特許拒絶査定不服審判
2023-010452
口腔内スキャナ
- 審判番号
- 2023-010452
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-569338外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年06月23日
- 審決日
- 2024年10月22日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シロナ・デンタル・システムズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
- 【請求人代理人】高岡 亮一
- 【請求人代理人】小田 直
- 【請求人代理人】高橋 香元
- 分類
- P18 .121-Z (A61B) / P18 .575-Z (A61B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-569338「口腔内スキャナ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月20日国際公開、WO2018/229225、令和2年8月6日国内公表、特表2020-523145〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という)は、2018年(平成30年)6月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年6月14日、(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願である特願2019-569338号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和4年 5月12日付け:拒絶理由通知
令和4年11月16日 :意見書
令和4年11月16日 :手続補正書
令和5年 2月20日付け:拒絶査定
令和5年 6月23日 :審判請求
令和5年 6月23日 :手続補正書
第2 令和5年6月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。
[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である)。
「窓システムを備える口腔内スキャナ(10)であって、
-1Wm-1K-1よりも大きい熱伝導率を有する光学素子(20)と、
-窓(30)であって、プラスチック、ガラス、またはコランダムで作製されたペイン(31)を含み、かつ前記光学素子(20)から1mmよりも小さい平均距離(d)を有する窓(30)と、
-前記光学素子(20)に接続された少なくとも1つの熱源(50)と、を備え、
前記熱源(50)は、前記口腔内スキャナ(10)から前記光学素子(20)の周辺領域及び前記窓(30)に廃熱を伝達するために、熱伝達システムとして設計されており、
前記窓(30)は、前記口腔内スキャナ(10)のカバー(12)内に配設されており、
前記光学素子(20)および前記窓(30)は、コランダムで作製されている、口腔内スキャナ。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年11月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項9の記載は、それぞれ次のとおりである。
「【請求項1】
口腔内スキャナ(10)のための窓システムであって、
-1Wm-1K-1よりも大きい熱伝導率を有する光学素子(20)と、
-窓(30)であって、プラスチック、ガラス、またはコランダムで作製されたペイン(31)を含み、かつ前記光学素子(20)から1mmよりも小さい平均距離(d)を有する窓(30)と、
-前記光学素子(20)に接続された少なくとも1つの熱源(50)と、を備え、
前記熱源(50)は、前記口腔内スキャナ(10)から前記光学素子(20)の周辺領域及び前記窓(30)に廃熱を伝達するために、熱伝達システムとして設計されており、
前記窓(30)は、前記口腔内スキャナ(10)のカバー(12)内に配設されている、窓システム。」
「【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の窓システムを備える口腔内スキャナ(10)であって、前記光学素子(20)および前記少なくとも1つの熱源(50)が、前記口腔内スキャナ(10)に接続され、前記カバー(12)は、前記窓(30)が1mmよりも小さい平均距離で前記光学素子(20)上に配設され得るように、前記口腔内スキャナ(10)上に配設され得る、口腔内スキャナ(10)。」
2.補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項9(請求項1-8を択一的に引用して記載)を、本件補正後の請求項1-6とするものであって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項9に記載された発明のうち本件補正前の請求項1を引用する発明を選択して、さらに、その発明を特定するために必要な事項である「光学素子(20)および窓(30)」について、上記のとおり「コランダムで作製されている」ことの限定を付加するものであって、本件補正前の請求項9に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
なお、本件補正前の請求項9には「前記光学素子(20)および前記少なくとも1つの熱源(50)が、前記口腔内スキャナ(10)に接続され(る)」ことが記載されているところ、本件補正後の請求項1において当該記載は、「口腔内スキャナ」が「光学素子(20)と、」「少なくとも1つの熱源(50)と、を備え」、「熱源(50)は、前記口腔内スキャナ(10)から前記光学素子(20)の周辺領域及び前記窓(30)に廃熱を伝達するために、熱伝達システムとして設計され(る)」とした記載に整理されたと認める。同様に、本件補正前の請求項9には「前記カバー(12)は、前記窓(30)が1mmよりも小さい平均距離で前記光学素子(20)上に配設され得るように、前記口腔内スキャナ(10)上に配設され得る」ことが記載されているところ、本件補正後の請求項1において当該記載は、「前記光学素子(20)から1mmよりも小さい平均距離(d)を有する窓(30)」が「前記口腔内スキャナ(10)のカバー(12)内に配設される」とした記載に整理されたと認める。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という)が、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア.引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2017-513542号公報(平成29年6月1日公表。以下「引用文献1」という)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下、同じ)。
a.「患者の身体、例えば口腔、腹腔等と、それを取り巻く周囲環境との間の温度差は、医療デバイスの窓における水滴の形成を引き起こす場合がある。医療デバイスは例えば、走査デバイス、スコープ、光学機器等であってよい。水滴は医療デバイスの光学的動作に干渉し得る。例えば水滴は、(光を回折、反射等させることによって)光信号の変化を引き起こす場合があり、これは、光信号を劣化させる場合があり、不鮮明な画像等、画像品質が劣化した画像につながる。」(【0002】)
b.「一実施形態では、熱防曇システムは、透明導電層120によってコーティングされた透明素子110(透明基板)からなる熱防曇素子100を含む。一実施形態によると、熱防曇素子100は、走査デバイス、スコープ、光学機器等のデバイスのアパーチャと整列させることができる。熱防曇素子は、受け取った電力に応答して所定の設定温度まで昇温し、これによって水滴を除去する。水滴は、患者の内腔からの湿気、及び周囲温度と患者の内腔の温度との間の温度差によるものであり得る。患者の内腔としては、口腔、腹腔等が挙げられる。」(【0012】)
c.「一実施形態によると、透明阻止110はガラス基板である。しかしながら様々な実施形態において、他の透明基板を使用してよい。例えば透明素子110は、透明プラスチック又は透明ポリカーボネート材料からなってよい。」(【0016】)
(当審注:「透明阻止110」は、「透明素子110」の誤記と認められる。)
d.「上記透明導電層は、上記透明素子の少なくとも一部分を被覆する。一例では、上記透明導電層は、上記透明素子の表面の全体又は略全体を被覆する。上述のように、一例では、防曇素子100の透明導電層は、透明素子を通って伝送される光信号の光学的フットプリントと少なくとも同じ大きさの面積を被覆する。代替例(例えば主ハウジングによって画定されるアパーチャが上記光学的フットプリントよりも小さい場合)では、上記透明導電層は、主ハウジングの開口のサイズであってよい。一例では、導電フィルムは、伝送される光信号の光学的フットプリント全体又は上記光学的フットプリントの一部にわたる環状形状を有する。代替例では、透明導電フィルムが被覆する面積は、上記光学的フットプリントの一部分のみの面積であってよい。しかしながら、上記透明導電フィルムの上記面積は、外部環境に対面する上記透明素子の上記少なくとも1つの側部を、伝送される信号の光学的フットプリントに沿って防曇するために十分な熱を生成するために、十分なものでなければならない。」(【0033】)
e.「図2Cに示す構成を有する医療デバイスが例えば患者の口腔に入ると、上記デバイスは患者に接触することが予想される。従って、図2Cに示す実施形態は、各使用後に消毒する必要がある。各使用後に光学機器を消毒する代わりに、光学機器と、光学機器が挿入され得る患者の体腔との間に、障壁を設けることが望ましい場合がある。図3A~3C及び図4A~4Cに示す実施形態では、患者と光学機器との間に物理的障壁が配置され、これにより、各使用後に上記光学機器及び/又は上記光学機器の防曇素子を消毒する必要をなくすことができる。」(【0035】)
f.「ここで図4A~4Dを参照すると、一実施形態による熱防曇システムの部品が示されている。図4A~4Dに示す実施形態は、図4A~4Dに示す実施形態では副ハウジングが防曇素子を含まない点を除いて、図3A~3Cに示す実施形態と同様である。その代わりに、図2C~2Dに示すものと同様に、防曇素子は光学機器の主ハウジング内に統合される。図4A~4Dに示す実施形態では、副ハウジングは防曇素子を有する代わりに、光信号を光学デバイスから外部環境へと伝送できるように、主ハウジングのアパーチャと整列された透明素子又は窓を有する。副ハウジングは、図3A~3Cに関して説明した副ハウジングの保護スリーブと同様の保護スリーブを形成する。主ハウジングが副ハウジングに連結されている図4Dに示す実施形態では、熱は、主ハウジングによって支持された防曇素子から、副ハウジングの透明素子又は窓の外面へと熱的に伝達される。」(【0051】)
g.「ここで図4Cを参照すると、一実施形態による光学デバイスの副ハウジング310が示されている。図4Cに示す実装形態は、図4Cでは防曇素子の代わりに透明素子450が、副ハウジングのアパーチャ340を被覆するように整列及び位置決めされる点を除いて、図3Aに示す実装形態と同様である。図4Cに示す防曇システムは、副ハウジング310、支持体320及び透明素子450を含む。支持体320は、副ハウジング310に取り付けられるか又は副ハウジング310から延在し、透明素子450を所定の位置に保持する。一実施形態では、透明素子450は、ガラス、プラスチック、ポリカーボネート等の、高い光透過特性を有する材料からなる、図1Aにおいて説明したものと同様の基板である。ここで図4Dを参照すると、一実施形態による、主ハウジングが副ハウジング内に嵌合し、副ハウジング内に物理的に位置するような、主ハウジングに対する副ハウジングの連結が示されている。この実施形態では、主ハウジング250の少なくとも一部分、防曇素子100及びその電気コネクタ360が全て、副ハウジング210によって取り囲まれ、副ハウジング210の支持体220が透明素子450を所定の位置に保持する。一実施形態によると、透明素子450と防曇素子100との間に間隙430が形成される。例えばこの間隙は0.3mmであってよい。」(【0055】)
h.「一実施形態では、間隙430は空気を内包する。しかしながら、上記間隙は、光信号伝送に実質的に干渉しない限り、他のガス又は液体で充填されてよいことが理解される。更に上記間隙は、熱防曇素子100から透明素子450への適切な熱伝達が維持される限り、他のガス又は液体で充填されてよい。防曇素子100が生成する熱の強さに基づいて、異なる厚さの間隙430を用いてよいことが理解される。例えば、生成される熱の強さが増大すれば、間隙430の厚さを増大させてよい。防曇素子100の厚さ及び透明素子450の厚さもまた、防曇素子100が生成する熱の強さに応じて変化させてよいことが理解される。例えば、熱防曇素子100の一方の端部から他方の端部へと熱が十分に伝達されることを保証できるように、熱防曇素子100の厚さを選択する。透明素子450の厚さは、その用途及びその機械的負荷にも左右され得ることに注意しなければならない。例えば透明素子450は、使用時に破損するのを防止できるよう十分な厚さを有していなければならない。」(【0056】)
i.「副ハウジング310は、流体及び他の汚染物質が光学機器の主ハウジング250に到達するのを防止する。副ハウジング310及びこの副ハウジングの透明素子450は、取り外し可能であってよい。例えば副ハウジング310は、取り外して消毒し、異なる複数の患者に対して再使用できる。」(【0059】)
j.「【図4-2】
[図:0001420834000001.jpg]
」
k.「【図4-3】
[図:0001420834000002.jpg]
」
(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a.引用文献1に記載された「医療デバイス」は、光学的に鮮明な「画像」を得るための「走査デバイス」又は「スコープ」であり(上記(ア)a.)、「患者の口腔に入れて」使用することが想定されていること(上記(ア)e.)。
b.当該医療デバイスには、走査デバイスのアパーチャと整列した「熱防曇素子100」があり、それは「透明導電層120によってコーティングされた透明素子110(透明基板)からなる」ものであること(上記(ア)b.)。なお、引用文献1の記載における「熱防曇素子100」と「防曇素子100」は同じ素子を指すと認められるから、以下では「熱防曇素子100」に表記を統一する。
c.図4B~4D(【図4-2】、【図4-3】)及びその参照箇所に記載された実施形態では、医療デバイスが「主ハウジング」と「副ハウジング」を含んで構成され、主ハウジングは熱防曇素子100を有している。これに対し、副ハウジングは、取り外して消毒され、異なる複数の患者に対して再使用できる保護スリーブを形成するものとされ、「透明素子450」を有している。そして、透明素子450と熱防曇素子100との間には間隙430が形成されていて、その間隙は0.3mmとされている。(上記(ア)f.g.i.j.k.)
d.熱防曇素子100の透明導電層120は、透明素子110の「少なくとも一部分を被覆」し、「環状形状を有する」とされ、その面積は「外部環境に対面する上記透明素子(110)の上記少なくとも1つの側部を、伝送される信号の光学的フットプリントに沿って防曇するために十分な熱を生成するために、十分なものでなければならない。」とされている(上記(ア)d.)。この点に関連して、図4B~4D及びその参照箇所に記載された実施形態の場合について、「熱防曇素子100から透明素子450への適切な熱伝達が維持される限り」、「生成される熱の強さ」に応じて、「間隙430の厚さを増大させてよい。防曇素子100の厚さ及び透明素子450の厚さもまた、防曇素子100が生成する熱の強さに応じて変化させてよい」旨も記載されている(上記(ア)h.)。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「患者の口腔に入れて画像を得る医療用の走査デバイスであって、
熱防曇素子100を構成し、ガラス基板で作製された透明素子110と、
前記熱防曇素子100との間に0.3mmの間隙が形成される透明素子450と、
前記熱防曇素子100の透明素子110の一部分に設けられ、環状形状を有する透明導電層と、を備え、
前記環状形状を有する透明導電層は、防曇のために十分な熱を生成するように設計され、且つ、その生成される熱の強さに応じて、熱防曇素子100の透明素子110の厚さ、透明素子450の厚さが選択され、さらに、これら2つの素子の間隙の厚さも、熱防曇素子100から透明素子450に熱が十分に伝達されるように選択されており、前記透明素子450は、支持体320によって保持されて、取り外して消毒され再使用される保護スリーブを形成する副ハウジング310のアパーチャ340を被覆するように整列及び位置決めされており、
前記熱防曇素子100の透明素子110はガラス基板等からなり、透明素子450はガラス等からなる
走査デバイス。」
イ.引用文献4
(ア)同じく原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-88923号公報(以下「引用文献4」という)には、次の記載がある。
a.「また、前記円陣状窓6,6,6,6の円陣内には観察窓7が形成されている。この観察窓7には、熱伝導性の良好な円筒状の伝熱体8の一端が嵌合されている。この伝熱体8の他端は、前記固体撮像素子2の有効撮像面2bをその円筒中空内に含むように密着接合されている。この密着接合により、伝熱体8は固体撮像素子2に発熱する熱を一端側に伝達して後述するカバーガラス9等を温め、同カバーガラス9等の結露現象を防止するとともに、固体撮像素子2の放熱作用を行うように構成されている。
また、伝熱体8の中空内には、一端側から他端側にかけてカバーガラス9および結像光学系を構成する種々のレンズ10…が配設されている。」(第3頁左上欄第8行-右上欄第1行)
b.「ところで、本実施例に係る内視鏡によれば、次のような効果も存する。
一般に、内視鏡の先端構成部1は体腔内の挿入前においては、外気温度によって冷却されており、挿入後は、体内温度によって急に暖められるため、カバーガラス9は、結露現象を起こす。このため、固体撮像素子2に結像される内視像は、各カバーガラス9のくもりが消える迄不鮮明な画像となってしまう。一方、固体撮像素子2はその動作中発熱するため、何らかの方法で冷却してやる必要がある。本実施例は、この固体撮像素子2の冷却とカバーガラス9および結像光学系を温め結露現象を防止する作用を伝熱体8で行うようにしている。また、結像光学系を温める熱は、固体撮像素子2の熱以外にライトガイドファイバ束4の熱を利用することも可能である。この場合には、第4図に示すように伝熱体8に多数のフィン8a,8a…を設け、これらフィン8a,8a…間の所定の位置にライトガイドファイバ束4の分岐束4a,4a,4a,4aを挿通して、各分岐束4a,4a,4a,4aの照明光による熱と、固体撮像素子2からの熱で伝熱体8を温め、この伝熱体の熱でカバーガラス9および結像光学系の結露を防止することができる。」(第3頁左下欄第7行-右下欄第10行)
c.「
[図:0001420834000003.jpg]
」
d.「
[図:0001420834000004.jpg]
」
e.「
[図:0001420834000005.jpg]
」
(イ)上記(ア)の記載において、伝熱体8を温めている固体撮像素子の熱や、ライトガイドファイバ束の各分岐束の熱が、内視鏡の動作中に生じる「廃熱」であることは当業者に明らかであり、また、円筒状である伝熱体8で温められるのが、カバーガラスや結像光学系の「周辺領域」であることも明らかであるから、引用文献4には、次の技術が記載されていると認められる。
「体腔内に挿入される内視鏡において、カバーガラスや結像光学系の結露を防止することを目的として、固体撮像素子やライトガイドファイバ束の各分岐束からの廃熱で温められる伝熱体を設け、当該伝熱体の中空内にカバーガラスや結像光学系を配設しておくことにより、伝熱体の熱でカバーガラスや結像光学系の周辺領域を温め、その結露を防止する技術」
(3)引用発明との対比
ア.本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は、患者の口腔に入れて画像を得る医療用の走査デバイスを対象とし、その窓における水滴の形成を防止する技術(防曇技術)であるから、本件補正発明と、技術分野及び課題が共通する。
(イ)引用発明の「患者の口腔に入れて画像を得る医療用の走査デバイス」は、本件補正発明の「口腔内スキャナ(10)」に相当する。
(ウ)引用発明の「熱防曇素子100を構成する透明素子110」は、本件補正発明の「光学素子(20)」に相当する。
(エ)引用発明の「保護スリーブを形成する副ハウジング310」は、本件補正発明の「口腔内スキャナ(10)のカバー(12)」に相当する。
(オ)引用発明において「透明素子450」はガラス等からなり、「支持体320」によって保持されて副ハウジング310に位置決めされている。すると、引用発明の「透明素子450」と「支持体320」を合わせたものは、本件補正発明の「プラスチック、ガラス、またはコランダムで作製されたペイン(31)を含」む「窓(30)」に相当し、本件補正発明と「前記口腔内スキャナ(10)のカバー(12)内に配設されて(いる)」点で共通するといえる。さらに、引用発明において「透明素子450」は「熱防曇素子100との間に0.3mmの間隙が形成され」ているから、引用発明の「透明素子450」と「支持体320」を合わせたものは、本件補正発明と「前記光学素子(20)から1mmよりも小さい平均距離(d)を有する窓(30)」の点で共通するといえる。
(カ)引用発明の「熱防曇素子100の透明素子110の一部分に設けられ、環状形状を有する透明導電層」と、本件補正発明の「光学素子(20)に接続された少なくとも1つの熱源(50)」はいずれも、水滴の形成を防止するために透明素子110(光学素子20)を温める部材であるから、両者は、「光学素子(20)に接続された少なくとも1つの」熱部材である点で共通するといえる。そして、引用発明の「透明導電層」が「防曇のために十分な熱を生成するように設計され、且つ、その生成される熱の強さに応じて、熱防曇素子100の透明素子110の厚さ、透明素子450の厚さが選択され、さらに、これら2つの素子の間隙の厚さも、熱防曇素子100から透明素子450に熱が十分に伝達されるように選択されて」いる点は、本件補正発明の「熱源」が「光学素子(20)の周辺領域及び前記窓(30)に熱を伝達する熱伝達システムとして設計されて」いる点に相当する。
(キ)引用発明の「熱防曇素子100を構成する透明素子110」と「透明素子450」と「透明素子110の一部分に設けられた透明導電層」とを備えた構成は、本件補正発明の「窓システム」に相当する。
イ.以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「窓システムを備える口腔内スキャナであって、
-光学素子と、
-窓であって、プラスチック、ガラス、またはコランダムで作製されたペインを含み、かつ前記光学素子から1mmよりも小さい平均距離(d)を有する窓と、
-前記光学素子に接続された少なくとも1つの熱部材と、を備え、
前記熱部材は、前記光学素子の周辺領域及び前記窓に熱を伝達するために、熱伝達システムとして設計されており、
前記窓は、前記口腔内スキャナのカバー内に配設されている、口腔内スキャナ。」
(相違点1)
光学素子に接続されて、光学素子の周辺領域及び窓に熱を伝達する熱部材が、本件補正発明では、「口腔内スキャナから」「廃熱を伝達する」熱源であるのに対し、引用発明では、防曇のために十分な熱を「生成する」ように設計された環状形状を有する透明導電層である点
(相違点2)
光学素子を作製する素材が、本件補正発明では「1Wm-1K-1よりも大きい熱伝導率を有する」、「コランダム」であるが、引用発明では「ガラス基板」である点
(相違点3)
窓を作製する素材が、本件補正発明では「コランダム」であるが、引用発明では「ガラス等」である点
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア.相違点1について
引用文献4には、上記(2)イ.で示した技術が記載されている。
引用発明と引用文献4に記載された技術は、いずれも患者の「口腔、腹腔等」の画像を得る医療デバイスに関する技術である点で技術分野が共通しており、また、同デバイスの窓や結像光学系などの透明な光学部材(以下「窓等」という)における水滴の形成を防止する点で課題も共通している。さらに、当該課題を解決するための手段として、引用発明の「環状形状を有する透明導電層」と引用文献4に記載された「円筒状の伝熱体」は、いずれも窓等の周辺領域を温める熱部材であって、その作用・機能が共通している。
してみれば、引用発明で用いられている「環状形状を有する透明導電層」に代えて、引用文献4に記載された「円筒状の伝熱体」の技術を用いるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。すなわち、引用発明の医療デバイスが撮像素子などの動作中に発熱する部分を持つことは明らかであって、その廃熱を利用するように引用文献4に記載された技術で置き換えること、具体的には、環状形状を有する透明導電層に代えて、同デバイスの廃熱を窓等(熱防曇素子100の透明素子110)の周辺領域に伝達する熱部材を設けることは、当業者が容易に為し得たことである。その場合において、当該熱部材は本件補正発明の「熱源」に相当することになる。
イ.相違点2について
熱源を窓等の「周辺領域」に採用する場合に、窓等の全体に熱を良好に伝達する目的で、窓等を作製する素材として熱伝導性の高いサファイア(コランダム)を選択することは、以下に詳述するとおり、当業者が設計的に為し得たことである。
引用発明の「透明導電層」が「環状形状」であり、また、引用文献4に記載された技術における「伝熱体」も「円筒状」であるように、呼気による結露を防止する目的で窓等を温める場合に、熱源を窓等の「周辺領域」に設けることは、光学的な分析を行うデバイスを扱う技術分野では(引用文献1や引用文献4以外でも広く知られた)周知技術であるところ、当該周知技術を採用する際に、窓等を作製する素材として熱伝導性の高いサファイア(コランダムである)を選択することは、当業者が設計的に行っていることである。すなわち、当該周知技術は、光が通過する窓等の中心領域を避けて周辺領域に熱源を設けようとするものであって、窓等の全体に熱を良好に伝達する必要性が伴うことから、窓等を熱伝導性の高い素材で作製することは当業者が設計的に行っている。
例えば、特開平3-25348号公報には、赤外線を用いて「麻酔中の患者の呼吸気中に含まれているCO2量を検出する」センサ装置において、「リング状の帯状加熱導体15が、厚膜技術もしくは薄膜技術で、窓14の加熱装置として取付けられ」ること、及び、「窓14は、サファイアなどの熱伝導性の高い材料製とする。クペットを装着した場合に、クペットのガラス13に窓14が密接するようにすることによって、加熱導体15からクペットのガラス13への良好な熱伝達が可能になる。これによって、水蒸気がガラス13の内面に凝縮するのが防止される」ことが記載されている(同文献第5頁左上欄第19行-右上欄第1行、及び、右下欄第1行-第12行)。また、特表平9-510550号公報には、患者の呼気中の二酸化炭素の濃度を監視する含医療用ガス分析器において、「適当な加熱装置114がホルダー窓112の各々の面に、サンプルセル12と反対に面して設けられてサンプルセル窓122に加熱を加える。好ましい実施形態では、加熱装置はリング形加熱トラック114からな(る)」こと、及び、「窓112はサファイヤのような熱伝導性の良好な材料で作られる。サンプルセル120を適所に着座させたときには、窓112はサンプルセル窓122と「熱接触」(物理的な接触ではないが)する。この方法で、熱エネルギーはサンプルセル120に流れ、その温度は水蒸気の凝縮点以上に維持され、それによって、窓の曇り及び赤外線ビームの吸収及び分散を防止する」ことが記載されている(同文献第7頁第15-16行、第18頁最下行-第19頁第12行)。
すると、上記ア.で検討した、引用発明に引用文献4に記載された技術を適用する場合であっても、その窓等を作製する素材として熱伝導性の高いサファイア(コランダム)を選択することは、当業者が設計的に為し得たことである。
ウ.相違点3について
光学的な分析を行うデバイスを扱う技術分野において、デバイスの外部環境に曝される部分に配設される窓等に耐久性が求められることは周知の課題であって、そのため、そのような部分の窓等を作製する素材として耐久性の高いサファイア(コランダム)を採用することは、当業者において設計的に行われている。
例えば、原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-61273号公報には、「消毒・滅菌の際にその環境に直接置かれる製品の外面を構成する光学部品は、極めて高い耐久性が要求される。上述した合成サファイア等の光学結晶は、通常の光学ガラスに比較して高い光学的安定性を有しているので、このような光学部品の構成材料として好適である」こと(【0052】)、及び、「対物レンズ、照明用レンズの最も物体側のレンズ、あるいはカバーガラス、接眼レンズのカバーガラス、アダプターのカバーガラス等、外面に出ている部分をサファイアで構成することが望ましい」こと(【0053】)が記載されている。また、特許6064105号公報には、最も物体側に位置する「第1の負レンズ」の素材について「機械的耐久性に優れるサファイアとすることが好ましい。サファイアであれば、素材そのものとしても傷付きづらい」と記載している(【0148】)。
してみれば、引用発明において、口腔内スキャナ(医療デバイス)の最も物体側に位置し、取り外して消毒され再使用されるカバー(副ハウジング)に配設される窓(透明素子450)について、その耐久性を高めることを目的として、その窓を作製する素材としてサファイア(コランダム)を選択することは、当業者が設計的に為し得たことである。
エ.そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献4に記載された技術、及び、上記の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
オ.したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和5年6月23日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和4年11月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1.(2)に記載のとおりのものである。
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-2に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献4に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。
引用文献1:特表2017-513542号公報
引用文献4:特開昭60-88923号公報
3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献4、及びその記載事項は、前記第2の[理由]2.(2)に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2.で検討した本件補正発明(窓システムを備える口腔内スキャナ)の構成の一部(窓システム)に係る発明であって、さらに「前記光学素子(20)および前記窓(30)は、コランダムで作製されている」ことの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-010452