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特許異議申立

2022-700776

高塩基性塩化アルミニウムの水溶液およびその製造方法

審判番号
2022-700776
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-161461
登録番号
7017283
請求日
2022年08月04日
審決日
2023年11月14日
公報発行日
2024年02月22日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】浅田化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】山尾 憲人
  • 【権利者代理人】山本 宗雄
  • 【異議申立人】鈴木 秀仁
審判長/審判官
  • 審判長 三崎 仁
  • 審判官 立木 林
  • 審判官 金 公彦
分類
P1652.537-ZB (C01F) / P1652.538-ZB (C01F) / P1652.856-ZB (C01F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7017283号発明「高塩基性塩化アルミニウムの水溶液およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7017283号の請求項1に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7017283号の請求項1~5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和3年9月30日に出願された特許出願であって、令和4年1月31日にその特許権の設定登録がされ、同年2月8日に特許掲載公報が発行された。 そして、本件特許の請求項1に係る特許に対して、令和4年8月4日に特許異議申立人鈴木秀仁(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 その後の経緯(提出書類等)は、概略、以下のとおりである。 令和 4年11月22日付け 取消理由通知 令和 5年 1月11日 意見書(特許権者) 同年 1月24日付け 審尋 同年 3月 1日 回答書(申立人) 同年 3月15日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 4月18日 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年 6月28日 意見書(申立人) 同年 8月22日付け 訂正拒絶理由通知 そして、上記訂正拒絶理由を通知した際、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。 第2 訂正請求について 上記第1のとおり、令和5年8月22日付けの訂正拒絶理由通知に対し特許権者からは応答がなく、上記訂正拒絶理由は妥当なものと認められるので、上記訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は認められない。 第3 本件発明について 1 本件発明 上記第2のとおり本件訂正は認められないことから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 Al2O3換算にして8~13重量%のAlを含有し、硫酸イオン濃度が0~2.0重量%、アンモニア性窒素が0~10ppm、塩基度が67%~85%であり、不純物が総量250ppm以下の量で含まれ、 前記不純物が、Fe0~50ppm、Ca0~50ppm、Mg0~50ppm、Si0~50ppm、Mn0~1ppm、Cd0~0.1ppm、Cr0~0.5ppm、Pb0~0.5ppm、Hg0~0.01ppm、アンモニア性窒素0~10ppm、As0~0.1ppmの量で含まれることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウムの水溶液であって、 前記高塩基性塩化アルミニウムの水溶液が、アルミニウム13量体カチオンを5.0重量%~20.0重量%含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを0.8重量%~5.0重量%含有する、高塩基性塩化アルミニウムの水溶液。」 2 本件特許明細書等について 願書に添付された明細書又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0016】 本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、エレクトロスプレ-イオン化質量分析装置(以下、ESI-MSと記載)スペクトルで測定することによって、測定することによって、少なくとも1価アルミニウム単量体であるm/z(mはイオン質量を示し、zはイオンの価数を示す。)=97のピ-ク強度を規格化し、m/z=97のピ-ク強度を100と換算した場合、 m/z=294~298の3価アルミニウム13量体ピ-ク強度が1.55以上、 m/z=301~305の3価アルミニウム13量体ピ-ク強度が1.40以上、 m/z=307~311の2価アルミニウム13量体ピ-ク強度が3.0以上、 m/z=407~411の2価アルミニウム13量体ピ-ク強度が0.46以上、 m/z=416~420の2価アルミニウム13量体ピ-ク強度が0.46~0.95、m/z=442~446の3価アルミニウム13量体ピ-ク強度が4.45~4.80である多価アルミニウム13量体カチオン由来のピ-クを有することが解っている。 【0017】 多価アルミニウム13量体は、価数が+1~最大+7までの価数を持つことが知られている。コロイドの凝集に対する考え方として、DLVO理論およびSchulz-Hardy則により、室温におけるCf(臨界凝集濃度)はZ(価数)の6乗に反比例すると考えられている。本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は多価アルミニウム13量体カチオンを多くかつ価数が高いものが存在しているので、Cf(臨界凝集濃度)を小さくすることが可能となり、水中に浮遊している負電荷をもつ懸濁液に対して効果的に作用することが理解できる。 【0018】 また、本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、同じくESI-MSでスペクトル測定し、少なくともアルミニウム単量体であるm/z=97のピ-ク強度を規格化し、m/z=97のピ-ク強度を100と換算した場合、 m/z=233~237の1価アルミニウム3量体ピ-ク強度が4.90以上、 m/z=335~339の1価アルミニウム5量体ピ-ク強度が1.50~1.80、 m/z=447~451の2価スルホニル基付加アルミニウム13量体ピ-ク強度が1.25以上であるアルミニウムカチオンおよびスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオン由来のピ-クを含有することも解っている。 【0019】 これらのESI-MSによるAl13量体の同定は、NMRスペクトルによる27Alの同定に比べ、感度の面で1000倍程度高いことが解っている。また、溶存する化学種Al13量体、そのものを同定しているので、溶液中に13量体が[Al13O9(OH)19(H2O)4]2+等の化学式で存在することを証明できるため、高塩基性塩化アルミニウムの詳細状態を明確に示すことが可能である。一方でNMRスペクトルによる27Alの同定は、27Al-酸素の結合状態のみをみているので、ESI-MSによる測定により、各種構造を同定したAl13量体やAl5量体等が、どのような割合でどのような状態で高塩基性塩化アルミニウム中に存在するかを確認することができており、発明の効果を裏付けるものとなっている。 【0020】 本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、上記のアルミニウム原子の多量体の中で、13量体や5量体、スルホニウム基付加13量体が従来のものより多く存在して、少量の使用でも多くの負電荷を持つ懸濁液に有効であり、従来の塩化アルミニウム水溶液との大きな違いになる。これにより、高塩基性塩化アルミニウム水溶液の使用量が減少することになり、省資源に貢献する。 【0021】 本発明の高塩基性塩化アルミニウムの水溶液が、アルミニウム13量体カチオンを含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを含有することが特徴であり、より詳しくはアルミニウム13量体カチオンを5.0重量%~20.0重量%、好ましくは5.2~18.0重量%、より好ましくは5.4~16.0重量%含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを0.8重量%~5.0重量%、好ましくは0.9~4.5重量%、より好ましく1.1~4.0重量%含有する。アルミニウム13量体カチオンが5重量%より少ないと、多価のアルミニウム13量体カチオン量が不足し、凝集性能が低下し、逆に20.0重量より多いと、未反応のアルミニウム13量体カチオン量が増加し、植物の地下茎や魚類への悪影響があると言われている。スルホニル基付加したアルミニウム13量体が0.8重量%よりも少ないと、未反応のスルホン酸イオンが多量に水中に残り、金属イオンと硫酸化物を形成し、アルミニウム13量体カチオンによる凝集性能を低下させ、5.0重量%を超えると、アルミニウム13量体カチオンの量を減少させてしまい、凝集性能を低下させる。 【0022】 本発明の高塩基性塩化アルミニウムの水溶液は、更にアルミニウム5量体を0.01重量%~5重量%、好ましくは0.02~4重量%、より好ましくは0.05~3.5重量%含有することを必要とする。アルミニウム5量体が0.01重量%より少ないと、凝集性能が高くないアルミニウム単量体が増加し、5重量%を超えると、アルミニウム13量体カチオンの生成を阻害する傾向にある。」 「【0034】 本発明者らが製造条件を検討して、使用原料を不純物の少ないものにするとともに製造方法を上記のように温度や反応時間を制御することにより、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液中に、1~4量体のアルミニウムカチオンと、多価のアルミニウム13量体カチオン、スルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオン、アルミニウム5量体(これらを以下「アルミニウムの多量体」と呼ぶ。)を従来の塩化アルミニウム水溶液より多く含ませることが可能になり、本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液が得られるのである。特に、不純物の量の制限と、反応温度の制限、更には徐冷を有無が、これらのアルミニウムの多量体を多く含ませることを可能にしたと考える。そのことは、上述したように、ESI-MSスペクトルの測定により確認できた。」 「【0036】 <実施例1> 水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製BW103)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学製)から合成したアルミン酸ナトリウム水溶液(Al2O3換算Al量23.5重量%、Na2O換算Na量18.6重量%)81.0gと水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製BW103)と98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された液体硫酸アルミニウム(Al2O3換算Al量8.03重量%)27.8gと塩基性塩化アルミニウム1(Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度62.0%、SO42-量3.1重量%)160.0gと精製水285.9gを混合し、30分攪拌する。次に塩基性塩化アルミニウム水溶液2(Al2O3換算Al量17.8重量%、塩基度45.0%、SO4-2量0重量%)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら、加温熟成した後、55℃まで10時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度71.3%、SO4-2量1.4重量%、Fe10ppm、Ca 25ppm、Mg5ppm、Siが15ppm、Mn0.5ppm、Cd0.05ppm、Cr0.05ppm、Pb0.05ppm、Hgが0.003ppm、アンモニア性窒素が2ppm、As0.01ppmを有した。 【0037】 <実施例2> 水酸化アルミニウムと48%水酸化ナトリウム水溶液から合成したアルミン酸ナトリウム水溶液(Al2O3換算Al量23.5重量%、Na2O換算Na量18.6重量%)88.2gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸から合成された液体硫酸アルミニウム(Al2O3換算Al8.03重量%)35.1gと塩基性塩化アルミニウム1(Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度62.0%、SO4-2量3.1重量%)160.0gと精製水290.3gを混合し、30分攪拌する。次に塩基性塩化アルミニウム2(Al2O3換算Al量17.8重量%、塩基度45.0%、SO4-2量0重量%)を250g投入し、55℃まで昇温し、90分攪拌しながら、加温熟成した後、40℃まで14時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度71.6%、SO4-2量1.6重量%、Fe9ppm、Ca26ppm、Mg4ppm、Siが15ppm、Mn0.3ppm、Cd0.02ppm、Cr0.05ppm、Pb0.03ppm、Hgが0.002ppm、アンモニア性窒素が2ppm、As0.01ppmを有した。 【0038】 <実施例3> 水酸化アルミニウムと48%水酸化ナトリウム水溶液から合成したアルミン酸ナトリウム水溶液(Al2O3換算Al量23.5重量%、Na2O換算Na量18.6重量%)84.7gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸から合成された液体硫酸アルミニウム(Al2O3換算8.03重量17.2g塩基性塩化アルミニウム1(Al2O3換算Al量10.2重量%、塩基度62.0%、SO4-2量3.1重量%)160.0gと精製水292.1gを混合し、50分攪拌する。次に塩基性塩化アルミニウム2(Al2O3換算Al量17.8重量%、塩基度45.0%、SO4-2量0重量%)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら、加温熟成した後、55℃まで12時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al2O3換算Al量10.1重量%、塩基度71.4%、SO4-2量1.1重量%、Fe10ppm、Ca20ppm、Mg6ppm、Siが16ppm、Mn0.4ppm、Cd0.02ppm、Cr0.05ppm、Pb0.02ppm、Hgが0.004ppm、アンモニア性窒素が3ppm、As0.01ppmを有した。 ・・・ 【0042】 <NMR測定> 実施例1、比較例1および比較例2の高塩基性塩化アルミニウム水溶液について、NMRによる分析を行った。NMR測定条件は、以下の通りである NMR測定条件 装置:核磁気共鳴分光装置 試料希釈:D2O 希釈比率は1:1 温度:20℃ 共鳴周波数:156MHz プロ-ブ:石英製直径5mm パルス幅:10μs パルス繰り返し:2sec 積算回数:1024回 その他:単量体由来のシャ-プなピ-クを0ppmと設定。 一番強いピ-クを100として相対比率で拡大表示。 結果を実施例1は図1、比較例1は図2および比較例2は図3に示した。 【0043】 NMRでは、実施例1(図1)と比較例1(図2)には、+62~+68ppmあたりにアルミニウム13量体カチオンに由来するピ-クが検出されるが、比較例2(図3)にはその部分には吸収が無いことが解る。比較例2では、原料塩基性塩化アルミニウム水溶液を最後に一度に添加する方法であるが、この方法ではアルミニウム13量体カチオンが形成されないことが解る。 【0044】 <ESI-MSの測定> 次に、同じ実施例1、比較例1および比較例2について、エレクトロスプレ-イオン化質量分析装置(ESI-MS:m2はイオン質量を指し、zはイオンの価数を指す。)スペクトルで測定を以下の条件で行った: ESI-MS測定条件 装置:ESI-MS測定装置(株式会社島津製作所製 LCMS-2010Aを基にエレクトロスプレ-イオン化ユニットを搭載) m/z範囲:10~1000 電圧:+4.5kVポジティブ・イオン・モ-ド ネブライザ-ガスフロ-レ-ト:N21.5L/min 濃度:原液 結果を実施例1は図4、比較例1は図5および比較例2は図6に示した。 【0045】 ESI-MSスペクトルにおいて、m/z=97に示されるピ-ク強度で規格化し、その値を100として各スペクトルのピ-クを比較すると多価のアルミニウム13量体カチオンに帰属されるピ-クにおける強度を以下の表1に記載した。表1には、図面に記載していない実施例と比較例のピ-ク値も記載した。 表1において、m/zの数値範囲に対応して検出できるアルミニウムの形態は以下の通りである: m/z=294~298:3価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応、 m/z=301~305:3価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応、 m/z=307~311:2価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応、 m/z=407~411:2価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応、 m/z=416~420:2価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応、 m/z=442~446:3価アルミニウム13量体ピ-ク強度に対応。 【0046】 【表1】 [図:0001406674000001.jpg] 【0047】 更に、ESI-MSスペクトルにおいて、m/z=97に示されるピ-ク強度で規格化し、その値を100として各スペクトルのピ-クを比較すると多価のアルミニウム13量体カチオンに帰属されるピ-クにおける強度を表2に記載した。いずれも実施例1~3は比較例1~3と異なり、請求項記載の項目を満たすことを確認できた。 表2において、m/zの数値範囲に対応して検出できるアルミニウムの形態は以下の通りである: m/z=233~237:1価アルミニウム3量体ピ-ク強度に対応、 m/z=335~339:1価アルミニウム5量体ピ-ク強度に対応、 m/z=447~451:2価スルホニル基付加アルミニウム13量体ピ-ク強度に対。 【0048】 【表2】 [図:0001406674000002.jpg] 【0049】 表1および表2に示すように、実施例に示す本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、比較例よりも多くの多価のアルミニウム13量体カチオンを保有すると同時にスルホニル基付加多価のアルミニウム13量体カチオン及び1価アルミニウム3量体カチオン、1価アルミニウム5量体カチオンを共存しても優れた水処理凝集力を保有していることを示すものである。多価のアルミニウム13量体カチオンが多数存在することにより、一般的に負電荷を帯びている水中懸濁物の電荷中和性が高く、後述のホウ素化合物アニオンの凝集阻害にも強いことが裏付けられる。」 と記載され、上記実施例1で合成した高塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、NMR測定を行った結果、及びESI-MS測定を行った結果が、それぞれ以下の図1及び図4に示されている。 「【図1】 [図:0001406674000003.jpg] 」 「【図4】 [図:0001406674000004.jpg] 」 第4 取消理由の概要 当審が令和4年11月22日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由、及び当審が令和5年3月15日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由は同様のものである。 これら取消理由の概略は、以下のとおりである。 1 取消理由1(実施可能要件違反) 本件特許の請求項1に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が後記第5の1(2)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由2(明確性要件違反)について 本件特許の請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第5 当審の判断 1 取消理由1(実施可能要件違反) (1)実施可能要件の判断手法 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(いわゆる「実施可能要件」)に適合するというためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。 そして、物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。 以下、この観点に立って検討する。 (2)実施可能要件に対する当審の判断 以下、アルミニウム13量体カチオンを単に「Al13」といい、スルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを「スルホニル基付加多価Al13」という場合がある。 上記実施例1~3において、高塩基性塩化アルミニウムの水溶液におけるAl13又はスルホニル基付加多価Al13について記載されているのは、図1(実施例1のNMR測定結果)、図4(実施例1のESI-MS測定結果)及び、表1、2(実施例1~3のESI-MSスペクトルにおいて、m/z=97のピーク強度を100として規格化した、多価のAl13に帰属されるピーク強度を示したもの)のみであり、Al13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量については具体的に記載されていない。 そこで、NMRの測定結果及びESI-MSの測定結果からAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量が把握できるかどうかを検討する。 まず、上記図1のNMRの測定結果についてみるに、ピークが検出されることによりAl13の存在は確認できるが、そのピークからAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量を求めることはできない。これは本件特許明細書の【0019】に「NMRスペクトルによる27Alの同定は、27Al-酸素の結合状態のみをみている」と記載されていることからも理解できるように、ピークから物質の同定を行うものであり、その物質の含有量を求めるものではない。 さらに、ESI-MSの測定結果に関して、ESI-MSスペクトルそのものである上記図4、及び当該図4のスペクトルをm/z=97のピーク強度で規格化し、その値を100として各スペクトルのピーク値を示した表1及び表2が記載されているものの、これらの値より高塩基性塩化アルミニウム水溶液におけるAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量の値を求めることができるという技術常識はない。 よって、実施例1~3の高塩基性塩化アルミニウム水溶液におけるAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量が不明であるから、実施例1~3の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、本件発明1の「アルミニウム13量体カチオンを5.0重量%~20.0重量%含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを0.8重量%~5.0重量%含有する、高塩基性塩化アルミニウムの水溶液」に対応したものとはいえず、本件発明1に対応する実施例が発明の詳細な説明に開示されているとはいえない。 そうしてみると、発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1の高塩基性塩化アルミニウムの水溶液(アルミニウム13量体カチオン及びスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンの含有量が、請求項1に記載された、それぞれの数値範囲に含まれるもの)を作れるように記載されているといえない。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (3)小括 以上のとおりであるから、上記(1)の判断手法に従えば、本件特許明細書等の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足しない。 2 取消理由2(明確性要件違反) (1)本件発明1について 本件発明1は、「高塩基性塩化アルミニウムの水溶液が、アルミニウム13量体カチオンを5.0重量%~20.0重量%含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを0.8重量%~5.0重量%含有する」ことを特定しているが、発明の詳細な説明に記載された実施例1~3において、高塩基性塩化アルミニウムの水溶液におけるAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有割合について記載されておらず、また、その測定方法についても記載されていない(NMRの測定結果及びESI-MSの測定結果から、高塩基性塩化アルミニウム水溶液におけるAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有割合が把握できないことは、上記1(2)で述べたとおりである。)ことから、どのような高塩基性塩化アルミニウムの水溶液が、これらの含有割合の数値範囲に含まれるのか一義的に定まるものとはいえない。 したがって、本件発明1は明確でない。 (2)小括 以上のとおり、特許請求の範囲の記載に不備があるため、本件請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第6 特許権者の主張について 1 特許権者の主張 特許権者は、令和5年1月11日提出の意見書において下記主張1を主張し、同年4月18日提出の意見書において下記主張2、3を主張している。 (1)主張1 本件特許明細書の図4(実施例1)のESI-MSスペクトルに対し、m/z=97ピークの強度を100としてバックグラウンド補正(+1.0%)を実施し、規格化された各ピーク強度A及び各ピーク強度Aの和:B=ΣAを算出し、各ピーク強度AをBで割り、100を掛けてAl13及びスルホニル基付加多価Al13の量を算出することで、アルミニウム全量100に対する濃度(以下「アルミニウム全量に対する濃度」という。)として、Al13が10.02重量%、スルホニル基付加多価Al13が0.95重量%含まれていることが求まり、これらの値は、本件請求項1のAl13の範囲である5.0重量%~20重量%、スルホニル基付加多価Al13の範囲である0.8重量%~5.0重量%を満足する値である(令和5年1月11日提出の意見書5.(3))。 (2)主張2 本件発明1における「アルミニウム13量体カチオン」の重量割合の基準は、「Al2O3換算で求めたアルミニウム量」に対する重量%と解するのが当業者の理解である(令和5年4月18日提出の意見書(2))。 (3)主張3 ESI-MSスペクトルにおけるバックグラウンド補正は、ローパスフィルターを入れて、データ取得前に設定して、一定以下のシグナルをカットオフして補正を行うので、本来の値より低くデータが出てしまうところ、これを補正するために測定終了後にカットオフした部分を+補正、本件特許の実施例では+1%の補正をすることが行われるのであり、合議体による「バックグラウンド補正はノイズや不要なスペクトルを除くために補正するもので、測定値から負の値を加えて補正するのが技術常識である」との認定は間違っている。 2 特許権者の主張に対する当審の判断 事案に鑑み、主張2、主張3、主張1の順に検討する。 (1)主張2について 本件発明1に係る「前記高塩基性塩化アルミニウムの水溶液が、アルミニウム13量体カチオンを5.0重量%~20.0重量%含有し、かつスルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオンを0.8重量%~5.0重量%含有する」との特定事項(上記第3の1参照。)について、一般に、水溶液における溶質の濃度(重量%)とは、水溶液全体重量に対する当該溶質の重量の割合のことであるという技術常識、及び、本件明細書の発明の詳細な説明には、当該特定事項に係る濃度(重量%)に関する定義が特にないことを踏まえると、当該特定事項における「アルミニウム13量体カチオン」及び「スルホニル基付加した多価のアルミニウム13量体カチオン」の「含有」割合(「重量%」)の数値範囲は、水溶液全体重量に対する、それぞれ、Al13及びスルホニル付加多価Al13の重量割合を意味するものと解するのが相当である。 よって、上記主張2は採用できない。 (2)主張3について 特許権者の主張する「ESI-MSスペクトルにおけるバックグラウンド補正は、ローパスフィルターを入れて、データ取得前に設定して、一定以下のシグナルをカットオフして補正を行うので、本来の値より低くデータが出てしまうところ、これを補正するために測定終了後にカットオフした部分を+補正」することは、本件特許明細書に記載されておらず、これが技術常識であることの証拠も示されておらず、上記主張3は採用できない。 さらに、「ESI-MSスペクトル」に対して「+補正」することが技術常識であったとしても、補正の量を「+1%」とすることは本件特許明細書に記載されておらず、これが技術常識であることの証拠もないから、補正の量が「+1%」であるとの主張は採用できない。 そもそも、仮に、上記請求人の主張するバックグラウンド補正により適正なAl13及びスルホニル基付加多価Al13のスペクトルが得られたとしても、それにより高塩基性塩化アルミニウム水溶液におけるAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有量が求まるものではないことから、主張3によって上記第5の1及び2の判断が変わることはない。 (3)主張1について 主張1は、ESI-MSスペクトルに対しバックグラウンド補正として+1%の補正をすること、及び、アルミニウム全量に対するAl13及びスルホニル基付加多価Al13の濃度が、本件発明1で特定される高塩基性塩化アルミニウム水溶液全体重量に対するAl13及びスルホニル基付加多価Al13の含有割合に該当することを前提とするものであるが、これらの前提は上記(1)、(2)で検討したとおり、妥当なものではないことから、主張1も採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明1に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 また、本件発明1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700776

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