特許異議申立
2022-700559
建物設計支援システム及び建物設計支援プログラム
- 審判番号
- 2022-700559
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-130998
- 登録番号
- 6994854
- 請求日
- 2022年06月27日
- 審決日
- 2023年01月13日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】田中 貞嗣
- 【権利者代理人】小山 卓志
- 【権利者代理人】片寄 武彦
- 【権利者代理人】米澤 明
- 【権利者代理人】内田 亘彦
- 【権利者代理人】蛭川 昌信
- 【権利者代理人】阿部 龍吉
- 【異議申立人】犬塚 直樹
- 審判長/審判官
- 審判長 五十嵐 努
- 審判官 田中 啓介
- 審判官 木方 庸輔
- 分類
- P1651.121-Y (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6994854号発明「建物設計支援システム及び建物設計支援プログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6994854号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6994854号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る発明についての出願は、平成29年7月4日を出願日とする出願であって、令和3年12月16日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和4年1月14日)がされた。
その後、令和4年6月27日に特許異議申立人犬塚直樹により請求項1~5に対して特許異議の申立てがされた。
2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
〔本件発明1〕【請求項1】
環境振動に基づく建物の振動対策を考慮するために必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する建物設計支援システムであって、
各入力部で入力されたデータに応じて必要となる環境振動解析用プログラムの種別を記憶するテーブルと、
建物の建設予定地に関するデータを入力する建設予定地入力部と、
前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータを入力する建物仕様入力部と、
前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータを入力する環境振動源入力部と、
前記各入力部で入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示部と、
を有することを特徴とする建物設計支援システム。
〔本件発明2〕【請求項2】
複数の環境振動解析用プログラムを記憶する解析用プログラムデータベースと、
前記表示部で表示された環境振動解析用プログラムを、前記解析用プログラムデータベースから取得し実行する実行部と、をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の建物設計支援システム。
〔本件発明3〕【請求項3】
環境振動に基づく建物の振動対策を考慮するために必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する建物設計支援システムであって、
複数の環境振動解析用プログラムを記憶する解析用プログラムデータベースと、
各入力部で入力されたデータに応じて必要となる環境振動解析用プログラムの種別を記憶するテーブルと、
地図データを記憶する地図データベースと、
建物の建設予定地に関するデータを入力する建設予定地入力部と、
前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータを入力する建物仕様入力部と、
前記地図データベースを参照して、前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータを入力する環境振動源入力部と、
前記各入力部で入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示部と、
を有することを特徴とする建物設計支援システム。
〔本件発明4〕【請求項4】
前記表示部で表示された環境振動解析用プログラムを実行する実行部をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の建物設計支援システム。
〔本件発明5〕【請求項5】
コンピュータに、環境振動に基づく建物の振動対策を考慮するために必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する処理を実行させるための建物設計支援プログラムであって、
前記コンピュータは、各入力部で入力されたデータに応じて必要となる環境振動解析用プログラムの種別を記憶するテーブルを有し、
前記コンピュータに、
建物の建設予定地に関するデータの入力を促す建設予定地入力ステップと、
前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータの入力を促す建物仕様入力ステップと、
前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータの入力を促す環境振動源入力ステップと、
前記各入力ステップで入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示ステップの各ステップを実行させることを特徴とする建物設計支援プログラム。
3 特許異議申立理由
特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(理由1:進歩性)
本件発明1~本件発明2、本件発明5は、甲1号証~甲5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3~本件発明4は、甲1号証~甲6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1~5は、特許法第29条第2項の規程に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2002-294902号公報
甲第2号証:日本建築学会、「環境振動性能設計ハンドブック」、社団法人日本建築学会、2010年10月25日、第12頁~第17頁
甲第3号証:樫村俊也、「環境振動性能の明示・合意形成ツール「V-TRAIN」によるリスク低減事例」、第28回環境振動シンポジウム、環境振動における予測・シミュレーション技術の最前線、社団法人日本建築学会、2010年1月19日、第49頁~第58頁
甲第4号証:特開2004-150032号公報
甲第5号証:世良信次「建築構造設計と振動解析の基礎(その1)」、[online]、2011年11月26日、(社)日本建築構造技術者協会、関東甲信越支部 JSCA埼玉、[令和4年6月8日検索]、インターネット<URL:http://cera.world.coocan.jp/sakusaku/first-vibration.pdf>
甲第6号証:特開2013-152197号公報
4 甲号証について
(1)甲第1号証について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。(なお、下線は当審が関連箇所に付したものである。以下、同様。)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建物の振動対策法に係り、特に、建築地周辺の振動源から伝播される振動に対して建物が影響を受けにくく、居住性を向上させることができる建物の振動対策法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建物を設計するとき、主に建物及びその敷地について、構造安全性の観点から設計がされ、周辺からの振動に対して考慮することなく設計している。すなわち、建築地の近隣に鉄道や幹線道路等の環境振動源がある場合でも、振動対策を講ずることなく、建築地の地目や、用途地域指定等に沿って、建築基準法に基づいた設計が行われているのが現状である。」
「【0004】・・・その目的とするところは、建物を設計する際に、建築地周辺の振動源を調査して、その振動と建物の振動特性を比較して、事前に振動に対する居住性を考慮して設計することができる建物の振動対策法を提供することにある。」
「【0011】・・・建物1を建築しようとする建築地2は周辺に振動源3として鉄道が存在しており、振動源3と建築地2とを結ぶ伝播経路4を介して振動源3から建築地2に振動が伝播される。建物の設計者は、設計に先立ち、建築地2周辺の振動源の状況を現地調査し(ステップS10)、振動源について特定をする。例えば、建築地2から数100m離れて幹線道路が走っている場合や、数km先に鉄道が走っている場合等を調査し、その振動源の振動特性を推定する。すなわち、振動源の種類、能力、地盤等により、その大きさや周波数特性等を把握する。振動源としては、他に近隣に工場やプラント、工事現場等がある場合は調査する。そして、必要に応じて振動データを実測し、振動源の振動特性を入力する(ステップS11)。
【0012】次に、建築地2周辺の地盤情報データベースの調査を行う(ステップS12)。この調査は、例えば近隣の既往のボーリング調査データやスウェーデン式サウンディング法による調査データを使用し、建築地2周辺の地層構造やN値について実施する。ボーリング調査データは建築地2を囲むように複数のデータがあることが好ましく、これにより建築地2の地層構造がある程度正確に把握でき、振動源3から建築地2までの伝播経路4の特性を正確に判断することができる。例えば伝播経路4の途中に湿地等の軟弱地盤や強固な地盤が存在すると、振動源3から建築地2に伝播される振動は減衰させる場合や、増幅される場合が考えられる。従って、途中の伝播経路4の地盤の振動特性もコンピュータ内で地層構造やN値等のデータから推定し、振動源3の振動特性と照らし合わせ、どの程度増幅するか、或いは減衰するかを解析する。
【0013】・・・このようにして求めた振動の距離減衰量等の伝播経路の振動特性を、コンピュータに入力する(ステップS13)。」
「【0015】この後、建築地2においてスウェーデン式サウンディング法あるいは微動計測法等により地盤調査を実施する(ステップS14)。・・・
【0016】・・・このようにして、得られた建築地2の地盤構造の振動特性を入力する(ステップS15)。
【0017】最後に、建物1の仮設計をする(ステップS16)。建築地2の状況に合わせて建物の外形、間取りのプラン等を設計する。また建物1の構造も、木造、ユニット構造、コンクリート造等で、基本的な柱、梁から構成される仮設計を実施し、柱、梁から構成される構面の剛性等から建物1の振動解析を行い、固有周期等を算出して建物の振動特性を推定して入力する(ステップS17)。
【0018】前記のようにして得られた、振動源3の振動特性、伝播経路4の振動特性、建築地2の地盤の振動特性から、コンピュータは建築地2に伝播される入力振動を推定し、また建物1の振動特性から固有周期等の数値を推定する。そして、それらの数値に基づき、コンピュータは入力振動の振動特性と建物1の振動特性とを比較して振動に対して居住性に問題があるか、無いかの判断をする(ステップS18)。
【0019】・・・両方の振動特性が隔離して、振動面での居住性に問題が無ければ検討を終了する。
【0020】問題がある場合は、次ステップで建物1と建築地2の地盤のどちらに対策をするほうが有効かを判断する(ステップS19)。この判断に際し、コスト的にどちらが有効かについても判断することが好ましい。基本的には、建物側の構造である柱、梁、補剛等を調整して補剛を検討し、次の3つのケースに合致する場合は地盤側で対応する。・・・
【0021】また、建物1で対策する場合と、建築地2の地盤で対策する場合の両方の工法でコンピュータ内で試設計と見積もりをし、振動レベル(dB)を低減できる効果と、工法にかかる費用について、ある基準の下で点数付けし、有利な方に決定して対策する。
【0022】地盤の改良は、例えば建築地2に地盤凝固材を注入して地盤の振動特性を変化させることができる。また、基礎を布基礎からベタ基礎に変更することにより、振動をある程度遮断して振動特性を変更することができ、さらに地中に摩擦杭等を埋め込んで振動特性を変更することができる。このようにして、建築地2に伝播される入力振動と建物の振動特性を隔離させることができる。」
「【0024】このようにして、建物1の振動対策をする上で建築地2の地盤改良が有効か、建物1の補剛が有効かを判断して(ステップS19)、地盤改良が有効の場合、地盤改良工法の設計図書を作成して(ステップS20)終了する。また、建物1の補剛が有効の場合、建物の補剛構造計算を行い(ステップS21)、最終的に建物の構造設計を行い終了する。」
イ 甲1発明
上記アから、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
〔甲1発明〕
建物の設計者が建物を設計する際に、建築地周辺の振動源すなわち建築地の近隣にある鉄道や幹線道路等の環境振動源を調査して、その振動と建物の振動特性を比較して、事前に振動に対する居住性を考慮して設計する建物の振動対策法をコンピュータを用いて実行するシステムであって、(【0001】、【0002】、【0004】、【0012】、【0013】、【0018】、【0021】)
建物1を建築しようとする建築地2は周辺に振動源3として鉄道が存在しており、振動源3と建築地2とを結ぶ伝播経路4を介して振動源3から建築地2に振動が伝播され、(【0011】)
建築地2から数100m離れて幹線道路が走っている場合や、数km先に鉄道が走っている場合等を調査し、推定した振動源の振動特性が入力され、(【0011】)
建築地2周辺の地盤情報データベースの調査により、途中の伝播経路4の地盤の振動特性もコンピュータ内で地層構造やN値等のデータから推定し、求めた振動の距離減衰量等の伝播経路の振動特性が入力され、(【0012】、【0013】)
建築地2においてスウェーデン式サウンディング法あるいは微動計測法等により地盤調査を実施して、得られた建築地2の地盤構造の振動特性が入力され、(【0015】、【0016】)
最後に、建物1の仮設計において、建築地2の状況に合わせて建物の外形、間取りのプラン等を設計し、建物1の構造も、木造、ユニット構造、コンクリート造等で、基本的な柱、梁から構成される仮設計を実施し、柱、梁から構成される構面の剛性等から建物1の振動解析を行い、固有周期等を算出して推定した建物1の振動特性が入力され、(【0017】)
得られた、振動源3の振動特性、伝播経路4の振動特性、建築地2の地盤の振動特性から、コンピュータは建築地2に伝播される入力振動を推定し、また建物1の振動特性から固有周期等の数値を推定し、(【0018】)
それらの数値に基づき、コンピュータは入力振動の振動特性と建物1の振動特性とを比較して振動に対して居住性に問題があるか、無いかの判断を行い、(【0018】)
問題が無ければ検討を終了し、(【0019】)
問題がある場合は、建物1と建築地2の地盤のどちらに対策をするほうが有効かを判断し、(【0020】)
建築地2の地盤改良が有効の場合、地盤改良工法の設計図書を作成して終了し、(【0024】)
建物1の補剛が有効の場合、建物の補剛構造計算を行い、最終的に建物の構造設計を行い終了する(【0024】)
システム。
(2)甲第2号証について
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
「2.2.2 解説
a. 概要
交通振動に起因して発生する振動に対して、振動居住性設計を行う場合の設計上のポイントを示す。ここで対象とする振動は道路交通および鉄道交通により発生する鉛直方向および水平方向のものである。・・・
b. 基本計画
(1)設計クライテリアの設定
・・・
(2)構造計画
交通振動による居住環境の悪化が懸念される場合には、まずは距離減衰による振動低減を図るために、敷地内における建物位置を極力振動源から離すようにする。次に、建物へ振動が入力する際の入力損失を大きくするためのくふうを考える。基礎質量を大きくする、杭基礎の場合には耐圧板と地盤の間に空げきを設けるなどが有効な場合がある。
水平振動が問題となりそうな場合には、建物の水平剛性を高めることが振動低減に有効である場合が多いため、構造種別を鉄骨系からコンクリート系に変更したり、ブレースや耐震壁などの水平抵抗要素を配置したりすることを検討する。
鉛直振動が問題となりそうな場合には、床の固有振動数を調整することとなる。」(第13頁)
「(3)荷重条件設定
・・・
(4)加振力設定
高架(道路、橋)の場合には、高架から地盤を伝わって伝播する微小振動も主に水平方向2~3Hzの卓越振動数を有しており、特に2種地盤の場合には地盤の固有振動数とも近接するため、加振源、地盤、建物が共振現象を起こす可能性がある。
・・・
c. 振動の居住性設計
1.水平方向
(1)固有値解析と評価
・・・
(2)応答解析と評価
環境振動発生の可能性が示唆された場合には、詳細な積算法に移行し、検討を行う必要がある。解析に用いるモデルは、固有値解析で用いたモデルを準用するのが効率的である。
・・・
汎用解析プログラムの普及と計算機の高速化に伴って、加振源、伝播経路、受振体を一体とした大規模解析も可能となっている。しかし、設計の効率性に欠けるうえに、解析条件の設定によって解析結果は大きくばらつき、その妥当性を検証することはなかなか難しい。そこで、以下の[1]×[2]×[3]×[4](当審注:丸付き数字の〇を[]で代用した。以下、同様。)の掛け算で振動を求める方法をとり、[4]の「建物における共振増幅」に対してのみ詳細にモデル化し解析を行い、振動居住性設計を行うことを薦める。
[1]加振源の振動
[2]地盤の距離減衰
[3]建物への入力損失
[4]建物における共振増幅
・・・
II. 鉛直方向
(1)固有値解析と評価
柱・梁材をビーム要素とし、床スラブをシェル要素とした有限要素モデルを作成し、固有値解析を行うのが一般的である。
・・・
(2)応答解析と評価
応答解析におけるポイントは水平振動の場合と同様である。」(第14頁~第16頁)
イ 甲2技術
上記アから、甲第2号証には、次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
〔甲2技術〕
交通振動に起因して発生する振動に対して、汎用解析プログラムを用いた大規模解析を行ったり、加振源の振動、地盤の距離減衰、建物への入力損失、建物における共振増幅などの情報を用いてモデル化して解析を行ったりして、振動居住性設計を行う技術。
(3)甲第3号証について
ア 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、次の記載がある。
「筆者らはここでは事後に確実に検証される環境振動の概要を予測するツールを開発したがここではそのツールの概要を1.理論、2.具体的内容、3.リスクコミュニケーション事例の順で述べる。
1.簡易予測の理論
1.1ツールの機能と特徴
加振源から加振~受振の伝搬経路を通じて建物内での応答値や制振効果を安全側に簡易予測するため下記の[1]×[2]×[3]×[4]で評価する。
[1]外部発生振動の周波数特性
[2]地盤の距離による減衰特性
[3]建物への入力損失
[4]建物における共振増幅」(第49頁左欄第16行~第29行)
「[4]建物における共振増幅
建物における共振増幅は、水平方向については建物全体の水平の固有振動数による共振増幅を、鉛直方向については床スラブの固有振動数よる共振増幅を考慮している。
・・・ここで、回帰式の信頼性を高めるためにデータの母数を下記の「床に関する基礎情報」に基づき絞りこむことを考える。利用者は、I~VIの中で、予測を行う床の着目情報に併せてデータの有効母数を決定する。
床に関する基礎情報
I建設時期 II建設地 III室用途 IV梁の構造形式 V床の構造形式 VI床のスパン」(第50頁右欄)
「2.ツール「V-TRAIN」概要
2.1目的
本ツールの目的は、建築主との合意形成を早期にはかるきっかけとして、速報的に振動を予測することである。」(第52頁右欄第21行~第25行)
「2.3インプット項目
計算に必要なデータは、加振源データ(データベース[以下DB]より選択)、周辺環境データ、建物諸元鉛直・水平データである。」(第53頁左欄第22行~第25行)
「(1)床振動の固有振動数と減衰の保有データ活用
床1次固有振動数については、内部計算では4辺支持板の略算式に1.5倍の周辺固定度と小梁による剛性増大率を掛けて算定しているが、任意スラブ形式への適用が難しいため、床振動特性直接入力の補助機能として、これまで蓄積してきた実測データから統計的に床振動特性(次固有振動数、減衰定数)を予測する床振動DB機能を付加している。床の振動特性と床長辺・短辺スパンの回帰式の相関性を確認することで、特別な知識や経験がなくとも床振動特性の簡易入力に関してある程度の判断が可能である。」(第53頁第7行~第20行)
イ 甲3技術
上記アから、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
〔甲3技術〕
環境振動の概要を予測するツールにおいて、加振源から加振~受振の伝搬経路を通じて建物内での応答値や制振効果を安全側に簡易予測するため、外部発生振動の周波数特性×地盤の距離による減衰特性×建物への入力損失×建物における共振増幅、で評価する際に、建設時期、建設地、室用途、梁の構造形式、床の構造形式、床のスパンなどのデータを用いたり、計算に必要なデータを得るためにDBを用いる技術。
(4)甲第4号証について
ア 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は建屋用基礎構造及びその設計方法に関し、例えば戸建て住宅のような建物に適した建屋用基礎構造及びその設計方法に関する。」
「【0143】
以上、本発明者により提案されている測定方法及び装置の一例を順をおって説明したが、上記の各種の計算はパーソナルコンピュータのような装置を使用して自動的に計算できることは言うまでも無い。・・・特に、演算装置においては、上記の手順毎に計算式を導入したソフトウエアプログラムを用意することにより、自動計算が可能となる。・・・勿論、特性曲線の傾きパターン、変動パターンの別に応じて計算式を変える必要があるが、これは、これらのパターンの種別に応じた計算式を設定しておき、どのパターンを採用するのかをユーザに選択入力させるようにすれば良い。あるいはまた、特性曲線の傾きパターン、変動パターンの別を自動判別するプログラムを用意しておいて、どのパターンを採用するのかについても自動的に選択させるようにすることもできる。」
イ 甲4技術
上記アから、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。
〔甲4技術〕
建屋用基礎構造の設計において、各種の計算はパーソナルコンピュータのような装置を使用してソフトウエアプログラムを用意することにより自動計算が可能で、特性曲線の傾きパターン、変動パターンの種別に応じた計算式を設定しておき、いずれかのパターンの採用をユーザに選択入力させる技術。
(5)甲第5号証について
ア 甲第5号証の記載事項
甲第5号証の第33頁には、次の記載がある。
「ここまで、1質点系のモデルによる振動理論を見てきたが、実建物では多くの質点を有する。多くの質点を有する建物(多質点系建物モデル)の振動解析をするためには、以下の2つの考え方が生まれる。
[1]1質点系の振動理論を多くの質点を持つ建物解析モデルの振動理論に拡張する。
[2]多くの質点を持つ建物解析モデルを1質点系のモデルに縮小し振動理論を適用する。
この考え方によって計算方法がことなる。・・・現在は、コンピュータの性能が向上し、どの方法も容易に算定されるが、それぞれに特徴があり解析の精度や評価する応力や目的に応じて選択する必要がある。・・・
例えば、建物部材の非線形特性まで考慮し、層に降伏した状態が生じる領域まで解析したい場合は、「方法1」、「方法3」が適する。
更に、高次モードが無視できない高層建物や質量バランスが悪い建物の解析では「方法1」が適する。」
イ 甲5技術
上記アから、甲第5号証には、次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。
〔甲5技術〕
建物の振動解析には複数の計算方法があり、建物の部材や高層建物であるか否かといった観点や解析の目的に応じて、コンピュータにおいて適切な計算方法を選択して解析する技術。
(6)甲第6号証について
ア 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、建物のPML値(予想最大損失率(額))を簡易に計算できる建物の地震被害損失の評価装置、評価方法、および評価プログラムに関する。」
「【0027】
入力部1で入力させる定められた情報は、建物の建設地についての位置情報および地盤情報と、建物情報とがある。位置情報は、建設地の緯度と経度である。」
「【0030】
図3において、地震抽出手段5 は、建設地を基準とする対象範囲内に存在する各震源断層の震源データをデータベース9より抽出し、抽出した情報から建設地の地盤の基盤における震源断層で地震が生じた場合の建物周期ごとの最大加速度応答を示す加速度応答スペクトルを作成する手段である。地震抽出手段5は、前記の抽出を行う地震抽出部5aと、前記の加速度応答スペクトルを作成する基盤加速度応答スペクトル生成部5bとでなる。」
イ 甲6技術
上記アから、甲第6号証には、次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されている。
〔甲6技術〕
建物のPML値(予想最大損失率(額))を簡易に計算するために、建物の建設地についての位置情報や建物情報を入力し、建設地を基準とする対象範囲内に存在する各震源断層の震源データデータベースから抽出する技術。
5 当審の判断
(1)理由1(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明において、「振動に対して居住性に問題があるか、無いかの判断を行」うことは、本件発明1のように「建物の振動対策を考慮するため」のものといえる。
b 甲1発明の「システム」は、建物の設計者が建物を設計する際に用いるものであり、建物の設計者を支援するものといえ、本件発明1における「建物の設計者を支援する建設設計支援システム」に相当する。
c 甲1発明において、「途中の伝播経路4の地盤の振動特性」を「コンピュータ内で地層構造やN値等のデータから推定し、求め」ることは、環境振動源による振動解析の処理を実行しているといえ、甲1発明は本件発明1において提示される「環境振動解析用プログラム」に相当する構成を有するものと認められる。
d 本件発明1では、「必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する」のに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点で相違する。
e 本件発明1では、「各入力部で入力されたデータに応じて必要となる環境振動解析用プログラムの種別を記憶するテーブル」を備えるのに対して、甲1発明では、そのようなテーブルを備えない点で相違する。
f 甲1発明の「建物1を建築しようとする建築地2」、「木造、ユニット構造、コンクリート造等で、基本的な柱、梁から構成される」建物1の構造、「建築地周辺の振動源すなわち建築地の近隣にある鉄道や幹線道路等の環境振動源」は、それぞれ本件発明1の「建物の建設予定地」、「前記建設予定地に建設する建物の仕様」、「前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「建物の建設予定地」、「前記建設予定地に建設する建物の仕様」、「前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源」に関するデータを用いる点で共通する。
しかしながら、本件発明1では、「建物の建設予定地に関するデータ」、「前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータ」、「前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータ」をそれぞれ入力する「建設予定地入力部」、「建物仕様入力部」、「環境振動源入力部」を備えるのに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点で相違する。
g 本件発明1では、「前記各入力部で入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示部」を備えるのに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点で相違する。
以上から、本件発明1と甲1発明との間の一致点及び相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
環境振動に基づく建物の振動対策を考慮するために建物の設計者を支援する建物設計支援システムであって、建物の建設予定地に関するデータ、前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータ、前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータを用いる建物設計支援システム。
〔相違点1〕
本件発明1では、「必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する」のに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。
〔相違点2〕
本件発明1では、「各入力部で入力されたデータに応じて必要となる環境振動解析用プログラムの種別を記憶するテーブル」を備えるのに対して、甲1発明では、そのようなテーブルを備えない点。
〔相違点3〕
本件発明1では、「建物の建設予定地に関するデータ」、「前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータ」、「前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータ」をそれぞれ入力する「建設予定地入力部」、「建物仕様入力部」、「環境振動源入力部」を備えるのに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。
〔相違点4〕
本件発明1では、「前記各入力部で入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示部」を備えるのに対して、甲1発明では、そのような構成が特定されていない点。
(イ)判断
上記相違点1~4についてまとめて検討する。
甲第1号証においては、環境振動に基づく建物の振動対策を考慮するために必要となる、コンピュータ内で実行されるプログラムを備えたものであるが、本件発明1のテーブルを備えて(相違点2)、「建物の建設予定地に関するデータ」、「前記建設予定地に建設する建物の仕様に関するデータ」、「前記建設予定地から所定距離内に存在する環境振動源に関するデータ」をそれぞれ各入力部に入力して(相違点3)、入力されたデータに応じて前記テーブルを参照して必要となる環境振動解析用プログラムの種別を表示する表示部(相違点4)に、必要となる環境振動解析用プログラムを提示すること(相違点1)は、記載も示唆もない。
また、上記相違点1~4に係る各構成は、他の甲第2号証~甲第6号証にも記載も示唆もなく、周知技術ともいえない。
以上から、上記相違点1~4に係る本件発明1の構成は、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえず、本件発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲2技術~甲6技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~本件発明5について
本件発明2及び本件発明5も、上記相違点1~4に係る構成と同等の構成を備えるものであり、また、本件発明3及び本件発明4は、本件発明1の構成を含み、環境震動源に関するデータの入力について地図データベースを参照することを特定したものであるから、上記アと同じ理由により、当業者であっても甲1発明及び甲2技術~甲6技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
6 申立人の主張について
申立人は、相違点1に係る本件発明1の構成について、特許異議申立書の19ページ下から7行~4行において、「甲1発明においても、建物における環境振動を解析に応じた情報を提示しており、建物の設計者を支援するために、環境振動を解析するための情報(例えば、環境振動解析用プログラム)を提示することに、何らの困難性はない」との主張をしている。
しかしながら、甲1発明においては、コンピュータによる処理の過程においてどのような情報を提示するかについての具体的な構成はなく、また、環境振動解析のためのプログラムについては予め定められたものを実行するものであることから、必要となる環境振動解析用プログラムを提示することで建物の設計者を支援する構成を採用する動機付けは存在しない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1~本件発明5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~本件発明5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700559