特許拒絶査定不服審判
2023-001440
VEGFR-2抗体
- 審判番号
- 2023-001440
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-536542外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年01月27日
- 審決日
- 2024年11月12日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】へリックス バイオファーマ コープ.
- 【請求人代理人】石川 徹
- 分類
- P18 .121-Z (C12N) / P18 .574-Z (C12N) / P18 .575-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-536542「VEGFR-2抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月12日国際公開、WO2018/126316、令和 2年 3月 5日国内公表、特表2020-506675〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年 1月 4日(パリ条約による優先権主張 2017年 7月21日 2017年 4月28日 2017年 4月 3日 2017年 1月 5日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年12月 7日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 6月14日 手続補正書・意見書の提出
令和 4年 9月21日付け 拒絶査定
令和 5年 1月27日 審判請求書・手続補正書の提出
令和 5年 3月 9日 審判請求の理由についての手続補正書(方式)の提出(以下、「審判請求の理由補充書」という。)
第2 令和5年1月27日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年1月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
令和5年1月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項3を以下のように補正することを含むものである。
補正前:
「【請求項1】
配列番号2~10のいずれか1つの配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2~10のいずれか1つの配列からなるポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、VEGFR-2に結合する、請求項1又は2記載のポリペプチド。」
補正後:
「【請求項1】
配列番号2~10のいずれか1つの配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2~10のいずれか1つの配列からなるポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、VEGFR-2のエピトープに結合する、請求項1又は2記載のポリペプチド。」(下線部は、補正箇所である。)
2 補正の適否
審判請求人は、令和5年3月9日付け審判請求の理由補充書において、補正後請求項3について、記載内容をより明確にしたと述べている。しかし、この補正は、拒絶理由に示す事項についてするものではないから、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正には該当しない。
また、記載内容をより明確にしたということであれば、補正前の発明から実質的に変更されていないと認められるから、この補正は、特許請求の範囲を限定的に減縮する補正にも該当しない。
さらに、この補正が、請求項の削除、誤記の訂正を目的とする補正に該当しないことも明らかである。
そうすると、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
3 独立特許要件について
上記2で述べたように、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるが、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか(本件補正後の請求項3に係る発明(以下、「本願補正発明3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前の2010年9月16日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、国際公開第2010/102518号(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(引用文献1は中国語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。また、下線は当審にて付加したものである。以下、同様である。)
(ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合蛋白質の多量体であって、融合タンパク質の多量体における融合タンパク質は成分Aと成分Bによって構成され、そのうち成分Aは単一ドメイン抗体であり、成分Bは融合タンパク質を多量体化するポリペプチドであって、TNF-α、ACRP30、p53、COMP、C4Bp又はこれらの変異体に由来するポリペプチド配列に由来する。
(略)
【請求項4】
前記単一ドメイン抗体が、黒色腫抗原MART-1抗体、黒色腫抗原gp100抗体、CEA-6抗体、EGFR抗体またはVEGFR抗体であることを特徴とする、請求項1に記載の融合蛋白質の多量体。」
(イ)
「標的療法」は腫瘍の異なる特定部位に基づいており、抗腫瘍薬は標的を絞って作用して腫瘍細胞を殺すが、正常組織への影響は少なくなる。これは現在最も理想的な治療モードである。「標的療法」にはさまざまな戦略が含まれており、直接的なものと間接的なものの2つに分けられる。
直接的な戦略は、抗原に結合する抗体または低分子薬物によって、腫瘍関連または特定のタンパク質のシグナル伝達を直接変更することである。たとえば、上皮成長因子受容体 (EGFR) と血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR)は、腫瘍細胞の増殖、成長、浸潤、転移などに密接に関連しており、どちらも多くの腫瘍細胞と腫瘍血管内皮細胞に存在する。高発現は抗腫瘍の理想的なターゲットであり、抗体を使用してこれらのターゲットに結合し、腫瘍細胞の増殖と転移を阻害することができる。
・・・・
抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域をクローニングした後に得られる最小の抗原認識結合単位は、単一ドメイン抗体と呼ばれる。単一ドメイン抗体は、必要に応じて、ヒト、マウス、ウサギなど、異なる種から得ることができる。ヒト抗体の可変領域から得られた単一ドメイン抗体は、臨床使用の観点から、理論的には免疫原性があるはずである。通常、ヒト抗体は生体内で重鎖と軽鎖に結合するため、ヒト単一ドメイン抗体は単独で存在すると凝集しやすい。しかし、ファージ技術とin vitro加熱によって、抗凝集ヒト単一ドメイン抗体ライブラリをスクリーニングすることができる。さらに、DNA増幅技術によって、より大きなライブラリ容量の抗凝集ヒト単一ドメイン抗体ライブラリが得られる(Christ et al、Protein Eng Des Sel、20、2007、413-416)。このライブラリから、臨床応用価値のあるヒト単一ドメイン抗体をスクリーニングすることができる。
単一ドメイン抗体は、従来の抗体に加えて、特定のクラスの抗体から派生することもできる。ラクダ科動物(ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマ、アルパカなど)や軟骨動物(サメなど)には、軽鎖を欠いた天然の抗体が存在するが、ラクダ科では重鎖抗体と呼ばれ、Ig-NAR抗体(免疫グロブリン様新規抗原受容体)と呼ばれる、重鎖抗体の可変領域からなる抗体、または1つの重鎖可変領域のみからなるIg-NARは、VHH抗体(重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン、VHH)またはV-NAR抗体(Ig-NARの可変ドメイン)と呼ばれる、VHH抗体およびV-NAR抗体も、単一ドメイン抗体に属する。
単一ドメイン抗体は現在発見されている抗体の中で最も小さいものである。単一ドメイン抗体の利点は次のとおりである。
1) 分子量はわずか15KD程度で、一般的な抗体の10分の1の大きさである。サイズが小さいため、単一ドメイン抗体は臨床応用時に体組織に浸透しやすく、抗体の遺伝子工学を行う際の操作が簡単である。同時に、最小の抗体であるため、相補性決定領域(CDR)は3つだけであり、ライブラリ構築プロセスはよりシンプルである。
2) 単一ドメイン抗体構造のため、他の小分子抗体よりも溶解性が高く、凝集体を形成しにくい。
3)単一ドメイン抗体の構造は安定しており、VHH抗体を37℃に1週間置いたり、高温条件(90℃)に置いても安定していることが確認されている。
4) 単一ドメイン抗体は大腸菌内で大量に発現できるため、低コストで作製できるという利点がある。
・・・・
本発明の目的は、単一ドメイン抗体の低親和性と標的抗原との結合時間が短いという問題を解決するための融合タンパク質多量体を提供することである。」(第1頁第5行~第2頁第8行)
(ウ)
「V21COMP融合タンパク質五量体(単一ドメイン抗体V21をCOMPのAA29-76に融合、抗VEGFR)」(第2頁第34行および第4頁第16行)
(エ)
「配列番号9および10は、抗VEGFR遺伝子およびそのタンパク質の配列である。」(第11頁第20行)
(オ)
[図:0001420684000001.jpg]
(配列表)
(カ)
[図:0001420684000002.jpg]
(図1)
イ 周知文献1の記載事項
本願の優先日前の1992年6月15日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、社団法人日本生化学会編、新生化学実験講座1 タンパク質VI 合成および発現、pp.343-351(以下、「周知文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(キ)
「19・1 はじめに
タンパク質の合成は、原核細胞生物やミトコンドリア、葉緑体ではホルミルメチオニンを、真核細胞生物ではメチオニンをN末端アミノ酸として開始される。ついで、ペプチド鎖合成途上、ホルミル基が除去され、さらにタンパク質によっては開始メチオニン(Met1)が脱離される。その後、Met1の脱離によって新しく出現したN末端アミノ酸残基あるいはそのまま残ったMet1が、多くの真核細胞の細胞内タンパク質や一部の原核細胞のタンパク質においてはアシル化やアルキル化の修飾を受ける。ここでは、この新生タンパク質のN末端部位におけるプロセシングと修飾について、最近までに明らかになった知見をその分析法とともに述べる。」(p.343第1段落)
(ク)
「19・2・2 開始メチオニン(Met1)の脱離
タンパク質によってはホルミル基の除去に続いてMet1の脱離が起こる。(略)大腸菌メチオニル-tRNA-シンテターゼやヒト成長ホルモンのN末端変異体(Met1-X:Xは任意のアミノ酸)の大腸菌での発現系での実験からMet1に続くアミノ酸残基の側鎖の大きさによってMet1の去就が決まることが示唆されている。これについては、真核細胞のタンパク質の場合も同様であるので、詳しくは§19・3・1で述べる。特定のタンパク質を大量に大腸菌などを宿主細胞に用いて発現させた場合、天然型のタンパク質では、Met1がN末端から脱離するのに、人工型のタンパク質では部分的にそのままMet1がN末端に付加していることもしばしば観察される。これもホルミル基の場合同様、そのタンパク質の合成量と宿主細胞におけるMAPの作用能力との相対的な関係として解釈されている。」(p.346最終段落-p.347第1段落)
(ケ)
「19・3 真核細胞タンパク質のN末端プロセシング
19・3・1 開始メチオニン(Met1)の脱離
真核細胞においても、ペプチド鎖の合成開始シグナルであるMet1は、タンパク質によっては脱離する。このMet1の脱離については、Met1を含むN末端部位のアミノ酸配列が遺伝子から推定されかつ成熟体のタンパク質のN末端アミノ酸が同定されているタンパク質のデータベースから、Met1に続く第2番目のアミノ酸によってその去就が決まる可能性が示唆されてきた1),2)。(略)これから、側鎖の回転半径が1.43Åより小さいアミノ酸残基であるGly、Ala、Ser、Cys、Thr、Pro、ValがMet1に続くときは、Met1は脱離し、それより大きいアミノ酸残基であるMet、Asp、Asn、Leu、Ile、Gln、Glu、His、Phe、Lys、Tyr、Trp、ArgがMet1に続くときは、Met1は成熟タンパク質のN末端アミノ酸として残存することが示された。」(p.349最終段落-p.351第10行)
ウ 周知文献2
本願の優先日前の平成8年7月9日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、特表平8-506243号公報(以下、「周知文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「原核宿主細胞は、翻訳後修飾を行うのに必要とされる酵素機構を有しておらず、そのために真核遺伝子産物は、その修飾されていない形態で必ず産生されるであろう。さらに、産物は、高度に発現された宿主タンパクのN-末端セグメントに対応するN-末端セグメントをよりしばしば含む、N-末端延長(N-terminal extension)、すなわち必要とされる翻訳開始コドンから生じる少なくとも1つの追加のメチオニン残基を含んで合成されなくてはならない。」(第15頁第26行-第16頁第4行)
エ 周知文献3の記載事項
本願の優先日前の2015年12月30日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、国際公開第2015/197737号(以下、「周知文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(周知文献3は英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)。
「特異的な開始シグナルを使用して、目的のポリペプチドをコードする配列のもっと効率の良い翻訳を達成することができる。このようなシグナルには、ATG開始コドンおよび隣接配列がある。ポリペプチドをコードする配列、その開始コドン、および上流配列が適当な発現ベクターに挿入される場合、追加の転写もしくは翻訳調節シグナルは必要がないかもしれない。しかしながら、コード配列のみ、またはその一部だけが挿入される場合には、ATG開始コドンなどの外来転写調節シグナルが提供されるべきである。さらに、開始コドンは、確実に挿入物全体の翻訳が行われるように正しい読み枠に存在しなければならない。外来翻訳エレメントおよび開始コドンは、さまざまな起源、天然でも合成であってよい。例えば文献に記載されるような、使用される個別の細胞系に適したエンハンサーを含有することによって、発現効率を高めることができる(Scharf. et al., Results Probl. Cell Differ. 20:125-162 (1994))。」(第34頁第28行-第35頁第5行)
オ 周知文献4の記載事項
本願の優先日前の2016年11月10日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、国際公開第2016/177797号(以下、「周知文献4」という。)には、以下の事項が記載されている(周知文献4は英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)。
「実施例1:Amuc-1100タンパク質を産生するように遺伝子改変された細菌の作製方法:
成熟したAmuc-1100をコードするポリヌクレオチド(配列番号2のヌクレオチド配列)を、pET28誘導体の誘導T7プロモーターの制御下でC末端Hisタグと共に大腸菌TOP10にクローニングし、過剰産生のために大腸菌BL23(DE3)の中に導入した。この目的のために、得られるポリペプチドがアミノ酸配列MIVNSで開始するように、ATG開始コドンを配列番号2のヌクレオチド配列に追加した。全ての構築物をSanger配列分析によって確認した。過剰発現されたAmuc-1100を保有する構築物により、Niカラム親和性クロマトグラフィーによって見た目が均質になるまで精製した可溶性Amuc-1100タンパク質の過剰産生が得られ、100~300ug/mlの濃度で使用した。精製したAmuc-1100を使用して、先に記載したように本質的にウサギにおいて抗体を産生した(Reunanen Jら 2012, Appl Environ Microbiol 78:2337-44)。」(第24頁第2-15行)
カ 周知文献5の記載事項
本願の優先日前の平成12年4月11日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、特表2000-504223号公報(以下、「周知文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「MSA1C-(Si,nA)、MSA1C-(nSi,nA)、MSA1C-(nSi,A)フラグメントはシグナル配列のすぐ下流側に108bpの領域を含んでおり、読み枠を保存するためにC末端の5’末端に2bpが追加してある。また、開始コドンを含むシグナル配列が欠けている2つのフラグメントに対しては開始コドンが付加され、アンカー領域が欠如する2つのフラグメントに対しては停止コドンが付加された。」(第35頁下から8行-下から3行)
キ 周知文献6の記載事項
本願の優先日前の平成13年11月20日に日本国内または外国において頒布された刊行物である、特表2001-523081号公報(以下、「周知文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。
「さらに、核酸配列は、配列番号1で示される核酸またはその誘導体の5’-末および/または3’-末での、少なくとも1つのヌクレオチドの追加、削除または代替の結果もたらされるタンパク質を含んでいる。この点において、いかなるヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、追加、削除、または代替がヌクレオチド配列によりコードされる配列番号2のアミノ酸配列を変えない限り、用いられる。例えば、本発明は、発明のヌクレオチド配列またはその誘導体の5’-末における開始コドンとしてのATGの追加より、または発明のヌクレオチド配列またはその誘導体の3’-末における終了コドンとしてのTTA,TTGまたはTGAの追加により得られるいかなるヌクレオチド配列をも含むことを意図している。さらに、本発明の核酸分子は、必要に応じて、その5’-末および/または3’-末に加えられた制限エンドヌクレアーゼ認識部位を有する。」(第30頁第17-27行)
(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1は、融合タンパク質が成分Aと成分Bによって構成され、そのうち成分Aは単一ドメイン抗体であり、成分Bは融合タンパク質を多量体化するポリペプチドであって、TNF-α、ACRP30、p53、COMP、C4Bp又はこれらの変異体に由来するポリペプチド配列に由来する、前記融合タンパク質の多量体に基づく発明を開示する特許文献であって(上記(1)ア(ア)請求項1)、前記単一ドメイン抗体がVEGFR抗体であること(上記(1)ア(ア)請求項4、(ウ))、配列番号10の配列がVEGFR抗体のアミノ酸配列であること(上記(1)ア(エ))が記載されている。そうすると、引用文献1には、配列番号10の配列を含む抗VEGFR単一ドメイン抗体、及び成分Aが配列番号10の配列を含む抗VEGFR単一ドメイン抗体である融合タンパク質が記載されていると認められる。そして、前記抗VEGFR単一ドメイン抗体及び前記融合タンパク質は、いずれも、ポリペプチドに該当する。
したがって、引用文献1には、
「下記の配列番号10の配列を含むポリペプチド」(以下、「引用発明」という。)
が記載されている。
[図:0001420684000003.jpg]
(3)本願補正発明3のうち配列番号2に係る発明(以下、本願補正発明3-2という。)と引用発明との対比
本願補正発明3-2と引用発明を対比する。
引用発明における配列番号10の配列は、下記の本願の配列番号2の配列の1番目のメチオニン(Met)残基を含まない配列に相当するから(上記(1)ア(オ))、本願の配列番号2の配列を含む単一ドメイン抗体と同一の相補性決定領域を有しており(本願の【0065】段落参照)、その周囲のフレームワーク領域の配列も一致している。その結果、引用発明である配列番号10の配列を含むポリペプチドは、本願の配列番号2の配列を含む単一ドメイン抗体と同様に、VEGFR-2のエピトープに結合すると認められる。
[図:0001420684000004.jpg]
そうすると、本願補正発明3-2と引用発明は、
「VFGFR-2のエピトープに結合する、配列番号2の2-122番目の配列を含むポリペプチド」
である点で一致し、
以下の点で相違すると認められる。
(相違点)
本願補正発明3-2は、前記ポリペプチドが配列番号2の1番目のMet残基を含むのに対し、
引用発明は、前記ポリペプチドが配列番号2の1番目のMet残基を含むことが記載されていない点。
(4)判断
タンパク質の合成は、細胞内でホルミルメチオニン又はメチオニンをN末端アミノ酸として開始されるものの、開始メチオニン(Met1)は、場合によっては脱離される(上記(1)イ(キ))。Met1が脱離されるタンパク質であっても、組換えタンパク質として合成する際には、N末端に開始コドンとしてMet残基を付加した遺伝子を用いなければならないことは、本願の優先日当時、広く知られている(上記(1)ウ-キ)。
ここで、引用発明であるポリペプチドの一つである融合タンパク質においては、単一ドメイン抗体を意味する単区抗体が、N末端側に配置されていることがみてとれる(上記(1)ア(カ)図1A)。そうすると、引用発明であるポリペプチドを組換えタンパク質として合成するにあたり、そのN末端に開始コドンとしてMet残基を付加する遺伝子を用いることは、当業者が当然に行うことにすぎない。そして、本願の配列番号2の2番目のアミノ酸はGlnであるから、Met1が脱離されずに、本願の配列番号2の1-122番目の配列を含むポリペプチドが得られる可能性が高い(上記(1)イ(ク)(ケ))。仮に、付加したMet1が脱離されやすいとしても、必ずしも全てのMet1が脱離されるとは限らないから(上記(1)イ(ク))、本願の配列番号2の1-122番目の配列を含むポリペプチドも得られると期待される。
したがって、引用発明に接した当業者が、組換えタンパク質として合成するにあたってそのN末端に開始コドンとしてMet残基を付加する遺伝子を用いることにより、本願の配列番号2の1-122番目の配列を含むポリペプチドを得て本願補正発明3-2に至ることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、これにより、当業者の予測し得ない顕著な効果が奏されることが示されているとも認められない。
したがって、本願補正発明3は、引用文献1に記載された発明及び本願優先日当時の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
(5)審判請求人の主張について
ア 審判請求人の主張
審判請求人は、同審判請求の理由補充書において、要するに以下の旨、主張している。
(ア)配列番号10は何ら特徴付けされていないこと
引用文献1において、配列番号10のペプチドがVEGFR-2に結合する単一ドメイン抗体であることは明確には開示されておらず、配列番号10のペプチドがV21であることも明確には記載されていない。さらに、引用文献1において、配列番号10の配列は、何ら特徴付けもされておらず、VEGFR-2(VEGFRについても)への結合に関与するCDRの特定や、結合の親和性・特異性についても何ら検討されていない。
配列番号10のペプチドそれ自身どのような特性を有するのか、また、配列番号10のペプチドが単一ドメイン抗体であるのかどうかなどについては何ら開示も示唆もされていない。
本願発明に係る配列番号2のポリペプチドは、いずれも3つのCDR領域を有し、単一ドメイン抗体として機能するものである。本願発明は全体として、VEGFR-2に特異的な単一ドメイン抗体として配列番号2のポリペプチドに関するものであり、当該配列において、結合に関与する3つのCDRが明確に特定される。また、本願明細書中には、抗VEGFR-2抗体の作製、結合特性(親和性と特異性)、CDR領域の特徴付けといったデータが具体的に開示されている(実施例)。こうした検討は、引用文献1には一切開示されていない。
(イ)引用文献1に接した当業者が単一ドメイン抗体の使用に期待を抱かないこと
引用文献1には、単一ドメイン抗体の利点と欠点が開示されているが、その一方で、引用文献1記載の発明は、単一ドメイン抗体の低親和性及び標的抗原への短い結合時間という欠点を解決するために融合タンパク質多量体を提供することを目的とすることが記載されている(2頁、7~8行)。
引用文献1は、単一ドメイン抗体の使用ではなく、特定の融合タンパク質多量体の使用を開示するものであり、本願補正発明3-2に係る配列番号2のポリペプチドの単一ドメイン抗体の有用性を当業者に教示し、動機付けさせるものではない。
こうした記載を考慮すると、当業者であれば、単一ドメイン抗体の使用について期待を抱かない。また、引用文献1のどこにも、高い親和性でVEGFR-2を標的とするように具体的に製造された単一ドメイン抗体のみを用いてVEGFR-2と関連する癌を治療すること等について開示も示唆もされていない。
イ 判断
(ア)審判請求人の主張(ア)について
上述のとおり、引用文献1には、配列番号10は、抗VEGFRのタンパク質の配列であること(上記(1)ア(エ))、分子量が15KD程度のものは単一ドメイン抗体であり、一般的な抗体の10分の1の大きさがあること(上記(1)ア(イ))が記載されている。さらに、アミノ酸120残基程度のものの分子量は概ね15KD程度であり、単一ドメイン抗体であることと矛盾がないこと、抗VEGFRである単一ドメイン抗体V21について記載されているが、配列番号10の他に抗VEGFRである単一ドメイン抗体V21と解される抗体が存在しないことを併せて考慮すれば、引用文献1に接した当業者は、CDRの特定は、結合の親和性・特異性について検討された記載がなくとも、配列番号10のアミノ酸配列からなる抗VEGFRすなわちVEGFR抗体は、単一ドメイン抗体であると理解できる。
また、引用文献1に記載の融合タンパク質において、成分Aである単一ドメイン抗体の抗原結合性が失われていることをうかがわせる記載は見いだせない。そして、上記(3)で述べたとおり、配列番号10の配列は、本願の配列番号2の配列の1番目のメチオニン(Met)残基を含まない配列に相当し(上記(1)ア(オ))、本願の配列番号2の配列を含む単一ドメイン抗体と同一の相補性決定領域を有しており(本願の【0065】段落参照)、その周囲のフレームワーク領域の配列も一致している。そうすると、CDRの特定や結合の親和性・特異性の確認がなされているか否かに関わらず、引用発明における配列番号10の配列を含むポリペプチドは、本願の配列番号2の配列を含む単一ドメイン抗体と同様の立体構造を形成し、VEGFR-2のエピトープに結合すると認められるから、審判請求人の主張(ア)は採用することができない。
(イ)審判請求人の主張(イ)について
引用文献1は、単一ドメイン抗体の利点を様々挙げた上で、さらに単一ドメイン抗体の低親和性及び標的抗原への短い結合時間という欠点を解決するために、融合タンパク質多量体とすることを開示したものであるが、上記(1)ア(イ)のとおり、血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR)は、腫瘍細胞の増殖、成長、浸潤、転移などに密接に関連しており、多くの腫瘍細胞と腫瘍血管内皮細胞に存在し、抗腫瘍の理想的なターゲットであり、抗体を使用してこれらのターゲットに結合し、腫瘍細胞の増殖と転移を阻害することも、抗体の一つとして単一ドメイン抗体に様々な利点があることも開示されているのみならず、単一ドメイン抗体は本願優先日当時医薬品として様々な臨床開発が進められていた。したがって、請求人の「当業者であれば、単一ドメイン抗体単体の使用について期待を抱かない。」という主張は、引用文献1の記載に基づくものとも、技術常識と合致するともいえず、採用することはできない。
また、本願補正発明3-2の発明特定事項は、「VFGFR-2のエピトープに結合する、配列番号2の配列を含むポリペプチド」であって、他のペプチドとの融合タンパク質であることを除外しておらず、単一ドメイン抗体であることを特定していないものであるから、本願補正発明3-2は単一ドメイン抗体そのものであるという前提でなされている審判請求人の主張(イ)は、発明特定事項に基づくものではなく、失当という他はない。
4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであって、仮に、本件補正が、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するとした場合であっても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明3について
1 本願発明3
令和5年1月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1-3に係る発明は、令和4年6月14日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
配列番号2~10のいずれか1つの配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2~10のいずれか1つの配列からなるポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが、VEGFR-2に結合する、請求項1又は2記載のポリペプチド。」
(以下、本願の請求項3に係る発明を「本願発明3」という。)
2 原査定の拒絶の理由の概要
令和4年9月21日付け拒絶査定は、この出願の請求項3に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、との理由を含むものである。
3 引用文献およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1およびその記載事項は、前記第2の3(1)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明3は、本願補正発明3の「VEGFR-2のエピトープに結合する」との記載を、「VEGFR-2に結合する」としたものである。本願発明3及び本願補正発明3であるポリペプチドは、いずれも、抗VEGFR-2単一ドメイン抗体である配列番号2の配列を含むから、VEGFR-2に対して、当然にそのエピトープに結合するものであり、実質的に同一であると認められる。よって、本願発明3と引用発明を対比すると、上記相違点の他に、新たな相違点を有さない。
そして、上記第2の3(2)~(5)に示したとおり、本願補正発明3は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明3も、同様に、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-001440