特許拒絶査定不服審判
2021-000554
結晶性ミノサイクリン塩基及びその製造方法
- 審判番号
- 2021-000554
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-059559外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年01月14日
- 審決日
- 2022年11月11日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ホビオネ サイエンティア リミテッド
- 【請求人代理人】石川 徹
- 分類
- P18 .121-Z (C07C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 59559「結晶性ミノサイクリン塩基及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和1年8月29日 出願公開、特開2019-142882〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2008年2月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年2月23日(PT)ポルトガル)を国際出願日とする特願2009-550320号の一部を、平成26年5月20日に新たな特許出願(特願2014-104022号)とし、その一部を平成28年9月28日に新たな特許出願(特願2016-189162号)とし、その一部を平成31年3月27日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
平成31年 4月25日 :翻訳文、手続補正書(2件)、上申書の
提出
令和 1年 6月19日 :手続補正書(2件)の提出
令和 2年 1月31日付け:拒絶理由通知
同年 8月 4日 :意見書の提出
同月 5日受付:手続補足書(参考資料1~17を添付)
同年 9月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月15日 :原査定の謄本の送達)
令和 3年 1月14日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 3月30日 :手続補正書(方式)の提出
同年 5月10日付け:前置報告
同年10月29日 :上申書の提出
第2 本願発明
本願に係る発明は、令和3年1月14日提出の手続補正書でした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「3.4、6.8、8.0、10.0、13.0、13.8、14.6、14.9、15.5、16.1、17.6、17.8、18.6、19.5、20.2、20.6、21.9、22.6、23.9、24.2、25.4、26.3、27.1、27.5、28.0及び29.1±0.2°2θにピークを有するX線回折パターンを特徴とする、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基。」
なお、ミノサイクリン塩基の化学構造は、次のとおりである。本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の【0002】(発明の背景)で引用された米国特許4,849,136号の優先権基礎出願である特願昭62-181640号の公告公報である特公平7-37433号公報の4頁に記載された化学構造式を転記した。
[図:0001395572000001.jpg]
また、4-エピミノサイクリンは、4位(上記化学構造式において右上のN(CH3)2基がある位置。表示されていないが同位置にはHもある。)のN(CH3)2基とHの立体配置が反転した化合物である。
第3 原査定の理由
原査定の理由は、令和2年1月31日付け拒絶理由通知における理由1であって、その概要は、令和1年6月19日提出の手続補正書でした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~16(以下「旧請求項1」等という。)に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった引用文献1又は引用文献2に記載された発明及び周知の技術に基いて、同出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、周知の技術を示す文献として、旧請求項1、2、6、7、11、12に係る発明に対しては、引用文献3~10、12、13を、旧請求項3~5、8~10、13~16に係る発明に対しては、引用文献3~16を、引用したものである。引用文献1~16は、以下のとおりである(著者名、発行年、巻・号等は、表記形式を統一して記載した。)。
引用文献1 :BERNARDI, L., ET AL., IL FARMACO - ED. SC. -, 1975,
Vol.30, No.9, p.736-741
引用文献2 :国際公開第2007/014154号
引用文献3 :国際公開第2006/128150号
引用文献4 :特開平6-192228号公報
引用文献5 :特開平7-53581号公報
引用文献6 :特公昭52-45716号公報
引用文献7 :特開昭61-263985号公報
引用文献8 :特開平4-235188号公報
引用文献9 :特開2003-73353号公報
引用文献10:BAVIN, MIKE, CHEMISTRY & INDUSTRY, 1989, Vol.21,
p.527-529, 別件無効2013-800037の甲第8号
証, 抄訳付き
引用文献11:KONNO, TSUTOMU, CHEMICAL & PHARMACEUTICAL BULLETIN,
1990, Vol.38, No.7, p.2003-2007, 別件無効2010-
800235の乙第14号証, 抄訳付き
引用文献12:BYRN, STEPHEN, ET AL., PHARMACEUTICAL RESEARCH,
1995, Vol.12, No.7, p.945-954,別件無効2013-
800037の甲第5号証、抄訳付き
引用文献13:森部久仁一ほか, 低温生物工学会誌, 2005, Vol.51,
No.1, p.19-24
引用文献14:豊田貞男, 油化学, 1963年, 第12巻, 第7号, 第383-391頁
引用文献15:浅原照三ほか, 溶剤ハンドブック, 第5刷,
株式会社講談社, 1985年, 第47-51頁
引用文献16:厚生省医薬安全局審査管理課長, 医薬品の残留溶媒ガイド
ラインについて, 医薬審, 1998年, 第307号, 第1-11頁
本願発明は、上記拒絶理由通知で言及され原査定の対象とされた旧請求項6に係る発明である(旧請求項6と、令和3年1月14日提出の手続補正書でした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は、請求項番号が異なるのみであり、両者の記載は全く同じである。)。
第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のうち、旧請求項6に係る発明を対象とし引用文献1を主引用例とする理由のとおり、本願発明は、上記引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基いて、本願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものと判断する。
その理由の詳細は、以下のとおりである。
1 引用文献及び引用文献の記載事項
当審においては、上記第3に記載した原査定において引用された引用文献1~16のうち、引用文献1、3~16を引用する。これらの文献は、いずれも本願優先日(2007年2月23日)より前に頒布された刊行物であるか電気通信回線を通じて公衆に利用可能になったものであり、引用文献3~16は、周知技術又は技術常識を示すために引用するものである。
(1) 引用文献1(BERNARDI, L., ET AL., IL FARMACO - ED. SC. -,
1975, Vol.30, No.9, p.736-741)
引用文献1には、以下の記載がある。英文であるため、合議体による訳文で摘記する。下線は合議体が付したものである(以下、他の引用文献の摘記に付した下線も同じ。)。
摘記(1a)
「テトラサイクリン誘導体
記録II - ミノサイクリンの実際的な合成」
(736頁、標題)
摘記(1b)
「要約.- 新規な、実際的かつ位置特異的なスキーム1に従うミノサイクリンの合成を報告する。」
(736頁5~6行)
摘記(1c)
「天然及び合成の両方のテトラサイクリン系抗生物質の中で、ミノサイクリン(1)は、治療上おそらく最も有効である(2)。その合成(1,3)は、数年前、6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(I)のニトロ化を基本とする一連の反応により達成された。2つの異性体である7-ニトロ及び9-ニトロ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリンが、1:7の比で生成する。ここで困難な分離が続いて起こり、その後、7-ニトロ誘導体は還元されてアルキル化され、7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(ミノサイクリン)を与える。・・・。
・・・
tert-ブチル基は、すでに芳香族の位置の一時的な保護に用いられていたが(5)、これまでのところテトラサイクリンのような複雑な分子には用いられていなかった。
9-tert-ブチル-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(II)が利用可能になったことにより、スキーム1に従うミノサイクリンの位置特異的な合成が実際的なものとなった。
[図:0001395572000002.jpg]
」
(736頁本文1~8行、737頁本文下から6行~末行、スキーム1)
摘記(1d)
「 実験の部
全ての生成物の元素分析は、理論値の±0.4%の結果(C、H、N)を与えたが、ここには示していない。
・・・
7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(VI)
9-tert-ブチル-7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(V)(5g)を、アニソール(2.5ml)を含むトリフルオロメタンスルホン酸(50ml)に溶解し8時間60°で次いで一晩室温で攪拌した。トリフルオロメタンスルホン酸を減圧留去し70%収率で回収し、残渣は氷水(200ml)に溶解し、アニソールを除くためジメチルエーテルで洗浄した。次いで5N NaOHでpHを6.5に調整し、生成物をクロロホルムで抽出した(5×100ml)。有機溶液を減圧濃縮し、石油エーテルで処理して、2.8g(63%収率)の7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン(VI)が得られ、これは標準試料と同一であった。」
(739頁12~14行、740頁下から11行~末行)
(2) 引用文献3(国際公開第2006/128150号)
引用文献3には、以下の記載がある。英文であるため、対応する日本出願の公表公報(特表2008-545717号公報)も参照して合議体による訳文で摘記し、記載箇所の表示には当該公表公報の対応箇所も併記した。
摘記(3a)
「チゲサイクリンの結晶性固体形態及びその調製方法」
(標題(公表公報【発明の名称】))
摘記(3b)
「チゲサイクリンはテトラサイクリン系の抗生物質でありミノサイクリンの化学類似体である。・・・」
([002](公表公報【0003】))
摘記(3c)
「・・・。チゲサイクリンは典型的には滅菌目的の賦形剤なしで凍結乾燥により非晶質の粉末とされる。しかし、チゲサイクリンは分解する傾向があるため、その粉末は低酸素及び低温の条件下で調製され処理される。・・・。加えて、非晶質材料は一般的に同じ化合物の結晶形態よりも安定性が低い。(・・・)。したがって、特殊な操作システムを要せずに結晶性固体形態のチゲサイクリンを使用し製造できるなら好都合であろう。」
([003](公表公報【0004】))
摘記(3d)
「本発明は、形態I、形態II、形態III、形態IV、及び形態Vとして特定されるチゲサイクリンの結晶性固体形態を対象とする。・・・。本発明は、さらにチゲサイクリンの結晶性固体形態を調製するための方法を対象とする。」
([017](公表公報【0018】))
摘記(3e)
「X線粉末回折の全体を、チゲサイクリンの各結晶性固体形態を特徴付けるために使用することもできるが、チゲサイクリンの各結晶性固体形態を特徴付けるために各パターンにおけるピークのより小さなサブセットを選択してもよい。・・・。」
([029](公表公報【0021】))
(3) 引用文献4(特開平6-192228号公報)
引用文献4には、以下の記載がある。
摘記(4a)
「【請求項1】結晶状態の下記式
・・・
で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°~+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」
(請求項1及び2)
摘記(4b)
「【0002】
【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
・・・
【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(・・・)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。
【0007】
【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】
【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」
(【0002】~【0008】)
(4) 引用文献5(特開平7-53581号公報)
引用文献5には、以下の記載がある。
摘記(5a)
「【請求項1】L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」
(請求項1)
摘記(5b)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】
【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。・・・。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、・・・が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。
【0003】
【課題を解決するための手段】このような事情に鑑み、本発明者らは、より優れた特性を有する結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を得るために種々検討を重ねた結果、驚くべきことに、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が水溶媒下で結晶化すること、さらに、非晶質を含まず高純度で優れた安定性を有する結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が簡便かつ短時間で得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。」
(【0001】~【0003】)
摘記(5c)
「【0023】
・・・
実施例1
非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩20gに1リットルの水を加え2W/V%とし、50~60℃に加温溶解した。得られた溶液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、80mlの溶液を得た。・・・。その後、室温まで冷却し、結晶を析出させて目的の結晶を得た。得られた結晶についてDSCチャートにより確認した結果、全て結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩であることが判明した。
・・・
【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
[図:0001395572000003.jpg]
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。」
(【0023】、【0028】~【0030】)
(5) 引用文献6(特公昭52-45716号公報)
引用文献6には、以下の記載がある。
摘記(6a)
「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」
(4頁8欄、特許請求の範囲)
摘記(6b)
「半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつてひき起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(・・・)およびトリハイドレート(・・・)があり、これらはその無晶形のものに比し、安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については充分研究されていない。」
(1頁1欄29行~2欄2行)
摘記(6c)
「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶形のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている(・・・)。」
(2頁3欄31~40行)
摘記(6d)
「
[図:0001395572000004.jpg]
」
(7頁、第4図)
摘記(6e)
「
[図:0001395572000005.jpg]
」
(7頁、第5図)
(6) 引用文献7(特開昭61-263985号公報)
引用文献7には、以下の記載がある。
摘記(7a)
「2. (6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」
(1頁、特許請求の範囲の請求項2)
摘記(7b)
「〈 背景技術 〉
・・・。
例えば、下記式
・・・
で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(・・・)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。
したがつて、かかるセファロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈 発明の開示 〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」
(2頁左上欄14行~左下欄8行)
摘記(7c)
「実施例
(1) (6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートの結晶性無水物,0.5水和物,1水和物,3水和物の製造
(i) 7-〔(Z)-2-メトキシイミノ-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)アセトアミド〕-3-〔(1-キヌクリジニウム)メチル〕-3-セフエム-4-カルボキシレートの無定形物10gを20gの水に溶解し更に20mlのアセトンを加え、これを3lのアセトン中に攪拌下滴下した。析出した結晶を濾別し少量の水で水洗し、室温,相対湿度40~60%の条件で風乾して3水和物を得た。カールフイツシヤー法による水分測定結果は9.81%であった。(理論値:9.63%)
こうして得られた3水和物はX線回折で以下の特徴を有していた。
X線回折結果
回折角(2θ) 相対強度(%)
9.6 88
・・・
39.4 21 」
(6頁左上欄下から9行~右下欄下から6行)
摘記(7d)
「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフイーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)
[図:0001395572000006.jpg]
」
(8頁右上欄下から4行~左下欄)
(7) 引用文献8(特開平4-235188号公報)
引用文献8には、以下の記載がある。
摘記(8a)
「【請求項2】 (+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。」
(2頁、特許請求の範囲の請求項2)
摘記(8b)
「【0002】
【従来の技術および課題】・・・、式:
・・・
で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、・・・優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(【0002】)
摘記(8c)
「【0010】実施例1
前記参考例で得られた(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アサビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの無晶形の粉末19.5gをエタノール98ミリリットルに溶解した。この溶液を31℃に加温し、32℃に加温した水146ミリリットルを加え、活性炭(白サギP、武田薬品工業(株)製)0.98gを加えて10分間撹拌した。ついで、活性炭を濾去し、エタノール20ミリリットルと水29ミリリットルの混液で洗浄した。濾液を25~30℃で1時間撹拌した後、10℃で冷却し、さらに1時間撹拌した。晶出した結晶を濾取し、エタノール20ミリリットルと水39ミリリットルの混液および水120ミリリットルで順次洗浄し、減圧下35℃で約5時間乾燥すると白色の粉末として該エステルの結晶16.6gが得られた。・・・
・・・
【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
粉末の種類 保存条件 残存率
無晶形粉末 60℃ 14日間 37.7%
実施例1の結晶形粉末 60℃ 19日間 98.7%
実施例2の結晶形粉末 60℃ 14日間 98.9% 」
(【0010】、【0014】)
(8) 引用文献9(特開2003-73353号公報)
引用文献9には、以下の記載がある。
摘記(9a)
「【請求項1】 CuKα放射線を使用して測定した2θ値:11.9または22.0のうちの少なくとも一つを含有するX線粉末回折を有する結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物。
・・・
【請求項9】 CuKα放射線を使用して測定した2θ値:9.0および20.5を含有するX線粉末回折を有する結晶性形態IIのアトルバスタチンまたはその水和物。」
(請求項1及び9)
摘記(9b)
「【0001】
【発明の背景】本発明は、医薬として有用である新規な結晶性形態の・・・アトルバスタチン、この化合物を製造および単離する方法、この化合物および医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物、および医薬的治療方法に関するものである。本発明の新規な結晶性化合物は・・・有用な血中脂質性低下剤および血中コレステロール低下剤である。」
(【0001】)
摘記(9c)
「【0007】上記米国特許の方法は、大規模な生産に対して適当でない濾過および乾燥特性を有しそして熱、光、酸素および湿気から保護しなければならない無定形のアトルバスタチンを開示している。
【0008】驚くべきことにはそして意外にも、アトルバスタチンは結晶性の形態で製造することができるということが見出された。すなわち、本発明は、形態I、形態IIおよび形態IVと称される新規な結晶性形態のアトルバスタチンを提供する。・・・。さらに、形態Iのアトルバスタチンは、無定形の生成物よりも純粋でありそしてより安定である。」
(【0007】~【0008】)
(9) 引用文献10(BAVIN, MIKE, CHEMISTRY & INDUSTRY, 1989, Vol.21,
p.527-529, 別件無効2013-800037の甲第
8号証, 抄訳付き)
引用文献10には、以下の記載がある。英文であるため、抄訳も参照して合議体による訳文で摘記する。
摘記(10a)
「プロセス開発における多形」
(527頁、標題)
摘記(10b)
「結晶性製品は、一般に、単離、精製、乾燥するのに、そして、バッチプロセスにおいては、取扱い及び製剤化するのに、最も容易である。」
(527頁左欄1~3行)
摘記(10c)
「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子を有する。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。」
(527頁左欄15~18行)
摘記(10d)
「いくつかの可能性のある多形のいずれが得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性、疎水性)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。」
(527頁右欄9~13行)
摘記(10e)
「・・・。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却する、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加える、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌する、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱する、昇華させる、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させる、という方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」
(528頁左欄2~14行)
(10) 引用文献11(KONNO, TSUTOMU, CHEMICAL & PHARMACEUTICAL
BULLETIN, 1990, Vol.38, No.7, p.2003-2007,
別件無効2010-800235の乙第14号証,
抄訳付き)
引用文献11には、以下の記載がある。英文であるため、抄訳も参照して合議体による訳文で摘記する。
摘記(11a)
「固体状態において吸着剤と混合した医薬品の物理的及び化学的変化 IV.1)
フルフェナム酸の非晶質混合物の実用的使用のための減圧下混合の研究」
(2003頁、標題)
摘記(11b)
「約10~50mmHgの減圧下で医薬品製造用業務ミキサーを用いてフルフェナム酸(FFA)をケイ酸マグネシウムアルミニウム(MAS)と混合した。この装置を用いて混合物におけるFFAの非晶質状態が効率よく達成され、物理的混合物と比較してFFAの溶解性が向上した。圧力、温度及び攪拌速度等の混合条件がFFAの溶解性に与える影響を究明した。乾燥及び湿潤の両条件下の40℃における安定性試験を通じて、如何なる条件下で貯蔵されても、5%FFA混合物の溶解プロファイルには変化が認められなかった。・・・。」
(2003頁、要約1~6行)
摘記(11c)
「水中での溶解度が低い薬物の非晶質形態は、ポテンシャルエネルギーがより高いために、その結晶形態よりも一般的に溶解しやすいことがよく知られている。非晶質の薬物を製造するために多くの方法が提案されており、例えば、急速冷却により溶融状態からガラス状態にする2)、噴霧乾燥3)、微結晶セルロース又はシクロデキストリンとの粉砕4)、及びポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコール中での固体分散である5)。残念ながら、貯蔵条件によっては非結晶性固体が結晶性になることがあり6)、このような変化は薬物の製造のためには望ましくない。」
(2003頁左欄1~11行)
(11) 引用文献12(BYRN, STEPHEN, ET AL., PHARMACEUTICAL
RESEARCH, 1995, Vol.12, No.7, p.945-954,
別件無効2013-800037の甲第5号証,
抄訳付き)
引用文献12には、以下の記載がある。英文であるため、抄訳も参照して合議体による訳文で摘記する。
摘記(12a)
「医薬品固体: 法規制考慮への戦略的アプローチ」
(945頁、標題)
摘記(12b)
「医薬品固体の対象における関心は、原薬の多形、水和、又は非晶質の形態を検出するために“適切な”分析手法が用いられるべきことを記述する、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示唆する。このガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、そしてバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であると記述している。
・・・。この総説は、一連のガイドラインや規則でなく、フローチャートの形でコンセプト及びアイディアを示すことにより、この不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。」
(945頁左欄1~10,16~19行)
摘記(12c)
「既述のように、原薬について多形及び水和物の存在を調べることが得策である。なぜなら、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して、遭遇し得るからである。」
(946頁左欄下から5行~末行)
摘記(12d)
「A.多形の形成―多形が発見されたか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能か?との質問に答えようとするために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの及び製剤化や加工の工程で用いられるものを含むべきであり、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン及び適切であればこれらの混合物を含み得る。」
(946頁右欄19~28行)
摘記(12e)
「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)では、左上の「多形発見された?」から始まり、左下に以下の記載がある。
「多形のための試験
・X線粉末回折
・DSC(示差走査熱量分析)
・顕微鏡検査
・IR
・固体NMR 」
摘記(12f)
「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(949頁)、「脱溶媒した溶媒和物のためのフローチャート」と題する図9(951頁)、及び「非晶質固体のためのフローチャート」と題する図11(952頁)にも、いくつかの試験の手段が挙げられている。
摘記(12g)
「非晶質形態
・・・
フローチャートの次の質問は“非晶質形態は異なる物理的特性を有するか?”である。この質問への回答は、ほとんど確実に“イエス”であろう。一般に3つの結晶形態とは異なる点が考えられる:1)非晶質形態のほうが溶解性が高いであろうこと、2)非晶質形態のほうがより広範囲に水を吸収すること、そして3)非晶質形態のほうがしばしば化学的に安定性が低いこと、である。非晶質形態についての別の鍵となる質問は、“それは結晶化するか、そして、どのように、いつ?”である。意図しない結晶化は、溶解性及び溶解速度に影響し、製剤化における別の障害につながるため、この質問は非常に重要である。・・・。」
(952頁左欄下から13行、同頁右欄10~21行)
(12) 引用文献13(森部久仁一ほか, 低温生物工学会誌, 2005,
Vol.51, No.1, p.19-24)
引用文献13には、以下の記載がある。
摘記(13a)
「非晶質医薬品の調製と評価」
(19頁、標題)
摘記(13b)
「・・・。特に難溶性医薬品の場合,結晶と比較してポテンシャルエネルギーの高い非晶質状態を選択することで,水への溶解速度ひいては薬物の吸収性改善が期待できることから,医薬品単独あるいは他の添加剤との組み合わせによる非晶質化の検討が数多く行われてきた1),2).
一方で,非晶質状態は分子運動性が高いがゆえ安定性も悪く,医薬品の保存中に非晶質状態から熱力学的により安定な結晶状態へと転移する可能性がある.」
(19頁右欄8~17行)
摘記(13c)
「非晶質化は,医薬品が結晶化しにくい構造を有している場合に起こりやすく,医薬品単独あるいは医薬品と添加剤との組み合わせにより調製する.非晶質医薬品の調製方法としては,粉砕,急冷,噴霧乾燥(スプレードライ),蒸着,多孔体への吸着などが知られている.・・・.」
(20頁左欄29~34行)
(13) 引用文献14(豊田貞男, 油化学, 1963年, 第12巻, 第7号,
第383-391頁)
引用文献14には、以下の記載がある。
摘記(14a)
「噴霧乾燥法」
(383頁、標題)
摘記(14b)
「この方法は高温気流中に液体を微粒化させて瞬間的に乾燥するため,熱に不安定な物質でも容易に処理できるばかりでなく,従来の方法ではロ過,乾燥,粉砕およびフルイ分けの数工程を要したものが,ロ塊から直接粉粒体が得られるので,工程の簡略化により人件費,設備費,運転経費が大幅に節減された.」
(383頁右欄下から4行~384頁左欄2行)
(14) 引用文献15(浅原照三ほか, 溶剤ハンドブック, 第5刷,
株式会社講談社, 1985年, 第47-51頁)
引用文献15には、以下の記載がある。
摘記(15a)
「3.2.3 再結晶溶媒の種類と特徴
再結晶溶媒として普通使用されるものを表3.3と表3.4にあげる.表3.3は最も一般的に使用される溶媒で,これらのもので成功しない場合に表3.4にあげられている少し特殊なものの使用が推奨される.」
(49頁左欄9~14頁)
摘記(15b)
「 表3.3 最も一般的に使用される再結晶溶媒
溶 媒 名 融点(℃) (沸点℃) 水との混和性
・・・
酢酸エチル -83.8 77.11 -
・・・
エタノール -114.5 78.32 +
・・・ 」
(49頁右欄「表3.3」)
(15) 引用文献16(厚生省医薬安全局審査管理課長, 医薬品の残留溶媒
ガイドラインについて, 医薬審, 1998年, 第307号,
第1-11頁)
引用文献16には、以下の記載がある。
摘記(16a)
「別紙
医薬品の残留溶媒ガイドライン
1 はじめに
本ガイドラインの目的は,患者の安全のために医薬品中の残留溶媒の許容量を勧告することである。本ガイドラインは,医薬品の製造の際には,低毒性の溶媒を使用するように勧告するとともに,いくつかの残留溶媒について毒性学的に許容し得る限度値を示している。」
(1頁目18~23行)
摘記(16b)
「(3)低毒性の溶媒
表3に示したクラス3の溶媒は,毒性が低く,ヒトの健康に及ぼすリスクも低いと考えられる。・・・。
・・・
表3.クラス3の溶媒(GMP又はその他の品質基準により規制されるべき溶媒)
・・・
エタノール
酢酸エチル
・・・ 」
(5頁目本文1~2行、「表3」)
2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、テトラサイクリン系抗生物質であるミノサイクリン(7-ジメチルアミノ-6-デメチル-6-デオキシテトラサイクリン)を、実際に合成し元素分析したこと、及び得られた化合物が標準試料と同一であったことが記載されている(摘記(1a)~(1d))。この生成物は、スキーム1において式(VI)で表される化合物であり、その化学構造式及び化合物名からみて、酸は付加されておらず、遊離の塩基であると認められる。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。
≪引用発明≫
「ミノサイクリン塩基。」
3 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「ミノサイクリン塩基。」
に関する発明である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、ミノサイクリン塩基が、「形態IIの結晶性」のものであり、「3.4、6.8、8.0、10.0、13.0、13.8、14.6、14.9、15.5、16.1、17.6、17.8、18.6、19.5、20.2、20.6、21.9、22.6、23.9、24.2、25.4、26.3、27.1、27.5、28.0及び29.1±0.2°2θにピークを有するX線回折パターンを特徴とする」と特定されているのに対して、引用発明は、ミノサイクリン塩基がそのように特定されたものでない点。
4 相違点についての検討
(1) 結晶を得ることの動機付けについて
ア
引用文献4は、結晶性の式(I)の化合物((R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド)及びその製造方法に関する文献であり、同文献には、当該式(I)の化合物がロイコトリエン合成の阻害剤であること、非結晶状態の式(I)の化合物は、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、非常に不十分な貯蔵安定性しか示さないところ、結晶性の式(I)の化合物は、非結晶状態の同化合物と比較して、物理的安定性に優れていることが記載されている(摘記(4a)~(4b))。
イ
引用文献5は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に関する文献であり、同文献には、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が、医薬品などに有用であること、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましいこと、得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が優れた安定性を有することが記載されている(摘記(5a)~(5c))。
ウ
引用文献6は、アンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法に関する文献であり、同文献には、アンピシリンが、半合成ペニシリンであり、感染症に対して有効であること、アンピシリンナトリウム塩のI型結晶は、無晶形のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れていることが記載されており(摘記(6a)~(6e))、遊離型のアンピシリンも、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比して安定であることが記載されている(摘記(6b))。
エ
引用文献7は、特定のセファロスポリン誘導体の結晶性の無水物、0.5水和物、1水和物又は3水和物の製造法に関する文献であり、同文献には、当該セファロスポリン誘導体が強力な抗菌活性を有すること、当該セファロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率が0%であったのに対し、結晶性の無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は、残存率が96.1%以上と安定であったことが記載されている(摘記(7a)~(7d))。
オ
引用文献8は、特定のペネム化合物の結晶の製造方法に関する文献であり、同文献には、当該ペネム化合物が優れた抗菌活性を示すこと、当該ペネム化合物の無晶形の固体は、安定性が不十分で、製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があるのに対して、当該ペネム化合物の結晶形粉末は、保存安定性が良いことが記載されている(摘記(8a)~(8c))。
カ
引用文献9は、結晶性形態のアトルバスタチン及びその製造方法に関する文献であり、同文献には、当該結晶性化合物が、血中脂質性低下剤及び血中コレステロール低下剤であること、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも、有利な濾過及び乾燥特性を示し、純粋であり、より安定であることが記載されている(摘記(9a)~(9c))。
キ
引用文献10は、プロセス開発における結晶多形に関する文献であり、同文献には、結晶性製品が、一般に、単離、精製、乾燥するのに、バッチプロセスにおいては取扱い及び製剤化するのに、最も容易であること、多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子を有することが記載されている(摘記(10a)~(10c))。
ク
引用文献11は、フルフェナム酸の非晶質混合物の実用的使用に関する文献であり、同文献には、水中での溶解度が低い薬物の非晶質形態は、その結晶形態よりも一般的に溶解しやすいものの、貯蔵条件によっては非結晶性固体が結晶性になることがあり、このような変化は薬物の製造のためには望ましくないことが記載されている(摘記(11a)~(11c))。
ケ
引用文献12は、医薬品固体の法規制に対する戦略的なアプローチに関連する原薬の多形、水和又は非晶質の形態に関する文献であり、同文献には、原薬の結晶形態の制御が重要であること、原薬について多形及び水和物の存在を調べるのが得策であること、非晶質形態のほうが結晶形態よりも、溶解性は高いが、より広範囲に水を吸収し、しばしば化学的に安定性が低いこと、非晶質形態の意図しない結晶化は、溶解性及び溶解速度に影響し、製剤化における別の障害につながることが記載されている(摘記(12a)~(12c)、(12g))。
コ
引用文献13は、非晶質医薬品の調製と評価に関する文献であり、同文献には、特に難溶性医薬品の場合に、非晶質状態は、水への溶解速度ひいては薬物の吸収性改善が期待できる一方で、分子運動性が高いため安定性が悪いことが記載されている(摘記(13a)、(13b))。
サ
上記ア~コによれば、本願優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において、結晶性の物質が非晶質よりも優れていることから、医薬化合物を結晶化することについて強い動機付けがあり、結晶化の条件を検討したり、結晶多形を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであったと認められる。
そして、ミノサイクリンは、治療上有効とされるテトラサイクリン系抗生物質であり(摘記(1c))、医薬化合物であると認められるから、結晶化することについての強い動機付けがあるといえる。実際、ミノサイクリンと同様にテトラサイクリン系抗生物質であって、ミノサイクリンと化学構造が類似する医薬化合物であるチゲサイクリンについて、非晶質は結晶形態よりも安定性が低いため、様々な結晶形態を製造した例も、既に知られていた(摘記(3a)~(3e))。
そうすると、引用文献1に記載されたミノサイクリン塩基について、その結晶を得るための結晶化の条件を検討したり、得られた結晶について分析を行うことには、当業者において十分な動機付けがあったものと認めることができる。
(2) 形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基を得るための手段について
ア
本願明細書には、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造方法の一般的な説明として、以下の記載がある(下線は合議体が付したものである。以下同じ。)。
「【0010】
別の態様において、多形形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造方法は、非晶質ミノサイクリン塩基を、エステル類から選択される有機溶媒に溶解させること、及び/又は懸濁させること、続いて、該混合物から結晶化させることを含む。
好ましくは、該方法は、非晶質ミノサイクリン塩基を、エステル類から選択される有機溶媒に懸濁させること、該不均一混合物を0℃~30℃、好ましい範囲である10℃~15℃の温度まで冷却すること、及び該反応混合物から形態IIを単離することを含む。
任意の適当なエステルを溶媒として使用してもよいが、酢酸エチルを使用することが好ましい。」
また、本願明細書には、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造実施例として、以下の記載がある。
「【0022】
(実施例3:形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造)
非晶質ミノサイクリン塩基(20g)を、酢酸エチル(160ml)に懸濁させ、生じる不均一混合物を、0℃~30℃、好ましくは10℃~15℃の温度で、約3時間撹拌する。
生成物を濾過し、酢酸エチル(10ml)で洗浄し、真空下、約45℃~50℃で乾燥させ、結晶性ミノサイクリン塩基を得る。
収量:17.4g
HPLC純度:99.5%面積
4-エピミノサイクリン:0.11%面積
融点:187℃
XRPDパターン及び赤外スペクトルを図3及び図4に示す。
【0023】
(実施例4:形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造)
非晶質ミノサイクリン塩基(5g)を、酢酸エチル(40ml)に溶解させ、生じる溶液を、0℃~30℃、好ましくは10℃~15℃の温度で、約3時間撹拌し、その後、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基が沈殿する。
生成物を濾過し、酢酸エチル(5ml)で洗浄し、真空下、約45℃~50℃で乾燥させ、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基を得る。
収量:3.2g
融点:187℃ 」
イ
本願優先日当時、化合物の結晶を得るために、化合物を溶媒に溶解させた溶液とし、冷却し結晶化させ沈殿させる製造方法は、一般的なものであり、いくつか可能性のある結晶多形のいずれが得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性、疎水性)、結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存することも、当業者に広く知られていたうえ、過剰の固体化合物を溶媒とともに冷却し攪拌して結晶を得る方法も、当業者が通常採用する結晶化手法のうちの一つに過ぎないものであった(摘記(10d)、(10e)、(7c)、(8c))。
また、結晶化の際に使用する溶媒として、酢酸エチル等のエステル類は、極めてありふれたものであり(摘記(12d)、(15a)、(15b))、酢酸エチルは、毒性が低くヒトの健康に及ぼすリスクも低い溶媒として当業者に認識されていたものである(摘記(16b))。
ウ
そうすると、非晶質ミノサイクリン塩基を、酢酸エチル等のエステル類に溶解させ、その溶液を冷却し攪拌して結晶化させるという、本願明細書に記載された形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基を得るための方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではないし、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である結晶に過ぎないものというべきである。また、「形態II」とは、他の多形の結晶形態と区別するための単なる呼称又は記号に過ぎず、技術的に何らかの意味のある特定がなされているものとは認められない。
(3) X線粉末回折パターンによる結晶形態の特定について
本願優先日当時、結晶性が期待される医薬化合物を分析するために、X線粉末回折パターンを確認することは、当業者が通常行うことであって(摘記(12e))、得られた結晶に特徴的な主要な複数のピークにより結晶を特定することも、通常行われていたことである(例えば、摘記(3e)、(7c)、(8a)、(9a)を参照)。
そうすると、上記相違点に係る、本願発明において、「3.4、6.8、8.0、10.0、13.0、13.8、14.6、14.9、15.5、16.1、17.6、17.8、18.6、19.5、20.2、20.6、21.9、22.6、23.9、24.2、25.4、26.3、27.1、27.5、28.0及び29.1±0.2°2θにピークを有するX線回折パターンを特徴とする」と特定されていることは、当業者が、得られた結晶について、その分析に通常採用されているX線粉末回折を行った結果に基づき、確認された複数のピークのうちのいくつかを単に示しただけのことに過ぎない。
(4) 相違点についての検討のまとめ
以上によれば、本願発明は、ミノサイクリン塩基の特定の結晶形態(形態II)の発明であるところ、引用文献1に記載された医薬化合物であるミノサイクリン塩基について、結晶形態を得ることを意図し、酢酸エチル等のエステル類に溶解させ、その溶液を冷却し攪拌して結晶化させるという、当業者が通常採用する手法を用いて、諸条件を調整したり得られた結晶について分析したりすることによって得られた結果物である結晶に過ぎないものであるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
5 本願発明の効果について
(1) 本願明細書に記載された本願発明の効果
本願明細書【0001】~【0004】、【0008】~【0010】、【0015】、【0022】~【0023】の記載からみて、本願発明の効果は、「ミノサイクリン塩基を安定な結晶形態で提供できる」こと、及び「全ての不純物、特に、不純物4-エピミノサイクリンは、非常に低いレベルまで制御される」ことであると認められる。
しかしながら、これらの効果については、以下のとおり、当業者が予測し得ないほどの格別顕著な効果であるとはいえない。
(2) 安定性について
上記4(1)サで説示したとおり、本願優先日当時、一般に結晶性の物質が非晶質よりも安定性に優れることは、当業者において技術常識であった。
一方、本願明細書【0004】には、
「驚くべきことに、実際は、ミノサイクリン塩基を安定な結晶形態で提供できることが、本発明によりこれまでに見出された。また、三種の結晶性ミノサイクリン塩基の新たな多形が本発明により見出された。」
なる定性的な説明はあるものの、実際に形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基がどの程度の安定性を有するのかは、本願明細書において、具体的な数値も示されていないし、安定性を確認した試験の方法も結果も、何ら記載されていない。
したがって、本願明細書の記載からは、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基が、安定性の点で、当業者が予測し得る範囲を超える格別顕著な効果を奏したものとは認められない。
(3) 純度について
引用文献10には、結晶性製品は、一般に、単離、精製、乾燥するのに、そして、バッチプロセスにおいては、取扱い及び製剤化するのに、最も容易である旨が記載されている(摘記(10b))。
したがって、一般に、結晶は、非晶質と比較して、容易に精製でき、その結果、優れた純度を有することは、本願優先日前から当業者に周知であったということができる(要すれば、摘記(5b)、(9c)も参照)。
また、結晶の安定性が高いということは、分解や変質による不純物の増加が少ないということであるから、この点においても、非晶質と比較して結晶の純度が高いということは、当業者の技術常識であったといえる。
本願明細書には、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、全ての不純物を制御することで高い純度を有しており、特に4-エピミノサイクリンは、通常は1.2% w/w(塩基の重量に基づく)より下である旨の説明が記載され(【0015】)、実施例3における分析結果は、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基のHPLC純度が99.5%面積で、4-エピミノサイクリンは0.11%面積であったことが記載されているものの(【0022】)、当該純度(不純物の量の少なさ)が、当業者が結晶として通常予測し得る範囲を超える程の格別顕著なものであるとまで認めることはできない。
6 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の概要
請求人(出願人)は、令和2年8月4日提出の意見書、令和3年3月30日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書、及び同年10月29日提出の上申書において、上記意見書を補足するために提出された令和2年8月5日受付の手続補足書に添付された参考資料1~17の一部を参照して、本願発明の進歩性について、概略、次のように主張している。
ア 局所製剤への適用の観点からの動機付け及び効果について
(ア) 局所製剤への適用の観点からの動機付けについて
本願発明の課題は、局所製剤での使用に適した形態のミノサイクリンを提供することである。
ミノサイクリンの局所製剤への適用には、従来のミノサイクリン塩酸塩を有効成分の対象とする製剤開発の実態があり、引用文献3~10、12及び13に非晶質が結晶形より安定性が低いことが開示されているとしても、製剤への適用に際して化合物の未知の形態を形成しようとする明確な動機付けとはなり得ない。
(イ) 局所製剤への適用の観点からの効果の参酌について
本願明細書の【0002】の記載から、当業者であれば、従来使用されるミノサイクリンの塩酸付加塩の形態は、皮膚への適用に刺激性であることを認識するから、本願明細書には、単純に安定なミノサイクリンの結晶形態が望まれることを述べるに留まらず、局所製剤での使用に適した形態のミノサイクリンを提供するという課題が存在することが潜在的に記載されている。
そして、Magrathの宣誓書(参考資料3)に記載されているように、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、臨床試験において丘疹膿疱性酒さに対する有効性が認められているから、本願発明の局所製剤への適用について、有利な効果が参酌されるべきである。
イ 純度が非常に高い効果について
本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、Mendesの宣誓書(参考資料1)に記載されるように、優れた純度(低含有量の不純物)を有する。
また、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、本願発明に係る製造方法(当審注:本願発明3~5の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造方法のことであり、概略、ミノサイクリンの溶液を噴霧乾燥して非晶質ミノサイクリン塩基を形成し、この非晶質ミノサイクリン塩基から形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基を結晶化させる工程を含む方法。)によってのみ製造されるものである。
ミノサイクリンは、高温で容易に分解し、当該分解により不純物を生じること(エピマー化)が知られているから、仮に非晶質の医薬を調製する周知の手段として噴霧乾燥が知られていたとしても、当業者がミノサイクリン塩基に噴霧乾燥技術を適用することには困難性が存在した。それにもかかわらず、本願発明に係る方法により製造された非晶質ミノサイクリン塩基は98%を超える純度を有し、かつ工業規模での生産に有望なものであり、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基は、99%を超える高い純度を有する。
4-エピミノサイクリン(当審注:以下、単に「4-エピ」と表記する)等の分解不純物は、望ましいレベルの薬理活性を示さないから、高純度を有する本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の特性は、薬剤適用の面からも優れた効果として認められるべきである。
ウ 物理的安定性及び化学的安定性について
Mendesの宣誓書(参考資料1)に記載されるように、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基の物理的安定性を示す参考資料9のXRPDデータは、2007年2月と2009年3月の測定値を重ねたものであり、そのピークには大きな変動が生じていないから、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基が2年もの貯蔵の間、顕著な分解を生じることなく維持されたことを示している。
一方、化学的安定性については、Mendesの宣誓書(参考資料1)に記載されるように、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基は、公知のミノサイクリン塩酸塩の結晶よりも化学的に安定なものであり、これは、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基の含水量が無視できるほど(0.06~0.08%)であったのに対して、公知のミノサイクリン塩酸塩の結晶の含水量はこれよりも多い(4.3~8.0%)ことによる。
このことは、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基が、公知の塩形態よりも長い期間に渡って、薬理活性成分の分解を生ずることもなく貯蔵することができることを意味する。
仮に、非晶質よりも結晶が安定であるという周知事項から本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基の物理的安定性が予測できるものであったとしても、本願発明の結晶性ミノサイクリン塩基が、従来のミノサイクリン塩酸塩の結晶よりも化学的に安定であることは、従来技術から何ら予測することはできないものである。
(2) 請求人の主張についての当審の判断
請求人(出願人)の上記(1)の主張については、以下のとおり、いずれも理由がないものであり、採用の限りではない。
ア 局所製剤への適用の観点からの動機付け及び効果について
(ア) 局所製剤への適用の観点からの動機付けについて
本願明細書には、ざ瘡及び酒さの治療にミノサイクリンが用いられてきたことは記載されているが(【0002】)、ざ瘡や酒さの治療薬には局所製剤のほか経口薬も知られていたところ、ミノサイクリンの局所製剤での使用に関して本願明細書には明示的な記載はなされていないうえ、仮に、ミノサイクリンの局所製剤への適用には、従来のミノサイクリン塩酸塩を有効成分とする製剤開発の実態があったとしても、医薬化合物であるミノサイクリン塩基自体について、局所製剤の態様に限らず、安定性等の性質がより優れた結晶形態を得ようという強い動機付けが存在したことが否定されるものではない。
(イ) 局所製剤への適用の観点からの効果の参酌について
本願明細書には、ミノサイクリンを局所製剤として使用した際の問題点に関し何ら明示的に記載されていないし、仮に、ざ瘡及び酒さの治療において局所製剤を用いる場合もあることが本願優先日当時の技術常識であったとしても、上記【0002】の記載からは、ミノサイクリンが局所製剤としても使用されていた可能性があると理解できるに留まり、請求人が主張するような、従来のミノサイクリン塩酸塩を局所製剤として使用した際に皮膚への刺激性があるなどの問題が生じていたことまで、当業者が認識することは不可能である。
したがって、請求人が提示したMagrathの宣誓書(参考資料3)において説明されている丘疹膿疱性酒さについての臨床試験の内容は、本願明細書の記載に根拠を有するものでないから、参酌することはできない。
しかも、同宣誓で引用され、参考資料5として提出された、「丘疹膿疱性酒さを有する患者における1%及び3%局所的ミノサイクリンゲルの安全性及び有効性を評価するための多施設ランダム二重盲検並行群間溶媒対照群第2相試験」と題されたジャーナル記事には、治験薬が単に「ミノサイクリン」と記載されているに留まり、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基が臨床試験に用いられたことは確認できないため、上記宣誓書における、「上記のジャーナル記事に記載された試験で使用された局所的ミノサイクリンゲルが、本件出願に開示され請求された1%又は3%の新規の結晶性ミノサイクリン塩基形態IIを含むことを宣誓する。」との記載を考慮しても、請求人が主張する結晶性ミノサイクリン塩基形態IIの局所製剤における効果が、実際の臨床試験によって裏付けられたものであると認めることはできない。
イ 純度が非常に高い効果について
Mendesの宣誓書(参考資料1)に示された測定データによれば、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の純度と4-エピの含有量(99.45%、0.06%)は、従来技術の非晶質ミノサイクリン塩基のそれら(96.06%、1.65%)と比較して優れていることは認められるが、上記5(3)でも説示したように、非晶質と比較して結晶の純度が高いことは、本願優先日当時の技術常識であったといえるから、当該純度(不純物の量の少なさ)が、当業者が結晶として通常予測し得る範囲を超える程の格別顕著なものであるとまで認めることはできない。
また、上記4(2)アに示したとおり、本願明細書における形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造方法の一般的な説明及び製造実施例の記載では、出発化合物は、単に「非晶質ミノサイクリン塩基」と表記されており、当該化合物が噴霧乾燥によって形成されたものとは認められず、本願明細書の記載全体をみても、本願発明の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基が、噴霧乾燥の工程を経る、本願発明3~5の形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の製造方法によってのみ製造されるものと認めるに足る根拠は見出せない。
なお、噴霧乾燥は、非晶質形態の医薬化合物を製造するための周知の手段の一つであって(摘記(11c)、(13c))、熱に不安定な物質でも容易に処理できることも技術常識である(摘記(14b))。
ウ 物理的安定性及び化学的安定性について
上記5(2)で説示したように、本願明細書には、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基の安定性について、定性的な説明はあるものの、実際にどの程度の安定性を有するのかは、具体的な数値も示されていないし、安定性を確認した試験の方法も結果も、何ら記載されておらず、形態IIの結晶性ミノサイクリン塩基が、従来のミノサイクリン塩酸塩の結晶よりも安定であることを示唆するような記載も認められないから、請求人(出願人)が提出した参考資料1及び参考資料9等に示された試験結果を参酌することはできない。
なお、一般に非晶質よりも結晶が安定であることが本願優先日当時の技術常識であることは、上記5(2)で述べたとおりである。
7 当審の判断のまとめ
上記1~6によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術に基いて、本願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明である本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-000554