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特許拒絶査定不服審判

2023-012925

金属肉盛層の形成方法

審判番号
2023-012925
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-012859外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年08月02日
審決日
2024年11月28日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (B23K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2019- 12859「金属肉盛層の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月13日出願公開、特開2020-121315〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成31年1月29日を出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。 令和4年 5月24日付け:拒絶理由通知 令和4年 7月 8日 :意見書、手続補正書の提出 令和4年11月14日付け:拒絶理由通知 令和5年 1月10日 :意見書の提出 令和5年 5月 8日付け:拒絶査定 令和5年 8月 2日 :審判請求とともに、手続補正書の提出 令和6年 7月30日付け:拒絶理由通知(以下、この拒絶理由通知における拒絶の理由を「当審拒絶理由」という。) 令和6年 9月 2日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)の提出 第2 本願発明について 本願の各請求項に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「レーザメタルデポジションを用いて金属肉盛層を形成させる方法であって、 薄肉部材の表面に前記金属肉盛層を形成させ、 前記薄肉部材の端部が曲面形状を有し、 前記端部に少なくとも一部が重複する二区画以上の前記金属肉盛層を形成させ、 前記金属肉盛層の短手方向にレーザ走査を繰り返し、 連続して形成される前記金属肉盛層を隣接させ、 前記レーザメタルデポジションにウィービング動作を伴わず、 前記薄肉部材における最小の肉厚が10mm以下であること、 を特徴とする金属肉盛層の形成方法。」 第3 当審拒絶理由 本願発明(本件補正前の請求項2に係る発明)についての当審拒絶理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記引用文献1に記載された発明)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2015-135099号公報 第4 引用文献1の記載及び引用発明 1 引用文献1の記載 引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線部は、当審で付した。以下同様。)。 「【0001】 本発明の実施形態は、タービン部品及びタービン部品の肉盛方法に関する。」 ・「【0017】 次に、図2(b)に示すように、タービン動翼100の損耗箇所すなわち補修対象部位101を含む領域を、所定の切断平面102に沿って切削して除去することにより、平面である被肉盛表面103を形成する。タービン動翼100のチップ部(最先端)から被肉盛表面103までの距離は、例えば5mm程度である。タービン動翼100が翼長手方向に沿って指向性凝固させることにより鋳造された一方向凝固翼である場合、この被肉盛表面103は、翼長手方向すなわち凝固方向と直交する平面であることが好ましい。」 「【0020】 次に、図2(f)に示すように、X-Yポジショナー4によりビーム照射ヘッド3を水平方向に移動させながらレーザビームを前記有限平面上にある粉末20に照射することにより、すなわちレーザビームによるスキャン(走査)を行うことにより、粉末20が溶解され、被肉盛表面103上に肉盛層104が形成される。なお、ここでは、ビーム照射装置として能力5kWの半導体励起のファイバーレーザを使用して、500Wの出力で肉盛り溶接を行った。ビームスポット径は60μmとした。」 「【0022】 具体的には、例えば図3に示すように、ビームスポットをX正方向に断面の一端から他端まで往復させながら、方向転換の際にY正方向に例えばビームスポット径の約半分に相当する距離だけビームスポットを移動させてゆく。これにより、図2(g)に示すように所定厚さ(例えば0.2mmとほぼ同じかやや薄い)の肉盛層104が、被肉盛表面103の上にほぼ均一に形成される。」 「【0024】 図4には肉盛層104の断面が概略的に示されている。肉盛層104は部分的に重なり合った溶接ビードの集合体からなる。肉盛層104の表面(上面)は、若干の凹凸はあるが、マクロ的には被肉盛表面103と概ね平行な平面とみなすことができる。 【0025】 次に、図2(h)に示すように、Zポジショナー7により固定機構2を移動させ、肉盛層104の厚さ分だけタービン動翼100及び粉末貯留部9の底板を下降させる。次いで、肉盛層104の表面を新たな被肉盛表面103と見なして、図2(e)から図2(g)の手順を実行する。図2(e)の手順を行う前に、粉末貯留部9に粉末20が補充される。図2(e)から図2(g)の手順は、複数の肉盛層104の積層体によりタービン動翼100の切除部分が元の新品の形状に戻るまで繰り返し実行される。 【0026】 その後、グラインダー加工などの研削、研磨加工により形状を整えた後、溶体化熱処理、必要に応じた表面コーティング処理、及び時効熱処理を行うことにより、タービン動翼100の補修が完了する。」 「【0028】 上記の実施形態によれば、被肉盛表面103上に微小厚さの実質的に2次元形状の肉盛層104を多数積層させて3次元形状を形成する3D積層造形技術を用いることにより、高い形状精度で肉盛りを行うことができる。このため、肉盛り後の加工(研削、研磨等)の工数を削減することができる。また、肉盛層104の形成に先立ち、タービン動翼100の補修対象部分101を含む領域を除去して平面からなる被肉盛表面103を形成しているため、より高い形状精度で肉盛りを行うことができる。 【0029】 しかも、上記の実施形態によれば、平面である被肉盛表面103上に微小厚さの実質的に2次元形状の肉盛層104の肉盛りを繰り返すことにより造形を行うため、1回の肉盛り当たりの入熱を比較的少なく抑えることができる。このため、溶接ビード及び溶接熱影響部において溶接により誘起される内部応力を低く抑えることができ、溶接割れ及びその後の熱処理時の割れを防止若しくは最小限に抑制することができる。」 「【0031】 溶接による入熱が大きい場合には、例えば図4の隣接する肉盛層104の境界部近傍の部分105、特に母材の部分に割れが生じ易くなる。これに対して、実際に図1及び図5の肉盛補修装置を用いて、試験片により補修実験を行ったところ、いずれも肉盛り後に0.5mm以上の割れは認められなかった。」 「【0042】 この場合、硬質肉盛層を形成するために粉末貯留部9に供給される肉盛用硬質合金粉末はステライト粉末に限定されるものではなく、例えば、コバルト基合金、ニッケル基合金、クロム炭化物を含むニッケル基合金、クロム炭化物を含むコバルト基合金、タングステン化合物を含むニッケル基合金、タングステン合金及びコバルト基合金の混合物からなる粉末を用いることもできる。」 図2 「 [図:0001418764000001.jpg] 」 図3 「 [図:0001418764000002.jpg] 」 2 引用文献1の記載から理解できる事項 上記1に記載の事項から以下のことが理解できる。 (1)段落【0020】に「次に、図2(f)に示すように、X-Yポジショナー4によりビーム照射ヘッド3を水平方向に移動させながらレーザビームを前記有限平面上にある粉末20に照射することにより、すなわちレーザビームによるスキャン(走査)を行うことにより、粉末20が溶解され、被肉盛表面103上に肉盛層104が形成される。」、及び段落【0042】に「この場合、硬質肉盛層を形成するために粉末貯留部9に供給される肉盛用硬質合金粉末は・・・、例えば、コバルト基合金、ニッケル基合金、クロム炭化物を含むニッケル基合金、クロム炭化物を含むコバルト基合金、タングステン化合物を含むニッケル基合金、タングステン合金及びコバルト基合金の混合物からなる粉末を用いることもできる。」と記載されていることから、引用文献1には、レーザメタルデポジションを用いて肉盛層104を形成させる方法が記載されているとともに、「肉盛層104」は「金属肉盛層」であることが理解できる。 (2)図2、図3から、タービン動翼100の端部が曲面形状を有することが看取できる。 (3)段落【0022】の「具体的には、例えば図3に示すように、ビームスポットをX正方向に断面の一端から他端まで往復させながら、方向転換の際にY正方向に例えばビームスポット径の約半分に相当する距離だけビームスポットを移動させてゆく。これにより、図2(g)に示すように所定厚さ(例えば0.2mmとほぼ同じかやや薄い)の肉盛層104が、被肉盛表面103の上にほぼ均一に形成される。」との記載及び図3から、肉盛層104の形成が、肉盛層104の短手方向(図3の上下方向)にレーザ走査を繰り返すことにより形成されるものであること、及びウィービング動作を伴わないこと(図3のビームスポットの上下方向の軌跡が直線状であること)が理解できる。 (4)段落【0025】の「図2(e)から図2(g)の手順は、複数の肉盛層104の積層体によりタービン動翼100の切除部分が元の新品の形状に戻るまで繰り返し実行される。」、段落【0028】の「上記の実施形態によれば、被肉盛表面103上に微小厚さの実質的に2次元形状の肉盛層104を多数積層させて3次元形状を形成する3D積層造形技術を用いることにより、高い形状精度で肉盛りを行うことができる。」との記載から、タービン動翼100の端部においても、少なくとも一部が重複する二区画以上の肉盛層104が形成されること、及び連続して形成される肉盛層104が隣接していることが理解できる。 3 引用発明 上記1~2から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 <引用発明> 「レーザメタルデポジションを用いて肉盛層104を形成させる方法であって、 タービン動翼100の被肉盛表面103に前記肉盛層104を形成させ、 前記タービン動翼100の端部が曲面形状を有し、 前記端部に少なくとも一部が重複する二区画以上の前記肉盛層104を形成させ、 前記肉盛層104の短手方向にレーザ走査を繰り返し、 連続して形成される前記肉盛層104を隣接させ、 前記レーザメタルデポジションにウィービング動作を伴わない、 肉盛層104の形成方法。」 第5 対比 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。 引用発明の「肉盛層104」は、上記第4の2(1)で示したとおり、本願発明の「金属肉盛層」に相当する。 また、引用発明の「タービン動翼100」は、引用文献1の図3に示されているようにその断面の端部は薄肉であるといえることや、本願明細書においても「薄肉部材」の1つとして「タービン翼」が示されていること(本件補正後の請求項5等を参照。)に鑑みれば、本願発明の「薄肉部材」に相当し、引用発明の「(タービン動翼100の)被肉盛表面103」は、本願発明の「(薄肉部材の)表面」に相当する。 以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「レーザメタルデポジションを用いて金属肉盛層を形成させる方法であって、 薄肉部材の表面に前記金属肉盛層を形成させ、 前記薄肉部材の端部が曲面形状を有し、 前記端部に少なくとも一部が重複する二区画以上の前記金属肉盛層を形成させ、 前記金属肉盛層の短手方向にレーザ走査を繰り返し、 連続して形成される前記金属肉盛層を隣接させ、 前記レーザメタルデポジションにウィービング動作を伴わない、 金属肉盛層の形成方法。」 <相違点> 金属肉盛層が形成される薄肉部材について、本願発明では、「前記薄肉部材における最小の肉厚が10mm以下である」と特定されているのに対して、引用発明では、タービン動翼100における最小の肉厚が10mm以下であるか不明な点。 第6 判断 1 相違点についての判断 上記第5に示した相違点について検討する。 引用文献1の図3から、引用発明のタービン動翼100が、肉厚の薄い部分を有することが看取され、タービン動翼100の形状を設計する際に、発揮する性能(圧縮、エネルギー変換、耐熱性、強度、耐振性)等を考慮して、その肉厚の薄い部分を10mm以下とすることは当業者にとっての設計事項にすぎない。 また、引用文献1の段落【0029】には、肉盛層104の肉盛りを行う際の入熱を少なく抑えることが記載されているから、タービン動翼100の肉厚の薄い部分の肉厚が10mm以下であることにより入熱によって変形しやすいものであるとしても、引用発明の方法(微少厚さの肉盛りを繰り返すこと)によっては、タービン動翼100(薄肉部材)への入熱も少なく抑えられるものであるから、タービン動翼100の変形を少なく抑えた肉盛りができることは明らかである。 したがって、引用発明に基づいて、相違点に係る本願発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。 2 請求人の主張について (1)請求人の主張の概要 請求人は、審判請求書において、概ね以下の主張をしている。 ア 引用文献1の図3における「肉厚の薄い部分」は連続的に形成された肉盛層であり、肉盛層を形成する基材ではない。引用文献1には、「金属肉盛層や基材が薄い場合であっても変形を十分に抑制できる肉盛溶接方法を提供する」という課題が存在せず、「金属肉盛層の短手方向にレーザ走査を繰り返すことで基材の変形が抑制できる」ということが開示も示唆もされていない以上、基材における肉厚の薄い部分を10mm以下に設計することはできない。 イ 引用文献1のように、レーザ肉盛を用いた積層造形によって、タービン動翼の全体を積層造形する場合、基材の断面全体に均等な収縮力が作用するため、基材の変形は問題にならない。これに対し、本願発明は、最小の肉厚が10mm以下である薄肉部材の端部に金属肉盛層を形成させるものであり、金属肉盛層の形成によって基材の一部のみに大きな収縮力が作用することから、基材の変形が深刻な問題となる。 ウ 引用文献1では肉盛を行う際の入熱を少なく抑えることで「溶接割れ及びその後の熱処理時の割れ」を防止若しくは最小限に抑制できることが記載されているのみであり(引用文献1、段落【0029】)、どの程度の肉厚の基材に対して変形を抑制できるのかについては、開示も示唆もない。これに対して、本願発明の金属肉盛層の形成方法は、「入熱を少なく抑えること」ではなく、肉盛時の「熱履歴」によって基材の変形を抑制するものであり、金属肉盛層の短手方向にレーザ走査することで、基材の変形を劇的に抑制することができるのである(本願明細書の段落【0012】)。 (2)請求人の主張についての検討 ア 上記(1)アについて検討する。 請求人は、引用文献1には、金属肉盛層や基材が薄い場合であっても変形を十分に抑制できる肉盛溶接方法を提供するという課題が存在しないから、基材における肉厚の薄い部分を10mm以下に設計することはできない旨を主張するが、引用発明における、タービン動翼100(基材)の形状はその性能(圧縮、エネルギー変換、耐熱性、強度、耐振性)を発揮できるように設計されるものであって、その肉厚の薄い部分を10mm以下に設計することができないようなものではないし、肉盛り溶接時に変形しないことのみを考慮して設計するものでもないから、当該請求人の主張は採用できない。 なお、引用文献1の図3から、引用発明のタービン動翼100が、肉厚の薄い部分を有することは看取できるものであるが、さらに、タービン翼が10mm以下の部分を有することは技術常識(必要ならば、特開2008-36652号公報の段落【0006】、特開2008-93725号公報の段落【0008】等を参照。)でもあるから、技術常識に鑑みても、引用発明のタービン動翼100について、その肉厚の薄い部分を10mm以下に設計することに困難性は認められない。 イ 上記(1)イについて検討する。 まず、本願発明は、最小の肉厚が10mm以下である薄肉部材の端部のみに金属肉盛層を形成させるものであるとは特定されておらず、さらに、本願発明には「薄肉部材の表面に前記金属肉盛層を形成させ」ることが特定されていることに鑑みれば、上記薄肉部材の端部以外の部分についても金属肉盛層を形成することを包含するものと解されるから、本願発明による金属肉盛層の形成によって基材の一部のみに大きな収縮力が作用するから、引用発明と異なる旨の主張は採用できない。 ウ 上記(1)ウについて検討する。 まず、引用文献1の段落【0031】には、入熱が大きいと母材の部分に割れが生じる旨の記載もあることから、引用文献1においても、基材に対する熱の影響を考慮すべきであることは示唆されている。 そして、引用発明においても、本願発明と同様に、肉盛層104の短手方向にレーザ走査を繰り返して肉盛層104を形成している上に、引用文献1には、そのように肉盛層を形成することで入熱を少なく抑えることができることも記載されている(段落【0029】等を参照。)から、熱履歴の点で、本願発明と引用発明とが異なるということはできない。 エ 以上、請求人の主張は採用できない。 オ なお、審判請求書には、依然として本願に拒絶理由があると判断される場合には、請求人は、本願発明を更に限縮する補正及び面談による本願発明の説明を検討する所存であり、拒絶理由通知書の再度の発行を希望する旨が記載されているが、本件については、当審拒絶理由を通知し、指定期間を定めて補正の機会が与えられており、請求人は当該指定期間内に特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載するように、既に補正をしているものであり、上記指定期間後にそれ以上の補正の機会を与える特段の事情も見当たらないから、上記結論のとおり審決するものである。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-012925

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