特許異議申立
2022-701100
有機EL表示素子用封止剤
- 審判番号
- 2022-701100
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-193462
- 登録番号
- 7065746
- 請求日
- 2022年11月11日
- 審決日
- 2024年03月15日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【異議申立人】藤央 弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 清水 康司
- 審判官 井口 猶二
- 分類
- P1651.161-YAA(H05B) / P1651.121-YAA(H05B) / P1651.537-YAA(H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第41条、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第29条の2、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7065746号発明「有機EL表示素子用封止剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7065746号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7065746号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7065746号(請求項の数2。以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本件特許出願」という。)は、2017年(平成29年)10月18日(優先権主張 平成28年10月19日)を国際出願日とする日本語特許出願(特願2017-556251号)の一部を平成30年10月12日に新たな特許出願としたものであって、令和4年4月28日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月12日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年11月11日に特許異議申立人(以下「申立人」という。)より本件特許の請求項1及び2に係る特許について特許異議の申立てがされ、令和5年2月28日付けで取消理由が通知され、同年4月28日に特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、同年6月16日に申立人より意見書が提出され、同年9月11日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、同年11月10日に特許権者より訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。また、特許法120条の5第7項の規定により、本件訂正請求がされたことによって、令和5年4月28日付けでされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。)及び意見書が提出された。
なお、本件異議事件においては、既に申立人に意見書の機会が与えられており、かつ、本件訂正請求は、令和5年4月28日に提出された訂正請求書による訂正と比較して、特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、本件訂正請求については、申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があると判断する。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める、というものである。
2 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所を表す。)。
請求項1に「加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤。」とあるのを、「加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤(ただし、吸湿剤を含むものを除く。)。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2も、同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項1及び2は、請求項2が、本件訂正によって訂正される請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1、2〕について請求されている。
3 訂正要件について
(1)訂正目的の適否について
本件訂正は、訂正前の請求項1及び2から、「吸湿剤を含むもの」を除外する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加の有無について
本件特許の請求項1及び2から、「吸湿剤を含むもの」を除外することによって、訂正後の請求項1及び2において、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「特許明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入することはないから、本件訂正は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものといえる。
したがって、本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の実質拡張・変更の存否について
本件訂正は、本件特許の請求項1及び2から、「吸湿剤を含むもの」を除外する訂正であって、当該訂正によって、訂正前の請求項1及び2には包含されていなかったものが、訂正後の請求項1及び2に包含されることはないから、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
4 訂正の適否のまとめ
前記3(1)ないし(3)で述べたとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
訂正前の請求項2は、本件訂正によって訂正される請求項1を引用する形式で記載された請求項であるから、請求項1及び2は一群の請求項である。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件特許の請求項1及び2に係る発明
前記第2 4で述べたとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」といい、これらを併せて「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正による訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認められる。
「【請求項1】
重合性化合物と重合開始剤とを含有し、
25℃における粘度が10~40mPa・sであり、25℃における表面張力が15~35mN/mであり、40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数が50~140ppm/℃であり、
溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下である
ことを特徴とする加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤(ただし、吸湿剤を含むものを除く。)。
【請求項2】
重合性化合物がエポキシ化合物又はオキセタン化合物であり、重合開始剤がカチオン重合開始剤であることを特徴とする請求項1記載の有機EL表示素子用封止剤。」
第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
令和5年9月11日付けの取消理由通知(決定の予告)により通知された取消理由は、概略、次のとおりである。
取消理由1(拡大先願同一):本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願(特願2016-205487号。以下、単に「基礎出願」という。)の出願の日(以下、「本件優先日」という。)前の特許出願であって、基礎出願の出願後に出願公開がされた下記の特許出願(以下「引用先願」という。特許法41条3項の規定により、引用先願を優先権主張の基礎とする特願2017-90641号について出願公開がされた時に引用先願について出願公開がされたものとみなす。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、引用先願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面を総称して「先願当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が引用先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の出願の時において、その出願人が上記引用先願の出願人と同一でもないので、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものである。
取消理由2(明確性要件違反):令和5年4月28日に提出された訂正請求書による訂正後の請求項1及び2に係る発明は、「吸湿剤として,ゼオライト粒子(D50=20nm,D90=50nm,水熱合成処理有り,表面処理無し)を含むものを除く。」なる発明特定事項を有しているが、当該発明特定事項のD50やD90が,どのような方法で測定され,何を粒子径基準とするD50やD90であるのか本件特許明細書等には記載されておらず、本件特許出願の出願当時(特許法44条2項の規定により,本件特許出願は,特願2018-556251号の時(平成29年10月18日)にされたものとみなす。),D50やD90については,たとえ明記がなくとも,測定方法や粒子径基準が特定のものであると当業者が認識できるような技術常識が存在したとも認められないから、本件特許発明1及び2は明確でないから、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
前記取消理由1(拡大先願同一)において引用された引用先願は、次のとおりである。
引用先願:特願2016-199522号(引用先願を優先権主張の基礎とする特願2017-90641号についての出願公開:特開2018-111792号公報)
第5 先願当初明細書等に記載された発明
1 先願当初明細書等の記載
引用先願は、本件優先日である平成28年10月19日より前の平成28年10月7日の特許出願であり、当該引用先願を優先権主張の基礎とする特願2017-90641号(以下「公開出願」という。)は、先の出願の出願後である平成30年7月19日に出願公開がされたものであるから、特許法41条3項の規定により、公開出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、公開出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面を総称して「公開当初明細書等」という。)に記載された発明のうち、先願当初明細書等に記載された発明については、公開出願について出願公開がされた時に引用先願について出願公開公報の発行がされたものとみなして、同法29条の2本文の規定が適用されることとなる。
しかるに、先願当初明細書等には次の記載があり(甲1の2を参照。)、公開当初明細書等には当該先願当初明細書等の記載と同旨の記載がある(甲1の1を参照。)。(下線は、後述する先願発明の認定や判断等に特に関連する箇所を示す。また、各摘記の末尾に、当該摘記と対応する公開当初明細書等の記載の段落番号等を示す。)
(1) 「【請求項1】
シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)、
シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)、
カチオン硬化触媒(C)、及び
平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)
を含有する、
紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、下記構造式(1)で示される化合物を含有し、
【化1】
[図:0001411248000001.jpg]
式(1)において、R1~R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭化水素基であり、Xは単結合、又は二価の有機基である
紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記多官能カチオン重合性化合物(B)における前記シロキサン骨格のSi原子数は、2~5の範囲内である
請求項1又は2に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記多官能カチオン重合性化合物(B)は、下記式(10a-1)に示される化合物を含有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【化2】
[図:0001411248000002.jpg]
【請求項5】
前記吸湿剤(D)は、平均粒径100nm以下のゼオライト粒子を含有する
請求項1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記多官能カチオン重合性化合物(A)は、粘度8mPa・s以下の化合物(A1)を含有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
粘度8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)を含有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
溶媒を含有しない
請求項1から7のいずれか一項に記載の紫外線硬化性樹脂組成物。」(特願2017-90641号の請求項1ないし9)
(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL発光装置における封止材を作製するために好適な紫外線硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
有機EL発光装置のうち、トップエミッションタイプと呼ばれるものは、例えば支持基板上に有機EL素子を配置し、支持基板に対向するように透明基板を配置し、支持基板と透明基板との間に透明な封止材を充填して構成される。この場合、有機EL素子が発する光は封止材及び透明基板を通過して外部へ出射できる。
【0004】
封止材は、有機EL素子への水分の侵入を抑制することで、有機EL素子におけるダークスポットの発生及び成長を抑制する。ダークスポットとは、有機EL素子が水分で劣化することで生じる、発光しない部分のことである。
【0005】
封止材は、例えばカチオン硬化性樹脂とカチオン重合開始剤とを含有する組成物から作製される(特許文献1及び2参照)。この場合、紫外線照射等で組成物を硬化させて封止材を作製できるので、有機EL素子に熱による負荷をかけることなく封止材を作製できる。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、透明性と吸湿性とを兼ね備える有機EL発光装置用の封止材を作製できる紫外線硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る紫外線硬化性樹脂組成物は、シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)、カチオン硬化触媒(C)、及び平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、透明性と吸湿性とを兼ね備える封止材を作製できる紫外線硬化性樹脂組成物を提供できる。」
(特願2017-90641号の【0001】、【0003】ないし【0005】、【0023】、【0017】ないし【0019】)
(3) 「【0017】
封止材5を、本実施形態に係る紫外線硬化性樹脂組成物(以下、組成物(X)という)から作製することができる。すなわち、組成物(X)は、好ましくは有機EL素子封止用の組成物、あるいは有機EL発光装置製造用の組成物である。
【0018】
組成物(X)は、シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)、カチオン硬化触媒(C)、及び粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有する。
・・・(中略)・・・
【0023】
組成物(X)の25℃における粘度は、5~50mPa・sの範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)を膜状等に成形することが容易であり、キャスティング法、インクジェット法といった方法で組成物(X)を成形することができる。組成物(X)の25℃における粘度が、5~20mPa・sの範囲内であることも好ましい。この場合、組成物(X)が特に低い粘度を有することで、組成物(X)をインクジェット法で成形することが容易である。」(特願2017-90641号の【0017】、【0019】、【0023】、【0025】)
(4) 「【0027】
上記の通り、多官能カチオン重合性化合物(A)は、シロキサン骨格を有さず、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基を有する。・・・(中略)・・・
【0029】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、例えば下記式(1)に示すような二官能脂環式エポキシ化合物、下記式(2)に示すような三官能エポキシ化合物、下記式(3)に示すような二官能オキセタン化合物、下記式(4)~(7)に示すようなアルキレングリコールジグリシジルエーテル、及び式(8)に示すようなアルキレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルのうち、少なくとも一種の成分を含有できる。
・・・(中略)・・・
【0032】
式(1)に示す化合物の例は、下記式(1a)に示す化合物及び下記式(1b)に示す化合物を含む。
【0033】
【化2】
[図:0001411248000003.jpg]
・・・(中略)・・・
【0042】
より具体的には、多官能カチオン重合性化合物(A)は、例えばダイセル製のセロキサイド2021P及びセロキサイド8010、日産化学製のTEPIC-VL、東亞合成製のOXT-221、並びに四日市合成製の1、3-PD-DEP、1、4-BG-DEP、1、6-HD-DEP、NPG-DEP及びブチレングリコールモノビニルモノグリシジルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
・・・(中略)・・・
【0046】
多官能カチオン重合性化合物(A)は、25℃における粘度が8mPa・s以下の化合物(A1)を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)が溶媒を含有しなくても、化合物(A1)が組成物(X)の粘度を低減できる。特に化合物(A1)の25℃における粘度は、0.1~8mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0047】
化合物(A1)は、多官能カチオン重合性化合物(A)の一部であってもよく、全部であってもよい。すなわち、多官能カチオン重合性化合物(A)は、化合物(A1)のみを含有してもよく、化合物(A1)と25℃における粘度が8mPa・sより高い化合物(A2)とを両方含有してもよい。化合物(A2)の例は、上記の式(1)~(8)に示す化合物を含む。化合物(A2)は25℃で液体であることが好ましい。特に化合物(A2)の25℃における粘度は、50~300mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0048】
化合物(A1)は、例えば下記式(9)に示す化合物を含有できる。化合物(A1)が下記式(9)に示す化合物を含有すると、組成物(X)は、特に高いカチオン重合反応性と、特に高い吸湿剤(D)の分散性と、低い粘度とを有することができる。
【0049】
【化11】
[図:0001411248000004.jpg]
」(特願2017-90641号の【0028】、【0030】、【0033】、【0034】、【0043】、【0104】、【0106】、【0111】)
(5) 「【0051】
多官能カチオン重合性化合物(B)は、シロキサン骨格と、一分子あたり二以上のカチオン重合性官能基とを有する。・・・(中略)・・・多官能カチオン重合性化合物(B)は、組成物(X)のカチオン重合反応性を向上するとともに、組成物(X)中及び硬化物中の吸湿剤(D)の分散性を向上することができる。このため、たとえ吸湿剤(D)に分散性向上のための表面処理などを施さない場合であっても、組成物(X)中及び硬化物中において、吸湿剤(D)が良好に分散することができる。
・・・(中略)・・・
【0059】
より具体的には、例えば多官能カチオン重合性化合物(B)は、次の式(10a)~(10d)並びに(11a)~(11b)に示す化合物のうち少なくとも一種の化合物を含有する。
・・・(中略)・・・
【0061】
式(10a)におけるRは、単結合又は二価の有機基であり、炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。式(10a)におけるnは0以上の整数である。式(10a)に示す化合物の例は、下記式(10a-1)に示す化合物を含む。
【0062】
【化14】
[図:0001411248000005.jpg]
・・・(中略)・・・
【0071】
更に具体的には、多官能カチオン重合性化合物(B)は、例えば信越化学株式会社製の品番X-40-2669、X-40-2670、X-40-2715、X-22-169AS、X-22-169B、X-22-2046、X-22-343、X-22-163、及びX-22-163Bからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。」(特願2017-90641号の【0047】、【0055】、【0057】、【0060】、【0061】、【0071】)
(6) 「【0074】
カチオン硬化触媒(C)は、光照射を受けてプロトン酸又はルイス酸を発生する触媒であれば、特に制限されない。カチオン硬化触媒(C)は、イオン性光酸発生型のカチオン硬化触媒と、非イオン性光酸発生剤のカチオン硬化触媒とのうち、少なくとも一方を含有できる。」(特願2017-90641号の【0074】)
(7) 「【0079】
吸湿剤(D)は、吸湿性を有する無機粒子であることが好ましく、例えばゼオライト粒子、シリカゲル粒子、塩化カルシウム粒子、及び酸化チタンナノチューブ粒子からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。吸湿剤(D)がゼオライト粒子を含有することが特に好ましい。
・・・(中略)・・・
【0092】
吸湿剤(D)の平均粒径は、10~100nmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径が100nm以下であれば、硬化物は特に高い透明性を有することができる。また、この平均粒径が10nm以上であれば、吸湿剤(D)の良好な吸湿性を維持できる。なお、この平均粒径は、動的光散乱法による測定結果から算出されるメディアン径、すなわち累積50%径(D50)である。なお、測定装置としては、マイクロトラック・ベル株式会社のナノトラックNanotrac Waveシリーズを用いることができる。」(特願2017-90641号の【0081】、【0099】)
(8) 「【0104】
組成物(X)は、分散剤(F)を含有することが好ましい。この場合、組成物(X)中の吸湿剤(D)の分散性を更に向上できるとともに、組成物(X)の粘度を更に低減できる。
【0105】
分散剤(F)は、例えば金属石鹸とシランカップリング剤とのうち少なくとも一方を含有できる。
・・・(中略)・・・
【0108】
シランカップリング剤は、エポキシシランを含有することが好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと8-グリシドキシオクチルトリメトキシシランとのうち少なくとも一方を含有することがより好ましい。」(特願2017-90641号の【0116】、【0117】、【0119】)
(9) 「【0113】
組成物(X)は、溶剤を含有しないことが好ましい。この場合、組成物(X)から硬化物を作製する際に組成物(X)を乾燥させて溶剤を揮発させるような必要がなくなる。」(特願2017-90641号の【0124】)
(10) 「【実施例】
【0124】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。ただし、本発明は実施例のみに制限されない。
【0125】
1.組成物の調製
表の「組成」の欄に示す成分に示す成分を混合することで、実施例及び比較例の組成物を調製した。
【0126】
なお、表中に示される成分の詳細は次の通りである。また、下記の各成分の粘度はE型粘度計で測定された値である。
【0127】
(1)シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物
・セロキサイド8010:ダイセル製、品名セロキサイド8010、式(1a)に示す化合物、粘度60mPa・s。
・・・(中略)・・・
・AL-OX:四日市合成製、品名AL-OX、式(9)に示す化合物、粘度1mPa・s。
【0128】
(2)シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物
・X-40-2669:信越化学製、品番X-40-2669、式(10a-1)に示す化合物、粘度45mPa・s。
・・・(中略)・・・
【0130】
(4)触媒
・DTS-200:みどり化学製、品番DTS-200、C6H5-S-C6H4-S+(C6H5)2・B(C6F5)4-。
【0131】
(5)分散剤
・KBM403:信越化学製、品番KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
・・・(中略)・・・
【0132】
(6)吸湿剤
・ゼオライト粒子1:D50=20nm、D90=50nm、水熱合成処理有り、表面処理無し。
・ゼオライト粒子2:D50=60nm、D90=80nm、水熱合成処理有り、表面処理無し。
・・・(中略)・・・
【0135】
2.評価試験
実施例及び比較例について、次の評価試験を実施した。その結果を表に示す。
【0136】
(1)インクジェット性
組成物をインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、形式PX-B700)のカートリッジに入れ、インクジェットプリンターにおけるノズルからカートリッジ内の組成物を吐出しうることを確認してから、ノズルから組成物を吐出させてテストパターンを連続で印刷した。その結果、組成物を1時間吐出できるとともに吐出動作が安定していた場合を「A」、組成物を1時間吐出できたが吐出動作が断続的に不安定になった場合を「B」、吐出開始から1時間経過前にノズルが詰まって組成物を吐出できなくなった場合を「C」と、評価した。
・・・(中略)・・・
【0141】
(6)粘度
組成物を容量200ccの樹脂製の瓶に入れ、この組成物の25℃での粘度を、E型粘度計(東機産業社製、VISCOMETER TV-25、コーンプレート:CP1型)を用いて、25℃、50rpmの条件で測定した。
・・・(中略)・・・
【0149】
【表1】
[図:0001411248000006.jpg]
」(特願2017-90641号の【0135】ないし【0150】、【0157】、【0158】、【0163】、【0174】)
2 引用先願の当初明細書等に記載された発明
前記1(1)ないし(10)に照らせば、先願当初明細書等には、請求項1に係る発明の実施例である実施例5に係る組成物として、次の発明が記載されており、当該発明は、本件特許の優先権主張に係る先の出願の出願後である平成30年7月19日(公開先願について出願公開(特開2018-111792号公報)がされた時)に出願公開公報の発行がされたものと認められ、本件特許発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく、また本件特許出願の出願時において、本件特許出願の出願人は引用先願の出願人と同一でない。
「シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)、シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)、カチオン硬化触媒(C)、及び平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)を含有する、紫外線硬化性樹脂組成物(X)であって、(【請求項1】)
前記シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)として、下記[式(1a)]に示す二官能脂環式エポキシ化合物であり、粘度が60mPa・sのダイセル製セロキサイド8010を61.9質量部、及び下記[式(9)]に示す化合物であり、粘度が1mPa・sの四日市合成製AL-OXを20質量部と、(【0033】、【0042】、【0046】ないし【0049】、【0127】、【表1】)
前記シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)として、下記[式(10a-1)]に示す化合物であり、粘度が45mPa・sの信越化学製X-40-2669を5質量部と、(【0061】、【0062】、【0071】、【0128】、【表1】)
前記カチオン硬化触媒として、C6H5-S-C6H4-S+(C6H5)2・B(C6F5)4-で示されるみどり化学製DTS-200を0.2質量部と、(【0130】、【表1】)
前記吸湿剤(D)として、ゼオライト粒子1(D50=20nm、D90=50nm、水熱合成処理有り、表面処理無し)を10質量部と、(【0132】、【表1】)
分散剤として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランである信越化学製KBM403を3質量部と、(【0131】、【表1】)
を混合して得られ、
25℃での粘度が35mPa・sであり、セイコーエプソン株式会社製インクジェットプリンターPX-B700におけるノズルから組成物を吐出させてテストパターンを連続で印刷したときの評価結果が、組成物を1時間吐出できたが吐出動作が断続的に不安定になったという「B」である、(【0141】、【0136】、【表1】)
有機EL発光装置における封止材を作製するために好適で、インクジェット法で成形することが容易な紫外線硬化性樹脂組成物(X)。(【0001】、【0023】)
[式(1a)]
[図:0001411248000007.jpg]
[式(9)]
[図:0001411248000008.jpg]
[式(10a-1)]
[図:0001411248000009.jpg]
」(以下、「先願発明」という。)
第6 当合議体の判断
1 取消理由1(拡大先願同一)について
(1)本件特許発明1に対して
ア 対比
(ア)先願発明の「シロキサン骨格を有さない多官能カチオン重合性化合物(A)」である「ダイセル製セロキサイド8010」、「シロキサン骨格を有する多官能カチオン重合性化合物(B)」である「信越化学製X-40-2669」及び「25℃における粘度が8mPa・s以下の単官能カチオン重合性化合物(E)」である「四日市合成製AL-OX」はいずれも重合性化合物であり、先願発明の「カチオン硬化触媒(C)」である「みどり化学製DTS-200」は重合開始剤であるから、先願発明と本件特許発明1は、「重合性化合物と重合開始剤とを含有」する点で、一致する。
(イ)先願発明の25℃での粘度は35mPa・sであるから、先願発明と本件特許発明1は、「25℃における粘度が10~40mPa・sであ」る点で、一致する。
(ウ)先願発明は、混合する成分として、溶剤を用いていないから、先願発明と本件特許発明1は、「溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下である」点で、一致する。
(エ)先願発明は、インクジェット法で成形することが容易な紫外線硬化性樹脂組成物(X)であるから、先願発明と本件特許発明1は、「インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤」である点で、一致する。
(オ)前記(ア)ないし(エ)に照らせば、本件特許発明1と先願発明は、
「重合性化合物と重合開始剤とを含有し、
25℃における粘度が10~40mPa・sであり、
溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下である
インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤。」
である点で一致し、次の点で一応相違する、又は相違する。
相違点1:
本件特許発明1の有機EL表示素子用封止剤は、25℃における表面張力が、15~35mN/mであり、40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数は、50~140ppm/℃であるのに対して、
先願発明の紫外線硬化性樹脂組成物(X)は、25℃における表面張力の値が定かでなく、40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数の値も定かでない点。
相違点2:
本件特許発明1の有機EL表示素子用封止材は、加熱式インクジェット法による塗布に用いられるのに対して、
先願発明の紫外線硬化性樹脂組成物(X)は、インクジェット法による塗布に用いられるものの、加熱式インクジェット法であることまでは特定されていない点。
相違点3:
本件特許発明1の有機EL表示素子用封止材からは、「吸湿剤を含むもの」が除外されているのに対して、
先願発明の紫外線硬化性樹脂組成物(X)は、吸湿剤(D)として、ゼオライト粒子1(D50=20nm、D90=50nm、水熱合成処理有り、表面処理無し)を含む点。
イ 相違点について
事案に鑑み、相違点3について検討する。
先願当初明細書等の請求項1には、「平均粒径100nm以下の吸湿剤(D)」を含有する」ことを発明特定事項とする紫外線硬化性樹脂組成物の発明が記載されており、請求項2ないし8には、請求項1に係る発明の全発明特定事項を具備し、これに限定を加えた紫外線硬化性樹脂組成物の発明が記載されているのであって(前記第5 1(1)を参照。)、先願当初明細書等には、吸湿剤を含有しない紫外線硬化性樹脂組成物の発明は記載されていない。
そうすると、相違点3は、実質的な相違点というべきであって、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないということはできない。
そして、本件特許発明1と先願発明の間に実質的な相違点が存在する以上、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は先願発明ではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年6月16日に提出した意見書(2ページ6ないし21行)において、封止剤の製造工程において脱水をすることは周知慣用の技術であって、その手段としてゼオライト粒子を使うか又は減圧下加熱するかどうかの違いは、本件特許発明にとって新たな効果をもたらしているとはいえず、ゼオライト粒子を含むか含まないかという先願発明と本件特許発明との相違点は、課題解決のための具体化手段における微差にあたる等と主張する。
しかしながら、先願発明において、吸湿剤(ゼオライト粒子)を含有するのは、先願発明の紫外線硬化性樹脂組成物(X)の硬化物を、有機EL発光装置の封止材として用いた場合に、有機EL発光装置内に水分が侵入しても、水分が封止材中の吸湿剤に吸収されるため、有機EL発光装置のダークスポットの発生などの不良を抑制できるからであって(先願当初明細書等の【0025】を参照。また、当該作用機能は、本件特許の優先日当時の技術常識から自明な事項でもある。)、このような作用効果は、「吸湿剤を含むものを除く」ことを発明特定事項としている本件特許発明1において、実現できない作用効果であるから、相違点3を、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないということはできない(申立人が主張する、封止材を減圧下加熱するという手段は、そもそも先願発明が有する構成ではないものの、仮に先願発明が当該手段を有しているとして検討してみても、封止材を減圧下加熱するという手段によって、有機EL発光装置内に侵入した水分を吸収することはできないのであるから、封止材が吸湿剤を含有するという手段と、封止材を減圧下で加熱するという手段とが、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないということはできない。)
以上のとおりであるから、申立人の主張は、採用できない。
(2)本件特許発明2に対して
本件特許の請求項2は、請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって、本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そして、本件特許発明1が先願発明ではない以上、本件特許発明2も先願発明ではない。
(3)取消理由1(拡大先願同一)のまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1(拡大先願同一)によって、本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(明確性要件違反)について
本件訂正後の請求項1及び2には、「D50」や「D90」なる記載は存在しないから、取消理由2(明確性要件違反)は、本件訂正によって解消された。
したがって、取消理由2(明確性要件違反)によって、本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人が主張する申立理由の概要
特許異議申立書において、申立人は、次の申立理由を主張している。
申立理由1(新規性・進歩性欠如):本件特許発明1及び2は、甲2に記載される発明と同一であるか、又は当該発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2(進歩性欠如):本件特許発明1及び2は、甲5に記載される発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
申立理由3(サポート要件違反):本件特許発明1及び2は、「重合性化合物」及び「重合開始剤」に関して、課題が解決できると当業者が認識できる範囲を超えており、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
申立理由4(サポート要件・明確性要件違反):本件特許発明1及び2において、「溶剤」の定義が不明であって、本件特許明細書等に記載された実施例で用いているオキセタン化合物(OXT-221)等が、溶剤と重合性化合物のいずれに該当するのか明確でないことから、本件特許発明1及び2は明確でない。また、仮に、OXT-221等が溶剤に該当するのであれば、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものでない。したがって、本件特許発明1及び2に係る特許は、特許法36条6項1号又は2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
申立人が提出した証拠方法は次のとおりである(取消理由1に対応する申立理由に係る甲1の1(公開出願の公開公報)及び甲1の2(先願当初明細書等)を除く。)。
甲2:佐々木裕,“光カチオン硬化型材料としてのオキセタン樹脂”,日本接着学会誌,2010年,46巻,11号,p.448-p.454
甲3:特開2007-10761号公報
甲4:国際公開第2016/035819号
甲5:国際公開第2012/017948号
甲6:特開2013-185013号公報
甲7:特開2014-148580号公報
甲8:獨古薫,“電気化学材料に対する水熱合成法の可能性と期待”,Electrochemistry,2008年,76巻,9号,p.691-p.695
2 申立理由1(新規性・進歩性欠如)について
甲2には、オキセンタン樹脂が、低分子量のオキセタンモノマーであっても、Ames試験が陰性で、エポキシ系材料との配合による迅速な硬化が可能であり、生成ポリマーの分子量が比較的大きく、アルカリ条件下ではオキセンタン環が安定であるため、合成ルートの設計の幅が広いという特性を有するため、光カチオン硬化型接着剤として有用であること、及び、東亞合成株式会社より供給可能なオキセタン樹脂に、3-エチル-3-{〔(3-エチルオキセンタン-3-イル)メトキシ〕メチル}オキセタン(製品名OXT-221)があり、当該オキセタン樹脂(製品名OXT-221)の粘度(mPa・s)が9.0~14.0(25℃)であり、表面張力(mN/m)が35.0(23℃)であることが示され、当該オキセタン樹脂(製品名OXT-221)が、非常に低粘度で希釈性能も高く相溶性に優れること等が記載されているが、当該オキセタン樹脂(製品名OXT-221)を用いて、加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤であって、溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下である有機EL表示素子用封止剤を構成することは、記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他の証拠を検討してみても、甲2に記載されたオキセタン樹脂(製品名OXT-221)を用いて、加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤に適した物性等を有し、溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下である組成物を構成することに、動機付けが存在するとは認められない。
したがって、本件特許発明は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 申立理由2(進歩性欠如)について
甲5には、ジ(4,5-エポキシペンチル)ヒダントインと、新日本理化(株)製の硬化剤 MH-700とを含有し、溶剤を含有しない樹脂組成物であって、硬化物の線膨張率(30~80℃)が65.5ppm/℃である、実施例2の樹脂組成物や、樹脂組成物の用途として、LED等の透明封止材や、CD、DVD等へのインクジェットプリンター用インキ等が挙げられることが記載されているが、加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤の用途については記載も示唆もされていない。
また、申立人が提出した他の証拠を検討してみても、甲5に記載された実施例2の樹脂組成物を、加熱式インクジェット法による塗布に用いられる有機EL表示素子用封止剤に適した物性等を有するものとして構成することに、動機付けが存在するとは認められない。
したがって、本件特許発明は、甲5に記載された発明ではなく、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4 申立理由3(サポート要件違反)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0003】ないし【0007】等の記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、インクジェット法により容易に塗布することができ、低アウトガス性に優れ、かつ、信頼性に優れる有機EL表示素子を得ることができる有機EL表示素子用封止剤を提供することであると認められる。
そして、発明の詳細な説明の【0016】には、加熱式インクジェット法による塗布に用いる場合の有機EL表示素子用封止剤の粘度の好ましい下限は10mPa・s、好ましい上限は50mPa.sであり、より好ましい下限は20mPa・s、より好ましい上限は40mPa.sであること、有機EL表示素子用封止剤の粘度がこの範囲であることにより、加熱式インクジェット法によって好適に塗布することができることが記載されており、【0017】には、有機EL表示素子用封止剤の表面張力の下限が15mN/m、上限が35mN/mであることにより、インクジェット法によって好適に塗布することができることが記載され、【0018】には、有機EL表示素子用封止剤の40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数の下限が50ppm/℃、上限が140ppm/℃であることにより、無機材料膜にクラックが発生することを抑制することができ、得られる有機EL表示素子が信頼性に優れるものとなることが記載され、【0064】には、有機EL表示素子用封止剤は、残存した溶剤により、有機発光材料層が劣化したりアウトガスが発生したりする等の問題が生じるおそれがあるため、溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下であることが好ましいことが記載されているところ、これらの記載から、当業者は、有機EL表示素子用封止剤の粘度を10ないし50mPa・sの範囲とし、表面張力を15ないし35mN/mの範囲とし、40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数を50ないし140ppm/℃の範囲とするとともに、溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下であるものとすることによって、加熱インクジェット法により好適に塗布することができ、無機材料膜にクラックが発生することを抑制することができて、得られる有機EL表示素子が信頼性に優れるものとなるとともに、アウトガスの発生が抑制できること、すなわち、前述した発明の課題を解決することができることを理解できる。
これに対して、本件特許発明は、「25℃における粘度が10~40mPa・s」であること、「25℃における表面張力が15~35mN/m」であること、「40℃から50℃までの温度範囲における硬化物の線膨張係数が50~140ppm/℃」であること、及び「溶剤を含有しない、又は、溶剤の含有量が0.05重量%以下」であることを発明特定事項として具備しているから、たとえ「重合性化合物」及び「重合開始剤」について特定されていないとしても、本件特許発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというほかない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
5 申立理由4(サポート要件・明確性要件違反)について
一般に、「溶媒」とは、溶質を良く溶かす(溶解度が高い)とともに、化学的に安定していて溶質と化学反応しないものを指す(URL:http://www.fujijunyaku.co.jp/column/yobaitohananika-sonoyakuwariwotadashikurikaishiteriyoshiyo.htmlや、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%B6%E5%AA%92等を参照)。
本件特許明細書に記載された実施例で用いている「OXT-221」は、たとえ相溶性に優れており、組成物中で他の重合性化合物と相溶しているのだとしても、紫外線を照射することによって他の重合性化合物と共重合するのであるから、当業者は、当該「OXT-221」について「重合性化合物」と認識するのが当然であって、「溶媒」と認識することなどない。
したがって、本件特許発明は、明確であり、かつ、発明の詳細な説明に記載したものである。
第8 まとめ
前記第6 1及び2、並びに前記第7 2ないし5で述べたとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載された取消理由1及び2、並びに特許異議申立書に記載された申立理由1ないし4によって、本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701100