、基板11の中央部には赤外線検出素子の発熱を効率よく放散するための開口部17が形成される。サーミスタ膜12上には一対の電極13a,13bが所定の隙間をあけて互いに噛み合うようにくし歯状に形成される。これらの電極13a,13bはAl,Cr,Au等からなる導電性膜をスパッタリング、真空蒸着等の手段でサーミスタ膜12上に堆積させた後、フォトリソグラフィ技術を用いて所望の形状にパターニングすることにより形成される。電極13aには端子電極14aが、電極13bには端子電極14bがそれぞれ電極形成と同時に形成される。このときに電極13a,13b間の抵抗値は所定の抵抗値以下になるように予め設定される。この所定の抵抗値以下には、当然所定の抵抗値を含む。
【0006】
次いで、電極13a,13b間の実際の抵抗値と所定の抵抗値との差を求め、この差に応じて、くし歯部分の電極の切断長を決める。即ち、図1(a)及び図2(a)に示すように、上記一対の電極のうちいずれか一方の電極、例えば電極13bのくし歯の一部分を上記差に応じて破線Xで示すように切断する。図1(b)及び図2(b)に示すように切断された部分16の電極13bの面積が減少し、その結果、赤外線検出素子の抵抗値が増大し所定の抵抗値となる。
電極のくし歯部分の切断はレーザ装置から発せられるレーザにより、又はリュータの先端に設けられたダイヤモンド砥石を回転させながらくし歯部分に接触させることにより、正確かつ短時間に行われる。
実際の抵抗値が所定の抵抗値と比較して大きな差がある場合には、切断部分16を細かくして複数回切断を繰り返してもよい。」
c 「【図1】
[図:0001421026000003.jpg]
」
上記a~cの記載より、引用文献2には、「温度による感熱素子の抵抗変化を利用して赤外線量を検出する赤外線検出素子におけるサーミスタ膜上に、所定の抵抗値に調整可能とするために、一対の電極が所定の隙間をあけて互いに噛み合うようにくし歯状に形成するという技術事項。」(以下、「引用技術事項」という。)が記載されているといえる。
5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「薄膜サーミスタ素子」は、「温度検知に利用され、温度センサに使用できる」素子であるから、本願発明の「温度を測定するためのセンサ素子」に相当する。
(2)引用発明の「第1の主面及び、その裏面である第2の主面を有し、第1の主面には絶縁膜が形成されている基板」の「第1の主面」及び「その裏面である第2の主面」は、それぞれ、本願発明の「上面」及び「下面」に相当する。
また、引用発明の基板の第1の主面には「絶縁膜が形成されている」ことから、第1の主面は電気的に絶縁されて形成されているといえる。
以上より、引用発明の「第1の主面及び、その裏面である第2の主面を有し、第1の主面には絶縁膜が形成されている基板」は、本願発明の「上面及び下面を有する少なくとも1つの担体であって、前記上面は電気的に絶縁されて形成されている、担体」に相当する。
(3)引用発明の「サーミスタ薄膜」は、「温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用するMn―Co-Ni系の酸化物を用いた」ものであるから、本願発明の「少なくとも1つの機能層であって、温度依存性の電気的な抵抗を有する材料を含」む「機能層」に相当する。
また、「サーミスタ薄膜」は、「絶縁膜の上に形成された一対の取出し電極上に形成され」、絶縁膜は基板の第1の主面に形成されていることから、基板上に配置されているといえ、本願発明の「前記機能層は前記担体上に配置されている」ことに相当する構成を有するものといえる。
以上より、引用発明の「絶縁膜の上に形成された一対の取出し電極上に形成され、温度に対する急激な負の抵抗値変化を利用するMn―Co-Ni系の酸化物を用いたサーミスタ薄膜」は、本願発明の「少なくとも1つの機能層であって、温度依存性の電気的な抵抗を有する材料を含み、前記機能層は前記担体上に配置されている、機能層」に相当する。
(4)引用発明の「取出し電極」は、一対であることから、少なくとも2つの電極であるといえる。
また、「取出し電極」は、「絶縁膜の上に形成され、それぞれが離間して形成され」、絶縁膜は基板の第1の主面に形成されていることから、基板上に互いに離間して形成されているものといえる。
以上より、引用発明の「絶縁膜の上に形成され、それぞれが離間して形成されている一対の取出し電極」は、本願発明の「少なくとも2つの電極であって、前記担体上に互いに離間して形成されている、電極」に相当する。
(5)引用発明の「一対の出力端子電極」は、一対であることから「少なくとも2つ」であるといえる。
また、「一対の出力端子電極」が「電気信号を取り出すために取出し電極に接続されている」ことにおいて、「電気信号を取り出す」ことは、薄膜サーミスタ素子において検知された温度を電気信号として取り出すことであるから、「一対の出力端子電極」と薄膜サーミスタ素子は、電気的に接触しているといえ、「取出し電極に接続されている」ことにより、「一対の出力端子電極」のそれぞれは、取出し電極のいずれかの部分に直接配置されていることといえる。
以上より、引用発明の「電気信号を取り出すために取出し電極に接続されている一対の出力端子電極」は、本願発明の「前記センサ素子の電気的コンタクトのための少なくとも2つのコンタクトパッドであって、前記電極のうちの1つの部分領域上に直接、それぞれ1つのコンタクトパッドが配置されている、コンタクトパッド」に相当する。
(6)「センサ素子」に関して、本願発明は「個別コンポーネントとして電気システム内に直接組み込まれるように設計されている」ことを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点で相違する。
(7)「電極」に関して、引用発明の取出し電極は、「一端は相対向して配置されている」構成であるから、本願発明の電極における電極フィンガを備える側を一端と称すると、本願発明と引用発明とは、「両前記電極の一端は相対向して配置されている」点で共通する。
しかし、本願発明は、「前記電極のそれぞれは複数の電極フィンガを備え」ていることを特定し、そのことに起因して、本願発明は「前記電極フィンガは交互に相対向して配置されている」ことを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点で相違する。
(8)よって、上記(1)ないし(7)によれば、本願発明と引用発明とは、
「温度を測定するためのセンサ素子であって、
- 上面及び下面を有する少なくとも1つの担体であって、前記上面は電気的に絶縁されて形成されている、担体と、
- 少なくとも1つの機能層であって、温度依存性の電気的な抵抗を有する材料を含み、前記機能層は前記担体上に配置されている、機能層と、
- 少なくとも2つの電極であって、前記担体上に互いに離間して形成されている、電極と、
- 前記センサ素子の電気的コンタクトのための少なくとも2つのコンタクトパッドであって、前記電極のうちの1つの部分領域上に直接、それぞれ1つのコンタクトパッドが配置されている、コンタクトパッドと、を備え、
両前記電極の一端は相対向して配置されている、
センサ素子。」
である点で一致し、次の2点で相違する。
[相違点1]
「センサ素子」に関して、本願発明は「個別コンポーネントとして電気システム内に直接組み込まれるように設計されている」ことを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点。
[相違点2]
本願発明は、「前記電極のそれぞれは複数の電極フィンガを備え」ていることを特定し、そのことに起因して、本願発明は「前記電極フィンガは交互に相対向して配置されている」ことを特定するのに対し、引用発明はそのような特定を有していない点。
6 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明の「薄膜サーミスタ素子」にあっても、「個別コンポーネント」といえる素子であり、例えば、特表2018-522461号公報の段落【0032】に、「温度感知要素は、能動的な温度補償システムの一部分として使用されてもよい。温度検知要素の一例は、サーミスタであり」と記載されるように、サーミスタ素子を電気システム内に組み込んで使用することは周知の技術事項であるから、温度補償などの目的で、当該薄膜サーミスタ素子を「電気システム内に直接組み込まれるように設計」することは、当業者であれば普通になし得ることである。
(2)相違点2について
上記4(2)に記載した引用技術事項を再掲する。
「温度による感熱素子の抵抗変化を利用して赤外線量を検出する赤外線検出素子におけるサーミスタ膜上に、所定の抵抗値に調整可能とするために、一対の電極が所定の隙間をあけて互いに噛み合うようにくし歯状に形成するという技術事項。」
引用発明の取出し電極と引用技術事項の電極は、いずれも温度を測定するためのセンサ素子の電極である点で共通するものであって、引用発明にあっても、抵抗値を所望する値とすることは当然望まれることであるから、引用発明の電極の一端の構造として、引用技術事項を鑑み、互いに噛み合うようにくし歯状に形成すること、すなわち、電極フィンガの構成とし、交互に相対向して配置されているようにすることに、格別の困難性はなく、当業者であれば容易になし得たことである。
よって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、「引用文献1記載の発明は、電極の設計、特に電極フィンガの設計によって抵抗を調整することを目的としていません。引用文献1記載の発明では、機能層(サーミスタ薄膜4)の抵抗値を調整するために、サーミスタ薄膜4の材質を調整する、というものです(段落0011~0014)。引用文献1記載の発明の具体的な目的は、特にMn-Co-Ni系を用いた薄膜サーミスタ素子の抵抗値の経時変化を抑制することです。
したがって、引用文献2に「電極(電極13a,13b)のそれぞれは複数の電極フィンガ(くし歯)を備え、両前記電極の前記電極フィンガは交互に相対向して配置されている技術事項(図1に図示)」が記載されていたとしても、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の事項を組み合わせることは、当業者が容易に想起し得たものではありません。
さらに、引用文献2の段落0006に記載されている発明は、既に形成された電極について、所望の抵抗値を得られるように、レーザ等により切断することが開示されているに過ぎず、予め、センサ素子の抵抗が、機能層及び/又は電極の幾何学的形状を介して調整されることについて開示も示唆もされておりません。
したがって、仮に引用文献1記載の発明に引用文献2記載の発明を組み合わせたとしても、本願の請求項1に係る発明(さらに特に請求項17に係る発明)を想起することは、当業者が容易になし得たことではありません。」(「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(3)理由3(特許法第29条第2項)について」の項。)と主張している。
上記主張は、上記5(8)で認定した2つの相違点のうち、相違点2について容易に想起し得たものでないことを主張するものである。
審判請求人が主張するように、引用文献1記載の発明の目的は、Mn-Co-Ni系を用いた薄膜サーミスタ素子の抵抗値の経時変化を抑制することであって、それに関係してサーミスタ薄膜の結晶構造に特徴を有するものである。
ここで、引用文献1記載の発明において取出し電極の一端の形状をどのようにするかについては、当該目的を達成することとは直接関係がないものであるから、電極の構成として知られている構成を適宜選択することに阻害要因はない。
そうすると、引用技術事項のような電極の構成が出願時点において知られている以上、上記6(2)で検討したように、引用文献1記載の発明の構成において引用技術事項の電極の構成を採用し、電極フィンガの構成とし、交互に相対向して配置されているような構成(相違点2に係る構成)とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
また、上記主張のうち、「さらに、引用文献2の段落0006に記載されている発明は、・・・予め、センサ素子の抵抗が、機能層及び/又は電極の幾何学的形状を介して調整されることについて開示も示唆もされておりません。」との主張については、請求項14に係る発明についての主張であって、請求項1に係る発明についての主張ではない。
なお、例えば、特開2000-208304号公報の段落【0047】に、「・・・本発明はこれに限定されるものではなく、例えば凹凸を有するくし歯状の表面電極を対向して設けてもよい。・・・このようなくし歯電極とすることにより、サーミスタの抵抗値を低くすることができ、また、くし歯の本数の増減により容易に任意の抵抗値を設定することができる。」と記載され、特開平11-224806号公報の【図1】、段落【0037】に、「チップ型サーミスタ1では、表面電極3,4の対向間隔(・・・、図1の矢印Yで示す長さ)及び対向距離により抵抗値が決定され、従って表面電極3,4を正確に形成することができれば、設計値どおりの抵抗値のサーミスタ1を得ることができる。」と記載されるように、くし歯電極の形状によって抵抗値を設定することも、技術常識にすぎない。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。
8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019142