特許拒絶査定不服審判
2024-008578
インビボ・イメージングおよび診断のための機器、デバイスならびに方法
- 審判番号
- 2024-008578
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-110132
- 請求日
- 2024年05月23日
- 審決日
- 2025年08月04日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
- 【請求人代理人】林 一好
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 浩
- 審判官 北島 拓馬
- 審判官 松本 隆彦
- 分類
- P18 .536-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条、特許法第2条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-110132「インビボ・イメージングおよび診断のための機器、デバイスならびに方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 9月13日出願公開、特開2022-133448〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(令和27年)7月27日(パリ条約による優先権主張 2014年7月25日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017-504043号の一部を令和2年4月3日に新たな特許出願(特願2020-67787号)とし、さらにその一部を令和4年7月8日に新たな特許出願としたものである。その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 5月 9日付け:拒絶理由通知
同年11月10日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 6年 1月17日付け:拒絶査定
同年 5月23日 :審判請求書及び手続補正書の提出
同年10月25日 :上申書の提出
第2 令和6年5月23日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年5月23日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正
(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正することを含むものである(下線部は補正箇所である。)。
「 【請求項1】
機器であって、
血管中へ挿入されるように、構成、かつ構築されたカテーテルと、
少なくとも1つの第1の光放射を、600nmと900nmとの間にある少なくとも1つの第1の波長で前記カテーテルを通して前記血管へ供給するように構成されたエネルギー・ソースと、
少なくとも1つの第2の光放射を前記少なくとも1つの第1の波長とは異なる少なくとも1つの第2の波長で前記カテーテルを通して検出するように構成された検出器であって、前記少なくとも1つの第2の光放射は、前記少なくとも1つの第1の光放射による衝突を受けた前記血管の少なくとも1つの部分の自己蛍光に基づいている、検出器と、
カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
前記検出器から、640nmと900nmとの間の範囲内で検出された少なくとも2つの第2の波長範囲を取得するように、そして
前記血管の少なくとも1つの特性を決定するために、前記少なくとも2つの第2の波長範囲に基づいて、スペクトル形状データまたは相対強度データをキャラクタライズするように構成されている、
機器。」
(2)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の、令和5年11月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
機器であって、
血管中へ挿入されるように、構成、かつ構築されたカテーテルと、
少なくとも1つの第1の光放射を、600nmと900nmとの間にある少なくとも1つの第1の波長で前記カテーテルを通して前記血管へ供給するように構成されたエネルギー・ソースと、
少なくとも1つの第2の光放射を前記少なくとも1つの第1の波長とは異なる少なくとも1つの第2の波長で前記カテーテルを通して検出するように構成された検出器であって、前記少なくとも1つの第2の光放射は、前記少なくとも1つの第1の光放射による衝突を受けた前記血管の少なくとも1つの部分の自己蛍光に基づいている、検出器と、
酸化ストレス、カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
前記検出器から、640nmと900nmとの間の範囲内で検出された少なくとも2つの第2の波長範囲を取得するように、そして
前記少なくとも2つの第2の波長範囲に基づいて、スペクトル形状データまたは相対強度データをキャラクタライズするように構成されている、
機器。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「機器」が「前記少なくとも2つの第2の波長範囲に基づいて、スペクトル形状データまたは相対強度データをキャラクタライズするように構成されている」ことについて、「前記血管の少なくとも1つの特性を決定するために、」との要件を付加することを含み、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書又は図面には、以下の記載がある(下線は当審が付したものである。)。
「【0003】
分子イメージングは、研究上の注目を集めており、例えば、炎症(非特許文献1)、酸化ストレス(例えば、参照文献2参照)、細胞シグナル経路(例えば、参考文献3参照)、酵素活性(例えば、参考文献4参照)(非特許文献2)などのように、人体に重要な分子発現を明らかにできる。分子情報は、様々な疾患、例えば、癌(例えば、参考文献5参照)、心血管疾患(例えば、参考文献6参照)、神経変性疾患(例えば、参考文献7参照)および眼科疾患(例えば、参考文献8参照)の診断に重要でありうる。臨床に用いられる医療イメージング・ツール、例えば、コンピュータ断層撮影(CT:computed tomography)(例えば、参考文献9011参照)、磁気共鳴イメージング(MRI:magnetic resonance imaging)(例えば、参考文献12~16参照)、超音波(IVUS)(例えば、参考文献17および18参照)、光干渉断層撮影(OCT:optical coherence tomography)(例えば、参考文献19~22参照)は、解剖学的構造の形態情報を取得できるが、分子情報の検出には限りがある。臨床に用いられる機能イメージング・ツールとして、陽電子放出断層撮影(PET:positron emission tomography)(例えば、参考文献23参照)および単一光子放出断層撮像(SPECT:single-photon emission computed tomography)(例えば、参考文献24参照)は、放射性医薬品に依存し、いずれも解剖学的構造の未変性の分子情報の検出を目指すものではない。
【0004】
組織上の炎症性バイオマーカーを画像化するために、例えば、外来性試薬を採用し、血流および管腔臓器のような人体内の種々の細胞受容体および分子種をラベルできる。例えば、炎症と関連付けられた細胞、化学物質および酵素、例えば、マクロファージ(例えば、参考文献25参照)、フィブリン(例えば、参考文献26参照)およびシステインプロテアーゼ(例えば、参考文献26および27参照)をラベルするために近赤外蛍光(NIRF:near infrared fluorescent)色素が特異的に設計される。しかしながら、かかる試薬の毒性、取り込みおよび排除は、患者の安全および健康に潜在的なリスクをもたらしかねない。外来性試薬の規制上の承認には時間がかかり、臨床応用を著しく阻害する。
・・・
【非特許文献】
【0007】
・・・
【非特許文献2】Su HS,Nahrendorf M,Panizzi P,Breckwoldt MO,Rodriguez E,Iwamoto Y,Aikawa E,Weissleder R and Chen JW.Vasculitis:Molecular Imaging by Targeting the Inflammatory Enzyme Myeloperoxidase.Radiology.2012;262:181-190.」
「 【0014】
水およびヘモグロビンによる低い光吸収に起因して、NIRAFスペクトルは、波長に依存するわずかな減衰しかもたらさないであろう。NIRAF信号レベルが自己蛍光部分の濃度と直接に相関しうる。吸収の波長依存性を補正して固有のNIRAFスペクトルを復元するために必要とされる追加の例示的な手順、機器、デバイスおよび方法、例えば、拡散反射分光法は、診断上有効な結果を生成するために必須ではないであろう。」
「 【0016】
NIRAF波長の例示的な選択は、構造蛋白質ならびにNADHおよびFADのような他の既知の生物学的自己蛍光分子からの干渉蛍光信号を低減できる。例示的なNIRAF手順を用いることによって、壊死物質を含んだアテローム動脈硬化性プラークを、脂質に富んだ、例えば、非壊死性、および他のアテローム動脈硬化性プラークに比べて高感度で特異的に検出することが可能である。
【0017】
NIRAF信号の1つの例示的な特徴は、信号が酸化ストレスのメカニズムによる蛋白質およびリポ蛋白の修飾に関係しうることである。
【0018】
ジチロシン架橋は、NIRAF信号を生成できる1つの例示的な特徴となりうる。」
「 【0022】
本開示の別の例示的な実施形態によれば、機器および方法を提供できる。例えば、カテーテルを血管中へ挿入されるように構成かつ構築することができる。エネルギー・ソース装置によって、少なくとも1つの第1の光放射を少なくとも1つの第1の波長においてカテーテルを通して血管へ供給することが可能である。加えて、検出器装置によって、少なくとも1つの第2の光放射を第1の波長とは異なる少なくとも1つの第2の波長においてカテーテルを通して検出することが可能である。第2の光放射は、少なくとも1つの第1の光放射によって衝撃を受けた血管の少なくとも一部分の自己蛍光に基づくことができる。さらにまた、コンピュータ装置によって、血管の少なくとも1つの特性を診断またはキャラクタライズするために第2の光放射に基づいて血管の少なくとも1つの特性を決定することが可能である。
【0023】
本開示のさらに別の例示的な実施形態によれば、機器および方法を提供できる。例えば、カテーテルが血管中へ挿入されるように構成かつ構築される。エネルギー・ソース装置によって、カテーテルを通して、少なくとも1つの第1の光放射を550nmと800nmとの間の少なくとも1つの第1の波長において血管へ提供できる。検出器装置によって、カテーテルを通して、少なくとも1つの第2の光放射を640nmと900nmとの間の少なくとも1つの第2の波長において検出することが可能である。第2の光放射は、第1の光放射によって衝撃を受けた血管の少なくとも一部分の自己蛍光に基づくことができる。さらにまた、コンピュータ装置によって、第2の光照射に基づいて酸化ストレス、カルシウム、プラーク内出血、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、および/または酵素活性のうちの少なくとも1つを決定することが可能である。
【0024】
本開示の別の例示的な実施形態において、第1の波長は、600nm~90nmの間、600nmと800nmとの間、650nm~750nmの間、および/または650nmと700nmとの間とすることができる。第2の波長は、640nmと1000nmとの間、および/または640nmと800nmとの間とすることができる。第2の波長は、ダブルクラッド光ファイバ光学部品のバックグラウンド放出の波長範囲外にあるように選択できる。波長範囲の上限は、20nmもしくは40nm超とすることができる。第2の波長は、複数の第2の波長とすることができて、検出は、第2の波長の関数として行うことができる。検出は、炎症のキャラクタリゼーションをさらに特定するために第2の放射の放出スペクトルの数学的操作を含むことができる。
【0025】
本明細書に示されるように、特性は、酸化ストレス、カルシウム、プラーク内出血、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、および/または酵素活性のうちの少なくとも1つとすることができる。少なくとも1つの第3の放射を試料へ、および少なくとも1つの第4の放射を参照へ供給できる。第3および第4の放射の間干渉である少なくとも1つの第5の放射を受光できて、第5の放射のさらなる関数として決定を行うことができる。第1の放射は、第1の放射と少なくとも部分的に共存できる。」
「【図面の簡単な説明】
【0035】
・・・
【図19】図19(a)~19(b)は、本開示の例示的な実施形態によるボールレ
ンズ・プローブを通しての脂質に富むプラーク、石灰化プラークおよび脂肪線条から
のNIRAFスペクトルの例示的な測定結果を示すグラフのセットである。
・・・」
「【0045】
図8は、本開示の例示的な実施形態による機器、デバイスおよび方法を用いて提供された、病理学的内膜肥厚から識別された壊死性コアを示す第1および第2の例示的なPCAスコアに基づく別の例示的な散布図を例示的な結果を提供する表と併せて示す。例えば、総合的な例示的精度は、約85%になりうる。この分析は、脂質に富むプラークを検出するためのみならず、それらのリスクポテンシャルを評価するためにNIRAFスペクトルを利用する診断上の価値を実証しうる。言い換えれば、このNIRAF分析は、安定な脂質に富むプラーク、例えば、病理学的内膜肥厚および脂肪線条より壊死性コア・プラークの識別に対して、他の例示的なスペクトロスコピーに基づく技術より高感度であるように思われる。例示的な結果については以下の表2を参照。
・・・
【0047】
図9は、本開示の例示的な実施形態による機器、デバイスおよび方法を用いて提供された、低下したスペクトル分解能をもつ例示的なスペクトルデータの第1および第2のPCAスコアに基づく別の例示的な散布図を例示的な結果を提供する表と併せて示す。例えば、各タイプのプラークは、特異的な分布を有しうる。象限判別分析(QDA)を用いて、PCAスコア面を、例えば、4つの異なるカテゴリ:脂質(LPD:lipid)/糜爛(ERO:erosion)/石灰化(CA:calcification)/線維性(FB:fibrous)を表す4つの部分空間に分割できる。例示的なリーブワンアウト方策に従って、感度および特異性を分析してプラーク・タイプを識別できる。結果は、検出された各チャネルの積分スペクトル帯域幅が診断能力を失うことなく、0.1nmと10nmとの間で変動しうることを示すことができる。例示的な結果については以下の表3を参照。」
「 【0052】
近赤外域における異なる励起波長を用いて、自己蛍光スペクトルを発生させることができて、そのスペクトル特性を異なるアテローム動脈硬化性プラークを判別するために用いることができる。例えば、図12は、本開示の例示的な実施形態による機器、デバイスおよび方法を用いて例示的な組織信号レベルを633nmおよび740nmの2つの例示的な励起波長間で評価したグラフを示す。図12では、Y軸が対数目盛りで示される。励起に依存する信号強度のこの例示的な比較では、分光器および検出器の波長に依存するスペクトル応答によって自己蛍光放出強度が正規化された。両方の励起波長がプラーク間で同様のNIRAFコントラストを示す。加えて、633nmの励起光の方がより強い例示的な組織信号レベルを提供できる。」
「 【0055】
NIRAFイメージングは、その厚さをおよそ5~10μmの間とすることができる、新鮮な未固定の動脈組織からカットされた組織学的薄切片上で行うこともできる。図13(a)および13(b)は、本開示の例示的な実施形態による機器、デバイスおよび方法、ならびにトリクロームのような標準的な組織学染色剤を用いて染色された連続的にカットされた薄切片を用いて発生させた、それぞれ、例示的な画像および例示的なNIRAF積分強度マップを示す。例示的なNIRAFマップは、線形グレースケールで表示されて、高スペクトル強度の領域が白く見える。例示的なNIRAFイメージングは、自己蛍光スペクトルを特異的な形態学的特徴から得ることを可能にする。NIRAFマップと染色された組織構造(histology)との間の重ね合わせは、スペクトル特性を特異的な形態学的特徴、例えば、薄い線維性被膜、壊死性コア領域、泡沫細胞、マクロファージ、好中球、コラーゲンおよびエラスチン・ファイバ、コレステロール・クレフト、石灰化およびセロイド沈着に割り当てることを可能にする。高スペクトル強度の領域が壊死性コア・プラークの壊死性領域に割り当てられ、バルク組織測定から観測された自己蛍光が壊死性領域で発生し、この領域には蛋白質および脂質の修飾のような、炎症および酸化ストレスに反応する確立した分子レベルの過程があることを確認する。
【0056】
図14(a)は、異なった病理の16個の薄切片の分析から(from the analysis of the analysis of)本開示の例示的な実施形態に従って発生させることができるスペクトル帯域比のグラフを示す。エラーバーは、1標準偏差であり、NC-壊死性(nectroic)コア、PIT-病理学的内膜肥厚、IH-全内膜過形成であり、PITおよびNCプラークから内膜および中膜領域をレポートできる。一元配置ANOVAを用いると、強度ランクは、高から低へNC>中膜>IH~PIT>内膜である。NCは、非常に不均質であるが、その強度が他の4つのカテゴリより著しく高い(p<0.01)。中膜は、2番目に高い強度を有し、これは、高密度に整列したエラスチンおよび平滑筋線維におそらく起因する。細胞外の脂質プールが内膜およびIHと同様のNIRAF強度を有し、脂質沈着それ自体がNIRAFに寄与しないことを示唆する。
【0057】
図14(b)は、異なる形態学的特徴間のスペクトル形状の違いを推定するために例示的な方法によって用いることができる、スペクトル帯域比のグラフを示す。例えば、スペクトル比(青色/赤色)のランクは、高から低へNC>PIT>内膜~中膜>IHとなりうる。NCは、他の4つのカテゴリより著しく強い赤色シフトを示す(p<0.01)。これは、バルク組織測定からの観測と一致する。PITは、2番目に強い赤色/青色比を有し、これは、正常組織とNCとの間の移行につれて、PITがある一定の化学反応および生理的過程を経験し、NIRAFフルオロフォアの発生につながることを示唆する。内膜および中膜は、同様の赤色/青色比を有し、それらがともにコラーゲンおよびエラスチンを主成分として有するという事実と合致する。IHは、プラークの内膜/中膜より若干低い。考えられる理由としてありうるのは、NCおよびPITに存在する炎症活性が内膜および中膜で蛋白質およびリポ蛋白を修飾するかもしれないということである。」
「【0059】
図16(a)~16(b)は、本開示の例示的な実施形態による機器、デバイスおよび方法を用いて発生させた自己蛍光スペクトル特性に対する例示的な変化を説明するグラフのセットを示す。例えば、例示的な健常ヒト動脈切片を均等に2つに分割できて、一方の半分は、10%リン酸緩衝生理食塩水中、およそ37℃で12時間にわたってインキュベートされ、2つ目の半分も、10%リン酸緩衝生理食塩水中に溶解した飽和酢酸マンガン(III)からなる酸化性溶液中、同じ温度で同じ時間にわたってインキュベートされる。検体のNIRAFスペクトラムがインキュベーション前(オリジナル)およびインキュベーション後(対照および酸化)に収集された。NIRAF積分強度が図16(a)において比較され、ここでエラーバーは、1標準偏差を示す。オリジナルの強度は、図16(a)に示されるように均一ではない。酢酸マンガン(III)に曝露されて酸化された組織の強度は、対照より若干高くなりえて、組織の自己蛍光が蛋白質を修飾する酸化剤によって増加しうることを示す。NIRAFスペクトル比も図16(b)で比較される。赤色/青色シフトとして構築された例示的なスペクトル比が酸化された組織の自己蛍光スペクトルに予想された赤色シフトを対照組織と比較して示す。対照試料が呈示するスペクトルの赤色シフトが小さいという事実は、インキュベーション期間中に発生する組織分解または酸化が少ないことを示唆する。飽和酢酸マンガン(III)溶液中でインキュベートされた試料は、著しくより強いスペクトルの赤色シフトを示す。これは、NIRAFスペクトル特性が酸化生成物、例えば、蛋白質修飾体の存在に対して高感度でありうることを実証する。
【0060】
ジチロシン架橋は、蛋白質修飾に関する確立された内因性バイオマーカーのうちの1つであり、強い自己蛍光を放出する。図17(a)~17(b)は、ジチロシンの吸収および自己蛍光スペクトルの違いをチロシンおよびヒト・アテローム動脈硬化性プラークと比較して説明するグラフのセットを示す。例えば、ジチロシンは、280nmに最大吸収を有し、可視領域を通して著しい吸収を有しうるが、一方でチロシンは、UV吸収に限られる(図17(a))。例示的な励起波長633nmで励起されたときに、ジチロシンからの蛍光ならびに例示的な壊死性コア(NC)および内膜過形成(IH)プラークからの自己蛍光を図17(b)において比較できる。ジチロシン・スペクトルは、著しく赤色シフトしているように見え、アテローム動脈硬化症が進行するにつれて見ることができる赤色シフト放出を説明できる。」
「 【0064】
図20は、633nmおよび740nmの2つの例示的な波長で発生した代表的な脂質含有(LPD)/糜爛性(Erosive)、石灰化(CA)および線維性(FB)アテローム動脈硬化性プラークからの積分自己蛍光強度の例示的な比のグラフを示す。組織の自己蛍光信号は、例えば、ダブルクラッドファイバで発生した強いシリカのラマン散乱を除外するために680~750nmのスペクトル・ウィンドウにわたって積分される。積分ウィンドウは、組織の自己蛍光対ファイバ・バックグラウンド比を最大にするように選択された。」
「 【0075】
図25(a)および25(b)は、破綻した壊死性コア・プラークに関して、包括的に走査した冠状動脈から抽出された合成OCT-NIRAF画像と対応する組織学切片との例示的な画像のセットを示す。OCT-NIRAF画像は、本明細書に記載され、図21に示されるようなマルチモダリティOCT-NIRAFシステムおよびカテーテルを用いて発生させた。例示的なOCT-NIRAF画像(図25(a)参照)では、OCT画像がプラーク破綻(矢印)および脂質プールまたは壊死性コアを示唆する高減衰エリア(星)の存在を示す。NIRAF信号は、壊死性コア位置にわたって高く、コントラストが良好である。対応する組織学画像(図25(b)参照)では、プラークが破綻した薄い線維性被膜を有するプラーク(thin-capped fiberatheroma)であることをH&E染色切片が確認する。両方の画像についてスケールバーは、1mmである。この例示的な結果は、重ね合わされた冠状動脈内OCTおよびNIRAFイメージングを標準治療として経皮的カテーテル処置を受けた、生きているヒト患者で実証することができて、炎症反応および酸化ストレスに関係するバイオマーカーの微細構造および蛍光イメージングを提供する。
【0076】
図26は、壊死性コア(NC)、病理学的内膜肥厚(PIT)、石灰化(CA)および内膜過形成(IH)を含む種々の冠状動脈病変タイプに関するカテーテル・ベースのNIRAF信号強度の例示的な表現の箱ひげ図を示す。NIRAF強度は、本明細書に記載され、図21に示されるようなマルチモダリティOCT-NIRAFシステムおよびカテーテルを用いて(using as described using)病気のヒト冠状動脈からエクスビボで取得された。NC、PIT、CAおよびIHからのNIRAF強度は、一元配置ANOVAによれば統計的に著しく相違した(p<0.0005)。スチューデントのt検定を用いると、NCプラークのNIRAF強度が非壊死性病変より著しく高かった(p<0.0005)。冠状動脈中の石灰化プラークは、PITより僅かに高いNIRAFを示した。この知見について考えられる1つの理由は、この研究では石灰化した冠状動脈プラークが進行して、かなりの細胞外脂質と共存したということである。これらの結果は、NIRAFが冠状動脈におけるNCプラークと非NCプラーク(CAおよびPIT)とを識別できることを示す。」
「【図8】
[図:0001430650000001.jpg]
」
「【図9】
[図:0001430650000002.jpg]
」
「【図12】
[図:0001430650000003.jpg]
」
「【図14】
[図:0001430650000004.jpg]
」
「【図17】
[図:0001430650000005.jpg]
」
「【図20】
[図:0001430650000006.jpg]
」
「【図25a】
[図:0001430650000007.jpg]
」
「【図26】
[図:0001430650000008.jpg]
」
(3)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について
ア 判断手法
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
そこで、上記判断基準に基づいて、本願明細書が、実施可能要件に適合するか、以下、検討する。
イ 検討
本件補正発明は、「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、
前記検出器から、640nmと900nmとの間の範囲内で検出された少なくとも2つの第2の波長範囲を取得するように、そして
前記血管の少なくとも1つの特性を決定するために、前記少なくとも2つの第2の波長範囲に基づいて、スペクトル形状データまたは相対強度データをキャラクタライズするように構成されている、」という特定事項を具備するものである。そこで、「プロセッサ」が「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成」されることについて、本願明細書が、実施可能要件に適合するか検討する。
上記(2)で摘記したように、「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性」に関する記載が複数存在する。しかし、「酵素活性」については、段落【0023】に「コンピュータ装置によって、第2の光照射に基づいて酸化ストレス、カルシウム、プラーク内出血、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、および/または酵素活性のうちの少なくとも1つを決定することが可能である。」、段落【0025】に「本明細書に示されるように、特性は、酸化ストレス、カルシウム、プラーク内出血、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、および/または酵素活性のうちの少なくとも1つとすることができる。」と記載されるにとどまり、実施例に記載されているプラークの種類と「酵素活性」の関係について記載されておらず、「酵素活性」の特性をどのように決定するのかを本願明細書の記載から当業者が具体的に把握することができない。なお、段落【0003】に「分子イメージングは、研究上の注目を集めており、例えば、炎症(非特許文献1)、酸化ストレス(例えば、参照文献2参照)、細胞シグナル経路(例えば、参考文献3参照)、酵素活性(例えば、参考文献4参照)(非特許文献2)などのように、人体に重要な分子発現を明らかにできる。」との記載があるが、参考文献2として挙げられている「Su HS,Nahrendorf M,Panizzi P,Breckwoldt MO,Rodriguez E,Iwamoto Y,Aikawa E,Weissleder R and Chen JW.Vasculitis:Molecular Imaging by Targeting the Inflammatory Enzyme Myeloperoxidase.Radiology.2012;262:181-190.」には、要約に「(当審訳)目的:酸化力の強い酵素であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)を標的とした分子イメージング法が、マウス血管炎モデルにおいて血管壁の炎症部位を非侵襲的に同定・確認するのに役立つかどうかを検討する。
材料と方法:動物実験は施設の動物看護委員会の承認を得た。8匹のMPO欠損マウスと6匹の偽手術マウスを対照として、26匹のマウスが研究された。血管炎はカンジダ・アルビカンス水溶性画分(CAWS)の腹腔内注射で誘発した。MPO-Gdと呼ばれる活性化MPOセンサー(ビス-5-ヒドロキシトリプタミド-ジエチレントリアミンペンタ酢酸ガドリニウム)(n=23)またはガドペンテト酸ジメグルミン(n=10)を静脈内注射した後、大動脈基部磁気共鳴画像法を行った。7匹のマウスを、MPO-Gdまたはガドペンテト酸ジメグルミンを最初に投与する群に無作為に割り付けた。大動脈起始部の標本を採取して生化学的および病理組織学的解析を行い、画像所見を検証した。統計学的有意性は、paired t testを用いてコントラスト対ノイズ比(CNR)を算出した。」(下線は当審が付した。)と記載されるように、本件補正発明のように「自己蛍光」に基づくものではない。そして、本願優先日において、本件補正発明で特定されるような波長帯域を用いた「自己蛍光」により血管の「酵素活性」による特性を決定することが技術常識であったとも認められない。
また、「リポ蛋白修飾」についても、本願明細書には、前段落で挙げた段落【0023】及び段落【0025】の記載に加えて、段落【0017】の「NIRAF信号の1つの例示的な特徴は、信号が酸化ストレスのメカニズムによる蛋白質およびリポ蛋白の修飾に関係しうることである。」、段落【0025】の「蛋白質修飾は、ジチロシンまたはニトロチロシンとすることができ、リポ蛋白修飾は、酸化LDLとすることができて、プラーク内出血は、内因性ポルフィリンを含むことができる。」、及び、段落【0057】の「IHは、プラークの内膜/中膜より若干低い。考えられる理由としてありうるのは、NCおよびPITに存在する炎症活性が内膜および中膜で蛋白質およびリポ蛋白を修飾するかもしれないということである。」との記載が存在するが、段落【0017】、【0023】、【0025】の各記載は、何ら具体的な記載ではなく、どのような波長の「自己蛍光」により血管の「リポ蛋白修飾」による特性を検出できるのかを当業者が把握することができず、段落【0057】の記載も「リポ蛋白を修飾するかもしれない」と可能性を述べるに留まり、明細書において、検出される炎症活性が、リポ蛋白修飾によるものであることは裏付けておらず、段落【0057】の記載によって、血管のリポ蛋白修飾による特性を決定することが具体的に記載されているとまで認められない。また、本願優先日において、本件補正発明で特定されるような波長帯域を用いた「自己蛍光」により血管の「リポ蛋白修飾」による特性を決定することが技術常識であったとも認められない。
そうすると、本願明細書の記載は、本件補正発明の発明特定事項である「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサ」を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
よって、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)請求人の主張
ア 請求人の主張
請求人は、審判請求書及び令和6年10月25日提出の上申書において、実施可能要件について、概略以下の主張をしている。
(ア)審判請求書における主張
「詳細な説明には、請求項1に記載された「酸化ストレス、カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定する」具体的な手法について記載されているとは認められない、という指摘について、
補正前の請求項1に記載された「酸化ストレス」についてのご指摘に鑑み、用語「酸化ストレス」を削除しました。これにより、「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性」が明確になったものと考えます。」
(イ)令和6年10月25日提出の上申書における主張
「前置報告書の、
請求項1に記載された「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定する」具体的な手法について記載されているとは認められない。
という判断については、本願の詳細な説明の段落[0014]、[0023]、[0025]、[0047]、[0052]、[0059]、[0060]、[0064]、図9、12、17等を含む本願の明細書に亘って、血管の少なくとも1つの特性を自己蛍光を使用して決定する方法がサポートされているものと考えます。」
イ 請求人の主張についての検討
(ア)審判請求書における主張について
上記3 イで検討したように、本件補正によって、「酸化ストレス」が削除されても、本件補正発明の発明特定事項である「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサ」を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないので、審判請求書における上記主張により実施可能要件が満たされると判断できるものではない。
(イ)令和6年10月25日提出の上申書における主張について
主張で挙げられている段落[0014]、[0023]、[0025]、[0047]、[0052]、[0059]、[0060]、[0064]、図9、12、17には、「リポ蛋白修飾」、「酵素活性」による血管の特性を決定することが具体的に記載されているとは認められず、当該主張は、上記3 イで検討結果である本件補正発明の発明特定事項である「カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定するように構成されたプロセッサ」を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないという判断を覆すものではない。
(5)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和6年5月23日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和5年11月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の発明の詳細な説明には、本願の発明の詳細な説明には、アテローム動脈硬化性病理から得られた自己蛍光スペクトルに基づいて、内膜過形成(IH)、石灰化(CA)、病理学的内膜肥厚(PIT)、壊死性コア(NC)のようなプラーク・タイプを識別する手法について記載されているものの、請求項1に記載された「酸化ストレス、カルシウム、蛋白質修飾、リポ蛋白修飾、脂質修飾、または酵素活性の少なくとも1つを含む前記血管の少なくとも1つの特性を決定する」具体的な手法について記載されているとは認められないので、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
3 当審の判断
前記第2(3)と同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものであるとはいえない。
第4 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-008578