特許拒絶査定不服審判
2023-013914
埋込可能なグルコースモニタ
- 審判番号
- 2023-013914
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-527929外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年08月18日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-WZ (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-527929「埋込可能なグルコースモニタ」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月31日国際公開、WO2019/101612、令和 3年 2月15日国内公表、特表2021-503982〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)11月15日(パリ条約による優先権主張 2017年11月21日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 9月 7日付け:拒絶理由通知
令和 5年 3月 9日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 4月 5日付け:拒絶査定
同年 8月18日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年 9月27日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
令和 6年 9月10日付け:拒絶理由通知
令和 7年 3月12日 :意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和7年3月12日提出の手続補正によって補正された特許請求の範囲における請求項1~13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
埋め込まれたときに体液のグルコース濃度を測定するための埋込可能デバイスであって:
直線偏光を該埋込可能デバイスのハウジングの外側へ放射するように構成された第1の直線偏光光源;および
該直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光を検出するように、かつ検出された直線偏光に基づく第1の電気信号を出力するように構成された直線偏光センサ;
を含むグルコース測定ユニットと;
無線で外部無線通信デバイスと通信するように構成された無線通信モジュールと;
を含むハウジングを含み:
ここで、無線通信モジュールは、第1の電気信号に基づく信号を外部無線通信デバイスへ無線で送信するように構成され、直線偏光センサは、直線偏光フィルタおよび第1の光学センサを含み、直線偏光フィルタは、第1の直線偏光光源から光透過部を通って戻った光を直線偏光するように構成され、第1の光学センサは、直線偏光フィルタによって直線偏光された検出光に基づく第1の電気信号を出力するように構成され、
直線偏光フィルタは、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光が、第1の直線偏光子、カ-セル、第2の直線偏光子の順に通過してから、第1の光学センサによって検出されるように配置された、カーセル、第1の直線偏光子と第2の直線偏光子を含む、
前記埋込可能デバイス。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。
1 理由1(進歩性)
この出願の請求項1~13に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1~13
・引用文献1~5
請求項1~13に係る発明は、当業者が引用文献1に記載された発明、及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて容易に発明をすることができたものである。
<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2004/0011671号明細書
2.独国特許出願公開第102012014553号明細書
3.特開2013-126509号公報
4.米国特許出願公開第2002/0016535号明細書
5.特表2013-509944号公報
2 理由2(実施可能要件)
請求項1には、「直線偏光フィルタは、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光が、カーセル、次いで直線偏光子を通過してから第1の光学センサによって検出されるように配置されたカーセルと直線偏光子を含む」と記載されているのみであるから、請求項1に係る発明には、さらに「第1の直線偏光子44」を含む発明が含まれている。
本願の発明の詳細な説明に記載された「埋込可能デバイス」は、「光源33」、「直線偏光子34」、「体液」、「第1の直線偏光子44」、「カーセル40」、「第2の直線偏光子45」、「光学センサ37」の順に配置されているものであり、上記配置では、「カーセル40」は、「第1の直線偏光子44」と「第2の直線偏光子45」とに挟まれているため、「第1の直線偏光子44」を透過した光の減衰量を制御できるだけであって、「体液による旋光に起因して直線偏光光源32から放射される光がこうむる回転の支配的な回転角を示す」「光強度のピーク値」を見いだすことはできないし、「体液中のグルコース濃度の関数になる」「直線偏光光源32によってハウジング10の外側へ放射された直線偏光が受けた旋光の量を決定する」ことはできない。この出願の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明において、さらに「第1の直線偏光子44」を含む発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 理由3(委任省令要件)
請求項1に係る発明には、さらに「第1の直線偏光子44」を含む発明が含まれている。
また、本願の発明の詳細な説明には、「第1の直線偏光子44」を含まない発明は記載されていない。
しかるところ、「第1の直線偏光子44」、「カーセル40」、「第2の直線偏光子45」を含むことの、発明の技術上の意義が理解できない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の拒絶の理由
1 理由1(サポート要件)
請求項1に「直線偏光フィルタは、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光が、カーセル、次いで直線偏光子を通過してから第1の光学センサによって検出されるように配置されたカーセルと直線偏光子を含む」と記載されている。しかし、発明の詳細な説明には、「カーセル」、「直線偏光子」の2つのみを順に並べた直線偏光フィルタの態様は記載されておらず、「直線偏光子44」、「カーセル40」、「直線偏光子45」の順で並べた「直線偏光フィルタ38」が記載されている。請求項1の上記記載で特定される「カーセル」、「直線偏光子」の2つを順に並べた直線偏光フィルタと、発明の詳細な説明に記載されている「直線偏光子」、「カーセル」、「直線偏光子」の3つを順に並べた直線偏光フィルタでは、光学的な機能が異なるものであるから、「直線偏光子」、「カーセル」、「直線偏光子」の3つを順に並べた直線偏光フィルタの記載をもって、「カーセル」、「直線偏光子」の2つを順に並べた直線偏光フィルタが記載されているとは認められない。
よって、上記記載を特定事項とする請求項1に係る発明および請求項1を引用する請求項2~13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないので、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由2(明確性)
請求項4に「グルコース測定ユニットはさらに、第2の光学センサおよび追加の直線偏光子を含み、該追加の直線偏光子は、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った光を直線偏光するように構成され、第2の光学センサは、追加の直線偏光子によって直線偏光された光を検出するように、かつ追加の直線偏光子によって直線偏光された検出光に基づく第2の電気信号を出力するように構成され」と記載されている。
上記記載は、「追加の直線偏光子」と光路上の他の光学要素との偏光特性の関係(特に、直線偏光光源の偏光面の角度および前記「追加の直線偏光子」の偏光面の角度との関係)が特定されていないため、段落0096に記載されているような参照チャンネルとしての役割を、上記「追加の直線偏光素子」および「第2の光学センサ」が担わない態様を含んでおり、上記記載で特定される構成の技術的な意義を明確に把握することができない。請求項5の記載についても同様である。
よって、請求項4、5に係る発明および請求項4または5を引用する請求項6~13に係る発明は明確でないので、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3 留意事項
理由1において言及した、上記発明の詳細な説明に記載された「・・・3つを順に並べた直線偏光フィルタ」との態様については、令和4年9月7日付け拒絶理由通知書における理由2に係る拒絶の理由が存在することに留意されたい。
第5 当審の判断(原査定の拒絶の理由の理由2(実施可能要件))
1 本願発明の特定事項
本願発明は「直線偏光フィルタは、第1の直線偏光光源から光透過部を通って戻った光を直線偏光するように構成され、第1の光学センサは、直線偏光フィルタによって直線偏光された検出光に基づく第1の電気信号を出力するように構成され、
直線偏光フィルタは、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光が、第1の直線偏光子、カ-セル、第2の直線偏光子の順に通過してから、第1の光学センサによって検出されるように配置された、カーセル、第1の直線偏光子と第2の直線偏光子を含む、」という特定事項を具備する。
2 発明の詳細な説明及び図面の記載
本願発明の上記特定事項に関連する記載として、発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載が存在する。
「【0063】
図3に示されているように、直線偏光光源32は、光源33および直線偏光子34を含み得る。光源33から放射された光は最初、非偏光として放射されてから(すなわち、光は複数の方向に偏光している)、特定の偏光面に光が直線偏光される直線偏光子34を通過する。別の例では、放射される光がすでに直線偏光されているので、直線偏光子34は不要である。直線偏光子34は、直線偏光フィルタとすることができるが、放射された光を直線偏光する、当技術分野で知られている別の手段を使用することもできる。」
「【0070】
図3は、光学センサ37および直線偏光フィルタ38を含む直線偏光センサ36を示す。直線偏光フィルタ38は、直線偏光光源32からハウジング10の光透過部12を通って戻った光を直線偏光するように配置される。言い換えると、直線偏光フィルタ38は、特定の直線偏光を持つ光を通過させ、残りの光はフィルタ除去される。好ましくは、直線偏光フィルタ38は直線偏光フィルタであり、特定の直線偏光の光を通過または透過させる。光学センサ37は、直線偏光光源32から放射されハウジング10の外側を経由して直線偏光フィルタ38を通過した直線偏光を検出するように配置されており、直線偏光フィルタ38によって直線偏光された検出光に基づく電気信号を出力する。」
「【0073】
いくつかの実施形態では、直線偏光フィルタ38の偏光面は、直線偏光光源32の偏光面に合わせて調整可能である。すなわち、直線偏光フィルタ38の偏光面の角度は、調整可能/可変とすることができる。言い換えると、直線偏光フィルタ38を通過できる光の直線偏光ベクトルの向きは調整可能とすることができる。偏光面は、たとえば制御ユニット26によって適切な電気信号を直線偏光フィルタ38に加えることによって調整することができる。直線偏光フィルタ38の偏光面を変える/調整することによって、光学センサ37で検出される光強度のピーク値が見出される。このピーク値は、体液による旋光に起因して直線偏光光源32から放射される光がこうむる回転の支配的な回転角を示す。
【0074】
いくつかの実施形態では、直線偏光フィルタ38は、図4に示されたカーセル40を含む。カーセル40は、第1の電極41および第2の電極42を含む。第1の電極41および第2の電極42は、ある間隔で互いに分離されている。ある電位差が、第1の電極41と第2の電極42の間に、たとえば制御ユニット26および/またはグルコース測定ユニット30によって加えられる。この電位差により、第1の電極と第2の電極の間に電界が発生する。
【0075】
カー材料43が、第1の電極41と第2の電極42の間にある。カー材料43は、光がカー材料43を通過できるように、少なくとも部分的に光透過性である。カー材料43は、好ましくは、電界がカー材料43を貫通するときにカー効果を強く示すことができるカー液体またはカー結晶である。カー材料43は、液晶表示装置(LCD)流体とすることができ、この流体は旋光度が大きいので良好な信号対雑音比をもたらす。いくつかの実施形態では、カー材料43は、第1の電極41と第2の電極42の間に恒久的に固定される。別の実施形態では、カー材料43は体液を含み、この体液は、たとえば図9および図10を参照して後で説明するように、埋込可能デバイス1が埋め込まれた後に第1の電極41と第2の電極42の間の空間を充填する。
【0076】
図4は、第1の電極41および第2の電極42を平板電極として示すが、他の形状の電極が使用されることがある。第1の電極41および第2の電極42はそれぞれ、第1の電極41の表面がカー材料43の表面と接触し、第2の電極42の表面が他方の、カー材料43の反対側の表面に接触しているように、カー材料43に直接連結される。あるいは、第1の電極41および第2の電極42のうちの1つまたはそれ以上が、カー材料43と直接接触しないようにカー材料43からある距離を取って分離される。
【0077】
図4の直線偏光フィルタ38はさらに、カーセル40の対向する側面に設置された第1の直線偏光子44および第2の直線偏光子45を含む。直線偏光フィルタ38を通過する光の例示的な経路が、図4に点線で示されている。直線偏光光源32からハウジング10の外側を経由して戻った直線偏光などの光は最初に、光を直線偏光する第1の直線偏光子44を通過する。好ましくは、第1の直線偏光子44の偏光面は、第1の電極41と第2の電極42の間に発生した電界の少なくとも一部とは非平行である。第1の直線偏光子44によって直線偏光された光は次に、カー材料43および電界を通過してから第2の直線偏光子45を通過し、光学センサ37へ向かう。好ましくは、第1の直線偏光子44の偏光面と第2の直線偏光子45の偏光面は(実質的に)直交している、すなわち、カーセル40中を移動する光の経路のまわりに90°回転している。
【0078】
直線偏光子44を通過しカーセル40に入った直線偏光の偏光面は、第1の電極41と第2の電極42の間に発生した電界によって回転する。その回転量は、電界の大きさに依存する。第1の電極41と第2の電極42の間の電位差を変えると電界の大きさが変わり、したがって、カーセル40を通過する直線偏光の回転量が変わる。回転量が変わるので、直線偏光子45を通過して光学センサ37へ向かう光の量も変わる。電位差を変える/変化させることによって、カーセル40を経由して直線偏光フィルタ38を通過する光の量が変わる。したがって、カーセル40はシャッタとして使用することができる。カーセル40を使用して、直線偏光光源32によってハウジング10の外側へ放射された直線偏光が受けた旋光の量を決定することができ、その旋光量は、体液中のグルコース濃度の関数になる。
【0079】
カーセルを通過する偏光の回転角φの変化は、次式の関数に従う:
【数2】
[図:0001430409000001.jpg]
ここで、Kはカー材料43のカー定数であり、Lはカー材料43を通る光の経路長であり、Uは第1の電極41と第2の電極42の間の電位差であり、dは第1の電極41と第2の電極42の間の距離である。」
「【0080】
図5は、本開示の実施形態に使用するのに適しているカーセル40を含む、直線偏光フィルタ38の代替構築物の分解組立図を示す。図5の直線偏光フィルタ38は、図4に示された直線偏光フィルタ38と類似しているが、第1の電極41は、第1の直線偏光子44とカー材料43の間の光路に配置され、第2の電極43は、第2の直線偏光子45とカー材料43の間の光路に配置されている。
【0081】
光ビームの例示的な光路が、図5に矢印で示されている。直線偏光光源32からハウジング10の外側を経由して戻った光は、最初に第1の直線偏光子44を通過し、その後に第1の電極41、その後にカー材料43、その後に第2の電極42、その後に第2の直線偏光子45を通過する。この光の経路は、第1の電極41と第2の電極42の間に発生した電界と実質的に平行になり得る。いくつかの例では、第1の直線偏光子44の位置と第1の電極41の位置は入れ替えることができる。いくつかの例では、第2の直線偏光子45の位置と第2の電極42の位置は入れ替えることができる。
【0082】
図6は、図5に示された直線偏光フィルタ38およびカーセル40を組み込む、本開示のいくつかの実施形態による埋込可能デバイス1を示す。カーセル40および/または直線偏光フィルタ38の他の構成、たとえば図4の直線偏光フィルタ38が使用されることもある。
【0083】
直線偏光光源32、カーセル40および光学センサ37は、埋込可能デバイス1のハウジング10の中に配置される。直線偏光光源32は、光をハウジング10の外側へ光透過部12を通して放射する。図6は、光源33および直線偏光子34を含む直線偏光光源32を示すが、直線偏光光源32は、別法では直線偏光子34を必要としないことがある。直線偏光子34および直線偏光子44は、図ではハウジング10の内側に設置されているが、それぞれの1つまたはそれ以上がハウジング10の外側に設置されることがある。
【0084】
直線偏光光源32によって放射された直線偏光が取る、例示的な経路が図6に点線で示されている。直線偏光は、ハウジング10の外側へ放射される。使用の際、埋込可能デバイス1が体内に埋め込まれていると、直線偏光は、埋込可能デバイス1を少なくとも部分的に取り囲んでいる体液の中に放射される。直線偏光光源32によってハウジング10の外側へ放射された直線偏光の一部分が、ハウジング10を通して戻される。これは、光の一部分が体液によって反射されることに起因し得る。いくつかの例では、光は1つもしくはそれ以上のレンズの助けによって、または埋込可能デバイス1の形状により、たとえば凹部14が設けられることにより、ハウジング10を通って戻る。光が戻される様々な手段について、全体にわたって説明する。
【0085】
直線偏光フィルタ38は、直線偏光光源32からハウジング10の外側を経由して戻った光が、第1の直線偏光子44を通過し、その後にカーセル40、その後に第2の直線偏光子45を通過してから光学センサ37によって検出されるように、ハウジング10の中に配置される。第1の電極41と第2の電極42の間に加わる電位差は、経時的に変えられる。その結果、光学センサ37によって検出される光の量、および光学センサ37によって出力される電気信号は、経時的に変わり得る。光学センサ37によって出力される電気信号は、直線偏光光源32によって放射された直線偏光がハウジング10の外側の体液を通過するときに受ける回転の量に対応するものになる。光学センサ37によって出力された電気信号は、体液中のグルコースの濃度を決定するために処理される。
【0086】
図6は、カーセル40を通過して光学センサ37へ向かう光を集束するためにカーセル40に隣接して配置されたレンズ46を示す。図6はまた、直線偏光光源32から放射された光が、最初にハウジング10の外側へ移動せずに直接光学センサ37へ移動することを防止するための、直線偏光光源32と光学センサ37の間に配置された壁18を含む埋込可能デバイス1を示す。
【0087】
図6に示された埋込可能デバイス1は、たとえば、直線偏光光源32から出ていない環境光などの光を検出する、光学センサ37からの干渉の影響を受けやすいことがある。図7は、図6に示された埋込可能デバイス1と類似しているが、干渉を大幅に抑制するように構成された埋込可能デバイス1の部分概略断面図を示す。
【0088】
図7および図8は、図6と類似している実施形態を示すが、第2の光学センサ54を含む参照チャネルが付いている。
【0089】
図6の埋込可能デバイスと同様に、図7に示された埋込可能デバイス1は、光源33および直線偏光子34を含む直線偏光光源32と、カーセル40を含む直線偏光フィルタ38とを有する。しかし、ここではグルコース測定ユニット30がさらに、第2の光学センサ54および追加の直線偏光子50を含む。第1の光学センサ37および第2の光学センサ54はそれぞれ、1つまたはそれ以上のフォトダイオードを含み得る。
【0090】
直線偏光子50は、直線偏光光源32からハウジングの外側を経由して戻った光の少なくとも一部を直線偏光するように、ハウジング10の中に配置される。第2の光学センサ54は、直線偏光子50によって直線偏光された光を検出するように、かつ検出された直線偏光に基づく第2の電気信号を出力するように配置される。
【0091】
任意選択のレンズ47は、直線偏光光源32から放射された直線偏光をハウジング10の外側の1つの点または領域に集束するようにハウジング10の外面11に配置され、このハウジングは、埋込可能デバイス1が埋め込まれているとき体液の中にある。図7は、光学センサ37に戻る光を集束するレンズ48に向かう第1の方向と、光学センサ54に向いて戻る光を集束するレンズ49に向かう第2の方向との、2つの方向に直線偏光を集束するレンズ47を示す。
【0092】
第1の光学センサ37および第2の光学センサ54は、ハウジング10の外側の、たとえばハウジング10の外側の点または領域の近くの体液中で反射された、直線偏光光源32から出ている直線偏光を検出するように配置される。検出光は、ハウジング10の外側の点または領域から第1の光学センサ37および第2の光学センサ54に向かって、1つまたはそれ以上のレンズ46、48、49によって集束されている。例示的な光路が、図7に点線で示されている。
【0093】
第1の光学センサ37および第2の光学センサ54はそれぞれ、直線偏光光源32から出力されハウジング10の外側を経由した直線偏光の、検出された強度に基づいて電気信号SPDKerrおよびSPDRefをそれぞれ出力するように構成される。無線通信モジュール20は、第1の光学センサ37によって出力された電気信号と、第2の光学センサ54によって出力された電気信号とに基づく信号を無線で送信するように構成される。各電気信号は、直線偏光光源32によって放射された光の直線偏光面が旋光した角度に対応するものになり、したがって、体液中のグルコースの濃度に対応するものになる。
【0094】
直線偏光は、直線偏光光源32から放射される。カーセル40の第1の電極41と第2の電極42の間に加わる電位差は、SPDKerrの最大値maxSPDKerrが決定されるまで経時的に変えられ、たとえば、ある期間にわたって増大される。SPDRefもまた決定され、変化する電位差に対し一定のままである。maxSPDKerr=SPDRefである場合、maxSPDKerrをもたらすために第1の電極41と第2の電極42の間に加えられる電位差UKerrは、体液中のグルコース濃度に比例する。したがって、グルコース濃度Cは、次式を用いて求められる:
C=J・UKerr
条件maxSPDKerr=SPDRefおよび固定係数Jを求めることによって、グルコース濃度Cが決定される。
【0095】
デバイスは、研究室の条件のもとで、生体外の試験によって較正される。光学センサ37によって出力される、また該当する場合には光学センサ54によって出力される電気信号、ならびに電位差UKerrを処理して、グルコース濃度を決定することは、当技術分野で知られている手段および技法によって行われる。
【0096】
参照チャネルとして追加の第2の光学センサ54および直線偏光子50を設けると、第1の光学センサ37および第2の光学センサ54によって出力される電気信号を処理して(たとえば、制御ユニット26または外部デバイス2によって)、干渉または背景雑音の影響を低減または除去することが可能になる。このような干渉または背景雑音は、たとえば、埋込可能デバイス1の環境光または電気構成要素の電気雑音によって生じる。そのようなものとして、より正確なグルコース濃度の決定が行われる。すなわち:
【数3】
[図:0001430409000002.jpg]
は、環境光、人間または動物によって消化された食べ物による血液着色、および環境温度と無関係である。
【0097】
図8は、図7と類似している別の実施形態を示すが、ここでは、グルコース測定ユニット30はさらに、第2の直線偏光光源51を含み、第2の光学センサ54によって検出するための直線偏光を放射する。図8は、第2の光源53を含む第2の直線偏光光源51、および直線偏光子55を示し、第1の光源33および第2の光源53は、壁18によって光学的に分離されている。
【0098】
第2の直線偏光光源51は、直線偏光をハウジング10の外側へ放射するように構成される。任意選択のレンズ52は、第2の直線偏光光源51によって放射された直線偏光をハウジング10の外側の1つの点または領域に集束する。直線偏光子50は、第2の直線偏光光源51からハウジング10の外側を経由して戻った光を直線偏光するように配置される。第2の光学センサ54は、直線偏光子50によって直線偏光された光を検出し、直線偏光子50によって直線偏光された検出光に基づく電気信号を出力するように配置される。無線通信モジュール20は、第2の光学センサ54によって出力された第2の電気信号に基づく信号を無線で送信するように構成される。
【0099】
図7を参照して説明したように、図8に示された実施形態では、第1の光学センサ37および第2の光学センサ54によって出力される電気信号を処理して、干渉または背景雑音の影響を低減または除去することが可能になる。」
「図3
[図:0001430409000003.jpg]
」
「図4
[図:0001430409000004.jpg]
」
「図5
[図:0001430409000005.jpg]
」
3 検討
上記2で摘記した記載によれば、本願の発明の詳細な説明に記載された「埋込可能デバイス」は、「光源33」、「直線偏光子34」、「体液」、「第1の直線偏光子44」、「カーセル40」、「第2の直線偏光子45」、「光学センサ37」の順に配置されており、当該配置は、本願発明の「直線偏光フィルタは、直線偏光光源からハウジングの外側を経由して戻った直線偏光が、第1の直線偏光子、カ-セル、第2の直線偏光子の順に通過してから、第1の光学センサによって検出されるように配置された」という構成要件に対応している。
しかし、上記配置では、「カーセル40」は、「第1の直線偏光子44」と「第2の直線偏光子45」とに挟まれているため、「第1の直線偏光子44」を透過した光の減衰量を制御できるだけであって、「体液による旋光に起因して直線偏光光源32から放射される光がこうむる回転の支配的な回転角を示す」「光強度のピーク値」を見いだすことはできないし、「体液中のグルコース濃度の関数になる」「直線偏光光源32によってハウジング10の外側へ放射された直線偏光が受けた旋光の量を決定する」ことはできない。具体的に説明すると、体液を通過する際に、直線偏光は体液中のグルコース濃度に依存して旋光し、ハウジング10の光透過部12を通って第1の直線偏光子44を通過する際に、第1の直線偏光子44の偏光面と平行な成分のみが第1の偏光子を通過する。そして、第1の直線偏光子44を通過した偏光は、カーセル40を通過する際に、カーセル40に加えられた電界に応じて旋光し、第2の直線偏光子45を通過する光は、第2の偏光子45の偏光面と平行な成分のみである。そうすると、第2の偏光子45を通過する最大の光量は、カーセル40による旋光が、第1の偏光子44の直線偏光面と第2の直線偏光子45の偏光面の角度差に一致する場合であり、角度差+90°の場合は、第2の直線偏光子45を通過する光量は0となる。つまり、第2の直線偏光子45を通過する光量、つまり、光学センサ37で検出される光量の最大値は、第1の直線偏光子44を通過する光量である。そうすると、第1の直線偏光子44、カーセル40、第2の直線偏光子45で構成される直線偏光フィルタ38を通過する光量は、第1の直線偏光子44を通過する光量を最大、最小値は0となり、直線偏光フィルタ38は、第1の直線偏光子44を通過する光量を電極に加える電位差に応じて減衰させるだけのものである。また、第1の直線偏光子44の偏光面の角度は固定であるから、直線偏光フィルタ38を通過できる光の直線偏光ベクトルの向きは調整不可能である。そうすると、段落0073の「直線偏光フィルタ38の偏光面の角度は、調整可能/可変とすることができる。言い換えると、直線偏光フィルタ38を通過できる光の直線偏光ベクトルの向きは調整可能とすることができる。偏光面は、たとえば制御ユニット26によって適切な電気信号を直線偏光フィルタ38に加えることによって調整することができる。」は、第1の直線偏光子44、カーセル40、第2の直線偏光子45で構成される直線偏光フィルタ38では実現できないものであり、「第1の直線偏光子44」を透過した光の減衰量を制御できるだけであって、「体液による旋光に起因して直線偏光光源32から放射される光がこうむる回転の支配的な回転角を示す」「光強度のピーク値」を見いだすことはできない。
第1の直線偏光子44を透過する光の量は、直線偏光子34の偏光方向、第1の直線偏光子44の偏光方向、体液中のグルコースによる旋光、体液による吸収・散乱による減衰、環境光などに依存する。そのため、直線偏光子34の偏光方向、第1の直線偏光子44の偏光方向は固定であるものの、体液による減衰の影響があるため、第1の直線偏光子44を通過する光の量を単純に計測するだけでは、体液中のグルコースによる旋光量を求めることはできない。グルコースによる旋光量を求めるには、原査定の拒絶の理由1で引用された独国特許出願公開第102012014553号明細書に記載されているような、体液中に直線偏光を通過させ、カーセルとカーセルより検出器側に設けられた直線偏光フィルタを通過させて検出する態様において、カーセルにかける電位差を変化させて、検出値が最大及び最小となる際のカーセルによる旋光量から体液による旋光量を求める必要がある。本願発明は、光経路におけるカーセルの入射側に「第1の直線偏光子」が存在するため、このようにして、グルコース濃度が求められない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
4 請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和5年9月27日に提出した手続補正書によって補正された審判請求書の請求の理由において、以下の主張がなされている。
(主張1)「「第1の直線偏光子44」を含む発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない』との指摘については、発明の詳細な説明の段落[0076]~[0099]等に記載があるように、第1の直線偏光子44を含む発明が記載されており、拒絶査定における審査官の追加的な指摘に関しても、当業者であれば、「第1の直線偏光44」を含む発明を実施することができます。」
また、令和7年3月12日提出の意見書においては以下の主張がなされている。
(主張2)「カ-セルを通過する第1の光の量I1は、光学センサによって検出することができ、これはカ-セルに電位差が印加されていないことに対応します(したがって、カ-セルは光を光学的に回転させない)。また、第2の光の量I2もまた、光学センサによって検出することができ、これはカ-セルにゼロではない電位差Uが印加されていることに対応します(したがって、カ-セルは光を光学的に回転させる)。
そして、上記段落[0078]-[0079]の記載のとおり、ゼロでない電位差Uが印加された場合、カ-セルを通過する光の回転角φKerrは、式2を使用して求めることができます。また、光の総回転角φTotalは、グルコースによって引き起こされる光の回転角φglucoseと、カ-セルによって引き起こされる光の回転角φKerrの合計となり、光の全回転角φTotalは、以下の式で計算できます。
cos2(φTotal)=I2/I1
したがって、グルコースによる光の回転角φglucoseは、φTotal-φKerrとなります。
よって、グルコース濃度は、式1を利用して、計算することができます。
このように、本願の請求項1に係る発明の構成により、「ハウジング10の外側に向かって直線偏光光源32から放射される直線偏光が担う光学回転量」を決定することが可能であり、その光学回転量は体液中のグルコース濃度の関数です。さらに、上記の式は、偏光測定の技術に精通した者にとっては周知であり、充分に理解できるものです。」
イ 主張についての検討
(ア)主張1について
段落0076~0099には、直線偏光フィルタ38として、第1の直線偏光子44、カーセル40、第2の直線偏光子45をこの順で含むことが記載されている(特に、段落0076)。しかし、上記アで検討したように、このような直線偏光フィルタでは、光学センサの出力から、カーセルの電位差とグルコース濃度を対応付けることはできず、「第1の電極41と第2の電極42の間に加わる電位差は、経時的に変えられる。その結果、光学センサ37によって検出される光の量、および光学センサ37によって出力される電気信号は、経時的に変わり得る」(段落0085)ものとなるが、それは、「直線偏光光源32によって放射された直線偏光がハウジング10の外側の体液を通過するときに受ける回転の量に対応するもの」(段落0085)ではなく、第1の直線偏光子44の偏光面と第2の直線偏光子45の偏光面の角度差とカーセルによる旋光量に対応するものであり、光学原理的にカーセルの電位差とグルコース濃度を相関させることはできない。
よって、主張1は採用できない。
(イ)主張2について
本願発明のようにカーセルの前に直線偏光子が存在する場合、カーセルに入る光は直線偏光子を通過した光、つまり、体液で旋光した偏光のうち直線偏光子の偏光面に平行な成分のみであるから、主張2で示される式は成立しない。主張2で示される式が成立するのは、カーセルの前に直線偏光子が存在しない場合である。
よって、主張2は採用できない。
5 小括
ゆえに、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第6 むすび
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-013914