特許異議申立
2022-700745
皮膚の歪み測定方法
- 審判番号
- 2022-700745
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-005886
- 登録番号
- 6993087
- 請求日
- 2022年08月02日
- 審決日
- 2023年07月07日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】花王株式会社
- 【権利者代理人】右田 俊介
- 【異議申立人】福▲崎▼ さおり
- 審判長/審判官
- 審判長 中塚 直樹
- 審判官 波多江 進
- 審判官 濱本 禎広
- 分類
- P1651.113-YAA(G01B) / P1651.121-YAA(G01B) / P1651.536-YAA(G01B) / P1651.537-YAA(G01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条、特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6993087号発明「皮膚の歪み測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6993087号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。
特許第6993087号の請求項1-3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許の出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯
平成29年 1月17日 :特許出願
令和 3年12月13日 :特許権の設定登録
令和 4年 2月 4日 :特許掲載公報の発行
2 本件特許異議の申立ての手続の経緯
令和4年 8月 2日 :特許異議申立書の提出
(特許異議申立人:福崎さおり(以下「申立人」という。)
※崎はたつさきが正式表記
請求項1-3に対して)
同年10月27日付け:取消理由通知書
同年12月28日 :訂正請求書及び意見書の提出
令和5年 1月26日付け:訂正請求があった旨の通知書
同年 4月 6日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月26日 :訂正請求書及び意見書の提出
以下、令和4年10月27日付け取消理由通知書で通知した取消理由を「先の取消理由」といい、令和5年4月6日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由を「取消理由(決定の予告)」といい、令和4年12月28日に提出された訂正請求書による訂正を「先の訂正」といい、令和5年5月26日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
なお、本件訂正に係る請求により、先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、当審は、本件訂正に係る請求について、特許法120条の5第5項ただし書に規定する「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると判断し、改めて、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
すなわち、本件訂正は、先の訂正の訂正内容を全て含み、さらに、先の取消理由のうち先の訂正では解消しなかった取消理由(決定の予告)を解消するための訂正事項を追加するものである。
以上の本件訂正の内容と、先の訂正後の令和5年1月26日付けで申立人に訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人は応答しなかったことを踏まえると、改めて申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときに該当すると判断した。
第2 本件訂正について
1 本件訂正の請求の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを求める、というものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前(設定登録時)の特許請求の範囲の請求項1-3の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、
前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、
を含み、
前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部と同程度の面積を有する、皮膚の歪み測定方法。
【請求項2】
皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、
前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、
を含み、
前記付加パターンが複数のドットを含むドット群で形成されるパターンであり、前記ドット群は、複数の色のドットを含む、皮膚の歪み測定方法。
【請求項3】
皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程と、
前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、を含み、
前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを前記皮膚に付加することを特徴とする、皮膚の歪み測定方法。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1-3の記載は、以下のとおりである。下線は訂正箇所である。
「【請求項1】
皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、
前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パタ―ンを撮像した撮像データを取得する撮像データ取得工程と、
前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、
前記撮像データに基づき、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定する判定工程と、
を含み、
前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部の平均的な面積の1/10以上、10倍以下の面積を有するように設定されている、皮膚の歪み測定方法。
【請求項2】
皮膚の表面に複数の付加パターンを付加するパターン付加工程と、
前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、
を含み、
前記パターン付加工程は、ドット状の前記付加パターンを複数付加することでドットパターンを形成し、
前記付加パターンは、互いに異なる複数の色にそれぞれ着色された前記付加パターンを含む、皮膚の歪み測定方法。
【請求項3】
皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる肌理による幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程と、
前記取得した幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンの大きさを判定する大きさ判定工程と、
前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、
前記幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像デ―タ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、を含み、
前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンが検出できない場合は、前記大きさ判定工程の判定結果に応じた寸法形状の付加パターンを複数含むドットパターンを前記皮膚に付加することを特徴とする、皮膚の歪み測定方法。」
4 本件訂正の内容
本件訂正は、請求項1-3を訂正するものであって、本件訂正により請求項1-3を訂正する事項(以下「訂正事項1」などという。)は、次のとおりである。
(1) 請求項1に係る訂正事項
ア 訂正事項1
「皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した撮像データを取得する撮像データ取得工程と、」
イ 訂正事項2
「前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記撮像データに基づき、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定する判定工程と、」
ウ 訂正事項3
「前記皮膚の皮丘部と同程度の面積を有する」との記載を、次の記載に訂正する。
「前記皮膚の皮丘部の平均的な面積の1/10以上、10倍以下の面積を有するように設定されている」
(2) 請求項2に係る訂正事項
ア 訂正事項4
「皮膚の表面に付加パターン」との記載を、次の記載に訂正する。
「皮膚の表面に複数の付加パターン」
イ 訂正事項5
「前記付加パターンが複数のドットを含むドット群で形成されるパターンであり、前記ドット群は、複数の色のドットを含む」との記載を削除し、「前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、を含み、」の後に、次の記載を追加する。
「前記パターン付加工程は、ドット状の前記付加パターンを複数付加することでドットパターンを形成し、」
ウ 訂正事項6
訂正事項5で追加された「前記パターン付加工程は、ドット状の前記付加パターンを複数付加することでドットパターンを形成し、」の後に、次の記載を追加する。
「前記付加パターンは、互いに異なる複数の色にそれぞれ着色された前記付加パターンを含む」
(3) 請求項3に係る訂正事項
ア 訂正事項7
「前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターン」との記載を、次の記載に訂正する。
「前記皮膚の表面に表れる肌理による幾何学的パターン」
イ 訂正事項8
「幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記取得した幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンの大きさを判定する大きさ判定工程と、」
ウ 訂正事項9
「前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、」
エ 訂正事項10
訂正事項9で追加された「前記幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、」
オ 訂正事項11
訂正事項10で追加された「前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、」の後に、次の記載を追加する。
「前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、」
カ 訂正事項12
「前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを前記皮膚に付加する」との記載を、次の記載に訂正する。
「前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンが検出できない場合は、前記大きさ判定工程の判定結果に応じた寸法形状の付加パターンを複数含むドットパターンを前記皮膚に付加する」
5 本件訂正の適否についての当審の判断
以下、本件訂正が、訂正要件を満たすか否かについて検討する。
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、「皮膚の歪み測定方法」を、「前記皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した撮像データを取得する撮像データ取得工程」を含むものに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項1は、次に摘記して示す、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の段落【0028】及び【0029】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(ア) 「このとき、第3実施形態では、被験者Sの皮膚を撮像し、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定しておく。」(【0028】)
(イ) 「このような場合、第3実施形態は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得し」(【0029】)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、「皮膚の歪み測定方法」を、「前記撮像データに基づき、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定する判定工程」を含むものに限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0028】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「また、肌理等のパターンと併せてドットパターンを皮膚の歪みの検出に利用する場合、ドットには、皮膚の肌理と同程度の面積を有するものが用いられる。ここで、皮膚の肌理と同程度とは、例えば、ドットパターンが付加される被験者Sの肌理中の皮丘部の1/10以上、10倍以下の面積を指す。このとき、第3実施形態では、被験者Sの皮膚を撮像し、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定しておく。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1における「付加パターン」について、本件訂正前の「前記皮膚の皮丘部と同程度の面積を有する」を、「前記撮像した撮像データに基づき前記皮膚の皮丘部の1/10以上、10倍以下の面積を有するように設定されている」と限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項3は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0028】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項3は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「また、肌理等のパターンと併せてドットパターンを皮膚の歪みの検出に利用する場合、ドットには、皮膚の肌理と同程度の面積を有するものが用いられる。ここで、皮膚の肌理と同程度とは、例えば、ドットパターンが付加される被験者Sの肌理中の皮丘部の1/10以上、10倍以下の面積を指す。このとき、第3実施形態では、被験者Sの皮膚を撮像し、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定しておく。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項3は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(4) 訂正事項4-6について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項4-6は、「前記付加パターンが複数のドットを含むドット群で形成されるパターンであり」との記載により、「付加パターン」の定義が請求項の記載と発明の詳細な説明の記載とで一貫しておらず、この結果、請求項2に係る発明の範囲が不明確となっていたところ、皮膚の表面に付加される「付加パターン」を「複数の付加パターン」と訂正し、「前記付加パターンが複数のドットを含むドット群で形成されるパターンであり、前記ドット群は、複数の色のドットを含む」との記載を、「前記パターン付加工程は、ドット状の前記付加パターンを複数付加することでドットパターンを形成し、前記付加パターンは、互いに異なる複数の色にそれぞれ着色された前記付加パターンを含む」と訂正することにより、請求項の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させることを目的とするものである。
したがって、訂正事項4-6は、特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項4-6は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0027】及び【0032】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項4-6は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(ア) 「第3実施形態では、付加パターンを、人体に影響を及ぼさないインクを噴霧器等によって噴霧することによって被験者Sに付加するものとした。噴霧器のノズルの端部の断面が円形である場合、付加パターンは、ノズルの径に応じた大きさの円形状のパターン(以下、「ドット」と記す)となる。また、第3実施形態では、複数のドットを含むドット群で形成されるパターンの全体を、以降「ドットパターン」と記す。」(【0027】)
(イ) 「また、第3実施形態では、付加パターンがドットパターンであり、ドット群が複数の色のドットを含むようにすることもできる。」(【0032】)
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項4-6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4-6は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定の規定に適合する。
(5) 訂正事項7について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項7は、「前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターン」を、「前記皮膚の表面に表れる肌理による幾何学的パターン」に限定するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項7は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0029】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項7は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「ところで、皮膚の肌理が細か過ぎる、または粗過ぎるといった理由によって撮像データから肌理由来の幾何学的パターンが検出できない被験者が存在する。このような場合、第3実施形態は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得し、パターン付加工程において、幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを皮膚に付加している。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項7は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(6) 訂正事項8について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項8は、「皮膚の歪み測定方法」を、「前記取得した幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンの大きさを判定する大きさ判定工程」を含むものに限定するものである。
したがって、訂正事項8は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項8は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0029】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項8は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「ところで、皮膚の肌理が細か過ぎる、または粗過ぎるといった理由によって撮像データから肌理由来の幾何学的パターンが検出できない被験者が存在する。このような場合、第3実施形態は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得し、パターン付加工程において、幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを皮膚に付加している。つまり、第3実施形態では、例えば、皮膚の肌理が検出できない被験者に対し、皮膚の表面の幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得して皮膚の肌理が細か過ぎて検出できないのか、粗過ぎて検出できないのかを判定する。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項8は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(7) 訂正事項9-11について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項9-11は、「皮膚の歪み測定方法」を、「前記幾何学的パターンを撮像した第1撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データおよび前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、」を含むものに限定するものである。
したがって、訂正事項9-11は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項9-11は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0027】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項9-11は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「さらに、第3実施形態では、第1撮像データ取得工程においてさらに付加パターンを撮像した第3撮像データを取得し、第2撮像データ取得工程において、さらに付加パターンを撮像した第4撮像データを取得し、変位検出工程は、第1撮像データ及び第2撮像データの幾何学的パターンと共に第3撮像データ及び第4撮像データの付加パターンを解析するものである。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項9-11は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項9-11は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(8) 訂正事項12について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項12は、「前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを前記皮膚に付加する」との記載が、本件明細書等の【0029】の記載を参酌すると、「大きさに応じた」との記載が通常用いられる用語の意味と大きく異なる意味で用いられていると解されるため、発明の範囲を不明確にする記載となっていたところ、当該記載を本件明細書等の段落【0029】の記載と整合するように、「前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンが検出できない場合は、前記大きさ判定工程の判定結果に応じた寸法形状の付加パターンを複数含むドットパターンを前記皮膚に付加する」と訂正することにより、請求項3の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させることを目的とするものである。
したがって、訂正事項12は、特許法120条の5第2項ただし書3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項12は、次に摘記して示す、本件明細書等の段落【0029】の記載を根拠とするものであるから、訂正事項12は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
「つまり、第3実施形態では、例えば、皮膚の肌理が検出できない被験者に対し、皮膚の表面の幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得して皮膚の肌理が細か過ぎて検出できないのか、粗過ぎて検出できないのかを判定する。そして、肌理が細か過ぎて肌理が検出できない被験者に対しては予め設定されている最小のドットを付加し、肌理が粗過ぎて肌理が検出できない被験者に対しては予め設定されている最大のドットを付加するようにする。」
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アにおいて検討したとおり、訂正事項12は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
したがって、訂正事項12は、特許法120条の5第9項で準用する特許法126条6項の規定に適合する。
(9) 本件訂正の適否についてのまとめ
したがって、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであるから同項の規定に適合し、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。なお、訂正後の請求項1-3は、特許異議の申立てがされた請求項であることから、当該各請求項についての訂正には、同法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3について訂正することを認める。
第3 本件発明について
前記第2に示したとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1-3に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項(前記第2の3参照)により特定されるとおりのものと認める。
第4 取消理由(決定の予告)について
1 取消理由(決定の予告)の概要
当審において通知した、取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
先の訂正後の請求項1に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
2 当審の判断
本件訂正後の請求項1に係る特許は、取消理由(決定の予告)によって取り消すことはできない。
すなわち、取消理由(決定の予告)で通知した取消理由は、本件訂正前(すなわち、先の訂正後)の請求項1において、付加パターンの面積として設定される「前記皮膚の皮丘部の1/10以上、10倍以下の面積」が、面積に分布を有する被験者の皮丘部のうちどの皮丘部を基準として1/10以上、10倍以下に設定されるのかが不明というものであるが、本件訂正により、本件発明1は、「前記撮像データに基づき、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定」(前記訂正事項2)し、付加パターンの面積は、「前記皮膚の皮丘部の平均的な面積」(前記訂正事項3)を基準として1/10以上、10倍以下に設定されることが明確となったから、取消理由(決定の予告)は解消している。
第5 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1) 新規性の欠如
本件発明1は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、本件発明1に係る特許は特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
(2) 進歩性の欠如
ア 本件発明1は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
イ 本件発明2は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(3) 明確性要件違反
本件発明1及び3に係る特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(4) サポート要件違反
本件発明1-3に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(5) 実施可能要件違反
本件発明1―3に係る特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
2 当事者が提出した証拠
(1) 申立人が提出した証拠
申立人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲1号証:Miura, N et al., “Visualizing surface strain distribution of facial skin using stereovision", Theoretical & Applied Mechanics Letters 6, 2016年6月2日, pp.167-170
甲2号証:三浦 渚 ほか,“三次元画像相関法を用いた顔面皮膚表面ひずみ測定”,日本機械学会論文集(A編),2013年6月,79巻,802号,pp.774-778
甲3号証:間下 友加里 ほか,“皮溝・皮丘が皮膚内光伝播に与える影響”,日本機械学会(No.05-66)第18回バイオエンジニアリング講演会 講演論文集,2006年1月13日、pp.409-410
甲4号証:特開2007-333647号公報
甲5号証:特表2010-518359号公報
甲6号証:Palanca, M et al., “The use of digital image correlation in the biomechanical area: a review”, International Biomechanics, 2015年12月21日, Vol.3, No.1, pp.1-21
甲7号証:特開2017-9598号公報
甲8号証:特表2015-534637号公報
甲9号証:特表2009-518125号公報
以下、甲1号証などを、単に「甲1」などという。
(2) 特許権者が提出した証拠
特許権者が提出した証拠は以下のとおりである。
乙1号証:間下 友加里 ほか,“皮溝・皮丘が皮膚内光伝播に与える影響”,日本機械学会(No.05-66)第18回バイオエンジニアリング講演会 講演論文集,2006年1月13日、pp.409-410
乙2号証:特開2013-205571号公報
なお、乙1号証は甲3号証と同じものである。
3 当審の判断
(1) 当審の判断の概要
以下で検討するとおり、本件訂正後の請求項1-3に係る特許は、前記1に示した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
(2) 各甲号証の記載事項等
ア 甲1発明
甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「顔の皮膚上の歪み分布を計測し可視化する方法であって、人の顔の変位分布を得るために、デジタル画像相関に基づく立体視技術を採用し、一対の高速度カメラを用いて得られた連続画像から、顔の皮膚表面の動きの時間変化を取得し、計測された変位から表面に沿って変位を微分することにより、顔の皮膚表面の歪みを求め、開発したシステムを、発声時の顔の皮膚の歪みの計測に適用し、(167頁右欄5~16行)
開発したシステムを用いて、しわの生成と歪みの関係について議論することが可能であり、(167頁右欄17~19行)
画像間の良好な相関を得るために、メイクアップエアブラシを用いて顔の表面にランダムパターンを作成し、(167頁右下欄23行~168頁左欄2行)
正確な計測を行うために、複数のセンサを用いて強度パターンをオーバーサンプリングするようにランダムパターンの大きさを選択し、(168頁左欄3~6行)
各ランダムパターンを10~40画素でオーバーサンプリングし、次に複数の光源で顔を照明し、顔の画像は2台の高速度カメラを用いて記録され、デジタル画像相関法を用いて、ステレオペアの画像間の対応点を決定し、変形前と変形後の顔の表面の3次元座標を求め、変位は変形前の座標から変形後の座標を差し引くことによって得られる、(168頁左欄6行~右欄3行)
方法」
イ 甲2発明
甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「三次元画像相関法を用いた顔面皮膚表面ひずみ測定の方法であって、(タイトル)
測定装置は2台の高速カメラと光源で構成されており、(775頁14行)
測定前に被験者の顔に画像相関を行いやすくするためにエアブラシでランダムパターンを塗布し、(775頁15~16行)
画像の明暗をはっきり撮影できるように2台の光源を利用し、(775頁16行)
三次元デジタル画像相関法はステレオ法の原理に基づいており、この方法では、2台のカメラで撮影された2枚1組の画像を用い、同一点を画像相関により探索してその点の三次元座標上の位置を求め、その探索を顔面全体に行うことで顔面皮膚表面の変形前後の形状を求め、その差分を変位として算出し、変位を皮膚表面に沿って微分することでひずみを求めることができ、無表情の場合を基準(変形前)として変位及び歪みを算出し、(775頁17~21行)
目尻ではしわの線の方向とひずみ方向は直交し、目下では平行である、(775頁30~31行)
方法」
(3) 新規性について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも次の相違点1-1において相違する。
<相違点1-1>
本件発明1の変位検出工程においては、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、皮膚の表面に付加された付加パターンの双方を解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出するのに対して、甲1発明は、顔の画像は2台の高速度カメラを用いて記録され、デジタル画像相関法を用いて、ステレオペアの画像間の対応点を決定し、変形前と変形後の顔の表面の3次元座標を求め、変位は変形前の座標から変形後の座標を差し引くことによって得られるものの、しわ等の皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、ランダムパターンの双方を解析するかどうか不明である点。
イ 判断
本件発明1と甲1発明は、前記アで示した相違点1-1において相違するから、両者は同一の発明ではない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張内容
申立人は前記アの相違点1-1について、次の主張をしている。
高速度カメラを用いて撮影された連続画像には、ランダムパターンとともに、しわも当然に撮影されていることから、甲1には、本件発明の「前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程」が記載されていると認められる。
(イ) 申立人の主張についての検討
甲1発明においては、ランダムパターンの撮影に伴い、しわなどの皮膚の表面に表れる幾何学的パターンも撮影されていると認められるが、ランダムパターンと幾何学的パターンを撮影することは、ただちにランダムパターンと幾何学的パターンを解析することを意味しない。
実際、甲1発明は顔の表面の3次元座標から変位を求めており、しわを解析することを開示するものではない。また、ランダムパターンについては、画像同士の良好な相関を得るためのものであるところ、甲1において画像相関技術はステレオペアの画像間の対応点を決定するために用いられることが開示されるにとどまり、変位を求める際にランダムパターンを用いて画像相関を行うことは開示されていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
本件発明1は、特許法29条1項3号には該当せず、本件発明1に係る特許は特許法29条1項の規定に違反してされたものではない。
(4) 進歩性について
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
(ア) 本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲1発明の両者は、前記(3)アで示したとおり、少なくとも次の相違点1-1において相違する。
<相違点1-1>(再掲)
変位検出工程において、本件発明1は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンを解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出するのに対して、甲1発明は、顔の画像は2台の高速度カメラを用いて記録され、デジタル画像相関法を用いて、ステレオペアの画像間の対応点を決定し、変形前と変形後の顔の表面の3次元座標を求め、変位は変形前の座標から変形後の座標を差し引くことによって得られるものの、しわ等の皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、ランダムパターンの双方を解析するかどうか不明である点。
b 判断
申立人の提出する全証拠を精査しても、変位検出工程において、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンの両方を解析することを開示又は示唆する証拠は示されておらず、相違点1-1に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件発明1は相違点1-1に係る構成により、「多数の測定点を使って高精度に皮膚の歪みを検出することができる」(本件訂正後の本件明細書等(以下「本件訂正明細書等」という。)【0027】)との効果を奏するものである。
c 申立人の主張について
(a) 申立人の主張内容
申立人は前記aの相違点に関し、次の主張をしている。
画像相関法において、内在するテクスチャー又は不均質性によって、試料に自然にランダムパターンが存在している場合、これをデジタル画像相関(DIC)システムで直接利用することができることが周知技術であるところ(例えば、甲6参照)、皮膚におけるメラニン色素、肌のきめ、皮膚の孔等を画像相関法において利用する技術も周知である(例えば、甲7~9)。また、甲2において「測定前に被験者の顔に画像相関を行いやすくするためにエアブラシでランダムパターンを塗布した。」と記載されるように、顔に塗布されるランダムパターンは画像相関をより行いやすくするための付加的な手段であることも周知である。
したがって、画像相関法において、皮膚に適用される力の作用の前後で皮膚の変位を検出するときに、皮膚に内在するメラニン色素、肌のきめ、皮膚の孔等を使用したり、エアブラシのランダムパターンを使用したり、あるいは、これらの両方を使用したりすることは、単なる設計事項であり、要する精度、コスト等を踏まえて、当業者ならば適宜設定し得ることである。
(b) 申立人の主張についての検討
まず、甲1において画像相関技術はステレオペアの画像間の対応点を決定するために用いられることが開示されるにとどまり、変位を求める際にランダムパターンを用いて画像相関を行うことは開示されていないことは前記(3)ウ(イ)でも説示したとおりであり、甲1発明が皮膚に適用される力の作用の前後で皮膚の変位を検出するときに画像相関法を利用するものであるとの認定を前提とする申立人の主張は、その前提において誤りがあり採用できない。
また、申立人の挙げる甲2、6~9を精査しても、変位検出工程において、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンの両方を解析することは開示も示唆もされていない。特に、申立人の「顔に塗布されるランダムパターンは画像相関をより行いやすくするための付加的な手段である」との主張について検討すると、甲2にはランダムパターンが「付加的な手段」である旨の記載はないし、甲2では、そもそも皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを解析することは開示されていないから、仮にランダムパターンが「付加的な手段」であったとしても、そのことが、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンの両方を解析することを意味するものでもない。
また、本件発明1は前記相違点1-1に係る構成により、「多数の測定点を使って高精度に皮膚の歪みを検出することができる」(本件訂正明細書等【0027】)との効果を奏するものであることを勘案すれば、当該構成を単なる設計事項ということはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(イ) 本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも次の相違点2-1において相違する。
<相違点2-1>
変位検出工程において、本件発明1は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンを解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出するのに対して、甲1発明は、顔の画像は2台の高速度カメラを用いて記録され、デジタル画像相関法を用いて、ステレオペアの画像間の対応点を決定し、変形前と変形後の顔の表面の3次元座標を求め、変位は変形前の座標から変形後の座標を差し引くことによって得られるものの、しわ等の皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、ランダムパターンの双方を解析するかどうか不明である点。
そして、相違点2-1は相違点1-1と同内容であり、前記(ア)bで検討したのと同様の理由により、相違点2-1に係る本件発明2の構成は当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
イ 甲2発明を主引用発明とした場合
(ア) 本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも次の相違点1-2において相違する。
<相違点1-2>
変位検出工程において、本件発明1は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンを解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出するのに対して、甲2発明は、2台のカメラで撮影された2枚1組の画像を用い、同一点を画像相関により探索してその点の三次元座標上の位置を求め、その探索を顔面全体に行うことで顔面皮膚表面の変形前後の形状を求め、その差分を変位として算出し、変位を皮膚表面に沿って微分することでひずみを求めるものの、しわ等の皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、ランダムパターンの双方を解析するかどうか不明である点。
b 判断
相違点1-2に係る本件発明1の構成は、本件発明1と甲1発明の相違点である相違点1-1に係る本件発明1の構成と同じであり、前記ア(ア)bで検討したのと同様の理由により、相違点1-2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
c 申立人の主張について
申立人の主張は、甲1発明を主引用発明とした場合の前記(3)ウ(ア)及び前記ア(ア)c(a)の主張と同様であり、前記(3)ウ(イ)及び前記ア(ア)c(b)に説示したのと同様の理由により採用できない。
(イ) 本件発明2について
本件発明2と甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも次の相違点2-2において相違する。
<相違点2-2>
変位検出工程において、本件発明1は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、付加パターンを解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出するのに対して、甲2発明は、2台のカメラで撮影された2枚1組の画像を用い、同一点を画像相関により探索してその点の三次元座標上の位置を求め、その探索を顔面全体に行うことで顔面皮膚表面の変形前後の形状を求め、その差分を変位として算出し、変位を皮膚表面に沿って微分することでひずみを求めるものの、しわ等の皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンと、ランダムパターンの双方を解析するかどうか不明である点。
そして、相違点2-2は相違点1-2と同内容であり、前記(ア)bで検討したのと同様の理由により、相違点2-2に係る本件発明2の構成は当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 小括
本件発明1-2は、甲1号証又は甲2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1-2に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
(5) 明確性要件について
ア 申立人は、設定登録時の請求項1の「前記皮膚の皮丘部と同程度の面積」という記載が不明確である旨を主張するが、この点は、本件訂正後の請求項1で「前記皮膚の皮丘部の平均的な面積の1/10以上、10倍以下の面積」と特定されたことにより解消した。
イ 申立人は、設定登録時の請求項3に係る発明は発明特定事項が不足していることが明らかである旨を主張するが、この点は、本件訂正後の請求項3で「第1撮像データ取得工程」、「第2撮像データ取得工程」、「変位検出工程」が特定されたことにより解消した。
ウ 申立人は、設定登録時の請求項3の「前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドット」という記載が不明確である旨を主張するが、本件訂正後の請求項3では、「皮膚の状態に出来して前記皮膚の表面に表れる肌理による幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程」と、「前記取得した幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンの大きさを判定する大きさ判定工程」が特定されるとともに、「前記幾何学的パターンの大きさに係る情報に基づき前記幾何学的パターンが検出できない場合は、前記大きさ判定工程の判定結果に応じた寸法形状の付加パターンを複数含むドットパターンを前記皮膚に付加すること」が特定されたことにより解消した。
(6) サポート要件について
ア(ア) 申立人は、本件訂正明細書等の【0004】には、「このような弱い力によって生じる歪みは、皮膚感覚に影響し」と記載されているところ、請求項1-3に係る発明は、皮膚に適用する力について何ら特定されておらず、皮膚に適用する力として、弱い力に該当しないカミソリを押し当てる強い力も包含していること、発明の詳細な説明には、課題を解決するための手段として、皮膚に適用する力として、皮膚に触ることなく作用する力を採用する手段が記載されるのみであること、したがって、請求項1-3係る発明は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえないことを主張している。
(イ) しかしながら、請求項1-3に係る発明が解決しようとする課題は、「皮膚感覚に影響する規模の皮膚の歪みを検出することができる、皮膚の歪み測定方法…を提供すること」であり(本件訂正明細書等【0004】)、その解決手段は、「皮膚の状態に由来して皮膚の表面に現れる幾何学的パターン」を撮像、解析して力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出することであり、請求項1-3に係る発明には当該解決手段が反映されている。
なお、請求項1-3に係る発明は、「皮膚の少なくとも表面に加わる力」がどのような力かを特定するものではないが、当該力がどのような力かは発明の課題を解決するための手段ではないし、請求項1-3に係る発明はその測定原理からみて、特定の力の大きさでなければ皮膚の歪みを測定できないものと解すべき事情はないから、当該力が「弱い力」であることを記載する発明の詳細な説明の記載を拡張又は一般化できないと判断することはできない。
イ(ア) 申立人は、請求項1、3に係る発明は、付加パターンの個数について特定されておらず、付加パターンが1個の構成も包含すること、請求項1-3に係る発明は、複数の付加パターンが付加されたときに、付加パターン間の距離について特定されていないこと、発明の詳細な説明には付加パターンの距離が0.29mm以下とすることが記載されるのみであり(本件訂正明細書等【0031】)、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとはいえない旨を主張している。
(イ) ここで、請求項1-3に係る発明は「皮膚の歪み測定方法」であるところ、本件訂正明細書等の【0011】の「なお、本発明では、測定点の位置の移動量や移動の方向を「変位」と記す。そして、本発明でいう「歪み」は、複数の測定点の変位を重ね合わせた変位全体を指すものとする。」との記載から見て、歪みを測定するためには複数の測定点が必要であることが理解できる。
そして、請求項1-3に係る発明は、当該測定点として、「皮膚の表面に現れる幾何学的パターン」と、「付加パターン」を用いることが特定されているから、歪みを測定するために必要な複数の測定点であることが特定されているといえる。
また、付加パターン間の距離について検討すると、申立人の主張は、単に発明の詳細な説明に記載されている好ましいとされる事項が請求項に記載されていないことを指摘するにとどまるものであり、発明が解決しようとする課題やその解決手段に照らして拡張又は一般化できないことを示すものではなく、採用できない。
ウ(ア) 申立人は、請求項1で規定される「幾何学的パターン」には皮丘に関する肌理以外に、シワやアザなども包含するが、発明の詳細な説明には、「前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部と同程度の面積を有する」なる規定を採用するときに、「幾何学的パターン」として、肌理を採用することのみしか記載されていないから、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとはいえない旨を主張している。
(イ) まず、本件訂正明細書の【0012】に「「幾何学的パターン」とは、被験者の顔の正面視において、線を含んで形成された形状が目視によって確認できるパターンを指す。このようなパターンとしては、例えば、皮膚の肌理やシワ、シミ、ホクロ、アザ、ソバカス及び毛穴等を用いることが考えられる。」と記載されているとおり、本件発明1の「幾何学的パターン」は、肌理以外にもシワ等を含むものであることが理解できる。
ここで、本件訂正後の請求項1に係る発明の「前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部の平均的な面積の1/10以上、10倍以下の面積を有するように設定されている」ことの技術上の意義について本件訂正明細書等の【0028】の記載を参酌すると、「このようにすれば、第3実施形態は、肌理に基づく測定点とドットパターンに基づく測定点とを凡そ均一な大きさ及び密度にすることができる。そして、均一な大きさ及び密度で配置された測定点に基づいて皮膚の歪みを検出し、皮膚に生じる皮膚の歪みを高精度に検出することができる。測定点の大きさを肌の肌理と同程度にする理由は、日常生活における皮膚の伸縮は皮溝の伸縮によることによる。」と記載されている。
当該記載のうち、「測定点の大きさを肌の肌理と同程度にする理由は、日常生活における皮膚の伸縮は皮溝の伸縮による」との技術上の意義は、「幾何学的パターン」として肌理を用いる場合のみならず、シワ等の他の幾何学的パターンを用いる場合においても、測定点としての「付加パターン」の大きさが皮膚の伸縮の単位となる肌理と同程度となる点で共通する技術上の意義であるといえるから、「幾何学的パターン」として肌理以外を用いる場合であっても、「前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部の平均的な面積の1/10以上、10倍以下の面積を有するように設定されている」なる規定を採用できるものと認められる。
エ 申立人は、設定登録時の請求項3に係る発明について、「皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に現れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程」及び「前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付与工程」を含んでいるが、その他の工程について何ら規定されておらず、出願時の技術常識に照らしても、請求項1-3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとはいえない旨を主張するが、この点については前記(5)イに示したのと同様の理由により解消した。
(7) 実施可能要件について
ア 申立人は、請求項1には、付加パターンの個数について何ら特定されておらず、請求項1-3には、複数の付加パターンが付加されたときに、付加パターン間の距離について何ら特定されていないことを根拠に実施可能要件違反である旨を主張しているが、この点については前記(6)イ(イ)に示したとおりである。
イ 申立人は、請求項1について、請求項1で規定される「幾何学的パターン」には皮丘に関する肌理以外に、シワやアザなども包含するが、発明の詳細な説明には、「前記付加パターンは、前記皮膚の皮丘部と同程度の面積を有する」なる規定を採用するときに、「幾何学的パターン」として、肌理を採用することのみしか記載されていないことを根拠に実施可能要件違反である旨を主張しているが、この点については前記(6)ウ(イ)に示したとおりである。
ウ 申立人は、設定登録時の請求項3について、「皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に現れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程」及び「前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付与工程」以外の工程については何ら特定されていないことを根拠に実施可能要件違反である旨を主張しているが、この点については前記(5)イに示したのと同様の理由により解消した。
第6 むすび
以上検討のとおり、本件発明1-3に係る特許は、先の取消理由及び取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1-3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700745