特許異議申立
2022-701011
二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法
- 審判番号
- 2022-701011
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-554682
- 登録番号
- 7054079
- 請求日
- 2022年10月12日
- 審決日
- 2024年03月29日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
- 【異議申立人】岩谷 幸祐
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 山口 大志
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7054079号発明「二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7054079号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7054079号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7054079号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本願」という。)は、2021年(令和 3年) 1月28日(パリ条約による優先権主張 令和 2年 2月 6日、日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和 4年 4月 5日にその特許権の設定登録がされ、同年 4月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~3(全請求項)に係る特許について、令和 4年10月12日に特許異議申立人 岩谷 幸祐(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 2月 3日付け 取消理由通知
同年 3月29日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
同年 6月23日 申立人による意見書の提出
同年11月13日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年12月26日 特許権者による意見書の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 3月29日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「 PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、上記式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。」
と記載されているのを、
「 ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の素材の板厚
を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の明細書【0010】に
「 PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、上記式中、元素記号は各元素の質量%を示し、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の板厚を表す。」とあるのを、
「 ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の素材の板厚を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、t:合せ材の板厚を表す。」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の明細書【0038】に「しかしながら、1.50%を超えて含有すると」とあるのを、「しかしながら、2.00%を超えて含有すると」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「合せ材の素材」について、「ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。」と訂正することにより、「合せ材の素材」が「合せ材」の製造工程におけるどの段階の材料であるのかを明確にするものである。
さらに、(1)~(3)式における元素記号が各元素の質量%を示すものであることをあらためて明確にするとともに、「δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)」および「δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)」における「t」が「合せ材の素材の板厚」であることを明確にするものである。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について
上述のとおり、訂正事項1に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。
また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0030】には、「ここで、合わせ材の素材としては、連続鋳造鋳片や造塊・分塊圧延後であって、熱間圧延前のスラブや、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片を用いることができる。」、「ただし、δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、tは板厚を表し、0.25t位置は厚み方向で表面から合せ材の素材の板厚の1/4の位置を表す。」との記載があるから、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、【0010】の記載を、上記訂正事項1により訂正される特許請求の範囲の請求項1の記載に整合させるために行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、【0038】の「しかしながら、1.50%を超えて含有すると」の誤記を、「しかしながら、2.00%を超えて含有すると」に訂正するためのものである。なお、訂正前の【0038】の「より好ましい上限は1.50%である。」との記載は、いずれも上限を2.00%としている「W:0.01~2.00%」及び「Wを含有する場合、W含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。」なる記載と整合していないことから、誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項3は誤記の訂正を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~3について、訂正前の請求項2~3はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~3は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、請求項2、3について、別の訂正単位とする求めがなされているが、本件訂正請求は、請求項1との引用関係の解消を目的とするものではなく、訂正後の請求項2、3も訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用しているので、請求項1と請求項2、3とを別の訂正単位とすることはできない。よって、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~3〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)明細書の訂正に係る請求項について
本件訂正のうち訂正事項2に係る訂正は、明細書の記載事項を、訂正事項1により訂正された請求項1と整合させるための訂正であり、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、3に関連する訂正であるから、訂正事項2に係る訂正は、一群の請求項である請求項1~3について行うものである。
また、本件訂正のうち訂正事項3に係る訂正は、段落【0038】のW含有量に関する誤記を訂正することを目的とする訂正であり、W含有量について特定されている請求項2に関連する訂正であるところ、上記(2)のとおり、本件訂正前の請求項1~3は一群の請求項であるから、訂正事項3に係る訂正は、一群の請求項である請求項1~3について行うものである。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
(4)独立特許要件について
本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下において、本件訂正後の請求項1~3に係る発明を順に「本件特許発明1」~「本件特許発明3」といい、総称して「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
母材鋼板の少なくとも片面に二相ステンレス鋼層を有する二相ステンレスクラッド鋼の合せ材の成分組成が、質量%で、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.040%以下、S:0.0050%以下、Ni:6.00~8.00%、Cr:23.00~26.00%、Mo:2.50~4.00%、N:0.10~0.30%、O:0.0100%以下を含み、下記(1)式で表されるPI値が36.0超え40.0以下の範囲にあり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり、
前記合せ材は、下記(3)式で表されるXc値が40以下であることを特徴とする二相ステンレスクラッド鋼。
ここで、前記合せ材の素材は、連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう。
PI=Cr+3.3Mo+16N ・・・(1)
ただし、(1)式中、元素記号は各元素の質量%を示す。
X=60δSi+40δMo ・・・(2)
ただし、(2)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
δSi=Si(分析位置)-Si(0.25t位置)、
δMo=Mo(分析位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の素材の板厚
を表す。
Xc=60ΔSi+40ΔMo ・・・(3)
ただし、(3)式中、元素記号は各元素の質量%を示し、
ΔSi=Si(0.5t位置)-Si(0.25t位置)、
ΔMo=Mo(0.5t位置)-Mo(0.25t位置)、
t:合せ材の板厚
を表す。
【請求項2】
前記合せ材の成分組成が、さらに質量%で、A群[Cu:0.01~1.50%、W:0.01~2.00%、Co:0.01~1.50%およびV:0.01~0.80%から選ばれる少なくとも1種]、B群[Ti:0.01~0.10%およびNb:0.01~0.20%から選ばれる少なくとも1種]、C群[Sn:0.01~0.20%およびSb:0.01~0.20%から選ばれる少なくとも1種]、D群[Zr:0.01~0.20%、Mg:0.0005~0.0100%、Ca:0.0005~0.0100%、REM:0.01~0.20%およびB:0.0005~0.0200%から選ばれる少なくとも1種]およびE群[Al:0.003~0.080%]から選ばれる少なくとも1群の成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレスクラッド鋼。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分組成の合せ材を素材とする二相ステンレスクラッド鋼の製造方法において、前記合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施して、圧延体を形成する工程と、前記母材となる母材素材および前記合せ材の圧延体を組み合わせた後、合せ材の圧延体部分を1150℃以上の温度域において60分以上加熱し、続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施し、圧延体を形成する工程を含む、ここで、圧下比は圧下前の板厚を圧下後の板厚で除したものであり、前記合せ材の成分組成は前記(1)式で表されるPI値が36.0超え40.0以下の範囲にあり、前記合せ材の素材は、前記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり、前記合せ材は、前記(3)式で表されるXc値が40以下である、ことを特徴とする二相ステンレスクラッド鋼の製造方法。」
第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において公知となった、次の甲第1~2号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1~3により、本件訂正前の請求項1~3に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
[証拠方法]
甲第1号証(甲1):Clara Herrera外2名, Characterization of the Microstructure, Crystallographic Texture and Segregation of an As-cast Duplex Stainless Steel Slab,steel research international,2008年 6月,Verlag Stahleisen GmbH、Volume 79、Issue 6、p.482-488
甲第2号証(甲2):ステンレス鋼の選び方・使い方[改訂版]、2010年6月16日、財団法人日本規格協会、p.108、109
(1)申立理由1(明確性要件)
ア 合せ材の素材の規定について
最終製品である二相ステンレスクラッド鋼の合せ材から、合せ材の素材の偏析状態を示すX値を把握することは不可能である。よって、本件訂正前の請求項1の記載から、具体的な物(二相ステンレスクラッド鋼)が発明の技術的範囲に属するか否かを予見することができない。
また、本件訂正前の請求項1が、プロダクト・バイ・プロセスクレーム(PBPクレーム)であると解するとしても、PBPクレームが認められるのは「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる」ところ、PBPクレームが認められる事情はない。
以上より、本件訂正前の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2、3の記載 は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ X値の測定方法について
本件明細書【0065】の「ビーム径0.1mm、測定間隔0.1mmの条件」による「線分析」では、測定位置がフェライト(α)のみの部位もしくはオーステナイト(γ)のみの部位であるかによる測定値のばらつきが大きいため、仮に一切の偏析が発生していなくとも、本件訂正前の請求項1における「X値」を一義的に決めることは極めて困難である。
したがって、本件訂正前の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2、3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項3に係る発明は、(A)「合せ材素材に圧下比5.0超えの熱間圧延を施」すこと、(B)合せ材素材の圧延体と母材素材を組み合わせた後、「合せ材の圧延体部分を1100℃以上の温度域において60分以上加熱」すること、及び(C)「続いて圧下比3.0以上の熱間圧延を施」すことを含むが、本件明細書の記載からは、本件訂正前の請求項3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、本件訂正前の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件訂正前の請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 追加の証拠方法
また、申立人は、令和 5年 6月23日提出の意見書とともに、追加の証拠方法として、以下の甲第3号証(以下、「甲3」という。)を提出している。
甲第3号証(甲3):鈴木章、他1名、実用鋼中の溶質元素の分配係数、1968年7月、日本金属学会誌、第32巻、第7号、p.625-628
第5 令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由の概要
当審が令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。
1 取消理由1(実施可能要件:申立理由2に対応)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~3に係る二相ステンレスクラッド鋼の、所定のX値を有する合せ材の素材を得る方法に関し、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
2 取消理由2(明確性要件、職権により追加)
(1)「合せ材の素材」について
本件訂正前の請求項1に記載された「合せ材の素材」の意味が、本件明細書の記載、及び本願出願時の技術常識を参酌しても明確であるとはいえない。
(2)合せ材の「素材」のX値を算出する(2)式で用いられる板厚tについて
本件訂正前の請求項1に記載された合せ材の「素材」に係る「X値」を、その板厚とは異なる「t:合せ材の板厚」を用いることにより、なぜ算出できるのかが明確であるとはいえない。
(3)したがって、本件訂正前の請求項1、及び請求項1を引用する請求項2、3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、本件訂正前の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
第6 令和 5年11月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
1 取消理由1(実施可能要件)
特許権者は、令和 5年 3月29日提出の意見書において、次の乙第1~3号証(以下、「乙1」等という。)を提出し、当業者は、本件明細書の記載に、乙第1号証~乙第3号証に記載されたような技術常識を参酌することで、本件特許発明の二相ステンレスクラッド鋼を実施できると主張している。
しかし、発明の詳細な説明の各記載に加え、乙1~乙3に示されている本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本件特許発明における所定のX値を有する合わせ材の素材を得ることができることを当業者が理解できるとはいえない。
したがって、依然として、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、具体的にどのような条件で鋳造すれば、本件訂正後の請求項1~3に係る「二相ステンレスクラッド鋼」の、所定のX値を有する合せ材の素材を得ることができるか、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
よって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
乙第1号証(乙1):荻林成章、連続鋳片の中心偏析生成機構および中心偏析モデルの現状と課題、Sanyo Technical Report、2012年、Vol.19、No.1、p.2-14
乙第2号証(乙2):瀬々昌文、他5名、凝固末期面圧下による連続鋳片のセミマクロ偏析の改善、鉄と鋼、2001年、Vol.87、No.2、p.77-84
乙第3号証(乙3):小島信司、他4名、連続鍛圧技術における中心偏析の改善、鉄と鋼、1992年、Vol.78、No.12、p.1794-1801
第7 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、令和 5年 2月 3日付けで通知した取消理由及び同年11月13日付け取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(実施可能要件)、申立理由2(実施可能要件)について
(1)特許権者の意見書における主張内容
特許権者は、令和 5年12月26日提出の意見書において、次の乙第4号証~乙第11号証をさらに提出し、当業者は、本件明細書の段落[0032]及び[0053]の記載に、乙第1号証~乙第11号証に記載されたような技術常識を参酌し、実施例に記載の測定法に基づきX≧30を満たす板厚範囲を考慮して、本件特許発明の構成C(「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり」)を満足する二相ステンレスクラッド鋼を実施することができる旨を主張している。
乙第4号証(乙4):村山順一郎、他3名、連続鋳造鋼片の中心偏析におよぼす合金元素の影響、鉄と鋼、1986年、Vol.72、No.15、p.2070-2077
乙第5号証(乙5):白岩俊男、他5名、連続鋳造材の中心偏析および鋼塊材の偏析と異常組織、鉄と鋼、1978年、Vol.64、No.3、p.411-419
乙第6号証(乙6):奥村裕彦、連続鋳造技術の動向と今後の展望、新日鉄技報、1994年、No.351、p.10-14
乙第7号証(乙7):特開昭62-179802号公報
乙第8号証(乙8):特開2017-080765号公報
乙第9号証(乙9):特開2003-094154号公報
乙第10号証(乙10):特開2006-007248号公報
乙第11号証(乙11):特開2008-093711号公報
(2)判断
ア 本願の出願前に公知となった乙4には、以下の記載がある。
(ア)「
[図:0001411245000001.jpg]
」(2070ページ右欄4~8行目)
(イ)「
[図:0001411245000002.jpg]
」(2071ページ 表1)
(ウ)「
[図:0001411245000003.jpg]
」(2071ページ左欄1~14行目)
(エ)「
[図:0001411245000004.jpg]
」(2076ページ右欄9~14行目)
(オ)「
[図:0001411245000005.jpg]
」(Fig.16)
イ 本願の出願前に公知となった乙5には、以下の記載がある。
(ア)
「
[図:0001411245000006.jpg]
」(411ページ右欄1~16行目)
(イ)「
[図:0001411245000007.jpg]
」(412ページ 表1)
(ウ)「
[図:0001411245000008.jpg]
」(417ページ左欄2~3行目)
(エ)「
[図:0001411245000009.jpg]
」(417ページ右欄2~7行目)
(オ)「
[図:0001411245000010.jpg]
」(Fig.4)
ウ 当審は、令和 5年11月13日付け取消理由通知(決定の予告)において、乙2にはP及びMnの偏析を低減する技術が記載されているものの、Moの偏析度がMnと同じとなる根拠や、Siの偏析については何ら説明がない旨を指摘した。
これに対し、特許権者は、乙4及び乙5を提出した。乙4からは、C、Si、Mn、P、Sを含む、砂型鋼塊に一方向圧延を施した圧延鋼板において、MnとMoの偏析率がほぼ一致することが理解できる。乙5からは、C、Si、Mn、P、Sを含む、連続鋳造鋼厚板及び鋼塊より製造した厚板において、Mn,Si,Cの順に偏析が小さくなっていること、MnとSiの偏析度がほぼ同等の範囲にあることが理解できる。
特許権者が提出したこれらの証拠に基づけば、本件特許発明における合わせ材と同様の、連続鋳造又は造塊法により作製したC、Si、Mn、P、Sを含む鋼板において、Mo及びSiの偏析はMnと同程度か、小さいものと理解するのが相当である。
エ 本願の出願前に公知となった乙8には、「鋼管用鋳片の連続鋳造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある(なお、下線は当審が付し、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(ア)「【0029】
以下、本知見について詳細に説明する。
A)金属間化合物への影響について
通常、連続鋳造鋳片の凝固組織はデンドライト形態を呈している。複雑な組織として知られる二相ステンレス鋼も、初晶であるフェライトが晶出してデンドライトに成長し、その後、包共晶反応によりオーステナイトが晶出し、フェライト及びオーステナイト二相で凝固を完了する。この際、凝固過程でデンドライト形態である柱状晶から分岐柱状晶、等軸晶となった場合でも、溶質が排出される組織の樹間部からオーステナイトが晶出する。また、室温までの冷却過程でも、フェライトがオーステナイトに変態し、形態が大きく変わることが知られている。
【0030】
このように、凝固組織は凝固過程における溶質元素の拡散に起因して形成され、溶質元素はその平衡分配係数に依存して、デンドライトや分岐柱状晶、柱状晶の樹間部において濃化する。二相ステンレス鋼に含有されるCrやMoの平衡分配係数は1.0より小さいことから樹間部において濃化し、ミクロ的には特にオーステナイト晶出後、最終凝固位置となる粒界に、マクロ的には図1に示すように、最終凝固部1となる中心部に凝固偏析が残存し、当該領域で脆化相の溶体化、析出温度が上昇することにより、金属間化合物(σ相、Χ相)がさらに析出しやすいという特徴を有している。なお、図1中の2は外周部に形成された柱状晶域、3は柱状晶域2と最終凝固部1間の分岐柱状晶域又は等軸晶域を示す。」
(イ)「
【図1】
[図:0001411245000011.jpg]
」
オ 乙8の記載事項に関連して、当審では、参考資料A(特開2018-171650号公報)、参考資料B(特開2016-087623号公報)、参考資料C(特開2013-022609号公報)を発見した。
(ア)本願の出願前に公知となった参考資料Aには、「鋼板の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
一般に、連続鋳造鋳片は、その凝固過程において、炭素や燐、硫黄、マンガンなどの溶質元素が、凝固時の再分配により未凝固の液相側に濃化し、これがデンドライト樹間にトラップされてミクロ偏析となることが知られている。即ち、連続鋳造鋳片は、凝固収縮や熱収縮、連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって、鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じたりするため、この部分に溶鋼が吸収されていくのが普通である。特に、凝固末期の連続鋳造鋳片は未凝固部分に十分な量の溶鋼が存在していないことから、上記ミクロ偏析によって濃縮された溶鋼がそこに流動し、連続鋳造鋳片の中心部に集積して凝固するようになる。このようにして形成される偏析スポットは、溶質元素の濃度が溶鋼の初期濃度に比べて格段に高濃度となっており、これを一般に、マクロ偏析と呼び、またその存在部位からこれを、中心偏析と呼んでいる。
・・・
【0004】
これに対処すべく、従来、連続鋳造工程において鋳片の中心偏析を低減するか、無害化する対策が多数提案されている。
【0005】
例えば、連続鋳造機内における未凝固層を有する凝固末期の鋳片を、鋳片支持ロールによって凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する圧下量で徐々に圧下しながら鋳造する方法が提案されている。(特許文献1、特許文献2)。これらの技術、即ち鋳片を凝固収縮量および熱収縮量の和に相当する圧下量で圧下するという、「軽圧下」あるいは「軽圧下法」と呼ばれているこの技術は、鋳造方向に並んだ複数対のロールを用いて、凝固収縮量および熱収縮量の和に見合う圧下量で鋳片を徐々に圧下し、未凝固層の体積を減少させることにより、鋳片中心部における空隙あるいは負圧部の形成を防止すると同時に、デンドライト樹間に形成される濃化溶鋼の流動を防止し、これによって鋳片の中心偏析を軽減する方法である。」
(イ)本願の出願前に公知となった参考資料Bには、「鋼の連続鋳造方法および連続鋳造鋳片」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
連続鋳造方法によってスラブやブルームなどの鋳片を鋳造する場合に、鋳片の中心部にリンやマンガン等の成分が偏析する、いわゆる中心偏析が発生することがある。中心偏析は、鋼材の靱性低下や水素誘起割れの原因となることがあるので、可能な限り抑制することが必要である。
【0003】
連続鋳造中の凝固末期において、溶鋼の凝固収縮に伴って未凝固溶鋼が最終凝固部の凝固完了点に向かって流動する。溶鋼流動に際して、固液界面の不純物濃化溶鋼が最終凝固部に集積する。これが中心偏析の原因となる。従って、中心偏析を軽減するためには、最終凝固部付近において、溶鋼の凝固収縮量に見合った分だけ凝固シェルを圧下することにより、最終凝固部付近の溶鋼流動を抑えることが有効となる。このような考え方に基づき、連続鋳造の二次冷却帯においてサポートロールによって鋳片を圧下する軽圧下技術が用いられている(例えば特許文献1)。」
(ウ)本願の出願前に公知となった参考資料Cには、「鋼の連続鋳造方法」(発明の名称)に関して、以下の記載がある。
「【0002】
一般的に、連続鋳造によって製造された鋳片には中心偏析が発生することが多く、その中心偏析の生成原因は、鋳片の凝固末期における鋳片バルジングや凝固収縮等による溶鋼流動であると考えられている。この溶鋼流動を直接防止し、中心偏析の生成を抑制するには、凝固末期における鋳片の軽圧下が効果的であることが知られている。
【0003】
特許文献1には、軽圧下によって鋳片の中心偏析を抑制する技術として、鋳片の厚さ方向中心部の固相率が0を超え、0.3以下の範囲の任意の位置で測定した凝固殻厚さの実測値と、その測定位置で溶鋼の初期濃度及び鋳造条件を用いて算出した凝固殻厚さの計算値とを比較し、それらの計算値と実測値との差に基づいて鋳片における炭素の中心偏析度をオンラインで評価し、その評価結果に基づいて、炭素の中心偏析度が0.98~1.10の範囲となるように、二次冷却速度および軽圧下ロールの絞り込み勾配のうちの1以上を調整する方法が開示されている。」
カ 当審は、令和 5年11月13日付け取消理由通知(決定の予告)において、そもそも本件特許発明においては、中心部分の元素の偏析度を低減するだけでなく、「下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」となるように、板厚全体にわたって「Si」と「Mo」両方の偏析をコントロールする必要があるところ、乙1~乙3において、そのような方法について言及された箇所は見いだせない点を指摘した。
キ これに対し、特許権者は、令和 5年12月26日提出の意見書の7ページ下3行目~8ページ11行目において、「X値が30以上を満たす板厚範囲とは、板厚中心部を含み、板厚方向に表面に向かって広がる溶質元素が濃化している領域のことをいう」ものであり、「ビーム径0.1mm(100μm)の平均濃度を測定していることから、その径以下のミクロ偏析は対象でな」いこと、及び、「「板厚全体にわたってSiとMo両方の偏析をコントロール」するわけではなく、板厚中央部、つまり、最終凝固部周辺の溶質濃化を軽減することで課題を解決するものである」と、主張している。
ク 特許権者が提出した乙8によれば、連続鋳造鋳片の中央に溶質が濃化した最終凝固部が残存することが理解できる。さらに、当審が発見した参考資料A~Cの記載を参酌すれば、濃化溶鋼によるMn等の偏析(マクロ偏析)を、軽圧下法により低減できることは本願の出願時点における技術常識であったと認められる。
ここで、上記ア~ウで検討したとおり、Mo及びSiの偏析度合いはMnと同程度か、小さいものと考えられるから、特許権者の意見者における主張や提出された証拠の内容を総合的に勘案すれば、軽圧下法により板厚中央におけるMo及びSiの濃化領域を低減できると解するのが相当である。
ケ そうすると、「連続鋳造時における軽圧下法や連続鍛圧法など」の鋳造技術を用いて、本件特許発明1の「下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」という条件を満たす合せ材の素材を製造することが、当業者であれば、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要することなく実施できることが理解できるものとなった。
コ したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正後の請求項1~3に係る発明について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、取消理由1(実施可能要件)、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(明確性要件)について
(1)明確であるとはいえないと指摘した本件訂正前の請求項1に記載された「合せ材の素材」について、本件訂正によって、「連続鋳造鋳片、造塊・分塊圧延後であって熱間圧延前のスラブ、または、薄スラブ連鋳のシートバーサイズの鋳片をいう」ものであるということが明確に把握できることとなった。
(2)また、明確であるとはいえないと指摘した本件訂正前の請求項1に記載された「(2)式」で用いられる「t」について、本件訂正によって、「合せ材の素材の板厚」を表すことが明らかになった。これによって、本件訂正後の請求項1に記載された(2)式において、合せ材の素材に係る「X値」が、合わせ材の素材の板厚に基づいて算出されることが明確に把握できることとなった。
(3)以上のとおり、本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、取消理由2(明確性要件)によって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1(明確性要件)について
(1)合せ材の素材の規定について
a X値は(2)式で明確に定義されており、例えば本件明細書の【0065】に記載されている方法に従えば、合せ材の素材に対する測定結果から、Si及びMoの含有量を算出し、X値を計算することは可能であるから、当業者であれば、本件訂正後の請求項1~2に係る発明を明確に把握することができるといえる。
b 申立人は、特許異議申立書において、「合せ材の「素材」の偏析状態と合せ材の偏析状態とは異なるのであって、最終製品である二相ステンレスクラッド鋼の合せ材から、圧延体となる前の合せ材の「素材」のX値を把握することは不可能である。」「したがって、当業者においても具体的な物(二相ステンレスクラッド鋼)が発明の技術的範囲に属するか否かを予見することができない。」と主張しているが、圧延後の最終製品の合せ材から、合せ材の素材のX値を把握することができるか否かと、本件訂正後の請求項1、2に係る発明が明確に把握できるか否かとは、別問題であって、直接関係するものではない。
c また、申立人は、特許異議申立書において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの可能性について主張しているが、本件訂正後の請求項1、2においては、合わせ材の素材のX値(偏析状態)を規定しているに過ぎず、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」には該当しないから、この主張は採用しない。
(2)X値の測定方法について
本件明細書の【0065】に記載されているように電子線マイクロアナライザーにおいて「ビーム径0.1mm、測定間隔0.1mmの条件」で測定するという測定方法が定まっていれば、Si及びMoの含有量を測定することができ、X値を算出することができる。
上記条件ではビーム径と測定間隔が同じであるため、測定対象の合せ材を隙間なく測定することができるのであり、それによれば、測定位置がフェライト(α)相及びオーステナイト(γ)相のいずれであるかにかかわらず、Si及びMoの含有量を算出することができ、それによりX値も計算することができるから、その結果、「X値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下」となるのであれば、本件特許発明の範囲のものであると理解することができる。
(3) 以上のとおり、本件訂正後の請求項1及びこれを直接又は間接的に引用する請求項2~3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、申立理由1(明確性要件)によって、本件訂正後の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由3(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0009】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「合せ材の板厚中心部まで耐食性に優れる二相ステンレスクラッド鋼およびその製造方法を提供すること」である。
(2)そして、本件明細書の【0015】、【0028】~【0034】によれば、製造される「二相ステンレスクラッド鋼」が、「前記合せ材の成分組成は(1)式で表されるPI値が36.0超え40.0以下の範囲にあり」、「該合せ材の素材は、下記(2)式で表されるX値が30以上を満たす板厚範囲が全厚の10%以下であり」、「前記合せ材は、下記(3)式で表されるXc値が40以下である」という事項を満たすことにより、上記課題を解決することができることが理解される。
(3)申立人は、特許異議申立書の7~9ページにおいて、Xc値が40に近接する実施例において、合せ部の化学組成や、圧下比を変更すれば、「Xc値が40以下」とならないことが予想されるから、訂正前の請求項3に係る発明の範囲まで一般化ないし拡張できないと主張する。
(4)しかし、請求項3及び請求項3が引用する請求項1において、「Xc値が40以下である」ことが特定されているので、Xc値が40を超える製法は請求の範囲から排除されると解釈できる。よって、申立人の主張はサポート要件の判断に影響するものではない。
(5)また、申立人は、実施例について、一部の製造条件を変更してXc値がどのようになるかを議論しているが、1つの条件を変更すれば、他の条件も連動して変更する必要がでてくることは当然想定され得ることである。よって、申立人の主張は採用できない。
(6)以上の検討によれば、本件訂正後の請求項3の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、申立理由3(サポート要件)によって、本件訂正後の請求項3に係る特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701011