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特許拒絶査定不服審判

2022-018200

ニコチン酸リボシドまたはニコチンアミドリボシド組成物、その還元誘導体、およびその使用

審判番号
2022-018200
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-177461外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年11月11日
審決日
2025年07月16日
公報発行日
2025年12月26日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
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特願2020-177461「ニコチン酸リボシドまたはニコチンアミドリボシド組成物、その還元誘導体、およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔令和3年2月18日出願公開、特開2021-20934〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)3月16日(パリ条約による優先権主張:2015年3月16日、米国(US))を国際出願日とする特願2017-548461号の一部を、令和2年10月22日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和3年 9月27日付け 拒絶理由通知書 令和4年 4月 5日 手続補正書及び意見書の受付 同年 7月 7日付け 拒絶査定 同年11月11日 審判請求書及び手続補正書の受付 令和6年 3月27日付け 拒絶理由通知書 同年10月 2日 手続補正書及び意見書の受付 同年12月25日付け 拒絶理由通知書 令和7年 5月 7日 意見書の受付 第2 本願発明 本願の請求項1~8に係る発明は、令和6年10月2日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための水性製剤の医薬の製造における、ニコチン酸リボシド(NAR)またはその塩もしくは溶媒和物の使用であって、前記方法が、そうした処置を必要とする前記個体に治療有効量の水性製剤の前記NARを投与するステップを備えることを特徴とする使用。」 第3 当審において通知した拒絶の理由 令和6年12月25日付けで当審において通知した拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明(本願発明に対応する。)に対する、[理由1](進歩性)の要旨は、次のとおりである。 本願の請求項1に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明である、引用文献3及び4に記載された発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 3.米国特許出願公開第2012/0172584号明細書 4.米国特許出願公開第2001/0033848号明細書 第4 引用文献の記載 1 引用文献3 引用文献3には、次の事項が記載されている。なお、原文は英文のため、表と図面を除いて、当審による和訳を示す。また、原文にない下線は、強調のために合議体が付した。(以下、同様。) (摘記3a)「[0001]本発明は、ニコチン酸リボシド及びニコチンアミドリボシド誘導体の組成物及びそれらの使用方法に関する。いくつかの実施形態において、本発明は、ニコチン酸リボシドを製造する方法に関する。いくつかの実施形態において、本発明は、ニコチン酸リボシドを含有する医薬組成物及び栄養補助食品に関する。さらなる実施形態において、本発明は、細胞及び組織の生存を改善するためにニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)の細胞及び組織中の細胞内レベルの増加を促進するニコチン酸リボシド及びニコチンアミドリボシド誘導体を使用する方法に関する。 背景 [0002]ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)は、細胞の酸化還元反応、及び、ADP-リボシルトランスフェラーゼ基質の仲介者として機能する天然の補酵素である。細胞内のNAD+レベルを変えることで細胞の健康状態を向上させることができるが、NAD+代謝経路に入る化合物の導入は、細胞に対して毒性を示すことがあり得る。・・・したがって、組成物は、治療的に投与される場合は、損傷を受けた細胞または病変した細胞の健康を向上させる、細胞内のNAD+レベルを変化させることにより好ましくすることが可能で、かつ副作用を有さない組成物を同定する必要がある。」([0001]~[0002]) (摘記3b)「[0031]別の態様において、本発明は、細胞の寿命を延ばし、様々な疾患や障害、例えば、加齢又はストレス、糖尿病、肥満症、神経変性疾患、心血管疾患、血液凝固障害、炎症、がん、眼の障害及び/又は紅潮に関連する疾患や障害を治療及び/又は予防するためのニコチン酸リボシド又は誘導体の使用に関する。」([0031]) (摘記3c)「[0085]本明細書で使用される場合、用語“ニコチン酸リボシド成分”は、全ての立体配座及び立体異性体を含み、与えられた組成物中の全てのニコチン酸リボシド分子を含む組成物の部分をいう。好ましい実施形態では、所定の化合物(例えば、構造によって示される)は、ニコチン酸リボシド成分の(例えば、分子数及び/又は重量による)大きいパーセンテージを構成する。例えば、与えられたニコチン酸リボシド分子は、水性組成物中に存在することができ、70%のレベルで全てのニコチン酸リボシド分子が組成物中に存在するが、組成物自体のほとんどは水から構成されている。 ・・・ [0123]対象は、任意の動物、好ましくはヒト患者、家畜、家庭用ペットを意味する。」([0085]~[0123]) (摘記3d)「[0208]さらに他の実施形態では、細胞は、例えば寿命を延ばすため、又はアポトーシスを予防するために、インビボでNAD+レベルを増加させるニコチン酸リボシド又は誘導体化合物で処理され得る。例えば、細胞内NAD+レベルを増加させるニコチン酸リボシド又は誘導体化合物で皮膚又は上皮細胞を処理することにより、皮膚を老化(例えば、しわの発生、弾力性の喪失など)から保護することができる。例示的な実施形態では、細胞内NAD+のレベルを増加させるニコチン酸リボシド又は誘導体化合物を含む医薬組成物又は化粧品組成物を皮膚に接触させる。本明細書に記載の方法に従って治療され得る例示的な皮膚疾患又は皮膚状態には、炎症、日光損傷又は自然老化に関連する、又はそれらによって引き起こされる障害又は疾患が含まれる。例えば、組成物は、接触性皮膚炎(刺激性接触皮膚炎及びアレルギー性接触性皮膚炎を含む。)、アトピー性皮膚炎(アレルギー性湿疹としても知られる。)、光線性角化症、角化障害(湿疹を含む。)、表皮水疱症(天疱瘡を含む。)、剥脱性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、紅斑(多形紅斑及び結節性紅斑を含む。)、太陽光又は他の光源によって生じた損傷、円板状紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、乾癬、皮膚癌及び自然の老化の予防又は治療に有用である。別の実施形態では、細胞内のNAD+のレベルを上昇させるニコチン酸リボシド又は誘導体化合物は、例えば、第1度、第2度又は第3度の火傷及び/又は熱的、化学的又は電気的火傷を含む、創傷及び/又は火傷の治療促進に使用される。製剤は、本明細書にさらに記載されるように、所望の結果をもたらすのに有効な投与計画の範囲内で、軟膏、ローション、クリーム、マイクロエマルション、ゲル、溶液などとして、皮膚又は粘膜組織に局所的に投与され得る。」 ([0208]) (摘記3e)「[0276] ・・・ 実施例10 細胞内でのNAD+合成を刺激する生物学的に利用可能な形態のナイアシンとしてのさまざまなニコチン酸リボシド誘導体の評価 [0277]Hela細胞を、37℃、5%CO2で24時間、6ウェルプレート上に播種した。合成化合物(NAR:ニコチン酸リボシド、O-エチル-NR:ニコチン酸エチルリボシド、中間体:TAENR、トリアセチル-エチル-ニコチン酸リボシド、図10参照)を24時間後に細胞に別々に添加した(コントロールには化合物を添加しなかった。)。次いで、細胞を収集する前にさらに24時間インキュベートした。細胞をトリプシン処理し、カウントのためにアリコートを取り出した。細胞を沈殿させ、次いで100μLの7%過塩素酸に溶解し、535.5pmoLの18O-NAD+(95%同位体濃縮)を各サンプルに添加した。十分に混合した後、細胞を沈殿させ、NaOHでpH=7~8になるように中和した。次いでサンプルを3分間遠心分離し、上清(100μL)をC-18カラム(日立HPLC L2130ポンプL2450ダイオードアレイ検出器)に注入し、分離してNAD+を含むピークを単離した。NAD+ピーク中に溶出液を収集し、溶液を冷凍及び凍結乾燥した。サンプルを陽イオン検出モードのMALDI-MSによってアッセイし、m/z=664(16O-NAD+)及び666(18O-NAD+)ピークを測定することによってNAD+含量(表3)を決定した。 [0278]この実験は、さまざまな形態のニコチン酸リボシドがナイアシンの代謝可能な供給源として利用可能であること、及び新規組成のこれらの化学形態のナイアシンが、定量的MSアッセイによって測定される細胞内のNAD+濃度を実質的に増加させる効果があることを示唆している。細胞内のNAD+濃度の増加は臨床上の利点につながる可能性がある。我々が観察した細胞内のNAD+濃度の最小増加は、未処理細胞における100万細胞あたり618pmol(表3及び棒グラフ図9)から、O-ニコチン酸エチルリボシド化合物を500マイクロモルで処理した場合の100万細胞あたり1004pmolであった。これは、対照のNAD+含有量と比較して62%の増加を表す。この化合物の濃度を800マイクロモルに増加させると、NAD+濃度が約3倍増加した(表3)。同様に、ニコチン酸リボシドと完全にエステル化された化合物トリアセチルエチルニコチン酸リボシドは、細胞内のNAD+濃度をそれぞれ60%と3倍増加させることができた(表3)。これらのデータは、これらの誘導体が細胞によって代謝され、細胞内のNAD+含有量を実質的に(60~300%)増加させることを示す。これらの化合物は細胞内のNAD+を増加する。 [図:0001429218000001.jpg] 」([0276]~[0278]) (摘記3f)「[0278] ・・・ 実施例11 スタチン毒性の軽減 [0279]ES細胞を、4つの6ウェルプレート上で、37℃、5%CO2で24時間増殖させた。次いで、細胞を0、800又は5000nMのロバスタチン(最終濃度)で処理し、さらに500μMのNAR、1mMのOENR、1mMのTAENRの1つで処理するか、化合物なしで処理した。48時間後、細胞培地を除去し、トリプシン処理により細胞を回収した。血球計算法及びヨウ化プロピジウム染色を使用して細胞を計数し、生存率を評価した。スタチン処理なし、800nM及び5μMスタチン処理の各グループについて細胞をカウントした。細胞死パーセンテージは、各グループの生存細胞を、対応するスタチン未処理グループの細胞数で割ることによって決定した。各グループの対照(スタチンなし)の細胞数は同様であり、処理細胞に対する添加されたニコチン酸リボシド化合物の毒性が低いことを示した。 [0280]図10は、スタチン毒性がニコチン酸リボシド化合物によって軽減されることを示唆するデータを示す。細胞死の割合が低いことは、ニコチン酸リボシド化合物が、毒性のスタチン処理によって細胞が死ぬのを防ぐことを示す。 我々は、これらの化合物は、NAD+前駆体としてのこれらの分子の効力に関する我々の研究で実証されているように、NAD+代謝に入ることができ、それによって細胞をストレスや毒性から保護すると考えている。したがって、疾患の進行に伴う様々な変性障害は、これらの化合物を使用することによって治療することができる。」([0278]~[0280]) (摘記3g)「 [図:0001429218000002.jpg] 」([図10]) (摘記3h)「 [図:0001429218000003.jpg] 」([図11]) 2 引用文献4 引用文献4には、次の事項が記載されている。なお、原文は英文のため当審による和訳を示す。 (摘記4a)「本発明は、真皮及び表皮皮膚細胞のNAD含量を高めることができるNAD前駆体を使用する方法に関する。これらのNAD前駆体は、DNA修復及びDNA損傷に対する他の保護反応を増強するために、局所的、経口的、又は非経口的に投与され得る。 本発明はさらに、細胞内NAD含有量を効果的に増加させるNAD前駆体を含む医薬組成物に関する。最後に、本発明は、皮膚細胞のDNA損傷に起因する日焼け及びその他の皮膚劣化などの疾患を治療するためにNAD前駆体を使用する方法に関する。」(要約) (摘記4b)「[0004]2.背景の説明 [0005]本発明は、DNA損傷に対する皮膚細胞の本来有する防御反応を増強する目的のために、薬剤の局所適用により、細胞のニコチンアミド-アデニン-ジヌクレオチド(NAD)の含有量を調節し、アップレギュレーションすることができる方法及び組成物に関する。この方法及び組成物は、皮膚の細胞に対してDNA損傷に起因する皮膚の劣化の予防及び治療に有効である。このような皮膚の症状は多く、典型的には、水分の損失、小皺、深い皺、ちりめん皺、萎縮性硬化症のような弾力性の喪失及び皮膚の傷が挙げられる。皮膚は、内部及び外部因子への長期暴露の結果として年齢と共に悪化する。劣化要因は、全ての組織の老化を引き起こすフリーラジカルのような天然の代謝副産物が含まれる。外部の劣化要因は、日光のような電離放射線、汚染及びタバコの煙のような化学的傷害を含む。・・・」([0004]~[0005]) (摘記4c)「[0009]環境中の化学的及び物理的作用のような外部要因もまた、皮膚の劣化を導くDNA損傷を引き起こす可能性がある。外部因子は、日光、汚染物質、及び喫煙や食物から摂取された化学物質を含む。」([0009]) (摘記4d)「[0060]驚くべきことに、実施例のセクションに示すように、NADは、ゲノム損傷に対する細胞応答における制御因子であることが見出された。ここで説明した本発明は、(1)・・・、(2)皮膚細胞のNAD含有量は、特定の生物活性分子の局所適用により増加できる;(3)細胞内のNADレベルの上昇は、細胞性DNA修復機構を強化する。これらの所見は、実施例セクションに記載されている。 ・・・ [0062]・・・“治療有効量”は、皮膚劣化の軽減、予防、及び/又は後退させる効果を生じるのに有効な薬剤の量を意味する。皮膚劣化は、背景技術に挙げた多数の環境要因によって引き起こされる可能性がある。このような因子は、日光のような紫外線放射源、化学物質、及び汚染物質を含む。皮膚の劣化を引き起こす他の要因は、環境傷害及び/又は代謝により生成される活性酸素種が含まれる。 [0063]用語“NAD前駆体”は、対象への投与及びその後の吸収の後、代謝などの何らかの過程を介してin vivoで活性種に変換されるNADの前駆物質を指す。・・・」([0060]~[0063]) (摘記4e)「[0107] ・・・ 実施例3 DNA修復能力とNAD含有量の相関関係の決定 [0108]ヒトの皮膚細胞のNAD含有量は大きく異なるため、NAD含有量の機能としての、皮膚のDNA修復及びDNA損傷に対する応答能力を調べる一連の実験が行われた。遺伝毒性ストレスによる細胞殺傷効果から回復する細胞の能力は、DNA損傷を修復し、遺伝毒性ストレスに応答して複数のDNA損傷応答経路を活性化する能力に依存する。要するに、正常なヒト皮膚線維芽細胞及びヒト皮膚ケラチノサイトを、上記実施例1について記載したように、対照又は最適ではないナイアシン培地(すなわち、実施例1のニコチンアミド欠損培地)中で培養した。これにより、NAD含有量が正常又は減少した細胞が生成される。次いで、細胞を、太陽からの光を模した太陽光に曝露し、太陽光曝露から5日後の細胞の増殖を測定することによって、異なる線量の太陽光から細胞が回復する能力を測定した。 [0109]図7は、NAD含量が低下したヒト皮膚線維芽細胞及びヒト皮膚ケラチノサイトは、ソーラーシミュレーターによる太陽放射への曝露から回復する能力が低下していることを示している。NAD含量が低下した細胞の培地にNAD前駆体を添加することによりNAD含量を正常に戻すと、正常な修復プロファイルが回復した。NAD含有量の関数としてのDNA修復プロファイルは、「コメットアッセイ」と呼ばれる技術によっても評価されている。コメットアッセイ(O.Ostling及びK.J.Johanson、Biochem.Biophys.Res.Commun.123:291(1984);P.L.Olive及びJ.P.Banath、Exp.Cell Res.221:19(1995))では、細胞は担体上の液体アガロースに包埋された後プレーティングされ、アガロースゲルの形成後にその場で溶解される。次に、個々の細胞のDNAが電場中でその場で分離される。鎖切断を含む損傷を受けたDNAは、その小さいサイズのために細胞核から移動し、この移動により、核がコメットの頭部として現れ、壊れたDNAがコメットの尾として現れる画像が得られる。ゲノムDNAの分解が進むほど、移動可能なDNAの量が多くなり、「コメットの尾」が長くなる。 [0110]図8は、遺伝毒性ストレスの非存在下及び遺伝毒性ストレス後の両方における、NAD含量の関数としてのヒト細胞のDNA完全性の分析を示す。結果は、修復されていない損傷レベルが最も高い細胞に対応する「タイプ3」及び「タイプ4」のコメットの割合を示す。第一に、この実験では、NAD含有量が最適ではない細胞では、遺伝毒性ストレスがない場合でも、かなりの量の未修復の損傷があることが示されている。第二に、NADが低い細胞は、遺伝毒性ストレス後にはるかに高いレベルの未修復の損傷を示す。」([0107]~[0110]) (摘記4f)「[0111] ・・・ 実施例5 最適なNAD前駆体の決定 [0112]・・・ [0113]上述したモデルに基づいて、本発明者らは、4つのクラス:(1)ニコチンアミド、(2)化学的又は酵素的にニコチンアミドに変換することができるニコチンアミド誘導体、(3)ニコチン酸、及び(4)化学的又は酵素的にニコチン酸に変換することができるニコチン酸の誘導体、にNAD前駆体をグループ化した。実験は、培養物中のヒト皮膚線維芽細胞を用いて、上述した4つのクラスのうち3つにより行われ、図11に典型的な実験の結果を示す。結果は、ニコチンアミド、ニコチン酸、及びニコチン酸の4つの異なるエステルが、皮膚線維芽細胞においてNADに生物変換することができることを示している。ニコチンアミドに生物変換することができるニコチンアミドの誘導体は、ニコチンアミドについて本明細書に開示した結果に基づいて、NAD前駆体として期待できる。 実施例6 ニコチン酸経路は、皮膚細胞のNAD含量の上昇に好ましい [0114]・・・ニコチン酸経路によるNADの上昇が好ましかったという結論は、DNA修復、及び他のDNA損傷シグナル伝達経路に、ニコチン酸又はニコチンアミド(Nam)の高レベルの効果を試験することによって確認した。図12Aは、アルキル化剤MNNGにより誘発された遺伝毒性ストレス後にニコチンアミドの通常レベル(50マイクロモル)又は高レベルで培養された細胞中のDNAの完全性を比較する。ニコチンアミドの存在下では、DNA修復及びDNA損傷応答経路の阻害の結果として減少したDNAの完全性をもたらすことを理解することができる。p53シグナル伝達経路に対するニコチンアミド又は高レベルのニコチン酸の高レベルの効果を図12Bに示す。ニコチンアミドの高レベルの存在は、遺伝毒性ストレスがなくても、遺伝毒性ストレスを与えても、異常に高レベルのp53を示した。一方、ニコチン酸の高レベルの存在下での応答は、驚くべきことに、ニコチンアミドの通常レベルにおいて観察された応答と同様であった。これらの実験は、ニコチン酸経路が、皮膚細胞のNAD含量の上昇のための好ましい経路であることを示している。 ・・・ [0120] ・・・ 実施例8 NAD前駆体の局所適用により皮膚のNAD含量が上昇し得る [0121]NADの薬剤の評価に基づく局所送達による皮膚細胞NAD含量の上昇についての原理実験の証明は、無毛マウスのモデルを使用して行った。要するに、tetradecylnicotinateを最初の研究に使用した。1%tetradecylnicotinateのクリームを1日3回、動物の背中に局所適用し、腹部には適用しなかった。3回目適用に続いて、背部及び腹部の皮膚のNAD含量について分析した。・・・結果は図15のとおり、試験動物の背中に1%tetradecylnicotinateを含有するクリームを1日3回局所適用した動物の皮膚のNAD含量は、基剤クリームのみで治療した対照動物に対して、143%であった。処置動物の腹部の皮膚のNAD含量が増加しなかったことを示している図15は、NAD含量の増加が局所送達に起因することの証拠を提供する。」([0111]~[0121]) (摘記4g)「1.被験体の細胞内のNADを上昇させるのに十分な濃度でNAD前駆体及び薬学的に許容される担体を含み、前記NAD前駆体は、細胞内NAD含量の増加のためのものである医薬組成物。 2.薬学的に許容される担体を含有させることによって皮膚への局所投与に適合された、請求項1に記載の医薬組成物。 3.前記NAD前駆体は、下記の式を有する1種以上の化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。 [図:0001429218000004.jpg] 式中、R1は、水素、又は酵素的、化学的に除去され、前記被験体への投与後に、ニコチン酸を生成することができる基。 ・・・ 26.皮膚の劣化を治療し又は遅延させるのに有効な量の請求項1に記載の医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することを特徴とする、皮膚を処置し又は劣化を遅延させるための方法。 ・・・」(特許請求の範囲) 第5 判断 1 引用文献3に記載された発明 引用文献3には、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)は、細胞の酸化還元反応の仲介者等として機能する天然の補酵素であり、細胞内のNAD+のレベルを変えることで細胞の健康状態を向上できること、ニコチン酸リボシドは、NAD+の細胞内レベルの増加を促進することで医薬組成物の製造に使用できることが記載されている(摘記3a)。 また、引用文献3の実施例において、ニコチン酸リボシド(NAR)が、Hela細胞内のNAD+含有量を増加させたこと(摘記3e)、ES細胞をスタチン毒性から保護し、細胞死の割合を低減させたこと(摘記3f、3g)が確認され、ニコチン酸リボシド(NAR)は、NAD+前駆体として細胞をストレスや毒性から保護し治療に使用できることが記載されている(摘記3f)。 以上によると、引用文献3には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)。 <引用発明> 「細胞内のNAD+の含有量を増加させるための医薬組成物の製造における、NAD+前駆体であるニコチン酸リボシド(NAR)の使用。」 2 対比 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「医薬組成物の製造」は、本願発明の「医薬の製造」に相当し、引用発明の「ニコチン酸リボシド(NAR)の使用」は、本願発明の「ニコチン酸リボシド(NAR)またはその塩もしくは溶媒和物の使用」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「医薬の製造における、ニコチン酸リボシド(NAR)またはその塩もしくは溶媒和物の使用。」 <相違点1> 本願発明は、「医薬」が「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」ものであり、「前記方法が、そうした処置を必要とする前記個体に治療有効量の」「前記NARを投与するステップを備えること」が特定されている方法であるのに対し、引用発明は、そのような方法であるか不明な点。 <相違点2> 「医薬」が、本願発明は、「水性製剤」であるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか不明な点。 3 判断 (1)相違点1について ア 引用文献3には、細胞内NAD+レベルを増加させるニコチン酸リボシドで皮膚又は上皮細胞を処理することにより、しわの発生や弾力性の喪失などの皮膚の老化や、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、光線性角化症、角化障害、表皮水疱症、剥脱性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、紅斑、太陽光又は他の光源によって生じた皮膚損傷などを治療する方法が記載されており(摘記3d)、これらの皮膚損傷などの症状は、本願発明の「個体の皮膚損傷」に相当する。 そうすると、引用文献3には、引用発明のNAD+前駆体であるニコチン酸リボシド(NAR)は、細胞内NAD+の含有量を増加させることで「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」医薬とすることが示唆されているといえる。 イ 加えて、引用文献4には、NAD前駆体の局所適用により皮膚細胞のNAD含有量を増加できること、皮膚細胞内のNAD含有量の増加により細胞性DNA修復機構を強化できることを実施例として具体的に確認したことが記載され(摘記4d~f)、これらの実施例を踏まえて、NAD前駆体が、皮膚細胞のDNA損傷に起因する日焼け及びその他の皮膚劣化などを治療できること、すなわち、NAD前駆体が「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」医薬として有用であることが記載されている(摘記4a~c、4g)。 ウ 上記ア、イによれば、引用文献3には、NAD+前駆体によりNAD+の含有量を増加させることで「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」医薬とすることが示唆されており、加えて、引用文献4には、NAD前駆体(NADとNAD+は技術的に同等)によりNAD含有量を増加させることで「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」医薬とできることを実施例として具体的に確認したことが記載されているから、引用発明において、NAD+前駆体により細胞内のNAD+の含有量を増加させるための医薬組成物を「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」医薬とし、「そうした処置を必要とする個体に治療有効量」投与するステップを備えた方法とすることは、当業者が容易に行うことである。 (2)相違点2について 引用文献3には、ニコチン酸リボシドは、水性組成物中に存在し得ること(摘記3c)、ローションやゲルなどの製剤として、皮膚に投与され得ることが記載されているところ(摘記3d)、ローションやゲルは水性製剤であるから、引用発明の医薬組成物を製剤化するにあたり、「水性製剤」とすることは、当業者が容易に行うことである。 (3)本願発明の効果について ア 本願発明は、ニコチン酸リボシド(NAR)を有効成分とする医薬に関する発明であるところ、本願明細書には、ニコチン酸リボシド(NAR)を使用した実施例として以下の実施例4が記載されている。 「【0114】 実施例4 NARH(II-H)、NRH(I-H)、NAR(II)およびNR(I)と比較した、ヒト皮膚細胞の酸化損傷を予防するNRトリアセテート(1)およびNARトリアセテート(3)の処理 A431ヒト類表皮細胞を、10%FBSおよび1%PenStrepを補充したDMEMで維持し、培地を80%コンフルエントに達するまで2~3日毎に交換した。細胞を0.25%トリプシンEDTA溶液を用いて回収し、1ウェルあたり5,000細胞の密度になるようにカウントした96ウェル透明底ブラックプレートに播種し、一晩接着させた。本化合物、NRトリアセテート(1)、NARトリアセテート(3)、NARH(II-Ha)、NRH(I-H)、NAR(II)およびNR(I)を、37℃/5%CO2で加湿インキュベーターにて過酸化水素を用いない24時間の前処理下、所望の最終アッセイ濃度で加えた。前処理後、過酸化水素を1mMの最終濃度で所望の濃度の被検化合物と共に加え、24時間インキュベートした。各濃度を3回ずつ試験した。各アッセイにおいて適切な対照、すなわち化合物および過酸化水素を用いない細胞(細胞毒性なし;陰性対照)、化合物を用いないが、1mMの過酸化水素の存在下の細胞(陽性対照)、alamar blueのみを含むウェル(ブランク)を維持した。 【0115】 インキュベーション後、プレートから培地を除去し、100μLの1×alamar blue溶液を含むPBSで置き換えた。プレートを37℃でさらに1~4時間インキュベートし、続いてFlex Station3プレートリーダーでEx/Em=560/590nmにて読み取った。 【0116】 図4および5に示すように、1mMのH2O2により引き起こされる酸化損傷に対して、0.04mMおよび0.2mMのNRH(I-H)で>40%の細胞保護作用が観察された一方、NARH(II-H)の存在下で観察された細胞保護効果は20%未満であった。NARH(II-H)およびNRH(I-H)はどちらも濃度が高くなると細胞毒性を示した。 【0117】 図6および7に示すように、1mMのH2O2により引き起こされた酸化損傷に対して、0.04mMおよび0.2mMのNAR(II)で約40%の細胞保護作用が観察された一方、NR(I)の存在下で用量依存性(>40%)の細胞保護効果が観察された。細胞毒性は5mMのNAR(II)で観察された一方、NR(I)は細胞毒性をまったく示さなかった。 【0118】 図8および9に示すように、1mMのH2O2により引き起こされた酸化損傷に対して、用量依存性の細胞保護作用がNRTA(1)およびNARTA(3)で観察された。NRTA(1)およびNARTA(3)の存在下で細胞毒性が観察されなかったのに対し、すべての被検化合物の中でNARH(II-H)およびNRH(I-H)は、高濃度(5mM、1mMのNRH(I-H);5mM、1mMおよび0.2mMのNARH(II-H))でA431細胞に細胞毒性があることが分かった。 [図:0001429218000005.jpg] 」 イ 上記アによれば、H2O2により引き起こされたヒト皮膚細胞の酸化損傷に対して、ニコチン酸リボシドによる約40%の細胞保護作用が観察されたことが理解できる。 しかしながら、上記1のとおり、引用発明のニコチン酸リボシドは、ストレスや毒性から細胞を保護するものであり、また、上記(1)のとおり、引用文献3には、ニコチン酸リボシドが、皮損損傷の処置に使用できることが示唆されているから、ニコチン酸リボシドがヒト皮膚細胞に対して細胞保護作用を奏することは、当業者が予測し得る効果である。 ウ また、本願発明における医薬は、ニコチン酸リボシドを使用する水性製剤であるところ、上記実施例4には、ニコチン酸リボシドを水性製剤としたことによる効果は示されておらず、また、実施例4以外の本願明細書全体を検討しても、ニコチン酸リボシドを水性製剤とすることにより当業者が予測し得ないような優れた効果を奏することは記載されていない。 エ したがって、本願発明が、引用文献3、4の記載からは予測し得ないような優れた効果を奏するということはできない。 4 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 請求人の主張について 1 請求人の主張 請求人は、令和6年10月2日受付の意見書(以下、「令和6年意見書」という。)、及び令和7年5月7日受付の意見書(以下、「令和7年意見書」という。)において、概略以下の点を挙げて、本願発明は、当業者が引用文献3及び4の内容から容易に想到し得たものではないと主張している。 (1)本願明細書の実施例4に加えて証拠資料1で示されているように、ニコチン酸リボシド(NAR)は、水溶液中において、pH3.5で、さまざまな温度プロファイルで(40℃、数日間にわたる場合でも)ニコチンアミド(NR)よりもはるかに安定しているから、本願発明のニコチン酸リボシド(NAR)を使用することにより、引用文献3、4に照らして予想外の効果が発揮される。(令和6年意見書3頁25行~29行、令和7年意見書2頁下から9行~3頁1行) (2)本願の請求項5において、「光損傷」との記載を削除したから、本願発明は、「皮膚細胞のDNA損傷に起因する日焼け及び他の皮膚劣化などの疾患を治療する方法」には該当しない。 上記の観点から、本願発明は、当業者が引用文献3、4の内容から容易に想到し得たものではなく、その効果は当該引用文献の内容から予想し得たことではない。(令和6年意見書4頁3行~11行) (3)引用文献4には、「これらの実験は、ニコチン酸経路が、皮膚細胞のNAD含量の上昇のための好ましい経路であることを示している。」(摘記4f、[0114]の末尾)、すなわち、ニコチン酸がニコチン酸リボシド(NAR)よりも優れていると記載されているから、引用文献4は、ニコチン酸リボシド(NAR)の使用を推奨していない。そして、ニコチン酸リボシド(NAR)は、NAD+の生成に際して他の前駆体よりも代謝エネルギー面で有利であることは周知であり、本願明細書には、ニコチン酸リボシド(NAR)等の合成について記載されているから、本願発明は、引用文献3、4に記載された発明と比較して、ニコチン酸リボシド(NAR)の二重の技術的利点を発揮するものである。(令和7年意見書1頁下から14行~2頁下から10行) 2 請求人の主張に対する判断 上記1の請求人の主張について検討する。 (1)請求人は、ニコチン酸リボシド(NAR)は、水溶液中でニコチンアミドリボシド(NR)よりもはるかに安定していることを挙げて、本願発明は、ニコチン酸リボシド(NAR)を使用することにより、引用文献3、4に照らして予想外の効果が発揮されると主張するが、そもそも本願明細書には、ニコチン酸リボシド(NAR)を水性製剤とすることは直接記載されておらず(請求人が主張の根拠とする本願明細書【0087】(令和6年意見書2頁4行~6行)には、結晶化溶媒に水性混合物が含まれることが記載されているにすぎない。)、また、ニコチン酸リボシド(NAR)が水溶液中でニコチンアミドリボシド(NR)よりもはるかに安定であることも記載されていない。そして、上記第5の3(3)ウのとおり、ニコチン酸リボシドを水性製剤とすることにより優れた効果を奏することも本願明細書には記載されていない。 したがって、上記主張(1)は、本願明細書の記載に基づかない主張であって採用することができない。 (2)本願の請求項5において「光損傷」との記載を削除しても、本願発明の「個体の皮膚損傷を処置する方法に用いるための」との用途が変更されるものではないから、上記削除に起因して、本願発明の用途と引用文献3、4記載の用途が区別できるようになるとはいえない。 そして、仮に、本願発明における「皮膚損傷」は「光損傷」を含まないとして検討したとしても、引用文献3には、皮膚損傷として、光損傷のみならず、炎症や自然老化、火傷を含む創傷等が記載され(摘記3d)、引用文献4にも、光損傷以外の老化、汚染物質、タバコの煙のような化学物質を要因とする皮膚損傷が記載されている(摘記4b~4d)。 そうすると、上記第5の3(1)のとおり、引用発明のニコチン酸リボシドを「光損傷」以外の「皮膚損傷」を処置する方法に用いることは、引用文献3、4の記載に基づいて、当業者が容易に行うことである。 したがって、上記主張(2)は、採用することができない。 (3)引用文献4には、「これらの実験は、ニコチン酸経路が、皮膚細胞のNAD含量の上昇のための好ましい経路であることを示している。」と記載されているが、この記載からは、「ニコチン酸経路」が皮膚細胞のNAD含量の上昇のために好ましいことは理解できても、ニコチン酸リボシドとニコチン酸のどちらが優れているかは理解できないから、引用文献4が、ニコチン酸リボシド(NAR)の使用を推奨していないとの請求人主張は採用することができない。 また、そもそも引用文献3に、ニコチン酸リボシド(NAR)が、NAD+の細胞内レベルの増加を促進することで医薬組成物の製造に使用できることが記載されているのであるから(摘記3a)、ニコチン酸リボシド(NAR)の使用に関する本願発明は、引用文献3、4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、ニコチン酸リボシド(NAR)が、NAD+の生成に際して他の前駆体よりも代謝エネルギーの面で有利であることは、本願明細書に記載されておらず、さらに、引用文献3には、ニコチン酸リボシド(NAR)について、NAD+の細胞内レベルの増加を促進することが具体的に記載されているから(摘記3e)、本願発明が、引用文献3、4の記載から予測し得ないような優れた効果を奏するということはできない。 したがって、上記主張(3)は、採用することができない。 3 小括 よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-018200

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