特許異議申立
2022-700614
フライ用ミックス粉、フライ用バッター、及びフライ製品
- 審判番号
- 2022-700614
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-061116
- 登録番号
- 6990901
- 請求日
- 2022年07月11日
- 審決日
- 2022年11月04日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】熊本製粉株式会社
- 【異議申立人】増井 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 三上 晶子
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6990901号発明「フライ用ミックス粉、フライ用バッター、及びフライ製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6990901号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6990901号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月27日を出願日とする特許出願であって、令和3年12月9日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、令和4年1月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月11日に特許異議申立人 増井 隆(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし7)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含み、揚げ後の衣層に具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有するフライ製品の真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できるパン粉付けフライ用のミックス粉であって、
前記膨張剤は、ガス発生用として作用する炭酸水素ナトリウムを含み、
前記ミックス粉全質量中の前記炭酸水素ナトリウムの含有量が0.232質量%以上である、ことを特徴とする、フライ用ミックス粉。
【請求項2】
食物繊維をさらに含んでいる、請求項1に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項3】
前記澱粉が、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びタピオカ澱粉からなる群より選択された1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項4】
前記糖類として麦芽糖、トレハロース及び乳糖から選択され、又は、前記糖アルコールとしてソルビトールが選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉と、水と、を含む、ことを特徴とするフライ用バッター。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉、又は請求項5に記載のフライ用バッターにより製造された、ことを特徴とするフライ製品。
【請求項7】
揚げ後の衣層に、具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有する、請求項6に記載のフライ製品。」
第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由はおおむね次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明は、「揚げ後の衣層に具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有するフライ製品の真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できるパン粉付けフライ用のミックス粉であって、」という構成要件を含んでいる。
しかしながら、前述したように、真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できるかどうかは、フライ用ミックス粉の組成だけで決まるものではなく、甲第9号証に示されるように、真空冷却の冷却方法によっても変わってくることであるから、上記構成要件を備えるフライ用ミックス粉であるか否かについて、当業者であってもその境界について理解することができない。
このように、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2~7に係る発明は、その技術的範囲が明確でない。
3 証拠方法
・甲第1号証:特開2004-57041号公報
・甲第2号証:特開平10-309171号公報
・甲第3号証:特開平11-46711号公報
・甲第4号証:製菓・洋菓子材料の通信販売サイト TFOODS.COMのアイコク/ベーキングパウダーFアップの紹介欄、URL:https://store.tfoods.com/shop/g/g21019/、2022年7月6日ダウンロード
・甲第5号証:特開2003-79333号公報
・甲第6号証:特開2006-115713号公報
・甲第7号証:特開2007-6770号公報
・甲第8号証:特開2007-181425号公報
・甲第9号証:特開平5-223425号公報
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載にしたがった。
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、特許異議申立人が申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。
1 申立理由1(進歩性)について
(1) 主な証拠の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「バッター用ミックス粉」について、次の記載がある。(なお、下線は当審において付したものである。)
「【請求項1】
(A)デキストリン及び/又はトレハロース及び/又はソルビトールと、(B)有機酸モノグリセリド及びショ糖脂肪酸エステルと、(C)アルカリ剤とを含むことを特徴とするバッター用ミックス粉。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵保存後に再加熱しても衣の食感が良好に維持されるバッター用ミックス粉に関する。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、揚げ物の衣の食感を改善するために様々な技術が提案されているが、油ちょう後に時間が経過した場合や、電子レンジ等で再加熱した場合における衣の食感の劣化防止に対して、十分に満足できる技術は未だ見出されていないのが現状である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、油切れがよく、油ちょう直後の衣の食感が良好で、この食感の経時的変化が少なく、冷凍、冷蔵保存後に再加熱しても衣の食感が良好に維持されるバッター用ミックス粉を提供することにある。」
「【0030】
本発明のミックス粉は、上記成分の他に、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、とうもろこし粉、米粉等の穀粉類、コーンスターチ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、ワキシー澱粉、サゴ澱粉等の澱粉類やそれらの化工澱粉、大豆油、菜種油、ショートニング等の油脂類、大豆蛋白、えんどう蛋白質、小麦蛋白、卵蛋白、乳蛋白等の蛋白素材、膨脹剤、食物繊維、増粘多糖類、糖類、調味料、香辛料、他の乳化剤、ビタミン類、ミネラル類等を含むことができる。
【0031】
本発明のミックス粉は、カラ揚げ、天ぷら、フリッター、コロッケ、トンカツ、エビフライ、魚フライ、カキフライ等の各種揚げ物のバッターとして使用することができ、中でも、コロッケ、トンカツ、エビフライ、魚フライ、カキフライ等の具材にバッターを付けた後、更にパン粉等を付着させた揚げ物、いわゆるフライ食品に好適に使用することができる。」
「【0039】
実施例2~6、比較例7(トンカツ)
表2に示す配合組成のバッター用ミックス粉100質量部に、表2に示す量の冷水を加えてバッター液を調製した。このバッター液を、小麦粉(100%)の打粉を付けた50gの豚肉に付け、更に3メッシュの生パン粉を付けた後、ブラストフリーザー(-30℃)で急速凍結した。そして、この冷凍トンカツを-18℃の冷凍庫内で1ヶ月保存した後、175℃のサラダ油で6分間油ちょうした。得られたトンカツを室温にて10分間放置したもの(直後)、室温にて6時間放置したものの食感について、試験例1と同様にして評価した。その結果を表2に併せて示した。
【0040】
【表2】
[図:0001392067000001.jpg]
【0041】
表2から、デキストリン又はトレハロース、有機酸モノグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、アルカリ剤を含むバッター用ミックス粉を用いた実施例のトンカツは、比較例に比べて油ちょう直後の衣の食感に優れ、時間が経時しても良好な食感を維持していることが分かる。特に、DE3のデキストリンを含む実施例5は衣の食感が優れている。」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に実施例2ないし4の記載を中心にまとめると、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認める。
「小麦粉と、ワキシーコーンスターチと、トレハロースと、膨張剤とを含み、パン粉付けトンカツに使用するバッター用ミックス粉。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ワキシーコーンスターチ」、「トレハロース」は、本件特許発明1の「澱粉」、「糖類」に相当する。
また、甲1発明の「トンカツ」は、本件特許発明1の「フライ」に相当することも明らかである。
してみると、両者は、
「小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含む、
パン粉付けフライ用のミックス粉。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
フライミックス粉について、本件特許発明1は「揚げ後の衣層に具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有するフライ製品の真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できる」ものである旨の特定を有するのに対し、甲1発明にはそのような特定を有しない点。
(相違点2)
フライミックス粉に含まれる膨張剤に関し、本件特許発明1は「前記膨張剤は、ガス発生用として作用する炭酸水素ナトリウムを含み、前記ミックス粉全質量中の前記炭酸水素ナトリウムの含有量が0.232質量%以上である、」との特定を有するのに対し、甲1発明にはそのような特定を有しない点。
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲第1号証には、「膨張剤」を含む旨の記載はあるものの、「炭酸水素ナトリウム」を膨張剤として添加すること、さらには、その添加量を調整することについて何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件特許発明1は、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、フライ製品をフライ後に短時間で真空冷却しても、衣層の破裂や具材の飛び出し現象を低減できるフライ用ミックス粉を提供するとの、格別の効果を奏するものである。
この点に関し、特許異議申立人は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証を提示しつつ、膨張剤として炭酸水素ナトリウムを0.232質量%以上とすることは、一般的に配合されていた割合にすぎない旨主張する。
しかしながら、甲第1号証において、特に膨張剤として炭酸水素ナトリウムを所定量用いることを示唆する記載、あるいは動機付けはなく、また、いずれの証拠をみても、膨張剤として炭酸水素ナトリウムを所定量用いることにより、フライ製品をフライ後に短時間で真空冷却しても、衣層の破裂や具材の飛び出し現象を低減できるとの効果を示唆する記載もない。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし7も同様に、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立理由1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。
2 申立理由2(明確性要件)について
(1) 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 本件特許発明における明確性要件の判断
本件特許発明1は、「フライ用ミックス粉」であって、「小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含み、」「前記膨張剤は、ガス発生用として作用する炭酸水素ナトリウムを含み、」「前記ミックス粉全質量中の前記炭酸水素ナトリウムの含有量が0.232質量%以上である」ことが特定されており、その記載は明確である。
本件特許発明2ないし7についても、同様に判断される。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、請求項1(本件特許発明1)における「揚げ後の衣層に具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有するフライ製品の真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できるパン粉付けフライ用のミックス粉であって、」との記載を取りあげ、その効果は種々の条件に左右されるものであるから、本件特許発明1及び請求項1の記載を直接又は間接的に引用し特定する本件特許発明2ないし7は明確ではない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1は、「フライ用ミックス粉」の発明であって、当該フライミックス粉に含まれる材料及び膨張剤である炭酸水素ナトリウムの含有量が特定されていることからみて、その発明は明確である。
なお、特許異議申立人が主張する点は、本願明細書の発明の詳細な説明の【0026】ないし【0030】の記載や実施例の記載をみるに、膨張剤である炭酸水素ナトリウムを所定量添加した際に得られる定性的な効果であると当業者であれば判断できるものであって、上記の判断に影響しない。
(4) 申立理由2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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