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特許拒絶査定不服審判

2023-016474

圧縮機、膨張機、真空ポンプなどの機械部品の製造方法及びその方法で製造された機械部品

審判番号
2023-016474
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-576346
請求日
2023年09月29日
審決日
2024年09月25日
公報発行日
2025年03月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】アトラス コプコ エアーパワー,ナームローゼ フェンノートシャップ
  • 【請求人代理人】田中 伸一郎
  • 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【請求人代理人】須田 洋之
  • 【請求人代理人】倉澤 伊知郎
  • 【請求人代理人】山本 泰史
  • 【請求人代理人】鈴木 博子
審判長/審判官
  • 審判長 鈴木 貴雄
  • 審判官 大山 健
  • 審判官 菊地 牧子
分類
P18 .121-Z (B23K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-576346「圧縮機、膨張機、真空ポンプなどの機械部品の製造方法及びその方法で製造された機械部品」拒絶査定不服審判事件〔令和2年12月30日国際公開、WO2020/260192、令和4年9月7日国内公表、特表2022-539012〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2020年(令和2年)6月22日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2019年6月24日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和 4年 1月11日 :手続補正書の提出 令和 5年 1月26日付け:拒絶理由通知 令和 5年 4月 4日 :意見書、誤訳訂正書の提出 令和 5年 5月31日付け:拒絶査定 令和 5年 9月29日 :審判請求書の提出 令和 5年11月13日 :審判請求書の「請求の理由」欄を補正する手続補正書(方式)の提出(以下、この手続補正書(方式)を「理由補充書」という。) 第2 本願発明 本願の請求項1~11に係る発明は、令和5年4月4日提出の誤訳訂正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1~11に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータ(15)の少なくとも一部と、前記オイルフリースクリュー圧縮機用のハウジング要素(24)の少なくとも一部と、からなる群から選択される機械部品(15、24)の表面を処理するための方法であって、 前記機械部品(15、24)を製造するステップと、 レーザー(11、12、13)を用いて、前記機械部品(15、24)の前記表面にパターン(2)を施すステップであって、前記レーザーは、前記機械部品(15、24)の前記表面を洗浄し、同時に前記表面の粗さに影響を与え、前記レーザーの出力は、50Wよりも大きい、ステップと、 前記パターン化された表面にコーティングを施すステップと、 を含む方法。」 第3 拒絶査定の概要 令和5年5月31日付け拒絶査定で原審が示した本願発明に対する拒絶理由は、概ね次のとおりである。 (進歩性)本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:欧州特許出願公開3399191号明細書 引用文献2:特開2018-122257号公報 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、以下の事項が記載されている(「a」「u」「o」のウムラウトはそれぞれ「ae」「ue」「oe」で代替表示し、エスツェットは「ss」で代替表示した。日本語訳は当審による。下線は当審で付した。以下同じ。)。 ア 段落[0017] 「Die Erfindung setzt sich ausgehend vom erstgenannten Stand der Technik die Aufgabe, fuer einen oelfreien Schraubenverdichter mit vergleichsweise hohen Rotationsgeschwindigkeiten der Rotorschrauben und einem angestrebten Spalt zwischen den Rotorschrauben untereinander bzw. den Rotorschrauben und einem Verdichtergehaeuse eine Beschichtung anzugeben, die die Nachteile im Stand der Technik vermeidet und gleichzeitig sich in einem Einlaufvorgang selbst auf einen ausreichend kleinen Spaltabstand einstellt. ・・・」 <当審日本語訳> 「 本発明は、前述の先行技術に基づき、スクリューロータの回転速度が比較的高く、スクリューロータ同士の間またはスクリューロータと圧縮機ハウジングとの間に所望の間隙を有するオイルフリースクリュー圧縮機用のコーティングであって、先行技術の欠点を回避し、同時に慣らし運転において十分に小さい間隙距離に調整されるコーティングを規定することを課題とする。・・・」 イ 段落[0037]~[0039] 「[0037]Nach einer weiteren vorteilhaften Ausgestaltung der vorliegenden Erfindung umfassen die in der zweiten, aeusseren Schicht aufgenommenen Partikel Graphit oder koennen aus Graphit gebildet sein. Die Partikel koennen aber auch die folgenden Materialien umfassen: hexagonales Bornitrid, Kohlenstoff-Nanoroehren (Carbon Nanotubes CNT), Talk (bzw. Talkum), Polytetrafluorethylen (PTFE), Perfluoralkoxy-Polymere (PFA), Fluorethylen-Propylen (FEP) und/oder ein anderes Fluor-Polymer. [0038]Graphit, hexagonales Bornitrid, Kohlenstoff-Nanotubes und Talkum verringern jeweils als Festschmierstoff die Reibung. ・・・ . [0039]Fluorpolymere, wie PTFE, PFA, FEP (mit durchschnittlichen Korngroessen von ca. 2 μm bis 30 μm) wirken ebenfalls als Fest- bzw. Trockenschmierstoffe. ・・・ 」 <当審日本語訳> 「[0037] 本発明のさらに有利な実施形態によれば、第2の外層に含まれる粒子は、グラファイトからなるか、またはグラファイトから形成することができる。しかしながら、粒子は、以下の材料からなることもできる:六方晶窒化ホウ素、カーボンナノチューブ(CNT)、タルク(またはタルカム)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)および/または別のフッ素系樹脂。 [0038] グラファイト、六方晶窒化ホウ素、カーボンナノチューブ、タルクは、固体潤滑剤として摩擦を低減する。・・・ [0039] PTFE、PFA、FEP(平均粒径約2μm~30μm)などのフッ素樹脂も、固体潤滑剤または乾式潤滑剤として機能する。・・・」 ウ 段落[0079] 「Vor Aufbringen der ersten, inneren Schicht sollte die zu beschichtende metallische Flaeche vorbehandelt werden. Diese Vorbehandlung umfasst vorzugsweise ein Entfetten und weiter vorzugsweise eine weitere Konditionierung der metallischen Flaechen, beispielsweise durch Aufrauen der Oberflaechen, durch Strahlen oder Aetzen oder durch Aufbringen eine Konversionsschicht definierenden Vorbehandlungsschicht, z.B. Phosphatieren oder Aufbringen einer Nanokeramik. So kann die Oberflaechenvorbehandlung auch ein Sandstrahlen und eine anschliessende chemische Reinigung mit geeignetem Loesungsmittel (z.B. alkalischer Reiniger, Aceton) umfassen, um eine gute Haftung der ersten, inneren Schicht zu beguenstigen. Eine Entfettung kann vorteilhafterweise vor dem Sandstrahlen - durch Abbrennen bei hoher Temperatur (Pyrolyse) erfolgen.」 <当審日本語訳> 「第1の内層をコーティングする前に、コーティングされる金属表面を前処理する必要がある。この前処理は、好ましくは脱脂を含み、さらに好ましくは金属表面のさらなる調整、例えば表面を粗面化すること、ブラストまたはエッチングをすること、または化成層を規定する前処理層を塗布すること、例えばリン酸塩処理またはナノセラミックを塗布することを含む。表面の前処理には、サンドブラストと、それに続く適切な溶媒(例えばアルカリ洗浄剤、アセトン)による化学的洗浄も含まれる。脱脂は、サンドブラストの前に、高温で焼き切る(熱分解)ことによって行うのが有利である。」 エ 段落[0086] 「In Figur 1 ist ein Stirnschnitt eines erfindungsgemaessen Rotorschraubenpaars umfassend eine als Nebenrotor ausgebildete Rotorschraube 1 sowie eine als Hauptrotor ausgebildete Rotorschraube 2 gezeigt. Nur rein schematisch ist dargestellt, dass eine Profilflaeche 12a, 12b der Rotorschraube 1, 2 jeweils mit einer ersten inneren Schicht 3 sowie mit einer zweiten, aeusseren Schicht 4 beschichtet ist. Die Rotorschrauben 1, 2 kaemmen miteinander, d.h. sie greifen mit ihren Zaehnen ineinander ein. Die bereits angesprochenen Waelzkreise sind fuer die als Nebenrotor ausgebildete Rotorschraube 1 mit dem Bezugszeichen 22 und fuer die als Hauptrotor ausgebildete Rotorschraube 2 mit dem Bezugszeichen 21 kenntlich gemacht.」 <当審日本語訳> 「図1は、二次ロータとして設計されたスクリューロータ1と、主ロータとして設計されたスクリューロータ2とからなる、本発明による一対のスクリューロータの端部断面を示す。スクリューロータ1、2のプロファイル表面12a、12bが、第1の内層3および第2の外層4でコーティングされていることのみが概略的に示されている。スクリューロータ1、2は互いに噛み合い、すなわち歯が互いに噛み合う。既述の転がり円は、二次ロータとして設計されたスクリューロータ1については符号22によって、主ロータとして設計されたスクリューロータ2については符号21によって識別される。」 オ 図1 「 [図:0001419868000001.jpg] 」 (2)引用文献1の記載から理解できる事項 引用文献1の上記(1)の記載から以下の事項が理解できる。 ア 段落[0017]、[0086]の記載等から、引用文献1には、 「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータ1、2の表面を処理するための方法」が記載されているといえる。 イ 引用文献1に記載のスクリューロータ1、2の表面を処理するための方法においては、当然に、当該表面の処理の前に当該処理の対象となる「スクリューロータ1、2」を製造するステップを有している、といえる。 ウ 段落[0017]、[0079]、[0086]の記載及び図1等から、引用文献1に記載のスクリューロータ1、2の表面を処理するための方法は、 「サンドブラストでスクリューロータ1、2の表面を粗面化するステップ」、及び 「スクリューロータ1、2の表面に、内層3及びグラファイトやPTFE等の固体潤滑剤を含む外層4からなるコーティングを施すステップ」を有しているといえる。 (3)引用発明 上記(1)~(2)からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 <引用発明> 「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータ1、2の表面を処理するための方法であって、 前記スクリューロータ1、2を製造するステップと、 サンドブラストで前記スクリューロータ1、2の表面を粗面化するステップと、 前記スクリューロータ1、2の表面に、内層3及びグラファイトやPTFE等の固体潤滑剤を含む外層4からなるコーティングを施すステップと、 を含む方法。」 2 引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア 段落【0001】~【0007】 「【技術分野】 【0001】 本発明は、摺動部材の製造方法、摺動部材、及び摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板に関する。 【背景技術】 【0002】 従来の摺動部材では、アルミニウム、鉄又は銅などの金属からなる基材にショットブラストやレーザ光を照射して基材表面を粗面化し、粗面化した基板上に樹脂などを形成することが行われていた(例えば、特許文献1参照)。 【0003】 しかし、従来の摺動部材では、基材表面にショットブラストやレーザ光を照射して粗面化して、粗面化した基材上に樹脂などを形成しても、粗面化した基材と基材上に形成した樹脂との密着力が十分ではなく、基材から樹脂が剥離することがあった。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 そこで、本発明は上記課題に鑑み、基材にレーザ光を所定の間隔を空けて照射することで表面積を増やし、基材と樹脂膜との接触面積自体を増やすことで密着力を向上させることができる摺動部材の製造方法、摺動部材、及び摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を提供することを目的とする。」 イ 段落【0015】 「【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、基材に対して所定の間隔を空けてレーザ光を照射することで、基材の表面積を増加させて、基材と樹脂との密着力を向上させるとともに、過酷な負荷条件下でも長時間の摺動に対して基材から樹脂膜の剥離が起こらない優れた耐久性を有する摺動部材の製造方法、摺動部材、及び摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を提供することができる。」 ウ 段落【0019】~【0020】 「【0019】 以下、本発明の実施形態に係る摺動部材10の製造方法について説明する。図1に示すように、まず基材11を準備する。基材11は、油脂などの不純物を除くために洗浄してもよいが、そのあとの過程で、基材11の全面にレーザ光を照射するため洗浄しなくてもよい。レーザ光が照射される基材11の材質は、特に限定されず、鉄系、アルミニウム系、銅系の金属材料やアルミニウム、銅等を固着、接合させた複合材料等を用いてもよい。また基材11は特に平板に限らず、円筒物や特殊曲面を有するものでもよい。基材11の厚さは、0.5mm以上であることが好ましい。この厚さを有する基材11を用いることで、レーザ光を照射したときに貫通することがなく、かつ、基材11上に形成される樹脂膜12を隙間なく容易に形成することができる。 【0020】 図1に示すように、基材11にレーザ照射装置101によってレーザ光を照射することにより、基材11に凹凸部13を作成する。レーザ照射装置101は、レーザ光を出射するレーザ光源101Aと、レーザ光源101Aからのレーザ光のパルス幅を制御するパルス幅制御装置101Bと、を有する。本実施形態におけるレーザ照射装置101は、パルス幅がピコ秒以下となるように設定されている。」 エ 段落【0023】~【0027】 「【0023】 図2(A)に示すように、レーザ光は、基材11に対してスポット直径2rの平面視円状に照射される。レーザ光のスポット直径は、数~数十μmとなるように構成されている。スポット直径とは、レーザ光の最小直径である。レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度は、0.053J/mm2以上が良く、0.137J/mm2が好ましく、0.229J/mm2以上であることがより好ましい。 【0024】 レーザ光は、図2(B)に示すように、レーザ光の所定回の照射によって形成される円と次回の照射によって形成される円とが重なるように連続して照射される。すなわち、列上に照射されるレーザ光の隣接するパルス中心間の距離がスポット半径rよりも短くなるようにレーザ光を照射される。パルス中心とは、照射される円形のレーザ光の中心である。図2(B)に示すように、所定回の照射によって形成される円のパルス中心P(n)と次回の照射によって形成される円のパルス中心P(n+1)との間の距離D1はスポット半径rよりも短くなるように形成されている。 【0025】 レーザ光によって列上に凹凸部13が形成された後、基材11を移動させて形成された列と略平行な列上へレーザ光を照射する。すなわち、図2(C)に示すように、レーザ光によって列L(m)が形成された後、基材11を起動させて形成された列L(m)と平行な列L(m+1)上へレーザ光を照射するものである。 列L(m)を形成させる過程から列L(m+1)を形成する過程への移行時における基材11の移動は、不連続的な移動であってもよいし若しくは連続的な移動であってもよい。すなわち、列L(m)を形成させる過程から列L(m+1)を形成する過程への移行時において、レーザ光の照射を停止させて基材11を移動させてもよいし、レーザ光の照射を継続させて基材11を移動させても良い。 【0026】 レーザ光は、図2(C)に示すように、隣接する列上のパルス中心間の距離がスポット半径rの1/2よりも長く、かつ、スポット半径rの3倍よりも短くなるように照射するものである。隣接する列上のパルス中心間の距離とは、任意のパルス中心から、隣接する列上に存在するパルス中心のうち、前記任意のパルス中心に最も近いパルス中心までの距離である。すなわち、隣接する列である列L(m)上のパルス中心P(n)と列L(m+1)上のパルス中心P(n+N)間の距離D2がスポット半径rの1/2よりも長く、かつ、スポット半径rの3倍よりも短くなるように、連続して照射される。 【0027】 ここで、基材11にレーザ光を列上に連続的に照射することで形成される凹凸部13の微細な形状について説明する。図3は、基材11の凹凸部13を示す概略表面拡大図である。図3(A)に示すように、基材11にレーザ光を一回照射した場合には、レーザ光の中心(パルス中心)を中心とする平面視円形の凹部13aが形成され、その周囲に、王冠状の凸部13bが形成される。凸部13bは、いわゆるミルククラウン状に形成され、基材11が変形したものである。当該凸部13bの径は、照射するレーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度にもよるが、スポット径よりも大きく形成される。また、一部の飛沫は周囲へと飛散する。また、図3(B)に示すように、凹凸部13は、列上に照射されるレーザ光の隣接するパルス中心間の距離D1がスポット半径rよりも短くなるようにレーザ光を基材11に照射し、隣接する列上のパルス中心間の距離D2がスポット半径rの1/2よりも長く、かつ、スポット半径rの3倍よりも短くなるようにレーザ光を基材11に照射することにより微細な凹凸が形成され、縞形状が形成される。基材11の飛沫は、隣接する凹部13aや凸部13b上に付着し、凝固する。レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度が、0.053J/mm2以上で基材11が粗面化され、0.137J/mm2以上で基材11上に飛沫が形成され、0.229J/mm2以上で、基材11上に安定して飛沫が形成される。」 オ 段落【0028】 「次に、図4に示すように、凹凸部13を形成した基材11上に樹脂膜12を形成する。樹脂膜12は、固体潤滑剤とバインダー樹脂とからなる皮膜である。本発明の実施形態に用いることができる固体潤滑剤としては、特に限定されないが、二硫化モリブデン(MoS2)、グラファイト、h-BN、二硫化タングステン(WS2)、ポリ四フッ化エチレン(以下、PTFEと称する)、フッ素系樹脂、Pb、CF等が挙げられる。これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く且つ安定にする作用とともに、焼付きを防止する作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるため、固体潤滑剤の平均粒径は15μm以下であることが好ましく、特に0.2μm-10μmであることが好ましい。」 カ 段落【0035】 「次に、本発明の実施形態に係る摺動部材10をコンプレッサ40用の斜板17として用いた例について説明する。・・・」 キ 図面 「【図1】 [図:0001419868000002.jpg] 【図2】 [図:0001419868000003.jpg] 【図3】 [図:0001419868000004.jpg] 【図4】 [図:0001419868000005.jpg] 」 (2)引用文献2の記載から理解できる事項 ア 段落【0007】、【0015】、【0035】等には、レーザ光を照射して表面を処理する基材11として、「コンプレッサ用の機械部品」が記載されている。 イ 段落【0023】~【0027】には、レーザ光は、基材11に対してスポット直径2rの平面視円状に照射され(段落【0023】、図2(A))、レーザ光は、レーザ光の所定回の照射によって形成される円と次回の照射によって形成される円とが重なるように連続して照射され(段落【0024】、図2(B))、レーザ光によって列上に凹凸部13が形成された後、基材11を移動させて形成された列と略平行な列上へレーザ光を照射する(段落【0025】、図2(C))ことが記載され、図2等を併せてみれば、引用文献2には、「レーザ光を用いて、機械部品の表面に凹凸部13のパターンを施すステップ」が記載されているといえる。 ウ 段落【0019】に「図1に示すように、まず基材11を準備する。基材11は、油脂などの不純物を除くために洗浄してもよいが、そのあとの過程で、基材11の全面にレーザ光を照射するため洗浄しなくてもよい。」及び段落【0020】に「図1に示すように、基材11にレーザ照射装置101によってレーザ光を照射することにより、基材11に凹凸部13を作成する。」と記載されているから、上記イのステップに際して、「基材の全面にレーザ光を照射して基材に凹凸部を形成することによって、その前の過程で油脂などの不純物を除くための洗浄が不要となること」が理解できる。 エ 段落【0023】、【0027】の記載から、上記イのステップに際して、「レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度」の、より好ましい例が「0.229J/mm2以上」であることが理解できる。 オ 段落【0028】には、上記イのステップに引き続いて、凹凸部13を形成した基材11上に、固体潤滑剤とバインダー樹脂とからなる皮膜である樹脂膜12を形成することが記載されることから、引用文献2には、「凹凸部13のパターンを施した機械部品の表面にコーティングを施すステップ」が記載されているといえる。 (3)引用文献2に記載された技術的事項 上記(1)~(2)からみて、引用文献2には、以下の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されているといえる。 <引用文献2に記載された技術的事項> 「コンプレッサ用の機械部材の表面を処理するための方法であって、 レーザ光を用いて、コンプレッサ用の機械部品の表面に凹凸部13のパターンを施すステップであって、前記機械部品の全面にレーザ光を照射して基材11に凹凸部13を形成することによって、その前の過程で油脂などの不純物を除くための洗浄が不要となり、レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度は、0.229J/mm2以上である、ステップと、 凹凸部13のパターンを施した機械部品の表面にコーティングを施すステップと、を含むこと。」 第5 当審の判断 1 対比 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明の「スクリューロータ1、2」は本願発明の「スクリューロータ」に相当し、また、引用発明の「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータ1、2」は、オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータとハウジング要素とからなる群に包含されるから、本願発明の「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータの少なくとも一部と、前記オイルフリースクリュー圧縮機用のハウジング要素の少なくとも一部と、からなる群から選択される機械部品」に相当する。 更に、引用発明の「サンドブラストで前記スクリューロータ1、2の表面を粗面化する」ことは、本願発明の「機械部品」の「表面の粗さに影響を与える」ことに相当し、同様に、「内層3及びグラファイトやPTFE等の固体潤滑剤を含む外層4からなるコーティング」は「コーティング」に相当する。 上記相当関係に照らせば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 <一致点> 「オイルフリースクリュー圧縮機用のスクリューロータの少なくとも一部と、前記オイルフリースクリュー圧縮機用のハウジング要素の少なくとも一部と、からなる群から選択される機械部品の表面を処理するための方法であって、 前記機械部品を製造するステップと、 前記表面の粗さに影響を与えるステップと、 前記表面にコーティングを施すステップと、 を含む方法。」 <相違点> 表面の粗さに影響を与えるステップ及び表面にコーティングを施すステップに関して、本願発明が、「レーザーを用いて、前記機械部品の前記表面にパターンを施すステップであって、前記レーザーは、前記機械部品の前記表面を洗浄し、同時に前記表面の粗さに影響を与え、前記レーザーの出力は、50Wよりも大きいステップ」、及び、「パターン化された」表面にコーティングを施すステップを含むのに対し、引用発明は、サンドブラストでスクリューロータ1、2の表面を粗面化するステップ、及び、当該表面にコーティングを施すステップを含むものの、レーザーを用いて当該表面にパターンを施すこと、表面の粗さに影響を与えると同時に表面を洗浄すること、及び、パターン化された表面にコーティングを施すことがなされるものとはいえず、そのため、レーザーの出力の大きさについても特定されていない点。 2 判断 上記相違点について検討する。 (1)まず、相違点に係る本願発明の「レーザーを用いて、前記機械部品の前記表面にパターンを施すステップであって、前記レーザーは、前記機械部品の前記表面を洗浄し、同時に前記表面の粗さに影響を与え」るとのステップ、及び「パターン化された」表面にコーティングを施すとの構成について検討する。 上記第4の2(3)に示したとおり、引用文献2には、「レーザ光を用いて、コンプレッサ用の機械部品の表面に凹凸部のパターンを施すステップであって、前記機械部品の全面にレーザ光を照射して基材に凹凸部を形成することによって、その前の過程で油脂などの不純物を除くための洗浄が不要とできること」との技術的事項が記載されている。 そして、引用発明と引用文献2に記載された技術的事項とは、いずれも、圧縮機用の機械部品の表面を粗面化処理し、当該粗面化処理された表面に固体潤滑剤を含むコーティングを施す各ステップを含むものである点で、技術分野が関連し、かつ、作用・機能が共通する。また、当該コーティングを機械部品の表面に密着させるとの課題が内在している点で、両者は共通する。 さらに、引用文献2の段落【0003】には「従来の摺動部材では、基材表面にショットブラストやレーザ光を照射して粗面化して、粗面化した基材上に樹脂などを形成しても、粗面化した基材と基材上に形成した樹脂との密着力が十分ではなく、基材から樹脂が剥離することがあった。」と記載され、また、段落【0007】には「基材にレーザ光を所定の間隔を空けて照射することで表面積を増やし、基材と樹脂膜との接触面積自体を増やすことで密着力を向上させることができる」と記載されるとおり、ショットブラスト等の従来の粗面化処理に比した利点が示されていることからみて、引用文献2の記載に触れた当業者であれば、スクリューロータ1、2の表面を粗面化処理した後にコーティングを施す引用発明においても、引用文献2に記載されたレーザ光を照射して凹凸部を形成するという技術的事項を適用しようとする動機付けは十分に認められる。してみると、粗面化を行う手段であるサンドブラストに代えて、引用発明のオイルフリースクリュー圧縮機用の機械部品であるスクリューロータについて、レーザ光を用いて当該機械部品の表面に凹凸部のパターンを施すべく、その全面にレーザ光を照射して凹凸部を形成すること、及び、凹凸部のパターンを施した機械部品の表面にコーティングを施すことは、当業者が容易に想到し得たものである。 そして、引用文献2に記載された技術的事項における、「機械部品の全面にレーザ光を照射して基材に凹凸部を形成することによって、その前の過程で油脂などの不純物を除くための洗浄が不要とな」ることは、引用文献2の段落【0019】における「基材11は、油脂などの不純物を除くために洗浄してもよいが、そのあとの過程で、基材11の全面にレーザ光を照射するため洗浄しなくてもよい。」との記載及び技術常識に照らしてみれば、レーザ光を照射することで油脂などの不純物が除かれて洗浄された状態となることを意味するといえるから、本願発明の「レーザ-」によって、「機械部品の表面を洗浄し、同時に表面の粗さに影響を与え」ることに他ならない。 (2)続いて、相違点に係る本願発明の「前記レーザーの出力は、50Wよりも大きい」との構成について検討する。 上記第4の2(3)に示したとおり、引用文献2には、「レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度は、0.229J/mm2以上である」との技術的事項が記載されている。 他方、本願明細書の段落【0039】には、「レーザーは、好ましくは50W以上、好ましくは70W以上、より好ましくは90W以上の出力を有する。このような出力と、適切に選択されたレーザービーム径により、好ましくは8J/cm2以上、好ましくは12J/cm2以上、より好ましくは18J/cm2以上、最も好ましくは23J/cm2以上のエネルギーを表面に伝達することができる。」と記載されている。 上記引用文献2の記載及び本願明細書の記載から、レーザ光により機械部品の表面に伝達される単位面積当たりのエネルギー強度は略同等であり(0.229J/mm2は22.9J/cm2)、また、エネルギー強度が大きいほど好適であることも同じであると理解できるものであり、してみると、引用文献2のレーザ光の出力も「50W以上」と同程度であると解するのが自然である。 また、仮にそうでないとしても、レーザ光を用いて機械部品の表面に凹凸部を形成する際に、当該レーザの出力をどの程度とするかは、凹凸部を形成する基材の材質や、凹凸の深さ等に応じて、当業者が適宜設計する事項であって、引用文献2には単位面積当たりのエネルギー強度をより高い値としたいとの技術思想が開示されるから、レーザ光の出力を「50W以上」とすることは設計事項の範ちゅうに過ぎない。 (3)したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。 3 請求人の主張についての検討 (1)請求人の理由補充書における、レーザーによる表面の洗浄と同時に表面の粗さに影響を与える点、及び、レーザーの出力[W]の大きさの点に関する主張については、上記2で判断したとおりである。 (2)また、請求人は、令和5年4月4日提出の意見書において、引用文献2に記載された発明は、必ずしも、オイルフリースクリュー圧縮機の機械部品の表面を処理するための方法に関するものではなく、その段落【0033】に「基材11上に形成された樹脂膜12は、その摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有してもよい」と記載され、摺動面は、複数の穴に溜まる油により潤滑されてなるものであるところ、オイルフリースクリュー圧縮機は、食品、医薬品、医療分野などの重要な分野で使用されるのに対し、オイルインジェクションスクリュー圧縮機や給油式スクリュー圧縮機は、石油・ガス産業などの一般的な分野で用いられ、上述した重要な分野では、オイルインジェクションスクリュー圧縮機や給油式スクリュー圧縮機は用いられないのが一般的であるから、オイルフリースクリュー圧縮機に係る発明を開示する引用文献1に接した当業者が、潤滑に油を使用する引用文献2に記載された技術を採用することはない旨を主張する。 しかしながら、上記2で説示したとおり、引用発明と引用文献2に記載された技術的事項とは、圧縮機用の機械部品の表面に粗面化処理し、当該粗面化処理された表面にコーティングを施す各ステップを含むものである点で技術分野が関連するとともに作用・機能が共通し、また、当該コーティングを機械部品の表面に密着させるとの課題が内在している点でも共通し、さらに引用文献2にはレーザ光を照射することによるショットブラストを超える利点が開示されることから、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用する動機付けは十分に認められるものである。 さらに、上記で主張する、引用文献2の段落【0033】の「基材11上に形成された樹脂膜12は、その摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有してもよい」との記載は、摺動面が給油式である場合に、コーティングに油溜まりとなる孔を形成しても良いことを記載している程度であって、上記第4の2(3)で認定した引用文献2に記載された技術的事項とは何ら技術的な関連性のない事項である。 してみると、当該段落【0033】の記載のみをもって、引用発明に係るオイルフリースクリュー圧縮機に、引用文献2に記載の「レーザ光を用いて、コンプレッサ用の機械部品の表面に凹凸部のパターンを施すステップであって、前記機械部品の全面にレーザ光を照射して基材に凹凸部を形成することによって、その前の過程で油脂などの不純物を除くための洗浄が不要となり、レーザ光の単位面積当たりのエネルギー強度は、0.229J/mm2以上である、ステップと、凹凸部のパターンを施した機械部品の表面にコーティングを施すステップと、を含むこと。」との技術的事項を適用することの阻害事由となるとは認められない。 また、食品、医薬品、医療分野などの重要な分野に用いられるオイルフリースクリュー圧縮機に対して、圧縮機一般で用いられている技術であっても、食品、医薬品、医療分野での使用により影響のない技術的事項であるならば、当該技術的事項を適用できないということはできない。そして、引用文献2に記載された技術的事項は、「基材にレーザ光を所定の間隔を空けて照射することで表面積を増やし、基材と樹脂膜との接触面積自体を増やすことで密着力を向上させる」(段落【0007】)ための技術であって、潤滑油を要する圧縮機に特有の技術でもなく、むしろ「機材から樹脂が剥離する」(段落【0003】)との課題を解決する技術であることから、食品、医薬品、医療分野などの重要な分野への適用に適した技術であるといえる。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、原査定のとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-016474

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