特許異議申立
2022-701109
高吸水性樹脂の製造方法および高吸水性樹脂
- 審判番号
- 2022-701109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-558526
- 登録番号
- 7066006
- 請求日
- 2022年11月14日
- 審決日
- 2023年11月02日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】株式会社 日本触媒
- 【異議申立人代理人】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 淺野 美奈
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.54 -YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第184条の4第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7066006号発明「高吸水性樹脂の製造方法および高吸水性樹脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7066006号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7066006号の請求項1ないし3及び5ないし7に係る特許を維持する。
特許第7066006号の請求項4に係る特許に対する特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7066006号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)9月24日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2018年9月28日 大韓民国)を国際出願日とする出願であって、令和4年4月28日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年5月12日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年11月14日に特許異議申立人 株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和5年2月20日付けで取消理由が通知され、同年5月19日に特許権者 エルジー・ケム・リミテッド(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年6月23日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年7月27日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7066006号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後に」と記載されているのを、「前記表面架橋層の形成段階以後に」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2、3及び5ないし7についても、同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含む、高吸水性樹脂の製造方法」と記載されているのを、「前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含み、前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される、高吸水性樹脂の製造方法」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2、3及び5ないし7についても、同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1から4のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」と記載されているのを、「請求項1から3のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項6及び7についても、同様に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1から5のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」と記載されているのを、「請求項1から3および5のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」に訂正する。
請求項6の記載を引用して特定する請求項7についても、同様に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1から6のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」と記載されているのを、「請求項1から3、5および6のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法」に訂正する。
(7) 訂正事項7
明細書の段落【0116】に「実施例6」と記載されているのを、「参考例6」に訂正する。
(8) 訂正事項8
明細書の段落【0116】に「アクリル酸の中和度が69モル%であり」と記載されているのを、「アクリル酸の中和度が72モル%であり」に訂正する。
(9) 訂正事項9
明細書の段落【0122】に「実施例6」及び「実施例7」と記載されているのを、「参考例6」及び「参考例7」に訂正する。
(10) 訂正事項10
明細書の段落【0125】に「実施例6」及び「実施例8」と記載されているのを、「参考例6」及び「参考例8」に訂正する。
(11) 訂正事項11
明細書の段落【0128】に「実施例6」及び「実施例9」と記載されているのを、「参考例6」及び「参考例9」に訂正する。
(12) 訂正事項12
明細書の段落【0151】に「実施例6」、「実施例7」、「実施例8」及び「実施例9」と記載されているのを、「参考例6」、「参考例7」、「参考例8」及び「参考例9」に訂正する。
(13) 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1及び2について
訂正事項1及び2に係る請求項1の訂正は、追加中和する段階に関して、訂正前の「前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後に」を「前記表面架橋層の形成段階以後に」とし、さらに、追加中和する段階で用いられる塩基性溶液について「前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される」ものであることを特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項4及び明細書の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2、3及び5ないし7についても、同様である。
(2) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項4の訂正は、請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項4の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項4ないし6について
訂正事項4ないし6に係る請求項5ないし7の訂正は、何れも、請求項4が削除されたことに伴い、引用先の請求項から請求項4を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮または明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4ないし6に係る請求項5ないし7の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項5あるいは6の記載を直接又は間接的に引用して特定する他の請求項についても、同様である。
(4) 訂正事項8について
訂正事項8に係る明細書の【0116】の訂正は、アクリル酸の中和度が「69モル%」と記載されていたものを「72モル%」に訂正するものであって、誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項8に係る明細書の【0116】の訂正は、外国語書面出願において最初に添付した外国語書面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(5) 訂正事項7及び9ないし12について
訂正事項7及び9ないし12に係る明細書の【0116】、【0122】、【0125】、【0128】及び【0151】の訂正は、何れも、訂正事項8に係る明細書の【0116】の訂正にともない、本件特許請求の範囲の範囲外となった「実施例」を「参考例」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7及び9ないし12に係る明細書の【0116】、【0122】、【0125】、【0128】及び【0151】の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。また、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」をまとめて、「本件特許発明」という場合がある。)は、令和5年5月19日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記含水ゲル重合体の形成段階で、水溶性エチレン系不飽和単量体は70モル%以下の中和度を有し、
前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含み、
前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される、高吸水性樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記追加中和する段階は、前記ベース樹脂粉末に表面架橋剤を加え、100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始された以後に、前記ベース樹脂粉末をNa+イオンを含む塩基性溶液で処理して追加中和する段階を含む、請求項1に記載の高吸水性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記塩基性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液または炭酸ナトリウム水溶液である、請求項2に記載の高吸水性樹脂の製造方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記追加中和する段階以後に、前記高吸水性樹脂の水可溶成分に対して測定した中和度が70モル%超過である、請求項1から3のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記表面架橋剤は、多価アルコール系化合物、多価エポキシ系化合物、ポリアミン化合物、ハロエポキシ化合物、ハロエポキシ化合物の縮合生成物、オキサゾリン化合物類およびアルキレンカーボネート系化合物からなる群より選ばれた1種以上を含む、請求項1から3および5のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記表面架橋段階は、20℃~80℃の初期温度で10分~30分にわたって140℃~200℃の最高温度に昇温し、前記最高温度を5分~60分間維持して熱処理することにより行われる、請求項1から3、5および6のいずれか一項に記載の高吸水性樹脂の製造方法。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし8に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次の1ないし6のとおりである。
1 申立理由1(原文新規事項)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第184条の4第1項の外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない出願に対してされたものであるから、同法第113条第5号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由1の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由1-1(水溶性エチレン系不飽和単量体の中和度について)
水溶性エチレン系不飽和単量体の中和度に関し、本件特許の請求項1及び明細書(【0014】)には「70モル%以下」と記載されているのに対し、本件特許の国際公開にあたる甲第16号証の特許請求の範囲及び明細書には「70モル%未満」と記載されているものの「70モル%以下」とは記載されていない。
(2) 申立理由1-2(実施例における水溶性エチレン系不飽和単量体の中和度について)
本件特許の明細書の実施例6(【0116】ないし【0121】)で用いているアクリル酸の中和度は「69モル%」と記載されているのに対し、本件特許の国際公開にあたる甲第16号証の実施例6(第20頁第23行ないし第21頁第20行)には「72モル%」と記載されているものの、「69モル%」の実施例は記載されていない。
2 申立理由2(新規性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証ないし甲第5号証、甲第10号証ないし甲第13号証、甲第15号証及び甲第18号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2のうち、主たる証拠と対象請求項の関係は次のとおりである。
(1) 申立理由2-2 甲第2号証:請求項1ないし3、5及び6
(2) 申立理由2-3 甲第3号証:請求項1及び3ないし6
(3) 申立理由2-4 甲第4号証:請求項1ないし6
(4) 申立理由2-5 甲第5号証:請求項1ないし6
(5) 申立理由2-10 甲第10号証:請求項1及び4ないし6
(6) 申立理由2-11 甲第11号証:請求項1及び4ないし6
(7) 申立理由2-12 甲第12号証:請求項1ないし6
(8) 申立理由2-13 甲第13号証:請求項1、5及び6
(9) 申立理由2-15 甲第15号証:請求項1ないし6
(10) 申立理由2-18 甲第18号証:請求項1ないし6
3 申立理由3(進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証ないし甲第5号証、甲第10号証ないし甲第13号証、甲第15号証及び甲第18号証のいずれかに記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3のうち、主たる証拠と対象請求項の関係は次のとおりである。
(1) 申立理由3-1 甲第1号証:請求項1ないし7
(2) 申立理由3-2 甲第2号証:請求項1ないし7
(3) 申立理由3-3 甲第3号証:請求項1ないし7
(4) 申立理由3-4 甲第4号証:請求項1ないし7
(5) 申立理由3-5 甲第5号証:請求項1ないし7
(6) 申立理由3-10 甲第10号証:請求項7
(7) 申立理由3-11 甲第11号証:請求項7
(8) 申立理由3-12 甲第12号証:請求項7
(9) 申立理由3-13 甲第13号証:請求項4及び7
(10) 申立理由3-15 甲第15号証:請求項1ないし7
(11) 申立理由3-18 甲第18号証:請求項1ないし7
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項5ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許の明細書の実施例6、7における単量体の中和度の記載と、表1における中和度の値の整合性がなく、また、その制御方法についても記載されていない。
してみると、中和度に関し特定している本件特許発明5ないし7について、本件特許の明細書には、当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由5の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由5-1(塩基性溶液による処理時期について)
本件特許発明には、塩基性溶液による処理時期に関し、「前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後」と特定されている。
この点について、塩基性溶液による処理時期に関し、表面架橋層の形成段階中で行う場合と形成段階以後に行う場合で、形成される表面架橋層の態様が異なるものと考えられるところ、実施例で検証されているのは表面架橋層の形成段階以後に塩基性溶液で処理したもののみであり、その作用効果を、表面架橋層の形成段階中に塩基性溶液で処理したものにまで拡張・一般化することはできない。
よって、「表面架橋層の形成段階中」に塩基性溶液による処理を行う場合を含む本件特許発明は、サポート要件を満たしていない。
(2) 申立理由5-2(塩基性溶液の種類について)
本件特許発明には、「塩基性溶液」を用いることが特定されているものの、その種類を特定するものではない。
この点について、塩基性溶液の種類により、その作用効果は異なるものと考えられるところ、塩基性溶液として具体的に実施例で検証されているのは、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液及び炭酸ナトリウム水溶液の3種類のみであるから、これら3種類の塩基性溶液で得られた作用効果を、「塩基性溶液」一般にまで拡張・一般化することはできない。
よって、実施例で具体的に検討されている3種類以外の塩基性溶液を含む本件特許発明は、サポート要件を満たしていない。
6 申立理由6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由6の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
(1) 申立理由6-1(表面架橋層の形成段階中について)
本件特許発明には、塩基性溶液の処理時期について「表面架橋層の形成段階中」と特定されている。
この点について、使用する表面架橋剤によりその反応性は様々であり、表面架橋層の形成段階の始点も異なるものといえる。
してみると、本件特許発明において「表面架橋層の形成段階中」とはどのような状態を指しているのか明らかであるとはいえない。
(2) 申立理由6-2(本件特許発明2の温度条件と表面架橋反応について)
本件特許発明2には、「前記追加中和する段階は、前記ベース樹脂粉末に表面架橋剤を加え、100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始された以後」と特定されている。
この点について、表面架橋剤として多価アルコール系化合物またはカーボネート系化合物を使用する場合、表面架橋反応は通常150度程度で開始される。
その場合、本件特許発明2で特定されている「100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始」との事項における「表面架橋反応」とは何を指しているのか明確ではない。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用して特定する他の本件特許発明についても同様である。
7 証拠方法
・甲第1号証 :特許第3461860号公報
・甲第2号証 :韓国特許公開公報第10-2011-0111938号
・甲第3号証 :特開2003-105092号公報
・甲第4号証 :特開平9-157534号公報
・甲第5号証 :国際公開第97/003114号
・甲第6号証 :特表2017-517600号公報
・甲第7号証 :特表2016-516877号公報
・甲第8号証 :欧州特許公開公報第3241861号、及び抄訳
・甲第9号証 :Modern Superabsorbent Polymer Technology、1998年、第3章、p.69-117、及び抄訳
・甲第10号証:特表2008-528750号公報
・甲第11号証:特表2005-536292号公報
・甲第12号証:特表2004-517173号公報
・甲第13号証:特表2008-517116号公報
・甲第14号証:国際公開第2009/079288号、及び抄訳
・甲第15号証:特表2003-511489号公報
・甲第16号証:国際公開第2020/067705号(本件の特許出願に関する国際出願の公開公報)、及び抄訳
・甲第17号証:甲第2号証の機械翻訳文
・甲第18号証:国際公開第2010/090324号
証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載にしたがった。
第5 令和5年2月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要
請求項1に係る特許に対して、当審が令和5年2月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1-2、申立理由2-2、申立理由3-2のうち請求項1ないし3及び5ないし7に係る部分、及び、申立理由5-1が包含される。
1 取消理由1(原文新規事項)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第184条の4第1項の外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない出願に対してされたものであるから、同法第113条第5号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由1の具体的理由は、次のとおりである。
本件特許の明細書の実施例6(【0116】ないし【0121】)で用いているアクリル酸の中和度は「69モル%」と記載されているのに対し、本件特許の国際公開にあたる甲第16号証の実施例6(第20頁第23行ないし第21頁第20行)には「72モル%」と記載されているものの、「69モル%」の実施例は記載されていないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第184条の4第1項の外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない出願に対してされたものである。
2 取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項1ないし3及び5ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由3(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし3及び5ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由4の具体的理由は、次のとおりである。
本件特許発明には、塩基性溶液による処理時期に関し、「前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後」と特定されている。
この点について、塩基性溶液による処理時期に関し、表面架橋層の形成段階中で行う場合と形成段階以後に行う場合で、形成される表面架橋層の態様が異なるものと考えられるところ、実施例で検証されているのは表面架橋層の形成段階以後に塩基性溶液で処理したもののみであり、その作用効果を、表面架橋層の形成段階中に塩基性溶液で処理したものにまで拡張・一般化することはできない。
よって、「表面架橋層の形成段階中」に塩基性溶液による処理を行う場合を含む本件特許発明は、サポート要件を満たしていない。
第6 当審の判断
1 令和5年2月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由についての判断
以下のとおり、当審は、令和5年2月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由1ないし4は何れもその理由がないものと判断する。
(1) 取消理由1(原文新規事項)について
令和5年5月19日になされた訂正の請求により、明細書の【0116】(実施例6)のアクリル酸の中和度は「69モル%」から「72モル%」に誤訳訂正された。
よって、取消理由1は解消した。
(2) 取消理由2及び3(甲第2号証を主たる証拠とする新規性及び進歩性)について
ア 甲第2号証の記載事項等
(ア) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「吸水性樹脂の製造方法」に関して、次の記載がある。甲第2号証は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。なお、半角文字は必要に応じ全角文字に直した上で摘記している。
「請求項1
(a)アクリル酸系単量体水溶液を第1架橋剤で内部架橋させてゲル型樹脂を生成する段階;
(b)ゲル型樹脂を細分化して細分化ゲル型樹脂を生成する段階;
(c)細分化ゲル型樹脂を乾燥して粉砕して分け与えて樹脂粉末を生成する段階;及び
(d)樹脂粉末を第2架橋剤で表面架橋して吸水性樹脂を生成する段階を含む吸水性樹脂の製造方法において、
(b)及び(c)段階の間に細分化ゲル型樹脂をアルカリ性水溶液で中和する段階;(c)及び(d)段階の間に樹脂粉末をアルカリ性水溶液で中和する段階;及び(d)段階後に吸水性樹脂をアルカリ性水溶液で中和する段階の中で選択された1段階以上を含む吸水性樹脂の製造方法。」
「請求項6
第1項において、第2架橋剤がエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロバンジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ソルビトール、カルシウム水酸化物、マグネシウム水酸化物、アルミニウム水酸化物、鉄水酸化物、カルシウム塩化物、マグネシウム塩化物、アルミニウム塩化物、及び鉄塩化物で成り立った群から選択される1種以上のことを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
請求項7
第1項において、(d)段階の架橋温度が90ないし250℃であることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。
請求項8
第1項において、アルカリ性水溶液が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリ、りん酸アンモニウム及びりん酸ナトリウムで成り立った群から選択された1種以上の水溶液であることを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。」
「技術分野
[0001]本発明は粒径を微細にさせた後中和用塩基性物質で処理と乾燥することで、乾燥時間を縮めさせて均ーに中和された製品を得ることができて大量生産に適合した吸水性樹脂の製造方法に関する発明である。」
発明が解決しようとする課題
[0006]本発明は吸水性樹脂の製造方法が有する問題点を解決するために粒径を微細にさせた後中和用塩基性物質を処理と乾燥することで、既存の吸水性樹脂の生産方法の問題点である製品の不均一性と長い乾燥時間を解決して均ーな品質の製品を得て、乾燥時間を縮めさせることができて大量生産に適合した吸水性樹脂の製造方法を提供するのに目的がある。」
「[0055]架橋軍合反応の温度及び時間
[0056]第1架橋反応の場合、反応温度が20ないし75℃であることが望ましくて、重合反応は1分ないし4時間以内に完結される。
[0057]第2架橋反応の場合、反応温度が90ないし160℃であることが望ましくて、重合反応は1分ないし4時間以内に完結される。」
「[0068]実施例1
[0069]アクリル酸500gに内部架橋結合剤でN,N’-エチレンビスアクリルアミド1.0gを添加して溶解させた後、20%水酸化ナトリウム溶液555.1gを添加して水溶性不飽和単量体水溶液を製造した。前記水溶性不飽和単量体水溶液をシグマ形態の軸を有した5L容量のツインニーダに供給して、40℃を維持させながら30分間窒素ガスを添加して収容液中に溶けている酸素を除去した。撹拌をすすめながら0.2重置%のL-アスコルビン酸50.1gとナトリウム過硫酸塩水溶液50.5gと2.0重量%過酸化水素水溶液51.0gを添加した。重合は20秒後に開始され、生成されたゲルをせん断力を使用して30分間微細に分割した。
[0070]微細に分割されたゲルを600μmの孔サイズを有するステンレスワイヤガーゼの上に約30mm厚さで広げておいて140℃の熱風オーブンで5時間の間乾燥させた。このように得られた乾燥重合体を粉砕機を使用して粉砕して、ASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(1)を得た。
[0071]得られた吸水性樹脂粉末(1)100gにエチレングリコールジグリシジルエーテル0.3g、メタノール3.0g、水3.0gの混合液を加えながら選ぶように混合して表面架橋させた。この後20%水酸化ナトリウム溶液136.1gを添加して中和させて140℃の熱風オーブンで30分間乾燥させた。乾燥した粉末をASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(2)を得た。」
(イ) 甲第2号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に、実施例1の記載を中心に整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されているものと認める。
「アクリル酸500gに内部架橋結合剤であるN,N’-エチレンビスアクリルアミド1.0gを添加して溶解させた後、20%水酸化ナトリウム溶液555.1gを添加して水溶性不飽和単量体水溶液を製造し、前記水溶性不飽和単量体水溶液をシグマ形態の軸を有した5L容量のツインニーダに供給して、40℃を維持させながら30分間窒素ガスを添加して収容液中に溶けている酸素を除去し、撹拌をすすめながら0.2重置%のL-アスコルビン酸50.1gとナトリウム過硫酸塩水溶液50.5gと2.0重量%過酸化水素水溶液51.0gを添加し、重合は20秒後に開始され、生成されたゲルをせん断力を使用して30分間微細に分割し、微細に分割されたゲルを600μmの孔サイズを有するステンレスワイヤガーゼの上に約30mm厚さで広げておいて140℃の熱風オーブンで5時間の間乾燥させ、得られた乾燥重合体を粉砕機を使用して粉砕して、ASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(1)を得、
得られた吸水性樹脂粉末(1)100gにエチレングリコールジグリシジルエーテル0.3g、メタノール3.0g、水3.0gの混合液を加えながら選ぶように混合して表面架橋させ、この後20%水酸化ナトリウム溶液136.1gを添加して中和させて140℃の熱風オーブンで30分間乾燥させ、乾燥した粉末をASTM規格の標準網体で分け与えて得られる、150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末の製造方法。」(以下、「甲2発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
A 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
・「含水ゲル重合体を形成する段階」について
甲2発明の「アクリル酸500gに内部架橋結合剤であるN,N’-エチレンビスアクリルアミド1.0gを添加して溶解させた後、20%水酸化ナトリウム溶液555.1gを添加して水溶性不飽和単量体水溶液を製造し、前記水溶性不飽和単量体水溶液をシグマ形態の軸を有した5L容量のツインニーダに供給して、40℃を維持させながら30分間窒素ガスを添加して収容液中に溶けている酸素を除去し、撹拌をすすめながら0.2重置%のL-アスコルビン酸50.1gとナトリウム過硫酸塩水溶液50.5gと2.0重量%過酸化水素水溶液51.0gを添加し、重合は20秒後に開始され」ゲルを生成する工程における「アクリル酸」、「内部架橋結合剤」は、それぞれ、本件特許発明1の「水溶性エチレン系不飽和単量体」、「内部架橋剤」に相当する。
そして、甲2発明のアクリル酸は、「20%水酸化ナトリウム溶液」で処理されていることからみて、アクリル酸における酸性基の少なくとも一部が中和されていることも明らかである。
すると、甲2発明の「アクリル酸500gに内部架橋結合剤であるN,N’-エチレンビスアクリルアミド1.0gを添加して溶解させた後、20%水酸化ナトリウム溶液555.1gを添加して水溶性不飽和単量体水溶液を製造し、前記水溶性不飽和単量体水溶液をシグマ形態の軸を有した5L容量のツインニーダに供給して、40℃を維持させながら30分間窒素ガスを添加して収容液中に溶けている酸素を除去し、撹拌をすすめながら0.2重置%のL-アスコルビン酸50.1gとナトリウム過硫酸塩水溶液50.5gと2.0重量%過酸化水素水溶液51.0gを添加し、重合は20秒後に開始され」ゲルを生成する工程は、本件特許発明1の「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合してゲル重合体を形成する段階」に相当するものであって、かつ、甲2発明の当該工程によって得られるゲルが「含水ゲル重合体」であることも明らかである。
・「ベース樹脂粉末を形成する段階」について
甲2発明の「生成されたゲルをせん断力を使用して30分間微細に分割し、微細に分割されたゲルを600μmの孔サイズを有するステンレスワイヤガーゼの上に約30mm厚さで広げておいて140℃の熱風オーブンで5時間の間乾燥させ、得られた乾燥重合体を粉砕機を使用して粉砕して、ASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(1)を得」る工程における「生成されたゲル」、「ASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(1)を得」る工程は、それぞれ、本件特許発明1の「含水ゲル重合体」、「分級」する工程に相当する。
すると、甲2発明の「生成されたゲルをせん断力を使用して30分間微細に分割し、微細に分割されたゲルを600μmの孔サイズを有するステンレスワイヤガーゼの上に約30mm厚さで広げておいて140℃の熱風オーブンで5時間の間乾燥させ、得られた乾燥重合体を粉砕機を使用して粉砕して、ASTM規格の標準網体で分け与えて150ないし850μmの粒径を有する吸水性樹脂粉末(1)を得」る工程は、本件特許発明1の「前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階」に相当する。
・「表面架橋層を形成する段階」について
甲2発明の「得られた吸水性樹脂粉末(1)100gにエチレングリコールジグリシジルエーテル0.3g、メタノール3.0g、水3.0gの混合液を加えながら選ぶように混合して表面架橋させ」る工程のうち、「エチレングリコールジグリシジルエーテル」は、得られた吸水性樹脂粉末(1)を表面架橋するためのものであるから、本件特許発明1の「表面架橋剤」に相当する。
すると、甲2発明の「得られた吸水性樹脂粉末(1)100gにエチレングリコールジグリシジルエーテル0.3g、メタノール3.0g、水3.0gの混合液を加えながら選ぶように混合して表面架橋させ」る工程は、本件特許発明1の「表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階」に相当する。
・「追加中和する段階」について
甲2発明の「この後20%水酸化ナトリウム溶液136.1gを添加して中和させ」る工程は、表面架橋させた後に行われるものであるから、本件特許発明1の「前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階」に相当する。
上記の点をふまえると、両者は、
「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含む、高吸水性樹脂の製造方法。」
で一致し、次の点で一応相違する。
・相違点2-1
含水ゲル重合体の形成段階における水溶性エチレン系不飽和単量体の中和度に関し、本件特許発明1は「70モル%以下」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
・相違点2-2
追加中和する段階で用いられる塩基性溶液について、本件特許発明1は「前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される」と特定するのに対し、甲2発明にはそのような特定がない点。
B 判断
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2発明において、表面架橋後に用いる20%水酸化ナトリウム溶液(すなわち、表面架橋層の形成段階以後に、追加中和するために用いられる塩基性溶液)の量は、「吸水性樹脂粉末(1)100g」に対し、「20%水酸化ナトリウム溶液136.1g」である。
してみると、相違点2-2は実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明ではない。
また、甲第2号証及び他の全ての証拠をみても、甲2発明において、「20%水酸化ナトリウム溶液」の用いる量を大幅に減じ、「ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量」とする動機がない。
してみれば、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件特許発明2、3及び5ないし7について
本件特許発明2、3及び5ないし7は何れも、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件特許発明1は、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する本件特許発明2、3及び5ないし7もまた、甲2発明ではなく、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 取消理由2及び取消理由3についてのまとめ
上記イのとおりであるから、取消理由2及び取消理由3は、その理由がない。
(3) 取消理由4(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 特許請求の範囲の記載事項
上記第3に記載のとおりである。
ウ サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「ベース樹脂粉末と、表面架橋層の架橋程度が最適化され、基本的な吸収能および通液性などが同時に優れた特性を有する高吸水性樹脂の製造方法を提供すること」(【0008】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、
「本発明は、少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記含水ゲル重合体の形成段階で、水溶性エチレン系不飽和単量体は70モル%以下の中和度を有し、
前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含む高吸水性樹脂の製造方法を提供する」(【0010】)ものであって、
「高吸水性樹脂の製造方法は、架橋重合のための単量体の中和度が70モル%以下、あるいは40~69モル%、あるいは50~65モル%になるように単量体に対する初期中和工程を行った後、架橋重合などを行ってベース樹脂粉末を形成し、このようなベース樹脂粉末に対して表面架橋段階を行うことに当たり、表面架橋層の形成段階中に、前記表面架橋層の形成段階以後に、塩基性溶液を使用した追加中和段階をさらに行う」(【0015】)ものであること、
「単量体の中和度を相対的に低く制御してベース樹脂粉末を製造した後、表面架橋層の形成時、または形成以後に追加中和段階を行うことにより、ベース樹脂粉末および表面架橋層の架橋程度が共に最適化され、基本的な吸収能および吸収速度と、通液性および加圧下吸収能が同時に向上した高吸水性樹脂を製造できる」(【0016】)ことであって、「これは高吸水性樹脂の製造のための単量体、ベース樹脂粉末および/または表面架橋された高吸水性樹脂の中和度が架橋反応の進行程度や、架橋程度に影響を及ぼし得るからであると見られる。ただし、従来の工程では架橋重合前の単量体に対してのみ中和工程を行い、表面架橋時/表面架橋後の中和度は調整が難しかった。
しかし、一実施形態の製造方法では、表面架橋反応開始以後に追加中和工程を行うことにより、表面架橋時/表面架橋後の中和度が適宜制御され得、その結果ベース樹脂粉末だけでなく、表面架橋された高吸水性樹脂で表面架橋層の架橋程度も好ましい水準に制御することができる。
その結果、一実施形態の方法で製造された高吸水性樹脂は、ベース樹脂粉末の内部の中和度/架橋程度だけでなく、表面架橋層の中和度/架橋程度も好ましい水準に制御され、基本的な吸収能および吸収速度だけでなく、通液性および加圧下吸収能が共に向上した特性を示すことができると見られる。
したがって、一実施形態の方法で製造された高吸水性樹脂は、吸収能/吸収速度と、加圧下吸収能/通液性を共に向上させることは難しいという従来の常識とは異なり、これら両側面の優れた物性を共に示すことができるので、より薄い厚さを有するおむつなど衛生材に好ましく適用することができる」(【0017】ないし【0020】)ことが記載され、具体的な実施例等として、表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する例による評価(【0095】ないし【0152】)についても示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、
「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記含水ゲル重合体の形成段階で、水溶性エチレン系不飽和単量体は70モル%以下の中和度を有し、
前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含む高吸水性樹脂の製造方法」
との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、上記発明の課題を解決できると認識できる全ての特定事項を有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できるものである。
したがって、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
エ 特許異議申立人の主張について
本件特許発明は、第2のとおり、訂正により、「前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する」と特定された。よって、特許異議申立人の申立理由5-1は解消した。
オ 取消理由4についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、取消理由4は、その理由がない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
令和5年2月20日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は次のとおりである。
・申立理由1-1
・申立理由2-3ないし2-5、2-10ないし2-13、2-15及び2-18
・申立理由3-1、3-3ないし3-5、3-10ないし3-13、3-15及び3-18
・申立理由4
・申立理由5-2
・申立理由6-1及び6-2
当審は、上記の特許異議申立理由は、何れもその理由がないものと判断する。
(1) 申立理由1-1(原文新規事項)について
特許異議申立人は、水溶性エチレン系不飽和単量体の中和度に関し、本件特許の請求項1及び明細書(【0014】)には「70モル%以下」と記載されているのに対し、本件特許の国際公開にあたる甲第16号証の特許請求の範囲及び明細書には「70モル%未満」と記載されているものの「70モル%以下」とは記載されていないため、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第184条の4第1項の外国語特許出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にない出願に対してされたものであるから、同法第113条第5号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。
しかしながら、実施例として、70モル%となる例の記載がある(実施例1ないし5)から、「70モル%以下」は新規事項であるとはいえない。
よって、申立理由1-1は、その理由がない。
(2) 申立理由3-1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第1号証の記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「吸水性材料法の製造方法」に関し、次の記載がある。
「【請求項1】カルボキシル基を有し且つカルボキシル基の中和度が50~85モル%の乾燥した吸水性樹脂に、該吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるような量の、アルカリ金属および/またはアンモニウムを含む水溶性アルカリ化合物および水を加え、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和することを特徴とする吸収性材料の製造方法。
【請求項2】上記乾燥した吸水性樹脂が、中和度50~85モル%のアクリル酸アルカリ金属塩を含有する水溶液を重合して製造されたアクリル酸アルカリ金属塩系重合架橋物である請求項1記載の吸収性材料の製造方法。
【請求項3】中和度が50~85モル%の上記乾燥した吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を水溶性アルカリ化合物により中和する前に、もしくは中和する際に、または中和した後に、カルボキシル基と反応性を有する官能基を2個以上有する化合物を加え、上記乾燥した吸水性樹脂の表面を架橋処理することを特徴とする請求項1または2記載の吸収性材料の製造方法。
【請求項4】上記水溶性アルカリ化合物が、水溶性の水酸化化合物および/または水溶性の炭酸化合物であり、
上記水溶性アルカリ化合物と水との使用割合は、水溶性アルカリ化合物1重量部に対し、水1~100重量部であることを特徴とする請求項1、2または3に記載の吸収性材料の製造方法。
【請求項5】中和度50~85モル%のアクリル酸アルカリ金属塩と架橋剤を含有する水溶液を重合して得られたアクリル酸アルカリ金属塩系重合体架橋物の含水ゲルを、乾燥後、粉砕して得られた吸水性樹脂を、さらに所定の中和度になるようにアルカリ金属および/またはアンモニウムを含む水溶性アルカリ化合物により中和して得られる、粉砕されている吸収性材料であって、
吸収性材料の内部と表面近傍とでは中和度の傾斜が存し、吸収性材料の表面近傍が優先的に中和されており、中和度が50.1~95モル%のアクリル酸アルカリ金属塩系重合架橋物からなることを特徴とする吸収性材料。
【請求項6】請求項5の吸収性材料を用いたことを特徴とする紙おむつ。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、吸収性材料の製造方法に関する。詳しくは、加圧吸水性に優れた吸収性材料の製造方法に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、加圧吸水性に優れた吸収性材料を製造する方法を提供することを目的とする。」
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、所定の中和度を有する吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を、さらに中和して、所定の中和度になるように調整した場合には、加圧吸水性に優れた吸水性樹脂(吸収性材料)が得られることを見出した。本発明は、かかる新たな諸知見に基づき完成されたものである。
【0006】すなわち、本発明は、カルボキシル基を有し且つカルボキシル基の中和度が50~85モル%の乾燥した吸水性樹脂に、該吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるような量の、アルカリ金属および/またはアンモニウムを含む水溶性アルカリ化合物および水を加え、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和することを特徴とする吸収性材料(吸水性樹脂)の製造方法に関する。
【0007】かかる本発明の製造方法により得られる吸水性樹脂(吸収性材料)が何故、加圧下での吸水性に優れるかは定かではないが、本発明の製造方法により得られる吸水性樹脂は、所定の中和度を有する吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を、さらに所定の中和度になるように中和しているため、吸水性樹脂の表面近傍が優先的に中和されており、吸水性樹脂の内部と表面近傍とでは中和度の傾斜が存すると考えられる。そのため、吸水性樹脂内部では比較的高いゲル強度を有する一方で、表面近傍で優先的に吸水性が向上し、加圧下における吸水性を改良しえたものと思慮される。
【0008】本発明では、カルボキシル基を有し且つカルボキシル基の中和度が50~85モル%の吸水性樹脂を使用する。カルボキシル基を有する吸水性樹脂としては、例えば、カルボキシメチルセルロース系架橋物、澱粉-アクリル酸グラフト系共重合体の中和物、アクリル酸エステル-酢酸ビニル系共重合体のケン化物、アクリロニトリル系共重合体の加水分解物、アクリルアミド系共重合体の加水分解物、自己架橋型ポリアクリル酸系中和物、アクリル酸塩系重合体架橋物、アクリル酸塩系共重合体架橋物、架橋イソブチレン-無水マレイン酸系共重合体の中和物等があげられる。これら吸水性樹脂を製造する方法としては特に制限されず、各種公知の手段を採用できる。
【0009】また、かかる吸水性樹脂はカルボキシル基の中和度が50~85モル%に調整されたものを用いる。中和度が50モル%未満では吸水性が不十分であり、中和度が85モル%を越える場合には、さらに未中和のカルボキシル基を中和しても加圧吸水性が十分に向上せずいずれの場合も好ましくない。なお、カルボキシル基の中和度とは、吸水性樹脂中のカルボキシル基がアルカリ金属塩またはアンモニム塩等の中和塩となっている割合をいう。
【0010】本発明では前記吸水性樹脂の中でもアクリル酸塩系重合体架橋物、特にアクリル酸アルカリ金属塩系重合体架橋物を使用するのが好ましい。かかるアクリル酸アルカリ金属塩系重合体架橋物は、たとえば、中和度50~85モル%のアクリル酸アルカリ金属塩とジビニル系化合物等の架橋剤を含有する水溶液を逆相懸濁重合、水溶液重合、光開始重合等の公知の手段により容易に製造することができる。
【0011】本発明では前記所定の中和度を有する吸水性樹脂に、該吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるような量の水溶性アルカリ化合物および水を加えることにより、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和する。
【0012】水溶性アルカリ化合物の使用量は、使用する吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度、水溶性アルカリ化合物の種類により異なり、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和することにより吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるように適宜に計算して使用する。得られる吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1モル%に満たない場合は加圧吸水性を十分に改良できず、中和度が95モル%を越える場合にはゲル強度が低下する傾向がありいずれの場合も好ましくない。
【0013】すなわち、水溶性アルカリ化合物の使用量は、水溶性アルカリ化合物により未中和のカルボキシル基を中和する前と、中和した後の、中和度の差が0.1~45モル%となる量を使用できるが、好ましくは中和度の差が0.2~20モル%となるような量の水溶性アルカリ化合物を使用するのがよい。なお、未中和のカルボキシル基を中和した後の中和度は95モル%を越えない範囲である。
【0014】水溶性アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水ガラス等の水溶性の水酸化化合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の水溶性の炭酸化合物等があげられる。
【0015】また、吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基の中和は、水の存在下に行われる。中和の方法としては、吸水性樹脂に所定量の水溶性アルカリ化合物を溶解した水溶液を添加する方法、吸水性樹脂と所定量の粉末状の水溶性アルカリ化合物を混合しさらに水を添加する方法などがあげられる。なお、水は中和後、乾燥し除去される。
【0016】前記中和の方法において、水溶性アルカリ化合物と水の使用割合は、水溶性アルカリ化合物1重量部に対し、通常、水1~100重量部程度とされる。すなわち、水溶性アルカリ化合物を水溶液として添加する場合には、通常1~50重量%程度の水溶液として使用すればよい。
【0017】水の使用割合が1重量部に満たない場合は吸水性樹脂の分子鎖が切断されゲル強度が弱くなりやすく、また100重量部を越える場合には、吸水性樹脂中の中和度の傾斜が少なくなり、加圧吸水性を十分に改良し難いためいずれの場合も好ましくない。
【0018】本発明における吸水性樹脂は、前記の中和操作がなされていれば加圧吸水性を十分に満足しうるが、さらに表面架橋処理が施された吸水性樹脂を使用してもよい。表面架橋処理を施す手段としては公知の手段を採用すればよく、たとえば、多価金属塩、ポリエポキシ化合物、ポリアジリジニル化合物、ポリイソシアナート化合物等の吸水性樹脂のカルボキシル基と容易に反応する官能基を2個以上有する化合物を、水溶液として吸水性樹脂に噴霧、滴下する方法等があげられる。吸水性樹脂の表面を架橋処理する時期としては、水溶性アルカリ化合物により中和する前、もしくは中和する際、または中和した後のいづれの場合にも行うことができる。
【0019】さらに必要により、本発明で使用する吸水性樹脂または本発明の製造方法で得られた吸水性樹脂には、コロイダルシリカ、ホワイトカーボン、超微粒子状シリカ等の二酸化ケイ素粉末、酸化チタン粉末等の無機質粉末を混合してもなんら差障りはない。かかる無機質粉末は水溶性アルカリ化合物を添加する際に同時に混合してもよい。
【0020】
【発明の効果】本発明の製造方法によれば、加圧吸水性の高い吸水性樹脂(吸収性材料)が得られるという顕著な効果を奏する。」
「【0021】
【実施例】以下、実施例及び比較例をあげて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】実施例1
(調整液A)氷冷下、アクリル酸200g及び水251gに水酸化ナトリウム83g(中和度75モル%に相当)を加えて中和した後、N,N’ーメチレンビスアクリルアミド0.02gを加えて溶解後、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。さらに、2,2’ーアゾビス(N,N’ージメチレンイソブチルアミジン)2塩酸塩0.08g及びt-ブチルパーオキサイド0.2gを加えて全モノマー濃度46重量%の調整液Aを得た。
(調整液B)水10gにポリエチレングリコールジグリシジルエーテル0.5gを溶解して調整液Bを得た。
(吸水性樹脂の製造)調整液A100gに紫外線を光量360mJoule/cm2 となるよう、2分間照射し、アクリル酸アルカリ金属塩系重合体架橋物の含水ゲルを得た。この含水ゲルを切断し、150℃で4時間乾燥後、粉砕して吸水性樹脂A(中和度75モル%)を得た。得られた吸水性樹脂A100gに粉末状炭酸ナトリウム3g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)および超微粒子状シリカ0.5gを加え、さらに撹拌下に調整液Bを滴下し、95℃まで加温した。130℃にて2時間乾燥後、吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0023】実施例2
実施例1において、粉末状炭酸ナトリウムの添加量を6g(吸水性樹脂の最終中和度が85モル%になるような使用量)に代えた他は、実施例1と同様にして吸水性樹脂B(中和度85モル%)を得た。
【0024】実施例3
実施例1において、調整液Aの中和度を65モル%に代え、粉末状炭酸ナトリウムの添加量を12g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)に代えた他は、実施例1と同様にして吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0025】実施例4
実施例1で製造した吸水性樹脂A(中和度75モル%)100gに超微粒子状シリカ0.5gを加え、次いで撹拌下に実施例1で調整した調整液Bおよび調整液C(水57gに粉末状炭酸ナトリウム3g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)を溶解した濃度5重量%の溶液)を滴下し、95℃まで加温した。130℃にて2時間乾燥後、吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0026】実施例5
実施例4において、調整液Cとして水27gに粉末状炭酸ナトリウム3gを溶解した濃度10重量%の溶液を使用した他は、実施例4と同様にして吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0027】実施例6
実施例4において、調整液Cとして水12gに粉末状炭酸ナトリウム3gを溶解した濃度20重量%の溶液を使用した他は、実施例4と同様にして吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0028】実施例7
実施例4において、調整液Cとして水20.34gに水酸化ナトリウム2.26g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)を溶解した濃度10重量%の溶液を使用した他は、実施例4と同様にして吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0029】実施例8
実施例4において、調整液Cとして水15.51gに水ガラス(SiO2 /Na2 O=2/1)10.34g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)を溶解した濃度20重量%の溶液を使用した他は、実施例4と同様にして吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0030】実施例9
実施例1で製造した吸水性樹脂A(中和度75モル%)100gに超微粒子状シリカ0.5gを加え、次いで実施例1で調整した調整液Bを滴下した後、乾燥した。次いで、撹拌下に調整液Cとして水12gに粉末状炭酸ナトリウム3g(吸水性樹脂の最終中和度が80モル%になるような使用量)を溶解した濃度20重量%の溶液を滴下した。130℃にて2時間乾燥後、吸水性樹脂B(中和度80モル%)を得た。
【0031】実施例10
実施例1において、粉末状炭酸ナトリウムの添加量を0.12g(吸水性樹脂の最終中和度が75.2モル%になるような使用量)に代えた他は、実施例1と同様にして吸水性樹脂B(中和度75.2モル%)得た。」
「【0036】
【表1】
[図:0001407807000001.jpg]
」
(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に請求項3の記載について整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。
「カルボキシル基を有し且つカルボキシル基の中和度が50~85モル%の乾燥した吸水性樹脂に、該吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるような量の、アルカリ金属および/またはアンモニウムを含む水溶性アルカリ化合物および水を加え、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和する吸収性材料の製造方法であって、
中和度が50~85モル%の上記乾燥した吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を水溶性アルカリ化合物により中和する前に、もしくは中和する際に、または中和した後に、カルボキシル基と反応性を有する官能基を2個以上有する化合物を加え、上記乾燥した吸水性樹脂の表面を架橋処理する吸収性材料の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
A 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、「カルボキシル基を有し且つカルボキシル基の中和度が50~85モル%の乾燥した吸水性樹脂に、該吸水性樹脂のカルボキシル基の中和度が50.1~95モル%となるような量の、アルカリ金属および/またはアンモニウムを含む水溶性アルカリ化合物および水を加え、該吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を中和する吸収性材料の製造方法」であって、「中和度が50~85モル%の上記乾燥した吸水性樹脂の未中和のカルボキシル基を水溶性アルカリ化合物により中和する前に、もしくは中和する際に、または中和した後に、カルボキシル基と反応性を有する官能基を2個以上有する化合物を加え、上記乾燥した吸水性樹脂の表面を架橋処理する」ものであるから、本件特許発明1の「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階」のうち、「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階」の限りにおいて一致する。
また、甲1発明の「吸収性材料」は、甲第1号証の課題等からみて、本件特許発明1の「高吸水性樹脂」に相当する。
してみると、両者は、
「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階を有する高吸水性樹脂の製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点1-1
含水ゲル重合体を形成する段階において添加される架橋材について、本件特許発明1は「内部架橋剤を含む」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-2
本件特許発明1は「表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-3
含水ゲル重合体の形成段階における水溶性エチレン系不飽和単量体に関し、本件特許発明1は「70モル%以下の中和度を有し」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
・相違点1-4
本件特許発明1は「表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含み、前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
B 判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、吸水性樹脂の表面を「追加架橋」する動機付けがない。
よって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
C 特許異議申立人の意見書における主張について
特許異議申立人は意見書において、おおむね相違点1-3に係る本件特許発明1の特定事項に関し主張するものであるが、そもそも、工程として、甲1発明には「追加架橋」する工程についての記載はないし、他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において追加架橋する工程を有するものとする、すなわち、相違点1-2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けがないから、上記Bのとおり判断される。
(イ) 本件特許発明2、3及び5ないし7に係る発明について
本件特許発明2、3及び5ないし7はいずれも、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、本件特許発明1は、上記(ア)のとおり、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての発明特定事項を有するものである本件特許発明2、3及び5ないし7もまた、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由3-1についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由3-1は、その理由がない。
(3) 申立理由2-3ないし2-5、2-10ないし2-13、2-15、2-18、3-3ないし3-5、3-10ないし3-13、3-15および3-18(甲第3号証ないし甲第5号証、甲第10号証ないし甲第13号証、甲第15号証及び甲第18号証のそれぞれを主たる証拠とする新規性・進歩性)について
ア 甲第3号証を主たる証拠とする場合
甲第3号証の実施例10(ベース樹脂粉末は、参考例3を参照)を「甲3発明」と認定する。
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも「中和度」の点で相違するものである(甲3発明は71モル%)から、本件特許発明1は甲3発明ではない。
また、甲第3号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明において「中和度」を調整する動機付けがない。
よって、本件特許発明1は甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件特許発明2ないし7についても同様に判断される。
イ 甲第4号証を主たる証拠とする場合
甲第4号証の実施例5(中和率75%)を「甲4発明」と認定する。
すると、上記アの場合と同様に判断される。
ウ 甲第5号証を主たる証拠とする場合
甲第5号証の比較例3(ベース樹脂粉末は、参考例3を参照(中和率75モル%))を「甲5発明」と認定する。
すると、上記アの場合と同様に判断される。
エ 甲第10号証を主たる証拠とする場合
甲第10号証の比較例2を「甲10発明」と認定する。
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも「表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含」む点で相違するものであるから、本件特許発明1は甲10発明ではない。
また、甲第10号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲10発明において「表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含」むものとすることにより、本件特許の効果を奏することを示唆する記載もない。
よって、本件特許発明1は甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
本件特許発明2ないし7についても同様に判断される。
オ 甲第11号証を主たる証拠とする場合
甲第11号証の【0078】及び【0079】に記載される実施例1ないし5のポリマー粒子の製造方法を「甲11発明」と認定する。
本件特許発明1と甲11発明とを対比すると、甲11発明は、表面架橋層を形成されたベース樹脂粉末に対し、ポリビニルアミンで処理するものであるが、ポリビニルアミンは表面コーティングを形成するものであるため、本件特許発明1で特定するところの「追加中和」するものにはあたらない。
よって、本件特許発明1は甲11発明ではないし、甲11発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない
。
本件特許発明2ないし7についても同様に判断される。
カ 甲第12号証を主たる証拠とする場合
甲第12号証の例10を「甲12発明」と認定する。
すると、上記オの場合と同様に判断される。
キ 甲第13号証を主たる証拠とする場合
甲第13号証の例3を「甲13発明」と認定する。
すると、上記エの場合と同様に判断される。
ク 甲第15号証を主たる証拠とする場合
甲第15号証の例4(中和度75モル%)を「甲15発明」と認定する。
すると、上記アの場合と同様に判断される。
ケ 甲第18号証を主たる証拠とする場合
甲第18号証の実施例6(中和率75モル%)を「甲18発明」と認定する。
すると、上記アの場合と同様に判断される。
(4) 申立理由4(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし3及び5ないし7は、上記第3のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか。その方法により生産した物の使用等ををする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許発明は、「ベース樹脂粉末と、表面架橋層の架橋程度が最適化され、基本的な吸収能および通液性などが同時に優れた特性を有する高吸水性樹脂の製造方法」(【0002】、【0008】)に関するもの(発明の課題でもある)であって、
「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記含水ゲル重合体の形成段階で、水溶性エチレン系不飽和単量体は70モル%以下の中和度を有し、
前記表面架橋層の形成段階中、または前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含む高吸水性樹脂の製造方法を提供する」(【0010】)ものである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、
「高吸水性樹脂の製造方法は、架橋重合のための単量体の中和度が70モル%以下、あるいは40~69モル%、あるいは50~65モル%になるように単量体に対する初期中和工程を行った後、架橋重合などを行ってベース樹脂粉末を形成し、このようなベース樹脂粉末に対して表面架橋段階を行うことに当たり、表面架橋層の形成段階中に、前記表面架橋層の形成段階以後に、塩基性溶液を使用した追加中和段階をさらに行う」(【0015】)ものであること、
「単量体の中和度を相対的に低く制御してベース樹脂粉末を製造した後、表面架橋層の形成時、または形成以後に追加中和段階を行うことにより、ベース樹脂粉末および表面架橋層の架橋程度が共に最適化され、基本的な吸収能および吸収速度と、通液性および加圧下吸収能が同時に向上した高吸水性樹脂を製造できる」(【0016】)こと、さらに、
「これは高吸水性樹脂の製造のための単量体、ベース樹脂粉末および/または表面架橋された高吸水性樹脂の中和度が架橋反応の進行程度や、架橋程度に影響を及ぼし得るからであると見られる。ただし、従来の工程では架橋重合前の単量体に対してのみ中和工程を行い、表面架橋時/表面架橋後の中和度は調整が難しかった。
しかし、一実施形態の製造方法では、表面架橋反応開始以後に追加中和工程を行うことにより、表面架橋時/表面架橋後の中和度が適宜制御され得、その結果ベース樹脂粉末だけでなく、表面架橋された高吸水性樹脂で表面架橋層の架橋程度も好ましい水準に制御することができる。
その結果、一実施形態の方法で製造された高吸水性樹脂は、ベース樹脂粉末の内部の中和度/架橋程度だけでなく、表面架橋層の中和度/架橋程度も好ましい水準に制御され、基本的な吸収能および吸収速度だけでなく、通液性および加圧下吸収能が共に向上した特性を示すことができると見られる。
したがって、一実施形態の方法で製造された高吸水性樹脂は、吸収能/吸収速度と、加圧下吸収能/通液性を共に向上させることは難しいという従来の常識とは異なり、これら両側面の優れた物性を共に示すことができるので、より薄い厚さを有するおむつなど衛生材に好ましく適用することができる」(【0017】ないし【0020】)ことが記載されるとともに、高吸水性樹脂の原料物質である単量体組成物(【0024】ないし【0031】)、重合開始剤(【0032】ないし【0037】)、内部架橋剤(【0038】ないし【0041】)、溶媒(【0043】ないし【0045】)、重合法法(【0046】ないし【0050】)、乾燥・粉砕(【0051】ないし【0061】)、表面架橋工程及び表面架橋剤(【0062】ないし【0079】)、追加中和工程(【0080】ないし【0084】)についてそれぞれ記載されており、具体的な実施例の記載もある。
してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし3及び5ないし7に関し、実施できる程度に記載されているものであり、実施可能要件を満たしている。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許の明細書の実施例6、7における単量体の中和度の記載と、表1における中和度の値の整合性がなく、また、その制御方法についても記載されていないから、中和度に関し特定している本件特許発明5ないし7について、本件特許の明細書には、当業者が実施できる程度の記載されているとはいえない旨主張する。
しかしながら、実施例6、7は、何れも追加中和されるものであるから、特許異議申立人が主張するような、表1における中和度の値と整合しないものではない。
そして、上記イのとおりに判断されるから、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
エ 申立理由4についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由4は、その理由がない。
(5) 申立理由5-2(サポート要件)について
サポート要件については、上記1(3)のとおり判断される。
なお、特許異議申立人は、第4 5(2)のように主張するが、塩基性物質については、
「前記アクリル酸系単量体は、酸性基を有し、前記酸性基の少なくとも一部が中和したものであり得る。好ましくは前記単量体を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなどの塩基性物質で部分的に中和させたものが使用され得る」(【0029】)との記載があり、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム水溶液)、炭酸水素ナトリウム水溶液及び炭酸ナトリウム水溶液を用いた実施例の記載もある。
さらに、特許異議申立人は、発明の課題を解決し得ない具体的な塩基性物質を証拠として示すものでもない。
してみれば、特許異議申立人の当該主張は、上記1(3)の判断に何ら影響するものではない。
よって、申立理由5-2は、その理由がない。
(6) 申立理由6(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 特許請求の範囲の記載
上記第3に記載のとおりである。
ウ 明確性要件の判断
本件特許発明1は、特許請求の範囲の請求項1の記載により特定されるものであるところ、その発明特定事項は、上記第3の請求項1として記載されているように、
「少なくとも一部が中和した酸性基を有する水溶性エチレン系不飽和単量体および内部架橋剤を含む単量体組成物を架橋重合して含水ゲル重合体を形成する段階;
前記含水ゲル重合体を乾燥、粉砕および分級してベース樹脂粉末を形成する段階;および
表面架橋剤の存在下に、前記ベース樹脂粉末の表面を追加架橋して表面架橋層を形成する段階を含み、
前記含水ゲル重合体の形成段階で、水溶性エチレン系不飽和単量体は70モル%以下の中和度を有し、
前記表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する段階をさらに含み、
前記塩基性溶液は、前記ベース樹脂粉末100重量部に対して0.1~20重量部の含有量で使用される、高吸水性樹脂の製造方法。」
であり、請求項1の記載は明確である。
また、請求項2、3及び5ないし7についても、その記載は明確である。
エ 特許異議申立人の主張について
(ア) 申立理由6-1について
特許異議申立人は、申立理由6-1として、「表面架橋層の形成段階中」とはどのような状態を指しているのか明らかであるとはいえない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明は訂正により、「表面架橋層の形成段階以後に、前記ベース樹脂粉末を塩基性溶液で処理して前記ベース樹脂粉末を追加中和する」ものであることが特定された。
よって、申立理由6-1は解消した。
(イ) 申立理由6-2について
特許異議申立人は、申立理由6-2として、「表面架橋剤として多価アルコール系化合物またはカーボネート系化合物を使用する場合、表面架橋反応は通常150度程度で開始される。その場合、本件特許発明2で特定されている「100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始」との事項における「表面架橋反応」とは何を指しているのか明確ではない」旨主張する。
しかしながら、本件特許発明2は、上記第3の請求項2として記載されているように、
「前記追加中和する段階は、前記ベース樹脂粉末に表面架橋剤を加え、100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始された以後に、前記ベース樹脂粉末をNa+イオンを含む塩基性溶液で処理して追加中和する段階を含む、請求項1に記載の高吸水性樹脂の製造方法。」
であり、「100℃以上の温度に昇温して表面架橋反応が開始された以後に、前記ベース樹脂粉末をNa+イオンを含む塩基性溶液で処理して追加中和する」ものである。
つまり、「100℃以上の温度に昇温」し、かつ、「表面架橋反応が開始された後」に、「前記ベース樹脂粉末をNa+イオンを含む塩基性溶液で処理して追加中和する」ものであり、追加中和するにあたっての条件として、「100℃以上の温度に昇温」し、かつ、「表面架橋反応が開始された後」である点で明確であるし、特許異議申立人が申立理由6-2の主張の根拠としている条件との間にも何ら齟齬はない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ 申立理由6についてのまとめ
上記ウ及びエのとおりであるから、申立理由6は、その理由がない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし3及び5ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3及び5ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項4に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701109