特許拒絶査定不服審判
2021-008673
C8F17Brを含む組成物及びC8F17Brの製造方法
- 審判番号
- 2021-008673
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-132252外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月30日
- 審決日
- 2023年03月15日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .113-WZ (C07C) / P18 .121-WZ (C07C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-132252「C8F17Brを含む組成物及びC8F17Brの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和元年10月10日出願公開、特開2019-172709〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月3日を出願日とする特願2017-130363号の一部を令和元年7月17日に新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 5月22日 :上申書の提出
同年12月15日 :手続補正書の提出
令和3年 1月 7日付け:拒絶理由通知
同年 3月15日 :意見書の提出
同年 同月25日付け:拒絶査定
同年 6月30日 :審判請求書の提出
令和4年11月25日付け:拒絶理由通知(当審)
令和5年 1月30日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
令和5年1月30日提出の手続補正書によって補正された本願の特許請求の範囲の請求項1及び2のうち、請求項1の記載は次のとおりであり、同請求項1に係る発明は、同請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。なお、下線は当審合議体が付したものであり、請求項1における下線は当審における上記手続補正による変更箇所を示す。
「【請求項1】
C8F17Brを含む組成物であって、
C7F15COOHをさらに含有し、
C7F15COOHの含有量がC8F17Brの全重量に対して25ppb以下であり、
前記組成物の全重量に対して、C8F17Brを50重量%以上含む、組成物。」
第3 当審において通知された拒絶理由
令和4年11月25日付けで当審において通知された拒絶理由(理由1~4)のうち、「理由2及び理由3」の一部(以下、それぞれ「理由2’及び理由3’」という。)の概要は、次のとおりである。
理由2’:(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3’:(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1~5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開昭60-184033号公報
引用文献2:特開平4-173752号公報(技術常識を示す文献)
引用文献3:国際公開第94/12453号
引用文献4:社団法人日本化学会編, 第4版 実験化学講座I 基本操作I, 丸善株式会社, 平成2年11月5日, p. 180-181(技術常識を示す文献)
引用文献5:一般社団法人カケンテストセンター,“【EU】REACH規則改正:ペルフルオロオクタン酸(PFOA)”,[online],2017年6月26日,カケンKAKEN,[令和4年11月17日検索],インターネット<URL : https://www.kaken.or.jp/topics/detail/m84 >(技術常識を示す文献)
上記理由2’及び3’の対象である「請求項1に係る発明」は、令和2年12月15日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「旧請求項1」という。)に係る発明であり、旧請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
C8F17Brを含む組成物であって、
C7F15COOHをさらに含有し、
C7F15COOHの含有量がC8F17Brの全重量に対して25ppb以下である、組成物。」
なお、上記第2で認定した「本願発明」は、旧請求項1に係る発明に対応するものであって、「組成物の全重量に対して、C8F17Br」の含有量を更に特定した発明であるところ、令和5年1月30日提出の意見書の「5.」のとおり、当該含有量の特定は、令和5年1月30日提出の手続補正書による補正により、当審において通知された拒絶理由の理由4(同日出願)を解消するために追加された事項である。
第4 各引用文献及び本願明細書の記載事項
1 引用文献1の記載
(1a) 「本発明は一般式CnF2n+1I又はI(CF2)mI(nは6~11の、mは4~8の整数を示す)で表わされるパーフルオロアルキルアイオダイドをラジカル開始剤の存在下に臭素と反応させることを特徴とする一般式CnF2n+1Br又はBr(CF2)mBr(n及びmは上記に同じ)で表わされるパーフルオロアルキルブロマイドの製造方法に係る。
本発明で出発原料として用いられる上記一般式で表わされるパーフルオロアルキルアイオダイドは直鎖でも分枝状のものでも良く、例えばCF3(CF2)5I,(CF3)2CF(CF2)4I,CF3(CF2)5I,CF3(CF2)7I,I(CF2)6I,I(CF2)8I等を挙げることができる。
本発明においては上記パーフルオロアルキルアイオダイドをラジカル開始剤の存在下に臭素と反応させる。反応割合は例えばCnF2n+1Iの1モルに対して臭素を約1~3モル、I(CF2)mIの1モルに対して臭素を約2~4モルとするのが好ましい。反応は通常はフラスコに原料アイオダイド及び臭素を入れ、これを加熱しラジカル開始剤を滴下する方法により行われる。また反応器に原料アイオダイド、臭素及びラジカル開始剤を加え、N2気流中で反応させることもできる。更には反応器に原料アイオダイドを入れN2気流中、ラジカル開始剤の溶液及び臭素を滴下することもできる。反応溶媒は使用してもしなくても良いが、使用する場合にはCCl4,CHCl3,CF2ClCFCl2,CFCl2CFCl2などの臭素化されない溶媒が好ましい。
ラジカル開始剤としては種々のものが使用可能であるが、臭素の沸点からみて半減期が10時間の温度が20~80℃程度のものが好適である。具体的には過酸化物、アゾ系化合物などが好ましい。なかでも好ましいのはアセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、t-ブチルパーオキシイソブチレート及びアゾビスイソブチロニトリルである。ラジカル開始剤の使用量は原料アイオダイドに対して約5~50重量%とするのが良い。反応温度は使用するラジカル開始剤にも支配されるが、一般に約40~90℃が好適である。反応終了後は、例えば反応混合物をアルカリ又は還元剤で洗浄し、次いで精留することにより容易に高純度の目的とするブロマイドを得ることができる。」(2頁左上欄7行~左下欄末行)
(1b) 「実施例2
200mlの4つ口フラスコにC8F17I(54,6g)及び臭素(35g)及びCFCl2CFCl2(100ml)を入れN2気流中60℃に加熱する。この中に撹拌下アゾビスイソブチロニトリル(25g)を30分毎に8回に分けて添加する。
添加終了後、2時間同温度で撹拌した後、内容物を希アルカリで洗浄し精留すると、bp142℃のC8F17Brが21g得られた。収率42%。」(2頁右下欄10~末行)
2 引用文献2の記載
(2a) 「1.光照射下でパーフルオロアルキルアイオダイドと臭素とを光増感剤の存在下に反応させることを特徴とするパーフルオロアルキルブロマイドの製造法。」(特許請求の範囲)
(2b) 「このパーフルオロアルキルブロマイドは、パーフルオロアルキルアイオダイドと臭素との反応により合成されており、即ちパーフルオロアルキルアイオダイドのC-I結合は、C-Br結合よりもはるかに安定性が低く、熱、光などによるラジカル反応により開裂し、ヨウ素を容易に遊離する性質を有しているので、臭素と反応させることによりハロゲン置換反応するのである。」(1頁右下欄3~10行)
3 引用文献3の記載
(3a) 「(1)光透過性の反応器において、一般式CnF2n+II(式中nは6~10の整数)で表されるパーフルオロアルキルアイオダイドと臭素を光の照射下、120~180℃に加熱し、同時に副生するIBrを層分離により除去しながら反応させることを特徴とするパーフルオロアルキルブロマイドの製造法。」(請求の範囲)
(3b) 「実施例1
第1図に示すように、500mlの4つ口フラスコに、冷却用ジムロートとIBr抜き用コック付きジムロートを付けたH管を取り付けた。フラスコにパーフルオロオクチルアイオダイド(PFOI)200ml(747mM)と臭素5.0ml(97.1mM)を入れ、150~155℃に加熱し、500Wの可視光ランプを照射した。反応溶液が還流し始めた後、臭素49.5ml(972mM)を0.2ml/分の速さで約4時間かけて滴下した。生成したIBrは、IBr抜き用ジムロートから適時抜き出した。5時間反応後、反応溶液を冷却し、5%水酸化ナトリウム水溶液(200ml)で洗浄、パーフルオロオクチルブロマイド344.9g(収率92.5%)を得た。」(3頁下から11~3行)
(3c) 「
[図:0001397445000001.jpg]
」
4 引用文献4の記載
(4a) 「
[図:0001397445000002.jpg]
」(180頁)
(4b) 「a. 抽出による合成粗生成物の分離精製
粗生成物の抽出操作による分離精製はおおまかには,○1(当審注:○1は○の中に1、○2及び○3も同様)水溶性か非水溶性か,○2中性物質,酸,塩基のいずれか,○3極性物質か非極性物質か,の三つの性質の差を利用する.ほとんどの場合は,粗生成物を有機溶媒に溶解し,酸およびアルカリ水溶液で水溶性不純物を除去するのが常法である.目的物か酸か塩基であればそれぞれアルカリまたは酸水溶液で抽出した後,水相の液性を逆にして有機溶媒で再抽出する.中性,酸性,塩基性,両性の各物質の溶媒抽出による一般的な分画法を図4・11に示す.いずれの場合も抽出液は乾燥剤を加えて乾燥した後,濃縮して,次の精製操作に供する.この場合,酸あるいはアルカリ水溶液として0.5~1Mの希塩酸,クエン酸水溶液や炭酸水素ナトリウム,水酸化ナトリウム水溶液などを用いる.」(180頁下から4行~181頁6行)
5 引用文献5の記載
(5a) 「【EU】REACH規則改正:ペルフルオロオクタン酸(PFOA)
2017.06.26 法 律
2017年6月、REACH規制の制限対象物質リスト(付属書 XVII)が修正され、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩およびPFOA関連物質の使用制限が追加されました。
2020年7月4日より、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩およびPFOA関連物質を含有する繊維製品をEU域内に上市するためには、付属書 XVIIに規定される使用制限の厳守が必須となります。
使用制限の内容は、以下の通りです。
[図:0001397445000003.jpg]
優れた界面活性を持つPFOAとその塩、PFOA関連物質は、フライパンのこびりつき防止フッ素コーティングや、衣類の撥水機能や防汚機能を付与する目的で使用されます。しかし一方で、極めて自然環境に分解しにくく生物蓄積性も高い物質であることから、環境汚染や健康被害の要因として懸念されており、世界的に規制の動きが高まっています。」
6 本願明細書の記載
(A) 「【0001】
本発明は、C8F17Brを含む組成物及びC8F17Brの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式C8F17Brで表されるパーフルオロオクチルブロマイド(PFOBと略記する)は、X線造影及びMR造影能を有している化合物として知られており、診断薬の原体及び医薬中間体等として使用できることが知られている。
【0003】
PFOBは、種々の方法で製造できることが知られている。例えば、一般式C8F17Iで表される化合物(n-ペルフルオロオクチルヨウ化物、PFOIと略記する)と、臭素等の臭素化剤とを気相で反応することでPFOBを得る方法(例えば、特許文献1)、あるいは、PFOIの光化学的臭素化によってPFOBを得る方法(例えば、特許文献2)が知られている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者らがPFOIを原料とするPFOBの製造方法を詳細に検討したところ、少なくとも水及び/又は酸素が存在する条件下では、光又は熱の作用によって原料のPFOIの分解が発生し、パーフルオロオクタン酸(PFOA;C7F15COOH)が生成するという問題があることを突き止めた。このようなPFOAが混在した原料を使用してPFOBを製造すると、生成物中にPFOAが混入しやすく、PFOBの純度が低下しやすい。また、PFOBへのPFOAの混入量を極力減らすには、例えば、PFOIを別途精製するための工程も要したり、原料であるPFOIの保管方法や保管時間を厳密に管理したりする必要があった。さらに、PFOAは、環境に悪影響をおよぼしやすい化合物と認識されているため、PFOAの量がより少ないPFOBを提供することの重要性は高いといえる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、不純物であるPFOAの含有量が少ないPFOBを含む組成物及び該PFOBの製造方法を提供することを目的とする。」
(B) 「【0017】
PFOB中にPFOAが不純物として含まれ得る原因は種々存在すると考えられる。中でも、PFOBを製造するときに使用する原料がPFOIである場合は、PFOAが多く含まれやすい。なぜなら、PFOIは、光及び熱に不安定な化合物であって、光又は熱もしくは光と熱の両方の作用によって酸素若しくは空気中に存在する酸素及び/又は水と反応し、PFOIがPFOAに分解しやすいためである。酸素及び/又は水分が存在する場合は特にPFOIはPFOAに分解しやすい。」
(C) 「【0033】
精製工程では、前記反応工程で得られたPFOBをアルカリ洗浄する。この精製工程において、生成物に含まれるPFOAの含有量が、PFOBの全重量に対して25ppb以下に低減され得る。
【0034】
アルカリ洗浄の方法は特に限定されない。例えば、アルカリ溶液を生成物に添加して撹拌を行い、その後、静置させて、生成物が含まれる層と、アルカリ溶液の層(アルカリ層ということがある)との2層に分離させ、分液によって生成物が含まれる層を取り出す方法が挙げられる。これにより、生成物であるPFOBを得ることができる。その他、アルカリ溶液を生成物に添加した後、蒸留することで生成物であるPFOBを含む層を得ることもできる。
【0035】
アルカリ溶液の添加から分液して生成物が含まれる層を取り出すまでの一連の操作を「アルカリ洗浄」いう。
【0036】
前記アルカリ洗浄は、複数回行うことが好ましく、この場合、生成物がより高純度で精製され、特に、PFOIを所望の量にまで低減しやすくなる。より具体的には、前記アルカリ洗浄後のアルカリ層のpHが7以上、好ましくは、8以上、特に好ましくは10以上になるまでアルカリ洗浄を繰り返すことが好ましい。
・・・
【0040】
精製工程におけるアルカリ洗浄では、生成物中に含まれるPFOAが除去される他、副生成物であるIBrも除去され得る。
【0041】
アルカリ洗浄を行った後、必要に応じて、無機塩を含む溶液で、生成物を洗浄してもよい。無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができる。これにより、アルカリ洗浄後の生成物のpHを調整することができ、また、水分も除去することができる。
【0042】
精製工程では、前記アルカリ処理の後、更に必要に応じて生成物を乾燥処理、及び、蒸留処理することができる。乾燥処理は、例えば、生成物に乾燥剤を添加する方法によって行うことができる。乾燥剤の種類は特に限定されず、例えば、無水硫酸マグネシウムを挙げることができる。また、蒸留処理は、例えば、乾燥処理の後に行うことができる。蒸留処理の方法は特に限定的でなく、公知の蒸留方法を広く採用することができる。
【0043】
精製工程を経ることで、PFOBが精製され、不純物として含まれるPFOAが25ppb以下である純度の高いPFOBを製造することができる。
【0044】
特に本発明の製造方法では、PFOAが含まれるPFOIを原料として使用してPFOBを製造するにもかかわらず、得られたPFOB中にはPFOAの量が少ないため、純度が高いPFOBを得ることができる。また、本発明の製造方法では、精製によってPFOAの量を容易に低減できるので、保管条件が厳密に管理されていないPFOIを原料として使用することができる。」
(D) 「【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
反応槽にPFOIを1760g供給し、該反応槽を140~142℃に加熱し、反応槽内のPFOIを撹拌した。次いで、この反応槽に、臭素1000~1600gを、複数回に分けて供給して、加熱還流することで、PFOIの臭素化を行った。
【0049】
臭素化の終了後、反応液を冷却し、反応液のアルカリ洗浄を行った。このアルカリ洗浄では、まず、得られた反応液に2~3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を約0.5L加えて撹拌し、その後、撹拌を止めて反応槽を静置させて生成物を含む層及び水酸化ナトリウム水溶液の層に分離し、分液により生成物を含む層を抽出した。このアルカリ洗浄を繰返し実施し、水酸化ナトリウム水溶液の層のpHが8を超えるまで行った。
【0050】
その後、生成物に7~10%に調整した食塩水を約0.3L加えて洗浄し、その後、生成物を含む層を取り出した。この取り出した生成物を含む層に、無水硫酸マグネシウムを約20g加えて撹拌した。その後、ろ過により、前記生成物を含む層を取り出し、これを蒸留することによりPFOBを1500g得た。
【0051】
得られたPFOB中のPFOAの濃度をLC-MS/MSにより分析したところ、PFOAの濃度は、PFOBの全重量に対して5ppb以下であった。
【0052】
(実施例2)
PFOIとして、PFOAを350重量ppm含むPFOIに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でPFOBを1500g得た。
【0053】
得られたPFOB中のPFOAの濃度をLC-MS/MSにより分析したところ、PFOAの濃度は、PFOBの全重量に対して5ppb以下であった。」
以下、本願発明に関連するフッ素化合物である「C8F17Br(パーフルオロオクチルブロマイド)」、「C7F15COOH(パーフルオロオクタン酸)」及び「C8F17I(n-ペルフルオロオクチルヨウ化物)」について、それぞれ、「PFOB」、「PFOA」及び「PFOI」との略記を使用することがある。
第5 当審の判断
1 理由2’(新規性)について
(1) 引用文献3を主引例とする場合
ア 引用文献3に記載された発明
摘記(3a)及び(3b)によれば、引用文献3には、「500mlの4つ口フラスコに、パーフルオロオクチルアイオダイド(PFOI)200mlと臭素5.0mlを入れ、150~155℃に加熱し、500Wの可視光ランプを照射し、反応溶液が還流し始めた後、臭素49.5mlを約4時間かけて滴下するなかで、副生したIBrを除去しながら、5時間反応させ、反応溶液を冷却し、5%水酸化ナトリウム水溶液200mlで洗浄することで製造したパーフルオロオクチルブロマイド。」(以下「引用3発明」という。)が記載されている。
イ 対比判断
本願発明と引用3発明とを対比すると、引用3発明における「パーフルオロオクチルブロマイド」は、本願発明における「C8F17Br(PFOB)」に相当する。
したがって、本願発明と引用3発明とは、
「C8F17Br(PFOB)」に関する物である点で一致し、以下の点で一応相違する。
一応の相違点1:
本願発明が「C7F15COOH(PFOA)をさらに含有し、PFOAの含有量がC8F17Br(PFOB)の全重量に対して25ppb以下」であることを特定しているのに対して、引用3発明は、「500mlの4つ口フラスコに、パーフルオロオクチルアイオダイド(PFOI)200mlと臭素5.0mlを入れ、150~155℃に加熱し、500Wの可視光ランプを照射し、反応溶液が還流し始めた後、臭素49.5mlを約4時間かけて滴下するなかで、副生したIBrを除去しながら、5時間反応させ、反応溶液を冷却し、5%水酸化ナトリウム水溶液200mlで洗浄することで製造」されたものと特定されている点
一応の相違点2:
本願発明が、「組成物の全重量に対して、C8F17Br(PFOB)を50重量%以上含む」、「組成物」であるのに対して、引用3発明は、製造方法で特定された「C8F17Br(PFOB)」である点
まず、一応の相違点1について検討する。
引用3発明では、PFOIと臭素を原料としてPFOBを製造するにあたり、PFOIを含む反応溶液の総量205mlを500mlフラスコに入れ、フラスコ内で反応溶液が大気と接触した状態(窒素などの不活性化ガスによる置換の言及はない。摘記(3c)の第1図も参照。)で、150~155℃の高温かつ500Wの可視光ランプを照射した後、臭素を添加している。
一方、本願明細書の摘記(A)及び(B)によれば、PFOIは光及び熱に不安定な化合物であって、大気である空気中に存在する酸素又は水と反応し、PFOAに分解しやすいものとされ、摘記(2a)及び(2b)によれば、パーフルオロアルキルアイオダイドのC-I結合は、C-Br結合よりもはるかに安定性が低く、熱、光などによるラジカル反応により開裂し、ヨウ素を容易に遊離する性質を有することが記載されている。
そうすると、引用3発明は、通常酸素及び水を含む空気という大気の雰囲気下で、PFOIを高温にし、可視光ランプを照射しているから、反応によりPFOIの一部が分解されてPFOAを微量生成しているものと認められる。そして、引用3発明は、臭素の置換反応終了後に、水酸化ナトリウム水溶液を用いたアルカリ洗浄をしているから、摘記(C)による本願発明の手法又は摘記(D)の具体例や、アルカリ水溶液で水溶性不純物を除去する分離精製の技術常識(摘記(4a)及び(4b))も考慮すると、PFOAの含有量がPFOBの全重量に対して25ppbを超えるほどのものではない蓋然性が高く、一応の相違点1は実質的な相違点とはいえない。
つぎに、一応の相違点2について検討すると、引用3発明は特定の製造工程を経て製造された製造物であるから、純度100%の化合物そのものである「PFOB」ではなく、「PFOB」を主に含有する混合物であって、組成物の全重量に対して、PFOBを50重量%以上含む「組成物」といえ、一応の相違点2は実質的な相違点とはいえない。
したがって、本願発明は引用文献3に記載された発明である。
(2) 引用文献1を主引例とする場合
ア 引用文献1に記載された発明
摘記(1b)によれば、引用文献1には、「フラスコにC8F17I、臭素及びCFCl2CFCl2を入れ、N2気流中60℃に加熱し、撹拌下アゾビスイソブチロニトリルを30分毎に8回に分けて添加し、2時間同温度で撹拌した後、内容物を希アルカリで洗浄し精留することで得たC8F17Br。」(以下「引用1発明」という。)が記載されている。
イ 対比判断
本願発明と引用1発明とを対比すると、引用1発明の「C8F17Br」は、本願発明の「C8F17Br(PFOB)」に相当する。
したがって、本願発明と引用1発明とは、
「C8F17Br(PFOB)」に関する物である点で一致し、以下の点で一応相違する。
一応の相違点3:
本願発明が「C7F15COOH(PFOA)をさらに含有し、PFOAの含有量がC8F17Br(PFOB)の全重量に対して25ppb以下」であることを特定しているのに対して、引用1発明は、「フラスコにC8F17I(PFOI)、臭素及びCFCl2CFCl2を入れ、N2気流中60℃に加熱し、撹拌下アゾビスイソブチロニトリルを30分毎に8回に分けて添加し、2時間同温度で撹拌した後、内容物を希アルカリで洗浄し精留」し製造されたものと特定されている点
一応の相違点4:
本願発明が、「組成物の全重量に対して、C8F17Br(PFOB)を50重量%以上含む」、「組成物」であるのに対して、引用1発明は、製造方法で特定された「C8F17Br(PFOB)」である点
まず、一応の相違点3について検討する。
引用文献1には、原料であるPFOIの純度や含有し得る不純物について記載されていないが、本願明細書の摘記(A)及び(B)によれば、PFOIは光及び熱に不安定な化合物であって、大気である空気中に存在する酸素又は水と反応し、PFOAに分解しやすいものとされ、摘記(2a)及び(2b)によれば、パーフルオロアルキルアイオダイドのC-I結合は、C-Br結合よりもはるかに安定性が低く、熱、光などによるラジカル反応により開裂し、ヨウ素を容易に遊離する性質を有することが記載されていることから、PFOAは、PFOI原料における不可避不純物であったものと認められ、結果として、PFOBにおいても、PFOAが不可避不純物であったことが、本願出願前における技術常識であったものといえる。摘記(1a)によれば、置換反応は「N2気流中で反応させること」ができる程度であって、大気雰囲気下で置換反応をすることも想定されているから、この場合、上記(1)イで述べた理由と同様の理由により、PFOAが微量生成するものといえる。
そして、引用1発明は、臭素の置換反応終了後には希アルカリで洗浄し精留しているから、摘記(C)による本願発明の手法又は摘記(D)の具体例や、アルカリ水溶液で水溶性不純物を除去する分離精製の技術常識(摘記(4a)及び(4b))も考慮すると、PFOAの含有量がPFOBの全重量に対して25ppbを超えるほどのものではない蓋然性が高く、一応の相違点3は実質的な相違点とはいえない。
つぎに、一応の相違点4について検討すると、引用1発明は特定の反応工程を経て得た物であるから、純度100%の化合物そのものである「PFOB」ではなく、「PFOB」を主に含有する混合物であって、組成物の全重量に対して、PFOBを50重量%以上含む「組成物」といえ、一応の相違点4は実質的な相違点とはいえない。
したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明である。
(3) 請求人の主張について
ア 請求人は審判請求書において、引用文献1~3のいずれにおいても、PFOBの製造において生成物中にPFOAが生成していることについては記載も示唆もされておらず、以下の(ア)~(エ)の理由により、引用文献1~3に記載の発明にあっては、生成物中にPFOAが含まれていないと解すべきであると主張している。
(ア) 一般的に、PFOI中にPFOAが微量でも存在すると、PFOIがPFOAに分解する過程でヨウ素(I2)が発生し、このヨウ素によってPFOIが赤く視認される。
(イ) 当業者において、原料に変色が見られた場合、そのような原料を合成用の原料とし使用し得ないことは技術常識である。
(ウ) そもそも一般的にPFOIのような有機化合物は、分解が起こらないようにすべく、保管方法を厳密に管理しておくことが通常である。
(エ) 当業者はPFOAが発生したPFOIを原料として使用するはずがない。
イ さらに、請求人は当審における意見書において、以下のように主張している。
(ア) PFOI中のPFOAがごく微量でも含まれているとPFOIが外観の目視で確認できる程度に赤変することは技術常識であると出願人は思料している。
(イ) そのような赤変した原料を使用してPFOBを製造することは、当業者なら通常は回避します。
ウ 請求人の主張に対する当審合議体の判断
まず、上記ア(ア)及びイ(ア)について検討すると、請求人は、ヒトが赤く視認できるほどのPFOA濃度について具体的に示しておらず、PFOBの全重量に対するPFOAの含有量が「25ppb(以下)」程度のPFOA濃度でもヒトが赤く視認できるという根拠はない。
一方、着色を目的とする着色剤でさえ、50ppm(50000ppb)未満の着色剤濃度ではコート膜の視認・識別ができないこと(特開2013-245316号公報の【0077】及び【0083】)や、0.01ppm(10ppb)以下の着色剤濃度では目視にて溶液の着色の識別が不可能であること(特開2003-112990号公報の【0037】及び【0038】)を考慮すると、「PFOI中のPFOA」が「10ppb」又は「1ppb」程度の「ごく微量」含まれている場合など、その存在を「目視で確認できる」ほどヒトの視認能力は高くはないことは明らであるから、請求人が主張する「PFOAがごく微量でも含まれているとPFOIが外観の目視で確認できる程度に赤変する」という技術常識(上記ア(ア)及びイ(ア))は妥当ではない。
そうすると、上記ア(イ)及びイ(イ)のとおり、「赤変した原料を回避」して合成したとしても、着色を視認できないほどの「PFOA」が存在し得るものといえる。
そして、上記ア(ウ)の保管方法を厳密に管理しておくことが通常であっても、上記(1)イ及び(2)イで述べたとおり、PFOAが発生する条件を考慮すると、その含有量が検出限界を下回るほどの含有量である(すなわち、PFOAの含有量がゼロである。)とする根拠にすることはできない。また、PFOBが生成するまでに、PFOAが不純物として微量混入することは避けられないものといえ、引用文献3又は1に記載のPFOBにPFOAの混入が記載されていなくとも、実際にPFOAを全く含有しないとは認められないし、「赤変していない原料」であっても「不可避不純物であるPFOAが混入した原料」といえるから、上記ア(エ)の主張により、「PFOA」が不可避不純物ではなく、生成物が「PFOA」を全く含有しないとすることはできない。
以上のことから、引用文献1及び3に記載の発明にあっては、生成物中にPFOAが含まれていないと解すべきという請求人の主張は採用できない。
(4) 小括
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 理由3’(進歩性)について
さらに、引用3発明及び引用1発明におけるPFOAの含有量が、実質的に不明であるか、本願発明の含有量の範囲に含まれなかった場合、すなわち、上記1(1)イの一応の相違点1及び上記1(2)イの一応の相違点3が実質的な相違点であると仮定した場合について、以下検討する。
(1) 法規制及び技術常識について
摘記(5a)によれば、引用文献5には、2020年7月4日以降、EU域内において、「他の化学物質の構成要素として使用、またはそれを上市する」には、「PFOAとその塩」が「濃度25ppb未満でなければならない」ことが、本願出願前である2017年6月に法規制として決定された旨が記載されており、本願出願前でも経済活動及び流通のグローバル化が進んでおり、EU域内の規制は実質的に世界的な社会的要請であったものといえるから、本願出願前には、「PFOA」の濃度を多くとも25ppb未満とすることに対して、強い動機付けが存在していたものと認められる。
(2) 一応の相違点1及び3の判断について
上記(1)の「PFOA」の濃度を25ppb未満とする強い動機付けの存在と、有機物に含まれる酸不純物をアルカリ洗浄により除去することが本願出願前における常套手段(摘記(4a)及び(4b))であることを考慮すると、引用3発明及び引用1発明において、PFOAの濃度を25ppb未満とするために、アルカリ洗浄を十分に行い、結果として、一応の相違点1及び3に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到することである。
(3) 判断のまとめ
一応の相違点2及び4は、上記1(1)イ及び1(2)イで述べたとおり、実質的な相違点ではなく、かつ、上記(2)で述べたことを考慮すると、本願発明は、引用文献3に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易になし得たものであり、また、引用文献1に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易になし得たものである。
(4) 請求人の主張について
請求人は、審判請求書又は意見書において、引用文献1又は3には、PFOAを含むPFOBの記載がないことを前提とした主張をするのみで、摘記(A)の【0005】における本願の発明の課題に沿って、PFOAが混入し、PFOAを低減する事項に関する特段の主張はしていない。
(5) 小括
以上のとおり、本願発明は、引用文献1又は3に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、引用文献1又は3に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-008673