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特許拒絶査定不服審判

2022-014871

胎児ヘモグロビンの発現を増加させる方法

審判番号
2022-014871
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-523720
請求日
2022年09月20日
審決日
2024年06月05日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】▲広▼州▲輯▼因医▲療▼科技有限公司
  • 【請求人代理人】弁理士法人栄光事務所
審判長/審判官
  • 審判長 福井 悟
  • 審判官 天野 貴子
  • 審判官 小金井 悟
分類
P18 .113-Z (C12N) / P18 .121-Z (C12N) / P18 .575-Z (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-523720「胎児ヘモグロビンの発現を増加させる方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月 2日国際公開、WO2019/080917、令和 3年 1月28日国内公表、特表2021-502062〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年10月27日、CN(中国))を国際出願日とする出願であって、令和3年7月16日付けの拒絶理由の通知に対し、令和4年1月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年5月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 令和4年9月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和4年9月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項4の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項4の記載は、次のとおりに補正された。(下線部は、補正箇所である。) 補正後の【請求項4】 「胎児ヘモグロビン(HbF)の増加した発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記ヒト造血幹細胞の2番染色体上の、CTTCCT配列の上流0~15個のヌクレオチドから当該CTTCCT配列の下流0~15個のヌクレオチドまでのBCL11Aゲノム領域のsgRNAが造血幹細胞に導入され、前記BCL11Aゲノム領域がchr2:60495236とchr2:60495271との間にあり、 前記遺伝子改変が、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術によるものであり、前記CRISPR/Cas9遺伝子編集技術は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAを前記ヒト造血幹細胞に導入するものであり、かつ sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとがエレクトロポレーションによって一緒に前記ヒト造血幹細胞に導入されており、 前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、 ヒト造血幹細胞。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項4の記載 本件補正前の特許請求の範囲の請求項4の記載は、令和4年1月26日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項4に記載された、次のとおりのものである。 補正前の【請求項4】 「胎児ヘモグロビン(HbF)の増加した発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記ヒト造血幹細胞の2番染色体上の、CTTCCT配列の上流0~15個のヌクレオチドから当該CTTCCT配列の下流0~15個のヌクレオチドまでのBCL11Aゲノム領域のsgRNAが造血幹細胞に導入され、前記BCL11Aゲノム領域がchr2:60495236とchr2:60495271との間にあり、 前記遺伝子改変が、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術によるものであり、前記CRISPR/Cas9遺伝子編集技術は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAを前記ヒト造血幹細胞に導入するものであり、かつ sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとがエレクトロポレーションによって一緒に前記ヒト造血幹細胞に導入されている、 ヒト造血幹細胞。」 2.補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項である「sgRNA」を「前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである」と限定するものであって、補正前の請求項4に記載された発明と補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項4に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)補正後の本願発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項及び引用発明の認定 ア 引用文献の記載事項 令和4年5月9日付け拒絶査定の理由(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項)で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2017/115268号(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。 (引用文献1は英文で記載されているため、訳文として、対応する日本国出願の公表公報である特表2019-500043号公報の記載を示すとともに、その後に、各記載の引用文献1における箇所を()書きで付記する。下線は当審による。) 【特許請求項の範囲】 (ア)請求項1、4、9、40、43のgRNA分子 「【請求項1】 tracrとcrRNAとを含むgRNA分子であって、前記crRNAは、BCL11A遺伝子(例えば、ヒトBCL11a遺伝子)、BCL11aエンハンサー(例えば、ヒトBCL11aエンハンサー)、またはHFPH領域(例えば、ヒトHPFH領域)の標的配列に相補的な標的化ドメインを含む、gRNA分子。」 「【請求項4】 前記標的配列は、BCL11aエンハンサーのものであり、かつ前記標的化ドメインは、配列番号182~配列番号277または配列番号334~配列番号341のいずれか1つを含む、例えばそれからなる、請求項1に記載のgRNA分子。」 「【請求項9】 前記標的化ドメインは、配列番号338を含む、例えばそれからなる、請求項4に記載のgRNA分子。」 「【請求項40】 前記gRNA分子を含む前記核酸分子の1つまたは任意選択で2つ以上は、 a)前記1つまたは複数の核酸分子の3’末端における1つ以上、例えば3つのホスホロチオエート修飾; b)前記1つまたは複数の核酸分子の5’末端における1つ以上、例えば3つのホスホロチオエート修飾; c)前記1つまたは複数の核酸分子の前記3’末端における1つ以上、例えば3つの2’O-メチル修飾; d)前記1つまたは複数の核酸分子の前記5’末端における1つ以上、例えば3つの2’O-メチル修飾; e)前記1つまたは複数の核酸分子の末端から4番目、末端から3番目、および末端から2番目の3’残基の各々における2’O-メチル修飾; f)前記1つまたは複数の核酸分子の末端から4番目、末端から3番目、および末端から2番目の5’残基の各々における2’O-メチル修飾;または f)これらの任意の組み合わせ を含む、請求項1~39のいずれか一項に記載のgRNA分子。」 「【請求項43】 配列: (a)配列番号347; (b)配列番号348;または (c)配列番号1763 を含む、例えばそれからなる、請求項1に記載のgRNA分子。」 (イ)請求項87、88、92、113、125、130、131、137、142の組成物及び方法 「【請求項87】 1)請求項1~86のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子(第1のgRNA分子を含む)、およびCas9分子; 2)請求項1~86のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子(第1のgRNA分子を含む)、およびCas9分子をコードする核酸; 3)請求項1~86のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子(第1のgRNA分子を含む)をコードする核酸、およびCas9分子; 4)請求項1~86のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子(第1のgRNA分子を含む)をコードする核酸、およびCas9分子をコードする核酸;または 5)前記1)~4)のいずれか、および鋳型核酸;または 6)前記1)~4)のいずれか、および鋳型核酸をコードする配列を含む核酸 を含む組成物。 【請求項88】 Cas9分子をさらに含む、請求項1~86のいずれか一項に記載の第1のgRNA分子を含む組成物。」 「【請求項92】 前記第1のgRNA分子およびCas9分子は、リボ核タンパク質複合体(RNP)に存在する、請求項88~91のいずれか一項に記載の組成物。」 「【請求項113】 エレクトロポレーションに好適な媒体中に製剤化される、請求項87~112のいずれか一項に記載の組成物。」 「【請求項125】 細胞(例えば、細胞の集団)を前記細胞内の標的配列でまたはその近傍で改変する(例えば、核酸の構造(例えば、配列)を改変する)方法であって、前記細胞(例えば、細胞の集団)を、 1)請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子、およびCas9分子; 2)請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子、およびCas9分子をコードする核酸; 3)請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子をコードする核酸、およびCas9分子; 4)請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子をコードする核酸、およびCas9分子をコードする核酸; 5)前記1)~4)のいずれか、および鋳型核酸; 6)前記1)~4)のいずれか、および鋳型核酸をコードする配列を含む核酸; 7)請求項87~114のいずれか一項に記載の組成物;または 8)請求項123または124に記載のベクター と接触させる(例えば、それに導入する)ステップを含む方法。」 「【請求項130】 前記細胞は、哺乳動物細胞、霊長類細胞またはヒト細胞である、請求項125~128のいずれか一項に記載の方法。 【請求項131】 前記細胞は、造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)(例えば、HSPCの集団)である、請求項130に記載の方法。」 「【請求項137】 前記改変は、前記1つ以上のgRNA分子の前記標的化ドメインと相補的なゲノムDNA配列にまたはその近傍にインデルをもたらす、請求項125~136のいずれか一項に記載の方法。」 「【請求項142】 前記改変は、赤血球系統の分化細胞(例えば、赤血球細胞)への分化能を有する細胞(例えば、細胞の集団)をもたらし、前記分化細胞は、胎児ヘモグロビンの増加したレベル、例えば非改変細胞(例えば、細胞の集団)と比べて胎児ヘモグロビンの増加したレベルを呈する、請求項125~141のいずれか一項に記載の方法。」 (ウ)請求項145、151、162、163の細胞 「【請求項145】 請求項125~144のいずれか一項に記載の方法によって改変された細胞。」 「【請求項151】 胎児ヘモグロビンの発現は、gRNA分子を含むように修飾されていない同じ細胞型の細胞またはその子孫と比べて前記細胞またはその子孫(例えば、その赤血球系子孫、例えばその赤血球細胞子孫)において増加する、請求項145~150のいずれか一項に記載の細胞。」 「【請求項162】 哺乳動物細胞、霊長類細胞またはヒト細胞である、請求項161に記載の細胞。 【請求項163】 造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)(例えば、HSPCの集団)である、請求項145~162のいずれか一項に記載の細胞。」 【発明の詳細な説明】 (エ)発明の概要 「【0004】 理論によって拘束されるものではないが、本発明は、一部には、例えば本明細書に記載されるとおりのCRISPRシステム、例えばCas9 CRISPRシステムを用いることにより、胎児ヘモグロビン(HbF)発現が増加し、および/またはβグロビン(例えば、疾患原因突然変異を有するβグロビン遺伝子)の発現が低下するように細胞(例えば、造血幹細胞・前駆細胞(HSPC))を修飾することができ、およびかかる細胞を用いることにより、異常ヘモグロビン症、例えば鎌状赤血球症およびβサラセミアを治療し得るという発見に基づく。」(1頁19~23行) (オ)用語の定義等 「【0191】 本明細書で使用されるとき、「一過性」は、数時間、数日間または数週間の期間にわたる組み込まれないトランス遺伝子の発現を指し、この発現期間は、宿主細胞のゲノムに組み込まれた場合または安定プラスミドレプリコンの中に含まれている場合の遺伝子の発現期間よりも短い。」(53頁26~28行) 「【0212】 「BCL11aエンハンサー」は、本明細書においてこの用語が使用されるとき、BCL11aの発現または機能に影響を及ぼす、例えばそれを増進させる核酸配列を指す。例えば、Bauer et al.,Science,vol.342,2013,pp.253-257を参照されたい。BCL11aエンハンサーは、例えば、ある種の細胞型、例えば赤血球系統の細胞においてのみ作用することが可能であり得る。BCL11aエンハンサーの一例は、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の核酸配列(例えば、hg38に記録されているとおりの位置+55:Chr2:60497676~60498941;+58:Chr2:60494251~60495546;+62:Chr2:60490409~60491734にあるかまたはそれに対応する核酸)である。」(58頁15~21行) 「【0213】 用語「造血幹細胞・前駆細胞」または「HSPC」は同義的に使用され、造血幹細胞(「HSC」)および造血前駆細胞(「HPC」)の両方を含む細胞の集団を指す。かかる細胞は、例えばCD34+として特徴付けられる。」(58頁26~28行) 「【0223】 用語「F細胞」および「F-細胞」は、胎児ヘモグロビンを含有および/または産生する(例えば、発現する)細胞、通常、赤血球(例えば、赤血球細胞)を指す。例えば、F-細胞は、検出可能なレベルの胎児ヘモグロビンを含有または産生する細胞である。」(60頁19~21行) (カ)gRNA 「【0388】 III.gRNAの設計方法 gRNAの設計方法が、標的配列の選択、設計および検証方法を含め、本明細書に記載される。例示的標的化ドメインも本明細書に提供される。本明細書で考察される標的化ドメインは、本明細書に記載されるgRNAに組み込むことができる。」(223頁19~22行) 「【0393】 本発明の態様において、CR001128の標的化ドメイン(配列番号338、以下に下線を引く)を含むgRNA、例えば、以下に記載するgRNA分子の1つは、例えば本明細書に記載されるgRNA分子が2つ以上関わる態様を含め、本発明のCRISPRシステム、方法、細胞および他の態様および実施形態において有用である。 [図:0001415675000001.jpg] ・・・」(225頁15~29行) 「【0406】 上記に記載されるgRNA分子の各々において、「*」は隣接ヌクレオチド間のホスホロチオエート結合を意味し、および「mN」(式中、N=A、G、CまたはU)は2’-OMe修飾ヌクレオチドを意味する。」(239頁28~29行) 「【0895】 ・・・修飾(OMePS CR00312=配列番号1762;OMePS CR001128=配列番号1763)」(428頁15~16行) (キ)CRISPR/Casシステム成分の送達等 「【0513】 X.送達/コンストラクト 成分、例えばCas9分子またはgRNA分子、または両方は、種々の形態で送達、製剤化、または投与することができる。非限定的な例として、gRNA分子およびCas9分子は、(1つ以上の組成物に)製剤化し、ゲノム編集イベントが所望される細胞に直接送達または投与することができる。あるいは、1つ以上の成分、例えばCas9分子またはgRNA分子、または両方をコードする核酸を(1つ以上の組成物に)製剤化して送達または投与することもできる。一態様において、gRNA分子は、gRNA分子をコードするDNAとして提供され、およびCas9分子は、Cas9分子をコードするDNAとして提供される。一実施形態において、gRNA分子とCas9分子とは別個の核酸分子上にコードされる。一実施形態において、gRNA分子とCas9分子とは同じ核酸分子上にコードされる。一態様において、gRNA分子はRNAとして提供され、およびCas9分子は、Cas9分子をコードするDNAとして提供される。一実施形態において、gRNA分子は、例えば本明細書に記載されるとおりの、1つ以上の修飾を伴い提供される。一態様において、gRNA分子はRNAとして提供され、およびCas9分子は、Cas9分子をコードするmRNAとして提供される。一態様において、gRNA分子はRNAとして提供され、およびCas9分子はタンパク質として提供される。一実施形態において、gRNAおよびCas9分子はリボ核タンパク質複合体(RNP)として提供される。一態様において、gRNA分子は、gRNA分子をコードするDNAとして提供され、およびCas9分子はタンパク質として提供される。」(279頁19行~280頁2行) 「【0538】 Cas9分子をコードするRNAの送達 Cas9分子(例えば、活性Cas9分子、不活性Cas9分子または不活性Cas9融合タンパク質)および/またはgRNA分子をコードするRNAは、当該技術分野において公知の方法により、または本明細書に記載されるとおり、細胞、例えば本明細書に記載される標的細胞に送達することができる。例えば、Cas9コードRNAおよび/またはgRNAコードRNAは、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、脂質媒介トランスフェクション、ペプチド媒介送達、またはこれらの組み合わせによって送達することができる。」(285頁18~23行) 「【0681】 ある実施形態において、第1の送達様式は、比較的持続性の高いエレメント、例えば核酸、例えばプラスミドまたはウイルスベクター、例えばAAVまたはレンチウイルスの使用を含む。かかるベクターは比較的持続性が高いため、それから転写された産物は比較的持続性が高いものとなり得る。 【0682】 ある実施形態において、第2の送達様式は、比較的一過性のエレメント、例えばRNAまたはタンパク質を含む。 【0683】 ある実施形態において、第1の成分はgRNAを含み、および送達様式は比較的持続性が高く、例えばgRNAはプラスミドまたはウイルスベクター、例えばAAVまたはレンチウイルスから転写される。これらの遺伝子の転写は、遺伝子がタンパク質産物をコードせず、かつgRNAは単独では作用できないため、生理学的影響がほとんどないものであり得る。第2の成分、Cas9分子は一過性方式で、例えばmRNAとして、またはタンパク質として送達され、完全なCas9分子/gRNA分子複合体が短期間のみ存在して活性であることが確実にされる。」(331頁19~30行) (ク)実施例3及び実施例3.2. 「【0736】 実施例3.成人赤血球系細胞における胎児グロビン発現の抑制を解除するためのCRISPR-Cas9を用いた造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)におけるBCL11A赤血球系エンハンサー編集 方法: ヒトCD34+細胞培養。ヒト骨髄CD34+細胞をAllCells(カタログ番号:ABM017F)またはLonza(カタログ番号:2M-101C)のいずれかから購入し、50ng/mLのトロンボポエチン(Tpo、Peprotech;カタログ番号300-18)、50ng/mLのヒトFlt3リガンド(Flt-3L、Peprotech;カタログ番号300-19)、50ng/mLのヒト幹細胞因子(SCF、Peprotech;カタログ番号300-07)、ヒトインターロイキン-6(IL-6、Peprotech;カタログ番号200-06)、1%L-グルタミン;2%ペニシリン/ストレプトマイシン、および化合物4(0.75μM)を補足したStemSpan SFEM(StemCell Technologies;カタログ番号09650)を用いて2~3日間増殖させた。2~3日間増殖させた後、培養物をAllCellsから購入した出発細胞数と比べて2倍~3倍およびLonzaからのと比べて1倍~1.5倍に増殖させた。本明細書に記載されるとおりのCRISPR/Casシステムの導入前および導入後の両方を含め、全てのCD34+増殖ステップについてこれらの培養条件を用いた。 【0737】 Cas9およびガイドRNAリボ核タンパク質(RNP)複合体のアセンブリ、HSCの調製、およびHSCへのRNPのエレクトロポレーション。 Cas9-ガイドRNAリボ核タンパク質複合体(RNP)はエレクトロポレーションの直前に調製した。・・・シングルガイドRNA(sgRNA)およびCas9複合体の調製には、2.25μg sgRNA(1.5μL中)を2.25μg Cas9タンパク質(3μL中)と混合し、室温で5分間インキュベートした。次にsgRNA/Cas9複合体を10.5μLの2×107/mL細胞と上下に数回穏やかにピペッティングすることによって混合し、室温で2分間インキュベートした。RNP/細胞混合物(10μL)をNeonエレクトロポレーションプローブに移した。Neonトランスフェクションシステム(Invitrogen;MPK5000S)で1700ボルト/20ミリ秒および1パルスを用いてエレクトロポレーションを実施した。エレクトロポレーション後、上記に記載したとおりの成長因子およびサイトカインを補足した0.5mLの予め温めたStemSpan SFEM培地に細胞を移し、37℃で2日間培養した。・・・」(354頁19行~355頁17行) 「【0747】 プログラム可能なヌクレアーゼ、Cas9による効率的なゲノム編集には、標的細胞および組織へのガイドRNA(gRNA)およびCas9タンパク質の送達の成功が不可欠である。最近の報告では、幾つかの異なる細胞型で、Cas9リボ核タンパク質(RNP)複合体がエレクトロポレーションによって標的細胞に送達された場合に効率的かつ特異的ゲノム編集を達成し得ることが実証された。Cas9-NP複合体はほぼ送達直後に染色体DNAを切断し、細胞内で急速に分解されるため、オフターゲット効果が低下する。対照的に、Cas9の送達に用いられるプラスミドおよびウイルスベクターシステムを使用すると、酵素の発現が長引き、このシステムに付随するオフターゲット効果が悪化する。加えて、RNPを標的細胞に送達するのに追加的なツールは不要であり、これにより臨床における治療を目的としたゲノム編集の適用が大幅に促進され得る。精製組換えCas9タンパク質およびgRNA複合体(RNP)を培養HSPCに送達した。用いた実験概要は図17に示す。 【0748】 ・・・エレクトロポレーション後48時間の細胞の生存率を、7AADを用いたフローサイトメトリーにより決定した。生存率は比較的高く、>80%の細胞が生存していた(図18)ことから、文献に報告されるCas9およびgRNA送達システムの他の方法と比べてHSPCがRNP複合体のエレクトロポレーションに比較的よく耐えたことが示唆される。」(358頁9~32行) 「【0773】 実施例3.2.HSPCにおけるBCL11aエンハンサーの+58領域を標的とするgRNAを使用したgRNA編集および胎児ヘモグロビン上方制御の最適化 BCL11aエンハンサーの+58領域を標的とするgRNAの包括的スクリーニングによる%編集率の結果に基づき、さらなる研究および最適化に8つのgRNA標的化ドメインを選択した。gRNA分子に対する修飾が%編集率、赤血球系分化、および胎児ヘモグロビン発現に及ぼす効果を試験するため、BCL11aエンハンサー領域の+58領域内にある部位を標的とする種々のバージョンの8つのgRNA分子を設計した。CR00309、CR00311、CR00312、CR00316、CR01125、CR01126、CR01127、およびCR01128の標的化ドメインを含む以下のバージョンのgRNAを作製した。・・・ 【0774】 sgRNA(標的化ドメイン以外の全配列は実施例1に記載されるとおりである): 1.非修飾sgRNA(「非修飾」または「Unmod」) 2.指示される標的化ドメインの5’-18ntのみからなる標的化ドメイン(完全な20ntでない)(「18nt」) 3.ホスホロチオエート結合で修飾されたsgRNAの3個の3’ntおよび3個の5’nt(「PS」) 4.sgRNAの5’末端および3’末端の両方に追加的な逆位脱塩基残基(「Invd」) 5.ホスホロチオエート結合および2’-Oメチル基で修飾されたsgRNAの3個の3’ntおよび3個の5’nt(「OMePS」) 6.2’-フルオロ基で修飾されたsgRNAの3個の3’ntおよび3個の5’nt(「F」) 7.ホスホロチオエート結合および2’-フルオロ基で修飾されたsgRNAの3個の3’ntおよび3個の5’nt(「F-PS」) 【0775】 他の全ての試薬および方法は実施例3に記載されるとおりであった。結果は全てデュプリケートで実行したものであり、結果は図28~図32に報告する。図28Aおよび図28Bは、指示されるデュアルガイドRNA(dgRNA)を含むRNPのエレクトロポレーション後2日のCD34+細胞におけるNGSによって計測したときの%編集率を示す。図29は、指示されるシングルガイドRNA(sgRNA)を含むRNPのエレクトロポレーション後2日のCD34+細胞におけるNGSによって計測したときの%編集率を示す。図30は、指示されるデュアルガイドRNA(dgRNA)を含むRNPのエレクトロポレーション後、編集したCD34+細胞を赤血球系分化培地に移してから14日目にフローサイトメトリーによって計測したときの%HbF陽性細胞を示す。図31は、指示されるシングルガイドRNA(sgRNA)を含むRNPのエレクトロポレーション後、編集したCD34+細胞を赤血球系分化培地に移してから14日目にフローサイトメトリーによって計測したときの%HbF陽性細胞を示す。図32は、赤血球系分化培地中で14日後の編集済み細胞の増殖倍数を示す。これらの結果は、選択されたgRNA分子の多くが、dgRNAおよびsgRNAの両方のフォーマットとも、RNPとしてエレクトロポレーションによってCD34+細胞に送達したとき、標的部位におけるゲノム編集を90%より高い効率、ある場合には98%より高い効率で実現する能力を有することを示している。同様に、選択されたgRNAの多くが、非修飾細胞(「モック」)と比べて20%より高い%F細胞の増加を実現することが可能であった。最後に、HSPCにおけるBCL11A赤血球系エンハンサーのゲノム編集によって赤血球系細胞の増殖能が低下し、一部のgRNA(例えば、CR00309)は他のgRNA(例えば、CR00312)よりもその効果が一層顕著であったが、赤血球に分化した編集済み細胞集団のほとんどは、それでもなおエキソビボで赤血球系分化培地中において14日間で500~1500倍の集団倍加を実現する能力を有したことから、編集済み細胞は患者の鎌状赤血球症またはβサラセミアなどの異常ヘモグロビン症の治療において療法として有用であり得ることが示される。」(371頁17行~373頁20行) 【図面】 (ケ)図29、31 [図:0001415675000002.jpg] [図:0001415675000003.jpg] イ 引用発明の認定 引用文献1の【特許請求の範囲】には、「細胞を前記細胞内の標的配列でまたはその近傍で改変する方法であって、前記細胞を、」「請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子、およびCas9分子」または「請求項1~68のいずれか一項に記載の1つ以上のgRNA分子、およびCas9分子をコードする核酸」または、前記のCRISPR/Casシステム成分を含む「組成物」「と接触させる(例えば、それに導入する)ステップを含む方法」(請求項125)において、前記細胞は「ヒト」の「造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)」(請求項130及び131)であり、前記改変は「gRNA分子の前記標的化ドメインと相補的なゲノムDNA配列にまたはその近傍にインデルをもたらし」(請求項137)、また、前記改変は「胎児ヘモグロビンの増加したレベルを呈する」「赤血球系の分化細胞への分化能を有する細胞をもたら」す(請求項142)方法、が記載されている(上記ア(イ))。 また、前記「gRNA分子」は、「BCL11aエンハンサー」「の標的配列に相補的な標的化ドメインを含」み(請求項1、4)、「標的化ドメイン」は「配列番号338を含む、例えばそれからなる」(請求項9)ものであってよく、両末端の「ホスホロチオエート修飾」及び「2’O-メチル修飾」を含んでよく(請求項40)、「配列番号1763」であってよく(請求項43)、前記の組成物は、「エレクトロポレーションに好適な媒体中に製剤化」(請求項113)されてもよいことが記載されている(上記ア(ア)~(イ))。 さらに、引用文献1の【特許請求の範囲】には、前記した方法によって「改変された細胞」(請求項145)であって、「胎児ヘモグロビンの発現は、gRNA分子を含むように修飾されていない同じ細胞型の細胞またはその子孫と比べて前記細胞またはその子孫において増加する」(請求項151)、「ヒト細胞である造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)」(請求項162~163)が記載されている(上記ア(ウ))。 なお、請求項92の「gRNA分子およびCas9分子は、リボ核タンパク質複合体(RNP)に存在する」との記載より、請求項に記載された「Cas9分子」は「Cas9タンパク質分子」を意味することが明らかである。 そして、以上の請求項に記載された事項は、引用文献1の実施例3.2.に、HSPCにおけるBCL11aエンハンサーの+58領域を標的とするgRNA分子に対する修飾の効果を試験するために、CR01128の標的化ドメインを含むgRNA分子である「OMePS 1128sg」と称されるシングルガイドRNA(sgRNA)を含む複数のgRNAを作成し、sgRNAとCas9タンパク質の複合体(RNP)をエレクトロポレーションによりCD34+細胞に送達して得られた改変細胞が、標的部位におけるゲノム編集を90%より高い効率で実現する能力を有し、非修飾細胞と比べて20%より高い%F細胞の増加を実現したことが記載されていること(上記ア(ク))、図29及び図31に、「OMePS 1128sg」が、標的部位におけるゲノム編集を90%より高い効率で実現し、非修飾細胞と比べて22%F細胞を増加させたことが示されること(上記ア(ケ))、前記「OMePS CR001128」は、「sgRNA CR001128#3・・・配列番号1763」としても記載され、CR01128の標的化ドメイン(配列番号338)を含み、かつ、両末端がホスホロチオエート結合および2’-Oメチル基で修飾されたsgRNAであること(上記ア(カ))からも、技術的に裏付けられたものであるといえる。 以上のことから、引用文献1には、以下の発明が記載されている。 「ヒトの造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を、gRNA分子、および、Cas9タンパク質分子又はCas9タンパク質分子をコードする核酸を含むエレクトロポレーションに好適な媒体中に製剤化された組成物と接触させ、前記組成物を細胞に導入するステップを含み、それにより、前記細胞内のBCL11aエンハンサーの標的配列(配列番号338)にまたはその近傍にインデルをもたらすように改変する方法によって改変された細胞であって、 前記細胞の胎児ヘモグロビンの発現は、gRNA分子を含むように修飾されていない同じ細胞型の細胞またはその子孫と比べて前記細胞またはその子孫において増加し、 前記gRNA分子は、配列番号338に相補的な標的化ドメインを含み、かつ、両末端におけるホスホロチオエート修飾及び2’O-メチル修飾を含むsgRNAである、 改変された細胞。」 (以下「引用発明」という。) (3)本件補正発明について ア 対比 本件補正発明と引用発明を対比する。 引用文献1には、BCL11a遺伝子のエクソン2とエクソン3との間の位置に関し、「+58:Chr2:60494251~60495546」と記載されているところ(前記(1)ア(オ)【0212】)、この「Chr2:60494251~60495546」の範囲は、本件補正発明の「chr2:60495236とchr2:60495271」の範囲を包含し、かつ、引用発明の「sgRNA分子」が含む「配列番号338」の配列は、本件補正発明の「sgRNA」が含む「配列番号4」の配列と一致するから、引用発明の「gRNA分子」「を含む」「組成物と接触させ、前記組成物を細胞に導入するステップを含み、それにより、細胞内のBCL11aエンハンサーの標的配列(配列番号338)にまたはその近傍にインデルをもたらすように改変する方法によって改変され」及び「前記gRNA分子は、配列番号338に相補的な標的化ドメインを含」む「sgRNAである」は、本件補正発明の「ヒト造血幹細胞の2番染色体上の、CTTCCT配列の上流0~15個のヌクレオチドから当該CTTCCT配列の下流0~15個のヌクレオチドまでのBCL11Aゲノム領域のsgRNAが造血幹細胞に導入され、前記BCL11Aゲノム領域がchr2:60495236とchr2:60495271との間にあり」及び「前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAを前記ヒト造血幹細胞に導入するものであり」に相当する。 引用発明の「前記細胞の胎児ヘモグロビンの発現は、gRNA分子を含むように修飾されていない同じ細胞型の細胞またはその子孫と比べて前記細胞またはその子孫において増加し」は、本件補正発明の「胎児ヘモグロビン(HbF)の増加した発現が遺伝子改変によって増加した」に相当する。 引用発明の「ヒトの造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)を、gRNA分子、および、Cas9タンパク質分子又はCas9タンパク質分子をコードする核酸を含むエレクトロポレーションに好適な媒体中に製剤化された組成物と接触させ、前記組成物を細胞に導入するステップを含み」は、本件補正発明の「前記遺伝子改変が、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術によるものであり」及び「sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとがエレクトロポレーションによって一緒に前記ヒト造血幹細胞に導入されており」に相当する。 引用発明の「両末端におけるホスホロチオエート修飾及び2’O-メチル修飾を含む」は、本件補正発明の「2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである」に相当する。 そうすると両者は、 「胎児ヘモグロビン(HbF)の増加した発現が遺伝子改変によって増加したヒト造血幹細胞であって、前記ヒト造血幹細胞の2番染色体上の、CTTCCT配列の上流0~15個のヌクレオチドから当該CTTCCT配列の下流0~15個のヌクレオチドまでのBCL11Aゲノム領域のsgRNAが造血幹細胞に導入され、前記BCL11Aゲノム領域がchr2:60495236とchr2:60495271との間にあり、 前記遺伝子改変が、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術によるものであり、前記CRISPR/Cas9遺伝子編集技術は、前記BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAを前記ヒト造血幹細胞に導入するものであり、かつ sgRNAと、Cas9とがエレクトロポレーションによって一緒に前記ヒト造血幹細胞に導入されており、 前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、 ヒト造血幹細胞。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <一応の相違点> 「エレクトロポレーションによってヒト造血幹細胞に導入されるものが、前者では『sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド』であるのに対して、後者では『sgRNAとCas9タンパク質分子又はCas9タンパク質分子をコードする核酸』である点。」 イ 一応の相違点についての判断 sgRNA及びCas9の送達に関して、引用文献1には、「RNAまたはタンパク質」は「比較的一過性のエレメント」であり(【0682】)、「一過性」は「数時間、数日間または数週間の期間にわたる組み込まれないトランス遺伝子の発現を指」し(【0191】)、「Cas9分子は一過性方式で、例えばmRNAとして、またはタンパク質として送達され、完全なCas9分子/gRNA分子複合体が短期間のみ存在して活性であることが確実にされ」(【0683】)、「Cas9-RNP複合体はほぼ送達直後に染色体DNAを切断し、細胞内で急速に分解される」(【0747】)と記載され、対照的に、「プラスミドまたはウイルスベクター」のシステムは、「比較的持続性が高いエレメント」であり(【0681】)、「Cas9の送達に用いられるプラスミドおよびウイルスベクターシステムを使用すると、酵素の発現が長引」く(【0747】)ことが記載されている(上記(2)ア(オ)、(キ)、(ク))。 そうすると、引用文献1の実施例3及び実施例3.2で用いられている「sgRNAとCas9タンパク質分子を含むRNP」は、エレクトロポレーションにより細胞に送達された後に染色体DNAを切断し、細胞内で急速に分解される比較的一過性のエレメントであって、数時間、数日間または数週間の間に細胞から消失すると解されるとともに、引用発明においてCas9の送達に、Cas9タンパク質分子を用いる場合も、Cas9タンパク質分子をコードするmRNA(核酸)を用いる場合も、RNPを用いる上記の場合と同様に、sgRNAとCas9タンパク質分子又はCas9タンパク質分子をコードするmRNA(核酸)は、細胞内で急速に分解され、数時間、数日間または数週間の間に細胞から消失すると解される。 一方、本件補正発明の「Cas9をコードするヌクレオチド」として、本願明細書の各実施例ではCas9mRNAが用いられているところ、本件補正発明の「sgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチド」も、Cas9をコードするヌクレオチドとしてCas9mRNAを用いる場合には、引用発明のsgRNAとCas9タンパク質分子又はCas9タンパク質分子をコードするmRNA(核酸)と同様に、細胞内で急速に分解され、数時間、数日間または数週間の間に細胞から消失すると解される。 そうすると、引用文献1の実施例3及び実施例3.2の記載を勘案しても、前記した一応の相違点により、本件補正発明の改変細胞と引用発明の細胞が、物として異なるものになるとは認められないので、前記の一応の相違点は、実質的な相違点ではなく、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明というべきである。 もっとも、本件補正発明の改変細胞と引用発明の細胞が、物として異なるものであったとしても、sgRNAと、Cas9をコードするmRNAとをエレクトロポレーションによって一緒に細胞に導入することは、本願優先日における、CRISPR/Cas9遺伝子編集の常套手段であるので(例えば、引用文献1の【0538】(上記(2)ア(キ))の記載や令和3年7月16日付け拒絶理由通知書の引用文献3の実施例21等を参照。)、本件補正発明は、引用発明、すなわち引用文献1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)審判請求人の主張 審判請求人は、引用文献1は、gRNAとCas9をコードする核酸配列を細胞に接触させることを含む、遺伝子編集CRISPR/Cas9による標的細胞の編集方法を一般的に開示しているにすぎず(引用文献1の10頁参照)、sgRNAとCas9の核酸配列を接触させることにより、細胞の遺伝子編集を行う方法は、RNP形態の場合よりもはるかに効率が低いことが開示される(引用文献1の実施例1の図9)ので、「BCL11Aゲノム領域の編集を実現するように、配列番号4の配列を含むsgRNAをヒト造血幹細胞に導入するものであり、かつsgRNAと、Cas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒にヒト造血幹細胞に導入」するという構成を開示していないことは明らかであると主張する。 しかし、sgRNAとCas9の核酸配列を細胞に接触させる方法はRNP形態の場合よりも効率が低い旨の根拠とされる、引用文献1の実施例1の図9は、RNPを用いる方法と「Plasmid/Lipo2000」、すなわちプラスミドとリポソームを用いる方法との遺伝子編集効率を比較するものであり、sgRNAとCas9の核酸配列を細胞に接触させる方法との比較はなされていないから、審判請求人の主張はその前提において誤っているといえる。 加えて、引用文献1に記載された発明を実施例に限定して解釈すべき理由は見出せないし、引用文献1の【0538】の記載や引用文献3の実施例21等をみても理解できるように、gRNAとCas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に細胞内に送達する手法は、本願優先日における常套手段であるから、引用文献1に所論の構成が開示されてなかったとはいえない。 また、審判請求人は、本願の発明では、γ-グロビンmRNAのレベルが9倍、HbF/HbAの比率が6.68倍に増加し、この結果は、引用文献1で教示されたRNPを用いる技術的解決策の技術的効果よりも著しく優れていること、サラセミア患者の造血幹細胞を遺伝子編集することにより、サラセミアおよび鎌状赤血球貧血の臨床治療の要件を満たすことができることを初めて実現したこと、細胞が被験者にうまく定着し、被験者のγ-グロビンの発現を改善し、治療目的・効果を達成できることが証明されていること等を挙げ、引用発明1では実現できない優れた効果を有する旨を主張する。 しかし、上記(3)イで検討したとおり、gRNAとCas9をコードするヌクレオチドとをエレクトロポレーションによって一緒に細胞内に送達するという常套手段の差異によって、本件補正発明の改変細胞と引用発明の細胞が、物として異なるものになるとは認められないので、上記の効果が、引用発明で奏されない場合があったとしても、それは本件補正発明の発明特定事項とは異なる要件によるものと解される。 よって、審判請求人の主張は、いずれも理由がない。 (5)小括 したがって、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.補正の却下の決定のむすび 本件補正後の請求項4に記載される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反し、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について(特29条2項を適用する場合) 1.本願発明 令和4年9月20日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和4年1月26日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうちの請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項4に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2.原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項4に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、及び、この出願の請求項4に係る発明は、同引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。 引用文献1:国際公開第2017/115268号 3.引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記sgRNAは、2’-O-メチル類縁体及び/またはヌクレオチド間3’チオにより修飾されたものである、」に係る限定事項を削除したものであるから、本願発明は、本件補正発明を包含するものであることが明らかである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が引用文献1に記載された発明であるか、又は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明であるか、又は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-014871

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