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特許拒絶査定不服審判

2024-010694

接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材

審判番号
2024-010694
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-553938
請求日
2024年06月27日
審決日
2026年01月14日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】東亞合成株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 関根 裕
  • 審判官 山田 貴之
  • 審判官 渡辺 陽子
分類
P18 .113-Z (C09J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2020-553938「接着剤組成物及びそれを用いた熱融着性部材」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月 7日国際公開、WO2020/090818〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2019年(令和元年)10月29日(優先権主張 平成30年10月29日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は,概略以下のとおりである。 令和5年 5月24日付け 拒絶理由通知書 同年 7月24日 意見書・手続補正書の提出 同年10月 6日付け 拒絶理由通知書 令和6年 1月11日 意見書・手続補正書の提出 同年 3月27日付け 拒絶査定(以下「原査定」という。) 同年 6月27日 審判請求書・手続補正書の提出 第2 令和6年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年6月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「有機溶剤、前記有機溶剤に溶解する酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、ただし、ポリオレフィン(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されているポリオレフィンではない、及び、架橋剤を含有し、 ポリオレフィン(A)における前記酸無水物基の無水環の開環率が、0~10%であり、 前記架橋剤が、多官能イソシアネート化合物である接着剤組成物。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和6年1月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「有機溶剤、前記有機溶剤に溶解する酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、及び、架橋剤を含有し、 ポリオレフィン(A)における前記酸無水物基の無水環の開環率が、0~10%であり、 前記架橋剤が、多官能イソシアネート化合物である接着剤組成物。」 2 補正の適否 本件補正後の請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ポリオレフィン(A)」について、「ただし、ポリオレフィン(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフと変性されているポリオレフィンではない」との限定を付加するものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2) 引用文献及びその記載事項 引用文献1:特開2015-36385号公報(原査定の引用文献1) 原査定の拒絶の理由で引用され本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、次の記載がある。 下線は当審が付した。 「【請求項1】 カルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)と、多官能イソシアネート硬化剤(B)と、溶剤(C)とを含有する接着剤組成物であって、 前記ポリオレフィン樹脂(A)のガラス転移温度が-30~10℃であり、融点が60~110℃であり、融解エネルギーが15~50(mJ/mg)であることを特徴とする接着剤組成物。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、リチウムイオン電池などの非水電解質二次電池の電池容器形成用の積層体に好適に使用できる接着剤組成物に関する。また、本発明は、金属箔層と熱融着性フィルムとを前記接着剤組成物を用いて積層した電池用包装材に関する。さらに本発明は、前記熱融着性フィルムが内面となるように前記電池用包装材を加工してなる電池用容器、および前記電池用容器を用いてなる電池に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 特許文献1には、60℃の混合溶剤に浸漬したり、パウチに60℃のフッ酸の溶液を封入したりしても、接着力をある程度維持できる旨、記載されている。 しかし、もっと高温環境下に曝しても、接着力を維持できる接着剤の開発が望まれた。」 「【0019】 本発明で使用されるカルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)(以下、ポリオレフィン樹脂(A)と略すこともある。)について説明する。 本発明で使用されるポリオレフィン樹脂(A)は、カルボキシル基もしくは酸無水物基と、後述の多官能イソシアネート硬化剤(B)中のイソシアネート基とを反応させることにより強固な架橋構造を形成し、金属基材への接着強度と電解液への耐久性に優れた接着剤を得ることができる。・・・ 【0024】 本発明におけるポリオレフィン樹脂(A)は、カルボキシル基または酸無水物基を有していればよく、例えば、カルボキシル基または酸無水物基を有していないポリオレフィン(A1)にエチレン性不飽和カルボキシル基またはその酸無水物をグラフト重合させた変性ポリオレフィン樹脂や、オレフィンモノマーとエチレン性不飽和カルボン酸またはその酸無水物との共重合体等が挙げられる。また、酸無水物基を有するポリオレフィンの酸無水物基と、水やアルコールと反応させることによりカルボキシル基を有するポリオレフィンを得ることもできる。 ・・・ 【0026】 オレフィンモノマー同士の共重合体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテンの共重合体が好ましく、エチレンとプロピレンとの二元共重合体、エチレンと1-ブテンとの二元共重合体、プロピレンと1-ブテンとの二元共重合体、エチレンとプロピレンと1-ブテンとの三元共重合体が挙げられ、プロピレンと1-ブテンとの二元共重合体がより好ましい。共重合比は、プロピレン:ブテン=10:90~80:20(モル比)であることが好ましく、30:70~60:40(モル比)であることがより好ましい。プロピレンと1-ブテンの共重合体において、プロピレンが10モル%未満の場合はTgが-30より低い場合があり、80モル%より多い場合は融点が110℃より高くなる場合がある。」 「【0039】 次に本発明で使用される溶剤(C)について説明する。 本発明の接着剤組成物において使用できる溶剤(C)は、単独もしくは混合溶剤として本接着剤で使用する材料を溶解でき、多官能イソシアネート硬化剤(B)との反応性が不活性であり、接着剤塗工時の乾燥工程における過熱により揮発させて除去できるものであれば特に限定されない。これらの溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒 ・・・ 【0041】 本発明の接着剤組成物は、金属箔と熱融着性フィルムとの積層に好適に使用される。 金属箔の金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。これらの金属箔は、各種表面処理を施したものであっても良い。表面処理の例としては、例えば、サンドブラスト処理、研磨処理などの物理的処理や蒸着による脱脂処理、エッチング処理、カップリング剤やコーティング剤を塗布するプライマー処理などの化学処理がある。 熱融着性フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられ、特に未延伸のフィルムが好適に用いられる。」 「【0046】 電解質溶液は、熱融着性フィルムから金属箔に向かって浸透し始めるが、本発明の接着剤組成物から形成された接着剤層は、電解質溶液に対する耐性に優れているので、熱融着性フィルムと金属箔との間の接着強度は低下せず、液漏れ等の問題が発生しない。 【実施例】 【0047】 以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。なお、実施例中、%は重量%を、部は重量部を示す。 <カルボキシル基の定量> 秤量した試料x1(g)を還流させたキシレン中に溶解させ、室温まで冷却後、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1Mのエタノール性水酸化カリウムを用いて滴定することにより定量を行った。指示薬の呈色が10秒間残留した時を滴定の終点とした。滴定量をx2(ml)とすると、以下の式からXを求めることができる。 X=0.1×x2/x1 <酸無水物基の定量> 秤量した試料y1(g)を還流させたキシレン中に溶解させ、室温まで冷却後、試料の酸無水物基の当量以上のオクチルアミンy2(mmol)を添加した。残存するオクチルアミンを、0.1Mエタノール性過塩素酸を用いて滴定することにより定量を行った。滴定量をy3(ml)とすると、以下の式からYを求めることができる。 Y=(0.1×y3-y2)/y1 ・・・ 【0050】 <合成例1> 窒素置換した内容積500mLのガラス製オートクレーブに精製トルエン250mL、メチルアルミノキサンをAl原子換算で0.5mg、ジメチルシリル-ビス-(4,5,6,7,8-ペンタヒドロアズレン-2-イル)ジルコニウムジクロライドをZr原子換算で1.25μg原子を投入し、40℃に昇温した。続いてエチレンとプロピレンを、それぞれ50L/hr、40L/hrの一定速度で供給しながら、40℃で1.32MPaの一定圧力を維持するように1-ブテンモノマーを連続供給し、重合を開始した。40℃、8時間、重合を行った後、イソプロパノールを添加して重合を停止した。得られたポリマー溶液を、多量のメタノールに添加し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーをろ過、乾燥することにより、エチレン/プロピレン/1-ブテン=46/33/15(モル比)で共重合されたポリオレフィンを得た。 得られたポリオレフィン20gと、セロソルブアセテート20gとを仕込み、窒素気流下、加熱溶解させ、溶液温度の110℃にした。無水マレイン酸4g、ラウリルメタクリレート2gおよび過酸化ベンゾイル0.6gをセロソルブアセテート239.4gに溶解したものを2時間かけて滴下した。滴下終了後さらに1時間その温度で反応を続けた。得られたポリマー溶液を、多量のメタノールに添加し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーをろ過、乾燥することにより、酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A1)を得た。 ポリオレフィン樹脂(A1)のTg、融点、ΔEは、それぞれ5℃、103℃、45mJ/mgであった。 【0051】 <合成例2~4、6~12> 表1に示す混合ガスの流量比、グラフト重合時のモノマー添加量以外は、合成例1と同様にして酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A2)~(A4)、(A6)~(A12)を得た。 【0052】 <合成例5> 表1に示す混合ガスの流量比、グラフト重合時のモノマー添加量以外は、合成例1と同様にして酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂を得た。得られたポリオレフィン樹脂を、85℃、85%RHの環境下に3日間保存することにより、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(A5)を得た。 【0053】 【表1】 [図:0001433615000001.jpg] LMA:ラウリルメタクリレート St:スチレン 【0054】 <実施例1> ポリオレフィン(A1)15部をキシレン113.3部に加熱溶解した。そこデュラネート24A-100(旭化成ケミカルズ株式会社社製、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系ビウレット)を5部添加して攪拌することで、固形分15%の接着剤溶液を得た。 【0055】 厚み50μmのアルミニウム箔の片面に、前記接着剤溶液をバーコーターにて塗布し、100℃、1分間乾燥し、約2g/m2の接着剤層を得た。次いで、前記接着剤層に厚み30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(以下CPPと呼ぶ)を重ね合わせ、60℃に設定した2つのロール間を通過させ、積層体を得た。その後、得られた積層体を40℃で5日間の硬化(エージング)を行った。こうして、得られたアルミニウム箔/CPPラミネートフィルムを、以下「Al/CPP積層フィルム」と呼ぶ。 ・・・ 【0062】 <実施例2~12><比較例1~7> 接着剤の組成を表2に示す組成とした以外は、実施例1と同様にしてAl/CPP積層フィルムを作製し、評価した。結果を表2に示す。 【0063】 【表2】 [図:0001433615000002.jpg] 【0064】 表2中の記号は以下の通り。 デュラネート24A-100(旭化成ケミカルズ株式会社社製、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系ビウレット、NCO含有量:23.5% デュラネートTPA-100:旭化成ケミカルズ株式会社社製、HDI系イソシアヌレート、NCO含有量:23.1% デスモジュールXP2580:住化バイエルウレタン株式会社社製、HDI系アロファネート、NCO含有量:20% デュラネートTSE-100:旭化成ケミカルズ株式会社社製、弱溶剤可溶型HDI系イソシアヌレート、NCO含有量:12% デュラネートD101:旭化成ケミカルズ株式会社社製、HDI系イソシアヌレートの2官能プレポリマー、NCO含有量:19.7% デスモジュールN3400:住化バイエルウレタン株式会社社製、HDI系ウレトジオン、NCO含有量:21.8% デスモジュールZ4470 MPA/X:住化バイエルウレタン株式会社社製、イソホロンジイソシアネート系イソシアヌレート(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/キシレン=1/1溶液、固形分70%、NCO含有量:11.9% 【0065】 表2の実施例1~14に示すように、保存安定性、接着強度(初期及び電解液浸漬後)、熱融着性が良好な接着剤を提供することができる。」 (3) 引用文献1に記載された発明 引用文献1の表2(【0063】)の実施例14の「接着剤溶液」に基づき、表1(【0053】)の合成例8の「ポリオレフィン樹脂(A8)」に関連する【0050】の合成例1の記載、酸無水物の定量に関連する【0047】の記載、多官能イソシアネート(B)に関連する【0064】の記載を参酌すれば、引用文献1には、次の発明(引用発明)が記載されていると認められる。 (引用発明) 「ポリオレフィン樹脂(A)としてポリオレフィン樹脂(A8)を15重量部と、多官能イソシアネート(B)としてデスモジュールZ4470 MPA/Xを10重量部と、溶剤(C)としてメチルシクロヘキサンを121.7重量部とを含有する、固形分15%の接着剤溶液であって、 ポリオレフィン樹脂(A8)は、プロピレン/1-ブテン=38/60(モル比)で共重合されたポリオレフィン20gと、セロソルブアセテート20gとを仕込み、無水マレイン酸2gおよび過酸化ベンゾイル0.6gをセロソルブアセテート239.4gに溶解したものを滴下して得られたポリマー溶液からポリマーを析出させて得た、プロピレン/1-ブテン共重合体に無水マレイン酸がグラフト重合した、酸無水物基量(Y)が0.20mmolであり、カルボキシル基量(X)とした場合のX+2Yが0.41mmolであるポリオレフィン樹脂(A8)であり、 デスモジュールZ4470 MPA/Xは、住化バイエルウレタン株式会社製、イソホロンジイソシアネート系イソシアヌレート(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/キシレン=1/1溶液、固形分70%、NCO含有量:11.9%である、接着剤溶液。」 (4) 対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「溶剤(C)としてメチルシクロヘキサン」は本件補正発明の「有機溶剤」に相当する。 引用発明の「プロピレン/1-ブテン共重合体に無水マレイン酸がグラフト重合した、酸無水物基量(Y)が0.20mmolであるポリオレフィン樹脂(A8)」は、酸無水物基を有し、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されておらず、引用文献1の【0039】の記載「溶剤(C)は接着剤組成物の成分を溶解できる」との記載も考慮すれば、本件補正発明の「前記有機溶剤に溶解する酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、ただし、ポリオレフィン(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されているポリオレフィンではない」に相当する。 引用発明の「デスモジュールZ4470 MPA/X」「住化バイエルウレタン株式会社社製、イソホロンジイソシアネート系イソシアヌレート(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/キシレン=1/1溶液、固形分70%、NCO含有量:11.9%」である「多官能イソシアネートB」は、本件補正発明の「架橋剤」及び「多官能イソシアネート化合物である架橋剤」に相当する。 また、引用発明の「接着剤溶液」は、本件補正発明の「接着剤組成物」に相当する。 そうすると、本件補正発明と引用発明は次の点(一致点)で共通し(一致点)、次の点(相違点1)で相違する。 <一致点> 「有機溶剤、前記有機溶剤に溶解する酸無水物基を有するポリオレフィン(A)、ただし、ポリオレフィン(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されているポリオレフィンではない、及び、架橋剤を含有し、前記架橋剤が、多官能イソシアネート化合物である接着剤組成物。」 <相違点1> 本件補正発明では「ポリオレフィン(A)における前記酸無水物基の無水環の開環率が、0~10%であ」ると規定しているのに対し、引用発明では開環率についての明示的な記載はない点。 (5) 判断 相違点1について検討する。 本件補正発明の開環率は、本件明細書の【0163】~【0168】に記載されているとおり、酸無水物基の量に対応する波数1786cm-1の吸光度について、測定対象の酸無水物基を全て閉環させた場合の酸無水物基の総量に対する規格値Xと、測定対象の酸無水物基の一部が開環した状態の酸無水物基の量に対応する規格値Yを用いて、開環率[%]=(X-Y)/X×100の式により算出したものである。そうすると、本件補正発明の開環率は、概略、酸無水物基の総量に対する開環した酸無水物基の比率を意味するものと認められる。 これに対して、引用発明における、酸無水物基の総量に対する開環した酸無水物基の比率を計算すると、引用発明において、カルボキシル基量(X)は0mmolと考えられるから、引用発明の開環率は0%である。 すなわち、引用発明を認定した引用文献1の【0053】の【表1】において、「合成例8」の「ポリオレフィン樹脂(A8)」のカルボキシル基量(X)は空欄、酸無水物基量(Y)は0.20mmolであるのに対して、X+2Yは0.41mmolとなっているが、これは、例えばX+2Y=0+2×0.204=0.408≒0.41のように、有効数字の関係で計算上0.41mmolとなっただけで、カルボキシル基量(X)は0mmolであり、酸無水物の開環率は0%であると考えるのが妥当である。 仮に、X+2Yの値が実際に0.410で、Yの値が0.200であったとしても、カルボキシ基量(X)は0.410-0.200×2=0.010mmolであり、酸無水物の開環率0~10%((0.01÷/2)/0.20×100=2.5%)である。 したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 さらに、引用文献1の【0024】には、酸無水物基を有するポリオレフィンの酸無水物基と、水やアルコールと反応させることによりカルボキシル基を有するポリオレフィンを得る、と記載されるように、酸無水物基は水やアルコールと反応させることによりカルボキシル基を有するようになるものであって、実際、同【0052】の合成例5では、酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂を85℃、85%RHの環境下に3日間保存することにより、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(A5)を得ている。一方、引用発明を認定した合成例8では、そのような工程は行っていないし、多量のメタノールにより析出したポリマーをろ過、乾燥しているのであるから、こうして得られた酸無水物基の開環率は0%か、多くても0~10%であると認められる。 (6) 審判請求人の主張 請求人は、審判請求書及び令和6年1月11日付け意見書において、次のような趣旨の主張をしている。 「水を使用しなくても、酸変性ポリオレフィンは製造直後にすぐに使用しないと吸湿により開環する傾向にあります。開環した酸変性ポリオレフィンを閉環させるには、例えば加熱等の処理を行うことが必要となります。このことは、本願の実施例2-1及び2-4に示されています。具体的には、加熱による乾燥工程を行っていない実施例2-1では、製造後の時点で開環率が10.7%となっています。これに対して、加熱による乾燥工程を行っている実施例2-4では開環率が0%です。これらの開環率の違いは、加熱乾燥による閉環処理の有無にあると言えます。」 「引用文献1の合成例5では酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂を85℃、85%RHの環境下に3日間保存することによりカルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂を得ています。わずか3日間で全ての酸無水物基が開環していることになり、開環の速度が速いことが理解されます。このことから、製造後に大気中に置いておくだけでも開環が進行し、実際に使用する際には10%以上の開環率となっている可能性が極めて高いものと思料致します。また、合成例1~4、6~9でも、得られた酸変性ポリオレフィンを実際に配合するまでに吸湿を回避する処置は特に記載されておらず、ある程度開環が進んでいると推測され、加熱乾燥による閉環も行っていないことから、同様に開環率が10%以上であろうと当業者は推測します。 これに対して、本願発明に包含される実施例2-4では接着剤組成物を使用する直前に改めて酸変性ポリオレフィンを加熱乾燥による閉環処理を行っております。これにより開環率を10%以下に制御し、且つ、架橋剤として多官能イソシアネートを含むことで、液安定性、剥離強度、電解液耐性を改善しています。このことは実施例2-1~2-3及び2-5~2-6との比較により明らかです。このような効果は引用文献1には記載も示唆もされておらず、引用文献1からは全く予想することはできません。」 「文献1はカルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂を用いることから、そもそもカルボン酸でも酸無水物でもどちらでもよく、開環率を0~10%に制御することに着眼しておりませんし、加熱乾燥等による閉環処理により0~10%に制御するという思想もございません。引用文献1の実施例においても、カルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂、酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂の両方を使用した例が開示されていますが、両者とも結果に大きな差異は見られておりません。実施例5では酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A4)を使用し、実施例9ではA4と同程度の含有量のカルボキシル基を有するポリオレフィン樹脂(A5)を使用していますが、保存安定性、接着強度、熱融着性いずれにおいても同様の結果を示しています。 一方で、本願明細書の表4(実施例2-1~2-6及び比較例2-1)では開環率の差異により液安定性、剥離強度、電解液耐性に明確な差異が出ており、明らかに傾向が異なっています。これは開環率に着目していない引用文献1では見られない傾向です。」 (7) 当審の判断について ア 請求人は「酸変性ポリオレフィンは製造直後にすぐに使用しないと吸湿により開環する」ので使用する直前に乾燥による閉環処理を行うことが必要であるところ、そのような処理をおこなっていない引用文献1に記載の酸変性ポリオレフィン樹脂(合成例1~4、6~8)は開環率が10%超えであるとの主張について、本件の実施例2-1、2-4及び引用文献1の合成例5を根拠にしている。 イ 本件の実施例2-1(開環率10.7%)は、本件明細書【0178】の記載によると、酸変性例1で得られ乾燥工程を入れないままの酸変性ポリマーを配合に用いたものであり、酸変性例1は【0177】によると「プロペンと1-ブテンとの共重合体(三井化学(株)製タフマーXM7070)1000g、無水マレイン酸75g、過酸化物(日油製パーブチルE)63gを混合し、最高温度190℃に設定した二軸混練押出機((株)日本製鋼所製TEX25αIII)で混練して変性した。これを濃度10%でトルエンに溶解し、この溶液をアセトンに加えて再沈殿させて精製した。これを150℃で2時間真空乾燥し、酸価を測定した…」というものである。したがって、本件の実施例2-1(開環率10.7%)と酸変性例1との差異は、変性後、トルエンに溶解し、この溶液をアセトンに加えて再沈殿させて精製した後に真空乾燥を行っているか否かである。一方、引用発明では上記したように、無水マレイン酸で変性したポリマー溶液に、多量のメタノールを添加し、析出したポリマーをろ過、乾燥したものであるから、本願実施例2-1とは製造条件が異なり、むしろ乾燥を行っている【0177】の酸変性例1を用いた実施例2-4と略同等といえるものである。 ウ 本件の実施例2-4には、再度加熱乾燥するまでの保存時間や加熱乾燥直前の開環率は明示されていないため、実施例2-4の記載をもって、製造後すぐ使用しない場合、使用直前に改めて乾燥処理しないと開環率を10%以下に調整できないことが明らかとはいえない。 エ ポリオレフィン樹脂A8は酸無水物基量(Y)の欄は記載されているものの、カルボキシル基(X)は空欄であることからすると、引用発明においてポリオレフィン樹脂A8が開環することは意図されていない。 オ また、引用文献1の合成例5では、85℃、85%RHの環境下にポリマーを曝して3日間保存して開環を行っているが、単に大気中に保存することとは著しく異なる過酷な条件であり、当該記載をもって引用発明のポリオレフィン(A)における酸無水物の無水環の開環率が10%を超えることが明らかともいえない。 カ また、本件明細書【0110】には「酸無水物基の無水環の開環には、水、アルコール、グリコールエーテル等を用いることが可能である。」と記載されており、また、同明細書【0152】【0159】には、実施例の接着剤組成物の調整において「コンデンサー及び攪拌機が付設された内容積300mLのフラスコに、下記表2に示す(A)成分及び有機溶剤を仕込み、60℃で30分間撹拌して(A)成分を溶解した後、所定量の水、エタノール、又はグリコールエーテルを添加して60℃でさらに8時間攪拌した。室温まで冷却した後、この溶液に、硬化触媒を添加して十分に混合し、液状の樹脂組成物を得た。次いで、前記樹脂組成物に対し、表2に示すイソシアネート化合物(B)成分、(C)成分を表2に示す割合で配合して混合し、接着剤組成物を得た。」 「【0159】 【表2】 [図:0001433615000003.jpg] 」と記載され、表2に開示されている全ての実施例において、水の存在下60℃8時間加熱攪拌を行い、少なくとも5%以上開環させることが開示されていることからすると、これらの記載から、開環するには水やアルコールの存在下加熱開環する必要があることが記載されていると解され、「酸変性ポリオレフィンは製造直後にすぐに使用しないと吸湿により開環する」ことや開環率を0~10%にするには「使用する直前に乾燥による閉環処理を行うことが必要である」ことについて記載も示唆もないし、それが技術常識を参酌しても自明であるとはいえない。 キ 「文献1はカルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂を用いることから、そもそもカルボン酸でも酸無水物でもどちらでもよく、開環率を0~10%に制御することに着眼しておりませんし、加熱乾燥等による閉環処理により0~10%に制御するという思想もございません。・・・」との主張について、本件補正発明は「接着剤組成物」という物の発明であって、方法として、加熱乾燥等の閉環処理が特定されたものではなく、また、製造から使用までの経過時間が特定されたものでもない。引用発明は、上記したように酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂の製造条件等の記載からみて、引用発明のポリオレフィン樹脂の開環率は0~10%であると認められるから、接着剤組成物としては差異があるとはいえない。 ク なお、引用発明において、仮にポリオレフィン樹脂A8を使用するまでに保存する期間がある場合であっても、当業者であれば接着剤組成物に使用する成分を密閉容器に入れず、空気にさらした状態で長時間放置するということは行わないし、使用時にも酸無水物基が保持されているために、保存する際には開環が起こらないように適宜保存条件、保存期間を調整することは当業者が当然なし得る事項であるし、そうすることにより直前に乾燥を行わなくても、自ずと開環率0~10%は満たされると認められる。 よって、請求人の主張は採用できない。 (8)小括 したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和6年1月11日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1~12に係る発明のうち、請求項1に係る発明((以下、それを、「本願発明」などという。)は、前記第2の1(2)に示したとおりのものである。 2 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「令和5年10月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、及び2」であり、要するに、この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載されているから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、という理由を含むものである。 そして、該拒絶の理由において引用された引用文献は次のとおりである。 <引用文献等一覧> 1.特開2015-36385号公報 3 引用文献の記載及び引用発明等 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1は、前記第2の2(2)で提示した引用文献1であって、その記載事項は、前記第2の2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2の1(1)に記載した本件補正発明から「ただし、ポリオレフィン(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルでグラフト変性されているポリオレフィンではない」との限定を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2~3に記載したとおりのものであるから、本願発明も同様の理由により、引用文献1に記載された発明である。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-010694

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