特許拒絶査定不服審判
2023-014672
(メタ)アクリレートの製造方法及びアルカリ性水溶液のゲル化防止方法
- 審判番号
- 2023-014672
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-097572外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年08月31日
- 審決日
- 2025年01月24日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】東亞合成株式会社
- 分類
- P18 .121-Z (C07C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-97572「(メタ)アクリレートの製造方法及びアルカリ性水溶液のゲル化防止方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年12月3日出願公開、特開2020-193150〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年5月24日の出願であって、令和5年2月14日付けで拒絶理由が通知され、同年4月20日受付の意見書及び手続補正書が提出され、同年5月31日付けで拒絶査定され、同年8月31日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明について
本願の特許請求の範囲の請求項1~11に係る発明は、令和5年4月20日(受付日)に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
下記第1工程~第3工程を含む(メタ)アクリレートの製造方法。
・第1工程:酸触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸及び多価アルコールを脱水エステル化反応させ(メタ)アクリレートを製造する工程。
・第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加し、反応液中の酸性分を中和した後、有機相及び水相に分離する工程。
・第3工程:第2工程で得られた水相が、水相100重量部に対して、加熱残量1~35重量部含むものであり、
当該水相の重量100重量部に対して、N-オキシル化合物を10~10,000wtppmの割合で添加する工程。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和 5年 2月14日付け拒絶理由通知書により通知された以下の理由を含むと認める。なお、下線は原文のとおりである。また、摘記における「・・・」は記載の省略を示す(以下同じ。)。
「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1について
・請求項 :1-15
・引用文献等:1-2
・・・
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2007/074750号
2.特開2004-339170号公報」
そして、拒絶査定において、以下のとおり判断が示されている。
「この出願については、令和 5年 2月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって拒絶すべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項 :1-11
・引用文献等:1-2
・・・
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2007/074750号
2.特開2004-339170号公報」
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2に記載された技術的事項及び本願出願前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないと考える。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
1 引用文献及びその記載事項
以下、引用文献の記載事項の摘記はすべて全角で表記する。また、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
(1)引用文献1の記載
原査定で引用された本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記「引用文献1」には、次の記載がある。
(1a)
「請求の範囲
[1] (メタ)アクリル酸とアルコールとの脱水エステル化反応又は(メタ)アクリル酸エステルとアルコールとのエステル交換反応により(メタ)アクリル酸エステルを含む反応生成物を得るエステル化反応工程と、前記エステル化反応工程で得られる反応生成物を洗浄剤を用いて液-液分離することにより(メタ)アクリル酸エステルを含む有機層と水溶性成分を含む水層とに分離する中和・水洗工程と、前記中和・水洗工程で分離する有機層から(メタ)アクリル酸エステルを取出す製品精製工程と、前記中和・水洗工程で分離した水層を廃水として廃水貯留槽に貯留する貯留工程と、前記廃水貯留工程で貯留した廃水貯留槽内の廃水を廃水処理する廃水処理工程とを少なくとも有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、前記中和・水洗工程で分離した水層に重合防止剤を添加することにより、廃水貯留槽内に貯留している廃水の重合防止剤濃度を0.005質量%以上に保つことを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
・・・
[5] 脱水エステル化反応又はエステル交換反応により反応させるアルコールが、多価アルコールである請求の範囲第1項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
・・・
[7] 水層のpHが7~14、アルカリ成分の合計濃度が0.1~50質量%、(メタ)アクリル酸及びその塩の合計濃度が1~50質量%である請求の範囲第1項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。」
(1b)
「技術分野
[0001] 本発明は、廃水処理工程を備えるアクリル酸又はメタクリル酸(以下(メタ)アクリル酸と表記する)エステルの製造方法に関する。
背景技術
[0002] 一般に、(メタ)アクリル酸とアルコールとを原料とし、これら原料に脱水反応を適用してエステルを製造するエステル化反応においては、これら原料のほかに強酸触媒、重合防止剤、着色防止剤などが添加される。また一般に、反応時間の短縮や選択性の向上を目的として、原料アルコール量に対して(メタ)アクリル酸が過剰量添加される。
[0003] (メタ)アクリル酸メチルなどとアルコールとを反応させるエステル交換法による(メタ)アクリル酸エステルの製造方法においては、一般に反応時にリチウム系やマグネシウム系、チタン系などの触媒などが添加される。
[0004] これらのエステルの製造方法において、製造されるエステルの分子量が比較的大きい場合は、製造されるエステルを蒸留法により精製することが困難なことがある。そのような場合には、上記脱水反応を利用するエステル化反応の終了後や、エステル交換反応の終了後に、得られる反応混合物は中和・水洗工程に付される。
[0005] 中和・水洗工程においては、反応混合物は水、アルカリ水(例えば、苛性ソーダ水溶液、苛性カリ水溶液、アンモニア水)、飽和食塩水などの洗浄剤で洗浄され、反応時に添加された触媒、重合防止剤、未反応原料などの水溶性化合物が水層に抽出されて除去される。
[0006] これらの洗浄剤を用いる中和・水洗工程は通常1回以上実施される。中和・水洗工程のうち、特に、苛性ソーダなどのアルカリ水を洗浄剤として用いる中和工程においては、触媒や未反応の(メタ)アクリル酸などが含まれる廃水が発生する。この廃水はCODが高い場合が多く直接環境内に放出できない。このため、廃水中のCODを低下させることを目的とする廃水の生物分解処理、廃水の燃焼処理が施される。更に廃水中に含まれる触媒や(メタ)アクリル酸などの有価物の回収処理等の各種廃水処理が施される。
[0007] 製造条件の変動等に適宜対処しながら、上記廃水処理を円滑に行うためには、廃水処理を行う前に廃水は一且貯留されことが好ましい。しかし、当該廃水中には高濃度の(メタ)アクリル酸およびその塩などが含まれるため、しばしば貯留中にこれらが重合を引き起す。
[0008] (メタ)アクリル酸エステルや副生物の一部も廃水中に含まれている。その結果、排水中におけるこれらの重合の起り易さは、製造する(メタ)アクリル酸エステルの種類に応じて異なる。いずれの(メタ)アクリル酸エステルが製造される場合でも、一旦重合による廃水のゲル化が発生すると、配管が閉塞されたり、廃水が燃焼処理に付される場合は燃焼炉のノズルが閉塞されたりし、廃水処理が妨げられる。その結果、(メタ)アクリル酸の製造自体が安定して行われ難くなる。
・・・
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0010] 本発明者らは、上記問題を解決するために種々検討した結果、(メタ)アクリル酸エステルの製造に際し、中和・水洗工程において発生する廃水に重合防止剤を添加することにより、これらの問題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
[0011] 従って、本発明の目的とするところは、(メタ)アクリル酸エステルの製造において発生する廃水を円滑に処理することのできる(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することにある。」
(1c)
「[0031] 各種添加剤10としては、重合防止剤が挙げられる。
・・・
[0033] これらの重合防止剤のうち、特に水酸基を2つ持つ2-t-ブチルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、カテコール、ハイドロキノン、4-t-ブチルカテコールや、キノン体構造を持つベンゾキノンや1,4ナフトキノン2-スルホン酸塩などが特に好ましい。これら重合防止剤は、単独で用いてもよいし、複数を併用して用いてもよい。
・・・
[0034] 重合防止剤の配合量は、(メタ)アクリル酸を基準として0.002~10質量%が好ましい。
・・・
[0045] これらの中和、水洗処理の結果生成する廃水(水層)は、廃水貯留槽16に送られ、廃水としてここに一時的に貯留される。
[0046] 貯留される廃水の性状は、おおよそpHが7~14、アルカリ成分の合計濃度が0.1~50質量%、(メタ)アクリル酸及びその塩の合計濃度が1~50質量%程度である。
[0047] 中和・水洗工程で発生する廃水は、多量の(メタ)アクリル酸(塩)が含まれており、このまま貯留すると短時間にゲル化する。
[0048] 18は、重合防止剤タンクで、その内部に満たされている重合防止剤は前記廃水貯留槽16に送られる。この送られてくる重合防止剤により、廃水貯留槽16中に貯留されている廃水中の(メタ)アクリル酸の重合が抑制され、廃水のゲル化が防止される。
[0049] 本発明は、廃水として、pH7~14、アルカリ成分の合計濃度が0.1~50質量%、(メタ)アクリル酸及びその塩の合計濃度が1~50質量%であるものに好ましく適用できる。
[0050] 廃水に添加する重合防止剤の添加量は、廃水中に含まれる(メタ)アクリル酸およびこれらの塩の濃度、貯蔵する日数、添加する重合防止剤の種類などにより異なる。一般的には、重合防止剤の添加量は、排水中の濃度が0.005質量%以上になるように添加することが好ましく0.01~10質量%がより好ましい。
[0051] 廃水に添加する重合防止剤の添加量は、廃水中に含まれる(メタ)アクリル酸およびこれらの塩の濃度、貯蔵する日数、添加する重合防止剤の種類などにより異なる。
[0052] 本発明では、重合防止剤の添加量は、排水中の濃度が0.005質量%以上になるように添加し、0.01~10質量%が好ましい。
・・・
[0054] 有機系の重合防止剤としては、ベンゾキノン、2-t-ブチルハイドロキノン、1,4-ナフトキン、1,4-ナフトキノン2-スルホン酸塩、4-t-ブチルカテコール、ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、フェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、・・・、フェノチアジン、・・・などが挙げられる。」
「[図1]
[図:0001420927000001.jpg]
」
(1d)
「[0067] 実施例1
<反応工程>
攪拌機、温度計を備えた反応器に、ジペンタエリスリトール240g、アクリル酸485g、トルエン400g、第二塩化銅1.15g、78%硫酸11.5gを仕込み、53.2kPaの圧力下、ジャケット温度を102℃に保って脱水エステル化反応を開始した。
[0068] 反応中に生成する水を、トルエンと共沸させて系外へ排出しながら反応を進めた。17時間後にエステル化反応を停止させた。反応生成物(溶液)質量は1,050gであり、反応後の酸価は1.65meq/gであった。反応液を冷却した後、反応生成物にトルエン580gを加えて希釈した。
[0069] <水洗工程>
この水洗工程は合成時に重合防止剤として使用する第二塩化銅を純水により抽出除去する工程である。トルエンで希釈した反応生成物溶液に純水55gを加えて15分間攪拌した。その後、1時間静置して上層(有機層、1,620g)と下層(水層、65g)とに分離させた。有機層の酸価を測定したところ、0.91meq/gであった。
[0070] <第1中和工程>
第1中和工程は、有機層中のエステル化反応触媒及び残存するアクリル酸を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて有機層から抽出除去する工程である。上記水洗工程で得られた有機層に、20%の水酸化ナトリウム水溶液を295gを加えて15分間攪拌した。その後、1時間静置して上層(有機層、1,500g)と下層(水層、415g)とに分離した。
[0071] <第2中和工程>
第1中和工程で分離した有機層に20%の水酸化ナトリウム水溶液490gを加え、30℃で1時間攪拌した。その後、1時間静置して上層(有機層、1,430g)と下層(水層、560g)に分離した。
[0072] <廃水の安定性評価方法>
第1中和工程および第2中和工程で発生した水層(廃水)の安定性評価は下記の条件で実施した。
[0073] (1)廃水を試験瓶にとり、重合防止剤を所定の濃度となるよう添加した。
[0074] この重合防止剤を添加した廃水を好気性雰囲気下、または嫌気性雰囲気下で40℃、14日間保管した。その後、排水中のゲルの発生の有無を目視で確認した。
[0075] 好気性雰囲気は、試験瓶中に5%酸素ガス(残りは窒素ガス)を15分間吹き込み、吹き込み完了後、密栓をすることにより形成した。嫌気性雰囲気は、試験瓶中に窒素ガスを15分間吹き込み、吹き込み完了後、密栓をすることにより形成した。
[0076] (2)ゲル化の難易の評価は、上記条件に於いて保管開始してからゲルが発生するまでの日数で示した。
[0077] (3)14日間の保管終了後、ゲルが発生している場合はゲルの状態を観察した。
[0078] <評価結果>
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれ1,4-ナフトキノンを2000ppmとなるように添加し、好気性雰囲気下で40℃に保持して保管した。第1中和工程の廃水は貯蔵開始から12日目にゲルが発生した。14日経過後の廃水は粘性のある状態であった。
[0079] 第2中和工程の廃水にはゲルの発生がなかった。結果を表1に示した。
・・・
[0090] 実施例6
実施例1と同様の方法で第1中和工程および第2中和工程の廃水を得た。
[0091] <評価結果>
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれハイドロキノン2000ppmを添加し、好気性雰囲気下で40℃に保持して貯蔵した。第1中和工程の廃水中には貯蔵開始から8日目にゲルが発生した。第2中和工程の廃水中にはゲルは発生しなか つた。14日経過後の第1中和工程の廃水は粘性のある状態であった。
[0092] 実施例7
実施例 1と同様の方法で第1中和工程および第2中和工程の廃水を得た。
[0093] <評価結果>
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれハイドロキノン2000ppmを添加し、嫌気性雰囲気下で40℃に保持して貯蔵した。第1中和工程の廃水中には貯蔵開始から4日目、第2中和工程の廃水は11日目にゲルが発生した。14日経過後の第1中和工程の廃水は固化した状態、第2中和工程の廃水は粘性のある状態であった。
[0094] 実施例8
実施例1と同様の方法で第1中和工程および第2中和工程の廃水を得た。
[0095] <評価結果>
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれハイドロキノンモノメチルエーテル2000ppmを添加し、好気性雰囲気下で40℃に保持して貯蔵した。その結果、第1中和工程の廃水中には貯蔵開始から3日目、第2中和工程の廃水は7日目にゲルが発生した。14日経過後の廃水は、第1中和工程、第2中和工程の廃水とも固化した状態であった。
[0096] 実施例9
実施例 1と同様の方法で第1中和工程および第2中和工程の廃水を得た
[0097] <評価結果>
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれメチレンブルー2000ppmを添加し、好気性雰囲気下で40℃に保持し貯蔵した。第1中和工程の廃水中には貯蔵開始から3日目、第2中和工程の廃水中には5日目にゲルが発生した。14日経過後の廃水は、第1中和工程、第2中和工程の廃水とも固化した状態であった。
[0098] 以上の結果から、何れの実施例1~9も比較例1と比較してゲル発生日数が大きい。
[0099][表1]
[図:0001420927000002.jpg]
[0100] 実施例10
<反応工程>
攪拌機、温度計を備えた反応器にポリエチレングリコール#200(平均分子量200、繰返し数4~5)450g、アクリル酸395g、トルエン380g、第二塩化銅0.25g、パラトルエンスルホン酸25.3gを仕込んだ。反応器内の圧力を54.5kPa、反応器のジャケット温度を11℃として脱水エステル化反応を開始した。反応中に生成する水はトルエンと共沸させて系外へ排出させながら反応させた。反応開始から11時間後に反応を停止した。このときの反応液の質量は1,180gであり、反応液の酸価は1.03meq/gであった。反応液を冷却した後、反応液にトルエン420gを加えて希釈した。
・・・
[0110] 実施例13
<反応工程>
攪拌機、温度計を備えた反応器にテトラハイドロフタル酸無水物150g、トリメチロールプロパン265g、アクリル酸285g、トルエン660g、フェノチアジン0.03g、トルエンスルホン酸25.7gを仕込んだ。反応器内を常圧にし、反応器のジャケット温度を105℃として脱水エステル化反応を開始した。反応中に生成する水はトルエンと共沸させることにより系外へ排出しながら反応を進めた。反応開始から11時間後にエステル化反応を停止した。このときの反応液質量は1,305gであり、反応液の酸価は0.54meq/gであった。反応液を冷却した後、反応液にトルエン290gを加えて希釈した。
・・・
[0119][表2]
[図:0001420927000003.jpg]
」
(2)引用文献2の記載
原査定で引用された本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった上記「引用文献2」には、次の記載がある。
(2a)
「【0002】
【従来の技術】
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩は、重合性を持つため、重合性単量体として、又は、化合物に重合性官能基を導入する際の原料として使用されるものであり、工業原料として有用な化合物である。通常では粉体の形態で供給されることになり、例えば、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液を調製した後に粉体化する工程により製造されることになる。不純物である重合体の含有量の少ない高品質な粉体を得る場合においては、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の重合性が高いことから、滞留時間の短いスプレードライヤー(噴霧乾燥装置)等に(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液を移送して乾燥し、貯留槽(製品ホッパー)で回収して製品として容器に充填されることになるが、このような製造工程においては、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩が重合することにより重合体やゲルが発生しやすく、製造工程に不具合が生じることがある。例えば、溶液の安定性が損なわれたり、当該(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を移送する配管あるいは貯蔵するタンクの隅、あるいはストレーナ中の金網において容易には除去できないゲル状物が蓄積することになる。そして、そのゲル状物の蓄積が多くなってくると長期間の安定した製造が困難になる。
【0003】
従来の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に関する製造方法としては、アクリル酸ソーダ又はメタクリル酸ソーダ水溶液を乾燥温度80~200℃で噴霧乾燥するアクリル酸ソーダ又はメタクリル酸ソーダ粉末結晶の製造法が開示されており、実施例にハイドロキノンモノメチルエーテルを用いたことが記載され、得られたアクリル酸又はメタクリル酸ソーダ粉末結晶をエステル化する際に、重合防止剤としてフェニル-α-ナフチルアミン、N,N′-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、ハイドロキノン、フェノチアジン、硫黄等を用いることが記載されている(例えば、特許文献1参照。)。また、アクリル酸またはメタクリル酸と水酸化カリウムまたは炭酸カリウムから選ばれた加里塩との中和反応によりアクリル酸またはメタクリル酸のカリウム塩を製造する際に水あるいは低級アルコール類を溶媒とし、反応終了時のpHを10~13にし、反応終了後脱溶媒及び乾燥するアクリル酸またはメタクリル酸のカリウム塩の製造法が開示されており、重合防止剤としてハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル等を用いることが記載され、実施例においては50℃以下で中和したことが記載されている(例えば、特許文献2参照。)。更に、不飽和カルボン酸アルカリ金属塩含有の水性液を噴霧状にて熱気流体と接触せしめて水性分を除去することによって乾燥して不飽和カルボン酸アルカリ金属塩を製造する方法が開示されており、不飽和カルボン酸に重合禁止剤としてハイドロキノンを添加してもよいことが記載され、実施例においては10℃以下で中和することが記載されている(例えば、特許文献3参照。)。
・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、重合体の含有量が低減され、各種用途において有用な(メタ)アクリル酸金属塩、及び、充分に重合を抑制することを可能とする(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の製造方法を提供することを目的とするものである。また、配管やタンクにゲル状物が発生しにくく長期間にわたり安定して(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を製造することのできる製造方法を提供することも目的とするものである。」
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記製造工程における(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の重合を防止する方法について種々検討した結果、ハイドロキノン等の汎用の重合禁止剤を用いても重合体の生成を充分には抑制できないが、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩においてN-オキシル化合物を含有し、かつ水分量が特定されたものとすることにより、重合体の含有量が低減された高品質の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とすることができることを見いだした。また、このような(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を製造する際に、乾燥に供する(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液又はスラリーに2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ化合物等のN-オキシル化合物を含有させることにより、著しい重合禁止効果を付与することができる。これにより、溶液等の安定性の向上することができ、配管やタンク内における容易に取り除くことができないゲルの生成を抑制できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。」
(2b)
「【0013】
上記N-オキシル化合物としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4,4′,4′′-トリス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)フォスファイト、2,2,4,4-テトラメチルアゼチジン-1-オキシル、2,2-ジメチル-4,4-ジプロピルアゼチジン-1-オキシル、2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル、2,2,5,5-テトラメチル-3-オキソピロリジン-1-オキシル、6-アザ-7,7-ジメチル-スピロ(4,5)デカン-6-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-4-アセトキシピペリジン-1-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-4-ベンゾイルオキシピペリジン-1-オキシル等が好適であり、これらの中でも、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4,4′,4′′-トリス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)フォスファイトが好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
上記N-オキシル化合物の含有量としては、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に対して、0.000001質量%以上であることが好ましく、また、1質量%以下であることが好ましい。0.000001質量%未満であると、重合体の含有量を充分には低減することができなくなるおそれがあり、1質量%を超えても、重合体の含有量を低減することはできるが、含有量に相当する効果を得られないおそれがある。より好ましくは0.000005質量%以上あり、また、0.5質量%以下である。更に好ましくは0.00001質量%以上であり、また、0.1質量%以下である。特に好ましくは、0.0005質量%以上であり、また、0.05質量%以下である。更に好ましくは0.0008質量%以上であり、また、0.01質量%以下である。最も好ましくは0.001質量%以上であり、また、0.005質量%以下である。
・・・
【0029】
上記(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の製造方法におけるN-オキシル化合物の使用量としては、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩におけるN-オキシル化合物の含有量が上述した範囲内となるように適宜設定することが好ましい。本発明の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の製造方法の好ましい実施形態としては、N-オキシル化合物を(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩に対して、0.000001~1質量%含有する形態である。
・・・
【0036】
上記(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液における(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の含有濃度としては、25℃においては、10質量%以上であることが好ましく、また、70質量%以下であることが好ましい。10質量%未満であると、該溶液を乾燥する場合に多量の熱が必要となるおそれがあり、また乾燥装置も大きくなるおそれがある。70質量%を超えると、反応が激しすぎ、結晶化、重合等の不具合が発生するおそれがある。より好ましくは、30質量%以上であり、また、65質量%以下である。
また(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液を50℃に加温した状態で用いる場合においては、10質量%以上であることが好ましく、また、80質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、30質量%以上であり、また、75質量%以下である。」
2 引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1は、廃水処理工程を備える(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する文献であって(摘記(1b)[0001])、請求の範囲第1項を引用する請求の範囲第5項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法として、(メタ)アクリル酸と多価アルコールとの脱水エステル化反応により(メタ)アクリル酸エステルを含む反応生成物を得るエステル化反応工程と、前記エステル化反応工程で得られる反応生成物を洗浄剤を用いて液-液分離することにより(メタ)アクリル酸エステルを含む有機層と水溶性成分を含む水層とに分離する中和・水洗工程と、前記中和・水洗工程で分離する有機層から(メタ)アクリル酸エステルを取出す製品精製工程と、前記中和・水洗工程で分離した水層を廃水として廃水貯留槽に貯留する貯留工程と、前記廃水貯留工程で貯留した廃水貯留槽内の廃水を廃水処理する廃水処理工程とを少なくとも有する(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、前記中和・水洗工程で分離した水層に重合防止剤を添加することにより、廃水貯留槽内に貯留している廃水の重合防止剤濃度を0.005質量%以上に保つ、(メタ)アクリル酸エステルの製造方法が記載され(摘記(1a))、
当該製造方法に対応する具体例である実施例1には、
反応工程として、攪拌機、温度計を備えた反応器に、ジペンタエリスリトール240g、アクリル酸485g、トルエン400g、第二塩化銅1.15g、78%硫酸11.5gを仕込み、53.2kPaの圧力下、ジャケット温度を102℃に保って脱水エステル化反応を開始し、反応中に生成する水を、トルエンと共沸させて系外へ排出しながら反応を進め、17時間後にエステル化反応を停止させ、反応生成物(溶液)質量は1,050gであり、反応後の酸価は1.65meq/gであり、反応液を冷却した後、反応生成物にトルエン580gを加えて希釈し、
合成時に重合防止剤として使用する第二塩化銅を純水により抽出除去する工程である水洗工程として、トルエンで希釈した反応生成物溶液に純水55gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,620g)と下層(水層、65g)とに分離させ(有機層の酸価は0.91meq/g)、
有機層中のエステル化反応触媒及び残存するアクリル酸を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて有機層から抽出除去する工程である第1中和工程として、上記水洗工程で得られた有機層に、20%の水酸化ナトリウム水溶液295gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,500g)と下層(水層、415g)とに分離し、
第2中和工程として、第1中和工程で分離した有機層に20%の水酸化ナトリウム水溶液490gを加え、30℃で1時間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,430g)と下層(水層、560g)に分離し、
廃水の安定性評価として、第1中和工程および第2中和工程で発生した水層(廃水)の安定性評価を実施し、第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれ1,4-ナフトキノンを2000ppmとなるように添加し、好気性雰囲気下で40℃に保持して保管し、第1中和工程の廃水は貯蔵開始から12日目にゲルが発生し、14日経過後の廃水は粘性のある状態であったのに対して、第2中和工程の廃水にはゲルの発生がなかったという評価結果を得たことが記載されている(摘記(1d)「実施例1」)。
イ そうすると、引用文献1には、実施例1等により裏付けられた請求の範囲第5項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているということができる。
「攪拌機、温度計を備えた反応器に、ジペンタエリスリトール240g、アクリル酸485g、トルエン400g、第二塩化銅1.15g、78%硫酸11.5gを仕込み、53.2kPaの圧力下、ジャケット温度を102℃に保って脱水エステル化反応を開始し、反応中に生成する水を、トルエンと共沸させて系外へ排出しながら反応を進め、17時間後にエステル化反応を停止させ、反応生成物(溶液)質量は1,050gであり、反応後の酸価は1.65meq/gであり、反応液を冷却した後、反応生成物にトルエン580gを加えて希釈する、アクリル酸と多価アルコールとの脱水エステル化反応によりアクリル酸エステルを含む反応生成物を得る、エステル化反応工程と、
合成時に重合防止剤として使用する第二塩化銅を純水により抽出除去する工程である水洗工程として、トルエンで希釈した反応生成物溶液に純水55gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,620g)と下層(水層、65g)とに分離させ(有機層の酸価は0.91meq/g)、
有機層中のエステル化反応触媒及び残存するアクリル酸を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて有機層から抽出除去する工程である第1中和工程として、上記水洗工程で得られた有機層に、20%の水酸化ナトリウム水溶液295gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,500g)と下層(水層、415g)とに分離し、
第2中和工程として、第1中和工程で分離した有機層に20%の水酸化ナトリウム水溶液490gを加え、30℃で1時間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,430g)と下層(水層、560g)に分離するという、前記エステル化反応工程で得られる反応生成物を洗浄剤を用いて液-液分離することによりアクリル酸エステルを含む有機層と水溶性成分を含む水層とに分離する、
中和・水洗工程と、
前記中和・水洗工程で分離する有機層からアクリル酸エステルを取出す、製品精製工程と、
前記中和・水洗工程で分離した水層を廃水として廃水貯留槽に貯留する、貯留工程と、
前記廃水貯留工程で貯留した廃水貯留槽内の廃水を廃水処理する、廃水処理工程と
を少なくとも有するアクリル酸エステルの製造方法であって、
第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれ1,4-ナフトキノンを2000ppmとなるように、前記中和・水洗工程で分離した水層に重合防止剤を添加し、廃水貯留槽内に貯留している廃水の重合防止剤濃度を0.005質量%以上に保つ、アクリル酸エステルの製造方法。」
3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明1を対比する。
ア
引用発明1における「ジペンタエリスリトール」、「アクリル酸」、「硫酸」及び「アクリル酸エステル」は、それぞれ、本願発明における「多価アルコール」、「(メタ)アクリル酸」、「酸触媒」及び「(メタ)アクリレート」に相当する。
そうすると、引用発明1における、
「攪拌機、温度計を備えた反応器に、ジペンタエリスリトール240g、アクリル酸485g、トルエン400g、第二塩化銅1.15g、78%硫酸11.5gを仕込み、53.2kPaの圧力下、ジャケット温度を102℃に保って脱水エステル化反応を開始し、反応中に生成する水を、トルエンと共沸させて系外へ排出しながら反応を進め、17時間後にエステル化反応を停止させ、反応生成物(溶液)質量は1,050gであり、反応後の酸価は1.65meq/gであり、反応液を冷却した後、反応生成物にトルエン580gを加えて希釈する、アクリル酸と多価アルコールとの脱水エステル化反応によりアクリル酸エステルを含む反応生成物を得る、エステル化反応工程」
は、本願発明における、
「・第1工程:酸触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸及び多価アルコールを脱水エステル化反応させ(メタ)アクリレートを製造する工程。」
に相当する。
イ
引用発明1における「反応液を冷却した後、反応生成物にトルエン580gを加えて希釈」した「トルエンで希釈した反応生成物溶液」は、本願発明における「第1工程で得られた反応液」に相当し、引用発明1における「水酸化ナトリウム水溶液」は、本願発明における「アルカリ水溶液」に相当する。
そうすると、引用発明1における、
「合成時に重合防止剤として使用する第二塩化銅を純水により抽出除去する工程である水洗工程として、トルエンで希釈した反応生成物溶液に純水55gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,620g)と下層(水層、65g)とに分離させ(有機層の酸価は0.91meq/g)、
有機層中のエステル化反応触媒及び残存するアクリル酸を、水酸化ナトリウム水溶液を用いて有機層から抽出除去する工程である第1中和工程として、上記水洗工程で得られた有機層に、20%の水酸化ナトリウム水溶液を295gを加えて15分間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,500g)と下層(水層、415g)とに分離し、
第2中和工程として、第1中和工程で分離した有機層に20%の水酸化ナトリウム水溶液490gを加え、30℃で1時間攪拌し、その後、1時間静置して上層(有機層、1,430g)と下層(水層、560g)に分離するという、前記エステル化反応工程で得られる反応生成物を洗浄剤を用いて液-液分離することによりアクリル酸エステルを含む有機層と水溶性成分を含む水層とに分離する、
中和・水洗工程」
のうちの「第1中和工程」及び「第2中和工程」は、本願明細書の【0043】の「水洗工程としては、・・・エステル化反応液の中和処理前に、・・・中和処理液に対して水洗処理を行うことができる。」との記載を参照すると、本願発明における、
「・第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加し、反応液中の酸性分を中和した後、有機相及び水相に分離する工程」
に相当する。
ウ
引用発明1において「1,4-ナフトキノン」は「重合防止剤」として添加されており、「重合防止剤」は「重合禁止剤」と同義であるところ、本願明細書の【0027】及び【0038】の記載を参照すると、本願発明において「N-オキシル化合物」は「重合禁止剤」として添加されているから、引用発明1における「1,4-ナフトキノン」は、本願発明における「N-オキシル化合物」と、「重合禁止剤」である点で共通する。
そうすると、引用発明1における、
「前記中和・水洗工程で分離した水層を廃水として廃水貯留槽に貯留する、貯留工程と、
前記廃水貯留工程で貯留した廃水貯留槽内の廃水を廃水処理する、廃水処理工程」
及び
「第1中和工程および第2中和工程の廃水にそれぞれ1,4-ナフトキノンを2000ppmとなるように、前記中和・水洗工程で分離した水層に重合防止剤を添加し、廃水貯留槽内に貯留している廃水の重合防止剤濃度を0.005質量%以上に保つ」
ことは、本願発明における、
「・第3工程:第2工程で得られた水相が、水相100重量部に対して、加熱残量1~35重量部含むものであり、
当該水相の重量100重量部に対して、N-オキシル化合物を10~10,000wtppmの割合で添加する工程。」
と、
中和工程で得られた水相に対して、当該水相の重量100重量部に対して、重合禁止剤を10~10,000wtppmの割合で添加する工程である点で共通している。
エ
上述のとおり、引用発明1における「エステル化反応工程と、」は、本願発明の「脱水エステル化反応させ(メタ)アクリレートを製造する工程」に、
引用発明1の「中和・水洗工程と、」は、本願発明の「・第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加し、反応液中の酸性分を中和した後、有機相及び水相に分離する工程。」に、
引用発明1の「中和・水洗工程で分離した水層に重合防止剤を添加」することを含む「廃水処理工程」は、本願発明の「・第3工程:第2工程で得られた水相」「に対して、」重合禁止剤を「添加する工程」に、それぞれ相当し、
引用発明1の「合成時に重合防止剤として使用する第二塩化銅を純水により抽出除去する工程である水洗工程」、
「前記中和・水洗工程で分離する有機層からアクリル酸エステルを取出す、製品精製工程」、
「前記中和・水洗工程で分離した水層を廃水として廃水貯留槽に貯留する、貯留工程」は、本願明細書の【0042】に、水洗工程、脱溶媒工程及びろ過工程等を具体例に、第1工程~第3工程以外、必要に応じてその他の工程を含んで良い旨記載されていることから、本願発明の(メタ)アクリレートの製造方法において、「第1工程~第3工程」以外の「含」まれた工程と理解できる。
したがって、引用発明1の「エステル化反応工程と、」「中和・水洗工程と、」「廃水処理工程」を含む「アクリル酸エステルの製造方法」は、本願発明の「第1工程~第3工程を含む(メタ)アクリレートの製造方法」に相当するといえる。
オ
以上の対比によれば、本願発明と引用発明1は、
「下記第1工程~第3工程を含む(メタ)アクリレートの製造方法。
・第1工程:酸触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸及び多価アルコールを脱水エステル化反応させ(メタ)アクリレートを製造する工程。
・第2工程:第1工程で得られた反応液にアルカリ水溶液を添加し、反応液中の酸性分を中和した後、有機相及び水相に分離する工程。
・第3工程:第2工程で得られた水相が、水相100重量部に対して、加熱残量1~35重量部含むものであり、
当該水相の重量100重量部に対して、重合禁止剤を10~10,000wtppmの割合で添加する工程。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
本願発明は、「第2工程で得られた水相が、水相100重量部に対して、加熱残量1~35重量部含むものであ」ることが特定されているのに対し、引用発明1は、廃水である水相中の加熱残量が明らかでない点。
相違点2:
本願発明は、重合禁止剤として、「N-オキシル化合物」を添加しているのに対し、引用発明1では、「1,4-ナフトキノン」を添加している点。
(2)判断
ア 相違点1について
相違点1は、水相中の加熱残量割合の特定であるが、本願発明における「加熱残量」とは、本願明細書の【0036】の
「尚、中和処理後の水溶液に含まれるアルカリ成分、酸触媒の中和物及び(メタ)アクリレート等の固形分合計量は、中和処理後の水溶液の加熱残量を基準とした場合、中和処理後の水溶液100重量部に対して、1~35重量部が好ましく、より好ましくは2~20重量部である。」
との記載から、水相中の水以外の成分で加熱した後に残る、未反応水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸のエステルや塩等を意味するとものと理解できる。
引用発明1では、廃水である水相の加熱残量は直接特定されていないが、以下に述べるとおり、引用文献1の摘記(1c)の記載には廃水中には、アルカリ成分や各種アクリレート等が存在し、それらの合計濃度範囲が示されている。
つまり、加熱残量に関する直接の記載はないが、引用文献1には、摘記(1c)に、
「[0045] これらの中和、水洗処理の結果生成する廃水(水層)は、廃水貯留槽16に送られ、廃水としてここに一時的に貯留される。
[0046] 貯留される廃水の性状は、おおよそpHが7~14、アルカリ成分の合計濃度が0.1~50質量%、(メタ)アクリル酸及びその塩の合計濃度が1~50質量%程度である。
[0047] 中和・水洗工程で発生する廃水は、多量の(メタ)アクリル酸(塩)が含まれており、このまま貯留すると短時間にゲル化する。
[0048] 18は、重合防止剤タンクで、その内部に満たされている重合防止剤は前記廃水貯留槽16に送られる。この送られてくる重合防止剤により、廃水貯留槽16中に貯留されている廃水中の(メタ)アクリル酸の重合が抑制され、廃水のゲル化が防止される。
[0049] 本発明は、廃水として、pH7~14、アルカリ成分の合計濃度が0.1~50質量%、(メタ)アクリル酸及びその塩の合計濃度が1~50質量%であるものに好ましく適用できる。」
と記載されるように、アルカリ成分やアクリレートが多くとも50質量%以下で適用されることが示されている。
ここで、「中和・水洗工程で発生する廃水は、多量の(メタ)アクリル酸(塩)が含まれており、このまま貯留すると短時間にゲル化する」と認識されているように、50質量%付近の濃度はゲル化の問題を内在しているし、廃水中の(メタ)アクリル酸のエステルや塩は、アルカリ成分や酸触媒の中和物も含めて、プロセス全体において有用な成分であるから、水相中に限度を超えて含有した状態で水相を廃水として分離することは考えられず、水分量が少なくなった場合には、そもそも処理自体が円滑に進まないのであるから、一定の上限が存在することは当然であり、一方、処理効率の面から極端に水相中の成分が少ないことも考えられない。
したがって、本願発明における「水相中に加熱残量1~35重量部含む」との特定は、廃水中の利用可能な有効成分を1/3程度を上限とした量で特定したものにすぎず、上記処理の前提や処理効率の技術常識を考慮すれば、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に、実質的な相違点であるとしても、処理効率と、生成物を含有する油相に対する廃棄を前提とした水相(廃水)の分離割合の上記技術常識から、上下限の数値を適宜決定することは、当業者が容易になし得る技術的事項である。
イ 相違点2について
引用文献1には、引用発明1で使用された重合禁止剤である1,4-ナフトキノン以外にも、[0054]において、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン等の重合防止剤が1,4-ナフトキノンと同等のものとして例示され、実施例としても、アクリル酸エステルの製造に関して、引用発明1の認定の根拠となった実施例1と同様に中和工程を行って廃水を得たと記載され、ハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテルを重合防止剤として、引用発明1と同じ2000ppmの濃度で用いて、水層(廃水)のゲル化抑制をした具体例が記載されている(摘記(1d)の実施例6~8、11及び12)。
そして、引用文献2には、摘記(2a)において、
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液(水相)中で、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩が重合することにより重合体やゲルが発生しやすく、製造工程に不具合が生じ、例えば、溶液の安定性が損なわれたり、当該(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の水溶液を移送する配管あるいは貯蔵するタンクの隅、あるいはストレーナ中の金網において容易には除去できないゲル状物が蓄積すること、
そのゲル状物の蓄積が多くなってくると長期間の安定した製造が困難になること、
従来、重合防止剤としてハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン等を用いているが、十分に重合を抑制できないことから、配管やタンクにゲル状物が発生しにくく長期間にわたり安定して(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩を製造することのできる製造方法が求められていること、
ハイドロキノン等の汎用の重合禁止剤を用いても重合体の生成を充分には抑制できないが、(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩においてN-オキシル化合物を含有し、かつ水分量が特定されたものとすることにより、重合体の含有量が低減された高品質の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩とすることができることを見いだしたこと、
(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩溶液又はスラリーに2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ化合物等のN-オキシル化合物を含有させることにより、著しい重合禁止効果を付与することができ、溶液等の安定性の向上することができ、配管やタンク内における容易に取り除くことができないゲルの生成を抑制できることを見いだしたこと、
が記載されている。
引用文献2においては、重合禁止剤を(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩の製造プロセスにおいて使用することが記載されてはいるが、引用文献1で使用されている重合禁止剤であるハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテルやフェノチアジン等よりも、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ化合物等のN-オキシル化合物を使用することにより、著しい重合禁止効果を付与することができ、溶液等の安定性の向上することができ、配管やタンク内における容易に取り除くことができないゲルの生成を抑制できることを見いだしたことが示されているのであり、引用文献1においては、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリレートの製造方法における、タンク中の(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩等の重合の問題を認識し、引用文献2と同様の濃度範囲で、重合禁止剤を使用することが開示されているのであるから、当業者であれば、重合抑止効果のより高い重合禁止剤であるN-オキシル化合物を引用文献1の重合禁止剤に換えて使用することは、当業者であれば十分に想起できる技術的事項である。
そうすると、引用発明1において、重合禁止剤である1,4-ナフトキノンに変えて、著しい重合禁止効果を付与することができ、溶液等の安定性の向上することができ、配管やタンク内における容易に取り除くことができないゲルの生成を抑制するために、引用文献2に記載の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等のN-オキシル化合物を使用することは、当業者が容易になし得ることである。
ウ 本願発明の効果について
本願明細書には、本願発明の効果について、【0009】に、「本発明の製造方法及びゲル化防止方法によれば、(メタ)アクリレートを製造するに当たり、中和液タンク中のアルカリ性水溶液のゲル化を長期間に渡って防止することができる。」と記載され、実施例の表1~5には、40℃24時間又は60℃3日間静置した場合のゲル生成に関し、HQ(ハイドロキノン)やMQ(ハイドロキノンモノメチルエーテル)を重合禁止剤に使用した場合ではゲルが生成したのに対して、TEMPOL(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を使用とした場合にゲル生成がなかったことが示されている。
しかしながら、引用発明1、引用文献1に記載された技術的事項、及びハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテル等よりも、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ化合物等のN-オキシル化合物を使用することにより、著しい重合禁止効果を付与することができ、溶液等の安定性の向上することができ、配管やタンク内における容易に取り除くことができないゲルの生成を抑制できるという引用文献2に記載された技術的事項から、本願発明の、廃液上の工程にすぎない、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを重合禁止剤として使用したゲル化の防止の効果は、当然予測できる技術的事項である。
したがって、本願発明の効果は、予測できない、かつ顕著な効果であるとはいえない。
(3)本願発明と引用発明1の対比・判断のまとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1及び引用文献2に記載された技術的事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものである。
4 審判請求人の主張の検討
(1)令和5年4月20日(受付日)に提出の意見書における主張について
ア 審判請求人は、上記意見書10~12頁において、引用文献1には、第3工程における重合禁止剤としてN-オキシル化合物が記載されていないことや、引用文献2は、(メタ)アクリル酸金属塩の製造方法に関するもので、アクリル酸金属塩の濃度が、実施例では、本願発明の加熱残量の35%の上限を超える50%のものだけであること、N-オキシル化合物の水相中の濃度が、具体例では10ppm以下であることを指摘して、組み合わせたとしても容易に想到することはできない旨の主張をしている。
イ しかしながら、審判請求人も認めるように、引用文献1には、本願発明の課題であるアルカリ水溶液中のゲル化を防止することが記載されており、本願発明の従来技術であるハイドロキノン等の重合防止剤を用いている。そして、上記2及び3において検討したように、引用発明1のアクリル酸エステルの製造方法において、アルカリ中和後の排水中のアクリル酸金属塩等の重合を抑制するために、引用文献2に記載の、アクリル酸金属塩の製造時の重合防止に関するハイドロキノン等の従来の重合防止剤よりもN-オキシル化合物の方が有効に重合防止ができるという知見に基づいて、N-オキシル化合物を重合禁止剤として用いることは、当業者であれば容易になし得る技術的事項であり、本願発明の構成が論理付けられることは、既に述べたとおりである。
そして、本願発明が当業者の予測できない、かつ顕著な効果を有しているとはいえないことも上述のとおりである。
また、審判請求人の主張は、引用文献1及び2に記載の発明が本願発明と相違点を有していることや、具体例の加熱残量やN-オキシル化合物の水相中の濃度の数値が本願発明の上下限範囲にないことを指摘しているだけで、好ましい範囲としては十分に重なっている上に、N-オキシル化合物の水相中の濃度は10ppmの具体例も存在しており、容易に想到することができない旨の上記主張は採用できない。
(2)審判請求書における主張について
審判請求人は、審判請求書12~18頁においても、上記(1)の意見書と同様の主張をしているが、当該主張が採用できないのは、上述のとおりである。
(3)小括
したがって、上記審判請求人の主張は、いずれも採用できない。
第5 むずび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1に記載された技術的事項、引用文献2に記載された技術的事項及び本願出願前の技術常識に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-014672