特許拒絶査定不服審判
2021-016480
AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ
- 審判番号
- 2021-016480
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-072287
- 請求日
- 2021年12月02日
- 審決日
- 2023年08月22日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
- 【請求人代理人】村越 智史
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 長井 啓子
- 審判官 牧野 晃久
- 分類
- P18 .113-WZB(C12N) / P18 .121-WZB(C12N) / P18 .575-WZB(C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第50条の2、特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 72287「AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月26日出願公開、特開2019-162109、請求項の数(38)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月11日(パリ条約による優先権主張 2013年7月12日 米国)を国際出願日とする特願2016-525827号の一部を新たな特許出願として平成31年4月4日に出願されたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 8月 4日 手続補正書の提出
同年 8月12日付け 特許法第50条の2の通知を伴う拒絶理由通 知書
令和3年 2月18日 意見書、手続補正書の提出
同年 7月29日付け 令和3年2月18日の手続補正についての補 正却下の決定、拒絶査定
同年12月 2日 審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 8月15日 上申書の提出
第2 令和3年12月2日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年12月2日付の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、令和2年8月4日にされた手続補正により補正された、次のとおりのものである。
「AAVに結合する抗体を、測定又は定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが、一本鎖若しくは自己相補的ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)の細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定又は定量するステップ
を含む方法。」(以下、「本願発明」という。)
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりのものである(下線部は補正により追加された部分である。)。
「AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが、一本鎖若しくは自己相補的ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得るHEK-293細胞であって最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)のHEK-293細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記HEK-293細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ
を含む方法。」(以下、「本願補正発明」という。)
2 補正の適否
本件補正は、「測定又は定量するための方法」を「測定及び定量するための方法」とし、「感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞」を「感染性組換えAAV粒子に感染し得るHEK-293細胞であって最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞」に限定するものであって、本願発明と本願補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。
(1)証拠の記載事項
ア 引用文献1(Gene Therapy, vol.20, pp.417-424 (2012.7.12 オンライン発行))
原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1は、「滑膜組織への遺伝子導入におけるAVVベクターに対する液性免疫の優勢と薬理学的変調」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(翻訳及び下線は当審による。以下、イ、ウ、オについても同様である。)
(ア)「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに対する抗体は、ヒトにおいて非常に多く存在する。前臨床研究および臨床研究の両方で、AAVに対する抗体は、低力価であっても、特にベクターが血中に導入された場合には、トランスダクションを阻害することが示されている。ここでは、関節リウマチ患者の血清中及びマッチした滑液(SF)中のAAV血清型2、5、6、8に対する中和抗体(NAb)の力価を測定した。」(第417頁要約第1~4行)
(イ)「ここでは、様々な抗体スクリーニング法を用いて、マッチした血清とSFサンプルの様々なAAV血清型に対する中和活性を測定し、抗AAV免疫グロブリンG(IgG)サブクラスも分析した。」(イントロダクションの項。第417頁右欄第13~16行)
(ウ)「次に、血清のNAb価を測定し、SFサンプルをAAV2、AAV5、AAV6、AAV8にマッチングさせた。NAb力価は、β-ガラクトシダーゼリポータジーンの残留活性を、NAbによるAAVベクター中和のサロゲートとして測定する、先に記載したin vitroアッセイ12を用いて決定した。」(結果の項。第418頁左欄第13~18行)
(エ)「細胞培養アッセイにおけるin vitroでのNAbの検出感度を向上させるために、我々はAAV導入遺伝子発現カセットをβ-ガラクトシダーゼを発現する一本鎖ゲノム(ssAAV-LacZ)からルシフェラーゼリポータトランスジーン(scAAV-Luc)を発現する自己相補的なゲノムに切り替えた。一本鎖AAVと比較してin vitroでの自己相補的AAVの導入効率が高いこと、およびβ-ガラクトシダーゼよりもルシフェラーゼの検出感度が高いことから、NAbアッセイでは50~150倍低い感染の多重性を使用することが可能となった。」(結果の項。第418頁右欄第21~30行)
(オ)「抗AAV NAbがベクター導入の効率に影響を与えることを考えると、NAb力価を測定する高感度で信頼性の高い方法の開発は、ほとんどの遺伝子導入戦略の成功に不可欠である。細胞ベースのin vitro NAbアッセイは、NAbの最も一般的に使用されるスクリーニングアッセイの一つである23-26、32-34。 しかし、これらのアッセイの一つの大きな限界は、AAV2以外のAAV血清型のin vitro感染効率が悪いことであり、検出できるリポータジーンシグナルを得るために高い感染倍率を必要とするのでNAb価を過小評価する結果となった。我々のデータは、in vitroでより高い導入効率を持つAAVベクターを使用し、高感度で検出できるルシフェラーゼなどのリポータジーンを発現させることにより、この障害を少なくとも部分的に克服できることを示している。」(ディスカッションの項。第421頁右欄第1行~第422頁左欄第6行)
(カ)「抗AAV抗体判定
抗AAV2、5、6及び8NAb力価は、in vitro中和アッセイを使用して、前述12と同様に決定した。このアッセイでは、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼを発現する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)、またはニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下でレニラルシフェラーゼリポータジーンを発現する自己相補ベクター20、21(scAAV-Luc)の2種類のAAVベクター構築物が用いられた。AAVベクターのin vitroでの導入効率を上げるため、誘導性プロモーターの制御下でアデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞(ATCC、Manassas,VA、USA)を使用した。細胞を96ウェルプレートに1.25×104細胞/ウェルの密度で播種し、培地にポナステロンA(Invitrogen、Grand Island、NY、USA)の1:1000希釈液を加え、E4の発現を誘導した。アッセイ当日、熱不活性化血清サンプルの連続半ログ希釈液をウイルスを含む培地と混合した。ssAAV-LacZベクターの場合、アッセイに使用したウイルス濃度は、AAV2については~1×1010vgml-1、AAV5、6又は8については~5.5×1010vgml-1だった。scAAV-Lucベクターの場合、アッセイでのウイルス濃度は~50倍から150倍低い。リポータジーンの残存活性は、比色アッセイ(ssAAV-LacZ)またはルミノメーター(scAAV-Luc)のいずれかを使用して測定した。」(材料と方法の項。第422頁右欄第28~46行)
(キ)「ウイルスの生産
AAV2末端逆位反復配列で挟まれたβ-ガラクトシダーゼカセット(ssAAV-LacZ)、およびレニラルシフェラーゼ発現のための自己相補性カセット(scAAV-Luc)は、AAV2、5、6又は8血清型のいずれかのキャプシドにパッケージされた。」(材料と方法の項。第422頁右欄第61~65行)
イ 引用文献2(Nature Medicine, vol.12, pp.342-347 (2006))
引用文献1が参照する「文献12」(上記ア(ウ))である引用文献2には、次の事項が記載されている。
「AAVに対する中和抗体アッセイ
AAV-2特異的NAB力価は、以前に記載されたように決定された6。」(第346頁右側欄下から第19行~下から第18行)
ウ 引用文献3(Nature Genetics, vol.24, pp.257-261 (2000))
引用文献2が参照する「文献6」(上記イ)である引用文献3には、次の事項が記載されている。
「抗体アッセイ
lacZを発現するAAVベクターを連続希釈した患者血清とインキュベートすることにより、AAV中和抗体価を決定し、この混合物をHEK293細胞に導入した。24時間後に細胞を溶解し、ONPGアッセイ16を用いて酵素活性を測定した。サンプルは、β-ガラクトシダーゼ活性を測定するためにOD420で読み取った。OD420がrAAV-lacZが陰性対照マウス血清とプレインキュベートされたときに観察される値の50%以下であった場合、血清はAAV抗体を中和するための陽性としてスコア付けされた。陽性サンプルは力価を測定した、AAV中和抗体の力価はONPGアッセイに基づいて50%でrAAV-LacZの感染を阻害する希釈物として示される。」(第260頁右側欄下から第20行~下から第11行)
エ 周知例1(「改訂 培養細胞実験ハンドブック」(2009年1月1日羊土社発行)第42~48頁)
「細胞は生物である。30億年の歴史を経て、脈々と受け継がれてきた生物である。人間はさまざまな感染症に悩まされているし、長く生きていると遺伝子変異が蓄積して癌などの病気を発症する。細胞も同じである。長期間培養された細胞に変異が蓄積することは不可避なことである。それ故、細胞バンクでは、継代数(パッセージ数)を極力増やさない工夫と努力をしている。提供後の細胞も20~30パッセージ以内で使用を完了し、それを超えた場合には新たに細胞バンクから入手し直すことを推奨したい。」(第48頁左欄第6~15行)
オ 周知例2(国際公開第2012/061529号)
「[00461] 実施例41. 安定した細胞株
細胞質中でまたは分泌型として本発明のOgLuc変異体を発現する、頑強で安定した細胞株の特定は、ルシフェラーゼの明るいシグナルおよび小サイズのOgLuc遺伝子によって容易となり得る。比較的小さな遺伝子配列は、外来DNA組込みによってもたらされる遺伝的不安定性の可能性を減少させるはずである。
[00462] 本発明のOgLuc変異体を用いて安定な細胞株を作製するために、OgLuc変異体および選択マーカー遺伝子、例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシン、またはピューロマイシンのヌクレオチド配列を含むプラスミドDNAを、目的の細胞株、例えば、HEK293細胞の形質移入に使用する。初期継代数、例えば10継代未満の細胞を、T25(1×106)またはT75(3×106)組織培養フラスコに播種し、一晩増殖させて、およそ75%コンフルエントにする。次に、細胞を、上記プラスミドDNAおよび適切な形質移入試薬、例えば、TRANSIT(登録商標)-LT1またはFUGENE(登録商標)HDを用いて形質移入する。形質移入の48時間後、培地を、細胞上で、選択薬剤、例えば、G418、ハイグロマイシンまたはピューロマイシンを、未形質移入細胞を死滅させるのに予め決定された濃度で含有する選択培地で置き換える。プラスミドDNAを含有する細胞の選択は2~4週間かけて行われる。この期間中、細胞を、選択培地中で種々の濃度で、T25またはT75組織培養フラスコのいずれかに再播種する。再播種された細胞上の培地は、2~3週間、3~4日毎に、新しい選択培地と取り換える。フラスコは生細胞コロニーの情報を求めてモニターされる。最終的に、フラスコは、多くの大コロニーを含むが、死細胞はほとんど含まない。
[00463] フラスコ中の安定したコロニーのプールから、単一コロニーを単離し、1枚の24ウェル組織培養プレート中に増殖させる。簡潔に説明すると、細胞をトリプシン/EDTA法を用いて回収する。すなわち、培地を除去し、Ca2+およびMg2+を含有しないPBSで洗い、トリプシン/EDTAで処理することにより剥離して、細胞を回収する。細胞を、血球計数器を用いて計数し、完全培地中で1×105に希釈する。次に、細胞を、完全培地中で100細胞/mL、33細胞/mL、10細胞/mL、および3.3細胞/mLに希釈する。100μLの各希釈物を、96ウェル組織培養プレートの全ウェルに播種し(各希釈に対し1プレート)、4~5日間増殖させて、その後、50μLの選択培地を細胞に加える。播種からおよそ1週間後、細胞を、コロニー増殖を求めて目視で選別し、別の50μLの選択培地を加える。単一コロニーがウェルの面積の40~60%を占めるまで、細胞を継続的にモニターする。コロニーが増殖および選別できる状態であるとき、トリプシン/EDTA法を用いてコロニーを回収する。各コロニーを以下のように選択培地に移す:1)機能アッセイ、例えば発光検出用に、1:10に希釈して、96ウェルアッセイプレートの6ウェルに移す;2)細胞生存率アッセイ、例えば細胞TITER-GLO(登録商標)発光細胞生存率アッセイ(プロメガ社)用に、1:10に希釈して、透明底96ウェルアッセイプレートの3ウェルに移す;並びに3)増殖用に、1:10に希釈し、24ウェル組織培養プレートに移す。次に、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイ用のプレート中の細胞を2~3日間増殖させて、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイを行う。24ウェルプレート中の陽性クローンを、機能アッセイおよび細胞生存率アッセイを用いてさらに試験し、さらに、少なくとも20継代の間の発現および応答の安定性、正常な増殖率形態を試験し、将来での使用のために可能な限り早期の継代で凍結する。」
カ 周知例3(国際公開第2012/042684号)
「[0077](実施例1)
キメラGαサブユニットとしてGi/olf13を具備する、キメラGタンパク質が採用された。カリウムイオンチャネルとしては、変異型カリウムイオンチャネルKir3.1(F137S)が採用された。化学物質受容体としては、β1アドレナリン受容体が採用された。
[0078] (キメラGタンパク質発現細胞の調製)
HEK293T細胞に、plasmid(βAR)、plasmidKir3.1(F137S)、およびplasmid(Gi/olf13)を発現させた。当該発現の手順が以下に示される。約80%コンフルエントに培養したHEK293T細胞を回収し、新たな培養シャーレに蒔いた。使用した細胞の継代数は10代以内であった。DMEM(10%FBS(fetal bovine serum)、ストレプトマイシン)が用いられた。24時間培養後、トランスフェクション試薬を用いて当該細胞にプラスミドが導入された。当該細胞はプラスミド導入後48時間培養され、キメラGタンパク質発現細胞が調製された。」
(2)引用発明
引用文献1には、間接リウマチ患者の体液性免疫の有病率を知るために、当該患者の血清中のAAVに対する中和抗体(NAb)の力価を、2種類のAAVベクター構築物を用いて、参照文献12に記載されたin vitroアッセイ法により、測定したことが記載されている(上記(1)ア(ア)~(ウ)、(カ))。ここで、AAVベクター構築物の1つは、サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットを有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)であり、もう1つは、ニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下でレニラルシフェラーゼリポータジーンを発現する発現カセットを有する自己相補ベクター(scAAV-Luc)であって、両方とも、発現カセットはAAV2末端逆位反復配列で挟まれており、AAVのキャプシドにパッケージされて使用されたことが記載されている(上記(1)ア(エ)~(キ))。そして、アッセイ法については参照文献12を引用しており、詳細には記載されていないものの、アデノウイルス遺伝子E4を発現する2V6.11細胞を用いること、血清サンプルをウイルスを含む培地と混合すること、及び、リポータジーンの残存活性を測定することが記載され(上記(1)ア(カ))、ここで血清サンプルと混合されるウイルスとは、AAVベクター構築物をパッケージしたAAVのキャプシドのことと解されるから、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されているといえる。
「AAVに対する中和抗体の力価を測定するための方法であって、
サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)、または、ニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下でレニラルシフェラーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する自己相補ベクター(scAAV-Luc)をパッケージしたAAVキャプシドを用意するステップ
2V6.11細胞を用意するステップ
上記AAVキャプシドを含む培地と関節リウマチ患者からの血清サンプルを混合するステップ
リポータジーンの残存活性を測定するステップ
AAVに対する中和抗体の力価を、参照文献12に記載されたin vitroアッセイにより決定するステップ
を含む方法。」(以下、「引用発明」という。)
(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「AAVに対する中和抗体の力価を測定するための方法」、「サイトメガロウイルスプロモーターの制御下でβ-ガラクトシダーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する一本鎖ベクター(ssAAV-LacZ)」、「ニワトリβ-アクチンプロモーターの制御下でレニラルシフェラーゼリポータジーンを発現する発現カセットをAAV2末端逆位反復配列で挟まれた形で有する自己相補ベクター(scAAV-Luc)」、「AAVキャプシド」、及び「リポータジーンの残存活性を測定するステップ」は、それぞれ、本願補正発明の「AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法」、「前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが自己相補的ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている」、「前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが一本鎖ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている」、「AAV粒子」、及び「前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ」に相当する。そして、引用発明の「2V6.11細胞」は、本願明細書(段落【0110】)に記載され、細胞株保存機関のリスト(例えば、https://www.cellosaurus.org/CVCL_6355)にも掲載されているとおり、アデノウイルスのE4遺伝子を安定的に発現するHEK-293細胞であるから、本願補正発明と引用発明は、
「AAVに結合する抗体を、測定及び定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが、一本鎖若しくは自己相補的ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得るHEK-293細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させることによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ
を含む方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。
相違点1:本願補正発明では、「(d)得られた混合物(M)と(b)のHEK-293細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記HEK-293細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ」及び「(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定及び定量するステップ」を含むことが特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。
相違点2:「感染性組換えAAV粒子に感染し得るHEK-293細胞」の「最初の解凍後の継代数」が、本願補正発明では「25継代まで」と特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
(4)判断
ア 相違点1について
引用文献1においては、アッセイ法については参照文献12(引用文献2)を引用しており(上記(1)ア(ウ))、詳細には記載されていないため、当該参照文献12(引用文献2)を参照すると、アッセイ法の詳細は記載されておらず、さらに参照文献6(引用文献3)が引用されている(上記(1)イ)。そして、当該参照文献6(引用文献3)には、抗体アッセイは、lacZを発現するAAVベクターを患者血清とインキュベートしてなる混合物をHEK-293細胞に導入してβ-ガラクトシダーゼ活性を測定することにより行うこと、及び、患者血清のβ-ガラクトシダーゼ活性を、陰性対照マウス血清の値に対する割合として測定及び定量することが記載されている。ここで、β-ガラクトシダーゼはlacZの発現産物であることが周知だから、参照文献6(引用文献3)に記載された抗体アッセイは、リポータジーンであるlacZを含むAAVベクターを患者血清と接触させることによって得られる混合物を、HEK-293細胞中のレポータジーンに感染してこれを発現させることを可能にする条件下で接触させるステップを含むものであるといえる。また、参照文献6(引用文献3)における陰性対照マウス血清は、AAVに結合する抗体を含まないことが明らかだから、参照文献6(引用文献3)に記載された抗体アッセイは、患者血清のリポータジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性対照マウス血清のリポータジーン発現と比較するステップを含むものであるといえる。
したがって、引用文献1が引用する参照文献12(引用文献2)、当該参照文献12(引用文献2)が引用する参照文献6(引用文献3)の記載を参照すれば、引用発明は、上記相違点1に係る構成を備えていると認められるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
一般に、培養細胞は、継代を重ねると変異が蓄積して機能等が変化して、それを用いた実験結果の信頼性に悪影響を与えるため、20~30継代以内で使用を完了することが、本願優先日当時、周知技術であった(例えば、周知例1の第48頁左欄第10~15行。通常、細胞は凍結保存されていることから、当該継代数は最初の解凍後の継代数を意味する。)。HEK-293細胞についても、当該周知技術が当てはまることは、周知例2(上記(1)オ)や周知例3(上記(1)カ)からも明らかである。
そうすると、引用発明で用いる「感染性組換えAAV粒子に感染し得るHEK-293細胞」を「最初の解凍後の継代数」が20~30継代まで、例えば25継代までのHEK-293細胞とすることは当業者が容易に推考しうる程度のことにすぎない。
ウ 本願補正発明の効果について
明細書には、HEK293細胞(2V6.11細胞)の継代数とシグナル強度との関係を検討した実験として実施例4(【0135】~【0137】、図1、2)が記載されているが、「決して25回超継代しなかった」(【0136】)と記載されているとおり、いずれも25継代までしか実験が行われていないため、「最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞」を用いる本願補正発明が、26継代以降の細胞を用いる場合と比較して格別顕著な効果を奏すると認めることはできない。
請求人は、令和3年12月2日提出の審判請求書及び令和4年8月15日提出の上申書において、甲第1号証(https://bite sizebio.com/45489/guide-to-hek293-cells/)及び甲第2号証(https://www.synthego.com/hek293)を示して、HEK-293細胞は継代数を20継代未満とすることが本願優先日前の当業者の技術常識であったところ、本願補正発明によれば、25継代まではAAV NAb力価のアッセイ結果に影響を与えないという当業者が予期し得なかった顕著な効果がある旨、従来よりも多くの回数にわたって継代された細胞を用いることができるため、細胞の解凍のための時間を節約でき、細胞をより有効に利用できるという有利な効果を奏する旨、主張する。
しかし、本願補正発明は、「最初の解凍後の継代数が25継代まで」と特定するのみで、20継代未満の場合も包含するのだから、請求人が主張する上記効果は本願補正発明特有の効果であるとは認められない。
なお、甲第1号証(2021年9月27日発行)及び甲第2号証(Copyright2021)は、本願優先日(2013年7月13日)よりも後に公知となったものではあるが、念のため内容を検討すると、甲第1号証には「もし細胞株が20継代以上培養されている場合、新しいストックを解凍し、もう一度始めるのが最善である。」(第2頁下から第3~1行)、甲第2号証には「正確な最大継代数については議論があるが、一般に20継代以下が最良と考えられている。」(第6頁下から第4~3行)と記載され、いずれも20継代程度までに使用を完了することが好ましいことを示すにとどまっており、HEK-293細胞には、20~30継代以内で使用を完了することを推奨するという上記周知技術(上記第2の2(1)エ)は当てはまらず、20継代以上の使用を阻害する事情があるとは認めることができない。
エ 小括
上記ア~ウのとおり、本願補正発明は、引用文献1、それが直接又は間接的に引用する引用文献2、3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年12月2日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、上記第2の1に「本願発明」として記載した、以下のとおりのものである。
「AAVに結合する抗体を、測定又は定量するための方法において、以下:
(a)組換えベクターを包膜する感染性組換えAAV粒子を用意するステップであって、
(i)前記ベクターが、リポータトランスジーンを含み、(ii)前記リポータトランスジーンが、一本鎖若しくは自己相補的ゲノムを含むと共に、(iii)前記リポータトランスジーンが、1つ又は複数の発現調節エレメントに作動可能に連結され、かつ1つ又は複数のフランキングエレメントによってフランキングされている、ステップ;
(b)前記感染性組換えAAV粒子に感染し得る細胞を用意するステップ;
(c)(a)の感染性組換えAAV粒子を被験者からの生体サンプルと接触させるか、又はインキュベートし、これによって得られる混合物(M)を生成するステップ;
(d)得られた混合物(M)と(b)の細胞を、(a)の前記感染性組換えAAV粒子が、前記細胞中の前記リポータトランスジーンに感染して、これを発現させることを可能にする条件下で、接触させるステップ;
(e)前記リポータトランスジーンの発現を測定するステップ;並びに
(f)(e)の前記リポータトランスジーン発現をAAVに結合する抗体が欠失した陰性(-)対照のリポータトランスジーン発現と比較するステップであって、これによって、前記生体サンプル中のAAVに結合する抗体を測定又は定量するステップ
を含む方法。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものである。
本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったGene Therapy, vol.20, pp.417-424 (2012.7.12 オンライン発行)(上記第2の2(1)アの「引用文献1」)、Nature Medicine, vol.12, pp.342-347 (2006)(上記第2の2(1)イの「引用文献2」)、及びNature Genetics, vol.24, pp.257-261 (2000)(上記第2の2(1)ウの「引用文献3」)に記載された発明であるか、そうでないとしても、当該発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1~3の記載事項は、上記第2の2(1)ア~ウに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2で検討した本願補正発明の「測定及び定量するための方法」を「測定又は定量するための方法」とし、「感染性組み換えAAV粒子に感染し得る細胞」が「HEK-293細胞であって最初の解凍後の継代数が25継代までのHEK-293細胞」であるとの限定事項を削除したものである。当該限定事項は、本願補正発明と引用発明との相違点2に係る構成であるから、本願発明と引用発明との間に当該相違点2は存在しないといえる。また、本願補正発明と引用発明との相違点1は、上記第2の2(4)アのとおり、実質的な相違点ではないから、本願発明と引用発明とは実質的に相違しないものである。
したがって、本願発明は、引用文献1が直接又は間接的に引用する引用文献2、3を参照すれば、引用文献1に記載された発明であるといえる。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-016480