特許異議申立
2022-700451
炭化珪素MOSFETインバータ回路
- 審判番号
- 2022-700451
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-201829
- 登録番号
- 6977469
- 請求日
- 2022年05月24日
- 審決日
- 2023年02月03日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】富士電機株式会社
- 【権利者代理人】酒井 昭徳
- 【異議申立人】角田 朗
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 山澤 宏
- 審判官 児玉 崇晶
- 分類
- P1651.121-YAA(H02M) / P1651.537-YAA(H02M) / P1651.536-YAA(H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6977469号発明「炭化珪素MOSFETインバータ回路」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6977469号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6977469号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6977469号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成29年10月18日の出願であって、令和3年11月15日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月8日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申し立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 5月24日 :特許異議申立人 角田 朗(以下、「申立人」という。)による請求項1-4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 8月26日付け:取消理由通知書
令和4年10月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年12月26日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨及び内容
令和4年10月28日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6977469号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正部分を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記過渡電流のパルス幅tおよび前記過渡電流の電流密度Iは、
5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」
と記載されているのを、
「前記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、
0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし4も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0022】に記載された、
「前記過渡電流のパルス幅tおよび前記過渡電流の電流密度Iは、
5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」
を、
「前記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、 0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0043】に記載された、
「5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1 ・・・(2)」
を、
「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106) ・・・(2)」に訂正する。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「パルス幅t」および「過渡電流の電流密度I」の単位が不明であったところ、「パルス幅t(s)」および「過渡電流の電流密度I(A/cm2)」と訂正することで単位を明確なものとするとともに、令和4年8月26日付けで通知した取消理由(特許法第36条第4項第1号)で指摘した記載不備を解消するために、「5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」という記載を、「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」と訂正することにより不明瞭さを正し、訂正後の請求項1に係る発明を明確なものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の段落【0043】には、「次に、図4は、パルス電流のパルス幅に対する積層欠陥が成長する電流密度を示すグラフである。図4において、縦軸は積層欠陥が成長する電流密度を示し、単位はA/cm2であり、横軸はパルス電流のパルス幅を示し、単位はsである。図4は、図2と図3により、算出した結果であり、パルス幅をt、電流密度をIとすると、図4の曲線は、
I=200×exp(-t×1.7×106) ・・・ (1)
で表せる。この曲線より原点側の領域、つまり、矢印D側の領域は、・・・中略・・・積層欠陥が成長しない。」と記載され、そして、(1)の式を変形すると、図4の矢印D側の領域は、「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」と表すことができる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、上記訂正事項1による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、明細書の訂正である訂正事項2、3に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし4)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項2、3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
第1炭化珪素MOSFETと、第2炭化珪素MOSFETとが、直列に接続されたインバータ回路であって、
前記第1炭化珪素MOSFETおよび前記第2炭化珪素MOSFETがオフであるデッドタイムに、前記第1炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードおよび前記第2炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードに流れる過渡電流のパルス幅が2μs未満であり、
前記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、
0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)
を満たすことを特徴とする炭化珪素MOSFETインバータ回路。
【請求項2】
前記過渡電流の電流密度が100A/cm2以下であり、前記過渡電流のパルス幅が0.4μs以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素MOSFETインバータ回路。
【請求項3】
前記第1炭化珪素MOSFETに逆並列に接続された第1ダイオードと、前記第2炭化珪素MOSFETに逆並列に接続された第2ダイオードと、をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素MOSFETインバータ回路。
【請求項4】
前記デッドタイムは、2μs以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の炭化珪素MOSFETインバータ回路。」
2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし4に係る発明についての特許に対して令和4年8月26日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
請求項1には
「前記過渡電流のパルス幅tおよび前記過渡電流の電流密度Iは、
5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1
を満たす」と記載されている。
この記載に関連する記載として、発明の詳細な説明の段落【0043】には、
「次に、図4は、パルス電流のパルス幅に対する積層欠陥が成長する電流密度を示すグラフである。図4において、縦軸は積層欠陥が成長する電流密度を示し、単位はA/cm2であり、横軸はパルス電流のパルス幅を示し、単位はsである。図4は、図2と図3により、算出した結果であり、パルス幅をt、電流密度をIとすると、図4の曲線は、
I=200×exp(-t×1.7×106) ・・・ (1)
で表せる。この曲線より原点側の領域、つまり、矢印D側の領域は、
5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1 ・・・ (2)
と表され、式(2)を満たすパルス幅t、電流密度Iでは、積層欠陥が成長しない。」
と記載されており、図4の曲線が式(1)となること、及び、この曲線より原点側の領域、つまり、矢印D側の領域では、積層欠陥が成長しないことは理解できる。
しかしながら、曲線より原点側の領域における電流密度Iは、
0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)・・・ (1)’
という式で表現されると考えられるところ、式(1)’と式(2)は異なったものであり、式(2)がどのようにして導出されたかが不明である。
(式(1)’を変形しても 0≦I×5×10-3/exp(-t×1.7×106)≦1にしかならない。)
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1およびそれに従属する請求項2~4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(2)取消理由についての当審の判断
本件訂正請求による訂正により、請求項1及び明細書における「5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」という記載は、「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」と訂正され、訂正された式では図4の曲線の原点側の領域を表すものとなり、当業者が請求項1およびそれに従属する請求項2~4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとなった。
したがって、取消理由通知に記載した取消理由は解消された。よって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
ア 特許法第36条第6項第1号
本件特許の請求項1に記載される「5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」は、図4の曲線の矢印D側の領域を表すものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
イ 特許法第29条第2項
請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、周知技術(甲第2-8号証)に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
< 引用文献等一覧 >
甲第1号証:特開2017-55649号公報
甲第2号証:特開2012-147557号公報
甲第3号証:特開2016-095394号公報
甲第4号証:S. Hino H. Hatta K. Sadamatsu Y. Nagahisa S. Yamamoto T. Iwamatsu Y. Yamamoto M. Imaizumi S. Nakata S. Yamakawa、「Demonstration of SiC-MOSFET Embedding Schottky Barrier Diode for Inactivation of Parasitic Body Diode」、Materials Science Forum、2017年5月15日
甲第5号証:特許第5596004号公報
甲第6号証:国際公開第2017/145339号
甲第7号証:国際公開第2014/097448号
甲第8号証:Sven Buetow Reinhard Herzer Gunter Koenigsmann Matthias Rossberg Andreas Maul、「High power, high frequency SiC-MOSFET system with outstanding performance, power density and reliability」、IEEE、2017年5月28日
(2)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
(ア)甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)
A 「【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態による半導体装置およびその駆動方法について図面を伴って説明する。本実施形態では、半導体素子として電圧駆動型半導体素子を例にとり、半導体装置として電力変換装置を例にとって説明する。まず、本実施形態による半導体装置を備えた電力変換装置10について図1を用いて説明する。
図1に示すように、電力変換装置10は、三相交流電源14に接続されている。電力変換装置10は、三相交流電源14から入力する三相交流電力を全波整流する整流回路15と、整流回路15で整流された電力を平滑化する平滑用コンデンサ16とを有している。図示は省略するが、整流回路15は、6つのダイオードをフルブリッジ接続して構成するかまたは6つのスイッチング素子をフルブリッジ接続している。整流回路15の正極出力端子に正極ラインLpが接続され、負極出力端子に負極ラインLnが接続されている。これら正極ラインLp及び負極ラインLn間に平滑用コンデンサ16が接続されている。
【0012】
また、電力変換装置10は、正極側ラインLpに接続された上アーム部を構成する半導体モジュール2a,2c,2eと、負極側ラインLnに接続された下アーム部を構成する半導体モジュール2b,2d,2fとを有している。
半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成している。半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成している。半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成している。
【0013】
そして、半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bの接続部と、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dの接続部と、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fの接続部は、誘導性負荷となる三相電動機17にそれぞれ接続されている。
半導体モジュール2aは、N型のSiC-MOSFET(第1ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)3aと、MOSFET3aに寄生するボディダイオード4aと、MOSFET3aに逆並列接続された還流用のショットキーバリアダイオード5aとを有してアーム部を構成している。MOSFET3aのドレイン端子Dにボディダイオード4aおよびショットキーバリアダイオード5aのカソードが接続され、MOSFET3aのソース端子Sにボディダイオード4aおよびショットキーバリアダイオード5aのアノードが接続されている。
【0014】
半導体モジュール2bは、半導体モジュール2aと同様に、N型のSiC-MOSFET3b(第2ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)と、ボディダイオード4bと、ショットキーバリアダイオード5bとを有してアーム部を構成している。
半導体モジュール2cも、半導体モジュール2a,2bと同様に、N型のSiC-MOSFET(第1ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)3cと、ボディダイオード4cと、ショットキーバリアダイオード5cとを有してアーム部を構成している。
【0015】
半導体モジュール2dも、N型のSiC-MOSFET(第2ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)3dと、ボディダイオード4dと、ショットキーバリアダイオード5dとを有してアーム部を構成している。
半導体モジュール2eも、N型のSiC-MOSFET(第1ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)3eと、ボディダイオード4eと、ショットキーバリアダイオード5eとを有してアーム部を構成している。
【0016】
半導体モジュール2fも、N型のSiC-MOSFET(第2ワイドバンドギャップ半導体素子の一例)3fと、ボディダイオード4fと、ショットキーバリアダイオード5fとを有してアーム部を構成している。
SiC-MOSFET3a,3b,3c,3d,3e,3fは、ユニポーラ型のパワー半導体素子であり、双方向性を有している。ここで、アーム部を構成するワイドバンドギャップ半導体素子は、SiC系の半導体素子だけでなく、他の窒化ガリウム及びダイアモンドの少なくとも1つを主材料とするワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。また、ショットキーバリアダイオード5a~5fもSi系の半導体素子だけでなく、炭化ケイ素、窒化ガリウム及びダイアモンドの少なくとも1つを主材料とするワイドバンドギャップ半導体素子であってもよい。ワイドバンドギャップ半導体素子はSi素子よりも高温,高電圧動作に優れ、低損失である。
【0017】
また、電力変換装置10は、半導体モジュール2aのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1aと、半導体モジュール2bのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1bと、半導体モジュール2cのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1cと、半導体モジュール2dのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1dと、半導体モジュール2eのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1eと、半導体モジュール2fのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置(GDU)1fとを有している。
【0018】
各ゲート駆動装置1a~1fの出力端子は、SiC-MOSFET3a~3fの制御端子となるゲート端子Gに接続されている。
半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、例えばU相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、例えばV相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、例えばW相スイッチングアーム部を構成している。したがって、これらのU相スイッチングアーム部、V相スイッチングアーム部及びW相スイッチングアーム部が並列接続された三相フルブリッジ回路と、U相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1a,1bと、V相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1c,1dと、W相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1e,1fとでインバータ回路が構成されている。」
B 「【0019】
次に、本実施形態による半導体装置についてU相スイッチングアーム部を例にとり、図1を参照しつつ図2から図5を用いて説明する。なお、V相スイッチングアーム部およびW相スイッチングアーム部もU相スイッチングアーム部と同様の構成を有している。
図2に示すように、ゲート駆動装置1aは、第2ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3bに流れるドレイン電流(主電流の一例)Id(b)を検出する電流検出部としての電流センサ21aと、電流センサ21aで検出したドレイン電流Id(b)の電流値が入力されて第1ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3aを駆動する半導体素子駆動部としてのゲート駆動部22aとを備えている。
・・・中略・・・
【0022】
ROM27aには、欠陥抑制特性マップが予め記憶されている。この欠陥抑制特性マップは、図4に示すように、横軸に第2ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3bのボディダイオード4bで還流電流が流れ始めたときに発生するパルス状電流のパルス幅をとり、縦軸に還流電流でなるドレイン電流Id(b)をとって、SiC-MOSFETの欠陥成長領域31と欠陥抑制領域32との境界を表す双曲線状の欠陥抑制特性曲線L1が設定されている。
【0023】
この欠陥抑制特性マップで、パルス幅PWは第1ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3aの制御信号CS(a)およびSiC-MOSFET3bの制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtの約30%に設定されており、デッドタイム時間Tdtを検出することにより、パルス幅PW(=0.3×Tdt)を算出することができる。
【0024】
この欠陥抑制特性マップは、パルス幅とボディダイオード4bの還流電流との関係を表す図5に示す欠陥抑制特性マップにおけるボディダイオード4bの還流電流IBDをドレイン電流Id(b)に換算したものである。この図5に示す欠陥抑制特性マップは、横軸にパルス幅をとり、縦軸にボディダイオード4bの還流電流IBDをとったときに、欠陥成長領域及び欠陥抑制領域の境界を表す双曲線状の欠陥抑制特性曲線Ldが設定されている。
・・・中略・・・
【0028】
そして、ボディダイオード4bの還流電流IBDとドレイン電流Id(b)とは、下記(1)式で表されるように、ドレイン電流Id(b)は、SiC-MOSFET3aの還流インダクタンスLMOSとショットキーバリアダイオード5aの還流インダクタンスLSBDとのインダクタンス比LMOS/LSBDにボディダイオードの還流電流IBDを乗算した値となる。
【0029】
Id(b)=(LMOS/LSBD)×IBD ・・・(1)
したがって、この(1)式からドレイン電流Id(b)〔A/cm2〕を算出し、図4に示す欠陥抑制特性マップを形成する。
ここで、SiC-MOSFET3aがターンオフ状態となって、下アームとなるSiC-MOSFET3bに還流電流が流れる場合の等価回路は、図6に示すようになり、三相電動機17のU相コイルLuからの還流電流Id(b)が、インダクタンスLMOSを通り、ボディダイオード4bを通ってU相コイルLuに戻る一方、インダクタンスLBDを通り、ショットキーバリアダイオード5bを通ってU相コイルLuに戻る。」
C 「【0040】
この結果、図4に示す縦軸をドレイン電流Id(b)とする欠陥抑制特性マップは、図5に示す縦軸をボディダイオード4bの還流電流IBDとする欠陥抑制特性マップに対して縦軸を4倍に引き伸ばしたものとなる。
そして、SiC-MOSFET3aを駆動する制御信号CS(a)およびSiC-MOSFET3bを駆動する制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtの30%をパルス幅PWとして設定することにより、実際にボディダイオード4bのパルス幅を測定することなくパルス幅PWを検出することができ、この検出したパルス幅PWと電流センサ21aで検出した第2ワイドバンドギャップ半導体素子であるSiC-MOSFET3bのドレイン電流Id(b)とからドレイン電流Id(b)が欠陥抑制領域ADiに属するか欠陥成長領域ADgに属するかを容易に判定することができる。
【0041】
したがって、演算処理装置23aの中央演算処理部25aで、図8に示すゲート駆動処理を実行することにより、パルス幅PWとボディダイオード4bの還流電流IBDが欠陥抑制領域ADiに属するように、SiC-MOSFET3aを駆動制御することができる。
すなわち、ゲート駆動処理は、図8に示すように、先ずステップS1で、SiC-MOSFET3aがターンオンした状態を維持する図10におけるモードMD1からターンオフ状態となる図10におけるモードMD2に移行したか否かを判定し、モードMD2に移行していないときには移行するまで待機し、モードMD2に移行したときには、ステップS2に移行して、電流センサ21aで検出される還流電流でなる負極性のドレイン電流Id(b)を読込んでからステップS3に移行する。
【0042】
このステップS3では、ドレイン電流Id(b)がピーク値に達したか否かを判定し、ドレイン電流Id(b)がピーク値に達していないときには、ピーク値に達するまで待機し、ピーク値に達したときには、ステップS4に移行し、ピーク値を例えばRAM26aに一次記憶してからステップS5に移行する。
ステップS5では、制御信号CS(a)および制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtを検出するデッドタイム時間検出処理で検出したデッドタイム時間Tdtを読込み、次いでステップS6に移行して、デッドタイム時間Tdtの30%をパルス幅PW(=0.3×Tdt)として設定してからステップS7に移行する。
【0043】
このステップS7では、ROM27aから図4に示す欠陥特性マップを読込み、次いでステップS8に移行して、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとをもとに、欠陥特性マップを参照して、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとで表される座標が欠陥抑制領域ADiに属するか欠陥成長領域ADgに属するかを判別してからステップS9に移行する。
【0044】
このステップS9では、判別結果が、座標が欠陥抑制領域ADiに属するか否かを判定し、欠陥抑制領域ADiに属する場合には、制御信号CS(a)の補正デューティ比を算出することなくそのままステップS12に移行し、判別結果が、座標が欠陥成長領域ADgに属する場合には、ステップS10に移行して、同一パルス幅PWで欠陥抑制領域ADi内となるSiC-MOSFET3bの補正ドレイン電流IAd(b)を算出してからステップS11に移行する。
【0045】
このステップS11では、算出した補正ドレイン電流IAd(b)に該当する制御信号CS(a)の補正デューティ比DA(a)を算出してからステップS12移行する。
ステップS12では、上アーム側のSiC-MOSFET3aがターンオフ状態であるモードMD4からターンオンさせるモードMD1に移行したか否かを判定し、モードMD1に移行していないときには、移行するまで待機し、モードMD1に移行したときには、ステップS13に移行する。
【0046】
このステップS13では、RAM26aの補正デューティ記憶領域に補正デューティ比DA(a)が記憶されているか否かを判定し、補正デューティ比DA(a)が記憶されているときには、ステップS14に移行して、制御信号CS(a)に代えて補正デューティ比DA(a)に応じたパルス幅のゲート駆動信号を出力してから前記ステップS1に戻り、補正デューティ比DA(a)が記憶されていないときには制御信号CS(a)をそのままゲート駆動信号として出力してからステップS1に戻る。
・・・中略・・・
【0055】
その後、時点t12で電力変換装置の一相分の動作がモードMD1からモードMD2に切り替わる。このモードMD2は、SiC-MOSFET3a及びSiC-MOSFET3bが同時にオン状態になってSiC-MOSFET3a及びSiC-MOSFET3b間に貫通電流が流れるのを防止するデッドタイムを形成するために、SiC-MOSFET3aをターンオフ状態としてSiC-MOSFET3a,3bを両方ともオフ状態にするモードである。このとき、SiC-MOSFET3aのゲート駆動装置1aに入力される制御信号CS(a)は図10(A)に示すようにハイレベルからローレベルに切換えられ、SiC-MOSFET3bのゲート駆動装置1bに入力される制御信号CS(b)は図10(B)に示すようにローレベルを維持する。」
D 「【0064】
なお、上記第1の実施形態では、欠陥特性マップが図5に示すように特性線Ldより原点側を欠陥抑制領域ADiとした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図5に示す特性線Ldより原点側となる双曲線状の欠陥抑制特性曲線Ld1を設定し、この欠陥抑制特性曲線Ld1より内側を欠陥抑制領域ADiとすると、積層欠陥の成長をより確実に防止して、SiC-MOSFET3a,3bの劣化をより確実に防止することができる。」
E 「【図1】
[図:0001397192000001.jpg]
」
F 「【図4】
[図:0001397192000002.jpg]
」
G 「【図5】
[図:0001397192000003.jpg]
」
H 「【図8】
[図:0001397192000004.jpg]
」
(イ)甲1発明
A 上記(ア)Aの段落【0011】には、「電力変換装置10は、三相交流電源14に接続されている。電力変換装置10は、三相交流電源14から入力する三相交流電力を全波整流する整流回路15と、整流回路15で整流された電力を平滑化する平滑用コンデンサ16とを有している」こと、および、「整流回路15の正極出力端子に正極ラインLpが接続され、負極出力端子に負極ラインLnが接続されている。これら正極ラインLp及び負極ラインLn間に平滑用コンデンサ16が接続されている」ことが記載されている。
さらに、段落【0012】には、「電力変換装置10は、正極側ラインLpに接続された上アーム部を構成する半導体モジュール2a,2c,2eと、負極側ラインLnに接続された下アーム部を構成する半導体モジュール2b,2d,2fとを有している」ことが記載されている。
してみると、甲第1号証には、“正極出力端子が正極ラインLpに接続され、負極出力端子が負極ラインLnに接続され、三相交流電源14から入力する三相交流電力を全波整流する整流回路15と、これら正極ラインLp及び負極ラインLn間に接続され、整流回路15で整流された電力を平滑化する平滑用コンデンサ16と、正極側ラインLpに接続された上アーム部を構成する半導体モジュール2a,2c,2eと、負極側ラインLnに接続された下アーム部を構成する半導体モジュール2b,2d,2fとを有する電力変換装置10”が記載されているといえる。
B 上記(ア)Aの段落【0012】には、“半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成して”いることが記載されている。
C 上記(ア)Aの段落【0013】には、“半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bの接続部と、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dの接続部と、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fの接続部は、誘導性負荷となる三相電動機17にそれぞれ接続されて”いることが記載されている。
D 上記(ア)Aの段落【0013】には、“半導体モジュール2aは、N型のSiC-MOSFET3aと、MOSFET3aに寄生するボディダイオード4aと、MOSFET3aに逆並列接続された還流用のショットキーバリアダイオード5aとを有してアーム部を構成す”ることが記載されている。
E 上記(ア)Aの段落【0014】には、“半導体モジュール2bは、半導体モジュール2aと同様に、N型のSiC-MOSFET3bと、ボディダイオード4bと、ショットキーバリアダイオード5bとを有してアーム部を構成す”ることが記載されている。
F 上記(ア)Aの段落【0018】には、“半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、U相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、V相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、W相スイッチングアーム部を構成し、これらのU相スイッチングアーム部、V相スイッチングアーム部及びW相スイッチングアーム部が並列接続された三相フルブリッジ回路と、U相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1a,1bと、V相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1c,1dと、W相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1e,1fとでインバータ回路が構成され”ることが記載されている。
G 上記(ア)Cの段落【0041】-【0044】には、“モードMD2に移行すると、電流センサ21aで検出される還流電流でなる負極性のドレイン電流Id(b)を読込み、ドレイン電流Id(b)がピーク値に達したか否かを判定し、ピーク値に達したときには、ピーク値をRAM26aに一次記憶し、制御信号CS(a)および制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtを検出するデッドタイム時間検出処理で検出したデッドタイム時間Tdtを読込み、デッドタイム時間Tdtの30%をパルス幅PW(=0.3×Tdt)として設定し、ROM27aから欠陥特性マップを読込み、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとをもとに、欠陥特性マップを参照して、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとで表される座標が欠陥抑制領域ADiに属するか欠陥成長領域ADgに属するかを判別し、座標が欠陥成長領域ADgに属する場合には、同一パルス幅PWで欠陥抑制領域ADi内となるSiC-MOSFET3bの補正ドレイン電流IAd(b)を算出し、算出した補正ドレイン電流IAd(b)に該当する制御信号CS(a)の補正デューティ比DA(a)を算出する”ことが記載されている。
また、上記(ア)Cの段落【0055】には、“モードMD2は、SiC-MOSFET3a,3bを両方ともオフ状態にするモードである”ことが、さらに、上記(ア)Bの段落【0019】には、“電流センサ21aは、SiC-MOSFET3bに流れるドレイン電流Id(b)を検出する”ものであることが記載されている。
してみると、甲第1号証には、“SiC-MOSFET3a,3bを両方ともオフ状態にするモードMD2に移行すると、SiC-MOSFET3bに流れるドレイン電流Id(b)を検出する電流センサ21aで検出される還流電流でなる負極性のドレイン電流Id(b)を読込み、ドレイン電流Id(b)がピーク値に達したか否かを判定し、ピーク値に達したときには、ピーク値をRAM26aに一次記憶し、制御信号CS(a)および制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtを検出するデッドタイム時間検出処理で検出したデッドタイム時間Tdtを読込み、デッドタイム時間Tdtの30%をパルス幅PW(=0.3×Tdt)として設定し、ROM27aから欠陥特性マップを読込み、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとをもとに、欠陥特性マップを参照して、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとで表される座標が欠陥抑制領域ADiに属するか欠陥成長領域ADgに属するかを判別し、座標が欠陥成長領域ADgに属する場合には、同一パルス幅PWで欠陥抑制領域ADi内となるSiC-MOSFET3bの補正ドレイン電流IAd(b)を算出し、算出した補正ドレイン電流IAd(b)に該当する制御信号CS(a)の補正デューティ比DA(a)を算出する”ことが記載されているといえる。
H 上記(ア)Bの段落【0022】、【0023】には、“欠陥抑制特性マップは、横軸に第2ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3bのボディダイオード4bで還流電流が流れ始めたときに発生するパルス状電流のパルス幅PWをとり、縦軸に還流電流でなるドレイン電流Id(b)をとって、SiC-MOSFETの欠陥成長領域31と欠陥抑制領域32との境界を表す双曲線状の欠陥抑制特性曲線L1が設定されているものであって、また、パルス幅PWは第1ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3aの制御信号CS(a)およびSiC-MOSFET3bの制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtの約30%に設定され、デッドタイム時間Tdtを検出することにより、パルス幅PW(=0.3×Tdt)が算出することができるものであ”ることが記載されている。
I 上記(ア)Bの段落【0028】には、「ドレイン電流Id(b)は、SiC-MOSFET3aの還流インダクタンスLMOSとショットキーバリアダイオード5aの還流インダクタンスLSBDとのインダクタンス比LMOS/LSBDにボディダイオードの還流電流IBDを乗算した値」であることが記載されている。
J 以上、上記AないしIにおいて検討した事項から、上記甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「正極出力端子が正極ラインLpに接続され、負極出力端子が負極ラインLnに接続され、三相交流電源14から入力する三相交流電力を全波整流する整流回路15と、これら正極ラインLp及び負極ラインLn間に接続され、整流回路15で整流された電力を平滑化する平滑用コンデンサ16と、正極側ラインLpに接続された上アーム部を構成する半導体モジュール2a,2c,2eと、負極側ラインLnに接続された下アーム部を構成する半導体モジュール2b,2d,2fとを有する電力変換装置10において、
半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に直列に接続されてスイッチングアーム部を構成しており、
半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bの接続部と、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dの接続部と、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fの接続部は、誘導性負荷となる三相電動機17にそれぞれ接続されており、
半導体モジュール2aは、N型のSiC-MOSFET3aと、MOSFET3aに寄生するボディダイオード4aと、MOSFET3aに逆並列接続された還流用のショットキーバリアダイオード5aとを有してアーム部を構成しており、
半導体モジュール2bは、半導体モジュール2aと同様に、N型のSiC-MOSFET3bと、ボディダイオード4bと、ショットキーバリアダイオード5bとを有してアーム部を構成しており、
半導体モジュール2a及び半導体モジュール2bは、U相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、V相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、W相スイッチングアーム部を構成し、これらのU相スイッチングアーム部、V相スイッチングアーム部及びW相スイッチングアーム部が並列接続された三相フルブリッジ回路と、U相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1a,1bと、V相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1c,1dと、W相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1e,1fとでインバータ回路が構成されおり、
SiC-MOSFET3a,3bを両方ともオフ状態にするモードMD2に移行すると、SiC-MOSFET3bに流れるドレイン電流Id(b)を検出する電流センサ21aで検出される還流電流でなる負極性のドレイン電流Id(b)を読込み、ドレイン電流Id(b)がピーク値に達したか否かを判定し、ピーク値に達したときには、ピーク値をRAM26aに一次記憶し、制御信号CS(a)および制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtを検出するデッドタイム時間検出処理で検出したデッドタイム時間Tdtを読込み、デッドタイム時間Tdtの30%をパルス幅PW(=0.3×Tdt)として設定し、ROM27aから欠陥特性マップを読込み、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとをもとに、欠陥特性マップを参照して、ドレイン電流Id(b)のピーク値とパルス幅PWとで表される座標が欠陥抑制領域ADiに属するか欠陥成長領域ADgに属するかを判別し、座標が欠陥成長領域ADgに属する場合には、同一パルス幅PWで欠陥抑制領域ADi内となるSiC-MOSFET3bの補正ドレイン電流IAd(b)を算出し、算出した補正ドレイン電流IAd(b)に該当する制御信号CS(a)の補正デューティ比DA(a)を算出するものであって、
欠陥抑制特性マップは、横軸に第2ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3bのボディダイオード4bで還流電流が流れ始めたときに発生するパルス状電流のパルス幅PWをとり、縦軸に還流電流でなるドレイン電流Id(b)をとって、SiC-MOSFETの欠陥成長領域31と欠陥抑制領域32との境界を表す双曲線状の欠陥抑制特性曲線L1が設定されているものであって、また、パルス幅PWは第1ワイドバンドギャップ半導体素子となるSiC-MOSFET3aの制御信号CS(a)およびSiC-MOSFET3bの制御信号CS(b)間のデッドタイム時間Tdtの約30%に設定され、デッドタイム時間Tdtを検出することにより、パルス幅PW(=0.3×Tdt)が算出することができるものであって、
ドレイン電流Id(b)は、SiC-MOSFET3aの還流インダクタンスLMOSとショットキーバリアダイオード5aの還流インダクタンスLSBDとのインダクタンス比LMOS/LSBDにボディダイオードの還流電流IBDを乗算した値である、
電力変換装置10。」
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
A 「【0085】
しかしながら、一般的にデッドタイムtrは、1μs以下となることから、規制対象周波数範囲で十分にノイズ低減効果が得られることになる。ここで150kHzのノイズレベルは一般にノイズ対策用EMIフィルタの体積を決定する要因となることから、150kHz成分のノイズを低減することで装置全体の小型化を実現する効果は大きい。」
ウ 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
A 「【0031】
図7は、本実施の形態におけるDC-ACインバータ162のスイッチング部163の回路図である。
スイッチング部163は、インバータ制御部164から信号を入力され各IGBT715、719、728、732、742、746をスイッチングすることにより、DC390Vをスイッチングして交流の出力を得る。
IGBT715、719、728、732、742、746は、Si FET(Silicon Field Effect Transistor)、SiC FET(Silicon Carbide Field Effect Transistor)、GaN FET(Gallium nitride Field Effect Transistor)等のデバイスも使用可能である。
スイッチングにおいては、IGBT715及びIGBT719、IGBT728及びIGBT732、並びに、IGBT742及びIGBT746のハイサイドとローサイドの対で両方同時オンによる貫通電流が流れないように、各上下対では略反転した信号が入力される。さらに、純粋な反転信号である場合に、オフ時間の遅延により同時オンとなる時間が生じてしまうことを防止するため、上下対両方オフする時間としてのデッドタイムを1μsec設けた。このデッドタイムは、本実施の形態では、1μsecとしたが、使用デバイス及びスイッチング周波数によって適宜設定される時間であり、この時間に限られるものではない。」
エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A 「Summary
We have proposed a MOSFET structure in which an SBD is embedded into each unit cell and an additional doping is applied. High reverse current density of 300 A/cm2 without any activation of its parasitic body diode was demonstrated with the fabricated 3.3 kV class MOSFET. The specific resistance of the proposed MOSFET was 15% higher than that of the conventional MOSFET with the same threshold voltage and circuit capability. This leads to a forecast that a 1.15-size proposed MOSFET embedding SBD can replace a 1.0-size conventional MOSFET with the same conduction loss, and can eliminate coupled 1.5-size external SBD for inactivation of the parasitic body diode.」(482頁)
(当審訳:要約
各ユニットセルにSBDを埋め込み、追加のドーピングを行うMOSFET構造を提案した。製造された3.3kVクラスのMOSFETを使用して、寄生ボディダイオードをアクティブ化せずに300A/cm2の高い逆電流密度を実証した。提案されたMOSFETの比抵抗は、同じしきい値電圧と回路能力を備えた従来のMOSFETの比抵抗よりも15%高かった。これにより、1.15サイズの提案されたMOSFET埋め込みSBDは、1.0サイズの従来のMOSFETを同じ導通損失で置き換えることができ、寄生ボディダイオードの不活性化のために結合された1.5サイズの外部SBDを排除できるという予測につながる。)
B 「
[図:0001397192000005.jpg]
」(482頁Fig.14)
(当審訳:図14 提案されたSBDを埋め込んだMOSFETと従来のボディダイオードのスイッチング特性)
オ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A 「【特許請求の範囲】
【請求項 1】
逆導通性能を有し、高耐圧な電圧駆動型スイッチング素子である主素子と、
前記主素子に比べ耐圧が低い逆流防止素子と、
前記主素子の負極と前記逆流防止素子の負極とを接続して前記主素子の正極を正極端子とし、前記逆流防止素子の正極を負極端子とし、
前記正極端子と前記負極端子との間に前記負極端子から前記正極端子に向かう方向が順方向となるように接続し、前記主素子と同等の耐圧を有する高速還流ダイオードと、
前記逆流防止素子と並列で、前記逆流防止素子の正極から前記高速還流ダイオードを介して前記主素子の正極に正電圧を印加し、前記主素子の負極に負電圧を印加する方向に接続し、前記逆流防止素子の耐圧より低い電圧パルスを発生するとともに、前記主素子がオフする時期と略同期して前記電圧パルスを出力して前記主素子の正極側電位を負極側電位よりも高電位とする予備電圧印加回路と、を備え、
前記逆流防止素子は、前記主素子と略同期してオンおよびオフする電圧駆動型スイッチング素子である、半導体スイッチ。」
B 「【0008】
実施形態によれば、逆導通性能を有し、高耐圧な電圧駆動型スイッチング素子である主素子と、前記主素子に比べ耐圧が低い逆流防止素子と、前記主素子の負極と前記逆流防止素子の負極とを接続して前記主素子の正極を正極端子とし、前記逆流防止素子の正極を負極端子とし、前記正極端子と前記負極端子間に前記負極端子から前記正極端子に向かう方向が順方向となるように接続し、前記主素子と同等の耐圧を有する高速還流ダイオードと、前記逆流防止素子と並列で、前記逆流防止素子の正極および前記高速還流ダイオードを介して前記主素子の正極に正電圧を印加し、前記主素子の負極に負電圧を印加する方向に接続し、前記逆流防止素子の耐圧より低い電圧パルスを発生するとともに、前記主素子がオフする時期と略同期して前記電圧パルスを出力して前記主素子の正極側電位を負極側電位よりも高電位とする予備電圧印加回路と、を備え、前記逆流防止素子は、前記主素子と略同期してオンおよびオフする電圧駆動型スイッチング素子である、半導体スイッチが提供される。」
C 「
[図:0001397192000006.jpg]
」
カ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A 「[0046] SiC MOSFETの寄生ダイオードの立ち上がり電圧が約3Vであるのに対して、SiC SBD(Shottky Barrier Diode)の立ち上がり電圧は約1Vと低い。そのため、図7に示すように、SiC MOSFETに対してSiC SBDを並列に接続することにより、寄生ダイオードではなくSiC SBDに電流を流すことができ、寄生ダイオードの劣化を防止することが可能である。しかし、SiC MOSFETに対してSiC SBDを並列に接続した構成とした場合にはコスト増加などの課題が生じる。」
B 「
[図:0001397192000007.jpg]
」
キ 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
A 「[0025] 次に、半導体チップ(半導体素子)の初期特性が評価されるチップテスト工程が行われる(ステップS7)。当該テストの結果は、検査結果データとして所定の記憶領域(図示せず)に保存される。半導体チップにおける、リーク電流についても測定され、さらに、例えば10A/cm2程度の電流を流した状態での、抵抗値および通電時間に対する抵抗の変化量についても測定される。」
B 「[0057] また、本発明に関する実施形態によれば、ブール単位または製造ロット単位で選択された一部の炭化珪素半導体基板のエピタキシャル層における結晶欠陥を観察し、ボディダイオードにおける順方向通電の特性を検査する。」
ク 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。
A 「
[図:0001397192000008.jpg]
Fig. 2: - Photo of 1200v/400A sic-mosfet power hybrid half bridge assembled in both side sinter-technology and 3D-skin layer; one switch has 8×50A mosfets in parallel; module size is 69 × 92mm」(419頁Fig.2)
(当審訳:図2:sinter-technologyと3D-skin層の両方で組み立てられた1200V/400AのSIC-MOSFETパワーハイブリッドハーフプリッジの写真;1つのスイッチが並列な8個の50A MOSFETを有する。モジュールサイズは 69×92mmである。)
B 「
[図:0001397192000009.jpg]
Fig. 9: Overlay of turn on measurement at VDC=600V, Iload=400A, Tj=150℃ with tdead=15ns and 500ns. The reduced dead time leads to a reduced over current and switching losses.」(421頁Fig.9)
(当審訳:図9 : VDC=600V、Iload=400A、Tj=150℃、tdead=150ns及び500nsでのターンオン測定をオーバーレイしたもの。減少したデッドタイムにより過電流とスイッチング損失が減少する。)
C 「
[図:0001397192000010.jpg]
Fig. 10: switching losses as a function of dead time. Between 1μs and until 10.1μs the switching losses decrease. At 0μs the losses increase due to the cross current over the bridge.」(421頁Fig.10)
(当審訳:図10:デッドタイムの機能としてのスイッチング損失。1μsと0.1μsまでの間でスイッチング損失が減少する。0μsではブリッジを渡るクロス電流により損失が増加する。)
D 図10(上記C)によれば、デッドタイムを0.1~2.5μsで可変させたことが看取できる。
(3)判断
ア 申立理由ア(特許法第36条第6項1号)について
本件訂正請求による訂正により、請求項1及び明細書における「5×10-2/exp(-t×1.7×106)/I≦1」という記載は、「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」と訂正され、訂正された式では図4の曲線の原点側の領域(矢印D側の領域)を表すものとなり、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
イ 申立理由イ(特許法第29条第2項)について
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)を対比する。
a 甲1発明の「SiC-MOSFET3a」、「SiC-MOSFET3b」は、各々、本件特許発明1の「第1炭化珪素MOSFET」、「第2炭化珪素MOSFET」に相当する。
そして、甲1発明の「電力変換装置10」は、「SiC-MOSFET3a」からなる「半導体モジュール2a」と「SiC-MOSFET3b」からなる「半導体モジュール2a」が「直列に接続され」て「U相スイッチングアーム部を構成し」、「半導体モジュール2c及び半導体モジュール2dは、V相スイッチングアーム部を構成し、半導体モジュール2e及び半導体モジュール2fは、W相スイッチングアーム部を構成し、これらのU相スイッチングアーム部、V相スイッチングアーム部及びW相スイッチングアーム部が並列接続された三相フルブリッジ回路と、U相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1a,1bと、V相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1c,1dと、W相アームのスイッチング動作を制御するゲート駆動装置1e,1fとでインバータ回路が構成」するものであるから、甲1発明の「電力変換装置10」は、本件特許発明1の「第1炭化珪素MOSFETと、第2炭化珪素MOSFETとが、直列に接続されたインバータ回路」に相当する。
b 甲1発明の「ボディダイオード4a」、「ボディダイオード4b」は、各々、本件特許発明1の「第1炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオード」、「第2炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオード」に相当する。
そして、甲1発明の「パルス幅PW」は、「SiC-MOSFET3bのボディダイオード4bで還流電流が流れ始めたときに発生するパルス状電流」のパルス幅であるから、本件補正発明の「内蔵ダイオードに流れる過渡電流のパルス幅」に相当する。
しかしながら、甲1発明では、「パルス幅PW」は、「デッドタイム時間Tdtの30%」であって、2μs未満とは特定されていない。
c 甲1発明の「欠陥特性マップ」に関して、甲第1号証の図4に記載され、「パルス幅」が小さくなるにつれて「ドレイン電流Id(b)」が大きくなる曲線として描かれてはいるが「パルス幅」が「2μs未満」では曲線が描かれておらず不明である。
さらに、図4における欠陥抑制領域ADi(曲線の原点側)が「ドレイン電流Id(b)」をI(A/cm2)として、「パルス幅」をt(s)とした時に、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)となるものでもないし、また、図5には、パルス幅とボディダイオード電流との関係も示されているが、図5における欠陥抑制領域ADiが「ボディダイオード電流IBD」をI(A/cm2)として、「パルス幅」をt(s)とした時に、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)となるものでもない。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「第1炭化珪素MOSFETと、第2炭化珪素MOSFETとが、直列に接続されたインバータ回路である、
炭化珪素MOSFETインバータ回路。」
(相違点1)
本件特許許発明1では、「前記第1炭化珪素MOSFETおよび前記第2炭化珪素MOSFETがオフであるデッドタイムに、前記第1炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードおよび前記第2炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードに流れる過渡電流のパルス幅が2μs未満であ」るのに対して、甲1発明では、「パルス幅PW」にその旨の特定がされていない点。
(相違点2)
本件特許許発明1では、「記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106) を満たす」ものであるのに対して、甲1発明では、その旨の特定がされていない点。
事案に鑑み、相違点1及び相違点2についてまとめて検討する。
甲第2、3号証には、デッドタイムを1μsとすることが記載されている。
甲第4-6号証には、MOSFETに並列にダイオード若しくはFETを設けることで、内蔵ダイオードの劣化を防止することが記載されている。
甲第7号証には、10A/cm2の電流でチップテストを行うことが記載されている。
甲第8号証には、SiC-MOSFETを搭載したハーフブリッジモジュールのモジュールサイズが69×92mmであって、片側アームの半導体スイッチに最大400Aの電流が流れること、また、デッドタイムを0.1~2.5μsで可変させることが記載されている。
しかしながら、甲第2-8号証には、「前記第1炭化珪素MOSFETおよび前記第2炭化珪素MOSFETがオフであるデッドタイムに、前記第1炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードおよび前記第2炭化珪素MOSFETの内蔵ダイオードに流れる過渡電流のパルス幅が2μs未満」であって、「記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106) を満たす」ものとすることは記載されていない。
また、そのようにすることが、当該技術分野における周知技術であったともいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲第2-8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
なお、上記相違点1、2について、申立人は、令和4年12月26日に提出の意見書において、
「甲1発明に上記周知技術を適用し、デッドタイムを1μsとすることは、当業者が容易に為し得るものです。そして、甲1発明は、還流電流のパルス幅をデッドタイム時間の30%とすることから、デッドタイムを1μsとすれば、還流電流のパルス幅は0.3μsとなります。即ち、過渡電流のパルス幅が2μs末満になります。
また、デッドタイムを小さく設定することで過渡電流の通流時間が短くなって電流自体小さくなることは必然です。電流が小さいのであるから、ダイオードに蓄積される電荷も抑制されます。また、ボディダイオードに流れる電流は小さくなるため、デッドタイム区間の次にくる上アームの半導体スイッチのターンオンタイミングで発生するリカバリー電流は抑制されます。電流が小さいほど積層欠陥が小さくなることは当業者にとって周知事項です。従って、SiCの積層欠陥を小さくするためにデッドタイムを小さくして、過渡電流のパルス幅を2μs未満にすることは当業者にとって想到容易です。
続いて、相違点2について検討します。甲1発明には、図5に示す特性線Ldより原点側となる双曲線状の欠陥抑制特性曲線Ld1を設定し、この欠陥抑制特性曲線Ld1より内側の欠陥抑制領域ADiは積層欠陥の成長をより確実に防止することができることが開示されています(段落0064)。例えば還流電流IBDが約100A/cm2の場合、甲1発明の欠陥抑制特性曲線Ldではパルス幅PWが8μs、欠陥抑制特性曲線Ld1ではパルス幅PWが3μs、訂正後の本件特許発明1の「前記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)を満たす」ではパルス幅PWが0.4μsとなるため、本件特許発明1の相違点2の条件は甲1発明の欠陥抑制特性曲線Ldlの内側の欠陥抑制領域ADiに含まれています(以下の参考図1、参考表1を参照)。
・・・中略・・・
従いまして、訂正後の本件特許発明1の「前記過渡電流のパルス幅t(s)および前記過渡電流の電流密度I(A/cm2)は、0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)を満たす」の中の一定範囲が甲1号証に開示されていることは明らかです。
また、甲1発明には欠陥抑制領域ADiに設定すると欠陥が抑制されることが既に開示されており、本件特許発明1の条件に更に設定することによる臨界的意義は示されていません。本件特許発明1の条件でも甲1発明の欠陥抑制領域ADiでも欠陥が完全に無くなる訳ではないため、どちらの条件でMOFSETの内蔵ダイオードに電流を流すかは、設計事項に過ぎません。」
と主張している。
本件特許の明細書の段落【0037】には「図2に示すように、直流電流の電流密度が10A/cm2程度から電流密度が大きくなるにつれて積層欠陥が成長することが分かる。一方、直流電流の電流密度が10A/cm2より小さくなると積層欠陥の成長速度がマイナスとなり、積層欠陥が縮小していくことが分かる。つまり、炭化珪素半導体装置に電流密度10A/cm2より小さい直流電流では、積層欠陥が成長しないことがわかる。」と記載され、さらに、段落【0040】には、「具体的には、図3に示すように、パルス電流のパルス幅が2μs以上では、比率は1となっている。つまり、パルス電流でも直流電流と同じ電流密度で積層欠陥が成長する。図2を考慮すると、パルス電流のパルス幅が2μs以上のパルス電流では、電流密度10A/cm2より大きいと積層欠陥が成長することになる。」、また、段落【0041】には「一方、パルス電流のパルス幅が2μsより小さいと、比率は1より大きくなっている。つまり、パルス電流では、直流電流より大きい電流密度でも積層欠陥が成長しない。例えば、パルス幅が1μsの場合、比率は4であり、直流電流より4倍の電流密度でも積層欠陥が成長しない。図2を考慮すると、パルス電流のパルス幅が1μsのパルス電流では、電流密度10A/cm2の4倍の電流密度40A/cm2の電流密度になるまで積層欠陥が成長しない。」と記載されている。
してみると、本件特許発明1では、パルス電流のパルス幅が2μs以上では、電流密度10A/cm2より大きいと積層欠陥が成長するが、パルス幅が2μsより小さいと、電流密度10A/cm2より大きい領域でも積層欠陥が成長せず減少することに基づいて、「パルス幅」を「2μs未満」として、さらに、「パルス幅」が「2μs未満」における積層欠陥が成長しない「電流密度」の上限を10A/cm2より大きい「0≦I≦200×exp(-t×1.7×106)」として規定したものであるから、本件特許発明1の「パルス幅」、「パルス幅」と「電流密度」の関係式に臨界的意義がないとまではいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。
(イ)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4はいずれも請求項1を直接または間接的に引用するものである。したがって、本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであることから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2ないし4は、甲1発明、及び甲第2-8号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本件特許発明1ないし4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700451