特許異議申立
2022-700832
電極塗工液用分散剤、該電極塗工液用分散剤を含む電極塗工液組成物、該電極塗工液組成物を用いて作製された蓄電デバイス用電極、および該電極を備える蓄電デバイス
- 審判番号
- 2022-700832
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-131256
- 登録番号
- 7025852
- 請求日
- 2022年08月25日
- 審決日
- 2023年10月23日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】第一工業製薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人蔦田特許事務所
- 【異議申立人】家田 亘久
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 井上 信一
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.161-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7025852号発明「電極塗工液用分散剤、該電極塗工液用分散剤を含む電極塗工液組成物、該電極塗工液組成物を用いて作製された蓄電デバイス用電極、および該電極を備える蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7025852号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第7025852号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7025852号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成29年7月4日に出願され、令和4年2月16日にその特許権の設定登録がされ、同年2月25日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和4年 8月25日 特許異議申立人 家田 亘久による請求項1な
いし7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年11月24日付け 取消理由通知
令和5年 1月24日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和5年 3月10日 特許異議申立人による意見書の提出
令和5年 4月27日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和5年 6月26日 特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和5年 8月 4日 特許異議申立人による意見書の提出
なお、先にした令和5年1月24日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和5年6月26日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第7025852号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(b)アスペクト比が7.5以上250以下 (c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が70%以上95%以下」とあるのを、「(b)アスペクト比が7.5以上75以下 (c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88%以上95%以下」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~7も同様に訂正する)。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし7に対応する訂正後の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、「アスペクト比」について、上限値を「250」から「75」に訂正しその数値範囲を狭めるとともに、セルロースI型結晶の「結晶化度」について、下限値を「70%」から「88%」に訂正しその数値範囲を狭めるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、アスペクト比」についてその上限値を「75」とすることに関して、本件特許明細書の段落【0022】に「上記セルロース繊維はアスペクト比7.5以上250以下であり、より好ましくは25以上75以下である。」と記載され、また、セルロースI型結晶の「結晶化度」についてその下限値を「88%」とすることに関して、本件特許明細書の段落【0025】に「上記セルロース繊維は、セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が70%以上である。・・結晶化度は、より好ましくは80%以上でもよい。」と記載され、段落【0095】の【表1】には実施例用のセルロースA-1~A-6の結晶化度(I型)が88%、91%の例が記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、「アスペクト比」について、上限値を「250」から「75」に訂正しその数値範囲を狭めるとともに、セルロースI型結晶の「結晶化度」について、下限値を「70%」から「88%」に訂正しその数値範囲を狭めることによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては全ての請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
下記(a)ないし(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(a)短幅の方の数平均幅が2nm以上20nm以下
(b)アスペクト比が7.5以上75以下
(c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88%以上95%以下
【請求項2】
上記セルロース繊維が更に下記(d)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電極塗工液用分散剤。
(d)アニオン性官能基を有する
【請求項3】
上記セルロース繊維が更に下記(e)を満たすことを特徴とする請求項2に記載の電極塗工液用分散剤。
(e)アニオン性官能基がカルボキシル基であり、カルボキシル基の含有量が1.2mmol/g以上2.5mmol/g以下である
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電極塗工液用分散剤を含有することを特徴とする電極塗工液組成物。
【請求項5】
上記セルロース繊維の含有量が、電極塗工液組成物の固形分100質量%に対し0.05質量%以上5.00質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の電極塗工液組成物。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電極塗工液組成物の乾燥物を備えることを特徴する蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
請求項6に記載された蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする蓄電デバイス。」
2.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和5年4月27日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
記
引用例:特開2015-125920号公報(甲第1号証)
(2)引用例の記載事項
取消理由通知(決定の予告)において引用した上記引用例(特開2015-125920号公報、甲第1号証)には、「蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
短幅の方の数平均幅が2~1000nmであるセルロースを含有する蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤。
【請求項2】
前記セルロースがI型結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤。
【請求項3】
前記セルロースのアスペクト比50以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤。」
イ.「【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、電極活物質の分散安定性に優れ、かつ、分散工程中に攪拌せん断力による粘度低下を起こさず、かつ結着性及び耐電解液性に優れる蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、電極活物質の分散安定性に優れ、かつ、分散工程中に攪拌せん断力による粘度低下を起こさず、かつ結着性及び耐電解液性に優れる蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤を得るべく鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、所定の要件を満たすセルロースに着目した。そして当該セルロースを含有する蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤が所期の課題を解決することを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、短幅の方の数平均幅が2nm以上1000nm以下であるセルロースを含有する蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤を第一の要旨とする。
前記セルロースは結晶構造を有するセルロースであることが好ましい。更に前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。更に、セルロース表面の水酸基が化学修飾されていることが好ましい。
・・・・(中 略)・・・・
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤は、高い分散安定性が得られ、また、電極活物質が均一に分散されるため、得られる蓄電デバイスは電子伝導性が高く、それにともなって内部抵抗が低いこと、また、該塗工液で製造された電極が結着性及び耐電解液性に優れるため、電池性能が高くなる効果がある。」
ウ.「【0013】
本発明の蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤は所定のセルロースを含有する。
【0014】
前記セルロースは、短幅の方の数平均幅が2nm以上1000nm以下である。短幅の方の数平均幅は2nm以上500nm以下であることが好ましく、2nm以上200nm以下であることがより好ましい。短幅の方の数平均幅が2nm未満であれば、分散安定性が悪くなるという不具合が生じ、1000nmを超える場合はセルロースが沈降するという不具合が生じる。
・・・・(中 略)・・・・
【0016】
前記セルロースは、結晶構造を有することが好ましい。前記結晶構造としては、天然由来のセルロースに由来するI型結晶構造が好ましい。ここで、前記セルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14~17°付近と、2シータ=22~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0017】
前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」
エ.「【0074】
〔セルロースA3(実施例用)の製造〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。つぎに、上記セルロース繊維に純水を加えて1%に希釈し、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング製、H11)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、セルロースA3を製造した。
・・・・(中 略)・・・・
【0076】
〔セルロースA5(実施例用)の製造〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、上記パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A3の製造に準じて、セルロースA5を製造した。」
オ.「【0089】
【表1】
[図:0001405789000001.jpg]
」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・引用例に記載の「蓄電デバイスの電極塗工液用増粘・安定剤」は、上記「ア.」~「ウ.」の記載によれば、短幅の方の数平均幅が2~1000nmであり、アスペクト比50以上であり、I型結晶構造を有するセルロースを含有するものであり、電極活物質の分散安定性に優れ、電極活物質を均一に分散することが可能なものである。
・上記「エ.」の記載、及び「オ.」(表1)によれば、実施例用のセルロースA5は、針葉樹パルプを原料とし、いわゆるTEMPO酸化されてなるものであり、短幅の方の数平均幅が11nm、アスペクト比が242である。
以上のことから、特に「セルロースA5(実施例用)」に係るものに着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「針葉樹パルプを原料とし、TEMPO酸化したセルロースを含有する蓄電デバイスの電極塗工用増粘・安定剤であって、
前記セルロースの短幅の方の数平均幅が11nmであり、
前記セルロースのアスペクト比が242であり、
前記セルロースがI型結晶構造を有し、
電極活物質の分散安定性に優れ、電極活物質を均一に分散することが可能な蓄電デバイスの電極塗工用増粘・安定剤。」
(3)取消理由についての当審の判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
a.引用発明における針葉樹パルプを原料とし、TEMPO酸化した「セルロース」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.引用発明のセルロースにおける短幅の方の数平均幅は「11nm」であり、本件発明1の(a)で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲に含まれる。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、引用発明では242である点で相違する。
d.引用発明のセルロースはI型結晶構造を有するから、本件発明1と引用発明とは「(c)セルロースI型結晶」を有する点で共通する。
ただし、本件発明1は「結晶化度が88%以上95%以下」と特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
e.そして、引用発明における「蓄電デバイスの電極塗工用増粘・安定剤」は、電極活物質の分散安定性に優れ、電極活物質を均一に分散することが可能なものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と引用発明とは、
「下記(a)、(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(a)短幅の方の数平均幅が2nm以上20nm以下
(c)セルロースI型結晶を有する」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1-1]
セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、引用発明では242である点。
[相違点1-2]
セルロースI型結晶について、本件発明1では「結晶化度が88%以上95%以下」と特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点1-1)があるから、本件発明1は、引用例に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし7は、引用例に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできかない。
3.取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1-1)理由1(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-2)理由2(新規性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-3)理由3(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、又は、下記の甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-4)理由4(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、又は、下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-5)理由5(新規性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-6)理由6(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、又は、下記の甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-7)理由7(新規性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-8)理由8(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、又は、下記の甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(1-9)理由9(新規性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(1-10)理由10(進歩性)
請求項1ないし7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第6号証に記載された発明に基いて、又は、下記の甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2015-125920号公報
甲第2号証:HUIRAN LU,「Wood-based Materials for Lithium-ion Batteries」,KTH Royal Institute of Technology,2017.5.22,p.1-48
甲第3号証:第一工業製薬株式会社,平成28年度セルロースナノファイバー活用製品の性能評価事業委託業務(セルロースナノファイバーを適用したアイドリングストップ車用リチウムイオン電池の実用化に向けた課題抽出)成果報告書,2017年3月31日
甲第4号証:特開2014-86285号公報
甲第5号証:特開2016-58246号公報
甲第6号証:特開2014-199742号公報
(1-11)理由11(拡大先願)
請求項1、2、4ないし7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付しされた明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1、2、4ないし7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
記
先願:特願2016-99778号(特開2017-208231号公報参照)(甲第10号証)
(2)甲各号証の記載事項
(2-1)甲第1号証
上記甲第1号証の記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりであり、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記引用発明と同じである。
(2-2)甲第2号証
上記甲第2号証には、以下の各記載がある(なお、日本語訳を付記する。下線は当審で付与した。)。
ア.「In order to meet the demands of flexible and bendable electronic devices, cellulose nanofibrils (CNF) as binder materials have been successfully fabricated for flexible batteries by a water-based paper making process.・・・ The flexible electrodes obtained good mechanical and electrochemical properties.」(V頁16~21行)
(柔軟で曲げ可能な電子デバイスの要望を満たすため、水系の抄紙プロセスによってセルロースナノフィブリル(CNF)がバインダー材料としてフレキシブルバッテリーにうまく組み入れられた。・・・フレキシブル電極は、良好な機械的および電気化学的特性を得た。)
イ.「CNF consisting of about 3-4 nm wide and micrometer long cellulose fibrils is a promising binder material for flexible electrodes made by a water-based paper making process.」(7頁9行~8頁1行)
(幅約3~4nm、μmの長さのセルロースフィブリルからなるCNFは、水系の抄紙プロセスによって作成されるフレキシブル電極用の有望なバインダー材料である。)
ウ.「3.1.2.1 TEMPO-oxidation of cellulose
The cellulose source was never-dried dissolving pulp (60 % Norweigian spruce and 40 % Scots pine),・・・TEMPO-oxidized cellulose was synthesized following the procedure reported elsewhere under either alkaline conditions or weakly acidic or neutral conditions[64,65,68].」(11頁4~9行)
(3.1.2.1 セルロースのTEMPO酸化
セルロース原料は、未乾燥の溶解パルプ(60%ノルウェートウヒと40%スコットパイン)であり、・・・TEMPO酸化セルロースをアルカリ条件下、弱酸性または中世条件下において、いずれかの報告の手順に従って合成した[64,65,68]。)
エ.「Figure 4.7d-f shows the surface SEM images of the 85-11-4 LFP, 85-11-4 LTO and 90-2-8 graphite flexible electrodes, respectively. It can clearly be seen that the active particles (LEP, LTO and graphite) are relatively uniformly dispersed with conductive materials (SPC) bound by well-dispersed CNF. (Paper II-III) The CNF acts as a binder material with a visible network. Cross-section SEM images of the LFP and LTO electrodes were also investigated, seen in Figure 4.7g and Figure 4.7h, The LFP or LTO, SPC and CNF are homogeneously dispersed also within the electrode bulk. It demonstrates that the electrodes materials are overall uniformly distributed.」(21頁18行~22頁1行)
(図4.7d-fは、85-11-4LFP、85-11-4LTO及び90-2-8グラファイトフレキシブル電極それぞれの表面SEM画像を示す。活性粒子(LFP、LTO、グラファイト)が良好に分散したCNFによって固定化された導電性材料(SPC)とともに比較的均一に分散していることが明確にわかる(論文II-III)。CNFは、視認できるネットワークとともにバインダー材料として働く。図4.7g及び図4.7hに示すように、LFP及びLTO電極の断面SEM画像も調査した。LFPまたはLTO、SPC及びCNFは、電極内でも均一に分散していた。このことは、電極材料が全体的に均一に分布していることを証明している。)
オ.「Figure 4.14a shows SEM images of an LFP electrode with an integrated CF current collector. The LFP and SPC nanoparticles are homogenously dispersed by the CNF net web. ・・・It can clearly be seen that the LTO and SPC nanoparticles for the LTO-CF electrode are also uniformly dispersed by the CNF net web, as shown in Figure 4.14b.」(31頁8~13行)
(図4.14aは、統合されたCF集電体を備えるLFP電極のSEM画像を示す。LFP及びSPCナノ粒子はCNFの網目構造により均一に分散される。・・・図4.14bに示すように、LTO-CF電極に用いられるLTO及びSPCナノ粒子もCNFの網目構造によって均一に分散されていることをはっきり見ることができる。)
カ.「Cellulose nanofibrils (CNF) was used as a binder material in a water-based paper making method to produce different active material-based flexible electrodes, including LFP, graphite and LTO-based electrodes. The average width and length of the CNF are about 2.7 nm and 0.1-1 μm, respectively. Only 4 wt% well-dispersed CNF acting as a binder is enough to homogenously bind the particles together with a visible network and results in an electrode with good mechanical properties with Young’s modulus of 250-320 MPa.」(37頁29行~38頁3行)
(セルロースナノフィブリル(CNF)を水系の抄紙プロセスにおけるバインダー材料としてLFP、グラファイト、LTO系電極等の異なる活物質系フレキシブル電極を製造した。CNFの平均繊維幅及び繊維長は、それぞれ約2.7nm、0.1~1μmである。バインダーとして機能する4wt%の十分に分散したCNFは、視認できるネットワークにおいて粒子を均一に結合するのに十分であり、ヤング率が250~320MPaの良好な機械的特性をもつ電極が得られる。)
上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記「ア.」の記載によれば、フレキシブルバッテリーのフレキシブル電極用のバインダー材料としてセルロースナノフィブリル(CNF)を用いるようにしたものである。
・上記「イ.」の記載によれば、セルロースナノフィブリル(CNF)は、幅約3~4nm、μmの長さであり、上記「カ.」の記載によれば、具体的には、平均繊維幅が約2.7nm、平均繊維長が0.1~1μmである。
・上記「ウ.」の記載によれば、セルロース原料は、未乾燥の溶解パルプ(60%ノルウェートウヒと40%スコットパイン)であり、TEMPO酸化してなるものである。
・上記「エ.」、「オ.」の記載によれば、セルロースナノフィブリル(CNF)の網目構造により活性粒子及び導電性材料は均一に分散される。
以上のことから、上記記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「未乾燥の溶解パルプ(60%ノルウェートウヒと40%スコットパイン)を原料とし、TEMPO酸化したセルロースナノフィブリル(CNF)からなるフレキシブルバッテリーのフレキシブル電極用バインダー材料であって、
前記セルロースナノフィブリル(CNF)の平均繊維幅が約2.7nmであり、
前記セルロースナノフィブリル(CNF)の平均繊維長が0.1~1μmであり、
活性粒子、導電性材料を均一に分散させることができるフレキシブルバッテリーのフレキシブル電極用バインダー材料。」
(2-3)甲第3号証
上記甲第3号証には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「第一工業製薬株式会社は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーが有する特異な増粘特性、チクソトロピー性、分散性を生かし、高付加価値分野で様々な製品開発を行っている。これまでにリチウムイオン電池(以下、LIB)の電極製造にセルロースナノファイバー(以下、CNF)を応用することで、正極塗工液を水系化することを可能にするとともに、充放電に伴う電池劣化の大幅な改善を見出している。」(2頁2~7行)
イ.「2-2.CNF複合材料の基礎物性評価
本事業で使用するCNFは第一工業製薬(以下DKSと略す)が製造・販売しているTEMPO酸化セルロースナノファイバー(以下CNFあるいはTOCNと示す)であり、パルプをTEMPOにより化学的に酸化された後、ナノサイズに解繊したものである。
図2に使用したCNFの構造模式図を示す。繊維径が3-4nmのセルロースミクロフィブリル表面に規則的にカルボン酸基が並んだ構造をしており、そのため特異的な分散機能、粘度調整機能を示すことが特徴である。このCNFの機能を活用し、これまでにCMC(カルボキシメチルセルロース)および水系樹脂バインダーと組み合わせる事で、良好な水系正極の作製に成功している。本項ではこれらバインダー複合時の基礎を確認し、最適な配合比率についての知見を得る事を目的に各種評価を実施した。」(14頁14~25行)
ウ.「2-4.CNF水系正極の塗料および電極の物性評価
前項での評価結果を参考に、活物質としてLFP、導電剤としてアセチレンブラック、および導電性炭素繊維(カーボンファイバー)、分散剤としてCMCおよびCMC/CNF、バインダーとして当社水系ウレタンバインダー(A)、もしくは水系アクリルバインダー(X社品)を用いて各種手法で塗料を作製した。塗料および塗料により作製した電極の物性を評価し、CNF添加による塗料分散性向上、電極物性向上効果を確認した。
2-4-1.塗料の分散・安定性評価
<目的・手法>
電極塗料は一般的に分散安定性が悪く、作製後1~2日以内程度しか使用できない。今回使用している活物質のリン酸鉄リチウム(LFP)も、比重が高いため沈降しやすいことで知られている。本検討ではCNFの添加による電極材料の相分離抑制効果を期待して、作製後の塗料上澄み固形分濃度の経時変化を策定することで塗料安定性を評価した。作製した塗料の組成を表6に示す。
[図:0001405789000002.jpg]
」(23頁8行~24頁)
エ.「2)低粘度CNFを用いたホモディスパー分散塗料の評価
<目的・手法>
通常品CNFを用いたディスパー作製塗料では、他手法と比較してTI値6.6と高くなる傾向が見られた。ロールコーターでの量産塗工においては、TI値は2~5の間が望ましい。CNFは繊維長(アスペクト比)が大きいほど、チクソ付与機能が強いと言われている。従って本検討では、アスペクト比の小さい低分子量の低粘度CNFを用いることでTI値が低減できるか評価を行った。なお、低粘度CNFの分散機能に関しては、2-3項の導電剤分散試験にて通常品と同等以上である事を確認している。
<結果・考察>
低粘度CNFを用いた各塗料粘度を表16に示す。低粘度CNFを用いる事で正極水系塗料のTI値は6.6→4.2へと低減することができた。」(38頁12~23行)
オ.「(2)CNFによる分散促進効果
・分散剤としてCMCにCNFを少量添加することで、導電助剤の分散時間を半減できることを見出した。さらに、分散安定性も向上する事を確認した。
(3)塗料・電極基礎物性評価
・CMCにCNFを併用する事で、汎用的なホモディスパーのみで水系LFP正極塗料が作製できる事を見出した、さらに、低粘度CNFの使用により塗料TI値を低減することができた。
・当社水系ウレタンバインダー(A)+CMCの系にCNFを添加する事で、電極結着性が向上することを確認した。電極中のバインダー偏在がCNFにより抑制されていると考えられる。」(49頁8~18行、なお、「(2)」、「(3)」は、それぞれ2、3を〇で囲った記号の代用である。)
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・上記「ア.」の記載によれば、水系の正極塗工液に、特異な増粘特性、分散性等を有するTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)を用いてなるものである。
・上記「イ.」、「ウ.」、「オ.」の記載によれば、水系正極塗料(水系の正極塗工液)は、活物質、導電剤、水系ウレタンバインダーとともに、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)を少量添加するようにしたものである。特に「ウ.」の表6によれば、分散剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)0.9に対してTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)0.1の比率である。また、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)として「レオクリスタI-2SP」が用いられてなるものである。
以上のことから、上記記載を総合勘案すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「活物質、導電剤、水系ウレタンバインダーとともに水系正極塗料に含まれる分散剤であって、
カルボキシメチルセルロース(CMC)0.9に対してTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)(レオクリスタI-2SP)を0.1の比率で添加してなる分散剤。」
(2-4)甲第4号証
上記甲第4号証には、「電池電極用組成物」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
少なくとも、活物質と、カルボキシル基を有する繊維状多糖類と、分散媒とを含むことを特徴とする電池電極用組成物。
【請求項2】
前記カルボキシル基を有する繊維状多糖類がセルロース繊維であることを特徴とする請求項1に記載の電池電極用組成物。
【請求項3】
前記セルロース繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下であり、前記セルロース繊維の長さが0.5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電池電極用組成物。」
イ.「【0016】
本発明によれば、電池用電極の組成設計の自由度が向上し、生産性に優れ、かつ、良好なサイクル特性に加え、出力特性に優れた電池用電極を製造することができる。組成設計に関しては、本発明によると分散液中に存在する繊維状多糖類は分子量が維持された状態で分散されているため、分子鎖同士の絡み合いが生じる。これにより増粘効果が得られる。低濃度においても増粘傾向が強いため、塗工性向上のためのCMC等の増粘剤を添加する必要がない。生産性に関しては、本発明によると分散液中に存在する繊維状多糖類が本来有する水酸基、及び化学的処理により付与したカルボキシル基と、個々の活物質の表面に存在するカルボキシル基や水酸基が相互作用し、さらに繊維状多糖類のカルボキシル基が部分的に電離していることにより互いに静電反発しているため、活物質が分散しやすくまた分散状態での安定性が良い。分散性に優れているために分散媒の低減が可能であることから乾燥に要する時間が短縮されることによる。・・・・(以下、略)」
ウ.「【0021】
さらに、その繊維幅は2nm以上50nm以下であり、長さが0.5μm以上50μm以下であることを特徴とする。この範囲であれば、活物質と相互作用できる部位が多数存在するため分散性が良くなり、また活物質同士の導電ネットワークが形成されるため電気化学的安定性が良好となる。さらに、セルロース繊維同士の絡み合い構造によって電解液に対しての膨潤耐性に優れ、活物質が捕捉されるために脱落しにくくなり、電池としての良好なサイクル特性を得ることができる。一方、繊維幅が50nmを超えるとセルロース繊維の全体積に占める表面積の割合が相対的に小さくなり、活物質と相互作用できる部位が減るため、活物質を効率的に分散させることが出来なくなる。また、長さが0.5μm未満だとセルロース繊維同士の絡み合いが十分に行えず、膜の強度低下の原因になってしまうため好ましくない。さらに、長さが50μmを超えるとセルロース繊維同士の絡み合いが大きくなるために繊維は分散しにくく、沈殿を形成しやすくなるため分散安定性が低下する。繊維の幅や長さは、水などの溶媒に固形分濃度0.001%程度に希釈した繊維をガラス等平滑な基板上に展開し、乾燥させたものをAFMやTEMなどを用いて測定することができる。」
エ.「【0022】
また、セルロース繊維のカルボキシル基量はセルロース重量に対して、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが望ましい。この範囲のカルボキシル基量を有するセルロース繊維は分散処理を施した際の分散性が良好であり、活物質の有する官能基との相互作用が十分であるため、良好な分散性が得られる。
・・・・(中 略)・・・・
【0024】
セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、現在いくつか化学処理の方法が報告されている。例えばカルボキシメチルセルロース等、分子分散した水溶性多糖類を用いると活物質の表面に水溶性多糖類が覆い被さり、電極の内部抵抗が高くなることにより、結果的に電池特性低下を招く恐れがある。そこで、本発明のように繊維状であり分散性が良好で、且つ活物質が効率的にセルロースのカルボキシル基と相互作用できる構造を有するためには、剛直な骨格を保持した高結晶性のセルロースにカルボキシル基を導入し、且つカルボキシル基が繊維表面に緻密で規則的に存在することが望ましい。
【0025】
具体的には、次の方法が望ましい。2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を触媒として使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理する。この方法によると、TEMPOの立体障害により結晶性を有する繊維最小単位であるミクロフィブリルの表面に存在するセルロースC6位の一級水酸基のみが選択的にカルボキシル基へと酸化される。導入されたカルボキシル基の静電反発によってミクロフィブリルの結合が弱まるために低エネルギー投入による機械的処理によって、高分散した高結晶性を有する繊維状セルロースが得られる。さらに、本方法を利用すると、得られたセルロース繊維の分子量低下が抑えられるため、高い力学強度が保持されることから優れたサイクル特性が得られる。」
オ.「【0042】
<実施例1>
〔TEMPO酸化セルロースの製造方法〕以下に示す方法でTEMPO酸化セルロースを得た。
(1)試薬・材料
セルロース:漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ社製、Machenzie)。
TEMPO:市販品(東京化成工業株式会社製、98%)。
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(和光純薬株式会社製、Cl:5%)。
臭化ナトリウム:市販品(和光純薬株式会社製)。
(2)セルロースのTEMPO酸化反応
2Lのガラスビーカー中に、乾燥質量10gの漂白クラフトパルプとイオン交換水500mlとを投入して一晩静置し、パルプを膨潤させた。これを温調付きウォーターバスにより30.0℃に温度調整し、TEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して撹拌し、パルプ懸濁液とした。さらに撹拌しながら、セルロース質量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Mの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。その後、2時間反応を行い、イオン交換水でパルプを充分に水洗して、TEMPO酸化セルロースを得た。
(3)TEMPO酸化セルロースの分散処理
得られたTEMPO酸化セルロースをイオン交換水中で所定濃度となるように調整し、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて30分間撹拌し、微細化することにより透明なTEMPO酸化セルロース水分散体(固形分濃度2質量%)を得た。」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・甲第4号証に記載の「電池電極用組成物」は、上記「ア.」~「ウ.」の記載によれば、少なくとも活物質と、カルボキシル基を有するセルロース繊維(繊維状多糖類)と、分散媒とを含むものであり、セルロース繊維の繊維幅が2nm以上50nm以下、長さが0.5μm以上50μm以下である
。
・上記「イ.」~「エ.」の記載によれば、カルボキシル基を有するセルロース繊維(繊維状多糖類)を含むことにより、活物質の良好な分散性が得られるものである。
・上記「エ.」の記載によれば、セルロースにカルボキシル基を導入するために、セルロースをいわゆるTEMPO酸化処理し、機械的処理することによって高分散した高結晶性を有する繊維状セルロースが得られてなるものである。上記「オ.」の記載によれば、実施例1では、漂白クラフトパルプを材料とし、TEMPO酸化セルロースを得てなるものである。
以上のことから、電池電極用組成物に含まれるカルボキシル基を有するセルロース繊維、特に実施例1において製造されるTEMPO酸化してなるセルロース繊維に着目してこれを発明として捉え、上記記載を総合勘案すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「活物質や分散媒とともに電池電極用組成物に含まれる、カルボキシル基を有するセルロース繊維であって、
前記セルロース繊維の幅が2nm以上50nm以下であり、
前記セルロース繊維の長さが0.5μm以上50μm以下であり、
前記セルロース繊維は漂白クラフトパルプを材料としTEMPO酸化したものであり、高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られるセルロース繊維。」
(2-5)甲第5号証
上記甲第5号証には、「電池電極用組成物」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
カーボン系活物質、導電助材、バインダー、及び増粘材を含む電池電極用組成物であって、上記増粘材がアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーであることを特徴とする電池電極用組成物。
【請求項2】
上記セルロースシングルナノファイバーは、その繊維幅は2nm以上50nm以下であり、長さが0.5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載した電池電極用組成物。」
イ.「【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
リチウムイオン電池の電極は、概略的には、金属箔などからなる集電体の上に、電極膜となる塗膜(以下、電極塗膜ともいう)が形成された構成となっている。電極塗膜(電池電極用組成物)は、カーボン系活物質、導電助材、バインダー、および増粘材を含む。
リチウムイオン電池の負極電極において、一般的な電極塗膜は、活物質としてカーボン系材料、導電助材としてカーボンブラック、バインダーとしてSBR、増粘材としてCMCを使用する組み合わせからなる。これに対し本実施形態では、増粘材として、CMCの代わりにアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーを使用する。
【0014】
セルロースシングルナノファイバーとは、完全に1本1本に分離したセルロース誘導体からなるナノファイバーであり、セルロースをTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical)触媒酸化することにより得ることができるものである。 本明細書では、セルロースシングルナノファイバーを、カルボキシル基を有する繊維状多糖類であり、TEMPO酸化セルロースのナノ分散体と定義する。本実施形態におけるセルロースシングルナノファイバーをより具体的に定義するために、以下に製造例を示しながら詳細に説明する。
【0015】
繊維状多糖類としては、セルロース繊維、キチン、キトサンなどが挙げられ、特に構造配列が規則的であり剛直な骨格を有するセルロース繊維が好ましい。セルロース繊維の原料となるセルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
さらに、本実施形態におけるセルロースシングルナノファイバーは、その繊維幅は2nm以上50nm以下であり、長さが0.5μm以上50μm以下である。この範囲であれば、活物質と相互作用できる部位が多数存在するため分散性が良くなり、また活物質同士の導電ネットワークが形成されるため電気化学的安定性が良好となる。さらに、セルロース繊維同士の絡み合い構造によって電解液に対しての膨潤耐性に優れ、活物質が捕捉されるために脱落しにくくなり、電池としての良好なサイクル特性を得ることができる。【0016】
一方、繊維幅が50nmを超えるとセルロース繊維の全体積に占める表面積の割合が相対的に小さくなり、活物質と相互作用できる部位が減るため、活物質を効率的に分散させることが出来なくなる。また、長さが0.5μm未満だとセルロース繊維同士の絡み合いが十分に行えず、膜の強度低下の原因になってしまうため好ましくない。さらに、長さが50μmを超えるとセルロース繊維同士の絡み合いが大きくなるために繊維は分散しにくく、沈殿を形成しやすくなるため分散安定性が低下する。・・・・(以下、略。)」
ウ.「【0017】
また、セルロース繊維のカルボキシル基量はセルロース質量に対して、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが望ましい。この範囲のカルボキシル基量を有するセルロース繊維は分散処理を施した際の分散性が良好であり、活物質の有する官能基との相互作用が十分であるため、良好な分散性が得られる。
・・・・(中 略)・・・・
【0019】
セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、現在いくつか化学処理の方法が報告されている。例えばカルボキシメチルセルロース等、分子分散した水溶性多糖類を用いると活物質の表面に水溶性多糖類が覆い被さり、電極の内部抵抗が高くなることにより、結果的に電池特性低下を招く恐れがある。そこで、本発明のように繊維状であり分散性が良好で、且つ活物質が効率的にセルロースのカルボキシル基と相互作用できる構造を有するためには、剛直な骨格を保持した高結晶性のセルロースにカルボキシル基を導入し、且つカルボキシル基が繊維表面に緻密で規則的に存在することが望ましい。
【0020】
具体的には、次の方法が望ましい。すなわち、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を触媒として使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理する。この方法によると、TEMPOの立体障害により結晶性を有する繊維最小単位であるミクロフィブリルの表面に存在するセルロースC6位の一級水酸基のみが選択的にカルボキシル基へと酸化される。導入されたカルボキシル基の静電反発によってミクロフィブリルの結合が弱まるために低エネルギー投入による機械的処理によって、高分散した高結晶性を有する繊維状セルロースが得られる。さらに、本方法を利用すると、得られたセルロース繊維の分子量低下が抑えられるため、高い力学強度が保持されることから優れたサイクル特性が得られる。」
上記「ア.」ないし「ウ.」から以下のことがいえる。
・甲第5号証に記載の「電池電極用組成物」は、上記「ア.」、「イ.」の記載によれば、カーボン系活物質、導電助材、バインダー、及び増粘材を含み、増粘材がアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーからなるものであり、セルロースシングルナノファイバーの繊維幅が2nm以上50nm以下、長さが0.5μm以上50μm以下である。
・上記「イ.」の段落【0014】。「ウ.」の記載によれば、セルロースシングルナノファイバーは、カルボキシル基を有する繊維状多糖類であり、TEMPO酸化セルロースのナノ分散体と定義され、セルロースにカルボキシル基を導入するために、セルロースをTEMPO酸化処理し、機械的処理することによって得られるものであり、高分散した高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られるものである。
以上のことから、電池電極用組成物に含まれるアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーからなる増粘材に着目してこれを発明として捉え、上記記載を総合勘案すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「カーボン系活物質、導電助材、バインダーとともに電池電極用組成物に含まれる、アンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーからなる増粘材であって、
前記セルロースシングルナノファイバーの繊維幅が2nm以上50nm以下であり、
前記セルロースシングルナノファイバーの長さが0.5μm以上50μm以下であり、
前記セルロースシングルナノファイバーはセルロースをTEMPO酸化し、機械的処理することにより得られるものであり、高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られる増粘材。」
(2-6)甲第6号証
上記甲第6号証には、「電池電極用組成物」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
カーボン系活物質、導電助材、バインダ、及び増粘材を含む電池電極用組成物であって、
前記増粘材としてセルロースシングルナノファイバを用いることを特徴とする電池電極用組成物。」
イ.「【0015】
リチウムイオン電池の負極電極において、活物質としてカーボン系材料、導電助材としてカーボンブラック、バインダとしてSBR、増粘材としてCMCを使用する組み合わせは、ごく一般的なものである。本発明では、増粘材としてCMCではなくセルロースシングルナノファイバを使用している。 セルロースシングルナノファイバとは、完全に1本1本に分離したセルロース誘導体からなるナノファイバであり、セルロースをTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical)触媒酸化することにより得ることができるものである。
【0016】
本明細書では、セルロースシングルナノファイバを、カルボキシル基を有する繊維状多糖類であり、TEMPO酸化セルロースのナノ分散体と定義する。
本発明におけるセルロースシングルナノファイバをより具体的に定義するために、以下に製造例を示しながら詳細に説明する。
繊維状多糖類としては、セルロース繊維、キチン、キトサンなどが挙げられ、特に構造配列が規則的であり剛直な骨格を有するセルロース繊維が好ましい。セルロース繊維の原料となるセルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0017】
さらに、本発明におけるセルロースシングルナノファイバは、その繊維幅は2nm以上50nm以下であり、長さが0.5μm以上50μm以下である。
この範囲であれば、活物質と相互作用できる部位が多数存在するため分散性が良くなり、また活物質同士の導電ネットワークが形成されるため電気化学的安定性が良好となる。さらに、セルロース繊維同士の絡み合い構造によって電解液に対しての膨潤耐性に優れ、活物質が捕捉されるために脱落しにくくなり、電池としての良好なサイクル特性を得ることができる。
【0018】
一方、繊維幅が50nmを超えるとセルロース繊維の全体積に占める表面積の割合が相対的に小さくなり、活物質と相互作用できる部位が減るため、活物質を効率的に分散させることが出来なくなる。
また、長さが0.5μm未満だとセルロース繊維同士の絡み合いが十分に行えず、膜の強度低下の原因になってしまうため好ましくない。さらに、長さが50μmを超えるとセルロース繊維同士の絡み合いが大きくなるために繊維は分散しにくく、沈殿を形成しやすくなるため分散安定性が低下する。」
ウ.「【0020】
また、セルロース繊維のカルボキシル基量はセルロース重量に対して、0.5mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが望ましい。この範囲のカルボキシル基量を有するセルロース繊維は分散処理を施した際の分散性が良好であり、活物質の有する官能基との相互作用が十分であるため、良好な分散性が得られる。
・・・・(中 略)・・・・
【0022】
セルロースにカルボキシル基を導入する方法としては、現在いくつか化学処理の方法が報告されている。例えばカルボキシメチルセルロース等、分子分散した水溶性多糖類を用いると活物質の表面に水溶性多糖類が覆い被さり、電極の内部抵抗が高くなることにより、結果的に電池特性低下を招く恐れがある。そこで、本発明のように繊維状であり分散性が良好で、且つ活物質が効率的にセルロースのカルボキシル基と相互作用できる構造を有するためには、剛直な骨格を保持した高結晶性のセルロースにカルボキシル基を導入し、且つカルボキシル基が繊維表面に緻密で規則的に存在することが望ましい。
【0023】
具体的には、次の方法が望ましい。
すなわち、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペジニルオキシラジカル(TEMPO)を触媒として使用し、pHを調整しながら次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を用いて処理する。この方法によると、TEMPOの立体障害により結晶性を有する繊維最小単位であるミクロフィブリルの表面に存在するセルロースC6位の一級水酸基のみが選択的にカルボキシル基へと酸化される。導入されたカルボキシル基の静電反発によってミクロフィブリルの結合が弱まるために低エネルギー投入による機械的処理によって、高分散した高結晶性を有する繊維状セルロースが得られる。さらに、本方法を利用すると、得られたセルロース繊維の分子量低下が抑えられるため、高い力学強度が保持されることから優れたサイクル特性が得られる。」
上記「ア.」ないし「ウ.」から以下のことがいえる。
・甲第6号証に記載の「電池電極用組成物」は、上記「ア.」の記載によれば、カーボン系活物質、導電助材、バインダー、及び増粘材を含み、増粘材としてセルロースシングルナノファイバを用いてなるものである。
・上記「イ.」、「ウ.」の記載によれば、セルロースシングルナノファイバは、カルボキシル基を有する繊維状多糖類であり、TEMPO酸化セルロースのナノ分散体と定義され、定義され、セルロースにカルボキシル基を導入するために、セルロースをTEMPO酸化処理し、機械的処理することによって得られるものであり、高分散した高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られるものである。
・上記「イ.」の段落【0017】の記載によれば、セルロースシングルナノファイバの繊維幅は2nm以上50nm以下、長さが0.5μm以上50μm以下である。
・上記「ウ.」の記載によれば、セルロースにカルボキシル基を導入するために、セルロースをTEMPO酸化処理し、機械的処理することによって得られるものであり、高分散した高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られるものである。
以上のことから、電池電極用組成物に含まれるアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーからなる増粘材に着目してこれを発明として捉え、上記記載を総合勘案すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。
「カーボン系活物質、導電助材、バインダーとともに電池電極用組成物に含まれる、セルロースシングルナノファイバからなる増粘材であって、
前記セルロースシングルナノファイバの繊維幅が2nm以上50nm以下であり、
前記セルロースシングルナノファイバの長さが0.5μm以上50μm以下であり、
前記セルロースシングルナノファイバはセルロースをTEMPO酸化し、機械的処理することにより得られるものであり、高結晶性を有し、活物質の良好な分散性が得られる増粘材。」 ・
(2-7)甲第10号証
上記甲第10号証に係る先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「電池電極用組成物用増粘剤」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)
。
ア.「【請求項7】
繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを含む電池電極用組成物用増粘剤。」
イ.「【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを電池電極用組成物の増粘剤として用いることにより、電池電極用組成物における微粒子分散性が高まることを見出した。さらに本発明者らは、このような電池電極用組成物を用いて、電池電極を作製した場合、電極塗膜における活物質密度のばらつきが少なくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。」
ウ.「【0014】
本発明の電池電極用組成物は、繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを含むものであるため、電池電極用組成物における微粒子分散性を効果的に高めることができる。本発明の電池電極用組成物においては、電池電極用組成物を強撹拌した後であってもその粘度低下が生じ難く、微粒子分散性が維持されており、かつ塗工適性にも優れている。また、本発明の電池電極用組成物を用いて電池電極を作製した場合は、電池電極における電極塗膜において活物質密度のばらつきが少なく、これにより電池電極の電気抵抗のばらつきを抑えることができる。その結果電池電極全体の電気抵抗値を低くすることも可能となる。さらに本発明の電池電極用組成物は塗工適性(塗工のしやすさ)に優れており、塗工後に形成された電極塗膜は集電体との密着性に優れている。」
エ.「【0032】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。」
オ.「【0036】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0037】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0038】
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合(結晶化度)は、本発明においては特に限定されないが、たとえば30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・上記先願明細書に記載の「電池電極用組成物用増粘剤」は、上記「ア.」~「ウ.」の記載によれば、繊維幅が1000nm以下であり、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する繊維状セルロースを含むものであり、かかる増粘剤を用いることにより、電池電極用組成物における微粒子分散性を高めることができるものである。
・上記「エ.」の記載によれば、微細繊維状セルロースの繊維幅はより好ましくは2nm以上10nm以下である。
・上記「オ.」の段落【0036】の記載によれば、微細繊維状セルロースの繊維長は特に好ましくは0.1μm以上600μm以下である。
・上記「オ.」の段落【0037】~【0038】の記載によれば、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有し、I型結晶構造の割合(結晶化度)がより好ましくは70%以上である。
上記記載を総合勘案すると、甲第10号証に係る先願には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する微細繊維状セルロースを含む電池電極用組成物用増粘剤であって、
前記微細繊維状セルロースの繊維幅はより好ましくは2nm以上10nm以下であり、
前記微細繊維状セルロースの繊維長は特に好ましくは0.1μm以上600μm以下であり、
前記微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有し、I型結晶構造の割合(結晶化度)がより好ましくは70%以上であり、
電池電極用組成物における微粒子分散性を高めることができる電池電極用組成物用増粘剤。」
(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)理由1(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、上記「2.(3)ア.(ア)」に記載したとおり、上記相違点1-1及び相違点1-2において相違し、その余の点で一致する。
(イ)判断
そこで、まず上記相違点1-1について検討する。
甲第1号証の段落【0017】には「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。」と記載されており、アスペクト比が50~75の範囲において本件発明1で特定する範囲と重複する。しかしながら、段落【0017】にはさらに「より好ましくは100以上である。」と記載されており、甲1発明におけるセルロースのアスペクト比は242であるから、より好ましいとされる範囲に含まれるものである。それにもかかわらず、セルロースの短幅の方の数平均幅を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内に維持しつつも、アスペクト比のみをより好ましいとされる範囲ではない上記の50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はないといえ、甲1発明において相違点1-1に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点1-2)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は、令和5年8月4日に提出した意見書において、「・・そうしますと例えば引用例1のセルロース8は、訂正発明1における短幅及び長幅の各繊維幅を満たしています。よって本件訂正発明1の数平均幅の範囲において、アスペクト比50以上に調整する動機付けも十分に記載されております。」などと主張している。
しかしながら、セルロース8のアスペクト比は289であり、甲1発明と同様により好ましいとされる範囲に含まれるものであり、これを敢えてより好ましいとされる範囲ではない50~75の範囲のものに変更すべき動機がないことは上述したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-2)理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a.甲2発明におけるTEMPO酸化した「セルロースナノフィブリル(CNF)」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.甲2発明のセルロースナノフィブリル(CNF)における平均繊維幅は「約2.7nm」であり、本件発明1の(a)で特定する短幅の方の数平均幅「2nm以上20nm以下」の範囲に含まれる。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するものである。これに対して、甲2発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がない。また、セルロースナノフィブリル(CNF)の平均繊維幅についての「約2.7nm」、平均繊維長についての「0.1~1μm」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲はおよそ「37~370」であり、必ずしも本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもない。
したがって、セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定を有していない点で相違するということができる。
d.甲2発明におけるセルロースナノフィブリル(CNF)は、未乾燥の溶解パルプ(60%ノルウェートウヒと40%スコットパイン)を材料としてTEMPO酸化してなるものであるから、天然セルロース由来のI型結晶を有するものと解される。
したがって、本件発明1と甲2発明とは「(c)セルロースI型結晶」を有する点では共通するといえる。
ただし、セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88以上95以下」と特定するのに対し、甲2発明では結晶化度の値についての特定がない点で相違する。
e.そして、甲2発明におけるセルロースナノフィブリル(CNF)からなる「フレキシブルバッテリーのフレキシブル電極用バインダー材料」は、ともに電極の組成物を構成する活性粒子や導電性材料を均一に分散させることができるものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「下記(a)、(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(a)短幅の方の数平均幅が2nm以上20nm以下
(c)セルロースI型結晶を有する」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2-1]
セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲2発明ではそのような特定を有していない点。
[相違点2-2]
セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88以上95以下」と特定するのに対し、甲2発明では結晶化度の値についての特定がない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点2-1)があるから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
次に、まず上記相違点2-1について検討する。
上述したように、甲2発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がなく、甲第2号証にもアスペクト比に着目した記載はない。また、セルロースナノフィブリル(CNF)の平均繊維幅についての「約2.7nm」、平均繊維長についての「0.1~1μm」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲はおよそ「37~370」であり、必ずしも本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもないことを踏まえると、甲2発明において、セルロースナノフィブリル(CNF)の繊維幅を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内に維持しつつも、アスペクト比のみをあえて本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内のものにすることの動機は見出せない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る構成を導き出すことはできない。
また、甲第1号証の段落【0017】にはセルロースのアスペクト比についての記載があるが、「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」と記載されており、より好ましいとされる範囲ではない例えば50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はない。また、甲第4ないし6号証についてみても、そもそもアスペクト比に着目した記載はなく、セルロース繊維の幅を「2nm以上50nm以下」、長さを「0.5μm以上50μm以下」とすることについては記載されているが、これらの範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範なものにすぎない。
したがって、甲第1号証、甲第4ないし6号証を参照したとしても、甲2発明において相違点2-1に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点2-2)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7はも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて、または甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
(3-3)理由4(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
a.甲3発明における分散剤に添加された「TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当す。
b.甲3発明におけるTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)としては「レオクリスタI-2SP」が用いられるものであるところ、当該レオクリスタI-2SPは、甲第11号証(特開2019-65414号公報)の段落【0050】の記載を参照すると、I型結晶構造を有し、数平均繊維径が4nm、平均アスペクト比が280のものである。
してみると、甲3発明のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)の数平均繊維径は「4nm」であり、本件発明1の(a)で特定する短幅の方の数平均幅「2nm以上20nm以下」の範囲に含まれる。
また、セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲3発明では280である点で相違する。
さらに、甲3発明のTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)はI型結晶構造を有するから、本件発明1と甲3発明とは「(c)セルロースI型結晶」を有する点で共通する。
ただし、本件発明1は「結晶化度が88%以上95%以下」と特定するのに対し、甲3発明では結晶化度の値についての特定がない点で相違する。
c.そして、甲3発明におけるカルボキシメチルセルロース(CMC)に対してTEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)を添加してなる「分散剤」は、活物質、導電剤、水系ウレタンバインダーとともに水系正極塗料に含まれるものであり、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するものである。
よって上記a.ないしc.によれば、本件発明1と甲3発明とは、
「下記(a)、(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(a)短幅の方の数平均幅が2nm以上20nm以下
(c)セルロースI型結晶を有する」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3-1]
セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲3発明では280である点。
[相違点3-2]
セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88以上95以下」と特定するのに対し、甲3発明では結晶化度の値についての特定がない点。
(イ)判断
そこで、まず上記相違点3-1について検討する。
甲第3号証には、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)のアスペクト比に着目した記載として、塗料TI値を低減するために、アスペクト比の小さい低分子量の低粘度CNFを用いることが記載されている(上記(2-3)の「エ.」、「オ.」を参照)。しかしながら、アスペクト比をどの程度小さくするのかは不明であり、甲3発明において、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(CNF)の数平均繊維径を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内に維持しつつも、さらにアスペクト比について本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内のものにすることまで当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1に係る構成を導き出すことはできない。
また、甲第1号証の段落【0017】にはセルロースのアスペクト比についての記載があるが、「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」と記載されており、より好ましいとされる範囲ではない例えば50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はない。また、甲第4ないし6号証についてみても、そもそもアスペクト比に着目した記載はなく、セルロース繊維の幅を「2nm以上50nm以下」、長さを「0.5μm以上50μm以下」とすることについては記載されているが、これらの範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範なものにすぎない。
したがって、甲第1号証、甲第4ないし6号証を参照したとしても、甲3発明において相違点3-1に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点3-2)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、または甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7はも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、または甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証、甲第4ないし6号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(3-4)理由5(新規性)及び理由6(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
a.甲4発明における「セルロース繊維」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲4発明におけるセルロース繊維の幅は「2nm以上50nm以下」である点で相違する。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するものである。これに対して、甲4発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がない。また、セルロース繊維の幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもない。
したがって、セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲4発明ではそのような特定を有していない点で相違するということができる。
d.甲4発明におけるセルロース繊維は、漂白クラフトパルプを材料としてTEMPO酸化してなるものであるから、天然セルロース由来のI型結晶を有するものと解される。
したがって、本件発明1と甲4発明とは「(c)セルロースI型結晶」を有する点では共通するといえる。
ただし、セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88以上95以下」と特定するのに対し、甲4発明では高結晶性を有するものの、具体的な結晶化度の値についての特定がない点で相違する。
e.そして、甲4発明における「セルロース繊維」は、活物質や分散媒とともに電池電極用組成物に含まれるものであり、活物質の良好な分散性が得られるものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と甲4発明とは、
「下記(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(c)セルロースI型結晶を有する」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点4-1]
セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲4発明におけるセルロース繊維の幅は「2nm以上50nm以下」である点。
[相違点4-2]
セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲4発明ではそのような特定を有していない点。
[相違点4-3]
セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88以上95以下」と特定するのに対し、甲4発明では高結晶性を有するものの、具体的な結晶化度の値についての特定がない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点4-1、相違点4-2)があるから、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
次に、まず上記相違点4-1及び相違点4-2について検討する。
まず相違点4-1に関して、甲4発明ではセルロース繊維の幅は「2nm以上50nm以下」であり、本件発明1で特定する範囲を含むものの、その上限値が本件発明1における上限値の20μmを超える50μmであり、甲4発明において、セルロース繊維の幅をあえて20μmを超えない値に定めるべき積極的な動機は見出せない。
そして相違点4-2に関して、上述したように、甲4発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がなく、甲第4号証にもアスペクト比に着目した記載はない。また、セルロース繊維の幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもないことを踏まえると、甲4発明において、セルロース繊維の幅を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内にしつつ、さらにアスペクト比についてあえて本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲のものにすることまで当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1及び相違点4-2に係る構成を導き出すことはできない。
また、甲第1号証の段落【0017】にはセルロースのアスペクト比についての記載があるが、「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」と記載されており、より好ましいとされる範囲ではない例えば50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はなく、甲第1号証を参照しても、甲4発明において特に相違点4-2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点4-3)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、または甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7はも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第4号証に記載された発明ではなく、また、甲第4号証に記載された発明に基づいて、または甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
(3-5)理由7(新規性)及び理由8(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
a.甲5発明におけるアンモニウム型の「セルロースシングルナノファイバー」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲5発明におけるセルロースシングルナノファイバーの繊維幅は「2nm以上50nm以下」である点で相違する。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するものである。これに対して、甲5発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がない。また、セルロースシングルナノファイバーの繊維幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもない。
したがって、セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲5発明ではそのような特定を有していない点で相違するということができる。
d.甲5発明におけるセルロースシングルナノファイバーは、セルロースをTEMPO酸化して得られ、高結晶性を有するものであるものの、原料となるセルロースが天然セルロースであることの明確な特定がなく、そのため、天然セルロース由来のI型結晶を有することの明確な特定も有していない。
したがって、セルロース繊維について、本件発明1では「(c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88以上95以下」であることを特定するのに対し、甲5発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
e.そして、甲5発明におけるアンモニウム型のセルロースシングルナノファイバーからなる「増粘材」は、カーボン系活物質、導電助材、バインダーとともに電池電極用組成物に含まれるものであり、活物質の良好な分散性が得られるものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と甲5発明とは、
「セルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点5-1]
セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲5発明におけるセルロース繊維の幅は「2nm以上50nm以下」である点。
[相違点5-2]
セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲5発明ではそのような特定を有していない点。
[相違点5-3]
セルロース繊維について、本件発明1では「(c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88以上95以下」であることを特定するのに対し、甲5発明ではそのような特定を有していない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点5-1、相違点5-2)があるから、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
次に、まず上記相違点5-1及び相違点5-2について検討する。
まず相違点5-1に関して、甲5発明ではセルロースシングルナノファイバーの繊維幅は「2nm以上50nm以下」であり、本件発明1で特定する範囲を含むものの、その上限値が本件発明1における上限値の20μmを超える50μmであり、甲5発明において、セルロースシングルナノファイバーの繊維幅をあえて20μmを超えない値に定めるべき積極的な動機は見出せない。
そして相違点5-2に関して、上述したように、甲5発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がなく、甲第5号証にもアスペクト比に着目した記載はない。また、セルロースシングルナノファイバーの繊維幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもないことを踏まえると、甲5発明において、セルロースシングルナノファイバーの繊維幅を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内にしつつ、さらにアスペクト比についてあえて本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲のものにすることまで当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、甲5発明において、相違点5-1及び相違点5-2に係る構成を導き出すことはできない。
また、甲第1号証の段落【0017】にはセルロースのアスペクト比についての記載があるが、「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」と記載されており、より好ましいとされる範囲ではない例えば50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はなく、甲第1号証を参照しても、甲5発明において特に相違点5-2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点5-3)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、または甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7はも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第5号証に記載された発明ではなく、また、甲第5号証に記載された発明に基づいて、または甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
(3-6)理由9(新規性)及び理由10(進歩性)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
a.甲6発明における「セルロースシングルナノファイバ」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲6発明におけるセルロースシングルナノファイバの繊維幅は「2nm以上50nm以下」である点で相違する。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するものである。これに対して、甲6発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がない。また、セルロースシングルナノファイバの繊維幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもない。
したがって、セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲6発明ではそのような特定を有していない点で相違するということができる。
d.甲6発明におけるセルロースシングルナノファイバは、セルロースをTEMPO酸化して得られ、高結晶性を有するものであるものの、原料となるセルロースが天然セルロースであることの明確な特定がなく、そのため、天然セルロース由来のI型結晶を有することの明確な特定も有していない。
したがって、セルロース繊維について、本件発明1では「(c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88以上95以下」であることを特定するのに対し、甲6発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
e.そして、甲6発明におけるセルロースシングルナノファイバからなる「増粘材」は、カーボン系活物質、導電助材、バインダーとともに電池電極用組成物に含まれるものであり、活物質の良好な分散性が得られるものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と甲6発明とは、
「セルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点6-1]
セルロース繊維の(a)短幅の方の数平均幅について、本件発明1では「2nm以上20nm以下」と特定するのに対し、甲6発明におけるセルロース繊維の幅は「2nm以上50nm以下」である点。
[相違点6-2]
セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、甲6発明ではそのような特定を有していない点。
[相違点6-3]
セルロース繊維について、本件発明1では「(c)セルロースI型結晶を有し、その結晶化度が88以上95以下」であることを特定するのに対し、甲6発明ではそのような特定を有していない点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点6-1、相違点6-2)があるから、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
次に、まず上記相違点6-1及び相違点6-2について検討する。
まず相違点6-1に関して、甲6発明ではセルロースシングルナノファイバの繊維幅は「2nm以上50nm以下」であり、本件発明1で特定する範囲を含むものの、その上限値が本件発明1における上限値の20μmを超える50μmであり、甲6発明において、セルロースシングルナノファイバの繊維幅をあえて20μmを超えない値に定めるべき積極的な動機は見出せない。
そして相違点6-2に関して、上述したように、甲6発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がなく、甲第6号証にもアスペクト比に着目した記載はない。また、セルロースシングルナノファイバの繊維幅についての「2nm以上50nm以下」の範囲、長さについての「0.5μm以上50μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~25000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものでもないことを踏まえると、甲6発明において、セルロースシングルナノファイバの繊維幅を本件発明1で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲内にしつつ、さらにアスペクト比についてあえて本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲のものにすることまで当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、甲6発明において、相違点6-1及び相違点6-2に係る構成を導き出すことはできない。
また、甲第1号証の段落【0017】にはセルロースのアスペクト比についての記載があるが、「前記セルロースはアスペクト比50以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。」と記載されており、より好ましいとされる範囲ではない例えば50~75の範囲のものにあえて変更すべき動機はなく、甲第1号証を参照しても、甲6発明において特に相違点6-2に係る構成を導き出すことはできない。
よって、他の相違点(相違点6-3)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、本件発明2ないし7はも本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲第6号証に記載された発明ではなく、また、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるということはできない。
また、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということもできない。
(3-7)理由11(拡大先願)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と先願発明とを対比する。
a.先願発明におけるリン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する「微細繊維状セルロース」は、本件発明1でいう「セルロース繊維」に相当する。
b.先願発明の微細繊維状セルロースにおける繊維幅はより好ましくは「2nm以上10nm以下」であり、本件発明1の(a)で特定する「2nm以上20nm以下」の範囲に含まれる。
c.セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するものである。これに対して、先願発明ではそもそもアスペクト比の値や範囲についての特定がない。また、微細繊維状セルロースの繊維幅のより好ましい「2nm以上10nm以下」の範囲、繊維長の特に好ましい「0.1μm以上600μm以下」の範囲から形式的に算出されるアスペクト比の範囲は「10~300000」と極めて広範であり、本件発明1で特定する「7.5以上75以下」の範囲内とされるものではない。
したがって、セルロース繊維の(b)アスペクト比については、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、先願発明ではそのような特定を有していない点で相違するということができる。
d.先願発明の微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有するから、本件発明1と引用発明とは「(c)セルロースI型結晶」を有する点では共通する。
ただし、セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88%以上95%以下」と特定するのに対し、先願発明では「70%以上」である点で相違する。
e.そして、先願発明における「電池電極用組成物用増粘剤」は、電池電極用組成物における微粒子分散性を高めることができるものであることから、本件発明1でいう「電極塗工液用分散剤」に相当するといえるものである。
よって上記a.ないしe.によれば、本件発明1と先願発明とは、
「下記(a)、(c)を満たすセルロース繊維を含有することを特徴とする電極塗工液用分散剤。
(a)短幅の方の数平均幅が2nm以上20nm以下
(c)セルロースI型結晶を有する」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
セルロース繊維の(b)アスペクト比について、本件発明1では「7.5以上75以下」と特定するのに対し、先願発明ではそのような特定を有していない点。
[相違点2]
セルロースI型結晶の結晶化度について、本件発明1では「88%以上95%以下」と特定するのに対し、先願発明では「70%以上」である点。
(イ)判断
上記のとおり、相違点(特に相違点1)があるから、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ.本件発明2、4ないし7について
請求項2ないし7は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2、4ないし7は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
ウ.まとめ
以上のとおり、本件請求項1、2、4ないし7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるということはできない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700832