特許拒絶査定不服審判
2022-020769
アラーム情報処理装置およびアラーム情報処理装置の制御プログラム
- 審判番号
- 2022-020769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-137008
- 請求日
- 2022年12月22日
- 審決日
- 2023年10月30日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本光電工業株式会社
- 【請求人代理人】IBC一番町弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 稲葉 崇
- 分類
- P18 .121-Z (G08B) / P18 .575-Z (G08B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-137008「アラーム情報処理装置およびアラーム情報処理装置の制御プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月23日出願公開、特開2020- 13493〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年7月20日の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 4年 5月10日付け 拒絶理由通知書
7月12日 意見書・手続補正書
10月 4日付け 拒絶査定
12月22日 審判請求書・手続補正書
令和 5年 3月10日 前置報告書
以下では、令和4年10月4日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年12月22日の手続補正書による補正を「本件補正」という。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の請求項1の記載
本件補正前の令和4年7月12日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
アラーム情報に関する閾値を設定する設定部と、
所定の期間内に発生したアラームをアラーム情報として集計する集計部と、
前記集計部によって集計されたアラーム情報が、前記設定部によって設定された前記閾値を超えるか否かを判断する判断部と、
を有し、
前記設定部は、前記アラーム情報に関する閾値として、前記アラームの発生回数に関する閾値を設定し、
前記集計部は、前記アラーム情報として、前記アラームの発生回数を集計する、アラーム情報処理装置。」
(2)本件補正後の請求項1の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「【請求項1】
アラーム情報に関する閾値を設定する設定部と、
所定の期間内に発生した全種類のアラームをアラーム情報として集計する集計部と、
前記集計部によって集計されたアラーム情報が、前記設定部によって設定された前記閾値を超えるか否かを判断する判断部と、
を有し、
前記設定部は、前記アラーム情報に関する閾値として、前記全種類のアラームの発生回数に関する閾値を設定し、
前記集計部は、前記アラーム情報として、前記全種類のアラームの発生回数を集計する、アラーム情報処理装置。」
2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「アラーム」について「全種類の」との限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)を目的とするものに該当する。
3 補正の適否
本件補正の目的が限定的減縮に該当するので、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
なお、後の参照の便宜のため、請求項1を以下のA~Fに分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
【請求項1】
A アラーム情報に関する閾値を設定する設定部と、
B 所定の期間内に発生した全種類のアラームをアラーム情報として集計する集計部と、
C 前記集計部によって集計されたアラーム情報が、前記設定部によって設定された前記閾値を超えるか否かを判断する判断部と、
を有し、
D 前記設定部は、前記アラーム情報に関する閾値として、前記全種類のアラームの発生回数に関する閾値を設定し、
E 前記集計部は、前記アラーム情報として、前記全種類のアラームの発生回数を集計する、
F アラーム情報処理装置。
(2)引用文献の記載事項
ア 原査定で引用された特開2008-206920号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付した。
(ア)「【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の患者監視装置は、アラーム情報を羅列して表示しているにすぎず、所定の時間範囲についてのアラーム発生回数を集計していないので、医師や看護師などの医療従事者は、アラームの発生の変化を把握し難いという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、所定の時間範囲についてのアラーム発生回数をアラーム情報から集計し、アラームの発生の変化を容易に把握できるようにした看護支援システムを提供することを目的とする。」
(イ)「【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態による看護支援システムのハードウェア構成図を図1に示す。同図に示すように、本実施形態による看護支援システムは、生体モニタ100、管理装置110を備えて構成されている。
【0009】
また、生体モニタ100は、生体モニタ用制御部101と、測定部102と、検出部103と、送信部104と、生体モニタ用インターフェース(I/F)部105とを備えている。また、管理装置110は、管理装置用制御部111と、受信部112と、記憶部113と、入力部114と、抽出部115と、集計部116と、表示部117と、管理装置用インターフェース(I/F)部118とを備えている。」
(ウ)「【0014】
管理装置用制御部111は、管理装置110の各構成要素を後述するように制御する。受信部112は、生体モニタ100から送信されたアラーム情報を受信するものである。管理装置用I/F部118を介してアラーム情報を受信すると、受信部112は、アラーム情報に含まれる被測定者情報とアラーム発生日時情報とアラーム種別情報と測定機器情報とを記憶部113に保存する。」
(エ)「【0017】
また、医療従事者が後述するアラーム情報一覧画面200の図示しない集計ボタンを押下すると、管理装置用制御部111は、入力部114を動作させる。入力部114の動作が開始すると、入力部114は、図示しない集計条件入力画面を出力する。集計条件入力画面は、測定機器情報入力欄、集計条件入力欄、シグナル表示条件入力欄、実行ボタンを含んでいる。医療従事者は、測定機器情報入力欄に測定機器情報を、集計条件入力欄に範囲情報と集計アラーム種別情報とを、シグナル表示条件入力欄に判定情報をそれぞれ入力する。医療従事者が実行ボタンを押下すると、管理装置用制御部111は、各集計条件が入力されたか否かを判定する。各集計条件が入力されたと管理装置用制御部111にて判断した場合には、管理装置用制御部111は、抽出部115を動作させる。この例において、医療従事者は、入力部114により、集計条件入力画面の測定機器情報入力欄に「A-26K」と入力し、集計条件入力欄に「血圧低下アラーム発生回数、最新10日間、日毎」と入力し、シグナル表示条件入力欄に「最新3日間」と入力する。
【0018】
抽出部115は、入力部114により入力した被測定者情報および機器情報に対応するアラーム情報を記憶部113から抽出するものである。図示しない入力画面の被測定者情報入力欄に被測定者情報が入力されたと管理装置用制御部111にて判断した場合には、管理装置用制御部111は、抽出部115を動作させる。抽出部115の動作が開始すると、抽出部115は、被測定者情報入力欄に入力された被測定者情報に該当する被測定者のアラーム情報一覧を抽出する。そして、表示部117は、抽出部115により抽出したアラーム情報一覧をアラーム情報一覧画面200に表示する。
【0019】
アラーム情報一覧画面200は、図2に示すように、記憶部113に記憶されたアラーム情報を被測定者毎に表示した画面である。アラーム情報一覧画面200は、No.表示欄201、測定機器情報表示欄202、アラーム日時表示欄203、アラーム種別表示欄204を含んでいる。アラーム情報に含まれる生体モニタ100の測定機器情報は、測定機器情報表示欄202に表示される。アラーム情報に含まれるアラーム発生日時情報は、アラーム日時表示欄202に表示される。アラーム情報に含まれるアラーム種別情報は、アラーム種別表示欄204に表示される。これらの表示により、被測定者毎に生体モニタ100からのアラーム日時とアラームの種別とが表示されるため、医療従事者は、被測定者毎のアラーム内容を管理することができる。」
(オ)「【0022】
集計部116は、抽出部115により抽出したアラーム情報のアラーム発生日時情報に基づいて所定の単位時間あたりのアラーム発生回数を時系列で集計するものである。抽出部115によりアラーム情報を抽出すると、管理装置用制御部111は、集計部116を動作させる。集計部116の動作が開始すると、集計部116は、抽出部115により抽出したアラーム情報を取得する。ここで、入力部114により入力した集計条件から取得日数(本実施形態では最新10日間)と取得種別(本実施形態では血圧低下)とを抽出する。また、集計部116は、入力部114により入力した集計条件から単位時間を抽出し、取得したアラーム情報の単位時間(本実施形態では日毎)あたりのアラーム発生回数を集計する。抽出部115は、「被測定者が山田太郎で、血圧低下によって発生したアラーム」のアラーム情報を抽出する。集計部116は、抽出部115で抽出したアラーム情報を最新10日間だけ取得して、日毎にアラーム発生回数を集計する。」
(カ)「【0040】
ステップ506の処理を行うと、管理装置用制御部111は、入力部114により入力したシグナル表示条件を取得する。管理装置用制御部111は、集計部116により集計した日毎のアラーム発生回数から、シグナル表示条件に対応するアラーム発生回数を取得する(ステップ507)。管理装置用制御部111は、予め設定された判定基準から、取得したアラーム発生回数の変化を判定して、判定した結果に対応する表示パターンを決定する(ステップ508)。そして、表示部117は、ステップ506で集計した日毎のアラーム発生回数と、ステップ508で決定した表示パターンとを集計画面300に表示する(ステップ509)。」
(キ)「【0049】
また、前述した実施形態では、シグナル表示条件で指定した期間のアラーム発生回数の変化が減少している場合には、表示部117は、シグナル表示欄307に青を表示し、シグナル表示条件で指定した期間のアラーム発生回数の変化が増加している場合には、表示部117は、シグナル表示欄307に赤を表示し、アラーム発生回数の変化が減少・増加の繰り返しならば、表示部117は黄を表示しているがこれに限定されない。例えば、しきい値を予め設定し、最新アラーム発生回数がしきい値未満の場合には、表示部117は青を表示させたり、しきい値以上の場合には、表示部117は赤を表示させたりしても良い。これにより、医療従事者は、被測定者のバイタルの変化をさらに細かく分析することができる。」
(ク)図2
[図:0001405554000001.jpg]
図2によれば、アラーム種別には血圧低下と脈拍数低下とが含まれる。
イ 前記アの記載によれば、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、引用発明をa~kに分説し、「構成a」のようにして参照する。
「a 医療従事者がアラームの発生の変化を把握し難いという問題を解決するために成された看護支援システムに備わる管理装置110であって、(【0004】、【0005】、【0008】)
b 管理装置110は、管理装置用制御部111と、受信部112と、入力部114と、抽出部115と、集計部116と、表示部117と、を備え、(【0009】)
c 受信部112は、生体モニタ100から送信されたアラーム情報を受信し、アラーム情報にはアラーム種別情報が含まれ、(【0014】)
d 入力部114は、集計条件入力画面を出力し、この例において、医療従事者は、入力部114により、集計条件入力画面の集計条件入力欄に「血圧低下アラーム発生回数、最新10日間、日毎」と入力し、シグナル表示条件入力欄に「最新3日間」と入力し、(【0017】)
e 抽出部115は、アラーム情報を抽出するものであり、抽出部115は、被測定者のアラーム情報一覧を抽出し、そして、表示部117は、アラーム情報一覧をアラーム情報一覧画面200に表示し、(【0018】)
f アラーム情報一覧画面200は、アラーム種別表示欄204を含み、アラーム情報に含まれるアラーム種別情報は、アラーム種別表示欄204に表示され、(【0019】)
g アラーム種別には血圧低下と脈拍数低下とが含まれ、(図2)
h 抽出部115により抽出したアラーム情報を取得し、ここで、入力部114により入力した集計条件から取得日数と取得種別(本実施形態では血圧低下)とを抽出し、集計部116は、入力部114により入力した集計条件から単位時間を抽出し、取得したアラーム情報の単位時間あたりのアラーム発生回数を集計し、(【0022】)
i 管理装置用制御部111は、予め設定された判定基準から、取得したアラーム発生回数の変化を判定して、判定した結果に対応する表示パターンを決定し、そして、表示部117は、アラーム発生回数と、表示パターンとを集計画面300に表示し、(【0040】)
j しきい値を予め設定し、最新アラーム発生回数がしきい値以上の場合には、表示部117は赤を表示させても良く、これにより、医療従事者は、被測定者のバイタルの変化をさらに細かく分析することができる(【0049】)
k 管理装置110。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 発明特定事項Aについて
引用発明は、「しきい値を予め設定し」ているので(構成j)、しきい値を設定する設定部を当然に有すると認められる。
そして、引用発明の「しきい値」は、「アラーム発生回数がしきい値以上」であるか否かを判断するために用いられている(構成j)。つまり、引用発明の「アラーム発生回数」は、「しきい値」と比較されるものであるから、その意味で、本件補正発明の「アラーム情報」に相当し、引用発明の「しきい値」は、本件補正発明の「アラーム情報に関する閾値」に相当する。
したがって、本件補正発明の「アラーム情報処理装置」と引用発明の「管理装置110」とは、「アラーム情報に関する閾値を設定する設定部」を有する点で一致する。
イ 発明特定事項Bについて
(ア)本件補正発明では、「前記アラーム情報として、前記全種類のアラームの発生回数を集計する」(発明特定事項E)ものであるから、本件補正発明における「アラーム」は、「アラームの発生回数」として集計される対象であると解釈される。
(イ)引用発明の「アラーム情報」は、「生体モニタ100」から受信するものであり(構成c)、引用発明では「抽出部115により抽出したアラーム情報を取得し、」「集計部116は、入力部114により入力した集計条件から単位時間を抽出し、取得したアラーム情報の単位時間あたりのアラーム発生回数を集計」している(構成h)。すなわち、引用発明においては、「アラーム情報」が「アラーム発生回数」として集計される対象である。
(ウ)前記(ア)の解釈及び前記(イ)に鑑みれば、引用発明の「アラーム情報」は、「アラーム発生回数」として集計される対象であるから、その意味で、本件補正発明において「アラームの発生回数」として集計される「アラーム」に相当する。
そして、引用発明の「アラーム発生回数」が本件補正発明の「アラーム情報」に相当することは、前記アのとおりである。(なお、引用発明の「アラーム情報」は、本件補正発明の「アラーム情報」には相当しない。)
(エ)引用発明の「集計部116」及び「単位時間」は、それぞれ本件補正発明の「集計部」及び「所定の期間」に相当する。
(オ)前記(ア)~(エ)によれば、本件補正発明の「アラーム情報処理装置」と引用発明の「管理装置110」とは、「所定の期間内に発生したアラームをアラーム情報として集計する集計部」を備える点で共通するが、引用発明では集計するアラームが「全種類」であるか否か不明である点で相違する。
ウ 発明特定事項Cについて
引用発明は「最新アラーム発生回数がしきい値以上」であるか否かを判断している(構成j)から、当該判断を行う判断部を当然に備えていると認められる。
したがって、本件補正発明の「アラーム情報処理装置」と引用発明の「管理装置110」とは、「前記集計部によって集計されたアラーム情報と、前記設定部によって設定された前記閾値との大小関係を判断する判断部」を有する点で共通するが、本件補正発明の判断の内容は「アラーム情報」が「閾値を超える」か否かであるのに対し、引用発明の判断の内容は「アラーム発生回数」が「しきい値以上」であるか否かである点で相違する。
エ 発明特定事項Dについて
前記アのとおりであるから、本件補正発明と引用発明とは、「前記設定部は、前記アラーム情報に関する閾値として、前記アラームの発生回数に関する閾値を設定」する点で共通するが、引用発明では設定される「しきい値」が「全種類」のアラーム発生回数に関するものであるか否かが不明である点で相違する。
オ 発明特定事項Eについて
前記イのとおりであるから、本件補正発明と引用発明とは、「前記集計部は、前記アラーム情報として、前記アラームの発生回数を集計する」点で共通するが、引用発明では集計されるアラームが「全種類」であるか否かが不明である点で相違する。
カ 発明特定事項Fについて
引用発明は、「生体モニタ100から送信されたアラーム情報を受信し」(構成c)、「アラーム情報を抽出」して(構成e)、「アラーム情報の単位時間あたりのアラーム発生回数を集計」(構成h)するものであるから、アラーム情報の処理装置であるといえる。
よって、本件補正発明と引用発明とは「アラーム情報処理装置」である点で一致する。
キ 前記ア~カによれば、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
〈一致点〉
「アラーム情報に関する閾値を設定する設定部と、
所定の期間内に発生したアラームをアラーム情報として集計する集計部と、
前記集計部によって集計されたアラーム情報と、前記設定部によって設定された前記閾値との大小関係を判断する判断部と、
を有し、
前記設定部は、前記アラーム情報に関する閾値として、前記アラームの発生回数に関する閾値を設定し、
前記集計部は、前記アラーム情報として、前記アラームの発生回数を集計する、アラーム情報処理装置。」である点。
〈相違点1〉
本件補正発明では、集計するアラームが「全種類」であり(発明特定事項B及びE)、設定される閾値が「全種類」のアラーム発生回数に関するものである(発明特定事項D)のに対し、引用発明では、集計するアラームが「全種類」であるか否か、及び、設定される「しきい値」が「全種類」のアラーム発生回数に関するものであるか否かが不明である点。
〈相違点2〉
「アラーム情報」と「閾値」との大小関係の判断について、本件補正発明は、前者が後者を「超える」か否かを判断しているのに対し、引用発明は、前者が後者「以上」であるか否かを判断している点。
(4)本件補正発明の「全種類」に係る解釈
相違点1についての判断に先立ち、本件補正発明における「全種類」に係る意味を以下に示す。
ア 本件補正発明は、「全種類のアラームをアラーム情報として集計」(発明特定事項B)、「全種類のアラームの発生回数に関する閾値を設定」(発明特定事項D)及び「アラーム情報として、前記全種類のアラーム発生回数を集計」(発明特定事項E)との発明特定事項を有する。
イ 前記アに示した発明特定事項に関係する実施形態の記載として、本願明細書の【0051】と【0063】がある。これらの記載(及び【0051】が参照する図7)は以下の(ア)~(ウ)のとおりである。なお、下線は強調のために当審で付した。
(ア)「【0051】
また、図7に示すように、セントラルモニタ装置20の表示部24は、例えば、アラームの発生状況の推移を示すグラフと共に、所定の期間内におけるアラーム情報が閾値を超えている旨のメッセージを表示してもよい。図7に示す例では、各患者の生体情報を示す画面の下側において、所定の期間である1時間毎に集計された過去1日(24時間)分のアラームの発生回数が、棒グラフによって表示されている。アラームの発生回数には、バイタルアラームおよびテクニカルアラームの各々の発生回数が含まれている。そして、1時間におけるアラームの発生回数に関する閾値が破線で表示され、直近の時間帯である8時台におけるアラームの発生回数が、閾値を超えている旨のメッセージが表示されている。これにより、セントラルモニタ装置20は、医療従事者に過度な負担がかかっていることと共に、アラームが頻繁に発生する時間帯等の傾向についても、ユーザーに通知できる。」
(イ)「【0063】
また、上述した実施形態では、セントラルモニタ装置20が、アラームの発生回数について判断する場合を例に挙げて説明した。しかし、セントラルモニタ装置20は、アラームの発生回数として、アラームの種類に応じたアラームの発生回数について判断してもよい。すなわち、セントラルモニタ装置20は、例えば、バイタルアラームもしくはテクニカルアラーム、またはより詳細なアラームの種類毎に異なる閾値を設定し、アラームの種類毎にアラームの発生回数が閾値を超えるか否かを判断してもよい。これにより、セントラルモニタ装置20は、アラーム情報に関する閾値をより有効に活用できる。」
(ウ)図7
[図:0001405554000002.jpg]
ウ 本願明細書【0051】及び図7に記載の実施形態(以下、「第1実施形態」という。)では、アラームとしてバイタルアラームとテクニカルアラームの2種類があり、種類毎にアラーム発生回数が集計されている(図7下部の棒グラフで、黒の部分がバイタルアラームの発生回数、白の部分がテクニカルアラームの発生回数と解される)。
そして、第1実施形態では、閾値は図7の破線で示される1つのみであり、バイタルアラームの発生回数とテクニカルアラームの発生回数との合計を、唯一の閾値と比較している。
エ 本願明細書【0063】に記載の実施形態(以下、「第2実施形態」という。)は、アラームの種類毎に異なる閾値を設定し、アラームの種類毎にアラームの発生回数が閾値を超えるか否かを判断するのだから、閾値もアラーム発生回数も、共に、アラームの種類毎にあり、複数存在する。
オ 請求人は、本件補正の説明として、「令和4年7月12日付で補正した請求項1における「アラーム」を「全種類のアラーム」に変更する補正を行いました。この補正は、出願当初明細書全体の記載、とくに段落[0051]および段落[0063]の記載等に基づきます。」(審判請求書2頁)と主張することから、前記アに示した発明特定事項は、第1実施形態及び第2実施形態の双方を包含するものとして特定されていると認められる。
カ 前記ウ~オによれば、前記アに示した発明特定事項は、以下の(ア)及び(イ)ように解釈すべきである。
(ア)「全種類のアラームをアラーム情報として集計」(発明特定事項B)の意味は、以下の(i)及び(ii)の2つの意味を包含するものとして解釈される。
(i) 全種類のアラームの発生回数の合計をアラーム情報として集計すること(第1実施形態における唯一の閾値との比較対象としてのアラーム情報を集計すること)
(ii)全種類のアラームの発生回数をそれぞれの種類毎に異なる複数のアラーム情報として集計すること(第1実施形態における図7の黒い棒グラフと白い棒グラフとをそれぞれ集計すること、及び、第2実施形態のアラームの種類毎のアラーム発生回数を集計すること)
「アラーム情報として、前記全種類のアラーム発生回数を集計」(発明特定事項E)についても、同様である。
(イ)「全種類のアラームの発生回数に関する閾値を設定」(発明特定事項D)の意味は、以下の(i)及び(ii)の2つの意味を包含するものとして解釈される。
(i) 全種類のアラームの発生回数の合計と比較される唯一の閾値を設定すること(第1実施形態における閾値を設定すること)
(ii)アラームの種類毎に異なる複数の閾値を設定すること(第2実施形態における閾値を設定すること)
(5)相違点についての判断
ア 相違点1について
本件補正発明の「全種類」に係る解釈は前記(4)カのとおりであるから、以下では、相違点1の「全種類」に係る意味を前記(4)カ(ア)(ii)及び前記(4)カ(イ)(ii)の意味で解釈して、相違点1の容易想到性について判断する。
引用発明の「アラーム情報」(本件補正発明の「アラーム」に相当)にはアラーム種別情報が含まれ(構成c)、アラーム種別情報には、「血圧低下」及び「脈拍数低下」(構成g)が含まれるところ、「アラーム発生回数」(本件補正発明の「アラーム情報」に相当)を集計する一例として、「血圧低下」のアラーム種別について集計している(構成d、h)。
そして、引用発明は、「アラーム発生回数」と「しきい値」との大小比較の判断結果により表示を変えるものであり、その目的は、「被測定者のバイタルの変化をさらに細かく分析する」(構成j)ためである。
「被測定者のバイタルの変化をさらに細かく分析する」ために、「血圧低下」のアラーム種別のみならず、「脈拍数低下」など、アラーム種別として採用されている全ての種別それぞれについて個別に複数の「アラーム発生回数」を集計し、種別毎に異なる複数の「しきい値」を設けるようにすることは、当業者であれば容易になし得ることである。
イ 相違点2について
しきい値に対してある値が大きいか小さいかを比較するにあたり、ある値がしきい値と同じ場合を、大きい場合に含めるか、小さい場合に含めるかは設計的事項に過ぎない。
よって、引用発明の「アラーム発生回数がしきい値以上の場合」(構成j)を、「アラーム発生回数がしきい値を超える場合」にすることは、当業者が容易になし得ることである。
(6)効果についての判断
引用発明において、「血圧低下」や「脈拍数低下」等の種別毎に異なる複数の「アラーム発生回数」を集計し、種別毎に異なる複数の「しきい値」を設けたものは、本件補正発明の第2実施形態と同一の効果を奏することが明らかであるため、本件補正発明の効果は格別のものではない。
(7)請求人の主張についての判断
請求人は、「引用文献2(当審注:この審決の引用文献)の発明では、アラーム発生回数の集計は、血圧低下、心拍数、呼吸数毎になされます。すなわち、アラーム発生回数の集計は、個別に行われます。これに対して、本願発明においては、所定の期間内に発生した全種類のアラームの発生回数をアラーム情報として集計する構成を有しております。したがいまして、本願発明と引用文献2とでは、構成が明らかに異なりますので、本願発明と引用文献2の発明とは同一ではなく、引用文献2に基づいて、本願発明の構成を容易に想到することもできません。」と主張する。(審判請求書6~7頁)
請求人の主張は判然としないものの、引用文献2との相違を主張する趣旨から、本件補正発明におけるアラーム情報の集計の意味を前記(4)カ(ア)(ii)の意味ではなく、前記(4)カ(ア)(i)の意味でのみ解釈することを前提としていると解される。
しかしながら、前記(4)カ(ア)のとおり、本件補正発明の「全種類」に係る発明特定事項の意味は、前記(4)カ(ア)(i)及び(ii)の2つの意味を包含するものであるから、請求人の主張は採用できない。
(8)小括
以上によれば、本件補正発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
4 本件補正についてのむすび
前記3によれば、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明
本件補正は上述のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)のとおりである。
第4 原査定の概要
原査定の概要は、以下のとおりである。
1.(新規性)この出願の請求項1、5及び6に係る発明は、下記の文献2に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
この出願の請求項2に係る発明は、下記の文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の請求項1、5及び6に係る発明は、下記の文献2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項2に係る発明は、下記の文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項1及び4~6に係る発明は、下記の文献1に記載された発明及び文献2に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
この出願の請求項3に係る発明は、下記の文献1に記載された発明、文献2に記載された技術及び文献3に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
文献1.特開2013-208253号公報
文献2.特開2008-206920号公報
文献3.特開2017-18379号公報
第5 文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された文献2(この審決における引用文献に対応)の記載事項は、前記第2[理由]3(2)に記載したとおりである。
第6 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明から、その発明特定事項である「アラーム」に係る「全種類の」との限定事項を削除したものである(前記第2[理由]2を参照)。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]3に示したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-020769