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特許異議申立

2022-700748

伝動ベルト

審判番号
2022-700748
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-539374
登録番号
7002704
請求日
2022年08月02日
審決日
2023年08月23日
公報発行日
2023年11月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】バンドー化学株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
  • 【異議申立人】松村 朋子
審判長/審判官
  • 審判長 平城 俊雅
  • 審判官 尾崎 和寛
  • 審判官 山崎 勝司
分類
P1651.16 -YAA(F16G) / P1651.113-YAA(F16G) / P1651.121-YAA(F16G) / P1651.851-YAA(F16G) / P1651.852-YAA(F16G) / P1651.857-YAA(F16G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7002704号発明「伝動ベルト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7002704号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、3~11〕について訂正することを認める。 特許第7002704号の請求項1~4、及び9~11に係る特許を維持する。 特許第7002704号の請求項5~8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7002704号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)7月1日(優先権主張 2020年(令和2年)7月3日)を国際出願日とする出願であって、令和4年1月4日にその特許権の設定登録がされ。令和4年2月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年8月2日に特許異議申立人松村朋子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年12月26日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和5年3月3日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、その訂正の請求に対して異議申立人は、令和5年5月10日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である伝動ベルト。」と記載されているのを、「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下であり、前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されており、前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下であり、ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である伝動ベルト。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、4及び9も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「請求項1に記載された伝動ベルトにおいて、前記ベルト本体がポリウレタン樹脂で形成されている伝動ベルト。」と記載されているのを、独立請求項の「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下であり、前記ベルト本体がウレタン樹脂で形成されており、前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である伝動ベルト。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3、4、9、10及び11も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1乃至8のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、」とあるのを「請求項1乃至4のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1乃至9のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、」とあるのを「請求項2に記載された伝動ベルトにおいて、」に訂正する。 本件訂正請求は、一群の請求項〔1~11〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1によって、訂正前の請求項1の「ベルト本体」が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されていること、及び歯付ベルト本体であることを限定し、また、「心線」が、カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であること、その片撚り糸の心線を構成するカーボン繊維のフィラメントの総本数が12000本であり且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下であることを限定し、更に「伝動ベルト」について、ベルト0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 訂正事項1のうち、「ベルト本体」が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されていること、及び歯付ベルト本体であることを限定した点は、願書に添付された明細書の「実施形態に係る歯付ベルトBは、ポリウレタン樹脂で形成されたエラストマー製のエンドレスの歯付ベルト本体11を備える。」(段落【0008】)、「歯付ベルト本体11を形成するポリウレタン樹脂は、ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤が配合されたウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したものである。」(段落【0010】)との記載に基づくものであり、また「心線」が、カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であること、その片撚り糸の心線を構成するカーボン繊維のフィラメントの総本数が12000本であり且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下であることを限定した点は、願書に添付された明細書の「心線12を構成するカーボン繊維のフィラメントFの総本数は、優れた耐久性を得る観点から、好ましくは3000本(3K)以上60000本(60K)以下、より好ましくは9000本(9K)以上54000本(54K)、更に好ましくは12000本(12K)以上48000本(48K)以下である。」(段落【0018】)、「撚り糸の心線12は、同様の観点から、カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であることが好ましい。」(段落【0019】)、「片撚り糸の心線12は、それを構成するカーボン繊維のフィラメントFの総本数が24000本(24K)未満の場合、その長さ10cm当たりの撚り数は、優れた耐久性を得る観点から、好ましくは2.0回/10cm以上25.0回/10cm以下、より好ましくは3.0回/10cm以上19.0回/10cm以下、更に好ましくは5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である。」(段落【0020】)、「心線には、実施例1で用いたのと同一のフィラメント本数が12000本のカーボン繊維のフィラメント束を、長さ10cm当たりの撚り数を6回/10cmとして一方向に撚った片撚り糸を用いた。」(段落【0055】)との記載に基づくものであり、更に「伝動ベルト」について、ベルト0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下であることを限定した点については、願書に添付された明細書の「実施形態に係る歯付ベルトBのベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1は、優れた耐久性を得る観点から、好ましくは30N/mm以上、より好ましくは45N/mm以上であり、曲げ剛性が高くなって耐屈曲疲労性が損なわれるのを回避する観点から、好ましくは50N/mm以下、より好ましくは45N/mm以下である。」(段落【0028】)との記載に基づくものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 このように、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項を発明特定事項として追加して特許請求の範囲の減縮をするものであり、これによって、発明のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものではないといえる。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を追加することによって請求項1の記載を引用しないものとすることを目的とするものといえる。 また、訂正事項2によって、訂正前の請求項2が引用する請求項1の「心線」が、カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であること、その片撚り糸の心線を構成するカーボン繊維のフィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものともいえる。 訂正事項2のうち、訂正前の請求項2が引用する請求項1の「心線」が、カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であること、その片撚り糸の心線を構成するカーボン繊維のフィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下であることを限定した点は、願書に添付した明細書の「心線12を構成するカーボン繊維のフィラメントFの総本数は、優れた耐久性を得る観点から、好ましくは3000本(3K)以上60000本(60K)以下、より好ましくは9000本(9K)以上54000本(54K)、更に好ましくは12000本(12K)以上48000本(48K)以下である。」(段落【0018】)、「片撚り糸の心線12は、それを構成するカーボン繊維のフィラメントFの総本数が24000本(24K)以上の場合、その長さ10cm当たりの撚り数は、優れた耐久性を得る観点から、好ましくは1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下、より好ましくは2.3回/10cm以上6.6回/10cm以下、更に好ましくは3.5回/10cm以上5.5回/10cm以下である。」(段落【0020】)との記載に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。 このように、訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する形式であったものを、訂正前の請求項1の記載を追加することによって請求項1の記載を引用しないものとするともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の事項を発明特定事項として追加して特許請求の範囲の減縮をするものであり、これによって、発明のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものではないといえる。 (3)訂正事項3~6 訂正事項3~6は、請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものではないといえる。 (4)訂正事項7 訂正事項7は、訂正前の請求項9が請求項1~8のいずれいかの記載を引用するものであったところ、訂正事項3~6によって請求項5~8が削除されたことに対応するための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえ、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものではないといえる。 (5)訂正事項8 訂正事項8は、訂正前の請求項10が請求項1~9のいずれかの記載を引用するものであったところ、訂正事項3~6によって請求項5~8が削除されたことに対応することによって、明瞭でない記載の釈明を目的とするとともに、訂正後も存在する請求項1、3、4及び9の記載を引用しないものとすることによって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもあるといえる。 そして、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものではないといえる。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、3~11〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~4、9~11に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」~「本件発明4」、「本件発明9」~「本件発明11」という。なお、請求項5~8は本件訂正請求により削除された。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4、9~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 [本件発明1] 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下であり、 前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されており、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下であり、 ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である伝動ベルト。」 [本件発明2] 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下であり、 前記ベルト本体がウレタン樹脂で形成されており、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である伝動ベルト。」 [本件発明3] 「請求項1又は2に記載された伝動ベルトにおいて、 前記心線を構成する前記カーボン繊維がPAN系カーボン繊維である伝動ベルト。」 [本件発明4] 「請求項1乃至3のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、 前記カーボン繊維のフィラメントの外径が4μm以上9μm以下である伝動ベルト。」 [本件発明9] 「請求項1乃至4のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、 前記心線のベルト幅10mm当たりの本数が3本/10mm以上16本/10mm以下である伝動ベルト。」 [本件発明10] 「請求項2に記載された伝動ベルトにおいて、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体である伝動ベルト。」 [本件発明11] 「請求項10に記載された伝動ベルトにおいて、 ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である伝動ベルト。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1~11に係る特許に対して、当審が令和4年12月26日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 (1)(拡大先願)本件特許の請求項1~7、9~11に係る発明は、当該特許出願の日前の他の特許出願であって出願公開がされた下記甲第1号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない、または、本件特許の請求項1~6、8~11に係る発明は、当該特許出願の日前の他の特許出願であって出願公開がされた下記甲第2号証の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない。 したがって、本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないので、当該発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (2)(新規性)本件特許の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないので、当該発明に係る特許は取り消されるべきものである。 (3)(進歩性)本件特許の請求項1~7、9~11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の甲第3号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、当該発明に係る特許は取り消されるべきものである。 2 甲各号証 甲第1号証:特願2019-58173号(特開2020-158902号) 甲第2号証:特願2021-83225号(特開2021-188747号) 甲第3号証:特開2017-179634号公報 甲第4号証:特開2006-90338号公報 甲第5号証:特表2009-532633号公報 甲第6号証:特開2010-96229号公報 甲第7号証:特表2019-533124号公報 甲第8号証:特開平3-185139号公報 甲第9号証:特開2015-48870号公報 甲第10号証:特開2020-38008号公報 甲第11号証:特開2016-89294号公報 甲第12号証:国際公開第2014/208626号 甲第13号証:大木道則他編、「化学大事典」、第1版第5刷、株式会社東京化学同人、1998年6月1日、第299ページ 甲第14号証:特開2006-298297号公報 甲第15号証:特開2008-126214号公報 甲第16号証:特開2016-10866号公報 甲第17号証:帝人株式会社HP[online]、[令和4年7月5日検索]、インターネット<URL:https://www.teijin.co.jp/news/2017/jbd171130_56.html> 甲第18号証:特開2018-119227号公報 甲第19号証:特開2010-24564号公報 甲第20号証:特開2011-241502号公報 甲第21号証:特開2016-89294号公報 甲第22号証:特開2016-117840号公報 甲第23号証:Toho Tenax, Delivery programme and characteristics for Tenax○R※ HTA filament yarn、2011年4月 (※「○R」は、○の中にRが記入された文字とする。) 3 甲各号証の記載事項等 (1)甲第1号証及び甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には次の記載がある(下線は当審で付したもの。以下同じ。)。 「【0001】 本発明はポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードに関し、さらに詳しくは屈曲疲労性及び耐ホツレ性に優れたウレタン樹脂補強用炭素繊維コード及びその製造方法に関する。」 「【0003】 特に精密OA機器などでは、ポリウレタン樹脂成形体として歯付ベルトが広く使用されているが、高度なベルト寸法安定性が要求される精密OA機器用の歯付ベルトにおいては、その心線として高モジュラスな補強用繊維コードが利用されることが多い。また現状ではガラス繊維コードを用いた歯付ベルトが寸法安定性及び経時寸法安定性に比較的優れているため、軸間固定レイアウト等に好ましく用いられている。しかし、ガラス繊維コードには、ベルト本体を構成するエラストマー部との接着性に劣るとの問題点があった(特許文献1)。」 「【0009】 本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、屈曲疲労性及び耐ホツレ性に優れたウレタン樹脂補強用炭素繊維コード及びその製造方法を提供することにある。」 「【0011】 さらには、炭素繊維束の総繊度が、200~4800texであることや、炭素繊維束が1本の繊維束から構成されたものであること、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が、イソシアネートとエポキシから構成される樹脂であることが好ましい。また、炭素繊維コードの引張強度が13cN/dtex以上であることや、炭素繊維コードの引張弾性率が1100cN/dtex以上であること、繊維束が片撚りであること、繊維束の撚り係数(TM)が1.0~2.0の範囲であることが好ましい。なお、ここで撚り係数(TM)は、下記式にて得たものである。 TM=T×√D/1150 [但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;樹脂付着前の炭素繊維の総繊度(tex)を示す。]」 「【0014】 本発明のポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードは、単糸構成本数が3500本以上の炭素繊維束であって、イソシアネート化合物を構成成分とする樹脂が付着し、3点曲げ強さが、30~150MPaであるものである。 ここで本発明に用いられる炭素繊維としては、ピッチ系やPAN系などの従来公知のものを用いることができるが、特には強度に優れたポリアクリルニトリル系のPAN系炭素繊維であることが好ましい。」 「【0019】 この計算式は、一般的に、綿の紡績糸に使用される計算式、K=t/√N (K:撚係数、t:撚数t/inch、N:綿番手)について、綿の比重を炭素繊維の比重に変換し、綿番手を繊度(tex)に変換して、再計算したものである。TM=1.0に近い時に、単糸が繊維軸方向に適度に傾き、繊維束の引き揃えを良くすることで、引張強力が最大限に発揮される。さらに撚り係数が高い場合には、単糸の傾きが大きくなりすぎ、屈曲時の歪を単糸が受けにくくなり、耐屈曲疲労性が向上するものの、引張強力が低下する傾向にある。また撚り係数が大きすぎると、小さな負荷荷重を受ける際の初期の伸びが増加し、僅かな伸びで負担可能な荷重が低下することになる。」 「【0058】 ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを用いた熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体のより具体的な製造方法としては、例えば、前記イソシアネートとポリオールとを予め反応させたウレタンプレポリマーに、必要に応じて消泡剤、可塑剤などを配合し、50~80℃にて保管する。また、硬化剤を100℃以上の雰囲気温度下にて完全に溶解させた液を予め準備しておく。尚、触媒をポリウレタン原料に配合する場合は上述の硬化剤に予め攪拌混合しておくことが好ましい。 【0059】 次いで金型に炭素繊維コードをスパイラルに巻きつけた状態で、上記のウレタンプレポリマー液と、硬化剤液とを攪拌混合して金型内に注入し、一定条件下で加熱して熱硬化させることによって製造することができる。代表的なポリウレタン樹脂成形体である歯付ベルト等では、生産効率の観点から一般的に大型のベルトスリーブを作製し、その後で所定幅にカットすることによってベルトを製造することが好ましい。 【0060】 このようにして得られるポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードと、それを用いたポリウレタン樹脂成形体は、引張物性、屈曲疲労性、接着性、耐ホツレ性に優れ、そのポリウレタン樹脂成形体の具体例としては、樹脂ベルトを挙げることができる。」 「【0062】 (1)コードの繊度、コードの径(コードゲージ)、引張強力、引張弾性率(初期引張抵抗度) JIS L1017(2002)に準じて測定を行った。」 「【0065】 (4)ポリウレタン樹脂成形体の引張強力 ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを、巾50mm、長さ500mm、厚み2mmの金型に8本等間隔に埋包したのち、(3)と同様に熱硬化性ポリウレタン樹脂原料を金型に注入、硬化し、平ベルト状の熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体を得た。得られたポリウレタン樹脂成形体の引張強力を測定した。」 「【0069】 800tex/12000フィラメントの炭素繊維(「UTS50」、帝人株式会社製)を1本用いて撚数60回/mのZ方向の片撚りを行い、炭素繊維撚糸コードを得た。この繊維コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー社製ディップコード処理機)を用いて5m/分の速度で給糸し、前記の処理剤の水分散体に浸漬した後、定長で120℃、120秒間の乾燥、次いで定長で235℃、60秒間の熱処理を行いポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを得た。 この炭素繊維コードには、炭素繊維撚糸コードに対して固形分換算で、エポキシ化合物およびイソシアネート化合物を構成成分とする架橋樹脂が5.5重量%付着していた。得られた炭素繊維コードと、その炭素繊維コードを用いて作製したポリウレタン樹脂成形体の性能評価結果を表1に示す。」 「【0075】 本発明によれば、ホツレ性が大幅に改良され、ポリウレタンとの接着性、屈曲疲労性、耐久性に優れ、伝動ベルトの心線として好適に用いられる炭素繊維コードを、提供することができ、特に摩擦伝動ベルトや歯付ベルトの心線として好適に用いることができる。」 「【0074】 【表1】 [図:0001403635000001.jpg] 」 甲第1号証の【0058】の「ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードを用いた熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」、【0059】の「代表的なポリウレタン樹脂成形体である歯付ベルト等」、【0075】の「特に摩擦伝動ベルトや歯付ベルトの心線として好適に用いることができる」との記載によれば、甲第1号証には、「ポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コード」を用いる「ポリウレタン樹脂成形体」として、「歯付ベルト」が実質的に記載されていると認められる。 上記認定事項、及び甲第1号証の上記記載からみて、甲第1号証には、以下の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されているといえる。 <先願発明1> 「歯付ベルトであって、 当該歯付ベルトは、心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードが、金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体であり、 前記炭素繊維コードは、800tex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている、 歯付ベルト。」 2 甲第2号証及び甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には次の記載がある。 「【0001】 本発明は、高負荷をベルトによって伝達する装置の同期伝動用に使用される歯付ベルト伝動装置に関するものである。」 「【0026】 (歯付ベルト3の詳細:心線9) 背部4には、心線9がベルト長手方向に螺旋状に巻き付けられた状態で埋設されており、ベルト幅方向(Y方向)の断面視で、所定間隔で配設されている(図1参照)。」 「【0067】 本実施形態に係る歯付ベルト3は、予備成型工法により作製される。予備成型工法とは、まず、歯型を有する金型によって歯布11と歯部7とを予め成型し、予備成形体を得て、次に、得られた予備成形体を金型に巻きつけ、その上に心線9を螺旋状にスピニングする。そして、その上に背部4を構成する未加硫ゴムを巻いた後、全体を加硫缶で加硫する工法のことである。この予備成型工法においては加硫前に歯布11と歯部7が予め成型される為、加硫時に背部4を構成する未加硫ゴムを心線9の間から内側(腹側)へ流動させ、歯布11を伸張させて歯部7を形成する必要がない。そのため、心線間距離(ピッチ)を狭くすることが可能となる。」 「【0076】 (歯付ベルト) 実施例1~6及び比較例1~7では、下記各部材を用いて、ベルトサイズ120H11M25(歯部数:120歯、歯形:H11M、歯ピッチBP:約11mm、ベルト幅:25mm)の歯付ベルトを作製した。」 「【0080】 (心線を構成する炭素繊維のマルチフィラメント糸) 東レ(株)製「トレカT700SC-12000」、引張弾性率230GPa、フィラメント繊度0.67dtex、フィラメント数12000、繊度800tex」 「【0083】 (歯付ベルトの製造) 実施例1~6及び比較例1~7の、予備成型工法による歯付ベルトの作製においては、まず、歯形を有する金型に、歯布と歯部となる未加硫ゴムシート(厚み:2.55mm)を乗せ、120℃、160秒、プレス圧:4.51MPa(面圧)の条件でプレスし、予備成形体を作製する。次に、作製した予備成形体を金型に巻きつけ、その上にスピニングテンション:460~700N/本、スピニングピッチ:2.2mm/本、スピニング速度:1.5m/sの条件で心線9を螺旋状にスピニングする。その上に、背部を構成する未加硫ゴムシート(厚み:1.35mm)を巻いた後、全体を加硫温度179℃、加硫時間40分、蒸気圧:0.83MPaの条件で加硫缶を使って加硫し、歯付ベルトを作製した。」 「【0100】 (比較例3) 繊度800texの炭素繊維のマルチフィラメント糸を4本引き揃えてS方向に16.2回/mで撚りをかけて、総繊度3200texの片撚りコードを作製する以外は実施例1と同様にして歯付ベルトを製造した。歯付ベルトの歯ピッチは10.964mm、歯付ベルトのPLDは1.08mmであった。」 「【0078】 (ゴム組成物:背部 歯部) 【表1】 [図:0001403635000002.jpg] 」 「【0105】 (試験結果) 【表2】 [図:0001403635000003.jpg] 」 「【図1】 [図:0001403635000004.jpg] 」 甲第2号証の上記記載からみて、甲第2号証には、以下の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されているといえる。 <先願発明2> 「歯付ベルトであって、 当該歯付ベルトは、心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸が、螺旋状にスピニングされ、未加硫ゴムを巻かれた後、加硫されて作製され、 前記マルチフィラメント糸が、フィラメント数12000、繊度800texである、 歯付ベルト。」 3 甲第3号証及び甲第3号証に記載された発明 甲第3号証には次の記載がある。 「【0001】 本発明はゴム補強用炭素繊維コードに関し、さらに詳しくはベルト補強用に最適なゴム補強用炭素繊維コードに関する。」 「【0005】 本発明は、ゴム製品の切断面における繊維コードのホツレ性や、屈曲疲労性が改良されたゴム補強用炭素繊維コードを提供することにある。」 「【0014】 本発明のゴム補強用炭素繊維コードに用いられる炭素繊維としては、従来公知のものを用いることができるが、特には強度に優れたPAN系炭素繊維であることが好ましい。またこの炭素繊維はフィラメントが集合して束状の糸条となっている繊維束であることが必要であり、このような繊維束の形態であるからこそ、ゴム補強用として耐疲労性に優れたものとなる。この繊維束の総繊度としては500dtex~16000dtexの範囲であることが好ましい。より好ましくは、4000dtex~16000dtexの範囲であることが好ましい。またフィラメント数としては1000本~25000本の範囲であることが好ましい。好ましくは、25000本~25000本の範囲であることが、特に好ましくは、3000本~24000本の範囲であることが好ましい。そしてこの炭素繊維束を構成する1本の繊維の直径としては1~20μm、特には5~10μmの範囲であることが好ましい。単糸繊度としては、0.4~1.0dtexの範囲内であることが好ましい。」 「【0016】 また、本発明のゴム補強用炭素繊維コードは、撚りを施されたものであることが好ましい。さらには繊維束にS方向、或いはZ方向の撚り(片撚り)を施すことが好ましい。さらにはその片撚りのコードをさらに複数本引き揃えて、片撚りの方向と反対方向に撚り(諸撚り)を施しても構わないが、炭素繊維に諸撚りを施すのは工程通過性の観点で難しいため、複数本の繊維束を使用する場合でも、繊維束を引き揃えて、同方向への片撚りを行ったものであることがより好ましい。ここで、撚り数は、次式(1)で表せる撚り係数(TM)=0.1~5.0を満たす範囲が、接着剤の繊維コード内部への浸透性を保ち耐ホツレ性を発揮しつつ引張物性と耐屈曲疲労性を満たす点で好ましく、より好ましくはTM=0.5~3.0であり、さらに好ましくは、1.0~2.0である。 TM=T×√D/1150 (数式1) [但し、TM;撚り係数、T;撚り数(回/m)、D;総繊度(tex)を示す。] 【0017】 この計算式は、一般的に、綿の紡績糸に使用される計算式、K=t/√N(K:撚係数、t:撚数t/inch、N:綿番手)について、綿の比重を炭素繊維の比重に変換し、綿番手を繊度(tex)に変換して、再計算したものである。TM=1.0に近い時に、単糸が繊維軸方向に約5.5°傾き、繊維束の引き揃えを良くすることで、引張強力が最大限に発揮される。更に撚り係数を高くすると、単糸の傾きが大きくなり、屈曲時の歪を単糸が受けにくくなり、耐屈曲疲労性が向上するが、引張強力は低下する傾向であり、また小さな負荷荷重を受ける際の初期の伸びが増加し、炭素繊維コードに期待される伸びにくい性質、言い換えれば0.3%等の初期の伸びで負担可能な荷重が低下することになる。」 「【0041】 このような本発明のゴム補強用炭素繊維コードを補強材として含む炭素繊維強化ゴム材料では、その補強対象となるゴムとしては、アクリルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリルーブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、多硫化ゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。特には本発明の製造方法は、水素化アクリロニトリルーブタジエン(H-NBR)ゴム用途に最適である。また上記ゴムには、主成分のゴムの他に、材料の改質等のため、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、ナフテン系オイル等の軟化剤が含まれていてもよい。 【0042】 このような炭素繊維強化ゴム材料は、例えば、上記ゴム補強用炭素繊維コードを必要本数引き揃え、これをゴムで挟み込み、さらにプレス機等で加圧、加熱して成形することができるものであり、得られた炭素繊維強化ゴム材料は、屈曲変形などに対して優れた耐久性を発揮しその炭素繊維強化ゴム材料の具体例としては、ベルト、ホースなどを挙げることができる。」 「【0047】 (4)コードの屈曲疲労性 接着処理済みの炭素繊維コードを、水素化アクリロニトリルーブタジエンゴムの巾50mm、長さ500mm、厚み2mmの2枚の未加硫ゴムシートに8本等間隔に埋包したのち、180℃の温度で、30分間、1MPaのプレス圧力で加硫し、ベルト状ゴム成型品を得た。次いで該ベルト状ゴム成型品に30kgの荷重をかけて直径50mmのローラーに取り付け、100℃の雰囲気下でローラー屈曲(接触)距離100mmで100rpmの往復運動をさせ、100,000回の繰返し屈曲を行ったのち、コードを取り出して残強力を測定し、屈曲疲労後の強力維持率を求めた。」 「【0050】 8000dtex/12000フィラメントの炭素繊維(UTS50、東邦テナックス製)を1本用いて撚数60回/mのZ方向の片撚りを行い、炭素繊維撚糸コードを得た。この繊維コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー製ディップコード処理機)を用いて5m/分の速度で給糸し、前記の樹脂A水分散体に6秒間浸漬した後、定長で120℃、120秒間の乾燥、次いで定長で235℃、60秒間の熱処理を行い、引き続き前記のRFL系接着処理剤を含む樹脂Bの水分散体に浸漬した後に、定長で160℃、120秒間の乾燥、次いで230℃、150秒間の熱処理を行い、さらにハロゲン含有ポリマーとカーボンブラックと酸化亜鉛を含有する固形分濃度30%の水系分散体(CHEMLOK CH8216、米国LOAD社製)に浸漬した後に、定長で150℃、120秒間の乾燥を行い、炭素繊維コードを得た。この炭素繊維コードには、炭素繊維撚糸コードに対して固形分換算で、エポキシ化合物およびイソシアネート化合物を構成成分とする樹脂Aが8.0重量%、RFL系接着処理剤を含む樹脂Bが3.5重量%、ハロゲン含有ポリマーとカーボンブラックと酸化亜鉛を含有する接着剤である樹脂Cが8.5%付着していた。得られた炭素繊維コードの製造条件と性能評価結果について、表1及び表2にまとめて示す。」 「【0059】 本発明によれば、ホツレ性が大幅に改良され、ゴムとの接着性、屈曲疲労性、耐久性に優れ、伝動ベルトの心線として好適に用いられる炭素繊維コードを提供することができ、炭素繊維であるにも関わらずホツレ性や屈曲疲労性が良好で、摩擦伝動ベルトや歯付ベルトの心線として好適に用いることができる。」 「【0055】 【表1】 [図:0001403635000005.jpg] 」 「【0056】 【表2】 [図:0001403635000006.jpg] 」 「【0057】 【表3】 [図:0001403635000007.jpg] 」 甲第3号証の上記記載からみて、甲第3号証には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 <引用発明1> 「歯付ベルトであって、 当該歯付ベルトは、ゴム補強用炭素繊維コードを必要本数引き揃えてゴムで挟み込んで成形された、ウレタンゴム等の炭素繊維強化ゴム材料からなり、 前記炭素繊維コードは、8000dtex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている、 歯付ベルト。」 4 甲第6号証及び甲第6号証に記載された発明 甲第6号証には次の記載がある。 「【0001】 本発明はポリウレタン樹脂製の歯付ベルトに関する。」 「【0006】 本発明は、寸歩安定性及び耐久性が優れるポリウレタン樹脂製の歯付ベルトを提供することを目的とする。」 「【0010】 図1は本実施形態に係る歯付ベルト10を示す。 【0011】 本実施形態に係る歯付ベルト10は、ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体11に心線12及び繊維補強材13が埋設された構成を有する。この歯付ベルト10は、例えば、低速・高トルク伝動が必要な工作機械や成形機等の高負荷伝動用途に好適に用いられ、ベルト周長が500~3000mm、ベルト幅が10~200mm、及びベルト厚さが3~20mmである。 【0012】 歯付ベルト本体11は、ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合したウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したポリウレタン樹脂で形成されている。」 「【0020】 心線12は、歯付ベルト本体11に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。心線12は、例えば、心線径が0.2~5mm、及びベルト幅方向の配設ピッチが0.25~6mmである。また、PLDは例えば0.2~5mmである。 【0021】 心線12は、構成材料としてカーボン繊維を含む。つまり、心線12は、カーボン繊維のみで構成されていてもよく、また、カーボン繊維と他の種類の繊維とが複合して構成されていてもよい。カーボン繊維は、PAN系のものであってもよく、ピッチ系のものであってもよく、それら両方を含んでいてもよい。カーボン繊維には、エポキシ樹脂等のサイジング剤が付着していてもよい。カーボン繊維は、例えば、フィラメント径が5~10μmであり、心線12に含まれるフィラメント数が1000~100000フィラメントである。他の種類の繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維などの無機繊維;アラミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維、ナイロン繊維、ポリケトン繊維などの有機繊維等が挙げられる。」 【0022】 心線12の構造としては、片撚り糸、諸撚り糸、ラング撚り糸、コアヤーン、組紐等が挙げられる。なお、心線12には、成形前に予めエポキシ接着剤に浸漬した後に乾燥させる等の接着処理が施されていることが好ましい。」 「【0040】 <心線A> カーボン繊維(東邦テナックス社製 商品名:HTA40 E13 6K(6000フィラメント) 400tex)を3本引き揃えた繊維束を一方向に撚り数50回/mで撚った片撚り糸を心線Aとした。なお、S撚り糸とZ撚り糸の2種を準備した(以下、心線B~Jも同じ)。」 「【0052】 <実施例1> 図3(a)に示すような歯部14の形状が円弧形状の歯付ベルト10であって、プレポリマー(三井化学ポリウレタン社製 商品名:ハイプレンL-100)100質量部に対して、硬化剤として3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(イハラケミカル工業社製 商品名:イハラキュアミンMT)13質量部、及び可塑剤としてジオクチルフタレート(DOP チッソ社製 商品名:DOP)10質量部を配合したウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で歯付ベルト本体11を構成し、上記心線Aで心線12を構成し、無加圧でニードルパンチ法で作製された総厚が3.4~4.2mmである嵩高のナイロン不織布(目付量250g/m2 無バインダー処理)で繊維補強材13を構成したものを上記実施形態に準じた方法で作製し、それを実施例1とした。この実施例1の歯付ベルトをベルト幅10mmのものと15mmのものの2種を複数本ずつ作製した。なお、心線Aには、エポキシ接着剤に浸漬した後に乾燥させる処理を施したものを用いた。また、心線Aを、S撚り糸及びZ撚り糸がベルト幅方向に交互に並ぶと共に隣接する心線ピッチが1.5mmとなるように二重螺旋状に設けた。 【0053】 なお、実施例1の歯付ベルトは、ベルト周長が1200mm、及びベルト厚さが4.8mmであり、歯部14の歯形が円弧歯形、歯数が100、歯幅が5mm、歯高さが2.86mm、及び配設ピッチが8mmであり、心線のベルト幅方向の配設ピッチが1.5mmであり、PLDが0.8mmであった。また、不織布の繊維補強材13は、歯部14において、歯高さの約80%の厚さであった。」 「【0050】 【表1】 [図:0001403635000008.jpg] 」 「【図1】 [図:0001403635000009.jpg] 」 甲第6号証の上記記載からみて、甲第6号証には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 <引用発明2> 「歯付ベルトであって、 ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合したウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したポリウレタン樹脂で形成されているポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体と、 当該歯付ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設され、カーボン繊維を含む心線と、を有し、 前記心線は、6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束を一方向に撚り数50回/mで撚った片撚り糸であるものであり、 ベルト幅が10mmで、心線のベルト幅方向の配設ピッチが1.5mmである、 歯付ベルト。」 4 当審の判断 (1)特許法第29条の2について ア 本件発明1について (ア)先願発明1との対比・判断 a 対比 本件発明1と先願発明1とを対比する。 (a)先願発明1の「歯付ベルト」は、本件発明1の「伝動ベルト」に相当する。 (b)先願発明1の「金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された」「心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コード」は、本件発明1の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (c)先願発明1の「歯付ベルト」のうち、「心線」を埋包している「熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」の部分は、本件発明1の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 (d)先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂」は、本件発明1の「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂」との対比において、「ポリウレタン樹脂」との限度で一致する。 (e)先願発明1の「歯付ベルト」は、「心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードが、金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」であるから、先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」は、本件発明1の「ベルト本体」に相当するとともに、「歯付ベルト本体」にも相当する。 (f)先願発明1の「前記炭素繊維コード」が「炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、本件発明1の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (g)先願発明1の「前記炭素繊維コードは、800tex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、フィラメント数が「12000」本、撚数としての「60回/m」は10cmあたり6回であるから、本件発明1の「前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である」ことに相当する。 (h)以上のとおりであるから、本件発明1と先願発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 【一致点1】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が、ポリウレタン樹脂で形成されており、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である伝動ベルト。」 【相違点1-1】 本件発明1が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下であ」るのに対し、先願発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点1-2】 本件発明1の「ベルト本体」を形成する「ポリウレタン樹脂」が、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化した」ものとされているのに対し、先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂」は、そのような特定がなされていない点。 【相違点1-3】 本件発明1が「ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である」のに対し、先願発明1は、そのような特定がなされていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点1-3について検討する。 先願発明1の「歯付ベルト」は、「心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードが、金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」であり、本件発明1の、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」、「エラストマー製のベルト本体」と、「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルト」と同様の構成を有するといえ(上記a(a)~(d)を参照。)、しかも、先願発明1の「心線」と本件発明1の「心線」とは、上記a(f)及び(g)で述べたように、片撚りを形成するフィラメントの総数や撚り数等において同じものであるといえる。 しかしながら、高分子材料の引張強度は分子量 (分子量分布)や架橋構造等によって変化することが当業者における周知の技術的事項であるといえることからすれば、先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂」と本件発明1の「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂」が同じ種類のポリウレタン樹脂であるといえるとしても、重合度の違いによる分子量(分子量分布)や架橋構造等が先願発明1及び本件発明1において何ら規定されていないことからすれば、先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂」と本件発明1の「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂」の引張強度が同じであるとまではいえない。 したがって、先願発明1のベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が、本件発明1と同様の数値範囲であるといえず、相違点1-3は実質的な相違点であるといえる。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえない。 (イ)先願発明2との対比・判断 a 対比 本件発明1と先願発明2とを対比する。 (a)先願発明2の「歯付ベルト」は、本件発明1の「伝動ベルト」に相当する。 (b)先願発明2の「加硫され」た「未加硫ゴム」は、本件発明1の「エラストマー」に相当し、先願発明2の「未加硫ゴムを巻かれた」後に「加硫され」る部分は、本件発明1の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 また、先願発明2の「未加硫ゴムを巻かれた」後に「加硫され」る部分は、歯付ベルトの本体を構成するとえるから、本件発明1の「歯付ベルト本体」にも相当する。 (c)先願発明2の「螺旋状にスピニングされ」た「心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸」は、本件発明1の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (d)先願発明2の「前記マルチフィラメント糸が、フィラメント数12000」であることは、本件発明の「前記フィラメントの総本数が12000本」であることに相当する。 (e)以上のとおりであるから、本件発明1と先願発明2と一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 【一致点2】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本である伝動ベルト。」 【相違点2-1】 本件発明1が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、先願発明2は、そのような特定がなされていない点。 【相違点2-2】 本件発明1が「前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成され」ているものであるのに対し、先願発明2は、「未加硫ゴム」を「加硫」したものである点。 【相違点2-3】 本件発明1が「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸」であり、「その長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下」とされているのに対し、先願発明2の「炭素繊維のマルチフィラメント糸」は、このような特定がなされていない点。 【相違点2-4】 本件発明1が「ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である」のに対し、先願発明1は、そのような特定がなされていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点2-4について検討する。 先願発明2の「歯付ベルト」は、「心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸が、螺旋状にスピニングされ、未加硫ゴムを巻かれた後、加硫されて作製され」たものである。一方、本件発明1の「伝動ベルト」は、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」、「エラストマー製のベルト本体」と、「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた」ものである。 このように、本件発明1の「伝動ベルト」も、先願発明2の「歯付ベルト」も、どちらもカーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体であり、しかも、本件発明1の「心線」と先願発明2の「心線」とは、そのフィラメント数が同じである(上記a(d))。 しかしながら、本件発明1のエラストマーが、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」ものであるのに対し、先願発明2のエラストマーは、「加硫され」た「未加硫ゴム」であり、エラストマーの種類が異なる。また、先願発明2のフィラメントの撚り数については特定されていないから、本件発明1のフィラメントの撚り数と同じであるとはいえない。 エラストマーの種類が異なれば、引張強度が異なること、フィラメントの撚り数が異なればフィラメントの強度が異なることは当業者において周知の技術的事項であるといえることからすれば、エラストマーの種類が異なり、また、心線のフィラメントの撚り数が同じとはいえない本件発明1の「伝動ベルト」と先願発明2の「歯付ベルト」の引張強度が同じであるとはいえないから、先願発明2のベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が、本件発明1と同様の数値範囲であるといえず、相違点2-4は実質的な相違点であるといえる。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は先願発明2と同一又は実質同一であるとはいえない。 イ 本件発明2について (ア)先願発明1との対比・判断 a 対比 本件発明2と先願発明1とを対比する。 (a)先願発明1の「歯付ベルト」は、本件発明2の「伝動ベルト」に相当する。 (b)先願発明1の「金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された」「心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コード」は、本件発明2の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (c)先願発明1の「歯付ベルト」のうち、「心線」を埋包している「熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」の部分は、本件発明2の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 (d)先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂」は、本件発明2の「ポリウレタン樹脂」に相当する。 (e)先願発明1の「歯付ベルト」は、「心線としてのポリウレタン樹脂補強用炭素繊維コードが、金型にスパイラルに巻き付けられた状態で等間隔に埋包された熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」であるから、先願発明1の「熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体」は、本件発明2の「ベルト本体」に相当する。 (f)先願発明1の「前記炭素繊維コード」が「炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、本件発明2の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (g)以上のとおりであるから、本件発明2と先願発明1との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 【一致点3】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が、ポリウレタン樹脂で形成されており、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である伝動ベルト。」 【相違点3-1】 本件発明2が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、先願発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点3-2】 本件発明2が「前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」とされているのに対し、先願発明1は「前記炭素繊維コードは、800tex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」とされている点。 b 判断 事案に鑑み相違点3-2について検討する。 先願発明1の「前記炭素繊維コードは、800tex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、フィラメント数が12000本、撚数としての60回/mは10cmあたり6回である。 したがって、フィラメントの撚り数については、本件発明2の「その長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」の範囲内にあるものの、フィラメントの総本数については、本件発明2が「24000本以上60000本以下」であるのに対し、先願発明1は「12000」本であり、両者で相違している。 ここで、心線を構成するフィラメントの本数が異なれば、フィラメントの材質が同じであっても心線の強度が異なり、ひいては心線によって補強されているベルトの強度も異なることとなることは、当業者における周知の技術的事項であるといえることからすれば、相違点3-2は実質的な相違点であるといえる。 よって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件発明2は先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえない。 (イ)先願発明2との対比・判断 a 対比 本件発明2と先願発明2とを対比する。 (a)先願発明2の「歯付ベルト」は、本件発明2の「伝動ベルト」に相当する。 (b)先願発明2の「加硫され」た「未加硫ゴム」は、本件発明2の「エラストマー」に相当し、先願発明2の「未加硫ゴムを巻かれて」後に「加硫され」る部分は、本件発明2の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 (c)先願発明2の「螺旋状にスピニングされ」た「心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸」は、本件発明2の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (d)以上のとおりであるから、本件発明2と先願発明2と一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 【一致点4】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルト。」 【相違点4-1】 本件発明2が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、先願発明2は、そのような特定がなされていない点。 【相違点4-2】 本件発明2が「前記ベルト本体がポリウレタン樹脂で形成され」ているものであるのに対し、先願発明2は、「未加硫ゴム」を「加硫」したものである点。 【相違点4-3】 本件発明2が「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」のに対し、先願発明2の「心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸」はそのような特定がなされていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点4-3について検討する。 先願発明2の「心線としての炭素繊維のマルチフィラメント糸」は、フィラメントの本数や撚り数等について、具体的に特定されていない。 そして、心線を構成するフィラメントの本数や撚りの有無、種類が異なれば、フィラメントの材質が同じであっても、心線の強度が異なり、ひいては心線によって補強されているベルトの強度も異なることとなることは、当業者における周知の技術的事項であるといえることからすれば、相違点4-3は実質的な相違点であるといえる。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は先願発明2と同一又は実質同一であるとはいえない。 ウ 本件発明3、4及び9~11について 本件発明3、4及び9は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み更に限定したものである。 上記ア及びイで述べたように、本件発明1又は2は先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえず、また、先願発明2とも同一又は実質同一であるとはいえないから、本件発明3、4及び9も同様の理由により、先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえず、また、先願発明2とも同一又は実質同一であるとはいえない。 本件発明10及び11は、本件発明2の発明特定事項を全て含み更に限定したものである。 上記イで述べたように、本件発明2は先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえず、また、先願発明2とも同一又は実質同一であるとはいえないから、本件発明10及び11も同様の理由により、先願発明1と同一又は実質同一であるとはいえず、また、先願発明2とも同一又は実質同一であるとはいえない。 (2)特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項について ア 本件発明1について (ア)引用発明1との対比・判断 a 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (a)引用発明1の「歯付ベルト」は、本件発明1の「伝動ベルト」に相当する。 (b)引用発明1の「ゴム」は、本件発明1の「エラストマー」に相当し、引用発明1の「炭素繊維強化ゴム材料」は、本件発明1の「エラストマー製のベルト本体」に相当するとともに、上記(a)を踏まえると、「歯付ベルト本体」にも相当する。 (c)引用発明1の「ゴム補強用炭素繊維コード」は、必要本数引き揃えてゴムに挟み込まれるものであるので、「前記ベルト本体に埋設される」「ベルト幅方向にピッチを有するカーボン繊維製の心線」である限りにおいて、本件発明1の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」と一致する。 (d)引用発明1の「前記炭素繊維コード」が「片撚りを行って形成されている」ことは、本件発明1の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (e)引用発明1の「前記炭素繊維コードは、8000dtex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、フィラメント数としての「12000」本であり、撚数としての「60回/m」が10cmあたり6回であって「5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下」の範囲内であることから、本件発明1の「前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である」ことに相当する。 (f)以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明1と一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 【一致点5】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である伝動ベルト。」 【相違点5-1】 「前記ベルト本体に埋設される」「ベルト幅方向にピッチを有するカーボン繊維製の心線」について、本件発明1は、「螺旋を形成するように設けられた」ものであるのに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点5-2】 本件発明1が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点5-3】 本件発明1が「前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されている」のに対し、引用発明1は、「ウレタンゴム等の」「ゴム材料」である点。 【相違点5-4】 本件発明1が「ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である」のに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点5-4について検討する。 引用発明1の「歯付ベルト」は、「ゴム補強用炭素繊維コードを必要本数引き揃えてゴムで挟み込んで成形された、ウレタンゴム等の炭素繊維強化ゴム材料」からなるものである。一方、本件発明1の「伝動ベルト」は、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」、「エラストマー製のベルト本体」と、「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた」ものである。 このように、本件発明1の「伝動ベルト」も、引用発明1の「歯付ベルト」も、どちらもカーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体であり、しかも、本件発明1の「心線」と引用発明1の「心線」とは、そのフィラメント数が同じである(上記a(e))。 しかしながら、本件発明1のエラストマーが、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」ものであるのに対し、引用発明1のエラストマーは、「ウレタンゴム等」の「ゴム材料」であり、エラストマーの種類が異なる。 エラストマーの種類が異なれば、引張強度が異なることは当業者において周知の技術的事項であるといえることからすれば、エラストマーの種類が異なる本件発明1の「伝動ベルト」と引用発明1の「歯付ベルト」の引張強度が同じであるとはいえないから、引用発明1のベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が、本件発明1と同様の数値範囲であるといえず、相違点5-4は実質的な相違点であるといえる。 そして、甲第4号証~甲第23号証のいずれにも、伝動ベルトにおいて、ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1を30N/mm以上50N/mm以下とする点について記載はないし、また、示唆もない。また、当該技術的事項が当業者において周知の技術的事項であることを示す証拠もない。 したがって、引用発明1において、相違点5-4に係る本件発明1の構成となすことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)引用発明2との対比・判断 a 対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 (a)引用発明2の「歯付ベルト」は、本件発明1の「伝動ベルト」に相当する。 (b)引用発明2の「ポリウレタン樹脂」は、「ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合したウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化した」ものであるから、本件発明1の「エラストマー」に相当し、引用発明2の「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体」は、本件発明1の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 (c)引用発明2の「当該歯付ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設され、カーボン繊維を含む心線」は、本件発明1の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (d)引用発明2の「歯付ベルト本体」は、本件発明1の「ベルト本体」に相当する。また、引用発明2の「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体」が、「ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合したウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したポリウレタン樹脂で形成されている」ことは、本件発明1の「前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されている」ことに相当する。 (e)上記(a)及び(b)より、引用発明2は、本件発明1の「前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり」との構成に相当する構成を備えるものであるといえる。 (f)引用発明2の「前記炭素繊維コード」が「片撚りを行って形成されている」ことは、本件発明1の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (g)引用発明2の「前記心線は、6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束を一方向に撚り数50回/mで撚った片撚り糸である」ことは、撚数としての「60回/m」が10cmあたり5回であって「5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下」の範囲内であることから、本件発明1の「前記片撚り糸の前記心線は」、「その長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である」ことに相当する。 (h)以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 【一致点6】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されており、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の前記心線は、その長さ10cm当たりの撚り数が5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下である伝動ベルト。」 【相違点6-1】 本件発明1が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、引用発明2は、そのような特定がなされていない点。 【相違点6-2】 本件発明1が「前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が12000本」とされているのに対し、引用発明2は、「前記心線は、6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束」とされている点。 【相違点6-3】 本件発明1が「ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である」のに対し、引用発明2は、そのような特定がなされていない点。 b 判断 事案に鑑み相違点6-3について検討する。 引用発明2の「歯付ベルト」は、「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体と、当該歯付ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設され、カーボン繊維を含む心線と、を有」するものである。一方、本件発明1の「伝動ベルト」は、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」、「エラストマー製のベルト本体」と、「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた」ものである。 このように、本件発明1の「伝動ベルト」も、引用発明2の「歯付ベルト」も、どちらもカーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体という点で同じである。 しかしながら、本件発明1の「心線」の「カーボン繊維の前記フィラメントの総本数」が、「12000本」であるのに対し、引用発明2の「カーボン繊維を含む心線」は、「6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束」であり、フィラメントの総本数が6000本であり、心線のカーボン繊維のフィラメントの本数が異なる。 ベルトを補強する心線の本数が異なれば、ベルトの引張強度が異なることは当業者において周知の技術的事項であるといえることからすれば、心線のカーボン繊維の前記フィラメントの本数が異なる本件発明1の「伝動ベルト」と引用発明2の「歯付ベルト」の引張強度が同じであるとはいえないから、引用発明2のベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が、本件発明1と同様の数値範囲であるといえず、相違点6-3は実質的な相違点であるといえる。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明である引用発明2ではない。 そして、甲第3号証~甲第5号証、及び甲第7号証~甲第23号証のいずれにも、伝動ベルトにおいて、ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1を30N/mm以上50N/mm以下とする点について記載はないし、示唆もない。また、当該技術的事項が当業者において周知の技術的事項であることを示す証拠もない。 したがって、引用発明2において、相違点6-3に係る本件発明1の構成となすことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明2について (ア)引用発明1との対比・判断 a 対比 本件発明2と引用発明1とを対比する。 (a)引用発明1の「歯付ベルト」は、本件発明2の「伝動ベルト」に相当する。 (b)引用発明1の「ゴム」は、本件発明2の「エラストマー」に相当し、引用発明1の「炭素繊維強化ゴム材料」は、本件発明2の「エラストマー製のベルト本体」に相当するとともに、上記(a)を踏まえると、「歯付ベルト本体」にも相当する。 (c)引用発明1の「ゴム補強用炭素繊維コード」は、必要本数引き揃えてゴムに挟み込まれるものであるので、「前記ベルト本体に埋設される」「ベルト幅方向にピッチを有するカーボン繊維製の心線」である限りにおいて、本件発明2の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」と一致する。 (d)引用発明1の「前記炭素繊維コード」が「片撚りを行って形成されている」ことは、本件発明2の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (e)引用発明1の「前記炭素繊維コードは、8000dtex/12000フィラメントの炭素繊維を1本用いて撚数60回/mの片撚りを行って形成されている」ことは、撚数としての「60回/m」が10cmあたり6回であることから、本件発明2の「前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」こととの対比において、「前記片撚り糸の前記心線は」、「その長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」ことの限度で一致する。 (f)以上のとおりであるから、本件発明2と引用発明1と一致点及び相違点は、次のとおりとなる。 【一致点7】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体が歯付ベルト本体であり、 前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の心線は、その長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である伝動ベルト。」 【相違点7-1】 「前記ベルト本体に埋設される」「ベルト幅方向にピッチを有するカーボン繊維製の心線」について、本件発明2は、「螺旋を形成するように設けられた」ものであるのに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点7-2】 本件発明2が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 【相違点7-3】 本件発明2が「前記ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されている」のに対し、引用発明1は、「ウレタンゴム等の」「ゴム材料」である点。 【相違点7-4】 本件発明2が「前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下」とされているのに対し、引用発明1は、「前記炭素繊維コードは、8000dtex/12000フィラメントの炭素繊維」である点。 b 判断 事案に鑑み相違点7-4について検討する。 カーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体からなる伝動ベルトにおいて、心線のカーボン繊維の総本数を24000本以上60000本以下とすることは、甲第4号証~甲第23号証のいずれにも記載されていないし、示唆もない。また、当該技術的事項が当業者において周知の技術的事項であることを示す証拠もない。 したがって、引用発明1において、相違点7-4に係る本件発明2の構成となすことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)引用発明2との対比・判断 a 対比 本件発明2と引用発明2とを対比する。 (a)引用発明2の「歯付ベルト」は、本件発明2の「伝動ベルト」に相当する。 (b)引用発明2の「ポリウレタン樹脂」は、ウレタンプレポリマーに、硬化剤、可塑剤等の配合剤を配合したウレタン組成物が加熱及び加圧されて硬化したものであるから、本件発明2の「エラストマー」に相当し、引用発明2の「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体」は、本件発明2の「エラストマー製のベルト本体」に相当する。 (c)引用発明2の「当該歯付ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設され、カーボン繊維を含む心線」は、本件発明2の「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線」に相当する。 (d)引用発明2の「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体」は、本件発明2の「前記ベルト本体がポリウレタン樹脂で形成されている」ことに相当する。 (e)引用発明2の「前記心線」が「カーボン繊維を3本引き揃えた繊維束を一方向に」「撚った片撚り糸である」ことは、本件発明2の「前記心線が前記カーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸である」ことに相当する。 (f)引用発明2の「前記心線は、6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束を一方向に撚り数50回/mで撚った片撚り糸である」ことは、フィラメントの総本数が18000であり、撚り数が5回/10cmであることから、本件発明2の「前記片撚り糸の前記心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下であり、且つその長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」こととの対比において「前記片撚り糸の前記心線は」、「その長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である」との限度で一致する。 (g)以上のとおりであるから、本件発明2と引用発明2の一致点及び相違点は次のとおりとなる。 【一致点8】 「エラストマー製のベルト本体と、前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた伝動ベルトであって、 前記ベルト本体がポリウレタン樹脂で形成されており、 前記心線がカーボン繊維のフィラメント束を一方向に撚った片撚り糸であり、 前記片撚り糸の心線は、その長さ10cm当たりの撚り数が1.5回/10cm以上7.5回/10cm以下である伝動ベルト。」 【相違点8-1】 本件発明2が「前記心線を、その長さ方向に直交する側方から見たとき、前記心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの前記心線の長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下である」のに対し、引用発明2は、そのような特定がなされていない点。 【相違点8-2】 本件発明2が「前記片撚り糸の心線は、それを構成する前記カーボン繊維の前記フィラメントの総本数が24000本以上60000本以下」とされているのに対し、引用発明2は、「前記心線は、6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束」とされている点。 b 判断 事案に鑑み相違点8-2について検討する。 引用発明2の「歯付ベルト」は、「ポリウレタン樹脂製の歯付ベルト本体と、当該歯付ベルト本体に、ベルト長さ方向に沿うと共にベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設され、カーボン繊維を含む心線と、を有」するものである。一方、本件発明2の「伝動ベルト」は、「ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成された」、「エラストマー製のベルト本体」と、「前記ベルト本体に埋設されるとともにベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように設けられたカーボン繊維製の心線と、を備えた」ものである。 このように、本件発明2の「伝動ベルト」も、引用発明2の「歯付ベルト」も、どちらもカーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体という点で同じである。 しかしながら、本件発明2の「心線」の「カーボン繊維の前記フィラメントの総本数」が、「24000本以上60000本以下」であるのに対し、引用発明2の「カーボン繊維を含む心線」は、「6000フィラメントで400texのカーボン繊維を3本引き揃えた繊維束」であり、フィラメントの総本数が6000本であり、心線のカーボン繊維のフィラメントの本数が異なる。 ここで、ベルトを補強する心線の本数が異なれば、ベルトの引張強度が異なることは当業者において周知の技術的事項であるといえる。 そして、カーボン繊維製の心線で補強されたエラストマー体からなる伝動ベルトにおいて、心線のカーボン繊維の総本数を24000本以上60000本以下とすることは、甲第3号証~甲第5号証、及び甲第7号証~甲第23号証のいずれにも記載されていないし、示唆もない。また、当該技術的事項が当業者において周知の技術的事項であることを示す証拠もない。 したがって、引用発明2において、相違点8-2に係る本件発明2の構成となすことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。 よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 本件発明3、4及び9~11について (ア)本件発明3、4及び9は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み更に限定したものである。 上記ア及びイで述べたように、本件発明1又は2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないし、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、4及び9も、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないし、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (イ)本件発明10及び11は、本件発明2の発明特定事項を全て含み更に限定したものである。 上記イで述べたように、本件発明2は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないし、また、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明10及び11も、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明1及び甲第4号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないし、また、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないばかりでなく、引用発明2及び甲第3号証~甲第5号証、甲第7号証~甲第23号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)異議申立人の意見書中での主張について ア 甲第2号証に記載された発明と実質同一であるとの主張について 異議申立人は、令和5年5月10日に提出した意見書において、概略次のように主張する。 甲第2号証に記載された発明において、水素化NBRに代えてポリウレタン樹脂を使用することは周知技術の転換であって、新たな効果を奏しないから、甲第2号証に記載された発明において、ゴム組成物をポリウレタン樹脂に置換することは、課題解決のための具体的手段における微差に過ぎず、実質的な相違点であるとはいえず、本件発明2は甲第2号証に記載された発明と実質同一である(第3頁第第16行~第4頁第27行。)。 しかしながら、カーボン繊維で補強されたエラストマー体で形成された伝動ベルトにおいて、エラストマーの種類によって機械的強度などの物性が異なることとなることは明らかである。 そうだとすれば、仮に、伝動ベルトを形成するエラストマー体としてゴム組成物もポリウレタン樹脂もどちらも当業者に周知であるとしても、甲第2号証に記載された発明の伝動ベルトを形成するゴム組成物をポリウレタン樹脂に置換することにともなって、伝動ベルトの機械的強度が異なることとなるという新たな効果を奏するものといえる。 したがって、本件発明2は甲第2号証に記載された発明と実質同一であるとはいえず、異議申立人の主張は採用できない。 イ 甲第3号証に記載された発明に対して進歩性がないとの主張について 異議申立人は、令和5年5月10日に提出した意見書において、概略次のように主張する。 甲第3号証に記載された、ゴム補強用炭素繊維コード及び炭素繊維強化ゴム材の構成は、本件発明1に記載されたカーボン心線の構成及び伝動ベルトの構成と同一であり、甲第3号証に記載された発明が本件発明1の「ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である」という要件を満足する蓋然性が高い。 また、本件発明1が、ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されている第1要件、心線が、総本数12000本のカーボン繊維のフィラメント束を、長さ10cm当たりの撚り数5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下として一方向に撚った片撚り糸で構成されているという第2要件、及びベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下である第3要件の全てを満たしていることによる格別顕著な効果は認められない。 したがって、本件発明1は甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである(第7頁第13行~第11頁第20行。)。 異議申立人の上記主張のうち前者について 上記(2)アbで述べたように、エラストマーの種類が異なれば、引張強度が異なることは当業者において周知の技術的事項であるといえることからすれば、エラストマーの種類が異なる本件発明1の「伝動ベルト」と引用発明1の「歯付ベルト」の引張強度が同じであるとはいえないから、引用発明1のベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が、本件発明1と同様の数値範囲であるとまではいえない。そして、甲第4号証~甲第23号証のいずれにも、伝動ベルトにおいて、ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1を30N/mm以上50N/mm以下とする点について記載も示唆もないし、また、当該技術的事項が当業者において周知の技術的事項であることを示す証拠もない。 したがって、引用発明1において、伝動ベルトにおいて、ベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1を30N/mm以上50N/mm以下とした点は、当業者といえども容易に想到し得たことではない。 異議申立人の上記主張のうち後者について 本件特許明細書の段落【0053】~【0067】には、ベルト本体が、ウレタンプレポリマーを含むウレタン組成物が硬化したポリウレタン樹脂で形成されている第1要件、心線が、総本数12000本のカーボン繊維のフィラメント束を、長さ10cm当たりの撚り数5.0回/10cm以上11.0回/10cm以下として一方向に撚った片撚り糸で構成されているという第2要件、及びベルト伸張率0.1%時のベルト幅1mm当たりのベルト張力T0.1が30N/mm以上50N/mm以下であるという第3要件を全て満足する(加えて、心線を構成するカーボン繊維のフィラメント束における最外部のフィラメントの長さ方向に対してなす角度が8°以上20°以下という要件も満足する)実施例2-1及び2-2のベルト耐久寿命が、上記3要件の全てを満足するものではない比較例2-1及び2-2のベルト耐久寿命に比べて長いという効果が奏されることが記載されている。 以上のとおりであるから、異議申立人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由に記載した取消理由によっては、請求項1~4、及び9~11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、請求項1~4、及び9~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項5~8に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求に係る訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議申立について、請求項5~8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700748

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