特許異議申立
2022-700509
電解液および当該電解液を用いた蓄電デバイス
- 審判番号
- 2022-700509
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-171369
- 登録番号
- 6980256
- 請求日
- 2022年06月14日
- 審決日
- 2022年12月22日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】学校法人 関西大学
- 【権利者代理人】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
- 【異議申立人】田之口 良子
- 審判長/審判官
- 審判長 酒井 朋広
- 審判官 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6980256号発明「電解液および当該電解液を用いた蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6980256号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6980256号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6980256号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年9月6日に出願され、令和3年11月19日にその特許権が設定登録され、令和3年12月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 6月14日 :特許異議申立人田之口良子(以下、「申立人」という。)により請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 9月 1日付け:取消理由通知
令和4年10月24日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年12月 2日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年10月24日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6980256号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
請求項1の「上記リチウム塩としてLiFSIを、2.25mol/dm3以上、3.0mol/dm3以下含み」との記載を、「上記リチウム塩としてLiFSIを、2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含み」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する他の請求項も同様に訂正する。
(2)一群の請求項
上記訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は請求項1を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項1ないし4に対応する本件訂正の請求項1ない4は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「LiFSIを、2.25mol/dm3以上、3.0mol/dm3以下」含むとの記載を、より狭い範囲である「LiFSIを、2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下」含む記載に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(2)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件明細書の段落【0034】には、「本電解液の上記イオン液体と混合されるリチウム塩としては、・・・LiN(FSO2)2[LiFSI]・・・が挙げられる。」、段落【0035】には「中でも、・・・LiFSIが好ましい。」、段落【0042】には「本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として、・・・2.25mol/dm3以上であることがさらに好ましい。また、本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として・・・2.5mol/dm3以下であってもよい。」とあり、「LiFSIを、2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下」とすることが記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)なお、訂正前の請求項1ないし4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし4に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上とおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線部は訂正箇所を示す。
「【請求項1】
イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、
前記電解液の総体積を基準として、上記リチウム塩としてLiFSIを、2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含み、
前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm3以上含み、
前記イオン液体は、EMImFSIであることを特徴とする、電解液。
【請求項2】
正極、負極、および請求項1に記載の電解液を含むことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項3】
前記正極は正極活物質を含み、
前記正極活物質は、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2であることを特定する、請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池、リチウム金属電池、リチウムイオンキャパシタ、およびリチウム空気電池からなる群より選ばれる1以上の蓄電デバイスであることを特徴とする、請求項2または3に記載の蓄電デバイス。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 当審が令和4年9月1日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由2下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
●理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
・請求項1について引用文献1または引用文献2
・請求項2、4について引用文献1
●理由2(進歩性)について
・請求項3について引用文献1及び引用文献2ないし5、または、引用文献2及び引用文献3ないし5
・請求項2、4について引用文献2
引 用 例 等 一 覧
引用文献1:特開2014-183161号公報(甲第1号証)
引用文献2:Thermal, Physical, and Electrochemical Properties of Li[N(So2F)2]-[1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2] Ionic Liquid Electroiytes for LiSecondary Batteries Operated at Room and Intermediate Temperatures,Kazuhiko Matsumoto外5名,THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY,C 2017,121,9209-9219(甲第2号証)
引用文献3:国際公開第2017/055126号(甲第3号証)
引用文献4:特開2013-58365号公報(甲第4号証)
引用文献5:国際公開第2010/150679号(甲第5号証)
2 引用文献の記載事項、引用発明等
(1)引用文献1
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
「【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、リチウムイオン伝導性の電解液と、を具備し、
前記電解液は、リチウム塩と、イオン性液体とを含み、
前記リチウム塩は、第1カチオンであるリチウムイオンと第1アニオンとの塩であり、
前記イオン性液体は、第2カチオンと第2アニオンとの溶融塩であり、
前記第1アニオンと前記第2アニオンとは同じである、リチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記電解液中の前記リチウム塩および前記イオン性液体の含有量の合計は、90質量%以上である、請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記第1アニオンおよび前記第2アニオンは、ビスフルオロスルフォニルイミドアニオン、またはビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオンである、請求項1または2に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
前記第2カチオンは有機オニウムカチオンである、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
前記有機オニウムカチオンは窒素含有へテロ環を有する、請求項4に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
前記電解液のリチウム濃度は1~5mol/Lである、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ。」
「【0002】
環境問題がクローズアップされる中、太陽光や風力などのクリーンエネルギーを電力に変換し、電気エネルギーとして蓄電するシステムの開発が盛んに行われている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池(LIB)、電気二重層キャパシタ(EDLC)、リチウムイオンキャパシタ(LIC)などが知られている。最近では、瞬時の充放電特性に優れるとともに、高い出力特性が得られ、取り扱い性に優れるといった観点から、EDLCやLICなどのキャパシタが注目されている。」
「【0018】
LICは、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、リチウムイオン伝導性の電解液と、を具備する。電解液は、リチウム塩と、イオン性液体とを含み、リチウム塩は、第1カチオンであるリチウムイオンと第1アニオンとの塩であり、イオン性液体は、第2カチオンと第2アニオンとの溶融塩である。ここで、第1アニオンと第2アニオンとは同じである。」
「【0024】
電解液において、イオン性液体は、イオンのキャリアとしても機能するが、リチウム塩を溶解する溶媒としての機能も有する。そのため、電解液は、イオン性液体をある程度の含有量で含むことが好ましい。電解液は、LICの電解液に含まれる公知の成分、例えば、有機溶媒、添加剤などを含むことができる。ただし、電解液が有機溶媒を含む場合、充電電圧を高めたときに、分解によりガスが発生し易い。そのため、リチウム塩およびイオン性液体以外の成分の含有量は、比較的少ないことが好ましい。具体的に、電解液中のリチウム塩およびイオン性液体の含有量の合計は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。特に、電解液は、カーボネートなどの有機溶媒を含まないことが好ましく、また、電解液中のリチウム塩およびイオン性液体の含有量の合計は100質量%であってもよい。」
「【0026】
以下に、電解液の成分についてより詳細に説明する。
(電解液)
電解液に含まれるリチウム塩は、電解液中で、リチウムイオンと第1アニオンとに解離して、リチウムイオンは、LIC内において電荷のキャリアとなる。
第1アニオンおよびイオン性液体を構成する第2アニオンとしては、ビススルフォニルイミドアニオンを用いることが好ましい。
中略
【0030】
ビススルフォニルイミドアニオンの具体例としては、ビスフルオロスルフォニルイミドアニオン(FSI-);ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン(TFSI-)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミドアニオン、フルオロトリフルオロメチルスルフォニルイミドアニオン((FSO2)(CF3SO2)N-)などのビス(パーフルオロアルキルスルフォニル)イミドアニオン(PFSI-)が挙げられる。
【0031】
これらのアニオンのうち、FSI-またはTFSI-(特に、FSI-)は、リチウムイオンに対する相互作用が比較的小さく、リチウムイオンを捕捉し難く、負極活物質へのリチウムイオンの挿入を阻害し難いため好ましい。FSI-やTFSI-(特に、FSI-)を用いると、リチウムイオンを負極活物質によりスムーズに吸蔵させることができ、より安定した充放電を行うことができる。また、電解液の粘度を低減することができる上、リチウム塩の溶解性も高い。」
「【0041】
イミダゾリン骨格を有する有機オニウムカチオンの具体例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(BMI+)、1-エチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3- エチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。これらのうち、EMI+、BMI+などの、メチル基と、炭素数2~4のアルキル基とを有するイミダゾリウムカチオンが好ましい
【0042】
第2カチオンとしては、正極活物質との反応性が小さく、充電電圧を高めても耐分解性が高い観点から、イミダゾリン骨格を有する有機オニウムカチオンが好ましく、イオン伝導性が高いため、EMI+が特に好ましい。第2カチオンと第2アニオンとの塩の具体例としては、EMIFSI、EMITFSI、EMIPFSIなどが挙げられる。リチウムイオンの吸蔵を阻害し難く、耐分解性およびリチウム塩の溶解性が高い観点から、イオン性液体は、少なくとも、EMIFSIを含むことが好ましい。
中略
【0044】
電解液のリチウム濃度は、例えば、0.8mol/Lを超えて、5.5mol/L未満である。リチウム濃度は、1mol/L以上であることが好ましく、1.5mol/L以上または2mol/L以上であることがより好ましく、2.5mol/L以上または3mol/L以上であることが特に好ましい。また、リチウム濃度は、5mol/L以下であることが好ましく、4.5mol/L以下または4mol/L以下であることがより好ましい。これらの下限値と上限値とは適宜選択して組み合わせることができる。電解液のリチウム濃度は、例えば、1~5mol/L、2.5~5mol/Lまたは3~5mol/Lであってもよい。」
「【0065】
実施例1
下記の手順でLICを作製した。
(1)正極の作製
中略
【0067】
(2)負極の作製
中略
【0070】
(4)LICの作製
上記(1)および(2)で得られた正極および負極を、それぞれ、1.5cm×1.5cmのサイズに切り出し、1辺に沿って幅0.5mmの部分の合剤を取り除いて集電体露出部を形成した。正極の集電体露出部には、アルミニウム製のリードを、負極集電体露出部には、ニッケル製のリードを、それぞれ溶接した。なお、得られた正極および負極において、合剤が存在する部分の面積は、いずれも、1.5cm2であった。
【0071】
正極と負極との間に、セルロース製のセパレータ(厚み:60μm)を介在させて正極と負極とを積層することにより単セルの極板群を形成した。さらに、極板群の負極側に、ポリオレフィン製のセパレータ(ポリエチレン微多孔膜とポリプロピレン微多孔膜との積層体)を介在させて、リチウム極を配置し、得られた積層物を、アルミニウムラミネートシートで作製されたセルケース内に収容した。
【0072】
次いで、電解液をセルケース内に注入して、正極、負極およびセパレータに含浸させた。電解液としては、リチウム塩としてLiFSIを1.0mol/Lの濃度で含むEMIFSI溶液を用いた。最後に真空シーラーにて減圧しながらセルケースを封止した。
【0073】
負極とリチウム極とを、セルケース外部で、リード線で接続し、0.2mA/cm2の電流で0Vまで充電することにより、負極活物質にリチウムをプレドープした。その後、0.2mA/cm2の電流で0.33mAh放電した。このときの電圧(初期電圧)を測定した。
このようにして、LICを作製した。LIC内に収めた電解液中の水分量をカールフィッシャー法で測定したところ、108ppmであった。
中略
【0083】
実施例5~8
電解液中のリチウム塩の濃度を、表2に示すように変更する以外は、実施例1と同様に、LICを作製し、上限電圧および放電容量を評価した。
結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
[図:0001395225000001.jpg]
【0085】
実施例6および7では、実施例1と同様に、充電の上限電圧が5Vの場合でも安定して充放電を行うことができるとともに、Cpと同程度かまたはそれ以上の容量が確保できた。実施例5および8では、LICの放電容量は、Cpよりもわずかに低いものの、充電の上限電圧が5Vの場合も安定して、充放電を行うことができた。なお、実施例5について、LICの充電容量を評価したところ、その値は0.3mAhを超え、Cpに匹敵するものであった。高い放電容量が得られ易い観点からは、リチウム塩の濃度を、0.8mol/Lを超えて、5.5mol/L未満とすることが好ましい。」
イ 引用文献1の上記記載から次のことがいえる。
・段落【0002】、【0018】の記載によれば、引用文献1には、リチウムイオンキャパシタが具備する電解液が記載されている。
・段落【0024】の「また、電解液中のリチウム塩およびイオン性液体の含有量の合計は100質量%であってもよい。」との記載によれば、引用文献1に記載された電解液は、リチウム塩およびイオン性液体のみからなるものでもよい。
・段落【0018】の「リチウム塩は、第1カチオンであるリチウムイオンと第1アニオンとの塩」、段落【0026】の「第1アニオン」「としては、ビススルフォニルイミドアニオンを用いる」、段落【0030】の「ビススルフォニルイミドアニオンの具体例としては、ビスフルオロスルフォニルイミドアニオン(FSI-)」「が挙げられる」との記載によれば、リチウム塩はLiFSIである。
・段落【0018】の「イオン性液体は、第2カチオンと第2アニオンとの溶融塩である」、段落【0042】の「第2カチオンと第2アニオンとの塩の具体例としては、EMIFSI」「が挙げられる。」「イオン性液体は、少なくとも、EMIFSIを含むことが好ましい」との記載によれば、イオン性液体はEMIFSIである。
・段落【0072】の「電解液としては、リチウム塩としてLiFSIを1.0mol/Lの濃度で含むEMIFSI溶液を用いた」、段落【0083】の「電解液中のリチウム塩の濃度を、表2に示すように変更する以外は、実施例1と同様に、LICを作製し、上限電圧および放電容量を評価した」との記載及び、段落【0084】の【表2】に実施例6としてLi塩濃度(mol/L)が3.0であることが記載されていることによれば、引用文献1には実施例6として、リチウム塩としてLiFSIを3.0mol/Lの濃度で含むEMIFSI溶液を電解液として用いることが記載されている。
ウ 引用発明
以上のことから、引用文献1には、実施例6の「電解液」として以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「リチウム塩とイオン性液体のみからなるリチウムイオンキャパシタが具備する電解液であって、
リチウム塩としてLiFSIを3.0mol/Lの濃度で含み、
イオン性液体はEMIFSI溶液を用いた、
電解液。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2には、以下の事項が記載されている。訳として、申立人提出の「甲第2号証(Journal of Physical Chemistry C 2017,121,9209-9219)部分訳」を記載した。なお、下線は当審で付与した。
(ア)「Thermal, Physical, and Electrochemical Properties of Li[N(SO2F)2]-[1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2] Ionic Liquid Electrolytes for Li Secondary Batteries Operated at Room and Intermediate Temperatures」
(Li[N(SO2F)2]-[1-エチル-3-メチルイミダゾリウム][N(SO2F)2]イオン液体電解質の室温および中間温度で動作するLi二次電池の熱的、物理的、および電気化学的特性)(9209頁の表題)
(イ)「ABSTRACT: The Li[FSA]-[C2C1im][FSA](FSA-:bis(fluorosulfonyl)-amide and C2C1im+: l-ethyl-3-methylimidazolium) ionic liquids have been studied as electrolytes for Li secondary batteries, though their thermal, physical, and electrochemical properties have not been systematically characterized. In this study, the thermal and transport properties of Li[FSA]-[ C2C1im] [FSA] ionic liquids as a function of the Li[FSA] molar fraction and temperature, in view of their operation at both room and intermediate temperatures. Differential scanning calorimetric analysis revealed that this system has a wide liquid-phase temperature range from Li[FSA] fractions of 0.0 to 0.4 and indicated the existence of the Li[C2C1im][FSA]2 line compound. Single-crystal X-ray diffraction analysis was used to determine the crystal structure of Li[C2C1im][FSA]2, which consists of Li+ octahedrally coordinated by six O atoms originating from four FSA- anions. The temperature dependences of the viscosity and ionic conductivity were fitted by the Vogel-Tammann-Fulcher equation, and the viscosity and molar ionic conductivity were connected by the fractional Walden rule, Lithium-metal deposition/dissolution efficiency decreased with increasing measurement temperature and decreasing Li[FSA] fraction. Aluminum corrosion at positive potentials was investigated by a potential step method, which revealed that the stability of an aluminum electrode was improved at high Li[FSA] fractions at 298 K, and the corrosion-limit potential decreased at elevated temperatures.」
(要約:Li[FSA]-[C2C1im][FSA](FSA-:ビス(フルオロスルホニル)-アミドおよび C2C1im+:1-エチル-3-メチルイミダゾリウム)イオン液体は、リチウムニ次電池の電解質として研究されているが、その熱的、物理的、電気化学的特性は系統的に評価されていない。本研究では、室温および中間温度での動作を考慮し、Li[FSA]-[C2C1im][FSA]イオン液体の熱および輸送特性をLiFSAモル分率と温度の関数として評価した。DSC分析により、この系はLi[FSA]分率0.0から0.4までの広い液相温度範囲を持ち、Li[C2C1im][FSA]2ライン化合物の存在が示唆された。単結晶X線回折分析により、Li+が4つのFSA-アニオンに由来する6つのO原子によって八面体配位されたLi[C2C1im][FSA]2の結晶構造が決定された。粘性とイオン伝導度の温度依存性はVogel-Tammann-Fulcherの式でフィットされ、粘性とモルイオン伝導度は分数Walden則で関連付けられることが示された。リチウム金属の析出・溶解効率は、測定温度の上昇とLi[FSA]の割合の減少に伴って低下した。正電位におけるアルミニウムの腐食をポテンシャルステップ法により検討した結果、298KにおいてLi[FSA]分率が高いとアルミニウム電極の安定性が向上し、高温になると腐食限界電位が低下することが明らかになった。)(9209頁のABSTRACT)
(ウ)「■ INTRODUCTION
Recently, there have been remarkable developments in energy-storage technology all over the world with Li secondary batteries being one of the most widely used energy-storage devices under various circumstances owing to their high power and energy densities.1-3 Ionic liquids, which exclusively consist of ions and, therefore, possess intrinsic ionic conductivity, are considered to be alternative nonaqueous electrolytes for various energy-storage devices.4-7 Their unique properties such as low volatility, low flammability, and a wide liquid-phase temperature range enable the construction of reliable high-power and high-energy devices.8-10
Both bis(trifluoromethylsulfonyl)amide (TFSA-)and bis-(fluorosulfonyl)amide (FSA-)anions have been used in electrochemical applications, with FSA- now widely used as a counteranion for designing ionic-liquid electrolytes.11 Most ionic liquids have high viscosities that are more than an order of magnitude greater than those of popular organic electrolytes. However, FSA--based ionic liquids tend to exhibit relatively low viscosities (e.g., 18 mPa s for [C2C1im][FSA] (C2C1im+=1-ethyl-3-methylimidazolium) at 298 K) and, thus, high ionic conductivities (e.g., 15.4 mS cm-1 for [C2C1im][FSA] at 298 K).12 Furthermore, stable alkali-metal deposition/dissolution and Li+ intercalation/deintercalation into/from graphite are possible in FSA--containing ionic liquids without any additives, which makes them attractive electrolytes for secondary batteries.12-18 A recent report attributed this high stability against reduction to the unusually low reactivity of the・S02NX- radical anion intermediate.19 Consequently, the electrochemical behavior of a number of electrode materials including graphite, Si, LiCoO2, LiFeP04, and LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2 has been examined in FSA--based or FSA--TFSA--mixed ionic liquids in view of their potential application in Li secondary batteries.20-33」
(背景
最近、世界中でエネルギー貯蔵技術の目覚ましい発展が見られ、リチウムニ次電池は、その高い電力とエネルギー密度により、さまざまな状況下で最も広く使用されているエネルギー貯蔵デバイスの1つである。イオンのみで構成され、したがって固有のイオン伝導性を有するイオン液体は、さまざまなエネルギー貯蔵装置の代替の非水電解質であると考えられている。低揮発性、低燃焼性、広い液相温度範囲などのユニークな特性を有するため、信頼性の高い高出カ・高エネルギーデバイスを構築することができる。
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(TFSA-) とビス(フルオロスルホニル)アミド(FSA-) の両アニオンは電気化学的用途に使用されており、FSA-は現在イオン液体電解質の設計に対アニオンとして広く使用されている。多くのイオン液体は、一般的な有機電解質よりも1桁以上高い粘度を有している。しかし、FSA-系イオン液体は、比較的低い粘度を示し(例えば、[C2C1im][FSA] (C2C1im+=1-エチル-3-メチルイミダゾリウム)は298Kで18mPa s)、したがって、高いイオン伝導度を示す傾向がある(例えば、[C2C1im][FSA]は298Kで15.4mS cm-1)。さらに、FSA-含有イオン液体では、アルカリ金属の安定な析出・溶解やグラファイトヘのLi+インターカレーション・デインターカレーションが無添加で可能であり、二次電池の電解質として魅力的である。最近の報告では、この還元に対する高い安定性は、・SO2NX-ラジカルアニオン中間体の反応性が異常に低いことに起因するとされている。そこで、グラファイト、Si、LiCoO2、LiFePO4、LiMn1/3Co1/3Ni1/3O2など多くの電極材料の電気化学的挙動を、リチウムニ次電池への応用の観点から、FSA-ベースあるいはFSA--TFSA-混合イオン液体中で検討されてきた。)(9209頁のINTRODUCTION)
(エ)「One of the important targets related to this study is the intermediate-temperature operation of Li secondary batteries. Our previous works on Li and Na secondary batteries demonstrated several benefits of intermediate-temperature operation (298-423 K), such as operation under hot environments and the use of waste heat.42-44
For such applications, investigating the temperature dependence of the physical and electrochemical properties of ionic liquid electrolytes is vitally important.」
(この研究に関連する重要な目標の1つは、リチウムニ次電池の中間温度での動作である。LiおよびNa二次電池に関するこれまでの研究では、高温環境での動作や排熱の使用など、中間温度での動作(298~423 K) のいくつかの利点が実証された。
このようなアプリケーションでは、イオン液体電解質の物理的および電気化学的特性の温度依存性を調査することが非常に重要である。)(9210頁左欄49-57行)
(オ)「The molar concentration of the Li[FSA]-[ C2C1im][FSA] system was calculated at different x(Li[FSA]) values from the density and formula weight, as summarized in Table 5. The molar concentration at x(Li[FSA]) = 0.4 reaches 2.529 mol L-1 at 298 K and 2.428 mol L-1 at 358 K, which is advantageous for Li+ transport in practical cells.」
(Li [FSA]-[C2C1im][FSA]システムのモル濃度は、表5に要約されているように、密度と式の重量からさまざまなx(Li[FSA])値で計算された。x(Li[FSA]) = 0.4でのモル濃度は、298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1に達する。これは、実際のセルでのLi+輸送に有利である。)(9213頁右欄7-13行)
(カ)「
[図:0001395225000002.jpg]
」(9214頁)
(キ)「The temperature and x(Li[FSA]) dependences of the εcycle values are summarized in Figure 9 (see Figures S11-S19 for the voltage profiles when x(Li[FSA])=0.1,0.2, and 0.4).」
(εサイクル値の温度およびx(Li[FSA])依存性を図9に要約する(Li金属の電圧樹枝状堆積については図S11~S19を参照されたい。))(9215頁左欄10-13行)
(ク)「Another trend found was that εcycle increases with increasing x(Li[FSA]), which is related to both of the two aforementioned factors. As reported previously, the Li+ concentration affects the morphology of deposited Li metal, and Li metal deposited at higher Li+ concentrations tends to be more dendritic.77 Suppression of the reaction between the Li metal and ionic liquids is thought to occur at higher Li+ concentrations since Li+ is known to be an important component of the SEI layer and the formation of inorganic compounds facilitates SEI-layer stabilization.19 The latter factor is considered to be more significant than the former factor in the present case, resulting in the high εcycle values at high x(Li [FSA]).」
(x(Li[FSA])の増加とともにεcycleが増加する傾向が発見された。これは、前述の2つの要因の両方に関連している。以前に報告されたように、Li+濃度は堆積されたLi金属の形態に影響を及ぼし、より高いLi+農度で堆積されたLi金属はより樹枝状になる傾向がある。Li+はSEI層の重要な成分であることが知られており、無機化合物の形成がSEI層の安定化を促進するため、Li金属とイオン液体間の反応の抑制はより高いLi+濃度で起こると考えられている。この場合、後者の係数は前者の係数よりも重要であると見なされ、高いx(Li[FSA])で高いεcycle値が得られる。)(9215頁右欄9-20行)
(ケ)「We reported the thermal, physical, and electrochemical properties of Li[N(SO2F)2]-[C2C1im][N(SO2F)2] ionic liquid electrolytes in view of their potential application in Li secondary batteries operating over wide temperature ranges.」
(Li[N(SO2F)2]-[C2C1im][N(SO2F)2]イオン液体電解質の熱的、物理的、および電気化学的特性を、広い温度範囲で動作するLi二次電池への応用の可能性を考慮して報告した。)(9216頁右欄35-38行)
(コ)「The experimental results presented here suggest that this ionic liquid system is highly useful as a safe electrolyte in Li secondary batteries either at room or elevated temperatures, while the optimal Li+ concentration should be chosen carefully, depending on the purpose.」
(ここに示した実験結果は、このイオン液体システムが、室温または高温でのLi二次電池の安全な電解質として非常に有用である一方で、目的に応じて最適なLi+濃度を慎重に選択する必要があることを示唆している。)(9216頁右欄59行-9217頁左欄2行)
イ 引用文献2の上記記載から次のことがいえる。
・上記(ア)の記載によれば、引用文献2には「Li二次電池」の「Li[N(SO2F)2]-[1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]イオン液体電解質」が記載されている。
・上記(ア)及び(イ)の記載によれば、引用文献2においては、[N(SO2F)2]を[FSA]と、[1-Ethyl-3-methylimidazolium]を[C2C1im]と称していると認められる。
また、上記(イ)の「Li[FSA]モル分率」、「Li[FSA]分率0.0から0.4」との記載および、引用文献2の第9210頁左欄第37ないし38行の「the Li[FSA] fraction (x(Li[FSA])」なる記載によれば、x(Li[FSA])はLi[N(SO2F)2]のモル分率であると認められる。
以上のことを考慮すると、上記(オ)および(カ)の記載より、Li[N(SO2F)2]のモル分率が0.4のLi[N(SO2F)2]- [1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]イオン液体において、Li[N(SO2F)2]のモル濃度は298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1であることが記載されている。
ウ 引用発明
以上のことから、引用文献2には、Li二次電池のイオン液体電解質として以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「Li二次電池のLi[N(SO2F)2]- [1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]イオン液体電解質であって、
Li[N(SO2F)2]のモル濃度は298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1であるイオン液体電解質。」
3 当審の判断
(1)引用文献1に記載された発明に基づく新規性及び進歩性(特許法第29条第1項、第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1の「リチウム塩とイオン性液体のみから」なる「電解液」は、本件発明1の「イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液」に相当する。
b 引用発明1の電解液はリチウム塩とイオン性液体のみからなること、mol/L=mol/dm3であることを考慮すれば、引用発明1は電解液の総体積を基準としてリチウム塩としてLiFSIを3.0mol/dm3含むものである。
してみると、引用発明1と本件発明1とは、「上記リチウム塩としてLiFSI」を含む点で一致するものの、LiFSIを、本件発明1は「前記電解液の総体積を基準として、」「2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含」むのに対して、引用発明1は電解液の総体積を基準として3.0mol/dm3含む点で相違する。
c 引用発明1の電解液は、リチウム塩であるLiFSIとイオン性液体であるEMIFSIのみからなるから、電解液のアニオンは全てFSI-(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン)である。そして、引用発明1の電解液は、LiFSIの濃度が3.0mol/Lである。
してみると、引用発明1の電解液は、FSI-(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン)を3.0mol/L(mol/dm3)含むことは明らかであり、引用発明1は本件発明1の「前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm3以上含」むことに相当する構成を有する。
d 引用文献1の段落【0041】(上記「2(1)ア」参照)に「1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン(EMI+)」と記載され、本件明細書【0023】に「1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[EMIm+]」と記載されていることを考慮すれば、引用発明1の「EMIFSI」と本件発明1の「EMImFSI」は同じ物質である。
してみると、引用発明1のイオン性液体が「EMIFSI」であることは、本件発明1の「前記イオン液体は、EMImFSIであること」に相当する。
e そうすると、本件発明1と引用発明1とは、次の点で一致ないし相違する。
〈一致点〉
「イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、
上記リチウム塩としてLiFSIを含み、
前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm3以上含み、
前記イオン液体は、EMImFSIである、電解液。」
〈相違点〉
LiFSIを、本件発明1は「前記電解液の総体積を基準として、」「2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含」むのに対して、引用発明1は電解液の総体積を基準として3.0mol/dm3含む点
f 以上のように、本件発明1と引用発明1とは上記相違点を有し、本件発明1は引用発明1であるとはいえない。
また、引用文献1には他に、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下含む電解液とすることは記載されておらず、また、そのような範囲に限定することを示唆する記載もない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(イ)相違点についての判断
上記「(ア)f」に記載したように引用文献1には、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下含む電解液とすることは記載されていない。
また、引用文献1の段落【0044】には、「リチウム濃度は、1mol/L以上であることが好ましく、・・・2.5mol/L以上または3mol/L以上であることが特に好ましい」と記載されており、特に好ましいLiFSIの濃度である引用発明1の3.0mol/Lの濃度を、特に好ましい値から外れる2.5mol/dm3(mol/L)以下とする動機があるものとは認められない。
そして、本件明細書段落【0042】に「本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として、・・・2.00mol/dm3以上であることがより好ましく、2.25mol/dm3以上であることがさらに好ましい。また、本電解液に含まれるリチウム塩は、電解液の総体積を基準として3.0mol/dm3以下であり、3.0mol/dm3未満であってもよく、2.5mol/dm3以下であってもよい。」と記載され、表3ないし6には、リチウム塩濃度2.50mol/dm3の電解液を用いた場合、リチウム塩濃度2.00mol/dm3や3.00mol/dm3の電解液を用いた場合より出力特性が高いことが記載され、また、段落【0142】に「ただし、実施例9は実施例8に比べて各Cレートにおける容量値が減少している。これはリチウム塩濃度が高いことにより、電解液のイオン伝導性低下の影響が出始めていることによると考えられる。よって、リチウム塩濃度は3.0mol/dm3以下が好ましいといえる。」と記載されていることを考慮すれば、本件発明1はLiFSIを2.25mol/dm3以上とすることにより出力特性を高くし、2.5mol/dm3以下とすることによりイオン伝導性低下の影響による放電容量の減少を抑制するという効果を奏するものと認められる。
よって、本件の請求項1にかかる発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
イ 本件発明2および4について
本件発明2および4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え本件発明1を限定するものである。
してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項2および4に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、請求項2および4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件の請求項2および3にかかる発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、請求項2および4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え本件発明1を限定するものである。
そして、引用文献2ないし5(甲第2ないし5号証)にも、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下とすることは、記載も示唆もされていない。
よって、本件の請求項3にかかる発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)引用文献2に記載された発明に基づく新規性及び進歩性(特許法第29条第1項、第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明2とを対比する。
a Li[N(SO2F)2]がリチウム塩であることは明らかであるから、引用発明2の「Li二次電池のLi[N(SO2F)2]- [1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]イオン液体電解質」は、本件発明1の「イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液」に相当する。
b 本件明細書【0034】の記載によれば、本件発明1の「LiFSI」はLiN(FSO2)2である。
してみると、引用発明2の「Li[N(SO2F)2]のモル濃度は298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1である」ことは、本件発明1の「上記リチウム塩としてLiFSI」を含む点で一致する。
しかしながら、LiFSIを、本件発明1は「前記電解液の総体積を基準として、」「2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含」むのに対して、引用発明2は298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1含む点で相違する。
c 引用発明2の「イオン液体電解質」はLi[N(SO2F)2]- [1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]であるから、電解質のアニオンは全て[N(SO2F)2]アニオン(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン)である。そして、引用発明2の電解液はLi[N(SO2F)2]のモル濃度が298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1である。
してみると、引用発明2の電解液は、[N(SO2F)2]アニオン(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン)を298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1以上含むことは明らかであり、引用発明2は本件発明1の「前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm3以上含」むことに相当する構成を有する。
d 本件明細書【0023】の「1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[EMIm+]」、【0030】の「(FSO2)2N-[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン;FSI-]」との記載を考慮すれば、引用発明2のイオン液体電解質が「[1-Ethyl-3-methylimidazolium][N(SO2F)2]」を含むことは、本件発明1の「前記イオン液体は、EMImFSIであること」に相当する。
e そうすると、本件発明1と引用発明2とは、次の点で一致ないし相違する。
〈一致点〉
「イオン液体、およびリチウム塩を含む電解液であり、
上記リチウム塩としてLiFSIを含み、
前記電解液の総体積を基準として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを、2.4mol/dm3以上含み、
前記イオン液体は、EMImFSIである、電解液。」
〈相違点〉
LiFSIを、本件発明1は「前記電解液の総体積を基準として、」「2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含」むのに対して、引用発明2は298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1含む点
(イ)相違点についての判断
本件明細書には、本件発明1の電解液のLiFSI(リチウム塩)の濃度が如何なる温度におけるものであるかに関する直接的な記載はない。
しかしながら、本件明細書の段落【0112】、【0126】、【0139】、【0145】には、本件発明1の電解液を作動温度25℃で用いることが記載されている。そして、発明の構成は当該発明が通常使用される環境(温度)における構成を記載したものであると解するのが自然であり、引用発明1のLiFSI(リチウム塩)の濃度は25℃程度の室温における濃度であるものと認められる。
してみると、本件発明1は25℃(298K)程度の室温に置いてLiFSIを2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下含むものである。
これに対して、引用発明2はLiFSIを298Kでは2.529molL-1(mol/dm3)であり、相違点は実質的な相違である。
また、引用文献2には他に、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下含む電解液とすることは記載されておらず、また、そのような範囲に限定することを示唆する記載もない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は引用文献2に記載された発明であるとはいえないから特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
上記したように、引用文献2には、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下の範囲とすることは記載されておらず、また、そのような範囲に限定することを示唆する記載もない。
そして、上記「(1)ア(イ)」述べたように、本件発明1はLiFSIを2.25mol/dm3以上とすることにより出力特性を高くし、2.5mol/dm3以下とすることによりイオン伝導性低下の影響による放電容量の減少を抑制するという効果を奏するものと認められる。
よって、本件の請求項1にかかる発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
イ 本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
また、引用文献3ないし5(甲第3ないし5号証)にも、電解液の総体積を基準としてLiFSIを2.25mol/dm3以上2.5mol/dm3以下とすることは、記載も示唆もされていない。
してみると、上記「ア」で検討したことと同じ理由により、本件の請求項2および4に係る発明は引用文献2に記載された発明及び引用文献3ないし5に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
ウ 申立人の意見について
申立人は、令和4年12月2日提出の意見書において、以下のように主張している。
「さらに、引用文献2で検討されたLiFSI濃度の範囲(すなわち、298KでのLiFSI濃度が0.523~2.529mol/dm3の範囲)のうちの、より高い濃度範囲に着目して検討し、最適な濃度範囲を決定しようとする動機づけが、引用文献2に存在するということができます。
つまり、引用文献2には、『x(Li[FSA])=0.4でのモル濃度は、298Kで2.529molL-1、358Kで2.428molL-1に達する。これは、実際のセルでのLi+輸送に有利である。』(p.9213右欄 10-13行)、『x(Li[FSA])の増加とともにεcycleが増加する傾向が発見された。』(p.9215右欄 9-11行)のように、モル濃度を高くした場合の有利な点が記載されており、一般的な傾向としては、イオン濃度が高い方が有利であるといえる一方、『以前に報告されたように、Li+濃度は堆積されたLi金属の形態に影響を及ぼし、より高いLi+濃度で堆積されたLi金属はより樹枝状になる傾向がある。』(p.9215右欄 11-13行)と、モル濃度を高くした場合に懸念される事項についても記載されており、その上で、『ここに示した実験結果は、このイオン液体システムが、室温または高温でのLi二次電池の安全な電解質として非常に有用である一方で、目的に応じて最適なLi+濃度を慎重に選択する必要があることを示唆している。』(p.9216右欄 59行-p.9217左欄 2行)と結論づけています。
以上のことから、引用文献2には、0.523~2.529mol/dm3の範囲で、実際のセルでのLiイオン輸送に有利な高いモル濃度の領域について、最適なLiイオン濃度を検討する十分な動機付けが存在するといえますから、引用文献2の『2.529mol/dm3』を、『2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下』とすることは、当業者にとって何ら困難性はないと考えます。」(第5頁下から12行ないし第6頁第9行)
請求人が主張するように、引用文献2の上記各記載には、Li+濃度を高くした方がLiイオン輸送に有利である一方、Li+濃度を高くすると樹枝状Li金属が堆積する傾向にあるので目的に応じてLi+濃度を選択する必要があることが記載されているものと認められるものの、これらの記載は、引用発明2において、LiFSIを2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下とすることを示唆するものとは認められない。
すなわち、引用文献2の上記各記載によれば、引用発明2の298Kで2.529molL-1であるLi[N(SO2F)2](Li+)のモル濃度を目的に応じて調製(目的に応じて増減)することが示唆されるのみであり、2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下の範囲に限定することを示唆するものとは認められない。
そして、引用文献2には他に、Li[N(SO2F)2](Li+)のモル濃度を2.25mol/dm3以上、2.5mol/dm3以下に特定することを示唆する記載があるものとも認められない。
よって、申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700509