特許異議申立
2022-700347
油性毛髪化粧料
- 審判番号
- 2022-700347
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-149070
- 登録番号
- 6955615
- 請求日
- 2022年04月26日
- 審決日
- 2023年06月05日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】コタ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人YKI国際特許事務所
- 【異議申立人】藤井 良子
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.537-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6955615号発明「油性毛髪化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6955615号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6955615号の請求項1に係る特許についての出願は、令和2年9月4日の出願であって、令和3年10月5日に特許権の設定登録がされ、同年10月27日にその特許公報が発行され、令和4年4月26日に、その請求項1に係る発明の特許に対し、藤井 良子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 8月 1日付け 取消理由通知
同年 9月28日 意見書の提出(特許権者)
同年12月13日付け 審尋
令和 5年 2月16日 回答書の提出(特許権者)
第2 本件発明
特許第6955615号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
以下の成分(a)~(d):
(a)25℃における粘度が3mm2/s以下の直鎖状ジメチコンが10~40質量%
(b)35質量%以上のイソドデカンを含み、炭素数20以下の炭化水素油が40質量%以上
(c)下記式で表される高重合シリコーン
【化1】
[図:0001399341000001.jpg]
(式中、R1はメチル基、R2はメチル基又は水酸基を表し、nは1000以上の整数を表す)
(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン
を含有し、
成分(a)と成分(b)との含有量の合計が、70質量%以上であり、
成分(c)の含有量は、5質量%以上12質量%未満であり、
成分(d)の含有量が、0.01~5質量%である、油性毛髪化粧料。」
第3 特許異議申立理由、取消理由及び審尋の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第7号証を提出して、以下の申立理由を主張している。
(証拠方法)
甲第1号証:Acc.Mater.Surf.Res., Vol.1、No.2、2016、p.参考和文-1~6(以下「甲1」という。)
甲第2号証:鈴木敏幸監修、「エマルションの新しい高安定化手法」(第1版第2刷)、2005年7月26日、株式会社 技術情報協会発行、p.316~320(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2008-273902号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:Cosmetic-Info.jpのWebページ、「化粧品表示名称 成分詳細 成分番号:557368 ジシロキサン Disiloxane(旧称)HEXAMETHYLDISILOXANE」[online]、公開日不明、[印刷日2022年4月13日]、インターネットURL:https://www.cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=6092(以下「甲4」という。)
甲第5号証:Cosmetic-Info.jpのWebページ、「製品詳細 BELSIL○R DM0.65」(決定注:○Rは、Rの丸付き文字を表す。以下同様。)[online]、公開日不明、[印刷日2022年4月13日]、インターネットURL: https://www.cosmetic-info.jp/mate/detail.php?id=2047(以下「甲5」という。)
甲第6号証:東レ・ダウコーニング株式会社発行パンフレット、「ヘアケア用シリコーンセレクションガイド」、2010年6月、表紙、p.1~4、奥付(以下「甲6」という。)
甲第7号証:カネダ株式会社のWebページ、「化粧品原材料検索 DOWSIL CB-2250 Fluid」[online]、公開日不明、[印刷日2022年4月13日]、インターネットURL:https://cosmetic-material-database.custhelp.com/app/answers/detail/a_id/1156/-/dowsil-cb-2250-fluid(以下「甲7」という。)
(申立理由の概要)
申立理由1(明確性要件)
本件発明は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
本件発明における「HLBが8未満」は、算出法によりHLB値が変動する状況(甲1及び甲2)では該当するか否かが確定できないものであるから、本件発明は不明確である。
申立理由2(進歩性)
本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲3に記載された発明、及び、甲3~甲7に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 当審合議体が通知した取消理由及び審尋の概要
本件発明に対して、令和4年8月1日付けで当審合議体が特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
記
本件発明の(d)ポリエーテル変性シリコーンは、「HLBが8未満」と特定されるところ、本件の願書に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)には、「HLB」値をどのように算出するかは記載されていない。
また、本件出願当時における技術常識を検討すると、HLB値の算出方式は様々あり、HLB値は計算方法によって異なるものと認められる。
それゆえ、本件発明の「(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」には、どのようなものが包含されるか明確でない。
なお、上記取消理由は、申立理由1(明確性要件)に対応するものである。
3 当審合議体が通知した審尋の概要
本件発明に対して、令和4年12月13日付けで当審合議体が特許権者に通知した審尋の概要は、以下のとおりである。
(1)グリフィン法によると、本件明細書の実施例及び比較例に記載されている(d)成分の各HLB値は、具体的にどのような式を用いてどのように計算することによって、当該各数値となるのか、具体的に説明するか、又は、成分の各商品カタログ等の説明からみて、当該各HLB値がグリフィン法により計算されていることを示す証拠を提出されたい。
(2)本件出願時の技術常識を参酌すれば、HLBの値の算出方法として、当業者は、Daviesの式や川上式等ではなく、グリフィン法を採用するといえる証拠を示されたい。また、市販されるような薬品において、Daviesの式や川上式等ではなく、グリフィン法を用いてHLBの値を算出することが、技術常識であったといえる証拠を示されたい。
第4 当審合議体の判断
当審合議体は、請求項1に係る特許は、当審合議体の通知した取消理由及び申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。
1 当審合議体が通知した取消理由及び審尋についての判断
(1)特許権者が提出した証拠
特許権者は、令和4年9月28日付け意見書の証拠方法として以下の乙第1号証~乙第5号証を提出し、さらに、令和5年2月16日付け回答書の証拠方法として、以下の参考資料1~5を提出し、意見を述べ又は回答している。
(証拠方法)
乙第1号証:田村健夫 外1名著、「香粧品科学-理論と実際 第4版」、2001年6月30日、有限会社 フレグランスジャーナル社発行、p.283~285(以下「乙1」という。)
乙第2号証:藤本武彦著、「全訂版 新・界面活性剤入門」、昭和60年11月1日、三洋化成工業株式会社発行、p.126~129(以下「乙2」という。)
乙第3号証:光井武夫編、「新化粧品学 第2版」、2009年3月20日、株式会社南山堂発行、p.191~193(以下「乙3」という。)
乙第4号証:特許第6539071号公報(以下「乙4」という。)
乙第5号証:特許第6994563号公報(以下「乙5」という。)
参考資料1:東レ・ダウコーニング株式会社パンスレット、「ビューティーケア用シリコーン beauty WITH IMPACT」、2017年5月、東レ・ダウコーニング株式会社発行、p.3~4(以下「参考1」という。)
参考資料2:信越化学工業株式会社パンスレット、「信越シリコーン 化粧品用シリコーン」、2014年2月、信越化学工業株式会社発行、p.18~19(以下「参考2」という。)
参考資料3:特開2015-209406号公報(以下「参考3」という。)
参考資料4:特開平9-110656号公報(以下「参考4」という。)
(2)甲1~甲7、乙1~乙5及び参考1~参考4の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1a
「エマルションの安定性を高めるためのコツ:
「たかが乳化、されど乳化」の観点から」(参考和文-1標題)
甲1b
「しかしながらHLBは算出法によって異なる値となり、曇点などの物性値とも直接的対応性がない。」(参考和文-4左欄16~18行)
イ 甲2の記載事項
甲2a
「5.4.1 HLB値の算出方法
1949年,GriffinがHLBの概念を提案して以来,多くの研究者によりHLB値の計算法が提案されている。Griffinは乳化剤の分析値より,HLB値の求め方について報告している156)。以下その概要を紹介する。
・・・
(3)ポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体
HLB=E/5
ここでE;オキシエチレン基の重量分率。
・・・
(6)川上式
1953年,川上は既知の組成の非イオン界面活性剤のHLBはその親油基の分子量(Mo)と親水基(Mw)の分子量から式(12)により与えられることを提案した158)。
HLB=7+11.7logMw/Mo (12)
・・・
(7)Daviesの式
DaviesはHLB値を乳化現象の動力学からその物理的な意味を明らかにし,化学量論的に計算できる新しい方式を提案した159)。
表18(省略)
表18に示す界面活性剤の親油基および親水基の基数から式(13)によりHLB値を計算する。
HLB=7+Σ(親水基の基数)-Σ(親油基の基数) (13)」(316頁下から3行~318頁下から5行)
甲2b
「図40にポリオキシエチレンセチルエーテルの酸化エチレンの付加モル数とHLBの計算方式による比較を示す162)。
図40(省略)
HLB法は計算方式によって異なる。・・・」(319頁下から2行~329頁図40下1行)
ウ 甲3の記載事項
甲3a
「【請求項1】
次の成分(A)~(C);
(A)揮発性炭化水素油
(B)植物油
(C)25℃における粘度が1万mPa・s以上、かつ、500万mPa・s以下のジメチコノール
を配合したことを特徴とする油性毛髪化粧料。」
甲3b
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、かかる実情に鑑み、油性毛髪化粧料における機能付加をさせるべく鋭意検討を行った結果、揮発性炭化水素油と植物油と特定の粘度を有するジメチコノールとを配合したことにより、使用後のツヤ感、ハリ・コシ感に優れ、仕上がりのべたつきを抑え軽さに優れた油性毛髪化粧料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、次の成分(A)~(C);
(A)揮発性炭化水素油
(B)植物油
(C)25℃における粘度が1万mPa・s以上、かつ、500万mPa・s以下のジメチコノール
を配合したことを特徴とする油性毛髪化粧料を提供するものである。
また、更に、成分(D)として25℃における粘度が200mPa・s以下のシリコーンを配合する油性毛髪化粧料を提供するものであり、そして、更には、成分(A)の配合量が20~80質量%である油性毛髪化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の油性毛髪化粧料は、べたつきが抑えられ軽い仕上がりで、髮へのツヤ、ハリ・コシ感の付与効果に非常に優れている。」
甲3c
「【0008】
本発明の油性毛髪化粧料において成分(A)の揮発性炭化水素油は、一種又はニ種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、特に限定はされないが、20~80質量%(以下、単に「%」とする)が好ましく、40~60%がより好ましい。・・・
・・・
【0015】
本発明の油性毛髪化粧料は、連続相が油性成分で、実質、水性成分を含まないものであり、好ましくは無水形態であるが、上記成分(A)~(D)の他に、本発明の効果を損なわない質的量的範囲で、通常の毛髪化粧料に用いられる成分を水性、非水性の区別なく配合しても良い。例えば、成分(C)、成分(D)以外のシリコーン、成分(A)以外の炭化水素油、エステル油、動物油、鉱物油等の油性成分、界面活性剤、多価アルコール、キレート化剤、殺菌剤、酸化防止剤、粘度調整剤、収斂剤、抗フケ剤、紫外線吸収剤、染料・色素等の着色剤、香料、ビタミン等の美容成分、エアゾール噴射剤等を適宜配合することができる。」
甲3d
「【0031】
実施例4 ヘアオイル (%)
1:イソドデカン(注5) 40
2:ヘキサメチルジシロキサン 20
3:アボカド油 0.5
4:オリーブ油 1
5:米ヌカ油 1
6:ジメチコノール 8万mPa・s(25℃) 5
7:ジメチルポリシロキサン20mPa・s(25℃) 残量
8:ジメチルポリシロキサン100mPa・s(25℃)10
9:ジメチルフェニルポリシロキサン 10
10:イソノナン酸イソノニル 3
(注5)丸善石油化学社製 マルカゾールR
【0032】
(製法)
(1)~(10)を均一混合溶解してヘアオイルを得た。
【0033】
実施例4のヘアオイルは、「べたつきのなさ」、「仕上がりの軽さ」、「ツヤ感」、「ハリ・コシ感」の全てにおいて優れたヘアオイルであった。」
エ 甲4の記載事項
甲4a
「化粧品表示名称 成分詳細
成分番号:557368
ジシロキサン
Disiloxane
(旧称)HEXAMETHYLDISILOXANE」(1/1 1~5行)
オ 甲5の記載事項
甲5a
「製品詳細 BELSIL○R DM0.65
化粧品表示名称 ジシロキサン
部外品申請成分
粘度0.65mm2/s・・・」(1/1 1~5行)
カ 甲6の記載事項
甲6a
「ウエット時きしみ低減、
ドライ時のぱさつき低減
ポリエーテル変性直鎖ABn
FZ-22××シリーズ 」
(1頁「ヘアケア用シリコーンのタイプと機能」の図の一部説明)
甲6b
「用途に応じたシリコーンのタイプ
タイプ アウトバス・トリートメント
・・・
ポリエーテル変性シリコーン しっとり感
ポリエーテル変性直鎖ABn ぱさつき防止 」
(1頁「用途に応じたシリコーンのタイプ」の表)
甲6c
「ポリエーテル変性シリコーン
・・・
直鎖ABnタイプ
ポリエーテルとシリコーンが交互に結合した直鎖状のブロック共重合体(ABnタイプ)です。
シリコーン部位とポリエーテル部位が同一面上に存在可能なため、シリコーン特有の平滑感とポリエーテル特有のしっとり感を併せもちます。
タイプ 製 品 ・・・
通常タイプ FZ-2222,・・・ ・・・ 」
(4頁上「ポリエーテル変性シリコーン」の項)
キ 甲7の記載事項
甲7a
「DOWSIL CB-2250 Fluid
ダウ・東レ(株)
・・・
直鎖共重合ABnタイプポリエーテル変性シリコーン ポリエーテルとシリコーンが交互に結合した直鎖状のブロック共重合体(ABnタイプ)の高重合タイプの水添ポリイソブテンに溶解させた製品です。側鎖ポリエーテル変性タイプと異なり、シリコーン部位とポリエーテル部位が同一面上に存在可能なため、シリコーン特有の平滑感とポリエーテル特有のしっとり感を併せもちます。」(1/2 中段「DOWSIL CB-2250 Fluid」の検索結果)
ク 乙1の記載事項
乙1a
「2・3・1 HLB値法
この方法は界面活性剤分子中の親水基と親油基との分子量を基本とした考えで,非イオン界面活性剤の場合,その分子量中の親水基部分の分子量と親油基部分の分子量の比により,界面活性剤の親水性または親油性の強さを数値化したもので,これをHLB(hydrophile lipophile balance)で表したものである28)~30)。
この方法は1949年Griffinにより提唱されたもので,つぎに示す3つのルールから構成されている。
1)界面活性剤の親油基と親水基の比からHLB値を算出するために,つぎに示す3つの計算式を設定した。
2)HLB値に加成性が成立するという想定から,2種類の界面活性剤を混合した場合の混合HLB値を計算する式を設定した。
3)油相に所要HLB値を想定し,各種の油相成分毎に所要HLB値を設定した。
・・・
a-3.親水基として酸化エチレンのみを有するもの
(例:脂肪アルコールの酸化エチレン付加物)
HLB=E/5
E;分子中のポリオキシエチレンの重量%。」
(283頁18行~284頁16行)
ケ 乙2の記載事項
乙2a
「 以上のような考えに基づいて,米国のアトラス社(現在ICI アメリカ社)のグリフィン氏は界面活性剤の親水性を表わす数値としてHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)という考え方を創案した。これは訳すと親水性と親油性とのつり合いという意味である。とくにグリフィン氏の創案した方式をグリフィンのHLBと呼ぶこともある。
HLB計算式によるとポリエチレングリコール型および多価アルコール型非イオン界面活性剤の親水性すなわちHLBは次のように計算される。
・・・
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の
HLB=E/5
ただし,Eはポリエチレングリコール部分の重量%」
(128頁21行~129頁10行)
コ 乙3の記載事項
乙3a
「 1)HLB(Hydrophile-lipophile-balance)
・・・
Griffin2)らは膨大な乳化実験を行い,各種界面活性剤のHLBを調べ,それを数値化し,各界面活性剤のHLB値(HLB numberまたはvalue)を求めた.そしてHLB値を界面活性剤の化学構造から計算する方法3)も提案した.
その後,J. T. Davies4)は界面活性剤分子を単位の化学基に分け,その各々に表7-2に示す固有の値(基数)を定め,これを(1)式のように合計することにより求める方法を考案した.
HLB=Σ(親水基の基数)+Σ(親油基の基数)+7 (1)
また川上5)は非イオン界面活性剤のHLB値をその分子構造から求める方法として(2)式を提案した.
HLB=7+11.7logMw/Mo (2)
ここでMwは親水基の分子量,Moは親油基の分子量である.」
(191頁下から6行~192頁8行)
サ 乙4の記載事項
乙4a
「【0019】
(5)ポリオキシエチレンアルキルエーテル(E)
・・・
なお、本明細書において(E)成分のHLB値は、Griffinの式から算出されるものである。」
シ 乙5の記載事項
乙5a
「【0039】
成分(B)のHLB値は・・・
・・・
・・・なお、上記HLB値は、グリフィン(Griffin)法により算出することができる。」
ス 参考1の記載事項
参考1a
「ポリエーテル変性シリコーン(直鎖共重合タイプ)
・・・
製品名 ・・・ HLB1)・・・
FZ-2222 ・・・ 6 ・・・
・・・
CB-2250 ・・・ 1 ・・・
1)グリフィン法 」
(4頁「ポリエーテル変性シリコーン(直鎖共重合タイプ)」の表)
参考1b
「シリコーン乳化剤(ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン)
・・・
製品名 ・・・ HLB1)・・・
ES-5373・・・ ・・・ 8 ・・・
・・・
1)グリフィン法 」
(4頁「シリコーン乳化剤(ポリエーテル変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリコーン)」の表)
セ 参考2の記載事項
参考2a
「□11 ポリエーテル変性シリコーンオイル
製品名 ・・・ HLB ・・・
wt% EO/5
・・・ 」
(18頁「□11 ポリエーテル変性シリコーンオイル)」の表(決定注:□数字は、□囲い数字を表す。))
ソ 参考3の記載事項
参考3a
「【0075】
成分(B)のXが基-O-である場合、すなわち成分(B)がポリエーテル変性シリコーンである場合における、HLB(親水性-親油性バランス;Hydrophile-Lypophile Balance)の値は・・・
・・・
HLB値は、一般に界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により容易に求めることができる。」
タ 参考4の記載事項
参考4a
「【請求項1】 非エアゾール式泡噴出容器から泡状に吐出される整髪料組成物において、グリフィンによるHLB価が5~18のポリエーテル変性シリコーンオイル0.8~5重量%、数平均分子量10万~700万のポリエチレングリコール0.001~3重量%、エチルアルコール10~20重量%及び水を含有し、且つ粘度が10~200cpに調整されていることを特徴とする整髪料組成物。」
(3)当審合議体が通知した取消理由及び審尋についての判断
本件発明の(d)ポリエーテル変性シリコーンは、「HLBが8未満」と特定されるところ、本件の願書に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)には、HLB値をどのように算出するかは記載されていない。
また、本件明細書等において、本件発明の実施例及び比較例が記載されている【表1】及び【表2】には、本件発明における(d)ポリエーテル変性シリコーンとして、具体的に、
「ポリシリコーン-13(HLB=1.0)*9」「*9 DOWSIL CB-2250 Fluid(ダウ・東レ社製)」、
「ポリシリコーン-13(HLB=6.0)*10」「*10 FZ-2222(ダウ・東レ社製)」、
「PEG-12 ジメチコン(HLB=8.0)*11」「*11 ES-5373 Formulation Aid(ダウ・東レ社製)」
を用いたことが記載されている(【0040】~【0041】。下線は、合議体による。)が、これらのHLBの値をどのように算出したかは記載されていない。
ここで、本件発明に係る特許の出願当時における技術常識を検討すると、「HLB」値の算出法は、グリフィンが提唱し(グリフィン法)、それ以降、多くの研究者から提案され(Daviesの式や川上式等)、複数存在しており(甲2a、甲2b及び乙3a)、「HLB」値は算出法によって異なるものであると認められる(甲1b及び甲2b)。また、商品カタログ(参考1及び参考2)や特許公報等(乙4a、乙5a、参考3a及び参考4a)のように、HLB値をグリフィン法を用いて算出した文献が多数見られることから、HLB値の算出法として、グリフィン法は一般的に採用されていることが理解される。
一方、本件明細書の【表1】及び【表2】に示される(d)ポリエーテル変性シリコーンのHLBの値については、本件出願時に公知の商品カタログの値(参考1a及び1b)と一致し、当該カタログのHLBの値は、グリフィン法で算出されたことが示されていることから、グリフィン法で算出しているものといえる。
そうすると、本件明細書等及び本件発明に係る特許の出願当時における技術常識を参酌すれば、本件発明の(d)ポリエーテル変性シリコーンの「HLB」値がグリフィン法を用いて算出されるものであることは、当業者にとって明らかであるといえる。
したがって、本件発明の「(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」には、どのようなものが包含されるかは明らかといえ、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(4)まとめ
したがって、本件発明は明確であるといえ、その特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
よって、本件発明に係る特許出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、本件発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由(申立理由2(進歩性))についての判断
(1)甲3に記載された発明
前記1(2)に示した甲3a~甲3dの記載によれば、甲3には、実施例4として、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「次の1~10;
1:イソドデカン(丸善石油化学社製 マルカゾールR)40質量%
2:ヘキサメチルジシロキサン 20質量%
3:アボカド油 0.5質量%
4:オリーブ油 1質量%
5:米ヌカ油 1質量%
6:ジメチコノール 8万mPa・s(25℃) 5質量%
7:ジメチルポリシロキサン20mPa・s(25℃) 残量
8:ジメチルポリシロキサン100mPa・s(25℃)10質量%
9:ジメチルフェニルポリシロキサン 10質量%
10:イソノナン酸イソノニル 3質量%
を均一混合溶解して得たヘアオイル。」
(2)本件発明と甲3発明との対比
ア 甲3発明における「ヘアオイル」は、本件発明における「油性毛髪化粧料」に相当する。
イ 甲3発明における「1:イソドデカン(丸善石油化学社製 マルカゾールR)40質量%」について、イソドデカンは炭素数12の炭化水素油であるといえるから、本件発明における「(b)35質量%以上のイソドデカンを含み、炭素数20以下の炭化水素油が40質量%以上」に相当する。
ウ そうすると、本件発明と甲3発明とは、
「以下の成分:
(b)35質量%以上のイソドデカンを含み、炭素数20以下の炭化水素油が40質量%以上
を含有する、油性毛髪化粧料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:油性毛髪化粧料について、本件発明は、「(a)25℃における粘度が3mm2/s以下の直鎖状ジメチコンが10~40質量%」を含有し、「成分(a)と成分(b)との含有量の合計が、70質量%以上」であるのに対し、甲3発明は、ジメチルポリシロキサンを含むものの、上記「(a)25℃における粘度が3mm2/s以下の直鎖状ジメチコン」を上記所定量含有しているか、及び、成分(b)との含有量の合計が70質量%以上であるか、明らかでない点。
相違点2:油性毛髪化粧料について、本件発明は、「(c)下記式で表される高重合シリコーン
【化1】
[図:0001399341000002.jpg]
(式中、R1はメチル基、R2はメチル基又は水酸基を表し、nは1000以上の整数を表す)」を含有し、「成分(c)の含有量は、5質量%以上12質量%未満であ」るのに対し、甲3発明は、ジメチコノールを含むものの上記成分(c)を、上記所定質量%の範囲で含有しているか、明らかでない点。
相違点3:油性毛髪化粧料について、本件発明は、「(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」を含有し、「成分(d)の含有量が、0.01~5質量%」であるのに対し、甲3発明は、そのような成分(d)を、上記所定質量%の範囲で含有しているか、明らかでない点。
(3)判断
ア 相違点について
事案に鑑み、相違点3を先に検討する。
(ア)甲3には、甲3発明が、「HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」を含有すること、及び、「HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」を含有する場合は、その含有量はどのくらいかであるか、についての記載や示唆はなされていない。
甲3発明は、使用後のツヤ感、ハリ・コシ感に優れ、仕上がりのべたつきを抑え軽さに優れた油性毛髪化粧料(甲3b)を提供しようという課題の下、「次の成分(A)~(C);
(A)揮発性炭化水素油
(B)植物油
(C)25℃における粘度が1万mPa・s以上、かつ、500万mPa・s以下のジメチコノールを配合したことを特徴とする油性毛髪化粧料」(甲3a)とすることにより、前記甲3における課題を解決したものである。
甲3には、甲3に記載の油性毛髪化粧料において、上記成分の他に、発明の効果を損なわない質的量的範囲で、通常の毛髪化粧料に用いられる成分を配合しても良いこと、その成分の例示の一つとして、界面活性剤が記載されている(甲3c)。
しかしながら、発明の効果を損なわない質的量的範囲で、通常の毛髪化粧料に用いられる界面活性剤を配合することができるとしても、具体的にどのような界面活性剤をどの程度の量配合することができるかは上記記載からは明らかでなく、使用後のツヤ感、ハリ・コシ感に優れ、仕上がりのべたつきを抑え軽さに優れた油性毛髪化粧料を提供しようという課題を解決した甲3発明において、HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーンを含有させるようにし、かつ、その含有量が0.01~5質量%となるようにすることには、動機付けがあるとは認められない。
(イ)また、甲1、甲2及び甲4~甲7には、以下に示す記載はあるが、甲3発明のヘアオイルに、HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーンを含有させるようにし、かつ、その含有量が0.01~5質量%となるようにすることを当業者に動機付ける記載や示唆を認めることができない。
甲1には、HLB値は算出法によって異なる値となることが記載されている(甲1b)。
甲2には、HLB値の算出法は、グリフィン法、Daviesの式や川上式等、複数存在すること、及び、HLB値は算出法によって異なることが記載されている(甲2a、甲2b)。
甲4には、ジシロキサンは、(旧称)HEXAMETHYLDISILOXANEであることが記載されている(甲4a)。
甲5には、製品「BELSIL○R DM0.65」は、化粧品表示名称がジシロキサンで、粘度が0.65mm2/sであることが記載されている(甲5a)。
甲6には、ポリエーテル変性シリコーンの直鎖ABnタイプは、ポリエーテルとシリコーンが交互に結合した直鎖状のブロック共重合体(ABnタイプ)で、シリコーン部位とポリエーテル部位が同一面上に存在可能なため、シリコーン特有の平滑感とポリエーテル特有のしっとり感を併せもつこと、及び、その通常タイプの製品が「FZ-2222」であることが記載されている(甲6b)。
甲7には、「DOWSIL CB-2250 Fluid」は、ダウ・東レ(株)製の、直鎖共重合ABnタイプポリエーテル変性シリコーンで、ポリエーテルとシリコーンが交互に結合した直鎖状のブロック状重合体(ABnタイプ)の高重合タイプの水添ポリイソブテンに溶解させた製品であることが記載されている(甲7a)。
(ウ)そうすると、甲3発明において、HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーンを含有させるようにし、かつ、その含有量が0.01~5質量%となるようにすることについては、甲1~甲7のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願当時の技術常識であったとも認められない以上、甲3発明において、HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーンを含有させるようにし、かつ、その含有量が0.01~5質量%となるようにすることには、当業者といえども、甲1~甲7の記載から容易に想到し得たこととはいえない。
イ 本件発明の効果について
本件発明の効果は、本件明細書の段落【0005】、【0007】及び実施例(【0035】~【0042】)の記載より理解されるように、環状シリコーンを実質的に含有せずとも、速乾性を含めた使用感が良好となることであり、そのような効果は、甲1~甲7の記載から当業者が予測し得たものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
相違点3について、申立人は、特許異議申立書10頁8行~11頁7行において、甲6に記載の「FZ-2222」は、本件明細書等の「【0028】 成分(d)を含む市販品としては、例えば・・・FZ-2222(ダウ・東レ社製)・・・等が挙げられる。」という記載より、本件発明の「(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」の該当成分であることが明らかであり、甲6bの記載より、「FZ-2222」を含めた「ポリエーテル変性シリコーン」の用途は、「しっとり感 ぱさつき防止」などであるから、本件発明の「(d)HLBが8未満のポリエーテル変性シリコーン」に該当する「FZ-2222」を、甲3発明に付加することは容易に想到できる旨、主張している。
しかしながら、甲3発明は、使用後のツヤ感、ハリ・コシ感に優れ、仕上がりのべたつきを抑え軽さに優れた油性毛髪化粧料(甲3b)を提供しようという課題を解決するものであり、そのような甲3発明において、達成しようとする目的とは必ずしも一致するとはいえない、しっとり感やぱさつき防止を目的とした上で、甲6に記載のポリエーテル変性シリコーンの直鎖ABn型のFZ-22xxシリーズに着目し、そのシリーズの中の「FZ-2222」を敢えて選択すること、さらに、当該「FZ-2222」の「含有量が、0.01~5質量%」となるようにすることを当業者に動機付ける記載や示唆を認めることができない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。
エ 小括
本件発明は、相違点1及び相違点2を検討するまでもなく、甲3に記載された発明及び甲1~甲7に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
(4)まとめ
以上より、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700347