特許異議申立
2022-700184
キャリア芯材
- 審判番号
- 2022-700184
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-035695
- 登録番号
- 6929086
- 請求日
- 2022年03月01日
- 審決日
- 2023年01月30日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】DOWAエレクトロニクス株式会社
- 【権利者代理人】山田 茂樹
- 【権利者】DOWA IPクリエイション株式会社
- 【権利者代理人】山田 茂樹
- 【異議申立人】▲桑▼原 裕二
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 川口 聖司
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(G03G) / P1651.121-YAA(G03G) / P1651.537-YAA(G03G) / P1651.536-YAA(G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6929086号発明「キャリア芯材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6929086号の明細書および特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6929086号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6929086号(請求項の数7。以下「本件特許」という。)についての出願(特願2017-35695号)は、平成29年2月28日を出願日とする出願であって、令和3年8月12日にその特許権の設定登録がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和4年3月1日に、特許異議申立人 ▲桑▼原 裕二(以下「特許異議申立人」という。)から、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた(異議2022-700184号、以下「本件事件」という。)。
本件事件についての、その後の手続等の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 6月 8日付け: 取消理由通知書
令和4年 8月19日提出: 訂正請求書
令和4年 8月19日提出: 意見書(特許権者)
令和4年10月25日提出: 意見書(特許異議申立人)
第2 本件訂正請求について
令和4年8月19日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第6929086号の明細書および特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項を含むものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「下記式(1)から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記式(2)から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。
凹凸空隙率(%)=(包絡面積-粒子面積A)/包絡面積×100・・・・・(1)
内部空隙率(%)=(粒子面積A-粒子面積B)/粒子面積A×100・・・(2)
式中、包絡面積 :粒子断面の凸部の頂点を結んだ線(包絡線)で囲まれた面の面積
粒子面積A:内部空隙を含む粒子断面積
粒子面積B:内部空隙を含まない粒子断面積」
とあるのを、
「下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。
(測定方法)
キャリア芯材を樹脂中に分散させ、真空脱泡処理を施すことでキャリア芯材内に樹脂を充填させた後、補助板に塗布し、温度200℃で20分間熱処理を行って樹脂を硬化させる。その後クロスセッションポリッシャー(SM-09010日本電子株式会社製)を用いてキャリア芯材をカットする。そしてキャリア芯材の断面を走査型電子顕微鏡で撮影する。撮影した画像から画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、包絡面積(図形の凸部を結んだ時の面積,μm2)、粒子面積A〈空隙を含む,μm2〉、粒子面積B〈空隙を含まない,μm2〉を測定する。各面積は1粒子毎に算出し、100粒子の平均値をそのキャリア芯材の包絡面積(μm2)、粒子面積A(μm2)、粒子面積B(μm2)とする。そして、以下の計算式(1)および計算式(2)から凹凸空隙率および内部空隙率を算出する。
凹凸空隙率(%)=(包絡面積-粒子面積A)/包絡面積×100・・・・・(1)
内部空隙率(%)=(粒子面積A-粒子面積B)/粒子面積A×100・・・(2)
式中、包絡面積 :粒子断面の凸部の頂点を結んだ線(包絡線)で囲まれた面の面積
粒子面積A:内部空隙を含む粒子断面積
粒子面積B:内部空隙を含まない粒子断面積」
に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0013】に、
「本発明によれば、フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、下記式(1)から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、下記式(2)から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材が提供される。
凹凸空隙率(%)=(包絡面積-粒子面積A)/包絡面積×100・・・・・(1)
内部空隙率(%)=(粒子面積A-粒子面積B)/粒子面積A×100・・・(2)
式中、包絡面積 :粒子断面の凸部の頂点を結んだ線(包絡線)で囲まれた面の面積
粒子面積A:内部空隙を含む粒子断面積
粒子面積B:内部空隙を含まない粒子断面積」
と記載されているのを
「本発明によれば、フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材が提供される。
(測定方法)
キャリア芯材を樹脂中に分散させ、真空脱泡処理を施すことでキャリア芯材内に樹脂を充填させた後、補助板に塗布し、温度200℃で20分間熱処理を行って樹脂を硬化させる。その後クロスセッションポリッシャー(SM-09010日本電子株式会社製)を用いてキャリア芯材をカットする。そしてキャリア芯材の断面を走査型電子顕微鏡で撮影する。撮影した画像から画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、包絡面積(図形の凸部を結んだ時の面積,μm2)、粒子面積A〈空隙を含む,μm2〉、粒子面積B〈空隙を含まない,μm2〉を測定する。各面積は1粒子毎に算出し、100粒子の平均値をそのキャリア芯材の包絡面積(μm2)、粒子面積A(μm2)、粒子面積B(μm2)とする。そして、以下の計算式(1)および計算式(2)から凹凸空隙率および内部空隙率を算出する。
凹凸空隙率(%)=(包絡面積-粒子面積A)/包絡面積×100・・・・(1)
内部空隙率(%)=(粒子面積A-粒子面積B)/粒子面積A×100・・(2)
式中、包絡面積 :粒子断面の凸部の頂点を結んだ線(包絡線)で囲まれた面の面積
粒子面積A:内部空隙を含む粒子断面積
粒子面積B:内部空隙を含まない粒子断面積」
に訂正する。
請求項2~7はそれぞれ請求項1を直接または間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
本件訂正請求は、一群の請求項である請求項1~7に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、当該一群の請求項について請求されたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」の測定方法を具体的に特定するものであり、測定方法を明確化する、すなわち、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とする訂正であることは明らかである。
また、請求項1を引用する請求項2~7についての訂正も、同様である。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項、拡張又は変更
訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書の【0084】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する請求項2~7についても同様である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴う明細書の訂正である。そして、当該訂正事項2に係る訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
(3)小括
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書および特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」という。また、請求項1~7に係る発明を、「本件特許発明」と総称する。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、
下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。
(測定方法)
キャリア芯材を樹脂中に分散させ、真空脱泡処理を施すことでキャリア芯材内に樹脂を充填させた後、補助板に塗布し、温度200℃で20分間熱処理を行って樹脂を硬化させる。その後クロスセッションポリッシャー(SM-09010日本電子株式会社製)を用いてキャリア芯材をカットする。そしてキャリア芯材の断面を走査型電子顕微鏡で撮影する。撮影した画像から画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、包絡面積(図形の凸部を結んだ時の面積,μm2)、粒子面積A〈空隙を含む,μm2〉、粒子面積B〈空隙を含まない,μm2〉を測定する。各面積は1粒子毎に算出し、100粒子の平均値をそのキャリア芯材の包絡面積(μm2)、粒子面積A(μm2)、粒子面積B(μm2)とする。そして、以下の計算式(1)および計算式(2)から凹凸空隙率および内部空隙率を算出する。
凹凸空隙率(%)=(包絡面積-粒子面積A)/包絡面積×100・・・・・(1)
内部空隙率(%)=(粒子面積A-粒子面積B)/粒子面積A×100・・・(2)
式中、包絡面積 :粒子断面の凸部の頂点を結んだ線(包絡線)で囲まれた面の面積
粒子面積A:内部空隙を含む粒子断面積
粒子面積B:内部空隙を含まない粒子断面積
【請求項2】
フェライト粒子の最大山谷深さRzが1.8μm以上3.0μm以下である請求項1記載のキャリア芯材。
【請求項3】
細孔容積が0.005cm3/g以上0.040cm3/g以下である請求項1又は2記載のキャリア芯材。
【請求項4】
フェライト粒子の組成が、MnO:35mol%~55mol%、Fe2O3:45mol%~65mol%を含有し、その一部をSrO:0.1mol%~5.0mol%で置換したものである請求項1~3のいずれかに記載のキャリア芯材。
【請求項5】
磁場79.58×103A/m(1000エルステッド)を印加した際の磁化σ1kが50Am2/kg以上70Am2/kg以下である請求項1~4のいずれかに記載のキャリア芯材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のキャリア芯材の表面が樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項7】
請求項6記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。」
第4 令和4年6月8日付け取消理由通知について
(1)取消しの理由の概要
特許権者に対して、当審が令和4年6月8日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1、3~7に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であるか又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、本件の請求項1、3~7に係る特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
取消理由3(明確性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、測定対象となる具体的なキャリア芯材が特許請求の範囲に入るか否かを判断することができず、特許を受けようとする発明が明確であるということはできないから、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法36条6項2号の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2013-205784号公報
甲第2号証:特開2013-103869号公報
甲第5号証:特許第5854541号公報
(以下、それぞれ、「甲1」、「甲2」、「甲5」と表記する。)
第5 当審の判断
1 取消理由についての判断
(1)取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
ア 甲1を主引例とする場合
(ア)甲1の記載及び甲1に記載された発明
a 甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1には、次の事項が記載されている。
(a) 「【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。」
(b) 「【0066】
マンガンおよびマグネシウムを含有したフェライト、いわゆるマンガンマグネシウムフェライトの一般的な焼成工程における反応としては、以下の反応式(1)が挙げられる。
【0067】
MgO+1/3Mn3O4+Fe2O3=MnMgFe2O4+2/3O2…(1)
反応式(1)のような反応の場合、例えば、酸素濃度が1000ppmであった場合、900℃前後から反応が開始する。したがって、基本的に、マグネタイトのように還元剤を用いてフェライト化させる必要はない。しかし、このような反応では、得られたキャリア芯材において、キャリア芯材の内部に隙間や空隙が多いものとなってしまう。そして、このようなキャリア芯材の内部の隙間や空隙を埋めるために焼成温度を上げるか、または焼成時間を延ばすと、キャリア芯材の表面において適度な凹凸形状が形成できないおそれがある。すなわち、キャリア芯材の表面が平滑になったり、結晶度合いのばらつきが多くなってしまうおそれがある。
【0068】
一方、マグネタイトの焼成工程における反応としては、以下の反応式(2)が挙げられる。
【0069】
Fe2O3=2/3Fe3O4+1/6O2…(2)
反応式(2)においては、例えば、酸素濃度が1000ppmであった場合、反応開始温度が1250℃前後である。そこで、還元剤を添加して、500℃以上800℃以下で、例えば、以下の反応式(3)や反応式(4)、反応式(5)のような反応を行って、フェライト化を図る。
【0070】
Fe2O3+1/6C=2/3Fe3O4+1/6CO2…(3)
Fe2O3+1/3CO=2/3Fe3O4+1/3CO2…(4)
C+O2=CO2…(5)
本願発明においては、マンガンマグネシウムフェライトの焼結反応において、上記した還元剤を添加して一部マグネタイトにおける反応式(3)や反応式(4)、反応式(5)を進行させる。また、以下の反応式(6)や反応式(7)も進行させる。
【0071】
Mn3O4+1/2C=3MnO+1/2CO2…(6)
Mn3O4+CO=3MnO+CO2…(7)
そして、反応式(3)や反応式(4)、反応式(5)、または反応式(6)や反応式(7)の反応により生成したマグネタイトまたはMnOを利用して、例えば、以下の反応式(8)、反応式(9)、および反応式(10)のようなマンガンマグネシウムフェライトにおけるフェライト化を促進しようとするものである。
【0072】
MgO+1/3Mn3O4+2/3Fe3O4=MnMgFe2O4+1/2O2…(8)
MgO+MnO+2/3Fe3O4=MnMgFe2O4+1/3O2…(9)
MgO+MnO+Fe2O3=MnMgFe2O4+1/2O2…(10)
ここで、図4を参照すると、点線15で示す場合、有機物が蒸発する段階において、重量が減少しており、その後、90分を経過した辺りから大きく重量が減少する二段階の重量減少である。すなわち、図4中の、時間50分から80分辺りを示す領域S2で示す部分については、重量減少は生じていない。これに対し、線12、13、14で示す場合、有機物が蒸発する領域S1で示す段階において重量が減少しており、その後、時間50分から80分辺りを示す領域S2において、二度目の重量減少があり、その後、90分を経過した辺りから大きく重量が減少する三段階の重量減少である。この二段階目の重量減少が、上記した反応式(3)や反応式(4)、反応式(5)、または反応式(6)や反応式(7)におけるCO2の減少分であると考えられる。
【0073】
すなわち、本願発明においては、還元剤としての添加剤を加え、焼成工程に含まれる第一の加熱工程において酸素濃度を制御することにより、一部フェライト化を行うことで、上記したキャリア芯材の内部における焼結反応の促進を図り、キャリア芯材の表面における適度な凹凸形状の形成を図るものである。
【0074】
なお、上記の実施の形態においては、コア組成としてカルシウムを含むものとしたが、これに限らず、コア組成としてカルシウムを含まないものとしてもよい。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
Fe2O3:30.61kg、Mn3O4:13.16kg、MgO:1.02kg、CaCO3:0.22kg(220g)を振動ミルで混合した後、900℃、大気中で2時間、仮焼した。その後、体積平均粒径が1.5μmであり、45μmの篩上の残分が0.5質量%以下になるまで、振動ミルで粉砕し、これを仮焼原料として用いた。この仮焼原料12.5kgを水4kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を74g、還元剤としてカーボンブラックを38g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75質量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。なお、この場合のカーボンブラックの含有量は、総量に対して、0.30質量%である。
【0076】
ここで簡単にカーボンブラックの含有量、すなわち、カーボンブラックの含有比率の算出方法について説明すると、以下の通りである。
【0077】
まず、原料の総量を算出する。
【0078】
38g(カーボンブラックの添加量)+74g(分散剤の添加量)+12500g(仮焼原料の量)=12612g(原料の総量)
次に、この原料の総量を用いて、カーボンブラックの含有量を算出する。
【0079】
カーボンブラック含有量=38g×100/12612g=0.30質量%
このようにして、カーボンブラック含有量(%)が算出される。なお、この実施例においては、原料として、カルシウムを含むものとなっている。
【0080】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、第一の加熱工程において、酸素濃度を5000ppm、温度を500℃、保持時間を1時間として、加熱を行った。その後、第二の加熱工程において、酸素濃度を5000ppmとしたままで、温度を1095℃とし、保持時間を3時間として加熱を行い、造粒粉に対して焼結を行った。このとき、電気炉内は酸素濃度が5000ppmとなるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。得られた焼結物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径25μmとし、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
【0081】
得られたキャリア芯材の物質的特性、電気的特性、実機性能を表1、表2、および表3に示す。ここで、物質的特性については、BET比表面積(m2/g)、細孔容積(cm3/g)、破砕前真密度(g/ml)、破砕後真密度(g/ml)、体積空孔率(%)を示しており、電気的特性については、帯電量(μC/g)を示している。各物性の測定等については、後述する。以下についても同様である。」
(c) 「【0091】
(比較例1)
第一の加熱工程において、酸素濃度を5000ppm、温度を300℃、保持時間を1時間とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物質的特性、電気的特性、実機性能を表1~表3に示す。」
(d) 「【0099】
【表1】
[図:0001397178000001.jpg]
【0100】
【表2】
[図:0001397178000002.jpg]
」
(e) 「【0128】
図6は、実施例1のキャリア芯材の断面を示す電子顕微鏡写真である。図7は、比較例1のキャリア芯材の断面を示す電子顕微鏡写真である。参考までに、図8において、比較例1のキャリア芯材の外観を示す電子顕微鏡写真を示す。図6および図7において、粒子状に見えるものの内部において、黒色領域で示される部分が、いわゆるキャリア芯材中の隙間や空隙を表す。」
(f) 「【図6】
[図:0001397178000003.jpg]
【図7】
[図:0001397178000004.jpg]
」
b 甲1に記載された発明
甲1の【0001】、【0066】~【0081】、【0091】、【0099】【表1】、【0100】【表2】、【0128】、【図6】及び【図7】に記載されている実施例1、比較例1の「電子写真現像剤用キャリア芯材」の発明を、以下「甲1発明1」、「甲1発明2」といい、総称して「甲1発明」という。
ここで、甲1発明の「キャリア芯材」は、甲1の【0066】~【0073】に記載のとおり、「フェライト化」によってフェライト粒子から構成されるものである。
(イ)対比
甲1発明1の「キャリア芯材」は、その構成からみて、本件特許発明1の「キャリア芯材」に相当し、「フェライト粒子から構成される」という要件を満たす。
(ウ)一致点及び相違点
a 一致点
本件特許発明1と甲1発明1とは、以下の点で一致する。
「フェライト粒子から構成されるキャリア芯材。」
b 相違点
本件特許発明1と甲1発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
キャリア芯材について、本件特許発明1は、
「下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。
(合議体注:測定方法に関する記載については省略する(以下、同様)。)」
であるのに対し、甲1発明1にはそのような特定がない点。
(エ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1の【図6】には、甲1発明1のキャリア芯材の断面を示す電子顕微鏡写真の画像が示されている。
しかしながら、甲1に示された【図6】において、測定対象となるキャリア芯材の個数は、他の粒子や電子顕微鏡写真の撮影条件を表す文字との重なり等がなく、粒子断面の全形を確認することができる11粒子程度に限られる。
してみれば、甲1に示された【図6】の画像をコンピューターに取り込み、当業者の出願時の技術常識を基礎として、画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)により測定対象粒子を選択させ、せいぜい11粒子程度の平均値をとることによって、包絡面積、粒子面積A及び粒子面積B、ひいては、凹凸空隙率及び内部空隙率を算出し、算出した凹凸空隙率及び内部空隙率が本件特許発明1の特定の数値範囲を満たすからといって、ただちに100粒子の平均値とする「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」も本件特許発明1の特定の数値範囲を満たすものになるということはできない。
また、甲1には、キャリア芯材における塩素の添加量について記載も示唆もされていないため、甲1発明1のフェライト粒子の組成、製造工程の焼成条件等(【0075】~【0081】)を参酌しても、甲1発明1の「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」が本件特許発明1の特定の数値範囲を満たす蓋然性が高いとはいえない。
さらに、甲1においては、低密度であって表面に凹凸が形成されたキャリア芯材を提供するために、キャリア芯材におけるフェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等を調整することについて記載も示唆もされていないため、甲1発明1において、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」が本件特許発明1の特定の数値範囲を満たすように、フェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等を調整する動機付けもあるとはいえない。
よって、本件特許発明1は甲1発明1ではなく、また、甲1発明1及び全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
甲1発明2の場合においても、甲1発明1と同様に判断される。
(オ)本件特許発明2~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、前記(ア)~(エ)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明でなく、甲1発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2~7も、甲1発明でなく、甲1発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 甲2を主引例とする場合
(ア)甲2の記載及び甲2に記載された発明
a 甲2の記載
取消しの理由で引用された甲2には、次の事項が記載されている。
(a) 「【0054】
実施例1
Mnフェライト粒子を下記方法で作製した。出発原料として、Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.0kgと、MnCO3(平均粒径:5.0μm)0.4kgと、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)2.6kgとを純水3.0kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0055】
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~100μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から、粒径100μmを超える粗粒は篩網を用いて除去した。
【0056】
この造粒物を、電気炉に投入し1100℃まで2時間かけて昇温し、その後1100℃で3時間保持し焼成を行った。このとき、電気炉内の酸素濃度は5000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを電気炉内に供給した。
【0057】
得られた焼成物をハンマーミルで解粒した後に振動ふるいを用いて分級した。そして、さらに大気雰囲気下において温度450℃で1時間高抵抗化処理を行い平均粒径34.7μmのフェライト粒子を得た。
【0058】
得られたフェライト粒子の粒子断面における空孔の総面積率P1、最大空孔の面積率P2、最大空孔面積の空孔総面積に占める割合P2/P1、粒径から算出される理論比表面積S1、BET比表面積S2、見掛け密度、磁気特性、電気抵抗を下記に示す方法でそれぞれ測定した。表2に測定結果をまとめて示す。また、図1に粒子断面のSEM写真を示す。
【0059】
(粒子断面における空孔面積)
得られたフェライト粒子を熱硬化性樹脂中に分散させた後、加熱により樹脂を硬化させた。この硬化物の表面をクロスセクションポリッシャー(日本電子製)を用いて研磨した。研磨した粒子表面を走査電子顕微鏡(日本電子製)を用いて観察し、粒子の断面写真を撮影した。撮影した粒子断面写真を画像解析ソフト「Image-Pro」を使用して粒子部分と空隙部分に分離し、総面積に対する空隙部分の面積比を計測した。同様に、最も大きい空隙と総面積の比を計測した。
上記の空隙率を100粒子分測定し、その平均値をそれぞれ空孔の総面積率(P1)、最大空孔の面積率(P2)とした。
【0060】
(粒径から算出される比表面積)
フェライト粒子の比重ρを、「ULTRAPYCNOMETER 1000」(Quantachrome社製)を用いて測定した。さらにフェライト粒子の粒度分布を、マイクロトラック(日機装製:「MICROTRACHRA Model:9320-X100」)にて測定し、50%体積粒径:D50を測定した。
上記の測定結果より、フェライト粒子の表面積を下記式から近似的に算出した。
S1=((D50)2×π)/((4/3)×π×(D50/2)3×ρ)
【0061】
(BET比表面積)
フェライト粉末のBET比表面積(S2)は、「Macsorb(Model:1208)」(マウンテック社製)を用い、BET法により求めた。吸着ガスは窒素、キャリアガスはヘリウムを用いた。
【0062】
(見掛け密度)
フェライト粒子の見掛け密度はJIS Z 2504に準拠して測定した。
【0063】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM-P7」)を用いて、外部磁場を0~79.58×104A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、79.58×103A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ1000(Am2/kg)及び保磁力Hcをそれぞれ測定した。
【0064】
(電気抵抗)
表面を電解研磨した厚さ2mmの電極としての真鍮板2枚を、距離2mm離して対向するように配置した。電極間にフェライト粒子200mgを装入した後、それぞれの電極の背後に断面積240cm2の磁石(表面磁束密度が1500ガウスのフェライト磁石)を配置して、電極間にフェライト粒子のブリッジを形成させた。そして、1000Vの直流電圧を電極間に印加し、フェライト粒子に流れる電流値を測定し、フェライト粒子の電気抵抗を算出した。
【0065】
実施例2~10,比較例1~6
表1に示す出発原料及び配合量、焼成温度で実施例1と同様にしてフェライト粒子を作製した。そして、実施例1と同様にして各物性を測定した。表2に測定結果をまとめて示す。また、図2及び図3に実施例2及び実施例3のフェライト粒子の断面SEM写真を示す。さらに、図4に比較例1のフェライト粒子の断面SEM写真を示す。また、図5に、実施例1~5及び比較例1~4のフェライト粒子における見掛け密度と磁化σ1000との関係を示すグラフを、図6に、実施例6~10及び比較例5,6のフェライト粒子における見掛け密度と磁化σ1000との関係を示すグラフをそれぞれ示す。」
(b) 「【0066】
【表1】
[図:0001397178000005.jpg]
【0067】
【表2】
[図:0001397178000006.jpg]
」
(c) 「【図1】
[図:0001397178000007.jpg]
【図2】
[図:0001397178000008.jpg]
【図3】
[図:0001397178000009.jpg]
」
b 甲2に記載された発明
甲2の【0054】~【0065】、【0066】【表1】、【0067】【表2】、【図1】~【図3】に記載されている実施例1~3の「フェライト粒子」は、それを芯材として表面に樹脂を被覆することで「電子写真現像用キャリア」として用いられるものであるから、電子写真現像用の「キャリア芯材」といえる。
そこで、上記実施例1~3から理解される、「電子写真現像用キャリア芯材」の発明を、以下「甲2発明1」~「甲2発明3」といい、総称して「甲2発明」という。
(イ)対比及び判断
甲2発明1についても、甲1発明1の場合と同様の対応関係がとれるから、結局のところ、両者は、
「フェライト粒子から構成されるキャリア芯材。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点2)
キャリア芯材について、本件特許発明1は、
「下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。」
であるのに対し、甲2発明1にはそのような特定がない点。
そこで、上記相違点2について検討するに、相違点2は、上記ア(ウ)で示す相違点1と同旨であり、上記ア(エ)と同様に判断される。
よって、本件特許発明1は甲2発明1ではなく、また、甲2発明1及び全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
甲2発明2及び甲2発明3の場合においても、甲2発明1と同様に判断される。
(ウ)本件特許発明2~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件特許発明1が、甲2発明でなく、甲2発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2~7も、甲2発明でなく、甲2発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 甲5を主引例とする場合
(ア)甲5の記載及び甲5に記載された発明
a 甲5の記載
取消しの理由で引用された甲5には、次の事項が記載されている。
(a) 「【請求項1】
スピネル型結晶構造を有し、Sr成分を含有するフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、
MgO換算したMg成分の含有量が3.6mol%以下であり、
Bi成分を含有せず、
温度300℃に加熱した際に検出される水分量が400μmol/g以上である
ことを特徴とするキャリア芯材。」
(b) 「【0057】
実施例1
Fe2O3(平均粒径:0.6μm)7.100kg、Mn3O4(平均粒径:0.9μm)2.840kg、SrCO3(平均粒径:0.6μm)0.060kgを純水4.256kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g、還元剤としてのカーボンブラックを38g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm~75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径50μmを超える粗粒は篩を用いて除去した。
この造粒物を、電気炉に投入し1170℃まで4.5時間かけて昇温した。その後、1170℃で3時間保持することにより焼成を行った。その後8時間かけて室温まで冷却した。この間、電気炉内の酸素濃度は15000ppmとなるよう、酸素と窒素とを混合したガスを炉内に供給した。
得られた焼成物をハンマーミル(三庄インダストリー社製「ハンマークラッシャーNH-34S」,スクリーン目開き:0.3mm)で1回解粒した後、パルベライザー(DOWAテクノエンジ社製)でさらに2回解粒し、平均粒径34.0μmのキャリア芯材を得た。
そして、恒温調湿機(「PH-1KT」)を用いて、キャリア芯材を温度25℃/湿度60%RHの大気雰囲気下で24時間静置し、キャリア芯材の表面を水分で処理するとともに、キャリア芯材の周囲に二酸化炭素を存在させた。
得られたキャリア芯材の組成、加熱による水分量、物性、現像剤特性などを後述の方法で測定した。測定結果を表1に示す。また、図1に、実施例1のキャリア芯材の断面SEM写真を示す。」
(c) 「【0068】
【表1】
[図:0001397178000010.jpg]
」
(d) 「【図1】
[図:0001397178000011.jpg]
」
b 甲5に記載された発明
甲5の【0057】、【0068】【表1】及び【図1】に記載の【請求項1】を具現化した実施例1の「キャリア芯材」は、電子写真現像剤用であることは明らかである。
そこで、甲5の記載から理解される、「電子写真現像剤用キャリア芯材」の発明を、以下「甲5発明」という。
(イ)対比及び判断
甲5発明についても、甲1発明1の場合と同様の対応関係がとれるから、結局のところ、両者は、
「フェライト粒子から構成されるキャリア芯材。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点5)
キャリア芯材について、本件特許発明1は、
「下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、
下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材。」
であるのに対し、甲5発明にはそのような特定がない点。
そこで、上記相違点5について検討するに、相違点5は、上記ア(ウ)で示す相違点1と同旨であり、上記ア(エ)と同様に判断される。
よって、本件特許発明1は甲5発明ではなく、また、甲5発明及び全ての証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件特許発明2~7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2~7は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明2~7は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件特許発明1が、甲5発明でなく、甲5発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件特許発明2~7も、甲5発明でなく、甲5発明及び特許異議申立人が提出した全ての証拠に記載された技術的事項基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 取消理由1及び取消理由2についてのまとめ
上記ア~ウのとおりであるから、取消理由1及び取消理由2は、いずれも採用すべき理由がない。
(2)取消理由3(明確性)について
ア 明確性の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 明確性についての判断
本件特許発明1において、訂正により、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」の具体的な測定方法が特定された。これにより、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」に関して、「包絡面積」、「粒子面積A」及び「粒子面積B」は、キャリア芯材の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像から画像解析ソフト(Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて測定した100粒子の平均値として算出されるものであると、具体的に特定されていることからみて、本件特許発明1は明確である。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2~7についても同様である。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和4年10月25日提出の意見書の第14~40頁において、要するに、「Image-Pro Plus v7.0」を用いて甲第1号証の図6について検証した結果、本特許権者が提出した測定結果と乖離があったため、結果として、これらの発明特定事項を有する本件特許発明1は明確ではない旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1においては、100粒子という多くの粒子を画像解析ソフト(Image-Pro Plus)により測定対象として選択させ平均値をとることにより、算出される「包絡面積」、「粒子面積A」及び「粒子面積B」であるから、算出される「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」のばらつきはおのずと収斂されるものといえる。
そうすると、上記特定事項を有する本件特許発明1、すなわち、本件特許の請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2~7についても同様である。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用しない。
エ 取消理由3についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、取消理由3は、その理由がない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲第3号証(特開2007-41549号公報)を主引例とする新規性及び進歩性について
甲3には、本件特許発明の「凹凸空隙率」及び/又は「内部空隙率」に関する具体的な数値は記載も示唆もされておらず、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」を算出するためのキャリア芯材断面の走査型電子顕微鏡画像も示されていない。
また、甲3に記載されたキャリア芯材の「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」は、フェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等を参酌しても、本件特許発明1の特定の数値範囲を満たす蓋然性が高いとはいえない。
さらに、甲3においては、低密度であって表面に凹凸が形成されたキャリア芯材を提供するために、キャリア芯材におけるフェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等を調整することについて記載も示唆もされていないため、甲3に記載されたキャリア芯材において、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」が本件特許発明1の特定の数値範囲を満たすように、フェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等を調整する動機付けもあるとはいえない。
してみれば、本件特許発明1~7は、甲3に記載された発明でなく、甲3に記載された発明、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)甲第6号証(特開2011-180296号公報)を主引例とする新規性及び進歩性について
甲6を主引例とした場合においても、甲3を主引例とした場合と同様に判断される。
(3)甲第11号証(特開2015-151287号公報)を主引例とする新規性及び進歩性について
甲11を主引例とした場合においても、甲3を主引例とした場合と同様に判断される。
(4)サポート要件について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
イ サポート要件についての判断
本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0011】の記載からみて、「低密度であって表面に凹凸が形成されたキャリア芯材を提供すること」にあると認められる。
そして、上記課題を解決するための手段及び発明の効果については、本件特許明細書には、次のような記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、フェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、下記の測定方法から算出される凹凸空隙率が4.5%以上10%以下であり、下記の測定方法から算出される内部空隙率が2.0%以上20%以下であることを特徴とするキャリア芯材が提供される。」
「【発明の効果】
【0021】
本発明のキャリア芯材は従来のものに比べて低密度であるので、現像剤の撹拌・搬送速度が速くなっても現像剤にかかるストレスが抑えられてトナースペントの発生が抑制される。またキャリア芯材の表面に凹凸が形成されているので、現像領域へのトナー供給量が増加し画像形成速度の高速化に対応できる。加えて、キャリア芯材の凸部が樹脂被覆層の表面に露出して、現像後のカウンターチャージのリークが円滑に行われるようになる。」
そして、本件明細書の実施例の記載によれば、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」が特定の条件を満たすキャリア芯材、すなわち、低密度であって表面に凹凸が形成された「キャリア芯材」(実施例1~5)は、当該数値範囲を満たさないキャリア芯材(比較例1~5)と比較して、トナースペントが発生したキャリアの個数割合が少なく、また10K印刷後の画像濃度変化も小さいことが確認(本件明細書の【0063】~【0093】参照。)されていることからみても、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」として特定の条件を満たすことにより、効果が奏され、本件特許発明の課題を解決するものと認識できる。
そして、本件特許発明1はその特定事項からみて、上記本件特許発明の課題を解決できると認識できる、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」の条件を全て満たすものであるから、本件特許発明1が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることは明らかである。
したがって、本件特許発明1は、サポート要件を満足するものであるということができる。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2~7についても同様である。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和4年10月25日提出の意見書の第67~73頁において、要するに、実施例に開示される特定のフェライト組成、Sr及びClの含有量等を有するフェライト粒子以外のフェライト粒子から構成されるキャリア芯材まで、発明の詳細な説明に記載された発明を、拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張する。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として、特定のフェライト組成、Sr及びClの含有量等を有するフェライト粒子で構成されるキャリア芯材が記載されているのみならず、好適な製造方法として、使用され得る好適なフェライト粒子の組成(【0037】、【0040】等)も記載されている。
そうすると、実施例に開示されるフェライト組成、Sr及びClの含有量等に特定されていなくとも、上述したとおり、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」が特定の数値範囲を満たしていれさえすれば、低密度であって表面に凹凸が形成されたキャリア芯材となるため、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」として特定の数値範囲の条件を満たすものである本件特許発明1が、当該発明の課題を解決できることは、当業者は十分認識できるといえる。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2~7についても同様である。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用しない。
エ サポート要件についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、特許異議申立理由(サポート要件)は、その理由がない。
(5)実施可能要件について
ア 実施可能要件の判断基準
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用することができる程度のものでなければならない。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、好適な製造方法として、フェライト粒子の組成(【0037】、【0040】等)、塩素の添加量(【0038】、【0039】、【0042】等)、製造工程の焼成条件(【0010】、【0045】等)の好適な範囲も記載されており、さらに具体的な実施例の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、フェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等によって、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」を適宜に調整することができ、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明を実施することができるといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和4年10月25日提出の意見書の第73~77頁において、要するに、本件特許明細書には、実施例に開示される特定のフェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等以外の製造方法で、本件特許発明1に係るキャリア芯材を当業者が製造できるように記載されていない旨主張する。
しかしながら、上述したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載や、実施例の記載に接した当業者であれば、フェライト粒子の組成、塩素の添加量、製造工程の焼成条件等によって、「凹凸空隙率」及び「内部空隙率」を適宜に調整することができるものである。
したがって、本件特許は当業者が本件特許発明1に係るフェライト粒子を実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されているということができる。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2~7についても同様である。
よって、特許異議申立人の当該主張は採用しない。
エ 実施可能要件についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、特許異議申立理由(実施可能要件)は、その理由がない。
(6)特許異議申立人が令和4年10月25日に提出した意見書において主張する明確性要件及び実施可能要件について
特許異議申立人は、令和4年10月25日提出の意見書の第3~13頁において、「特許・実用新案審査基準」及び「特許・実用新案審査ハンドブック」を持ち出して、「商標名(Image-Pro Plus)を用いて物を特定しようとする記載を含むため、訂正後の請求項1-7に係る特許は特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものである」と主張するが、明確性要件、実施可能要件については、既に判断したとおりである。
第6 むすび
請求項1~7に係る特許は、いずれも、令和4年6月8日付け取消理由通知書に記載した取消しの理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700184