特許拒絶査定不服審判
2023-000824
音響装置、制御方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2023-000824
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-066192
- 請求日
- 2023年01月18日
- 審決日
- 2023年11月14日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人北斗特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 稲葉 崇
- 分類
- P18 .121-Z (G08B) / P18 .575-Z (G08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 66192「音響装置、制御方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019-175397〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月29日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 3年 9月27日付け 拒絶理由通知書
12月 6日 意見書・手続補正書
令和 4年 4月18日付け 拒絶理由通知書(最後)
6月20日 意見書・手続補正書
10月11日付け 補正の却下の決定
拒絶査定
令和 5年 1月18日 審判請求書・手続補正書
3月17日 前置報告書
以下では、令和4年10月11日付け拒絶査定を「原査定」といい、令和5年3月17日の手続補正書による補正を「本件補正」という。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の請求項1の記載
令和4年6月20日の手続補正書による補正は同年10月11日付け補正の却下の決定により却下されたので、本件補正前の特許請求の範囲は、令和3年12月6日の手続補正書により補正されたものであり、その請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
構造体に設置される音響装置であって、
特定事象に関する情報を受けて前記特定事象が発生したか否かを判定する制御部と、
前記制御部にて前記特定事象が発生したと判定したときに、前記特定事象の発生を報知するように音を出力する第1出力部と、
前記情報に応じて光を出力する第2出力部と、
を備え、
前記音の出力を開始する第1タイミングと、前記光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ、
前記第2タイミングは、前記第1タイミングよりも後である、
音響装置。」
(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
構造体に設置される音響装置であって、
特定事象に関する情報を受けて前記特定事象が発生したか否かを判定する制御部と、
前記制御部にて前記特定事象が発生したと判定したときに、前記特定事象の発生を報知するように音を出力する音出力部と、
前記情報に応じて周囲の領域を照らす照明光を出力する照明部と、
前記照明部と別体で設けられ、前記音響装置の作動時に光を出力する作動灯と、
を備え、
前記照明光の出力を開始するタイミングと前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミングは同時であり、
前記音の出力を開始する第1タイミングと、前記照明光及び前記作動灯の前記光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ、
前記第2タイミングは、前記第1タイミングよりも後であり、
前記制御部は、前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる、
音響装置。」
2 補正の目的
本件補正は、
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第1出力部」を「音出力部」に限定し、さらに、
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第2出力部」を「照明部」及び「前記照明部と別体で向けられ、前記音響装置の作動時に光りを出力する作動灯」に限定すると共に、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第2出力部」が出力する「光」を「周囲の領域を照らす照明光」に限定した上で、「前記照明光の出力を開始するタイミングと前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミングは同時であり、」との限定を付加し、加えて、
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第2タイミング」で出力が開始される「光」について「前記照明光及び前記作動灯の」との限定を付加し、そして、
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「制御部」について「前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる、」との限定を付加するものであって、
本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当する。
3 補正の適否
本件補正の目的が限定的減縮に該当するので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
なお、後の参照の便宜のため、請求項1を以下のA~Jに分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
【請求項1】
A 構造体に設置される音響装置であって、
B 特定事象に関する情報を受けて前記特定事象が発生したか否かを判定する制御部と、
C 前記制御部にて前記特定事象が発生したと判定したときに、前記特定事象の発生を報知するように音を出力する音出力部と、
D 前記情報に応じて周囲の領域を照らす照明光を出力する照明部と、
E 前記照明部と別体で設けられ、前記音響装置の作動時に光を出力する作動灯と、
を備え、
F 前記照明光の出力を開始するタイミングと前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミングは同時であり、
G 前記音の出力を開始する第1タイミングと、前記照明光及び前記作動灯の前記光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ、
H 前記第2タイミングは、前記第1タイミングよりも後であり、
I 前記制御部は、前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる、
J 音響装置。
(2)文献の記載事項
ア 引用文献1の記載事項
(ア)原査定で引用された特開2010-146393号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付した(以下同様)。
a 「【背景技術】
【0002】
次の特許文献1には、火災を検知したときに、ブザー等の警報音を出力すると共に、光を床面等に照射して照明することで安全性を向上させた警報器が開示されている。
【特許文献1】 特開2006-39818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、警報音と光とを同時に出力するために必要とする電力も大きくなる。そのため、警報器を電源電池で動作させる構成のものでは、電池寿命の末期になると、異常を検知しても電力不足のため居住者に報知できない場合があった。また、上記特許文献1を有線連動タイプの警報システムに適用した場合は、電力を供給する親警報器に、所定数よりも多くの警報器が繋がれた場合は電力不足となり易く、場合によってはシステムダウンする虞もあった。
【0004】
そこで、本発明は、電池寿命が末期となった警報器、あるいは子警報器が過接続された警報システムにおいて、少なくとも所定時間は警報を音声出力できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による警報器は、電源電池によって作動し、異常を検知したときには警報を出力すると共に、床面等を照明する警報器において、前記警報を音声出力する音声出力部と、前記照明を行う照明部と、前記異常を検知したときには、前記音声出力部で前記警報の音声出力を開始させて、所定時間前記音声出力を継続させてから、前記照明部で前記照明を開始させる制御部とを備える。」
b 「【発明の効果】
【0009】
本発明による警報器では、異常を検知すると、少なくとも所定時間警報を出力してから、照明を開始させている。そのため、電源電池の寿命末期に電力不足となっていて、照明の開始が困難なときでも、警報によって、居住者に異常を報知することができる。」
c 「【0013】
以下、本発明の実施例を図に従って説明する。この実施例は、電源電池によって作動し、火災要因として発煙等の異常を検知したときには警報を出力すると共に、床面等を照明することで報知する住宅用火災警報器であるが、本発明は、火災警報器に限定されるものではなく、ガス漏れ警報器等にも適用できる。
【0014】
図1は実施例の機能ブロック図、図2は実施例の外観斜視図であり、警報器1は住宅の天井面あるいは壁面に固定して使用される。
【0015】
警報器1は、各部に電源を供給する電源電池11と、煙濃度を検知する検知部12と、警報の停止操作を受け付ける操作部13と、警報の音声データが予め登録された音声出力部14と、床面等を照明する照明部15と、警報器1の作動状態を表示する表示部16と、各部を制御する制御部とで構成されている。」
d 「【0019】
音声出力部14は、音声合成IC、増幅器、スピーカ等で構成されており、音声ICには、警報メッセージとして、例えば「ヒュン、ヒュン、火事です。火事です」等、1フレーズ分の音声データが予め記憶されており、異常を報知する際には、その音声データを繰り返し再生出力する。
【0020】
照明部15は、例えばランプ15aとして高輝度の白色発光ダイオードあるいは小型電球と反射ミラー等で構成され、異常を報知する際には、点灯あるいは所定の照明パターンに従った点滅によって、床面等を照らしつけることで注意を喚起する。」
e 「【0024】
時刻T1において異常を検知して、警報の音声出力を開始し、その後、所定時間が経過した時刻T2において照明を開始している。また、時刻T3においては警報の停止操作を受け付けたことにより、警報および照明による報知を停止している。消費電力を見てみると、時刻T1には、音声出力部の作動によって待機時よりも消費電力が増大している。時刻T2には、照明部15の作動によって消費電力が更に増大している。時刻T2直後の消費電力は、ランプが小型電球であることから、特に高いものになっている。
【0025】
このように本発明では、異常を検知すると、少なくとも1フレーズ分の警報を出力し終えてから、所定時間経過後に、照明を開始させているので、電源電池11の寿命末期に、電力不足のため警報の音声出力と照明とを同時に行うことができない場合、つまり、上記時刻T2直後の消費電力のピークに対応できない場合でも、少なくとも1フレーズ分の警報を音声出力することで、居住者に報知することができる。」
f 図1
[図:0001406477000001.jpg]
g 図2
[図:0001406477000002.jpg]
(イ)前記(ア)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、引用発明をa~jに分説し、「構成a」のようにして参照する。
「a 警報音と光とを同時に出力するために必要とする電力も大きくなるため電池寿命の末期になると異常を検知しても電力不足のため居住者に報知できない場合があったとの背景技術の課題に鑑み、電池寿命が末期において、少なくとも所定時間は警報を音声出力できるようにする警報器であって、(【0002】~【0004】)
b 火災要因として発煙等の異常を検知したときには警報を出力すると共に、床面等を照明することで報知し(【0013】)
c 警報器1は住宅の天井面あるいは壁面に固定して使用され、(【0014】)
d 警報器1は、煙濃度を検知する検知部12と、音声出力部14と、床面等を照明する照明部15と、各部を制御する制御部とで構成され、(【0015】)
e 音声出力部14は、音声合成IC等で構成されており、音声ICには、警報メッセージとして、「ヒュン、ヒュン、火事です。火事です」等、1フレーズ分の音声データが予め記憶されており、異常を報知する際には、その音声データを繰り返し再生出力し、(【0019】)
f 照明部15は、白色発光ダイオードで構成され、異常を報知する際には、点灯によって、床面等を照らしつけ、(【0020】)
g 前記異常を検知したときには、前記音声出力部で前記警報の音声出力を開始させて、所定時間前記音声出力を継続させてから、前記照明部で前記照明を開始させる制御部とを備え、(【0005】)
h 時刻T1において異常を検知して、警報の音声出力を開始し、その後、所定時間が経過した時刻T2において照明を開始し、(【0024】)
i 異常を検知すると、少なくとも1フレーズ分の警報を出力し終えてから照明を開始させているので、電源電池11の寿命末期に、電力不足のため警報の音声出力と照明とを同時に行うことができない場合でも、少なくとも1フレーズ分の警報を音声出力することで、居住者に報知することができる(【0025】)
j 警報器。」
イ 引用文献2の記載事項
原査定で引用された特開2004-362537号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、警報部を一体に備えバッテリーで動作する火災警報器及びバッテリー寿命設定方法に関し、特に壁面に取り付けて火災を監視して警報する火災警報器及びバッテリー寿命設定方法に関する。」
(イ)「【0095】
散乱光検出回路45は、検煙チャンバーに流入する煙が規定値以下の濃度になると火災信号の出力を停止し、表示及び移報回路50が表示用LED52を消灯し、移報用コネクタ25からの移報出力を停止する。同時に音声回路用定電圧回路55が停止制御され、スピーカー22からの警報音声を停止し、通常の監視状態に戻る。」
ウ 引用文献3の記載事項
当審で新たに引用する平成21年1月29日発行の登録実用新案第3148103号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0004】
そこで本考案は、住宅用火災警報器に室内を照明する非常用照明灯を備えて、火災の発生を検知したときに非常用照明灯を一定時間点灯したり、地震による振動を検知する振動検知器をも備えて、深夜の火災発生のみならず地震発生時にも、非常用照明灯を一定時間点灯する機能を備えた、非常用照明灯付き住宅用火災警報器を提案するものである。」
(イ)「【0007】
図1は、本考案の第1の実施例の非常用照明灯を備えた住宅用火災警報器の構成を表すブロック図である。1は煙センサまたは熱センサ等のセンサとその周辺回路等からなる火災検知センサ部、2は警報音発生用のブザーや警報ランプとその周辺回路等からなる警報器部、3は火災検知センサ部1が火災発生を検知して出力したON信号により照明ランプの点灯を開始し、照明ランプ点灯開始からある一定時間を経過すると照明ランプを消灯するタイマ機能であるところの点灯回路部で、誤って発生させてしまった煙による火災警報器の不用意な作動等により、実際の火災ではないにもかかわらず火災検知センサ部1が検知信号を出してしまって照明ランプが点灯した場合でも、一定時間で自動復帰して電池の消耗を防ぐ構成となっている。4は主に白色光LEDと反射板からなる照明ランプ、5は各部の作動電力の供給源であるところの電源部であり主に電池と電池の残量検知・警告回路である。」
(ウ)「【0010】
ここでオア回路部7または点灯回路部3のいずれかに光量センサを設けて周囲の明るさを監視して、周囲が十分に明るいと判断されたときは照明ランプを点灯することが無いようにすることで、明るいときに発生した地震や誤って発生させてしまった煙による火災警報器の不用意な作動等の時には照明ランプが点灯しないようにすることが出来る。このようにすることで無用な電池の消耗を防ぐことが出来る。」
エ 引用文献4の記載事項
当審で新たに引用する平成24年1月5日発行の登録実用新案第3172666号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本考案は地震警報器、特に、地震の実体波を検知する地震警報器に関する。」
(イ)「【0014】
図3を参照するに、地震が発生すると、地震によるP波が、地震警報器が取り付けられた位置に最も速く伝送される。そのため、分銅25がP波によって上下に動く。P波の力の増大により、分銅25がボス23に当接すると、接触タブは制御装置15に信号を送る。次に、制御装置15は、人々に二重の警報効果を与えるために、警音装置16を制御して音を出させ、警報光41を点灯させる。このとき、照明光42も、人々に照明効果を与えるべく点灯される。」
オ 引用文献5の記載事項
当審で新たに引用する平成21年1月22日発行の登録実用新案第3147874号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本考案は、火災やガス漏れなどの異常を検出して警報する警報器に関する。」
(イ)「【0016】
本考案によれば、火災などの異常を検出し、且つ明暗センサにより明るさ低下検出が行われた場合にのみ照明装置を駆動して監視エリアの一部または全部を照明して安全に避難できるようにし、照明の必要のないたとえば昼間は照明装置を駆動しないようにして不必要な電池消耗を回避することができる。」
(ウ)「【0050】
ここで、異常監視部60で火災発報を検出して連動元警報音を出すときには、報知部36のLED22を例えば明滅させる。一方、異常監視部60で連動先警報音を出す場合には、報知部36のLED22を点滅させる。これによって、連動元警報と連動先警報におけるLED22の表示を区別できるようにしている。もちろん、連動元警報と連動先警報のいずれについても、同じLED22の明滅または点滅表示であってもよい。」
(エ)「【0086】
なお上記の実施形態は火災検出を対象とした住警器を例に取るものであったが、これ以外にガス漏れ警報器や、防犯用警報器など、それ以外の適宜の異常を検出する住警器につき、本実施形態の警報停止処理をそのまま適用することができる。また住宅用に限らずビルやオフィス用など各種用途の警報器にも適用できる。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 発明特定事項A及びJについて
引用発明は「警報器」であって(構成a、j)、「警報を音声出力する」(構成i)ものであるから、引用発明の「警報器」は音響装置である。
また、引用発明の「警報器1」(前記「警報器」と同一と認める。)は、「住宅の天井面あるいは壁面に固定して使用され」る(構成c)。ここで、本件補正発明における「構造体」は、明細書を参照すると「構造体C1(天井や壁等の造営材)」(【0012】)のことであると解されるから、引用発明の「警報器1」は、本件補正発明でいう「構造体」に、固定すなわち設置されると解される。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、「構造体に設置される音響装置」である点で一致する。
イ 発明特定事項Bについて
引用発明は、「火災要因として発煙等の異常を検知したときには警報を出力する」(構成b)ものであり、「警報メッセージとして、「ヒュン、ヒュン、火事です。火事です」」というフレーズが想定されている(構成e)から、引用発明は、火災という事象に関する情報として「発煙等の異常」が想定されており、「発煙等の異常」を受けて「火災」が発生したか否かを判定すると解される。よって、引用発明の「火災」及び「発煙等の異常」は、それぞれ本件補正発明の「特定事象」及び「特定事象に関する情報」に相当する。
引用発明の「制御部」は「前記異常を検知したときには、前記音声出力部で前記警報の音声出力を開始させ」る(構成g)から、上述のことも考慮すると、引用発明の「制御部」は「発煙等の異常」を受けて「火災」が発生したか否かを判定すると解される。
そうすると、引用発明の「制御部」は、発煙の検出を受けて火災が発生したか否かを判定していると解され、本件補正発明の「制御部」に相当する。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、「特定事象に関する情報を受けて前記特定事象が発生したか否かを判定する制御部」を備える点で一致する。
ウ 発明特定事項Cについて
引用発明の「音声出力部14」は「異常を報知する際には、その音声データを繰り返し再生出力」する(構成e)から、前記イを踏まえれば、引用発明の「音声出力部14」は、本件補正発明の「音出力部」に相当し、本件補正発明と引用発明とは、「前記制御部にて前記特定事象が発生したと判定したときに、前記特定事象の発生を報知するように音を出力する音出力部」を備える点で一致する。
エ 発明特定事項Dについて
引用発明は「時刻T1において異常を検知して、警報の音声出力を開始し、その後、所定時間が経過した時刻T2において照明を開始」する(構成h)から、異常(すなわち、発煙等の異常)の検知に応じて照明を開始すると解される。
引用発明において照明するのは「白色発光ダイオード」の「点灯によって、床面等を照らしつけ」る「照明部15」(構成f)であると解されるから、「照明部15」による照明は、「照明部15」を構成要素とする「警報器1」の周囲に白色光を出力することにより実現されると解され、引用発明の「照明部15」及び「白色光」は、それぞれ本件補正発明の「照明部」及び「照明光」に相当する。
以上によれば、本件補正発明と引用発明とは、「前記情報に応じて周囲の領域を照らす照明光を出力する照明部」を備える点で一致する。
オ 発明特定事項E及びFについて
引用発明は「照明部15」を備えるが、本件補正発明の「作動灯」に対応する構成を持たない。そのため、引用発明は、本件補正発明の「前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミング」に対応する構成も持たない。
カ 発明特定事項G及びHについて
引用発明は、「時刻T1において異常を検知して、警報の音声出力を開始し、その後、所定時間が経過した時刻T2において照明を開始」する(構成h)から、「警報の音声出力を開始」する「時刻T1」と、「照明を開始」する「時刻T2」とには時間差が設けられ、「時刻T2」は「時刻T1」よりも後である。
よって、引用発明の「時刻T1」及び「時刻T2」は、それぞれ本件補正発明の「第1タイミング」及び「第2タイミング」に相当し、本件補正発明と引用発明とは、「前記音の出力を開始する第1タイミングと、前記照明光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ、」「前記第2タイミングは、前記第1タイミングよりも後であ」る点で共通するが、引用発明の「時刻T2」は、本件補正発明の「前記作動灯の前記光」の出力を開始するタイミングではない点で相違する。
キ 発明特定事項Iについて
引用発明は、「前記制御部は、前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる」か否かは不明である。
ク 一致点及び相違点
前記ア~キによれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
〈一致点〉
「構造体に設置される音響装置であって、
特定事象に関する情報を受けて前記特定事象が発生したか否かを判定する制御部と、
前記制御部にて前記特定事象が発生したと判定したときに、前記特定事象の発生を報知するように音を出力する音出力部と、
前記情報に応じて周囲の領域を照らす照明光を出力する照明部と、
を備え、
前記音の出力を開始する第1タイミングと、前記照明光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ、
前記第2タイミングは、前記第1タイミングよりも後である、
音響装置。」である点。
〈相違点1〉
本件補正発明は「前記照明部と別体で設けられ、前記音響装置の作動時に光を出力する作動灯」を備えるのに対し、引用発明は「照明部15」と別体で設けられる「作動灯」を備えない点(発明特定事項E)。
これに付随して、本件補正発明には「前記照明光の出力を開始するタイミング」が存在するため、「前記照明光の出力を開始するタイミングと前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミングは同時であ」るとされ(発明特定事項F)、「前記音の出力を開始する第1タイミングと、」「前記作動灯の前記光の出力を開始する第2タイミングとには、時間差が設けられ」るとされる(発明特定事項G)が、引用発明には「前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミング」が存在しないので、発明特定事項Fに対応する構成を備えず、発明特定事項Gについても「前記照明光の出力を開始する第2タイミング」についての構成が存在しない点。
〈相違点2〉
本件補正発明の「制御部」は、「前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる」(発明特定事項I)が、引用発明の「制御部」は、火災の発生を示す値が基準値以下になった場合の制御が不明である点。
(4)相違点についての判断
前記(3)クに示した相違点1及び2について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用発明3に示される技術は、「住宅用火災警報器」であって「地震発生時にも、非常用照明灯を一定時間点灯する機能を備えた」ものである(【0004】)から、火災警報器であるが、地震警報器にも適用可能な警報器であることが明らかである。
引用発明4に示される技術は、「地震警報器」である(【0001】)。
引用発明5に示される技術は、「火災やガス漏れ」を検出する「警報器」である(【0001】)が、「ガス漏れ警報器や、防犯用警報器など」にも適用可能である(【0086】)。
そして、引用発明3~5に示される警報器は、いずれも、異常時(警報を発すべき場合)には、照明部による照明と、それとは別体の警報部による警報光出力との双方を行うものである(引用文献3【0007】、引用文献4【0014】、引用文献5【0016】及び【0050】)。
以上によれば、照明のための照明部とそれとは別体の警報部を備え、異常発生時に照明部による照明光と警報部による警報光との双方を出力することは、火災警報器、地震警報器、ガス漏れ警報器及び防犯警報器等の各種警報器の技術分野において、本願の出願前に周知技術であったと認められる。
(イ)引用発明について、引用文献1には「本発明は、火災警報器に限定されるものではなく、ガス漏れ警報器等にも適用できる。」(【0013】)との記載があり、引用発明は火災警報器及びガス漏れ警報器等に適用することが示唆されているから、引用発明の技術分野は前記(ア)の周知技術の技術分野と複数分野において一致することが示唆されており、引用発明に対して前記周知技術を適用する動機付けが存在する。
(ウ)前記(イ)によれば、引用発明に対して前記(ア)の周知技術を適用し、「照明部15」の他に警報部(本件補正発明の「作動灯」に相当)を設けること(発明特定事項E)は、当業者の通常の創作の能力の発揮に過ぎず、格別のことではない。
(エ)加えて、引用発明は「電源電池11の寿命末期に、電力不足のため警報の音声出力と照明とを同時に行うことができない場合でも、少なくとも1フレーズ分の警報を音声出力することで、居住者に報知すること」(構成i)を実現すべくなされた発明であるから、少なくとも1フレーズ分の警報を音声出力できるように、音声出力の間は可能な限り電池の消耗を防ぐべきであると理解される。
そうすると、引用発明に前記(ア)の周知技術を適用する際、音声出力以外の出力、すなわち、照明光の出力と警報光の出力はどちらも、1フレーズ分の警報を音声出力するのを待ってから出力すべきと理解されるから、「照明部15」による照明光と警報部による警報光とを出力するタイミングは、1フレーズ分の警報の音声出力の終了時となり、同時となる(発明特定事項F)のが当然である。
そして、「照明部15」による照明光と警報部による警報光とが同時に出力されるならば、引用発明の構成hにより、警報光を出力するタイミングが音声出力のタイミングよりも後となるので、音声出力のタイミングと警報光を出力するタイミングとに時間差が設けられること(発明特定事項G)は、必然的なことである。
(オ)以上によれば、相違点1に係る本件補正発明の構成(発明特定事項E、F及びGに係る構成)を導入することは、引用発明及び前記(ア)の周知技術に基づいて容易になし得ることである。
イ 相違点2について
火災警報器において、発煙等の異常が基準値以下になった場合に、通常の監視状態に戻り、警報等を停止することは、周知技術である(例えば、引用文献2【0001】及び【0095】)。
したがって、引用発明に引用文献2に示される周知技術を適用し、発明特定事項Iに係る本件補正発明の構成を導入することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、格別のことではない。
(5)効果についての判断
本件補正発明の効果は「避難時間の短縮」であり(【0009】)、より具体的には、深夜に火災が発生した場合、警報音のみでは寝室の照明を点けようとして避難の遅れに繋がり、視覚障害者の場合は警報音だけでは火災の発生に気づかないが、本件補正発明は照明部と作動灯があるため、避難時間を短縮でき(【0057】)、警報音のタイミングT1と光出力のタイミングT2とが異なれば、音出力に対する思考時間と、光出力に対する思考時間とが区別され易くなるため、状況をより迅速に把握でき、避難行動に移ることができ(【0058】)、さらに、タイミングT2がタイミングT1よりも後であることで、目を覚ます際のグレアによる影響を抑えることができ、避難を迅速化できる(【0059】)というものである。
上記の本件補正発明の効果は、上記下線部によれば、発明特定事項D~Hにより得られると解される。
そして、引用発明に対して周知技術(引用文献3~5に示されるもの)を適用したものは、発明特定事項D~Hに相当する構成を備える(前記(3)及び(4)ア)から、本件補正発明と同じ効果を奏すると認められる。
よって、本件補正発明の効果は格別のものではない。
(6)請求人の主張についての判断
請求人の主張は、概略、本件補正後の請求項1に係る発明は、発明特定事項F~Iという特有の構成を含むが、引用文献1~4(当審注:以下の第4に掲げる文献1~4)には、上記構成について開示も示唆もない(審判請求書9頁)というものである。
しかしながら、前記(3)クに示したとおり、発明特定事項Hに相当する構成は引用発明に備わり、前記(4)アに示したとおり、発明特定事項F及びGに相当する構成(相違点1に係る構成)は、引用発明及び周知技術(引用文献3~5に示されるもの)に基づき容易になし得るものであり、発明特定事項Iに相当する構成(相違点2に係る構成)は、引用発明及び周知技術(引用文献2に示されるもの)に基づき容易になし得るものであるから、請求人の主張は採用できない。
(7)小括
以上によれば、本件補正発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
4 本件補正についてのむすび
前記3によれば、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は前記第2のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)のとおりである。
第4 原査定の概要
原査定の概要は、以下のとおりである。
1.(新規性)この出願の請求項1、2、4及び6~8に係る発明は、下記の文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1、2、4及び6~8に係る発明は、下記の文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項3に係る発明は、下記の文献1に記載された発明及び文献2に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項5に係る発明は、下記の文献1に記載された発明、文献2に示される周知技術並びに文献3及び文献4に示される周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
文献1.特開2010-146393号公報
文献2.特開2004-362537号公報
文献3.特開2013-58067号公報
文献4.特開2008-204393号公報
第5 文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特開2010-146393号公報(文献1、この審決における引用文献1に対応)の記載事項は、前記第2[理由]3(2)アに示したとおりである。
第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明から、発明特定事項Cの「音出力部」を「第1出力部」にすることで限定を削除し、発明特定事項Dの「照明部」及び発明特定事項Eの「前記照明部と別体で向けられ、前記音響装置の作動時に光りを出力する作動灯」を「第2出力部」にすることで限定を削除すると共に、発明特定事項Dの「周囲の領域を照らす照明光」を「第2出力部」が出力する「光」にすることで限定を削除した上で、「前記照明光の出力を開始するタイミングと前記作動灯の前記光の出力を開始するタイミングは同時であり、」という発明特定事項Fを削除し、加えて、発明特定事項Gの「第2タイミング」で出力が開始される「光」について「前記照明光及び前記作動灯の」との限定を削除し、そして、「前記制御部は、前記特定事象の発生を示す値が基準値以下になった場合に、前記音出力部の前記音の出力を停止させ、更に前記照明部の前記照明光の出力を停止させる、」という発明特定事項Iを削除するものである(前記第2[理由]2を参照)。
そうすると、前記第2[理由]3(3)クで認定した相違点1及び相違点2に係る発明特定事項は、本願発明に存在していないため、本願発明と引用発明は相違しない。よって、本願発明は、特許法29条1項3号の規定に該当する引用発明と同一であるから、同条1項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願発明は引用発明と同一であるから、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
第7 むすび
前記第6のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号及び同条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-000824